説明

抗体断片のスクリーニング方法及びアッセイシステム

【課題】広範囲な技術分野のネットワークを駆使して、新しいスクリーニング方法及びアッセイシステムを開発する。
【解決手段】抗体断片を酵母表層に提示し、該酵母に標識抗原を作用させ、標識抗原が抗体断片に結合した複合体を検出し、標識検出装置により検出された抗体断片表層提示酵母を前記検出装置と連動したマニピュレータにより自動的に回収し、回収された酵母から前記標識抗原に結合した抗体断片の配列を決定することを特徴とする、標的抗原に結合する抗体断片のスクリーニング方法およびアッセイシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体断片のスクリーニング方法及びアッセイシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
2000年にヒトゲノムのドラフトが公表され、ヒトゲノム解析の進行とともにプロテオーム解析が注目されている。ヒト遺伝子は約3万種であり、これらの遺伝子から発現されるタンパク質は約10万種とも100万種とも言われており,プロテオーム解析を進めるためには膨大な数のタンパク質を解析しなければならない。一方、プロテオーム解析から導き出される重要タンパク質に相互作用する化学物質が,コンビナトリアル・ケミストリー法を使って検索されている。このような作用物質は新規タンパク質の機能解析ツールになるばかりか,医薬品や機能性食品の開発に繋がるため、膨大な数の化合物がスクリーニングされている。このようにプロテオーム解析にしても,コンビナトリアル・ケミストリーによる生理活性化合物の検索にしても,成功の鍵を握るのは,多数の化合物(タンパク質やペプチドを含む)の集合体であるライブラリーの構築法とその効率的な機能評価法である。如何に大きなライブラリーを構築し、如何に迅速にスクリーニングするかによって、最適なタンパク質や化合物を選択できる可能性が大きくなる。
【特許文献1】特開平10-245397
【特許文献2】特開2000-327697
【特許文献3】特開2005-159121
【特許文献4】特開2005-154382
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、広範囲な技術分野のネットワークを駆使して、新しいスクリーニング方法及びアッセイシステムを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は,抗体のライブラリーを高効率(ハイスループット)にスクリーニングするために、抗体ライブラリーを酵母の細胞表層上に構築する技術を開発するとともに,それらの酵母細胞を網羅的にスクリーニングすることのできるアッセイシステムを開発した。
【0005】
本発明は、以下のスクリーニング方法及びアッセイシステムを提供するものである。
項1. 抗体断片を酵母表層に提示し、該酵母に標識抗原を作用させ、標識抗原が抗体断片に結合した複合体を検出し、標識検出装置により検出された抗体断片表層提示酵母を前記検出装置と連動したマニピュレータにより自動的に回収し、回収された酵母から前記標識抗原に結合した抗体断片の配列を決定することを特徴とする、標的抗原に結合する抗体断片のスクリーニング方法。
項2. 抗体断片がscFv、Fab、F(ab)2またはFvである、項1に記載の抗体断片のスクリーニング方法。
項3. 抗体断片をAga2に融合し、表層提示したことを特徴とする項1または2に記載の抗体断片のスクリーニング方法。
項4. 抗体断片を酵母表層に提示し、該酵母に標識抗原を作用させて標識抗原が抗体断片に結合した複合体を検出し、標識検出装置により検出された抗体断片表層提示酵母を前記検出装置と連動したマニピュレータにより自動的に回収し、回収された酵母から前記標識抗原に結合した抗体断片の配列を決定することを特徴とする、標的抗原に結合する抗体断片のアッセイシステム。
項5. 抗体断片がscFv、Fab、F(ab)2またはFvである、項4に記載の抗体断片のアッセイシステム。
項6. 抗体断片をAga2に融合し、表層提示したことを特徴とする項4または5に記載の抗体断片のアッセイシステム。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、抗体断片の酵母表層提示ライブラリーを構築し,1細胞ピッキング装置により高結合活性抗体の取得に成功した。本研究で開発したスクリーニング・システムは、抗体医薬品の開発や医薬品リード化合物のスクリーニングをトータルに支援するものである。
【0007】
また、本発明によれば、酵母表層提示型ヒト抗体断片を用いた抗原特異的抗体断片を取得する方法を提供することができる。
【0008】
本発明の実施例で使用した約25万ウェルからなる、micro-chamber array を装着した1細胞 ピッキング装置では、各ウェルの蛍光強度を計測し、そのヒストグラムに基づいて、任意のウェルから細胞を分離・回収することができる。10 μm 四方のウェルに数個程度しか入らない大きさである酵母を用いれば、1細胞レベルで追跡でき、陽性クローンの割合が非常に低い母集団からでも目的クローンを効率的に分離することが可能となる。酵母表層に提示させた抗体断片に、蛍光標識した抗原を結合させ、この抗原に特異的に結合する抗体断片を効率よく取得するスクリーニング系を確立した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、抗体断片としては、scFv、Fab、F(ab)2、Fvが例示され、好ましくはscFv、Fab、より好ましくはscFvが挙げられる。これらのライブラリーを有する酵母を用いて、本発明を実施することができる。たとえばscFvのライブラリーとしては、Tomlinson I ライブラリーを挙げることができる(de Wildt RMT, Mundy CR, Gorick BD, Tomlinson IM (2000) Nat Biotechnol. 18, 989.)。このライブラリー以外にも、公知の抗体断片のライブラリーは広く使用することができる。例えば、CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸をランダムに改変したライブラリーを使用することができる。
