説明

抗ジンセノシドReモノクローナル抗体

【課題】ジンセノシドReに対する高い特異性を有し、ジンセノシド化合物の単離や検出等に有用な手段を提供すること。
【解決手段】式(1):
【化1】


に示されるジンセノシドReに対するモノクローナル抗体、受領番号:FERM AP−20188のハイブリドーマ、該モノクローナル抗体又はその断片と、被検試料とを接触させ、該モノクローナル抗体又は抗体断片とジンセノシド化合物との複合体の形成の有無を測定する、ジンセノシド化合物の検出方法、該ジンセノシドReと、ウシ血清アルブミン又はヒト血清アルブミンとの複合体を用いて、動物を免疫し、得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させ、得られたハイブリドーマから、ジンセノシドReに対するモノクローナル抗体を得る、モノクローナル抗体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジンセノシドReに対するモノクローナル抗体、該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、ジンセノシド化合物の検出方法及び該モノクローナル抗体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬用人参は、和名をオタネニンジン、学名をパナックスジンセン(Panax Ginseng)と称し、ウコギ科に属する多年生植物であり、その根は古くから優れた生薬として知られている。現在、生薬として最も多用されている薬用人参としては、白参(ハクジン:White Ginseng、Ginseng Radix)と、それを蒸して乾燥した紅参(コウジン:Red Ginseng、Ginseng Radix Rubra)が挙げられる。また、前記白参及び紅参に類似するものとして、西洋人参(American Ginseng:アメリカ人参)、田七人参(San−chi Ginseng:三七人参)及び竹節人参(Japanese Ginseng、Panacis Japonici Rhizoma)及び毛人参(Fibrous Ginseng)が知られている。
【0003】
前記のように、薬用人参は、優れた薬理活性を有する重要な生薬として経験的に多用されてきたが、人参の構成成分を特異的、網羅的に定量することができるアッセイ系の確立が困難であったため、その薬理学的品質評価は必ずしも充分に行われていないのが現状である。
【0004】
具体的には、薬用人参に微量に含有することが知られている薬理活性成分である「ジンセノシド化合物」は、従来、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等により分析されていた。
【0005】
しかしながら、従来のHPLC等による分析においては、前処理(予備的精製)が必要であり、一つの資料の分析に時間が多大な時間を要するという欠点がある。
【0006】
一方、特定の抗原で免疫した哺乳動物の脾細胞と骨髄腫細胞(ミエローマ細胞)とを融合させたハイブリドーマは、特定の抗原に対する抗体の産生能を有する。種々のタンパク質、ペプチド等の高分子化合物について、特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製し、該ハイブリドーマにより得られたモノクローナル抗体を用いてそれらのタンパク質等のアッセイ系を構築することが試みられている〔非特許文献1等を参照のこと〕。
【0007】
しかしながら、低分子化合物に対する抗体の作製は、困難であるのが現状である。
【非特許文献1】ケーラーら、Nature、495−497頁、1975年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、1つの側面では、ジンセノシドReに対する高い特異性を有し、ジンセノシド化合物の単離や検出等に用いうる、ジンセノシドReに対するモノクローナル抗体若しくはその一部を提供することに関する。本発明は、他の側面では、前記モノクローナル抗体を、効率よく、安価に、簡便に供給すること等を可能にするハイブリドーマを提供することに関する。本発明は、さらに他の側面では、高い感度でジンセノシド化合物を検出すること、簡便にジンセノシド化合物を検出すること等の少なくとも1つを達成しうる、ジンセノシド化合物の検出方法を提供することに関する。本発明は、別の側面では、前記モノクローナル抗体を、効率よく、安価に、簡便に供給すること等を可能にする、モノクローナル抗体の製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔1〕 式(1):
【0010】
【化1】

【0011】
に示されるジンセノシドReに対するモノクローナル抗体、
〔2〕 ジンセノシドReと式(2):
【0012】
【化2】

【0013】
に示されるジンセノシドRg1と式(3):
【0014】
【化3】

【0015】
に示されるジンセノシドRdとに対して少なくとも反応し、かつ
式(6):
【0016】
【化4】

【0017】
に示されるグリチルリチンとは少なくとも反応しないものである、前記〔1〕記載のモノクローナル抗体、
〔3〕 ジンセノシドRg1及びジンセノシドRdに対する交差反応性が、ジンセノシドReに対する反応性を100%として、少なくとも70%である、前記〔1〕又は〔2〕記載のモノクローナル抗体、
〔4〕 受領番号:FERM AP−20188であるハイブリドーマにより産生される、前記〔1〕〜〔3〕いずれか1項に記載のモノクローナル抗体又はその一部、
〔5〕 受領番号:FERM AP−20188であるハイブリドーマより産生されるモノクローナル抗体と同一のエピトープを認識するモノクローナル抗体、
〔6〕 前記〔1〕〜〔5〕いずれか1項に記載のモノクローナル抗体の抗体断片、
〔7〕 受領番号:FERM AP−20188のハイブリドーマ、
〔8〕 前記〔1〕〜〔5〕いずれか1項に記載のモノクローナル抗体又は前記〔6〕記載の抗体断片と、被検試料とを接触させ、ついで、該モノクローナル抗体又は抗体断片とジンセノシド化合物との複合体の形成の有無を測定することを特徴とする、ジンセノシド化合物の検出方法、
〔9〕 ジンセノシド化合物が、式(1):
【0018】
【化5】

