説明

抄紙用粘剤水溶液及び該抄紙用粘剤水溶液の製造方法並びに抄紙方法

【課題】優れた性能及び高い粘度を有する抄紙用粘剤水溶液、及び該抄紙用粘剤水溶液の製造方法、並びに該抄紙用粘剤水溶液を用いた抄紙方法を提供する。
【解決手段】高分子水溶液(A)と、ポリアルキレンオキサイド(b)を含むポリアルキレンオキサイド水溶液(B)とを含む抄紙用粘剤水溶液であって、前記高分子水溶液(A)は、水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶性高分子及び/又は水溶性高分子(a)が溶解した水溶液を濾過した水溶液であり、前記高分子水溶液(A)とポリアルキレンオキサイド水溶液(B)の混合比率は、水溶性高分子(a)とポリアルキレンオキサイド(b)の合計質量を100質量%としたとき、水溶性高分子(a)の質量割合が20〜80質量%であることを特徴とする抄紙用粘剤水溶液。また、該抄紙用粘剤水溶液の製造方法及び該抄紙用粘剤水溶液を用いた抄紙方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙の際に使われる抄紙用粘剤水溶液及び該抄紙用粘剤水溶液の製造方法、並びに該抄紙用粘剤水溶液を用いた抄紙方法に関する。
【背景技術】
【0002】
和紙、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、タオルペーパー等を抄紙する場合には、水中での紙料の分散性を向上させるために抄紙用粘剤水溶液を用いる方法が広く行われている。従来、抄紙用粘剤には天然高分子化合物が用いられていたが、近年では主に合成高分子化合物が用いられている。
【0003】
合成高分子化合物としては、例えば、ノニオン性のポリエチレンオキサイド、アニオン性のアクリルアミド系重合体等があり、これらは抄紙する紙に添加される薬剤の種類に応じて使い分けられている。
例えば、カチオン性湿潤紙力増強剤を添加してティッシュペーパーやタオルペーパー等を抄紙する場合は、ノニオン性のポリエチレンオキサイド等が使用される。また、カチオン性湿潤紙力増強剤や濾水性・歩留向上剤等を添加せずにトイレットペーパーを抄紙する場合は、アニオン性のアクリルアミド系重合体が使用される。
【0004】
このように、カチオン性の薬剤が添加される抄紙に用いられる抄紙用粘剤としては、ポリエチレンオキサイドを用いることが一般的であるが、特許文献1には、カチオン性湿潤紙力増強剤を添加して抄紙する場合であっても使用できる、特定の物性を有するポリアクリルアミドを用いた抄紙用粘剤が示されている。
また、ポリアクリルアミドを単独で使用する場合に比べて著しく地合が改善された紙が得られ、ポリエチレンオキサイドの発泡も低減できる方法として、ポリエチレンオキサイドとノニオン性のポリアクリルアミドを使用する方法が示されている(特許文献2)。
また、特許文献3、4では、ポリアクリルアミドを特定の物性とすることで、より高性能な抄紙用粘剤が得られることが示されている。
また、トイレットペーパー等の抄紙で使用されているアニオン性ポリアクリルアミドは、得られる紙質が固くなる傾向があるため、柔軟な紙が得られ易いポリエチレンオキサイドと併用されることが多くなってきている。そのため、このような場合においても、さらに性能の優れた抄紙用粘剤が求められている。
【0005】
また、抄紙用粘剤水溶液の製造方法においては、合成高分子化合物(重合体)を溶解する場合、一般的に、5mを超える溶解槽で比較的大きな撹拌翼を用い、その周速を1m/分以下として緩撹拌する方法が用いられる。また、このような溶解方法は、ポリエチレンオキサイドを用いる場合であっても、ポリアクリルアミド系重合体を用いる場合であっても、溶解槽や撹拌翼の大きさ、撹拌翼の周速等に違いはあるものの原理的には同様の溶解設備が用いられている。
【0006】
その他、高分子化合物の特殊な溶解方法としては、水で膨潤させた重合体を、濾過装置を備えた部材に送り、ローラーで押し潰しながら溶解させる方法等も提案されている(例えば、特許文献5)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−253587号公報
【特許文献2】特公昭52−15681号公報
【特許文献3】特開2005−126880号公報
【特許文献4】特開2005−154978号公報
【特許文献5】特開平11−262645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の抄紙用粘剤を用いれば、抄紙用粘剤水溶液の粘度が高く、安定に抄紙することが可能である。しかし、一般的な溶解設備ではポリアクリルアミドの溶解に時間がかかるため、溶解槽を大きくしなければならないという問題があった。
また、特許文献2の抄紙用粘剤では、ティッシュペーパーやタオルペーパーのように、抄紙する際にカチオン性湿潤紙力増強剤や他のカチオン性薬剤が含まれている場合、ポリエチレンオキサイドを単独で用いたものに比べて充分に均一な地合を有する紙が得られないという問題があった。また、トイレットペーパー等のカチオン性薬剤が添加されていない抄紙の場合でも、抄紙用粘剤として充分な性能が得られていなかった。
また、特許文献3の抄紙用粘剤では、ポリエチレンオキサイドとポリアクリルアミドとを粉体の状態で混合して溶解する場合、それぞれの溶解に要する時間が異なるため、より時間を要するポリアクリルアミドが完全に溶解するまで撹拌を継続する必要があり、ポリエチレンオキサイドの粘度が低下しすぎることがあった。また、これらを別々に溶解した水溶液同士を混合する場合も、それぞれの溶解時間が異なるためにバッチ溶解サイクルが異なる等、煩雑な作業が必要であった。
また、特許文献4の抄紙用粘剤では、ポリアクリルアミドの溶解速度が改良されているが、充分な溶解速度が得られないことがあった。
また、特許文献5のような溶解方法を用いると、高分子化合物の溶解は容易に行うことができるが、得られた抄紙用粘剤水溶液の粘度が著しく低下し、一般的な溶解設備を用いた抄紙用粘剤水溶液よりも性能が劣ってしまうという問題があった。
