抗原抗体反応を利用した標的物質検出用チップ
【課題】標的物質を高感度及び高精度で検出可能な、標的物質検出用チップを提供することを課題とする。
【解決手段】抗原抗体反応により標的物質を検出するためのチップであって、該チップは標的物質の検出が認識される判定領域を1又は2以上有し、それぞれの判定領域が、標的物質と抗原抗体反応を起こす検出用タンパク質を固定化した固定化領域を独立して2以上備える、標的物質検出用チップ。
【解決手段】抗原抗体反応により標的物質を検出するためのチップであって、該チップは標的物質の検出が認識される判定領域を1又は2以上有し、それぞれの判定領域が、標的物質と抗原抗体反応を起こす検出用タンパク質を固定化した固定化領域を独立して2以上備える、標的物質検出用チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原抗体反応を利用した標的物質検出用チップに関し、より詳細には、抗原抗体反応により標的物質を検出するためのチップであって、該チップは標的物質を検出する判定領域を1又は2以上有し、一の判定領域が、標的物質と抗原抗体反応を起こす検出用タンパク質を固定化した固定化領域を独立して2以上備える、標的物質検出用チップに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムの解読により、ヒト遺伝子数は3万程度と推定されるに至り、この成果を元に各種遺伝病及び多因子病の治療、予防が可能になることが期待されている。ただ、ゲノムは生命の設計図であり、遺伝情報が蓄積されたものであって、多くの生命現象は、その設計図を元に細胞で生産されるタンパク質によって担われている。タンパク質は、そのほとんどが他のタンパク質、核酸分子、その他の高分子あるいは低分子化合物等と相互作用してその機能を発揮していると考えられており、生命現象の解明のため、タンパク質とその他の分子との相互作用解析が精力的に行われている。
【0003】
しかしながら、各種タンパク質間、あるいはタンパク質及びその他の分子間の相互作用の種類は天文学的数字に及び、できるだけ多数を一度に感度良く検出するためのツールが望まれている。
【0004】
またさらに、タンパク質とりわけ抗体はその調整に非常に手間と労力がかかり、たとえ市販されていたとしても高価であるため、できるだけ少量のタンパク質で多数の相互作用を感度良く検出することも重要である。
【0005】
このような需要を解決し得ると期待され、これまでに検討されてきたものにプロテインチップがある。例えば、特許文献1(特開2005−069988)には、インクジェット法によりタンパク質溶液を液滴として固相に付着させる方法が開示されており、この方法によりタンパク質が基板上に安定に固定され且つ該タンパク質の機能・活性が失活することなく安定に保持される旨が記載されている。
【0006】
また、特許文献2(特開2001−116750)にも、インクジェット法を用いた反応性材料の固定化技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの技術は、測定に使用するサンプル及び試薬を減らすと、検出感度が低下するという問題点を有しており、さらなる感度及び精度の向上が求められている。
【特許文献1】特開2005−069988号公報
【特許文献2】特開2001−116750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、標的物質を高感度及び高精度で検出可能な、標的物質検出用チップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、驚くべき事に、抗原抗体反応により標的物質を検出するためのチップであって、該チップは標的物質の検出が認識される判定領域を1又は2以上有し、それぞれの判定領域が、標的物質と抗原抗体反応を起こす検出用タンパク質を固定化した固定化領域を独立して2以上備える、標的物質検出用チップが、抗原抗体反応を利用して標的物質を高感度及び高精度で検出可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の項1〜8に記載の標的物質検出用チップ、当該チップを用いた標的物質検出方法、当該チップを供えるキット、に係るものである。
【0011】
項1.
抗原抗体反応により標的物質を検出するためのチップであって、
該チップは標的物質の検出が認識される判定領域を1又は2以上有し、
それぞれの判定領域が、標的物質と抗原抗体反応を起こす検出用タンパク質を固定化した固定化領域を独立して2以上備える、
標的物質検出用チップ。
項2.
一の固定化領域と、これに隣接する固定化領域とが、少なくとも1〜500μmの間隔で隔てられている、項1に記載の標的物質検出用チップ。
項3.
1つの判定領域が有する固定化領域の数が、4〜2000である、項1〜2のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
項4.
判定領域を1〜100000個有する、項1〜3のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
項5.
検出用タンパク質が溶解した溶液をインクジェット方式により吐出することにより、該検出用タンパク質が固定化領域に固定化される、項1〜4のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
項6.
1つの固定化領域に吐出される液量が、0.1〜1000pl(ピコリットル)である、項5に記載の標的物質検出用チップ。
項7.
検体に含まれる標的物質を検出する方法であって、
請求項1〜6のいずれかに記載の標的物質検出用チップの判定領域に検体を接触させ、該判定領域内の検出用タンパク質と検体中の標的物質とを結合させる第一工程、
検出用タンパク質と結合した標的物質を検出する第二工程
を含む、標的物質検出方法。
項8.
項1〜6のいずれかに記載の標的物質検出用チップを備える、標的物質検出用キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る標的物質検出チップによれば、一度に1又は2種以上の標的物質を高感度及び高精度に検出することができる。これにより、例えば従来は分析不可能であった程の少量の標的物質を、一度に複数種検出することが可能となり、タンパク質間相互作用及びタンパク質と他の分子との相互作用の解析が促進され得る。また、医療現場においても、POCT(Point Of Care Testing)検査として利用できることから、自宅やベッドサイドで病気の予防及び診断のために利用すること等ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0014】
1.標的物質検出用チップ
本発明は、抗原抗体反応により標的物質を検出するためのチップであって、該チップは標的物質の検出が認識される判定領域を1又は2以上有し、それぞれの判定領域が、標的物質と抗原抗体反応を起こす検出用タンパク質を固定化した固定化領域を独立して2以上備える、標的物質検出用チップに係るものである。
【0015】
本発明のチップは、当該判定領域内に固定化された検出用タンパク質と相互作用する標的物質の検出を行うために用いることができる。
【0016】
本発明のチップは検出用タンパク質が固定化できるものであれば、特にその材料は制限されず、固定化するタンパク質、標的物質の検出のために使用する標識物の検出手段等に応じて、適宜設定できるが、固相基板を用いて製造するのが好ましい。固相基板のなかでも、ガラス基板、金属基板、シリコン基板、ポリマー樹脂基板等が好適であり、ポリマー樹脂のなかでもCOC樹脂、PMMA樹脂等が好ましく用いられる。
【0017】
本発明のチップ作製に用いる固相基板は、少なくとも判定領域として使用する部分に、検出用タンパク質の基板への付着性を高めるための表面処理を施したものがより好ましい。このような表面処理を施した固定化基板としては、BS−X2309(住友ベークライト社製)が例示できる。表面処理により、検出用タンパク質の基板への付着性を高めることで、より多くの検出用タンパク質を固定化することができ、このためより多くの標的物質を結合することができるので、結果的に標的物質検出感度が上昇する。
【0018】
また、本発明のチップ製造に用いる固相基板は、判定領域として使用する部分に、レーザー処理を施したものがより好ましい。用いるレーザーの条件としては、レーザー処理後の固相基板上に検出用タンパク質を固定化できるものであれば、特に制限されるものではないが、ArFエキシマレーザー、波長193nm、フルーエンス50J/cm3、パルス幅20ns、が例示できる。このようなレーザー処理を施した基板を用いてチップを製造することにより、検出感度が上昇する。
【0019】
本発明のチップが有する1又は2以上の判定領域は、1つの判定領域が、標的物質と抗原抗体反応を起こす検出用タンパク質を固定化した固定化領域を独立して2以上備えるものである。
【0020】
標的物質は、検出対象となるものであり、抗原抗体反応により検出用タンパク質と結合し得るものであれば、特に制限されるものではなく、タンパク質、核酸、糖鎖、細胞、種々の高分子化合物、低分子化合物などが例示できる。
【0021】
検出用タンパク質は、標的物質を抗体抗原反応により結合し得るタンパク質であれば、特に制限されず、抗原であっても、抗体であってもよい。
【0022】
