説明

抗ウイルス剤およびそれを用いた部材

【課題】エンベロープの有無に関係なく、また、脂質やタンパク質の存在下でも付着したウイルスを不活化できる抗ウイルス剤およびそれを用いた部材を提供する。
【解決手段】抗ウイルス剤10は、少なくとも表面が無機材料からなる無機微粒子2と、無機微粒子2表面に固着した金微粒子1と、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はウイルス不活化シートに関し、特にエンベロープの有無に関わらず、また脂質やタンパクの存在下でも、付着した様々なウイルスを不活化することができるウイルス不活化シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SARS(重症急性呼吸器症候群)やノロウイルス、鳥インフルエンザなどウイルス感染による死者が報告されている。さらに、交通の発達やウイルスの突然変異によって、世界中にウイルス感染が広がる「パンデミック(感染爆発)」の危機に直面し、特に2009年には口蹄疫などのウイルスによる大きな被害も出てきており、緊急の対策が必要となっている。このような事態に対応するために、ワクチンによる抗ウイルス剤の開発も急がれているが、ワクチンの場合、その特異性により、感染を防ぐことができるのは特定のウイルスに限定される。さらにノロウイルスにおいてはワクチンができていないなど課題がある。また病院や診療所においては、保菌者あるいは感染者によって院内へ持ち込まれたMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や抗生剤投与によって黄色ブドウ球菌からMRSAへと変異した株が、患者から直接、あるいは医療従事者、または白衣やパジャマ、シーツなどの使用物品、壁やエアコンなどの設備を含む環境 を介して、患者・医療従事者に接触感染を生じる院内感染が社会的にも大きな問題になってきている。したがって、様々なウイルスやバクテリアに有効な、殺菌、抗ウイルス効果を発揮することができる抗ウイルス性を有する部材の開発が強く望まれている。
【0003】
これらの問題を解決する手段として、銀イオン、銅イオンなどの抗菌性金属イオンが担持された無機多孔結晶を樹脂の内部に含有した複合体を用いたウイルス不活化シートがある(特許文献1)。また、ヨウ素−シクロデキストリン包接化物を溶解したウイルス不活化剤というものも報告されている(特許文献2、3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−291031号公報
【特許文献2】特開2006−328039号公報
【特許文献3】特開2007−39395号公報
【特許文献4】特開2007−39396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、樹脂の内部に無機多孔結晶を含有する方法では、繊維状の布帛には適用できるものの、繊維を用いないフィルムやシート、さらに無機材料については適用ができない。またヨウ素を用いたウイルス不活化剤は水溶性のため、含浸などで布帛やシートに適用しても、水に濡れると簡単に成分が溶け出してしまう。
【0006】
ここで、ウイルスは、ノロウイルスなどのエンベロープを持たないウイルスと、インフルエンザウイルスなどのエンベロープを持つウイルスに分類でき、エンベロープを持つウイルスを不活化できる薬剤であっても、エンベロープを持たないウイルスには作用しない場合がある。さらに、不活化シートをマスクに貼着したり、手術用防護服や、枕カバーなどに用いたりするような場合は、感染者の口や鼻に接触して使用される物品であるため、血液や唾液などの体液に含まれる脂質やタンパク質が付着する場合もある。したがって、脂質やタンパク質の存在する環境下でもウイルスを不活化できることが好ましいが、上記文献ではそのような検証についてもなされていない。
【0007】
そこで本発明は、上記課題を解決するために、エンベロープの有無に関係なく、また、脂質やタンパク質の存在下でも付着したウイルスを不活化できる抗ウイルス剤およびそれを用いた部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、第1の発明は、少なくとも表面が無機材料からなる無機微粒子と、該無機微粒子の無機材料部分に固着した金微粒子と、からなることを特徴とする抗ウイルス剤である。ここで、本願の無機微粒子とは、粒子全体が無機材料からなる微粒子のみならず、全表面が無機材料からなる微粒子、さらには表面の一部が無機材料からなる微粒子も含む概念である。
【0009】
また、第2の発明は、上記第1の発明において、前記金微粒子が、前記無機微粒子の無機材料部分に接合し、かつ接合界面周縁部を有することを特徴とする抗ウイルス剤である。
【0010】
さらに、第3の発明は、基材と、該基材表面に固定された第1又は第2の発明の抗ウイルス剤と、からなることを特徴とする抗ウイルス性を有する部材である。
【0011】
さらにまた、第4の発明は、上記第3の発明において、基材が繊維構造体からなることを特徴とする抗ウイルス性を有する部材である。
【0012】
さらにまた、第5の発明は、上記第3又は第4の発明の抗ウイルス性を有する部材を用いたフィルターである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば飛沫や血液などのタンパク存在下においても、抗ウイルス剤表面などに付着したウイルスを不活化することができる抗ウイルス剤およびそれを用いた抗ウイルス性を有する部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の抗ウイルス剤の模式図である。
【図2】本発明の抗ウイルス剤の一部を拡大した模式図である。
【図3】本発明の抗ウイルス性を有する部材の第1実施形態の断面の模式図である。
【図4】本発明の抗ウイルス性を有する部材の第2実施形態の断面の模式図である。
【図5】本発明の抗ウイルス性を有する部材の第3実施形態の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の抗ウイルス剤について図1、図2を用いて詳述する。また図では理解をしやすいように金微粒子を○で示しているが、これは図2の接合界面周縁部を持つ多角形の概念も含む図である。
