説明

抗アドヘシンに基づく受動免疫予防物

【課題】ETEC感染症に対する予防的保護を提供することのできる免疫グロブリンサプリメント、および抗アドヘシン免疫グロブリンを含む、ETECに対する受動予防処方物を製造する方法の提供。
【解決手段】エンテロトキシン生成大腸菌アドヘシン分子に対する初乳または乳免疫グロブリンからなる製薬組成物;並びに1つ以上のクラス5大腸菌采(fimbriae)アドヘシンまたはそのフラグメントからなる免疫原を牛乳生成家畜動物に投与する工程、該家畜動物から免疫グロブリン含有の初乳または乳を集める工程からなる該組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンテロトキシン生成大腸菌(Esherichia coli)により引き起こされる下痢に対して受動保護を付与するのに有用な薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エンテロトキシン生成大腸菌(ETEC)は、資源が限られた国々の乳幼児そしてまたこれらの地域への旅行者の下痢の主な原因である(非特許文献1および2)。ETECは、小腸の上皮細胞への付着並びに熱不安定性(LT)および/または熱安定性(ST)のエンテロトキシンの発現により病気を引き起こす(非特許文献3)。ETECは、典型的に、コロニー化ファクター(CF)として知られている繊維状の細菌の表面構造物をへて宿主細胞に付着する。20を超える異なるCFが明らかになっており、それらに含まれるものは、疑う余地なく病理発生の原因とみなされている(非特許文献4)。
【0003】
【非特許文献1】Black, R. E. 1990. Epidemiology of travelers’ diarrhea and relative importance of various pathogens. Rev Infect Dis 12 (Suppl 1):S73−S79.
【非特許文献2】Huilan, S., L. G. Zhen, M. M. Mathan, M. M. Mathew, J. Olarte, R. Espejo, U. Khin Maung, M. A.Ghafoor, M. A. Khan, Z. Sami, and et al. 1991. Etiology of acute diarrhoea among children in developing countries: a multicentre study in five countries. Bull World Health Organ 69:549−55.
【非特許文献3】Nataro, J. P., and J. B. Kaper. 1998. Diarrheagenic Escherichia coli. Clin Microbiol Rev 11:142−201.
【非特許文献4】Gaastra, W., and A. M. Svennerholm. 1996. Colonization factors of human enterotoxigenic Escherichia coli (ETEC). Trends Microbiol 4:444−452.
【0004】
コロニー化ファクター抗原I(CFA/I)について、病原性の役割に関する明確な証拠が存在しており、最初のヒト特異的なETEC CFとされる。CFA/Iは、遺伝的そして生化学的な特徴をともにする8つのETEC采(ETEC fimbriae)の群の原型である(非特許文献5,4,6,7)この群は、coli表面抗原I(CS1)、CS2、CS4、CS14、CS17、CS19および推定コロニー化ファクターO71(PCFO71)を含む。CFA/I,CSI及びCS2をエンコードする遺伝子群の完全なDNA配列は、発表されている(非特許文献8,9,10,11,12)。他の関連する采の2つのメジャーサブユニットに関する遺伝子が報告されている(非特許文献13、6)。CFA/I、CS1およびCS2の4つの遺伝子バイオアセンブリオペロンは、同様に構成され、ペリプラズムシャペロン、メジャー采サブユニット、外側の膜のアッシャー蛋白およびマイナーの采サブユニットを(この順で)エンコードする。CFA/Iアセンブリは、交替するシャペロン経路を経て生じ、その経路は、タイプ1の采形成の古典的なシャペロン・アッシャー経路、および他の繊維状の構造例えばタイプIVピリ線毛のそれとは異なる(非特許文献14、15)。メジャー采サブユニットの主要な配列に基づいて、CFA/Iおよび関連する采は、クラス5采と分類されている(非特許文献16)。
【0005】
【非特許文献5】Evans, D. G., R. P. Silver, D. J. Evans, Jr., D. G. Chase, and S. L. Gorbach. 1975. Plasmid−controlled colonization factor associated with virulence in Esherichia coli enterotoxigenic for humans. Infect Immun 12:656−667.
【非特許文献6】Grewal, H. M., H. Valvatne, M. K. Bhan, L. van Dijk, W. Gaastra, and H. Sommerfelt. 1997. A new putative fimbrial colonization factor, CS 19, of human enterotoxigenic Escherichia coli. Infect Immun 65:507−513
【非特許文献7】Khalil, S. B., F. J. Cassels, H. I. Shaheen, L. K. Pannell, K. A. Kamal, B. T. Pittner, M. Mansour, R. Frenck, S. J. Savarino, and P. L. F. 2000. Presented at the 100th General Meeting of the American Society for Microbiology, Los Angeles, CA.
【非特許文献8】Froehlich, B. J., A. Karakashian, L. R. Melsen, J. C. Wakefield, and J. R. Scott. 1994. CooC and CooD are required for assembly of CSl pili. MoI Microbiol 12:387−401.
【非特許文献9】Froehlich, B. J., A. Karakashian, H. Sakellaris, and J. R. Scott. 1995. Genes for CS2 pili of enterotoxigenic Escherichia coli and their interchangeability with those for CSl pili. Infect Immun 63:4849−56.
【非特許文献10】Jordi, B. J. A. M., G. A. Willshaw, A. M. van der Zeijst, and W. Gaastra. 1992. The complete nucleotide sequence of region 1 of the CF A/I fimbrial operon of human enterotoxigenic Escherichia coli. DNA Seq 2:257−263.
【非特許文献11】Perez−Casal, J., J. S. Swartley, and J. R. Scott. 1990. Gene encoding the major subunit of CSl pili of human enterotoxigenic Escherichia coli. Infect Immun 58:3594−3600.
【非特許文献12】Scott, J. R., J. C. Wakefield, P. W. Russell, P. E. Orndorff, and B. J. Froehlich. 1992. CooB is required for assembly but not transport of CSl pilin. MoI Microbiol 6:293−300
【非特許文献13】Gaastra, W., H. Sommerfelt, L. vanDijk, J. G. Kusters, A.M.Svennerholm, and H. M. Grewal. 2002. Antigenic variation within the subunit protein of members of the colonization factor antigen I group of fimbrial proteins in human enterotoxigenic Escherichia coli. Int J Med Microbiol 292:43−50.
【非特許文献14】Ramer, S. W., G. K. Schoolnik, C. Y. Wu, J. Hwang, S. A. Schmidt, and D. Bieber. 2002. The Type IV pilus assembly complex: Biogenic interactions among the bundle forming pilus proteins of enteropathogenic Escherichia coli. J Bacteriol 184:3457−65.
