説明

抄紙用薬剤

【課題】 薬剤一液を添加するだけでも機械パルプや古紙の配合比率が増加した製紙原料を用いて抄造した場合、高い歩留率が維持できる製紙方法を提供することを目的とする。また特に古紙配合比率が高く、中性で新聞用紙を抄紙する場合に高歩留率を維持できる製紙方法を提供する。
【解決手段】 ビニル系カチオン性高分子と、アニオン性構成単位のカチオン性構成単位に対する比が1より大きい両性水溶性高分子とを配合した抄紙用薬剤を使用することにより達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙用薬剤に関し、詳しくは製紙工程における抄紙前の製紙原料中に、歩留及び/または濾水性向上を目的として、ビニル系カチオン性高分子と、アニオン性構成単位のカチオン性構成単位に対する比が1より大きい両性高分子とを配合した抄紙用薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
資源の節約や環境への配慮という観点から、近年、製紙原料として古紙や機械パルプの配合率が増加の一途を辿っている。化学パルプは、抄紙すると外観も美しく、強度や印刷適正も優れている紙が製造できるという長所を有する反面、化学薬品を多量に使用するため環境への影響が懸念される。その点、機械パルプは薬品の使用量は、相対的少なく原料に対する歩留も高いという長所を有する。しかし、原料木材中に含有する樹脂やパルプ化時に生成するアニオン性物質が、パルプ分散液中に多く残留する。また、古紙も表面加工時使用する塗工剤が混入し、抄紙時、水不溶性微粒子の凝集物に起因するピッチトラブルの原因となる。そのため現在、一般的に使用されているカチオン性あるいは両性歩留向上剤を添加しても効果を発揮しにくい。
【0003】
また、特に新聞用紙の製紙原料中にも古紙の配合比率が高まり、抄紙の高速化も影響して歩留率の低下傾向を助長している。従来から新聞用紙原料中には、機械パルプが使用されていることもあり、ピッチトラブルを防止するため酸性抄紙で行なうのが普通であったが、新聞古紙中にチラシ類が混入する場合が一般的になりつつある。チラシ類表面には塗工液が塗布されているため、その中の炭酸カルシウムを酸や硫酸バンドで中和していたが、中和を止めアルカリ状態で新聞用紙を抄紙する傾向が増加している。その結果、現行の歩留向上剤では十分なワイヤー上の歩留率は達成し難い状況になっている。
【0004】
歩留向上剤による歩留率向上の一つの手法として薬剤の配合が以前から検討されている。例えばカチオン性を示す両性高分子とカチオン性高分子との組み合わせが開示されている(特許文献1)。これはカチオン性高分子としてポリエチレンイミンや高カチオン性のポリアクリルアミド系高分子が使用されているため、製紙用歩留向上剤としては性能的に低い。またアニオン性を示す両性ポリアクリルアミド高分子、カチオン性高分子、アルミニウム塩およびカチオン化澱粉を用いた抄紙法が開示されている(特許文献2)。これは、アニオン性を示す両性ポリアクリルアミド高分子がイタコン酸及びその塩類の少なくとも1種を重合成分に有するものであり、四種の薬剤を添加するため管理が煩雑である。
【特許文献1】特開平5−78997号公報
【特許文献2】特開平5−93393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、薬剤一液を添加するだけで機械パルプや古紙の配合比率が増加した製紙原料を用いて抄造した場合でも高い歩留率が維持できる製紙方法を提供することを目的とする。また特に古紙配合比率が高く、中性で新聞用紙を抄紙する場合に高歩留率を維持できる製紙方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため検討を重ねた結果、以下のような発明に到達した。すなわち製紙工程における抄紙前の製紙原料中に、歩留及び/または濾水性向上を目的として、ビニル系カチオン性高分子とアニオン性構成単位のカチオン性構成単位に対する比が1より大きい両性高分子からなる抄紙用薬剤を使用することにより機械パルプや古紙の配合比率が増加した製紙原料を用いて抄造した場合でも高い歩留率が維持できることが分かった。
【0007】
