説明

抗体の効率的な選択および/または成熟のためのベクターおよびその使用

ベクターが、発現レベルを低下させ得る少なくとも1つのエレメントを含有すること、および/または該組換え抗体の提示に関する改善された効率を有することを特徴とする、組換え抗体の効率的な選択および/または成熟のために適切なベクターを記載するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファージ提示ライブラリーにおける抗体選択能を改善する方法に関し、ここで該改良は該ライブラリーにおいて産生された抗体の発現レベルの低下により得られる。
【背景技術】
【0002】
(本発明の分野)
組換えDNA技術は、モノクローナル抗体産生に対する安価かつ有用な代替え法を提供する。ファージ提示として知られるバクテリオファージカプシドに対する組換え抗体の提示は、患者において有害な免疫応答を誘導しない治療のために有用な抗体を提供する特異的バインダーの選択のためにヒト抗体ライブラリーを生成出来るだけでなく、より高い親和性を有するクローンを与える変異体抗体ライブラリーの構築による抗体の親和性成熟を促進する。
【0003】
組換え抗体ライブラリーにおける高親和性バインダーを見出す可能性は、その品質を特徴とし、これは免疫グロブリン遺伝子のライブラリーサイズ、相違点および起源などのいくつかのファクターに依存する。
【0004】
免疫化または非免疫化ドナー由来の様々なリンパ組織、例えば末梢血リンパ球、脾臓および骨髄、そしてさらに、腫瘍に罹患した個体由来の転移または排出されたリンパ節組織が特異的抗体レパートリーの起源として機能し得ることが知られる。
【0005】
本来の抗体ライブラリーはさらに多様であり、広範な抗体特異性の単離をもたらすが、特異的疾患に罹患した患者のIgレパートリーからの組換え抗体ライブラリーの構築により、特定抗原に対してより高い結合親和性の抗体フラグメントを提供できるという示唆は理にかなっている。
【0006】
幾つかの刊行物に記載された試験は、腫瘍関連リンパ節由来の組換え抗体ライブラリーの構築体を説明している(Clin. Exp. Immunol. 1997 109(l):166-74; Int. J. MoI. Med. 2004 14(4):729-35; World J. Gastroenterol. 2004 10(18):2619-23)。これらの試験は、癌患者からのリンパ節組織が、腫瘍特異的抗体の起源として働き得る活性化B細胞と共に浸潤されるという一般的な概念に基づいている。
【0007】
新らたな外科材料として乳癌患者由来の転移または排出リンパ節を得ることは非常に困難である。近年の医療行為によれば、外科医は、前哨リンパ節または節小塊(前哨節およびそれに最も近接するもの)のみを除去する、即ち従来の手術技術により大量のリンパ節を除去する代わりに、低侵襲手術を行って副作用を低下させる。前哨リンパ節切開後、実際には、全ての節を微小転移巣または一つの癌細胞(複数個)の存在について試験した。従って、乳癌手術において、転移した節を廃棄手術材料として実際には利用出来ない。腫瘍浸潤性Bリンパ球(TIL-B)由来の抗体が腫瘍細胞も認識するという証拠は、腫瘍特異的抗体を分泌できるTILから得たヒトハイブリドーマを産生することにより(Lancet. 1982 l(8262):ll-4; Br. J. CANCER, 1983 47(1): 135-45);ヒト腫瘍生検由来のTILのB細胞膨張により(Cancer Immunol . Immunother. 1994 38(4):225-32);黒色腫由来TILのB細胞膨張、そしてその後の特異的黒色腫反応性を有する一つのB細胞クローンからのscFv抗体のクローニングにより(Cancer Res. 1995 55:3584-91);そして2つの腫瘍特異的タンパク質を認識したTIL-Bから得たヒト抗体を産生する免疫不全マウスへのヒト肺癌組織の皮下移植により(Cancer Invest. 2000;18(6):530-6;, Cancer Res. 2002 62(6): 1751-6)得られた、即ち該腫瘍におけるTIL-Bの特異的機能を示唆している。
【0008】
近年、延髄癌腫(MCB)として分類された頚部癌腫および乳癌の希少種は、改善された予後診断および患者生存性と相関するリンパ形質細胞浸潤を特徴とすることが示されている。これらの疾患を、ファージ提示方法も用いることにより、腫瘍浸潤性Bリンパ球(TIL-B)の性質を理解するために調べた。可変抗体領域の分子構造に関する試験から、髄様乳癌腫さらに頚部腫瘍において抗原駆動性(antigen-driven)体液性免疫応答の証拠を得た。TILから得た抗体遺伝子において見出されたオリゴクローン性の優位性は、腫瘍組織中で過剰発現または特異発現した特異的な新抗原に対するIg分子のクローン選択の可能性を示した(Cancer Immunol . Immunother. 2001 50(10):523-32; Cancer Res. 2001 61(21):7889-99; Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2001 98(22):12659-64; J. Immunol. 2002 169(5):2701-ll)。
【0009】
腫瘍組織が、腫瘍特異的抗体の起源として機能し得る活性化B細胞により浸潤されるという非常に強力な上記の示唆にもかかわらず、いくつかの研究クループは、精製した既知の腫瘍抗原、生存腫瘍細胞または凍結組織セクションに対してTIL由来ファージ提示ライブラリーを用いて行ったパンニング実験において、腫瘍細胞と正常細胞とを識別する特異的抗体または細胞表面の腫瘍抗原と反応性のある特異的抗体を選択することができなかった(Cancer Res. 2001 61(21):7889-99; Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2001 98(22): 12659-64; M. J. CANCER, 2001 93:832-40)。その後すぐに2つの別のグループが行い、この種のファージ提示ライブラリー由来の腫瘍細胞を認識する特異的抗体を同定した(J. Immunol. 2002 169:1829-36; J Immunol. 2005 175(4):2278-85)。
【0010】
ファージ提示系の制限を回避したファージ発現腫瘍由来ライブラリーおよび直接的なプラークスクリーニングプロトコールを基にした別のアプローチにより、Wuおよび共同研究者ら(Cancer Immunol Immunother. 2002 51(2): 79-90)は、培養した腫瘍細胞を特異的に結合する多重抗体を単離できた。この試験により、TIL由来のファージ提示ライブラリー由来の抗腫瘍抗体の選択の際に観察される難点は、当業者には既知の提示ベクターの不完全性に起因することが示される。しかし、直接的なスクリーニングは、大きなライブラリーからの組換え抗体を選択するための優れた方法ではない。実際に、ファージ提示技術と比較して、時間および手段の多大な費用を必要とする面倒な方法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
我々は、新規ファージミドベクターpKM19を利用することによってTIL-Bから得た組換え抗体ファージ提示ライブラリーのスクリーニングを行い、所望の腫瘍抗原、ならびに生存乳癌腫細胞に対する腫瘍特異的抗体の効率的な選択を示した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(本発明の要約)
我々は、従来のベクターの適切な修飾により、ファージ提示系を用いてライブラリー由来の組換え抗体の選択および/または成熟の効率を改善できることを見出した。従来のベクターは、即ち「抗体設計-実際の方法(McCafferty, J. Hoogenboom, H. & Chiswell D., eds),pp.325, Oxford University Press, 1996)」にあるようなファージミドベクターである。
【0013】
従って、本発明の目的は、組換え抗体の効率的な選択および/または成熟に適切なベクターであって、発現レベルを低下させることが出来る少なくとも1つのエレメントを含み、および/または該組換え抗体の提示に関する改善された効率を有することを特徴とする。
【0014】
本発明において、組換え抗体とは、次のものを包含する:ScFv、Abの活性フラグメント、または当業者には既知のAbのその他の誘導体、これにはAbのヒト化配列が包含される。
【0015】
本発明のベクターは、プラスミド、ファージミド、ファージ、または当業者には既知のその他のあらゆるベクターであり得る。
【0016】
ある好ましい態様において、組換え抗体の発現レベルを低下できるエレメントとは、
a)リーダーペプチドまたは抗体コード配列のいずれかの内側の抑制されたストップコドン;
b)該抗体コード配列の転写を駆動する低効率プロモーター;
c)該抗体コード配列の転写を駆動するプロモーターの阻害剤、の群に属する。
【0017】
低効率のプロモーターは、当業者には知られており、Biochem J. 1970 117: 741-746)において例示されている。当業者に知られているプロモーターについての適切な阻害剤は、J. Bacterid. 1979, 138(l):40-7に例示されている。
【0018】
ある好ましい態様において、該組換え抗体の提示に関する改良された効率は、
a)組換え抗体コード配列を、pIIIタンパク質のC末端部分をコードする配列と融合させること;および/または
b)大腸菌(E. coli)のアルカリフォスファタ−ゼの組換え抗体リーダーペプチドを、組換え抗体のリーダーペプチドとして使用すること;および/または
c)組換え抗体コード配列およびpIIIコード配列の間にあるあらゆるアンバーコドンを排除すること、により得られる。
【0019】
本発明の別の目的は、配列番号1のヌクレオチド配列を有するファージミドベクターである。
【0020】
pKM19と呼ばれるこのベクターは、繊維状のファージの表面上に一本鎖形態で組換え抗体の提示のために設計される。
【0021】
本発明のさらなる目的は、本発明のベクター中にcDNAをクローニングすることにより得られたファージ提示抗体ライブラリーである。該ライブラリーは、抗体産生細胞、より好ましくは腫瘍浸潤リンパ球(TIL)または末梢血リンパ球(PBL)由来のcDNAを、本発明のベクター中にクローニングすることによって得られるのが好ましい。好ましい態様において、かかる抗体産生細胞は、腫瘍罹患対象者から、好ましくは乳癌罹患対象者から単離される。あるいは、該ライブラリーは、合成または半合成抗体ライブラリーからなるライブラリー、または抗体の親和性成熟について変異したライブラリーからなる。
【0022】
本発明のライブラリーから選択される抗体、および抗原または複雑な多成分の生物学的構造、好ましくは細胞または細胞膜、より好ましくはMUCl腫瘍抗原、CEA(癌胎児性抗原)、MCF7乳癌腫細胞を含む群から選択されるものを認識できる抗体を選択するための方法は、本発明の範囲内である。該抗体は単鎖または二本鎖形態の抗体であり得る。
【0023】
特定の態様において、MUC1腫瘍抗原抗体は、実質的に配列番号3のアミノ酸配列からなるMB5scFv抗体であって、配列番号2のヌクレオチド配列によってコードされているのが好ましい。あるいは、MUCl腫瘍抗原抗体はMB5/C'1 scFv 抗体であって、これは実質的に配列番号5のアミノ酸配列からなり、配列番号4のヌクレオチド配列によりコードされているのが好ましい。あるいは、MUCl腫瘍抗原抗体は、MB5/C'3 scFv 抗体であって、これは実質的に配列番号7のアミノ酸配列からなり、配列番号6のヌクレオチド配列によりコードされているのが好ましい。
【0024】
特定の態様において、CEA腫瘍抗原抗体はCB37scFv 抗体であって、これは実質的に配列番号9のアミノ酸配列からなり、配列番号8のヌクレオチド配列によりコードされているのが好ましい。あるいは、CEA腫瘍抗原抗体はCB37/9C scFv 抗体であって、実質的に配列番号13のアミノ酸配列からなり、配列番号12のヌクレオチド配列によってコードされているのが好ましい。あるいは、MUCl腫瘍抗原抗体は、CB37/3B scFv 抗体であり、これは実質的に配列番号11のアミノ酸配列からなり、配列番号10のヌクレオチド配列によってコードされているのが好ましい。
【0025】
特定の態様において、MCF7乳癌腫細胞抗体は、実質的に配列番号15のアミノ酸配列からなるB96/11L scFv 抗体であり、配列番号14のヌクレオチド配列によってコードされているのが好ましい。あるいは、MCF7乳癌腫細胞抗体は、実質的に配列番号17のアミノ酸配列からなるmix7 scFv 抗体であり、配列番号16のヌクレオチド配列によってコードされているのが好ましい。あるいは、MCF7 乳癌腫細胞抗体は、mixl7 scFv 抗体であり、これは実質的に配列番号19のアミノ酸配列からなる配列番号18のヌクレオチド配列によってコードされているのが好ましい。あるいは、MCF7乳癌腫細胞抗体はmix39 scFv 抗体であって、これは実質的に配列番号21のアミノ酸配列からなり、配列番号20のヌクレオチド配列をコードされているのが好ましい。
【0026】
本発明のライブラリーから選択された抗体は、治療上、診断上、免疫原性または研究目的に有利に利用され得る。好適には、それらは、活性成分として本発明の1以上の組換え抗体、および所望により医薬的に許容し得るおよび当業者には既知の1以上の賦形剤または希釈剤を含む適切な医薬組成物を調製するために利用され得る。
【0027】
本発明の抗体は、一つの可変重鎖(VH)コード配列は可変軽鎖(VL)コード配列と共にコトランスフェクトされており、組換え抗体が親和性について選択されている、いわゆる成熟ライブラリーを得るために利用することができる。
【0028】
さらに、該抗体は、ネイティブ抗原を擬態することができる組換および/または合成ペプチドを選択するために利用され得る。腫瘍表面抗原は、(i)腫瘍細胞抽出物由来の未知の標的タンパク質の免疫沈降(Antibody, A laboratory manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988);または(ii) 腫瘍細胞抽出物を用いて免疫反応を行い、二次元PAGE(タンパク質およびプロテオミクス:A laboratory manual. Richard J. Simpson, pp.705, Science 2002)により分離し、ニトロセルロース膜上に移動させ(Sambrook J, Fritsch EF, Maniatis T. Molecular Cloning: A laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, 1989)、腫瘍細胞を認識する新規抗腫瘍抗体を用いて選択され得る。
【0029】
そうして得たネイティブ抗原を擬態できる、かかる組換えペプチドおよび/または合成ペプチドは、ワクチン、診断用試薬を作るために、または研究分野において利用され得る。便利には、それらを、活性成分として上記した1以上の疾患特異的抗原および所望により医薬的に許容し得るおよび当業者には既知の1以上の賦形剤または希釈剤を含む適切な医薬組成物を調製するために利用され得る。
【0030】
本発明の別の目的は、本発明のライブラリーによって得られた組換え抗体をコードしている核酸である。
【0031】
好ましくは、該核酸はMUCl腫瘍抗原抗体をコードしており、配列番号2のヌクレオチド配列を有する。あるいは、配列番号4のヌクレオチド配列を有する。あるいは、配列番号6のヌクレオチド配列を有する。
【0032】
好ましくは、該核酸は、CEA腫瘍抗原抗体をコードしており、より好ましくは配列番号8のヌクレオチド配列を有する。あるいは、配列番号10のヌクレオチド配列を有する。あるいは、配列番号12のヌクレオチド配列を有する。
【0033】
好ましくは、該核酸は、MCF7 乳癌腫細胞抗体をコードしており、より好ましくは配列番号14のヌクレオチド配列を有する。あるいは、配列番号16のヌクレオチド配列を有する。あるいは、配列番号18のヌクレオチド配列を有する。あるいは、配列番号20のヌクレオチド配列を有する。
【0034】
本発明のさらなる目的は、抗体を発現することができる本発明のベクターを用いて形質転換した宿主細胞である。
【0035】
本発明の別の目的は、上記したような本発明のベクターを、クローニングベクターおよび発現ベクターとして用いるステップを含む、組換え抗体の選択および/または成熟を改善するための方法である。
【0036】
本発明は、下記の図を参照して本発明を説明するが、実施態様を限定するものではない。
【0037】
(図面の簡単な説明)
図1:図1は、scFv形態において可溶性抗体の産生に有用なpKM16 プラスミドの主なエレメント、およびファージ提示抗体の産生に有用なpKM17、pKM18およびpKM19プラスミドの主なエレメントを図示するものである。これらのプラスミドは、pLacプロモーターの制御下にある抗体発現を導く。独特のNcoIおよびNotIクローニング部位により、抗体遺伝子の挿入が可能となり、微生物ペリプラズム酵素、アルカリフォスファタ−ゼ(PhoAリーダー)のリーダーペプチドを有する一本鎖抗体を発現できる。プラスミドpKM17は、完全なタンパク質pIII(406 aa)をコードしており、プラスミドpKM18およびpKM19はpIII(197 aa)]のC末端部分をコードする。プラスミドpKM19は、PhoAリーダー中にアンバーコドンを含有する。
