説明

抄紙作業性向上剤及びそれを用いた抄紙作業性向上方法

【課題】紙や板紙を製造する工程において、優れた汚れ付着防止効果と、優れた剥離性向上効果とを併せ持つ抄紙作業性向上剤及びそれを用いた抄紙機の抄紙作業性向上方法を提供する。
【解決手段】本発明の抄紙作業性向上剤は、ノニオン界面活性剤としての構成部分を有する酸性界面活性剤と、アミノ基含有ポリマーとの混合液からなり、優れた汚れ付着防止効果と、優れた剥離性向上効果とを併せ持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプ及び紙の製造工程における抄紙作業性向上剤及びそれを用いた抄紙作業性向上方法に関する。さらに詳しくは、紙、板紙を製造する抄紙工程における製造装置や製造用具に付着する汚れの防止、汚れの洗浄、及び、湿紙の剥離性向上に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプや紙の製造工程において、ピッチと呼ばれる古紙由来の粘着物や、樹木由来の粘着性天然樹脂や、使用薬品由来の粘着物等に起因する汚れが抄紙製造装置(例えば洗浄機、チェスト、流送配管、ファンポンプ、ロールなど)や、用具(例えば、ワイヤー、フェルトなど)に付着し、作業性を低下させるという問題が発生している。特に、紙、板紙を製造する抄紙工程においては、粘着物由来の汚れは、製品の品質に悪影響を与えるのみでなく、湿紙が粘着物に捕られて穴が開いたり、プレスロールや用具からの紙離れが悪くなって断紙したりして、生産性を大きく低下させる原因になっている。
【0003】
製紙資源の有効活用として古紙が多く使用される昨今においては、粘着性の汚れ付着の問題が顕著化している。また、近年における抄紙機の高速化により、湿紙の製造装置・用具からの剥離時において断紙する問題も生じており、粘着性の汚れ付着の問題が生じていない抄紙機においても、湿紙の剥離性の向上が求められている。
【0004】
従来、粘着性の汚れ付着を防止するための薬剤としては、アミノ基含有ポリマーが用いられている。例えば、ポリオキシアルキレン脂肪族アミン、有機ホスホン酸及び非イオン界面活性剤を有効成分とする汚れ防止剤(特許文献1)や、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩、ポリオキシアルキレン高級脂肪族アミン及び1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸を有効成分としたピッチ抑制剤(特許文献2)や、ポリエーテルエステルアミドとポリオキシアルキル化ポリアミドとを含有する汚れ付着防止剤(特許文献3)等である。その他、アミノ基含有ポリマーを用いない例としては、フタル酸ジアルキルエステル及びアジピン酸ジアルキルエステルを含有する洗浄剤が提案されている(特許文献4)。
【0005】
一方、紙離れ性をよくするための剥離剤としては、ノニオン界面活性剤がよく用いられている。例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルと水溶性ポリマーとを有効成分とした剥離剤(特許文献5)等である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−279081号公報
【特許文献2】特許415048号公報
【特許文献3】特開2008−240227号公報
【特許文献4】特開2005−187980号公報
【特許文献5】特許4002590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の薬剤の汚れ付着防止効果や剥離性向上効果は、未だ充分ではなく、さらに優れた効果を奏する薬剤が求められていた。また、優れた汚れ付着防止効果と優れた剥離性向上効果とを併せ持つ、単独の薬剤は知られておらず、このため、複数の薬剤を添加しなければならず、添加量等の薬剤管理に手間がかかっていた。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、紙や板紙を製造する工程において、優れた汚れ付着防止効果と、優れた剥離性向上効果とを併せ持つ抄紙作業性向上剤及びそれを用いた抄紙機の抄紙作業性向上方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、従来から汚れ付着防止剤として知られていたアミノ基含有ポリマーと、紙の剥離性の向上効果を有するノニオン界面活性剤とに注目し、これらの化学構造を併せ持つ化合物とすることにより、汚れ付着防止と剥離性向上を有する化合物とすることを考えた。
【0010】
そして、その方法として、ノニオン界面活性剤とアミノ基含有ポリマーとのポリイオンコンプレックスとすることを企てた(ポリイオンコンプレックスとは、酸官能基を有するポリマーと、塩基としての官能基を有するポリマーとが、イオン結合によって複合体となったものをいう)。すなわち、ノニオン界面活性剤をジカルボン酸無水物によってモノエステル化して酸官能基を有するポリマーとし、このポリマーをアミノ基含有ポリマーと混合した混合液について汚れ付着防止効果及び剥離性向上効果を調べたところ、双方共に優れた効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の抄紙作業性向上剤は、下記一般式(1)又は(2)で表される酸性界面活性剤の少なくとも1種と、アミノ基含有ポリマーとの混合物を有効成分として含有することを特徴とする。
【化1】

