説明

把持装置

【課題】ワークの種類に応じた切り換え機構が不要である簡易な構成としながらも、大型のワークにも対応し得る把持力を確実に確保することができる把持装置を提供する。
【解決手段】ワーク10を把持するための把持装置であって、ワーク10の対応する表裏面(表面10aおよび裏面10b)に対して当接させる一対の各電磁石5・6と、各電磁石5・6を互いに押圧しあう方向に相対変位させるアクチュエータ4と、各電磁石5・6とアクチュエータ4の動作を制御する制御装置11と、を備えるとともに、制御装置11からの指令に従って、アクチュエータ4によって、各電磁石5・6を相対変位させることにより、ワーク10の重心位置Gの近傍における所定の一箇所(即ち、所定の位置X)を挟圧すると同時に、各電磁石5・6に通電することにより、ワーク10を位置Xにおいて磁着して、ワーク10を把持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを把持するための装置である把持装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークを把持するための把持装置には、真空作用や磁力等によりワークを吸着して把持するタイプのものや、ワークを爪状の部材等で挟圧して把持するタイプのもの等が存在している。
例えば、ワークを磁力により吸着して把持するタイプの把持装置や、あるいは、ワークを挟圧して把持するタイプの把持装置に係る技術が、以下に示す特許文献1に開示されており、公知となっている。
【0003】
特許文献1に開示された従来技術では、把持装置の構成としては、ワークの一部をクランプ(挟圧)する構成や、ワークを磁着する構成、あるいは吸着する構成等が、ワークの材質、形状等に応じて適宜採用し得る旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−39966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大型のワークを把持する用途に用いられる把持装置では、いずれのタイプの把持装置を採用した場合であっても、把持装置を複数用いて、ワークにおける複数位置を把持する構成とするのが一般的である。
このため、把持装置を複数種類のワークを把持する用途に用いようとすると、吸着あるいは挟圧する把持位置をワークの種類ごとに変更する必要があり、把持位置を変更するための多数のアクチュエータ等が必要になって、把持装置が大掛かりな構成となっていた。
また、磁力により吸着するタイプの把持装置では、吸着力(即ち、磁着力)がワークの肉厚によって左右されることが知られており、例えば、ワークが薄板状の鋼板製であるときには、十分な磁着力を確保することが困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は、掛かる現状の課題を鑑みてなされたものであり、ワークの種類に応じた切り換え機構が不要である簡易な構成としながらも、大型のワークにも対応し得る把持力を確実に確保することができる把持装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、ワークを把持するための把持装置であって、前記ワークの対応する表裏面に対して当接させる一対の電磁石と、前記一対の電磁石を互いに押圧しあう方向に相対変位させるアクチュエータと、前記一対の電磁石と前記アクチュエータの動作を制御する制御装置と、を備えるとともに、前記制御装置からの指令に従って、前記アクチュエータによって、前記一対の電磁石を相対変位させることにより、前記ワークの重心位置の近傍における所定の一箇所を挟圧すると同時に、前記一対の電磁石に通電することにより、前記ワークを前記所定の一箇所において磁着して、前記ワークを把持するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0010】
請求項1においては、所定の一箇所のみを把持する簡易な構成の把持装置でありながら、大型のワークにも対応し得る把持力を確実に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る把持装置の全体構成を示す側面模式図。
【図2】本発明の一実施形態に係る把持装置の全体構成を示す斜視模式図。
【図3】本発明の一実施形態に係る把持装置に備えられる電磁石を示す側面模式図。
【図4】同じく電磁石を示す図3におけるA方向矢視図。