【0010】
抗体断片は、scFvが好ましく例示されるが、これ以外にも二重特異性抗体(一本鎖scFv(scDb)型、タンデムscFv型、ロイシンジッパーscFv型など)を使用することも可能である。
【0011】
酵母に表層提示される抗体は、できるだけ多数の抗体断片を含むライブラリーからなるものが好ましい。抗体の由来は、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、ウシ、ウマ、サル、ヒトなどの哺乳類の抗体が好ましく、特にヒト抗体が好ましい。
【0012】
抗体断片は、酵母で表層提示されるためにアンカーに結合される。アンカーとしては、例えばa 型酵母とα型酵母の接合に必要なagglutinin receptorを使用することができる。抗体断片をa-agglutinin system:Aga2 の末端、特にAga2 のN 末端側に融合することが本発明の最も好ましい実施形態の1つである。
【0013】
標的抗原に対する抗体断片のアミノ酸配列を決定するためには、たとえば標的抗原を標識して一群の抗体断片表面提示酵母に接触させ、洗浄して、抗原結合型の酵母を分離することにより行うことができる。
【0014】
標的抗原に使用される標識としては、SYTO9、FITC(Fluorescein Isothiocyanate)、TexasRed、TRITC、Cy3(N,N'-diethyl-indodicarbocyanine-5,5'-disulfonic acid)、Cy5(N,N'-di-carboxypentyl-indodicarbocyanine-5,5'-disulfonic acid)、Acridine Orange、Ethidum Bromide、Propidum iodide、DAPI(4',6-Diamidino-2-phenylindole)、Calcein、BCECF-AM 2',7'-Bis-(2-carboxyethyl)-5-(and-6)-carboxyfluorescein Acetoxymethyl Ester)、Evans blue、Lucifer Yellow CH、Dil(1,1'-dioctadecyl-3,3,3',3'-tetramethylindocarbocyanine perchlorate)、Dio、DioC6(3)(3,3'-Dihexyloxacarbocyanine Iodide)、Rhodamine123、Fluo-3、Calcium Green)、Alexa Fluor 350、Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、Alexa Fluor 750、FDA(Fluorescein diacetate)、5-(and-6)-CFDA(5-(and-6)-Carboxyfluorescein diacetate)、CTC(5-cyano-2,3-ditolyl tetrazolium chloride)、SYBR GreenI、SYBR GreenII、Flogen APC、 Flogen B-PE、Flogen C-PC、Flogen R-PE、Qdot 525、Qdot 565等を例示することができる。これらの標識は、抗原に直接結合されてもよく、ビオチン-アビジン(ストレプトアビジン)を介して抗原と標識を結合してもよい。ビオチン化抗原を抗体断片提示酵母に結合した後、アビジン化標識を結合することで、抗原の抗体結合能を損なうことなく標識を結合でき、抗原に複数のビオチンを結合させておけば、複数の標識を結合させることによりシグナルの増幅を行うことができる。
【0015】
抗体断片が表面に提示されていることの確認は、たとえば抗体断片にFlagタグを結合させ、このFlagタグに対する抗体と二次抗体を作用させることにより行うことができる。
【0016】
抗体断片提示酵母と標的抗原の結合を確認し、結合した酵母を分離する工程は、例えば下記に示される1細胞ピッキング装置を用いて好適に行うことができる。
【0017】
前記1細胞ピッキング装置は(i)マイクロチャンバー、(ii)検出部、(iii)解析部、(iv)回収部から構成される(図A)。
【0018】
図Aにおいて、ピッキングされた所望の酵母は回収プレートに回収され、酵母をアプライするマイクロチャンバーは、位置固定(位置決め)された状態で計測チップとして図A中に示されている。
【0019】
(i)マイクロチャンバー
スライドグラスサイズ(25mm×75mmまたは1インチ×3インチ)のチャンバー表面に、細胞のサイズに合わせたウェルサイズで、数十〜数百のウェルが形成されている。細胞懸濁液をマイクロピペットでアプライすることで、各ウェルに細胞が1個(条件によっては、2個、あるいは3個ないし数個)入るように設計されている(図B)。超音波や遠心法を用いることで、各ウェルに導入される酵母の個数の精度をさらに高めることが可能である
