説明

投射型液晶表示装置

【課題】反射型液晶表示素子とWG−PBSを用いる光学系においてコントラストを向上させることができる投射型液晶表示装置を提供する。
【解決手段】投射型液晶表示装置は、光源1aと、光源からの光を透過して偏光させるワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタ9と、ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタから射出された偏光を反射しつつ変調してワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタに戻す反射型液晶表示素子12と、変調を受けた偏光がワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタで反射されて進行する光路に配置され、変調を受けた偏光の波長をλとしたときに0.5λ〜0.6λの位相差板を有する補償板13と、前記補償板の光の出口側に設けられる検光子14と、検光子を射出した光を投射する投射レンズ16とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投射型液晶表示装置に係り、特に、表示画像のコントラストを高くすることができる投射型液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、投射型表示装置はコントラスト性能向上の要請が高まっている。コントラスト性能向上のため表示素子、光学系双方に対して各種の提案がなされている。反射型液晶表示素子を用いた投射型表示装置において、2個のガラスプリズムの間に偏光ビームスプリッタ作用をする誘電体多層薄膜を設けたタイプの偏光ビームスプリッタに替えて、ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタを使用することは偏光分離特性が良く複屈折特性が少ないため、コントラスト向上のためには有利である。
【0003】
特許文献1には、ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタ(以下、WG−PBSと称する)を使用した反射型の投射型表示装置に関して、WG−PBSと反射型液晶素子の間に、Cプレート、またはAプレート、または二軸性フィルムを含む補償器を設けることが提案されている。これは、反射型液晶表示素子にて変調される光の偏光を補償器により制御することで、高コントラストを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−262831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、更なるコントラスト性能向上のためには、WG−PBSと反射型液晶表示素子の間の偏光制御のみでは限界があり、WG−PBSと反射型液晶表示素子の間を補償したとしても、WG−PBSを反射した光は、その後に配置された検光子との間で偏光の不整合が生じるため、コントラスト性能を劣化させる要因になっていた。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みなされたものであり、反射型液晶表示素子とWG−PBSを用いる光学系においてコントラストを向上させることができる投射型液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した従来の技術の課題を解決するため、光源(1a)と、前記光源からの光を透過して偏光させるワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタ(9)と、前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタから射出された前記偏光を反射しつつ変調して前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタに戻す反射型液晶表示素子(12)と、前記変調を受けた偏光が前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタで反射されて進行する光路に配置され、前記変調を受けた偏光の波長をλとしたときに0.5λ〜0.6λの位相差板を有する補償板(13)と、前記補償板の光の出口側に設けられる検光子(14)と、前記検光子を射出した光を投射する投射レンズ(16)と、を備えることを特徴とする液晶表示装置を提供する。
【0008】
上記構成において、前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタから検光子に至る前記光路における光軸と直交する面内において、前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタ(9)のワイヤーグリッドの方向と直行する方向であって前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタの面を延長したときに前記光軸と直交する面と交わる方向をy軸とし、y軸と直交する方向をx軸とした場合において、前記補償板(13)は、遅相軸がx軸と垂直方向に配置されていることが好ましい。
【0009】
