説明

抗アミロイド免疫原性組成物、方法、および使用

本発明は、キャリア、好ましくは細菌チオレドキシン(Trx)の活性ループ部位(提示部位)内に、Aβ42の断片を有するB細胞エピトープをタンデム多量体化することにより取得される免疫原性組換え体を提供する。好ましくは介在性のアミノ酸リンカーを有する、Aβ42断片の複数のコピーを有するポリペプチドを構築し、アジュバントとの併用でマウスに注射した。誘導された抗体は、AD老人斑内の原繊維および/またはオリゴマーAβに選択的に結合することが見出された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、Aβ42の断片と、キャリアとを含む免疫原性構築体であって、該断片がキャリアの活性ループ部位(提示部位)内に位置決めされていることを特徴とするキャリアとを含む免疫原性構築体、その産生方法、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
アルツハイマー病(AD)などのアミロイド形成性疾患は、高齢者の認知症の主原因として認識されている。ADにおける認知能力の衰えは、脳内の病理組織学的変化と関連しており、最も関連性が高いのは、アミロイド斑および神経原繊維濃縮体の形成である。
【0003】
アミロイド斑は、多数のタンパク質を含有するが、主要成分としてアミロイド−β(Aβ)ペプチドを有する。Aβペプチドの形成、およびその結果であるAβアミロイド斑は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の異常切断から生じる。
【0004】
現在、ADの進行を遅らせるまたは改善させる幾つかの薬理学的手法が開発されている。幾つかの手法はAβペプチドの代謝産生を阻害することを対象とし、他の手法はAD罹患患者の脳内でのAβアミロイドの凝集を防止することを対象としている。
【0005】
しかしながら、最も有望な手法は、Aβに対する免疫応答を引き起こすことができる抗原(能動免疫)またはAβに対する抗体(受動免疫)のいずれか一方の投与により、脳からAβ斑の除去を促進させることを対象とする。
【0006】
通常、抗原または免疫原は、免疫系の種々の構成要素に認識され相互作用する固有の抗原部位または「エピトープ」を含有する高分子である。通常、それらは、好適なキャリアに結合した短ペプチドなどの低分子または「ハプテン」を含む。キャリアは、典型的には、投与時に生体内で免疫応答を引き起こし得る、より高分子量のタンパク質である。
【0007】
免疫応答において、抗体は、ヘルパーT(TH)細胞と協調してBリンパ球により産生され、分泌される。ハプテン−キャリア系の大多数では、B細胞がハプテンおよびキャリアの両者に特異的な抗体を産生する。それらの場合、Tリンパ球は、キャリア上に特異的な結合ドメインを有するが、単独でハプテンを認識することはないであろう。ある種の相乗作用で、BおよびT細胞は、協調してハプテン特異的な抗体応答を誘導する。
【0008】
したがって、効果的な抗原を構築する際に、適切なキャリアおよび適切なハプテンを選択することは、強固で選択的な免疫原性応答を保証するのに極めて重要である。抗原の安全性も極めて重要である。例えば、凝集前のAβ42および免疫アジュバントQS−21により構成された、有望ワクチンAN−1792をAD患者に投与すると、治療を受けた患者の約6%に重篤な髄膜脳炎を引き起こした。細胞傷害性T細胞の中枢活性化および自己免疫反応の両者が、毒性機序の可能性として提唱されている。非凝集のAβ種は、神経活動に生理学的役割を有するため、内在性の単量体Aβに対する免疫応答は有害であり得る。
【0009】
それ故、非常に重要なのは、ハプテンおよびキャリアの両方を適切に選択して、有害なAβ種に対する抗体の選択性を保証し、自己免疫毒性を防止することである。
【0010】
WO2005058940は、Aβペプチドまたはその断片を含むペプチド免疫原を、タンパク質/ポリペプチドキャリアに抱合することを提唱している。
【0011】
免疫原性構築体は、キャリアのアミノ酸残基の官能基を誘導体化する化学的方法により産生され、誘導体化されたが抱合しなかった任意のアミノ酸残基の官能基はキャッピングを経て不活性化され、それらが他の分子と反応しないようにブロックされる。そのような方法では、Aβ断片がキャリアのアミノ酸側鎖に結合している免疫原が生じる。WO2005058940においては、幾つかの異なるキャリアおよびハプテンが提唱されているが、それらの生体内での病理組織学的な有効性は示されていない。
【0012】
KIM,H.D.らは、Biochem.Biophys.Res.Commun.第336巻、84〜92頁において、スキャフォールドされていない11回反復したAβ1〜6で構成される抗AβDNAワクチンを提唱している。
【0013】
そのような構築体は、単量体の、オリゴマーの、および原繊維のAβ42種を無差別に認識する抗体を産生する。
【0014】
一般に、Aβ42の異なる会合状態(単量体、オリゴマー、または原繊維)に対する免疫原の選択的標的化は、これまで達成されていない。
【0015】
上記の考察を鑑みると、ADまたはダウン症などの他のアミロイド形成性疾患に罹患した患者の脳内で、Aβアミロイドの凝集を防止する治療用ワクチン組成物に使用され得る、安全で効果的な免疫原性構築体の開発が未だに必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、Aβ断片が、キャリアの末端に結合されるのではなく、キャリアの活性ループ部位(提示部位)内に位置決めされていることを特徴とする組換え免疫原性構築体を提供する。該ペプチドは、キャリア、好ましくはチオレドキシン(Trx)の活性ループ部位(提示部位)内に、Aβ42の断片を有するB細胞エピトープをタンデム多量体化することにより取得される。
【0017】
本発明の免疫原は、アミロイド形成性疾患の最も直接的な原因物質として近年指摘されている、Aβアミロイドの神経毒性オリゴマー種を認識する抗体を誘発することが見出された。