【0020】
(ii)検出部
蛍光顕微鏡をベースとした検出機構が、チップ表面の自動フォーカス後、マイクロチャンバー(ウェルに入っている酵母細胞)の蛍光画像を取得する(図C)。酵母は光学的に検出することができるので、容易に検出できる。
【0021】
(iii)解析部
各ウェル座標の蛍光値を解析し、解析結果をヒストグラム(縦軸:細胞数、横軸:蛍光値)として表示する。
【0022】
(iv)回収部
所望の蛍光値を持つ酵母を、解析部のヒストグラムから範囲指定すると、自動的にマニピュレーターによって吸引され、マイクロプレートへ吐出・回収される。酵母の吸引・吐出にはキャピラリが好ましく使用され、酵母をマニピュレータ内に残さないように吐出できることが実験により確認されている。
【0023】
図Cでは、例えば横軸の蛍光量が90〜225の範囲を指定すると、1個又は2個の酵母細胞数のその蛍光値を持つ細胞がマイクロプレートから回収され、その抗体断片の配列を酵母を生かしたまま回収して決定することで、目的の抗原に対して強く結合する少なくとも1種の抗体断片の配列を決定することができる。
【0024】
この回収部は、各ウェル内の酵母細胞を全て吸引してマイクロプレートに移すので、1ウェルあたり1個の酵母細胞が入るように設定しておけば抗体断片−抗原複合体による蛍光を発生する(標的抗原に結合可能な抗体断片を表層発現した)1個の酵母を取得することができる。また、1ウェルあたり2個ないし3個の酵母を有するようにマイクロチャンバーへの酵母のアプライ条件を変更することで、抗体断片−抗原複合体による蛍光を発生する(標的抗原に結合可能な抗体断片を表層発現した)2個ないし3個の酵母を取得し、この中から目的の酵母を取得し、標的抗原に結合する抗体断片のアミノ酸配列を決定することができる。
【0025】
従来法と1細胞ピッキング装置を用いる場合の比較を図Eに示す。
【0026】
本発明では、所望の蛍光値を持つ酵母を、高速でマイクロプレートに回収することができるため、ウェルあたり2個ないし3個の酵母が得られ、数個の酵母から所望の酵母の分離がさらに必要になったとしても、全体としては、極めて短時間で所望の酵母を分離し、標的抗原に結合する抗体断片の配列を決定することができる。1つのウェルあたりに導入される酵母の数は、10個未満、例えば9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下又は1個ないしそれ以下であり、0.5個以上、0.6個以上、0.7個以上、0.8個以上、0.9個以上であってもよく、1個に近いほど好ましい。この個数は、ウェル1個あたりの酵母の平均値であり、これが0.9個であるとは、10個のウェルのうち9個に酵母細胞が導入され、1個には酵母が含まれないことを意味する。
【0027】
本発明で使用する1細胞ピッキング装置は、数百から数十万(例えば384〜25万)の酵母の位置を正確に検出し、蛍光を発する所望の酵母のみをウェルからピッキングすることができるように、吸引・吐出キャピラリとマイクロチャンバーの各ウェルの関係(位置、距離、形状)が、(ハーフ)ミラー、オートフォーカス機能、フィルタユニットなどを用いて光源からの照射光、ウェルの透過光、反射光などを光学的にモニタリングされている。これにより、非常に近い位置関係の微小ウェルの酵母を正確に吸引・吐出/回収することができる。
【0028】
マイクロチャンバーへの酵母のアプライは、界面活性剤を含む緩衝液を好ましく使用できる。界面活性剤としてはポリエチレングリコール、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Dextran T-500、Tween 20、Tween 40、Tween 60、NP-40、SB3-14、SB12、CTAB及びTritonX-100などが挙げられ、Tween 20、Tween 40、Tween 60が好ましく例示される。界面活性剤は、抗原抗体複合体あるいは抗原に結合した標識を分離させることなく、酵母の凝集を抑制できるものを、適切な濃度で使用することができる。
【0029】
アプライ時の酵母量は、ODが0.1〜0.7、好ましくは0.2〜0.6、より好ましくは0.3〜0.5が挙げられる。酵母は、マイクロチャンバーの各ウェルに1個入るのが最も好ましく、そのために、超音波や遠心力と、酵母細胞の凝集を抑制する界面活性剤などを併用し、各ウェルあたりの酵母の数ができるだけ均一になるように最適な条件で酵母懸濁液をウェルにアプライする。
【0030】
上記装置と、コンビナトリアルケミストリーを活用した細胞サンプルを用いることで、抗体断片スクリーニングが高速かつ簡便に行える。
【0031】
本発明で使用する1細胞ピッキング装置は、コロニーピッキング装置に比べて、ハイスループットかつ省スペースであり、セルソーターに比べて、細胞に物理的ダメージを与えずに確実に1細胞を回収できる利点がある。
【0032】
マイクロチャンバーにアプライされる酵母懸濁液は、抗原と混合し、抗原と酵母表面の抗体断片を結合させたものを使用する。抗原は、蛍光ないし酵素などの標識を予め結合した標識抗原を使用してもよく、例えばビオチン化抗原を用い、抗原を結合させた後に標識アビジンと結合させて標識抗原(抗原-ビオチン-アビジン-標識)に導いてもよい。抗原と抗体断片発現酵母との反応、さらに抗原が標識されていない場合の標識物質との反応後には、各々洗浄工程を行い、非結合の抗原及び任意の標識物質を除去し、その後に標識抗原と結合した酵母懸濁液をマイクロチャンバーにアプライする。