本発明のビニル系カチオン性高分子及び前記両性高分子は、特に塩水溶液中で該塩水溶液に可溶な高分子分散剤共存下で、分散重合法により製造した粒径100μm以下の微粒子からなる分散液であり、あるいは少なくとも一種類の水と非混和性の炭化水素からなる油状物質、油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤を混合し、強攪拌し油中水型エマルジョンを形成させた後、重合し製造された油中水型高分子エマルジョンであることが好ましい。
【0008】
本発明の塩水溶液中分散液あるいは油中水型高分子エマルジョンからなる両性水溶性高分子およびカチオン性水溶性高分子は、以下説明する特定の単量体混合物を重合し製造されたものである。また本発明の抄紙用薬剤は、ビニル系カチオン性水溶性高分子及び前記ビニル系両性水溶性高分子を配合した場合、配合物のカチオン当量値の合計がアニオン当量値の合計より高いことを特徴とし、さらに前記抄紙前の製紙原料は、特に中性抄紙新聞用紙のものに有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ビニル系カチオン性水溶性高分子と、ビニル系単量体混合物を重合して得たアニオン性構成単位のカチオン性構成単位に対する比が1より大きいビニル系両性水溶性高分子とを配合した抄紙用薬剤からなり、ビニル系カチオン性水溶性高分子及び前記ビニル系両性水溶性高分子を配合した場合、配合物のカチオン当量値の合計がアニオン当量値の合計より高いことを特徴とする。また前記ビニル系カチオン性水溶性高分子及び前記ビニル系両性水溶性高分子が塩水溶液中で該塩水溶液に可溶な高分子分散剤共存下で、分散重合法により製造した粒径100μm以下の微粒子からなる分散液、あるいは少なくとも一種類の水と非混和性の炭化水素からなる油状物質、油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤を混合し、強攪拌し油中水型エマルジョンを形成させた後、重合し製造された油中水型高分子エマルジョンであることが好ましい。
【0010】
本発明ではビニル系カチオン性水溶性高分子と、アニオン性構成単位のカチオン性構成単位に対する比が1より大きいビニル系両性水溶性高分子とを配合した組成物からなる。また二種の水溶性高分子を混合した時の組成物は、全体としてカチオン当量値のほうが高くなるように設定する。また性能に及ぼす効果の主体も中ビニル系カチオン性水溶性高分子であり、これが大きな影響を及ぼす。そのため製紙用歩留剤としては、比較的低カチオン性であることが好ましく、カチオン性単量体のモル%は5〜40モル%であることが好ましく、10〜40モル%がさらに好ましい。
【0011】
一方、ビニル系両性水溶性高分子は、副資材的な作用を担っていると考えられる。すなわちビニル系両性水溶性高分子は、pHの変化によりイオンコンプレックスを生成するが、この場合分子中のアニオン当量値がカチオン当量値より高いためアニオン性のイオンコンプレックスを生成する。これらアニオン性のイオンコンプレックスは、中ビニル系カチオン性水溶性高分子とイオン的に反応し、より大きなカチオン性に帯電したイオンコンプレックスを生成する。これが製紙原料に作用し、フロックを形成し歩留及び濾水性に寄与する。単なるカチオン性高分子が製紙原料に作用した場合は、架橋吸着作用によるふわふわした巨大フロックを形成するため、せん断力を受けると壊れやすい。本発明のようなイオンコンプレックスでは、微細粒子的な作用により製紙原料を多点で吸着し、強固で締った比較的小さいフロックを形成することができる。カチオン性水溶性高分子とアニオン性水溶性高分子でもイオンコンプレックスは生成するが、カチオン性分子とアニオン性分子が一度に反応するため微細粒子的なイオンコンプレックスが生成しにくいと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、製紙工程における抄紙前の製紙原料中に、歩留及び/または濾水性向上を目的として、ビニル系カチオン性高分子と、アニオン性構成単位のカチオン性構成単位に対する比が1より大きい両性高分子からなる組成物を添加する。上記組成物は、以下説明する水溶性高分子を配合することにより製造することができる。
【0013】
ビニル系カチオン性水溶性高分子は、ビニル系カチオン性単量体とアクリルアミドなど水溶性の非イオン性単量体との共重合体である。ビニル系カチオン性単量体は下記一般式(1)あるいは(2)で表される単量体を使用する。
【化1】

