説明

抄紙用フェルト洗浄剤、及び抄紙用フェルトの洗浄方法

【課題】有機汚れと無機汚れを問わず、抄紙用フェルト汚れの除去性に優れる抄紙用フェルト洗浄剤及びこれを用いた洗浄方法を提供する。
【解決手段】炭素数8〜24の分岐型1級アルコールから誘導された下記一般式(1)で表される非イオン界面活性剤(S)を含有する抄紙用フェルト洗浄剤。
【化】


〔式中、R及びRは炭素数1〜12の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1〜100である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙用フェルトに付着した有機汚れ及び無機汚れを洗浄する抄紙用フェルト洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
紙パルプの製造工程は、一般に木材及びチップを機械力及び化学薬品で処理してパルプを得るパルプ化工程、回収古紙を離解・脱墨・水洗・漂白して脱墨パルプを得る古紙脱墨パルプ化工程、得られたパルプの洗浄・精選工程、漂白工程、各種薬品を添加して紙料を調整する調整工程、抄紙工程、湿紙水分を除去するプレス工程、そして乾燥工程などからなっている。
【0003】
抄紙機械のプレス工程において湿紙を運搬し水分を搾水する働きを持つフェルトに付着する汚れは、有機汚れと無機汚れに分類される。有機汚れには紙由来の樹脂分、脱墨されずに抄紙工程に混入したインキ、塗工用薬剤等がある。無機汚れには、炭酸塩、硫酸塩、燐酸塩、蓚酸塩、さらにチリや埃などが挙げられる。これらの汚れが蓄積すると、抄紙機械のプレス工程において湿紙を運搬し水分を搾水するフェルトの働きが著しく低下し、高速での抄紙が困難になる。そこで、フェルトの均一な搾水性を保持させるという対策をとる必要がある。
【0004】
一般に用いられている抄紙用フェルトの洗浄薬品はアルカリ類、酸類、溶剤、界面活性剤などがあり、ピッチなどの有機汚れに対しては界面活性剤、無機汚れに対してはカルボン酸やキレート剤が特に有効とされてきた。しかしながら、従来知られているこれらの薬品を単独または併用しても有機汚れ、無機汚れを同時に洗浄するのに充分満足できるものはほとんど無いだけでなく、脱墨パルプの使用、抄紙スピードの高速化に対応したフェルト洗浄剤として、さらなる改善が要望されていた。
【0005】
酸が配合されておらず界面活性剤で構成された中性系フェルト洗浄剤として、たとえば、炭素数6〜14の長鎖のアルコールにエチレンオキサイドを付加した化合物と炭素数1〜6の短鎖のアルコールに炭素数2〜3のアルキレンオキサイドを付加した化合物の混合物を用いたものが挙げられ、従来より用いられているが、このような非イオン界面活性剤では無機汚れの除去性が劣る。
【0006】
または、有機酸、無機酸を配合した酸性系フェルト洗浄剤として、たとえば特許文献1に、キレート作用のある有機酸に塩酸、硫酸、スルファミン酸等の無機酸を配合させたフェルト洗浄剤が開示されているが、有機汚れの除去性に対し満足する洗浄性を得られていない。
【特許文献1】特開平4−348195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、古紙の再生が盛んに行われるようになってきたが、古紙を脱墨処理した脱墨パルプを含むパルプ原料を抄紙した場合には、より多くの汚れが抄紙用フェルトに付着するという問題がある。このような状況から、今日では、フェルト汚れに対する洗浄性は一段と重要になってきている。すなわち、フェルトの汚れを充分に除去し、良好な搾水性を維持することが重要な課題となっている。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、有機汚れと無機汚れとを問わず、抄紙用フェルトの汚れの除去性に優れる低泡性抄紙用フェルト洗浄剤及びこれを用いた洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の抄紙用フェルト洗浄剤は、炭素数8〜24の分岐型1級アルコールから誘導された下記一般式(1)で表される非イオン界面活性剤(S)を必須成分として含有することを特徴とする。
【化1】

