説明

抗体の製造方法及びそれに用いる免疫原性組成物

【課題】抗体に結合するアミノ酸配列を有するペプチド或いはポリペプチドに対して、より効率の良い免疫の惹起が可能な免疫方法等を提供する。
【解決手段】同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを免疫原として免疫し、前記ペプチド或いはポリペプチドに結合する抗体を惹起させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の製造方法及び免疫方法並びにそれらに用いる免疫原性組成物及び免疫用製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチド或いはポリペプチドにより免疫を惹起する場合、ペプチド或いはポリペプチドをキャリアー蛋白と呼ばれるもの(キーホールリンペットヘモシアニン、サイログロブリン、破傷風毒素等)に結合し免疫する方法を取っている。しかしながら、キャリアー蛋白に対する免疫が上昇し、効率よくペプチド或いはポリペプチドに対する免疫が惹起されない場合が多かった(特許文献1、非特許文献1)。
【0003】
また、化学合成したペプチド或いはポリペプチドを抗原として用いて免疫する方法は、天然に存在する蛋白質を分離精製する必要も無く、また組換え体を作製する必要も無い為、生物学的に安全に且つ簡便に行える方法である。しかし、ペプチド或いはポリペプチドそのものを免疫に用いた場合、抗原提示細胞への取り込みが出来ず多くの場合免疫が成立しない。さらに、T細胞エピトープとしてMHCクラスII分子に提示される効率も悪い為、免疫を活性化するヘルパーT細胞も効率よく誘導できなかった(非特許文献2、3)。
【0004】
よって、合成したペプチド或いはポリペプチドを化学反応によりキャリアー蛋白と呼ばれる物質に結合させ、そのキャリアー蛋白の助けを借りて抗原提示細胞等への取り込みや抗原提示細胞表面上のMHCクラスII分子へのT細胞エピトープの提示を行うという方法で、従来は免疫を行っていた(非特許文献4)。
【0005】
この場合、キャリアー蛋白の免疫原性が高いことにより、惹起される免疫がキャリアー蛋白に対するもので占められ、ペプチド或いはポリペプチドに対する免疫は非常に低くなることが多かった(特許文献1、非特許文献1)。また、キャリアー蛋白に対する惹起免疫により、ペプチド或いはポリペプチドに対する免疫が抑制されることも考えうる。このようなことから、より効率よくペプチド或いはポリペプチドに対して免疫を惹起する方法の開発が、生化学実験及び医学・医療分野にて、必要となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−277297号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Immunol. 135, 2319 (1985)
【非特許文献2】J.Immunol. 164, 625 (2000)
【非特許文献3】ジャネット・M・デッカー(Janet M. Decker, PhD)著、免疫学の個別指導(Immunology Tutorials)、ワクチン(Vaccines)、[online]、最終更新日:2006年1月17日、アリゾナ大学(THE UNIVERCITY OF ARIZONA)、[平成21年9月24日検索]、インターネット<http://microvet.arizona.edu/courses/mic419/Tutorials/vaccines.html>
【非特許文献4】Infect. Immun. 60, 3947 (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した免疫方法に係る問題が解決された、ペプチド或いはポリペプチドに対してより効率の良い免疫の惹起が可能な免疫方法、及びそれによる抗体の製造方法やそれに用いる免疫源組成物等の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ある種の工夫をして免疫すると、ペプチド或いはポリペプチドに対する免疫効率が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、次の(1)〜(11)に存する。
(1)同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを免疫原として動物へ接種し、前記ペプチド或いはポリペプチドに結合する抗体を惹起させることを特徴とする抗体の製造方法。
(2)前記動物への接種が、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを同時に用いて行われる、(1)に記載の方法。
(3)前記動物への接種が、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを個別に用いて一定時間をおいて行われる、(1)に記載の方法。
(4)前記同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドが、エピトープ及びミモトープよりなる群から選ばれるペプチドである、(1)〜(3)の何れかに記載の方法。
【0011】
(5)同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを免疫原として用いることを特徴とする免疫方法。
(6)前記免疫が、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを同時に用いて行われる、(5)に記載の方法。