【0016】
図1は、本発明の第1実施形態の抗ウイルス剤10の模式図である。第1実施形態の抗ウイルス剤10は、少なくとも表面が無機材料からなる無機微粒子2と、その無機材料部分に固着している、抗ウイルス性を有する金微粒子1から構成されている。
【0017】
ウイルス不活化のメカニズムについては、現在のところ必ずしも明確ではないが、遷移金属あるいは貴金属微粒子を無機酸化物に担持することで非常に高い酸化触媒能を持つようになるため、接触したウイルスの細胞膜表面がダメージを受け、不活化すると推測される。
【0018】
少なくとも表面が無機材料からなる無機微粒子2としては、例えば、チタニアや、ジルコニア、アルミナ、セリア(酸化セリウム)、シリカ、活性炭、珪藻土などが好適に用いられる他、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、錫などからなる金属酸化物も含まれる。また合成樹脂や天然樹脂などからなる有機系微粒子の表面にスパッタやめっきなどで無機酸化物や金属酸化物の皮膜を形成させたものを用いてもよい。
【0019】
また、無機微粒子2の粒径としては、10nm以上、500μm未満であることが好ましい。特にエアゾールなどで使用する場合、吸い込みによる人の肺への影響を考えると、粒径4μm以上のものを用いると、より安全性の高い抗ウイルス剤が提供できるので好適である。さらに、本発明の抗ウイルス剤10を織編物やシート、フィルムなどに固定する場合、基材との接着性を考慮すると、10nm以上、1μm未満であることが好ましい。粒径が10nm未満であると、金微粒子1を固着するのが困難になるため好ましくない。
【0020】
無機微粒子2に抗ウイルス性を有する金微粒子1を固着させる方法としては、共沈法、析出沈殿法、ゾル−ゲル法、含浸法、滴下中和沈殿法、還元剤添加法、pH制御中和沈殿法、カルボン酸金属塩添加法等の方法が挙げられ、これらの方法は無機微粒子2の種類により適宜使い分けることができる。
【0021】
第1実施形態の抗ウイルス剤10の金微粒子1は、使用条件により使用者が自由に決定できるものではあるが、粒径が500nm以下、さらに100nm以下であることが好ましい。この理由として、粒径が500nmより大きくなると金微粒子1が無機微粒子2に安定に固着しにくくなるからである。また、100nm以下の金微粒子は、酸化還元作用が起きやすくなるため、より抗ウイルス効果が発現するため好ましい。但し、粒径が1nmより小さいものは物質として非常に不安定となり存在できない。
【0022】
上記の金微粒子1の担持量としては、無機微粒子2に対して50質量%以下とするのが好ましく、さらに0.1質量%以上、5質量%以下とするのがより好ましい。この理由としては、金微粒子1の固着量が多すぎると凝集してしまうため、効率的に抗ウイルス効果が発現できなくなってしまうからであり、0.1質量%未満では、十分な抗ウイルス効果が発現しないからである。
【0023】
また、第1実施形態の抗ウイルス剤10の金微粒子1は、銀、銅、鉄、アルミニウム、亜鉛、白金、パラジウム、ニッケル、ビスマス、マンガンなどの1種または2種以上の金属との合金微粒子や、これら金属微粒子の1種または2種以上と金微粒子との混合微粒子であっても良い。これは、これらの酸化物微粒子が金微粒子1に有害物質が付着するのを抑制するので、長期に渡り、安定して抗ウイルス効果が持続できるからである。
【0024】
さらに、無機微粒子2に用いられる材料については、特に無機微粒子2の表面電位がプラスになるようなものが好ましい。これは、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に係ることなくウイルスの表面電位はマイナスであるため、無機微粒子2の表面電位がプラスであると、電気的にウイルスが無機微粒子2に引きつけられ、結果としてウイルスが抗ウイルス剤10の表面に吸着しやすくなり、抗ウイルス性を有する金微粒子2による抗ウイルス効果をより効率よく発現することができるからである。
【0025】
次に、本発明の第1実施形態の抗ウイルス剤10の製造方法について、金微粒子1のコロイド溶液を用いた方法を一例として挙げて説明する。
【0026】
金微粒子1のコロイド溶液については、HAuCl4・4H2Oのような金化合物水溶液にクエン酸ナトリウムのような還元剤を入れる、など、公知の方法で製造される。分散媒としては、水、アセトン、メタノール、エタノールなどが好適に用いられる。このように製造された金微粒子1のコロイド水溶液に、無機微粒子2を添加し攪拌後、窒素雰囲気下にて100℃で乾燥させる。またコロイド溶液中の金微粒子1は、表面を界面活性剤などの保護剤で被覆されていてもよい。
【0027】
次に、本発明の抗ウイルス剤10の第2実施形態について図2を用いて詳述する。
【0028】
図2は本発明の抗ウイルス剤10の一部を拡大した模式図である。第2実施形態の抗ウイルス剤10は、無機微粒子2の無機材料部分に金微粒子1が固着して構成されているが、金微粒子1が球状ではなく接合界面周縁部を有したほぼ多面体の状態で密着して接合している点が、第1実施形態と異なる点である。
【0029】
一般的に、金の粒子径をナノレベルとした場合には、金微粒子の形状が二十面体などのほぼ多面体状となることが知られている。ここで、第2実施形態で用いる接合界面周縁部とは、金微粒子1のコーナー部Aとエッジ部Bの両方を示す。コーナー部Aとは、金微粒子1の3以上の面の結合部に生成されたコーナーを示し、エッジ部Bとは金微粒子1の2つの面の結合部に生成されたエッジを示す。
【0030】
金微粒子1が接合界面周縁部を有する場合のウイルス不活化のメカニズムについては、現在のところ必ずしも明確ではないが、化学的に安定である金はナノ粒子にすると、図2のように配位不飽和なサイトであるコーナー部Aやエッジ部Bの部分の比率が大きくなり、非常に高い酸化触媒能を持つようになるため、接触したウイルスの細胞膜表面がダメージを受け、不活化すると推測される。
【0031】
本発明の第2実施形態の抗ウイルス剤10では、一例として無機微粒子2と金微粒子1とのゼータ電位の差を利用して無機微粒子2に金微粒子1を担持させている。また、無機微粒子2を用いずに金微粒子1を還元剤などで粒子化すると凝集してしまうため活性がなくなることが考えられるが、第2実施形態の抗ウイルス剤10では、金微粒子1を少なくとも表面が無機材料からなる無機微粒子2の表面に接合させることにより、金微粒子1の凝集を防ぐことを可能としている。
