説明

抗サイトカイン剤を用いて対象の腱炎を治療する方法

対象中の腱炎及び滑液包炎を治療する方法は、有効量の抗サイトカイン剤を筋腱炎構造に提供することを含む。TNF−α阻害剤、NF−B阻害剤、IL−1阻害剤、IL−6阻害剤、IL−8阻害剤、IL−12阻害剤、IL−15阻害剤、IL−10、インターフェロン−ガンマ(IFN−ガンマ)等の抗サイトカイン剤は、さらにサイトカイン因子により生じる炎症を予防するように作用する。1の態様には、抗サイトカイン剤に1又はそれ以上の抗生物質又は鎮静剤を添加することが含まれる。抗サイトカイン剤の送達は、筋腱炎に罹患した構造に、注射、インプラント又は経皮パッチにより提供されてもよい。当該薬剤は、個々に又は組み合わせて、腱炎、滑液包炎及び炎症及び痛みをもたらす関連する腱炎症の根本的な原因を直接処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腱及び/又は滑液包の疼痛性炎症部位か又はそれに近接する部位に有効量の抗サイトカイン剤を提供することにより、炎症を除去又は軽減することによる、対象の腱炎及び/又は滑液包炎を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症は、外傷に対する急性反応又は炎症薬剤の存在に対する慢性反応となりうる。組織が損傷した場合、TNF−αが細胞に接着して、炎症の原因となる他のサイトカインを細胞に放出させる。炎症カスケードの目的は、損傷組織の治癒を促進することであるが、ひとたび当該組織が治癒しても、必ずしも炎症プロセスが終わるとは限らない。歯止めがきかなければ、周辺組織の分解及び関連する慢性痛がおこりうる。すなわち、痛みが本質的な病態となりうる。つまり、この経路が活性化されると、結果として炎症及び痛みがおこる。損傷、炎症及び痛みの、ひどく、かつ、無限と思われるような循環がおこる場合がある。この循環としては、腱及び滑液包があげられるが、これらに限定されない状態の多数の例がある。
【0003】
正常の腱は筋肉を骨に接続し、かつ、筋肉で生成された力を骨に移動させて、関節運動を起こす。腱は縦方向に指向したコラーゲン繊維を含む階層構造であり、コラーゲン繊維は微小線維内でクラスター化して、順に、亜線維、線維、束にクラスター化し、最終的には腱を形成する。微小組織の各段階には、線維芽細胞が優勢である細胞が少ない細胞外プロテオグリカン基質内に、繊維の類似した全体的な構造がある。細胞はコラーゲン繊維間に存在し、かつ、微小組織の束の段階では、緩慢な結合組織それ自体が束の間を覆っており、それをエンドテノン(endotenon)というが、これは、束が縦方向に動くことを可能にし、血管、リンパ管及び神経のための空間を可能にする。エピテノン(epitenon)という、腱に供給する血管、リンパ管及び神経を含有する緩慢な結合組織鞘は、腱全体を覆い、エンドテンドン(endotendon)間でその深部に伸長する。エピテンドン(epitendon)は、パラテノン(paratenon)に囲まれた滑膜細胞の内層である。腱の損傷中、腱内の損傷細胞は回復するための時間がない。細胞は自然に回復することができず、連鎖反応がおこり、腱炎が生じる。これが腱中で起こった場合、炎症、又は、腱の破裂さえもおこる場合がありうる。これは、腕を円滑かつ反復して動かすことが必要なスポーツや業務活動中、特に腕の動作が頭上で行われる場合にはよくあることである。腱が分解すると、腱を形成するために互いに連結するコラーゲン繊維が正常に配置されなくなる。腱の個々の繊維のあるものは分解のために脆弱化し、他の繊維は破壊されて、腱は強度を失う。G. Riley, The pathogenesis of tendinopathy. A molecular perspective, Rheumatology, 2004; 43:131-142 (July 2003)を参照のこと。
【0004】
最近、急性の及び慢性の腱炎炎症に罹患している対象は、腱炎に関連する炎症反応を治療するために、NSAID及びコルチコステロイドを含む治療を処方される。しかしながら、この作用経過は炎症の根本的な原因に対処することができない。さらに、NSAID及びコルチコステロイドの使用には論争があり、その結果は、有効な治療選択を十分に支持するものではない。J. D. Ress et al., Current concepts in the management of tendon disorders, Rheumatology, 2006; 45:508-521 (February 2006)を参照のこと。対象は、生産性、身体障害及び代償に対して感情的かつ実質的な損害を被る。急性及び慢性の腱炎患者が、集中身体治療及び疼痛緩和のための高価かつ問題のある、潜在的に抜本的で、高度な侵襲的手術を受けることはまれなことではない。
