説明

抗体とエフェクター機能が増強された遺伝子組み換え抗体を作成する方法

【解決手段】 ヒトミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を利用し、高頻度変異細胞および生物を作成することができる。これらの遺伝子を細胞とトランスジェニック動物に導入することで、新規かつ有用な特徴を持った新しい細胞株と動物種が、自然の変異率に依存するよりも効率的に調整され得る。これらの方法は、対象抗原に対する免疫グロブリン遺伝子に遺伝的多様性を発生させ、生化学的活性が上昇するように変化した抗体を産生するために有用である。さらに、これらの方法は、抗体産生レベルが上昇した抗体産生細胞を発生させるために有用である。本発明では、モノクローナル抗体とエフェクター機能が増強されたモノクローナル抗体のエフェクター機能を上昇させる方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本明細書は、2003年6月29日に出願された米国仮出願番号第60/491,310号に対して優先権を主張し、その全内容はこの参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、抗体のエフェクター機能と、細胞生産との分野に関するものである。特に、変異誘発性の分野に関係する。
【背景技術】
【0003】
外因性および/または内因性ポリペプチドの活性を遮断するための抗体の使用は、基礎疾患の治療に効果的で選択的な戦略を提供する。例えば、FDAで承認されたReoPro(Glaser,V.(1996)"Can ReoPro repolish tarnished monoclonal therapeutics?"Nat.Biotechnol.14:1216〜1217)、Centocorの抗血小板MAbであるハーセプチン(Herceptin)(Weiner,L.M.(1999)"Monoclonal antibody therapy of cancer"Semin.Oncol.26:43〜5 1)、Genentechの抗Her2/neu MAb、およびMedimmuneで製造された抗呼吸器合胞体ウイルスMAbであるシナジス(Synagis)(Saez−Llorens,X.E.,et al.(1998)"Safety and pharmacokinetics of an intramuscular humanized monoclonal antibody to respiratory syncytial virus in premature infants and infants with bronchopulmonary dysplasia"Pediat.Infect.Dis.J.17:787〜791)などのモノクローナル抗体(MAb)が効果的な治療法として使用されてきた。
【0004】
候補タンパク質標的に対するMAbsを作成する標準的な方法は、当業者に知られている。簡単に言えば、マウスやラットなどのげっ歯類に、免疫反応を発生させるアジュバント存在下で精製された抗原を注射するものである(Shield,C.F.,et al.(1996)A cost−effective analysis of OKT3 induction therapy in cadaveric kidney transplantation.Am.J.Kidney Dis.27:855〜864)。免疫血清が陽性のげっ歯類は屠殺され、脾細胞が単離される。単離された脾細胞はメラノーマと融合され、不死化細胞株を生産し、その抗体生産がスクリーニングされる。陽性細胞株が単離され、抗体生産の特徴が決定される。ヒト治療薬としてげっ歯類のMAbsを直接使用することは、ヒト抗げっ歯類抗体(HARA)反応が、げっ歯類由来抗体を投与した患者の多数において発生したという事実により混乱した(Khazaeli,M.B.,et al.,(1994)Human immune response to monoclonal antibodies.J.Immunother.15:42〜52)。HARAの問題を回避するため、前記抗原結合ドメインを作り、前記免疫グロブリン(Ig)サブユニットの重鎖および軽鎖可変領域にみられる重要なモチーフである相補性決定領域(CDR)をヒト抗体骨格に接合すると、これらのキメラ分子で抗原に結合活性を保持することができるが、HARA反応はなくなることが分かった(Emery,S.C.,and Harris,W.J."Strategies for humanizing antibodies"In:ANTIBODY ENGINEERING C.A.K.Borrebaeck (Ed.)Oxford University Press,N.Y.1995.pp.159〜183)。げっ歯類由来MAbs(本明細書ではHAbと言及される)の「ヒト化」中に共通の問題は、ヒトIg骨格に接合すると、CDRドメインの3次元骨格で立体配座が変化することにより、結合親和性が失われることである(Queenらの米国特許番第5,530,101号)。この問題を克服するため、通常はフレームワーク領域および/またはCDRコード化領域自体の中でさらにアミノ酸残基を挿入するか、欠失することで、HAbの親和性を再び高くし、追加HAbベクターを作成する必要がある(Queenらの米国特許番号第5,530,101号)。このプロセスは、高価なコンピュータモデリングプログラムを使用し、HAbの親和性を高める可能性がある変化を予測することを含む、非常に時間のかかる方法である。場合によってはHAbの親和性がMAbの親和性を復元せず、治療にほとんど利用されないこともある。
【0005】
抗体作成における別の問題は、臨床材料となる分子を生産するために必要な、安定的、高収率産生細胞株の作成法である。この問題を回避するため、当業者によって標準的な方法にいくつかの戦略が採用された。1つの方法は、前記接合したヒト軽鎖および重鎖を含む外因性Ig融合遺伝子をトランスフェクトし、抗体全体または単鎖抗体を作成するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を使用するものであり、この抗体は抗原結合ペプチドを形成する軽鎖および重鎖をいずれも含むキメラ分子である(Reff,M.E.(1993)High−level production of recombinant immunoglobulins in mammalian cells.Curr.Opin.Biotechnol.4:573〜576)。別の方法では、ヒト移植免疫系を含むトランスジェニックマウスまたはヒトIg遺伝子レパートリーを含むトランスジェニックマウス由来のヒトリンパ球を使用している。さらに別の方法では、霊長類のMabを生産するためにサルを利用し、ヒト抗サル反応がないことが報告された(Neuberger,M.,and Gruggermann,M.(1997)Monoclonal antibodies.Mice perform a human repertoire.Nature 386:25〜26)。すべてのケースで、十分な量の高親和性抗体を作成することができる細胞株の作成において、臨床研究用に十分な材料を作成するには大きな制約がある。これらの制約があるため、植物など他の組み換え系の有用性は、現在、ヒト化抗体を安定的に高レベルで生産する系として調査されている(Fiedler,U.,and Conrad,U.(1995)High−level production and long−term storage of engineered antibodies in transgenic tobacco seeds.Bio/Technology 13:1090〜1093)。
【0006】
さらに別の抗体機能の観点は、前記Mabのエフェクター機構である。抗体のエフェクター機能を増強させると考えられる多数の方法のうちの1つは、グリコシル化の変化によるものである。このトピックは、最近Rujuによって再調査され、RujuはヒトIgGにみられるオリゴ糖の重要性をエフェクター機能の程度によってまとめた(Raju,TS.BioProcess International April 2003.44〜53)。WrightとMorrisonによれば、ヒトIgGオリゴ糖の微小不均一性は、補体依存性細胞毒性(CDC)や抗体依存性細胞毒性(ADCC)などの生物機能、様々なFc受容体への結合、C1qタンパク質への結合に影響する可能性がある(Wright A.Morrison SL.TIBTECH 1997,15 26〜32)。抗体のグリコシル化パターンは、細胞の生産と細胞培養条件に依存して異なる可能性があることは、はっきり報告されている(Raju,TS.BioProcess International April 2003.44〜53)。そのような差は、エフェクター機能と薬物動態両方の変化につながる可能性がある(Israel EJ,Wilsker DF,Hayes KC,Schoenfeld D,Simister NE.Immunology.1996 Dec;89(4):573〜578;Newkirk MM,Novick J,Stevenson MM,Fournier Mi,Apostolakos P.Clin.Exp.1996 Nov;106(2):259〜64)。エフェクター機能の差は、前記エフェクター細胞に対するFcγ受容体(FcγRs)のIgG結合能力と関連している可能性がある。Shieldsらは、アミノ酸配列が変化し、FcγRへの結合が改善した変異株のIgG1で、ヒトエフェクター細胞を用い、100%までADCCが強化されうることを示した(Shields RL,Namenuk AK,Hong K,Meng YG,Rae J,Briggs J,Xie D,Lai J,Stadlen A,Li B,Fox JA,Presta LG.J Biol Chem.2001 Mar 2;276(9):6591〜604)。これらの変異体には、結合接点には認められないアミノ酸の変化を含むが、前記糖成分とその構造パターンの性質は、認められた差にも寄与する可能性がある。さらに、IgGのオリゴ糖成分のフコースの有無によっては、結合とADCCが改善される可能性がある(Shields RL,Lai J,Keck R,O’Connell LY,Hong K,Meng YG,Weikert SH,Presta LG.J Biol Chem.2002 Jul 26;277(30):26733〜40)。Asn297に結合したフコシル化炭水化物を欠如したIgGは、Fcγ受容体に対して通常の受容体結合性を示した。対照的に、特に抗体濃度が低いと、FcγRIIA受容体への結合は50%改善し、ADCCの上昇が伴っていた。
【0007】
Shinkawaらの研究によって、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)で生産された抗体と比べ、ラットハイブリドーマで生産されたヒトIL−5受容体抗体でADCCが50%以上高いことが示されると証明された(Shinkawa T,Nakamura K,Yaman N,Shoji−Hosaka E,Kanda Y,Sakurada M,Uchida K,Anazawa H,Satoh M,Yamasaki M,Hanai N,Shitara K.J Biol Chem.2003 Jan 31;278(5):3466〜73)。単糖の組成物とオリゴ糖のプロファイリングにより、前記ラットハイブリドーマ産生IgG1のフコース含有量が前記CHO産生タンパク質よりも低いことが示された。彼らは、IgGのフコシル化の欠如は、ADCC活性の亢進に重要な役割を果たしていると結論付けた。
【0008】
Umanaらによって異なるアプローチがとられ、彼らはキメラIgG抗神経芽細胞腫抗体であるchCE7のグリコシル化パターンを変化させた(Umana P.Jean−Mairet J,Moudry R,Amstutz H,Bailey JE.Nat Biotechnol.1999 Feb;17(2):176〜80)。彼らはテトラサイクリンを用い、ADCC活性に関連していたオリゴ糖を二等分する、グリコシルトランスフェラーゼ(GnTIII)の活性を制御した。前記親抗体のADCC活性は、バックグラウンドレベルよりわずかに高かった。異なるテトラサイクリン濃度で生産されたchCE7のADCC活性を測定すると、最大chCE7 in vitro ADCC活性でGnTIII発現の最適範囲が示された。この活性は、定常領域と関連し、二等分された複合オリゴ糖レベルと関連していた。新たに最適化された変異株では、かなりのADCC活性が示された。
【0009】
HabsおよびMAbsとなる、抗原親和性が高い可変ドメイン内で様々な抗体配列を作成する方法は、それぞれ、より強力な治療薬および診断薬の作成に有用であろう。さらに、抗体分子全体でランダムに改変させたヌクレオチドおよびポリペプチド残基を生成すると新しい試薬の開発を導き、これは抗原性が低いおよび/または有益な薬物動態学的性質を有する。ここで説明した発明は、生化学的に活性な抗体をコードする、免疫グロブリンを生産する宿主細胞の内在性ミスマッチ修復(MMR)活性を遮断することで、in vivoにおいて抗体構造全体のランダム遺伝子変異を利用することに関するものである。本発明は、結合強化と薬物動態学的プロフィールを用いた、繰り返しin vivo遺伝子変化と抗体の選択に利用される方法に関するものでもある。本発明の方法は、前記抗体のエフェクター機能を亢進するためにも利用されうる。
【0010】
さらに、より多くの抗体を分泌できる遺伝子組み換え宿主細胞を開発することができれば、製品開発用の細胞宿主を作成する貴重な方法を提供することになる。ここで説明した発明は、MMRを遮断することによる抗体生産の亢進と、遺伝子組み換え細胞宿主の作成に関するものである。
【0011】