【0032】
無機微粒子2の無機材料部分に接合される金微粒子1は、粒径が10nm以下のものが好適に使用できる。この理由として、粒径が10nmより大きい場合には接合界面の長さが短くなり、図2のような多面体構造をとりにくくなるが、粒径を10nm以下とすることにより、金微粒子1の接合界面周縁部の比率が十分に大きくなるからである。
【0033】
以下に析出沈殿法を例として、本発明の第2実施形態の抗ウイルス剤10の調整法について具体的に説明する。析出沈殿法の具体的な方法としては、まず、金化合物を溶解させた水溶液を20〜90℃、好ましくは50〜70℃に加温、攪拌しながら、pH3〜10、好ましくはpH5〜8になるようにアルカリ溶液にて調整し、その後、無機微粒子2を添加したのち、100〜200℃にて加熱乾燥する。
【0034】
用いられる金化合物水溶液としては、例えば、HAuCl・4HOや、NHAuClや、KAuCl・nHOや、KAu(CN)や、NaAuClや、KAuBr・2HOや、NaAuBrなどが挙げられ、金化合物の濃度は1×10−2〜1×10−5mol/Lとするのが好ましい。
【0035】
上記の金微粒子1の担持量としては、無機微粒子2に対して0.5〜20質量%とするのが好ましく、さらに0.5〜10質量%とするのがより好ましい。この理由としては、20質量%以上担持させると金微粒子1同士が凝集し、抗ウイルス性が減少するからである。
【0036】
また、本発明の全ての実施形態の抗ウイルス剤10において不活性化できるウイルスについては特に限定されず、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に係ることなく、様々なウイルスを不活化することができる。例えば、ライノウイルス、ポリオウイルス、口蹄疫ウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、エンテロウイルス、ヘパトウイルス、アストロウイルス、サポウイルス、E型肝炎ウイルス、A型・B型・C型インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス(おたふくかぜ)、麻疹ウイルス、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス、ニパウイルス、ヘンドラウイルス、黄熱ウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、B型・C型肝炎ウイルス、東部および西部馬脳炎ウイルス、オニョンニョンウイルス、風疹ウイルス、ラッサウイルス、フニンウイルス、マチュポウイルス、グアナリトウイルス、サビアウイルス、クリミアコンゴ出血熱ウイルス、スナバエ熱、ハンタウイルス、シンノンブレウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、マーブルグウイルス、コウモリリッサウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトコロナウイルス、SARSコロナウイルス、ヒトポルボウイルス、ポリオーマウイルス、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、水痘、帯状発疹ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、天然痘ウイルス、サル痘ウイルス、牛痘ウイルス、モラシポックスウイルス、パラポックスウイルスなどを挙げることができる。
【0037】
本発明の全ての実施形態の抗ウイルス剤10は、様々な態様で用いることができる。例えば、本発明の抗ウイルス剤10は、取り扱いの点から考えると粉体が好適に用いられるが、これに限られるものではなく、使用目的により粉末状、顆粒状であっても良い。さらに加圧形成により錠剤状に成形されても用いられる。また、粉末状の場合では、エアゾールの容器内に不活性ガスで加圧して当該抗ウイルス剤10の粉末を充填し、スプレーすることで衣服や手などに当該抗ウイルス剤10を付着させて用いられる。さらに、当該抗ウイルス剤10を水などの分散媒に分散させた状態で用いてもよい。ここで、本発明の抗ウイルス剤10を分散媒に分散させた場合、有効成分である金微粒子1が、分散液中において0.1質量%以上含有されることがより十分な抗ウイルス性を得る上で好ましい。なお、本発明では特に限定されず当業者が適宜設定できるが、分散液中の金微粒子1の含有量を例えば60質量%以下とすることが、分散液の安定性や取扱性の点から好ましい。また、エタノールや次亜塩素酸など、公知の抗ウイルス剤と併用することでより効果を上げることも考えられる。さらに、他の抗ウイルス剤、抗菌剤、防黴剤、抗アレルゲン剤、触媒、反射防止材料、遮熱特性を持つ材料などと混合して使用してもよい。
【0038】
続いて、本発明の抗ウイルス剤10を基材に固定した抗ウイルス性を有する部材について図3〜5を用いて詳述する。
【0039】
図3は、本発明の第1実施形態の抗ウイルス性を有する部材100の断面の一部を拡大した模式図である。本実施形態の抗ウイルス性を有する部材100は、少なくとも表面が無機材料からなる無機微粒子2の表面に、抗ウイルス性を有する金微粒子1が固着した抗ウイルス剤10が担持されている。
【0040】
第1実施形態の抗ウイルス性を有する部材100の基材3については、合成樹脂、天然樹脂からなる織編物や不織布、フィルム、シートなどを始め、タイル、ガラス、セラミック、ファインセラミック、金属、無機酸化物、およびこれらの合金や複合体からなる材料も用いることができる。本発明の第1実施形態の抗ウイルス性を有する部材100をフィルターとして用いる場合、使用環境に制限は無いが、特に高温下で使用する場合には、無機材料のほか、耐熱性のある耐熱性樹脂に無機層を形成したものが好適に用いられる。
【0041】