【0033】
本発明のスクリーニング方法では、1細胞ピッキング装置を用いることで所望の抗体断片を発現する酵母を極めて迅速に分離することができ、当該酵母の抗体断片をコードする遺伝子配列を容易に確認することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
実施例1
1.Aga2のN末端側にscFvを融合する酵母表層提示用ベクターpYD12の作成
a型酵母とα型酵母の接合に必要なagglutinin receptorはGPI anchorを介して膜に結合し、酵母表層に提示されていることから、この系を用いた酵母表層提示方法が多く報告されている。膜結合型のAga1 subtype(725アミノ酸)とジスルフィド結合を形成するAga2 subtype(69 aa)に目的遺伝子を融合するa-agglutinin system(図1)はref.1(Feldhaus MJ, Siegel RW, Opresko LK, Coleman JR, Feldhaus JM, Yeung YA, Cochran JR, Heinzelman P, Colby D, Swers J, Graff C, Wiley HS, Wittrup KD. (2003) Nat. Biotechno. 21, 163.)に報告されており、表層提示用ベクターpYD1がInvitrogenより発売されている。しかし、このベクターではAga2のC末端側に外来蛋白質を融合するため、外来蛋白質は立体構造的な制約を受けることが予想され(ref.2)、実際に、これを用いて、マウスハイブリドーマ由来の配列をscFvとして、酵母表層に提示させようとするとほとんど提示されなかった。scFvをAga2のN末端側に融合し、その構造的制約をはずすことによって、提示効率をあげることができたので、scFvをAga2のN末端側に融合できるplasmid pYD12をpYD1より作成した。
【0035】
まず、HA、FLAG tagを融合して、NcoI、NotI でcloningできる以下の配列の合成linkerを、pYD1のNheI MluI部位に挿入し、pYD1-NNNHMを作成した。DNAはGriner Bio-One Co., Ltd扱いのドイツオリゴ(Thermo electron corporation)に委託し、HPLC精製のものを用いた。
Nhe-HA-Nco-Not-FLAG-Mlu-U(配列番号1)
5’-
CT AGC TAC CCA TAC GAT GTT CCA GAT TAC GCT TCC ATG GGT GGT GAG CTC GCG GCC GCA GAT TAC AAG GAT GAC GAC GAT AAG AAG CTT A-3’
Nhe-HA-Nco-Not-FLAG-Mlu-L(配列番号2)
5’-CG CGT AAG CTT CTT ATC GTC GTC ATC CTT GTA ATC TGC GGC CGC GAG CTC ACC ACC CAT GGA AGC GTA ATC TGG AAC ATC GTA TGG GTA G
-3’
【0036】
一方、pYD1のAga2 mature cleavage siteの18 bp下流にunique NcoI siteを導入したpYD1-NcoIを作成した。STRATAGENE QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kitを用い、下記の突然変異誘発プライマーを使用した。(プライマー合成委託先および精製グレードは上記に同じ)
【0037】
次いで、pYD1-NNNHM のNcoI-HindIII断片(NcoI NotI cloning siteおよびFLAG tag 配列を含む)をpYD1-NcoIに挿入し、pYD1-Nco-NHを得た。
【0038】
さらに、以下のプライマーにより、pYD1上の Aga2遺伝子を5’側にNheI, 3’側にMluI部位を付加する形でPCRにより増幅して単離し、上記のNheI, MluI siteに挿入し、pYD12を得た。(以下のプライマーは株式会社グライナージャパン ウルトラオリゴ 逆相カラム精製)
【0039】
2. human naive scFv の作成
Tomlinson I and J libraryとしてMRC HGMP Resource Centerから配布されているhuman combinatorial antibody phage display librariesよりPlant (+)RNA virusのRNA-dependent RNA polymeraseに結合するscFvとして単離、報告されている配列(AJ634527)(ref.3)をもとに、ref.4に従って、de novo合成を行った。2本鎖DNAは各々が40-50塩基overlapする形で、以下の17本のオリグヌクレオチドに分割して合成し、アクリルアミドゲル電気泳動で精製した後、T4 polynucleotide kinaseにより5’リン酸化し、アニーリングの後、T4 DNAリガーゼで結合した。さらに、以下に示す、cNCO-U、 cNOT-L プライマーによるPCRでscFv コーディング領域を増幅し、NcoI、NotIで切断した断片をpYD12のNcoI, NotI部位にクローニングし、pYD12-repとした。
【化1】

