説明

投与器具

【課題】異類液体を均一に混合して供給することができ、噴出の停止時に噴出口付近で両液体が反応することにより生じる不都合を防止する。
【解決手段】投与器具1は、第1の液体貯留部2と、第2の液体貯留部3と、それらから供給される第1の液体および第2の液体を噴出、混合するノズル4とを備える。両液体貯留部2および3は、各々外筒21と、ガスケットと、押し子26とを備える。ノズル4は、第1の管体5と第2の管体6とを備え、第2の管体6の先端側部分は、第1の管体5の先端側部分の内腔に侵入し、2重管路部41を構成している。第1の管体5および第2の管体6の先端部には、第1の液体を噴出する第1の噴出口52および第2の液体を噴出する第2の噴出口62が設けられ、第1の噴出口52は、第2の噴出口62の外周部で、かつ第2の噴出口62に対しノズル4の長手方向に所定距離ずれた位置に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投与器具、特に2種類の液体を混合しつつ患部に供給する投与器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、2種以上の液体混合して患部に噴射し、癒着防止材や生体組織接着材などを形成する方法が知られており、そのための塗布装置(噴射装置)が開発されている。
【0003】
このような塗布装置は、混合すると凝固する成分同士、例えばトロンビンを含有する溶液とフィブリノーゲンを含有する溶液を互いに分別した状態で、患部付近まで送り、患部で混合しながら塗布するという構成によるものである。
【0004】
従来の塗布装置としては、異なる種類の液体をそれぞれ含有する2つのシリンジからそれぞれ流路が並んだ状態で設置され、両流路の先端から各液体が噴出し、混合される構成のもの(例えば、特許文献1参照)や、異なる種類の液体をそれぞれ噴出する2本のノズルが所定距離離間して平行に設けられたスプレーヘッドを備えるもの(例えば、特許文献2参照)がある。
【0005】
しかしながら、これらの従来技術では、それぞれの液体が噴出する噴出口同士が所定距離離間して配置されているため、2種類の液体が均一に混合せず、混合効率が悪いという欠点があった。2種類の液体を混合してゲル化させるものの場合、混合が均一でないと、凝固してゲル化した部分と、凝固が生じていないかまたは不十分な部分とが存在し、癒着防止材や生体組織接着材として十分に機能しないおそれがある。
【0006】
また、上記従来技術では、異種の液体を噴出する2つの噴出口の流路長手方向の位置が同じであるため、噴出を一旦停止(休止)すると、噴出口付近で残余していた両液体が接触しゲル化して、一方または両方の噴出口を詰まらせてしまい、再度両液体を噴出、混合してゲル状物を得ようとした際に、それができないかまたは不十分となってしまう。
【0007】
【特許文献1】特開平7−255729号公報
【特許文献2】特開平9−154848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、異なる種類の液体同士を均一に混合して患部に供給することができるとともに、噴出の停止または休止時に、噴出口付近において両液体が反応することにより生じる不都合(例えば、凝固)を防止することができる投与器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)〜(12)の本発明により達成される。
(1) 液組成が異なる第1の液体および第2の液体をそれぞれが混合しないように貯留する第1の液体貯留部および第2の液体貯留部と、第1の液体貯留部および第2の液体貯留部からそれぞれ供給される前記第1の液体および前記第2の液体を混合しつつ患部に供給するノズルとを備える投与器具であって、
前記ノズルは、前記第1の液体を噴出する第1の噴出口と、前記第2の液体を噴出する第2の噴出口と、前記第1の液体を前記第1の噴出口へ送る第1の流路と、前記第2の液体を前記第2の噴出口へ送る第2の流路とを備え、
前記第1の噴出口は、前記第2の噴出口の外周部で、かつ前記第2の噴出口に対しノズルの長手方向にずれた位置に形成されていることを特徴とする投与器具。
【0010】
(2) 前記第1の噴出口および前記第2の噴出口は、それぞれ、液体を霧状にして噴出し得るものである上記(1)に記載の投与器具。
【0011】
(3) 前記第1の噴出口および前記第2の噴出口は、それぞれ、先端壁を有し、該先端壁を貫通する複数の小孔が形成された構成のものである上記(1)または(2)に記載の投与器具。
【0012】