【0018】
この能力は、キャリア内にAβアミロイドを有する免疫原を構築することに関連している。そのような構成は、免疫原性タンパク質の正確な折りたたみをある程度可能にし、より効果的にAβアミロイドを免疫系に提示する。免疫原が、1つを超えるAβアミロイド断片、特に特定数の該断片を有するとき、Aβアミロイドオリゴマーに対する免疫原の類似性は、選択性を向上させるだけでなく、その有効性をさらに向上させると考えられる。
【0019】
さらに、キャリアと断片との間のリンカーは、ペプチドエピトープの会合状態の維持を支援する。
【0020】
発明の概要
本発明は、Aβ42の免疫優性B細胞エピトープを有する断片と、該断片がキャリアの活性ループ部位(提示部位)内に位置決めされていることを特徴とするキャリアとを含む免疫原性構築体(以下、免疫原とも記す)を提供する。キャリアは、好ましくはチオレドキシンであり、Aβ断片は、有利には30アミノ酸残基未満、好ましくは20アミノ酸未満のN末端断片、より好ましくはAβ1〜15である。
【0021】
さらにより好ましくは、免疫原性構築体は、1つを超える、好ましくは2つから16の断片、より好ましくは4つの断片を有する。
【0022】
本発明は、該免疫原を構築する方法も提供し、この方法は、キャリアの提示内にAβ42の断片、好ましくは30アミノ酸残基未満のN末端断片を有するB細胞エピトープを、リンカーを援用してタンデム多量体化することを含む。
【0023】
別の態様では、本発明は、アミロイド形成性疾患に対する能動ワクチン接種用の該免疫原を含む組成物を提供する。
【0024】
さらに別の態様では、本発明は、アミロイド形成性疾患に対する受動ワクチンとして使用するために、抗体、好ましくはモノクローナル抗体を開発するための該免疫原の使用を提供する。
【0025】
図面の説明
図1aは、本発明に従ったTrx(Aβ1〜15−Gly−Gly−Pro)n構築体を表す。
【0026】
図1bは、Trx提示のAβ1〜15の複製を1つ、4つ、または8つ有する構築体の、金属アフィニティクロマトグラフィーによる均質化精製を表す。
【0027】
図1cは、本発明の実施形態に従った免疫原によって誘発された抗Aβ抗体量を表す。
【0028】
図1dは、本発明の実施形態に従った免疫原のTh2極性応答を表す。
【0029】
図2a−b−cは、本発明の実施形態に従った免疫原で免疫されたマウス由来の血清で処理されたヒトの脳切片を表す。
【0030】
図3は、本発明の実施形態に従った免疫原の優先的結合を表すAFM画像を表す。
【0031】
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明は、少なくとも1つのAβ42断片を有するキャリアを含む免疫原性構築体(または免疫原)を提供する。該断片は、該断片を立体配置的に安定させるキャリアの表面露出領域(活性ループ部位または提示部位)内に位置決めされている。
【0032】
構築体の正確なサイズおよび化学的均質性は、ゲル電気泳動法および質量分析法の両方により定期的に決定される。
【0033】
構築体の構造は、分析的技術により決定してもよいが、核磁気共鳴法(NMR)が好ましく使用される。
【0034】
キャリアは、好ましくはチオレドキシン(Trx)である。Trxが好適なのは、サイズが小さいこと(109アミノ酸)と、ペプチド提示能力と、マウスT細胞の増殖を刺激し得る無毒性の免疫促進物質として作用する能力とを有するためである。しかしながら、他のキャリアも使用することができる。
【0035】
Aβアミロイド断片とは、N末端であり、有利には30アミノ酸残基未満、好ましくは20アミノ酸未満を有するN末端断片であり、より好ましくは、アミノ酸の1文字コードに従って、以下の表1に記載のAβ1〜3、1〜4、1〜5、1〜6、1〜7、1〜8、1〜9、1〜10、1〜11、1〜12、1〜13、1〜14、1〜15からなる群から選択される。好ましくは、Aβアミロイド断片は、Aβ1〜15である。
【0036】
有利には、本発明の免疫原性構築体は、1つを超える、好ましくは2つから16の断片、より好ましくは4つの断片を有する。
【0037】
好ましい実施形態では、断片は、接合エピトープの形成を防止するためにリンカーを介してキャリアに結合されている。該リンカーは、短いアミノ酸配列、好ましくは1つ〜5つのアミノ酸残基で構成されるリンカー、より好ましくは、グリシン−グリシン−プロリン(Gly−Gly−Pro)である。しかしながら、グリシン−プロリン−グリシン−プロリン−グリシン(Gly−Pro−Gly−Pro−Gly)またはセリン−グリシン−セリン−グリシン(Ser−Gly−Ser−Gly)などの他のリンカーも使用できる。
【0038】
好ましい免疫原構築体は、4つのAβ1〜15断片に、随意には好適なリンカーを介して連結されたチオレドキシンからなり、以下、Trx(Aβ1〜15)4と記す。
【0039】
該免疫原を構築する方法は、キャリアを好適な細菌内で増幅することと、キャリアを、pET系を通じてタンパク質を発現するためのT7プロモーターを含む好適なベクターに挿入することと;Aβ断片のDNAインサートを調製することと;キャリア−ベクターおよびAβ断片のDNAインサートを制限切断およびライゲーションすることとを含むクローニング法である。
【0040】
好ましくは、Aβ断片のDNAインサートは、アミノ酸リンカーを含む。
【0041】
多量体を調製するときはいつでも、Aβ断片のDNAインサートを過剰量で使用する。
【0042】
【表1】

【0043】
本発明の好ましい免疫原性構築体は、β−アミロイド脳病理を誘導したトランスジェニックマウスに、4カ月間、月に1度注射すると、海馬および大脳皮質内のAβ斑の数とサイズを減少させると思われる。さらに、本発明の好ましい免疫原性構築体は、Aβ42の特定の種を認識する抗体を誘発することを見出した。
【0044】