【化2】

【0040】
U1(1-100) (配列番号7)
5’-ATGGCCGAGGTGCAGCTGTTGGAGTCTGGGGGAGGCTTGGTACAGCCTGGGGGGTCCCTGAGACTCTCCTGTGCAGCCTCTGGGTTCACCTTTAGCAGCT-3’

U2(101-190) (配列番号8)
6’-ATGCCATGAGCTGGGTCCGCCAGGCTCCAGGGAAGGGGCTGGAGTGGGTCTCAGGTATTAATGCTACTGGTTATACTACAAGTTACGCAG-3’

U3(191-280) (配列番号9)
5’-ACTCCGTGAAGGGCCGGTTCACCATCTCCAGAGACAATTCCAAGAACACGCTGTATCTGCAAATGAACAGCCTGAGAGCCGAGGACACGG-3’

U4(281-370) (配列番号10)
5’-CCGTATATTACTGTGCGAAATATGATTCTAGTTTTGACTACTGGGGCCAGGGAACCCTGGTCACCGTCTCGAGCGGTGGAGGCGGTTCAG-3’

U5(371-460) (配列番号11)
5’-GCGGAGGTGGCAGCGGCGGTGGCGGGTCGACGGACATCCAGATGACCCAGTCTCCATCCTCCCTGTCTGCATCTGTAGGAGACAGAGTCA-3’

U6(461-550) (配列番号12)
5’-CCATCACTTGCCGGGCAAGTCAGAGCATTAGCAGCTATTTAAATTGGTATCAGCAGAAACCAGGGAAAGCCCCTAAGCTCCTGATCTATG-3’

U7(551-640) (配列番号13)
5’-GTGCATCCTATATGCAAAGTGGGGTCCCATCAAGGTTCAGTGGCAGTGGATCTGGGACAGATTTCACTCTCACCATCAGCAGTCTGCAACCTGAAGATTT-3’

U8(641-735) (配列番号14)
5’-GCAACTTACTACTGTCAACAGACTGCTGATGCTCCTAATACGTTCGGCCAAGGGACCAAGGTGGAAATCAAACGGGCGGCCGCA-3’