(7)前記免疫が、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを個別に用いて一定時間をおいて行われる、(5)に記載の方法。
(8)前記同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドが、エピトープ及びミモトープよりなる群から選ばれるペプチドである、(5)〜(7)の何れかに記載の方法。
【0012】
(9)(1)〜(4)の何れかに記載の抗体の製造方法又は(5)〜(8)の何れかに記載の免疫方法に用いる免疫原性組成物であって、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを、同時又は個別に、免疫原として含有することを特徴とする免疫原性組成物。
(10)前記免疫原性組成物がアジュバントをさらに含有する、(9)に記載の免疫原性組成物。
(11)同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを、同時又は個別に、免疫原として含有する免疫原性組成物よりなることを特徴とする免疫用製品。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、抗体に結合するアミノ酸配列を有するペプチド或いはポリペプチドに対する特異抗体を、より効率的に惹起させることができる。これにより、該特異抗体を効率よく取得することができる。また、本発明の免疫方法は、ワクチン療法として、その有用性が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】LR10A(配列番号1)を用いた、無細胞蛋白ディスプレイ用DNAライブラリーの構築スキームを示す図である。
【図2】蛋白ディスプレイ系により得られたペプチド或いはポリペプチドのベバシズマブ(Avastin)への結合を示すポリアクリルアミドゲル電気泳動の写真である。
【図3】蛋白ディスプレイ系により得られたペプチド或いはポリペプチドの、血管内皮細胞増殖因子(VGEF)によるベバシズマブ(Avastin)への結合阻害を示すポリアクリルアミドゲル電気泳動の写真である。
【図4】蛋白ディスプレイ系により得られたペプチド或いはポリペプチドの、各抗体に対する反応性を示す図である。
【図5】蛋白ディスプレイ系により得られたペプチド或いはポリペプチドを免疫したウサギの抗体価測定結果(免疫前結果)を示す図である。
【図6】蛋白ディスプレイ系により得られたペプチド或いはポリペプチドを免疫したウサギの抗体価測定結果(一回目採血結果)を示す図である。
【図7】蛋白ディスプレイ系により得られたペプチド或いはポリペプチドを免疫したウサギの抗体価測定結果(二回目採血結果)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の態様に限定されるものではない。
【0016】
本発明の抗体の製造方法は、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを免疫原としてヒト或いは動物に接種し、前記ペプチド或いはポリペプチドに結合する抗体を惹起することに特徴を有するものである。また、本発明の免疫方法は、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを免疫原として用いることに特徴を有するものである。
【0017】
本発明において、免疫原として用いられるペプチド或いはポリペプチドは、抗体に結合するアミノ酸配列を有するもの、即ちB細胞エピトープになり得る配列を有するものであって、免疫惹起能力を有するものであれば何れの配列を有するものでもよい。
【0018】
B細胞エピトープになり得る確率は、公開ウェブ[URL:http://www.imtech.res.in/;Institute of Microbial Technology, Sector 39-A, Chandigarh - 160036 (INDIA)]等によっても検索できるが、必ずしもその確率が高いものである必要は無い。また、既存の抗体を基に蛋白ディスプレイ技術により取得したB細胞エピトープを含む天然或いは非天然配列でもよい。この非天然配列は、抗原のエピトープを認識する抗体によって認識され、抗原と同様の反応性を引き起こす配列であり、以下これを「ミモトープ」と称する。これら、B細胞エピトープを含む天然或いは非天然配列は、「同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する」ものである。
【0019】
ここで、蛋白ディスプレイ技術としては、例えば、遺伝子型(核酸)と表現型(蛋白質)の対応付け分子を用いる方法(WO98/16636、WO2005/024018)、mRNAディスプレイ法(FEBS Lett 414(2): 405-408 (1997))、無細胞蛋白合成系を利用しリボゾームディスプレイ法 (Methods, 290, 51-67 (2004))、ファージにオリゴペプチドをランダムに発現させる、いわゆるファージディスプレイ法(J. Immunol. Methods, 316, 67-74. (2006)、Blood, 108, 1975-1978 (2006)、Proc. Natl. Acad. Sci, USA, 93, 10949-10954 (1996)、J. Mol Biol 338(2): 299-310 (2004))等が挙げられる。これらの技術は、それ自体既知の方法であり、これら技術を用いることにより、抗体と反応するペプチド或いはポリペプチド配列(B細胞エピトープ配列又はミモトープ配列)が容易に同定できる。
【0020】