(4) 前記第1の噴出口の先端面と前記第2の噴出口の先端面との離間距離は、3〜30mmである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の投与器具。
【0013】
(5) 前記ノズルの全長は、20〜500mmである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の投与器具。
【0014】
(6) 前記ノズルの先端部は、90°以上の角度に湾曲している上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の投与器具。
【0015】
(7) 前記第1の噴出口および/または前記第2の噴出口の横断面形状は、円形、楕円形または多角形である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の投与器具。
【0016】
(8) 前記第1の液体貯留部および前記第2の液体貯留部は、それぞれ、シリンジ外筒と、前記シリンジ外筒内に挿入されたガスケットと、前記ガスケットを前記シリンジ外筒の長手方向に沿って移動操作する押し子とを備え、両押し子は連結または一体化されている上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の投与器具。
【0017】
(9) 前記第1の液体貯留部から供給される前記第1の液体と前記第2の液体貯留部から供給される前記第2の液体の単位時間当たりの供給量が異なっている上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の投与器具。
【0018】
(10) 前記第1の液体貯留部のシリンジ外筒の内径と前記第2の液体貯留部のシリンジ外筒の内径との比率により、前記第1の液体と前記第2の液体の混合比を設定することができる上記(8)に記載の投与器具。
【0019】
(11) 前記第1の液体と前記第2の液体は、それらを混合することによりゲル化するものである上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の投与器具。
【0020】
(12) 前記第1の液体と前記第2の液体は、それらを混合することにより生体組織の癒着防止材となるものである上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の投与器具。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、第1の噴出口が第2の噴出口の外周部に、すなわち第2の噴出口を囲むように形成されているため、それらから噴出される液体同士を均一に混合して患部に供給することができる。
【0022】
また、第1の噴出口が第2の噴出口に対しノズルの長手方向にずれた位置に形成されていることにより、両液体の噴出を一旦停止または休止した際、噴出口付近において両液体が反応することにより生じる例えば、凝固、ゲル化、酸化、還元、析出等の変質、劣化等の不都合を有効に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の投与器具について添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の投与器具の実施形態を示す正面図、図2は、本発明の投与器具における第1の液体貯留部を拡大して示す半断面図、図3は、本発明の投与器具におけるノズルの縦断面図、図4は、図3中のA−A線断面図、図5および図6は、それぞれ、ノズルの第1の噴出口および第2の噴出口付近の他の構成例を示す横断面図である。なお、説明の都合上、図1〜図3中の上側を「基端」、下側を「先端」という。
【0025】
図1に示すように、本実施形態の投与器具1は、第1の液体貯留部2と、第2の液体貯留部3と、第1の液体貯留部2および第2の液体貯留部3からそれぞれ供給される液体を混合しつつ患部に供給するノズル4とを備える。
【0026】
まず、第1の液体貯留部2および第2の液体貯留部3の構成について説明する。第1の液体貯留部2と第2の液体貯留部3とは、ほぼ同様の構成であるため、代表的に第1の液体貯留部2について説明する。
【0027】
図2に示すように、本実施形態における第1の液体貯留部2は、シリンジで構成され、外筒(シリンジ外筒)21と、外筒21内で摺動し得るガスケット24と、ガスケット24を外筒21の長手方向(軸方向)に沿って移動操作する押し子(プランジャロッド)26とを備えている。ガスケット24は、押し子26の先端に連結されている。
【0028】
