説明

打設コンクリートの検査方法及び装置

【課題】シース管や場所打ち杭をはじめとする打設コンクリートの全領域にわたる検査を確実に行うことができ、信頼性にも優れた打設コンクリートの検査方法及び装置を提供する。
【解決手段】2本の電線14を耐水性絶縁物で平行に保持するとともに終端を抵抗15で短絡させたセンサーケーブル12を打設コンクリート11内部の長手方向に埋設し、前記センサーケーブルの入力側に、正弦波、矩形パルス、ステップ状パルスなどの交流信号を測定装置19から印加し、そのときに流れる電流を測定し、測定した電流データとあらかじめ設定した基準電流データとを比較して打設したコンクリートの状態を検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打設コンクリートの検査方法及び装置に関し、詳しくは、シース管や場所打ち杭等にコンクリート(グラウトを含む)を打設したときの充填不良の有無や地盤変動などによる異常発生の有無を検査するための打設コンクリートの検査方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
打設コンクリートの充填状態を検査する方法として、一定間隔で隔てた2導体からなる検出部をコンクリート中に埋設固定し、検出部の周囲が空気のときと、コンクリートのときとで静電容量が変化することを利用してコンクリートの充填度を求める方法が知られている。前記検出部は、一対の導体を絶縁被覆中に並行に保持する電線の一部分における絶縁被覆を除去し、一対の導体を露出させることで形成することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、コンクリート構造物内に透水性被覆を有するツイスト線を敷設し、このツイスト線に電気パルスを出力するとともに反射波を観測することによってコンクリート構造物内での漏水発生位置を検出することも知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平6−229968号公報
【特許文献2】特開2004−85285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された方法は、絶縁被覆を除去した電線の一部分のみしか検出部として用いていないため、絶縁被覆を除去していない部分での充填不良を検出することができないという問題がある。また、特許文献2に記載された方法では、コンクリート打設時の水分を透水性被覆が吸収すると、漏水との判別が困難であり、検査手法としての信頼性に問題がある。
【0005】
そこで本発明は、シース管や場所打ち杭等の打設コンクリートの全領域にわたる検査を確実に行うことができ、信頼性にも優れた打設コンクリートの検査方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の打設コンクリートの検査方法における第1の構成は、2本の電線を耐水性絶縁物で平行に保持するとともに終端を抵抗で短絡させたセンサーケーブルを打設コンクリートの内部に埋設し、前記センサーケーブルの入力側に、正弦波だけでなく、矩形パルスやステップ状パルスも含む交流信号を印加してそのときに流れる電流を測定し、測定した電流データとあらかじめ設定した基準電流データとを比較して打設したコンクリートの状態を検査することを特徴としている。
【0007】
また、本発明の打設コンクリートの検査方法における第2の構成は、2本の電線を耐水性絶縁物で平行に保持するとともに終端を抵抗で短絡させた複数のセンサーケーブルを打設コンクリートの内部に平行方向に埋設し、各センサーケーブルの入力側に交流信号をそれぞれ印加してそのときに流れる電流をそれぞれ測定し、測定した各電流データを相互に比較して打設したコンクリートの状態を検査することを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明の打設コンクリートの検査方法における第3の構成は、2本の電線を耐水性絶縁物で平行に保持するとともに終端を抵抗で短絡させたセンサーケーブルを複数の打設コンクリートの内部にそれぞれ埋設し、各センサーケーブルの入力側に交流信号をそれぞれ印加してそのときに流れる電流をそれぞれ測定し、測定した各電流データを相互に比較して打設したコンクリートの状態を検査することを特徴としている。
【0009】
加えて、本発明方法は、前記各構成において、前記交流信号の印加、電流データの測定及び電流データの比較をコンクリートの打設直後に行うこと、前記交流信号の印加、電流データの測定、電流データの比較をコンクリートの打設後に定期的に行うことを特徴としている。