また、前記補償板(13)は、前記x軸を回転軸とし、0度〜+12度の角度傾けられて配置され、前記傾けられる方向は、前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタ(9)の面と前記補償板の面とがなす鋭角である角度が増加する方向を正の方向であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば反射型液晶表示素子とWG−PBSを用いる光学系においてコントラストを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る投射型液晶表示装置の構成図である。
【図2】反射型液晶表示素子12を示す図である。
【図3】WG−PBS9を透過した光が、補償器11を透過し、反射型液晶表示素子12にて反射し、さらにWG−PBS9を反射して検光子14に至る光路を示す説明図である。
【図4】補償器13として1/2波長板を挿入した場合の漏れ光と補償器の角度との関係を示す。
【図5】補償器13として0.6λの位相差板を挿入した場合の漏れ光と補償器の角度との関係を示す。
【図6】反射型液晶表示素子12から検光子14に至る光路において円錐状光の角度を定義について説明するための図である。
【図7】反射型液晶表示素子12から黒画面に相当する偏光の光を射出する場合を示す説明図である。
【図8】検光子14の手前に補償板がない従来の場合における検光子の位置での漏れ光分布をシミュレーションした結果を示す図である。
【図9】WG−PBS9と検光子14との間に補償器13として1/2波長板が設置された図である。
【図10】複屈折材料20の屈折率を説明するための図である。
【図11】屈折率の方向を補償器の面内あるいは厚み方向に対し所定の角度傾けた場合の複屈折材料21を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る投射型液晶表示装置の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0013】
<第1の実施の形態>
図1は本発明の第1の実施形態に係る投射型液晶表示装置の構成図である。光源1aは超高圧水銀ランプであり、白色光を発する。リフレクタ1bは光源から射出した光を反射する。光源からの直接光およびリフレクタで反射された反射光は、第1のインテグレータ2a及び第2のインテグレータ2bにより光の輝度分布を均一化されたあと、偏光変換素子3により、光の偏光方向が一方向に揃えられる。揃えられた偏光をP偏光とする。
【0014】
偏光変換素子3を射出したP偏光は、重ね合わせレンズ4を透過してYダイクロイックミラー5a、Bダイクロイックミラー5bにより、赤色光と緑色光の混合光と青色光に分離される。赤色光と緑色光の混合光,青色光はミラー6a、6bによりその光路が曲げられる。赤色光と緑色光の混合光はGダイクロイックミラー7により、赤色光と緑色光に分離され、緑色光は光路が曲げられる。それぞれ別々の光路を進む赤色光,緑色光,青色光は,それぞれ、フィールドレンズ10a、10b、10c、偏光子8a、8b、8c、WG−PBS9a、9b、9c、補償器11a、11b、11cを透過した後、赤色光は反射型液晶表示素子12aに、緑色光は反射型液晶表示素子12bに、青色光は反射型液晶表示素子12cに入射する。
【0015】
各色用の反射型液晶表示素子12a、12b、12cは各色の入射光を反射・変調する。反射・変調された赤色光、緑色光は、再度補償器11a、11b、11cを透過した後、変調されたS偏光成分がWG−PBS9a、9b、9cで反射される。反射した赤色光,緑色光,青色光のS偏光成分は補償器13a、13b、13c、検光子14a、14b、14cを透過した後、クロスダイクロイックプリズム15にて合成され、投射レンズ16にて投射される。
【0016】
図2は反射型液晶表示素子12を示す図である。反射型液晶表示素子12は、表面に透明電極を形成した透明基板と、画素毎の反射電極と駆動回路をマトリクス状に配置したアクティブマトリクス基板とを、透明電極と反射電極とが向き合うように互いに対向して配置させて、その隙間に誘電異方性が負であるネマティック液晶を挟持させたものである。反射型液晶素子12のセルギャップは、1.3μm、アスペクトは16:9である。透明基板とアクティブマトリクス基板における液晶層側の各表面には蒸着表面処理方法によりSiOx化合物の配向膜が施されている。SiOx化合物の配向膜による画素側(アクティブマトリクス基板側)液晶の配向方向とSiOx化合物の配向膜による入射側液晶配向方向(透明基板側液晶の配向方向)は120度異なっている。120度の角度はツイスト角度と呼ばれる。画素側液晶の配向方向と入射側液晶配向方向の間の方向の方向であって、画素側液晶の配向方向と入射側液晶配向方向から等しい角度にある角度の方向を基準軸と称する。基準軸は入射光の偏光方向と45度に設定される。
【0017】
図3はWG−PBS9を透過した光が、補償器11を透過し、反射型液晶表示素子12にて反射し、さらにWG−PBS9を反射して補償器13、検光子14に至る光路を示す説明図である。補償器11、反射型液晶表示素子12、検光子14は各々の境界面が光軸に対して直角に配置されている。WG−PBS9はガラス基板上に金属をグリッド形状に形成されたワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタであり、光軸に対して45度傾斜させて設けられている。すなわち、WG−PBS9の法線ベクトルと光軸のなす角度は45度である。ワイヤーグリッドの方向と直交する方向が偏光を透過させる透過軸方向である。WG−PBS9は入射光から偏光を透過させる偏光子としての役割と反射型液晶表示素子12にて変調された変調光を検光する役割を果たす。WG−PBS9に入射する光は偏光変換素子3および偏光子(8a、8b、8c)にて既にある程度の偏光とされているが、WG−PBS9が特定の偏光を透過させる偏光子としての役割を担うことには変わりがない。