【0005】
従来技術では、炎症は、腱炎の疾患の進行及び痛みに影響を及ぼすと考えられている。炎症は血管新生を刺激することができ、かつ、血管新生は炎症を促進すると考えられていた。炎症は神経を過敏にさせて、疼痛が増強される。炎症及び血管新生の阻害により、症状の改善及び関節障害の遅延により、骨関節炎の治療に有効な治療法が提供されうる。C. S. Bonnet et al., Rheumatology, Oxford Journals, 2005; 44:7-16を参照のこと。
【0006】
炎症は、正常な軟骨及び骨の成長に重要な機能を担うと認識される。栄養物、酸素及び細胞の送達を促進すると、血管が、関節及び軟組織の構造的及び機能的統合を維持することを促進し、組織の再生や治癒が促進されうる。血管内皮細胞増殖因子等の血管新生前メディエーターの同定により、新生物疾患の治療のための抗血管新生療法の開発がなされてきた。いかなる理論に拘束されるものではないが、関節リウマチ等の関節不全の病態における血管新生の重要な機能により、抗血管新生治療が、関節リウマチの治療において存在するアプローチを補助するものとして有用となりうるという示唆が導かれる。Ballara S. C. et al., Int. J. Exp. Pathol., 1999, Oct.; 80(5):235-50を参照のこと。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それゆえ、従来技術の障害を除去する腱炎及び滑液包炎を軽減する改善された方法を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、有効量の抗サイトカイン剤を筋−腱炎構造に投与することにより、腱炎及び滑液包炎を治療する方法を提供することにより上記要望を満たす。特に、抗サイトカイン剤は、筋−腱炎構造での迅速な炎症促進性反応を阻害する。いかなる理論にも拘束されるものではないが、出願人は、炎症促進性サイトカインを妨げると、腱の炎症を軽減及び/又は緩和させるであろうと考える。
【0009】
ある態様では、抗サイトカイン剤は、持続性放出製剤、デポー又は経皮パッチで投与されてもよい。
他の側面では、抗サイトカイン剤は、腱及び/又は滑液包の疼痛性炎症部位又はその部位に近接する部位で、炎症因子を崩壊させるのに適する。抗サイトカイン剤としては、例えば、抗TNFα剤等の炎症促進性受容体アンタゴニストがあげられ、これは、効率よくTNFα受容体と競合し、炎症促進性反応を阻害する。
【0010】
好ましい態様としては、腱及び/又は滑液包の疼痛性炎症部位又はその部位に近接する部位で導入される生分解性デポーにより抗サイトカイン剤を投与することがあげられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の原理の理解を促進する目的で、これから、例示が好ましい態様に対してなされ、特定の用語が上記を記載するために用いられるであろう。それにもかかわらず、その結果、本発明の範囲の限定が意図されるものではないこと、本発明の変更及びさらなる改変、並びに、本明細書に例示された本発明の原理のさらなる適用等は、本発明に関する分野の当業者に通常意図されて、理解されるはずである。
【0012】
定義
本発明の理解に役立つように、以下に非限定の定義を提供する。
「腱炎」という用語は、腱の負傷又は筋−腱炎構造での腱炎症に起因する、慢性又は急性の腱の炎症反応と定義される。
【0013】
「滑液包炎」という用語は、腱と皮膚の間又は腱と骨の間に生じる滑液包の炎症反応と定義される。
「筋−腱炎構造」という用語は、骨と筋肉に接着する腱の挿入部位と定義され、例えば、踵を下肢の筋肉に接続するアキレス腱等をいう。
【0014】
「腱炎症」という用語は、腱が痛むか又は損傷した場合に起こる、腱負傷の1の種類をいう。これは、腱中又は腱周辺の結合組織中の腱炎症及び/又はミクロティア(microtear)の結果でありうる。
【0015】
「抗サイトカイン剤」という用語は、炎症反応をおこすサイトカインタンパク質の炎症促進性カスケードを軽減し、妨げ、阻害、破棄又は干渉する、いかなる分子、細胞又は生理的刺激をも意味する。例えば、適当な「腫瘍壊死因子αアンタゴニスト」又は「TNF−α」アンタゴニストはTNFと結合でき、かつ、特異的にTNFと結合する抗−TNF抗体及び/又は受容体分子を含む。適当なTNFアンタゴニストはまた、TNF合成及び/又はTNF放出を妨げるか又は阻害することができ、かつ、サリドマイド、テニダップ、並びに、ペントキシフィリン及びロリプラム等であるがこれらに限定されないリン酸ジエステラーゼ阻害剤等の化合物を含む。
【0016】