【図5】各種態様の把持装置における吸着力の説明図、(a)ワークを挟持力のみで把持する態様を示す図、(b)ワーク(肉厚が十分であり磁束の漏れがない場合)を片面からの磁着力のみで把持する態様を示す図、(c)ワーク(肉厚が薄く磁束の漏れがある場合)を片面からの磁着力のみで把持する態様を示す図、(d)ワーク(肉厚が薄く磁束の漏れがある場合)を両面からの磁着力のみで把持する態様を示す図、(e)ワーク(肉厚が薄く磁束の漏れがある場合)を両面からの磁着力と挟持圧で把持する態様を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明の一実施形態に係る把持装置の全体構成について、図1〜図4を用いて説明をする。
図1および図2に示す如く、本発明の一実施形態に係る把持装置1は、搬送対象たるワーク10を把持するための部位であって、ロボットアーム2の手先部2aに付設されており、フレーム3、アクチュエータ4、一対の電磁石5・6、制御装置11等を備えている。
【0013】
フレーム3は、ロボットアーム2の手先部2aにおいて、各電磁石5・6を支持するための支持部材であり、ワーク10を跨ぐために、矩形の一辺が開放された形状(所謂、三方枠の形状)を有しており、上側フレーム3a、中間フレーム3b、下側フレーム3cを備える構成としている。
またフレーム3は、各フレーム3a・3b・3cを、互いに適宜補強プレート等を用いて接続する構成としており、ワーク10を把持するときに生じる反力に抗し得る剛性が確保されている。
【0014】
上側フレーム3aの開放側端部には、支持プレート3dを設けており、該支持プレート3dにアクチュエータ4を固定する構成としている。
また、下側フレーム3cの開放側端部には、支持プレート3eを設けており、該支持プレート3eに電磁石6を固定する構成としている。
【0015】
アクチュエータ4は、伸縮可能な軸部4aを備えている。また、アクチュエータ4は、制御装置11に接続されており、該制御装置11からの指令信号に従って、軸部4aが動作(伸縮)する。
そして、軸部4aの先端には支持部材4bが固設されており、該支持部材4bに、電磁石5を固定する構成としている。
【0016】
このとき、各電磁石5・6は、該各電磁石5・6の軸心方向を一致させるようにして各部位4b・3cに固定されており、各磁着面5a・6aが平行となっている。
そして、把持装置1では、フレーム3によって、ワーク10の表面10aおよび裏面10bを跨ぐことができるため、ワーク10の表面10a側に電磁石5を配置し、また、ワーク10の裏面10b側に電磁石6を配置することができる。
【0017】
このような構成により、制御装置11からの指令信号に従い軸部4aを電磁石6側に伸長させて、電磁石5を電磁石6に向けて変位させることによって、各電磁石5・6の間に配置したワーク10を、各電磁石5・6によって、挟圧することができる構成としている。
また、把持装置1では、一対の各電磁石5・6のみを備えているため、ワーク10の所定の一箇所のみを挟圧する構成としている。
尚、アクチュエータ4としては、エアシリンダや油圧シリンダ等を採用し得る。
【0018】
電磁石5・6は、把持装置1において、把持対象物たるワーク10と直接接触する把持部を構成する部位であり、図3に示す如く、芯部材7、コイル8、パッド9等を備えている。
尚、各電磁石5・6の構成は共通しているが、後述する通り、使用方法が異なっている。
【0019】
芯部材7は、金属製の略円筒状の外形を有する部材であり、各電磁石5・6の磁着面5a・6aに向けて開放する略円筒状の凹部である溝部7aが形成されている。
そして、各電磁石5・6において、溝部7aにはコイル8が嵌挿されている。
【0020】
各電磁石5・6は、コイル8に通電することによって、磁力が生じる。また、各電磁石5・6は、制御装置11に接続されており、該制御装置11からの指令信号に従って、通電あるいは非通電状態を切り換えることによって、磁化あるいは非磁化の各状態が切り換えられる。
【0021】
把持装置1において、電磁石5と電磁石6は、通電方向を逆向けにして使用している。
即ち、例えば、一方の電磁石5を、芯部材7の中心部7bがN極として機能し、外縁部7c・7cがS極として機能する磁石として使用するならば、他方の電磁石6を、芯部材7の中心部7bがS極として機能し、外縁部7c・7cがN極として機能する磁石として使用する構成としている。
【0022】
このような構成により、電磁石5と電磁石6は、各磁着面5a・6aにおいて、ワーク10を磁着することができる。