さらに、上記方法の他に、微生物の細胞表面にペプチド或いはポリペプチドをディスプレイするバクテリアディスプレイ法(Appl Environ Microbiol 70(9): 5074-5080 (2004))、酵母の細胞表面にペプチド或いはポリペプチドをディスプレイするイーストディスプレイ法(Methods Mol Biol 504: 351-383 (2009))、動物細胞の細胞表面にペプチド或いはポリペプチドをディスプレイするマンマリアンディスプレイ法(J Immunol Methods 327(1-2): 40-52,(2007))等も用いることができる。
【0021】
これらの方法は、生きた細胞上に蛋白をディスプレイし免疫学的方法(FACS等)にて所望のペプチド或いはポリペプチドをディスプレイしている細胞を分離し、すぐに培養できる点が有利であるが、使用できるペプチド或いはポリペプチドライブラリーのサイズ(含まれる分子の種類)が1万分の1位の小さいものとなる。
【0022】
さらに詳述すれば、例えば、対応付け分子を用いる方法では、先ず、3’端にピューロマイシンを結合したランダムペプチドをコードするmRNAを、無細胞翻訳系を用いて翻訳することにより、蛋白質(表現型)とそれをコードするmRNA(遺伝子型)とをピューロマイシンを介して連結した対応付け分子(ペプチド或いはポリペプチドライブラリー)を作成する。これに抗体を一定時間反応させ、非反応の対応付け分子を除去し、抗体に結合した対応付け分子を溶出する工程を数回繰り返すことによって抗体に結合する分子を選択・濃縮する。さらに、選択・濃縮した分子について、ランダムペプチドをコードする領域を解析することにより、エピトープ又はミモトープ配列を同定することができる。
【0023】
また、ファージディスプレイ法では、ファージに発現させたペプチド或いはポリペプチドライブラリーに抗体を一定時間反応させ、非反応のファージを洗浄(除去)後、抗体結合性ファージを溶出し、このファージを大腸菌に感染させ増幅する工程を数回繰り返すことによって抗体に結合するファージを選択・濃縮する。さらに、任意に選択したファージクローンついて、抗体に対する反応性を指標に選択し、ランダムペプチド或いはポリペプチドをコードする領域を解析することにより、エピトープ又はミモトープ配列を同定することができる。
【0024】
B細胞エピトープやミモトープの同定/解析の基になる抗体は特に限定されないが、医薬品抗体を対象とするのが特に好ましい。さらに、病原微生物やウイルス、癌細胞等に対する特異的抗体を対象としてもよい。これら抗体のB細胞エピトープ又はミモトープは、ペプチドワクチンとしての利用も期待できる(ファルマシアVol.44, No.6, 525-527(2008))。
【0025】
上記により得られたエピトープ又はミモトープ配列を有するペプチド或いはポリペプチドの調製方法は特に限定されず、従来から用いられている化学合成、遺伝子組換え技術等で作製する方法により行えばよい。精製は、通常のクロマトグラフィーで行うことが望ましいが、特に限定はされない。
【0026】
免疫原として用いるペプチド或いはポリペプチドは、直鎖状でも、環状でもよい。一般に、直鎖状ペプチド或いはポリペプチドの場合、ペプチド結合が回転して構造がとりにくいと言われている。環状化することで、構造が固定されると考えられる。環状化ペプチド或いはポリペプチドの方が抗体惹起効率がよいと考えられる。
ペプチド或いはポリペプチド内に複数個のシステインが存在する場合、ペプチドは、空気酸化され自然に環状化し、また還元状態では直鎖状となる。
【0027】
免疫原として用いるペプチド或いはポリペプチドの大きさ(アミノ酸残基数)は、通常25〜30、好ましくは10〜20、より好ましくは6〜8である。
なお、本明細書において、「ペプチド」及び「ポリペプチド」という用語は、それぞれ、「2個以上のアミノ酸がペプチド結合により結合したもの」及び「通常10個以上のアミノ酸が結合したもの」の総称として用いる。
【0028】
免疫に際して、上記ペプチド或いはポリペプチドに、ヘルパーT細胞エピトープを有する配列を結合させる。ヘルパーT細胞エピトープを有する配列としては、通常の免疫に用いられるキャリアー蛋白、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン、サイログロブリン、破傷風毒素、血清アルブミン等で、免疫惹起能力を有する配列であればいずれの配列であっても良い。また、コンピュータを用いて検索したヘルパーT細胞エピトープになり得る配列を用いてもよい。
【0029】
上記ペプチド或いはポリペプチドとヘルパーT細胞エピトープを有する配列との結合は、適当な縮合方法、例えばシテイン−マレイミド法、グルタールアルデヒド法、カルボジイミド法等を用いて容易に行うことができる。
【0030】
かくして得られるヘルパーT細胞エピトープを有する配列に結合されたペプチド或いはポリペプチドを、必要に応じて、適当な担体を加えた組成物、アジュバントに懸濁或いは包埋した組成物として免疫又は動物へ接種する。アジュバンドとしては、例えば、フロイント完全・非完全アジュバンド、ALUM、リポソーム、コレステロールマンナン、タピオカ等が挙げられる。免疫経路は、経口、皮下注射、筋肉注射等あるが、所望する惹起免疫により選択することが出来る。また、抗体の製造に用いられる動物としては、ねずみ、ウサギ、鶏、ヤギ、馬、牛、羊、さる等が挙げられる。
【0031】
本発明の方法においては、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチド、すなわちエピトープやミモトープから選ばれる2種類以上のペプチド或いはポリペプチドが、免疫原として用いられる。
【0032】