【0010】
式中、R及びRは炭素数1〜12の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1〜100である。
【0011】
本発明においては、前記非イオン界面活性剤(S)が、炭素数8〜11の分岐型1級アルコールから誘導された下記一般式(2)で表されるものであることが好ましい。
【化2】

【0012】
式中、R及びRは炭素数1〜8の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1〜100である。
【0013】
さらに、本発明においては、前記非イオン界面活性剤(S)が、炭素数10の分岐型1級アルコールから誘導された下記一般式(3)で表されるものであることがより好ましい。
【化3】

【0014】
式中、Rは炭素数3〜7の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。Rは炭素数1〜5の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。AOは炭素数3及び/又は4のオキシアルキレン基、EOはオキシエチレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、0〜20であり、mはオキシエチレン基の平均付加モル数を示し、1〜50である。
【0015】
本発明においては、前記非イオン界面活性剤(S)が、炭素数10の分岐型1級アルコールから誘導された下記一般式(4)で表されるものであることがより好ましく用いることができる。
【化4】

【0016】
式中、Rは炭素数3〜7の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。Rは炭素数1〜5の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。AOは炭素数3及び/又は4のオキシアルキレン基、EOはオキシエチレン基、[(EO)p/(AO)q]はオキシエチレン基と炭素数3及び/又は4のオキシアルキレン基とのモル比p/qのランダム重合鎖である。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、0〜10である。mはオキシエチレン基の平均付加モル数を示し、1〜50である。pはランダム重合鎖におけるオキシエチレン基の平均付加モル数を示し、0〜10である。qはランダム重合鎖におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1〜10である。
【0017】
本発明の抄紙用フェルト洗浄剤は、抄紙用フェルト洗浄剤100重量部中に、前記非イオン界面活性剤(S)を1〜85重量部、キレート剤(C)を0.001〜40重量部含有することが好ましい。
【0018】
また、本発明は、前記の抄紙用フェルト洗浄剤を、前記非イオン界面活性剤(S)及びキレート剤(C)の合計で0.001〜20重量%の範囲で含有する水溶液として用いることを特徴とする抄紙用フェルトの洗浄方法にある。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、炭素数8〜24の分岐型1級アルコールから誘導された非イオン界面活性剤を主成分とする抄紙用フェルト洗浄剤にあり、有機及び無機汚れの両方に対し良好な洗浄性を有し、抄紙工程中で汚染された抄紙用フェルトを効果的に洗浄することができる。従って、フェルトを常に清浄な状態に保ち、均一な搾水性と高い作業性とを保持し紙製品の品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の抄紙用フェルト洗浄剤の必須成分となる界面活性剤は、炭素数8〜24の分岐型1級アルコールから誘導された分岐型非イオン界面活性剤(S)であり、該非イオン界面活性剤の出発アルコールの炭素数は8〜11であることが好ましく、本発明の目的を達成するためには、特に限定したアルキレンオキサイドの付加形態を有し、且つ、炭素数10の分岐型アルコールから誘導されることが最も好ましい。
【0021】
上記非イオン界面活性剤(S)は、炭素数8〜24の分岐型1級アルコールから誘導された下記一般式(1)で表されるものからなる。
【化5】