【0018】
第1の実施の形態では、WG−PBS9と検光子14との間に、補償器13として1/2波長板が設置されている。ここで、WG−PBS9から補償器13、検光子14に至る光路におけるxy座標軸を図3のように定義する。xy面はWG−PBS9から補償器13、検光子14に至る光路の光軸と直交している。x軸はWG−PBS9のワイヤーグリッドの方向とする。y軸はx軸と直交する方向、すなわち、前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタのワイヤーグリッドの方向と直行する方向であって前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタの面を延長したときに前記光軸と直交する面と交わる方向をy軸の正の方向とする。1/2波長板は一軸性材料であり,屈折率がne>noとなっている。このとき屈折率が高いneの軸方向を遅層軸,屈折率が低いnoを進相軸と呼ぶ。このとき1/2波長板は遅相軸をy軸方向に設定されている。そして1/2波長板は、光学系の光軸と直交する面に対してx軸の方向(ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタのワイヤーグリッドの方向)を回転軸とし、前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタの面と前記補償板の面とがなす鋭角である角度が増加する方向を正の方向としたとき、y軸に対して傾き角θで傾斜されて配置されている。
【0019】
図4は、補償器13として1/2波長板を挿入した場合の漏れ光と補償器13の傾き角(θ)との関係を示す。漏れ光比を、補償器の入射総光量に対する検光子14の射出光の総量の比率と定義する。そして補償器13を入れない場合を100%として示している。補償器13を傾けない場合(θ=0)には漏れ光比は2%減少する。補償器13を傾けることで漏れ光比は変化し、傾き角+5度のとき漏れ光比が9%程度低下し,コントラストが最も向上する。補償器13の傾き角が+10度の場合には漏れ光比は3%減少する。一方、補償器13を負の方向に傾けた場合は漏れ光比は逆に増加する。以上のように、WG−PBS9と検光子14との間に、補償器13として1/2波長板を設置しかつ所定の角度傾けることで、コントラスト改善効果が得られる。なお、1/2波長板のことは0.5λの位相差板とも称する。
【0020】
次に、補償器13として、0.6λの位相差板を、WG−PBS9と検光子14との間に設けた場合を説明する。0.6λの位相差板の遅相軸がy軸方向に設定されている。図5は、補償器13として0.6λの位相差板を挿入した場合の漏れ光比と補償器13の傾き角(θ)との関係を示す。0.6λの位相差板を傾けない場合には漏れ光比は2%減少する。0.6λの位相差板を傾けることで漏れ光比は変化し、傾き角+6度のとき漏れ光比が12%程度低下し,コントラストが最も向上する。補償器13の傾き角が+13度の場合には漏れ光比は2%減少する。一方、補償器13を負の方向の角度に設定した場合は漏れ光比は逆に増加する。以上のように、WG−PBS9と検光子14との間に補償器13として0.6λの位相差板を設置しかつ所定の角度傾けることで、コントラスト改善効果が得られる。なお、1/2波長板や0.6λの位相差板の遅相軸はy軸に厳密に揃えることが最も好ましいが、ある程度の誤差は当然、許容されうる。
【0021】
以上のように、補償器13として0.5λないし0.6λの位相差板をWG−PBS9と検光子14との間に所定の傾き角にて設けた場合に漏れ光比が減少してコントラストが向上する。そして、その結果は、繰り返して実験しても再現される。補償器13として0.5λないし0.6λの位相差板をWG−PBS9と検光子14との間に所定の傾き角にて設けた場合に漏れ光比が減少してコントラストが向上する理由は必ずしも明らかではないが、その理由を以下、考察する。
【0022】
図1に戻り、図1に示す光学系において、フィールドレンズ10からクロスダイクロイックプリズム15の間の光路はテレセントリックな領域に設計されている。すなわち、フィールドレンズ10以降の光学系の領域では、光学系の光軸と主光線が平行に設計されている。また、投射型表示装置の光源1aが有限な大きさの発光部を有していることに起因して、光学系のある場所に入射する光線は、有限の角度分布を持つ。照明光学では通常、有限の角度分布を持つ光線は、主光線を中心とした多数の円錐状光束からなると表現される。
【0023】
図6は、反射型液晶素子12から検光子14に至る光路において円錐状光の角度の定義について説明するための図である。反射型液晶素子12から検光子14に至る光路は上述の通りテレセントリックな領域である。図6において、WG−PBS9へ入射する光について、主光線のまわりの円錐状光束のポーラ角、アジマス角を定義する。ポーラ角は光の広がり具合を示すもので、主光線からポーラ角に張られた円錐状の光が存在することを示している。ポーラ角はコーンアングル(円錐角)とも称される。