【0038】
図2:pKM19 ファージミドベクターの詳細な構造を説明するものである。為された特異的修飾は、図内に示され、文章により説明される。
【0039】
図3:pKM16プラスミドを用いる可溶性scFv産生。pKM16においてscFv抗癌胎児性抗原(CEA)遺伝子をクローニングすることにより得た3つの独立したクローンを、可溶性scFv産生について試験した(ゲルの列1-3)。ペリプラズムタンパク質画分を、凍結および溶解方法によりバクテリアから精製した。タンパク質サイズマーカーが包含される。ウェスタンブロット膜を、抗FLAG AP結合二次抗体を用いて発色させた。可溶性scFv抗体に対応するバンド(予測分子量26 kDa)は、24.5および35.9 kDaバンドの間を移動した。
【0040】
図4:古典的なファージミド系との比較における、pKM17、pKM18およびpKM19プラスミドの提示効率。3つの異なるプラスミドにより提示した抗CEA scFv 抗体を、CEAタンパク質に対するELISAによりアッセイし、MA39ファージ(抗CEA/pDN322)と比較した。抗体フラグメントを提示しないヘルパーファージ、M13K07を、ネガティブコントロールとして包含した。報告したデータは、2回行ったアッセイの平均値である。アスタリスクにより標識した最高のファージ濃度は、全てのファージについて1011TUであり、抗CEA/pKM17については3x1010TUである。ELISAを、抗M13(パネルA)、あるいは抗FLAG二次抗体(パネルB)を用いて行った。
図5:ファージサンプルの濾過。約2x1011TU/各調製物のウェルまたは対応する濾液サンプルの量をELISAにおいて試験し、抗M13(パネルA)または抗FLAG(パネルB)二次抗体のいずれかを用いて発色した。報告したデータは、2回行ったアッセイの平均値である。データは、CEAに対する濾液の反応性を、非濾過サンプル(100%)の元の反応性のパーセントとして示す。
【0041】
図6:可溶性抗CEA scFvを用いる競合。MA39(10 μL)および抗CEA/pKM19(5 μL)ファージの新たに調製した上清を、様々な量の精製した可溶性抗CEA抗体と競合させた。該データを、競合剤を含まない上清の反応性の%として表した。無関係の可溶性抗SP2 scFvを、ネガティブコントロールとして使用した。
【0042】
図7:ファージ上清の濾液との競合。MA39(10 μL)および抗CEA/pKM19(5 μE)ファージの新たに調製した上清を、同ファージ上清の濾液(10μLまたは50μL)と競合させた。該データを、競合剤を含まない上清の反応性%として表した。
【0043】
図8:PEG-精製した組換えファージのウェスタンブロット。約5x109PFUのファージ MA39、抗CEA/pKM18および抗CEA/pKM19、および1x109 PFUの抗CEA/pKM17からのタンパク質抽出物をSDS-PAGEにより分画し、ニトロセルロース膜上に移した。膜ストリップを、抗FLAG-AP結合抗体を用いて発色させた。タンパク質サイズマーカーを含む(最終ストリップ)。scFv-pIII(66.1 kDa)およびscFv-ΔpIII(45.2 kDa)タンパク質は、最初に記載したpIIIタンパク質の異常部分のために(Goldsmith および Konigsberg, 1977)、高分子量バンドとして移動する。
【0044】
図9:SP2-GSTタンパク質に対する選択。scFvEC23ライブラリーをパンニングする第1および第2ラウンドから得たファージプールの反応性を示す。選択系中に存在するGST(グルタチオンS-トランスフェラーゼ)、ミルクおよびストレプトアビジンを、ネガティブコントロールとして含む。報告したデータは、2回行ったアッセイの平均値である。各調製物の一つのウェルあたり3x109TUをELISAにて試験してから、ファージ投入量を標準化した。
【0045】
図10:成熟ライブラリー由来の成熟抗CEA遺伝子の親和性選択。このアッセイにおいて、陽性シグナルを抑え、選択過程中の高反応性を可視化するために、陽性免疫反応を抗FLAG AP結合二次抗体によって行った。抗体フラグメントを提示しないヘルパーファージであるM13K07を、ネガティブコントロールとして含めた。CEAおよび無関係のGSTタンパク質に対して試験した、pKM19 (抗CEA/pKM19)、成熟ライブラリー(Lib)、選択の第1および第2ラウンド(Iラウンド、IIラウンド)後のファージのプール、親和性選択の第2ラウンド後のファージプールからのシングルクローン(cl.l、cl.2)における元々の抗CEA抗体の反応性を示した。報告したデータは、2回行ったアッセイの平均値である。ファージ投入量を標準化した。各調製の一つのウェルあたり約3x1010TUを、ELISAで試験した。
【0046】
図11:可溶性成熟scFvのELISA反応性。様々な量の可溶性抗体をCEA被覆プレートでアッセイした。結合scFvを、抗FLAG二次抗体を用いて発色した。報告したデータは、2回行ったアッセイの平均値である。先に得られた無関係の抗SP2抗体および成熟した抗CEA E8抗体(Pavoni et al., 2006)をコントロールとして包含した。
【0047】
図12:成熟したクローンの特異性。可溶性形態で元のおよび成熟した抗体のウェルあたり約250ngを、CEAおよび多様な無関係のタンパク質を用いてアッセイした。無関係の抗SP2抗体をネガティブコントロールとして包含した。報告したデータは、2回行ったアッセイの平均値である。
【0048】
図13:TIL誘導性抗体遺伝子のV(D)J分析。A.10人の異なる腫瘍サンプル(患者B84、B85、B87、B89、B90、B91、B92、B93、B95、B96)から、正常な乳房、正常な精巣から、および4人の健康なドナー(Ll、L2、L3、L4)由来のリンパ球から得られたSMART cDNAを、V(D)J 抗体領域の増幅のためのテンプレートとして使用した。cDNAのサンプルを、β-アクチン ハウスキーピング遺伝子の増幅により標準化した。V(D)Jフラグメントは、正常な精巣cDNAを除いて全テンプレートから十分に増幅された。B. 同じPCR産物をDNAバンドについて高解析能を示すPAGEにより分画した。
【0049】
図14:抗体サブクラスの分布。V(D)J試験でオリゴクローナルバンドを示さないPCR増幅した正常な乳房およびB84cDNAサンプルは、IgG1およびIgG2(左側のパネル)と比較して、IgA バンドの優勢を示すが、先の試験で強いオリゴクローナルバンドを示す3つのサンプル(B91、B92およびB93)は、IgA(右パネル)と比較して、IgG1、または両IgG1およびIgG2バンドの優勢を示す。
【0050】
図15:30ランダムクローンの可変領域のアミノ酸配列は、B92およびB93cDNAから得られたγ鎖抗体遺伝子をクローニングすることによって得られた。ペプチド配列は一文字コードで示される。類似クローンにおいて同一アミノ酸はダッシュによって示されている。
【0051】
図16:ED-B、MUClおよびCEAタンパク質に対する選択。元々のライブラリーと比較して、パンニングの第2および第3ラウンドから得たファージプールの反応性を試験した。GSTは、ネガティブコントロールとして含まれる。選択に使用した標的タンパク質として6Hisテイルを有する別のネガティブコントロールであるタンパク質Dを、ED-B パンニングの場合に使用した。報告したデータは2回行ったアッセイの平均値である。ライブラリーScFvEC23をPBLから得る。MixTILは、表1に示した4つのTIL誘導性ライブラリー(ScFvB87、ScFvB95、ScFvB96およびScFvmix)の混合物である。
【0052】
図17:scFv抗体を提示した一つのファージクローンのELISA反応性。選択の第3ラウンド後の、ED-B(クローンEDE1、EDE3、EDE5、EDB5、表5)、MUCl(クローンME1、ME2、MB5、表5)およびCEA(クローンCB3、CB37、CB40、CB41、CB53、CB60、表5)に対して選択した一つのファージクローンの反応性を、各タンパク質を用いて試験した。報告したデータは2回行ったアッセイの平均値である。いくつかの無関係のタンパク質および抗SP2の無関係のファージ抗体はネガティブコントロールとして包含される。
【0053】
図18:元々のライブラリーと比較して、パンニングの第4および第5ラウンドから得たファージプールの固定した乳癌腫(MCF7)およびヒト繊維芽(HFF)細胞に対する細胞を基にしたパンニング反応性を試験した。報告したデータは、3回行ったアッセイの平均値である。ライブラリーscFvB96およびmixLIBを表2に明示した。
【0054】
図19:一つのファージクローンの固定化細胞に対する細胞ELISA反応性。報告したデータは、3回行ったアッセイの平均値である。無関係の抗SP2抗体を用いて発色する細胞をネガティブコントロールとして包含する。MCF7およびMDA-MB-468:固定した乳癌腫細胞;HFF:ヒト繊維芽細胞およびMCF10-2A:正常な乳房上皮細胞。
【0055】
図20:抗MCF7scFv抗体の起源。各scFvファージライブラリー(1μL)を、分析した抗体遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCRにより増幅した。対応するPEG-精製したファージをポジティブコントロールとして使用した(最終列)。scFvEC23ライブラリーから先に選択した;PBLから得られた、既知の起源の無関係の抗SP2抗体遺伝子も試験した。抗MUClMB5抗体および抗CEACB37抗体を、TILから得たライブラリーの混合物から選択した。mix11、mix12、mixl7およびmix39抗体を、TIL由来およびPBL由来ライブラリーの混合物から選択した。抗体を表5に明示した。
【0056】
図21:ファージ提示型scFv抗体(mixl7(A)、mix7(B))による非透過性乳癌腫MCF7および正常な乳房上皮MCFl 0-2A固定化細胞の蛍光染色。
【0057】
図22:A.ファージ提示型抗MUCl MB5 scFv 抗体を用いる乳癌腫細胞MCF7、SkBr3発現MUCl腫瘍抗原および正常な乳房上皮細胞 MCF10-2Aの蛍光染色;B.ファージ提示型抗CEA CB37 scFv 抗体による結腸直腸腺癌細胞LoVo発現CEAの染色。ネガティブコントロールMCF 10-2 A細胞の染色が含まれる。
下記実施例は本発明を説明するものである。
【0058】
実施例1:繊維状ファージ上での一本鎖抗体の提示のための新規pKM19ファージミドベクターの構築
導入
ここでの研究は、繊維状のファージ上での一本鎖抗体の提示のための新規pKM19ファージミドベクターの構築体を説明するものである。このベクターは、標準的な系と比較していくつかの違いを特徴とする。
【0059】
a)アンバーコドン
古典的なファージミドは、scFvおよびgpIII遺伝子の間にアンバーコドンを含有する、即ち一般的にはファージ増幅に使用される抑制因子バクテリア、例えばTG1、DH5αF'またはXLl-Blue、において遊離scFvおよびscFv-pIII融合抗体の産生を導く。supE変異を担持しているこれらの微生物株は、コドンの後のTAGにより抑制効率を有するグルタミンを挿入する抑制因子である(J. MoL Biol. 1983 164(1):59-71; MoI. Gen. Genet. 1987 207(2-3):517-518)。かかる系において、産生した遊離の可溶性scFv 抗体は、ペリプラズム中に分泌され、その後ペリプラズムから培地中へと漏出される。PEG/NaClによる標準的なファージ精製プロトコール下で、遊離scFv抗体をファージ粒子と共に共沈殿した。結果として、ファージ懸濁液中の遊離抗体の濃度は、ファージ粒子中にアセンブリしたscFv-pIII-融合タンパク質の濃度よりも5〜10倍高いものであり得る。その後の選択において、十分な遊離抗体は、標的結合についてファージ提示型抗体と競合する。これは、パンニング効率と干渉し、選択プロセスを遅延させる、特に:i)抗原濃度が制限される場合(例えば、生存細胞、エキソビボ細胞に対するバイオパンニング)、ii)後者のパンニングラウンドにおいて、特異的ファージの濃度が比較的高い場合、またはiii)同じ特異性を有する多くの関連抗体を含有する成熟ライブラリーにおける場合。
【0060】
そのために、古典的なファージミドは、抗体に関する改善された選択および/または成熟のために変更されることが必要である。
【0061】
文献データから予測されるように、pKM19においてアルカリホスファターゼリーダーペプチドをコードする配列中に位置するアンバーコドンの存在は、このプラスミドを担持しているアンバー抑制因子バクテリアにおける組換え抗体の比較的低い発現レベルをもたらす。
【0062】
グルコースによる異化代謝産物抑制によるlacプロモーターのみの阻害は、ストップコドンを含むかまたは含まない様々なクローンの増殖速度の均衡を保つために十分ではないことが示された(Gene 1999 228: 23-31)。pKM19を用いて達成された低いscFv発現は、微生物宿主に対する組換え抗体の毒性を低下させ、提示効率に影響しない。
【0063】
pKM19を用いて、我々は
(i)抗体発現の存在レベルが、アンバーコドンを含まないpKM18ファージと比べて、ELISA試験において類似シグナルを与える高反応性ファージ抗体を産生するのに十分であること;
(ii)特異的抗体が、たった2回の選択ラウンド後に標的タンパク質に対する抗体を用いて患者の末梢血リンパ球から構築したscFvライブラリーから容易に単離され得ること;
(iii)抗CEA抗体の成熟により、模範ベクター(BMC Cancer 2006 6:41)を用いて行った成熟と比較して、ストップコドンを含まない改善されたscFvクローンの単離がもたらされること、
を証明した。
【0064】
b)遺伝子IIIタンパク質
pKM19ベクターは、削除された遺伝子IIIタンパク質のアミノ末端融合物としてscFvフラグメントのクローニングを可能とする。
【0065】
scFvについて共通して使用したファージ提示ベクターは、抗体フラグメントと融合した完全なpIIIのファージ粒子への導入をもたらしたが(抗体設計において−実際的アプローチ:McCafferty, J. Hoogenboom, H. & Chiswell D., eds, pp.325, Oxford University Press, 1996)、一方でFab提示に利用したpComb3プラスミドの場合には(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1991 88(18):7978-7982)、該抗体フラグメントはpIIIのC末端の半分に融合される。ヘルパーファージによる重複感染がネイティブ遺伝子IIIタンパク質を提供するので、かかる組換えファージの感染性はその増殖中に獲得される。
【0066】
本データによれば、一本鎖抗体とpIIIのC末端部分との融合は、wtのpIIIタンパク質融合と比較して、抗体のファージ産生および提示効率を改善する。これらのデータは、Kretzschmarの先のデータと一致する(Gene 1995 155(l):61-65)。インキュベーション混合物からの遊離scFv抗体の除去と組み合わせにおいて改善された提示効率は、親和性選択を促進し、特異的クローンについてのファージプールの富化を迅速にする。これは、パンニング/増幅ラウンドの少ない回数しか選択を完了するために必要でないため、選択されたクローン中のストップコドンの減縮に寄与し得る。急速に増殖する欠陥のあるクローンは単離される機会が少ない。
【0067】
c)PhoAリーダーペプチド
pKM19 ベクターを担持するバクテリアにおいて、組換えタンパク質の合成後に、PhoA リーダーペプチドは膜転移に対するリーダーペプチダーゼにより解裂され、scFv−pIIIはファージ粒子中に会合される。この方法では、アルカリフォスファターゼ、E.coliの真のペリプラズムタンパク質の全ての解裂部位が、効率的かつ正確なプロセシングおよび抗体会合を保証するように保存されている。結果として、成熟タンパク質は、scFvのN末端で2つの追加のアミノ酸を含有する。記載した系において、可溶性抗体のその後の産物に対して適切なプラスミドにおいて抗体遺伝子を再度クローニングすることが必要である。この段階で、追加のアミノ酸は、特定の必要要件に従って保存または排除され得る。
【0068】
結論として、抗体遺伝子の前にアンバーコドンを導入することによる提示抗体の比較的低い発現と、改善された提示効率との組合せにより、大きなライブラリー由来の所望の標的に対する組換えscFv抗体の選択およびその親和性成熟に関しての両方に有用な新規pKM19ファージミドを作成する。該プラスミドは、効率的な提示を保証し、精巧な開始選択ステップにおいて「扱いにくい」抗体に対する生物学的な偏りを低下させる。さらに、このベクターは、高い発現レベルがAbを提示するファージ粒子の結合活性を増加させ、中程度の親和性の抗体のみの選択をもたらし得るので、抗体の親和性成熟に特に有用である。