検出用タンパク質が抗原である場合は、当該抗原は抗体で認識され得るものであれば特に制限されず、ポリペプチドであっても抗体で認識され得るものであれば、本発明の検出用タンパク質として使用することができる。なお、ポリペプチドとはアミノ酸が数個〜数十個結合したものをいい、アミノ酸が10個以上、好ましくは15個以上結合したものは本発明の検出用タンパク質として使用し得る。
【0023】
また、検出用タンパク質が抗原である場合は、標的物質は抗体であり、チップに供される検体中に、検出用タンパク質(抗原)を認識し得る標的物質(抗体)が存在する場合、抗体抗原反応が起こる。当該抗体抗原反応が起こった後、当該標的物質(抗体)に特異的に結合する標識物(例えば標的物質を特異的に認識する標識化二次抗体)を適用し、この標識物を検出することで、標的物質を検出することができる。
【0024】
検出用タンパク質が抗体である場合は、標的物質は当該抗体が認識し得る抗原であり、チップに供される検体中に、検出用タンパク質(抗体)が認識しえる抗原が存在する場合、抗体抗原反応が起こる。当該抗体抗原反応が起こった後、当該標的物質(抗原)に特異的に結合する標識物(例えば標的物質を特異的に認識する標識化二次抗体)を適用し、この標識物を検出することで、標的物質を検出することができる。
【0025】
標識物としては、検出用タンパク質が抗原である場合、あるいは抗体である場合の、いずれの場合においても、標的物質に特異的に結合し得る分子に標識を施したものであって、検出用タンパク質と標的物質の結合を妨げないものであれば利用することができる。例えば、前述した標識化二次抗体の他、標識化アプタマー等が挙げられる。また、この他にも、特定の標的物質に特異的に結合することがよく知られているタンパク質、核酸、化合物等に標識を施したものも、当該特定の標的物質を検出する標識物として利用可能である。
【0026】
標識物に施される標識としては、例えば、通常抗原抗体反応を検出するための二次抗体に用いられる標識を用いることができ、蛍光標識、ペルオキシダーゼ標識、アルカリホスファターゼ標識、β-ガラクトシダーゼ標識、グルコースオキシダーゼ標識、ウレアーゼ標識、ビオチン標識、ストレプトアビジン標識、マグネット粒子標識、金・金コロイド標識、放射性物質標識、量子ドット標識等が好ましく例示できる。蛍光標識に用いる蛍光物質としては、検出用タンパク質と標的物質の結合を妨げないものであれば特に制限されず、フィコビリプロテイン類、各種フルオレセイン、各種シアニン色素等、試薬会社が販売する蛍光化合物はもちろん、GFP等の蛍光タンパク質も適宜選択して使用することができる。
【0027】
また、これらの標識物を検出する方法としては、用いた標識に応じて適宜選択することができ、検出方法の簡便さから蛍光標識や酵素類であればペルオキシダーゼ標識やアルカリホスファターゼ標識が特に好ましい。
【0028】
なお、本発明において抗体とは、検出用タンパク質、標的物質、標識物として用いる標識化二次抗体、いずれに利用する場合おいても、抗原との結合能を有するタンパク質であれば特に制限されるものではなく、哺乳類又は鳥類由来のポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の他、人工的に作製されたキメラ抗体やヒト化抗体、可変領域を構造に有し特定の分子を特異的に認識する人工タンパク質等も、本発明における抗体として用いることができる。また、ある特定の分子に特異的結合能を有するタンパク質(例えばプロテインA、プロテインG)等も本発明の抗体の代わりに利用できる。さらに、タンパク質ではなく核酸であるが、抗体の代わりにアプタマーを利用することも可能である。
【0029】
検出用タンパク質を固相基板に固定化する方法としては、判定領域内に2以上の固定化領域をそれぞれ独立して設けることができるものであれば特に限定されないが、例えば、検出用タンパク質を、立体構造をできるだけ安定に保ち得る液体(例えばリン酸緩衝液、PBS等)に溶解させ、これをインクジェット方式で当該判定領域の固相基板上へ吐出するのが好ましい。検出用タンパク質を溶解させた吐出用の溶液の濃度としては、使用する検出用タンパク質等に応じて適宜設定できるが、5〜500μg/mlであることが好ましく、50〜100μg/mlがさらに好ましい。また、吐出される1滴の溶液量も、使用する検出用タンパク質等に応じて適宜設定できるが、前述の好ましい検出用タンパク質濃度の溶液を吐出する場合は、0.1〜1000pl(ピコリットル)、特に0.3〜500pl、なかでも0.5〜200plであることが好ましい。また、1つの固定化領域の面積としては、0.0001〜0.1mm2、特に0.001〜0.01mm2程度であることが好ましい。
【0030】
また、このようにしてタンパク質溶液を吐出した後、例えば、室温で4〜24時間静置することでタンパク質を基板に固定し、次にブロッキング液に浸して0.5〜2時間振とう後洗浄し、基板を風乾させることで、タンパク質の基板への非特異的吸着を抑える。
【0031】
判定領域内には、2以上の固定化領域が独立した領域として存在する。独立とは、一の固定化領域と、その隣に存在する固定化領域とが、接合あるいは重複することなく、相互に分離した領域として存在することをいう。換言すれば、判定領域において、固定化領域でない領域を非固定化領域とすると、一の固定化領域と、その隣に存在(隣接)する固定化領域との間には、必ず非固定化領域(すなわち間隔)が存在するということである。
【0032】
1つの判定領域が備える固定化領域の数は特に制限されるものではないが、検出用タンパク質が希少である場合はその使用量の節約のために少ない方がよく、また、少なすぎると検出感度がそれほど向上しない。よって、1つの判定領域内に、4〜2000、特に16〜1000、なかでも25〜500の、固定化領域を備えるものが好ましい。
【0033】
本発明のチップにおいて、1つの判定領域は、1種類の標的物質の検出のために用いられるものであり、1つの判定領域内に固定される検出用タンパク質は同一の標的物質に特異的に結合するものである。すなわち、1つの判定領域において、各固定化領域には同一の又は異なる検出用タンパク質を固定化することができるが、異なる検出用タンパク質を固定化する場合は、それぞれの検出用タンパク質が認識する標的物質は同一であることを要する。
【0034】
また、判定領域において、ある一の検出用タンパク質固定化領域と、これの隣に存在する他の検出用タンパク質固定化領域との間隔は、高感度及び高精度での標識分子の検出を可能とする本発明の効果が損なわれないものであれば、特に制限されるものではないが、間隔が広すぎると当該効果が得られないことから、1mm以下であることが好ましい。より好ましくは1〜500μm、さらに好ましくは1〜100μmである。
【0035】
本発明のチップが有する判定領域の数は、1又は2以上であれば特に制限されず、チップの大きさや用途等に応じて適宜設定することができる。例えば、チップあたり、1〜100000、1〜10000、又は1〜1000の判定領域を有することができる。また、本発明のチップが判定領域を2以上有する場合は、それぞれの判定領域において同一の又は異なる標的物質を検出できるように、各判定領域の固定化領域に固定化する検出用タンパク質を設定することができる。
【0036】
本発明のチップが有する判定領域の面積は、特に制限されるものではなく、固定化領域の面積及び数等によって適宜設定することができる。例えば、0.01〜100mm2、好ましくは0.1〜10mm2、より好ましくは0.5〜5mm2とすることができる。また、本発明のチップが判定領域を2以上有する場合は、それぞれの判定領域の設定は同一又は異なってよいが、各判定領域の検出結果を比較する場合には、それぞれの判定領域の設定は同一であることが好ましい。なお、ここでいう判定領域の設定とは、判定領域の作製条件と言い換えられ得、判定領域の面積、判定領域が備える固定化領域の数及び面積、固定化された検出用タンパク質の種類、固定化量及び固定方法等の各種条件のことである。
【0037】
本発明のチップの大きさは特に制限されるものではないが、使い勝手を良くするため、また、将来的にベッドサイドでの診断及び治療に利用するために、手のひらサイズとすることが好ましく、特に多くの試験あるいは臨床解析装置に採用されているチップサイズであることが好ましい。なかでも、現在市販されている検出機器に適用できる大きさであることが好ましく、例えば蛍光検出スキャナーに適用できるスライドガラスと同じ大きさ、76mm×26mm(日本規格)、75mm×25mm(ヨーロッパ規格)、3”×1”(米国規格)であることが好ましい。また、この場合は、判定領域の面積が小さいこと、及び判定領域の数が少ないことが好ましく、一の判定領域の面積は0.01〜10mm2、特に0.01〜1mm2であることが好ましい。また、この場合の判定領域数も特に制限される物ではなく、チップサイズ、判定領域の面積、チップの用途等に応じて、適宜設定することができ、1〜5000が好ましく、1〜500がより好ましく、1〜100がさらに好ましい。
【0038】
このように、本発明の標的分子検出用チップは、標的物質の検出が認識される判定領域が1又は2以上存在し、それぞれの判定領域において、標的物質と抗原抗体反応により結合し得る検出用タンパク質を固定化した固定化領域が、各固定化領域が分離されて2以上備わっているチップに係るものであり、一度に1又は2以上の標的物質を高感度及び高精度で検出することを可能とする。
【0039】
2.本発明のチップを用いた標的分子検出方法
本発明は、本発明のチップを用いて、特定の標的物質を検出する方法も提供する。
【0040】
本発明のチップであれば、少量の検出用タンパク質を用いて高感度及び高精度に標的タンパク質の測定が可能であり、大量入手が困難な希少タンパク質を検出用タンパク質として用い、これに結合する分子(標的物質)を探索、測定するときには特に有用である。