以上のことから、簡便に製造することのできる、優れた性能を有する抄紙用粘剤が望まれている。
【0009】
そこで、本発明では、優れた性能及び高い粘度を有する抄紙用粘剤水溶液、及び該抄紙用粘剤水溶液を簡便に製造する方法を提供する。
また、本発明では、前記抄紙用粘剤水溶液を用いた抄紙方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の抄紙用粘剤水溶液は、高分子水溶液(A)と、ポリアルキレンオキサイド(b)を含むポリアルキレンオキサイド水溶液(B)とを含む抄紙用粘剤水溶液であって、前記高分子水溶液(A)は、水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶液及び/又は水溶性高分子(a)が溶解した水溶液に機械的せん断力が与えられた水溶液であり、前記高分子水溶液(A)とポリアルキレンオキサイド水溶液(B)の混合比率は、水溶性高分子(a)とポリアルキレンオキサイド(b)の合計質量を100質量%としたとき、水溶性高分子(a)の質量割合が20〜80質量%であることを特徴とする。
また、本発明の抄紙用粘剤水溶液は、前記水溶性高分子(a)が、ポリアクリルアミド、アクリルアミドとアクリル酸(塩)の共重合体、アクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)の共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子であることが好ましい。
また、前記水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶液及び/又は水溶性高分子(a)が溶解した水溶液に機械的せん断力が与えられた水溶液の水溶液粘度が、機械的せん断力を与える前の水溶液粘度の50%以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の抄紙用粘剤水溶液の製造方法は、高分子水溶液(A)と、ポリアルキレンオキサイド(b)を含むポリアルキレンオキサイド水溶液(B)とを含む抄紙用粘剤水溶液の製造方法であって、水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶液及び/又は水溶性高分子(a)が溶解した水溶液に機械的せん断力を与えて前記高分子水溶液(A)を調製し、該高分子水溶液(A)と前記ポリアルキレンオキサイド水溶液(B)とを、混合比率(質量%)が(a)/(b)=20/80〜80/20((a)と(b)の合計が100質量%)となるように混合することを特徴とする方法である。
また、本発明の抄紙用粘剤水溶液の製造方法は、前記水溶性高分子(a)が、ポリアクリルアミド、アクリルアミドとアクリル酸(塩)の共重合体、アクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)の共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の粉末状の水溶性高分子であることが好ましい。
また、前記高分子水溶液(A)に機械的せん断力を与える方法が、濾過、ホモジナイザー、超音波からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、加圧濾過であることがより好ましい。
また、前記加圧濾過の際の圧力が0.02〜0.15MPaであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の抄紙方法は、前記いずれかの抄紙用粘剤水溶液を用いた抄紙方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抄紙用粘剤水溶液は、優れた性能を有しており、かつ高い粘度を有している。
また、本発明の製造方法によれば、優れた性能を有し、かつ高い粘度である抄紙用粘剤水溶液が簡便に得られる。
また、本発明によれば、前記抄紙用粘剤水溶液を用いた抄紙方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[抄紙用粘剤水溶液]
本発明の抄紙用粘剤水溶液は、高分子水溶液(A)と、ポリアルキレンオキサイド水溶液(B)とを含む水溶液である。
(高分子水溶液(A))
高分子水溶液(A)は、水溶性高分子(a)を含むゲル状水溶性高分子及び/又は水溶性高分子(a)が溶解した水溶液に機械的せん断力が与えられた水溶液である。機械的せん断力が与えられることにより、高分子水溶液(A)の水溶液粘度が、機械的せん断力を与える前の水溶液の水溶液粘度よりも低くなる。
水溶性高分子(a)は、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0015】
水溶性高分子(a)は、ポリアルキレンオキサイドを除く水溶性高分子であり、例えば、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミド部分加水分解物、アクリルアミドとアクリル酸(塩)との共重合体、アクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)との共重合体、アクリルアミドとN−ビニルカルボン酸アミドとの共重合体、アクリルアミドとジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチルクロライド塩の共重合体、アクリルアミドとジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートベンジルクロライド塩の共重合体、アクリルアミドとジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート塩酸塩の共重合体、アクリルアミドとジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート硫酸塩の共重合体、アクリルアミドとジアリルジメチルアンモニウムクロライドとの共重合体等が挙げられる。