【0022】
式(1)において、R及びRは炭素数1〜12の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1〜100である。
【0023】
炭素数1〜12の分岐又は直鎖のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、2級ブチル、ターシャリブチル、ペンチル、イソペンチル、2級ペンチル、ネオペンチル、ターシャリペンチル、ヘキシル、2級ヘキシル、ヘプチル、2級ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、2級オクチル、ノニル、2級ノニル、デシル、2級デシル、ウンデシル、2級ウンデシル、ドデシル、2級ドデシル基等が挙げられる。
【0024】
また、炭素数1〜12の分岐又は直鎖のアルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル基等が挙げられる。
【0025】
原料アルコールは、炭素数が単一であっても、異なる炭素数のアルコールの混合物であってもよく、また、原料アルコールの炭素数が単一のものから成る場合にも、これは複数の異性体からなる混合物であってもよい。
【0026】
以上を踏まえた原料アルコールの好適な例としては、2−プロピル−1−ヘキサノール、2−ブチル−1−ヘキサノール、2−エチル−1−ヘプタノール、2−プロピル−1−ヘプタノール、2−エチル−1−オクタノール、分岐鎖がさらに分岐した構造を持つ、2−イソプロピル−1−ヘプタノール、4−メチル−2−プロピル−1−ヘキサノール、2−イソプロピル−4−メチル−1−ヘキサノール、5−メチル−2−プロピル−1−ヘキサノール等の2−アルキル−1−アルカノール型の化学構造をもつゲルベアルコール類の単一組成、或いはそれらのアルコールを2種以上配合した混合物などが挙げられる。
【0027】
本発明で使用する非イオン界面活性剤(S)は、上記アルコールに炭素数2〜4のアルキレンオキサイドをブロック付加またはランダム付加して得られ、この付加重合の際に特定のモル比等の条件を選択したものである。炭素数2〜4のアルキレンオキサイドは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイドまたは2,3−ブチレンオキサイドが挙げられる。
【0028】
上記非イオン界面活性剤(S)は、アルカリ触媒、酸触媒の他、金属酸化物、金属塩類、金属錯体類などの種々公知の触媒を用いて上記アルコールから誘導することが可能である。中でも、アルカリ触媒は、副生物の生成量が相対的に低く、また反応速度、製造コスト等の点から商業生産上有利である。使用できるアルカリ触媒の一例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物及びトリエチルアミンをはじめとする各種アミン化合物などが挙げられる。好適な触媒量は反応粗製物(全仕込量)当たり0.005〜5.0%(固形分換算)、より好ましくは0.01〜0.5%の範囲である。
【0029】
【化6】

【0030】
また、本発明の抄紙用フェルト洗浄剤に用いられる非イオン界面活性剤(S)としては、炭素数8〜11の2−アルキル−1−アルカノール型の分岐型1級アルコールから誘導される上記一般式(2)で表されるものであることが好ましい。
【0031】
【化7】

【0032】
さらに、前記非イオン界面活性剤(S)が、炭素数10の2−アルキル−1−アルカノール型の分岐型1級アルコールから誘導される上記一般式(3)で表されるものであることがより好ましい。
【0033】
【化8】