該抗体は、海馬内に注射すると、トランスジェニックマウスの海馬および皮質内のAβ42陽性斑を除去する能力があり、該除去効果は、オリゴマーのAβ種に特に顕著である。該抗体は、Aβに随伴する星状細胞増加を強力に改善することも見出した(実施例2)。
【0045】
したがって、本発明の免疫原性構築体は、アミロイド形成性疾患に対する能動および受動の両ワクチンとして使用される組成物を形成し得る。
【0046】
能動ワクチン接種用には、本発明の免疫原性構築体を含む薬学的組成物は、有利には、アジュバントと併用して投与する。
【0047】
アジュバントおよび/または担体の選択は、アジュバントを含有するワクチンの安定性、投与経路、服薬スケジュール、ワクチン接種される種にとってのアジュバントの有効性に依存し、ヒトでは、薬学的に許容されるアジュバントは、関連規制機関によりヒト投与が認可された、または認可され得るものである。例えば、完全フロインドアジュバントは、ヒト投与に好適ではない。好適なアジュバントには、3−デ−O−アシル化モノホスホリルリピドA(MPL)と、ムラミールジペプチドと、QS21およびクィルA(Quil A)などのサポニンとが挙げられる。
【0048】
好ましい部類のアジュバントは、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどのアルミニウム塩(ミョウバン)である。さらに、アジュバントには、インターロイキン(IL−1、IL−2、およびIL−12)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインが挙げられる。
【0049】
アジュバントは、単一の組成物として免疫原と一緒に投与してもよく、または免疫原の投与前に、投与と同時に、もしくは投与後に、投与してもよい。随意には複数の異なるアジュバントを同時に使用してもよい。
【0050】
免疫原およびアジュバントは、同一のバイアル中、または別々のバイアル中のいずれかに詰めて供給し、使用前に混合してもよい。
【0051】
本発明の免疫原構築体を含む薬学的組成物は、他の多様な薬学的に許容される構成要素も含んでよい。「Remington’s Pharmaceutical Science」(第15版、Mack Publishing Company、Easton、Pennsylvania、1980年)を参照。
【0052】
好ましい薬学的形態は、目的とする投与方法および治療への応用に依存する。組成物は、所望の製剤に依存して、薬学的に許容される無毒性の担体または希釈剤も含んでよく、それらは、動物またはヒト投与用の薬学的組成物を製剤するために一般的に使用される媒体と定義される。
【0053】
希釈剤は、その組合せの生物学的活性に影響を与えないように選択する。そのような希釈剤の例には、蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、およびハンクス液がある。
【0054】
非経口投与のためには、本発明の免疫原性構築体は、水、油類、食塩水、グリセロール、またはエタノールなどの滅菌液体であり得る、生理学的に許容され、薬学的担体を含む希釈剤中の物質の、注射投薬可能な溶液または懸濁液として投与できる。
【0055】
加えて、潤滑または乳化剤、界面活性剤、pH緩衝物質などの補助物質が、組成物中に存在してもよい。
【0056】
本発明の組成物は、注射剤として、液状の溶液または懸濁液のいずれかとして調製することができ、注射前に液状媒体に溶解または懸濁するのに好適な固形物の形態を調製することもできる。
【0057】
本発明の免疫原性構築体は、活性成分の徐放を可能にするように製剤され得るデポー剤注射または移植調製の形態で投与することができる。
【0058】
他の投与方法に好適な製剤には、さらに、経口、経鼻、および経肺製剤と、坐剤と、経皮製剤とが挙げられる。
【0059】
受動ワクチン接種用には、モルモットまたは他の動物種などの哺乳動物中に組成物を注射し、その結果生じる抗体を精製し、引き続きヒトに注射する。
【0060】
好ましくは、抗体はモノクローナル抗体であり、動物をTrx(Aβ1〜15)4免疫原性構築体で免疫することにより産生する。該抗体は、アミロイド形成性疾患、特にアルツハイマー病の予防および治療用に使用する。
【0061】
実施例1
様々なTrxAβ免疫原性構築体の調製および様々な抗TrxAβ抗体の効果の生体外評価
Trx(Aβ1〜15)nの構築用に、Trxコード配列をファージT7プロモーターの制御下に有する修飾された受容ベクターに対して、過剰量のAβ1〜15DNAインサートを使用することに基づくクローニング戦略を使用した(図1a)。Trx提示のAβ1〜15の複製を1つ、4つ、または8つ有する構築体を単離して、対応するポリペプチドを発現させるために使用し、次いでそれらのポリペプチドを、金属アフィニティクロマトグラフィーにより均質になるまで精製した(図1b)。
【0062】
正しく構築されたAβ1〜15多量体を産生する手段となるのは、介在性のGly−Gly−Proリンカーをコードする末端配列をAβ1〜15DNAに組み込み、したがって、接合性エピトープ形成を防止することだけでなく、Trx配列内に存在する特異CpoI部位(アミノ酸残基34〜35に対応し、5’...CG/GT(A)CCG...3’と同定される、ヌクレオチド位置99〜105)の方向性およびインフレーム融合能力であった。
【0063】
Aβ42全長ペプチドの単一の複製を有する第4の構築体(TrxAβ42)を同様に調製した。Trx(Aβ1〜15)nポリペプチドは、Aβ1〜15の多量体度にかかわらず全て可溶性であるが、TrxAβ42タンパク質のほとんどは、最終的には封入体中で不溶性の形態をとる(非図示)。それ故、Aβ42は、細菌細胞の不均質的状況においてはTrxに融合されているときでも、可溶性が低いと思われる。
【0064】
雄BALB/cマウス10匹ずつの5群を、ヒト使用に認可されたアジュバントであるミョウバンで全てを補完した、10nmolの上記Trx(Aβ15)nポリペプチド、または当量の凝集前の合成Aβ42もしくはTrxAβ42で処置した(図1c)。