本発明は、エフェクター機能を亢進した抗体の作成と、抗体生産レベルが増強された細胞株の生産を促進するものである。本発明の他の利点は、ここで説明される実施例と図で述べられる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、in vitroおよびin vivoで(単鎖分子を含む)遺伝子組み換え抗体と、抗体産生細胞宿主とを作成する方法を提供し、それによって抗体は、これに限定されるものではないが、宿主細胞による抗原結合性の亢進、遺伝子発現の亢進、エフェクター機能の亢進および/または細胞外分泌の亢進など、望みの生化学的性質を有する。結合活性が増強された抗体、または抗体産生が増加した細胞を同定する1つの方法は、結合性が強化され、(これだけに限らないが)抗体依存性細胞毒性(ADCC)などのエフェクター機能が増強された分子を産生する細胞クローン、または抗体産物の生産量が増加するように遺伝子組み換えされたクローンを産生するMMR欠損抗体をスクリーニングするものである。
【0013】
本発明での使用に適した細胞を産生する抗体には、これだけに限定されるものではないが、げっ歯類、霊長類、またはヒトハイブリドーマまたはリンパ芽球様細胞、外因性Igサブユニットまたはキメラ単鎖分子をトランスフェクトするか、発現した哺乳類細胞、外因性Igサブユニットまたはキメラ単鎖分子をトランスフェクトするか、発現した植物細胞、酵母、または細菌を含む。
【0014】
従って、本発明では、ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を有するポリヌクレオチドを、抗体を産生することができる細胞に導入することで、高頻度変異可能な抗体産生細胞を作成する方法を提供する。抗体を産生することができる細胞には、自然に抗体を産生する細胞、免疫グロブリンコード化配列の導入により抗体を産生するように設計された細胞を含む。都合の良いことに、ポリヌクレオチド配列の細胞への導入は、トランスフェクションにより達成される。
【0015】
本発明では、PMS2(好ましくはヒトPMS2)、MLH1、PMS1、MSH1、またはMSH2などのドミナントネガティブミスマッチ修復(MMR)遺伝子を、抗体を産生することができる細胞に導入することで、高頻度変異可能な抗体を作成する方法も提供する。ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子は、ミスマッチ修復遺伝子の切断変異としてもよい(好ましくはコドン134の切断変異、または野生型PMS2のヌクレオチド424のチミジン)。本発明では、ミスマッチ修復遺伝子活性が抑制される方法も提供する。これは、例えばミスマッチ修復遺伝子または転写物のアンチセンス分子を用いて達成されてもよい。
【0016】
本発明の他の実施形態では、ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を有するポリヌクレオチドを動物の受精卵に導入することで、高頻度変異可能な抗体産生細胞を作成する方法を提供する。これらの方法には、その後、前記受精卵を疑似妊娠した女性に移植する段階も含み、それによって前記受精卵が成熟トランスジェニック動物に発達するものである。このミスマッチ修復遺伝子には、例えばPMS2(好ましくはヒトPMS2)、MLH1、PMS1、MSH1、またはMSH2を含んでもよい。ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子は、ミスマッチ修復遺伝子の切断変異としてもよい(好ましくはコドン134における切断変異、または野生型PMS2のヌクレオチド424におけるチミジン)。
【0017】
本発明はさらに、抗体を生産でき、ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を含む、培養高頻度変異哺乳類細胞の均一な組成物を提供する。前記ミスマッチ修復遺伝子には、例えばPMS2(好ましくはヒトPMS2)、MLH1、PMS1、MSH1、またはMSH2を含んでもよい。ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子は、ミスマッチ修復遺伝子の切断変異としてもよい(好ましくはコドン134の切断変異、または野生型PMS2のヌクレオチド424のチミジン)。前記培養細胞には、PMS2、(好ましくはヒトPMS2)、MLH1、またはPMS1を含むか、ヒトmutLホモローグ、またはhPMS2の第1の133アミノ酸を発現してもよい。
【0018】
本発明では、さらに対象免疫グロブリンを選択する免疫グロブリン産生細胞を培養することで、対象の免疫グロブリン遺伝子の変異を作成する方法を提供し、前記細胞にはミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を含む。前記細胞から産生される免疫グロブリンの性質がアッセイされ、前記免疫グロブリン遺伝子が変異を含むか否かを確認することができる。前記アッセイは、前記免疫グロブリンをコードするポリヌクレオチドを分析するように指示されてもよく、前記免疫グロブリンポリペプチド自体を対象としてもよい。
【0019】
本発明では、ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を発現した細胞を培養し、前記細胞を検査して、前記細胞に新しい生化学的特徴など、対象遺伝子内に変異があるか否かを決定することで、抗体産生細胞の遺伝子に影響する抗体産生で変異を作成する方法も提供する。前記検査には、対象免疫グロブリン遺伝子の定常状態での発現分析および/または対象免疫グロブリン遺伝子でコードされた分泌タンパク質量の分析を含んでもよい。前記発明には、げっ歯類、ヒト以外の霊長類、ヒトの細胞など、このプロセスで作成された原核細胞と真核細胞のトランスジェニック細胞も含む。
【0020】
本発明の他の観点には、抗体産生細胞の高頻度変異を可逆的に変化させる方法を含み、誘導プロモーターに結合するように操作可能なミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を含む誘導ベクターが、抗体産生細胞に導入されるものである。前記細胞が誘導因子で処理され、前記ドミナントネガティブミスマッチ修復遺伝子を発現する(これは、PMS2(好ましくはヒトPMS2)、MLH1、またはPMS1とすることができる)。代わりに、前記細胞を導入し、ヒトmutLホモローグまたはhPMS2の第1の133アミノ酸を発現してもよい。別の実施形態では、事前に選択された対象免疫グロブリン遺伝子を同時にトランスフェクトすることで、前記細胞が抗体を産生できてもよい。前記高頻度変異細胞の免疫グロブリン遺伝子、またはこれらの方法で作成されたタンパク質の望みの性質が分析されてもよく、前記宿主細胞の遺伝的安定性を回復させるように、導入を中止してもよい。
【0021】
本発明には、(自然に、またはドミナントネガティブミスマッチ修復遺伝子が前記細胞に導入されるように)ドミナントネガティブミスマッチ修復遺伝子を含む細胞に、免疫グロブリンタンパク質をコード化するポリヌクレオチドをトランスフェクトし、前記免疫グロブリン遺伝子が変異し、変異型免疫グロブリンを産生できるように前記細胞を培養し、前記免疫グロブリンタンパク質の望みの性質をスクリーニングし、前記望みの性質を有する前記選択変異型免疫グロブリンをコードするヌクレオチド分子を単離し、前記変異型ポリヌクレオチドを遺伝的に安定な細胞にトランスフェクトし、これ以上遺伝子組み換えを行わずに前記変異型抗体が常に生産されるようにすることで、遺伝子組み換え抗体を作成する方法も含む。前記ドミナントネガティブミスマッチ修復遺伝子はPMS2(好ましくはヒトPMS2)、MLH1、またはPMS1としてもよい。代わりに、前記細胞が、ヒトmutLホモローグまたはhPMS2の第1の133アミノ酸を発現してもよい。
【0022】
本発明は、さらに抗原結合ポリペプチドの発現量が増加した遺伝子組み換え細胞株を作成する方法も提供する。これらの抗原結合ポリペプチドは、例えば免疫グロブリンであってもよい。本発明の方法は、抗原結合ポリペプチドの分泌量が増加した遺伝子組み換え細胞株を作成する方法も含む。前記細胞株はドミナントネガティブミスマッチ修復遺伝子により高頻度変異が可能となり、抗体などの細胞産生抗原結合ポリペプチドで遺伝子高頻度変異率の上昇を提供する。そのような細胞には、これだけに限定されるものではないが、ハイブリドーマを含む。抗原結合ポリペプチドの増加された量の発現は、例えば、前記抗原結合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの転写または翻訳を増加することで、または前記抗原結合ポリペプチドの分泌を増加することで行われてもよい。
【0023】
前記細胞宿主のMMR活性を遮断するか、MMR欠損細胞宿主の免疫グロブリンをコードする遺伝子をトランスフェクトすることで、in vivoにおいて遺伝子組み換え抗体を作成する方法も提供される。
【0024】
前記様々なドメインで遺伝子が変化したため、抗原に対する結合性が増強された抗体は、前記細胞宿主の外因性MMRを遮断する本発明の方法で提供される。軽鎖および/または重鎖のCDR領域で遺伝子が変化したため、抗原に対する結合性が増強された抗体も、前記細胞宿主の外因性MMRを遮断する本発明の方法で提供される。
【0025】
本発明では、これだけに限定されるものではないが、げっ歯類、霊長類、ヒトを含む宿主生物の薬物動態特性を強化し、MMR欠損Ab産生細胞株で遺伝子操作した抗体を作成する方法を提供する。
【0026】
これらの本発明の観点は、以下に説明される実施形態の1若しくはそれ以において提供される。本発明の1つの実施形態において、抗体産生細胞株に高頻度変異を生じさせる方法が提供される。MMR遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子をコード化するポリヌクレオチドが、抗体産生細胞に導入される。前記遺伝子を導入した結果として、前記細胞は高頻度変異可能となるものである。
【0027】
本発明の別の実施形態では、免疫グロブリンポリペプチドまたは単鎖抗体をコードする外因性遺伝子に変異を導入する方法が提供される。MMR遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子をコード化するポリヌクレオチドは、細胞に導入される。前記MMR遺伝子の対立遺伝子を導入、発現させた結果として、前記細胞は高頻度変異可能となる。前記細胞はさらに、対象免疫グロブリン遺伝子を有する。前記細胞は、増殖、検討され、対象の免疫グロブリンまたは単鎖抗体をコードする遺伝子に変異があるか否かを決定される。本発明の別の観点では、前記変異型免疫グロブリンポリペプチドまたは単鎖抗体をコードする遺伝子が、遺伝的に安定した細胞で単離、発現されてもよい。好適な実施形態では、これだけに限らないが、結合性の増強など、少なくとも1つの望ましい特性について、前記変異型抗体がスクリーニングされる。
【0028】
本発明の別の実施形態では、Igの軽鎖と重鎖またはその組み合わせをコードする遺伝子または遺伝子セットが、MMRを欠損した哺乳類細胞宿主に導入される。前記細胞が増殖され、クローンで結合性が増強された抗体が分析される。
【0029】
本発明の別の実施形態では、細胞の新しい表現型を作成する方法が提供される。MMR遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子をコード化するポリヌクレオチドが、細胞に導入される。前記遺伝子を導入した結果として、前記細胞は高頻度変異可能となる。前記細胞は増殖される。前記細胞は、新しい表現型の発現が検討され、前記表現型ではポリペプチドの分泌が増加するものである。
【0030】
本発明では、免疫グロブリン分子を有する抗原に対する親和性が増加された抗体も提供し、ここにおいて前記重鎖および/または軽鎖の可変ドメインで少なくとも1つのアミノ酸が置換されているものである。いくつかの実施形態では、前記置換は、その位置のアミノ酸の親配列が非極性側鎖のアミノ酸である位置にあるものである。いくつかの実施形態では、前記アミノ酸の親配列は、非極性側鎖を有する異なるアミノ酸で置換される。他の実施形態では、前記アミノ酸の親配列は、プロリンまたはヒドロキシプロリンで置換されているものである。いくつかの実施形態では、前記置換は、重鎖および/または軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域で行われる。いくつかの実施形態では、前記置換は、前記重鎖の第1のフレームワーク領域にあるものである。いくつかの実施形態では、前記置換は、前記軽鎖の第2のフレームワーク領域にあるものである。いくつかの実施形態では、前記置換は、前記重鎖の第1のフレームワーク領域と前記軽鎖の第2のフレームワーク領域にあるものである。いくつかの実施形態では、配列ID番号:18に示されるとおり、前記置換は、前記重鎖の第1のフレームワーク領域の6位で行われるものである。いくつかの実施形態では、配列ID番号:21に示されるとおり、前記置換は、前記軽鎖の第2のフレームワーク領域の22位で行われるものである。特定の位置の変異に対して、いくつかの実施形態においては、アミノ酸置換はプロリンまたはヒドロキシプロリンである。
【0031】
本発明では、抗原に対する抗体の親和性を高める方法も提供し、この方法は前記対象抗体の重鎖または軽鎖の可変ドメインにあるアミノ酸を、非極性側鎖を有する別のアミノ酸で置換する工程を有する。いくつかの実施形態では、この位置のオリジナルアミノ酸がプロリンで置換されるものである。いくつかの実施形態では、プロリンを用い、非極性側鎖を有する別のアミノ酸を置換するものである。いくつかの実施形態では、アラニンおよび/またはロイシンがプロリンで置換される。特定の実施形態では、配列ID番号:18で示されるとおり、前記抗体重鎖の第1のフレームワーク領域の6位のアミノ酸がプロリンで置換される。他の実施形態では、配列ID番号:21で示されるとおり、前記軽鎖可変ドメインの第2のフレームワーク領域の22位のアミノ酸がプロリンで置換される。本発明では、これらの方法で産生された抗体も提供する。
【0032】