【0010】
また、本発明の打設コンクリートの検査装置は、2本の電線を耐水性絶縁物で平行に保持するとともに終端を抵抗で短絡させた状態で打設コンクリートの内部に埋設されるセンサーケーブルと、該センサーケーブルの入力側に交流信号を印加する発信器と、交流信号印加時の電流を測定する電流計と、該電流計で測定した電流データをあらかじめ記憶した基準電流データと比較して打設したコンクリートの状態を判定する演算手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、センサーケーブルの入力側に交流信号(入射パルス)を印加すると、コンクリート中に空気や水が存在する地点でセンサーケーブルのキャパシタンスや特性インピーダンスが変化するために反射波が発生する。したがって、反射波の状態を電流(パルス波形)の変化で検出し、あらかじめ設定した基準電流データとの比較、あるいは、任意の一つのセンサーケーブルで検出した電流データを基準電流データとして比較することにより、反射波の状態から打設コンクリート中に空気や水が存在するか否かを判定することができる。
【0012】
また、空気や水が存在する領域の大きさは電流の変化量により求めることができ、その位置は反射波が戻るまでの時間を計測することによって求めることができる。さらに、一定期間毎に定期的に検査を行うことにより、コンクリートの亀裂の発生や内部への水の浸入の有無を検査することができ、例えば、地震発生後に検査を行うことによってコンクリートの異常の有無を容易かつ確実に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明の打設コンクリートの検査方法による検査状態の一例を示す説明図、図2はセンサーケーブルの形状例を示す斜視図、図3はセンサーケーブルの設置例を示す説明図である。
【0014】
シース管や場所打ち杭のような長尺な打設コンクリート11の充填状態を検査するためには、コンクリートを打設する前に、打設コンクリート11の内部の長手方向に埋設されるようにセンサーケーブル12を設置する。センサーケーブル12は、合成樹脂のような耐水性絶縁物13によって2本の抵抗値の低い銅のような金属線からなる電線14,14を平行に保持したものであって、センサーケーブル12の全体的な断面形状は、図2(A)に示すような楕円乃至長円形状や、図2(B)に示すような鉄アレイ状とし、センサーケーブル12の周囲の物質の影響を受けやすい形状としている。また、センサーケーブル12の終端には、電線14,14を短絡させる抵抗15を設けておく。
【0015】
センサーケーブル12の設置は、コンクリートを打設する対象の状況に応じて適当な手法を採用することができる。例えば、金属製の鞘の軸線方向に鋼棒あるいはワイヤーを通してコンクリートを打設充填するシース管の場合は、金属製の鞘の両端に適宜なケーブル保持具をそれぞれ設け、このケーブル保持具によって抵抗15を取り付けた終端を金属製の鞘の一端に固定するとともに、金属製の鞘の他端側は、金属製の鞘の端部から適当な長さの引出線16を引き出した状態でセンサーケーブル12を固定すればよい。場所打ち方式でコンクリートを打設する場合は、コンクリート打設前に打設部に配置される鉄筋籠の少なくとも両端に前記同様の適宜なケーブル保持具を設け、基礎杭の場合には下端に抵抗(終端抵抗)15を位置させて上端から引出線16を引き出した状態でセンサーケーブル12を固定すればよい。
【0016】
センサーケーブル12の位置は適宜に選択できるが、場所打ち杭の場合は、内部に多数の鉄筋が縦横に配置されているため、鉄筋と直交するように杭の長手方向全長にわたってセンサーケーブル12を設置することが好ましい。センサーケーブル12の設置本数は任意であり、シース管や場所打ち杭の大きさに応じて適宜選択することができる。
【0017】
また、前記ケーブル保持具の取り付けが困難な場合や、打設長さの点でケーブル保持具によるセンサーケーブル12の固定ができない場合は、図3に示すように、シース管の鉄筋あるいは杭の長手方向全長にわたって配置される鉄筋17に沿ってセンサーケーブル12を配置固定することができる。この場合、センサーケーブル12を鉄筋17に直接固定することも可能であるが、図3(B)に示すように、センサーケーブル12と鉄筋17との間に緩衝用樹脂18を介在させることにより、鉄筋からの影響を低減することができる。
【0018】