なかでも、ポリアクリルアミド、アクリルアミドとアクリル酸(塩)の共重合体、アクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)の共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0016】
水溶性高分子(a)は、抄紙用粘剤が通常粉末で利用されることから、乾燥され粉末化されていることが特に好ましい。
粉末の粒径は特に制限はないが、水への溶解性を考慮すると、重量平均粒径が50〜3000μmであることが好ましく、100〜2000μmであることがより好ましい。重量平均粒径が50μm以上であれば、粉立ち等を防ぎ易い。重量平均粒径が3000μm以下であれば、膨潤や溶解に要する時間が長くなりすぎるのを防ぎ易い。
【0017】
水溶性高分子(a)の分子量は、抄紙用粘剤の性能が優れる点から、1000万以上であることが好ましく、1500万以上であることがより好ましく、1800万以上であることが特に好ましい。
また、水溶性高分子(a)は溶解性が高いことが好ましい。ただし、溶解性とは、水3kgに対して水溶性高分子(a)を0.1質量%となるように添加し、3時間撹拌後、目開き180μmの金網で濾過し、金網上に捕捉された含水ゲル重量(不溶解分)を測定することにより評価される。前記含水ゲル重量は少ないほど溶解性が高いことを示しており、通常は20g以下であり、10g以下であることが好ましく、6g以下であることがより好ましい。
【0018】
本発明の水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶液は、例えば、粉末状の水溶性高分子(a)を水で膨潤させることにより簡便に得られ、水溶性高分子(a)が溶解した水溶液は、粉末状の水溶性高分子(a)を水に溶解させることにより簡便に得られる。
【0019】
高分子水溶液(A)は、水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶性高分子及び/又は水溶性高分子(a)が溶解した水溶液に機械的せん断力が与えられた水溶液であることを特徴とし、前記機械的せん断力を与える方法としては、濾過、ホモジナイザー、超音波からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。また、濾過は加圧濾過がより好ましい。
濾過の際の、水溶液に含まれるゲル状物の水溶性高分子(a)及び/又は水溶液に溶解した水溶性高分子(a)の含有量(両方含む場合は合計の含有量)は、水溶性高分子(a)と水との合計質量(100質量%)に対して、0.025〜0.25質量%であることが好ましく、0.04〜0.2質量%であることがより好ましい。前記含有量は、加圧濾過やホモジナイザー、超音波を用いる場合も同様である。
高分子水溶液(A)中の水溶性高分子(a)のゲル状物は、機械的せん断力を与える前段階では存在していても構わないが、機械的せん断力を与えた後は無くなっている必要がある。ホモジナイザー、超音波を用いる場合は、水溶性高分子(a)が完全に溶解した水溶液を供給することが好ましい。
【0020】
水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶液及び/又は水溶性高分子(a)を含む水溶液に機械的せん断力を与えた後の水溶液粘度は、機械的せん断力を与える前の水溶液粘度の50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。高分子水溶液(A)の見かけの粘度が低いほど、ポリアルキレンオキサイド水溶液(B)と混合した後の粘度向上効果がより大きくなる。
【0021】
(ポリアルキレンオキサイド水溶液(B))
ポリアルキレンオキサイド水溶液(B)は、ポリアルキレンオキサイド(b)を含む水溶液である。
ポリアルキレンオキサイド(b)としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等が挙げられ、特にポリエチレンオキサイドが好ましい。
【0022】
ポリアルキレンオキサイド(b)の分子量は、抄紙用粘剤の性能が優れる点から、100万以上であることが好ましく、400万以上であることがより好ましく、500万以上であることが特に好ましい。
ポリアルキレンオキサイド(b)は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
ポリアルキレンオキサイド水溶液(B)(100質量%)中のポリアルキレンオキサイド(b)の濃度は、0.02〜0.2質量%であることが好ましく、0.025〜0.1質量%であることがより好ましい。
【0024】
本発明の抄紙用粘剤水溶液は、高分子水溶液(A)とポリアルキレンオキサイド水溶液(B)とを含む水溶液である。
また、本発明の抄紙用粘剤水溶液における高分子水溶液(A)とポリアルキレンオキサイド水溶液(B)との混合比率は、水溶性高分子(a)(ゲル状物の水溶性高分子(a)若しくは溶解した水溶性高分子(a)、又は、両方使用する場合はそれらの合計量)と、ポリアルキレンオキサイド(b)との合計質量を100質量%としたとき、水溶性高分子(a)の質量割合が20〜80質量%であり、25〜75質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましい。
混合比率が前記範囲内であれば、抄紙用粘剤水溶液が、抄紙に用いた際の紙料凝集性や濾水性、発泡性に優れ、高い粘度を有している等、優れた性能を有する。
【0025】
[製造方法]
本発明の抄紙用粘剤水溶液の製造方法は、水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶液及び/又は水溶性高分子(a)が溶解した水溶液に機械的せん断力を与えて高分子水溶液(A)を調製し、該高分子水溶液(A)と、ポリアルキレンオキサイド(b)を含むポリアルキレンオキサイド水溶液(B)とを混合する方法である。