本発明で生産された抗体は、本発明のプロセスを用いて作成されてもよく、ここにおいてミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子は、抗体産生細胞に導入され、ここでさらに説明されるとおり、前記細胞は、高頻度変異可能となる。代わりに、2002年6月18日に公開されたPCT公開番号第WO 02/054856号に説明されているとおり、アントラセンおよび/またはその誘導体を用いるなどの、ミスマッチ修復の化学的阻害剤を用いてミスマッチ修復を妨害してもよく、その全体に開示されている内容はこの参照により本明細書に具体的に組み込まれている。ミスマッチ修復を妨害する化学物質で処理されるか、ドミナントネガティブミスマッチ修復遺伝子を発現した細胞は、高頻度変異可能となる。高頻度変異細胞によって生産される抗体は、親和性の上昇がスクリーニングされ、前述のアミノ酸置換を有するこれらの抗体では、抗原の親和性が上昇することが示される。親和性が上昇し、ここで説明した分子の特徴を有する抗体を産生する細胞は、前記化学的阻害剤を中止するか、前記ドミナントネガティブ対立遺伝子の発現を不活化することを通じて遺伝的に安定化した細胞を与えることで、再び遺伝的に安定させてもよい。例えば、誘導プロモーターをコントロールした状態で、前記誘導因子を中止することにより、ドミナントネガティブ対立遺伝子が不活化されてもよい。代わりに、前記ドミナントネガティブ対立遺伝子がノックアウトされるか、CRE−LOX発現系が利用され、それによって遺伝的に多様な免疫グロブリンを含む細胞が確立された時点で、前記ドミナントネガティブ対立遺伝子が前記ゲノムからスプライスされてもよい。
【0033】
他の実施形態において、当該分野の当業者は、タンパク質に変異を誘導し、前記アミノ酸置換と高い親和性を有する抗体を選択する既知のいずれかの方法を使用してもよい。変異を導入する方法は、化学的突然変異などのようにランダムであってもよく、または部位特異的突然変異誘発などのように特異的であってもよい。ランダムおよび特異的突然変異誘発法は、当該分野で周知であり、これだけに限定されるものではないが、例えば化学的突然変異誘発(例えばメタンスルホン酸塩、ジメチルスルホン酸塩、O6−メチルベンザジン、メチルニトロソウレア(MNU)、エチルニトロソウレア(ENU)などの化学物質を用いる)、オリゴヌクレオチドを介した部位特異的突然変異誘発、アラニンスキャニング、PCR突然変異誘発(例えばKunkel et al.(1991)Methods Enzymol.204:125〜139を参照)、部位特異的突然変異誘発(Crameri et al.(1995)BioTechniques 18(2):194〜196を参照)、カセット式変異誘発、および(Haught et al.(1994)BioTechniques 16(1):47−48)の制限選択突然変異誘発(restriction selection mutagenesis)を含む。
【0034】
本発明のこれらの実施形態では、細胞と動物で変異性を上昇させることができる方法を用いた技術を提供するだけでなく、有益な薬理学的プロフィールがある高親和性抗体の大規模生産に有用と考えられる変異を有する細胞と動物も提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
宿主細胞の保存ミスマッチ修復(MMR)プロセスをうまく利用することで、高頻度変異抗体産生細胞を作成する方法が発見された。そのような遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を細胞またはトランスジェニック動物に導入すると、DNA修復の有効性が低下し、それによって細胞または動物が高頻度変異することで、自然突然変異率が上昇する。次に、高頻度変異細胞または動物を利用し、対象遺伝子で新しい変異を生じる可能性がある。これだけに限らないが、ハイブリドーマ、Ig軽鎖および重鎖をコードした遺伝子をトランスフェクトした哺乳類細胞、単鎖抗体をコードした遺伝子をトランスフェクトした哺乳類細胞、Ig遺伝子をトランスフェクトした真核細胞などの抗体産生細胞で、MMRを遮断すると、これらの細胞の変異率が上昇し、抗体産生が増加したクローン、および/または遺伝子組み換え抗体を含む細胞が生じ、抗原結合性の上昇など、生化学的特性が上昇する。細菌から哺乳類細胞の範囲で、細胞のタンパク質複合体により、ミスマッチ校正と呼ばれるMMRのプロセスが実施される。MMR遺伝子は、ミスマッチ修復複合体などのタンパク質の1つをコードした遺伝子である。特定の作用機序の理論に縛られることなく、MMR複合体は、DNAらせんのゆがみを検出し、ヌクレオチド塩基の非相補的ペアから生じると考えられている。新しいDNA鎖の非相補的塩基は除去され、前記切除された塩基は前記適当な塩基と交換され、これは前記古いDNA鎖と相補的である。このように、細胞はDNA複製の誤りの結果発生する多くの突然変異を排除する。
【0036】
ドミナントネガティブ対立遺伝子は、同じ細胞に野生型対立遺伝子が存在する場合でも、MMR欠損表現型を発生させる。MMR遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子の例は、前記ヒト遺伝子のhPMS2−134であり、コドン134(配列ID番号:15)に短縮型変異を有する。前記変異は、前記134番目のアミノ酸の位置でこの遺伝子産物を異常に停止させ、N末端133アミノ酸を含む短縮型ポリペプチドとなる。そのような変異は変異率を上昇させ、DNA複製後の細胞を蓄積する。野生型対立遺伝子がある場合でも、ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子が発現することで、ミスマッチ修復活性が障害される。そのような作用を生じる対立遺伝子は、すべて本発明で利用することができる。MMR遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子は、ヒト、動物、酵母、細菌、その他の生物の細胞から入手され得る。そのような対立遺伝子は、細胞の欠損MMR活性をスクリーニングすることで同定されうる。癌のある動物またはヒトの細胞では、欠損ミスマッチ修復をスクリーニングすることができる。結腸癌患者の細胞は、特に有用と考えられる。MMRタンパク質をコード化する細胞のゲノムDNA、cDNA、またはmRNAでは、前記野生型配列の変異を分析することができる。MMR遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子は、例えば前記hPMS2−134対立遺伝子または他のMMR遺伝子の変異株を産生することで、人工的に作成されることも可能である。部位特異的突然変異誘発の様々な技術が利用され得る。そのような対立遺伝子を高頻度変異細胞または動物の作成に使用する適合性は、天然または人工かによらず、1若しくはそれ以上の野生型対立遺伝子の存在下で、前記対立遺伝子によって生じるミスマッチ修復活性を検討することで評価し、ドミナントネガティブ対立遺伝子か否かを決定することができる。
【0037】
ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子が導入された細胞または動物は、高頻度変異可能となる。これは、そのような細胞または動物の自然突然変異率が、そのような対立遺伝子のない細胞または動物と比べて上昇していることを意味する。前記自然突然変異率の上昇度は、正常な細胞または動物の少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、または1000倍の可能性がある。これだけに限らないが、メタンスルホン酸塩、ジメチルスルホン酸塩、06−メチルベンザジン、MNU、ENUなどの化学的突然変異誘発要因をMMR欠損細胞に使用することで、突然変異率を前記MMRの欠損率自体のさらに10〜100倍に上昇させることができる。
【0038】
本発明の1つの観点に従うと、MMRタンパク質のドミナントネガティブ型をコード化するポリヌクレオチドは、細胞に導入される。前記遺伝子は、例えばPMS2、PMS1、MLH1、またはMSH2など、MMR複合体の一部であるタンパク質をコード化する全てのドミナントネガティブ対立遺伝子であり得る。前記ドミナントネガティブ対立遺伝子は、自然に発生するか、実験室で作成することができる。前記ポリヌクレオチドは、ゲノムDNA、cDNA、RNA、または化学合成されたポリヌクレオチドの形とすることができる。
【0039】
前記ポリヌクレオチドは、構成的活性化プロモーター断片(これだけに限らないが、CMV、SV40、伸長因子、またはLTR配列など)を含む発現ベクター、または前記ステロイド誘導pINDベクター(Invitrogen)などの誘導プロモーター配列にクローニングされる可能性があり、前記ドミナントネガティブ対立遺伝子の発現が制御される可能性がある。前記ポリヌクレオチドは、形質移入によって前記細胞に導入される可能性がある。
【0040】
本発明の別の観点に従うと、免疫グロブリン(Ig)遺伝子、Ig遺伝子セット、Ig遺伝子の全体または一部を含むキメラ遺伝子は、MMR欠損細胞宿主にトランスフェクトされる可能性があり、新しい生化学的特徴を持った遺伝子組み換えIg遺伝子を含むクローンに関して、前記細胞が増殖、スクリーニングされる。MMR欠損細胞は、ヒト、霊長類、哺乳類、げっ歯類、植物、酵母、または原核界の細胞としてもよい。新しい生化学的特徴を持ったIgをコード化する突然変異遺伝子は、それぞれのクローンから単離され、遺伝的に安定な細胞(つまり、正常MMRを持った細胞)に導入され、前記新しい生化学的特徴を持ったIgを一貫して生産するクローンを提供してもよい。前記新しい生化学的特徴を持ったIgをコードするIg遺伝子を単離する方法は、当該分野で既知のいずれの方法であってもよい。前記新しい生化学的特徴を持ったIgをコードする単離ポリヌクレオチドの導入は、これだけに限らないが、前記新しい生化学的特徴を持ったIgをコード化するポリヌクレオチドを含む発現ベクターのトランスフェクションを含む、当該分野で既知の方法により実施され得る。Ig遺伝子、Ig遺伝子セット、Ig遺伝子全体または一部を含むキメラ遺伝子をMMR欠損宿主細胞にトランスフェクトする代わりに、そのようなIg遺伝子を、ドミナントネガティブミスマッチ修復遺伝子をコード化する遺伝子と同時に、遺伝的に安定な細胞にトランスフェクトし、前記細胞を高頻度変異可能にしてもよい。
【0041】
トランスフェクションは、ポリヌクレオチドが細胞に導入されるプロセスである。トランスフェクションのプロセスは、生きている動物で、例えば遺伝子療法のベクターを用いて実行される可能性があり、またはin vitroで、例えば1若しくはそれ以上の単離細胞を培養液に懸濁することで実施される可能性もある。前記細胞は、例えばヒトまたは他の霊長類、哺乳類、その他の脊椎動物、無脊椎動物、原虫、酵母、または細菌などの単細胞生物から単離された細胞を含む、全てのタイプの真核細胞とすることができる。
【0042】
一般に、トランスフェクションは、細胞懸濁液、または単細胞を用いて実施されるが、前記処理細胞または組織の十分な分画が前記ポリヌクレオチドを含む限り、トランスフェクトした細胞が増殖、利用できるような他の方法を適用してもよい。前記ポリヌクレオチドのタンパク質産物は、前記細胞に一時的または安定的に発現されてもよい。トランスフェクション技術も周知である。ポリヌクレオチドの導入に利用できる方法には、これだけに限らないが、電気穿孔法、形質導入、細胞融合、塩化カルシウムの利用、前記ポリヌクレオチドと脂質のパッケージングにより対象細胞と融合させる方法を含む。細胞に前記MMR遺伝子がトランスフェクトされると、前記細胞が増殖され、培養液で再生産されうる。前記トランスフェクションが安定化し、前記遺伝子が多くの細胞世代で一貫したレベルで発現された場合、これを細胞株とする。
【0043】
単離細胞は、例えばコラゲナーゼまたはトリプシンなどの酵素で前記組織を前処理した場合と前処理しない場合で、個々の細胞を機械的に分離し、適当な細胞培養液に移動することで、ヒトまたは動物組織から得られた細胞である。そのような単離細胞は、典型的には、他の細胞タイプがない状態で培養される。ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を導入するために選択された細胞は、初代細胞培養または不死化細胞株の形での真核生物由来であってもよく、または単細胞生物の懸濁液に由来してもよい。
【0044】
MMRタンパク質のドミナントネガティブ型をコード化するポリヌクレオチドは、トランスジェニック動物を生産することで、動物のゲノムに導入されうる。前記動物は、どの種であってもよく、適当な技術を利用し、トランスジェニック動物を作成する。例えば、トランスジェニック動物は、例えばウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマなどの家畜から、例えばミルクに組み換えポリペプチドを発現したウシ、ブタ、ヒツジなど、組み換えタンパク質を生産するために利用される動物から、または例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギなど、研究または製品検査用の実験動物から調整されうる。次にMMRが欠損していると判定された細胞株は、未処理の免疫グロブリン遺伝子全体および/または単鎖抗体をコードするキメラ遺伝子を、前記MMR欠損動物組織のMMR欠損細胞に導入することで、in vitroで遺伝子組み換え免疫グロブリン遺伝子を産生する供給源として使用され得る。
【0045】