センサーケーブル12を設置してコンクリートを打設した後、打設したコンクリートに埋設されたセンサーケーブル12の一端から延びる前記引出線16に測定装置19を接続してコンクリートの充填状態を検査する。前述のように2本の電線14,14を平行に保持したセンサーケーブル12は、これを構成する材料の構造や比誘電率に応じて周波数に依存したインピーダンスを有している。すなわち、前記センサーケーブル12は、低い周波数領域では、電線の太さ、間隔、周囲の物質の比誘電率等の条件で周波数に依存し、周波数の増加に反比例してインピーダンスが低下する。しかし、耐水性絶縁物13を構成する絶縁被覆としてポリエチレンなどの合成樹脂を使用し、電線14の間隔を5cm以下とした場合、数MHz以上の高い周波数領域ではインピーダンスは周波数に依存せずに一定となる。
【0019】
このように、周波数の増加に伴ってインピーダンスが変化しなくなる周波数を遷移周波数と呼び、この遷移周波数以上の周波数で一定となったインピーダンスを特性インピーダンスと呼ぶ。この特性インピーダンス及び遷移周波数は、前述のように、センサーケーブル12を構成する電線14の太さと抵抗値、2本の電線14の間隔とその周囲の耐水性絶縁物13の形状及び比誘電率、耐水性絶縁物13の外側の物質の比誘電率といった条件で決まるため、あらかじめ、これらの条件を設定することにより、所望の遷移周波数及び特性インピーダンスを設定することができる。
【0020】
通常、打設されたコンクリートの比誘電率は、打設直後は水に近い値で60程度であるが、コンクリートの固化に伴って低下し、3日以上経過すると、比誘電率は20程度まで低下する。そこで、固化したコンクリートに埋設された状態のセンサーケーブル12のキャパシタンス値を、電線14を保持する耐水性絶縁物13及び周囲の固化したコンクリートの比誘電率を用いて計算し、この値を特性インピーダンスZとする。この値Zは純抵抗であるから、終端に取り付ける前記抵抗15の抵抗値をZに設定することにより、コンクリートが固化した後にセンサーケーブル12の入力側に接続する引出線16から交流信号を印加入力したときに、センサーケーブル12の周囲が全長にわたって固化したコンクリートの場合は、センサーケーブル12の終端の抵抗15で交流信号が消費されて反射波は発生しない状態となる。
【0021】
一方、コンクリートの打設において、コンクリートの流れ込みが不完全で空気が気泡となってコンクリート中に残ったり、場所打ち杭の場合に穿孔時に使用した水や外部から流入した地下水あるいは穴の周囲の土が崩れてコンクリート中に土砂が残ったりしたときには、例えば、固化したコンクリート中に水が存在すると、センサーケーブル12の周囲の誘電率が増加してキャパシタンスも増加するため、その部分のインピーダンスは小さくなる。逆に、センサーケーブル12の周囲に空気が存在すると、その部分の誘電率がコンクリートに比べて低下するため、インピーダンスが大きくなる。
【0022】
したがって、固化したコンクリート中に水や空気が存在すると、センサーケーブル12に交流信号を印加したときの電流が変化することから、基本的には、図4に示すように、測定装置19として交流信号を発生する発信器19aと、交流信号を印加したときの電流を測定する交流電流計19bとを設置し、交流信号印加時の電流を測定することによってコンクリート中の空気や水の存在の有無を検査することができる。この検査は、センサーケーブル12の全長にわたって行うことができるので、シース管や場所打ち杭の全領域に対して連続状態で検査することが可能であり、打設したコンクリート中の空気や水の存在を確実に検知することができる。
【0023】
矩形波なども含む交流信号を印加したときに測定した電流データ(矩形波の形状も含む)によるコンクリートの充填状態の判定は、測定した電流データをあらかじめ設定した基準電流データと比較することにより行うことができる。ここで、前記基準電流データとしては、あらかじめ理論的に算出した電流データ、実験によって得た電流データ、過去に同様にして行った打設施工の際に収集した電流データを統計的に処理した電流データ、一つのシース管や場所打ち杭に複数のセンサーケーブル12を設置したときのそれぞれの電流データ、同時にコンクリートを打設した他のシース管や他の場所打ち杭で測定した電流データ、といった各種電流データを基準電流データとして用いることができる。
【0024】
例えば、一つのシース管又は場所打ち杭の中に複数のセンサーケーブル12を設置し、各センサーケーブル12で測定した電流データを相互に比較することにより、他の電流データと異なる電流データが測定された場合には、そのセンサーケーブル12の周囲に局部的に異常が発生していることを検知できる。