【0026】
(高分子水溶液(A)の調製)
水溶性高分子(a)は、例えば、前記のようなアクリルアミド系重合体が挙げられ、なかでも、ポリアクリルアミド、アクリルアミドとアクリル酸(塩)の共重合体、アクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)の共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、これらの水溶性高分子が粉末状であることが特に好ましい。
アクリルアミド系重合体を製造する方法としては、特に制限はないが、例えば、水溶液重合、乳化重合、懸濁重合等の公知の重合方法を採用できる。一般的な重合方法は、ラジカル重合開始剤や光開始剤を用いた水溶液重合であり、光開始剤を用いた水溶液重合が特に好ましい。
【0027】
水溶液重合における水溶液中の単量体濃度は通常10〜75質量%であり、単量体濃度は15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。また、単量体濃度は50質量%以下であることが好ましい。単量体濃度が10質量%以上であれば充分な生産性が得られ易く、50質量%以下であれば、重合による発熱が大きくなりすぎないため反応を制御し易い。
【0028】
通常、重合開始剤としては、光重合開始剤、アゾ系開始剤、レドックス系開始剤等が使用できる。
光重合開始剤としては、α−ヒドロキシケトン類、アシルホスフィンオキサイド化合物等が使用できる。これらの化合物の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2−アゾビス[2−メチル−N−(2−ハイドロキシエチル)−プロピオンアミド]、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾフェノン等が挙げられる。
アゾ系開始剤は、光重合開始剤や熱分解重合開始剤として使用でき、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド等が挙げられる。
レドックス系開始剤としては、例えば、過硫酸塩、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物と、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、硫酸第一鉄、ブドウ糖、アミン類等の還元剤との組み合わせが挙げられる。
これらの重合開始剤は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
重合開始剤の添加量は、得られるアクリルアミド系重合体の分子量、重合時間、残存モノマー量等により異なるが、例えば、光重合開始剤の場合は、通常、全単量体に対して1〜1000ppm程度である。
【0030】
重合では含水ゲル状の水溶性高分子(a)が得られるが、抄紙用粘剤が通常粉末で利用されることから、乾燥した後に粉末化することが特に好ましい。水溶性高分子(a)を粉末状とすることにより、抄紙用粘剤の輸送コストが削減でき、また大きな貯槽タンクが不要となる。重合反応で得られた含水ゲル状の水溶性高分子(a)を乾燥する方法は特に限定されないが、乾燥中に加水分解が生じることや、水溶性高分子(a)の溶解性が悪化することを防ぐため、熱負荷の小さい乾燥方法を用いることが好ましい。
このような乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥機(振動流動乾燥機、バンド式乾燥機)による乾燥等が挙げられる。
【0031】
本発明の水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶性高分子は、このようにして得られた粉末状の水溶性高分子(a)を水で膨潤させることにより簡便に得られる。また、水溶性高分子(a)を含む水溶液は、粉末状の水溶性高分子(a)を水に溶解することにより簡便に得られる。
【0032】
水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶性高分子及び/又は水溶性高分子(a)が溶解した水溶液の濾過は、濾過部材を備えた装置を用いて行うことができる。
濾過部材を備えた装置(以下、濾過装置とする)としては、例えば、特許文献5に示されているような、外周面に金網を備えた筒状の濾過部材に回転式ローラーを設置し、膨潤ゲルを押し潰しながら濾過する装置や、遠心脱水機、加圧ピストンを備えたシリンダー等が挙げられ、特に特許文献5に示されている濾過装置を用いることが好ましい。
【0033】
濾過装置には、水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶性や水溶性高分子(a)が溶解した水溶液を撹拌、混合できる部位が設けられていることが好ましく、このような装置を用いれば、水溶性高分子(a)の一部だけが水で膨潤されたものや、一部だけが溶解されたものであっても安定して濾過を行い易い。
このような攪拌・混合部位が設けられていない濾過装置を用いる場合は、水溶性高分子(a)が完全に水で膨潤されているか、溶解されたものを用いるのがよい。このような濾過装置に、未膨潤状態で粉末状の水溶性高分子(a)を供給すると、濾過面に該水溶性高分子(a)が詰まったり、濾過面を破損してしまったりするおそれがある。
【0034】
濾過装置の濾過面に用いられるフィルターは、例えば、金網や濾布等が挙げられる。
濾過面の孔径は、20〜500μmであることが好ましく、50〜250μmであることがより好ましく、100〜200μmであることが特に好ましい。
孔径が20μm以上であれば、濾過圧力が増大したり、相対的に濾液量が減ったりするのを防ぎ易い。また、孔径が500μm以下であれば、得られる抄紙用粘剤水溶液の粘度を充分に向上させる効果が得られ易い。
【0035】
本発明の製造方法では、水溶性高分子(a)を含むゲル状水溶性高分子や水溶液の濾過は、加圧濾過であることが好ましい。