【非特許文献15】Soto, G. E., and S. J. Hultgren. 1999. Bacterial adhesins: common themes and variations in architecture and assembly. J Bacteriol 181:1059−1071.
【非特許文献16】Low, D., B. Braaten, and M. Van der Woude. 1996. Fimbriae, p. 146−157. In F. C. Neidhardt, R. Curtiss III, J. L. Ingraham, E. C. C. Lin, K. B. Low, B. Magasanik, W. S. Reznikoff, M. Riley, M. Schaechter, and H. E. Umbarger (ed.), Escherichia coli and Salmonella: Cellular and Molecular Biology, 2nd ed, vol. Volume 1. ASM Press, Washington, D. C.
【0006】
CS1の研究は、クラス5采の組成および機能の特徴の詳細を明らかにした(非特許文献17)。CS1の采の柄は、反復CooAメジャーサブユニットからなる。CooDマイナーサブユニットは、采の先端に局在しているといわれ、采全体の極めて小さい部分を占め、そして采の形成の開始を必要とする(非特許文献18)。メジャーサブユニットが結合を媒介することを示唆している初期の証拠(非特許文献19)とは逆に、最近の発見は、アドヘシンとしてマイナーサブユニットを意味ししかもCS1およびCFA/1采の生体外アドヘシンに必要な特異的アミノ酸残基を同定した(非特許文献20)。配列を決定されたこれらのメジャーサブユニットの推測された主なアミノ酸構造は、広範囲な類似性を共有する。しかし、未変性の采の血清学的交差反応性は制限されており、そして交差反応性のパターンは、メジャーサブユニットの系統発生的に規定された下位分類群と相関する(非特許文献13)。
【0007】
【非特許文献17】Sakellaris, H., and J. R. Scott. 1998. New tools in an old trade: CSl pilus morphogenesis. MoI Microbiol 30:681−7.
【非特許文献18】Sakellaris, H., V. R. Penumalli, and J. R. Scott. 1999. The level of expression of the minor pilin subunit, CooD, determines the number of CSl pili assembled on the cell surface of Escherichia coli. J Bacteriol 181:1694−7.
【非特許文献19】Buhler, T., H. Hoschutzky, and K. Jann. 1991. Analysis of colonization factor antigen I, an adhesin of enterotoxigenic Escherichia coli 078 :H11 : firnbrial morphology and location of the receptor−binding site. Infect Immun 59:3876−3882.
【非特許文献20】Sakellaris, H., G. P. Munson, and J. R. Scott. 1999. A conserved residue in the tip proteins of CSl and CF A/I pili of enterotoxigenic Escherichia coli that is essential for adherence. Proc Natl Acad Sci, USA 96:12828−12832.
【0008】
実際のアドヘシンとしてのクラス5采のマイナーサブユニットが意味するところにより、メジャーサブユニットのそれに関連する保存の程度に関して精査を行わねばならなくなる。CooDおよびそのホモログが、リガンド結合の必要性および/またはその免疫劣性(それ自体、采の組成によってメジャーサブユニット対マイナーサブユニットの極めて大きな比に起因する)により課される機能的な制約によって大きな類似性を維持することが推定された。クラス5ETEC采のマイナーおよびメジャーのサブユニット並びに2つのアセンブリ蛋白の進化的関係を調べる研究がなされた(非特許文献21)。進化的区別がクラス5のメジャー采サブユニットとマイナー采サブユニットとの間に存在すること、そしてマイナーサブユニットがアドヘシンとして機能することが立証された。これらの発見は、ワクチンに関連する研究に実際的な示唆をもたらすことになる。
【0009】
【非特許文献21】Anantha, Ravi P., A. L. McVeigh, L.H. Lee, M. K. Agnew, F.J. Cassels, D. A. Scott, T S. Whittam, and S. J. Savarino. 2004. Evolutionary and functional relationships of colonization factor antigen I and other class 5 adhesive fimbriae of enterotoxigenic Escherichia coli. Inf and lmm. 72: 7190−7201.
【0010】
CS4、CS14、CS17、CS19およびPCFO71をエンコードする遺伝子群のヌクレオチド配列は、モノクローナル抗体に基づく検出によりそれぞれの采について陽性とテストされたETECの野生型下痢関連単離物から決定された(非特許文献21)。新しく配列決定されたCS4、CS14、CS17およびCS19遺伝子群のメジャーサブユニット対立遺伝子は、それぞれ、遺伝子バンク(GenBank)に既に寄託された対応する遺伝子配列の1つ以上と99−100%のヌクレオチド配列の同一性を示したが、1対立遺伝子あたり4以下のヌクレオチドの相違があった。それぞれの遺伝子座は、CFA/Iクラスシャペロン、メジャーサブユニット、アシャーおよびマイナーサブユニットに相同性を有する蛋白をエンコードする4つのオープンリーディングフレームを有した。既に報告された(非特許文献13)ように、1つの例外は、CS14遺伝子群であり、それはシャペロン遺伝子の下流で2つのタンデムオープンリーディングフレームを含んだ。それらの予想された蛋白配列は、互いに94%のアミノ酸の同一性があり、そしてともに他のクラス5の采メジャーサブユニットに相同する。
【0011】
クラス5の采生合成に関係するすべての蛋白ホモログの推定アミノ酸配列の検討は、多くの基本的な類似性を明らかにしている。属全体で、ホモログのそれぞれの組み合わせは、一般に、ポリペプチドの長さ、質量および理論的等電点に関する物理化学的性質が類似している。関連する蛋白のすべては、タイプII分泌経路を経てペリプラスムへの転位を助けるアミノ末端シグナルペプチドを含む。メジャーサブユニット蛋白のいずれも、システィン残基を含まないが、6つのシスティン残基の数および位置は、マイナーサブユニットのすべてについて保存されるが、ただしこれら6つの残基の4つのみを含むY.pestisホモログ3802を除く。
【0012】
タイプIおよびP采は、古典的なシャペロン・アッシャー経路により構成される遺伝子的および構造的な詳細を明らかにするのに有用なモデルを有している(非特許文献23、24、25)。この研究で得られたものは、ドナー鎖相補性の原則の開発であり、そのプロセスでは、采サブユニットが、必須の消失したβ鎖の反復するサブユニット間の共有により相接するサブユニットと非共有結合的に結合する(非特許文献22、26)。証拠は、Haemophilus influenzae血液凝固ピリ線毛の折り畳みおよび4基立体配座の完全性(非特許文献28)そしてYersinia pestis被膜蛋白、非采蛋白ポリマー(非特許文献29)においてこの同じメカニズムを示唆している。これらの構造の両者は、古典的なシャペロン・アッシャー経路により構成されるタイプ1およびP采の遠いクラス1関連物である。進化的見地から、これは、ドナー鎖相補性のメカニズムが、それからこのクラスの現存の采が誘導された原始的な采システムで生じたことを示唆している。ドナー鎖相補性は、非共有結合的に結合したポリマー性の表面蛋白に関する蛋白折り畳みの問題に賢明な生物学的答えをもたらすが、古典的なアッシャー・シャペロン経路のそれら以外のアドヘシン采によるその応用は、立証されていない。
【0013】
【非特許文献22】Viboud, G. L, M. M. McConnell, A. Helander, and A. M. Svennerholm. 1996. Binding of enterotoxigenic Escherichia coli expressing different colonization factors to tissue−cultured Caco−2 cells and to isolated human enterocytes. Microb Pathogen 21:139 147.