この方法において、2種類以上(複数種)のペプチド或いはポリペプチドは、同時に免疫原として用いてもよく、また1種類ずつを個別に、一定時間をおいて免疫原として用いてもよい。この場合、用いる間隔は特に限定されず、通常30〜60日、好ましくは21〜28日程度でよい。
【0033】
用いるペプチド或いはポリペプチドの組合せは、配列が異なるものであれば特に限定されず、エピトープ(天然の配列)とミモトープの組合せ、ミモトープ同士の組合せ、即ちエピトープ及びミモトープよりなる群から選ばれる何れかのペプチドの組み合わせ、であればよい。用いる種類は、通常2種類以上であればよく、好ましくは3〜5種類の組合せが適当である。
【0034】
また、接種又は免疫に用いる各ペプチドの割合は、1種類のみを用いた場合と比較して、力価(抗体価)が高まる割合であれば特に制限されず、通常、それぞれを、同量(同分子数)用いるのが適当である。
さらに、接種又は免疫に用いる各ペプチドの総量も特に限定されず、ペプチドの抗原性に基づいて適宜設定すればよい。
【0035】
ここで、本発明の免疫原性組成物は、上記方法に用いるものであって、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを、同時又は個別に、免疫原として含有することに特徴を有するものである。この免疫原性組成物は、必要に応じて、さらに適当な担体やアジュバントを含有していてもよい。通常、アジュバントを含有させることにより、より高い力価の抗体を惹起させることができる。
【0036】
ここで、担体としては薬理学的又は生理学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば、ジフテリア毒素、結成アルブミン、ワクシニアウイルス及びワクチンとして用いられているウイルス外殻蛋白等が挙げられる。
【0037】
如何なる理論にもう拘泥するわけではないが、次の理由により、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを免疫原として用いることにより、特に効率の良い免疫の惹起が可能となると考えられる。
【0038】
即ち、ミモトープは、アミノ酸配列は異なるが同一の抗体に認識される配列である。該抗体に反応するミモトープ配列が免疫するペプチド或いはポリペプチドの中にあれば、該抗体と同じ抗原結合能を持つ抗体(以下これを、「類似抗体」と称する。)が惹起される。類似抗体を惹起させたい場合、このミモトープ部位のみあればよいが、免疫に使用するペプチド或いはポリペプチドには他の配列が含まれる(ミモトープ部分のみを同定するのは難しい)ので、ミモトープ部分以外に対する抗体も惹起される。ミモトープを含む異なる配列の複数個のペプチド或いはポリペプチドを用いて免疫すると、ミモトープ部分は(構造的に共通なため)類似抗体を産生するB細胞を共通に刺激し、類似抗体の産生が増強される。一方、ミモトープ以外の配列には、共通性がないため、それぞれの配列に対して惹起された抗体は、初回(一回)のみの刺激で、それ以上の産生増強が起きない。
よって、ミモトープを含む異なるペプチド或いはポリペプチドを複数回免疫することで、類似抗体産生B細胞のみを、効率よく刺激し、類似抗体の生体内での産生を高効率に増強できる。
【0039】
本発明の方法において、初回免疫後、2〜3週間毎に追加免疫を行うと、より効果的に免疫が惹起され、力価(抗体価)の高い抗血清が形成される。
【0040】
本発明の抗体の製造方法においては、所望の抗体価(用いた免疫原との結合性)を確認し、免疫した動物から血液を採取し、血清を調製する。得られた抗血清は、精製することなくそのまま用いることもできるが、血清を熱処理して補体を失活させた後、硫酸アンモニウムによる塩析、イオン交換クロマトグラフィー等によってイムノグロブリン画分を精製してもよい。また、免疫原として用いたペプチド或いはポリペプチドを固定化したペプチドカラムを用いて抗体を精製することにより、上記免疫原として用いたペプチド或いはポリペプチドを特異的に認識する抗体が得られる。
【0041】
また、免疫した動物から抗体産生細胞を採取し、常法によって、同系動物由来のミエローマ細胞等の培養細胞と融合させてハイブリドーマを作製し、そのハイブリドーマの培養液からイムノグロブリン画分を調製することによって、モノクローナル抗体を得ることができる。
【0042】
本発明の免疫用製品は、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを、同時又は個別に、免疫原として含有する免疫原性組成物よりなることに特徴を有するものである。
このような免疫用製品は、上記免疫原性組成物により構成されるものであり、通常の動物の免疫に用いる試薬キット、ヒトや動物のワクチン療法に用いる医薬品と同様の構成によって提供される。
【0043】
本発明の免疫方法、免疫原性組成物、免疫用製品は、ヒトや動物のペプチドワクチン療法としても用いることができる。その場合、T細胞エピトープ配列やアジュバンドは、ヒトや動物に対して、生理学的及び薬理学的に許容されるものが用いられる。免疫原となるペプチド或いはポリペプチドは、病原微生物やウイルス、癌細胞等に対する特異的抗体のB細胞エピトープ又はミモトープ配列を含むものとなる。
【0044】
特に癌のワクチン療法に際して、当該エピトープ或いはミモトープに対する自己抗体が体内に存在する場合は、当該ペプチドのみの投与で抗体価の上昇が認められる可能性がある。このような場合、必ずしも、上記の如くT細胞エピトープをB細胞エピトープ又はミモトープに結合させて用いる必要はない。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、μlはマイクロリットル、mlはミリリットル、Mはモル/リットル、mMはミリモル/リットル、μgはマイクログラムをそれぞれ表す。