一般式(1)
R1は水素又はメチル基、R2、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、R4は水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X1は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】

一般式(2)
R5は水素又はメチル基、R6、R7は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、X2は陰イオンをそれぞれ表わす。
【0014】
具体的な例としては、一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、あるいは塩化メチルや塩化ベンジルによる四級化物である(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシ2−ヒドロキシプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウム塩化物などである。また一般式(2)で表されるジメチルジアリルアンモニウム系単量体も使用可能であり、その例としてジメチルジアリルアンモニウム塩化物、ジアリルメチルベンジルアンモニウム塩化物などがある。
【0015】
非イオン性単量体の例としては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドアクリロイルモルホリン、アクリロイルピペラジンなどがあげられる。
【0016】
これらカチオン性単量体と非イオン性単量体とのモル%は、カチオン性単量体5〜40モル%、非イオン性単量体60〜95モル%であり、好ましくはカチオン性単量体10〜40モル%、非イオン性単量体60〜90モル%である。
【0017】
これらカチオン性水溶性高分子の分子量は100万〜2000万であるが、好ましくは500万〜1500万であり、特に好ましくは1000万〜1500万である。100万未満では、沈降性能が悪く、2000万より高いと巨大フロックになり過ぎ細かな粒子を取りこぼすことがあり好ましくない。
【0018】
一方ビニル系両性水溶性高分子は、ビニル系カチオン性単量体と、ビニル系アニオン性単量体との共重合体、あるいはこれに非イオン性単量体を加えた共重合体である。(メタ)アクリル系カチオン性単量体は前記一般式(1)あるいは(2)で表される単量体を使用する。また非イオン性単量体の例としては、前記カチオン性水溶性高分子で例示した単量体を使用する。
【0019】
アニオン性単量体の例としては、下記一般式(3)で表される単量体を使用する。
【化3】