本明細書で用いられる抗サイトカイン剤としては、TNF−αの炎症促進性効果の直接及び局所的に作用するモジュレーターである物質があげられ、可溶性腫瘍壊死因子α受容体、いかなるペグ化可溶性腫瘍壊死因子α受容体、モノクローナル抗体あるいはポリクローナル抗体若しくは抗体断片又はそれらの組み合わせ等の物質があげられるが、これらに限定されない。適当な例としては、アダリムマブ、インフリキシマブ、エタネルセプト、ペグスネルセプト(Pegsunercept(PEGsTNF−R1))、sTNF−R1、CDP−870、CDP−571、CNI−1493、RDP58、ISIS104838、1→3−β−D−グルカンス(glucans)、レネルセプト、PEG−sTNFRIIFcムテイン、D2E7、アフェリモマブ及びそれらの組み合わせがあげられるが、これらに限定されない。これらは、炎症促進性分子の放出の阻害剤又はアゴニストとしての作用を介して痛みを軽減することができる。例えば、当該物質は、サイトカイン若しくは早期炎症カスケードにおいて作用する他の分子の発現又は結合を阻害又は中和することにより作用することができ、その結果、プロスタグランジン及びロイコトリエンの下流放出がおこる場合がある。当該物質はまた、例えば、神経系又は神経筋系中で、興奮性分子が侵害受容体と結合するのを妨げるか又は中和することにより、作用することができるが、これは、当該受容体が、酸化窒素介在メカニズムを介した神経又は周辺組織の炎症又は損傷に対する炎症反応を誘発する場合があるためである。これらの生物学的反応修飾因子としては、例えば、腫瘍壊死因子α(TNF−α)の作用の阻害剤があげられる。慢性関節炎疾患では、例えば、炎症が抑制された場合でも軟骨分解が継続することが、研究により、示された。抗TNF薬剤等の抗サイトカイン剤は特に腱炎及び/又は滑液包炎に有効であるが、それは、例えば、痛みの原因をもたらす炎症を軽減させうるだけでなく、炎症反応に関連しうる腱及び/又は滑液包の崩壊の進行を遅延させうるためである。すなわち、本発明の抗サイトカイン剤の局所標的送達は、腱及び滑液包の壊死及び障害を軽減しうる。
【0017】
他のアプローチの1の例示では、抗サイトカイン剤はTNF結合タンパク質である。最近のそのような1の適当な抗サイトカイン剤は、オネルセプト(Onercept)といわれる。オネルセプト、オネルセプト様薬剤及びその誘導体を含む製剤は、全て許容されると考えられる。他の適当な抗サイトカイン剤としては、ドミナントネガティブTNF変異体もあげられる。適当なドミナントネガティブTNF変異体としては、DN−TNFがあげられるがこれに限定されず、Steed et al. (2003), “Inactivation of TNF signaling by rationally designed dominant-negative TNF variants,” Science, 301(5641):1895-1898に記載されているような変異体があげられる。さらなる態様としては、組換えアデノ関連ウイルス(rAAV)ベクター技術基盤の使用があげられ、これは、阻害剤、エンハンサー、増強剤、中和剤又は他の改変剤をコードするオリゴヌクレオチドを送達する。例えば、1の態様では、rAAVベクター技術基盤は、腫瘍壊死因子(TNF−α)の有望な阻害剤であるDNA配列を送達する。1の適当な阻害剤は、TNFR:Fcである。他の抗サイトカイン剤としては、抗体があげられるが、この抗体は、天然又は合成の、二本鎖、一本鎖又はそれらの断片を含むがそれらに限定されない。例えば、適当な抗サイトカイン剤としては、Nanobodies(商標)(Ablynx、GhentBelgium)といわれる一本鎖抗体に基づく分子があげられるが、これは、天然単一ドメイン抗体の最小の機能的断片と定義される。
【0018】
TNFが、その産生を調節する上流の事象に影響され、かつ、同様に下流の事象に影響することが理解される。腱炎及び/又は滑液包炎を治療する他のアプローチは、この公知の事実を有効に利用するもので、アンタゴニストは、TNF、並びに、上流分子、下流分子及び/又はその組み合わせを特異的に標的とするように設計される。当該アプローチとしては、TNFを直接調節すること、キナーゼを調節すること、細胞シグナリングを阻害すること、第2メッセンジャー系を操作すること、キナーゼ活性化シグナルを調節すること、炎症細胞上のクラスター識別子を調節すること、炎症細胞上の他の受容体を調節すること、経路中のTNF又は他の標的の転写又は翻訳を遮断すること、TNF−α翻訳後効果を調節すること、遺伝子サイレンシングを用いること、又は、例えば、IL−1、IL−6及びIL−8のインターロイキンを調節することがあげられるが、これらに限定されない。
【0019】