【0046】
実施例1 蛋白ディスプレイ系によるベバシズマブ結合B細胞エピトープ配列の選択
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対する医薬品抗体ベバシズマブ(Bevacizumab)[商品名:アバスチン(Avastin)、ロッシュ社製]を用い、該抗体に結合するB細胞エピトープ配列を、遺伝子型(核酸)と表現型(蛋白質)の対応付け分子(WO98/16636)を用いるランダムペプチドディスプレイ法(Mol Biotechnol. 2009 Feb;41(2):99-105)により、次のとおり取得した。
【0047】
(1)無細胞蛋白ディスプレイ用DNAライブラリーの構築
10又は20アミノ酸のランダム配列を有する無細胞蛋白ディスプレイ用DNAライブラリーとして、SP6プロモーター−IRES−ランダムペプチド配列(10又は20アミノ酸)をコードするDNA−スペーサー−FlagタグをコードするDNA断片をもつDAN断片(LR10断片、LR20断片、LCR10断片、LCR20断片)を、次の方法で調製した。
【0048】
配列番号1に示すDNA断片[LR10A(図1A)](BEX社にて化学合成)と、配列番号2に示すDNA断片(3−LR10A)(BEX社にて化学合成)を鋳型として、KODポリメラーゼ(東洋紡社製)を用い、伸長反応にて2本鎖DNA断片とした。伸長反応はプライマー非存在下、ポリメラーゼ添付資料記載の反応組成にて、RCRサイクル6回で行った(図1B)。得られた増幅DNA断片及び配列番号3(lib5;BEX社にて化学合成)を鋳型として、同様にKODポリメラーゼを用い、同様の反応条件いてin vitro転写・翻訳可能な2本鎖DNA断片とした。
【0049】
このDNA断片を5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分離し、所望のサイズのDNA鋳型を切り出し、精製キット(QIAqick Gel Extraction Kit, キアゲン社製)により精製を行った。得られたDNA断片(LR10断片)の構造を図1Cに示す。また、このDNA断片がコードするアミノ酸配列を配列番号7に示す。なお、本明細書の本文中において、DNA配列は大文字表記、アミノ酸配列は一文字表記である。
【0050】
20アミノ酸のランダム配列を有する無細胞蛋白ディスプレイ用DNAライブラリー[SP6プロモーター−IRES−ランダムペプチド配列(20アミノ酸)をコードするDNA−スペーサー−FlagタグをコードするDNA断片](LR20断片)を、配列番号1に示すDNA断片の代わりに配列番号4に示すDNA断片(LR20A)(BEX社にて化学合成)を用いた以外は上記と同様の方法で調製した。該DNA断片(LR20断片)がコードするアミノ酸配列を配列番号8に示す。
【0051】
10アミノ酸のランダム配列の前後にC(システイン)が結合したペプチド或いはポリペプチド配列を有する無細胞蛋白ディスプレイ用DNAライブラリー[SP6プロモーター−IRES−ランダムペプチド配列(10アミノ酸)をコードするDNA−スペーサー−FlagタグをコードするDNA断片](LCR10断片)を、配列番号1に示すDNA断片の代わりに配列番号5に示すDNA断片(LCR10A)(BEX社にて化学合成)を用いた以外は、上記と同様の方法で調製した。該DNA断片(LCR10断片)がコードするアミノ酸配列を配列番号9に示す。
【0052】
20アミノ酸のランダム配列の前後にCが結合したペプチド或いはポリペプチド配列を有する無細胞蛋白ディスプレイ用DNAライブラリー[SP6プロモーター−IRES−ランダムペプチド配列(20アミノ酸)をコードするDNA−スペーサー−FlagタグをコードするDNA断片](LCR20断片)を、配列番号1に示すDNA断片の代わりに配列番号6に示すDNA断片(LCR20A)(BEX社にて化学合成)を用いた以外は同様にして調製した。該DNA断片(LCR20断片)がコードするアミノ酸配列を配列番号10に示す。
【0053】
配列番号1(LR10A)
5'CAACAACAACAACAAACAACAACAAAATGGGAPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKGGTGGAAGCGGAGGCGACTAC3'
〔配列中、P,Q,Kは混合核酸を示し、それぞれの混合比は、P=T:C:A:G=15:25:30:30、Q=T:C:A:G=30:30:30:10、K=T:C:A:G=50:0:0:50である(配列番号4〜6においても同様)。〕
【0054】
配列番号2(3−LR10A)
5'TTTCCCGCCGCCCCCCGTCCAGATGAAGAACCGCCCTTGTCATCGTCATCCTTGTAGTCGCCTCCGCTTCCACC3'
【0055】
配列番号3(lib5)
5'GGAAGATCTATTTAGGTGACACTATAGAACAACAACAACAACAAACAACAACAAAATG3'
【0056】
配列番号4(LR20A)
5'CAACAACAACAACAAACAACAACAAAATGGGAPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKGGTGGAAGCGGAGGCGACTAC3'
【0057】
配列番号5(LCR10A)
5'CAACAACAACAACAAACAACAACAAAATGGGACGTPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKCGTGGTGGAAGCGGAGGCGACTAC3'