具体的な合成樹脂、天然樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、EVA樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ベクトラン(登録商標)、PTFE(polytetrafluoroethylene)などの熱可塑性樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、修飾でんぷん樹脂、ポリカプロラクト樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリブチレンサクシネートテレフタレート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂などの生分解性樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ケイ素樹脂、アクリルウレタン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂、シリコーン樹脂、ポリスチレンエラストマー、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー、ポリウレタンエラストマーなどのエラストマーおよび漆などが挙げられる。
【0042】
また、具体的な耐熱性樹脂としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネートポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート、超高分子ポリエチレンなどのエンジニアプラスチックや、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイドポリアリレート、ポリアミドイミ ド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ETFEやPTFEなどのフッ素樹脂などのスーパーエンジニアリングプラスチックや、 ポリフェノール、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などの耐熱性熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0043】
さらに、具体的なタイルとしては、陶器、せっ器、磁器の他、コンクリートやガラス、プラスチックなどが挙げられる。
【0044】
さらに、具体的なガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、クリスタルガラス、石英ガラス、カルコゲンガラス、有機ガラス、ウランガラス、アクリルガラス、水ガラス、偏光ガラス、強化ガラス、合わせガラス、耐熱ガラス・硼珪酸ガラス、防弾ガラス、ガラス繊維、ダイクロ、ゴールドストーン(茶金石・砂金石・紫金石)、ガラスセラミックス、低融点ガラス、金属ガラス、及びサフィレットなどが挙げられる。
【0045】
さらに、具体的なセラミックの組成としては、元素系、酸化物系、水酸化物系、炭化物系、炭酸塩系、窒化物系、ハロゲン化物系、及びリン酸塩系、あるいはそれらの複合物が用いられ、ファインセラミックスである場合には、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、ジルコン、ムライト、ステアタイト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ニューカーボン、ニューガラスなどや、高強度セラミックス、機能性セラミックス、超伝導セラミックス、非線形光学セラミックス、抗菌性セラミックス、生分解性セラミックス、及びバイオセラミックスなどのセラミックスを用いることが可能である。
【0046】
さらに、具体的な金属としては、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、TZM、W-Reなどの高融点金属や、銀、ルテニウムなどの貴金属及びそれらの合金、チタン、ニッケル、ジルコニウム、クロム、インコネル、ハステロイなどの特殊金属、アルミニウム及びその合金、銅及びその合金及びその合金、ステンレス鋼、亜鉛及びその合金、マグネシウム及びその合金、などの汎用金属、また、各種めっき及び真空蒸着や、CVD法や、スパッタ法などで処理した無機材料が用いられる。さらに、材料の表面に酸化物の薄膜が形成されていることが好ましく、公知の方法により化学的に酸化薄膜を形成したり、陽極酸化などの電気化学的な公知の方法により酸化薄膜を形成したりすることが好ましい。
【0047】
さらに、具体的な無機酸化物としてはチタニアや、ジルコニア、アルミナ、セリア(酸化セリウム)、ゼオライト、アパタイト、シリカ、活性炭、珪藻土などが好適に用いられる。さらに、本実施形態の無機酸化物には、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、錫などからなる金属酸化物も含まれる。
【0048】
第1実施形態の抗ウイルス性を有する部材100で用いる基材3の形態としては、板状や、フィルム状や、繊維状や、布状や、メッシュ状や、ハニカム状、パンチングシートなど、使用目的に合った種々の形状及びサイズ等のものが適用でき、特に制限されるものではなく、空気清浄機、温風器、ドライヤー、電気掃除機、扇風機、エアコン、換気扇などの各種電気製品用のフィルターや、車両用フィルターや、人工呼吸器用、人工鼻などの医療用フィルターに適用できる。さらに、マスク、キャップ、シューズカバー、医療用ドレープ(医療用覆布、医療用シート)、インサイズドレープ、サージカルテープ、ガーゼ、人工呼吸器用マスク、人工呼吸器用部品などの医療用部材や、病院内などのビル用内装材、電車や自動車などの内装材、車両用シート、椅子やソファーのカバー、ウイルスを扱う設備、ドアや床板の防汚シート、網戸用ネット、鶏舎用ネット、蚊屋などのネット類のほか、食品用保存袋、食品用ラップフィルム、キーボードカバー、タッチパネル、タッチパネルカバー、ブラインド、デスクマット、インテリア材、壁紙、カーテン、衣類、寝具、裁断可能な多目的シートなどに用いることにより、住環境の向上も図ることができる。
【0049】