濾過中の圧力は、0.02〜0.15MPaであることが好ましく、0.05〜0.12MPaであることがより好ましく、0.07〜0.12MPaであることがさらに好ましい。
前記圧力が0.02MPa以上であれば、充分な粘度を有する抄紙用粘剤水溶液が得られ易い。また、前記圧力が0.15MPa以下であれば、高強度な濾過装置を用いることにより高コストとなることを防ぎ易い。
【0036】
濾過に用いるゲル状水溶性高分子及び/又は水溶液(100質量%)中の水溶性高分子(a)の濃度は、0.025〜0.25質量%であることが好ましく、0.04〜0.2質量%であることがより好ましい。水溶性高分子(a)の濃度が0.025質量%以上であれば、溶解設備が大きくなりすぎることを防ぎ易い。また、水溶性高分子(a)の濃度が0.25質量%以下であれば、水溶液の取り扱いが容易になる。
【0037】
(ポリアルキレンオキサイド水溶液(B)の調製)
ポリアルキレンオキサイド(b)を溶解してポリアルキレンオキサイド水溶液(B)を調製する方法としては、水溶液の粘度を下げすぎないような溶解方法を用いればよく、一般的に用いられている、5mを超える溶解槽で、比較的大きな撹拌翼を有する溶解装置を用い、攪拌翼の先端の周速を1m/分以下とする緩撹拌を用いることが好ましい。具体例としては、縦2.5m×横2.5m×高2mのステンレス製の溶解槽に、幅1m×高さ0.1mの板を水平面に対して45°傾けた撹拌翼を該溶解槽の中心軸を対称に2枚ずつ、溶解槽の底面から0.3m、1.2m、2.0mの位置に合計6枚設けた溶解装置を用いて、8rpmで撹拌溶解させる方法が挙げられる。
ポリアルキレンオキサイド(b)の溶解は、1〜3時間程度撹拌した後、3時間程度そのままにして熟成させる。これにより、高い粘度の水溶液を安定して得やすくなる。
【0038】
ポリアルキレンオキサイド水溶液(B)(100質量%)中のポリアルキレンオキサイド(b)の濃度は、0.02〜0.2質量%であることが好ましく、0.025〜0.1質量%であることがより好ましい。
ポリアルキレンオキサイド(b)の濃度が0.02質量%以上であれば、溶解設備が大きくなりすぎるのを防ぎ易い。また、ポリアルキレンオキサイド(b)の濃度が0.2質量%以下であれば、水溶液が高粘度となり、取り扱い性が悪化するのを防ぎ易い。
【0039】
高分子水溶液(A)とポリアルキレンオキサイド水溶液(B)との混合方法は、特に制限はなく、例えば、攪拌機を備えた混合槽に投入する方法、送液時の水溶液の乱流を利用して混合する方法、スタティックミキサーで混合する方法等を用いることができる。
【0040】
高分子水溶液(A)とポリアルキレンオキサイド水溶液(B)との混合は、水溶性高分子(a)(ゲル状物の水溶性高分子(a)若しくは溶解した水溶性高分子(a)、又は、両方使用する場合はそれらの合計量)と、ポリアルキレンオキサイド水溶液(B)に含まれるポリアルキレンオキサイド(b)との合計質量を100質量%としたとき、混合比率(質量%)が(a)/(b)=20/80〜80/20となるように混合する。また、前記混合比率は、25/75〜75/25であることが好ましく、30/70〜70/30であることがより好ましい。
混合比率を前記範囲内とすれば、抄紙に用いた際の紙料凝集性や濾水性、発泡性に優れ、高い粘度を有している等、優れた性能を有する抄紙用粘剤水溶液が得られる。
【0041】
[抄紙方法]
以下、本発明の抄紙用粘剤水溶液を用いた抄紙方法について説明する。
本発明の抄紙用粘剤水溶液は、10〜50倍程度に希釈した後、パルプ等が分散された紙料液に添加して用いることができる。
抄紙用粘剤水溶液を添加する割合は、抄紙対象によって異なるが、通常、水溶性高分子(a)純分とポリアルキレンオキサイド(b)純分の合計量が、パルプの全量に対して100〜2000ppmとなるようにするのがよい。
また、抄紙の際、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン等のカチオン性湿潤紙力増強剤やその他のカチオン性薬剤を用いてもよい。
カチオン性薬剤としては、柔軟剤、剥離剤、ドライヤー接着剤、ワックス剤、耐水化剤が挙げられる。
【0042】
以上説明した本発明の抄紙用粘剤水溶液は、抄紙に用いた際の紙料凝集性や濾水性、及び発泡性に優れている等の高い性能を有している。また、高い粘度を有しているためにその性能を効率的に発現することができ、抄紙用粘剤水溶液の使用量も削減できる。また、本発明の抄紙用粘剤水溶液を用いた抄紙方法によれば、良好な地合の紙が得られる。
また、本発明の製造方法は、このような優れた性能と高い粘度を有する抄紙用粘剤水溶液を得ることができる。抄紙用粘剤水溶液の粘度が高くなる理由としては、水溶性高分子(a)とポリアルキレンオキサイド(b)とが複合体を形成するためであると考えられる。本発明の抄紙用粘剤水溶液では、高分子水溶液(A)とポリアルキレンオキサイド水溶液(B)とをそれぞれ調製した後に混合することで、水溶液中で水溶性高分子(a)同士がより解れた状態となり、ポリアルキレンオキサイド(b)との複合体を形成し易くなるために粘度が高くなったと考えられる。また、高分子水溶液(A)のみに機械的せん断力を与えて見かけ上の粘度を低減した後、得られた高分子水溶液(A)とポリアルキレンオキサイド水溶液(B)とを混合するため、ポリアルキレンオキサイド水溶液(B)の粘度が低下しすぎるおそれが少なく、高い粘度の抄紙用粘剤水溶液が得られると考えられる。
また、高分子水溶液(A)とポリアルキレンオキサイド水溶液(B)とをそれぞれ調製した後に混合するため、抄紙する紙や使用するパルプ原料、添加される薬剤の種類等に応じて、容易に混合比率を変えることができ、抄紙用粘剤の適性が合わないことにより生産性が大幅に低下するのを防ぐことができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。しかし、本発明は以下の記載によって限定されない。
本実施例において得られた抄紙用粘剤水溶液について、以下に示す方法で、ピペット粘度、及び該抄紙用粘剤水溶液を用いた紙料スラリーの紙料凝集性、濾水性、得られた紙の地合、発泡性をそれぞれ測定・評価した。