一般式(3)
R8は水素、メチル基またはカルボキシメチル基、QはSO3、C6H4SO3、CONHC(CH3)2CH2SO3、C6H4COOあるいはCOO、R9は水素またはCOOY1、Y1は水素または陽イオン。
【0020】
具体的な例としてビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸あるいは2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸あるいはp−カルボキシスチレンなどである。
【0021】
各単量体のモル比は、通常カチオン性単量体5〜40モル%、アニオン性単量体10〜60モル%、非イオン性水溶性単量体0〜85モル%であるが、カチオン性単量体およびアニオン性単量体のモル%をそれぞれaおよびbとする時、1>a/b≧0.15の範囲にあるが、1>a/b≧0.35の範囲にあることがより好ましい。
【0022】
これらビニル系両性水溶性高分子の分子量は100万〜1500万であるが、好ましくは500万〜1500万である。100万未満では、沈降性能が悪く、1500万より高いと巨大フロックになり過ぎ細かな粒子を取りこぼすことがあり好ましくない。
【0023】
本発明で使用するカチオン性水溶性高分子あるいは両性水溶性高分子は、どのような製品形態でも使用できるが、移送性、最も重要な点として溶解性を考えた場合、塩水溶液中分散液あるいは油中水型高分子エマルジョンであることが好ましい。
【0024】
塩水中分散液からなる水溶性高分子は、以下の操作によって製造することができる。すなわち塩水溶液中に分散した高分子微粒子分散液からなる水溶性重合体は、特開昭62−15251号公報などによって製造することができる。この方法は、カチオン性単量体あるいはカチオン性単量体と非イオン性単量体を、塩水溶液中で該塩水溶液に可溶なイオン性高分子からなる分散剤共存下で、攪拌しながら製造された粒系100mμ以下の高分子微粒子の分散液からなるもである。イオン性高分子からなる分散剤は、ジメチルジアリルアンモニウム塩化物、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物の単独重合体や非イオン性単量体との共重合体を使用する。塩水溶液を構成する無機塩類は、多価アニオン塩類が、より好ましく、硫酸塩又は燐酸塩が適当であり、具体的には、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、燐酸水素アンモニウム、燐酸水素ナトリウム、燐酸水素カリウム等を例示することができ、これらの塩を濃度15%以上の水溶液として用いることが好ましい。
【0025】
一方、油中水型両性水溶性高分子エマルジョンの製造方法としては、カチオン性単量体、あるいはカチオン性単量体と共重合可能な単量体からなる単量体混合物を水、少なくとも水と非混和性の炭化水素からなる油状物質、油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤を混合し、強攪拌し油中水型エマルジョンを形成させた後、重合することにより合成する。
【0026】
分散媒として使用する炭化水素からなる油状物質の例としては、パラフィン類あるいは灯油、軽油、中油などの鉱油、あるいはこれらと実質的に同じ範囲の沸点や粘度などの特性を有する炭化水素系合成油、あるいはこれらの混合物があげられる。
【0027】
油中水型両性水溶性高分子エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤の例としては、HLB3〜11のノニオン性界面活性剤であり、その具体例としては、ソルビタンモノオレ−ト、ソルビタンモノステアレ−ト、ソルビタンモノパルミテ−トなどがあげられる。これら界面活性剤の添加量としては、油中水型エマルジョン全量に対して0.5〜10重量%であり、好ましくは1〜5重量%である。
【0028】
重合後は、転相剤として用いられる親水性界面活性剤を添加して油の膜で被われたエマルジョン粒子が水になじみ易くし、中の水溶性高分子が溶解しやすくする処理を行い、水で希釈しそれぞれの用途に用いる。親水性界面化成剤の例としては、カチオン性界面化成剤やHLB9〜15のノニオン性界面化成剤であり、ポリオキシエチレンアルキルエ−テル系、ポリオキシエチレンアルコールエ−テル系などである。
【0029】
これら塩水溶液中分散液あるいは油中水型高分子エマルジョンの重合時濃度は、20〜50重量%であり、好ましくは25〜40重量%であり、塩水溶液中分散重合なら15〜35重量%、好ましくは20〜30重量%である。重合温度としては、0〜80℃であり、好ましくは20〜50℃、最も好ましくは20〜40℃であり、単量体の組成、重合法、開始剤の選択によって適宜重合温度を設定する。
【0030】
重合開始は、ラジカル重合開始剤を用いる。油中水型両性水溶性高分子エマルジョン製造の場合は、開始剤は油溶性あるいは水溶性のどちらでも良いが、塩水中分散液からなる両性水溶性高分子製造は、水溶性開始剤が好ましい。これら開始剤はアゾ系,過酸化物系、レドックス系いずれでも重合することが可能である。油溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、1、1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2、2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、4、4−アゾビス(4−メトキシ−2、4ジメチル)バレロニトリルなどがあげられ、水混溶性溶剤に溶解し添加する。水溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物、4、4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などがあげられる。またレドックス系の例としては、ペルオクソ二硫酸アンモニウムと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミン、テトラメチルエチレンジアミンなどとの組み合わせがあげられる。過酸化物の例としては、ペルオクソ二硫酸アンモニウムあるいはカリウム、過酸化水素、ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイドなどをあげることができる。