【0019】
に示されるジンセノシドRe、式(2):
【0020】
【化6】

【0021】
に示されるジンセノシドRg1、式(3):
【0022】
【化7】

【0023】
に示されるジンセノシドRd、式(4):
【0024】
【化8】

【0025】
に示されるジンセノシドRc、又は式(5):
【0026】
【化9】

【0027】
に示されるジンセノシドRb1である、前記〔8〕記載の検出方法、並びに
〔10〕 (A)式(1):
【0028】
【化10】

【0029】
に示されるジンセノシドReと、ウシ血清アルブミン又はヒト血清アルブミンとの複合体を形成させる工程、
(B)前記工程(A)で得られた複合体を用いて、動物を免疫し、抗体産生細胞を得る工程、
(C)前記工程(B)で得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させて、ジンセノシドReに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る工程、及び
(D)前記工程(C)で得られたハイブリドーマから、ジンセノシドReに対するモノクローナル抗体を得る工程、
を含む、前記〔1〕〜〔5〕いずれか1項に記載のモノクローナル抗体の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0030】
本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片によれば、ジンセノシド化合物の単離や検出を行なうことができ、特に、ジンセノシドReを高い特異性で単離や検出することができるという優れた効果を奏する。また、本発明のハイブリドーマによれば、前記モノクローナル抗体を、効率よく、安価に、簡便に供給することができるという優れた効果を奏する。さらに、本発明のジンセノシド化合物の検出方法によれば、高い感度でジンセノシド化合物を簡便に検出することができるという優れた効果を奏する。また、本発明のモノクローナル抗体の製造方法によれば、前記モノクローナル抗体を簡便に、効率よく安価に製造することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、1つの側面では、式(1):
【0032】
【化11】

【0033】
に示されるジンセノシドReに対するモノクローナル抗体に関する。すなわち、本発明のモノクローナル抗体は、ジンセノシドReに反応するモノクローナル抗体であり、いいかえれば、ジンセノシドReに高い親和性で結合するモノクローナル抗体である。また、本発明のモノクローナル抗体は、他の側面では、ジンセノシド化合物に対して、高い特異性で結合するモノクローナル抗体である。
【0034】
また、本発明のモノクローナル抗体のサブクラスは、IgG1であり、軽鎖は、κ鎖である。
【0035】
本発明のモノクローナル抗体は、ジンセノシド化合物に対し、交差反応性を示すが、ジンセノシド化合物以外の化合物には、交差反応性を示さないという優れた効果を発揮する。したがって、本発明のモノクローナル抗体によれば、ジンセノシド化合物の単離や検出を行なうことができ、特に、ジンセノシドReを高い特異性で単離や検出することができるという優れた効果を発揮する。
【0036】
本発明のモノクローナル抗体により認識されるジンセノシド化合物としては、下記式(7):
【0037】
【化12】

【0038】
に示されるプロトパナクサトリオールをアグリコンの基本骨格とするジンセノシド化合物及び下記式(8):
【0039】
【化13】

【0040】
に示されるプロトパナクサジオールをアグリコンの基本骨格とするジンセノシド化合物が挙げられる。
【0041】
前記ジンセノシド化合物としては、具体的には、例えば、下記式(1):
【0042】
【化14】

【0043】
により示されるジンセノシドRe、式(2):
【0044】
【化15】

【0045】
に示されるジンセノシドRg1、式(3):
【0046】
【化16】

【0047】
に示されるジンセノシドRd、式(4):
【0048】
【化17】

【0049】
に示されるジンセノシドRc、式(5):
【0050】
【化18】

【0051】
に示されるジンセノシドRb1等が挙げられる。
【0052】
前記「特異性」は、例えば、抗原に対する交差反応性及び抗原との親和性により評価される。前記「抗原に対する交差反応性」は、各種糖化合物、例えば、ジンセノシド化合物、他の化合物等を抗原として用い、ELISA法、Ouchterlony法、免疫電気泳動法等により、評価されうる。また、前記「抗原との親和性」は、モノクローナル抗体と抗原との結合速度定数、解離速度定数等により評価されうる。
【0053】
本発明のモノクローナル抗体は、さらに他の側面では、ジンセノシド化合物、具体的には、例えば、ジンセノシドReとジンセノシドRg1とジンセノシドRdとに対して少なくとも反応し、かつ式(6):
【0054】
【化19】