トランスフェクトされた細胞株またはトランスジェニック動物のコロニーが生産されると、1若しくはそれ以上の対象遺伝子で新たな突然変異を発生させるために利用され得る。対象遺伝子は、前記細胞株またはトランスジェニック動物で自然に処理されたか、前記細胞株またはトランスジェニック動物に導入された遺伝子とすることができる。そのような細胞または動物を用いて突然変異を誘導する利点は、前記細胞または動物が変異原性化学物質に曝露されるか、照射される必要がない点であり、これらは前記曝露される対称および作業員に二次的な有害作用を有する可能性があるものである。しかし、化学的変異はMMR欠損性と組み合わせて利用することができ、未確定のメカニズムにより、そのような変異による毒性があまりない。次に高頻度変異動物が飼育され、遺伝的に変化するB細胞を生産する動物が選択され、これが単離、クローニングされ、遺伝的に可変性の細胞を生産するために有用な新しい細胞株を同定することができる。一度新しい形質が同定されると、前記ドミナントネガティブMMR遺伝子の対立遺伝子は、当業者が利用する技術により前記対立遺伝子を直接ノックアウトするか、前記ドミナントネガティブ対立遺伝子がない動物とつがいにするように飼育し、望みの形質および安定的なゲノムを持つ子孫を選択することで除去されうる。別の代替法としては、RE−LOX発現系を利用する方法であり、これによって遺伝的に多様な免疫グロブリンプロフィールを含む動物が確立されると、前記ドミナントネガティブ対立遺伝子が前記動物ゲノムからスプライシングされる。さらに別の代替法として、コルチコステロイド存在下、外因性遺伝子を発現した前記ステロイド誘導pIND(Invitrogen)またはpMAM(Clonetech)ベクターなどの誘導ベクターを利用する方法がある。
【0046】
変異は、前記細胞または動物の遺伝子型の変化を分析することで、例えばゲノムDNA、cDNA、メッセンジャーRNA、または対象遺伝子と関連したアミノ酸を検討することで、検出され得る。変異は、抗体力価の産生をスクリーニングすることで検出され得る。変異型ポリペプチドは、変異型遺伝子でコード化されるタンパク質の電気泳動移動度、分光学的特性、または他の物理的または構造的特徴の変化を同定することで検出され得る。in situで、単離型またはモデル系で、タンパク質の機能変化をスクリーニングすることもできる。これだけに限らないが、Ig分泌など、対象遺伝子の機能と関連した細胞または動物の特徴変化をスクリーニングすることができる。
【0047】
前記ドミナントネガティブ対立遺伝子を発現した細胞は、誘導可能に前記細胞から除去されるなどのように、前記細胞が遺伝的にもう一度安定になり、異常に高い割合で変異が蓄積しない場合は、前記ドミナントネガティブ対立遺伝子をオフにできる点で、「回復」することができる。前記ポリヌクレオチドは、構成的活性化プロモーター断片(これだけに限らないが、CMV、SV40、伸長因子、またはLTR配列など)を含む発現ベクター、またはステロイド誘導pINDベクターなどの誘導プロモーター配列にクローニングされる可能性があり、前記ドミナントネガティブミスマッチ修復遺伝子の発現が制御される可能性がある。前記cDNAは、形質移入によって前記細胞に導入される。前記望みの発現型または形質を同定後、前記生物は遺伝的に安定化する可能性がある。
【0048】
ミスマッチ修復タンパク質と核酸配列の例には、マウスPMS2(配列ID番号:5および6)、ヒトPMS2(配列ID番号:7および8)、ヒトPMS1(配列ID番号:9および10)、ヒトMSH2(配列ID番号:11および12)、ヒトMLH1(配列ID番号:13および14)、ヒトPMS2−134(配列ID番号:15および16)を含む。
【0049】
抗原の親和性が上昇したことを示す変異型抗体の配列が決定され、前記野生型(WT)H36親抗体の配列と比較された。アミノ酸をプロリンに置換させると、前記免疫グロブリン分子の軽鎖または重鎖の可変領域に導入した場合、抗原の親和性が上昇する効果があることが発見された。特定の操作理論に縛られることなく、前記プロリンは、限局した強度の高い領域を導入し、前記免疫グロブリン分子、特に前記抗原結合部位周辺の領域に安定性を与えると考えられる。
【0050】
従って、本発明は、前記重鎖および/または軽鎖の可変ドメインのアミノ酸とプロリンまたはヒドロキシプロリン(まとめて「プロリン」と呼ばれる)との置換を有する、抗体の親和性を増強させる方法を提供する。いくつかの実施形態では、プロリンの置換が前記重鎖可変ドメインにある。いくつかの実施形態では、プロリンの置換が前記軽鎖可変ドメインにある。他の実施形態では、プロリンの置換が前記免疫グロブリン分子の可変ドメインの重鎖および軽鎖の両方にある。いくつかの実施形態では、前記プロリンが非極性側鎖(例えばグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、システイン)を有する別のアミノ酸と置換される。いくつかの実施形態では、非極性側鎖を有するアミノ酸と非極性側鎖を有する他のアミノ酸をさらに置換することで、前記抗原に対する抗体の親和性が増強されてもよい。いくつかの実施形態では、前記アミノ酸の置換が前記重鎖のフレームワーク領域にある。他の実施形態では、前記アミノ酸の置換が前記軽鎖のフレームワーク領域にある。
【0051】
他の実施形態では、前記アミノ酸の置換が前記重鎖および軽鎖のフレームワーク領域にある。いくつかの実施形態では、前記アミノ酸の置換が前記重鎖の第1のフレームワーク領域(FR1)にある。他の実施形態では、前記アミノ酸の置換が前記重鎖の第2のフレームワーク領域(FR2)にある。他の実施形態では、前記アミノ酸の置換が前記重鎖の第3のフレームワーク領域(FR3)にある。他の実施形態では、前記アミノ酸の置換が前記重鎖の第4のフレームワーク領域(FR4)にある。いくつかの実施形態では、前記アミノ酸の置換が前記軽鎖の第1のフレームワーク領域(FR1)にある。他の実施形態では、前記アミノ酸の置換が前記軽鎖の第2のフレームワーク領域(FR2)にある。他の実施形態では、前記アミノ酸の置換が前記軽鎖の第3のフレームワーク領域(FR3)にある。他の実施形態では、前記アミノ酸の置換が前記軽鎖の第4のフレームワーク領域(FR4)にある。
【0052】
本発明の特定の実施形態では、配列ID番号:18の6位のプロリンがアラニンに置換される。他の実施形態では、配列ID番号:18の6位のプロリンがアラニンに置換され、配列ID番号:18の9位のグリシンおよび/または配列ID番号:18の10位のリジンが、非極性側鎖を有するアミノ酸(好ましくは、それぞれバリンおよびアルギニン)で置換される。他の実施形態では、配列ID番号:21の22位のプロリンがロイシンと置換される。
【0053】
リツキシマブ(リツキサン)およびトラスツズマブ(ハーセプチン)などの抗癌抗体や、メシル酸イマチニブ(グリベックまたはSTI−571)などの小分子シグナル伝達阻害剤の最近の臨床的、商業的成功は、造血器悪性腫瘍や固形腫瘍の「標的」療法で大きな利益を生み出した。小分子の細胞毒性物質と比べ、前記治療効果を維持または上昇しながら、これらのアプローチで毒性が低くなることが期待される。
【0054】
放射性核種、薬物、または毒素と結合した抗体は、特異的な抗原結合性のため、本質的に特異性を有する。特異性の程度は、標的腫瘍に対する抗原の相対的特異性に依存する。前記放射性核種は、全身を循環する間に正常組織を照射し(ヒト化抗体では長くなる)、薬物と毒素は酵素的、非酵素的機序により前記抗体から分離されうるために、正常組織に前記毒素を送達するため、前記合成毒性成分は前記アプローチを複雑にする。さらに、前記結合があると、前記身体が前記複合体を異物として認識し、結果として前記肝臓などの除去臓器に取り込まれる可能性がある。
【0055】
モノクローナル抗体の治療の可能性を最大限にするこれまでの試みは、ほとんどが前記標的抗原に対する親和性と結合力を改善することに焦点を当てていた。本発明の方法では、非結合抗体の効果を最大限とすることができる。亢進の背後にあるメカニズムに関わらず、前記タンパク質のエフェクター機能(Fc)が亢進した分子を生産、アッセイすることで、モノクローナル抗体(例えば、ヒト化抗体)を改善させることが本発明の目的である。これらの新しい分子は、次にヒト腫瘍を標的とし、腫瘍細胞を死滅させる効力が高い可能性がある。前記で得られた産物は、毒性を上昇させずに低用量で機能することが予想され、治療域が上昇することになる。さらに、これまでの研究の多くで、腫瘍への抗体の付着は比較的少ないことが示された(Sands,H.Cancer Research (Suppl)1990,50:809s〜813s)。エフェクター機能の亢進により治療効果が上昇するため、ヒト化モノクローナル抗体がヒト腫瘍に見られる付着率で治療効果を有する可能性がある。
【0056】
本発明の方法は、これだけに限らないが、癌治療用に現在開発されている抗体など、前記モノクローナル抗体のエフェクター機能を増強させることができる。グリコシル化は、抗体エフェクター機能が操作される可能性がある、多数の方法の中で唯一の方法である。前記技術は、グリコシル化パターンおよび/または他の既知および未知の機序で、アミノ酸配列の変化が最小限のより強力な抗体を生み出すことができるため、本研究に理想的である。これらの変化は、前記DNAの遺伝的変化により生じ、免疫グロブリンモチーフ自体のアミノ酸配列、または前記翻訳後パターンの配列または性質をコントロールする細胞機構が生じてもよい。
【0057】
本発明の方法を利用し、これだけに限らないが、治療標的に対するげっ歯類の抗体、そのキメラ版およびヒト化版を含む抗体の特徴を増強させてもよい。MORAb−03と呼ばれるそのような抗体の1つは、正常な胎盤および妊娠性絨毛癌の細胞表面にある成人型、高親和性葉酸結合糖タンパク質抗原(指定MORAb−03抗原)に結合する。発現プロフィールは、MORAb−03抗原では正常組織の分布が制限され、単層上皮のサブセット(Rettig WJ,Cordon−Cardo C,Koulos JP,Lewis JL Jr,Oettgen HF,Old U.Int J Cancer.1985 Apr 15;35(4):469〜75;Coney LR,Tomassetti A,Carayannopoulos L,Frasca V,Kamen BA,Colnaghi MI,Zurawski VR Jr.Cancer Res.1991 Nov 15;51(22):6125〜32)、およびヒト膵臓、近位尿細管、気管支の新鮮凍結切片で主に発現されることを示している。MORAb−03抗原の分布は、150腫瘍細胞株と正常細胞の培養の免疫組織化学的分析により、またMORAb−03抗原特異的マウス由来モノクローナル抗体(L−26)を用い、原発性腫瘍組織において、さらに決定された。MORAb−03抗原は、すべての培養された絨毛癌と奇形癌で発現されることが分かった。原発性腫瘍の免疫組織化学像では、有意な数の卵巣腫瘍、および他の組織学的タイプの腫瘍400種類以上で、MORAb−03抗原の発現が認められた(Garin−Chesa P,Campbell I,Saigo PE,Lewis JL Jr,Old U,Rettig WJ.Am J Pathol.1993 Feb;142(2):557〜67)。体腔上皮由来の卵巣癌は、前記MORAb−03抗体で最も一貫して、強く免疫染色され、56例中52例がMORAb−03陽性であることが示された。MORAb−03抗原は正常な胎児または成人の卵巣で検出されたが、良性卵巣嚢胞のサブセットでは上皮内側にあることが認められた。
【0058】
本発明の方法を利用し、前記現在の産業基準で明記された治療および製造要件(つまり、高い親和性と生産性)を満たすことができる抗体を生産する生産ラインを開発してもよい。本発明の方法は、標準的なマウスハイブリドーマ技術により作成したmAbsへの応用に適している。いくつかの実施形態では、マウス相補性決定領域(CDR)がヒトIgG1k骨格に移植され、前記軽鎖および重鎖cDNAがNS0細胞にトランスフェクトされ、この産業においては「トランスフェクトーマ」として知られる抗体生産系が生成する。前記CDRをヒト免疫グロブリン配列に移植するプロセスは、「ヒト化」と呼ばれる。残念ながら、前記トランスフェクトーマ株が1pg/細胞/1日未満の割合でMORAb−03を生産し、前記ヒト化プロセスにより前記親和性が減少し、現在はマイクロモルの範囲にある。本発明の方法により、良好な抗原結合活性(低ナノモル解離定数)と生産率(>10pg/細胞/1日)を示す、最適なヒト化MORAb−03抗体の産生を成功させることができた。標的としてヒト卵巣癌細胞、エフェクター細胞として末梢血単核球(PBMC)を用いたADCCアッセイでは、200ng/mlのNS0細胞で生産されたMORAb−03は標的細胞の44%の溶解を媒介することができることが示されたが、対照IgG1抗体を介した溶解は約6%のみであった(図7)。対照的に、CHO細胞で生産された同濃度のMORAb−03は標的細胞の32%の溶解を媒介し、27%低下した(2標本t検定=0.0008)(図4)。複数の独立したADCCアッセイで同様の傾向が示され、細胞で生産されたMORAb−03 CHOではNSO細胞で生産されたMORAb−03と比べ、50%も活性が低下することが示された。CHOはFDAによって認識された標準的な細胞株であり、契約製造機関によってよく特徴付けられている。その長所は、その成長の頑健性と安定性、異なる製造スキームと無血清培地の順応性、その高能力と抗体産生の再現性である。NS0細胞産生MORAb−03と同等またはそれ以上のADCC活性を持つMORAb−03産生CHO株は、治療用抗癌生物生産にとって、非常に貴重な製造資産である。ADCC活性が上昇した抗体を産生する変異体を同定するため、本発明の方法はMORAb−03産生細胞株に適用されてもよい。
【0059】
まとめると、前記MORAb−03抗原は、正常組織で発現が非常に制限され、大きな卵巣腫瘍で多く発現された糖タンパク質である。前記抗体はADCCを誘導することができるため、卵巣癌の治療に優れた薬物候補となる。
【0060】
本発明の背景に関するさらなる情報については、以下の参考文献を参照してもよく、それぞれの全体がこの参照により本明細書に組み込まれている。
【0061】
【表1−1】

【0062】
【表1−2】

【0063】
【表1−3】

【0064】
上記に開示された内容は、一般に本発明について説明している。より完全な理解は、以下の特定の実施例を参照することで得られるが、これは説明のみの目的でここに提供されているものであり、本発明の範囲を制限する意図はない。