【0025】
また、コンクリートを打設した直後の誘電率は水に近いため、空気が残る未充填領域が僅かな場合は、誤差の影響で十分な検出精度が得られない可能性がある。このような場合、コンクリートを打設してから一定時間が経過し、コンクリートがある程度固化して誘電率が低下した時点で再び同じ交流信号を印加して電流を測定し、打設直後に測定した電流データを基準電流データとして比較することにより、測定電流データの変化から充填不良の有無を判定することもできる。さらに、電線14を耐水性絶縁物13で被覆しているので、コンクリート中の水分によってセンサーケーブル12に異常が発生することはない。
【0026】
一方、打設直後のコンクリートは誘電率及びキャパシタンスが大きく、隣接した2本の電線14の間のインピーダンスは小さくなっている。このため、コンクリートの打設直後に、遷移周波数の1/10から1/100の周波数の交流信号を前記引出線16からセンサーケーブル12に印加し、このときに流れる電流を測定すると、終端の抵抗15に対して回路的に並列に接続した状態となっているセンサーケーブル12のインピーダンス値が固化後に比べて1/10から1/100になっていることから、周囲の状態の変化に対する感度が大きく、電流データの変化を容易に検出することができる。例えば、打設直後のコンクリート中に空気が存在する場合にはキャパシタンスが大きくなるために電流データが減少するので、充填不良を容易に検知することができる。
【0027】
測定精度を向上させるための一手段として、実工事に先立ち、施工するものと同一構造のシース管あるいは場所打ち杭の同一位置に同一構造のセンサーケーブル12を同位置本数設置し、同じコンクリートを使用して埋設することによりキャリブレーション用のサンプルを作成し、実工事での検査で使用する交流信号と同じ交流信号を使用して打設直後の電流データと一定時間経過後の電流データとをそれぞれ測定し、測定した両電流データの変化率を電流の基準変化率として設定することもできる。この場合、施工したシース管や場所打ち杭で打設直後と一定時間経過後とに電流をそれぞれ測定し、測定した電流データの変化率と前記基準変化率とを比較することにより、基準変化率に比べて測定した電流の変化率が小さい場合には、打設したコンクリート中に空気あるいは土砂が残っていると判断することができる。
【0028】
また、コンクリートが固化して誘電率の変化が無くなった時点でサンプルを解体して内部の状態を観察し、空気の存在などの異常が認められないもののデータをキャリブレーション用の基準データとすることができ、この基準データと施工時の測定結果とに差がない場合に、打設したコンクリートに欠陥がないと判断できることから、シース管や杭に欠陥がないことの保証とすることもできる。同様に、複数のシース管や場所打ち杭を施工したときに、各シース管や場所打ち杭で測定したデータが同一乃至略同一であることを確認することにより、すべてのシース管や場所打ち杭に対するコンクリートの打設が同一の状態で行われていることを保証できる。したがって、シース管や場所打ち杭の信頼性を向上させることができ、コンクリート打設時の欠陥による事故の発生を防止できる。
【0029】
さらに、コンクリートの打設直後と固化後のキャパシタンスの変化をキャリブレーション用の基準データと比較し、打設時及び固化後のいずれも測定したキャパシタンスが基準データのキャパシタンスより小さければ空気が存在していると判定できる。一方、打設時に測定したキャパシタンスは基準データと変わらないが、固化後に測定したキャパシタンスが基準データのキャパシタンスより大きければ、コンクリート中に水が存在していると判定できる。
【0030】
測定手法として、タイム・オブ・フライト測定法を適用する際には、図5に示すように、測定装置19として、交流信号を発生する矩形パルス発信器21と、測定装置19のインピーダンスとセンサーケーブル12のインピーダンスとを整合させるためのインピーダンス変換回路22と、多数のパルスの平均値を求めて雑音の影響を減らすためのボックスカー積分器23と、波形解析を行うための波形解析手段24を使用し、矩形パルス発信器21からインピーダンス変換回路22を介して引出線16に交流信号として矩形パルスあるいはステップ状パルスを入射する。
【0031】