外筒21は、有底筒状の部材で構成され、先端側底部の中央部には、外筒21の胴部に対し縮径した縮径部22が一体的に形成されている。この縮径部22により、外筒21内の液体が吐出され得る口部が構成される。
【0029】
外筒21の基端外周には、フランジ23が一体的に形成されている。押し子26を外筒21に対し相対的に移動操作する際などには、このフランジ23に指を掛けて操作を行うことができる。
また、外筒21の外周面には、液量を示す目盛りが付されている。
【0030】
外筒21の構成材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)のような各種樹脂が挙げられるが、その中でも、成形が容易であり、かつ水蒸気透過性が低い点で、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエステルのような樹脂が好ましい。なお、外筒21の構成材料は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であるのが好ましい。
【0031】
このような外筒21内には、弾性材料で構成されたガスケット24が収納されている。ガスケット24の外周部には、複数(2つ)のリング状の突部が全周にわたって形成されており、これらの突部が外筒21の内周面に密着しつつ摺動することで、液密性をより確実に保持するとともに、摺動性の向上が図れる。
【0032】
また、ガスケット24には、その基端面に開放する中空部25が形成されている。この中空部25は、後述する押し子26のヘッド部28が螺入(嵌入)される。中空部25の内面には、雌ネジが形成されている。
【0033】
ガスケット24の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの混合物等の弾性材料が挙げられる。
【0034】
押し子26は、横断面が十文字状をなす棒状の本体部27を有しており、該本体部27の先端側には、ガスケット24の中空部25内に挿入され、ガスケット24と連結されるヘッド部(連結部)28が形成されている。
【0035】
ヘッド部28の外周には、中空部25の内面の雌ネジと螺合し得る雄ネジが形成されている。この雄ネジを雌ネジと螺合することにより、ガスケット24と押し子26とが連結される。なお、ガスケット24と押し子26は、螺合による連結に限らず、例えば凹凸嵌合等により連結された構成、接着、融着等により固着された構成、一体成形された構成であってもよい。
【0036】
外筒21とガスケット24とで囲まれた空間(貯液空間)20には、後述する第1の液体(図示せず)が貯留(充填)されている。
【0037】
第2の液体貯留部3も、第1の液体貯留部2と同様に、外筒21と、外筒21内で摺動し得るガスケット24と、ガスケット24を移動操作する押し子26とで構成されている。各部の構成は同様であるため、その説明は省略する。
【0038】
第1の液体貯留部2の押し子26の基端と、第2の液体貯留部3の押し子26の基端とは、連結部材(固定部材)29により連結、固定されている。これにより、第1の液体貯留部2の押し子26と第2の液体貯留部3の押し子26とは、外筒21の長手方向に対し、一体となって移動する。
【0039】
連結部材29の形状は、特に限定されず、板状、棒状、ブロック状等、いかなる形状、寸法のものでもよい。
【0040】
なお、両押し子26は、一体的に形成されたもの(1つの部材で構成されたもの)でもよい。
【0041】
押し子26および連結部材29の構成材料としては、前述した外筒21の構成材料として例示したものと同様のものを用いることができる。
【0042】
第1の液体貯留部2に貯留される第1の液体と、第2の液体貯留部3に貯留される第2の液体とは、それらの組成(成分)が異なるものである。第1の液体および第2の液体の組み合わせとして、それらを混合すると液中に存在する成分同士が反応し、変質または劣化するようなもの、例えば、凝固(固化、硬化)、ゲル化、酸化、還元、析出等を生じるようなものに対し本発明を適用するのが好ましい。
【0043】
本発明において、第1の液体と第2の液体は、投与器具1の用途、使用目的、症例等に応じて適宜選定される。例えば、生体組織接着材の投与に使用する場合、第1の液体および第2の液体のうちの一方は、トロンビンを含有する液体(溶液等)、他方はフィブリノーゲンを含有する液体(溶液等)とすることができる。
【0044】
また、癒着防止材の投与に使用する場合、第1の液体および第2の液体のうちの一方は、スクシンイミジル基で修飾したカルボキシメチルデキストランを含有する液体(溶液等)、他方は、リン酸水素二ナトリウムを含有する液体(溶液等)とすることができる。