L1(59-1) (配列番号15)
5’-AGGGACCCCCCAGGCTGTACCAAGCCTCCCCCAGACTCCAACAGCTGCACCTCGGCCAT-3’

L2(153-60) (配列番号16)
5’-TGAGACCCACTCCAGCCCCTTCCCTGGAGCCTGGCGGACCCAGCTCATGGCATAGCTGCTAAAGGTGAACCCAGAGGCTGCACAGGAGAGTCTC-3’

L3(240-154) (配列番号17)
5’-CGTGTTCTTGGAATTGTCTCTGGAGATGGTGAACCGGCCCTTCACGGAGTCTGCGTAACTTGTAGTATAACCAGTAGCATTAATACC-3’

L4(330-241) (配列番号18)
5’-CTGGCCCCAGTAGTCAAAACTAGAATCATATTTCGCACAGTAATATACGGCCGTGTCCTCGGCTCTCAGGCTGTTCATTTGCAGATACAG-3’

L5(420-331) (配列番号19)
5’-CTGGGTCATCTGGATGTCCGTCGACCCGCCACCGCCGCTGCCACCTCCGCCTGAACCGCCTCCACCGCTCGAGACGGTGACCAGGGTTCC-3’

L6(510-421) (配列番号20)
5’-ATACCAATTTAAATAGCTGCTAATGCTCTGACTTGCCCGGCAAGTGATGGTGACTCTGTCTCCTACAGATGCAGACAGGGAGGATGGAGA-3’

L7(600-511) (配列番号21)
5’-TCCACTGCCACTGAACCTTGATGGGACCCCACTTTGCATATAGGATGCACCATAGATCAGGAGCTTAGGGGCTTTCCCTGGTTTCTGCTG-3’

L8(689-601) (配列番号22)
5’-ATTAGGAGCATCAGCAGTCTGTTGACAGTAGTAAGTTGCAAATCTTCAGGTTGCAGACTGCTGATGGTGAGAGTGAAATCTGTCCCAGA-3’

L9(735-690) (配列番号23)
5’-TGCGGCCGCCCGTTTGATTTCCACCTTGGTCCCTTGGCCGAACGT-3’
【化3】

【0041】
3. human naive scFv CDR領域多様化
【0042】
同様にref.4に従って、CDRH2(H50, H52, H52a, H53, H55, H56, H58), CDRH3(H95, H96, H97, H98), CDRL2(L50, L53), CDRL3(L91, L92, L93, L94, L96)がDVT(D=A or G or T, V=A or C or G)に多様化したhuman naive scFv libraryを作成した(図4)。下記のPCR プライマーを用いて1回目のPCRを行った後、DNAをassembleし、scFv-U1, scFv-L2を用いた、2回目のnested PCRを行った。
【0043】
T7(配列番号26)
5’-TAATACGACTCACTATAGGG-3’

scFv-U1(配列番号27)
5’-AATTAAGATGCAGTTACTTCGCTG-3’

scFv-L2(配列番号28)
5’-GCATATAGTTGTCAGTTCCTGGC-3’

pYD1-1115L(配列番号29)
5’-GTCGATTTTGTTACATCTACAC-3’

CDRH2-Dir-L(配列番号30)
5’-CCTTCACGGAGTCTGCGTAABHTGTABHABHACCABHABHABHAATABHTGAGACCCACTCCAGCCCC-3’

CDRH2-U(配列番号31)
5’-ATACGCAGACTCCGTGAAGG-3’

CDRH3-Dir-L(配列番号32)
5’-CCTGGCCCCAGTAGTCAAAABHABHABHABHTTTCGCACAGTAATATACG-3’

CDRH3-U(配列番号33)
5’-TTTGACTACTGGGGCCAGG-3’

CDRL2-Dir-L(配列番号34)
5’-ATGGGACCCCACTTTGCATABHGGATGCABHATAGATCAGGAGCTTAGGG-3’

CDRL2-U(配列番号35)
5’-ATGCAAAGTGGGGTCCCAT-3’

CDRL3-Dir-L(配列番号36)
5’-TGGTCCCTTGGCCGAACGTABHAGGABHABHABHABHCTGTTGACAGTAGTAAGTT-3’