このとき、シース管又は杭の全長にわたってコンクリートが完全に充填されている場合は、入射した矩形パルスが所定の抵抗値を有する終端の抵抗15で吸収されて反射波は発生しないのに対し、コンクリート中に空気や土砂が存在すると、その地点でのキャパシタンスが低くなり、特性インピーダンスが大きくなるために反射波が発生する。この反射波の状態をボックスカー積分器23を介して波形解析手段24に取り込み、波形解析手段24で入射から反射までの時間を測定することにより、存在する空気(気泡)の領域の大きさを反射波の強度から、その位置を入射から反射までの遅れ時間で測定することができる。
【0032】
空気を検査対象としたタイム・オブ・フライト測定法では、打設直後のコンクリートの誘電率が高い状態では特性インピーダンスの値が終端抵抗15の抵抗値と一致しないため、センサーケーブル12の終端で反射が発生する。しかし、空気の存在に対して誘電率の差が大きくなることから、感度が高くなって空気の検出能力は増加する。これにより、打設直後に欠陥を発見することが可能となり、締め固めなどの処置を速やかに行うことが可能となる。
【0033】
また、時間応答解析法を適用する際には、図6に示すように、測定装置19として、周波数可変発信器31、方向性結合器32、インピーダンス変換回路33、受信アンプ34及び逆フーリエ変換回路35を使用し、周波数可変発信器31から遷移周波数以上で複数の周波数を変化させて方向性結合器32及びインピーダンス変換回路33を介してセンサーケーブル12に入射する。
【0034】
コンクリートの打設不良によってコンクリート中に空気あるいは水が存在する場合は、その部分でセンサーケーブル12の特性インピーダンスが変化するために反射波が発生するので、方向性結合器32から受信アンプ34に反射波の信号を送って増幅し、増幅した信号を逆フーリエ変換回路35に出力する。逆フーリエ変換回路35では、受信アンプ34から出力された信号と周波数可変発信器31から得た信号とを参照して逆フーリエ変換することにより、入射から反射までの遅れ時間と充填不良部分の大きさとを計算し、空気あるいは水の存在する領域を特定する。
【0035】
前記タイム・オブ・フライト測定法が矩形パルスあるいはステップ状パルスによる単発現象の観測であるため、雑音除去に高価なボックスカー積分器を使用しなければならないのに対し、この逆フーリエ変換回路35を使用した時間応答解析法は、広い周波数領域で計算するために雑音の影響を除去する性能が高く、装置価格も低く抑えることができる。
【0036】
これらの測定法は、それぞれ単独で実施することも可能であるが、必要に応じて電流測定法、タイム・オブ・フライト測定法、時間応答解析法を適宜に組み合わせて実施することができる。このとき、センサーケーブル12は各方法で共通に使用することが可能であるから、引出線16に必要な機器を接続するだけでこれらの測定を容易に実施することができる。
【0037】
さらに、各種測定法で取得したデータを工事後に保存しておくことにより、地盤変動や経年変化によって杭やシース管に異常が発生したことを、杭やシース管を破壊することなく外部から簡単に検知することができる。例えば、図7の工事例に示すように、建物床構造物41を支持する場所打ち杭42にセンサーケーブル12を設置するとともに、インピーダンス変換器43から外部に引出線44をそれぞれ結線し、インピーダンス変換器43を残した状態で建物や構造物の工事を行う。引出線44は、後日の使用を容易に行えるようにするため、端子盤45にまとめておくことが好ましい。
【0038】
工事完了後、随時に、あるいは定期的に引出線44あるいは端子盤45の端子に前述の測定装置を接続し、前述の測定法によって各センサーケーブル12毎にそれぞれ測定を行い、保存しておいたデータと比較することにより、地盤の変動などで杭42が折れたことや、シース管の内部に水が浸入したことを非破壊的に検査することができる。
【0039】
また、前述のシース管や杭のような細長い形状のコンクリート打設物の長手方向にセンサーケーブルを埋設するほか、例えば図8の工事例に示すように、建築や構造物の土台のような立方体や平板の構造物51においても、前記同様のセンサーケーブル12を適宜設置するとともに、インピーダンス変換器43から外部に引き出し線44をそれぞれ結線しておくことで、構造物51の打設時の欠陥の発見と長期的な定期検査とを、容易かつ確実に、非破壊的に検査することができる。
【0040】