【0041】
具体的には、本発明のチップの判定領域に標的物質を含み得る検体(例えば、体液、血液、細胞破砕液、その他の抗原を含み得る溶液、等)を適用し、検体中の抗原抗体反応を起こさなかった分子を洗浄して除いた後、標的物質を特異的に検出し得る標識物(例えば標識化二次抗体)を用いて標的物質を定性的及び定量的に分析し得る。
【0042】
本発明の標的分子検出方法は、
検体に含まれる標的物質を検出する方法であって、
前述する標的物質検出用チップの判定領域に検体を接触させ、該判定領域内の検出用タンパク質と検体中の標的物質とを結合させる第一工程、
検出用タンパク質と結合した標的物質を検出する第二工程
を含む、標的物質検出方法
にかかるものである。
【0043】
前記第一工程で用いる検体としては、標的物質の検出が望まれるものであれば特に制限されないが、標識物質を抗原抗体反応により検出用タンパク質に結合させるために、液体であることが好ましい。例えば、体液、血液、細胞破砕液等が好ましく用いられる。また、標識物質の検出が望まれるものが固体である場合、これを溶解させた溶液として用いることも可能である。
【0044】
また、判定領域に検体を接触させる方法としては特に制限されず、各判定領域ごとに検体を適用してもよいし、チップ全体に検体を適用してもよい。また、接触させる時間は、検出用タンパク質及び標的分子に応じて適宜設定することができる。
【0045】
前記第二工程では、第一工程で検出用タンパク質と結合した標的物質の検出を行う。当該検出の方法としては、標的物質を特異的に検出できるものであれば特に制限されず、例えば、標的物質に特異的に結合する標識物を適用し、当該標識物を検出することで行う検出方法が挙げられる。
【0046】
この場合、使用する標識物としては、標的物質に特異的に結合し得、検出用タンパク質と標的物質との結合を阻害するものでなければ特に制限されず、例えば前述したように、標識化二次抗体、標識化アプタマー等を用いることができる。また、この他にも、特定の標的物質に特異的に結合することがよく知られているタンパク質、核酸、化合物等に標識を施したものも、当該特定の標的物質を検出する標識物として利用可能である。標識物に施される標識としても、例えば前述したものが好ましく用いられ得る。
【0047】
なお、標的物質に特異的に結合する物質(特異的結合物質)を標的物質に適用した後、当該特異的結合物質に特異的に結合する標識物を適用することでも、本発明の標的物質の検出は行い得る。このような検出においては、例えば特異的結合物質として標的物質と結合する抗体(二次抗体)が、標識物としては当該二次抗体に特異的に結合する標識化抗体(三次抗体)が挙げられる。
【0048】
また、標的物質が標識物である場合もあり得、この場合は当該標識物を検出してもよい。
【0049】
標識物を検出する方法としては、前述するように、用いた標識に応じて適宜選択することができる。例えば、ペルオキシダーゼを標識物の標識として用いた場合は、適当な基質を適用し、当該基質がペルオキシダーゼと反応するのを、化学的あるいは光学的に検出することができる。このような基質は多種多様なものが販売されており、適宜選択して使用することが可能である。特に、蛍光標識物を使用すれば、酵素反応時間分を短縮でき、より迅速に標的物質を検出することが可能であり、好ましい。
【0050】
なお、標的物質に標識物を適用する前に、検出用タンパク質と未結合の検体中の分子を除去することが好ましい。この操作を行うことで、標識物の非特異的な結合を抑制でき、検出精度を上げることができる。検出用タンパク質と未結合の検体中の分子を除去する方法としては、当該除去が可能であり、検出用タンパク質と標的物質との結合を阻害するものでなければ特に制限されず、例えばPBS(リン酸緩衝生理食塩水)+0.05%TritonX-100を用いて洗浄する方法が挙げられる。
【0051】
3.本発明のチップを備える標的分子検出用キット
また、本発明のチップをその一部として備える、抗原抗体反応検出用キットも、本発明の範囲内である。このようなキットとしては、本発明のチップの他、抗原抗体反応検出実験に用いられる各種試薬を備えたものが好ましい。例えば、検出用タンパク質が抗原である場合は、緩衝液、洗浄液の他、標的物質である各動物種の抗体を特異的に認識する標識物(例えば標識化二次抗体)、及び必要であれば該標識物の標識を検出するために必要な試薬等を備えるものである。また、検出用タンパク質が抗体である場合は、緩衝液、洗浄液の他、標的物質である抗原を認識する標識物(例えば標識化二次抗体)、及び必要であれば該標識物の標識を検出するために必要な試薬等を備えるものである。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1:標的物質検出用チップの作製
COC樹脂基板(住友ベークライト(株)社製:BS−X2309)を購入し、判定領域とする部分に対し、濃度0.1mg/mlのPICP抗体(製品名: Anti-Human Procollagen Type I C-peptide (PIP),Monoclonal (Clone PC8-7); タカラバイオ(株)社製)を含む固相液(住友ベークライト(株)社製)溶液を、インクジェット方式[ヘッド部分(クラスターテクノロジー(株)社製パルスインジェクター)、駆動回路部分(WaveBuilderTM]を用いて吐出した。その際、比較のため、基板とインクジェットノズルの相対位置を固定して同一箇所に400滴の抗体溶液を吐出させ(以下、同一箇所に吐出する方式を「1点集中方式」ということがある)、判定領域としたものと、10行10列の計100点にそれぞれ4滴ずつ吐出させ(以下、複数ヶ所に分けて吐出する方式を「ドット配列方式」ということがある)、判定領域(近接するドット(固定化領域)間で、それらの中心点同士の距離は約150μm)としたもの両方を形成した(図1a:本発明に係るチップの作製に用いられるのは「ドット配列方式」である)。両者の総液滴数は共に400滴で同一であり、総液量は約11nl(ナノリットル)である(すなわち、1滴は約28pl(ピコリットル)である)。
【0054】
1枚の固相基板(25×75 mm)上に、1点集中方式及びドット配列方式により、それぞれ10の判定領域を作製した。また、PICP抗体に替えて、当該PICP抗体と同じ免疫動物種(マウス)由来で、同じくヒトのタンパク質を認識するH-FABP(製品名;Monoclonal mouse anti-human fatty acid binding protein (FABP), 10E1; HyTest社製)を用い、1点集中方式及びドット配列方式により、ネガティブコントロールとしてそれぞれ1つの判定領域を作製した(図1b)。
【0055】
これを、室温で4時間静置後、ブロッキング液(住友ベークライト(株)社製)に浸し、室温にて1時間振とうさせた。その後、洗浄液(PBS, 0.05% Triton X-100)にて5分間、2回振とう洗浄し、続けて純水(MilliQ水)にて5分間、2回振とう洗浄し、基板を風乾させた。
【0056】
実施例2:標的物質検出用チップを用いた標的物質の測定
市販のPICP ELISAキット(製品名:PIP(Procollagen typeI C-peptide)EIA Kit(Precoated);タカラバイオ(株)社製;製品コードMK101)のプロトコールに従い、濃度640ng/ml のPICP抗原(製品名: ヒト培養細胞由来プロコラーゲン; タカラバイオ(株)社製)を、標識抗体(製品名: ペルオキシダーゼ標識抗 PIP モノクローナル抗体; タカラバイオ(株)社製)にて6倍希釈した溶液を検体液とした。この溶液に実施例1で作製したチップを浸し、室温にて1時間振とうさせた後、洗浄液にて5分間、5回振とう洗浄し、未反応抗原を取り除いた。検出は、PIERCE社のSuperSignal West Dura Extended Draton Substrateを用い、ペルオキシダーゼ活性により生じた化学発光を、ATTO社Light-Capture AE-6971のCCDカメラにて検出した.また、得られた化学発光シグナル強度を、ATTO CS Analyzer software ver2.0を用いて定量化した。
【0057】
結果を図2に示す。当該結果から、同量のPICP抗体を含む固相液溶液を使用した場合、ドット配列方式で作製されたチップは、1点集中方式で作製されたチップと比較して高い検出感度を有することがわかった。
【0058】
実施例3:標的物質検出用チップを用いた標的物質の測定1
チップ作製のため、実施例1と同一の固相基板(表面処理有り)を用意し、固相液(住友ベークライト(株)社製)にて濃度0.1mg/mlに希釈したPICP抗体(製品名: Anti-Human Procollagen Type I C-peptide (PIP), Monoclonal (Clone PC8-7); タカラバイオ(株)社製)溶液を1点集中方式により吐出し、固定化した。このとき、1カ所に200滴吐出した判定領域と、1カ所に100滴吐出した判定領域をそれぞれ複数作製した(図3a)。なお、吐出した1滴の液量は約65plである。固定化後、実施例1と同様にしてブロッキング処理を行った。
【0059】
次に、抗原濃度がそれぞれ0、50、150、300、600ng/mlになるよう調製したPICP抗原(製品名: ヒト培養細胞由来プロコラーゲン; タカラバイオ(株)社製)溶液を、標識抗体(製品名: ペルオキシダーゼ標識抗 PIP モノクローナル抗体; タカラバイオ(株)社製)溶液にて6倍希釈した溶液をそれぞれ(5種)調製し、これらを検体液とした。当該検体液を、作製した標的物質検出用チップにそれぞれ作用させ(n=4:図3a)、室温にて30分間静置した。その後、実施例2と同様にして、化学発光検出を行った。