【0045】
このような組み合わせの第1の液体および第2の液体は、それらを混合すると、ゲル化(固化)する。
【0046】
なお、第1の液体および第2の液体の種類および組み合わせは、上述したものに限定されないことは、言うまでもない。
【0047】
第1の液体貯留部2および第2の液体貯留部3には、上述したような第1の液体および第2の液体が、それぞれ、独立した状態(分離された状態)で貯留されている。そのため、第1の液体貯留部2および第2の液体貯留部3では、両液体は、混合しないような状態で保持されるので、上述したような反応(ゲル化等)を生じることなく保存される。
【0048】
第1の液体貯留部2および第2の液体貯留部3の両外筒21を固定した状態で、両押し子26を先端方向(図1中の矢印で示す方向)に押圧すると、両外筒21内に貯留されている第1の液体および第2の液体が、それぞれの縮径部22から吐出(流出)する。
【0049】
第1の液体貯留部2の外筒21の内径と第2の液体貯留部3の外筒21の内径は、同一でも異なっていてもよい。前者の場合、両押し子26の先端方向への移動に対し、第1の液体と第2の液体をほぼ同量づつ供給することができ、ノズル4から噴出される際の第1の液体と第2の液体の混合比は、ほぼ1:1となる。後者の場合、両押し子26の先端方向への移動に対し、第1の液体と第2の液体の単位時間当たりの供給量(流量)は異なるため、ノズル4から噴出される際の第1の液体と第2の液体の混合比は、1:1以外とすることができる。この混合比は、両外筒21の内径の比に対応するため、当該内径の比を適宜設定することにより、第1の液体と第2の液体の混合比を設定することができる。例えば、第1の液体をトロンビンを含有する液体、第2の液体をフィブリノーゲンを含有する液体とした場合、混合比=第1の液体の噴出量:第2の液体の噴出量=第1の液体貯留部2の外筒21の内径:第2の液体貯留部3の外筒21の内径を好ましくは1:0.1〜1:10程度とすることにより、効率良く(迅速に)ゲル化させることができる。
【0050】
次に、ノズル4の構成について、図1〜図6を参照しつつ説明する。ノズル4は、第1の液体貯留部2および第2の液体貯留部3からそれぞれ供給される第1の液体および第2の液体を噴出し、これらを混合しつつ患部に供給するものである。
【0051】
このノズル4は、第1の管体5と第2の管体6とを備えている。第1の管体5および第2の管体6は、それぞれ、硬質材料で構成されているものでも、軟質材料、弾性材料等で構成され、管体自体が可撓性を有するものでもよい。第1の管体5および第2の管体6の構成材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)のような各種の軟質または硬質樹脂、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、ステンレス鋼、アルミニウム、銅または銅系合金等の各種金属材料、各種ガラス、アルミナ、シリカ等の各種セラミックスが挙げられる。第1の管体5と第2の管体6の構成材料は、同一でも異なっていてもよい。
【0052】
また、第1の管体5および第2の管体6の構成材料は、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌)、エチレンオキサイドガス滅菌、γ線滅菌、電子線滅菌等の滅菌に耐え得る材料で構成されているのが好ましい。
【0053】
第1の管体5の基端部51および第2の管体6の基端部61は、それぞれ、第1の液体貯留部2の外筒21の縮径部22および第2の液体貯留部3の外筒21の縮径部22に液密に嵌合して接続されている。
【0054】
また、第2の管体6の先端側の部分は、第1の管体5の先端側の部分の内腔に侵入し、2重管路部41を構成している。第1の管体5の先端部および第2の管体6の先端部には、それぞれ、第1の液体を噴出(噴霧)する第1の噴出口52および第2の液体を噴出(噴霧)する第2の噴出口62が設けられている。
【0055】
第1の管体5の内腔および第2の管体6の内腔は、それぞれ、第1の液体を第1の噴出口52へ送る第1の流路50および第2の液体を第2の噴出口62へ送る第2の流路60を構成している。
【0056】
第1の噴出口52は、第2の噴出口62の外周部に設置されている。すなわち、第1の噴出口52は、第2の噴出口62の周囲を囲むように設置されている。第1の噴出口52と第2の噴出口62とをこのような配置とすることにより、第1の噴出口52および第2の噴出口62よりそれぞれ噴出する第1の液体および第2の液体がより均一に混合される。そのため、前述した癒着防止材等を噴射範囲において均一な組成で得ることができる。