【0069】
方法
微生物株およびファージ
微生物株DH5αF'(supE44 ΔlacUl69(φ80 lacZAMl5) hsdRU recAl endA1gyrA96 thi-l relAl F'[traD36 proAB laclacZΔM15])を、可溶性およびファージ抗体産生に使用した。ヘルパーファージMl3 KO7(Sambrook J, Fritsch EF, Maniatis T. Molecular Cloning: A laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, 1989)をファージ調製に使用した。
【0070】
pDN322 プラスミド(J. Biol. Chem. 1998 273(34):21769-21776)において、抗CEAファージ抗体、MA39(BMC Cancer 2006 6: 41)を、抗CEA抗体遺伝子の起源として使用した。
【0071】
プラスミドの構築
pC89プラスミド(J. MoI. Biol. 1991 222(2): 301-310)を、HindIIIおよびNotI部位(下線)を含有するKM161、KM162オリゴヌクレオチド(KM161 5'-GAGGAAGCTTCC ATTAAACGGGT AAAATAC-3'(配列番号78);KM162 5'-TGCAATGGCGGCCGCTAATATTGTTCTGGATATTACCAGC-3'[配列番号79])を用いて、インバースPCRにより増幅させた。インバースPCRにおいて、Pfu DNA ポリメラーゼと共にTaqポリメラーゼ混合物を使用して、DNA合成の忠実度を増加させた。25サイクル(95℃-30秒、55℃-30秒、72℃-20分)の増幅を行った。PCR産物を、HindIIIおよびNotI エンドヌクレアーゼを用いて消化し、FLAGペプチドおよびHisテイルをコードするKM163-KM164オリゴヌクレオチド(KM163 5'-AGCTTCCTC ATG TAG GCG GCC GCA GGA GAC TAC AAA GAC GAC GAC GAC AAA CAC CAC CAT CAC CAC CAT TAA-3'[配列番号80]; KM164 5'-GGCC TTA ATG GTG GTG ATG GTG GTG TTT GTC GTC GTC GTC TTT GTA GTC TCC TGC GGC CGC CTA CAT GAGGA-3'[配列番号81])二本鎖を用いて連結させた。クローンDNA二本鎖は、内部NotI部位、FLAGペプチドコード配列の上流を含有したが、二本鎖のクローニングに用いたNotI部位を修復しなかった。得られるpKM15プラスミドを、HindIII、NotIエンドヌクレアーゼを用いて新たに消化し、NotIクローニング部位を含有している、リーダー配列およびPhoA バクテリアタンパク質の最初の2つのアミノ酸をコードしているKM175-KM176(KM175 5'-AGC TTA TAA AGG AGG AAA TCC TCA TGA AAC AGA GCA CCA TCG CAC TGG CAC TGT TAC CGT TAC TGT TCA CCC CGG TTA CCA AAG CAC GTA CCA TGG TTT CCC TTGC-3' [配列番号82];KM176 5'-GGC CGC AAG GGA AAC CAT GGT ACG TGC TTT GGT AAC CGG GGT GAA CAG TAA CGG TAA CAG TGC CAG TGC GAT GGT GCT CTG TTT CAT GAG GAT TTC CTC CTT TATA-3' [配列番号83])二本鎖にて連結した。この新規pKM16プラスミドは、可溶性一本鎖抗体産物となる(図 1)。
【0072】
プラスミドpKM16を、各々EcoRIおよびBamHI制限部位を提示するKM181、KM182オリゴヌクレオチド(KM181 5'-GTG GTG ATG GAA TTC TTT GTC GTC GTC GTC TTT GTA GTC-3'[配列番号84]; KM182 5'-CAC CAT TAA GGA TCC TAA TAT TGT TCT GGA TAT TAC CAG C-3'[配列番号85])を用いてインバースPCRにより増幅させた。BamHIおよびEcoRI部位(下線)を含有するオリゴヌクレオチドKM183-KM185またはKM184-KM185、各々(KM183 5'- TC TAT TCT GAA TTC GCT GAA ACT GTT GAA AGT TGT TTA GC-3' [配列番号86];KMl84 5'- GC CAA TCG GAA TTC CTG CCT CAA CCT CCT GTC AAT GCT-3' [配列番号87]; KM1855'- GAACTG GGATCC TTAAGA CTC CTTATT ACGCAGTATG-3'[配列番号88])を用いて、pIIIの最後の197 aa をコードする遺伝子の3'部分および完全長遺伝子III(Accession number V00604)を増幅させ、消化したpKM16に連結させて新規プラスミドpKM17およびpKM18を与える。
【0073】
リーダー配列をコードしているpKM18プラスミドの短いフラグメントを、KM186-KM180プライマーを用いてPCR増幅させて、PhoAリーダーペプチド遺伝子(KM186 5'- ACC CGT AAG CTT ATA AAG GAG GAA ATC CTC ATG AAA TAG AGC ACC ATC GC -3'[配列番号89]; KM180 5'-TAG CCC CCT TAT TAG CGT TTG -3'[配列番号90])にアンバー変異を導入した。得られたPCR産物を、HindIIIおよびNotIにより消化し、pKM18中にクローニングした。HindIIIおよびNotIを用いて消化し、アガロースから精製し、pKM19プラスミドを構築した。
【0074】
可溶性抗体産物
一つのコロニーを、Ap(100 μg/mL)および2%グルコースを含有するLB(50 mL)中に接種した。該培養物を、O.D.=0.8まで37℃で2-3時間増殖させた。遠心分離により回収した細胞を、Apおよび1mM IPTGを含むLB(50 mL)に再懸濁し、30-32℃で一晩インキュベートした。細胞ペレットをPBS(500μL)に再懸濁した。凍結および溶解の3サイクルの後、細胞破砕物を遠心分離によりペレットにした。得られた上清を、ELISAまたはウェスタンブロットに使用した。
【0075】
末梢血液およびcDNA合成からのリンパ球精製
リンパ球を、製造者指示書に従って、Ficoll-Paque Plus (Amersham Pharmacia Biotech, Sweden)を用いて抗血液凝固薬を用いて患者EC23(乳癌の進行段階にある)由来の新規末梢血液(10 mL)から単離した。Dynabeads mRNA DIRECT Kit (Dynal, Norway)を用いて、リンパ球からmRNAを単離した。Dynabeads mRNA DIRECT Kit (Dynal, Oslo, Norway)を用いて、mRNAをリンパ球から単離した。リンパ球由来のポリ(A)RNA(1μg)を用いて、SMART cDNA Library Construction Kit (Clontech, Palo Alto, CA)を用いて、完全長cDNAを合成した。
【0076】
ScFvライブラリー構築体
抗体遺伝子レパートリーを、VHおよびVL抗体ドメインの増幅のために設計した一組のプライマーを用いて増幅させたが、完全なscFvフラグメントを、[Pope, A.R., Embleton, MJ. & Memaugh R. (1996) Construction and use of antibody gene repertoires. In: Antibody Engineering - A practical approach (McCafferty, J., Hoogeriboom, H. & Chiswell D.5 eds), pp.325, Oxford University Press]に記載のように、インビトロでアセンブルした。次いで、この後の物を、適切な伸張プライマーを用いてPCRにより増幅した、これはNcoI、Notl制限部位を組み込んでおり、scFv遺伝子をpKM19ベクター中にクローニングできる。得られるPCR産物を、1%の低融点アガロースゲル(NuSieve 3:1 アガロース, Rockl and ME)上で精製し、NcoI/NotIにて切断し、消化したプラスミド中に挿入した。形質転換したライブラリーscFvEC23は、完全長scFv挿入物を有する1.77x107の独立したクローンを含有した。scFvEC23ライブラリーは、乳癌の進行段階にある一人の患者EC23から獲得したPBLから得る。
【0077】
変異した抗CEAscFvライブラリーの構築
抗CEA scFv についての成熟ライブラリーを、先に記載したとおりに構築した(BMC Cancer 2006 6:41)。要約すると、変異したscFv遺伝子フラグメントを、プライマー:KM144-KM143 (KM143, 5'-GTCATCGTCGGAATCGTCATCTGC-3'[配列番号91]; KM144, 5'-TGTGCGAAAAGTAATGAGTTTCTTTTTGACTACTGGGGC -3'[配列番号92]) および KM148-KM145 (KM148, 5'-CTATTGCCTACGGCAGCCGCTGGA-3' [配列番号93]; KM145,5'-TCCGCCGAATACCACATAGGGCAACCACGGATAAGAGGAGTTACAGTAATAGT CAGCC-3' [配列番号94])を用いるPCR増幅によって生成し、低い頻度にて重鎖または軽鎖のCDR3領域中にランダム変異を導入する。KM144およびKM145オリゴヌクレオチドの各下線の塩基を、10%の頻度にてG/A/T/Cの混合物で置換した。欠失するscFv 抗体遺伝子部分を、各々HCおよびLCについてのKM148-KM157およびKM158-KM143プライマー(KMl57 5'-TTT CGC ACA GTA ATA TAC GG-3' [配列番号95]; KM158 5'-TAT GTG GTA TTC GGC GGA-3' [配列番号96])を用いて増幅した。全ての遺伝子を再構築するために、対応するフラグメントを組み合わせて、オリゴヌクレオチドプライマーを含まないPCRの様なプロセスで増幅させた。得られた産物を利用し、外部プライマーKM148、KM143を用いて全ての遺伝子を増幅させた。最終のDNAフラグメントを、アガロース精製し、制限酵素NcoIおよびNotIを用いて消化し、消化したプラスミドpKM19を用いて連結させた。得られたライブラリーは2.2xlO6 変異抗体クローンを含有した。
【0078】
可溶性scFvとの競合
ELISA プレートを被覆し、ブロッキングし、上記のように洗浄した。ブロッキング緩衝液(100μL)中の抗CEA可溶性抗体MA39(BMC Cancer 2006 6: 41)の様々な量をウェルに添加し、30分間37℃でインキュベートした。次いで、MA39 ファージ上清の10μL(4.5x109 TU)または抗CEA/pKM19上清の5μL(3x108 TU)を該ウェルに添加し、さらに1時間37℃でインキュベートした。該プレートを洗浄し、結合ファージを抗M13 HRP-結合抗体によって検出した。無関係の可溶性抗SP2scFv(表5)を高濃度(400 ng/ウェル)にてネガティブコントロールとして使用した。MA39と比べて少量の抗CEA/pKM19ファージを使用して、このファージのELISA反応性を抑える。
【0079】
ファージ上清の濾液との競合の場合に、ブロッキング緩衝液(100μL)中のMA39またはpKM19/抗CEA濾液の10μLまたは50μLを競合剤として使用した。該ファージ濾液を、濾過カラムMicrocon 100を用いて新たに調製したファージ上清から得た。
【0080】
PEG-精製したファージのウェスタンブロット
ファージを、標準的なPEG/NaCl沈殿に従って精製した(Sambrook J, Fritsch EF, Maniatis T. Molecular Cloning: A laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, 1989)。ファージサンプル由来のタンパク質抽出物を、SDS-PAGEにより分画し、ニトロセルロース膜上に移した。この膜ストリップを抗FLAG AP結合抗体を用いて発色させた。
【0081】
ファージELISA
マルチプレート(Immunoplate Maxisorb, Nunc, Roskilde, Denmark)を、50 mM NaHCO3(pH-9.6)中の10 mg/mL濃度でのタンパク質溶液を用いて4℃で被覆した。被覆溶液を捨てた後、プレートをELISAブロッキング緩衝液(5% 無脂肪乾燥ミルク、PBS中で0.05% Tween-20)を用いて37℃で1時間ブロッキングした。プレートを洗浄緩衝液(PBS中で0.05%;Tween-20)で数回洗浄した。ブロッキング緩衝液(1:1)中のPEG-精製したファージを各ウェルに添加し、1時間37℃でインキュベートした。該プレートを洗浄し、結合したファージを、抗M13 HRP標識二次抗体(27-9421-01, Amershani Biosciences, Uppsala, Sweden)、または抗FLAG HRP標識二次抗体(A9044, Sigma, St. Louis, MO)または抗FLAG AP標識二次抗体(A9469, Sigma)により検出した。HRP標識の場合には、免疫反応をTMB液体基質(Sigma)との15分間のインキュベーションにより行い、2M H2SO4(25μL)の添加により停止した。該結果を自動ELISA読み取り機により検出した450と620nmとの吸光度の差違として表した。AP標識抗体を、基質緩衝液(10%ジエタノールアミン緩衝液、0.5 mM MgC12, pH 9.8)中のp-ニトロフェニルリン酸塩溶液(1 mg/mL)と共に60分間のインキュベーションにより検出した。該結果を、450および620nmの間の吸光度の差違として表した。抗体を表5に明示した。
【0082】
結果
scFv構造における可溶性抗体の産生に使用したpKM16プラスミド(図1)を上記のように構築した。このプラスミドは、lacPプロモーターのコントロールの下でのタンパク質発現を目的とする。特別なNcoIおよびNotIクローニング部位により、バクテリアペリプラズム酵素であるアルカリフォスファタ−ゼ(AP)のリーダーペプチドを有し、および該抗体のアミノ末端でこの成熟APタンパク質の最初の2つのアミノ酸および抗体のカルボキシ末端でFLAG/His-テイルを有する、一本鎖抗体を発現できる抗体遺伝子の挿入が可能となる。プラスミドの実際の特性を確認するために、既知の特異性に関する一本鎖抗体の遺伝子、抗CEA MA39を、PCRにより増幅し、pKM16ベクター中にクローニングした。その後、我々は、抗FLAG二次抗体を用いて発色させたウェスタンブロットにおいて凍結溶解にて精製したペリプラズムタンパク質を分析した(図3)。一本鎖抗体バンドは、予想分子量を有するタンパク質として移動した。エドマン分解によるN末端タンパク質配列決定により、リーダーペプチドの正しいプロセシングを確認する。
【0083】
scFv抗体の提示に対するファージミド
抗CEA一本鎖抗体を提示する典型的なファージミド(pDN322)であるMA39を、ファージ粒子産生および提示効率について、同一抗体を提示するpKM17、pKM18およびpKM19ベクターと比較した。pKM17およびpKM18プラスミド(図1)は、各々の完全なpIII(1-406 aa)または該タンパク質のC末端ドメイン(210-406 aa)のみとの融合により、ファージ粒子上での抗体フラグメントの提示を可能にする。pKM19プラスミド、pKM18の誘導体は、リーダー配列中のアンバーコドンを担持しており、そのためpKM18と比べてscFv-pIII融合タンパク質の低い産生をもたらす。これは、supEバクテリアにおいて、ヌクレオチド含量に依存するこのTAGコドンの抑制効率が約10-15%であることを示すデータ(J. MoI. Biol. 1983 164(1): 59-71; MoI. Gen. Genet. 1987 207(2-3): 517-518)と一致する。
【0084】
我々は、抗CEA一本鎖抗体遺伝子を3つの新規プラスミド中へクローニングすること、そしてそれらを元々のMA39クローン(pDN322での抗CEA)と比較することにより機能試験を行った。
【0085】
各クローンについて3つのシングルクローンを培地(10 mL)中でインキュベートし、ファージを、実施例2に記載したように増幅させた。ファージミドレスキュー後に、該上清の力価を決定した。我々は、抗CEA抗体を提示するMA39、pKM18およびpKM19について5〜1x1011 TU/mLの間の範囲を得たが、抗CEA/pKM17は5〜10倍低い力価であった(表1)。
【0086】
表1.同じ抗CEA遺伝子をコードする様々なファージミドベクターによるファージ産生
【表1】