CDRL3-U(配列番号37)
5’- ACGTTCGGCCAAGGGACCA-3’
【0044】
4. 酵母表層提示型human naive scFv libraryの作成
pYD12 10μgをNcoI, NotI 各60Uで37℃5時間切断後、1% Seakem GTG agarose電気泳動で分離、QIAquik Gel Extraction kitで精製し、8.9 μgを得た。 insert scFvはscFv-U1、 scFv-L2を用い、ExTaq PCRで20 cylces増幅後、同様にNcoI, NotI切断、agarose電気泳動で精製し、4.6 μgを得た。これらを、総360 μl(ligation high 120μl)で16℃16時間ligase反応を行い、QIAGEN PCR purification kitで精製した。ligase反応の一部をchemical competent DH5α細胞に形質転換し、1μg DNAあたり4.6 x 104の形質転換効率を得た。ref.5に従って調製したelectro competent XLI-Blue cellを用い、6回のelectroporationを行って、2.3 x 107 clonesのlibraryを作成した。 直径15 cm のLB plate 36枚上でcolony を形成させた後、400 mlのterrific broth中で37℃2時間培養、QIAGEN Maxi prepで3.6mg (1.1 x 10 12 clones) のDNAを取得した。 insert含有率はelectroporation後が100% (図5 insert check A)、plate上でamplifyした後が80%であった (図5 insert check B)。
【0045】
続いて、ref.6に従って、酵母EBY100(ref.1参照)への形質転換を行った。300 ml (OD600 = 2.0) の酵母細胞を20本に分け、各々にlibrary DNA 10 μg、Clontech YEASTMAKER Carrier DNA 400μg を含むpolyethylene glycol /lithium acetate 溶液1080 μlを加えて、42℃で40分間処理した。全部で9 x 105 coloniesを取得し、同様に直径15 cmのSD-Ura-Trp選択plate上でcolonyを形成させた後、全てを1.6 L (400 ml x 4)のlow dextrose SDCAA medium (ref.7)で3日間培養し、glycerol stockを作成した。 酵母形質転換体16個について、scFvのC末端側に融合したFLAG tagの発現が酵母表層で認められるかどうかを蛍光顕微鏡観察により確認した結果、12個で表層提示が確認できた (図5 surface display check)。
【0046】
5. 抗原結合反応と1細胞ピッキング
Libraryのglycerol stockをSDCAA medium (ref.7)で30℃数時間から一晩培養し、OD600 = 0.5となるように、SG/RCAA mediumに希釈し、20℃で48時間発現誘導した。0.8 OD600相当の酵母細胞を100 μl super blocking buffer中100nM biotinylated ubiquitinと室温で1時間、さらに氷中で10分間結合させたのち、PBS 800μlで洗浄し、1/200量のPE-streptavidin (Molecular Probes S866)を含む100 μl super blocking buffer中氷中で30分間反応させ、PBS 800μlで2回洗浄した。
【0047】
1細胞ピッキング装置の概要を図6、図7に示した。抗原を結合させ、蛍光標識した酵母細胞の溶液500μlをアダプターに装着した計測チップ上に広げ、Kubota 5420 遠心機で200 rpm、1分の遠心を3回行うことで、両端のウェル内まで酵母細胞を入れることができた。
【0048】
キャピラリーの焦点を調整し、全エリアの蛍光強度を計測した。作成されたヒストグラムをもとに、回収する細胞群を選択し、画面表示により、選択したすべての細胞について、well内にきちんと入った酵母細胞を選択しているかどうかを確認して、最終的に回収する細胞を決定した。回収用384プレートには80μlのPBSをあらかじめ入れておき、回収後、この溶液をSD-Ura-Trp+Amp+Kmプレートに塗布した。30℃で約3日間培養して生じたコロニーについて、U-bottom 96 well plate (BD FALCON 351177) に200 μlのSG/RCAA mediumを入れて、20℃で48時間培養し、上記と同様に抗原結合、PE-ストレプトアビジンによる蛍光標識を行い、Thermoelectron varioscanで蛍光強度を定量化した。選択したクローンについて、SDCAA mediumで培養し、Yeast Plasmid Miniprep kit(ZYMO RESEARCH D2004 ZymoprepII)でplasmid DNAを精製後、さらに、大腸菌DH5αへの形質転換によって回収し、その塩基配列を決定した。
【0049】
6. ubiquitin結合性scFvの解析
単離した結合性クローンは、抗原結合能力の強いものから弱いものまで、多岐にわたり、得られているクローンの全アミノ酸配列を図8に示した。3クローンが同一である以外は全て配列が異なっていて、Tomlinson I libraryからantibody array screeningによってユビキチンに結合するものとして報告されている配列(ref.8)とはいずれも一致していなかった。この中で、R22-A19-2が最も抗原親和性が高く、ref.9に従って、FACS測定により求めたKD値は149.5 nMであった(図9)。
【0050】
参考文献