【0065】
緩衝液(PBS)のみまたはミョウバンを含まないAβ42を注射した追加の2群は、陰性対照の役目を果たした。4回目の注射の2週間後に血清を回収し、無作為に対で貯留し、凝集したAβ42を標的抗原として使用した酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)で分析した。図1cに表したように、TrxAβ1〜15によっては誘発されなかったが、Trx(Aβ1〜15)4およびTrx(Aβ1〜15)8により誘発された抗Aβ抗体の平均量は、擬似処置された対照の平均量より有意に高く(P<0.05;)、遊離のAβ42だけでなくTrxAβ42が作用したAβ42処置群の平均量と類似していた。
【0066】
Pとは、ベイジアン(Bayesian)または正規化標準偏差を使用し、対数変換した対照および実験データのt検定に関連するp値であり、Pは、統計的検定で取得された結果が、測定間に真正な関係があるためではなく偶然によるものである確率を示す。
【0067】
ミョウバンアジュバントに典型的な強度の抗炎症性Th2極性応答は、イソタイプ判別(isotype profiling)により明らかにした(図1d)。Gクラスおよびサブクラス1の免疫グロブリン(IgG1)の出現が全ての抗原で観察されたが、IgG1/IgG2(Gクラスおよびサブクラス2の免疫グロブリン)の比率は、非抱合型Aβ42より、多量体型Trx(Aβ1〜15)nおよびTrxAβ42免疫抱合体のほうが、再現性よく高かった(P<0.05)。
【0068】
次に、Trx(Aβ1〜15)nに応答して産生された抗血清が、アミロイド斑に結合する能力を検討した。この特性は、現在、抗Aβ抗体の生体内での有効性を予見する最良の指標であると考えられているが、以前に報告されている全ての抗Aβ抗血清(例えば、m266およびAβ42のC末端部分を標的とする他の抗体)とは共有されない。
【0069】
図2a〜bに表されているように、4量体または8量体形態のTrx(Aβ1〜15)nで免疫されたマウス由来の血清は、1/1000希釈まで、アミロイド斑に結合した。
【0070】
成熟および未成熟斑の他に、大型の老人斑が、抗多量体Trx(Aβ1〜15)n抗体によって標識された。特に老人斑の核内での広範な免疫染色が、Aβ40を抗原として使用しウサギ内で産生された、陽性対照の抗汎βアミロイド抗血清で観察された(非図示)。比較して、擬似処置した動物由来の血清、または単量体Aβ1〜15で免疫したマウス由来の血清のいずれでも、斑は検出されなかった(図2c)。
【0071】
最後に、あらかじめ決められた条件下でインビトロ(in vitro)で産生され、原子間力顕微鏡法(AFM)により確認されたAβ42の異なる会合状態(単量体、オリゴマー、および原繊維)に対する、種々の抗Trx(Aβ1〜15)n抗体の能力を、免疫ブロット法を使って評価した。この分析の結果は、図3に示され、この図は、抗Trx(Aβ1〜15)8抗体は3つのAβ42種の全てに結合するが、抗Trx(Aβ1〜15)4抗体は可溶性のオリゴマーおよび原繊維の両方に選択的に結合するが、Aβ42単量体には結合しないことを示す。際立って対照的には、単量体TrxAβ1〜15抗原に対して生じた抗体は、Aβ42原繊維を認識しないだけでなく、結合もしないことを示した。後者の観察は、これらの抗体が、AD斑中のAβ原繊維だけでなく、ELISA中のAβ42高次凝集体を認識できないことと一致している(図1cおよび2cを参照)。しかしながら、興味深いことには、抗単量体TrxAβ1〜15抗体は、Aβ42単量体およびオリゴマーに結合する(図3)。それ故、Trx(Aβ1〜15)4は、ミョウバン、Al(OH)3などの中強度のアジュバントと一緒に製剤されたときでさえ、良好な免疫原性活性を有する、T細胞エピトープが欠如した可溶性アミロイドβ誘導体である。また、シナプス毒性のあるAβ42オリゴマーおよび原繊維には結合するが、推測される生理的な単量体Aβ種には結合しない抗体を産生するTrx(Aβ1〜15)4の能力は重要である。
【0072】
他のペプチド免疫戦略と比較したTrx−dPIの主な利点は、その時間対効果および費用対効果、細胞毒性の欠如および化学的に均質な免疫抱合体の収率、直ちに検証され得るバッチごとの一貫性である。さらに、一度「リード抗原(lead antigen)」が同定されれば、追加的なペプチドエピトープの組込み、及びDNAワクチン接種目的でのベクター置換を含む、さらなる修飾を容易に適用できる。
【0073】
TrxAβ構築体。大腸菌チオレドキシンをコードする配列は、NdeIおよびBamHIの制限部位を与えるように設計されたプライマー1および2(表2)を使用したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅した。増幅した断片は、NdeIおよびBamHI制限酵素で同時消化し、同じ2酵素で消化したpET28b(登録商標)(ノバジェン(Novagen)社)にライゲーションし、その結果生じたベクターは、pT7Kan−Trxとして設計され、NおよびC末端にHis6タグが挿入された細菌チオレドキシンのバージョンを、カナマイシン耐性マーカーと共に内包する。
【0074】
Trxコード配列内に存在するCpoIの特異部位(アミノ酸残基34〜35に対応する、5’...CG/GT(A)CCG...3’と同定された、ヌクレオチド位置99〜105)を、クローニング部位として使用した。
【0075】
多量体を産生する手段は、CpoIの特異部位の方向性およびインフレーム融合能力である。
【0076】
pT7Kan−TrxAβ1〜15。アミロイドベータペプチドAβ42のN末端断片であるAβ1〜15ペプチドをコードする配列は、末端にCpoI認識配列を有するリン酸化オリゴヌクレオチド
5’−GTCCGATGGATGCAGAATTCCGACATGACTCAGGATATGAAGTTCATCATCAAGGCG−3’(順行)