【実施例1】
【0065】
ハイブリドーマ細胞のドミナントネガティブMMR遺伝子の安定的な発現
それ以外にMMR成熟細胞のドミナントネガティブ対立遺伝子の発現がこれらの宿主細胞のMMRを欠損性にすることが、Nicolaidesら(Nicolaides et al.(1998)A Naturally Occurring hPMS2 Mutation Can Confer a Dominant Negative Mutator Phenotype Mol.Cell.Biol.18:1635〜1641)によって示された。MMR欠損細胞を作成することで、宿主生物の子孫のゲノム全体で遺伝子を変化させることができ、特徴が変化した生化学物質を生産することができる遺伝子組み換え子孫または同胞の集団を生み出すことができる。本特許出願では、抗体産生細胞のドミナントネガティブMMR遺伝子の使用について示し、これだけに限らないが、げっ歯類ハイブリドーマ、ヒトハイブリドーマ、ヒト免疫グロブリン遺伝子産物を産生するキメラげっ歯類細胞、免疫グロブリン遺伝子を発現するヒト細胞、単鎖抗体を産生する哺乳類細胞、哺乳類免疫グロブリン遺伝子、または単鎖抗体に含まれる分子など、キメラ免疫グロブリン分子を産生する原核細胞を含む。抗体を産生するために使用される上述の細胞発現系は、抗体治療の分野で当業者に周知である。
【0066】
MMR遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子を用い、MMR不完全ハイブリドーマを作成する能力について証明するため、本発明者らは、まず、前記ヒトPMS2(HBPMS2と呼ばれる細胞株)を含む発現ベクター、ここでPMSI34(HB134と呼ばれる細胞株)と呼ばれるこれまでに発表されたドミナントネガティブPMS2変異株を用い、またはインサートを用いずに(HBvecと呼ばれる細胞株)、前記ヒトIgEタンパク質に対する抗体を産生することが知られているマウスハイブリドーマ細胞株をトランスフェクトした。結果より、前記PMS134変異株が実際に強いドミナントネガティブ効果を示し、MMR欠損性を生化学的、遺伝的に発現させることができることを示された。完全な長さのPMS2によりMMR活性が低下するが、前記空ベクターを含む細胞に効果は認められないという所見は意外であった。前記方法の簡単な説明が以下に示されている。
【0067】
前記MMR成熟マウスH36ハイブリドーマ細胞株に、MMR活性を評価するため、様々なhPMS2発現プラスミドとレポーターコンストラクトをトランスフェクトした。前記MMR遺伝子は、前記pEF発現ベクターにクローニングし、前記クローニング部位の上流に伸長因子プロモーターを含み、次に哺乳類ポリアデニル化シグナルを含ませた。このベクターには、このプラスミドを保持する細胞を選択することができるNEOr遺伝子を含んだ。簡潔に言えば、前記製造業者(Life Technologies)のプロトコールに従い、ポリリポソームを用いて各ベクター1μgを細胞にトランスフェクトさせた。10日間、0.5mg/mlのG418中で細胞を選択し、G418耐性細胞を一緒にプールし、遺伝子発現を分析した。前記pEF作成物には、エキソン2から前記EF遺伝子のエキソン1を分離したイントロンが含まれ、前記ポリリンカークローニング部位の5’末端に並列に並べた。これにより、前記スプライスされた作成物を発現した細胞の急速逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)スクリーニングが可能となった。17日の時点で、100,000個の細胞を単離し、これまでに説明されたとおり、前記トリゾール法によりそのRNAを抽出した(Nicolaides N.C.,Kinzler,K.W.,and Vogelstein,8.(1995)Analysis of the 5’ region of PMS2 reveals heterogeneous transcripts and a novel overlapping gene.Genomics 29:329〜334)。RNAは、Superscript II(Life Technologies)を用いて逆転写させ、前記EF遺伝子のエキソン1に位置するセンスプライマー(5’−ttt cgc aac ggg ttt gcc g−3’)(配列ID番号:23)と、前記開示されたヒトPMS2 cDNAのnt 283を中心としたアンチセンスプライマー(5’−gtt tca gag tta agc ctt cg−3’)(配列ID番号:24)を用いてPCR増幅し、全長と前記PMS134遺伝子発現の両方を検出した。反応はこれまでに説明された(Nicolaides,N.C.,et al.(1995)Genomic organization of the human PMS2 gene family.Genomics 30:195〜206)緩衝液と条件により実施し、94℃で30秒、52℃で2分、72℃で2分を30サイクルの増幅パラメータとして用いた。反応は、アガロースゲルで分析した。図1は、安定的に形質導入されたH36細胞でPMS発現のそれぞれの例を示している。
【0068】
これらの遺伝子でコード化されたタンパク質の発現は、これまでに報告された手順に従い、前記タンパク質のN末端に位置する第1の20アミノ酸に対するポリクローナル抗体を用い、ウエスタンブロット法で確認した(データは示さず)(Nicolaides et al.(1998)A Naturally Occurring hPMS2 Mutation Can Confer a Dominant Negative Mutator Phenotype.Mol.Cell.Biol.18:1635〜1641)。
【実施例2】
【0069】
hPMS134はハイブリドーマ細胞のMMR活性と高頻度変異に欠損を発生させる
MMR欠損性の特徴は、宿主細胞のゲノムに不安定なマイクロサテライト反復が発生していることである。この表現型は、マイクロサテライト不安定性(MI)と呼ばれる(Modrich,P.(1994)Mismatch repair,genetic stability,and cancer.Science 266:1959〜1960;Palombo,F.,et al.(1994)Mismatch repair and cancer.Nature 36:4 17)。MIは、宿主細胞のゲノム全体にある反復モノ、ジ、および/またはトリヌクレオチドの欠失および/または挿入から成る。真核細胞の広範な遺伝分析では、MIを作成できる生化学的欠損のみが欠損MMRであることが分かった(Strand,M.,et al.(1993)Destabilization of tracts of simple repetitive DNA in yeast by mutations affecting DNA mismatch repair.Nature 365:274〜276;Perucho,M.(1996)Cancer of the microsatellite mutator phenotype.Biol Chem.377:675〜684;Eshleman J.R.,and Markowitz,S.D.(1996)Mismatch repair defects in human carcinogenesis.Hum.Mol.Genet.5:1489〜494)。MIを促進する際に欠損MMRが有するこの固有の特徴を考慮し、現在は宿主細胞にMMR活性がない調査での生化学的マーカーとして利用されている(Perucho,M.(1996)Cancer of the microsatellite mutator phenotype.Biol Chem.377:675〜684;Eshleman J.R.,and Markowitz,S.D.(1996)Mismatch repair defects in human carcinogenesis.Hum.Mol. Genet.5:1489〜494;Liu,T.,et al.(2000)Microsatellite instability as a predictor of a mutation in a DNA mismatch repair gene in familial colorectal cancer.Genes Chromosomes Cancer 27:17〜25)。
【0070】
真核細胞のMMR欠損性の検出に用いる方法は、フレームシフトのためリーディングフレームが中断したコード領域に挿入された、ポリヌクレオチド反復配列を有するレポーター遺伝子を採用することである。MMRが欠損な場合、前記レポーター遺伝子が前記ポリヌクレオチド反復配列にランダム突然変異を獲得し(つまり、挿入および/または欠失)、オープンリーディングフレームとレポーターを含むクローンを生じる。本発明者らは、MMR感受性レポーター遺伝子を利用し、HBvec、HBPMS2、HBPMS 134細胞のMMR活性を測定した。前記レポーター作成物ではpCAR−OFを利用し、これはハイグロマイシン耐性(HYG)遺伝子とそのコード領域の5’末端に29塩基対のフレーム外ポリCA領域を含むβ−ガラクトシダーゼ遺伝子を含む。フレーム回復変異(つまり、挿入または欠失)がトランスフェクション後に生じない限り、前記pCAR−OFレポーターはβガラクトシダーゼ活性を発生させない。HBvec、HBPMS2、HB134細胞は、実施例1で説明したプロトコールの後、複製反応によりpCAR−OFベクターをそれぞれトランスフェクトした。細胞は、0.5mg/mlのG418および0.5mg/mlのHYG中で選択し、前記MMRエフェクターと前記pCAR−OFレポータープラスミドの両方を保持する細胞を選択した。前記pCARベクターをトランスフェクトした細胞全てで、同数のHYG/G418耐性細胞が生じた。培養は、次に増殖させ、in situでβ−ガラクトシダーゼ活性について、また細胞抽出物の生化学的分析により検討した。in situ分析では、100,000個の細胞を収集し、1%グルタールアルデヒドで固定し、リン酸緩衝生理食塩水溶液で洗浄し、2時間、37℃で24ウェルプレート中に1mlのX−gal基質溶液(0.15MのNaCl、1mMのMgCl、3.3mMのKFe(CN)、3.3mMのKFe(CN)、0.2%のX−Gal)でインキュベートした。反応は、500mM重炭酸ナトリウム溶液で停止し、分析のため、顕微鏡スライドに移動した。細胞200個のフィールド3種類それぞれを青色(β−ガラクトシダーゼ陽性細胞)または白色(β−ガラクトシダーゼ陰性細胞)で計算し、MMRの不活化を評価した。表1は、これらの研究の結果を示している。β−ガラクトシダーゼ陽性細胞は、HBvec細胞で観察されたが、1フィールド当たり10%の細胞が、HB 134培養でβ−ガラクトシダーゼ陽性であり、1フィールド当たり2%の細胞が、HBPMS2培養でβ−ガラクトシダーゼ陽性であった。
【0071】
細胞抽出物は、上記の培養から調整し、これまでに報告されたとおり、定量的生化学アッセイによりβ−ガラクトシダーゼを測定した(Nicolaides et al.(1998)A Naturally Occurring hPMS2 Mutation Can Confer a Dominant Negative Mutator Phenotype Mol.Cell.Biol.18:1635〜1641;Nicolaides,N.C.,et al.(1992)The Jun family members,c−JUN and JUND,transactivate the human c−myb promoter via an Ap1 like element.J.Biol.Chem.267:19665〜19672)。簡潔に言えば、100,000個の細胞を、200μlsの0.25MのTris中、pH8.0で回収、遠心分離、再懸濁した。細胞は、3回冷凍/解凍で溶解させ、上清を14,000rpmsで遠心分離(microfugation)後に回収し、細胞片を除去した。タンパク質含有量は、OD280で分光学的分析により決定した。生化学的アッセイでは、20μgのタンパク質を、45mMの2−メルカプトエタノール、1mMのMgCl、0.1MのNaPO、0.6mg/mlのクロロフェノールレッド−β−D−ガラクトピラノシド(CPRG、Boehringer Mannheim)を含む緩衝液に追加した。反応は、1時間インキュベートし、0.5MのNaCOを添加することによって終了し、576nmにて分光測光法で分析した。H36細胞溶解物を使用し、バックグラウンドを差し引いた。図2は、前記様々な細胞株の抽出物における前記β−ガラクトシダーゼ活性を示している。示されているとおり、前記HB134細胞は、最高量のβ−ガラクトシダーゼを産生したが、前記pCAR−OFを含む前記HBvec細胞に活性は認められなかった。これらのデータは、ドミナントネガティブMMR遺伝子の対立遺伝子を用い、MMR欠損ハイブリドーマ細胞を生成する能力を証明している。
【0072】
【表2】

【実施例3】
【0073】
結合親和性が高く、および/または免疫グロブリン産生が増加した抗体を産生するハイブリドーマクローンを同定するスクリーニング戦略