ファージ調製物をELISAで試験した。この試験での発色を抗M13または抗FLAG二次抗体を用いて行った。ELISAウェルあたりにファージの様々な量を加えると、pKM17と比べるとpKM18およびpKM19ファージに対する高い提示効率を示し、またMA39と比べるとさらに高い提示効率を示した(図4)。興味深いことに、抗FLAG抗体を用いる発色により示されるように(図4B)、抗CEA/pKM17よりも高いレベルの抗体を産生するMA39クローンは、ELISAが抗M13二次抗体にて発色される場合には弱いシグナルを示す(図4A)。
【0087】
これは、典型的なファージミド系によって産生された遊離scFvが、培地中に漏出して、ファージ粒子と共沈殿し、結果として標的結合についてファージ提示抗体と競合していることを示す。この現象は、scFvおよびpIII遺伝子の間のアンバーコドンの存在が理由である。
【0088】
この仮説を評価するために、我々は、大きなファージ粒子を保持でき、可溶性scFvを通過させることができるMicrocon 100 Centrifugal Filter Devices (Millipore, Corporation, Bedford, MA)を用いて、MA39および抗CEA/pKM19 ファージの新規調製物を濾過した。抗M13または抗FLAG抗体を用いて行った濾過前後のファージ調製物のELISA試験は、下記のことを示す:
(i)MA39およびpKM19両方からの濾液は、実際には予測したようにファージ粒子上に提示された抗体を失う;
(ii)該遊離抗体は両調製物中に存在する(図5)。
【0089】
しかし、抗CEA/pKM19サンプル中の遊離抗体のレベルは著しく低い。このサンプル中の遊離抗体は、ファージ調製中の回避できない抗体脱落(shedding)の結果であり、これは濾過系の成分との接触の結果として増加する可能性がある;一方、MA39サンプル中の遊離抗体は遊離抗体発現および脱落と共に培地中への漏出の結果である。
【0090】
ファージ上清中の遊離抗体の拮抗能を試験するために、我々は、MA39および抗CEA/pKM19ファージのファージ上清を、既知の濃度の可溶性抗CEA抗体(図6)または両ファージの上清濾液の様々な量と(図7)競合させた。これらの2つの実験は、遊離scFvがファージ抗体と効果的に競合することを示す。MA39濾液(10μL)は、それ自身のファージ上清(10μL)および抗CEA/pKM19上清(5μL)とすでに競合するが、同じ量の抗CEA/pKM19濾液は影響しなかった。顕著な競合は、同じファージ上清[上清(5μL)に対して濾液(50μL)]と10倍過剰の抗CEA/pKM19濾液によってのみ観察される。抗FLAG抗体を用いて発色させた様々なPEG-精製したファージのウェスタンブロット分析(図8)により、
(i)MA39および抗CEA/pKM17ファージの場合にはscFv-pIII融合物および抗CEA/pKM18または抗CEA/pKM19の場合にはscFv-ΔpIIIに対応する各サンプル中の上部バンド;
(ii)MA39サンプル中の遊離抗体の顕著な存在;
(iii)先に記載されたような(Gene 1995 155(1):61-65)ファージサンプル中の分解産物の存在、を検出する。
【0091】
新規pKM19プラスミドを用いる、scFv抗体提示ライブラリーの生成および結合特異性の分離
リーダー配列中にアンバーコドンを担持するpKM19プラスミド、即ちpKM18由来物を、scFvライブラリーの作成に使用して、融合抗体の低産生により、標的分子に対する特異的抗体を効率的に選択出来るかどうかを試験した。
【0092】
scFv抗体ライブラリーを、材料および方法で説明したようにヒト末梢血リンパ球から構築した。該ライブラリーを、168aa長のSP2 Streptoccocus pneumoniae ポリペプチドのGST融合物に対して選択した(FEMS Microbiol. Lett. 2006 262(1):14-21)、これはscFvライブラリー構築に利用した血液サンプルと反応性であった。
【0093】
選択方法は、実施例2に記載したとおりに、パンニングのためにビオチン化タンパク質および結合ファージを単離するためにストレプトアビジン被覆Dynabeadsを用いて、少量のインキュベーション容量中で高濃度の標的タンパク質を作成することを目的とする。2回のパンニングラウンドの完了後、我々は、ELISAにおいてファージプールの反応性を試験した(図9)。親和性選択の第2ラウンドの後のファージプールは、融合タンパク質との反応性は高く、無関係のタンパク質、例えばタンパク質担体または選択系の成分として存在したGST、ミルクおよびストレプトアビジン、およびELISAでネガティブコントロールとして使用した全てのものとは反応しなかった。即ち、これは特異的抗体の選択の成功を示す。
【0094】
最後に、我々は、多数の陽性クローンを単離および配列決定し、正しいscFv配列を確認した。同定したscFv遺伝子の一つを、可溶性抗SP2抗体の産生のためにpKM16中にクローニングし(表5)、図6、11および12に記載した実験において無関係の抗体コントロールとして使用した。
【0095】
pKM19ベクターを用いることによる抗CEAscFv抗体の成熟
成熟ライブラリーからの親和性選択を、BMC Cancer 2006 6:41に記載のとおりに行った。図10は、CEAタンパク質に対するファージ反応性は、各成功した選択ラウンドにおいては高いことを示す。改善した反応性を有する一つのファージクローンを単離した(図10)。我々は、選択の第2ラウンド後のファージプール由来の19のランダムクローンを配列決定した。高い親和性を有するファージプールの配列決定したクローンは、その配列中にストップコドンを示したものは全くないが(19のうち0)、典型的なファージミド系クローンの70%(13のうち9)はこのような変異を含有した(P=0.00002、カイ二乗試験に従って計算した)。このように、抗CEA抗体の成熟のためのpKM19ベクターの使用により、選択結果が有意に改善された。
【0096】
成熟ライブラリー(クローン1および2)から単離した2つの抗体遺伝子を、pKM16中にクローニングし、可溶性抗体を産生し、元々の可溶性抗CEA MA39および標準的なファージミド(Pavoni et al., 2006)を用いて得た成熟したE8抗体を比較した。図11から、成熟した抗体の最も高い親和性が確認された。
【0097】
あらたに選択されたscFvに対する特異性試験は、元々の抗体と同程度の、無関係のタンパク質とその低いバックグラウンドの反応性を示す(図12)。
【0098】
実施例2:TILおよび抗体選択から得たライブラリーの構築
導入部
癌患者のリンパ節から得た提示ライブラリー由来の腫瘍特異的組換え抗体の同定が記載されている[Clin. Exp. Immunol. 1997 109(1): 166-74; Int. J. MoI. Med. 2004 14(4):729-35; World J. Gastroenterol. 2004 10(18):2619-23]。
【0099】
約7%のリンパ節由来の重鎖抗体配列および18-68%の間のTIL由来の重鎖抗体配列は、クローン群に属する(Cancer Immunol . Immunother. 2003 52(12):715-738)ことは知られている。これは、腫瘍漏出性リンパ節および腫瘍浸潤性リンパ球の両方が、腫瘍特異的抗体の可能な起源であることを示す。我々は、49-79齢の患者の10人の初期乳癌腫瘍(稀なMBC組織学的タイプではない)から得られる特異的抗体遺伝子領域のPCR増幅により、これらのサンプル10個の内の7個(70%)のものが、IgAサブクラスと比較して、重鎖抗体の超可変領域のオリゴクローン性と相関するIgG抗体発現の優勢を示し、腫瘍発現抗原に対する特異的免疫応答を示唆することを示した。腫瘍由来抗体クローンを配列分析により確認した。
【0100】
我々は、各選択において使用したED-Bドメイン、MUCl、CEAおよびMCF7乳癌腫細胞と反応性であった記載のライブラリー由来の腫瘍特異的抗体のパネルを同定した。興味深いことに、数多くの以前に記載された選択プロトコール[Int J MoI Med. 2004 14(4):729-35; World J Gastroenterol. 2004 10(18):2619-23; Int J Oncol. 2000 16(l):187-95; Cancer Res. 1999 59(11):2718-23; Biochem Biophys Res Cmmun. 2001 280(2):548-52]とは対照的に、正常な乳房上皮に対して示差的なパンニングステップ(subtractive pannnig)なしに細胞を基にした選択を行う際に、我々は、腫瘍特異的ではなく、正常な乳房上皮を同じように認識した10個のうち1つのscFvのみを単離した。これは、おそらく、我々の適度なサイズのライブラリーが、抗体鎖シャフリングによって構築した巨大抗体レパートリーよりもむしろTIL-Bによって提供された非常に制限された天然の抗体レパートリーを含有することを示す。さらに、PBLおよびTIL由来ライブラリーの混合物からの抗体選択は、細胞を基にしたパンニングにおいて、後者のライブラリーがより効率的であることを明確に示す。事実、全ての単離した抗MCF7一本鎖抗体は、腫瘍浸潤リンパ球から得られるようであった。まとめると、TIL由来ライブラリーは、行った全ての選択に良好な結果を示し、癌の治療および診断に有用な腫瘍細胞表面抗原を認識するヒト腫瘍特異的抗体のパネルを提供した。
【0101】
この試験において、我々は、新規の改善されたファージ提示ベクターpKM19の適用により、既知の腫瘍抗原および完全な腫瘍細胞に対して、腫瘍手術の際に除去された腫瘍組織の断片から得られた抗体の広範なパネルの単離を導き、これは癌治療において潜在的に有用であることを示した。これらの結果は、可溶性TIL由来抗体発現ライブラリーの直接的なスクリーニングによって得た結果と類似している(Cancer Immunol. Immunother. 2002 51(2):79-90)。直接的なスクリーニングは、ファージ増幅ステップには従属しない偏りのないスクリーニングストラテジーであり、類似した研究においては(Cancer Res. 2001 61(21):7889-99; Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2001 98(22): 12659-64; Int. J. CANCER, 2001 93:832-40)、腫瘍特異的抗体を選択することができない標準的な提示ベクターを用いて行った親和性選択と比較して、より高効率となる。我々の結果は、pKM19ベクターは、典型的な提示ベクターと比較して、選択結果を改善することを示し、そして同時に親和性選択方法論を適用するための可能性を提供し、大きなライブラリーを用いる操作性を促進することを示す。
【0102】
結論として、我々の結果は、腫瘍関連抗原に対する天然免疫応答が、組織学的に規定されたMCBだけでなく多数の乳癌患者において存在することを示す。手術材料として得た0.2g程度の少量の腫瘍サンプルを、腫瘍特異的抗体を多く含む組換えファージ提示ライブラリーの生成のための適切な源として活用できる。所望のタンパク質標的に対し、さらに生存性乳癌腫細胞に対する選択による抗腫瘍cFvsのパネルの単離は、ヒト治療抗体の開発に有望であるというこのアプローチを示す。さらに、腫瘍の微細環境において腫瘍細胞特異的抗体の産生を誘起するタンパク質標的の探索は、(i)特定患者の個々の免疫反応性についての重要な詳細を提供し、予測値を与え得る;(ii)新規腫瘍特異的抗原の発見についての大きな展望を開き得る。
【0103】
方法
組織および血液サンプル
乳癌患者(B81-B96, EC23)由来の乳癌腫および新規末梢血液の試料を、M. G. Vannini Hospital , Romeから得た。全てのヒトの生物学的サンプルをインフォームドコンセントにより得た。
【0104】
細胞系
乳癌腫細胞系MCF-7(ATCC Number: HTB-22)、MDA-MB-468(ATCC Number: HTB-132)およびSkBr3 (ATCC Number: HTB-30)、および大腸腺癌腫細胞系LoVo(ATCC Number: CCL-229)を、製造指示書に従って維持した。ヒト包皮線維芽細胞(HFF)を、10%FBSおよび1%Lグルタミンを添加したDMEM中で培養した。不死乳房上皮細胞MCF10-2A (ATCC number CRL-10781) [Cancer Res. 1990 50(18):6075-86]を、製造指示書に従って増殖させ、ELISA試験におけるネガティブコントロールとして使用した。
【0105】
精製した腫瘍抗原タンパク質
大腸癌腫および肝臓癌転移から精製したヒトCEAタンパク質を、USBiological (#C1300-16, United States Biological, Swampscott, MA)から購入した。
【0106】
フィブロネクチンのビオチン化組換えED-BドメインをSigma-Tau S.p.A.(Pomezia, Rome)から得た。
【0107】
組換えMUClタンパク質を、いくつかのステップにおいて得た。20-aa MUClリピートをコードした2つの重複するオリゴヌクレオチド KM358 5'-ACT TCA GCT CCG GAC ACC CGT CCG GCT CCG GGT TCC ACC GCT CCG CCG GCT CAC GGT GTC-3'[配列番号97]およびKM359 5'-CGG AGC CGG ACG GGT GTC CGG AGC TGA AGT GAC ACC GTG AGC CGG CGG AGC GGT GGA ACC-3'[配列番号98]を、PCR様のプロセスでアセンブリし、ここでPCR増幅の25サイクルを0.2 pM/μLのKM358およびKM359を用いて行った。次いで、高分子量のDNAバンドをアガロースゲルから切り出し、短いアダプターと連結させ、KM328 5'-CT AGT TCG TCG GGT TCG TCG GGA-3'[配列番号99]オリゴヌクレオチドおよびリン酸化したもの:KM329 5'- TCC CGA CGA ACC CGA CGA A-3' [配列番号100]をアニーリングすることによって得た。得られるDNAフラグメントを、アダプター過剰から精製し、pGEX-3X プラスミド[Gene 1988 67:31-40]から得た消化および脱リン酸化したpGEX-SN[fiat J. CANCER,. 2003 106(4):534-44]中にクローニングした。107-aa MUCl配列を含有し、5.3リピートを含有するGST融合MUC1 組換えタンパク質を、標準的な方法に従って精製した[Gene 1988 67:31-40]。