【非特許文献23】Kuehn MJ, J. Heuser, S. Normark and SJ. Hultgren. 1992. P pili in uropathogenic E. coli are composite fibres with distinct fibrillar adhesive tips. Nature 356:252−5.
【非特許文献24】Sauer FG, K. Futterer, J.S. Pinkner, K.W. Dodson, SJ. Hultgren and G. Waksman. 1999. Structural basis of chaperone function and pilus biogenesis. Science 285:1058−61.
【非特許文献25】Choudhury D, A. Thompson, V. Stojanoff, et al. X−ray structure of the FimC−FimH chaperone−adhesin complex from uropathogenic Escherichia coli. Science 999;285:1061 6.
【非特許文献26】Barnhart MM, Pinkner JS, Soto GE, et al. From the cover: PapD−like chaperones provide the missing information for folding of pilin proteins. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2000;97:7709−14.
【非特許文献27】Sakellaris H, D.P. Balding and J.R. Scott. 1996. Assembly proteins of CSl pili of enterotoxigenic Escherichia coli. MoI. Microbiol. 21 :529−41.
【非特許文献28】Krasan GP, Sauer FG, Cutter D, et al. Evidence for donor strand complementation in the biogenesis of Haemophilus influenzae haemagglutinating pili. MoI. Microbiol. 2000;35:1335−47.
【非特許文献29】Zavialov AV, Kersley J, Korpela T, Zav’yalov VP, Maclntyre S and Knight SD. Donor strand complementation mechanism in the biogenesis of non−pilus systems. MoI. Microbiol. 2002;45:983−995.
【0014】
別のシャペロン経路および古典的なシャペロン・アッシャー経路により構成される采に共通なのは、サブユニットの間違った折り畳みおよび外側の膜における重合を行うアッシャー蛋白を排除するためのペリプラスムシャペロンの必要性である。これらの異なる経路の采アセンブリおよび構造成分が配列の類似性をもたないことは、それらが収斂進化の経路を経て生じてきたことを示す。それにもかかわらず、CFA/I構造サブユニットのコンピューターによる分析は、ドナー鎖相補性がまたシャペロンサブユニットおよびサブユニット・サブユニット相互作用を支配しているかもしれない可能性を示唆している。
【0015】
8つのETECクラス5采は、3つ(CFA/I、CS4およびCS14)、4つ(CS1、PCFO71、CS17およびCS19)および1つ(CS2)のメンバーの3つのサブクラスに分類された(それぞれ、サブクラス5a、5bおよび5cとする)(非特許文献21)。従来の報告は、CFA/I、CS2、CS4、CS14およびCS19を有するETECが、培養されたCaco−2細胞に付着性を有することを立証した(非特許文献6,22)。しかしながら、CFA/IおよびCS1のサブユニットのどの成分が付着を媒介するかについて、相反するデータが発表されている(非特許文献19、20)。
【0016】
どの采成分が付着を媒介するのに関係しているかというこの疑問へのアプローチは、2つの異なる生体外の付着モデルにおける、未変性のCFA/I采、CfaB(メジャーサブユニット)に対する抗体の付着阻害活性、そしてCfaE(マイナーサブユニット)の重複しないアミノ末端(残基23−211)およびカルボキシ末端(残基212−360)の半分に対する抗体の付着阻害活性を評価することであった。CFA/I付着の最も重要なドメインがアドヘシンCfaEのアミノ末端の半分にあることが立証された(非特許文献21)。
【0017】
上記に簡単に記載された研究は、CFA/Iおよび他のクラス5采のマイナーサブユニットが、受容体結合部分である証拠を提供している(非特許文献20,21)。これらの観察と一致して、采サブクラス5aおよび5b内で観察されるマイナーサブユニットの配列のダイバージェンスが低いレベルであるため(非特許文献20)、進化の関係は、これらの2つのサブクラスのそれぞれを現すマイナーサブユニットのアミノ末端の半分に対する抗体の交差反応性と相関した(非特許文献21)。これらの研究は、クラス5采のマイナーサブユニットが、抗付着免疫性を誘導するのに遙かに有効であり、そのため保護的抗体を誘導する重要な免疫原であることを強く示唆している(非特許文献21)。
【0018】
抗下痢ワクチンは、ETECにより生ずる下痢を含む下痢疾患に対する保護を付与する好ましい方法であろう。しかし、有効なワクチンを構築し承認することの複雑さのために、体内に保護を生ずる他の方法が探索されてきている。下痢の予防にかなり有望であるとされた手段は、下痢を起こす腸管病原体に対する免疫グロブリンの受動かつ経口の投与である。ETEC、Shigellaおよびロタウイルスに対する活性を有する製品は、抗クリプトスポリジウム症牛乳免疫グロブリン(BIgG)製品によるコントロールスタディで下痢を予防することを示している(非特許文献30−33)。その上、好ましい有望な結果は、抗クリプトスポリジウム症BIgG製品によるこのアプローチを使用して観察されている(非特許文献34、35)。
【0019】
【非特許文献30】Tacket, CO., G. Losonsky, H. Link, and M.M. Levine. 1988. Protection by milk immunoglobulin concentrate against oral challenge with enterotoxigenic Escherichia coli. N Engl J. Med. 318: 1240−1243.
【非特許文献31】Davidson, G.P., P.B. Whyte, E. Daniels, et al. 1989. Passive immunization of children with bovine colostrums containing antibodies to human rotavirus. Lancet 2: 709−712.
【非特許文献32】Tacket, CO., S. B. Binion, E. Bostwick, G. Losonsky, MJ. Roy and R. Edelman. 1992. Efficacy of bovine milk immunoglobulin concentrate in preventing illness after Shigella flexneri challenge. Am J. Trop. Med. Hyg. 47:276−283.
