説明

投射型表示装置

【課題】所望の視認性を確保する。
【解決手段】光源21と、光源21から照射される照射光により励起されて可視光を発する蛍光体が担持された表示部12とから投射型表示装置10を構成した。表示部12における蛍光体の担持密度分布を、光源21から表示部12の照射位置までの距離(照射光の光路長)に応じて変化させ、照射光の光路長が最短となる照射位置から、照射光の光路長が最長となる照射位置に向かい、蛍光体の担持密度が増大傾向に変化するように設定した。蛍光体の担持密度の最大値は、担持密度に応じた蛍光強度の変化が濃度消光によって減少傾向に変化し始める際の所定閾担持密度dとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、投射型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両のフロントウィンドウ上に速度や外気温等の各種の情報を表示可能な表示装置として、透明基材に蛍光体が担持された発光層と、この発光層に光を照射する光源部とを備える投射型画像表示装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−91172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来技術の一例に係る投射型画像表示装置によれば、発光層において蛍光体が透明基材に均一分布に分散配置されていることから、発光層の全域において光源部から照射される光の照度が均一ではない場合には、蛍光体の発光により表示される画像の明るさが発光層での表示位置に応じて変化し、所望の視認性を確保することが困難となる虞がある。
例えば、光源部から照射される光は光源部からの距離の2乗に応じて減衰し、この減衰は光の波長が短くなることに伴い顕著となる。このため、発光層の全域において光源部からの距離が均一ではないと、光源部から照射される光の照度が不均一となり、画像の明るさが不均一となったり、適切な明るさの画像を表示させることが困難となる虞がある。
【0004】
また、レーザー光のようなコヒーレント光においては、前述した逆2乗の法則には従わないが、光源部から表示部までの距離による照射点のスポット径の拡大や伝播時の減衰等により、光源部から照射される光の照度がやはり不均一となる。
さらに、車両のフロントウィンドウに投射型画像表示装置を適用する場合、光源部から表示部の照射点までの最短距離と最長距離の差が大きくなり、照射光の不均一化がより顕著に現れることが考えられる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、所望の視認性を確保することが可能な投射型表示装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明の第1態様に係る投射型表示装置は、光源(例えば、実施の形態での光源21)と、前記光源から照射される照射光により励起されて可視光を発する蛍光体(例えば、実施の形態での蛍光体41)が担持された表示部(例えば、実施の形態での表示部12)とを備える投射型表示装置であって、前記表示部における前記照射光の照射位置での前記蛍光体の担持密度は、前記光源から前記照射位置までの距離に応じて変化していることを特徴としている。
【0006】
さらに、本発明の第2態様に係る投射型表示装置では、前記距離が最長となる前記照射位置での前記担持密度は、濃度消光が生じる密度以下であることを特徴としている。
【0007】
さらに、本発明の第3態様に係る投射型表示装置では、前記表示部における前記担持密度の等密度線は、前記距離が最短となる前記照射位置を中心とする略同心円状であることを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明の第4態様に係る投射型表示装置では、前記表示部は複数の微小表示領域(例えば、実施の形態での微小表示領域12a)からなり、前記担持密度は、前記微小表示領域毎に設定された前記距離に応じて、前記微小表示領域毎に変化していることを特徴としている。
【0009】
また、本発明の第5態様に係る投射型表示装置は、光源(例えば、実施の形態での光源21)と、前記光源から照射される照射光により励起されて可視光を発する蛍光体(例えば、実施の形態での蛍光体41)が担持された表示部(例えば、実施の形態での表示部12)とを備える投射型表示装置であって、前記光源と前記表示部との間に配置され、前記光源から前記表示部における前記照射光の照射位置までの距離が最長となる光路での透過率が最大とされ、かつ、前記距離が短縮することに伴い前記距離に対応する前記光路での透過率が低下傾向に変化するフィルタ(例えば、実施の形態でのフィルタ26)を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明の第1態様に係る投射型表示装置によれば、光源から照射される照射光により励起されて可視光を発する蛍光体の表示部での担持密度は、光源から表示部の照射位置までの距離に応じて変化することから、この距離に応じた照射光の減衰を相殺するようにして蛍光体の担持密度を表示部の照射位置に応じて変化させることで、照射光により励起された蛍光体の発光により表示される画像の明るさを、表示部の全域に亘って均一にすることができる。