また、各磁着面5a・6aは極性が異なるように構成しているため、各電磁石5・6でワーク10を挟圧した状態においても、各磁着面5a・6aにおいて、各電磁石5・6が反発することなく、ワーク10を磁着することができる。
即ち、本発明の一実施形態に係る把持装置1において、各電磁石5・6の各磁着面5a・6aは、ワーク10を持着するための磁着面であるとともに、ワーク10を挟持するための挟持面を兼ねている。
【0023】
また、コイル8を嵌挿した後の溝部7aの余剰空間には、パッド9が嵌挿されている。
パッド9は、溝部7aに対する嵌挿方向の厚みが、該パッド9を溝部7aに嵌挿したときに、その端部が各磁着面5a・6aから外部に突出するような厚みに構成されている。
これにより、各磁着面5a・6aにワーク10が当接するときには、必ずパッド9もワーク10に当接するように構成している。
【0024】
パッド9は、芯部材7に比して摩擦係数の高い弾性部材(例えば、ゴム等)によって構成されており、電磁石5・6における磁着面5a・6aの摩擦係数を増大させるために設けられている。
さらに、パッド9の表面には、図4に示すように、複数の切れ目9aが形成されている。
この切れ目9aの効果によって、パッド9がより柔軟に変形できるようになり、また、切れ目9a自身も掛止作用を発揮するため、切れ目9aは、磁着面5a・6aにおける摩擦係数の増大に寄与している。
【0025】
そして、各電磁石5・6にパッド9を設けることによって、各電磁石5・6により挟持されたワーク10が、挟持方向に対して垂直な方向に位置ズレすることを抑制するようにしている。またこれにより、ワーク10の搬送時における位置決め精度を確保することができる。
【0026】
ロボットアーム2は、制御装置11に接続されており、該制御装置11からの指令信号に従って動作する。
ロボットアーム2は、把持装置1によって、ワーク10を把持する前においては、制御装置11からの指令信号に従って、把持装置1をワーク10の把持に適した所定の位置に配置するように動作する。
また、ロボットアーム2は、把持装置1によって、ワーク10を把持した後においては、制御装置11からの指令信号に従って、ワーク10を所定の場所に搬送するために動作する。
【0027】
ここでいう、ワーク10の把持に適した「所定の位置」とは、ワーク10における把持に適した平面部を有する部位であって、かつ、ワーク10の重心位置Gに最も近接した部位であり、例えば、図1および図2に示す位置Xのような位置を「所定の位置」として設定することができる。
【0028】
この「所定の位置」(例えば、位置X)は、ワーク10の重心位置Gに一致することが最も望ましいが、一致している必要はなく、ワーク10の重量および重量バランス、各電磁石5・6により生じる把持力の大小、フレーム3の剛性等を考慮して、偏心した位置であっても設定することができる。
そして、制御装置11には、ワーク10の種類ごとの「所定の位置」に係る情報が予め記憶されている。
【0029】
そして、把持装置1によって、ワーク10を「所定の位置」(本実施形態では、位置X)で把持することによって、支持箇所が一箇所でありながら、バランスのとれた安定した把持状態を実現することができる。
また、ワーク10の種類が変更になった場合であっても、支持箇所が一箇所であることに変わりがないため、種類換えのための大掛かりな機構や多数のアクチュエータ等を必要としない。
【0030】
次に、種々の実施形態における吸着力の測定結果について、図5を用いて説明をする。
尚、ここで言う「吸着力」とは、把持装置によって把持できるワーク10の最大重量を意味している。
また本説明では、薄板状(厚さ0.7mm程度)であって、磁束の漏れが生じてしまうようなワーク10をワーク10Xと呼び、また、十分な肉厚(厚さ15mm程度)があって、磁束の漏れが生じないようなワーク10をワーク10Yと呼ぶものと規定している。
また、本説明において示す測定結果は、アクチュエータ4としてエアシリンダを採用し、エアの供給圧力を0.5(MPa)としてワーク10を挟圧した場合であり、また、電磁石5・6の直径を70mmとしてワーク10を磁着した場合の吸着力の測定結果を示している。
【0031】
まず、図5(a)では、アクチュエータ4と、電磁石5・6でない把持部12・13を備え、ワーク10を挟持力のみで把持する態様の把持装置を例示している。
このような態様の把持装置を、ワーク10Xに対して使用した場合には、628(N)の吸着力が得られた。