【非特許文献33】Freedman, DJ. CO. Tacket, A. Delehanty, D.R. Maneval, J. Nataro, and J.H. Crabb. 1998. Milk immunoglobulin with specific activity against purified colonization factor antigens can protect against oral challenge with enterotoxigenic Escherichia coli. J. Infect. Dis. 177:662−667.
【非特許文献34】Greenberg, P.D., J.P. Cello. 1996. Treatment of severe diarrhea caused by Cryptosporidium parvum with oral bovine immunoglobulin concentrate in patients with AIDS. J. Acquir Immune Defic Syndr Hum Retroviral 13:348−354.
【非特許文献35】Okhuysen, P.C. CL. Chappell, J. Crabb, L.M. Valdez, E.T. Douglass and H.L. DuPont. 1998. Prophylactic effect of bovine anti−Cryptosporidium hyperimmune colostrums immunoglobulin in healthy volunteers challenged with Cryptosporidium parvum. Clin. Infect. Dis 26:1324−1329.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従って、本発明の目的は、ETEC感染症に対する予防的保護を提供することのできる免疫グロブリンサプリメントである。マイナーサブユニット(アドヘシン)が、付着に直接関係のある采成分であることから、抗アドヘシン抗体の投与は、未変性の采または未変性の細菌に対して生じた抗体よりも明らかに大きな保護を付与するものと思われる。その上、本発明の他の目的は、抗アドヘシン免疫グロブリンを含む、ETECに対する受動予防処方物を製造する方法である。免疫グロブリンの製法における組み換えマイナー采サブユニットポリペプチドの使用は、未変性の采または細胞全体の使用よりも抗体の収量の増加並びに標準化をもたらすだろう。
【課題を解決するための手段】
【0021】
ワクチンは、潜在的に下痢の脅威にさらされる人々に抗下痢保護を付与する好ましい方法である。しかし、ETECに対して現在承認された有効なワクチンは存在しない。そのため、体内の保護手段は、ワクチンが開発されるまで、ウシまたは他の乳生産動物の初乳または乳から誘導された抗アドヘシン免疫グロブリンサプリメントの形の経口受動保護の投与である。
【0022】
本発明の目的は、クラス5エンテロトキシン生成大腸菌采アドヘシンに特異的な抗大腸菌抗体予防処方物である。
【0023】
本発明の他の目的は、CfaEおよびCsbDを含むクラス5大腸菌采アドヘシンに特異的な抗大腸菌抗体予防処方物を使用して受動免疫を付与する方法である。
【0024】
本発明の他の目的は、クラス5采アドヘシンに特異的な抗大腸菌抗体を含む食品サプリメントを投与することにより、エンテロトキシン生成大腸菌に対する受動免疫を付与する方法である。
【0025】
本発明のさらに他の目的は、家畜動物例えばウシに組み換えアドヘシンポリペプチドを投与することによって抗大腸菌アドヘシン乳抗体を製造する方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
ワクチンは、ETECにより生ずる下痢に対する長期の保護のための好ましい予防手段である。しかし、有効なワクチンの開発は、典型的に難しくそして時間が要する。その上、有効なETECワクチンが開発された後でも、ETECにより生ずる下痢に対する保護は、適切な投与方法が完成するまで、付与されない。それゆえ、受動予防手段をとるのに有効、安全かつ容易である必要がある。例えば、特に有望なアプローチは、牛乳免疫グロブリン(BIgG)製品の使用である(非特許文献30−33)。
【0027】
CFA/I構造サブユニットのコンピューターによる分析は、ドナー鎖相補性が、シャペロン・サブユニットおよびサブユニット・サブユニットの相互作用を支配することを示唆している。クラス5采のメジャーサブユニットは、β鎖を形成すると予想される非常に保存されたアミノ末端全体と共通する(図1)。その予想された構造および位置に基づいて、β鎖様構造は、アルファ鎖の軸に沿う隣接したメジャーサブユニット(例えばCfaB)、および采の先端のアドヘシン(例えばCfaE)に寄与する。CfaBおよびそのホモログのアミノ末端β鎖の非常に保存された性質は、タイプI采サブユニットのアミノ末端が、フィラメントのアセンブリの交換されたドナー鎖として機能する先例とともに、非共有結合的にCFA/Iサブユニットを結合するドナーβ鎖の良い候補として、これを示唆した。
【0028】
ETEC采(ETEC fimbriae)は、遺伝子的および構造的な分析に基づいて分類され、そして疾患に関連する多くの采は、CFA/I、CS17およびCS2を含むクラス5采の群に入る。クラス5采のアドヘシンは、それぞれ、認識可能な属に属するものとしてこれらのメンバーを明らかに区別する顕著な特徴を共有する。クラス5采は血清学的に区別可能であるが、それらは、それらがメジャーの柄形成サブユニット(例えばCFA/IのCfaB)およびマイナーの先端に位置するサブユニット(例えばCFA/IのCfaE)(われわれが小腸のアドヘシンとして働くことを見いだした)からなることで、同様なアーキテクチャーを有する。メジャーサブユニットおよびマイナーサブユニット(例えば采アドヘシン)のアミン酸配列の比較は、メジャーサブユニットに関する表1およびアドヘシン分子に関する表2に示されているように、強いアミノ酸配列の相関並びに配列の相同関係を明らかに示す。表1および表2において、影の領域は残基の類似性を示し、そして影のない領域は、残基の同一性を示す。表2に示されているように、采アドヘシンは、メジャーサブユニットと同じく、47%から98%に及ぶ高いレベルの残基の同一性を示す。さらに、采アドヘシンは、顕著なアミノ酸配列の保存を有し、メジャーサブユニットおよびマイナーサブユニットの両者のカルボキシ末端ドメインにおいて保存された構造モチーフ(すなわちベータ−ジッパーモチーフ)を含む。この構造は、これらの蛋白のC末端ドメインがサブユニット・サブユニットの相互作用に含まれることを示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