さらに、第1実施形態の抗ウイルス性を有する部材100の基材3の形態としては、他の部材、例えばフィルムやシートが積層されるようにしてもよい。例として、防水性を有するフィルムやシートを積層することでウイルス不活化シートに防水性を付与することができる。当該防水性を備える抗ウイルス性を有する部材100を用いて、該シートを縫合することにより、ウイルスや血液が透過するのを防止できる高性能防護服や医療用手袋、また病院や介護用のシーツなどを構成することができる。
【0050】
さらに、積層するフィルムやシートとしては、使用者が快適に過ごせるように、水を遮蔽し、空気(湿気)を透過させる透湿性を備えたものが好適に用いられる。具体的には、一般に市販されているものを使用目的に合わせて選定し使用すればよい。
【0051】
さらにまた、第1実施形態の抗ウイルス性を有する部材100の少なくとも一方の主面に接着剤などを積層し、使用者が任意にマスクや壁や床に簡単に接着できるようにすることもできる。具体的には、手持ちのマスクの表面に貼付けることで、ウイルス不活化マスクにすることができる。
【0052】
また、通気性を有する構造体に係らず、空気を透過させない、言い換えれば遮気性を備えていてもよい。具体的には、基材3を、ポリエステル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレン−エチレン共重合体などの樹脂、ポリカーボネート樹脂シート・フィルム、塩化ビニルシート、フッ素樹脂シート、ポリエチレンシート、シリコーン樹脂シート、ナイロンシート、ABSシート、ウレタンシートなどの高分子からなるシートやチタニウム、アルミニウム、ステンレス、マグネシウム、真鍮などの金属からフィルム状に構成してもよい。
【0053】
このほか、本発明の第1実施形態の抗ウイルス性を有する部材100においては、抗ウイルス剤10のほか、抗ウイルス性を有する部材100に所望される機能を付与するために、任意に用いられる機能性材料が、基材3表面に固定されていてもよい。当該機能性材料としては、他の抗ウイルス剤、抗菌剤、防黴剤、抗アレルゲン剤、および触媒などを挙げることができる。なお、これら機能性材料は、例えば、一般的なバインダーを介して基材3に結合して固定されるようにしてもよいし、後述するシランモノマーまたはそのオリゴマーなどとの化学結合などにより、基材3に固定されるようにしてもよい。また、これら抗ウイルス剤10以外の機能性材料が基材3に固定されるか否かに係らず、後述のシランモノマーやそのオリゴマーに加えて、他の補強剤(ハードコート剤)を用いてもよい。
【0054】
さらに、本発明の第1実施形態の抗ウイルス性を有する部材100は、基材3にマンガンやコバルトなどの酸化物微粒子をさらに接合させてもよい。これは、これらの酸化物微粒子が金微粒子2に有害物質が付着するのを抑制するので、長期に渡り、安定して抗ウイルス効果が持続できるからである。
【0055】
次に、本発明の第1実施形態のウイルス不活化シート100の製造方法について、具体的に説明する。
【0056】
本発明の第1実施形態の抗ウイルス性を有する部材100の具体的な製造方法としては、エタノールなど公知の分散媒に抗ウイルス剤10を懸濁し、得られたスラリーを、ゾルゲル法による、ディップコーティングやスピンコーティング、水熱合成法などで、基材3表面に抗ウイルス剤10を塗布したのち、150℃以上にて焼成し製造される。そのため、基材3の材料は耐熱性があることが望ましい。また、これらの方法は、基材の種類により適宜使い分けることができる。
【0057】
第1実施形態において、抗ウイルス剤10が基材3表面に固定される形態については特に限定されず、当業者が適宜選択できる。例えば、抗ウイルス剤10が基材3表面において散在していてもよい。また抗ウイルス剤10が平面状または3次元状に並ぶ無機微粒子集合体の形態で固定されるようにしてもよい。すなわち、点状、島状、薄膜状等の形状で固定することができる。
【0058】
第1実施形態の抗ウイルス性を有する部材100について、金微粒子1の固定量は、基材3に対して50質量%以下とするのが好ましく、さらに0.1−5質量%とすることがより好ましい。これは、担持量が多すぎると凝集してしまうために効率的に作用できなくなってしまうこと、他方、少なすぎる場合には効果が発揮できないからである。
【0059】
(第2実施形態)
続いて本発明の第2実施形態の抗ウイルス性を有する部材200について図4を用いて詳述する。なお、第1実施形態と共通する構成については、同一の符号を付して、適宜その説明を省略する。
【0060】
図4は、本発明の第2実施形態の抗ウイルス性を有する部材200の断面の一部を拡大した模式図である。本実施形態の抗ウイルス性を有する部材200は、基材3と、無機微粒子2の表面に金微粒子1を固着した抗ウイルス剤10とからなり、基材3の表面に前記抗ウイルス剤10が不飽和結合部を有するシランモノマー4あるいはシランモノマー重合体であるオリゴマー4を介して、化学結合5により強固に固定されている。
【0061】
本発明の第2実施形態の抗ウイルス性を有する部材200で用いられる具体的なシランモノマー4としては、X−Si(OR)n(nは1〜3の整数)の一般式で示されるシランモノマーが挙げられる。尚、Xは例えば有機物と反応する官能基でビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基、ポリスルフィド基、アミノ基、メルカプト基、クロル基などである。また、ORは加水分解可能なメトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基であり、シランモノマーに係る3つの当該官能基は同一でも異なっていてもよい。これらのメトキシ基やエトキシ基からなるアルコキシ基は、加水分解してシラノール基を生ずる。このシラノール基やビニル基やエポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基、また不飽和結合などを有する官能基は反応性が高いことが知られている。すなわち、第2実施形態の抗ウイルス性を有する部材200は、このような反応性に優れたシランモノマー4を介して抗ウイルス剤10を化学結合5により基材3表面に強固に固定している。
【0062】