本明細書内で紹介されている方法の応用は、MMR欠損ハイブリドーマまたは細胞を産生する他の免疫グロブリンを利用し、生化学的特徴が変化した抗体を産生する免疫グロブリン遺伝子を遺伝的に変化させるものである。この適用の例はこの実施例の中で証明され、これによって、抗ヒト免疫グロブリンE(hIgE)MAbを産生するMMR欠損細胞株のHB134ハイブリドーマ(実施例1)を20世代増殖させ、そのクローンは96ウェルプレートで単離し、hIgE結合をスクリーニングした。図3は、高親和性MAbsを産生するクローンを同定するスクリーニング法の概要を示しており、前記タンパク質の軽鎖または重鎖可変領域の変化が原因と推定される。前記アッセイではプレート酵素免疫抗体法(ELISA)を利用し、高親和性MAbsを産生するクローンをスクリーニングした。HBvecまたはHB134プールの単細胞を含む96ウェルプレートは、増殖培地(RPMI1640+10%ウシ胎仔血清)+0.5mg/mlのG418において9日間増殖させ、クローンが前記発現ベクターを保持していることを確認した。9日後、プレートはhIgEプレートELISAによりスクリーニングし、それによって96ウェルプレートは、50μlsの1μg/mlのhIgE溶液で4時間、4℃でコーティングさせた。プレートは、カルシウムとマグネシウムを含まないリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS−/−)で3回洗浄し、室温で1時間、100μlsのPBS−/−と5%ドライミルク中でブロッキングした。ウェルは、1:5に希釈した各細胞クローンの条件培地を含む100μlsのPBS溶液で、2時間洗浄、インキュベートした。次にプレートをPBS−/−で3回洗浄し、室温で1時間、1:3000に希釈した2次抗体と結合したヒツジ抗マウス西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)を含む50μlsのPBS−/−溶液でインキュベートさせた。次にプレートは、PBS−/−で3回洗浄し、室温で15分間、50μlsのTMB−HRP基質(BioRad)でインキュベートし、各クローンで生産された抗体量を検出した。反応は、50μlsの500mM重炭酸ナトリウムを添加することで停止し、BioRadプレートリーダーを用い、415nmでのODで分析した。次に、バックグラウンド細胞(H36コントロール細胞)においてシグナルが増強することが示されたクローンを単離し、10mlの培地に増殖し、3回の実験でELISAデータの特徴をさらに確認した。ELISAは前記同じクローンの条件培地(CM)で実施し、各ウェルの条件培地で総Igの生産を測定した。次に、ELISAシグナルを増強させ、抗体レベルが上昇したクローンでさらに、実施例4で説明されるとおり、抗体が過剰発現および/または過剰分泌した変異体を分析した。HBvecまたはHB134細胞の96ウェルプレート5枚を分析し、前記HBvecコントロールと比べ、光学濃度(OD)値が高い、有意な数のクローンが前記MMR欠損HB134細胞で観察されることが分かった。図4は、親和性が高く、(IgEの場合)特異的抗原に結合する抗体を産生するHB134クローンの代表例を示している。図4では、96ウェルのHBvec(左のグラフ)またはHB134(右のグラフ)の分析による生データを提供し、1)IgE抗体への結合力が増強された抗体可変ドメインの遺伝的変化、または2)前記抗体分子の過剰生産/分泌につながる細胞宿主の遺伝的変化により、HB134プレートの2クローンでODの読み値が高くなることを示している。抗Ig ELISAでは、図4で示される2種類のクローンで、IgレベルがCM内にあり、OD値が低いことを示す周囲のウェルと同等であることが分かった。これらのデータは、前記抗体の抗原結合ドメインで遺伝的変化が発生し、これにより抗原結合力が高くなる可能性があることを示している。
【0074】
ELISAで決定されたとおり、OD値が高いクローンは、遺伝子レベルでさらに分析し、前記軽鎖または重鎖可変領域に変異が発生し、結合親和性が増強され、ELISAシグナルが強くなることが確認された。簡潔に言うと、上述の通り、トリアゾール法により100,000個の細胞を採取し、RNAを抽出した。RNAは、製造業者(Life Technology)が示したとおり、Superscript IIで逆転写し、前記可変部の軽鎖と重鎖に含まれる抗原結合部位でPCR増幅させた。これらの遺伝子の性質は不均一であるため、以下の縮重プライマーを利用し、前記親H36株の軽鎖および重鎖対立遺伝子を増幅させた。
【0075】
軽鎖センス:5’−GGA TTT TCA GGT GCA GAT TTT CAG−3’ (配列ID番号:l)
軽鎖アンチセンス:5’−ACT GGA TGG TGG GAA GAT GGA−3’ (配列ID番号:2)
重鎖センス:5’−A(G/T)GTN (A/C)AG CTN CAG (C/G)AG TC−3’ (配列ID番号:3)
重鎖アンチセンス:5’−TNC CTT G(A/G)C CCC AGT A(G/A)(A/T)C−3’ (配列ID番号:4)
【0076】
変性オリゴヌクレオチドを用いたPCR反応は、94℃で30秒間、52℃で1分間、72℃で1分間、35サイクル実施した。生成物は、アガロースゲルで分析した。予想される分子量の生成物は、Gene Clean(Bio 101)で前記ゲルから精製され、T−tailedベクターにクローニング、配列決定し、前記可変部の軽鎖と重鎖の野生型配列を同定した。前記野生型配列が決定したら、非変性プライマーを作り、ポジティブHB134クローンをRT−PCR増幅させた。軽鎖および重鎖の両方を増幅、ゲル精製し、対応するセンスおよびアンチセンスプライマーで配列決定した。前記RT−PCR生成物の配列では、前記内因性免疫グロブリン遺伝子それぞれの配列データを示しているが、PCRで誘導された変異によるものではない。クローンの配列は、次に配列比較で前記野生型配列と比較した。免疫グロブリンの軽鎖または重鎖にin vivoで変異を作る能力の例が、図5に示されており、HB134クローン92は、ELISAでhIgEシグナルが上昇していることを同定した。特異的センスおよびアンチセンスプライマーにより、前記軽鎖を増幅させた。前記軽鎖は、RT−PCR増幅させ、前記で得られた生成物を精製し、自動ABI377シーケンサーで分析した。クローンAに示されるとおり、前記CDR領域3の上流にある残基−4は、ACTからTCTの遺伝的変化を有し、CDR#3のすぐ前にあるフレームワーク領域でThrがSerに変化している。クローンBでは、前記CDR領域の上流にある残基−6がCCCからCTCへの遺伝的変化を有し、CDR#2の前にあるフレームワーク領域でProがLeuに変化している。
【0077】
免疫グロブリン遺伝子またはキメラ免疫グロブリン遺伝子のランダム変異を発生させる能力は、ハイブリドーマに限定されない。Nicolaidesら(Nicolaides et al.(1998)A Naturally Occurring hPMS2 Mutation Can Confer a Dominant Negative Mutator Phenotype Mol.Cell.Biol.18:1635〜1641)は、これまでに高頻度変異のハムスター細胞を作成、外来遺伝子で変異を発生させる能力を示した。ヒト化抗体を作成する一般的な方法は、MAb(げっ歯類宿主に免疫性を与えることで作成)からヒトIg骨格にCDR配列を移植するものであり、前記キメラ遺伝子をチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクトし、これが前記CHO細胞から分泌される機能性Abを産生する(Shields,R.L.,et al.(1995)Anti−IgE monoclonal antibodies that inhibit allergen−specific histamine release.Int Arch.Allergy Immunol.107:412〜413)。この適用内で説明されている方法は、げっ歯類細胞株、植物、酵母、原核細胞などの宿主細胞にトランスフェクトされたIg遺伝子またはキメラIgの遺伝的変化を作成するためにも有用である(Frigerio L,et al.(2000)Assembly,secretion,and vacuolar delivery of a hybrid immunoglobulin in plants.Plant Physiol.123:1483〜1494)。
【0078】
これらのデータは、高頻度変異可能なハイブリドーマ、または他の増殖および選択可能なIg産生宿主細胞を作成し、これだけに限らないが、抗原結合親和性が上昇するなど、生化学的特徴が増強された抗体を産生する、構造が変化した免疫グロブリンを同定する能力を証明している。さらに、アミノ酸が変化した免疫グロブリン遺伝子にミスセンス変異を含む高頻度変異可能なクローンで、さらにin vivo安定性、抗原除去、抗原などの結合のオン・オフの特徴が決定されうる。クローンはさらにその後のin vivo変異で増殖され、前述の戦略によりスクリーニングされ得る。
【0079】
細胞または生物全体の遺伝的変異を生じる化学的突然変異誘発要因の利用は、これらの因子が「正常な」細胞に有する毒性作用のため、制限されている。MMR欠損生物のMNUなどの化学的突然変異誘発要因の利用でははるかに耐性があり、MMR欠損性のみの遺伝的変異が10〜100倍増加する(Bignami M,(2000)Unmasking a killer:DNA O(6)−methylguanine and the cytotoxicity of methylating agents.Mutat.Res.462:71〜82)。この戦略は、化学的突然変異誘発要因を利用するため、免疫グロブリン遺伝子またはキメラにさらに変異を増加し、抗原結合親和性の亢進などの生化学的特徴が変化した機能性Abを生じることができる方法として、MMR欠損Ab産生細胞で利用できる。
【実施例4】
【0080】
抗体産生が増加した抗体産生細胞の生成
前述のスクリーニング戦略の後、H36およびHB134のクローンを分析することで、培地への抗体生産量が増加した有意な数のクローンを同定した。これらのクローンのサブセットはELISAで決定されたとおり、前記可変領域に含まれる前記抗原結合ドメインの変異の結果として、より高いIg結合性のデータを示したが、その他は抗体産生の「増強」を含むことが分かった。Mabの産生分泌量が増加したクローンのまとめは、表2に示されており、HB134細胞の有意な数のクローンで、H36コントロール細胞と比べ、前記条件培地のAb産生が亢進することが分かった。
【0081】
【表3】

【0082】
前記条件培地(CM)のMAbレベルが高いHB134クローンの細胞分析を分析し、前記産生増加が単に前記Ig遺伝子座の遺伝的変化のためであり、前記抗体を産生するポリペプチドを過剰発現する可能性があるか否か、または分泌経路のメカニズムに影響する遺伝的変化により、分泌が亢進したためであるか否かを決定した。この問題を扱うため、CM内の抗体レベルが上昇した3種類のHB134クローンを増殖させた。ウエスタンブロット分析用に10,000個の細胞を調整し、細胞内定常状態のIgタンパク質レベルをアッセイした(図6)。さらに、H36細胞を標準的基準として利用し(レーン2)、げっ歯類の線維芽細胞(レーン1)をIgネガティブコントロールとして利用した。簡潔に言えば、細胞を遠心分離によりペレット化し、300μlのSDS溶解緩衝液(60mMのTris(pH6.8)、2%のSDS、10%のグリセロール、0.1Mの2−メルカプトエタノール、0.001%のブロモフェノールブルー)で直接溶解させ、5分間沸騰させた。溶解物タンパク質は、4〜12%の(Ig重鎖の分析用)NuPAGEゲルで電気泳動により分離させた。ゲルは、48mMのTris塩基、40mMのグリシン、0.0375%のSDS、20%のメタノール中、Immobilon−P(Millipore)で電気ブロットし、Tris緩衝生理食塩水(TBS)+0.05%のTween−20および5%のコンデンスミルク中、1時間、室温でブロッキングさせた。フィルターを、1:10,000に希釈されたヒツジ抗マウス西洋わさびペルオキシダーゼ結合モノクローナル抗体を用い、TBS緩衝液中でプローブし、Supersignal基質(Pierce)を用い、化学発光で検出した。実験は2回繰り返し、再現性を確認した。図6は代表的な分析を示しており、あるクローンのサブセットでIg産生が亢進し、これはAb産生の増加を説明しているが(レーン5)、他のクローンサブセットでは前記コントロールサンプルと同様の定常状態レベルを有し、前記CM内でAbレベルが高かったことを示している。これらのデータは、HB134クローンのサブセットに遺伝的変化が含まれ、これによって抗体の分泌が上昇するメカニズムを示唆している。
【0083】
細胞または生物全体の遺伝的変異を生じる化学的突然変異誘発要因の利用は、これらの因子が「正常な」細胞に有する毒性作用のため、制限されている。MMR欠損生物のMNUなどの化学的突然変異誘発要因の利用でははるかに耐性があり、MMR欠損性のみの遺伝的変異が10〜100倍増加する(Bignamii M,(2000)Unmasking a killer:DNA O(6)−methylguanine and the cytotoxicity of methylating agents.Mutat.Res.462:71〜82)。この戦略では、化学的突然変異誘発要因を利用するため、免疫グロブリン遺伝子またはキメラにさらに変異を増加し、抗原結合性の亢進などの生化学的特徴が変化した機能性Abを生じることができる工程において、MMR欠損Ab産生細胞で利用できる。
【実施例5】
【0084】
新しいアウトプット形質を持つハイブリドーマ細胞の遺伝的安定性の確立
MMRの初期段階は、MutSαおよびMutLαと呼ばれる2種類のタンパク質複合体に依存している(Nicolaides et al.(1998)A Naturally Occurring hPMS2 Mutation Can Confer a Dominant Negative Mutator Phenotype.Mol.Cell.Biol.18:1635〜1641)。ドミナントネガティブMMR対立遺伝子は、「補正された」ヌクレオチドを有するヌクレオチドの切除と重合に関与する下流の生化学物質を用い、これらの複合体形成を混乱させることができる。この適用の例は、ハイブリドーマ細胞株に発現された時、切断されたMMR対立遺伝子(PMS134)と完全長のヒトPMS2がMMRをブロッキングし、細胞分裂ごとにゲノム全体で遺伝的変化を獲得する高頻度変異細胞株となる能力を示している。抗体、単鎖抗体、免疫グロブリン遺伝子の過剰発現、および/または抗体分泌の亢進をコードする遺伝子に遺伝的変化を含む細胞株が産生されると、前記細胞宿主の遺伝的統合性を回復することが望ましい。これは、誘導ベクターを利用することで達成される可能性があり、ドミナントネガティブMMR遺伝子はそのようなベクターにクローニングされ、Ab産生細胞に導入される。前記細胞は誘導分子存在下および/または条件下で培養される。誘導ベクターには、これだけに限らないが、前記ステロイド誘導MMTV、テトラサイクリン制御プロモーター、温度感受性MMR遺伝子の対立遺伝子、温度感受性プロモーターなど、化学的に制御されたプロモーターを含む。