ETEC抗原の開発において、われわれは、立体配座が安定なコンストラクトを提供し、その場合CfaBのアミノ末端ドナーβ鎖がCfaEのシス(in cis)カルボキシ末端エクステンションを提供してこの分子に立体配座の安定性およびプロテアーゼ抵抗性をもたらし、ヒト赤血球を結合できる可溶性のモノマーを形成する。共通の構造モチーフを同定するために、クラス5ETEC采のメジャーおよびマイナーのサブユニットの8つのホモログのアミノ酸配列の複数の列を生じさせた。二次構造の予想アルゴリズムは、両方のサブユニットがそれらの長さに沿ってβ鎖の分布に富む両性の構造を形成することを指示する。共通マイナーサブユニット配列の26%は、17の散在するβ鎖からなるβ立体配座に折り畳まれるものと推測され、それは疎水性の芯を形成するものと予想されるだろう。サケラリス(Sakellaris)らは、アミノ酸の全体が、采のサブユニット・シャペロンの相互作用に役割をはたすクラスI采サブユニットのそれに類似するβ−ジッパーモチーフを形成することを既に示唆している(非特許文献27)。
【0032】
以下の例では、CfaBからのドナー鎖を使用してCfaE免疫原の生成を開示している。しかし、当業者は、この記述に従ってコンストラクトを操作して、他のアドヘシンコンストラクト例えばCsbD、CsfD、CsuD、CooD、CosD、CsdDおよびCotDと関連する他のクラス5メジャーサブユニットからのドナー鎖を使用して免疫原として働かせるものと思われる。メジャークラス5采サブユニットは、サブユニットのアミノ酸配列ドナーサブユニットに相当する対応する配列番号とともに表3にリストされる。表4は、クラス5アドヘシンのアミノ酸配列およびそれらのそれぞれの配列番号をリストする。
【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
本発明の態様の1つは、ETEC細菌のクラス5采アドヘシンに対する受動予防物の製造方法である。特定のクラス5采アドヘシンを使用する実施例は、本発明を説明するために提供される。しかし、他のクラス5采アドヘシンおよびそれらの関連するメジャーサブユニットも当業者により利用できる。
【実施例1】
【0036】
(抗CfaEウシ免疫グロブリンの製造)
上記のように、CfaBおよびそのホモログのアミノ末端β鎖の非常に保存された性質は、タイプI采サブユニットにおける他の構造/機能の研究とともに、CFA/Iサブユニットを結合するドナーβ鎖の良い候補としてこの構造を示唆していた。マイナーアドヘシンサブユニットに関するこの仮説をテストするために、プラスミドは操作されて、可撓性のヘアピンリンカー(DNKQ 配列番号10)次にCfaBのアミノ酸配列からなるC末端エクステンションを含むCfaE変異型を発現した(図2)。少なくとも12から約19のアミノ酸のCfaBドナー鎖の長さが、CfaEの測定可能な回収を得る必要があることが分かった。突然変異がβ鎖を破壊するために導入される12−19アミノ酸ドナー鎖を含むコンストラクトを使用する研究において、β鎖がC末端アミノ酸エクステンションにより達成される観察された安定性に重要であることが立証された。シスのCfaBによるC末端β鎖がシャペロン(例えばCfaA)アドヘシンコンプレックスの形成を除外することがさらに分かった。
【0037】
この例では、組み換えCfaE抗原は、CfaEポリペプチド配列(配列番号11)を融合し、配列番号1のアミノ酸1−19に相当する19アミノ酸CfaBドナー鎖にそのC末端で次に結合されるリンカーポリペプチド(配列番号10)のN末端アミノ酸配列へ配列番号18のヌクレオチド配列をエンコードすることによって、構築された。配列番号10がリンカーとして利用されたが、配列番号12および13を含む他のアミノ酸配列も使用できることが分かった。この例では、使用されるCfaBメジャーサブユニットドナー鎖は、配列番号20のヌクレオチド配列によりエンコードされる配列番号1に示される。しかし、12−19アミノ酸のドナー鎖が有意なCfaE回収に好適であるという観察に基づいて、12−19アミノ酸を含む組み換え抗原が利用できる。同様に、アミノ酸配列が抗CfaB采法エピトープを含む限り、配列番号11のすべてまたは一部を含む組み換えペプチドが構成できる。
【0038】
19アミノ酸メジャーサブユニット鎖を含むCfaEコンストラクトは、Gateway(商標)システム(Invitorogen、Carlsbad、CA)を使用して、生体外組み換えによりまずCfaEをプラスミドベクター中に挿入することによって構成された。以下の配列を有するプライマーは、pDONR207(商標);dsc−CfaE13−1(前方)、5′−TCGACAATAAACAAGTAGAGAAAAATATTACTGTAACAGCTAGTGTTGATCCTTAGC−3′(配列番号14);およびdsc−CfaE13−2(逆)、5′−TCGAGCTAAGGATCAACACTAGCTGTTACAGTAATATTTTTCTCTACTTGTTTATTG−3′(配列番号15)中への最初のクローニングに使用された。attB組み換え部位を隣接するPCR生成物は、GatewayBP(商標)反応を使用してドナーベクターpDONR201(商標)(Gateway(商標)Technology,Invitrogen、CA)中にクローンされて、エントリーベクターpRA13.2を生じた。Gateway LR(商標)反応では、遺伝子配列は、pRA13.2から、変性された発現ベクターpDEST14−Kn′(T7プロモーターからの未変性発現のためのベクター)中にさらにサブクローンされて、プラスミドpRA14.2を生じた。pDEST14−Kn′ベクターは、カナマイシン抵抗によりアンピシリンを置換することによりpDEST14(商標)(Gateway(商標)Technology,Invitrogen、CA)を変性することにより構成された。正確なCfaEの存在は、配列の分析によって確認された。E.coli株BL21SI(商標)(Invitrogen、Carlbad、CA)を、pRA14.1および関連するCfaEドナーサブユニット相補性コンストラクトの発現に使用した。
【0039】
上記の方法は、CfaE/ドナー鎖組み換えコンストラクトを構成するのに利用された。しかし、他のアドヘシン分子を含むコンストラクトも構築でき、表1にリストされたメジャーサブユニットから適切なドナー鎖と関連して、マイナーサブユニットCsfD、CsuD、CooD、CosD、CsdD,CsbDおよびCotDを含む。例えば、組み換えCsbDコンストラクトは、配列番号21のヌクレオチド配列をエンコードするポリペプチド配列配列番号6のCsbAメジャーサブユニットドナー鎖に、配列番号10のリンカーポリペプチドを経て、C末端で融合した配列番号22のすべてまたは一部からなるCsbDポリペプチド配列からなるようにデザインされた。
【0040】
(大きなスケールによる抗原生産のためのpET/アドヘシンコンストラクトの開発)
dsc19CfaEをエンコードするDNAコンストラクトは、CfaBドナー鎖の後にカルボキシ末端ポリヒスチジン尾部を配合する変異型CfaEコンストラクトをエンコードするために、次にpDEST14(商標)ベクターから除去され、そしてpET24(a)(商標)中に挿入された。このコンストラクトは、配列番号24のポリペプチド配列を有し、dsc19CfaE(His)と命名され、そして配列番号23のヌクレオチド配列によりエンコードされる。