このため、このような態様の把持装置を使用して、ワーク10Xに対して、2000(N)程度の吸着力を得るためには、4点以上の把持部を設ける必要があることが判る。
【0032】
次に、図5(b)では、電磁石5のみを備え、ワーク10を磁着力のみで把持する態様の把持装置を例示している。
このような態様の把持装置を、ワーク10Yに対して使用した場合には、1500(N)の吸着力が得られた。
このため、このような態様の把持装置を使用して、ワーク10Yに対して、2000(N)程度の吸着力を得るためには、2点以上の把持部を設ける必要があることが判る。
【0033】
次に、図5(c)では、図5(b)と同じ態様の把持装置を、ワーク10Xに用いた場合を例示しており、この場合には、500(N)の吸着力が得られた。
このため、このような態様の把持装置を使用して、ワーク10Xに対して、2000(N)程度の吸着力を得るためには、4点以上の把持部を設ける必要があることが判る。
【0034】
次に、図5(d)では、電磁石5と電磁石6を備え、ワーク10の両面から電磁石により磁着する態様の把持装置を例示している。
このような態様の把持装置を、ワーク10Xに対して使用した場合には、1787(N)の吸着力が得られた。
このため、このような態様の把持装置を使用して、ワーク10Xに対して、2000(N)程度の吸着力を得るためには、2点以上の把持部を設ける必要がある。
【0035】
そして、図5(e)では、本発明の一実施形態に係る把持装置1のように、アクチュエータ4と各電磁石5・6を備え、ワーク10を挟持力と磁着力を組み合わせて把持する態様の把持装置を例示している。
このような態様の把持装置を、ワーク10Xに対して使用した場合には、2415(N)の吸着力が得られた。
このため、把持装置1を、ワーク10に対して使用した場合には、2000(N)程度の吸着力を得るためには、把持部を1点設けるだけでよい。
【0036】
即ち、本発明の一実施形態に係る把持装置1は、ワーク10を把持するための把持装置であって、ワーク10の対応する表裏面(表面10aおよび裏面10b)に対して当接させる一対の各電磁石5・6と、各電磁石5・6を互いに押圧しあう方向に相対変位させるアクチュエータ4と、各電磁石5・6とアクチュエータ4の動作を制御する制御装置11と、を備えるとともに、制御装置11からの指令に従って、アクチュエータ4によって、各電磁石5・6を相対変位させることにより、ワーク10の重心位置Gの近傍における所定の一箇所(即ち、所定の位置X)を挟圧すると同時に、各電磁石5・6に通電することにより、ワーク10を位置Xにおいて磁着して、ワーク10を把持するものである。
このような構成により、所定の一箇所(即ち、位置X)のみを把持する簡易な構成の把持装置1でありながら、大型のワーク10にも対応し得る把持力を確実に確保できる。
【0037】
また、把持装置1では、ワーク10を挟持力と磁着力を組み合わせて把持する態様としているため、例えば、停電等で磁着力が失われたときであっても、発生し得る挟持力の範囲であれば、ワーク10の把持状態を保持することができる。
また反対に、アクチュエータ4の不具合等により挟持力が失われたときであっても、発生し得る磁着力の範囲であれば、ワーク10の把持状態を保持することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 把持装置
4 アクチュエータ
5 電磁石
6 電磁石
10 ワーク
11 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを把持するための把持装置であって、
前記ワークの対応する表裏面に対して当接させる一対の電磁石と、
前記一対の電磁石を互いに押圧しあう方向に相対変位させるアクチュエータと、
前記一対の電磁石と前記アクチュエータの動作を制御する制御装置と、
を備えるとともに、
前記制御装置からの指令に従って、
前記アクチュエータによって、前記一対の電磁石を相対変位させることにより、
前記ワークの重心位置の近傍における所定の一箇所を挟圧すると同時に、
前記一対の電磁石に通電することにより、前記ワークを前記所定の一箇所において磁着して、前記ワークを把持する、
ことを特徴とする把持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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