【0031】
本発明ではビニル系カチオン性水溶性高分子と、アニオン性構成単位のカチオン性構成単位に対する比が1より大きいビニル系両性水溶性高分子とを配合した組成物からなる。また二種の水溶性高分子を混合した時の組成物は、全体としてカチオン当量値のほうが高くなるように設定する。従って組成物中ビニル系カチオン性水溶性高分子の質量のほうが多く、ビニル系両性水溶性高分子の質量が少ない場合が多い。すなわち中ビニル系カチオン性水溶性高分子とビニル系両性水溶性高分子の質量比では、約90:10〜50:50であり、好ましくは90:10〜60:40である。また性能に及ぼす効果の主体も中ビニル系カチオン性水溶性高分子であり、これが大きな影響を及ぼす。そのため製紙用歩留剤としては、比較的低カチオン性であることが好ましく、カチオン性単量体のモル%は5〜40モル%であることが好ましく、10〜40モル%がさらに好ましい。
【0032】
一方、ビニル系両性水溶性高分子は、副資材的な作用を担っていると考えられる。すなわちビニル系両性水溶性高分子は、pHの変化によりイオンコンプレックスを生成するが、この場合分子中のアニオン当量値がカチオン当量値より高いためアニオン性のイオンコンプレックスを生成する。これらアニオン性のイオンコンプレックスは、
中ビニル系カチオン性水溶性高分子とイオン的に反応し、より大きなカチオン性に帯電したイオンコンプレックスを生成する。これが製紙原料に作用し、フロックを形成し歩留及び濾水性に寄与する。単なるカチオン性高分子が製紙原料に作用した場合は、架橋吸着作用によるふわふわした巨大フロックを形成するため、せん断力を受けると壊れやすい。本発明のようなイオンコンプレックスでは、微細粒子的な作用により製紙原料を多点で吸着し、強固で締った比較的小さいフロックを形成することができる。カチオン性水溶性高分子とアニオン性水溶性高分子でもイオンコンプレックスは生成するが、カチオン性分子とアニオン性分子が一度に反応するため微細粒子的なイオンコンプレックスが生成しにくいと考えられる。
【0033】
添加時の水溶液濃度は、塩水溶液中分散液からなるの場合は0.05〜0.5質量%、好ましくは0.1〜0.3質量%である。油中水型両性水溶性高分子エマルジョンの場合は0.05〜0.3質量%、好ましくは0.1〜0.2質量%である。添加量は、対製紙原料乾燥固形分に対し通常0.005〜0.05であるが、好ましくは0.01〜0.04とするのが好ましい。
【0034】
本発明の製紙薬剤によって歩留率及び/又は濾水性を向上させる対象となる紙製品は上質紙、中質紙、新聞用紙、包装用紙、カード原紙、ライナー、中芯原紙あるいは白ボールなどであるが、特に新聞用紙が好ましく、また特に中性の新聞用の抄紙時が好ましい。
【0035】
(実施例)以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
【0036】
(塩水溶液中分散両性水溶性高分子試料―1の調製)撹拌器、温度計、還流冷却器、窒素導入管を備えた五つ口セパラブルフラスコに、イオン交換水167.0g、分散剤としてアクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物単独重合物(20%水溶液、分子量120万)、35g(対単量体7.0%)、硫酸アンモニウム125.0g、アクリルアミド50%水溶液86.8g、80%水溶液アクリル酸30.0g、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、80%水溶液40.2gを各々仕込み完全に溶解させた。内温を33〜35℃に保ち、30分間窒素置換後、開始剤として2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物の0.5%水溶液2.0g(対単量体0.01%)を加え重合を開始させた。開始1時間後、反応物はやや粘度の上昇が観測され、25分間その状態が継続したが、その後すぐに収まり分散液に移行した。開始8時間後、前記開始剤溶液を1.0g追加しさらに8時間重合を行った。得られた分散液のしこみ単量体濃度は20%であり、ポリマー粒径は10μm以下、分散液の粘度はB型粘度計により25℃において測定した結果510mPa・sであった。また、静的光散乱法による分子量測定器(大塚電子製DLS−7000)によって重量平均分子量を測定した。この試料を試料−1とする。組成を表1、結果を表2に示す。
【0037】
(塩水溶液中分散両性水溶性高分子その他試料の調製)塩水溶液中分散両性水溶性高分子試料−1の調製と同様に試料―2〜5を調製した。組成を表1、結果を表2に示す。
【0038】
(油中水型両性水溶性高分子エマルジョン試料−6の調製)イオン交換水40g、80%水溶液アクリル酸60.0gを仕込み、この中にアクリルアミド50%水溶液173.6g、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩化物、80%水溶液80.4gを各々仕込み完全に溶解させた。別に沸点190°Cないし230°Cのパラフィン系溶媒126.0gにソルビタンモノオレート10.0gを加え溶解させ、前記単量体溶液を混合し、ホモジナイザーにて3000rpmで10分間乳化した。生成したエマルジョンを攪拌機および温度制御装置を備えた反応槽に仕込み、内温を33〜35に保ち、窒素置換を30分間行った。その後、4、4−アゾビス(4−メトキシ−2、4ジメチル)バレロニトリルをジオキサンに溶解した1%溶液を2g(対単量体0.01%)を加え重合を開始した。開始6時間後、前記開始剤溶液を1.0g追加し更に5時間重合を継続した。これを試料−6とする。B型粘度計により25℃において粘度を測定し、静的光散乱法による分子量測定器(大塚電子製DLS−7000)によって重量平均分子量を測定した。組成を表1、結果を表2に示す。
【0039】
(油中水型両性水溶性高分子エマルジョンその他試料の調製)油中水型両性水溶性高分子エマルジョン試料−6の調製と同様に油中水型エマルジョン試料−7〜10を調製した。組成を表1、結果を表2に示す。
【0040】
(表1)