【0055】
に示されるグリチルリチンとは少なくとも反応しないモノクローナル抗体である。
【0056】
本発明のモノクローナル抗体は、別の側面では、ジンセノシドReに対する反応性を100%とした場合、例えば、ジンセノシドRg1及びジンセノシドRdに対する交差反応性が、少なくとも70%である。さらに、本発明のモノクローナル抗体は、ジンセノシドReに対する反応性を100%とした場合、例えば、ジンセノシドRc及びジンセノシドRb1それぞれに対する交差反応性が、少なくとも0.045%であり、サイコサポニンa、ジギトニン、ソラソニン、デオキシコール酸、グリチルリチン、エルゴステロール、ソラマルジン、コレステトール、β−シトステロール及びチクセツサポニンそれぞれに対する交差反応性は、0.009%未満である。
【0057】
本発明のモノクローナル抗体は、例えば、
(A)ジンセノシドReと、ウシ血清アルブミン又はヒト血清アルブミンとの複合体を形成させる工程、
(B)前記工程(A)で得られた複合体を用いて、動物を免疫し、抗体産生細胞を得る工程、
(C)前記工程(B)で得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させて、ジンセノシドReに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る工程、及び
(D)前記工程(C)で得られたハイブリドーマから、ジンセノシドReに対するモノクローナル抗体を得る工程、
を行なうことにより得られうる。
【0058】
したがって、本発明は、別の側面では、前記工程(A)〜(C)を含む、本発明のモノクローナル抗体の製造方法に関する。
【0059】
前記工程(A)において、抗原としてジンセノシドReを用い、該抗原と血清アルブミンとの複合体を形成させる。かかる複合体の形成には、例えば、ジンセノシドReを、該ジンセノシドReの糖部分を開環するに適した試薬を用いて処理して、糖部分を開環し、アルデヒド基とし、該糖部分に血清アルブミンを結合させることにより、前記複合体を形成させることができる。本発明においては、MALDI−TOFマススペクトル測定により、BSA又はHSAの1分子当たり2〜8分子のジンセノシドReが結合されていることを確認したジンセノシドRe−BSA(又はHSA)複合体(図1参照)を用いることが望ましい。
【0060】
前記試薬としては、過ヨウ素酸塩(例えば、過ヨウ素酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0061】
ついで、前記工程(A)で得られた複合体を用いて、動物を免疫し、抗体産生細胞を得る〔工程(B)〕。
【0062】
前記工程(B)において、動物の免疫法としては、例えば、フロイントの完全アジュバントを併用する手法等が挙げられる。
【0063】
前記動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヒツジ等が挙げられる。
【0064】
前記抗体産生細胞としては、例えば、脾臓、リンパ節、末梢血液等から分離した細胞が挙げられる。かかる抗体産生細胞は、慣用の手法により単離されうる。
【0065】
その後、前記工程(B)で得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させて、ジンセノシドReに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る〔工程(C)〕。
【0066】
前記工程(C)では、具体的には、例えば、
(1)骨髄腫細胞(ミエローマ細胞)を培養増殖し、調製する工程、
(2)前記工程(B)得られた抗体産生細胞と前記工程(1)で得られた骨髄腫細胞とを、ポリエチレングリコール等の融合促進剤を媒体として融合させ、ハイブリドーマを得る工程、
(3)前記工程(2)で得られたハイブリドーマを、HAT培地等の選択培地にて培養(増殖)する工程、
(4)得られたハイブリドーマから、ジンセノシドReに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングする工程、
(5)選抜されたハイブリドーマをクローニングする工程、及び
(7)得られたハイブリドーマをインビトロ又は動物腹腔内で培養(増殖)して、ジンセノシドReに対するモノクローナル抗体を得る工程、
が行なわれうる。
【0067】
前記骨髄腫細胞としては、各種の哺乳動物の細胞株が利用可能であり、特に限定されないが、抗体産生細胞の調製に用いた動物と同種の細胞株を使用するのが好ましい。本発明のモノクローナル抗体を作製するのに好ましい組み合わせとしては、マウス脾細胞とマウス骨髄腫細胞との組み合わせが挙げられる。なお、用いる細胞は、未融合細胞と融合細胞とを区別化する観点から、好ましくは、細胞融合の後に、未融合の骨髄腫細胞が選択培地で生存できず、ハイブリドーマのみが増殖可能である細胞、例えば、特定の薬剤抵抗性を有する細胞が望ましい。例えば、8−アザグアニン抵抗性の細胞は、HAT培地中で生育できない性質を有するため、有利である。前記骨髄腫細胞としては、具体的には、マウス骨髄腫細胞株、PAI、P3−X63−Ag8、P3−X63−Ag8−UI、P3−NSI/1−Ag4−1、X63−Ag8−6.5.3.、SP2/0−Ag14、FO、S194/5XXO、BU.1、MPC11−45.6.、TG.1.7等が挙げられる。
【0068】
細胞融合は、通常MEM培地、RMI1640培地、IMDM培地等のE−RDF培地中で、骨髄腫細胞と抗体産生細胞を融合促進剤の存在下に混合(混合比は、通常1:4〜1:10)することにより行なわれうる。好ましい融合促進剤としては、平均分子量1000〜6000のポリエチレングリコール(PEG)等が挙げられる。前記PEGは、通常、使用濃度:30〜50%で用いられうる。
【0069】
細胞融合後の細胞は、10重量% ウシ胎仔血清(FCS)含有E−RDF培地等で適当に希釈し、遠心分離する。沈殿した細胞を、選択培地(例えば、HAT培地等)で浮遊し、96穴ウェルマイクロプレートに接種した後に、5体積% 炭酸ガス培養装置で培養する。選択培地で生育してくる細胞がハイブリドーマである。
【0070】
抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングは、常法により行なうことができ、特に限定されないが、例えば、ハイブリドーマの増殖した培養液を採取し、該培養液とジンセノシドRe−BSA(又はHSA)複合体とを反応させ、酵素、蛍光物質、発光物質等で標識した2次抗体と反応させるELISA法により目的の抗ジンセノシドRe抗体産生能を有するハイブリドーマを選抜することができる。
【0071】
抗体産生ハイブリドーマを含むことが確認された培養ウェル中の細胞を限界希釈法等によりクローニングを行ない、本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。
【0072】
得られたハイブリドーマを、無血清培地のような適切な培地中でインビトロ培養することにより、その培養上清から、本発明のモノクローナル抗体が得られる。ここで、本発明のモノクローナル抗体は、前記培養上清を、例えば、飽和硫酸アンモニウム沈殿法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティカラムクロマトグラフィー(例えば、プロテインGカラム、抗イムノグロブリンカラムプロテインAカラム等)等により精製することにより得られうる。なお、本発明のモノクローナル抗体を、大量に生産する場合には骨髄腫細胞由来動物と同種の動物にプリスタン等の鉱物油を腹腔内投与し、ハイブリドーマを接種し、その後、腹水を採取し、通常の抗体分離操作を行なうことにより、本発明のモノクローナル抗体を大量に得ることができる。
【0073】
得られたモノクローナル抗体は、例えば、免疫グロブリンクラス、軽鎖、分子量、その他の特性等について、通常の方法(例えば、オクタロニー法)で決定することにより評価されうる。また、分子量は、例えば、シナピン酸をマトリックスとするMALDI−TOFマススペクトル測定により評価されうる。
【0074】
なお、本発明のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ4G10と命名・表示され、受領番号:FERM AP−20188(寄託日:2004年8月27日)として、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1−1)に寄託されているハイブリドーマより、慣用の方法により、安定に、効率よく製造されうる。
【0075】
したがって、本発明は、さらに他の側面では、本発明のモノクローナル抗体を産生する前記寄託番号:FERM AP−20188(プライベートネーム:ハイブリドーマ4G10)のハイブリドーマに関する。
【0076】
本発明のハイブリドーマは、例えば、1チューブあたり4.0×106細胞となるように、無血清E−RDF培地〔組成:1Lあたり商品名:極東E−RDF培地 17.7g[極東製薬工業株式会社(製品コード26500)]、100μg/ml インスリン、35μg/ml トランスフェリン、20μM エタノールアミン、25nM セレニウム〕:FCS(HyClone社製、SH30080.02):DMSO(7:2:1)に懸濁し、1℃/1分の冷却速度で−80℃まで凍結し、液体窒素中で保管されうる。
【0077】
また、凍結保存された前記ハイブリドーマは、37℃の水浴中、浸透させながら融解し、完全融解直前に氷中に移す。融解細胞懸濁液を、10mlの培地に移し、4℃で1200rpm、5分間遠心分離し、上清を捨て、残った細胞に10mlの培地を加え、4℃で1200rpm、5分間遠心分離し、細胞を洗浄する。得られた細胞を通常どおり培養することにより、適宜使用されうる。