インターロイキン−1は、TNF−αに対する作用に類似する炎症促進性サイトカインである。例えば、このタンパク質のある阻害剤は、TNF−αを阻害するように開発されたものに類似する。そのような1の例示は、ヒトインターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1Ra)の組換え非糖化体であるKineret(登録商標)(anakinra)である。他の適当な抗サイトカイン剤はAMG108であり、これは、IL−1の作用を遮断するモノクローナル抗体である。
【0020】
他の抗サイトカイン剤としては、例えば、フルシノロノン(flucinolonone)等のグルココルチコイド等のNFκB阻害剤、スリンダク及びテポキサリン(tepoxalin)等の非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)、ジチオカルバメート等の抗酸化剤、並びに、スルファサラジン[2−ヒドロキシ−5−[−4−[C2−ピリジニルアミノ)スルフォニル]アゾ]安息香酸]、クロニジン(clonidine)及びオルソキン(Orthokine)等の自己血液由来産物等の他の化合物があげられるが、これらに限定する意図はない。
【0021】
本明細書で用いられる「調節すること」とは、開始することから停止することまでを範囲とし、かつ、著しく又はわずかに促進することから著しく又はわずかに阻害することを含む範囲内をいう。「阻害すること」という用語は、タンパク質の産生又はオリゴヌクレオチド配列の翻訳等の標的とする機能を軽減又は除去しうるダウンレギュレーションをいう。例えば、所定の患者の体調は、TNF等の単一分子を阻害するか又は経路中の上流及び/又は下流のカスケード中の1以上の分子を調節することが必要でありうる。
【0022】
TNF−α翻訳後効果を阻害する抗サイトカイン剤は、本発明では有用である。例えば、TNF−αシグナリングカスケードが開始すると、その後に傍分泌及び自己分泌中で作用する多数の因子の産生が促進されて、TNF−α及び他の炎症促進性薬剤(IL−1、IL−6、IL−8、HMG−B1)の産生がさらに誘導される。TNF−αの下流のシグナル上に作用する細胞外TNF−αを調節する抗サイトカイン剤は、全身性炎症疾患の治療に有用である。当該抗サイトカイン剤のあるものは、他のエフェクター分子を遮断するように設計されるが、その他のものは、さらに、例えば、インテグリン及び細胞接着分子の産生を誘導するのに必要な細胞相互作用を遮断してしまう。
【0023】
適当な抗サイトカイン剤としては、インテグリンアンタゴニスト、アルファ−4ベータ−7インテグリンアンタゴニスト、細胞接着阻害剤、インターフェロンガンマアンタゴニスト、CTLA4−Igアゴニスト/アンタゴニスト(BMS−188667)、CD40リガンドアンタゴニスト、ヒト化抗−IL−6mAb(MRA, Tocilizumab, Chugai)、HMGB−1mAb(Critical Therapeutics Inc.)、抗−IL2R抗体(daclizumab, basilicimab)、ABX(抗IL−8抗体)、組換えヒトIL−10並びにHuMaxIL15(抗IL15抗体)があげられる。
【0024】
上記のように、他の適当な抗サイトカイン剤としては、Kineret(登録商標)(anakinra)及びAMG108等のIL−1阻害剤があげられる。
「炎症促進性(pro-inflammatory)」という用語は、例えば、腫瘍壊死因子α(TNF−α)及び腫瘍壊死因子ベータ(TNF−β)等の炎症反応をおこすサイトカインを分泌するための単球及びマクロファージを誘導するエンドドキシン又は刺激を意味するものである。
【0025】
「活性成分」という用語は、医学的に有用な終点を達成する生物学的活性成分を意味するものであり、ある態様では、特に、抗生物質、鎮静剤又はそれらのいかなる組み合わせを含む。
【0026】
「対象」という用語は、ヒトに限らず、脊索動物門に属するいかなる動物をも意味するものである。
疾患を「治療すること」又は疾患の「治療」という用語は、疾患の兆候又は症状を緩和するために、1又それ以上の薬剤を(ヒト又は他の)患者に投与することを含むプロトコールを行うことをいう。緩和は、症状の出現後同様、疾患の兆候又は症状に先立って生じてもよい。すなわち、「治療すること」又は「治療」には、疾患を「予防すること」又は疾患の「予防」が含まれる。さらに、「治療すること」又は「治療」は、兆候又は症状が完全に緩和されなくてもよく、治癒しなくてもよく、かつ、特に、患者に最低限の効果しかないプロトコールも含む。
【0027】
担体