【0060】
結果を図3bに示す。当該結果から、1点集中方式により作製したチップではばらつきが非常に大きく、良好な相関性は得られないことがわかった。
【0061】
実施例4:標的物質検出用チップを用いた標的物質の測定2
チップ作製のため、実施例1と同一の固相基板(表面処理有り)を用意し、2滴ずつ100カ所に吐出するドット配列方式により、濃度0.1mg/mlのPICP抗体を含む固相液(住友ベークライト(株)社製)溶液を吐出し、固定した(近接するドット(固定化領域)間で、それらの中心点同士の距離は約150μm)(図4a)。なお、1滴の液量は約65plとした。固定化後、実施例1と同様にしてブロッキング処理を行った。
【0062】
その後、3つの領域に、実施例3と同様にして調製した5種の検体液をそれぞれ作用させ、室温にて30分間静置した。その後、実施例2と同様にして、未反応抗原を取り除き、化学発光検出を行った。なお、本実験では、抗原濃度依存的な検出を1枚のチップ上で行うため、DAKOペンで枠を作成した。
【0063】
結果を図4b及び4cに示す。当該結果から、ドット配列方式を用いることで、1点集中方式と比較して、ばらつきが少なく、非常に高い相関性(相関係数0.993(n=3))が得られることがわかった。
【0064】
実施例5:レーザー照射による感度上昇の検討
PMMAとCOCの2種類の樹脂製基板(PMMA:日東樹脂工業(株) CLAREX、COC:住友ベークライト(株)、ともに表面処理なし)に対して、ArFエキシマレーザの照射による、抗体の基板への付着性向上の検討を行った。なお、PMMAは400mm×550mmで市販されているアクリル板をチップサイズに切断して使用した。レーザー照射は、波長193nm、フルーエンス50J/cm2、パルス幅20ns、周波数1Hzの条件でおこなった。
【0065】
レーザ照射部分と未照射部分に1点集中方式及びドット配列方式により、HRP標識されたIgG抗体(製品名: Anti-Mouse Ig, HRP-Linked Whole Ab Sheep; GEヘルスケアバイオサイエンス(株)社製)を吐出、固定化した(図5)。なお、1点集中方式では、1滴65plを200滴,ドット配列方式では1滴65plを2滴ずつ100箇所(近接するドット(固定化領域)間で、それらの中心点同士の距離は約150μm)に吐出した。
【0066】
固定化後、実施例1と同様にしてブロッキング処理を行い、洗浄液にて5分間、5回振とう洗浄した。そして、実施例2と同様にして、固定化したIgGのHRP標識の化学発光シグナル強度を検出した(図6a及び図7a)。
【0067】
解析結果を図6b及び図7bに示す。チップ作製の際に、固相基板としてPMMAを用いた場合、COCを用いた場合のいずれの場合も、ArFエキシマレーザー照射を行った方が、得られるシグナル強度は強くなっており、このことから、より多くの検出用タンパク質が固定化されていることがわかった。すなわち、レーザの照射により、抗体の基板への付着性が向上することがわかった。
【0068】
なお、限定的な解釈を望むものではないが、当該効果が得られる原因として、基板表面のポリマー構造が断片化し、その一部がタンパク質との結合性を持つようになること、あるいは、基板表面の微細形状が変化して親水性が高まり、吐出した液滴が基板上で広がる面積が大きくなること、が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の標的物質検出用チップを用いることで、一度に1又は2以上の標的物質を高感度及び高精度で検出できる。これにより、例えば従来は分析できなかった濃度の標的物質を検出することが可能となり、タンパク質間相互作用及びタンパク質と他の分子との相互作用の解析が促進される。また、医療現場において、ベッドサイドにおいて病気の予防及び診断のために利用すること等が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1a】判定領域に検出用タンパク質をインクジェット方式で固定化した模式図である。左が一点集中方式を、右がドット配列方式を示す。
【図1b】ドット配列方式により作製した判定領域、及びドット配列方式により作製した判定領域を有する標的物質検出用チップの模式図を示す。
【図2】図1bのチップを用いて、PICP抗原を検出したときの結果を示す。
【図3a】一点集中方式によりPICP抗体溶液を固定して作製した判定領域を有する、標的物質検出用チップの模式図を示す。なお、上部の抗原濃度は、各判定領域に適用する各抗原の濃度を示す。
【図3b】図3aのチップに、図3aの上部に記載の各濃度の抗原を適用したときの、検出結果を示す。
【図4a】PICP抗体溶液をドット配列方式により固定して作製したチップの模式図を示す。
【図4b】図4aに示すチップでPICP抗原を化学発光により検出(露光時間30分)したイメージを示す。
【図4c】図4bで示した実験データの定量解析結果(n=3)を示す。
【図5】固相基板にレーザーを照射した後、一点集中方式及びドット配列方式によりHRP標識IgG抗体を固定化して作製したチップの、模式図を示す。
【図6a】固相基板として実験11日前にレーザー照射を行ったPMMA基板を用いて作製した、図5に示すチップにおいて、検出用タンパク質(HRP標識IgG抗体)を化学発光により検出した図を示す。
【図6b】図6aに示す化学発光シグナルの解析結果を示す。
【図7a】固相基板として実験前日にレーザー照射を行ったCOC基板を用いて作製した、図5に示すチップにおいて、検出用タンパク質(HRP標識IgG抗体)を化学発光により検出した図を示す。
【図7b】図7aに示す化学発光シグナルの解析結果を示す。
【符号の説明】
【0071】
11 1点集中方式により作製した判定領域
12 ドット配列方式により作製した判定領域
13 固定化領域
21 チップ
22 DAKOペンで描いた枠
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原抗体反応を利用した標的物質検出用チップに関し、より詳細には、抗原抗体反応により標的物質を検出するためのチップであって、該チップは標的物質を検出する判定領域を1又は2以上有し、一の判定領域が、標的物質と抗原抗体反応を起こす検出用タンパク質を固定化した固定化領域を独立して2以上備える、標的物質検出用チップに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムの解読により、ヒト遺伝子数は3万程度と推定されるに至り、この成果を元に各種遺伝病及び多因子病の治療、予防が可能になることが期待されている。ただ、ゲノムは生命の設計図であり、遺伝情報が蓄積されたものであって、多くの生命現象は、その設計図を元に細胞で生産されるタンパク質によって担われている。タンパク質は、そのほとんどが他のタンパク質、核酸分子、その他の高分子あるいは低分子化合物等と相互作用してその機能を発揮していると考えられており、生命現象の解明のため、タンパク質とその他の分子との相互作用解析が精力的に行われている。
【0003】
しかしながら、各種タンパク質間、あるいはタンパク質及びその他の分子間の相互作用の種類は天文学的数字に及び、できるだけ多数を一度に感度良く検出するためのツールが望まれている。
【0004】
またさらに、タンパク質とりわけ抗体はその調整に非常に手間と労力がかかり、たとえ市販されていたとしても高価であるため、できるだけ少量のタンパク質で多数の相互作用を感度良く検出することも重要である。
【0005】
このような需要を解決し得ると期待され、これまでに検討されてきたものにプロテインチップがある。例えば、特許文献1(特開2005−069988)には、インクジェット法によりタンパク質溶液を液滴として固相に付着させる方法が開示されており、この方法によりタンパク質が基板上に安定に固定され且つ該タンパク質の機能・活性が失活することなく安定に保持される旨が記載されている。
【0006】
また、特許文献2(特開2001−116750)にも、インクジェット法を用いた反応性材料の固定化技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの技術は、測定に使用するサンプル及び試薬を減らすと、検出感度が低下するという問題点を有しており、さらなる感度及び精度の向上が求められている。
【特許文献1】特開2005−069988号公報
【特許文献2】特開2001−116750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、標的物質を高感度及び高精度で検出可能な、標的物質検出用チップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、驚くべき事に、抗原抗体反応により標的物質を検出するためのチップであって、該チップは標的物質の検出が認識される判定領域を1又は2以上有し、それぞれの判定領域が、標的物質と抗原抗体反応を起こす検出用タンパク質を固定化した固定化領域を独立して2以上備える、標的物質検出用チップが、抗原抗体反応を利用して標的物質を高感度及び高精度で検出可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の項1〜8に記載の標的物質検出用チップ、当該チップを用いた標的物質検出方法、当該チップを供えるキット、に係るものである。
【0011】
項1.