【0078】
また、本発明のモノクローナル抗体は、例えば、前記受領番号:FERM AP−20188のハイブリドーマを、適切な培地中、5体積% CO2、37℃の条件下に培養して、培養上清を得、該培養上清から、モノクローナル抗体を精製することにより得られうる。
【0079】
前記培地としては、本発明のハイブリドーマを増殖、維持及び保存させ、培養上清中にモノクローナル抗体を産生させるに適した慣用の栄養培地又は慣用の基本培地の改変培地等が挙げられる。前記基本培地としては、例えば、前記無血清E−RDF培地、RMI1640培地、MEM培地、IMDM培地等のE−RDF培地等が挙げられる。また、培地のpHは、7〜8、好ましくは、約7.4であることが望ましい。
【0080】
なお、本発明のモノクローナル抗体には、前記受領番号:FERM AP−20188であるハイブリドーマより産生されるモノクローナル抗体と同一のエピトープを認識するモノクローナル抗体も含まれる。
【0081】
また、本発明においては、前記モノクローナル抗体と同等の反応性を示すものであれば、本発明のモノクローナル抗体の一部、すなわち、抗体断片であってもよい。前記抗体断片としては、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv、Fd等が挙げられる。かかる抗体断片は、例えば、ペプチダーゼ等により、モノクローナル抗体を消化することにより得られうる。例えば、Fabフラグメントは、本発明のモノクローナル抗体をパパインにより処理することにより得られ、F(ab’)2フラグメントは、本発明のモノクローナル抗体をペプシンにより処理することにより得られうる。
【0082】
本発明は,別の側面では、本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片と、被検試料とを接触させ、ついで、該モノクローナル抗体又は抗体断片とジンセノシド化合物との複合体の形成の有無を測定することを特徴とする、ジンセノシド化合物の検出方法に関する。
【0083】
本発明の検出方法によれば、本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片が用いられているため、ジンセノシド化合物を、高い感度で、簡便に検出することができるという優れた効果を発揮する。
【0084】
なお、本発明の検出方法は、本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片とジンセノシド化合物との複合体の量を測定することにより、ジンセノシド化合物を、定量的に検出することもできる。
【0085】
本発明の検出方法においては、まず、被検試料とモノクローナル抗体又は抗体断片とを接触させる。
【0086】
前記被検試料としては、例えば、薬用人参、ハリギリ等に代表されるウコギ科植物等の植物の抽出物、薬用人参配合漢方製剤、ヒト又は非ヒト動物の血清等が挙げられる。
【0087】
前記薬用人参としては、特に限定されないが、例えば、白参(White Ginseng、Ginseng Radix)、紅参(Red Ginseng、Ginseng Radix Rubra)、西洋人参(American Ginseng)、田七人参(San−chi Ginseng)、竹節人参(Japanese Ginseng、Panacis Japonici Rhizoma)、毛人参(Fibrous Ginseng)等が挙げられる。
【0088】
本発明の検出方法により検出しうるジンセノシド化合物としては、ジンセノシドRe、ジンセノシドRg1、ジンセノシドRd、ジンセノシドRc、ジンセノシドRb1等が挙げられる。
【0089】
操作の簡便性、感度の向上等の観点から、本発明の検出方法に用いられるモノクローナル抗体又は抗体断片は、標識物質で標識されていることが望ましい。
【0090】
前記標識物質としては、例えば、酵素、FITC、ビオチン、金コロイド等が挙げられる。
【0091】
本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片とジンセノシド化合物との複合体の形成は、例えば、ELISA法、ラテックス凝集法、免疫沈降法等で検出されうる。
【0092】
なお、本発明の検出方法は、他の実施態様では、
1) 被検試料を、親水性ポリエーテルスルホン膜上に展開して、それにより、試料中のジンセノシド化合物が存在する場合、試料中の他の化合物とジンセノシド化合物とを分離するステップ、
2) 該ジンセノシド化合物を、該膜上に固定化するステップ、
3) 該膜上に固定化されたジンセノシド化合物を、本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片により検出するステップ、及び
4) 検出されたジンセノシド化合物に対応するスポットの面積を測定するステップ、
を含む検出方法が挙げられる。
【0093】
前記親水性ポリエーテルスルホン膜は、孔サイズが、例えば、0.3〜1.0μmのものであればよい。かかる親水性ポリエーテルスルホン膜は、例えば、PALL Corporation製、商品名:MustangTMEを、適切な手段により正に荷電するように処理し、シート状に加工することにより得られる。なお、本発明の分析方法においては、前記親水性ポリエーテルスルホン膜と同等の性質を有する膜、例えば、イオン交換能を有し、正に荷電し、孔サイズが、0.3〜1.0μmの膜を用いてもよい
【0094】
試料中に含まれる配糖体を展開するための展開液としては、高極性溶媒であればよく、アセトニトリル、メタノール系溶媒が挙げられ、逆相クロマトグラフィー、分離(溶出)力の観点から、特にアセトニトリル系溶媒が好ましい。
【0095】
親水性ポリエーテルスルホン膜へのジンセノシド化合物の固定化は、ジンセノシド化合物の糖部分を開環させうる試薬、例えば、過ヨウ素酸ナトリウム等の過ヨウ素酸塩等が挙げられる。固定化は、例えば、前記親水性ポリエーテルスルホン膜を、親水性ポリエーテルスルホン膜が浸る程度(例えば、20〜30ml)の量の過ヨウ素酸ナトリウム水溶液(10mg/ml)に浸漬し、室温(25℃)で1時間インキュベーションすることにより行なわれうる。
【0096】
検出されたジンセノシド化合物に対応するスポットの面積は、例えば、画像解析手段により分析し、かかる分析結果に基づき、スポット面積を数値化し、適切な計算手段、例えば、表計算ソフトを用いて、標準品の濃度、エリア面積をX軸及びY軸にとり、X軸のみ対数の検量線を作成することにより解析されうる。前記画像解析手段は、例えば、
− 膜(6.3×9.0cm)を、200dpi、PICTファイル(保存形態)、8ビットグレイスケールで画像として取りこみ、
− 該画像について、Undo & Clipboard Buffer Sizeで内部画像バッファーの大きさを300Kに設定し、
− 得られた画像データについて、Floyd−Steinbergのエラー拡散アルゴリズムのデフォルトパラメータで、画像全体のヒストグラムから閾値を設定して、画像中のスポットに対応する部分及びそれ以外の部分、すなわち、閾値以上の部分と、閾値以下の部分とに分離させ、
− Smooth機能により、画像のノイズを減少させ、
− Mini Particle Sizeを設定せず、面積(Area)、各スポットの長径(Ellipse Major Axis)及び短径(Ellipse Minor Axis)を選択するよう設定し、画像上の発色スポットを選択して、Pixelで、測定する
ことにより、発色スポットの数値化を行ない得る手段、例えば、NIH Image、LIA32、Image J、これらと同様の機能を有する汎用ソフトウェア等が挙げられる。前記計算手段は、前記画像解析手段により得られた数値を元に、検量線を作成できる手段であればよく、例えば、マイクロソフト社製、商品名:Excel、ヒューリンクス社製、商品名:Kaleida Graph等又はそれらと同等の機能を有する手段が挙げられる。
【0097】
また、本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片は、ジンセノシド化合物のアフィニティー精製に用いることもできる。例えば、本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片を、慣用の支持体(例えば、セルロース、ポリスチレンビーズ等)に結合させて得られる担体として、ジンセノシド化合物のアフィニティー精製に用いることができる。本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片に特異的に吸着したジンセノシド化合物の溶出は、本発明のモノクローナル抗体又は抗体断片とジンセノシド化合物との間のイオン結合、水素結合、疎水結合等を解離させる試薬、例えば、酢酸アンモニウム、ブタノール等により行なわれうる。
【0098】
以下、下記実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0099】
(1)抗原の調製
ジンセノシドRe溶液〔ジンセノシドRe(和光純薬株式会社製) 10mgを、80体積%メタノール 1.0mlに溶かした溶液〕を、過ヨウ素酸ナトリウム溶液〔過ヨウ素酸ナトリウム 4mgを、水 0.5mlに溶かした溶液〕に攪拌しながら添加し、1時間反応させた。得られた産物に、1.0重量% BSA〔ピアス(Pierce)社製〕含有炭酸塩バッファー(pH9.6)を添加して5時間攪拌し、反応させた。反応後、得られた産物を、水に対して、透析し、ジンセノシドRe−BSA複合体 10mgを得た。なお、HSA〔ピアス(Pierce)社製〕を用いて、同様にジンセノシドRe−HSA複合体を調製した。