【0041】
dsc19CfaE挿入断片の構築は、Ndel含有前方プライマーおよびXhol含有逆プライマー(それぞれ、配列番号16および17)を使用してポリメラーゼ鎖反応によりpDEST14ベクターを増幅することにより実施された。dsc19CfaEコード領域は、Ndel/Xhol制限pET24aプラスミド中に指向して連結された。pET24a(商標)プラスミドを含む挿入断片は、NovaBlue−3(商標)BL21(EMD Biosciences、Novagen(商標)Brand、Madison、WI)細菌を形質転換するのに使用された。形質転換されたコロニーは、次にプラスミド含有細菌を増殖するために選択かつ再培養された。選択されたコロニーからのプラスミド挿入断片を次に配列決定した。これらのプラスミドを次にBL21(DE3)(EMD Biosciences、Novagen(商標)Brand、Madison、WI)感応細胞中に挿入しそしてDNA挿入断片の配列を確認した。
【0042】
コンストラクトdsc19CfaE(His)に使用された方法と同様に、dsc19CsbDをエンコードするDNAコンストラクトを、またpET24g(商標)中にCsbDおよびCsbAドナー鎖配列に挿入することにより行った。このコンストラクトは、配列番号26のポリペプチド配列を有しそして配列番号25のヌクレオチド配列によりエンコードされる。コンストラクトをデザインするのに使用されるCsbAからのドナー鎖配列は、配列番号6として開示されている。CfaEコンストラクトと同様に、配列番号6のアミノ酸1−19に相当するCsbAからの19アミノ酸配列を使用した。しかし、12アミノ酸から19アミノ酸に及ぶドナー鎖配列も使用できる。
【0043】
(dsc19CfaE(His)の生成)
多数の成長条件および培地を、(dsc19CfaE(His)または他のアドヘシン/ドナー鎖コンストラクトの大きな生成のために利用する。例えば、培養の開始は、1−4時間、32−25℃の誘導温度で1.0μMから1.0mMのイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を使用して行うことができる。この実施例では、LB培地は、3時間32℃で1.0μM IPTGの濃度で利用された。しかしながら、APS(商標)および他の培地の処方も使用できる。dsc19CfaE(His)または他の組み換えアドヘシンコンストラクトは、Niカラムで精製される。コンストラクトの収量は、培地1Lあたり少なくとも0.45−0.9mgの蛋白である。
【0044】
(BIgGの製造)
組み換え抗原に対する抗体は、ホルスタインを含む家畜の初乳または乳で精製される。それぞれ500μgの抗原を含む2mLの量での合計3つの筋肉内ワクチン接種は、単一の部位で投与される。ワクチン接種は、分娩1−2週間前の最後の接種とは互いに約3週間離れて行われる。分娩時に、初めの4つの搾乳を集め、量を計りそしてサンプルを酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)により抗アドヘシン抗体についてテストした。図3は、抗CFA/I BIgGおよび抗CfaE BIgG製品の反応性を示す。CFA/I BIgGは、ELISAにより抗CfaEよりも高いレベルのCFA/I抗原に対する反応性を生ずる(図3A)。これは、ELISAプレートを被覆するのに使用されるCFA/I抗原が主としてCfaBメジャーサブユニットから作られそしてCfaBマイナーサブユニットはマイナー成分としてのみ存在するという事実による。予想されるように、抗CfaE BIgG製品は、AEMIまたは抗CFA/IBIgGに比べてCfaEと遙かに強い反応性を有する(図3B)。これは、CfaEによるウシの免疫化がアドヘシンCfaEに対する抗体の発生を極めて増大させることを確認させる。
【0045】
集めた生成物のさらなる処理を行うことができる。例えば、凍結した乳をチーズ製造工程により分画してカゼインを除く。最も免疫グロブリンを含む乳清区分を次にチーズカードから取りだしそして標準の乳製品製造の条件下で殺菌する。免疫グロブリンに富む乳清を次に濃縮しそして残存する乳脂肪を室温で遠心分離により除く。次に、リン脂質および非免疫グロブリン蛋白を取り出す(特許文献1)。最終の生成物を次に固体分15−20%に濃縮しそして塩を3回の緩衝液の交換に対する連続的透析濾過により除く。最終の生成物を次にELISAによりテストする。
【0046】
【特許文献1】Ruch, F.E., E.A. Acker. 1998. U.S. Patent No. 5,747,031 to ImmuCell Corporation.
【0047】
ETEC抗原に対するBIgGの抗体反応性の特徴を現すことに加えて、抗体の機能的活性を評価した。CFA/Iに関する1つ以上の受容体が規定されていないため、生体外での標的細胞に対するETECのアドヘシンに関する代理アッセイを使用した。或る采(CFA/Iを含む)を発現するETECは、マンノース抵抗性血液凝集アッセイ(MRHA)においてヒトおよび/またはウシの赤血球に付着しそして凝集する。これを、標的の真核生物の上皮細胞に対するETECの細胞全体、采または采の精製したマイナーサブユニットのアドヘシンのための代替マーカーとして使用される。血液凝集阻害(HAI)として記述されるこの現象は、標的細胞へのETECのアドヘシンを中和できる抗体のインディケーターである。
【0048】
図4では、ヒトの赤血球は、マンノース抵抗性方法(MRHA)においてCFA/I、CS4またはCS14を発現するETECにより凝集された。このMRHAは、抗CFA/I BIgGまたは抗CfaE BIgGにより細菌の前インキュベーションにより阻害できる。図4に示されるように、抗CFA/I BIgGまたは抗CfaE BIgGの両者は、凝集するヒト赤血球から相同の采を発現するETECの能力を阻害できる抗体を含んだ。図4は、異なるコロニー化ファクターを発現するETECによりウシ赤血球の中和する凝集に必要なBIgGの力価(mg IgG/mLとして示される)を示す。テストされたBIgG生成物の濃度は、IgGの最低の濃度が両方の生成物で等しいように調節された。そのため、データは、CFA/I、CS4またはCS14采を発現するETECによりMRHAを阻害するのに必要なIgGの濃度として示される。BIgG粉末に存在するウシIgGの約14−17μg/mLが、MRHAを阻害するのに生体外で必要である。
【0049】
強い阻害活性は、予想されるように抗CFA/Iによりもたらせられ、同等のレベルの阻害は、抗CfaEによりもたらせられる。重要なのは、抗CFA/Iおよび抗CfaEの両者が、CS4およびCS14に対する結合阻害の交差反応性を示すことである。これは、抗CfaE予防抗体が他の関連する抗原に対する保護を付与するのに有用性を有することを説明する。