DMQ:アクロルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、
AAC:アクリル酸、AAM:アクリルアミド、製品粘度:mPa・s









【0041】
(表2)

【0042】
(抄紙用薬剤組成物の作成)ビニル系カチオン性水溶性高分子及びビニル系両性水溶性高分子を表3のような配合比で抄紙用薬剤組成物を、塩水中分散液と油中水型エマルジョンに関し作成した。その結果を表3に示す。










【0043】
(表3)

【実施例1】
【0044】
製紙原料に新聞用紙用原料を用いた。物性はpH6.8、全ss2.58%、灰分0.58%、カチオン要求量0.0988meq/L。歩留試験用の試料は、表1に記載の試料を用い、試験は以下のように実施した。パルプ濃度を1重量%に水道水を用いて希釈、製紙原料を500ml採取し、攪拌回転数を1000rpmに設定しブリット式ダイナミックジャ−テスタ−により歩留率を測定する。添加薬品として軽質炭酸カルシウム20%、硫酸バンド1%、表3の組成物1〜10をそれぞれ0.02%加えた(対製紙原料乾燥固形)。添加は15秒間隔で行なった。全薬品添加後のpHは7.06であった。薬品添加完了30秒後に10秒間白水を排出し捨て、引き続き30秒間白水を採取し、下記条件で総歩留率を測定した。その他の条件は、ワイヤー125Pスクリーン(200メッシュ相当)、総歩留率(SS濃度)はADVANTEC NO.2にて濾過し測定した。また乾燥後の濾紙は2時間、525℃で焼却し灰分を測定することにより炭酸カルシウムの歩留率を算出した。測定結果を表4に示す。
【0045】
(比較試験1)比較試験として、表2のカチオン性水溶性高分子、両性高分子をそれぞれ単独で添加する処方に変えた他は、実施例1と同様な操作により試験した。測定結果を表4に示す。























【0046】
(表4)