【0044】
[抄紙用粘剤水溶液のピペット粘度測定]
実施例及び比較例で得られた抄紙用粘剤水溶液を、25℃の恒温槽中に2時間放置後、25℃のまま、下記に示すピペットを使用してピペット粘度を測定した。
市販の25mLホールピペットの先端から160mmの位置に標線を新たに設ける。該ホールピペットを垂直に設置し、測定する抄紙用粘剤水溶液を、内容量25mLを示す標線まで充填した。ついで、内容量25mLの位置を示す標線から、下方に新たに設置した160mmの位置を示す標線まで抄紙用粘剤水溶液が落下する時間を測定した。純水の25℃におけるピペット粘度は21.3秒であった。
ピペット粘度の値が大きいほど、優れた抄紙用粘剤水溶液であることを意味する。
【0045】
[紙料スラリーによる抄紙用粘剤水溶液の評価]
紙料として、叩解度450mLCFS(カナダ標準濾水度)のNBKP(針葉樹パルプ)を用い、0.25質量%のパルプスラリーを調製した。この際、添加薬剤としてカチオン性湿潤紙力増強剤であるポリアミドポリアミンエピクロルヒドリンをパルプに対して0.2質量%添加し、充分撹拌して紙料スラリーを得た。ついで、紙料スラリーに対して抄紙用粘剤の純分として2ppmとなるように、抄紙用粘剤水溶液を前記紙料スラリーに添加し、撹拌混合した後、紙料凝集性、濾水性を測定した。
【0046】
(紙料凝集性)
抄紙用粘剤水溶液を添加、混合した紙料スラリーをジャーテスターで撹拌した際の、紙料の様子を目視判定した。評価基準を以下に示す。
◎:凝集性がなく使用に際して全く問題ない。
○:僅かに凝集するが、使用に際し問題がない。
△:少し凝集し、抄紙された製品の地合が乱れる可能性がある。
×:凝集し、抄紙に使用できない。
【0047】
(濾水性)
濾布を敷いた孔径62mmのヌッチェを500mLメスシリンダーの上に設置し、抄紙用粘剤水溶液を添加、混合した紙料スラリー500mLをヌッチェにあけ、10秒後の濾水量(mL)を測定した。
濾水量が少ないことは、紙料の分散性が良好であることを示し、紙料に一定の分散性を付与するために必要な粘剤使用量が少なくて済むことを意味する。
【0048】
[紙の地合]
フィルター等を通さずに抄紙用粘剤を直接添加した紙料スラリー溶液を用いて、円網ヤンキー式抄紙機により抄紙した坪量13.0g/mの紙を目視判定した。評価基準を以下に示す。
◎:均一で優れた紙である。
○:良好な紙である。
△:不均一な紙である。
×:不良で抄紙不可能または穴が空いた紙である。
【0049】
[発泡性]
抄紙用粘剤水溶液に空気を吹き込んで発泡の有無を目視で評価した。評価基準を以下に示す。
◎:発泡なし。
○:少量発泡するが、実用上の問題なし。
△:多少発泡し、抄紙のためには消泡剤の添加が必要である。
×:発泡が多く、抄紙のためには多量の消泡剤を必要とする。
【0050】
以下、実施例及び比較例について説明する。
[実施例1]
(高分子水溶液(A)の調製)
水溶液高分子(a)として、アクリル酸ナトリウムを0.4モル%含有する、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムの共重合体を調製した。
1L三角フラスコに、50質量%アクリルアミド水溶液(329.05g)、50質量%アクリル酸水溶液(1.35g)、33質量%水酸化ナトリウム水溶液(1.14g)、亜リン酸二ナトリウム(50ppm)を含有した水溶液413gを入れて単量体水溶液を調製した。ただし、本実施例において、ppm表示は単量体水溶液の全液量に対する質量割合を示す。
ついで、該単量体水溶液に、遮光下で2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(10ppm)及び2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド(150ppm)を加え、三角フラスコを10℃の恒温水槽に入れ、そのまま30分間窒素ガスで水溶液中の溶存酸素を置換した。
【0051】
ついで、厚さ1mmのステンレス板の周縁部上に、断面が一辺24mmのゴム棒を貼り付けた、該ステンレス板が内底面(200mm×200mmの正方形)となり、ゴム棒が側壁部(高さ24mm)となる容器を用意し、該容器の内側(内底面上)に厚さ16μmの光透過性フィルム(厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート及び厚さ4μmのポリ塩化ビニリデンからなる積層フィルム)を敷き、該光透過性フィルム上に前記単量体水溶液を供給した。その後、供給した単量体水溶液の上面を、前記と同種の光透過性フィルムを該単量体水溶液面に接触させるようにして覆った。単量体水溶液からなる層の厚さは10mmであった。尚、この作業は、ステンレス板の単量体水溶液を供給した裏側の面の温度を、下方から水(10℃)を吹き付けながら冷却することにより10℃に調節しながら行った。この10℃の水を吹き付ける冷却は、重合終了時まで継続して行った。
ついで、単量体水溶液の供給された容器の上方に、20W型蛍光ケミカルランプを設置し、光照射を行うことにより重合を行った。光照射は、水溶液表面で照射強度が5W/m(以下、照射強度は水溶液表面における強度とする)となるように10分間行い、さらに、10W/mで20分間、60W/mで30分間行った。これにより、重合体を含む含水ゲル状シートを得た。重合中の水溶液又は含水ゲル状シートのピーク温度は55℃であった。
ついで、得られた含水ゲル状シートをはさみで細断し、熱風乾燥機を用いて60℃で乾燥した。さらに、得られた乾燥物をウイレー式粉砕機で粉砕し、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合体(水溶性高分子a1)を得た。得られた水溶性高分子a1の分子量を下記式により算出したところ、2100万であった。
(固有粘度)=3.73×10−4×(重量平均分子量)0.66