抗原抗体反応により標的物質を検出するためのチップであって、
該チップは標的物質の検出が認識される判定領域を1又は2以上有し、
それぞれの判定領域が、標的物質と抗原抗体反応を起こす検出用タンパク質を固定化した固定化領域を独立して2以上備える、
標的物質検出用チップ。
項2.
一の固定化領域と、これに隣接する固定化領域とが、少なくとも1〜500μmの間隔で隔てられている、項1に記載の標的物質検出用チップ。
項3.
1つの判定領域が有する固定化領域の数が、4〜2000である、項1〜2のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
項4.
判定領域を1〜100000個有する、項1〜3のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
項5.
検出用タンパク質が溶解した溶液をインクジェット方式により吐出することにより、該検出用タンパク質が固定化領域に固定化される、項1〜4のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
項6.
1つの固定化領域に吐出される液量が、0.1〜1000pl(ピコリットル)である、項5に記載の標的物質検出用チップ。
項7.
検体に含まれる標的物質を検出する方法であって、
請求項1〜6のいずれかに記載の標的物質検出用チップの判定領域に検体を接触させ、該判定領域内の検出用タンパク質と検体中の標的物質とを結合させる第一工程、
検出用タンパク質と結合した標的物質を検出する第二工程
を含む、標的物質検出方法。
項8.
項1〜6のいずれかに記載の標的物質検出用チップを備える、標的物質検出用キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る標的物質検出チップによれば、一度に1又は2種以上の標的物質を高感度及び高精度に検出することができる。これにより、例えば従来は分析不可能であった程の少量の標的物質を、一度に複数種検出することが可能となり、タンパク質間相互作用及びタンパク質と他の分子との相互作用の解析が促進され得る。また、医療現場においても、POCT(Point Of Care Testing)検査として利用できることから、自宅やベッドサイドで病気の予防及び診断のために利用すること等ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0014】
1.標的物質検出用チップ
本発明は、抗原抗体反応により標的物質を検出するためのチップであって、該チップは標的物質の検出が認識される判定領域を1又は2以上有し、それぞれの判定領域が、標的物質と抗原抗体反応を起こす検出用タンパク質を固定化した固定化領域を独立して2以上備える、標的物質検出用チップに係るものである。
【0015】
本発明のチップは、当該判定領域内に固定化された検出用タンパク質と相互作用する標的物質の検出を行うために用いることができる。
【0016】
本発明のチップは検出用タンパク質が固定化できるものであれば、特にその材料は制限されず、固定化するタンパク質、標的物質の検出のために使用する標識物の検出手段等に応じて、適宜設定できるが、固相基板を用いて製造するのが好ましい。固相基板のなかでも、ガラス基板、金属基板、シリコン基板、ポリマー樹脂基板等が好適であり、ポリマー樹脂のなかでもCOC樹脂、PMMA樹脂等が好ましく用いられる。
【0017】
本発明のチップ作製に用いる固相基板は、少なくとも判定領域として使用する部分に、検出用タンパク質の基板への付着性を高めるための表面処理を施したものがより好ましい。このような表面処理を施した固定化基板としては、BS−X2309(住友ベークライト社製)が例示できる。表面処理により、検出用タンパク質の基板への付着性を高めることで、より多くの検出用タンパク質を固定化することができ、このためより多くの標的物質を結合することができるので、結果的に標的物質検出感度が上昇する。
【0018】
また、本発明のチップ製造に用いる固相基板は、判定領域として使用する部分に、レーザー処理を施したものがより好ましい。用いるレーザーの条件としては、レーザー処理後の固相基板上に検出用タンパク質を固定化できるものであれば、特に制限されるものではないが、ArFエキシマレーザー、波長193nm、フルーエンス50J/cm3、パルス幅20ns、が例示できる。このようなレーザー処理を施した基板を用いてチップを製造することにより、検出感度が上昇する。
【0019】
本発明のチップが有する1又は2以上の判定領域は、1つの判定領域が、標的物質と抗原抗体反応を起こす検出用タンパク質を固定化した固定化領域を独立して2以上備えるものである。
【0020】
標的物質は、検出対象となるものであり、抗原抗体反応により検出用タンパク質と結合し得るものであれば、特に制限されるものではなく、タンパク質、核酸、糖鎖、細胞、種々の高分子化合物、低分子化合物などが例示できる。
【0021】
検出用タンパク質は、標的物質を抗体抗原反応により結合し得るタンパク質であれば、特に制限されず、抗原であっても、抗体であってもよい。
【0022】
検出用タンパク質が抗原である場合は、当該抗原は抗体で認識され得るものであれば特に制限されず、ポリペプチドであっても抗体で認識され得るものであれば、本発明の検出用タンパク質として使用することができる。なお、ポリペプチドとはアミノ酸が数個〜数十個結合したものをいい、アミノ酸が10個以上、好ましくは15個以上結合したものは本発明の検出用タンパク質として使用し得る。
【0023】
また、検出用タンパク質が抗原である場合は、標的物質は抗体であり、チップに供される検体中に、検出用タンパク質(抗原)を認識し得る標的物質(抗体)が存在する場合、抗体抗原反応が起こる。当該抗体抗原反応が起こった後、当該標的物質(抗体)に特異的に結合する標識物(例えば標的物質を特異的に認識する標識化二次抗体)を適用し、この標識物を検出することで、標的物質を検出することができる。
【0024】
検出用タンパク質が抗体である場合は、標的物質は当該抗体が認識し得る抗原であり、チップに供される検体中に、検出用タンパク質(抗体)が認識しえる抗原が存在する場合、抗体抗原反応が起こる。当該抗体抗原反応が起こった後、当該標的物質(抗原)に特異的に結合する標識物(例えば標的物質を特異的に認識する標識化二次抗体)を適用し、この標識物を検出することで、標的物質を検出することができる。
【0025】
標識物としては、検出用タンパク質が抗原である場合、あるいは抗体である場合の、いずれの場合においても、標的物質に特異的に結合し得る分子に標識を施したものであって、検出用タンパク質と標的物質の結合を妨げないものであれば利用することができる。例えば、前述した標識化二次抗体の他、標識化アプタマー等が挙げられる。また、この他にも、特定の標的物質に特異的に結合することがよく知られているタンパク質、核酸、化合物等に標識を施したものも、当該特定の標的物質を検出する標識物として利用可能である。
【0026】
標識物に施される標識としては、例えば、通常抗原抗体反応を検出するための二次抗体に用いられる標識を用いることができ、蛍光標識、ペルオキシダーゼ標識、アルカリホスファターゼ標識、β-ガラクトシダーゼ標識、グルコースオキシダーゼ標識、ウレアーゼ標識、ビオチン標識、ストレプトアビジン標識、マグネット粒子標識、金・金コロイド標識、放射性物質標識、量子ドット標識等が好ましく例示できる。蛍光標識に用いる蛍光物質としては、検出用タンパク質と標的物質の結合を妨げないものであれば特に制限されず、フィコビリプロテイン類、各種フルオレセイン、各種シアニン色素等、試薬会社が販売する蛍光化合物はもちろん、GFP等の蛍光タンパク質も適宜選択して使用することができる。
【0027】
また、これらの標識物を検出する方法としては、用いた標識に応じて適宜選択することができ、検出方法の簡便さから蛍光標識や酵素類であればペルオキシダーゼ標識やアルカリホスファターゼ標識が特に好ましい。
【0028】
なお、本発明において抗体とは、検出用タンパク質、標的物質、標識物として用いる標識化二次抗体、いずれに利用する場合おいても、抗原との結合能を有するタンパク質であれば特に制限されるものではなく、哺乳類又は鳥類由来のポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の他、人工的に作製されたキメラ抗体やヒト化抗体、可変領域を構造に有し特定の分子を特異的に認識する人工タンパク質等も、本発明における抗体として用いることができる。また、ある特定の分子に特異的結合能を有するタンパク質(例えばプロテインA、プロテインG)等も本発明の抗体の代わりに利用できる。さらに、タンパク質ではなく核酸であるが、抗体の代わりにアプタマーを利用することも可能である。
【0029】