抗サイトカイン剤は、腱の疼痛性炎症の部位又は当該部位に近接する部位に投与される担体中に含まれてもよい。担体の、適当、かつ、非限定的な例としては、例えば、PEGゲル、SABEゲル、ハイドロゲル等のゲルがあげられる。抗サイトカイン剤を当該担体に取り込む方法は当業者には公知であり、かつ、本発明を行う当業者により選択される抗サイトカイン剤の性質及び担体の性質に依存する。イオン結合、担体内のゲルカプセル化又は物理的封入、イオン導入及び担体を抗サイトカイン剤の溶液中に浸漬することは、当該方法の適当な例である。あるいは、当該担体は、抗サイトカイン剤の希釈剤にすぎなくてもよい。
【0028】
活性成分
本発明の他の態様では、活性成分もまた、担体に添加されてもよい。活性成分としては、抗生物質、鎮静剤、それらの組み合わせ、及び、1又はそれ以上の抗サイトカイン剤があげられる。
【0029】
適当な鎮静剤としては、モルヒネ及びナロキソン、(例えば、リドカイン等の)局所麻酔剤、グルタミン酸受容体アンタゴニスト、アドレナリン受容体、アデノシン、カナビノイド、コリン作動性受容体アンタゴニスト及びGABA受容体アンタゴニスト及び他の神経ペプチドがあげられる。他の鎮静剤の詳細な議論は、Sawynok et al., (2003) Pharmacological Reviews, 55:1-20より提供され、当該文献は、本明細書にその内容が援用される。
【0030】
適当な抗生物質としては、ニトロイミダゾール抗生物質、テトラサイクリン、ペニシリン、セファロスポリン、カルボペネム、アミノグリコシド、マクロライド抗生物質、リンコサミド抗生物質、4−キノロン、リファミシン及びニトロフラントインがあげられるが、これらに限定されない。適当な特定の化合物としては、アンピシリン、アモキシリン、ベンジルペニシリン、フェノキシメチルペニシリン、バカンピシリン、ピバンピシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、シクラシリン、ジクロキサシリン、メチシリン、オキサシリン、ピペラシリン、チカルシリン、フルクロキサシリン、セフロキシム、セフェタメト、セフェトラーム(cefetrame)、セフィキシン(cefixine)、セフォキシチン、セフタジジム、セフチゾキシム、ラタモキセフ、セフォペラゾン、セフトリアキソン、セフスロジン、セフォタキシム、セファレキシン、セファクロル、セファドロキシル、セファロチン、セファゾリン、セフポドキシム、セフチブテン、アズトレオナム、チゲモナム(tigemonam)、エリスロマイシン、ジリスロマイシン、ロキシスロマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、クリンダマイシン、パルディマイシン(paldimycin)、リンコマイシール(lincomycirl)、バンコマイシン、スペクチノマイシン、トブラマイシン、パロモマイシン、メトロニダゾール、チニダゾール、オルニダゾール、アミフロキサシン、シノキサシン、シプロフロキサシン、ジフロキサシン、エノキサシン、フレロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、テマフロキサシン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、メタサイクリン、ロリテトラサイクリン、ニトロフラントイン、ナリジクス酸、ゲンタマイシン、リファムピシン、アミカシン、ネチルマイシン)、イミペネム、シラスタチン、クロラムフェニコール、フラゾリドン、ニフロキサジド、スルファジアジン、スルファメトキサゾール、ジサリチル酸ビスマス、コロイドジクエン酸ビスマス、グラミシジン、メシリナム、クロキシキン、クロルヘキシジン、ジクロロベンジルアルコール、メチル−2−ペンチルフェノール及びそれらの組み合わせがあげられるが、これらに限定されない。
【0031】
持続性放出製剤
本発明の他の態様では、抗サイトカイン剤、及び、場合によっては、いかなる他の活性成分が、持続性放出製剤中に存在してもよい。持続性放出製剤のための適当な担体としては、カプセル、ミクロスフェア、粒子、ゲル、コーティング、基質、ウエハー、ピル又は他の医薬的送達組成物があげられるが、これらに限定されない。当該持続性放出製剤の例は、今までに、例えば、その内容が本明細書に援用される米国特許第6,953,593号、第6,946,146号、第6,656,508号、第6,541,033号、第6,451,346号に報告されている。持続性放出製剤の調製のための多くの方法が、当業界で公知であり、本明細書に援用されるRemington’s Pharmaceutical Sciences (18th ed.; Mack Publishing Company, Eaton, Pa., 1990)に開示されている。
【0032】