【0024】
図1に戻り、偏光子8は偏光板であり、偏光変換素子3でほぼ直線偏光(P偏光)に揃えられた光の偏光度を高めるとともに、入射光の偏光方向をWG−PBS9の透過軸方向に合わせる役割も有する。偏光子8を透過してWG−PBS9に入射する「ポーラ角、アジマス角で定義される角度の光」がどのような方向の偏光方向を有しているかは偏光子8を透過することにより決定されている。入射光の偏光の方向とワイヤーグリットに垂直である透過軸方向の位置関係により、WG−PBS9の効率が決定される。WG−PBS9を透過した光は補償器11、反射型液晶素子12に入射する。
【0025】
図7は反射型液晶素子12から黒画面に相当する偏光の光を射出する場合を示す説明図である。図7には、説明の都合上、反射型液晶素子12から射出する光のうち、光軸上の光線1とアジマス角0度方向の光線2、アジマス角45度の光線3が記載されている。黒画面の状態の場合、WG−PBS9を透過して補償器11、反射型液晶素子12に入射した光は、反射型液晶素子12にて変調されずに反射し、再度補償器11を透過する。そしてWG−PBS9に入射する。
【0026】
WG−PBS9に入射する光の偏光方向がWG−PBS9の透過軸方向に一致していればWG−PBS9の偏光分離特性にしたがって入射光の大部分はWG−PBS9を透過する。WG−PBS9で反射された光は検光子14に入射する。ここで検光子の透過軸方向はWG−PBS9のワイヤーグリッドの方向と直交している。したがって、光線1では、検光子14への入射光の偏光方向と検光子14の透過軸方向とのなす角θ1が90度となり検光子で遮断される。一方、光線2、光線3は検光子14の透過軸に対する角度θ2、θ3が90度からずれている。したがって、光線2、光線3は検光子14で遮断されず、結果的にスクリーンに投影され、コントラストの低下をもたらす。
【0027】
図8は検光子14の手前に補償板がない従来の場合における検光子の位置での漏れ光分布をシミュレーションした結果を示す図である。すなわち、反射型液晶素子12から黒画面に相当する偏光の光が射出され、検光子の位置での光の分布を示した図である。黒画面の図8のxy軸は、図3においてWG−PBS9へ入射する光について、主光線のまわりの円錐状光束のポーラ角、アジマス角を定義した際のxy軸に相当する。光軸上の光線1は、図8においてxy座標の原点に相当する。最大ポーラ角度の光線は図8の円周上の点に対応する。「アジマス角0度方向の光線2」はx軸(正)と円の交点に対応する。「アジマス角45度の光線3」は、第1象限におけるy=xと円の交点に対応する。また、図8における数値は漏れ光量(任意目盛)を、実線は漏れ光量の等高線を示す。
【0028】
図7を用いた説明の通り、図8よりy軸上の漏れ光の偏光方向はy軸に平行である。一方、光線2、光線3のようにy軸からずれた位置から射出した光の偏光方向y軸と平行にならない。ここで、WG−PBS9と検光子14との間に偏光を制御する補償板を設置して、すべての漏れ光の偏光方向をy軸と平行に揃え、すべての漏れ光の偏光方向と検光子14の透過軸とが90度の関係になれば、検光子14を透過していく光線が抑制され、投影画面のコントラストを向上させることが出来る。またθ2とθ3とは角度が異なることから、検光子14上の各場所で必要とされる補正角度は異なる。すなわち、y軸上の偏光方向は変えず、y軸上以外の光についてはy軸からの距離に対応して偏光方向を変える必要がある。
【0029】
図9は、WG−PBS9と検光子14との間に補償器13として1/2波長板が設置された図である。まず1/2波長板を照明・結像系の光軸に対して垂直に配置し、1/2波長板の遅相軸をy軸方向に設定する。入射する偏光の偏光ベクトルと1/2波長板の遅相軸との角度がθであるとき、出射光は2θだけ回転する。したがって、図9においてx軸からθ傾いた偏光は1/2波長板を透過すると−θ傾く。したがって上記シミュレーションによれば、1/2波長板を照明・結像系の光軸に対して垂直に配置した際の改善効果はほとんどないという結果になる。
【0030】
以上の考察は照明光の角度分布を考慮して反射型液晶素子から検光子までの光路についてWG−PBS9の特性を考慮せずにシミュレーションして得られた知見であり、1/2波長板を傾き角0度に設定したときの実測値(+2%の改善)と近い。しかし、補償器13の傾き角を変化させると漏れ光比が変化する理由の詳細までは明らかではない。おそらく、光軸に対して45度傾斜して配置されているWG−PBS9の何らかの特性と関連して補償器13をx軸を中心に傾けると漏れ光が減少すると考えられる。
【0031】
また、以上の実験結果は、反射型液晶表示素子9の各種特性を変化させても妥当する。反射型液晶表示素子の特性を補償しているのは補償器11であって、補償器13が補償しているのは角度を持った光線がWG−PBS9で反射して検光子14に向かう間の何らかの特性を補償していると考えられる。したがって、反射型液晶素子の種類によらずほぼ同じ特性を有すると考察される。
【0032】