【0108】
末梢血液からのリンパ球の精製
リンパ球を、製造者指示書に従ってFicoll-Paque Plus (Amersham Pharmacia Biotech, Sweden)を用いることによって、抗血液凝固薬と混合したあらたな末梢血液(10 mL)から単離した。mRNAを、Dynabeads mRNA DIRECT Kit (Dynal, Norway)を用いることによってリンパ球から単離した。
【0109】
RNA抽出物およびcDNA合成
乳癌腫患者由来の約200 mgの腫瘍試験片を、手術廃棄サンプルとして獲得し、液体窒素中で直ぐに凍結させた。全RNAを、Total RNA Isolation System (Promega, Madison, WI)により調製し、PolyATract mRNA Isolation Systems(Promega)によりpolyARNAに精製した。乳癌腫由来のポリ(A)RNA(500ng)またはリンパ球由来のポリ(A)RNA(1μg)を使用して、SMART cDNA ライブラリー構築キット(Clontech, Palo Alto, CA)を用いることによって全長cDNAを合成した。
【0110】
PCRによる抗体遺伝子発現の分析
Hansenおよびcolleagues [Proc Natl Acad Sci U S A 2001 98(22):12659-64]による試験において設計した部位特異的プライマー5 '-GGACACGGCTCG/QTGTATTACTG-3' [配列番号101]および 5'-GCTGAGGAGACGGTGACC-3'[配列番号102]を用いることにより、超可変V(D)J抗体領域を、cDNAテンプレートからPCRによって増幅した。IgG1、IgG2およびIgAサブクラスの決定を、IgGl、IgG2およびIgA遺伝子(CG1d、CG2aおよびCA1の各々)に対する定常領域の特異的プライマー、一組の可変重鎖プライマー: VHl 35、VH3a、VH3f、VH4、VH4bを個々に組み合わせることによって、[J Immunol. 2002 169(5):2701-l l]に記載したように行った。これらのプライマーを、ヒトFabライブラリーの構築のために設計した[Barbas CF III, Burton DR (1994) Monoclonal antibodies from combinatorial libraries. Cold Spring Harbor Laboratory Course Manual]。
【0111】
ScFvライブラリー構築体
抗体遺伝子レパートリーを、VHおよびVL抗体ドメインの増幅のために設計した一組のプライマーを用いて増幅し[Pope, A.R., Embleton, MJ. & Mernaugh R. (1996) Construction and use of Antibody gene repertoires. In: Antibody Engineering - A practical approach (McCafferty, J., Hoogenboom, H. & Chiswell D., eds), pp.325, Oxford University Press]、scFv フラグメントを先に記載したように[Pope AR et al., 1996]インビトロでアセンブルした。次いで、scFvフラグメントを、pKM19ベクターへのscFv遺伝子のクローニングを可能にするNcoI、NotI制限部位を導入する適切な伸張プライマーを用いてPCRにより増幅した。得られるPCR産物を、1%低融点アガロースゲル(NuSieve 3:1 アガロース、Rockland ME)上で精製した。DNAフラグメントを、NcoI/NotIを用いて消化し、pKM19ベクター中に挿入した。連結したDNAを使用して、電気穿孔法によりコンピテントバクテリア細胞 DH5αF'(supE44 ΔlacU169(φ80 lacZΔM15)hsdR17 recAl endA1gyrA96 thi-1 relA1 F' [traD36 proAB+ lacqlacZΔMl5])を形質転換した。形質転換細胞を、LBアガー、100μg/mL アンピシリンおよび1%グルコースを含有する20枚のアガーディッシュ(φ15 cm)上に播種した。一晩37℃でインキュベーションした後、バクテリアコロニーを、プレートから擦り取り、10%のグリセロールを含有するLB中に再懸濁した。この細胞懸濁液のアリコートを-80℃で貯蔵し、ファージ増幅に使用した。
【0112】
ファージ増幅
擦り取ったバクテリア細胞(40μL)を、アンピシリンおよび1%グルコースを含有するLB(40 mL)中で、O.D.=0.2までインキュベートした。バクテリアを、遠心分離により回収し、グルコースを含まずにアンピシリンを含むLB(40 mL)中に再懸濁した。ヘルパーM13K07の約6x109pfuを、細胞懸濁液の各mLに添加し、シェイカー内で攪拌せずに37℃で15分間、さらに2時間インキュベートした。カナマイシンを、終濃度20μg/mLまで添加し、細胞を32℃でインキュベートした。ファージを、標準的なPEG/NaCl沈殿に従って精製した[Sambrook J, Fritsch EF5 Maniatis T. Molecular Cloning: A laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, 1989]。
【0113】
ファージ提示ライブラリー由来の抗体の細胞を基にした選択
MCF-7の半分の密集細胞(約 2x107)を、3回PBS緩衝液で洗浄し、2 mM EDTAのPBS溶液(2 mL)と共に15分間37℃でインキュベートした。10 mM MgCl2を含有するPBS(10mL)を細胞に加え、それらをピペットにより正確に取り出した。遠心分離により回収した細胞を、PBS/MgCl2(10 mL)で1回洗浄し、最終的に、新たに調製したブロッキング緩衝液(1 mL)[4% 無脂肪乾燥ミルク、0.05% Tween 20、5x1011 pfuのfl UV殺傷ファージ]に再懸濁した。該細胞を、回転ホイール上で30分間室温にてブロッキングし、次いで回収して、ホイール上で1時間37℃にてブロッキング緩衝液(1mL)中の新たに増幅したscFv 抗体ライブラリーの約5x1011 TUと共にインキュベートした。該細胞を5回PBS/Tweenで洗浄した。結合したファージを、0.1 M HCl(400 μL,pH 2.2)(グリシンにより調整した)を添加することによって溶出した。細胞懸濁液を、溶出溶液と共に10分間室温でインキュベートし、2M Tris-HCl(pH 9.6, 40μL)によって中和し、バクテリア細胞の感染に使用した。バクテリアを、アンピシリン(100μg/mL)および1% グルコースを含有する2枚のLBアガーディッシュ(φ15 cm)上に播種した。擦り取ったバクテリアをファージ増幅に使用した。
【0114】
精製したタンパク質標的に対する親和性選択
CEAおよびMUClを、[Harlow E. & Lane D. Antibody: A laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, 1988]に記載したようにビオチン化した。約5xlO11 TU の新たに増幅したscFv抗体ライブラリーを、ブロッキング緩衝液中のAD202 バクテリア抽出物(50 μL)と共に30分間37℃でプレインキュベーションした。ビオチン化タンパク質の20γを該反応混合物に添加し、穏やかな攪拌下でさらに一時間37℃でインキュベートした。結合したファージを、製造者指示書に従ってストレプトアビジン被覆化 Dynabeads M-280 (112.05, Dynal, Oslo, Norway)を用いて捕捉し、PBS/Tweenで5-10回洗浄し、次いで溶出し、上記のとおり増幅させた。
【0115】
ELISA実験
細胞を、96ウェルプレートで大部分が密集するまで増殖させた。増殖培地を廃棄した後、新たに調製したPBS中4%パラホルムアルデヒド(#15710, Electron Microscopy Science, Hatfield, PA)(100μL)を、すぐに10分間添加した。固定化溶液をピペットにより取り除き、細胞をブロッキング緩衝液と共に30分間室温でインキュベートした(5%ミルク, PBS中で0.05% Tween 20)。ブロッキング緩衝液中のPEG精製ファージ(1:1)を細胞に添加し、穏やかな攪拌下に1時間37℃でインキュベートした。該細胞を3回洗浄し、抗M13 HRP標識抗体(Pharmacia)をこの反応を発色するために使用した。全てのアッセイを3回行った。
【0116】
免疫蛍光染色
細胞を細胞培養のために24ウェルプレート中で増殖させ(Nunc, Roskilde, Denmark)、上記のとおりに固定し、1時間室温でPBS中の3% BSAを用いてブロッキングした。1% BSA/PBS中のPEG精製ファージを該細胞に添加し、穏やかな攪拌下に37℃で1時間インキュベートした。該細胞を1%BSA/PBSにより3回洗浄し、抗M13マウスモノクローナル抗体(27-9420-01, Amersham Biosciences)を30分間37℃でインキュベートした。該細胞を上記のとおり洗浄し、次いでFITC標識抗マウスヤギポリクローナル抗体(554001, BD Biosciences Pharmingen, San Jose, CA)と共に5μg/mLの濃度で穏やかな攪拌下に37℃30分間インキュベートした。最終のインキュベーション後、細胞を5回洗浄し、暗所で乾燥させ、Vectashield培地(Vector Laboratories, Lie. Burlingame, CA)およびカバーガラスを用いて標本とし、倒立型蛍光顕微鏡を用いて分析した。全ての抗体を表5に明示する。
【0117】
結果
乳房腫瘍サンプル中のリンパ血漿細胞の特徴付け
V(D)J 抗体セグメント(CDR3)のPCR増幅により、およびIgGおよびIgA抗体クラスの発現量の比較により、TIL-Bの存在および性質について乳癌患者由来の10人の腫瘍試験片(47-79年齢)を試験した。
【0118】
抗体フラグメント遺伝子の発現パターンを、SMART cDNA テンプレートからの半定量PCRによって分析した。10個の乳癌腫由来のcDNAのパネル、健康なドナー由来の正常な乳房、正常な精巣および末梢血リンパ球サンプル由来のcDNAのパネルを、ハウスキーピング遺伝子、βアクチンのPCR増幅により標準化し、図13Aに示した。
【0119】
超可変重鎖抗体領域(V(D)J)を材料および方法に記載のとおりに増幅した。アガロースゲル電気泳動による分析の後、同じPCR産物を高分解能の10%PAGEにより分画した(図13B)。この技術を用いる際に、我々は、10個の腫瘍由来サンプルの内の7個はこれらの患者における免疫応答のオリゴクローン性を特徴付ける多様な異なるバンドを含有するが、十分に増幅された正常な乳房および末梢リンパ球のDNAフラグメントは強いバンドを含有せず、様々な長さのバンドからなる染色標本を形成しないことを確認した。免疫グロブリンの観察されたオリゴクローン性は患者の年齢とは相関しない。
【0120】
抗体のサブクラス分布を分析するために、我々は、サブクラス特異的プライマーを用いて、乳癌腫cDNAおよび正常な乳房由来のIg遺伝子を増幅させた。前記アッセイと一致して、PCR増幅したV(D)J領域においてオリゴクローナルバンドを含有しない3つのcDNA腫瘍サンプルは、IgG1およびIgG2バンドと比較して、IgAが主要Igクラスを一般的に提示する正常な乳房のサンプルと同様に(Br. Med. J. 1976 2(6034):503-506)、IgAバンドの優勢を示す。一方で、最初のアッセイにおいてオリゴクローン性を示すサンプルは、正常な乳房とは対照的に、優勢な抗体バンドとしては、IgG1を含有するか、またはIgG1およびIgG2の両方を含有する。図14は、正常な乳房サンプルと共に4つのより特徴的な例を示す。
【0121】
配列決定により確認した乳癌患者におけるTIL-B由来抗体のオリゴクローン性
我々は、V(D)J試験において最も強い一本のバンドを示す2つのcDNAサンプル(B92、B93)を配列分析のために選択した。各々B92およびB93cDNAから得られるγ抗体遺伝子を含有するクローンを無作為に選抜した17および13のヌクレオチド配列を決定し、そのアミノ酸配列を推定した。フレーム内にコードされた全ての30のクローンは重鎖を正しく編成した。高頻度で、単離抗体(B92-AおよびB93-A1)は、図13B(B92およびB93サンプルを有する列)で先に観察された強力なバンドに対応するこの正確な長さのV(D)J領域を含有した(図15)、即ち可変重鎖プライマーを用いるPCR増幅およびクローニング工程の両方は、構築したライブラリーにおいて重鎖頻度と干渉するいずれの特定の偏りをも組み込まないということを示す。
【0122】
図15に示したように、6つの体細胞変異を抗体フラグメントにおいて同定した。これらの変異は、同じ特異性を有するγ鎖の可変CDRに局在しており、一方一つの変異のみが可変領域以外に見出される(P=0.0002)。従って、腫瘍組織から得られる抗体レパートリーのオリゴクローン性は、腫瘍抗原によって駆動される腫瘍組織内で起こる天然の免疫応答であって、PCR増幅により導入された人工的な結果ではない。
【0123】
ライブラリー構築
4つのscFv抗体ライブラリーを、免疫応答のオリゴクローン性を特徴とするテンプレートとして7つのcDNAを用いて構築した(表2に記載のライブラリーのリストを参照されたい)。ライブラリーscFvEC23(実施例1に記載)のみを、乳癌の進行段階にある一人の患者から得た末梢血リンパ球から構築した。
【0124】
表2.ScFv-抗体ライブラリーリスト
【表2】

