説明

抗ロタウィルス活性を有する納豆菌及びその発酵物、並びにこれらが含まれた食品、動物用飼料及び医薬品

【課題】乳アレルギーや乳糖不耐性の問題が生ずるおそれがなく、ロタウィルスによる下痢発症の予防に効果的な菌体、これが含まれた食品、動物飼料及び医薬品、等を提供する。
【解決手段】抗ロタウィルス活性を有する納豆菌(Bacillus subtilis natto)。前記納豆菌が寄託番号:FERM P−21895号として寄託された納豆菌AS39株である。前記納豆菌で発酵させた発酵物からなる発酵食品、当該発酵物を含む食品・動物用飼料・医薬品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、納豆菌(Bacillus subtilis natto)並びに納豆菌で発酵させた発酵物に関し、特に抗ロタウィルス活性を有し、ロタウィルス(Rotavirus)による下痢発症を予防する納豆菌及びその発酵物に関する。また、これらが含まれた食品、動物飼料及び医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にヒトの90%程度が乳幼児期にロタウィルスに感染し、そのうち10%程度が嘔吐、発熱、下痢による脱水症状のために入院、治療を行っている。そのため地域差があるが、全世界で年間70万人程度が亡くなっていると推定されている。また、ロタウィルスには家畜、ペットも感染しやすく、その場合には死亡率も高く経済的損失が大きい。
【0003】
予防方法としては米国で2006年にワクチンが開発・承認されたが、日本国内では未承認であり、治療方法に関しては未だ対症療法が中心となっている。
【0004】
他方、プロバイオティクスでの腸管免疫増強作用による予防方法としては、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の免疫増強作用(特許文献1)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)の免疫増強作用(特許文献2)、ラクトバチルス属・ロイコノストック属・ペディオコッカス属(特許文献3)の免疫増強作用と乳酸菌を利用した予防方法などが提案されている。
【0005】
しかしながら乳酸菌による発酵物の代表である乳製品ヨーグルト、チーズ等には乳アレルギーや乳糖不耐性の問題があり、プロバイオティクスとして利用できない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2001−513990号公報
【特許文献2】特表2004−523241号公報
【特許文献3】特開2007−308419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、乳アレルギーや乳糖不耐性の問題が生ずるおそれがなく、ロタウィルスによる下痢発症の予防に効果的な菌体、これが含まれた食品、動物飼料及び医薬品、等を提供することを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するために本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、乳アレルギーや乳糖不耐性の問題が生ずるおそれのない納豆菌の中で、納豆菌(Bacillus subtilis natto)AS39(寄託番号:FERM P−21895)が抗ロタウィルス活性を有し、ロタウィルスによる下痢発症を予防することを見出した。また、この納豆菌(Bacillus subtilis natto)AS39(寄託番号:FERM P−21895)の抗ロタウィルス活性が、乳酸菌に比べて十分なものであることを見出した。
【0009】
本願の請求項1記載の発明は、
抗ロタウィルス活性を有する納豆菌(Bacillus subtilis natto)である。
【0010】
請求項2記載の発明は、
前記納豆菌が、寄託番号:FERM P−21895号として寄託された納豆菌AS39株であることを特徴とする請求項1記載の納豆菌である。
【0011】
請求項3記載の発明は、
請求項2記載の納豆菌で発酵させた発酵物からなる発酵食品である。
【0012】
請求項4記載の発明は、
請求項2記載の納豆菌で発酵させた発酵物を含む食品である。
【0013】
請求項5記載の発明は、
請求項2記載の納豆菌で発酵させた発酵物を含む動物用飼料である。
【0014】
請求項6記載の発明は、
請求項2記載の納豆菌で発酵させた発酵物を含む医薬品である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、乳アレルギーや乳糖不耐性の問題が生ずるおそれがなく、ロタウィルスによる下痢発症の予防に効果的な菌体、これが含まれた食品、動物飼料及び医薬品、等を提供することができる。
【0016】
この発明の納豆菌AS39(寄託番号:FERM P−21895)は、標準的な乳酸菌と比較したときにパイエル板細胞のIgA抗体産生促進作用が高いことが確認できた。すなわち、この発明の抗ロタウィルス活性を有し、ロタウィルスによる下痢発症を予防する納豆菌AS39(寄託番号:FERM P−21895)は、乳酸菌と比べて、パイエル板細胞のIgA抗体産生促進作用が高く、このことから、乳酸菌と比べて高い腸管免疫増強作用を発揮できるものと考えられる。
【0017】
そして、この発明によれば、乳アレルギーや乳糖不耐性の問題が生ずるおそれがなく、乳酸菌と比べて、腸管免疫増強作用やパイエル板細胞のIgA抗体産生促進作用が十分な納豆菌AS39(寄託番号:FERM P−21895)を有効成分とした、抗ロタウィルス活性を有しロタウィルスによる下痢発症を予防する食品、動物飼料、医薬品を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の抗ロタウィルス活性を有し、ロタウィルスによる下痢発症を予防する納豆菌AS39(寄託番号:FERM P−21895)は、日本各地の田の稲わらから選抜したものである。
【0019】
納豆菌としての同定については、納豆菌から製造した納豆の糸引き、味、香り等の官能検査に特に異常が認められなかったことと、16SrRNAをコードするPCR産物のシーケンスを行い、その塩基配列が市販納豆菌と一致したことにより確認した。
【0020】
納豆菌は蒸煮した大豆上で35〜45℃の温度で良好に生育することが出来、これを15〜24時間発酵させたものは納豆として知られている。また納豆菌は豆腐、豆乳、醤油、大豆タンパク質等の大豆加工食品や、おから、大豆ミール、大豆煮汁等の食物残渣も発酵させることが出来る。従ってこれらの発酵物は加工食品、飼料、医薬品としても利用可能である。
【0021】
そこで、本発明の納豆菌AS39(寄託番号:FERM P−21895)で発酵させた発酵物からなる発酵食品、や当該発酵物を含む食品、動物用飼料、医薬品を提供することができる。
【0022】
発酵食品としては典型的に納豆があり、この他に、前述したように、豆腐、豆乳、醤油、大豆タンパク質等の大豆加工食品や、おから、大豆ミール、大豆煮汁等の食物残渣を、本発明の納豆菌AS39(寄託番号:FERM P−21895)で発酵させた発酵物などが含まれる。
【0023】
また、発酵物を含む食品としては前述した納豆などの発酵物を利用した加工食品や、納豆菌AS39(寄託番号:FERM P−21895)で発酵させた前記の発酵物からなる加工食品、納豆菌AS39(寄託番号:FERM P−21895)で発酵させた前記の発酵物を含む加工食品などがある。これらは、スナック菓子などの菓子類として提供する形態や、顆粒状、バー(棒)形態、粉末、カプセル状、錠剤形態、等、種々の態様、形態で提供することができる。
【0024】
動物飼料としては、納豆菌AS39(寄託番号:FERM P−21895)で発酵させた前記の発酵物からなる動物飼料や、納豆菌AS39(寄託番号:FERM P−21895)で発酵させた前記の発酵物を含む動物飼料を、家畜飼料やペットフードなどとして提供することができる。
【0025】
医薬品としては、納豆菌AS39(寄託番号:FERM P−21895)で発酵させた前記の発酵物からなる医薬品や、納豆菌AS39(寄託番号:FERM P−21895)で発酵させた前記の発酵物を含む医薬品を、顆粒状、バー(棒)形態、粉末、カプセル状、錠剤形態、等、種々の態様、形態で提供することができる。
【0026】
以下、実施例により、本発明の納豆菌AS39(寄託番号:FERM P−21895)の抗ロタウィルス活性ならびに下痢発症予防の特徴を説明する。
【実施例1】
【0027】
7週齢のBALB/cマウスを解剖し、パイエル板細胞を単離・調整した。次に5×10cell/mlの前記パイエル板細胞に納豆菌を100μl(凍結乾燥物200μg/ml)添加し、RPMI培地で37℃、5%COの条件下で培養した。
【0028】
培養7日目に培養上清をサンプリングし、IgA抗体の産生量をELISA法により測定した。比較例として無添加区(パイエル板細胞のみの培養区)、標準的な乳酸菌であるビフィドバクテリウム・インファンティス1222T添加区、及び標準的な納豆菌である三浦株とし、稲わらから分離した納豆菌AS14株、AS38株、AS39株、AS115株、AS173株のIgA抗体産生量を表1に示す。
【表1】