3’−GCTACCTACGTCTTAAGGCTGTACTGAGTCCTATACTTCAAGTAGTAGTTCCGCCAG−5’(逆行)
をアニーリングすることにより取得した。57bpのDNAインサート(5’突出したCpoI)は、CpoIで消化したpT7Kan−Trxに、1/10のベクター/インサートのモル比でライゲーションした。
【0077】
N−n4−6xHis−n10−TRX(1〜33)GPMDAEFRHDSGYEVHHQGGPTRX(36〜109)−n15−6xHis−C
全配列は:
mgsshhhhhhssg1vprgshMGDKIIHLTDDSFDTDVLKADGAILVDFWAEWCGPMDAEFRHDSGYEVHHQGGPCKMIAPILDEIADEYQGKLTVAKLNIDQNPGTAPKYGIRGIPTLLLFKNGEVAATKVGALSKGQLKEFLDANLRdpnsssvdklaaalehhhhhhである。
【0078】
TrxAβ1〜15構築体の主な特徴は、Aβ1〜15ペプチドのN末端にあるMet残基(M)の存在と、Aβ1〜15ペプチドのC末端にあるGly−Gly−Proリンカーと、NおよびC末端にHis6タグが挿入されたバージョンの細菌チオレドキシンをコードする配列とに関わる。
【0079】
pT7Kan−Trx(Aβ1〜15)4およびpT7Kan−Trx(Aβ1〜15)8。Aβ1〜15ペプチドのより多くの複製を有する構築体を、同様に、しかし1/100のベクター/インサートのモル比で取得した。組換えクローンは、制限消化/ゲル電気泳動法によりスクリーニングし、Aβ1〜15配列の複製を4つまたは8つ有する2つのクローンを使用して、対応する組換えタンパク質Trx(Aβ1〜15)4およびTrx(Aβ1〜15)8を発現および精製した。
【0080】
2つのHis6タグの存在は、精製段階を支援し、リジン残基のタンデム反復の場合のように免疫原性を増加させ得る。
【0081】
【表2】

【0082】
TrxAβポリペプチドの発現および精製。上記の各構築体で形質転換し、37℃で2時間継続させておいた大腸菌BL21Star(DE3)細胞(インビトロジェン(Invitrogen)社)に、1mMのイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することにより、発現を誘導した。TrxAβ42には、さもなければ完全に不溶性であったため、異なる大腸菌株(Origami−DE3;ノバジェン社)および変更された発現条件(pT7−Amp−Trxベクター;30℃で5時間)を使用した。細胞溶解後に、His6タグを挿入したTrxAβポリペプチドは、金属アフィニティ樹脂(タロン(Talon);クロンテック(Clontech)社)に結合させ、製造会社の使用説明に従って精製し、リン酸緩衝食塩水(PBS)に対して何度も透析を行った。タンパク質の濃度は、クーマシー染色法(バイオラッド(Bio−Rad)社)およびUV吸光度により決定した。個々のポリペプチドの構成と純度は、11%のポリアクリルアミド−SDSゲル上でのゲル電気泳動およびMALDI−TOF(マスリンクス(MassLynx)4.0、ウォーターズ(Waters)社)の両方で評価した。
【0083】
免疫化の手順。組換えTrxAβポリペプチド(PBS中に2mg/ml)は、ろ過滅菌し、等量の各々(10nmol)を、使用直前に1mgのミョウバン(シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich)社)と混合し、400μlの最終容積とした。Aβ42(シグマ−アルドリッチ社)は、PBSに溶解させて(2mg/ml)、免疫化の前に37℃で一晩かけて凝集させた。無作為に組み合せた1カ月齢の雄BALB/cマウス(チャールズリバーラボラトリーズ(Charles River Laboratories)社;各10匹)の5群に、図1cに指定してあるように、1日目、15日目、30日目、および60日目に、上記の抗原を皮下注射した。両方ともミョウバンを加えずに、PBSを注射および凝集させたAβ42を注射した2つの陰性対照群に同じ処置を施した。最終追加免疫の2週間後に血清を回収し、無作為に対で貯留した。
【0084】
抗Aβ42抗体の検出。抗Aβ42抗体の全量は、1/200に一定して希釈し、凝集させたAβ42(0.5μg/ウェル)を標的抗原23として使用し、ELISAで検出した。インキュベーション、洗浄、ならびに西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)抱合型抗マウス免疫グロブリン(1/5000;シグマ−アルドリッチ社)および発色基質であるo−フェニレンジアミン(シグマ−アルドリッチ社)の添加に引き続き、プレートを450nmで分光光度的に測定した。免疫グロブリンのイソタイプ決定は、1/200に一定して希釈し、抗マウスIgサブクラス特異的HRP抱合型ラット二次抗体(テクニファーム(TechniPharm)社)を使用して実施した。5つの対になった各群由来の血清について、ELISAを3重反復で実施した;第1、3、4、6、および7群中の最上位応答動物3匹に由来する血清サブセット(図1c)のみをイソタイプ決定用に使用した。群間の比較は、アナライズ−イット(Analyze−it)ソフトウェアを使用して、一元配置ANOVAにより実施した。
【0085】
免疫組織化学的検査。重篤なアルツハイマー病に典型的な神経病理学的および臨床的症状を呈する68歳の患者由来のヒト脳切片中のAβ斑への結合能力について、3つのTrxAβ1〜15ポリペプチドの各々で免疫したマウス由来の血清をスクリーニングした。第5、6、および7群中の最上位応答動物3匹に由来する貯留血清を、種々に希釈(1/100〜1/1000)して分析したが、最良の結果は、1/500希釈で得られた。血清は、ギ酸で前処理(80%、15分間)されたホルマリン固定の側頭皮質組織の、8μmの連続脳切片に添加した。擬似処置(PBS)された動物由来の血清および市販の抗Aβ40ポリクローナル抗体の準備(抗汎βアミロイド、バイオソース(Biosource)社)は、それぞれ陰性対照および陽性対照として使用した。免疫標識は、製造会社の使用説明に従って、3−3’−ジアミノベンジジンを発色基質として使用し、エンビジョンプラス(EnVision Plus)/西洋ワサビペルオキシダーゼ系(ダコ(Dako)社)で、明らかにした。