【実施例2】
【0050】
(抗CfaD(CS17)ウシ免疫グロブリンの製造)
他のクラス5采アドヘシンの使用は、また顕在化する保護的受動抗体の生成として考えられる。さらなる説明として、CS17(すなわちCsbD)に対する抗体による阻害の結果が図5に示される。抗体を顕在化するのに使用される抗原は、CsbDポリペプチド(配列番号22)発現コンストラクトであった。コンストラクトは、上記の実施例1のCfaEに関するそれと同様に操作されたが、CsbD(配列番号19)をエンコードするヌクレオチド配列を用いた。コンストラクトは、dsc19CsbD[His]と命名された。ドナー鎖は、CsbA(配列番号7)の19アミノ酸からなった。
【0051】
図5で分かるように、CfaEに関するそれと同様に、CsbDに対する抗体は、MRHAを阻害するのに非常に能率的であった。また、CfaEについて観察されたそれと同様に、抗CsbD抗体もCS4およびCS2に対して交差保護をあたえる。
CS17およびCsbDに対するBIgGの機能的活性も、図4におけるように、評価された。これらの結果は、図6に画かれる。抗CfaEおよび抗CFA/Iについて観察されるそれと同様に、CS17およびCsbDの両者に対するBIgGは、顕著な阻害活性を示した。
【0052】
しかし、抗CS17BIgGに比べて、抗CfaE BIgG、抗CsbDについて異型の抗原に対してもさらに顕著な阻害活性が示された。これらの観察は、CfaEについて観察されたそれとともに、クラス5アドヘシン属内の制限された数の種のみが、有効な受動保護に必要であると思われる。
【実施例3】
【0053】
(ETEC采アドヘシンの特異的な域が免疫活性および安定性に重要である)
dscCfaEの結晶学的分析は、2つのドメイン、すなわちアドヘシン分子のアミノ末端セグメントにより形成されたアドヘシンドメインおよびC末端ピリ線毛ドメインからなる。2つのドメインは、3つのアミノ酸リンカーにより分離されている。采アドヘシンのこれらの域を理解する試みにおいて、アミノ酸置換の所在そして次の免疫反応性を分析した。CfaEにおけるアラニンによるアルギニン67またはアルギニン181の置換が分子の生体外の付着表現型を排除することが分かった。これらのアミノ酸の位置は、ドメインのアミノ末端の遠位の位置に存在する残基Arg181を有する分子の暴露された域にある。従って、CfaEのこの域および他の采アドヘシンの対応する域は、有効な免疫の誘導に重要である。表3は、8つのアドヘシンの位置を要約する。また表3に示されているのは、采アドヘシン分子の構造的安定性を付与するのに、結晶学的分析に基づいて重要性を増すドメインのその域である。
【0054】
【表5】

【0055】
未変性采アドヘシン分子のアドヘシンドメインの安定化は、メジャーサブユニットにより提供される。しかしながら、ピリ線毛のドメインなしに、采アドヘシンは、免疫反応性の随伴する保持により未変性分子よりも大きな立体配座の安定性を示す。未変性アドヘシン分子の投与の代わりに、アドヘシンドメインのみの投与は、抗采アドヘシン抗体のための別の免疫原である。それゆえ、例として、CfaE、CsbDおよびCotDアドヘシンドメインをエンコードするがピリ線毛ドメインを含まない組み換えアドヘシンドメインコンストラクトは、アドヘシンドメインのポリメラーゼ鎖反応増幅により構築されそしてpET24a(商標)中に挿入された。組み換え生成物のアミノ酸配列は、配列番号35,36および37に示されている。実施例1および2におけるようにポリヒスチジン尾部の配合は、次の発現された生成物の精製を助ける。
【実施例4】
【0056】
(ETECに対する予防としての抗采アドヘシンの投与)
クラス5采アドヘシンは、ETEC感染に対する予防保護の開発に使用できる。保護は、采アドヘシンそして未変性または組み換え大腸菌アドヘシンのいずれかの免疫ウシから初乳または乳製品を集めることによりもたらさられる。免疫化は、任意の数の方法によることができる。しかし、最良の方法は、それぞれ500μg以下の該アドヘシンを含む1−2mLの量を用いて、分娩1−2週間前の最後の投与から互いに3週間隔てた3回の筋肉内投与である。乳または初乳の採取は、任意のときでよいが、しかし、最適な結果を得るのは、採取が分娩1−2週間前になされたものである。
【0057】
予防としての抗アドヘシンウシ免疫グロブリンの投与は、0.1gのIgG/投与から20.0gのIgG/投与の摂取である。抗アドヘシンウシ初乳または乳の免疫グロブリンは、単独でまたは多数の飲料または食品例えばキャンディーと混合されて摂取される。免疫グロブリンは、また錠剤またはカプセルの形にされそして摂取できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】クラス5采のメジャー構造サブユニットにおける非常に保存されたβ鎖モチーフを示す。これは、以下に示される共通配列を有するメジャーサブユニットの成熟型のアミノ末端の複数の配列である。この範囲は、中断されたβ鎖モチーフを含む残基5−19を形成するものと予想される。また示されているのは、関連するポリペプチドの配列番号である。略称、Bcep、Burkholderia cepacia;Styp、Salmonella typhi;U、疎水性残基;x、任意の残基;Z、EまたはQ。
【図2】パネルA、長さが10−19残基変化するCfaBのN末端β鎖範囲からなるC末端エクステンションを有する独立したCfaE変異型コンストラクトのドメインを示す概略ダイアグラムである。それぞれのコンストラクトは、未変性のCfaE配列のC末端とドナーβ鎖との間に挿入された短い可撓性のリンカーペプチド(DNKQ)を含む。垂直の矢印は、プロリン(V7P)の何れかに変性されて二次β鎖モチーフを中断したドナー鎖バリンを示す。パネルB、CfaEを発現するように操作された一連の種および成熟CfaBのアミノ末端範囲の異なる長さを有するシスに相補された変異型からのペリプラスム濃縮物のウエスタンブロット分析である。使用された一次抗体製品は、CfaEに対するポリクローナルウサギ抗体であった。レーンは以下のコンストラクトからの製品に相当する。レーン1、dsc10CfaE;2,dsc11CfaE;3、dsc12CfaE;4、dsc13CfaE;5、dsc13CfaE[V7P];6、dsc14CfaE;7、dsc16CfaE;8、dsc19CfaE;9,CfaE。分子量マーカー(kD)は、左に示されている。パネルC、短いリンカー配列(すなわちDNKQ)、成熟CfaBのN末端からの19残基ドナー鎖および末端6ヒスチジンアフィニティタグからなるそのC末端でのエクステンションを有する、未変性CfaE配列(Sec依存N末端シグナル配列を含む)を含有するdsc19CfaE(His)の操作された成分の概略図である。
【図3A】ELISAによるCFA/I関連抗原のパネルを有する生成物の反応性を示す。
【図3B】ELISAによるCFA/I関連抗原のパネルを有する生成物の反応性を示す。
【図4】BIgG抗SfaEに対する抗体の生体外の機能的活性を示す。