【0029】
表1に示されるように納豆菌AS14株、AS38株、AS39株、AS115株、AS173株はIgA抗体の産生を促進した。特にAS39株は顕著な抗体産生量を示した。
【0030】
AS39株は標準的な乳酸菌であるビフィドバクテリウム・インファンティス1222Tに比較してパイエル板細胞のIgA抗体産生促進作用が高いことを確認できた。
【実施例2】
【0031】
7週齢のBALB/c雌マウスを3群に分け、菌無添加の標準飼料、標準的な納豆菌である納豆菌三浦株を0.1%添加した標準飼料、納豆菌AS39株を0.1%添加した標準飼料を自由に摂取させて飼育した。4週間後に雄マウスと交配させ、その後ロタウィルスを経口免疫した。出産した5日目の仔マウスにロタウィルスを経口感染させて、その後の下痢発症の有無を観察した。各群における下痢発症率を表2に示す。
【表2】

【0032】
納豆菌AS39株を添加した標準飼料で飼育した母マウスから産まれた仔マウスの下痢発症率は有意に低下した。特にAS39群における仔マウスの下痢発症率は、他の2群に比べ特に低い数値を示している。これはパイエル板細胞からのIgA抗体産生の高い納豆菌AS39株を摂取した母マウスの母乳中のロタウィルス抗体が増強され、その母乳を飲んだ仔マウスの下痢発症がロタウィルス抗体により抑えられたものと推察される。
【0033】
以上より、IgA抗体産生促進作用を有する納豆菌、特にAS39株を食品、動物飼料、医薬に利用することで、ロタウィルスによる下痢発症を効果的に予防又は治療することができると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ロタウィルス活性を有する納豆菌(Bacillus subtilis natto)。
【請求項2】
前記納豆菌が、寄託番号:FERM P−21895号として寄託された納豆菌AS39株であることを特徴とする請求項1記載の納豆菌。
【請求項3】
請求項2記載の納豆菌で発酵させた発酵物からなる発酵食品。
【請求項4】
請求項2記載の納豆菌で発酵させた発酵物を含む食品。
【請求項5】
請求項2記載の納豆菌で発酵させた発酵物を含む動物用飼料。
【請求項6】
請求項2記載の納豆菌で発酵させた発酵物を含む医薬品。

【公開番号】特開2011−177155(P2011−177155A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47421(P2010−47421)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000116943)旭松食品株式会社 (22)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】