【0057】
また、第1の噴出口52と第2の噴出口62とは、ノズル4の長手方向(正確には、2重管路部41の長手方向)に所定距離(離間距離L)ずれた位置に形成されている。これにより、次のような効果が得られる。第1の液体および第2の液体の噴出を一旦停止または休止した際、第1の噴出口52および第2の噴出口62付近には、それぞれ、第1の液体および第2の液体が少量残存するが、第1の噴出口52および第2の噴出口62が所定距離離間しているため、残液同士が接触し、反応することにより生じる不都合、例えば、凝固、ゲル化、酸化、還元、析出等の変質、劣化等を有効に防止することができる。特に、第1の液体と第2の液体とで前述したような癒着防止材を構成する場合、凝固やゲル化による第1の噴出口52、第2の噴出口62の詰まりを防止し、次回の良好な噴出、混合を確保することができる。
【0058】
なお、図示の実施形態では、第1の噴出口52が第2の噴出口62よりも先端側に位置しているが、この逆であってもよい。
【0059】
このような第1の噴出口52および第2の噴出口62は、好ましくはそれらのうちの少なくとも一方、より好ましくは双方が、液体を霧状にして噴出し得るものである。本実施形態では、双方共に液体を霧状にして噴出し得るものである。以下、その構造の一例について説明する。
【0060】
図3および図4に示すように、第1の噴出口52は、第1の管体5の先端開口を塞ぐように設置されたリング状の先端壁53を有し、この先端壁53には、先端壁53を貫通する複数の小孔54が形成されている。また、第2の噴出口62は、第2の管体6の先端開口を塞ぐように設置された円盤状の先端壁63を有し、この先端壁63には、先端壁63を貫通する複数の小孔64が形成されている。このような構成により、第1の噴出口52および第2の噴出口62からそれぞれ第1の液体および第2の液体が霧状に噴出(噴霧)され、混合される。
【0061】
小孔54、64の孔径は、特に限定されないが、10〜1000μm程度であるのが好ましく、100〜500μm程度であるのがより好ましい。
【0062】
第1の噴出口52の先端面と第2の噴出口62の先端面との離間距離L(絶対値)は、3〜30mm程度であるのが好ましく、5〜10mm程度であるのがより好ましい。離間距離Lが小さすぎると、前述した残液同士の反応を抑制する効果が十分に得られないおそれがあり、離間距離Lが大きすぎると、両液体の均一な混合が妨げられるおそれがある。
【0063】
図4に示すように、本実施形態では、第1の噴出口52および第2の噴出口62の横断面形状は、それぞれ、円形をなしている。しかし、本発明では、第1の噴出口52および第2の噴出口62の横断面形状は、これに限定されない。
【0064】
例えば、図5に示すように、第1の噴出口52および第2の噴出口62の少なくとも一方(好ましくは双方)の横断面形状が楕円形をなしているものや、図6に示すように、第1の噴出口52および第2の噴出口62の少なくとも一方(好ましくは双方)の横断面形状が四角形(四角形以外の多角形でも可)をなしているものが挙げられる。また、第1の噴出口52と第2の噴出口62の横断面形状は、異なっているもの(相似形状ではないもの)でもよい。
【0065】
また、小孔54、64の形状は、図示のような円形に限られず、小孔54、64の形成数や配設密度(開口率)も特に限定されない。
【0066】
このような第1の噴出口52および第2の噴出口62の横断面形状等は、投与器具1の用途、特に、第1の液体および第2の液体を混合して塗布する場所(患部の箇所)や、その形状、大きさ、塗布する場所へのアクセスの状態(アクセスのし易さ)等に応じて適宜決定することができる。
【0067】
ノズル4の形状や長さは、両液体を混合して塗布する場所等に応じて適宜決定されるが、通常、ノズルの全長は、50〜500mm程度であるのが好ましく、50〜400mm程度であるのがより好ましい。
【0068】
開腹術において、組織の止血や接着のための成分または癒着防止剤を噴霧する際には、ノズル4は、比較的短いものが操作し易く、好ましい。また、縫合後の腹壁に癒着防止材を塗布する際、背部に近い組織やダグラス窩のような奥まった空間に塗布する際、あるいは内視鏡下で用いる際などには、ノズル4は、比較的長いものが操作し易く、好ましい。
【0069】
図7は、本発明の投与器具の他の実施形態を示す正面図である。以下、図7に示す実施形態について説明するが、主に前述した実施形態との相違点について説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