【0085】
上述の結果から、いくつかの結論が得られる。まず、hPMS2およびPMS134が発現することで、ハイブリドーマ細胞のマイクロサテライト不安定性が上昇する。このマイクロサテライト不安定性の上昇はMMR欠損性が原因であることは、安定的に形質導入された細胞の抽出物を評価することで証明された。PMS134が発現するとMMRの極性に異常が生じ、これは5’方向からの修復を検査するようにデザインされた異種二重性(heteroduplexes)を利用した場合にのみ観察された(前記3’方向からの修復で、同じ抽出物に重大な異常が観察された)(Nicolaides et al.(1998)A Naturally Occurring hPMS2 Mutation Can Confer a Dominant Negative Mutator Phenotype.Mol. Cell.Biol.18:1635〜1641)。興味深いことに、hMLH1が不十分な細胞もMMRに極性の異常を有しているが、この場合、3’方向からの選択的修復に影響する(Drummond,J.T,et al.(1996)Cisplatin and adriamycin resistance are associated with MutLa and mismatch repair deficiency in an ovarian tumor cell line.J.Biol.Chem.271:9645〜19648)。これまでの研究から、原核細胞および真核細胞の両方で、前記別の酵素成分が前記2種類の方向から修復を媒介することが分かっている。本発明者らの結果は、Drummondらの結果と(Shields,R.L.,et al.(1995)Anti−IgE monoclonal antibodies that inhibit allergen−specific histamine release.Int.Arch Allergy Immunol.107:412〜413)と組み合わせる、5’修復は主にhPMS2に依存しているが、3’修復は主にhMLH1に依存しているモデルを強く示唆している。PMS2とMLH1の二量体複合体はこの方向性で作る。前記総合的結果も、方向性MMRの異常がMMR欠損表現型を生じるために不十分であることを証明しており、すべてのMMR遺伝子の対立遺伝子が遺伝子組み換えハイブリドーマ細胞、またはIg遺伝子産物を生産する細胞株の産生に有用であることを示している。さらに、そのようなMMR対立遺伝子の利用が、生化学的特徴が変化した遺伝子組み換えIgポリペプチド、および多量の抗体分子を生産する宿主細胞の生成に有用である。
【0086】
本応用から分かる別の方法は、MMRの遮断に利用されるすべての方法を実行し、抗体産生細胞で高頻度変異を作成できる方法であり、これだけに限らないが、抗原結合性の上昇、薬物動態学的プロフィールなどの生化学的特徴が亢進した遺伝子組み換え抗体ができる可能性がある。これらのプロセスを利用して、実施例4、図6に示されるとおりIg発現が亢進し、および/または表2に示されるとおり抗体分泌が上昇した抗体産生細胞を作成することもできる。
【0087】
さらに、本発明者らは、抗体産生細胞でMMRのブロッキングを利用し、Ig遺伝子の遺伝的変化を促進することにより、これだけに限らないが、抗原結合親和性の上昇など、生化学的特徴が変化する可能性があることを証明した(図5AおよびSB)。そのような細胞におけるMMRの遮断は、細菌、酵母、原虫、昆虫、げっ歯類、霊長類、哺乳類細胞、ヒトを含む全ての種のドミナントネガティブMMR遺伝子の対立遺伝子を利用して行うことができる。MMRの遮断は、前記MMR生化学的経路に関与する全ての遺伝子に関与するアンチセンスRNAまたはデオキシヌクレオチドを利用することで発生させることもできる。MMRの遮断は、これだけに限らないが、抗体などのMMR複合体サブユニットと干渉するポリペプチドを利用して行うことができる。最後に、MMRの遮断は、これだけに限らないが、MMRを遮断することが示された非加水分解性ATPアナローグなどの化学物質を利用して行うことができる(Galio,L,et al.(1999)ATP hydrolysis−dependent formation of a dynamic ternary nucleoprotein complex with MutS and MutL.Nucl.Acids Res.27:2325〜2331)。
【実施例6】
【0088】
高親和性抗体を産生する変異型H36細胞株の遺伝子配列の分析
前記親クローンと比べ、前記抗体の親和性上昇に寄与する前記免疫グロブリンコード配列の変異について、前記H36変異型細胞株によって産生された抗体の軽鎖および重鎖の核酸配列を検討した。この結果は、表3に示した。このデータは、前記重鎖および軽鎖の可変ドメイン両方におけるプロリン置換が、抗体の抗原に対する親和性上昇に寄与することを示している。特定のホットスポットは、配列ID番号:6のアミノ酸の6位にあるように見られ、ここにおいてアミノ酸置換が起こり、HB91−47、HB134DRMA13、HB134DRMA55で前記親配列のアラニンがプロリンに変化した。これら3つのクローンは、9位および10位の変異も有していた。9位では、前記親配列のバリンがグリシンまたはアルギニンに置換されていたが、配列ID番号:6の10位で、前記親配列のアルギニンがいずれの場合もリジンに置換されていた。
【0089】
【表4】

【0090】
前記遺伝子組み換え抗体は、以下の配列の違いとコンセンサス配列を示している。
【0091】
【表5】

【0092】
【表6】

【0093】
前記データは、前記軽鎖では、配列ID番号:21の22位で軽鎖の第2フレームワーク領域(FR2)がプロリンに置換され、前記抗体の結合親和性が上昇したことを示している。
【実施例7】
【0094】
前記エフェクター機能を判定する効率的なスクリーニングシステム
本発明の方法を用いて作成した抗体クローン変異体により抗体依存性細胞毒性(ADCC)が上昇すると、おそらく以下のように検出される。1つの実施形態では、健常ドナーから単離されたヒト末梢血単核球(PBMC)がエフェクター細胞として利用され得る。簡潔に言えば、400mlの全血をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて1:1(容積:容積)で希釈し、Ficoll−Paque(Amersham)溶液に入れ、2,000 RPM、18℃で、30分間遠心分離した。前記単核細胞を含む間期を回復させ、新しい試験管に移し、細胞はPBSで洗浄した。赤血球細胞は、次にACK溶解緩衝液(150mMのNHC1、10mMのKHCO、0.1mMのNaEDTA)で5分間、室温にて溶解させた。PBMCは再び洗浄し、トリパンブルー排除によりその数と生存度を決定した。典型的には、2×10個以上の細胞がこの方法で回復され、このうち60%は凍結保存とその後の培養に耐えるものである(以下を参照)。PBMCは、10%ウシ胎仔血清(FBS)(Invitrogen)、2mMのL−グルタミン(Invitrogen)、5%のDMSO(Sigma)を含む完全高グルコースRMPI−1640(Invitrogen)に、細胞密度20×10/mlで懸濁させた。細胞は、1ml/バイアルで凍結用バイアル(cryovial)に移し、使用するまで−80℃で保存した。細胞は、急速に37℃にさらし、事前に暖めた競合RPMIで1回洗浄し、10ng/mlのヒト組み換えインターロイキン2(hIL−2)(R&D Systems)を含む完全高グルコースRPMIに、細胞密度2.5×10/mlで再懸濁し、3日間、37℃、5%COで増殖させた。このインキュベーションの最後に、PBMCの生存度が典型的には85%を超え、前記予想収率では600個以上の抗体産生クローンをスクリーニングすることができ、エフェクター:標的細胞比が5:1であると想定された。前記アッセイの前に、細胞を一度PBS緩衝液で洗浄し、トリパンブルー排除で計数し、CD−CHO無血清培地(Invitrogen)に懸濁し、ADCCアッセイに使用した。5,000個のクローンをスクリーニングするためには、約10件のドナーからPBMCを単離することが必要である。従来は、この数で望みの特徴を持ったクローンの単離に十分であった。各ドナーのPBMCは別のスクリーニングに利用され、他のドナーのPBMCとは混合されない。
【0095】
別の実施形態では、ヒト安定株がエフェクター細胞の別の供給源として使用される。U937およびHL−60細胞(それぞれATCC CRL−1593.2およびCCL−2)がエフェクター機能を持つようにできることが報告された(Sarmay G,Lund J,Rozsnyay Z,Gergely J,Jefferis R.Mol.Immunol.1992 May;29(5):633〜9)。このアプローチでは、これらの細胞が試験抗体(例えば、腫瘍細胞に応用された腫瘍抗原に対する抗体)でオプソニン化された標的細胞に対して細胞溶解反応を誘発するか否かを検討した。簡潔に言えば、U937またはHL−60細胞は、37℃、5%COで、完全RPMI中において培養し、10ng/mlの組み換え型ヒトインターフェロンγ(INF、R&D Systems)または100ng/mlのホルボール12−ミリスチン酸13−酢酸(PMA、Sigma)で刺激した。2日間インキュベーション後、細胞は一度PBS緩衝液で洗浄し、トリパンブルー排除で計数し、CD−CHO無血清培地(Invitrogen)に懸濁させ、ADCCアッセイに使用した。
【実施例8】
【0096】
改良抗体を産生する細胞株の産生
ADCC活性が上昇したクローン産生抗体を選択するために、表現型が多様な細胞を作成するように、mAb産生細胞は前記ベクターp0124(pEF1−hPMS2−134−IRES−TK)をトランスフェクトして、前記hPMS−134遺伝子を発現させ、上述のFugene試薬を用いてミスマッチDNA修復を抑制した。G41 8(0.75mg/ml)で選択後、それぞれELISAとウエスタンブロット法で評価されたとおり、細胞をサブクローニングして、同時にhPMS−134タンパク質を発現した抗体産生クローンを単離した。細胞は20世代以上増殖させ、次に使用まで液体窒素中に凍結保存した。
【実施例9】
【0097】
エフェクター機能が増強された抗体の産生に関する細胞スクリーニング
前記hPMS−134を発現したmAb産生細胞は、限界希釈法でサブクローニングし、平底96ウェルプレートに播種した。1プレート当たり40個の単細胞コロニーを入手して単クローン性を概算するための播種密度は、経験的に決定された。
【0098】
前記クローンは、長期間増殖させることができ、その日数は経験的に決定され、この後、ADCC活性を媒介することができる十分な量の抗体が産生された。前記親抗体は、100ng/mlの濃度でADCC活性を誘発することができるため、本発明者らは、10〜15日間、単細胞由来クローンをインキュベートすることで、エフェクター機能を支持する十分な抗体を生産する必要があると予測していた。このインキュベーション期間の最後に、各クローン/ウェルの条件培地50ulを利用し、ELISAによる抗体濃度を評価し、同じウェル/クローンのさらに50ulの条件培地を、前記ADCCアッセイに利用した。簡潔に言えば、例えば、標的細胞SKOV3(継代1〜20、ATCCから入手)と併せて抗卵巣癌mAbを利用し、30,000細胞/ウェルの密度で完全増殖培地(10%のFBS、2mMのL−グルタミンを含むRPMI−1640)中、平底96ウェルマイクロプレートでアッセイを行う前に播種した。次の日、前記完全培地を100μlのCHO−CD無血清培地で置換し、50μlの抗体を含む条件培地を標的細胞に添加し、20分間、37℃でインキュベートした。その後、2×10のエフェクター細胞を含む100μlの無血清培地を各ウェルに添加し、細胞を5〜6時間、37℃、5%COでインキュベートさせた。次にプレートを簡単に遠心分離し、100μlの上清を各ウェルから回収し、ELISAプレート(Nunc)に移した。100μlのLDH基質(Roche)を上清に添加し、室温で10分間インキュベートさせた。LDH活性は、溶解した標的細胞から放出されたLDH酵素の程度と比例した。490μmでの光学密度(OD490)を分光光度法で測定し、細胞毒性のパーセントは、(サンプルOD490−任意のOD490)/(最高OD490−任意のOD490)×100%(「任意の」=エフェクター細胞または抗体がない状態での標的細胞の溶解、「最高」=2%のTriton存在下での標的細胞の溶解)で決定した。100ng/mlの基準抗体(精製プロテインA、親抗体)で誘発される細胞毒性は、ポジティブコントロールとして使用した。非特異的細胞毒性は、100mg/mlの正常ヒトIgG1を用いてモニターした。前記%細胞毒性を各ウェル/クローンの抗体濃度で割って得られた比(つまり、比=50(%)/100(ng/ml)=0.5)は、エフェクター機能が亢進する可能性があるリードクローンを選択する基準として設定した。リードクローンは、50mlの培地に増殖させ、抗体は説明したとおり、プロテインA親和性カラムによる条件培地から精製した。前記リードクローンで産生された抗体のADCC活性は、10〜1000ng/mlの範囲の濃度を利用し、前記親抗体と比較した。
【実施例10】
【0099】
エフェクター機能と受容体結合活性の相関