【0086】
画像は、デジタルカメラを使って、50から400Xまでの範囲の倍率で取り込んだ。
【0087】
ドットブロットアッセイおよびAFM画像処理。ドットブロット分析用のAβ42種は、本技術分野において既に公知である手順(例えば、J.Biol.Chem.第278巻、11612〜11622頁中のStine,W.B.らを参照)に従って調製した。簡潔に言えば、2MのDMSOに溶解させたAβ42(終濃度は1mM)を、単量体形態の供給源として使用した;冷却したハムF12K培地(フェノールレッド無添加;バイオソース社)中に、DMSOストック溶液を100μMの終濃度になるように希釈し、その後、24時間4℃でインキュベーションして、可溶性オリゴマーを調製した;同じストック溶液を100μMの終濃度になるように10mMのHCl中に希釈し、24時間37℃でインキュベーションして、Aβ42原繊維を産生した。可溶性オリゴマー溶液からの原繊維の非存在と同様に、種々のAβ種の同定も、AFMによって検証した。そのために、上記のAβ42溶液を、20μlの沈着緩衝液(4mM HEPES pH7.4、10mM NaCl、7mM MgCl2)中に、終濃度10μMになるように10倍希釈し、劈開したばかりのルビーマイカ上に、室温で直ちに沈着させた。5分後に、円盤状のマイカをミリQ級の水ですすぎ、流動する窒素下でゆっくりと乾燥させた。画像は、タッピングモードで作働させたナノスコープ(Nanoscope)III顕微鏡(デジタルインスツルメンツ(Digital Instruments)社)で、市販のダイビングボード型シリコンカンチレバー(マイクロマッシュ(MikroMasch))社)を使用して収集した。0.1pmolまたは1pmolのAβ42ペプチドのいずれか一方に対応した、各Aβ種の一定量を、真空作働式ドットブロット装置(96ウェル;バイオラッド社)を使用して、20mMのTris−HCl、pH7.5、0.8%NaCl(TBS)で事前に湿潤させたニトロセルロース膜(GEヘルスケアライフサイエンス(GE Healthcare Life Sciences)社)上にスポッティングした。ドットブロットは、それぞれ8枚の膜単位で調製し、乾燥させて4℃で保管し、2週間以内に使用した。ドットブロット分析用の抗血清は、製造会社の使用説明に従って、プロテイン−Aミニカラム(ディアセバ(Diatheva)社)上でアフィニティ精製した。全免疫グロブリンの濃度をクーマシー染色法で決定した後、精製した免疫グロブリンは、0.75μg/mlの終濃度でドットブロットアッセイ用に使用した。ブロットは、0.05%のトウィーン20で補完したTBS(TBST)中の5%脱脂粉乳を使って室温でブロッキングした後、3つのTrxAβ1〜15一次抗体の各々と共に、粉乳−TBST中で1.5時間インキュベーションし、TBSTで3×10分間洗浄し、その後、スーパーシグナルウエストフェムト(SuperSignal West Femto kit)キット(ピアス(Pierce)社)を使って、製造会社の指定通りに、マウス免疫グロブリンを検出した。各群の最上位応答貯留からの抗血清で、独立した技術的再現を3回行った。
【0088】
実施例2
抗Trx(Aβ1〜15)4抗体の、Tg2576トランスジェニック成体マウスの脳β−アミロイド病理に対する生体内効果の評価
方法
スウェーデン変異のヒトAPP(1)を発現する雌トランスジェニックAD(Tg2576)マウスは、ボストン大学アルツハイマー病センター(Boston University Alzheimer’s Disease Center)のマウス群体から取得した。この群体の創始は、Karen Hsiao−Ashe博士(神経学学科、ミネソタ大学医学部(Department of Neurology、University of Minnesota Medical School))によりもたらされた。APP Tg2576マウスは、行動的異常性を呈し、早くは8カ月から、随伴する星状細胞増加と共に、脳Aβ沈着の組織学的な証拠を斑として示す。尾部DNAの標準化PCRアッセイを行ってマウスの遺伝子型を同定し、各ゲージに4匹ずつ収容し標準的条件下で餌および水を自由に摂取させた。12時間の明暗スケジュールに置いた14カ月齢のAPPマウス6匹(各32〜34g)を手術に使用した。ケタミンHCl/キシラジンの腹腔内注射(100mg/kgのケタミンおよび10mg/kgのキシラジン;100μl/体重10g)でマウスに麻酔をかけ、マウス頭部アダプタを使って定位固定装置(コフ(Koph)社)に位置決めした。手術中、体温調節は加温パッドを使用して37℃に維持し、呼吸を監視した。頭皮を正中線で切開して矢状縫合を露出させ、両脳半球の定位座標を決定した(2)。ブレグマを基準点(2.0mm)として使用し、左および右の横座標の接合点(1.75mm)で頭蓋冠にドリルで孔を開けた。アフィニティ精製した抗Trx(Aβ1〜15)4抗体は、PBS処置したマウス由来の擬似免疫グロブリンと共に(各2μl)、鈍針の10μl注射器(ハミルトン(Hamilton)社)を使用して、定位的に左および右海馬(腹側2.0mm)に注射した。注射器をあてがった際に2分間の滞留時間があり、その後に4分間の注入時間があり、注射器を引き抜く前にさらに2分間の滞留時間があった。9mmのオートクリップを使用して切開部を閉じる際に、局所的防腐薬を投与した。マウスは、完全に回復するまで加温パッド上で飼育した。全ての動物実験は、国立衛生研究所動物実験に関する指針(National Institutes of Health Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)と、復員軍人援護局(Veterans Administration)およびボストン大学(Boston University)の両動物実験委員会(Animal Care Committee)とに従って実施した。