【化2】

上記一般式(1)及び一般式(2)において、R1及びRは、ともに、炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nは1〜100の整数であり、Xは下記一般式(3)〜(8)のいずれかの官能基を示す。
【化3】

【化4】

上記一般式(4)において、Rは、炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、l、mは、ともに1以上の整数を示す。
【化5】

【化6】

【化7】

上記一般式(7)において、R1は炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nは1〜100の整数を示す。
【化8】

上記一般式(8)において、Rは炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nは1〜100の整数を示す。
【0012】
本発明の抄紙作業性向上剤の原料とされる酸性界面活性剤は、ノニオン界面活性剤に相当する部分(すなわち、「RO(AO)−」や「RCOO(AO)−」)に、ポリカルボン酸基や、硫酸基やリン酸基からなる多価酸が酸性基を残しつつエステル結合されている。このため、アミノ基含有ポリマーと混合されることにより、ポリイオンコンプレックスとして複合化されていると推定される。そして、こうしたポリイオンコンプレックスは、ノニオン界面活性剤構造部分に基づく剥離性向上効果と、アミノ基含有ポリマー構造部分に基づく粘着物の汚れ付着防止効果とを併せ持つこととなる。本発明者は、本発明の抄紙作業性向上剤が、従来の汚れ防止剤や剥離剤と比較して、さらに優れた汚れ防止効果や剥離性向上効果を奏することを確認している。
【0013】
本発明の抄紙作業性向上剤の原料とされる酸性界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのポリカルボン酸モノエステル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルのポリカルボン酸モノエステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルのポリカルボン酸モノエステル及びポリオキシアルキレン脂肪酸エステルのポリカルボン酸モノエステルの少なくとも1種とすることができる。
【0014】
また、本発明の抄紙作業性向上剤の原料とされるアミノ基含有ポリマーは、ポリアミドポリアミン、ポリアミドポリアミン−エピクロルヒドリン樹脂、ポリアルキルアミン及びポリアルキルアミン−エピクロルヒドリン樹脂の少なくとも1種とすることができる。
【0015】
また、本発明の抄紙作業性向上剤は、pHが6以上12未満とされていることが好ましい。pHが6未満では酸性界面活性剤が過剰となり、剥離性向上効果が低減することとなる。また、pHが12以上ではアルカリ性が強いため、ハンドリングに注意を有することとなる。
【0016】
また、本発明の抄紙作業性向上剤は、固形分重量比で(酸性界面活性剤):(アミノ基含有ポリマー)が10:1〜1:10の範囲において、優れた汚れ付着防止効果及び剥離性向上効果を示す。さらに好ましいのは固形分重量比で(酸性界面活性剤):(アミノ基含有ポリマー)が6:1〜1:6の範囲であり、最も好ましいのは5:1〜1:1の範囲である。
【0017】
本発明の抄紙作業性向上剤は、抄紙機及び/又は該抄紙機の用具に噴霧することによって、優れた汚れ付着防止効果及び剥離性向上効果を示すこととなる。すなわち、本発明の抄紙作業性向上方法は、請求項1乃至4のいずれか1項記載の抄紙作業性向上剤を抄紙機及び/又は該抄紙機の用具に噴霧することを特徴とする。
ここで、抄紙機とは、ワイヤーパート、プレスパートやドライヤーパートを有する連続する一連の装置群及び付属設備を指し、例えば、洗浄機、チェスト、流送配管、ファンポンプ、ロールなどの装置で構成されている。また、該抄紙機の用具とは、前記装置で使用される、ワイヤー、フェルトなどを指す。
【発明の効果】
【0018】
本発明の抄紙作業性向上剤及びそれを用いた抄紙機の抄紙作業性向上方法を、紙や板紙を製造する抄紙機及びその用具に適用することにより、優れた汚れ付着防止効果や、優れた汚れ洗浄効果や、湿紙の剥離性向上効果が得られ、このため断紙による稼働率の低下や、製品への汚れ付着による品質の低下を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の抄紙作業性向上剤の原料となる酸性界面活性剤は、一般式(1)又は(2)で表される酸性界面活性剤を単独で、又はこれらを2種以上混合して用いることができる。
一般式(1)で表される酸性界面活性剤は、炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を有するアルコール類(又はフェノール類)に、炭素数2〜4のオキシアルキレンを1〜100モルの任意の割合で付加させてグリコール誘導体とし、このグリコール誘導体をポリカルボン酸モノエステル化、あるいは硫酸モノエステル化、あるいはリン酸モノエステル(又はジエステル化)させた化合物である。
【0020】
これらの酸性界面活性剤の中でも、好ましいのはポリカルボン酸モノエステルである。こうしたポリカルボン酸モノエステルは、前述したグリコール誘導体と酸無水物とを反応させることにより、容易に調製することができる。酸無水物としては、例えばコハク酸無水物、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物等を用いることができる。
【0021】