一般に、抗サイトカイン剤は、固形疎水性ポリマーの半透明基質中に封入されうる。当該基質は、フィルム又はマイクロカプセルに成型されてもよい。当該基質の例としては、ポリエステル、L−グルタミン酸とガンマエチル−Lグルタメートの共重合体(Sidman et al., Biopolymers 22:547-556 (1983))、ポリ乳酸(米国特許第3,773,919号及び欧州特許第58,481号)、ポリラクチド−co−グリコリド(例えば、米国特許第4,767,628号及び第5,654,008号参照)等のポリ乳酸ポリグリコール酸(PLGA)、ハイドロゲル(例えば、Langer et al. (1981) J. Biomed. Mater. Res. 15:167-277; Langer, Chem. Tech. 12:98-105 (1982)参照)、非分解性エチレン酢酸ビニル(例えば、エチレン酢酸ビニルディスク及びポリ(エチレン−co−酢酸ビニル))、ラプロン(Lupron)デポー(商標)等の分解性乳酸−グリコール酸共重合体、ポリ−D−(−)−3−ヒドロキシブチル酸(欧州特許第133,988号)、ヒアルロン酸ゲル(例えば、米国特許第4,636,524号参照)、アルギニン酸懸濁物、ポリオルソエステル(POE)等があげられるが、これらに限定されない。
【0033】
抗サイトカイン剤をカプセル化することができる適当なマイクロカプセルとしてはまた、ヒドロキシメチルセルロース又は液滴形成技術又は界面重合により調製されるゼラチンマイクロカプセル及びポリメチルメタクリレートマイクロカプセルもあげられる。本明細書で援用される、タンパク質がPLGAミクロスフェアにカプセル化されたことに関する、国際出願公開WO99/24061号「持続性放出製剤を調製する方法」を参照のこと。加えて、リポソーム及びアルブミンミクロスフェア等のマイクロエマルジョン又はコロイダル薬剤送達系もまた用いられる。Remington’s Pharmaceutical Sciences (18th ed.; Mack Publishing Company Co., Eaton, Pa., 1990)を参照のこと。他の好ましい持続放出組成物としては、投与部位で抗サイトカイン剤を保持させる生体接着剤を用いる。
【0034】
持続性放出製剤は、抗サイトカイン剤が処理される生分解性ポリマーを含んでもよく、非迅速放出が提供されうる。持続性放出製剤に適当な生分解性ポリマーの非限定的な例としては、ポリ(アルファヒドロキシ酸)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)(PLGA)、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PG)、ポリ(アルファヒドロキシ酸)のポリエチレングリコール(PEG)複合体、ポリオルソエステル、ポリアスピリン、ポリフォスファジェン、コラーゲン、デンプン、キトサン、ゼラチン、アルギネート、デキストラン、ビニルピロリドン、ポリビニルアルコール(PVA)、PVA−g−PLGA、PEGT−PBT共重合体(ポリアクティブ)、メタクリレート、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、PEO−PPO−PEO(プルロニクス)、PEO−PPO−PAA共重合体、PLGA−PEO−PLGA、ポリオルソエステル(POE)又はそれらのいかなる組み合わせがあげられ、それは、例えば、各々その全体が本明細書に援用される米国特許第6,991,654号及び米国特許出願第20050187631号に記載されている。
【0035】
当業者であれば、持続性放出製剤の異なる組み合わせもまた本発明に適することを理解するはずである。例えば、当業者であれば、少なくとも1の抗サイトカインが装填されたゲル及びミクロスフェアの組合せとして少なくとも1の抗サイトカイン剤を処方することができ、ここで、ゲル及びミクロスフェアの組合せが標的部位に配置される。
【0036】
本発明の実施に際して、投与は局所的かつ持続的であってもよい。例えば、担体、持続性放出製剤及び抗サイトカインの総量に応じて、約1日から約6ヶ月にわたる所定の期間にわたり(任意の活性成分を含む)活性材料を放出することができる。
【0037】
他の態様では、さらに賦形剤が用いられる。本発明の組成物中で有効な賦形剤の量は、必要な患者に送達された場合、均一に分散されるように、組成物を介して、抗サイトカイン及び他の活性成分を均一にもたらすことができる量である。抗サイトカインを、極めて高濃度であるために生じるいかなる不利な副作用をも最小限にすると同時に、抗サイトカインが所定の有効な苦痛緩和をもたらすか又は治療的結果をもたらすような濃度に希釈するような役目を果たしてもよい。また、保存効果があってもよい。すなわち、生理学的活性が高い抗サイトカインでは、よりいっそうの賦形剤が用いられるはずである。一方、生理学的活性が低い抗サイトカイン化合物では、用いられる賦形剤はより少量であろう。一般に、組成物中の賦形剤の量は、総組成物の約50%重量(w)から99.9%wの間であるはずである。もちろん、抗サイトカイン化合物の生理学的活性が特に低い場合、賦形剤の量は1%w程度であってもよい。一方、特に生理学的活性が高い抗サイトカインでは、賦形剤の量は約98.0%から約99.9%wの間であってもよい。