注射7日後、マウスを深い麻酔にかけ、2%のパラホルムアルデヒド緩衝液(100ml)を経心的にかん流させた。脳を2時間、後固定し、一連のグリセリン勾配で凍結保護した後、凍結薄切した(50μm)。連続して切断したマウス組織切片をニッスル物質用に染色し、抗Aβ42(カタログ番号、344;バイオソースインターナショナル(Biosource International)社)、抗Aβオリゴマー(A11;バイオソースインターナショナル社)、およびグリア繊維性抗原タンパク質(GFAP;ダコ社)抗体で免疫染色し、成熟したAβ斑を同定するためのキャンベル−スウィッツアー法(Campbell−Switzer method)を使用して銀染色した。両耳間:1.68mm/ブレグマ:−2.12mmから始まり、両耳間:2.16mm/ブレグマ:−1.64mmまでの、Aβ42で免疫染色された海馬内冠状組織の連続切断切片を、定量的に分析した。バイオビジョン(BioVision)(3)およびニューロルシダ(Neurolucida)ソフトウェアプログラム(マイクロブライトフィールド(MicroBrightField)社、Williston、VT)を使用して、抗Trx(Aβ1〜15)4処置された脳半球内およびPBS処置された反対側の脳半球内の同一脳区域の高解像度画像から、Aβ42陽性斑を定量化した。バイオビジョンは、神経網の基礎環境から斑を区別してカウントし、ニューロルシダは、バイオビジョン画像からデータを抽出し、統計分析用にエクセル(マイクロソフト(Microsoft)社、Redmond、WA)にエクスポートする。
【0089】
結果
次に、抗Trx(Aβ1〜15)4の免疫療法の可能性は、この抗体を、14カ月齢のAPPトランスジェニックAD(Tg2576)マウスの海馬に、定位的に注射することにより評価した。反対側の海馬に注射され、PBSのみで処置したマウス由来の擬似免疫グロブリンは、この実験の内部対照の役割を果たした。注射7日後、病理組織学的検査によって、擬似注射した脳半球とは対照的に、抗Trx(Aβ1〜15)4抗体を与えたマウスの海馬および騎乗新皮質内で、Aβ免疫染色の顕著な減少が明らかになった。Aβ陽性斑は、注射部位に存在しなかっただけでなく、注射境界域内(注射部位の2mm前側/後側)でも著しく縮小した。
【0090】
これは、抗Trx(Aβ1〜15)4抗体が、生体内で、原繊維および低オリゴマーだけでなく高次オリゴマーも標的にすることを示唆する。これらの知見が、抗Trx(Aβ1〜15)4および抗Aβ一次抗体間の競合の結果でないことを検証するために、本発明者らは、グリア繊維性抗原タンパク質(GFAP)免疫染色法およびキャンベル−スウィッツアー銀染色法を使用して、代替的な病理組織学的分析を実施し、星状細胞増加およびAD斑を検出した。星状細胞増加およびグリアに随伴する斑は、擬似注射した反対側の脳半球と比較して、抗Trx(Aβ1〜15)4抗体の注射境界域内で顕著に減少した。加えて、キャンベル−スウィッツアー銀染色法によって明らかにされたように、抗Trx(Aβ1〜15)4を注射した脳半球内の斑は、擬似注射した脳半球内と比較して極めて少なかった。両所見は、抗Aβ抗体検出で取得した免疫染色データと一致している。定量的な観点からは、PBS処置した脳半球と比較して、抗Trx(Aβ1〜15)4処置した脳半球内のAβ42陽性斑の数は著しく減少した(PBS処置した脳半球:3.34×103±0.58;抗Trx(Aβ1〜15)4処置した脳半球:0.97×103±0.27、P<0.01)。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1a】本発明に従ったTrx(Aβ1〜15−Gly−Gly−Pro)n構築体を表す。
【図1b】Trx提示のAβ1〜15の複製を1つ、4つ、または8つ有する構築体の、金属アフィニティクロマトグラフィーによる均質化精製を表す。
【図1c】本発明の実施形態に従った免疫原によって誘発された抗Aβ抗体量を表す。
【図1d】本発明の実施形態に従った免疫原のTh2極性応答を表す。
【図2】本発明の実施形態に従った免疫原で免疫されたマウス由来の血清で処理されたヒトの脳切片を表す。
【図3】本発明の実施形態に従った免疫原の優先的結合を表すAFM画像を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアを含む免疫原性構築体であって、前記キャリアがその活性ループ部位内に少なくとも1つのAβ42の断片を有する免疫原性構築体。
【請求項2】
前記キャリアがチオレドキシンである、請求項1に記載の免疫原性構築体。
【請求項3】
前記Aβ42断片がアミノ酸リンカーによってキャリアに結合されている、請求項1に記載の免疫原性構築体。
【請求項4】
前記少なくとも1つのAβ42断片が、30アミノ酸残基未満のN末端断片であり、好ましくは、Aβ1〜3、Aβ1〜4、Aβ1〜5、Aβ1〜6、Aβ1〜7、Aβ1〜8、Aβ1〜9、Aβ1〜10、Aβ1〜11、Aβ1〜12、Aβ1〜13、Aβ1〜14、Aβ1〜15からなる群から選択される、請求項2に記載の免疫原性構築体。
【請求項5】
少なくとも1つのAβ42断片がAβ1〜15である、請求項4に記載の免疫原性構築体。
【請求項6】
前記Aβ1〜15断片がアミノ酸リンカーによってチオレドキシンに結合されている、請求項5に記載の免疫原性構築体。
【請求項7】
前記アミノ酸リンカーがGly−Gly−Proである、請求項6に記載の免疫原性構築体。
【請求項8】
チオレドキシンが1つを超えるAβ1〜15断片を有する、請求項5に記載の免疫原性構築体。
【請求項9】
チオレドキシンが4つから16のAβ1〜15断片を有する、請求項8に記載の免疫原性構築体。
【請求項10】