【0125】
TIL-BおよびPBLから生成したファージ提示ライブラリー由来の特異的抗腫瘍抗体の選択
フィブロネクチンのED-Bドメイン[EMBO J. 1987 6(8):2337-42]、MUCl[Cancer Res. 1992 52(22): 6365-70; Hum Pathol. 1995 26(4):432-9]、およびCEA[J. Clin. Lab. Anal. 5: 344-366; Semin Cancer Biol. 1999 9:67-81; Cancer Res. 2002 62:5049-5057]を含む、共通の癌抗原に対するファージライブラリーからの特異的抗体フラグメントを選択する可能性を直接試験した。材料および方法に記載した条件下で、mixTILライブラリー(表2)と呼ぶ4つのTIL由来scFv抗体提示ライブラリー(scFvB87、scFvB95、scFvB96およびscFvmix)の混合物およびscFvEC23ライブラリーを、数ラウンドにおいて3つのタンパク質の標的に対して別々に選抜した。各ケースで、我々は、ファージプールが、パンニングの第2および第3ラウンドの後の選択抗原に対して既に陽性であったことを観察した(図16)。無作為に選抜したクローンを、抗原に対する結合反応性について試験した。第3ラウンドのファージプールからのランダムファージクローンの試験結果を表3にまとめた。陽性クローンを、HaeIIIおよびAluIの二重消化を用いるフィンガープリントによって分析し、特異な抗体クローンを配列決定した。図17は、精製抗原で選択した一つのscFv-ファージのELISAを示す。分析した一つのクローンは、各抗原を強力に結合し、無関係のタンパク質とは反応しない。この結果から、pKM19ベクターは、TILおよびPBL由来ライブラリーからの抗腫瘍抗体の選択のための適切なツールであることが示された。
【0126】
表3. 3つの精製した腫瘍抗原の使用による選択の結果
【表3】