以上の一般式で表されるシランモノマー4の一例としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、特殊アミノシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、加水分解性基含有シロキサン、フロロアルキル基含有オリゴマー、メチルハイドロジェンシロキサン、シリコーン第四級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0063】
また、シラン系オリゴマーとしては、市販されている信越化学工業株式会社製のKC−89S、KR−500、X−40−9225、KR−217、KR−9218、KR−213、KR−510などが挙げられ、これらのシラン系オリゴマーは単独、或いは2種類以上混合して用いられ、さらに、前述のシランモノマーの1種または2種以上と混合して用いられる。
【0064】
このように、第2実施形態の抗ウイルス性を有する部材200においては、抗ウイルス剤10が、不飽和結合を有するシランモノマーやそのオリゴマー4により、その表面の少なくとも一部を露出した状態で基材3に強固に固定されている。よって、抗ウイルス性を有する部材200表面に付着したウイルスや細菌が抗ウイルス剤10と接触する確率を、一般的な樹脂などのバインダー等を用いて基材3に固定した場合と比較して高くすることができるため、少量でも効率よくウイルスを不活化することができる。
【0065】
また、抗ウイルス剤10は、不飽和結合を有するシランモノマーまたはそのオリゴマー4との化学結合5によりシート本体1に強固に固定されているので、シート本体1からの脱落が、一般的な樹脂などのバインダー等の成分にて被覆されて固定された場合よりも大きく抑制されている。そのため、第2実施形態の抗ウイルス性を有する部材200は、より長くウイルス不活化作用を維持することができる。なお、用いるシランモノマーを選択することにより、化学結合5ではなく、縮合反応やアミド結合、水素結合、イオン結合、或いはファンデルワールス力や物理的吸着などにより抗ウイルス剤10を固定してもよい。
【0066】
このように、抗ウイルス剤10が三次元形状の集合体として、基材3表面上に固定されるため、基剤3表面により多くの微細な凹凸が形成され、当該凹凸によって基剤3への塵埃などの付着が抑制され、抗ウイルス性を有する部材200の抗ウイルス性を一層長く維持することができる。
【0067】
次に、第2実施形態の抗ウイルス性を有する部材200の製造について具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
まず、無機微粒子2の表面に、不飽和結合を有するシランモノマー4を脱水縮合により結合させたのち、水、メタノールやエタノール、MEK、アセトン、キシレン、トルエンなどの分散媒に分散させる。なお、無機微粒子2と不飽和結合を有するシランモノマー4との化学結合は、通常の方法により形成させることができ、例えば、分散液に、シランモノマー4を加え、その後、還流下で加熱させながら、無機微粒子2の表面にシランモノマー4を脱水縮合反応により結合させてシランモノマー4からなる薄膜を形成する方法や、無機微粒子2を分散させた分散液にシランモノマー4を加えた後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマー4を抗ウイルス剤10の表面に脱水縮合反応により結合させ、次いで、粉砕・解砕して再分散する方法が挙げられる。
【0069】
ここで、還流下、または、粉砕により微粒子化して得られた分散液にシランモノマー4を加えた後、或いは、シランモノマー4を加えて粉砕により微粒子化した後、固液分離して100℃から180℃で加熱してシランモノマー4を無機微粒子2の表面に脱水縮合反応により結合させる場合、シランモノマー4の量は、無機微粒子2の平均粒子径および材質にもよるが、無機微粒子2の質量に対して3質量%から30質量%であれば、無機微粒子2同士、および無機微粒子2と第2実施形態の抗ウイルス性を有する部材200を形成する基材3との結合強度は実用上問題ない。
【0070】
以上のようにして作製した無機微粒子2のスラリーを基材2表面に、浸漬法、スプレー法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などの方法で塗布する。このとき、必要に応じて、加熱乾燥などで溶剤を除去する。続いて、再加熱によるグラフト重合や、赤外線、紫外線、電子線、γ線などの放射線照射によるグラフト重合により、基材3表面の官能基と、該基材3表面と対向する無機微粒子2表面に結合したシランモノマー4とを化学結合させる(化学結合5の形成)。併せて、無機微粒子2の表面のシランモノマー4同士も化学結合5させた後、基材3表面にシランモノマー4を介して固定された無機微粒子2に、前述の抗ウイルス剤10の製造方法と同様の方法にて、金微粒子1を固着させる。
【0071】
(第3実施形態)
続いて本発明の第3実施形態の抗ウイルス性を有する部材300について図5を用いて詳述する。なお、第1、第2実施形態と共通する構成については、同一の符号を付して適宜その説明を省略する。
【0072】
図5は、本発明の第3実施形態の抗ウイルス性を有する部材300の断面の模式図を示したものである。第3実施形態の抗ウイルス性を有する部材300は、第2実施形態の構成に加え、基材3表面の水酸基との縮合反応にて結合したカップリング剤6を含む。例えば、基材3表面が無機材料である場合、無機基材表面の水酸基に、カップリング剤6のシラノール基が縮合反応にて結合し、さらに、カップリング剤6と抗ウイルス剤10の表面に固定した不飽和結合を有するシランモノマーまたはそのオリゴマー4、及び、抗ウイルス剤10表面に結合したシランモノマー4同士を共有結合させることができるため、前述の実施形態よりさらに強固に抗ウイルス剤10を固定することができる点が異なっている。
【0073】
第3実施形態の基材3の材料としては、第1、第2実施形態と同様であるが、特に、基材3の表面が金属の場合、通常その表面に酸化被膜が形成されていることから、カップリング剤6との脱水縮合反応による共有結合により、抗ウイルス剤10を基材3の表面により強固に固定することが可能となる。その際、酸化被膜を利用するためには、予め、通常の公知の方法により付着している油分や汚れを除去することが、安定に、且つ、均一に抗ウイルス剤10を固定するためには好ましい。
【0074】
続いて、本発明の第3実施形態の抗ウイルス性を有する部材300の製造方法について、より具体的に説明する。