次に補償器について一般的な説明を行う。図10は光学材料20の屈折率を説明するための図である。光学材料は、三つまでの主屈折率nx、ny、nzを有し得る。ガラスのような等方性の媒体は、単一の屈折率を有する。二つの主屈折率が等しい材料は、一軸性材料と呼ばれる。一軸性材料の二つの等しい屈折率は、正常な屈折率(no)と呼ばれる。nx=nz=noとなる。一軸性材料のうち異なる屈折率は、異常な屈折率(ne)と呼ばれる。ny=neである。光学材料において、屈折率no、neの値が異なるとき、屈折率が高い軸は遅相軸と、屈折率が低い軸は進相軸と呼ばれる。屈折率が高いと光の進む速度が遅くなり、屈折率が低いと光の進む速度が速くなるために、屈折率が高い方向の軸が遅相軸と呼ばれる。補償器13の材料としては高分子材料、水晶などの結晶材料、液晶ポリマなどがあげられる。
【0033】
1/2波長板は、高分子材料、水晶などの結晶材料、液晶ポリマなどを用い、遅相軸と進相軸との位相差を1/2波長に設定したものである。すなわち、位相差(δ)(単位:ラジアン)、材料の厚みをd、光の波長をλとしたとき、
δ=2π(ne−no)d/λ
で与えられる位相差(δ)が1波長(2π)の1/2であるπ(ラジアン)となるものが1/2波長板である。また、0.6λの位相差板とは、位相差(δ)が1波長(2π)の0.6倍である1.2π(ラジアン)となるものをいう。
【0034】
通常、図10に示すように、屈折率nx、ny、nzの方向は補償器の面内方向、厚み方向に平行である。その場合には、既述のとおり、補償器を傾斜させて設置する。図11に示すような主屈折率(n1、n2、n3)が面内で任意の方向に存在するものを使用すれば、補償器自体を光軸と直交する方向から傾けることなく、同様な効果が得られる。
【0035】
また、第1、第2の実施形態では、照明光学系としてインテグレータ照明光学系を用いたがこれと異なる照明光学系、たとえばロッドインテグレータを用いた照明光学系であってもよい。さらに、反射型液晶素子を3枚使用する3板式光学系で説明したが、反射型液晶素子を1枚使用する単板光学系においても同様に適用できる。
【符号の説明】
【0036】
1a 光源ランプ、1b リフレクタ
2a 第1インテグレータ、2b 第2インテグレータ、
3 偏光変換素子
4 重ね合わせレンズ
5a Yダイクロイックミラー、5b Bダイクロイックミラー
6a、6b ミラー
7 Gダイクロイックミラー
8a 赤色用偏光子、8b 緑色用偏光子、8c 青色用偏光子、
9a 赤色用WG−PBS、9b 緑色用WG−PBS、
9c 青色用WG−PBS、
10a 赤色用フィールドレンズ、10b 緑色用フィールドレンズ、
10c 青色用フィールドレンズ、
11a 赤色用補償器、11b 緑色用補償器、
11c 青色用補償器、
12a 赤色用反射型液晶素子、12b 緑色用反射型液晶素子、
12c 青色用反射型液晶素子、
12 反射型液晶素子、
13a 赤色用補償器、13b 緑色用補償器、13c 青色用補償器
13 補償器
14 検光子、14a 赤色用検光子、14b 緑色用検光子、
14c 青色用検光子、
15 クロスダイクロイックプリズム、
16 投射レンズ
20 複屈折材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光を透過して偏光させるワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタと、
前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタから射出された前記偏光を反射しつつ変調して前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタに戻す反射型液晶表示素子と、
前記変調を受けた偏光が前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタで反射されて進行する光路に配置され、前記変調を受けた偏光の波長をλとしたときに0.5λ〜0.6λの位相差板を有する補償板と、
前記補償板の光の出口側に設けられる検光子と、
前記検光子を射出した光を投射する投射レンズと、
を備えることを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】
前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタから検光子に至る前記光路における光軸と直交する面内において、前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタのワイヤーグリッドの方向と直行する方向であって前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタの面を延長したときに前記光軸と直交する面と交わる方向をy軸とし、y軸と直交する方向をx軸とした場合において、
前記補償板は、遅相軸がx軸と垂直方向に配置されていることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記補償板は、前記x軸を回転軸とし、0度〜+12度の角度傾けられて配置され、前記傾けられる方向は、前記ワイヤーグリッド型偏光ビームスプリッタの面と前記補償板の面とがなす鋭角である角度が増加する方向を正の方向であることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−155261(P2012−155261A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16368(P2011−16368)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】