例えば、光源から表示部の照射位置までの距離が最長となる照射位置での蛍光体の担持密度を最大として、光源から表示部の照射位置までの距離が最長の値から短縮されることに伴い、担持密度が減少傾向に変化するように設定される。
これにより、光源から表示部までの照射光路の距離差によって生じる表示輝度のばらつきを低減することができる。
【0011】
さらに、本発明の第2態様に係る投射型表示装置によれば、光源から表示部の照射位置までの距離が最長となる照射位置での担持密度、つまり担持密度の最大値は濃度消光が生じる密度以下であることから、過剰な担持密度によって蛍光の強度が減少してしまうことを防止することができる。
そして、光源から表示部までの照射光路の距離差によって生じる表示輝度のばらつきを低減し、かつ、表示部全体の表示輝度を最も高くすることができる。
【0012】
さらに、本発明の第3態様に係る投射型表示装置によれば、光源から照射位置までの距離が最小となる照射位置を中心として、この中心からの距離が増大することに伴い、担持密度が減少傾向に変化するようにして、表示部における等密度線が略同心円状となる。これにより、光源から表示部の照射位置までの距離に応じて照射位置での蛍光体の担持密度を適切に設定することができる。
そして、表示部での表示輝度を違和感無く均一化することができる。
【0013】
さらに、本発明の第4態様に係る投射型表示装置によれば、表示部を構成する複数の微小表示領域毎に光源から各微小表示領域までの距離に応じて担持密度が設定される。これにより、光源から表示部の照射位置までの距離に応じて照射位置での蛍光体の担持密度を適切に設定することができる。
そして、表示部での表示輝度の均一化をより高い自由度で実現することができる。
【0014】
さらに、本発明の第5態様に係る投射型表示装置によれば、表示部での蛍光体の担持密度分布が均一であっても、光源から表示部の照射位置までの距離に応じた照射光の減衰を相殺するようにして、各距離に対応する光路でのフィルタの透過率を各距離に応じて変化させることで、光源から照射される照射光の照度を表示部の全域に亘って均一にすることができ、これに伴い、照射光により励起された蛍光体の発光により表示される画像の明るさを、表示部の全域に亘って均一にすることができる。
そして、表示部での表示輝度の均一化を低コストで実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る投射型表示装置について添付図面を参照しながら説明する。
本実施の形態による投射型表示装置10は、例えば図1および図2に示すように、車両の車室内のインストルメントパネルやダッシュボード等に設けられた投射装置11と、フロントウィンドウに設けられた表示部12とを備えて構成され、投射装置11は、光源21と、光源駆動部22と、ミラー23と、ミラー駆動部24と、制御部25と、フィルタ26と、レンズ27とを備えて構成されている。
【0016】
投射装置11の光源21は、例えばレーザー装置あるいはLED等であって、後述する表示部12の蛍光体41を励起する励起光として、所定波長の照射光をミラー23に投射する。
なお、前述の所定波長は、使用する蛍光体41の種類に応じて適宜に設定される。
光源駆動部22は、制御部25の制御に応じて、光源21から投射される照射光の強度を制御する。
【0017】
ミラー23は、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーであって、例えば図3に示すように、基材30に対して1対の第1ヒンジ部31,31によって直交座標系をなすXYZ座標でのX軸周りに回転可能とされた枠板状の第1シリコン基板32と、この第1シリコン基板32の内部に配置され、第1シリコン基板32に対して1対の第2ヒンジ部33,33によってXYZ座標でのY軸周りに回転可能とされた板状の第2シリコン基板34と、第1シリコン基板32上に設けられた第1平面コイル35と、第2シリコン基板34上に設けられた第2平面コイル36および反射ミラー37と、例えば永久磁石等からなり、第1平面コイル35および第2平面コイル36に対して、X軸方向の外部磁場とY軸方向の外部磁場とを発生させる磁場発生部38とを備えて構成されている。
【0018】
このミラー23において、第1平面コイル35および第2平面コイル36には、制御部25の制御に応じてミラー駆動部24から駆動電流が通電される。そして、第1シリコン基板32および第2シリコン基板34は、第1平面コイル35に通電される駆動電流とY軸方向の外部磁場との相互作用によって、X軸周りに回転駆動され、第2シリコン基板34は、第2平面コイル36に通電される駆動電流とX軸方向の外部磁場との相互作用によって、Y軸周りに回転駆動される。これにより、光源21から投射されて反射ミラー37で反射される照射光の反射角度が変更され、反射ミラー37で反射された照射光は、所定の透過率を有するフィルタ26およびレンズ27を介して、表示部12上を走査する。