【0100】
(2)抗原中のハプテン数の検討
前記(1)で得られたジンセノシドRe−BSA複合体 2μg相当量に、過剰量のシナピン酸(3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシ桂皮酸)を添加して混合した。得られた混合物 2μgを、JEOL社製、商品名:JMS−ELITE MALDI−tof mass spectrometerを用いたMALDI−TOF MSにて測定した。得られたスペクトラムを図1に示す。
【0101】
図1に示されるスペクトログラムから、BSA1分子に対して平均5分子のジンセノシドReが結合していることが確認された。
【0102】
(3)免疫脾細胞の調製
前記(1)で得られたジンセノシドRe−BSA複合体 50μgを、フロイントの完全アジュバントに乳濁化させ、BALB/C系マウスの腹腔内に投与した。以後、2週間の間隔で50μgのジンセノシドRe−BSA複合体のみ 100μgを、前記マウスに投与し免疫を完了した。3日後にマウスを、麻酔下安楽殺し、脾臓を摘出した。脾臓を細断した後、100メッシュのナイロン網でろ過し、脾臓の単離細胞を得た。
【0103】
(4)ハイブリドーマの調製
前記(3)で単離した免疫脾細胞に、低張液(155mM 塩化アンモニウム)を添加し、赤血球を溶出させた。E−RDF培地〔商品名:極東E−RDF培地 17.7g[極東製薬工業株式会社(製品コード26500)]〕で脾細胞を3回洗浄した。
【0104】
一方、マウス骨髄腫細胞を、前記E−RDF培地で3回洗浄した。脾細胞とマウス骨髄腫細胞との細胞数を計測し、脾細胞と骨髄腫細胞とを10:1の割合に混合し、得られた混合物を遠心分離(400×g、10分間、4℃)した。
【0105】
上清を捨て、沈殿した細胞を充分解きほぐし、該細胞に、50% ポリエチレングリコール(PEG)4000溶液〔PEG4000(シグマ社製)を、前記E−RDF培地で希釈した溶液〕 1.0mlを滴下し、融合を行なった。細胞を、37℃、30秒間静置した後、前記E−RDF培地 5mlを5分間かけて添加した。得られた産物を、1000rpm(400×g)で10分間遠心分離した。得られた沈殿を、10重量% FCS添加IMDMで洗浄し、遠心分離(400×g、10分間、4℃)して、上清を捨てた。ヒポキサンチン10-2M、アミノプテリン4×10-7M及びチミジン1.5×10-5Mを添加した(HAT)10重量% FCS添加E−RDF培地(以下、HAT−FCS含有E−RDF培地) 100mlを用いて、沈殿した細胞を再び懸濁した。得られた細胞懸濁液 100μlを、96ウェルマイクロプレートに分注し、37℃、5体積% CO2でインキュベートした。3日毎に、1ウェルあたり、HAT−FCS含有E−RDF培地 50μlを前記96ウェルマイクロプレートの各ウェルに追加し、細胞の増殖を確認した。
【0106】
(5)抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング
ハイブリドーマが増殖したウェル中の培養上清を採取した。前記培養上清を、ジンセノシドRe−HSA複合体を結合させた別のウェルに添加し、直接ELISAによりジンセノシドReに対するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングを行なった。すなわち、96ウェルマイクロプレートに、ジンセノシドRe−HSA複合体 0.1μg/100μl/ウェルを分注し、37℃で1時間インキュベートしてウェルに吸着させた。前記ウェルに、培養上清を100μlずつ分注し、37℃で60分間インキュベートして、抗原抗体反応を行なった。
【0107】
その後、ウェルを、0.05重量% Tween20(商品名)含有リン酸緩衝食塩水(T‐PBS)で3回洗浄した。ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(2次抗体)1000倍希釈液をウェルあたり100μl添加し、1時間後にT−PBSで洗浄した。0.003体積% 過酸化水素、ABTS〔2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)〕 0.3mg/ml含有クエン酸緩衝液を添加して発色させた。20分後、プレートリーダー〔ヌンク社製、商品名:ImmunoMini NJ−2300〕を用いて405nmの波長で吸光度を測定した。発色したウェルの細胞を採取した。
【0108】
(6)抗ジンセノシドReモノクローナル抗体産生ハイブリドーマのクローニング
抗体産生ハイブリドーマを限界希釈してウェルに分注した。抗体産生能を持ち、かつ増殖したハイブリドーマを同様に3回クローニングして所望のクローン、すなわち、ジンセノシドReに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ4G10を得た。
【0109】
(7)抗ジンセノシドReモノクローナル抗体の調製
前記抗体産生ハイブリドーマ4G10を無血清培地(100μg/ml インスリン、35μg/ml トランスフェリン、20μM エタノールアミン、25nM セレニウム添加E−RDF培地)で、37℃、5% CO2の炭酸ガス培養器〔SANYO社製、商品名:CO2インキュベータ[MCO−18AIC(UV)]〕中で培養した。上清を、トリス−塩酸緩衝液でpH7に調整した。得られた産物を、プロテインGアフィニティカラム〔アマシャム バイオ社製、商品名:Protein G HP〕に供した。カラムを10mM リン酸緩衝液(pH7.0)で洗浄後、吸着した抗体を、100mM クエン酸緩衝液(pH2.7)で溶出した。得られた抗体溶液を、PBSに対して3回透析し、最後に凍結乾燥して、精製抗ジンセノシドReモノクローナル抗体(モノクローナル抗体4G10)を得た。
【0110】
(8)モノクローナル抗体の免疫グロブリンクラスと分子量
精製モノクローナル抗体4G10について、オクタロニー法により免疫グロブリンクラスを調べた。その結果、モノクローナル抗体4G10は、IgG1のサブクラスに属し、κ軽鎖を保有するものであることが示された。
【0111】
また、精製モノクローナル抗体4G10と、シナピン酸とを混合して、得られた試料について、MALDI−TOF MS(JEOL社製、商品名:商品名:JMS−ELITE MALDI−tof mass spectrometer)により、純度を確認するとともに分子量を調べた。図2にモノクローナル抗体4G10について測定したMALDI−TOF MSスペクトラムを示す。その結果、精製モノクローナル抗体4G10は、分子量約147500であった。また、純度は、総凍結乾燥物に対して、70重量%であった。
【実施例2】
【0112】
実施例1で作製したモノクローナル抗体4G10の性質を調べるため、以下のように、競合的ELISA法による定量試験を行なった。ジンセノシドRe−HSA複合体溶液(1μg/ml) 100μlを各ウェルに添加し、1時間インキュベートして、吸着させた。非特異的結合を除去するために、各ウェルに、スキンミルク添加PBS溶液 300μlを添加し、1時間インキュベートしてブロッキングした。その後、各ウェルに、各種濃度のジンセノシドReの20%メタノール溶液 50μlを添加し、さらに、モノクローナル抗体4G10溶液(0.187μg/ml) 50μlを添加して1時間インキュベートした。ウェルを、T−PBSで3回洗浄し、1000倍希釈したペルオキシダ−ゼ標識抗マウスIgGヤギ抗体(ICN社製、商品名:PEROXIDASE−CONJUGATED GOAT IGG FRACTION TO MOUSE IGG FC−2ML) 100μlを添加した。
【0113】
1時間インキュベートした後、ウェルをT−PBSで洗浄した。ウェルに、0.003% 過酸化水素、ABTS 0.3mg/ml含有クエン酸緩衝液を添加して発色させた。15分後、405nmにおける発色の吸光度を測定した。各濃度のジンセノシドReの吸光度から検量線を作成した。その結果を図3に示す。
【0114】
図3に示されるように、ジンセノシドReの濃度は、20〜400ng/mlの濃度範囲において吸光度と良い相関を有していた。したがって、モノクローナル抗体4G10により、ジンセノシドReに対する優れた定量手段が提供されることが示された。
【実施例3】
【0115】
実施例1で得られたモノクローナル抗体4G10の特異性を確かめるために、ジンセノシド、各種ステロイド及びトリテルペン化合物に対する交差反応性を調べた。
【0116】
各化合物(1mg)を正確に秤り、該化合物に、20体積% メタノール溶液 1mlに懸濁し、10分間超音波処理した。上清を、20体積% メタノール溶液で希釈し、各種濃度の検液を調製した。1ウェルあたり100μlの検液スタンダードであるジンセノシドRe溶液を、イムノプレートに分注し1時間インキュベートした。
【0117】
プレートの各ウェルをブロッキング後、一次抗体溶液〔モノクローナル抗体4G10(0.187μg/ml)を添加し、1時間インキュベートした。次に、二次抗体溶液〔前記ペルオキシダ−ゼ標識抗マウスIgGヤギ抗体〕を添加し、1時間インキュベートした。その後、各ウェルに、基質溶液を添加し、発色強度を測定した。
【0118】
交差反応性CRは、式:CR(%)=〔(A/Ao=0.5となるジンセノシドReの濃度)/(A/Ao=0.5となる検液の濃度)〕×100
(式中、Aは、サンプルの吸光度、Aoは、20体積% メタノール溶液の吸光度を表わす)
により算出した。その結果を表1に示す。
【0119】
【表1】