【0070】
図7に示す投与器具1は、ノズル4の2重管路部41がさらに延長されており、J字状(フック状)をなしている。すなわち、ノズル4の2重管路部41の先端部は、90°以上の角度に湾曲した湾曲部42を構成している。これにより、ノズル4の先端は、図7中斜め上方へ向いている。このような先端形状を持つ投与器具1は、例えば次のようにして使用される。
【0071】
縫合後の腹壁7に癒着防止剤または接着材を塗布する際、腹壁7の切開部8から腹腔9内にノズル4を挿入した状態で、前記切開部8の縫合を開始し、数針縫合する毎に腹腔9内側から腹壁内面の縫合部位10付近に癒着防止剤または接着材を噴霧し、塗布する。縫合完了直前にノズル4を抜き取り、切開部8を完全に縫合して閉じる。
【0072】
以上、本発明の投与器具を図示の各実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を発揮し得る任意の構成と置換することができ、また、任意の構成が付加されていてもよい。
【0073】
例えば、3種類以上の液体を同時に噴出(噴霧)し、混合し得るように構成されたものでもよい。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
(実施例1)
図1〜図4に示す構造の投与器具を作製した。ノズル4は、可撓性を有する円形2重管路部を有し、該2重管路部を含むノズル4の全長は、50mmであり、第1および第2噴出口52、62の離間距離Lは、5mmであった。
【0075】
この投与器具の第1の液体貯留部(内径10mmのシリンジ外筒)にリン酸水素二ナトリウム水溶液2mlを入れ、第2の液体貯留部(内径10mmのシリンジ外筒)にスクシンイミジル基で修飾したカルボキシメチルデキストラン水溶液2mlを入れた。連結部材29を先端方向へ押圧移動し、両液体を各々1ml、ガラス板に向けて噴霧、混合し、混合液を塗布した。両液体は、塗布領域のほぼ全域で均一に混合されて塗布され、1分後に凝固してゲル膜を形成した。
【0076】
また、ノズルからの噴霧を停止し、そのまま室温で10分間放置した。放置後、再び連結部材29を押したところ、両液体を良好に噴霧、混合することができた。
【0077】
(実施例2)
図7に示す構造の投与器具を作製した。ノズル4は、可撓性を有する円形2重管路部を有し、該2重管路部を含むノズル4の全長は、300mmであり、その先端部には、110°の角度に湾曲した湾曲部42を形成した。また、ノズル4における第1および第2噴出口52、62の構造は、実施例1と同様であり、それらの離間距離Lは、7mmであった。
【0078】
この投与器具の第1の液体貯留部(内径15mmのシリンジ外筒)に600単位のトロンビンを含有する水溶液3mlを入れ、第2の液体貯留部(内径10mmのシリンジ外筒)にフィブリノーゲンを8w/v%含有する水溶液2mlを入れた。連結部材29を先端方向へ押圧移動し、第1の液体1.5ml、第2の液体1mlを、ガラス板に向けて噴霧、混合し、混合液を塗布した。両液体は、塗布領域のほぼ全域で均一に混合されて塗布され、1分後に凝固してゲル膜を形成した。
【0079】
また、ノズルからの噴霧を停止し、そのまま室温で15分間放置した。放置後、再び連結部材29を押したところ、両液体を良好に噴霧、混合することができた。
【0080】
(比較例1)
第1の噴出口と第2の噴出口が平行に並べられ、かつそれらの先端面がノズル長手方向に同一位置の平面上に位置する(すなわち離間距離L=0)構造のノズルを用いた以外は実施例1と同様にして、両液体をガラス板に向けて噴霧、混合し、混合液を塗布した。1分後、両液体は塗布領域の中央部では、凝固してゲル膜を形成していたが、塗布領域の端部付近において、混合されずに単独で塗布されている箇所があった。
【0081】
また、ノズルからの噴霧を停止し、そのまま室温で10分間放置した。放置後、再び連結部材29を押したところ、残液の凝固(ゲル化)により第1の噴出口の一部が閉塞しており、良好な噴霧、混合ができなかった。
【0082】
(比較例2)
第1の噴出口と第2の噴出口が平行に並べられ、かつそれらの先端面がノズル長手方向に同一位置の平面上に位置する(すなわち離間距離L=0)構造のノズルを用いた以外は実施例2と同様にして、両液体をガラス板に向けて噴霧、混合し、混合液を塗布した。1分後、両液体は塗布領域の中央部では、凝固してゲル膜を形成していたが、塗布領域の端部付近において、混合されずに単独で塗布されている箇所があった。
【0083】