【0034】
前記非イオン界面活性剤(S)は、上記原料アルコールにエチレンオキサイドと炭素数3及び/又は4のアルキレンオキサイドをブロック付加またはランダム付加し、さらにオキシエチレン基とオキシアルキレン基とのモル比がp/qのランダム重合鎖が付加されて得られる一般式(4)で表されるものがより好ましく用いることができる。
【0035】
上記一般式(1)〜(4)において、AOは炭素数3及び/又は4のオキシアルキレン基、EOはオキシエチレン基を表し、AOはブロック付加でもランダム付加でも、又はその混合でも良い。(AO)nにおいて、−(XO)x−(YO)y−は原料アルコールに対しアルキレンオキサイドXOのxモルを先に付加重合させ、次いで、アルキレンオキサイドYOのyモルを付加重合させたブロック付加体を示す。−(XO)x/(YO)y−は原料アルコールに対しアルキレンオキサイドXOのxモルとアルキレンオキサイドYOのyモルを混合して付加重合させたランダム付加体を示す。
【0036】
また、一般式(4)において、AOは炭素数3及び/又は4のオキシアルキレン基、EOはオキシエチレン基、[(EO)p/(AO)q]はオキシエチレン基と炭素数3及び/又は4のオキシアルキレン基とのモル比p/qのランダム重合鎖である。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、0〜10である。mはオキシエチレン基の平均付加モル数を示し、1〜50である。pはランダム重合鎖におけるオキシエチレン基の平均付加モル数を示し、0〜10である。qはランダム重合鎖におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1〜10である。
【0037】
本発明の抄紙用フェルト洗浄剤は、有機汚れ、無機汚れの両方に対し有効な洗浄性を有するが、一般式(3)の構造を持つものは特に有機汚れに対し、一般式(4)の構造を持つものは特に無機汚れに対して高い洗浄効果を発揮する。
【0038】
また、上記抄紙用フェルト洗浄剤には、上記非イオン界面活性剤を必須成分として、必要に応じて、公知の陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、上記以外の非イオン界面活性剤を助剤として用いることができる。2種以上の界面活性剤を組み合わせることで、洗浄性能が顕著に向上する場合がある。これらは、市販の各種界面活性剤を使用することができる。
【0039】
これらの公知の界面活性剤の使用量としては、本発明の抄紙用フェルト洗浄剤100重量部に対して、0.5〜45重量部含まれることが好ましく、より好ましくは1〜20重量部である。
【0040】
また、本発明の抄紙用フェルト洗浄剤は、上記非イオン界面活性剤(S)にキレート剤(C)を併用することで、洗浄効果をさらに向上させることができる。
【0041】
キレート剤(C)としては、Ethylene Diamine Tetraacetic Acid(EDTA)に代表されるアミノカルボン酸系キレート剤や、Hydroxyethylidene Diphosphonic Acid(HEDP)に代表されるホスホン酸系キレート剤、それらの塩またはポリアクリル酸のようなポリマー型のキレート剤などが挙げられるが、EDTA、HEDPあるいはこれらのナトリウム塩が好ましい。
【0042】
本発明では、キレート剤を含有する場合には界面活性剤(S)及びキレート剤(C)の含有量は、抄紙用フェルト洗浄剤100重量部中に、(S)の合計が1〜85重量部、(C)が0.001〜40重量部、更に(S)が5〜40重量部、(C)が0.3〜20重量部、特に(S)が5〜30重量部、(C)が0.5〜10重量部であることが好ましい。また、これら以外の残りの成分として、危険物該当の回避、低温時の保存安定性の点から水を含有することが好ましい。
【0043】
本発明の抄紙用フェルト洗浄剤は、本発明の目的を達するために特に限定した構造を持つ炭素数が8〜24の分岐型アルコールから誘導された分岐型非イオン界面活性剤(S)を主成分とし、必要に応じ助剤としての界面活性剤及びキレート剤(C)が配合されていることが特徴的である。上記組み合わせ及びその配合範囲で抄紙フェルトの有機汚れ及び無機汚れの両方に対して優れた洗浄力を発現する。また、従来の界面活性剤では問題となった抄紙工程における泡立ちによる作業効率の低下を防ぐことが可能となった。