一方、一般式(2)で表される酸性界面活性剤は、炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を有するカルボン酸(例えば、直鎖カルボン酸や安息香酸等の芳香族カルボン酸)に、炭素数2〜4のオキシアルキレンを1〜100モルの任意の割合で付加させてグリコール誘導体とし、このグリコール誘導体をポリカルボン酸モノエステル化、あるいは硫酸モノエステル化、あるいはリン酸モノエステル(又はジエステル化)させた化合物である。
【0022】
これらの酸性界面活性剤の中でも、好ましいのはポリカルボン酸モノエステルである。こうしたポリカルボン酸モノエステルは、前述したグリコール誘導体と酸無水物とを反応させることにより、容易に調製することができる。酸無水物としては、例えばコハク酸無水物、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物等を用いることができる。
【0023】
また、本発明の抄紙作業性向上剤の原料となるアミノ基含有ポリマーは、前述した酸性界面活性剤と反応して四級化アンモニウム塩となり、ポリイオンコンプレックスを形成していると推定される。アミノ基含有ポリマーとしては、ポリアミドポリアミン、ポリアミドポリアミン−エピクロルヒドリン樹脂、ポリアルキルアミン、ポリアルキルアミン−エピクロルヒドリン樹脂等を用いることができる。これらのアミノ基含有ポリマーの中でも、ポリアミドポリアミン、ポリアミドポリアミン−エピクロルヒドリン樹脂は特に好ましい。
【0024】
また、アミノ基含有ポリマーとして用いられるポリアミドポリアミンとしては、ジエチレントリアミンやテトラエチレンテトラミンやテトラエチレンペンタミンやイミノビスプロピルアミン等のポリアルキレンポリアミン類と、シュウ酸やマロン酸やコハク酸やグルタル酸やアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、又は、フタル酸やイソフタル酸やテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸とを、脱水縮合反応させて得られるポリアミドポリアミン等が挙げられる。
【0025】
また、前述したポリアミドポリアミン−エピクロルヒドリン樹脂は、前述のポリアミドポリアミンを、さらにエピクロルヒドリンで架橋することにより、容易に得ることができる。
【0026】
さらに、前述したポリアルキルアミンとしては、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン等のアルキレンジアミン類や、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン等のポリアルキレンポリアミン類等が挙げられる。
【0027】
また、前述したポリアルキルアミン−エピクロルヒドリン樹脂としては、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン等のアルキレンジアミンや、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン等のポリアルキレンポリアミン類を、エピクロルヒドリンで架橋反応させることによって得られる、ポリアルキルアミン−エピクロルヒドリン樹脂等が挙げられる。
【0028】
さらに、アミノ基含有ポリマーは、単独あるいは2種以上混合して用いることもできる。
【0029】
本発明の抄紙作業性向上剤の原料とされる酸性界面活性剤は、ノニオン界面活性剤に相当する部分(すなわち、「RO(AO)−」や「RCOO(AO)−」)に、ポリカルボン酸基や、硫酸基やリン酸基からなる多価酸が酸性基を残しつつエステル結合されている。このため、アミノ基含有ポリマーと混合されることにより、ポリイオンコンプレックスとして複合化されていると推定される。そして、このため、無電荷又はカチオン電荷を持ったアミノ基含有ポリマーは、アミノ基が電離してカチオン電荷を持つアミノ基含有ポリマー、又は更に大きなカチオン電荷を持つアミノ基含有ポリマーとなる。こうしたポリイオンコンプレックスは、ノニオン界面活性剤構造部分に基づく剥離性向上効果と、アミノ基含有ポリマー構造部分に基づく粘着物の汚れ付着防止効果とを併せ持つこととなる。
【0030】
本発明の抄紙作業性向上剤は、酸性界面活性剤とアミノ基含有ポリマーとを混合することにより、容易に調製することができる。混合は常温で行なうこともできる。両者を混合撹拌した混合液を水で薄めると白濁することから、ポリイオンコンプレックスが形成されていることが示唆される。混合方法については特に制限はなく、酸性界面活性剤にアミノ基含有ポリマーを加えても、また、アミノ基含有ポリマーに酸性界面活性剤を加えても良い。
【0031】
本発明の抄紙作業性向上剤は、抄紙機におけるワイヤーパート、プレスパートの用具およびロール等の装置表面に噴霧することによって、粘着物汚れの付着防止、湿紙の穴あき防止、断紙の防止、用具又はロールからの湿紙の剥離性向上、抄紙機部品の摩耗低下といった、生産性向上の効果を得ることができる。
【0032】
本発明の抄紙作業性向上剤の添加方法や添加量は、パルプの種類及び紙の種類、工程の条件、ピッチの発生状況等に応じて適宜選択すればよいが、抄紙機におけるワイヤーパート、プレスパートの用具およびロール等の装置表面に該抄紙作業性向上剤を直接噴霧する方法や、既存のシャワーラインに圧入し、シャワー水で希釈して添加する方法を用いることができ、その場合の抄紙作業性向上剤の使用形態としては、濃厚液として使用しても良いが、水で希釈して用いることもできる。水で希釈する場合の本発明の抄紙作業性向上剤の濃度(酸性界面活性剤及びアミノ基含有ポリマーを合わせた含量)は、0.00001質量%以上とすることが好ましい。0.00001質量%より小さい場合は、粘着物汚れの付着防止効果や剥離性向上効果が低くなる。
【0033】