【0120】
表1に示されるように、モノクローナル抗体4G10は、ジンセノシドReをはじめ、ジンセノシドRg1、ジンセノシドRd等のプロトパナクサトリオール系ジンセノシド化合物及びプロトパナクサジオール系ジンセノシド化合物に幅広く親和性を有し、ジンセノシド類以外の化合物には殆ど交差反応性を示さないことがわかった。
【実施例4】
【0121】
実施例1で得られたモノクローナル抗体4G10を用いるELISA法により各種人参中の総ジンセノシド含有量を測定した。測定は、各種人参の粉末50mgを、100体積% メタノール 1mlで5回抽出し、抽出液を合わせて遠心分離に供し、その上清を20体積%メタノールで適切な濃度に希釈して実施例2に準じて定量することにより行なった。
【0122】
結果を表2に示す。表中、「ELISA」は、試料について、前記抗ジンセノシドReモノクローナル抗体を用いて分析した結果を示し、「HPLC」は、試料を、「HPLC」で分析した結果を示す。
【0123】
【表2】

【0124】
なお、HPLC条件は、ジンセノシドRb1、ジンセノシドRc及びジンセノシドRdの場合、カラム:Cosmosil(商品名)5C18(4.5×150mm、ナカライテスク社製)、溶離液:50mM KH2PO4含有30%(体積)CH3CN(水:アセトニトリル=70:30)、流速:1.0ml/分、検出:UV202nm、リテンションタイム:ジンセノシドRb1について、13分、ジンセノシドRcについて、17分、ジンセノシドRdについて、37分であり、ジンセノシドRe及びジンセノシドRg1の場合、カラム:Cosmosil(商品名)5C18(4.5×150mm、ナカライテスク社製)、溶離液:0.5%(体積)H3PO4含有20%(体積)CH3CN(リン酸:水:アセトニトリル=0.5:80:20)、流速:1.0ml/分、検出:UV202nm、リテンションタイム:ジンセノシドReについて、19分、ジンセノシドRg1について、22分である。
【0125】
その結果、表2に示されるように、「ELISA」及び「HPLC」両方の数値が近似していた。したがって、モノクローナル抗体4G10を用いる「ELISA」は、人参中に微量に含有されているジンセノシド化合物を特異的に定量分析できることがわかった。
【実施例5】
【0126】
実施例1で得られたモノクローナル抗体4G10を用いて、以下のように、各種人参中のジンセノシドRe含有量を測定した。
【0127】
各種人参の粉末50mgをメタノール1mlで5回抽出し、抽出液を合わせて遠心分離に供し、その上清 1μlを、親水性ポリエーテルスルホン膜(商品名:MustangTME、PALL Corporation製、大きさ:6.3 cm×9.0cm、厚さ140μm、孔サイズ0.45μm)にスポットした。その後、ポリエーテルスルホン膜上の試料を、水:メタノール:酢酸(体積比)=55:45:1で45分間展開した。その後、ポリエーテルスルホン膜を、過ヨウ素酸ナトリウム溶液(10mg/ml) 30ml中に1時間浸漬させ、酸化反応を行なった。反応後、膜を水洗いし、1重量%BSA含有炭酸緩衝液(pH9.6)に移し、3時間、ジンセノシドReの糖部分とBSAとを反応させた。
【0128】
反応後、リン酸緩衝食塩水(PBS、pH7.0)で洗浄した。非特異的結合を避けるために、膜をスキンミルク−PBS 30mlで、3時間ブロッキングした。ついで、ポリエーテルスルホン膜と、抗ジンセノシドReモノクローナル抗体溶液(0.187μg/ml)とを3時間反応させた。反応後の膜を、T−PBSで2回洗浄し、該膜を、1000倍希釈したペルオキシダ−ゼ標識抗マウスIgGヤギ抗体と、1時間反応させた。反応後、膜を、T−PBSで2回、水で1回洗浄し、基質の4−クロロ−1−ナフトールと過酸化水素とを用いて、40分間維持して染色した。
【0129】
その後、展開した膜を抗体染色した。結果を図4に示す。図中、白参は、レーンI、紅参は、レーンII、毛人参は、レーンIII、田七人参は、レーンIV、西洋人参は、レーンV、竹節人参は、レーンVIに示し、レーン1〜5は、ジンセノシドRe標品を示す。
【0130】
その結果、図4に示されるようなスポットが得られた。かかる結果より、人参に固有なジンセノシドReが感度よく検出されていることがわかる。
【0131】
検出されたスポットについて、画像スキャナー(EPSON社製、商品名:GT−9700F)を用いて、スキャン条件:白黒写真モード、解像度200dpiでスキャンして、データをコンピューターに入力した。その後、各画像について、画像解析ソフトウェア(NIH Image)を用いて、単位をミリメーターとし、面積測定用の設定で、面積(Area)、スポットの長径(Ellipse Major Axis)及び短径(Ellipse Minor Axis)の条件で数値化した。数値化されたデータについて、表計算ソフト(マイクロソフト社製、商品名:Excel)を用いて、Y軸をArea、X軸を標品量(μg)の対数表示として、検量線を作成し、定量値を算出した。また、対照として、HPLCにより定量した結果を示す。結果を表3に示す。表中、「NIH Image」は、試料について、前記ポリエーテルスルホン膜を用いた検出とNIH Imageによる数値化とExcelによる算出とにより分析した結果を示し、「HPLC」は、試料を、「HPLC」で分析した結果を示す。
【0132】
【表3】