【0044】
本発明の抄紙用フェルト洗浄剤の使用方法は、フェルトの洗浄方法および汚れの程度に応じて任意に選ばれるが、水で希釈して有効分(界面活性剤及びキレート剤の合計)濃度で0.001〜20重量%の範囲の水溶液として用いるのが好ましく、特に0.05〜5重量%が好ましい。また、古紙原料を脱墨して得られる脱墨パルプを含むパルプ原料を抄紙する場合に付着するフェルト汚れに対しても良好な洗浄性を示すので、脱墨パルプを含むパルプ原料を用いる抄紙系に適用するのも有効である。
【0045】
抄紙用フェルトの洗浄方法は抄紙機上での洗浄と、抄紙機からフェルトを取りはずして洗浄する方法があるが、本発明の洗浄剤はこれらの洗浄方法のいずれにも適用できる。
【0046】
本発明のフェルト洗浄剤の優れた洗浄性により、フェルトを常に清浄な状態に保ち、均一な搾水性と高い作業性を保持できるので製造物である紙製品の品質を向上させることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。抄紙機からフェルトを取り外した場合のモデル試験として試験1、抄紙機上での洗浄モデル試験として試験2を行った。
【0048】
[試験1]
中性中質紙の抄紙工程から採取した抄紙用フェルトを、7cm×7cmの大きさに切って試験用のフェルトとした。このフェルトを真空乾燥器で減圧乾燥し、完全に水分を取り除いた。これを所定濃度の化合物を含む洗浄液中に浸し、30℃にて24時間保った。このフェルトを取りだし、水洗して薬品を取り除いた後、乾燥した。次いで、抽出溶媒としてエタノール/ベンゼン(容量比1/2)を用い、ソックスレー抽出装置を使用して2時間抽出し、汚染フェルトおよび洗浄後フェルト1g当たりの有機溶剤抽出量を求め、下記計算式により有機汚れ洗浄率(%)を求めた。さらに、このフェルトを8%塩酸中に浸し、30℃にて24時間保った。次いでこのフェルトを取りだし、水洗した後、乾燥した。汚染フェルトおよび洗浄後フェルト1g当たりの塩酸抽出量を求め、下記計算式により無機汚れ洗浄率(%)を求めた。
【0049】
[試験2]
中性中質紙の抄紙工程から採取した抄紙用フェルトを、7cm×7cmの大きさに切って試験用のフェルトとした。このフェルトを真空乾燥器で減圧乾燥し、完全に水分を取り除いた。これに、所定濃度の化合物を含む洗浄液を50℃、0.1MPaの水圧を保ち20分間シャワーリングした。このフェルトを水洗して薬品を取り除いた後、乾燥した。次いで、抽出溶媒としてエタノール/ベンゼン(容量比1/2)を用い、ソックスレー抽出装置を使用して2時間抽出し、汚染フェルトおよび洗浄後フェルト1g当たりの有機溶剤抽出量を求め、下記計算式により有機汚れ洗浄率(%)を求めた。さらに、このフェルトを8%塩酸中に浸し、30℃にて24時間保った。次いでこのフェルトを取りだし、水洗した後、乾燥した。汚染フェルトおよび洗浄後フェルト1g当たりの塩酸抽出量を求め、下記計算式により無機汚れ洗浄率(%)を求めた。
【0050】
[評価]
・有機汚れ洗浄率
上記試験1および試験2で測定された汚染フェルト及び洗浄後フェルトの有機溶剤抽出量から、有機汚れ洗浄率を以下のように算出した。
有機汚れ洗浄率(%)=100×〔(汚染フェルト1g当り有機溶剤抽出量−洗浄後フェルト1g当り有機溶剤抽出量)/汚染フェルト1g当り有機溶剤抽出量〕
【0051】
・無機汚れ洗浄率
上記試験1および試験2で測定された汚染フェルト及び洗浄後フェルトの塩酸抽出量から、無機汚れ洗浄率を以下のように算出した。
無機汚れ洗浄率(%)=100×〔(汚染フェルト1g当り塩酸抽出量−洗浄後フェルト1g当り塩酸抽出量)/汚染フェルト1g当り塩酸抽出量〕
【0052】
[評価基準]
上記の各洗浄率を、下記表1の基準で評価した。本発明品の試験結果を表2及び表3に、比較品の試験結果を表4に示す。従来の界面活性剤でたびたび問題となった泡立ちによる作業効率の低下を想定し、特に懸念されるシャワーリング試験の際の泡高さを目視により評価し、表中に併記した。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】