また、抄紙作業性向上剤を水で希釈する場合の方法としては、濃厚液に水を加えて混合してもよいし、水に濃厚液を加えて混合してもよい。また、混合器等を用いて流水中に定量混合してもよい。
【0034】
また、本発明の抄紙作業性向上剤は、抄紙機の操業中又は停止中に、用具およびロール等の装置表面に噴霧させることが効果的である。この場合において、噴霧は連続的又は間欠的に行うことができる。
【0035】
また、本発明の抄紙作業性向上剤は、印刷・情報用紙、塗工紙、新聞用紙、衛生用紙、板紙、段ボール原紙等、パルプ原料を使用して紙を製造するいかなる抄紙機に対しても、用いることができる。さらに、本発明の抄紙作業性向上剤の効果を損なわない範囲において、他の工程添加剤(例えば、消泡剤、スケールコントロール剤、スライムコントロール剤及び他のピッチコントロール剤等)を配合・併用してもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。また、特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0037】
(実施例1)
実施例1では、酸性界面活性剤としてのポリオキシアルキレン(EO12、PO3)アルキル(C10)エーテルモノコハク酸エステルと、アミノ基含有ポリマーとしてのジエチレントリアミン−アジピン酸縮合物(平均分子量2,000、50%水溶液)とを混合して調製した(ここで「(EO12、PO3)」とは、エチレンオキサイドが12個結合しており、ポリプロピレンオキサイド単位が3個結合していることを示し、「(C10)」とは、アルキル基が直鎖で炭素数10個からなることを示す。以下同様。)調製方法の詳細は以下のとおりである。
【0038】
まず、酸性界面活性剤としてのポリオキシアルキレン(EO12、PO3)アルキル(C10)エーテルモノコハク酸エステルを以下のようにして調製した。
すなわち、温度計、冷却器、撹拌機を備えた1000ml四つ口フラスコに、ポリオキシアルキレン(EO12、PO3)アルキルエーテル(C10)843g(1モル)と無水コハク酸120g(1.2モル)を仕込み、100℃で5時間反応を行った。こうして、ポリオキシアルキレン(EO12、PO3)アルキルエーテル(C10)モノコハク酸エステル(活性剤1)を得た。活性剤1のエステル化率を中和滴定法により測定したところ、97%であった。
【0039】
こうして得られた活性剤1の10gを、水80gに溶解した後、常温撹拌下のジエチレントリアミンーアジピン酸縮合物(平均分子量2,000、50%水溶液)10gの中に加え、均一な溶液となるまで撹拌を継続し、実施例1の抄紙作業性向上剤を得た。
【0040】
(実施例2〜21)
実施例2〜21では、表1に示す活性剤1〜12(これらが酸性界面活性剤である)のいずれかと、下記表1に示すアミノ基含有ポリマー1〜5のいずれかとを混合することによって、抄紙作業性向上剤を得た。各実施例の組み合わせ及び混合割合は、下記表2に示すとおりである。また、活性剤2〜6は、実施例1において調製した酸性界面活性剤1と同様の方法により、対応するポリオキシアルキレンアルキルエーテルと対応するカルボン酸無水物との反応によって調製した。また、活性剤7は、対応するポリオキシアルキレンアルキルエーテルと対応するクロル硫酸との反応によって調製した。さらに、活性剤8は、対応するポリオキシアルキレンアルキルエーテルとオキシ塩化リンとの反応によって調製した。また、活性剤9〜11は、対応する脂肪酸ポリオキシアルキレンと、対応するカルボン酸無水物との反応によって調製した。さらに、活性剤12は安息香酸ポリオキシアルキレンと無水コハク酸との反応によって調製した。なお、活性剤2〜6及び活性剤9〜12製造における原料の仕込み比はグリコール誘導体:酸無水物=1モル:1.2モル、活性剤7における原料の仕込み比はグリコール誘導体:クロル硫酸=1モル:1.2モル、及び活性剤8製造における原料の仕込み比はグリコール誘導体:オキシ塩化リン=1モル:1.2モルとした。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
(比較例1〜8)
比較例1〜8では、下記表3に示す薬剤(比較例1ではノニオン1、比較例2ではノニオン2、比較例3ではノニオン3、比較例4ではノニオン4、比較例5ではノニオン5、比較例6ではノニオン5+4級アミン1+ホスホン酸1、比較例7ではノニオン2+4級アミン1、比較例8ではノニオン3+ノニオン5+ホスホン酸1)を用い、表4に示す水分及び各薬剤の割合で混合することにより、抄紙作業性向上剤を調製した。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
−評 価−
以上のようにして得られた実施例1〜20及び比較例1〜8の抄紙作業性向上剤について粘着物付着防止試験を行い、実施例1〜21及び比較例1〜8の抄紙作業性向上剤について湿紙剥離性向上試験を行なった。
【0047】
(1)粘着物付着防止試験
白板紙中層用パルプを用い、紙パルプ技術協会発行の「紙パルプ試験方法」に記載のJ.TAPPI紙パルプ試験法No.11「パルプピッチの金網付着量試験方法」に従い、粘着物の付着防止効果について評価を行った。
供試パルプスラリーのpHは硫酸バンドにより6.5に調整し、温度は50℃にて試験を行った。抄紙作業性向上剤はパルプスラリー100重量部に対し、0.01、0.05、0.1重量部添加し、粘着物の付着防止効果を評価した。評価は次式で表される付着防止率で行なった。
抄紙作業性向上剤未添加時の粘着物付着量:Amg
抄紙作業性向上剤添加時の粘着物付着量:Bmg
付着防止率=(A−B)/A×100(%)
【0048】
その結果、表5に示すように、実施例1〜20の抄紙作業性向上剤は、比較例1〜8の抄紙作業性向上剤と比較して、極めて優れた付着防止率を示した。
【0049】
【表5】