また、ノズルからの噴霧を停止し、そのまま室温で15分間放置した。放置後、再び連結部材29を押したところ、残液の凝固(ゲル化)により第1の噴出口の一部が閉塞しており、良好な噴霧、混合ができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の投与器具の実施形態を示す正面図である。
【図2】本発明の投与器具における第1の液体貯留部を拡大して示す半断面図である。
【図3】本発明の投与器具におけるノズルの縦断面図である。
【図4】図3中のA−A線断面図である。
【図5】ノズルの第1の噴出口および第2の噴出口付近の他の構成例を示す横断面図である。
【図6】ノズルの第1の噴出口および第2の噴出口付近の他の構成例を示す横断面図である。
【図7】本発明の投与器具の他の実施形態を示す正面図である。
【符号の説明】
【0085】
1 投与器具
2 第1の液体貯留部
20 空間
21 外筒
22 縮径部
23 フランジ
24 ガスケット
25 中空部
26 押し子
27 本体部
28 ヘッド部
29 連結部材
3 第2の液体貯留部
4 ノズル
41 2重管路部
42 湾曲部
5 第1の管体
50 第1の流路
51 基端部
52 第1の噴出口
53 先端壁
54 小孔
6 第2の管体
60 第2の流路
61 基端部
62 第2の噴出口
63 先端壁
64 小孔
7 腹壁
8 切開部
9 腹腔
10 縫合部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液組成が異なる第1の液体および第2の液体をそれぞれが混合しないように貯留する第1の液体貯留部および第2の液体貯留部と、第1の液体貯留部および第2の液体貯留部からそれぞれ供給される前記第1の液体および前記第2の液体を混合しつつ患部に供給するノズルとを備える投与器具であって、
前記ノズルは、前記第1の液体を噴出する第1の噴出口と、前記第2の液体を噴出する第2の噴出口と、前記第1の液体を前記第1の噴出口へ送る第1の流路と、前記第2の液体を前記第2の噴出口へ送る第2の流路とを備え、
前記第1の噴出口は、前記第2の噴出口の外周部で、かつ前記第2の噴出口に対しノズルの長手方向にずれた位置に形成されていることを特徴とする投与器具。
【請求項2】
前記第1の噴出口および前記第2の噴出口は、それぞれ、液体を霧状にして噴出し得るものである請求項1に記載の投与器具。
【請求項3】
前記第1の噴出口および前記第2の噴出口は、それぞれ、先端壁を有し、該先端壁を貫通する複数の小孔が形成された構成のものである請求項1または2に記載の投与器具。
【請求項4】
前記第1の噴出口の先端面と前記第2の噴出口の先端面との離間距離は、3〜30mmである請求項1ないし3のいずれかに記載の投与器具。
【請求項5】
前記ノズルの全長は、20〜500mmである請求項1ないし4のいずれかに記載の投与器具。
【請求項6】
前記ノズルの先端部は、90°以上の角度に湾曲している請求項1ないし5のいずれかに記載の投与器具。
【請求項7】
前記第1の噴出口および/または前記第2の噴出口の横断面形状は、円形、楕円形または多角形である請求項1ないし6のいずれかに記載の投与器具。
【請求項8】
前記第1の液体貯留部および前記第2の液体貯留部は、それぞれ、シリンジ外筒と、前記シリンジ外筒内に挿入されたガスケットと、前記ガスケットを前記シリンジ外筒の長手方向に沿って移動操作する押し子とを備え、両押し子は連結または一体化されている請求項1ないし7のいずれかに記載の投与器具。
【請求項9】
前記第1の液体貯留部から供給される前記第1の液体と前記第2の液体貯留部から供給される前記第2の液体の単位時間当たりの供給量が異なっている請求項1ないし8のいずれかに記載の投与器具。
【請求項10】
前記第1の液体貯留部のシリンジ外筒の内径と前記第2の液体貯留部のシリンジ外筒の内径との比率により、前記第1の液体と前記第2の液体の混合比を設定することができる請求項8に記載の投与器具。
【請求項11】
前記第1の液体と前記第2の液体は、それらを混合することによりゲル化するものである請求項1ないし10のいずれかに記載の投与器具。
【請求項12】
前記第1の液体と前記第2の液体は、それらを混合することにより生体組織の癒着防止材となるものである請求項1ないし11のいずれかに記載の投与器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−95098(P2006−95098A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285187(P2004−285187)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】