【0127】
腫瘍特異的抗原の細胞を基にした選択
我々は、MCF-7乳癌腫細胞系で細胞を基にしたパンニングにより乳癌特異的抗体を選択することによって、一つのTIL由来ライブラリー(scFvB96)の機能性を試験した。scFvB87、scFvB95、scFvmixおよびscFvEC23を包含する4つのライブラリーを一緒にプールし(mixLIBと称するライブラリー、表2)、同じタイプの細胞に対してパンニングした。MCF-7細胞に対する第4または第5の選択ラウンドは、特異的な細胞バインダーについてファージプールを多く含むために(図18)、mixLIBまたはscFvB96ライブラリー各々に必要であった。従って、ランダムに選抜したクローンを、全てのscFv抗体の存在について分析した。完全長scFv-ファージクローンを、細胞を基にしたELISAにより試験し、フィンガープリントにより分析し、様々な陽性クローンを配列決定した。アミノ酸配列をDNA配列から推定し、正しいフレーム内の抗体構造を確認した。クローン分析データを表4にまとめた。
【0128】
表4.無傷/生存ヒト乳癌腫MCF7細胞での選択の結果
【表4】

【0129】
細胞選択抗体の反応性および特異性を、両方の乳癌腫細胞系;MCF-7、MDA-MB-468、およびネガティブコントロールとして正常な細胞:MCF10-2A (ヒト乳房上皮)、HFF(ヒト繊維芽細胞)に対してELISAによって評価した(図19)。7つの特異性の群に属している10の様々な選択されたscFv抗体(mix7、mixl2、mix25抗体は、同じ重鎖配列および異なる軽鎖を持つ;mix8およびmix39抗体は少しの差違を有する類似配列を持つ)のうち、9つは乳癌腫細胞に特異的であるが、B96/4F scFv抗体のみは正常な上皮細胞とも同様に結合する。
【0130】
TILから得た細胞選択抗体
mixl l、mixl2、mixl7、mix23およびmix39 scFv 抗体(表4)を、PBLおよびTIL由来ライブラリーの混合物から選択した。我々は、このタイプのライブラリーが同等の選択条件において良好に働くことを理解するために、これらの抗体の起源を調べた。各増幅ライブラリー(1μL)を、各抗体に特異的な一対のオリゴヌクレオチドプライマーを用いるPCR増幅のためのテンプレートとして使用した(図20)。この分析により、ライブラリーの混合物から単離したこの5つの試験したscFv抗体は、TIL-由来抗体に属することであるということが示される。mix7およびmix25抗体(mixl2と同一重鎖を有する、表5)およびmix8(mix39に類似、表5)の抗体遺伝子は、同様の起源を有すると考えられる。scFvEC23ライブラリーから選択された無関係の抗SP2抗体について、PBL由来ライブラリーからその起源を確認した。4つのTIL由来ライブラリーの混合物(mixTIL)から選択された抗MUCl MB5および抗CEA CB37抗体は、各々scFvmixおよびscFvB96ライブラリーから得られることが示された。
【0131】
腫瘍細胞の蛍光染色
mix17、mix7(図21)、抗Mucl抗体MB5および抗CEA CB37(図22)を包含するいくつかのクローンの結合特異性を、ファージ上に提示されたscFv抗体との直接的な腫瘍細胞の免疫蛍光染色によってアッセイした。この実験において、Mix17scFvは大部分の非浸潤性MCF7 乳癌腫細胞を認識し(図21 A)、mix7は低割合にて細胞、おそらくアポトーシス細胞を染色する。
【0132】
MB5抗体は、高MUCl発現として知られるMCF7細胞を強く染色し、別の乳癌腫細胞系であるSkBr3と十分反応する(図22)。CB37抗体はLoVo細胞を染色する。正常な乳房上皮に対するバックグラウンドの染色はMB5およびCB37抗体の双方について観察されなかった。
【0133】
実施例3:抗MUC1および抗CEA scFv 抗体の成熟
腫瘍特異的抗体CB37およびMB5の親和性を増強するために、我々はインビトロで抗体の親和性成熟を行った。新規成熟ライブラリーを、CB37およびMB5各々から得た一本のVH鎖の遺伝子と、腫瘍患者のTILおよびPBLから得たVL鎖の様々な遺伝子とを組み合わせて構築した。該ライブラリーを、実施例1および2に記載したとおりに構築した。
【0134】
方法
親和性選択
親和性選択を、親和性選択の第1ラウンドに対して、我々はタンパク質を10μg使用し、第2ラウンドでは50ngのみを使用するという違いを用いて、実施例2に記載したようにビオチン化タンパク質を用いて行った。ELISAにおいて陽性であることが判ったクローンを、制限酵素AluIおよびHaeBIを用いるPCRおよびフィンガープリントによりスクリーニングし、様々なクローンを同定した。該クローンのDNA配列を決定した。標的タンパク質に対して元々の抗体よりも高い反応性を示すクローンからの抗体遺伝子を、pKM16中にクローニングし、実施例1に記載したように可溶性形態でscFvを産生した。
【0135】
成熟した抗体の特徴付け
成熟した抗体フラグメントを抗原結合について特徴付けた。
可溶性形態にある、新規抗MUC1抗体 MB5/C'1およびMB5/C'3および抗CEA成熟抗体CB37/3BおよびCB37/9C(表5)を、BMC Cancer 2006 6:41に記載したように表面プラスモン共鳴(Biacore)により特徴分析した。結果を表6に示す。
表5. 選択された抗体。MixTILおよびMixLIBは表2に規定したライブラリーの混合物である。
【表5−1】