【0019】
表示部12は、例えば図4に示すように、蛍光体41が担持された透明薄膜42からなり、例えば合わせガラスからなるフロントウィンドウの中間膜としてフロントウィンドウの全面に亘って配置されている。
蛍光体41は、例えば平均粒径380nm以下の酸化物蛍光体や半導体ナノ粒子蛍光体とされ、異なる波長の照射光に応じて複数色の発光が可能な単一の蛍光体や所定波長の照射光に対して互いに異なる色の発光が可能な複数種類の蛍光体の組み合わせ等により構成されている。
【0020】
表示部12における蛍光体41の担持密度分布は、光源21から表示部12の照射位置までの距離(つまり、照射光の光路長)に応じて変化し、例えば図5に示すように、照射光の光路長が最短となる照射位置から、照射光の光路長が最長となる照射位置に向かい、蛍光体41の担持密度が増大傾向に変化するように設定されている。
また、蛍光体41の担持密度の最大値は、例えば図6に示すように、担持密度に応じた蛍光強度の変化が濃度消光によって減少傾向に変化し始める際の所定閾担持密度dとされている。
【0021】
例えば図5に示す蛍光体41の担持密度分布では、担持密度の等密度線は照射光の光路長が最短となる照射位置を中心とする略同心円状であり、この中心での担持密度が最小となり、この中心からの距離が増大することに伴い、担持密度が最大値に向かい増大傾向に変化している。
また、例えば図7に示す蛍光体41の担持密度分布では、表示部12が適宜に区画されて得られる複数の微小表示領域12a,…,12a毎に単一の光路長が設定され、各光路長に応じた担持密度が微小表示領域毎に設定されている。例えば、鉛直方向および水平方向に区画された複数の微小表示領域12a,…,12aに対しては、照射光の光路長が最短となる照射位置を含む微小表示領域12aでの担持密度が最小となり、この微小表示領域12aから鉛直方向上方あるいは水平方向右方あるいは水平方向左方に離間することに伴い、微小表示領域12a毎に担持密度が最大値に向かい増大傾向に変化している。
【0022】
上述したように、本実施の形態による投射型表示装置10によれば、光源21から照射される照射光により励起されて可視光を発する蛍光体41の表示部12での担持密度は、光源21から表示部12の照射位置までの距離に応じて変化することから、この距離に応じた照射光の減衰を相殺するようにして蛍光体41の担持密度を表示部12の照射位置に応じて変化させることで、照射光により励起された蛍光体41の発光により表示される画像の明るさを、表示部12の全域に亘って均一にすることができる。
例えば、光源21から表示部12の照射位置までの距離が最長となる照射位置での蛍光体41の担持密度を最大として、光源21から表示部12の照射位置までの距離が最長の値から短縮されることに伴い、担持密度が減少傾向に変化するように設定されることで、表示部12の全域に亘って蛍光体41の発光により表示される画像の明るさが均一となり、乗員による視認性を向上させることができる。
これにより、光源21から表示部12までの照射光路の距離差によって生じる表示輝度のばらつきを低減することができる。
【0023】
しかも、光源21から表示部12の照射位置までの距離が最長となる照射位置での担持密度、つまり担持密度の最大値は濃度消光が生じる密度(所定閾担持密度d)以下であることから、過剰な担持密度によって蛍光の強度が減少してしまうことを防止することができる。
そして、光源21から表示部12までの照射光路の距離差によって生じる表示輝度のばらつきを低減し、かつ、表示部12全体の表示輝度を最も高くすることができる。
【0024】
また、蛍光体41の担持密度分布において、担持密度の等密度線を照射光の光路長が最短となる照射位置を中心とする略同心円状とし、この中心での担持密度が最小となり、この中心からの距離が増大することに伴い、担持密度が最大値に向かい増大傾向に変化するように設定することにより、表示部12での表示輝度を違和感無く均一化することができる。
また、蛍光体41の担持密度分布において、表示部12の鉛直方向および水平方向に区画された複数の微小表示領域12a,…,12aに対しては、照射光の光路長が最短となる照射位置を含む微小表示領域12aでの担持密度が最小となり、この微小表示領域12aから鉛直方向上方あるいは水平方向右方あるいは水平方向左方に離間することに伴い、微小表示領域12a毎に担持密度が最大値に向かい増大傾向に変化するように設定することにより、表示部12での表示輝度の均一化をより高い自由度で実現することができる。
【0025】
なお、上述した実施の形態では、フィルタ26は所定の透過率を有し、表示部12における蛍光体41の担持密度分布は光源21から表示部12の照射位置までの距離(つまり、照射光の光路長)に応じて変化するとしたが、これに限定されず、フィルタ26の透過率分布を不均一とし、表示部12における蛍光体41の担持密度分布を均一としてもよい。