検出用タンパク質を固相基板に固定化する方法としては、判定領域内に2以上の固定化領域をそれぞれ独立して設けることができるものであれば特に限定されないが、例えば、検出用タンパク質を、立体構造をできるだけ安定に保ち得る液体(例えばリン酸緩衝液、PBS等)に溶解させ、これをインクジェット方式で当該判定領域の固相基板上へ吐出するのが好ましい。検出用タンパク質を溶解させた吐出用の溶液の濃度としては、使用する検出用タンパク質等に応じて適宜設定できるが、5〜500μg/mlであることが好ましく、50〜100μg/mlがさらに好ましい。また、吐出される1滴の溶液量も、使用する検出用タンパク質等に応じて適宜設定できるが、前述の好ましい検出用タンパク質濃度の溶液を吐出する場合は、0.1〜1000pl(ピコリットル)、特に0.3〜500pl、なかでも0.5〜200plであることが好ましい。また、1つの固定化領域の面積としては、0.0001〜0.1mm2、特に0.001〜0.01mm2程度であることが好ましい。
【0030】
また、このようにしてタンパク質溶液を吐出した後、例えば、室温で4〜24時間静置することでタンパク質を基板に固定し、次にブロッキング液に浸して0.5〜2時間振とう後洗浄し、基板を風乾させることで、タンパク質の基板への非特異的吸着を抑える。
【0031】
判定領域内には、2以上の固定化領域が独立した領域として存在する。独立とは、一の固定化領域と、その隣に存在する固定化領域とが、接合あるいは重複することなく、相互に分離した領域として存在することをいう。換言すれば、判定領域において、固定化領域でない領域を非固定化領域とすると、一の固定化領域と、その隣に存在(隣接)する固定化領域との間には、必ず非固定化領域(すなわち間隔)が存在するということである。
【0032】
1つの判定領域が備える固定化領域の数は特に制限されるものではないが、検出用タンパク質が希少である場合はその使用量の節約のために少ない方がよく、また、少なすぎると検出感度がそれほど向上しない。よって、1つの判定領域内に、4〜2000、特に16〜1000、なかでも25〜500の、固定化領域を備えるものが好ましい。
【0033】
本発明のチップにおいて、1つの判定領域は、1種類の標的物質の検出のために用いられるものであり、1つの判定領域内に固定される検出用タンパク質は同一の標的物質に特異的に結合するものである。すなわち、1つの判定領域において、各固定化領域には同一の又は異なる検出用タンパク質を固定化することができるが、異なる検出用タンパク質を固定化する場合は、それぞれの検出用タンパク質が認識する標的物質は同一であることを要する。
【0034】
また、判定領域において、ある一の検出用タンパク質固定化領域と、これの隣に存在する他の検出用タンパク質固定化領域との間隔は、高感度及び高精度での標識分子の検出を可能とする本発明の効果が損なわれないものであれば、特に制限されるものではないが、間隔が広すぎると当該効果が得られないことから、1mm以下であることが好ましい。より好ましくは1〜500μm、さらに好ましくは1〜100μmである。
【0035】
本発明のチップが有する判定領域の数は、1又は2以上であれば特に制限されず、チップの大きさや用途等に応じて適宜設定することができる。例えば、チップあたり、1〜100000、1〜10000、又は1〜1000の判定領域を有することができる。また、本発明のチップが判定領域を2以上有する場合は、それぞれの判定領域において同一の又は異なる標的物質を検出できるように、各判定領域の固定化領域に固定化する検出用タンパク質を設定することができる。
【0036】
本発明のチップが有する判定領域の面積は、特に制限されるものではなく、固定化領域の面積及び数等によって適宜設定することができる。例えば、0.01〜100mm2、好ましくは0.1〜10mm2、より好ましくは0.5〜5mm2とすることができる。また、本発明のチップが判定領域を2以上有する場合は、それぞれの判定領域の設定は同一又は異なってよいが、各判定領域の検出結果を比較する場合には、それぞれの判定領域の設定は同一であることが好ましい。なお、ここでいう判定領域の設定とは、判定領域の作製条件と言い換えられ得、判定領域の面積、判定領域が備える固定化領域の数及び面積、固定化された検出用タンパク質の種類、固定化量及び固定方法等の各種条件のことである。
【0037】
本発明のチップの大きさは特に制限されるものではないが、使い勝手を良くするため、また、将来的にベッドサイドでの診断及び治療に利用するために、手のひらサイズとすることが好ましく、特に多くの試験あるいは臨床解析装置に採用されているチップサイズであることが好ましい。なかでも、現在市販されている検出機器に適用できる大きさであることが好ましく、例えば蛍光検出スキャナーに適用できるスライドガラスと同じ大きさ、76mm×26mm(日本規格)、75mm×25mm(ヨーロッパ規格)、3”×1”(米国規格)であることが好ましい。また、この場合は、判定領域の面積が小さいこと、及び判定領域の数が少ないことが好ましく、一の判定領域の面積は0.01〜10mm2、特に0.01〜1mm2であることが好ましい。また、この場合の判定領域数も特に制限される物ではなく、チップサイズ、判定領域の面積、チップの用途等に応じて、適宜設定することができ、1〜5000が好ましく、1〜500がより好ましく、1〜100がさらに好ましい。
【0038】
このように、本発明の標的分子検出用チップは、標的物質の検出が認識される判定領域が1又は2以上存在し、それぞれの判定領域において、標的物質と抗原抗体反応により結合し得る検出用タンパク質を固定化した固定化領域が、各固定化領域が分離されて2以上備わっているチップに係るものであり、一度に1又は2以上の標的物質を高感度及び高精度で検出することを可能とする。
【0039】
2.本発明のチップを用いた標的分子検出方法
本発明は、本発明のチップを用いて、特定の標的物質を検出する方法も提供する。
【0040】
本発明のチップであれば、少量の検出用タンパク質を用いて高感度及び高精度に標的タンパク質の測定が可能であり、大量入手が困難な希少タンパク質を検出用タンパク質として用い、これに結合する分子(標的物質)を探索、測定するときには特に有用である。
【0041】
具体的には、本発明のチップの判定領域に標的物質を含み得る検体(例えば、体液、血液、細胞破砕液、その他の抗原を含み得る溶液、等)を適用し、検体中の抗原抗体反応を起こさなかった分子を洗浄して除いた後、標的物質を特異的に検出し得る標識物(例えば標識化二次抗体)を用いて標的物質を定性的及び定量的に分析し得る。
【0042】
本発明の標的分子検出方法は、
検体に含まれる標的物質を検出する方法であって、
前述する標的物質検出用チップの判定領域に検体を接触させ、該判定領域内の検出用タンパク質と検体中の標的物質とを結合させる第一工程、
検出用タンパク質と結合した標的物質を検出する第二工程
を含む、標的物質検出方法
にかかるものである。
【0043】
前記第一工程で用いる検体としては、標的物質の検出が望まれるものであれば特に制限されないが、標識物質を抗原抗体反応により検出用タンパク質に結合させるために、液体であることが好ましい。例えば、体液、血液、細胞破砕液等が好ましく用いられる。また、標識物質の検出が望まれるものが固体である場合、これを溶解させた溶液として用いることも可能である。
【0044】
また、判定領域に検体を接触させる方法としては特に制限されず、各判定領域ごとに検体を適用してもよいし、チップ全体に検体を適用してもよい。また、接触させる時間は、検出用タンパク質及び標的分子に応じて適宜設定することができる。
【0045】
前記第二工程では、第一工程で検出用タンパク質と結合した標的物質の検出を行う。当該検出の方法としては、標的物質を特異的に検出できるものであれば特に制限されず、例えば、標的物質に特異的に結合する標識物を適用し、当該標識物を検出することで行う検出方法が挙げられる。
【0046】
この場合、使用する標識物としては、標的物質に特異的に結合し得、検出用タンパク質と標的物質との結合を阻害するものでなければ特に制限されず、例えば前述したように、標識化二次抗体、標識化アプタマー等を用いることができる。また、この他にも、特定の標的物質に特異的に結合することがよく知られているタンパク質、核酸、化合物等に標識を施したものも、当該特定の標的物質を検出する標識物として利用可能である。標識物に施される標識としても、例えば前述したものが好ましく用いられ得る。
【0047】
なお、標的物質に特異的に結合する物質(特異的結合物質)を標的物質に適用した後、当該特異的結合物質に特異的に結合する標識物を適用することでも、本発明の標的物質の検出は行い得る。このような検出においては、例えば特異的結合物質として標的物質と結合する抗体(二次抗体)が、標識物としては当該二次抗体に特異的に結合する標識化抗体(三次抗体)が挙げられる。
【0048】
また、標的物質が標識物である場合もあり得、この場合は当該標識物を検出してもよい。
【0049】