チオレドキシンが4つのAβ1〜15断片(Trx(Aβ1〜15)4)を有する、請求項9に記載の免疫原性構築体。
【請求項11】
各Aβ1〜15断片がアミノ酸リンカーによってチオレドキシンに結合されている、請求項8から10のいずれか一項に記載の免疫原性構築体。
【請求項12】
前記アミノ酸リンカーがGly−Gly−Proである、請求項11に記載の免疫原性構築体。
【請求項13】
アミロイド形成性疾患に対する治療用ワクチンとして使用するための薬学的組成物であって、キャリアを含む免疫原性構築体を含み、前記キャリアがその活性ループ部位内に少なくとも1つのAβ42の断片を有する組成物。
【請求項14】
前記キャリアがチオレドキシンである、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記Aβ42断片がアミノ酸リンカーによって前記キャリアに結合されている、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
少なくとも1つのAβ42断片が、30アミノ酸残基未満のN末端断片であり、好ましくは、Aβ1〜3、Aβ1〜4、Aβ1〜5、Aβ1〜6、Aβ1〜7、Aβ1〜8、Aβ1〜9、Aβ1〜10、Aβ1〜11、Aβ1〜12、Aβ1〜13、Aβ1〜14、Aβ1〜15からなる群から選択される、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
前記少なくとも1つのAβ42断片がAβ1〜15である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記Aβ1〜15断片がアミノ酸リンカーによってチオレドキシンに結合されている、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記アミノ酸リンカーがGly−Gly−Proである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
チオレドキシンが1つを超えるAβ1〜15断片を有する、請求項17に記載の組成物。
【請求項21】
チオレドキシンが4つから16のAβ1〜15断片を有する、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
チオレドキシンが4つのAβ1〜15断片を有する、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
各Aβ1〜15断片がアミノ酸リンカーによってチオレドキシンに結合されている、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記アミノ酸リンカーがGly−Gly−Proである、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
さらにアジュバントを含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項26】
前記アジュバントが、3−デ−O−アシル化モノホスホリルリピドA(MPL)、サポニンQS21、ムラミールジペプチド、またはアルミニウム塩からなる群から選択される、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記アルミニウム塩が、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、および硫酸アルミニウムからなる群から選択される、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
請求項1から12に記載の免疫原性構築体を認識するモノクローナル抗体。
【請求項29】
前記免疫原性構築体がTrx(Aβ1〜15)4である、請求項28に記載の抗体。
【請求項30】
アミロイド形成性疾患を予防または治療するための治療薬であって、請求項28または29に記載のモノクローナル抗体を活性成分として含む治療薬。
【請求項31】
前記アミロイド形成性疾患がアルツハイマー病である、請求項30に記載の治療薬。
【請求項32】
キャリアを含む免疫原性構築体を調製する方法であって、
前記キャリアがその活性ループ部位内に少なくとも1つのAβ42の断片を有しており、
前記方法が、
(i)前記キャリアを好適な細菌内で増幅することと、(ii)前記キャリアを、pET系によりタンパク質を発現するためのT7プロモーターを含む、好適なベクターに挿入することと;(iii)Aβ断片のDNAインサートを調製することと;(iv)前記キャリア−ベクターおよび前記Aβ断片のDNAインサートを制限切断およびライゲーションすることと、を含む方法。
【請求項33】
前記キャリアがチオレドキシンである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記細菌が大腸菌である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記ベクターがpT7Kan−Trxである、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
請求項32に記載の方法により取得される免疫原性構築体。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−531294(P2009−531294A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555672(P2008−555672)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001243
【国際公開番号】WO2007/096076
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(304037234)シエシー ファルマセウティチィ ソシエタ ペル アチオニ (24)
【Fターム(参考)】