例えば図8(a)に示すフィルタ26では、フィルタ26表面に平行な水平面での2次元直交座標系において各直交軸方向に区画された複数の領域毎に透過率が設定され、例えば照射光の光路長が最短となる光路を含む領域での透過率が最小となり、この領域から各直交軸方向に離間することに伴い、各領域毎に透過率が最大値(例えば、100%)に向かい増大傾向に変化している。
また、例えば図8(b)に示すフィルタ26では、フィルタ26表面に平行な水平面での透過率の等透過率線は、照射光の光路長が最短となる光路を中心とする略同心円状であり、この中心での透過率が最小となり、この中心からの距離が増大することに伴い、透過率が最大値(例えば、100%)に向かい増大傾向に変化している。
【0026】
この変形例では、表示部12での蛍光体41の担持密度分布が均一であっても、光源21から表示部12の照射位置までの距離に応じた照射光の減衰を相殺するようにして、各距離に対応する光路でのフィルタ26の透過率を各距離に応じて変化させることで、光源21から照射される照射光の照度を表示部12の全域に亘って均一にすることができ、これに伴い、照射光により励起された蛍光体41の発光により表示される画像の明るさを、表示部12の全域に亘って均一にすることができ、乗員による視認性を向上させることができる。
そして、表示部12での表示輝度の均一化を低コストで実現することができる。
【0027】
なお、上述した実施の形態では、ミラー23をMEMSミラーとしたが、これに限定されず、他のミラー、例えばDMD(Digital Mirror Device)等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る投射型表示装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る投射型表示装置を搭載した車両の車室内を側部から見た図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る投射型表示装置のミラーの構成図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る投射型表示装置の表示部の構成図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る投射型表示装置の表示部での蛍光体の担持濃度分布の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る投射型表示装置の表示部での蛍光体の担持濃度と蛍光強度との関係の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態の変形例に係る投射型表示装置の表示部での蛍光体の担持濃度分布の一例を示す図である。
【図8】図8(a),(b)は本発明の実施の形態に係る投射型表示装置のフィルタの透過率分布の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
10 投射型表示装置
12 表示部
12a 微小表示領域
21 光源
26 フィルタ
41 蛍光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、前記光源から照射される照射光により励起されて可視光を発する蛍光体が担持された表示部とを備える投射型表示装置であって、
前記表示部における前記照射光の照射位置での前記蛍光体の担持密度は、前記光源から前記照射位置までの距離に応じて変化していることを特徴とする投射型表示装置。
【請求項2】
前記距離が最長となる前記照射位置での前記担持密度は、濃度消光が生じる密度以下であることを特徴とする請求項1に記載の投射型表示装置。
【請求項3】
前記表示部における前記担持密度の等密度線は、前記距離が最短となる前記照射位置を中心とする略同心円状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の投射型表示装置。
【請求項4】
前記表示部は複数の微小表示領域からなり、
前記担持密度は、前記微小表示領域毎に設定された前記距離に応じて、前記微小表示領域毎に変化していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の投射型表示装置。
【請求項5】
光源と、前記光源から照射される照射光により励起されて可視光を発する蛍光体が担持された表示部とを備える投射型表示装置であって、
前記光源と前記表示部との間に配置され、前記光源から前記表示部における前記照射光の照射位置までの距離が最長となる光路での透過率が最大とされ、かつ、前記距離が短縮することに伴い前記距離に対応する前記光路での透過率が低下傾向に変化するフィルタを備えることを特徴とする投射型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−170876(P2008−170876A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6004(P2007−6004)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】