【0133】
その結果、「NIH Image」及び「HPLC」両方の数値が近似していた。したがって、本発明のモノクローナル抗体を用いる「NIH Image」は、人参中に微量含有されているジンセノシドReを定量分析できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明により、「ELISA」、「NIH Image」の通常の免疫測定法に適用すれば、前処理が不要な簡便かつ高感度で再現性の優れたジンセノシド化合物の分析が可能となり、各種の人参及びその他の植物、それらの諸器官、各種の漢方製剤等に含有されるジンセノシド化合物を定量することにより、薬理学的品質評価を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】図1は、ジンセノシドRe−BSA複合体の形成を確認するために測定したMALDI−TOF MSのスペクトラムの1例を示す。
【0136】
【図2】図2は、ジンセノシドReに対するモノクローナル抗体の純度を確認し分子量を調べるために測定したMALDI−TOF MSの1例を示す。
【0137】
【図3】図3は、ジンセノシドReに対するモノクローナル抗体を用いたELISA法におけるGRg1濃度と吸光度の関係を示すグラフである。
【0138】
【図4】図4は、人参抽出物のジンセノシドReの検出結果である。図中、白参は、レーンI、紅参は、レーンII、毛人参は、レーンIII、田七人参は、レーンIV、西洋人参は、レーンV、竹節人参は、レーンVIに示し、レーン1〜5は、ジンセノシドRe標品を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