標識物を検出する方法としては、前述するように、用いた標識に応じて適宜選択することができる。例えば、ペルオキシダーゼを標識物の標識として用いた場合は、適当な基質を適用し、当該基質がペルオキシダーゼと反応するのを、化学的あるいは光学的に検出することができる。このような基質は多種多様なものが販売されており、適宜選択して使用することが可能である。特に、蛍光標識物を使用すれば、酵素反応時間分を短縮でき、より迅速に標的物質を検出することが可能であり、好ましい。
【0050】
なお、標的物質に標識物を適用する前に、検出用タンパク質と未結合の検体中の分子を除去することが好ましい。この操作を行うことで、標識物の非特異的な結合を抑制でき、検出精度を上げることができる。検出用タンパク質と未結合の検体中の分子を除去する方法としては、当該除去が可能であり、検出用タンパク質と標的物質との結合を阻害するものでなければ特に制限されず、例えばPBS(リン酸緩衝生理食塩水)+0.05%TritonX-100を用いて洗浄する方法が挙げられる。
【0051】
3.本発明のチップを備える標的分子検出用キット
また、本発明のチップをその一部として備える、抗原抗体反応検出用キットも、本発明の範囲内である。このようなキットとしては、本発明のチップの他、抗原抗体反応検出実験に用いられる各種試薬を備えたものが好ましい。例えば、検出用タンパク質が抗原である場合は、緩衝液、洗浄液の他、標的物質である各動物種の抗体を特異的に認識する標識物(例えば標識化二次抗体)、及び必要であれば該標識物の標識を検出するために必要な試薬等を備えるものである。また、検出用タンパク質が抗体である場合は、緩衝液、洗浄液の他、標的物質である抗原を認識する標識物(例えば標識化二次抗体)、及び必要であれば該標識物の標識を検出するために必要な試薬等を備えるものである。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1:標的物質検出用チップの作製
COC樹脂基板(住友ベークライト(株)社製:BS−X2309)を購入し、判定領域とする部分に対し、濃度0.1mg/mlのPICP抗体(製品名: Anti-Human Procollagen Type I C-peptide (PIP),Monoclonal (Clone PC8-7); タカラバイオ(株)社製)を含む固相液(住友ベークライト(株)社製)溶液を、インクジェット方式[ヘッド部分(クラスターテクノロジー(株)社製パルスインジェクター)、駆動回路部分(WaveBuilderTM]を用いて吐出した。その際、比較のため、基板とインクジェットノズルの相対位置を固定して同一箇所に400滴の抗体溶液を吐出させ(以下、同一箇所に吐出する方式を「1点集中方式」ということがある)、判定領域としたものと、10行10列の計100点にそれぞれ4滴ずつ吐出させ(以下、複数ヶ所に分けて吐出する方式を「ドット配列方式」ということがある)、判定領域(近接するドット(固定化領域)間で、それらの中心点同士の距離は約150μm)としたもの両方を形成した(図1a:本発明に係るチップの作製に用いられるのは「ドット配列方式」である)。両者の総液滴数は共に400滴で同一であり、総液量は約11nl(ナノリットル)である(すなわち、1滴は約28pl(ピコリットル)である)。
【0054】
1枚の固相基板(25×75 mm)上に、1点集中方式及びドット配列方式により、それぞれ10の判定領域を作製した。また、PICP抗体に替えて、当該PICP抗体と同じ免疫動物種(マウス)由来で、同じくヒトのタンパク質を認識するH-FABP(製品名;Monoclonal mouse anti-human fatty acid binding protein (FABP), 10E1; HyTest社製)を用い、1点集中方式及びドット配列方式により、ネガティブコントロールとしてそれぞれ1つの判定領域を作製した(図1b)。
【0055】
これを、室温で4時間静置後、ブロッキング液(住友ベークライト(株)社製)に浸し、室温にて1時間振とうさせた。その後、洗浄液(PBS, 0.05% Triton X-100)にて5分間、2回振とう洗浄し、続けて純水(MilliQ水)にて5分間、2回振とう洗浄し、基板を風乾させた。
【0056】
実施例2:標的物質検出用チップを用いた標的物質の測定
市販のPICP ELISAキット(製品名:PIP(Procollagen typeI C-peptide)EIA Kit(Precoated);タカラバイオ(株)社製;製品コードMK101)のプロトコールに従い、濃度640ng/ml のPICP抗原(製品名: ヒト培養細胞由来プロコラーゲン; タカラバイオ(株)社製)を、標識抗体(製品名: ペルオキシダーゼ標識抗 PIP モノクローナル抗体; タカラバイオ(株)社製)にて6倍希釈した溶液を検体液とした。この溶液に実施例1で作製したチップを浸し、室温にて1時間振とうさせた後、洗浄液にて5分間、5回振とう洗浄し、未反応抗原を取り除いた。検出は、PIERCE社のSuperSignal West Dura Extended Draton Substrateを用い、ペルオキシダーゼ活性により生じた化学発光を、ATTO社Light-Capture AE-6971のCCDカメラにて検出した.また、得られた化学発光シグナル強度を、ATTO CS Analyzer software ver2.0を用いて定量化した。
【0057】
結果を図2に示す。当該結果から、同量のPICP抗体を含む固相液溶液を使用した場合、ドット配列方式で作製されたチップは、1点集中方式で作製されたチップと比較して高い検出感度を有することがわかった。
【0058】
実施例3:標的物質検出用チップを用いた標的物質の測定1
チップ作製のため、実施例1と同一の固相基板(表面処理有り)を用意し、固相液(住友ベークライト(株)社製)にて濃度0.1mg/mlに希釈したPICP抗体(製品名: Anti-Human Procollagen Type I C-peptide (PIP), Monoclonal (Clone PC8-7); タカラバイオ(株)社製)溶液を1点集中方式により吐出し、固定化した。このとき、1カ所に200滴吐出した判定領域と、1カ所に100滴吐出した判定領域をそれぞれ複数作製した(図3a)。なお、吐出した1滴の液量は約65plである。固定化後、実施例1と同様にしてブロッキング処理を行った。
【0059】
次に、抗原濃度がそれぞれ0、50、150、300、600ng/mlになるよう調製したPICP抗原(製品名: ヒト培養細胞由来プロコラーゲン; タカラバイオ(株)社製)溶液を、標識抗体(製品名: ペルオキシダーゼ標識抗 PIP モノクローナル抗体; タカラバイオ(株)社製)溶液にて6倍希釈した溶液をそれぞれ(5種)調製し、これらを検体液とした。当該検体液を、作製した標的物質検出用チップにそれぞれ作用させ(n=4:図3a)、室温にて30分間静置した。その後、実施例2と同様にして、化学発光検出を行った。
【0060】
結果を図3bに示す。当該結果から、1点集中方式により作製したチップではばらつきが非常に大きく、良好な相関性は得られないことがわかった。
【0061】
実施例4:標的物質検出用チップを用いた標的物質の測定2
チップ作製のため、実施例1と同一の固相基板(表面処理有り)を用意し、2滴ずつ100カ所に吐出するドット配列方式により、濃度0.1mg/mlのPICP抗体を含む固相液(住友ベークライト(株)社製)溶液を吐出し、固定した(近接するドット(固定化領域)間で、それらの中心点同士の距離は約150μm)(図4a)。なお、1滴の液量は約65plとした。固定化後、実施例1と同様にしてブロッキング処理を行った。
【0062】
その後、3つの領域に、実施例3と同様にして調製した5種の検体液をそれぞれ作用させ、室温にて30分間静置した。その後、実施例2と同様にして、未反応抗原を取り除き、化学発光検出を行った。なお、本実験では、抗原濃度依存的な検出を1枚のチップ上で行うため、DAKOペンで枠を作成した。
【0063】
結果を図4b及び4cに示す。当該結果から、ドット配列方式を用いることで、1点集中方式と比較して、ばらつきが少なく、非常に高い相関性(相関係数0.993(n=3))が得られることがわかった。
【0064】
実施例5:レーザー照射による感度上昇の検討
PMMAとCOCの2種類の樹脂製基板(PMMA:日東樹脂工業(株) CLAREX、COC:住友ベークライト(株)、ともに表面処理なし)に対して、ArFエキシマレーザの照射による、抗体の基板への付着性向上の検討を行った。なお、PMMAは400mm×550mmで市販されているアクリル板をチップサイズに切断して使用した。レーザー照射は、波長193nm、フルーエンス50J/cm2、パルス幅20ns、周波数1Hzの条件でおこなった。
【0065】