【0058】
配列番号6(LCR20A)
5'CAACAACAACAACAAACAACAACAAAATGGGACGTPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKPQKCGTGGTGGAAGCGGAGGCGACTAC3'
【0059】
配列番号7
MGXXXXXXXXXXGGSGGDYKDDDDKGGSSSGRGAAG
〔配列中、Xは任意のアミノ酸を示す(以下の配列番号12〜14においても同様)。〕
【0060】
配列番号8
MGXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXGGSGGDYKDDDDKGGSSSGRGAAG
【0061】
配列番号9
circular 10aa
MGCXXXXXXXXXXCGGSGGDYKDDDDKGGSSSGRGAAG
【0062】
配列番号10
circular 20aa
MGCXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXCGGSGGDYKDDDDKGGSSSGRGAAG
【0063】
(2)無細胞蛋白ディスプレイ用mRNAの調製
上記(1)で調製した4種類のDNA断片のそれぞれを、蛋白ディスプレイ用のDNAライブラリーとして、CAPアナログの存在下、キット(RiboMax Large RNA Production System-SP6, Promega社製)を用いてmRNAに転写した。次に、このmRNAの3’端にピューロマイシンリンカー(WO2005/024018)を、T4RNAリガーゼ(タカラ社製)を用い定法に従い連結した。この連結分子を、イソプロピルアルコール沈殿法にて定法に従い精製した(以下これを、「精製連結物」と称する。)。
【0064】
(3)DNA・RNAハイブリッド型蛋白ディスプレイ分子の精製
25μgの上記精製連結物のそれぞれを、960μlの小麦胚芽無細胞翻訳系(ゾイジーン社製)にて26℃にて1時間翻訳させることにより、翻訳ペプチド或いはポリペプチド鎖(蛋白質)のC末端に、mRNAの3’端のピューロマイシンが結合した蛋白質と核酸の連結分子(蛋白ディスプレイ分子)、即ち蛋白質と該蛋白質をコードする核酸(mRNA)の連結分子を調製した。
その後、ピューロマイシンリンカー内部にあるpolyA配列を用い、Oligo(dT)アガロース(タカラ社製)により蛋白ディスプレイ分子を定法に従い精製した。
【0065】
次に、上記蛋白ディスプレイ分子中のピューロマイシンリンカー内部にある配列をプライマーとして用い、cDNA合成キット(Superscript III, Invitrogen社製)により、定法に従いcDNAを合成し、DNA・RNAハイブリッド型蛋白ディスプレイ分子(以下これを、「バイブリッド型ディスプレイ分子」と称する。)を形成させた。
【0066】
得られたハイブリッド型ディスプレイ分子を、0.1%仔牛血清アルブミン、tRNA(0.1 mg/ml)を含むPBS緩衝液(0.1 mM EDTA, 0.05 % Tween20)にて10倍希釈した。その後、80μlの抗FLAG抗体固定アガロースビーズ(シグマ社製)を添加し、4℃にて一晩反応させ、ビーズ画分を定法に従い回収した。ビーズ画分は0.2mlの洗浄溶液(50 mM Tris-HCl pH 7.5, 150 mM KCl, 0.1 % Tween20)にて3回洗浄後、240μlの100μM 3×FLAGペプチド(シグマ社製)を含む洗浄溶液にて結合した分子を定法に従い溶出した。溶出液は、終濃度0.1%仔牛血清アルブミン、tRNA(0.1 mg/ml)の状態で0.6mlになるように洗浄溶液を用い、仔牛血清アルブミン、tRNAを添加し、希釈した。
【0067】
(4)アフィニティー分離(ハイブリッド型ディスプレイ分子の濃縮・選択)
抗体への非特異吸着分子を除去する目的で、上記(3)にて得られたハイブリッド型ディスプレイ分子のそれぞれを、10μlのヒトIgG(シグマ社製)結合Protein G-Sepharoseビーズ(GE Healthcare社製)と30分間室温にて反応させた。ビーズ吸着画分を定法により除去した後、非吸着画分に、目的の抗体であるベバシズマブ(ロッシュ社製)結合Protein G-Sepharoseビーズを10μl加え、室温にて1時間反応させた。
【0068】
ビーズ結合画分を定法により集め、0.1mlの洗浄溶液にて3回洗浄し、ビーズ結合分子を40μlの0.1Mグリシン塩酸緩衝液(pH2.5)にて2回溶出した。溶出液は、8μlの1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)にて手早く中和した。一部を使用し、ベバシズマブに結合しているハイブリッド型ディスプレイ分子の量を定量PCR(PRISM7000、ABI社製)によりSYBRグリーン法(SYBR Premix Ex TaqTM、タカラ社製)にて測定した。その後、PCRにより再増幅して次の濃縮・選択工程に供した。次以降の濃縮・選択工程も、上記と同様な方法で行った。
【0069】
(5)濃縮分子のクローニングと配列確認
上記(4)の工程を6回繰り返した後、ベバシズマブに結合しているハイブリッド型ディスプレイ分子の、蛋白質部をコードするDNA配列を、クローニングベクターキット(pGEM T Easy Vector, プロメガ社製)を用いクローニングし、定法に従い塩基配列を確認し、ランダムペプチド部分のアミノ酸配列を決定した。その結果、次に示す5種のベバシズマブに結合するB細胞エピトープ配列候補を得た。
【0070】
M074#D12:WLEMHWPAHS(配列番号11)