ただし、固有粘度は、1N硝酸ナトリウム水溶液中で水溶性高分子濃度0.1質量%、0.08質量%、0.05質量%の還元粘度を測定し、その値を濃度0質量%に外挿することにより求めた。
【0052】
ついで、水溶性高分子a1を濃度が0.1質量%になるように一定速度で水に添加し、撹拌しつつ膨潤、溶解させて分散膨潤液を得て、該分散膨潤液を、連続溶解供給装置の濾過部材の内側に供給し、周面(濾過面)を通過させて外側に押し出し、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合体水溶液(高分子水溶液A1)を得た。
すなわち、得られた水溶性高分子a1を、撹拌機及び排出口を設置した溶解槽に水と共に連続的に投入し、水溶性高分子a1の濃度が0.1質量%となるように調整した。また、濃度が0.1質量%になった後も連続的に水と水溶性高分子a1を添加すると同時に、排出口から、投入した量と同量の水及び水溶性高分子a1を引き抜いた。水溶性高分子a1の溶解槽での平均滞留時間は約10分であった。また、排出口より引き抜いた水溶性高分子a1は、水に溶解したものと、水により膨潤したものとが混在している状態であった。ついで、円筒状で周面が目開き150μmの濾過面となっている濾過部材と、該濾過部材の周面の内側面に接しながら回転する弾性体からなるローラーと、濾過部材の内側から外側へ通過した凝集剤水溶液を移送するポンプとを具備する回転式の連続溶解供給装置を用いて、濾過部材内部に前記排出口より引き抜いた水及び水溶性高分子a1を供給して濾過することにより、高分子水溶液A1を調製した。高分子水溶液A1のピペット粘度は、36秒であった。
【0053】
(ポリアルキレンオキサイド水溶液(B)の調製)
ポリアルキレンオキサイド(b)として、市販のポリエチレンオキサイド(ダイヤニトリックス社製、商品名:M2000H、分子量600万)を用いた。
ポリエチレンオキサイドの溶解は、幅0.8m×高さ0.05mの撹拌翼を3段備えた攪拌機が設けられた、縦1m×横1m×高さ1mの溶解槽で、ポリエチレンオキサイドの濃度が0.1質量%となるように120分間行った。攪拌は、撹拌翼を先端の周速が1m/分となるように回転させて行った。そして、撹拌を止めてから3時間そのまま保持し、ポリアルキレンオキサイド水溶液B1を得た。ポリアルキレンオキサイド水溶液B1のピペット粘度は270秒であった。
【0054】
(抄紙用粘剤水溶液の調製)
周速1m/分の撹拌翼を設置した100Lの混合槽に、得られた高分子水溶液A1とポリアルキレンオキサイド水溶液B1とを、混合比率(質量%)が80/20となるように投入し、混合して抄紙用粘剤水溶液を得た。
【0055】
[実施例2〜5]
高分子水溶液A1とポリアルキレンオキサイド水溶液B1との混合比率を表1に示した通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で抄紙用粘剤水溶液を得た。
【0056】
[比較例1、2]
高分子水溶液A1とポリアルキレンオキサイド水溶液B1との混合比率を表1に示した通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で抄紙用粘剤水溶液を得た。
実施例1〜5及び比較例1、2で得られた抄紙用粘剤水溶液について、各種測定及び評価を行った結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
[比較例3〜8]
水溶性高分子a1とポリエチレンオキサイドとを、粉体の状態で表2に示した混合比率で混合し、実施例1においてポリエチレンオキサイド水溶液(B)の調製に用いた溶解槽を用いて溶解時間4時間で溶解した以外は、実施例1と同様の方法で抄紙用粘剤水溶液を得た。
比較例3〜8で得られた抄紙用粘剤水溶液について、各種測定及び評価を行った結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
[実施例6]
高分子水溶液(A)として、水溶性高分子a1を、実施例1においてポリエチレンオキサイド水溶液(B)の調製に用いた溶解槽を用いて溶解時間4時間で溶解した後、目開き150μmのステンレス製の濾過筒を用いて自然濾過させた高分子水溶液A2を用い、表3に示した混合比率でポリエチレンオキサイド水溶液B1と混合した以外は、実施例1と同様の方法で抄紙用粘剤水溶液を得た。
【0061】
[実施例7]
高分子水溶液(A)を得る濾過の際に0.1MPaで加圧濾過させた高分子水溶液A3を用いた以外は、実施例6と同様の方法で抄紙用粘剤水溶液を得た。
【0062】
[実施例8]
高分子水溶液(A)をえる機械的せん断力を与える方法を、ホモジナイザー(JANKE&KUNKEL ULTRA−TURRAX T25)で、13500rpm、30秒間として高分子水溶液A4を得た以外は、実施例6と同様の方法で抄紙用粘剤水溶液を得た。
【0063】
[実施例9]
高分子水溶液(A)を得る機械的せん断力を与える方法を、超音波洗浄機(Yamato ブランソニック3510)にて30分間として高分子水溶液A5を得た以外は、実施例6と同様の方法で抄紙用粘剤水溶液を得た。
【0064】
[比較例9]
高分子水溶液A6として、水溶性高分子a1を、実施例1においてポリエチレンオキサイド水溶液(B)の調製に用いた溶解槽を用いて溶解時間4時間で溶解したものを、表3に示した混合比率でそのままポリエチレンオキサイド水溶液B1と混合した以外は、実施例1と同様の方法で抄紙用粘剤水溶液を得た。
実施例6〜9及び比較例9で得られた抄紙用粘剤水溶液について、各種測定及び評価を行った結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
[実施例10]
高分子水溶液(A)を得る機械的せん断力を与える方法を、ホモジナイザー(JANKE&KUNKEL ULTRA−TURRAX T25)で、13500rpm、20秒間として高分子水溶液A7を得た以外は、実施例8と同様の方法で抄紙用粘剤水溶液を得た。
【0067】
[実施例11]