【0075】
まず、表面の油分や汚れを洗浄し、水酸基を露出した基材3の表面にカップリング剤6を塗布し脱水縮合することで、カップリング層60を形成する。カップリング層60は、カップリング剤6が基材3の表面上に配列して固定することにより構成される。第3実施形態のカップリング層60を構成するカップリング剤6としては、ビニル基や、エポキシ基や、スチリル基や、メタクリロ基や、アクリロキシ基や、イソシアネート基、チオール基などを有するシランカップリング剤が主に用いられる。
【0076】
次に、シランモノマー4を表面に固定した抗ウイルス剤10が分散したスラリーを、カップリング層60を形成した基材3の表面に塗布し、溶媒を加熱乾燥により除去する。続いて、再加熱によるグラフト重合や、赤外線、紫外線、電子線、γ線などの放射線照射によるグラフト重合により、抗ウイルス剤10表面上のシランモノマー4とシランカップリング層60中のシランカップリング剤6とをグラフト重合させると同時に抗ウイルス剤10を結合させる、いわゆる同時照射グラフト重合により製造される。
【0077】
具体的なカップリング剤6及び抗ウイルス剤10の分散液の塗布方法としては、一般に行われているスピンコート法や、ディップコート法や、スプレーコート法や、キャストコート法や、バーコート法や、マイクログラビアコート法や、グラビアコート法や、または部分的に塗布する方法として、スクリーン印刷法や、パッド印刷法や、オフセット印刷法や、ドライオフセット印刷法や、フレキソ印刷法や、インクジェット印刷法などの様々な方法が用いられ、目的に合った塗布ができれば特に限定されない。
【0078】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0079】
(抗ウイルス剤の作成)
(実施例1)
1mg/10mlの金コロイド水溶液(粒径10nm)にγ−アルミナ粉末100mgを加えた後に、撹拌をしながら加熱・乾固した。その後、60メッシュの篩でふるう事で、金微粒子担持γ−アルミナを得た。
【0080】
(実施例2)
0.5mmolのHAuCl・4HOを100mlの水に溶解(5mmol/l)させ、70℃に加温してNaOH水溶液でpH4.8に調製した。その水溶液に無機微粒子としてγ―アルミナ粉末を5g加えて1時間攪拌した。その後、混合物を固液分離し、減圧乾燥して、窒素雰囲気下、200℃で4時間乾燥、粉砕し、金微粒子固着抗ウイルス剤を得た。得た抗ウイルス剤を電子顕微鏡で観察した結果、金微粒子の平均粒子径は4.0nmであった。
【0081】
(抗ウイルス性を有する部材の作成)
(実施例3)
アルミナプレートに、エタノールに10質量%シリカ微粒子を分散し調整した。それを塗布し、180℃で焼成し固定化した。その後、スプレーにて1質量%Auコロイド水溶液(粒径10nm)を塗布した。その後、300℃で焼成した。
【0082】
(実施例4)
無機微粒子として、不飽和結合部を有するシランモノマーであるメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、K6M−503)を通常の方法により脱水縮合させ表面に共有結合させた酸化ジルコニウム粒子(日本電工株式会社製、PCS)100gを、900gのエタノールにプレ分散後、ビーズミルにて解砕・分散し、粒子分散液を得た。得られた粒子分散液の平均粒子径は105nmであった。なお、本明細書でいう平均粒子径とは、体積平均粒子径のことをいう。得られた粒子分散液は固形分濃度が1質量%になるようにエタノールを加えて調整した。
【0083】
続いて、上記塗布液に70g/mのポリエチレンテレフタレート不織布(旭化成せんい株式会社製、エルタス)を含浸・乾燥させることで、無機微粒子固定シートを得た。
【0084】
0.5mmolのHAuCl・4HOを100mlの水に溶解(5mmol/l)させ、70℃に加温してNaOH水溶液でpH4.8に調製した。その水溶液にシート本体として上記無機微粒子固定シート(10cm×10cm)を加えて1時間攪拌した。その後、蒸留水で洗浄し、窒素雰囲気下、100℃で4時間乾燥し、金微粒子を表面に接合した無機微粒子を固定した抗ウイルス性を有する部材を得た。本サンプルを電子顕微鏡にて観察した結果、金微粒子の平均粒子径は4.4nmであった。
【0085】
(実施例5)
無機微粒子として、不飽和結合部を有するシランモノマーであるメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、K6M−503)を通常の方法により脱水縮合させ表面に共有結合させたアルミナ粒子(大明化学工業株式会社製、タイミクロン)に、金コロイド水溶液(株式会社新光化学工業製、30nm)を金がアルミナ粒子に対して1質量%になるように添加し、攪拌することで、塗布液を得た。
【0086】
続いて、上記塗布液に70g/mのポリエチレンテレフタレート不織布(旭化成せんい株式会社、エルタス)を含浸し、窒素雰囲気下、100℃で4時間乾燥し、抗ウイルス性を有する部材を得た。
【0087】
(実施例6)
実施例5において、ポリエチレンテレフタレート不織布の代わりに、80g/mのアルミナ織物(株式会社ニチビ製)を用いた。
【0088】
(実施例7)
市販のジルコニア微粒子(日本電工株式会社製、PCS)をメタノールに対して10.0質量%、シランモノマーとして3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−503)を微粒子に対して5.0質量%加えてpH4.0になるように塩酸で調製した後、ビーズミルにより平均粒子径16nmに粉砕分散した。その後、凍結乾燥機により固液分離して120℃で加熱してシランモノマーをジルコニア微粒子の表面に脱水縮合反応により化学結合させて被覆を形成した。
【0089】
メタノールに上記方法で作製したシランモノマー被覆ジルコニア微粒子を3質量%となるよう加え、シランモノマー被覆ジルコニア微粒子に対して、バインダー成分としてテトラメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−04)を30.0質量%分散し、ビーズミルにより平均粒子径16nmに再度粉砕分散した。
【0090】