1., Fedhaus MJ, Siegel RW, Opresko LK, Coleman JR, Feldhaus JM, Yeung YA, Cochran JR, Heinzelman P, Colby D, Swers J, Graff C, Wiley HS, Wittrup KD. (2003) Nat. Biotechno. 21, 163.
2. Wang Z, Mathias A, Stavrou S, Neville DM Jr. (2005) Protein Eng Des Sel. 18, 337.
3. Fomitcheva VW, Schubert J, Saalbach I, Habekuss A, Kumlehn J, Conrad,U (2005)
J. Phytopathol. 153, 633.
4. Tanaka T, Chung GT, Forster A, Lobato MN, Rabbitts TH. (2003)
Nucleic Acids Res. 31,e23.
5. Dower WJ, Miller JF, Ragsdale CW, (1988) Nucleic Acids Res. 16, 6127.
6. Giets A and Woods A. (2001) Methods in Enzymology, 350, 87.
7. Chao G, Lau AL, Hackel J, Sazinsky SL, Lippow SM, Wittrup KD. (2006) Nat Protoc. 1, 755.
8. de Wildt RM, Mundy CR, Gorick BD, Tomlinson IM (2000) Nat Biotechnol. 18, 989.
9, Feldhaus M, Siegel R.(2004) Methods Mol Biol. 263, 311.
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】抗体断片の酵母表層提示方法。
【図2】pYD12の構築。
【図3】pYD12-repの構築。
【図4】CDR領域の多様化。
【図5】酵母表層提示型human naive scFv libraryの作成。
【図6】1細胞ピッキング装置の概要。
【図7】1細胞ピッキング装置を用いたscreeningの概要。
【図8】単離されたubiquitin結合性scFvの全アミノ酸配列。
【図9】ubiquitin結合性scFvのKD値測定。
【図A】1細胞ピッキング装置の概略図。
【図B】マイクロチャンバーを示す図。
【図C】検出部で得られた蛍光画像。
【図D】解析部で各ウェル座標の蛍光値を解析し、得られた結果のヒストグラム。
【図E】従来法と1細胞ピッキング装置を用いる場合の比較。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体断片を酵母表層に提示し、該酵母に標識抗原を作用させ、標識抗原が抗体断片に結合した複合体を検出し、標識検出装置により検出された抗体断片表層提示酵母を前記検出装置と連動したマニピュレータにより自動的に回収し、回収された酵母から前記標識抗原に結合した抗体断片の配列を決定することを特徴とする、標的抗原に結合する抗体断片のスクリーニング方法。
【請求項2】
抗体断片がscFv、Fab、F(ab)2またはFvである、請求項1に記載の抗体断片のスクリーニング方法。
【請求項3】
抗体断片をAga2に融合し、表層提示したことを特徴とする請求項1または2に記載の抗体断片のスクリーニング方法。
【請求項4】
抗体断片を酵母表層に提示し、該酵母に標識抗原を作用させて標識抗原が抗体断片に結合した複合体を検出し、標識検出装置により検出された抗体断片表層提示酵母を前記検出装置と連動したマニピュレータにより自動的に回収し、回収された酵母から前記標識抗原に結合した抗体断片の配列を決定することを特徴とする、標的抗原に結合する抗体断片のアッセイシステム。
【請求項5】
抗体断片がscFv、Fab、F(ab)2またはFvである、請求項4に記載の抗体断片のアッセイシステム。
【請求項6】
抗体断片をAga2に融合し、表層提示したことを特徴とする請求項4または5に記載の抗体断片のアッセイシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図A】
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【図D】
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【図E】
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【図7】
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【図B】
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【図C】
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【公開番号】特開2010−14438(P2010−14438A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172606(P2008−172606)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、「関西広域バイオメディカルクラスター構想(大阪北部(彩都)地域)」に伴う研究委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(397069868)アズワン株式会社 (23)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】