高分子水溶液(A)を得る機械的せん断力を与える方法を、ホモジナイザー(JANKE&KUNKEL ULTRA−TURRAX T25)で、13500rpm、45秒間として高分子水溶液A7を得た以外は、実施例8と同様の方法で抄紙用粘剤水溶液を得た。
実施例10、11および8で得られた抄紙用粘剤水溶液について、各種測定及び評価を行った結果を表4に示す。
【0068】
【表4】

【0069】
表1に示すように、高分子水溶液(A)を得る機械的せん断力を与える方法として濾過を用いた実施例1〜5では、ピペット粘度が高く、抄紙の際の紙料凝集性や濾水度も優れており、発泡性試験の結果も良好で、また地合の良好な紙が得られており、抄紙性能が優れていた。
また、表3に示すように、高分子水溶液(A)を調製する際に、加圧濾過を行った実施例7は、圧力をかけていない実施例6よりもピペット粘度が高くなり、優れた抄紙性能を有していた。
また、表3及び表4に示すように、機械的せん断力を与える方法として、ホモジナイザーや超音波を用いた実施例8〜11でも、ピペット粘度が高く、抄紙の際の紙料凝集性や濾水度も優れており、発泡性試験の結果も良好で、また地合の良好な紙が得られており、抄紙性能が優れていた。
【0070】
一方、高分子水溶液A1のみを用いた比較例1では、ピペット粘度が低く、抄紙性能が低かった。また、ポリエチレンオキサイドB1のみを用いた比較例2では、発泡が非常に多かった。
また、水溶性高分子a1とポリエチレンオキサイドとを粉体の状態で混合した後に溶解した比較例3〜8では、同じ混合比率である実施例のものに比べてピペット粘度が低く、抄紙性能が劣っていた。
また、高分子水溶液(A)を調製する際に濾過を行わなかった比較例9は、良好な紙が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の抄紙用粘剤水溶液は、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、アニオン性アクリルアミド系重合体等が増粘剤用途として使用されている産業に好適に用いることができ、容易に最適な混合比率とすることができるため、使用量を大幅に低減できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子水溶液(A)と、ポリアルキレンオキサイド(b)を含むポリアルキレンオキサイド水溶液(B)とを含む抄紙用粘剤水溶液であって、
前記高分子水溶液(A)は、水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶液及び/又は水溶性高分子(a)が溶解した水溶液に機械的せん断力が与えられた水溶液であり、
前記高分子水溶液(A)とポリアルキレンオキサイド水溶液(B)の混合比率は、水溶性高分子(a)とポリアルキレンオキサイド(b)の合計質量を100質量%としたとき、水溶性高分子(a)の質量割合が20〜80質量%であることを特徴とする抄紙用粘剤水溶液。
【請求項2】
前記水溶性高分子(a)が、ポリアクリルアミド、アクリルアミドとアクリル酸(塩)の共重合体、アクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)の共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子である、請求項1に記載の抄紙用粘剤水溶液。
【請求項3】
前記水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶液及び/又は水溶性高分子(a)が溶解した水溶液に機械的せん断力が与えられた水溶液の水溶液粘度が、機械的せん断力を与える前の水溶液粘度の50%以下である、請求項1又は2に記載の抄紙用粘剤水溶液。
【請求項4】
高分子水溶液(A)と、ポリアルキレンオキサイド(b)を含むポリアルキレンオキサイド水溶液(B)とを含む抄紙用粘剤水溶液の製造方法であって、
水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶液及び/又は水溶性高分子(a)が溶解した水溶液に機械的せん断力を与えて前記高分子水溶液(A)を調製し、該高分子水溶液(A)と前記ポリアルキレンオキサイド水溶液(B)とを、混合比率(質量%)が(a)/(b)=20/80〜80/20((a)と(b)の合計が100質量%)となるように混合することを特徴とする抄紙用粘剤水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性高分子(a)が、ポリアクリルアミド、アクリルアミドとアクリル酸(塩)の共重合体、アクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)の共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の粉末状の水溶性高分子である、請求項4に記載の抄紙用粘剤水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記高分子水溶液(A)に機械的せん断力を与える方法が、濾過、ホモジナイザー、超音波からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項4又は5に記載の抄紙用粘剤水溶液の製造方法。
【請求項7】
前記高分子水溶液(A)に機械的せん断力を与える方法が加圧濾過である、請求項4〜6のいずかに記載の抄紙用粘剤水溶液の製造方法。
【請求項8】
前記加圧濾過の際の圧力が0.02〜0.15MPaである、請求項7に記載の抄紙用粘剤水溶液の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の抄紙用粘剤水溶液を用いた抄紙方法。

【公開番号】特開2009−191423(P2009−191423A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36466(P2008−36466)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】