M075#H11:CGGRFYDIMNHC(配列番号12)
M075#C03:CGGRWQTIRSFC(配列番号13)
M075#A10:RDLRHCESSWHKLVDFYCYT(配列番号14)
M074#F02:KLEMHFPSHVISVADGWSLF(配列番号15)
【0071】
(6)得られたアミノ酸配列のベバシズマブへの結合確認
上記(5)で得られたアミノ酸配列からなるペプチド或いはポリペプチドが、ベバシズマブに結合するB細胞エピトープ配列であることを、無細胞蛋白質C末端ラベル法(Biotechnol Lett. 2007 Jul;29(7):1065-1073)により、次のとおり、C末端蛍光ラベル体として合成し、ベバシズマブを用いたプルダウンアッセイによってその結合を判定することにより確認した。
【0072】
まず、(5)でクローニングされた配列を有するプラスミドと、(1)に記載のlib5及び3−LR10Aを用い、配列の確認されたDNA部分を(1)に記載の方法によりPCRを行って増幅、精製した。得られた精製DNA断片からRiboMax large RNA Production System-SP6(Promega社製)を用い、mRNAを定法に従い調製した。次に、小麦胚芽抽出液蛋白合成システム(ゾイジーン社製)を用い、20μM Cy3-dC Puro[Biotechnol Lett. 2007 Jul;29(7):1065-1073に記載方法に準じて合成]存在下、上記で調製したmRNAを添加し、26℃で2時間反応させた。
【0073】
反応液は、10μlのベバシズマブ(ロッシュ社製)結合Protein G-Sepharoseビーズを加え、室温にて1時間反応させた。また、ネガティブコントロールとして、10μlのヒトIgG(シグマ社製)結合Protein G-Sepharose ビーズ(GE Healthcare社製)と同様に反応させた。ビーズ結合画分を定法により集め、0.1mlの洗浄溶液にて3回洗浄し、トリシン(Tricine)−ポリアクリルアミドゲル(poly acylamide gel)電気泳動サンプルバッファー(50 mM Tris-HCl pH 6.8, 2% SDS, 1% 2-mercaptoethanol, 6% glycerol)に懸濁し、90℃で5分間反応させた。16.5%トリシン(Tricine)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により結合ペプチドを分離し、蛍光イメージアナライザー(Molecular Imager FX, Bio-Rad社製)にて確認を行った。この結果を図2に示す。
【0074】
図2中、レーン2がベバシズマブ(Avastin)結合ビーズに吸着した蛋白質を示し、レーン3はコントロールであるヒトIgG(h-IgG)結合ビーズに吸着した蛋白質を示す。また、レーン1はそれぞれの吸着に使用した蛋白質の1/1量をそのままアプライしたものを示す。図2のとおり、上記(5)で得られたアミノ酸配列からなるペプチド或いはポリペプチドは、いずれもベバシズマブ(Avastin)に結合することがわかった。これらのペプチド或いはポリペプチドが有するアミノ酸配列は、互いに異なるものであり、またベバシズマブの本来のB細胞エピトープ配列とも異なるものであった。
【0075】
(7)血管内皮細胞増殖因子によるベバシズマブ結合阻害確認
上記(6)でベバシズマブとの結合が確認されたペプチド或いはポリペプチド〔M074#D12(配列番号11)、M075#H11(配列番号12)、M075#C03(配列番号13)、M075#A10(配列番号14)、M074#F02(配列番号15)〕と、ベバシズマブとの結合が血管内皮細胞増殖因子(VEGF)にて阻害されるかを測定した。測定方法は、(6)に記載したとおりで、ベバシズマブ結合ビーズを用いる測定系で、200μg/mlのVEGFを12.5μl添加して行った。この結果を図3に示す。
【0076】
図3中、レーン2がベバシズマブ(Avastin)結合ビーズに吸着した蛋白質を示し、レーン3はVGEFを添加した場合のベバシズマブ(Avastin)結合ビーズに吸着した蛋白質を示す。また、レーン1はそれぞれの吸着実験に使用した蛋白質の1/1量をそのままアプライしたものを示す。図3のとおり、上記(6)でベバシズマブとの結合が確認されたペプチド或いはポリペプチドとベバシズマブとの結合が、VEGFにて阻害されることがわかった。
【0077】
(8)ベバシズマブとの結合特異性
上記(6)でベバシズマブとの結合が確認されたペプチド或いはポリペプチド〔M074#D12(配列番号11)、M075#H11(配列番号12)、M075#C03(配列番号13)、M075#A10(配列番号14)、M074#F02(配列番号15)〕を、C末端ビオチンラベル体として東レリサーチセンター(鎌倉)にてソリッドフェーズ法を用い化学合成し、HPLCにて精製した。
【0078】
結合特異性を測定するために、他の抗体として、Humira(アボット社製)、Xolair(ロッシュ社製)、Erbitux(メルク社製)、Actemura(ロッシュ社製)、ReoPro(リリー社製)、ヒトIgG(シグマ社製)を用い、抗体をマイクロタイタープレートに吸着させ、各抗体と上記で合成したペプチド或いはポリペプチドとの結合を、ELISA定法に従い、ストレプトアビジンHRP(西洋ワサビパーオキシダーゼ)を用いて結合を検出した。この結果を図4に示す。
図4から明らかなとおり、得られたB細胞エピトープ配列は、いずれもベバシズマブ(Avastin)に特異的に反応することが確認された。
【0079】
実施例2 蛋白ディスプレイ系により選択されたベバシズマブ結合ペプチド(B細胞エピトープ配列)による抗体惹起試験