腫瘍抗原に対する非結合治療用モノクローナル抗体の主な作用モデルの1つは、前記腫瘍細胞に免疫エフェクター集団を補充するものである(Clynes R,Takechi Y,Moroi Y,Houghton A,Ravetch JV.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1998 Jan 20;95(2):652〜6;Clynes RA,Towers TL,Presta LG,Ravetch JV.Nat.Med.2000 Apr;6(4):443〜6)。特定の抗体が腫瘍細胞に免疫エフェクター細胞を補充できる効果は、前記腫瘍細胞表面の同種抗原で前記抗体の親和性の影響を受け、高親和性抗体は、同じ抗原を認識する低親和性抗体よりも、前記腫瘍細胞に免疫エフェクターを効率的に増強することを示していると仮定される。限られた報告から、in vitroでこの関連性を証明する試みがなされた(Alsmadi,0.and Tilley,SA.J.Virol.1998 Jan;72(1):286〜293;McCall,AM.,Shahied,L.,Amoroso,AR.,Horak,EM.,Simmons,RH.,Nielson,U.,Adams,GP.,Schier,R.,Marks,JD.,Weiner,LM.J.Immunol.2001 May 15;166(10):6112〜7,as well as in vivo (Velders,MP,van Rhijn,CM.,Oskam,GJ.,Warnaar,SO.and Litvinov,SV.J.Cancer 1998;78(4):476〜483)。このような関連性があるか否かを決定するため、in vitroで増加したmAbのADCC活性、およびこれらの抗体の親和性は、表面プラスモン共鳴分光法により、これらの関連抗原と比較した。
【0100】
表面プラスモン共鳴分光法は、全内部反射(TIR)の条件下、光子によって発生した電場(エバネセント波)の短波範囲(〜150nm)での相互作用と、異なる屈折指標の2種類の培地の境界にある導電性皮膜の電子(表面プラスモン)に依存し、前記培地の1種類がアルカンリンカーでコーティングされ、CM−デキストランと結合した薄い金層(導電性皮膜)である。溶液中で伸展したヒドロゲルを形成し、前記フローセルにほぼ100〜150nm突出した前記CM−デキストラン表面は、CM−デキストラン層にあるカルボキシル基に共有結合することで、選択したリガンドによりさらに誘導体化され得る。エバネセント波を金層と相互作用させるために必要な角度は、TIRを観察するために必要な角度に依存し、これは前記チップ表面の厚さまたは重量に依存する。従って、前記装置は経時的に前記チップの表面で重量が変化することが観察でき、固定化リガンドと相互作用する分析物が前記フローセルに注入されるときにも観察されうる。分析物の注入の後に緩衝液を注入した場合、前記結合の(前記分析物の注入中の)結合期と(緩衝液注入中の)解離期の両方を追跡することができる。従って、動力学的オンレート(k)とオフレート(k)、および定常状態の平衡定数(KおよびK)は外挿可能である。
【0101】
前記可溶性、分泌型の抗原は、Phenyl Sepharose(high sub)からクロマトグラフィーにより標的細胞の無血清培養上清から精製し、次にS Sepharose Fast Flowのイオン交換でフォローアップした。簡潔に言えば、分泌された抗原を含む培養上清を、塩を添加した状態でPhenyl Sepharose(high sub)カラムに充填させた。広範なHIC Aの洗浄(20mMのリン酸カリウム(pH7.2))により非結合性タンパク質を除去し、次にHIC緩衝液中、直線勾配の0〜20mMのCHAPSにより、結合した抗原を溶出させた。ピークMORAb−03を含む分画をプールし、1Mのクエン酸(pH5.5)で酸性化し、次にS Sepharose陽イオン交換カラムに供した。IEX緩衝液(20mMのリン酸カリウム(pH5.5))で洗浄後、IEX緩衝液中、直線勾配の0〜1M NaClを用い、結合した抗原を溶出させた。ピーク分画をプールし、Centricon遠心濃縮装置(Millipore)で濃縮させ、PBSに対して透析した。前記抗原製剤の純度に基づき、さらに共有結合した葉酸セファロース樹脂のアフィニティークロマトグラフィー段階が必要と考えられる(Sadasivan,E.,da Costa,M.,Rothenberg,SP.and Brink,L.Biochim.Biophys.Acta 1987;(925):36〜47)。
【0102】
アッセイされるmAbは、組み換えプロテインA Sepharose樹脂(RPA−Sepharose、Amersham Biosciences)の親和性クロマトグラフィーにより、1段階で精製した。組織培養上清を含む免疫グロブリン(Ig)は、重力により、10mg/mLの樹脂のIg/ml樹脂値でRPASepharoseカラムに充填した。PBSで広く洗浄することにより非結合タンパク質を除去した後、0.1Mのグリシン−HCl(pH2.6)で溶出した。分画は、1MのTrisで中和した。ピーク分画をプールし、1000用量のPBSで透析した。Ig濃度は、BCAタンパク質アッセイ(Pierce Chemical Co.)およびIg特異的ELISAで決定した。
【0103】
精製した抗原は、カップリング緩衝液(10mMのNaOAc(pH5.0))に希釈し、N−ヒドロキシスクシミド(NHS)と1−エチル−3−[ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC)の混合物を用いて、アミンカップリングによりCM5センサーチップ(Biacore)のフローセルに固定化し、前記CM5センサーチップの表面に結合したCM−デキストランヒドロゲルのカルボキシル基を活性化した。活性化し、誘導されていないカルボキシル基は、1Mエタノールアミンでクエンチした。クエンチされたCMデキストランの表面から成る参照フローセルは、抗原がない状態で活性化させ、全ての測定を規準化するために使用した。ランニングバッファーとしては、HBS−EP(20mMのHEPES−OH、150mMのNaCl、3mMのEDTA、0.005%のSurfactant P−20(pH7.4))を用い、粗生成物、mAbを含む培地の上清、または精製したmAb製剤を、動態検査では30μl/min、定常状態での親和性ランキング実験では5μl/mmの流速で注入した。10K MWCO Slide−A−Lyzer透析カセット(Pierce)を用い、Biacore分析で使用する前に、精製したmAb製剤をHBS−EPに対して透析させた。組織培養上清を含むサンプルには、それぞれ最終濃度1%および1mg/mlまでBSAと可溶性CM−デキストランを添加した。前記表面の再生は、100μl/minの流速で50mMのNaOHを30秒間注入することで達成された。データ分析は、Bia Evaluationソフトウェア(Biacore)を用いて実施した。動態データは、単純に1:1(Langmuir)の結合モデルにあてはめた。ランキング実験では、ランクはサンプルの異なる濃度でReqとCのプロットから得られたKD値から決定した。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は、安定的にPMS2とPMS134 MMR遺伝子を発現したハイブリドーマ細胞を示す図である。マウスハイブリドーマ細胞株にトランスフェクトさせたMMR遺伝子の定常状態でのmRNA発現が示されている。3ヵ月間継続的に増殖させた後、安定的な発現が認められた。(−)レーンは逆転写酵素を添加しなかったネガティブコントロールを示し、(+)レーンは逆転写し、MMR遺伝子をPCR増幅したサンプルと、コントロールとして内部ハウスキーピング遺伝子を示す。
【図2】図2は、安定的にPMS2とPMS134 MMR遺伝子を発現したハイブリドーマ細胞を示すグラフである。マウスハイブリドーマ細胞株にトランスフェクトされたMMR遺伝子の定常状態でのmRNA発現が示されている。3ヵ月間継続的に増殖させた後、安定的な発現が認められた。(−)レーンは逆転写酵素を添加しなかったネガティブコントロールを示し、(+)レーンは逆転写し、MMR遺伝子をPCR増幅したサンプルと、コントロールとして内部ハウスキーピング遺伝子を示す。
【図3】図3は、抗体を含み、結合活性が上昇し、および/または発現/分泌が上昇した抗体産生細胞を同定するスクリーニング方法を示す図である。
【図4】図4は、結合活性が上昇した遺伝子組み換え抗体の作成を示すグラフである。hIgE特異的抗体をスクリーニングした96ウェルプレートのELISA値が示されている。HB134培地に高結合値をもつ2つのクローンが認められた。
【図5A】図5は、様々な抗体鎖の配列変化(MMR不完全HB134抗体産生細胞の軽鎖可変領域の変異)を示すグラフである。矢印は、HB 134細胞由来のクローンから細胞サブセットに変異が発生したヌクレオチドを示している。パネルA:この変化により、軽鎖可変領域のThrがSerに変化している。前記コード化配列はアンチセンス方向である。
【図5B】図5は、様々な抗体鎖の配列変化(MMR不完全HB134抗体産生細胞の軽鎖可変領域の変異)を示すグラフである。矢印は、HB 134細胞由来のクローンから細胞サブセットに変異が発生したヌクレオチドを示している。パネルB:この変化により、軽鎖可変領域のProがLeuに変化している。
【図6】図6は、定常状態のIgタンパク質レベルが上昇したMMR欠損クローンの作成を示す図である。条件培地でMAb(>500ngs/ml)のレベルが高いHB134クローンの重鎖免疫グロブリンのウエスタンブロットは、クローンのサブセットがより高レベルの定常状態免疫グロブリン(Ig)を発現することを示している。前記H36細胞株をコントロールとして使用し、前記親株の定常状態レベルを測定した。レーン1:線維芽細胞(ネガティブコントロール)、レーン2:H36細胞、レーン3:MAbレベルが上昇したHB134クローン、レーン4:MAbレベルが上昇したHB134クローン、レーン5:MAbレベルが上昇したHB134クローン。
【図7】図7は、MORAb−003は、正常ヒトPBMCを介したヒト卵巣腫瘍細胞で細胞毒性を誘導することができることを示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エフェクター機能が増強された抗体を産生する方法であって、
抗体産生細胞をミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブ対立遺伝子に導入し、それによって前記抗体産生細胞が高頻度変異可能となる工程と、
前記高頻度変異可能細胞からエフェクター機能が増強された抗体を産生する細胞をスクリーニングし、それによってエフェクター機能が増強された抗体を産生する工程と
を有する方法。
【請求項2】
請求項1の方法において、
前記ドミナントネガティブ対立遺伝子は、PMS2対立遺伝子である。
【請求項3】
請求項2の方法において、
前記PMS2対立遺伝子は、コドン134に切断変異を有するものである。
【請求項4】
請求項3の方法において、
前記切断変異は、野生型PMS2のヌクレオチド424におけるチミジンである。
【請求項5】
請求項3の方法において、
前記PMS2対立遺伝子は、野生型PMS2の第1の133アミノ酸をコード化しているものである。
【請求項6】
請求項2の方法において、
前記PMS2対立遺伝子は、ヒトPMS2である。
【請求項7】
請求項1の方法において、
前記エフェクター機能は、抗体依存性細胞毒性(ADCC)活性である。
【請求項8】
請求項1の方法であって、さらに、
前記抗体産生細胞に遺伝的安定性を回復させる工程を有するものである。
【請求項9】
請求項1の方法であって、さらに、
前記抗体産生細胞を化学的突然変異誘発要因に曝露させる工程を有するものである。
【請求項10】
請求項1の方法において、
前記抗体は、プロリンまたはヒドロキシプロリンでのアミノ酸置換を有するものである。
【請求項11】
請求項1の方法において、
前記抗体は、重鎖可変領域においてアミノ酸置換を有するものである。
【請求項12】
請求項1の方法において、
前記抗体は、軽鎖可変領域においてアミノ酸置換を有するものである。
【請求項13】
請求項1の方法において、
前記抗体は、重鎖の第1のフレームワーク領域においてアミノ酸置換を有するものである。
【請求項14】
請求項13の方法において、
前記置換は、配列ID番号:18のアミノ酸配列を有する、第1のフレームワーク領域の6位で生じるものである。
【請求項15】
請求項1の方法において、
前記抗体は、軽鎖の第2のフレームワーク領域においてアミノ酸置換を有するものである。
【請求項16】
請求項14の方法において、
前記アミノ酸置換は、プロリンまたはヒドロキシプロリンを有するものである。
【請求項17】
請求項15の方法において、
前記置換は、配列ID番号:21のアミノ酸配列を有する、第2のフレームワーク領域の22位で生じるものである。
【請求項18】
請求項1の方法において、
前記抗体は、重鎖の第1のフレームワーク領域においてアミノ酸置換を有し、軽鎖の第2のフレームワーク領域においてアミノ酸置換を有するものである。
【請求項19】
請求項17の方法において、
前記アミノ酸置換は、プロリンまたはヒドロキシプロリンを有するものである。
【請求項20】
請求項1の方法により産生された、エフェクター機能が増強された抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−500508(P2007−500508A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522049(P2006−522049)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【国際出願番号】PCT/US2004/024436
【国際公開番号】WO2005/011735
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(506031948)モルフォテック、インク. (16)
【Fターム(参考)】