【表5−2】

【表5−3】

【表5−4】

【表5−5】

【表5−6】

【表5−7】

【表5−8】

【表5−9】

【表5−10】

【表5−11】

【表5−12】

【表5−13】

【表5−14】

【表5−15】

【0136】
表6.親および親和性成熟した一本鎖抗体の反応速度値。
親の抗CEA抗体CB37は、可溶性形態では安定でない。成熟した一本鎖抗体はナノモルの親和性を示す。K=結合定数、K=解離定数、KD=Ka/Kd、SE=標準誤差。データはモル表示である。
【表6】

【0137】
Biacoreを用いるこの試験を、scFv-抗原結合および解離反応速度の定量測定を提供した。
表6は、親のおよび親和性成熟したscFvの反応速度的値を報告するものである。成熟した抗MUCl抗体MB5/C'1およびMB5/C'3は、MB5と比較して、抗原に対して各々42倍および17倍以上高い親和性を有する。成熟した抗CEA抗体CB37/3BおよびCB37/9Cは、ナノモルの親和性を示す。さらに、成熟した抗体は、可溶性形態においては反応性でなかった元々のCB37よりもより安定である。これらの結果は、pKM19ベクターがscFv抗体の成熟に適切なツールであることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】図1は、図1は、scFv形態において可溶性抗体の産生に有用なpKM16 プラスミドの主なエレメント、およびファージ提示抗体の産生に有用なpKM17、pKM18およびpKM19プラスミドの主なエレメントを図示するものである。これらのプラスミドは、pLacプロモーターの制御下にある抗体発現を導く。独特のNcoIおよびNotIクローニング部位により、抗体遺伝子の挿入が可能となり、微生物ペリプラズム酵素、アルカリフォスファタ−ゼ(PhoAリーダー)のリーダーペプチドを有する一本鎖抗体を発現できる。プラスミドpKM17は、完全なタンパク質pIII(406 aa)をコードしており、プラスミドpKM18およびpKM19はpIII(197 aa)]のC末端部分をコードする。プラスミドpKM19は、PhoAリーダー中にアンバーコドンを含有する。
【図2】図2は、pKM19 ファージミドベクターの詳細な構造を説明するものである。為された特異的修飾は、図内に示され、文章により説明される。
【図3】図3は、pKM16プラスミドを用いる可溶性scFv産生を示す。pKM16においてscFv抗癌胎児性抗原(CEA)遺伝子をクローニングすることにより得た3つの独立したクローンを、可溶性scFv産生について試験した(ゲルの列1-3)。ペリプラズムタンパク質画分を、凍結および溶解方法によりバクテリアから精製した。タンパク質サイズマーカーが包含される。ウェスタンブロット膜を、抗FLAG AP結合二次抗体を用いて発色させた。可溶性scFv抗体に対応するバンド(予測分子量26 kDa)は、24.5および35.9 kDaバンドの間を移動した。
【図4】図4は、古典的なファージミド系との比較における、pKM17、pKM18およびpKM19プラスミドの提示効率を示す。3つの異なるプラスミドにより提示した抗CEA scFv 抗体を、CEAタンパク質に対するELISAによりアッセイし、MA39ファージ(抗CEA/pDN322)と比較した。抗体フラグメントを提示しないヘルパーファージ、M13K07を、ネガティブコントロールとして包含した。報告したデータは、2回行ったアッセイの平均値である。アスタリスクにより標識した最高のファージ濃度は、全てのファージについて1011TUであり、抗CEA/pKM17については3x1010TUである。ELISAを、抗M13(パネルA)、あるいは抗FLAG二次抗体(パネルB)を用いて行った。
【図5】図5はファージサンプルの濾過を示す。約2x1011TU/各調製物のウェルまたは対応する濾液サンプルの量をELISAにおいて試験し、抗M13(パネルA)または抗FLAG(パネルB)二次抗体のいずれかを用いて発色した。報告したデータは、2回行ったアッセイの平均値である。データは、CEAに対する濾液の反応性を、非濾過サンプル(100%)の元の反応性のパーセントとして示す。
【図6】図6は、可溶性抗CEA scFvを用いる競合を示す。MA39(10 μL)および抗CEA/pKM19(5 μL)ファージの新たに調製した上清を、様々な量の精製した可溶性抗CEA抗体と競合させた。該データを、競合剤を含まない上清の反応性の%として表した。無関係の可溶性抗SP2 scFvを、ネガティブコントロールとして使用した。
【図7】図7は、ファージ上清の濾液との競合を示す。MA39(10 μL)および抗CEA/pKM19(5 μE)ファージの新たに調製した上清を、同ファージ上清の濾液(10μLまたは50μL)と競合させた。該データを、競合剤を含まない上清の反応性%として表した。
【図8】図8は、PEG-精製した組換えファージのウェスタンブロットを示す。約5x109PFUのファージ MA39、抗CEA/pKM18および抗CEA/pKM19、および1x109 PFUの抗CEA/pKM17からのタンパク質抽出物をSDS-PAGEにより分画し、ニトロセルロース膜上に移した。膜ストリップを、抗FLAG-AP結合抗体を用いて発色させた。タンパク質サイズマーカーを含む(最終ストリップ)。scFv-pIII(66.1 kDa)およびscFv-ΔpIII(45.2 kDa)タンパク質は、最初に記載したpIIIタンパク質の異常部分のために(Goldsmith および Konigsberg, 1977)、高分子量バンドとして移動する。
【図9】図9は、SP2-GSTタンパク質に対する選択を示す。scFvEC23ライブラリーをパンニングする第1および第2ラウンドから得たファージプールの反応性を示す。選択系中に存在するGST(グルタチオンS-トランスフェラーゼ)、ミルクおよびストレプトアビジンを、ネガティブコントロールとして含む。報告したデータは、2回行ったアッセイの平均値である。各調製物の一つのウェルあたり3x109TUをELISAにて試験してから、ファージ投入量を標準化した。
【図10】図10は、成熟ライブラリー由来の成熟抗CEA遺伝子の親和性選択を示す。このアッセイにおいて、陽性シグナルを抑え、選択過程中の高反応性を可視化するために、陽性免疫反応を抗FLAG AP結合二次抗体によって行った。抗体フラグメントを提示しないヘルパーファージであるM13K07を、ネガティブコントロールとして含めた。CEAおよび無関係のGSTタンパク質に対して試験した、pKM19 (抗CEA/pKM19)、成熟ライブラリー(Lib)、選択の第1および第2ラウンド(Iラウンド、IIラウンド)後のファージのプール、親和性選択の第2ラウンド後のファージプールからのシングルクローン(cl.l、cl.2)における元々の抗CEA抗体の反応性を示した。報告したデータは、2回行ったアッセイの平均値である。ファージ投入量を標準化した。各調製の一つのウェルあたり約3x1010TUを、ELISAで試験した。
【図11】図11は、可溶性成熟scFvのELISA反応性を示す。様々な量の可溶性抗体をCEA被覆プレートでアッセイした。結合scFvを、抗FLAG二次抗体を用いて発色した。報告したデータは、2回行ったアッセイの平均値である。先に得られた無関係の抗SP2抗体および成熟した抗CEA E8抗体(Pavoni et al., 2006)をコントロールとして包含した。
【図12】図12は、成熟したクローンの特異性を示す。可溶性形態で元のおよび成熟した抗体のウェルあたり約250ngを、CEAおよび多様な無関係のタンパク質を用いてアッセイした。無関係の抗SP2抗体をネガティブコントロールとして包含した。報告したデータは、2回行ったアッセイの平均値である。
【図13】図13は、TIL誘導性抗体遺伝子のV(D)J分析を示す。A.10人の異なる腫瘍サンプル(患者B84、B85、B87、B89、B90、B91、B92、B93、B95、B96)から、正常な乳房、正常な精巣から、および4人の健康なドナー(Ll、L2、L3、L4)由来のリンパ球から得られたSMART cDNAを、V(D)J 抗体領域の増幅のためのテンプレートとして使用した。cDNAのサンプルを、β-アクチン ハウスキーピング遺伝子の増幅により標準化した。V(D)Jフラグメントは、正常な精巣cDNAを除いて全テンプレートから十分に増幅された。B. 同じPCR産物をDNAバンドについて高解析能を示すPAGEにより分画した。
【図14】図14は、抗体サブクラスの分布を示す。V(D)J試験でオリゴクローナルバンドを示さないPCR増幅した正常な乳房およびB84cDNAサンプルは、IgG1およびIgG2(左側のパネル)と比較して、IgA バンドの優勢を示すが、先の試験で強いオリゴクローナルバンドを示す3つのサンプル(B91、B92およびB93)は、IgA(右パネル)と比較して、IgG1、または両IgG1およびIgG2バンドの優勢を示す。
【図15】図15:30ランダムクローンの可変領域のアミノ酸配列は、B92およびB93cDNAから得られたγ鎖抗体遺伝子をクローニングすることによって得られた。ペプチド配列は一文字コードで示される。類似クローンにおいて同一アミノ酸はダッシュによって示されている。
【図16】図16は、ED-B、MUClおよびCEAタンパク質に対する選択を示す。元々のライブラリーと比較して、パンニングの第2および第3ラウンドから得たファージプールの反応性を試験した。GSTは、ネガティブコントロールとして含まれる。選択に使用した標的タンパク質として6Hisテイルを有する別のネガティブコントロールであるタンパク質Dを、ED-B パンニングの場合に使用した。報告したデータは2回行ったアッセイの平均値である。ライブラリーScFvEC23をPBLから得る。MixTILは、表1に示した4つのTIL誘導性ライブラリー(ScFvB87、ScFvB95、ScFvB96およびScFvmix)の混合物である。
【図17】図17は、scFv抗体を提示した一つのファージクローンのELISA反応性を示す。選択の第3ラウンド後の、ED-B(クローンEDE1、EDE3、EDE5、EDB5、表5)、MUCl(クローンME1、ME2、MB5、表5)およびCEA(クローンCB3、CB37、CB40、CB41、CB53、CB60、表5)に対して選択した一つのファージクローンの反応性を、各タンパク質を用いて試験した。報告したデータは2回行ったアッセイの平均値である。いくつかの無関係のタンパク質および抗SP2の無関係のファージ抗体はネガティブコントロールとして包含される。
【図18】元々のライブラリーと比較して、パンニングの第4および第5ラウンドから得たファージプールの固定した乳癌腫(MCF7)およびヒト繊維芽(HFF)細胞に対する細胞を基にしたパンニング反応性を試験した。報告したデータは、3回行ったアッセイの平均値である。ライブラリーscFvB96およびmixLIBを表2に明示した。
【図19】図19は、一つのファージクローンの固定化細胞に対する細胞ELISA反応性を示す。報告したデータは、3回行ったアッセイの平均値である。無関係の抗SP2抗体を用いて発色する細胞をネガティブコントロールとして包含する。MCF7およびMDA-MB-468:固定した乳癌腫細胞;HFF:ヒト繊維芽細胞およびMCF10-2A:正常な乳房上皮細胞。
【図20】図20は、抗MCF7scFv抗体の起源を示す。各scFvファージライブラリー(1μL)を、分析した抗体遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCRにより増幅した。対応するPEG-精製したファージをポジティブコントロールとして使用した(最終列)。scFvEC23ライブラリーから先に選択した;PBLから得られた、既知の起源の無関係の抗SP2抗体遺伝子も試験した。抗MUClMB5抗体および抗CEACB37抗体を、TILから得たライブラリーの混合物から選択した。mix11、mix12、mixl7およびmix39抗体を、TIL由来およびPBL由来ライブラリーの混合物から選択した。抗体を表5に明示した。
【図21】図21は、ファージ提示型scFv抗体(mixl7(A)、mix7(B))による非透過性乳癌腫MCF7および正常な乳房上皮MCFl 0-2A固定化細胞の蛍光染色を示す。
【図22】図22は、A.ファージ提示型抗MUCl MB5 scFv 抗体を用いる乳癌腫細胞MCF7、SkBr3発現MUCl腫瘍抗原および正常な乳房上皮細胞 MCF10-2Aの蛍光染色;B.ファージ提示型抗CEA CB37 scFv 抗体による結腸直腸腺癌細胞LoVo発現CEAの染色を示す。ネガティブコントロールMCF 10-2 A細胞の染色が含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発現レベルを低下させることができる少なくとも1つのエレメントを含有すること、および/または該組換え抗体の提示に関する改善された効率を有することを特徴とする、組換え抗体の効率的な選択および/または成熟に適切なベクター。
【請求項2】
組換え抗体が、ScFv、Abの活性フラグメント、Abのヒト化配列を包含する、請求項1記載のベクター。
【請求項3】
ベクターが、プラスミド、ファージミドまたはファージである、請求項1記載のベクター。
【請求項4】
組換え抗体の発現レベルを低下させることができるエレメントが、
a)リーダーペプチドまたは抗体コード配列のいずれかの内側の抑制されたストップコドン;
b)該抗体コード配列の転写を駆動する低効率プロモーター;
c)該抗体コード配列の転写を駆動するプロモーターの阻害剤、
の群に属する、請求項1〜3のいずれかに記載のベクター。
【請求項5】
組換え抗体の提示に関する改善された効率が、
a)組換え抗体コード配列を、pIIIタンパク質のC末端部分をコードする配列と融合させること;および/または
b)大腸菌のアルカリフォスファタ−ゼのリーダーペプチドを、組換え抗体のリーダーペプチドとして使用すること;および/または
c)組換え抗体コード配列およびpIIIコード配列の間のあらゆるアンバーコドンを排除すること、
によって得られる、請求項1〜4のいずれかに記載のベクター。
【請求項6】
配列番号1のヌクレオチド配列を有する、請求項1記載のファージミドベクター。
【請求項7】
請求項1記載のベクター中にcDNAをクローニングすることにより得られた、ファージ提示抗体ライブラリー。
【請求項8】
cDNAが抗体産生細胞から抽出される、請求項7記載のライブラリー。
【請求項9】
抗体産生細胞が腫瘍浸潤リンパ球(TIL)または末梢血リンパ球(PBL)である、請求項8記載のライブラリー。
【請求項10】
抗体産生細胞が腫瘍罹患対象から単離される、請求項9記載のライブラリー。
【請求項11】
腫瘍罹患対象が乳癌罹患対象である、請求項10記載のライブラリー。
【請求項12】
合成または半合成抗体ライブラリー、または抗体の親和成熟について変異したライブラリーからなる、請求項7記載のライブラリー。
【請求項13】
抗原または複雑な多成分の生物学的構造を認識できる、請求項7記載のライブラリーから選択された抗体。
【請求項14】
複雑な多成分の生物学的構造が細胞または細胞膜またはMCF7 乳癌腫細胞である、請求項13記載の抗体。
【請求項15】
抗原がMUCl腫瘍抗原、CEA腫瘍抗原(癌胎児性抗原)を含む群から選択される、請求項13記載の抗体。
【請求項16】
抗体が単鎖または二本鎖形態である、請求項13-15いずれかに記載の抗体。
【請求項17】
実質的に配列番号3のアミノ酸配列からなるMB5 scFv抗体である、請求項15記載の抗体。
【請求項18】
実質的に配列番号5のアミノ酸配列からなるMB5/C'1 scFv抗体である、請求項15記載の抗体。
【請求項19】
実質的に配列番号7のアミノ酸配列からなるMB5/C'3 scFv抗体である、請求項15記載の抗体。
【請求項20】
実質的に配列番号9のアミノ酸配列からなるCB37 scFv抗体である、請求項15記載の抗体。
【請求項21】
実質的に配列番号11のアミノ酸配列からなるCB37/9C scFv抗体である、請求項15記載の抗体
【請求項22】
実質的に配列番号13のアミノ酸配列からなるCB37/3B scFv抗体である、請求項15記載の抗体。
【請求項23】
実質的に配列番号15のアミノ酸配列からなるB96/11L scFv抗体である、請求項14記載の抗体。
【請求項24】
実質的に配列番号17のアミノ酸配列からなるmix7 scFv 抗体である、請求項14記載の抗体。
【請求項25】
実質的に配列番号19記載のアミノ酸配列からなるmixl7 scFv抗体である、請求項14記載の抗体。
【請求項26】
実質的に配列番号21のアミノ酸配列からなるmix39 scFv抗体である、請求項14記載の抗体。
【請求項27】
治療上、診断上または免疫原の目的のための、請求項13-26いずれかに記載の抗体の使用。
【請求項28】
適当な医薬組成物を調製するための、請求項13-26いずれかに記載の抗体の使用。
【請求項29】
一つの可変重鎖(VH)コード配列が可変軽鎖(VL)コード配列と共にコトランスフェクトされており、組換え抗体が親和性について選択されている成熟ライブラリーを得るための、請求項13-26いずれかに記載の抗体の使用。
【請求項30】
ネイティブ抗原を擬態することができる組換えおよび/または合成ペプチドを選択するための、請求項13-26いずれかに記載の抗体の使用。
【請求項31】
請求項30記載の抗体によって選択されたネイティブ抗原を擬態することができる、組換えおよび/または合成ペプチド。
【請求項32】
ワクチン、診断試薬を作成するための、請求項31に記載の組換えおよび/または合成ペプチドの使用。
【請求項33】
適当な医薬組成物を製造するための、請求項31記載の組換えおよび/または合成ペプチドの使用。
【請求項34】
請求項1記載の抗体をコードしている、核酸。
【請求項35】
MUCl腫瘍抗原抗体をコードしている、請求項34記載の核酸。
【請求項36】
配列番号2、配列番号4または配列番号6のヌクレオチド配列を有する、請求項35記載の核酸。
【請求項37】
CEA腫瘍抗原抗体をコードしている、請求項34記載の核酸。
【請求項38】
配列番号8、配列番号10または配列番号12のヌクレオチド配列を有する、請求項37記載の核酸。
【請求項39】
MCF7乳癌腫細胞抗体をコードしている、請求項34記載の核酸。
【請求項40】
配列番号14、配列番号16、配列番号18または配列番号20のヌクレオチド配列を有する、請求項39記載の核酸。
【請求項41】
請求項1記載のベクターにより形質転換されている、宿主細胞。
【請求項42】
請求項1記載のベクターをクローニングベクターおよび発現ベクターとして使用する工程を含む、組換え抗体の選択および/または成熟を改善するための方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2009−521241(P2009−521241A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−548090(P2008−548090)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【国際出願番号】PCT/IT2006/000876
【国際公開番号】WO2007/074496
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(591043248)シグマ−タウ・インドゥストリエ・ファルマチェウチケ・リウニテ・ソシエタ・ペル・アチオニ (92)
【氏名又は名称原語表記】SIGMA−TAU INDUSTRIE FARMACEUTICHE RIUNITE SOCIETA PER AZIONI
【出願人】(306032202)テクノジェン・ソシエタ・ペル・アチオニ (5)
【氏名又は名称原語表記】TECNOGEN S.p.A.
【Fターム(参考)】