実施例1で得られたベバシズマブとの結合が確認されたペプチド或いはポリペプチドの内、M74_D12(配列番号11)及びM74_F02(配列番号15)を選び、T細胞エピトープを有する蛋白KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)と結合させた。これをウサギに免疫し、抗体価の上昇を、次のとおり測定した。
【0080】
まず、M74_D12(配列番号11)及びM74_F02(配列番号15)とT細胞エピトープペプチドを結合するため、Cys-(PEG)3-GWLEMHWPAHS(配列番号16)とCys-(PEG)3-GKLEMHFPSHVISVADGWSLF(配列番号17)を化学合成し、定法に従いCys部分でシステインマレイミド法にてKLHと融合させた。これらペプチドの同量(同分子数)混合物を、ウサギ1匹あたり、初回0.4mg、2回目0.2mg、免疫した。
【0081】
1回目の感作を行ってから2週間後に1回目の採血を行い、抗体価を測定した。さらに、2回目感作を同日に行い、その2週間後に2回目の採血を行い、定法に従いベバシズマブの抗原であるVEGFに対する抗体価を測定した。また、コントロールとして、TNFα(腫瘍壊死因子α)、EGFR(内皮細胞因子受容体)、GST(グルタチオンSトランスフェラーゼ)、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)、PBS(燐酸生理食塩緩衝液)に対する抗体価も同様に測定した。この結果を図5〜7に示す。なお、図5〜7は、それぞれ、免疫前結果、一回目採決結果、二回目採決結果である。
【0082】
図5、6、7から明らかなように、実施例1で得られた、ベバシズマブとの結合が確認されたペプチド或いはポリペプチドの内、M74_D12及びM74_F02を混合して免疫することにより、ベバシズマブの抗原であるVEGFに対する抗体価を効率よく上昇させることが出来ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
組換え蛋白を用いない、合成ペプチドを用いたワクチン及び抗体の製造は、価格及び安全性の面より今後益々有用なものとなると考える。しかし、ペプチドより所望の抗体を効率よく惹起することは、従来難しいことであった。本発明を用いることにより、所望の抗体をより容易に惹起できることから、合成ペプチドを用いた安価でかつ安全性の高いワクチン、抗体の製造がより簡単に可能になる。このように、本発明は、生命科学分野、医薬・薬学分野等に特に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを免疫原として動物へ接種し、前記ペプチド或いはポリペプチドに結合する抗体を惹起させることを特徴とする抗体の製造方法。
【請求項2】
前記動物への接種が、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを同時に用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記動物への免疫が、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを個別に用いて一定時間をおいて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドが、エピトープ及びミモトープよりなる群から選ばれるペプチドである、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを免疫原として用いることを特徴とする免疫方法。
【請求項6】
前記免疫が、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを同時に用いて行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記免疫が、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを個別に用いて一定時間をおいて行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドが、エピトープ及びミモトープよりなる群から選ばれるペプチドである、請求項5〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜4の何れか1項に記載の抗体の製造方法又は請求項5〜8の何れか1項に記載の免疫方法に用いる免疫原性組成物であって、同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを、同時又は個別に、免疫原として含有することを特徴とする免疫原性組成物。
【請求項10】
前記免疫原性組成物がアジュバントをさらに含有する、請求項9に記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
同一抗体に結合するが異なるアミノ酸配列を有する2種類以上のペプチド或いはポリペプチドを、同時又は個別に、免疫原として含有する免疫原性組成物よりなることを特徴とする免疫用製品。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−72284(P2011−72284A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229491(P2009−229491)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】