なお、本発明は、前述のようなセンサーケーブルを内部に埋設することができれば各種のコンクリート打設物に適用可能であり、現場でコンクリートを打設するものに限らず、工場で製造するものにも適用可能である。工場でシース管や杭を製造する場合は、あらかじめセンサーケーブルを埋設した状態で製造し、インピーダンス変換器を含めた状態としておくことにより、施工後の定期検査を容易かつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の打設コンクリートの検査方法による検査状態の一例を示す説明図である。
【図2】センサーケーブルの形状例を示す斜視図である。
【図3】センサーケーブルの設置例を示す説明図である。
【図4】電流計を使用した測定装置の使用例を示す説明図である。
【図5】測定装置にタイム・オブ・フライト測定法を適用したときの説明図である。
【図6】測定装置に時間応答解析法を適用したときの説明図である。
【図7】センサーケーブルを設置した場所打ち杭の工事例を示す説明図である。
【図8】立方体や平板の構造物にセンサーケーブルを設置した工事例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0042】
11…打設コンクリート、12…センサーケーブル、13…耐水性絶縁物、14…電線、15…抵抗、16…引出線、17…鉄筋、18…緩衝用樹脂、19…測定装置、19a…発信器、19b…交流電流計、21…矩形パルス発信器、22…インピーダンス変換回路、23…ボックスカー積分器、24…波形解析手段、31…周波数可変発信器、32…方向性結合器、33…インピーダンス変換回路、34…受信アンプ、35…逆フーリエ変換回路、41…建物床構造物、42…場所打ち杭、43…インピーダンス変換器、44…引出線、45…端子盤、51…構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の電線を耐水性絶縁物で平行に保持するとともに終端を抵抗で短絡させたセンサーケーブルを打設コンクリートの内部に埋設し、前記センサーケーブルの入力側に交流信号を印加してそのときに流れる電流を測定し、測定した電流データとあらかじめ設定した基準電流データとを比較して打設したコンクリートの状態を検査することを特徴とする打設コンクリートの検査方法。
【請求項2】
2本の電線を耐水性絶縁物で平行に保持するとともに終端を抵抗で短絡させた複数のセンサーケーブルを打設コンクリートの内部に平行方向に埋設し、各センサーケーブルの入力側に交流信号をそれぞれ印加してそのときに流れる電流をそれぞれ測定し、測定した各電流データを相互に比較して打設したコンクリートの状態を検査することを特徴とする打設コンクリートの検査方法。
【請求項3】
2本の電線を耐水性絶縁物で平行に保持するとともに終端を抵抗で短絡させたセンサーケーブルを複数の打設コンクリートの内部にそれぞれ埋設し、各センサーケーブルの入力側に交流信号をそれぞれ印加してそのときに流れる電流をそれぞれ測定し、測定した各電流データを相互に比較して打設したコンクリートの状態を検査することを特徴とする打設コンクリートの検査方法。
【請求項4】
前記交流信号の印加、電流データの測定及び電流データの比較をコンクリートの打設直後に行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の打設コンクリートの検査方法。
【請求項5】
前記交流信号の印加、電流データの測定、電流データの比較をコンクリートの打設後に定期的に行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の打設コンクリートの検査方法。
【請求項6】
2本の電線を耐水性絶縁物で平行に保持するとともに終端を抵抗で短絡させた状態で打設コンクリートの内部に埋設されるセンサーケーブルと、該センサーケーブルの入力側に交流信号を印加する発信器と、交流信号印加時の電流を測定する電流計と、該電流計で測定した電流データをあらかじめ記憶した基準電流データと比較して打設したコンクリートの状態を判定する演算手段とを備えたことを特徴とする打設コンクリートの検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−8521(P2009−8521A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169942(P2007−169942)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(501315762)株式会社サカエ (18)
【出願人】(504021415)有限会社ジー・エム・シー (2)
【Fターム(参考)】