【0050】
(2)湿紙剥離性向上試験
坪量40gの新聞紙を2×10cmの長方形に切り取り、一方の端から2×5cmの部分を水で2,000倍に希釈した所定の抄紙作業性向上剤溶液に1分間浸漬した。次いで、浸漬部分をセラミック溶射板の上に載せ、その上に、新聞用紙を生産している抄紙機で使用しているピックアップフェルトを載せた。そして、ピックアップフェルトの上から、重さ5kgの真鍮製クーチロールにて前後往復で3回プレスし、湿紙の脱水を行った。
次いで、引張り試験機(レオテック社製FUDOH RHEO METER)に、セラミック溶射板と、抄紙作業性向上剤溶液に浸漬されていない新聞紙の一端とを取り付け、湿った新聞紙がセラミック溶射板から剥がれる時の剥離力を測定した。なお、抄紙作業性向上剤溶液に替えて水を用いた場合の剥離力をブランクとした。ブランクの剥離力を100とした時の抄紙作業性向上剤添加時の剥離力の割合を次式にて表し、この値によって剥離力の評価を行なった(この値が、小さいほど、ブランクに対する剥離力が小さく、湿紙剥離性向上効果が高いこととなる)。
水浸漬時の剥離力(ブランク):Ag
抄紙作業性向上剤溶液浸漬時の剥離力:Bg
剥離力=(B/A)×100
【0051】
その結果、表6に示すように、比較例1〜8の場合の剥離力は、ブランクと同じか、1割程度低くなったに過ぎないのに対し、実施例1〜21の場合の剥離力は5〜7割程度となり、優れた剥離性向上効果を有することが分かった。特にpHが6以上とされた実施例1〜20では、剥離力が5〜6割程度となっており、極めて優れた剥離性向上効果を有することが分かった。
【0052】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の抄紙作業性向上剤は、印刷・情報用紙、塗工紙、新聞用紙、衛生紙、板紙、段ボール原紙など、パルプ原料を使用して紙を製造できる全ての抄紙機における、金属製、繊維製、セラミック製、プラスチック製などの構成部材に適用することができる。具体的には、フェルト、ワイヤー、ロール、サクションボックスなどの抄紙機の金属製の部材や布製の部材などが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は(2)で表される酸性界面活性剤の少なくとも1種と、アミノ基含有ポリマーとの混合物を有効成分として含有することを特徴とする抄紙作業性向上剤。
【化1】