【0038】
すなわち、少なくとも1の抗サイトカイン剤及び/又は活性成分を含む持続性放出製剤を作製する方法は、当業者の専門技術の範囲内である。
抗サイトカイン剤は局所的に投与されてよい。1の態様では、抗サイトカイン剤は、目標とする放出速度を有し、かつ、疼痛性炎症部位又はその近接部位の筋腱炎構造に注入される。他の態様では、調節投与系が抗サイトカイン剤を放出する。調節投与系とは、例えば、デポー、輸液ポンプ、浸透性ポンプ、埋込型ミニポンプ、蠕動ポンプ又は他の医薬的ポンプであってもよい。当該調節投与系は、疼痛性腱の炎症の部位の近くに埋め込まれてもよい。さらに他の態様では、調節投与系は、標的部位又は当該部位の近くでカテーテルの挿入により局所的に投与する系を含み、当該カテーテルには、医薬的送達ポンプに滑らかに接続される近位端及びin situで医薬的に送達するように開く遠位端がある。例えば、カテーテルの遠位端は、抗サイトカイン剤を疼痛性腱の炎症の10cm以内、さらに具体的には、炎症の5cm以内に送達する。
【0039】
デポーとしては、カプセル、ミクロスフェア、粒子、ゲル、コーティング、基質、ウエハー、ピル又は1又はそれ以上の活性成分を含有する他の医薬的送達組成物、例えば、抗サイトカインを1又はそれ以上の他の活性成分と組み合わせて含有するものがあげられるが、これらに限定されない。デポーは、バイオポリマーを含んでもよく、かつ、生分解性であってもよい。バイオポリマーは、1又はそれ以上の活性成分及び抗サイトカインの非迅速放出を提供してもよい。適当な持続性放出バイオポリマーの例としては、ポリ(アルファヒドロキシ酸)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)(PLGA)、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PG)、ポリ(アルファヒドロキシ酸)のポリエチレングリコール(PEG)複合体、ポリオルソエステル、ポリアスピリン、ポリフォスファジェン、コラーゲン、デンプン、キトサン、ゼラチン、アルギネート、デキストラン、ビニルピロリドン、ポリビニルアルコール(PVA)、PVA−g−PLGA、PEGT−PBT共重合体(ポリアクティブ)、メタクリレート、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、PEO−PPO−PEO(プルロニクス)、PEO−PPO−PAA共重合体、PLGA−PEO−PLGA、ポリオルソエステル(POE)又はそれらのいかなる組み合わせがあげられるがこれらに限定されない。
【0040】
抗サイトカイン剤は筋腱炎構造に注入されてもよい。本態様は、特に好ましくありうる。本発明に有用に適応されうる医薬的薬剤を投与する他の例としては、Trieuら、米国特許出願第2004005414号、米国特許出願第20040228901号、米国特許出願第200540119754号及び米国特許出願第20050197707号に見出すことができる。あるいは、抗サイトカイン剤が最適に装填された経皮パッチが、標的部位に抗サイトカイン剤を局所的に投与するために用いられる。パッチは、例えば、疼痛性腱の炎症のすぐ上部又は周辺の皮膚の領域に、適用されてもよい。
【0041】
当業者であれば、当該態様の多様な改変が可能であることを理解するはずである。当該態様は、抗サイトカイン剤及び活性成分の異なる持続性放出製剤である。
本発明の方法の特定の態様は、以下の非限定の実施例で記載されるであろう。本明細書の本発明は特定の態様に関して記載されてきたが、当該態様が、本発明の原理及び適用の単なる例示にすぎないことは理解されるべきである。
【実施例】
【0042】
実施例1
抗サイトカイン剤は、水、生理食塩水又はエチレングリコール等の生体適合性媒質で混合されてもよく、かつ、シリンジ及び皮下注射針を用いて、筋腱炎構造の周辺領域に直接注射してもよい。単回注射は炎症の軽減に効果的であるが、治療の適当なレベルを達成するのに追加の注射が必要でありうる。
【0043】
実施例2
抗生物質及び/又は鎮静剤を含む抗サイトカイン剤は、水、生理食塩水又はエチレングリコール等の生体適合性媒質で混合されてもよく、かつ、シリンジ及び皮下注射針を用いて、腱及び/又は滑液包に又はその付近に直接注射してもよい。単回注射は痛みの軽減に効果的であるが、治療の適当なレベルを達成するのに追加の注射が必要でありうる。