総歩留率;重量%、タルク歩留率;重量%
【実施例2】
【0047】
製紙原料としてLBKPを主体とした上質紙製造用紙料を用いた。物性はpH7.05、全ss分2.80%、灰分0.41%、カチオン要求量0.003meq/Lである。歩留試験用の試料は、表1の試料を用い、試験は以下のように実施した。パルプ濃度を0.5重量%に水道水を用いて希釈、製紙原料を500ml採取し、攪拌回転数を1000rpmに設定しブリット式ダイナミックジャ−テスタ−により歩留率を測定する。添加薬品として炭酸カルシウム40%、ロジンサイズ0.2%、硫酸バンド1.5%、表2の組成物1〜10を0.025%(対製紙原料乾燥固形)それぞれこの順で15秒間隔に加えた。全薬品添加後のpHは7.25であった。白水採取条件は、薬品添加完了30秒後に10秒間白水を排出し捨て、引き続き30秒間白水を採取し、下記条件で総歩留率を測定した。その他の条件は、ワイヤー125Pスクリーン(200メッシュ相当)、総歩留率(SS濃度)はADVANTEC NO.2にて濾過し測定した。また乾燥後、濾紙を2時間525℃で焼却し灰分を測定することによりタルクの歩留率を算出した。測定結果を表5に示す。
【0048】
(比較試験2)比較試験として、表2のカチオン性水溶性高分子、両性高分子をそれぞれ単独で添加する処方に変えた他は、実施例2と同様な操作により試験した。測定結果を表5に示す。














【0049】
(表5)

総歩留率;重量%、タルク歩留率;重量%







【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙工程における抄紙前の製紙原料中に、歩留及び/または濾水性向上を目的として、ビニル系カチオン性水溶性高分子と、アニオン性構成単位のカチオン性構成単位に対する比が1より大きいビニル系両性水溶性高分子とを配合した抄紙用薬剤。
【請求項2】
前記ビニル系カチオン性水溶性高分子及び前記ビニル系両性水溶性高分子が塩水溶液中で該塩水溶液に可溶な高分子分散剤共存下で、分散重合法により製造した粒径100μm以下の微粒子からなる分散液、あるいは少なくとも一種類の水と非混和性の炭化水素からなる油状物質、油中水型エマルジョンを形成するに有効な量とHLBを有する少なくとも一種類の界面活性剤を混合し、強攪拌し油中水型エマルジョンを形成させた後、重合し製造された油中水型高分子エマルジョンであることを特徴とする請求項1に記載の抄紙用薬剤。
【請求項3】
前記塩水溶液中分散液あるいは油中水型高分子エマルジョンからなるビニル系両性水溶性高分子が、下記一般式(1)及び/又は(2)で表わされる単量体5〜40モル%、下記一般式(3)で表わされる単量体10〜60モル%、非イオン性水溶性単量体0〜85モル%からなる単量体混合物を重合し製造されたものであることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の抄紙用薬剤。
【化1】

一般式(1)

R1は水素又はメチル基、R2、R3は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、R4は水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い。Aは酸素またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基、X1は陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】

一般式(2)
【化3】

R5は水素又はメチル基、R6、R7は炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、X2は陰イオンをそれぞれ表わす。
一般式(3)
R8は水素、メチル基またはカルボキシメチル基、QはSO3、C6H4SO3、CONHC(CH3)2CH2SO3、C6H4COOあるいはCOO、R9は水素またはCOOY1、Y1は水素または陽イオン。
【請求項4】
前記塩水溶液中分散液あるいは油中水型高分子エマルジョンからなるビニル系カチオン性水溶性高分子が、前記一般式(1)及び/又は(2)で表わされる単量体5〜40モル%および非イオン性水溶性単量体60〜95モル%からなる単量体混合物を重合し製造されたものであることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の抄紙用薬剤。
【請求項5】
前記抄紙用薬剤中のビニル系カチオン性水溶性高分子及び前記ビニル系両性水溶性高分子を配合した場合、配合物のカチオン当量値の合計がアニオン当量値の合計より高いことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抄紙用薬剤。
【請求項6】
前記抄紙前の製紙原料が中性抄紙新聞用紙のものであるであることを特徴とする請求項1に記載の抄紙用薬剤。

























【公開番号】特開2008−25054(P2008−25054A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198836(P2006−198836)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)
【Fターム(参考)】