に示されるジンセノシドReに対するモノクローナル抗体。
【請求項2】
ジンセノシドReと式(2):
【化2】

に示されるジンセノシドRg1と式(3):
【化3】

に示されるジンセノシドRdとに対して少なくとも反応し、かつ
式(6):
【化4】

に示されるグリチルリチンとは少なくとも反応しないものである、請求項1記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
ジンセノシドRg1及びジンセノシドRdに対する交差反応性が、ジンセノシドReに対する反応性を100%として、少なくとも70%である、請求項1又は2記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
受領番号:FERM AP−20188であるハイブリドーマにより産生される、請求項1〜3いずれか1項に記載のモノクローナル抗体又はその一部。
【請求項5】
受領番号:FERM AP−20188であるハイブリドーマより産生されるモノクローナル抗体と同一のエピトープを認識するモノクローナル抗体。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載のモノクローナル抗体の抗体断片。
【請求項7】
受領番号:FERM AP−20188のハイブリドーマ。
【請求項8】
請求項1〜5いずれか1項に記載のモノクローナル抗体又は請求項6記載の抗体断片と、被検試料とを接触させ、ついで、該モノクローナル抗体又は抗体断片とジンセノシド化合物との複合体の形成の有無を測定することを特徴とする、ジンセノシド化合物の検出方法。
【請求項9】
ジンセノシド化合物が、式(1):
【化5】

に示されるジンセノシドRe、式(2):
【化6】

に示されるジンセノシドRg1、式(3):
【化7】

に示されるジンセノシドRd、式(4):
【化8】

に示されるジンセノシドRc、又は式(5):
【化9】

に示されるジンセノシドRb1である、請求項8記載の検出方法。
【請求項10】
(A)式(1):
【化10】

に示されるジンセノシドReと、ウシ血清アルブミン又はヒト血清アルブミンとの複合体を形成させる工程、
(B)前記工程(A)で得られた複合体を用いて、動物を免疫し、抗体産生細胞を得る工程、
(C)前記工程(B)で得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させて、ジンセノシドReに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る工程、及び
(D)前記工程(C)で得られたハイブリドーマから、ジンセノシドReに対するモノクローナル抗体を得る工程、
を含む、請求項1〜5いずれか1項に記載のモノクローナル抗体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−76896(P2006−76896A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260028(P2004−260028)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】