【化2】

上記一般式(1)及び一般式(2)において、R1及びRは、ともに、炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nは1〜100の整数であり、Xは下記一般式(3)〜(8)のいずれかの官能基を示す。
【化3】

【化4】

上記一般式(4)において、Rは、炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、l、mは、ともに1以上の整数を示す。
【化5】

【化6】

【化7】

上記一般式(7)において、R1は炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nは1〜100の整数を示す。
【化8】

上記一般式(8)において、Rは炭素数1〜24の脂肪族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nは1〜100の整数を示す。
【請求項2】
酸性界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのポリカルボン酸モノエステル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルのポリカルボン酸モノエステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルのポリカルボン酸モノエステル及びポリオキシアルキレン脂肪酸エステルのポリカルボン酸モノエステルの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の抄紙作業性向上剤。
【請求項3】
アミノ基含有ポリマーが、ポリアミドポリアミン、ポリアミドポリアミン−エピクロルヒドリン樹脂、ポリアルキルアミン及びポリアルキルアミン−エピクロルヒドリン樹脂の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載の抄紙作業性向上剤。
【請求項4】
pHが6以上12未満とされていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の抄紙作業性向上剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の抄紙作業性向上剤を抄紙機及び/又は該抄紙機の用具に噴霧することを特徴とする抄紙作業性向上方法。

【公開番号】特開2010−209479(P2010−209479A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54283(P2009−54283)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】