レーザ照射部分と未照射部分に1点集中方式及びドット配列方式により、HRP標識されたIgG抗体(製品名: Anti-Mouse Ig, HRP-Linked Whole Ab Sheep; GEヘルスケアバイオサイエンス(株)社製)を吐出、固定化した(図5)。なお、1点集中方式では、1滴65plを200滴,ドット配列方式では1滴65plを2滴ずつ100箇所(近接するドット(固定化領域)間で、それらの中心点同士の距離は約150μm)に吐出した。
【0066】
固定化後、実施例1と同様にしてブロッキング処理を行い、洗浄液にて5分間、5回振とう洗浄した。そして、実施例2と同様にして、固定化したIgGのHRP標識の化学発光シグナル強度を検出した(図6a及び図7a)。
【0067】
解析結果を図6b及び図7bに示す。チップ作製の際に、固相基板としてPMMAを用いた場合、COCを用いた場合のいずれの場合も、ArFエキシマレーザー照射を行った方が、得られるシグナル強度は強くなっており、このことから、より多くの検出用タンパク質が固定化されていることがわかった。すなわち、レーザの照射により、抗体の基板への付着性が向上することがわかった。
【0068】
なお、限定的な解釈を望むものではないが、当該効果が得られる原因として、基板表面のポリマー構造が断片化し、その一部がタンパク質との結合性を持つようになること、あるいは、基板表面の微細形状が変化して親水性が高まり、吐出した液滴が基板上で広がる面積が大きくなること、が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の標的物質検出用チップを用いることで、一度に1又は2以上の標的物質を高感度及び高精度で検出できる。これにより、例えば従来は分析できなかった濃度の標的物質を検出することが可能となり、タンパク質間相互作用及びタンパク質と他の分子との相互作用の解析が促進される。また、医療現場において、ベッドサイドにおいて病気の予防及び診断のために利用すること等が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1a】判定領域に検出用タンパク質をインクジェット方式で固定化した模式図である。左が一点集中方式を、右がドット配列方式を示す。
【図1b】ドット配列方式により作製した判定領域、及びドット配列方式により作製した判定領域を有する標的物質検出用チップの模式図を示す。
【図2】図1bのチップを用いて、PICP抗原を検出したときの結果を示す。
【図3a】一点集中方式によりPICP抗体溶液を固定して作製した判定領域を有する、標的物質検出用チップの模式図を示す。なお、上部の抗原濃度は、各判定領域に適用する各抗原の濃度を示す。
【図3b】図3aのチップに、図3aの上部に記載の各濃度の抗原を適用したときの、検出結果を示す。
【図4a】PICP抗体溶液をドット配列方式により固定して作製したチップの模式図を示す。
【図4b】図4aに示すチップでPICP抗原を化学発光により検出(露光時間30分)したイメージを示す。
【図4c】図4bで示した実験データの定量解析結果(n=3)を示す。
【図5】固相基板にレーザーを照射した後、一点集中方式及びドット配列方式によりHRP標識IgG抗体を固定化して作製したチップの、模式図を示す。
【図6a】固相基板として実験11日前にレーザー照射を行ったPMMA基板を用いて作製した、図5に示すチップにおいて、検出用タンパク質(HRP標識IgG抗体)を化学発光により検出した図を示す。
【図6b】図6aに示す化学発光シグナルの解析結果を示す。
【図7a】固相基板として実験前日にレーザー照射を行ったCOC基板を用いて作製した、図5に示すチップにおいて、検出用タンパク質(HRP標識IgG抗体)を化学発光により検出した図を示す。
【図7b】図7aに示す化学発光シグナルの解析結果を示す。
【符号の説明】
【0071】
11 1点集中方式により作製した判定領域
12 ドット配列方式により作製した判定領域
13 固定化領域
21 チップ
22 DAKOペンで描いた枠
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原抗体反応により標的物質を検出するためのチップであって、
該チップは標的物質の検出が認識される判定領域を1又は2以上有し、
それぞれの判定領域が、標的物質と抗原抗体反応を起こす検出用タンパク質を固定化した固定化領域を独立して2以上備える、
標的物質検出用チップ。
【請求項2】
一の固定化領域と、これに隣接する固定化領域とが、少なくとも1〜500μmの間隔で隔てられている、請求項1に記載の標的物質検出用チップ。
【請求項3】
1つの判定領域が有する固定化領域の数が、4〜2000である、請求項1〜2のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
【請求項4】
判定領域を1〜100000個有する、請求項1〜3のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
【請求項5】
検出用タンパク質が溶解した溶液をインクジェット方式により吐出することにより、該検出用タンパク質が固定化領域に固定化される、請求項1〜4のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
【請求項6】
1つの固定化領域に吐出される液量が、0.1〜1000pl(ピコリットル)である、請求項5に記載の標的物質検出用チップ。
【請求項7】
検体に含まれる標的物質を検出する方法であって、
請求項1〜6のいずれかに記載の標的物質検出用チップの判定領域に検体を接触させ、該判定領域内の検出用タンパク質と検体中の標的物質とを結合させる第一工程、
検出用タンパク質と結合した標的物質を検出する第二工程
を含む、標的物質検出方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の標的物質検出用チップを備える、標的物質検出用キット。
【請求項1】
抗原抗体反応により標的物質を検出するためのチップであって、
該チップは標的物質の検出が認識される判定領域を1又は2以上有し、
それぞれの判定領域が、標的物質と抗原抗体反応を起こす検出用タンパク質を固定化した固定化領域を独立して2以上備える、
標的物質検出用チップ。
【請求項2】
一の固定化領域と、これに隣接する固定化領域とが、少なくとも1〜500μmの間隔で隔てられている、請求項1に記載の標的物質検出用チップ。
【請求項3】
1つの判定領域が有する固定化領域の数が、4〜2000である、請求項1〜2のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
【請求項4】
判定領域を1〜100000個有する、請求項1〜3のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
【請求項5】
検出用タンパク質が溶解した溶液をインクジェット方式により吐出することにより、該検出用タンパク質が固定化領域に固定化される、請求項1〜4のいずれかに記載の標的物質検出用チップ。
【請求項6】
1つの固定化領域に吐出される液量が、0.1〜1000pl(ピコリットル)である、請求項5に記載の標的物質検出用チップ。
【請求項7】
検体に含まれる標的物質を検出する方法であって、
請求項1〜6のいずれかに記載の標的物質検出用チップの判定領域に検体を接触させ、該判定領域内の検出用タンパク質と検体中の標的物質とを結合させる第一工程、
検出用タンパク質と結合した標的物質を検出する第二工程
を含む、標的物質検出方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の標的物質検出用チップを備える、標的物質検出用キット。
【図1a】
【図1b】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図1b】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【公開番号】特開2010−8109(P2010−8109A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165059(P2008−165059)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 経済産業省 中小企業産業技術研究開発委託事業(バイオ検査・測定用パルスインジェクターを用いたPOCT技術開発)に関する委託研究 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 経済産業省 中小企業産業技術研究開発委託事業(バイオ検査・測定用パルスインジェクターを用いたPOCT技術開発)に関する委託研究 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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