表面をアルカリ洗剤で洗浄後、イオン交換水で洗浄し、メタノールに浸漬後、乾燥機で乾燥させたアルミナ織物(株式会社ニチビ製)を同様の条件で洗浄した後、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−503)を1.0質量%含むメタノール溶液をスプレーにて塗布し、120℃、10分間乾燥することで、シランカップリング剤をアルミナ織物表面に脱水縮合反応により結合させた。次に、バインダーを含むシランモノマー被覆ジルコニア分散液をスプレーにて塗布し、100℃、5分間乾燥後、電子線を200kVの加速電子で5Mrad照射することで、ジルコニア微粒子が固定された抗ウイルス性を有する部材を得た。
【0091】
その後、表面にジルコニア微粒子を固定したアルミナ織物を、実施例4と同様の方法にて、ジルコニア微粒子表面に金微粒子を接合させた。本サンプルを電子顕微鏡にて観察した結果、金微粒子の平均粒子径は5.0nmであった。
【0092】
(比較例1)
実施例1で用いた金微粒子を担持しない以外は、実施例1と同様の条件で作成し、比較例1とした。
【0093】
(比較例2)
実施例2で用いた金微粒子を担持しない以外は、実施例2と同様の条件で作成し、比較例2とした。
【0094】
(比較例3)
実施例3で用いた金微粒子を担持しない以外は、実施例3と同様の条件で作成し、比較例3とした。
【0095】
(比較例4)
実施例4で用いた金微粒子を担持しない以外は、実施例4と同様の条件で作成し、比較例4とした。
【0096】
(比較例5)
実施例7で用いた金微粒子を担持しない以外は、実施例7と同様の条件で作成し、比較例5とした。
【0097】
(本発明の抗ウイルス剤および抗ウイルス性を有する部材の抗ウイルス性評価方法)
ウイルス不活化シートのウイルス不活化性の測定は、MDCK細胞を用いて培養したインフルエンザウイルス(influenza A/北九州/159/93(H3N2))およびネコ腎臓継代細胞(CrFK株)を用いて培養したネコカリシウイルス(F9株)を用いた。
【0098】
サンプルが粉体である実施例1、2、比較例1、2については、次のような方法で抗ウイルス性を測定した。具体的には、まず各サンプルを、懸濁液濃度が1.0質量%、10.0質量%になるように各々PBSにて希釈した試料を用意した。2種類の濃度の試料各100μlに、前記のウイルス液100μlをそれぞれ加え、マイクロチューブローテーターを用いて攪拌しながら室温にて10分間または60分間反応させた。コントロールは、PBS100μlに前記のウイルス液100μlを加え、各試料と同様に、マイクロチューブローテーターを用いて10分間または60分間攪拌したものとした。所定時間攪拌後、ウイルスと各サンプル中の化合物との反応を停止させるために20mg/mlのブイヨン蛋白を1800μl加えた。その後、超小型遠心機により固形分を沈殿させ、上清を回収しサンプル液とした。
【0099】
サンプルが不織布または織物である場合、サンプル16cm(2cm×2cm、4枚重ね)を滅菌済みのバイアル瓶に入れ、ウイルス液0.1mlを滴下し、室温で60分間作用させた。60分間作用させたのち、界面活性剤入りの20mg/mlのブイヨン蛋白液1900μlを添加し、ピペッティングによりウイルスを洗い出した。その後、各反応サンプルが10−2〜10−5になるまでMEM希釈液にて希釈を行ったものをサンプル液とした(10倍段階希釈)。
【0100】
続いて、シャーレに培養したMDCK細胞に上記各サンプル液100μlを接種した。90分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%COインキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラック数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque−forming units)を算出した。その結果を表1に示す。
【0101】
【表1】



【0102】
以上の結果より、本発明の金微粒子を担持した無機微粒子による抗ウイルス剤、及びかかる抗ウイルス剤を固定した各種の部材(構造体)において、高いウイルス不活化作用が認められた。その効果は、すべての実施例において60分間で不活化率99.99%以上という非常に高い作用が認められた。したがって、本発明の抗ウイルス剤、及び抗ウイルス性を有する部材を用いることで、ウイルスへの感染リスクが低減された環境を提供することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 金微粒子
2 無機微粒子
3 基材
4 シランモノマーおよびそのオリゴマー
5 化学結合部
6 カップリング剤
10 抗ウイルス剤
60 カップリング層
100、200、300 抗ウイルス性を有する部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が無機材料からなる無機微粒子と、
該無機微粒子表面に固着した金微粒子と、
からなることを特徴とする抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記金微粒子が、前記無機微粒子の表面に接合し、かつ接合界面周縁部を有することを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
基材と、
該基材表面に固着された請求項1又は2に記載の抗ウイルス剤と、
からなることを特徴とする抗ウイルス性を有する部材。
【請求項4】
前記基材が繊維構造体からなることを特徴とする、請求項3に記載の抗ウイルス性を有する部材。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の抗ウイルス性を有する部材を用いたフィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−67577(P2013−67577A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206400(P2011−206400)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(391018341)株式会社NBCメッシュテック (59)
【Fターム(参考)】