【0044】
実施例3
抗サイトカイン剤が装填された生分解性デポーは、公知の適当な方法を用いて、炎症及び慢性の痛みを示す筋腱炎構造に配置されるか、又は近接する部位に配置される。生分解性デポーは、マイクロカプセル化、生分解性 ポリマー等の上記のいかなる方法を用いて製造されてもよく、抗サイトカイン剤を制御された態様で標的部位に放出する。生分解性インプラントの単回適用が望ましいが、しかしながら、治療の適当なレベルを達成するのに追加の適用が必要であってもよい。
【0045】
実施例4
抗サイトカイン剤を浸透させた経皮パッチは、患者の皮膚で疼痛性腱の炎症部位上に適用される。抗サイトカイン剤はパッチから染み出て、かつ、患者の皮膚を介して筋腱炎構造に分散する。
【0046】
特許文献及び非特許文献も含めた本明細書で引用される全ての文献は、本発明が関連する当業者のレベルを示す。当該文献は全て、個々の文献が、本明細書に援用されるように、具体的、かつ、個々に指摘されるような程度に、本明細書に十分援用される。
【0047】
本明細書の本発明は、特定の態様に関して記載されてきたが、当該態様が、本発明の原理及び適用の単なる例示にすぎないことは理解されるべきである。すなわち、多大な改変が例示の態様になされてもよいことは理解されるべきであり、かつ、他の変更が以下の特許請求の範囲で特定された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく考案されてもよいことは理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の抗サイトカイン剤又は自己血液由来産物を筋腱炎構造の腱又は滑液包に提供することを含む、対象の腱炎を治療する方法。
抗サイトカイン剤が、TNF−α阻害剤、IL−1阻害剤、IL−6阻害剤、IL−8阻害剤、IL−12阻害剤、IL−15阻害剤、IL−10、NFκB阻害剤及びインターフェロン−ガンマ(IFN−ガンマ)からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項2】
抗サイトカインが担体に取り込まれる、請求項1記載の方法。
抗サイトカイン剤が持続性放出製剤中に提供される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
腱構造が、アキレス腱、伸筋腱、脛骨腱、膝蓋腱、橈側手根屈筋腱、屈筋腱及び膝窩筋腱からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
抗サイトカイン剤が、腱構造で腱の炎症を予防するか又は阻害する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
腱炎が、筋腱炎構造で腱の炎症に関連する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
抗サイトカインを加えた製剤に添加され、筋腱炎構造に投与される活性成分をさらに含む請求項1記載の方法であって、前記活性成分が、抗生物質、鎮静剤及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、前記方法。
【請求項7】
活性成分が担体に取り込まれる、請求項8記載の方法。
【請求項8】
抗サイトカイン剤が、注射、ポンプ、経皮パッチ又はデポーを介して投与される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
デポーが生分解性である、請求項10記載の方法。
【請求項10】
抗サイトカイン剤が、腱の炎症促進性反応を予防するか、及び/又は、阻害する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
有効量の抗サイトカイン剤、及び、場合によっては、活性成分を筋腱炎構造へ提供することを含む、対象中の腱炎を治療する方法であって、前記抗サイトカイン剤が、注射、ポンプ、経皮パッチ又はデポーを介して投与される、前記方法。

【公表番号】特表2010−502732(P2010−502732A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527557(P2009−527557)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/077720
【国際公開番号】WO2008/030931
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(506298792)ウォーソー・オーソペディック・インコーポレーテッド (366)
【Fターム(参考)】