【0056】
【表3】

【0057】

【0058】
【表4】

【0059】

【0060】
[注]実施例に用いた界面活性剤(成分2)、キレート剤、及び成分1の原料アルコールは以下の通りである。
1)ネオコールSW−C(第一工業製薬(株)製、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム)、2)ハイテノール330T(第一工業製薬(株)製、ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸ナトリウム)、3)アミラヂン(第一工業製薬(株)製、ポリオキシアルキレンタローアミン)、4)ノイゲンTDX−50(第一工業製薬(株)製、ポリオキシアルキレントリデシルエーテル)、5)カチオーゲンTML(第一工業製薬(株)製、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム)、6)アモーゲンS(第一工業製薬(株)製、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン)、7)EDTA−4Na(キレスト社製、Ethylene Diamine Tetraacetic Acid)、8)HEDP(キレスト社製、Hydroxyethylidene Diphosphonic Acid)
【0061】
※1:下記成分[X1]〜[X3]の混合ゲルベアルコール、X1/X2/X3=70/25/5
【化9】

【0062】
※2:下記構造のゲルベアルコール
【化10】

【0063】
※3:下記成分[Y1]、[Y2]の混合ゲルベアルコール、Y1/Y2=90/10
【化11】

【0064】
※4:ネオドール23(シェル化学社製、炭素数C12、C13を主成分とする平均分子量194、直鎖率約79%の混合オキソアルコール)
※5:ネオドール91(シェル化学社製、炭素数C9〜C11を主成分とする平均分子量160、直鎖率約82%の混合オキソアルコール)
※6:EXXAL10(エクソンケミカル社製、炭素数C9〜C11を主成分とする平均分子量153、高度分岐構造を有する混合オキソアルコール)
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の抄紙用フェルト洗浄剤は、抄紙工程で汚染されたフェルトの汚れを、有機汚れと無機汚れを問わず除去、洗浄することができる。特に、古紙原料を脱墨して得られる脱墨パルプを含むパルプ原料を用いる抄紙系のフェルト洗浄に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数8〜24の分岐型1級アルコールから誘導された下記一般式(1)で表される非イオン界面活性剤(S)を含有することを特徴とする抄紙用フェルト洗浄剤。
【化1】

〔式中、R及びRは炭素数1〜12の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1〜100である。〕
【請求項2】
前記非イオン界面活性剤(S)が、炭素数8〜11の分岐型1級アルコールから誘導された下記一般式(2)で表されるものであることを特徴とする請求項1に記載の抄紙用フェルト洗浄剤。
【化2】

〔式中、R及びRは炭素数1〜8の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1〜100である。〕
【請求項3】
前記非イオン界面活性剤(S)が、炭素数10の分岐型1級アルコールから誘導された下記一般式(3)で表されるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の抄紙用フェルト洗浄剤。
【化3】

〔式中、Rは炭素数3〜7の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。Rは炭素数1〜5の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。AOは炭素数3及び/又は4のオキシアルキレン基、EOはオキシエチレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、0〜20であり、mはオキシエチレン基の平均付加モル数を示し、1〜50である。〕
【請求項4】
前記非イオン界面活性剤(S)が、炭素数10の分岐型1級アルコールから誘導された下記一般式(4)で表されるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の抄紙用フェルト洗浄剤。
【化4】

〔式中、Rは炭素数3〜7の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。Rは炭素数1〜5の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。AOは炭素数3及び/又は4のオキシアルキレン基、EOはオキシエチレン基、[(EO)p/(AO)q]はオキシエチレン基と炭素数3及び/又は4のオキシアルキレン基とのモル比p/qのランダム重合鎖である。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、0〜10である。mはオキシエチレン基の平均付加モル数を示し、1〜50である。pはランダム重合鎖におけるオキシエチレン基の平均付加モル数を示し、0〜10である。qはランダム重合鎖におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1〜10である。〕
【請求項5】
抄紙用フェルト洗浄剤100重量部中に、前記非イオン界面活性剤(S)を1〜85重量部、キレート剤(C)を0.001〜40重量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抄紙用フェルト洗浄剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の抄紙用フェルト洗浄剤を、前記非イオン界面活性剤(S)及びキレート剤(C)の合計で0.001〜20重量%の範囲で含有する水溶液として用いることを特徴とする抄紙用フェルトの洗浄方法。

【公開番号】特開2008−222993(P2008−222993A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93526(P2007−93526)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】