【図5A】ELISAによるCS17関連抗原のパネルを有する生成物の反応性を示す。
【図5B】ELISAによるCS17関連抗原のパネルを有する生成物の反応性を示す。
【図6】BIgG抗CsbDの生体外の機能的活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンテロトキシン生成大腸菌アドヘシン分子に対する初乳または乳免疫グロブリンからなることを特徴とする製薬組成物。
【請求項2】
該アドヘシン分子がクラス5采から誘導される請求項1の製薬組成物。
【請求項3】
該アドヘシン分子が、CfaE、CsfD、CsuD、CooD、CosD、CsdD、CsbDおよびCotDからなる群から選ばれる1つ以上の采マイナーサブユニットである請求項1の製薬組成物。
【請求項4】
a.1つ以上のクラス5大腸菌采アドヘシンまたはそのフラグメントからなる免疫原を牛乳生成家畜動物に投与する工程、
b.該家畜動物から免疫グロブリン含有初乳または乳を集める工程
からなることを特徴とする請求項1の抗エンテロトキシン生成大腸菌組成物を製造する方法。
【請求項5】
該採集初乳または乳中の抗アドヘシン免疫グロブリンの濃度が、該受動予防の1投与あたり0.1gから20.0gのIgGに調節される請求項4の方法。
【請求項6】
該家畜がウシまたはヤギである請求項4の方法。
【請求項7】
該アドヘシンが、CfaE、CsfD、CsuD、CooD、CosD、CsdD、CsbDおよびCotDからなる群から選ばれる請求項4の方法。
【請求項8】
該免疫原が、またCfaB、CsfA、CsuA1、CsuA2、CooA、CosA、CsbAおよびCotBからなる群から選ばれる1つ以上の大腸菌メジャー采サブユニットからなる請求項4の方法。
【請求項9】
該免疫原が、大腸菌采アドヘシンドメイン、並びに配列番号35、配列番号36および配列番号37からなる群から選ばれるアミノ酸配列からなるポリヒスチジン尾部融合ポリペプチドである請求項4の方法。
【請求項10】
該大腸菌采アドヘシンが、該大腸菌メジャー采サブユニットにそのC末端で操作可能に結合しているリンカーにそのC末端で結合している請求項8の方法。
【請求項11】
該大腸菌采アドヘシンが、アドヘシンポリペプチドのモノマーまたはポリマーである請求項10の方法。
【請求項12】
該リンカーが、配列番号10、12および13からなる群から選ばれるアミノ酸配列からなる請求項10の方法。
【請求項13】
該采アドヘシンが、CfaE、CsfD、CsuD、CooD、CosD、CsdD、CsbDおよびCotDから選ばれる請求項10の方法。
【請求項14】
該メジャー采サブユニットが、CfaB、CsfA、CsuA1、CsuA2、CooD、CosA、CsbA、CsdAおよびCotBからなる群から選ばれる請求項10の方法。
【請求項15】
該免疫原が、該大腸菌メジャー采サブユニットのC−末端で結合したポリヒスチジン尾部を含む請求項10の方法。
【請求項16】
該采アドヘシンが、配列番号11、配列番号22、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32またはこれらのフラグメントから選ばれるアミノ酸配列である請求項13の方法。
【請求項17】
該CfaEが、配列番号18のヌクレオチド配列のすべてまたは一部によりエンコードされた配列番号11のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる請求項13の方法。
【請求項18】
該CsbDが、配列番号19のヌクレオチド配列によりエンコードされた配列番号22のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる請求項13の方法。
【請求項19】
該CotDが、配列番号32のアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる請求項13の方法。
【請求項20】
該大腸菌采アドヘシンが、配列番号11、配列番号22、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32からなる群から選ばれる配列のアミノ酸58−185からなる請求項13の方法。
【請求項21】
該大腸菌采アドヘシンが、配列番号11、配列番号22、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32からなる群から選ばれる配列のアミノ酸14−205からなる請求項13の方法。
【請求項22】
該メジャー采サブユニットが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8および配列番号9からなる群から選ばれるアミノ酸配列である請求項14の方法。
【請求項23】
該免疫原が、配列番号23によりエンコードされた配列番号24並びに配列番号25および配列番号34によりエンコードされた配列番号26からなる群から選ばれるアミノ酸配列からなるポリヒスチジン尾部を含む融合ポリペプチドである請求項15の方法。
【請求項24】
該メジャー采サブユニットが、ヌクレオチド配列配列番号20によりエンコードされた配列番号1のポリペプチド配列を有するCfaBである請求項17の方法。
【請求項25】
該メジャー采サブユニットが、ヌクレオチド配列配列番号21によりエンコードされた配列番号7のポリペプチド配列を有するCsbAである請求項18の方法。
【請求項26】
該メジャー采サブユニットが、配列番号9のポリペプチド配列を有するCotAである請求項19の方法。
【請求項27】
a.乳産出動物の初乳または乳にアドヘシン特異性抗体を誘導するように未変性または組み換え大腸菌アドヘシンからなる免疫原を該乳産出動物に投与し、
b.該アドヘシン特異性抗体を含む該初乳または乳を集め、
c.1投与あたり0.1gから20.0gのIgGの投与量で、該牛乳抗アドヘシン免疫グロブリンの投与物を経口投与する
ことを特徴とするエンテロトキシン生成大腸菌に受動免疫を付与する方法。
【請求項28】
該投与物が、飲料または食品中で該初乳または乳の抗アドヘシン免疫グロブリンを混合することにより投与される請求項27の方法。
【請求項29】
該投与物がカプセルまたは錠剤の形で投与される請求項27の方法。



















【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−545698(P2008−545698A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513662(P2008−513662)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【国際出願番号】PCT/US2006/020064
【国際公開番号】WO2006/127798
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(507386139)アメリカ合衆国 (6)
【Fターム(参考)】