説明

抗原特異的T細胞の増殖のための方法

本発明は、腫瘍を有する患者への投与に好適なT細胞をプライミングするためのインビトロ法に関する。本発明はまた、本方法によって得られる組成物およびその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学および癌治療の分野に関するものであり、より具体的には、抗原特異的T細胞の活性化方法および該方法により産生されるT細胞に関するものである。
【背景技術】
【0002】
T細胞は、腫瘍または感染細胞を認識し、これらの標的細胞を死滅させることにより疾患の発症を防ぐ。しかしながら、特異的T細胞の存在下で発症する癌または慢性感染症が証明しているように、腫瘍または病原体と免疫系の相互作用は複雑であり、そのため、病原体または腫瘍がT細胞の監視を逃れることができるのは明らかである。
【0003】
ほとんど全ての病原性侵入者を検出するT細胞の能力は、その並外れて多様な受容体レパートリーによって与えられており、そのおかげで、T細胞プールは、主要組織適合性複合体(MHC)分子による提示を受けたときに、膨大な数のペプチドを認識することができる。それでも、T細胞受容体(TCR)を介するシグナル伝達(シグナル1)は、適切なT細胞活性化には十分でない。なぜなら、共刺激分子が、増殖、生存、および分化のための不可欠なシグナル(シグナル2)を提供するからである。実際、シグナル1のみを受容して、シグナル2を受容しないナイーブT細胞は、アネルギー(無応答)状態にされるか、またはアポトーシスによって死ぬ。シグナル1とシグナル2の統合は完全なT細胞活性化に必要であり、これらのシグナルの強度が、その後のT細胞プールのサイズを決める。さらに、エフェクターT細胞への完全な分化は、通常、第3のシグナルに依存する。この第3のシグナルは、可溶型の抗原提示細胞(APC)によって供給され、必要なエフェクターT細胞のタイプについての指示的シグナルを提供する。この「3シグナル」概念によって、ナイーブT細胞の活性化とその後のエフェクターT細胞の形成のモデルが描かれている。しかし、免疫系は、多様な共刺激分子を大量に提供しており、これらの様々なタイプのシグナル2およびシグナル3は全て、それおれ独自の様式でT細胞応答の品質に貢献している。共刺激シグナルおよび可溶型のシグナル3は、生存、細胞周期進行、発生させるべきエフェクター細胞のタイプ、およびエフェクター細胞かまたはメモリー細胞かのどちらかへの分化などの、T細胞活性化の特定の局面で作用することができる。
【0004】
現在、寿命の長いメモリーCD8+T細胞を誘導するためには、成熟した抗原提示樹状細胞(DC)が、CD4+T細胞、NK細胞およびNKT細胞をはじめとする、他のリンパ球によって「援助される」必要があることが一般的に認められている。この「援助」は、成熟DCをさらに分化するよう誘導する。これは、ライセンシングとして知られる過程である。「ヘルパー」シグナルは、共刺激分子の上方調節、サイトカインの分泌、およびいくつかの抗アポトーシス分子の上方調節を含む、DCに対する複数の効果を有するが、これらは全て、コグネートなT細胞、とりわけ、CD8+T細胞を最適に活性化するDCの能力を累積的に強化する。さらに、「ヘルパー」リンパ球は、T細胞生存、細胞周期進行、発生させるべきエフェクター細胞のタイプ、およびエフェクター細胞かまたはメモリー細胞かのどちらかへの分化に直接影響を及ぼす因子を発現または分泌することもできる。
【0005】
慢性感染症または侵襲性の強い癌と戦うための1つの戦略は養子T細胞療法であり、これは、宿主の特異的T細胞応答を回復させるためのエフェクターT細胞の移植を伴う。望ましい特異性のT細胞を得るための最近の技術的発達は、様々な臨床状況で養子T細胞療法を用いることへの関心を高めた。養子細胞移植療法とは、エクスビボで活性化および拡大された自己腫瘍反応性T細胞の投与のことである。癌治療で養子細胞移植療法を使用する場合、いくつかの潜在的な利点がある。腫瘍の免疫特性とは無関係に、腫瘍特異的T細胞をエクスビボで活性化して、大量に拡大することができ、かつT細胞の機能および表現型に関する品質をその養子移植の前に選択することができる。
【0006】
養子移植後、確立した腫瘍の退縮を引き起こすためには、T細胞についていくつかの事象が起こらなければならない。より具体的には、T細胞は、抗原特異的再刺激によりインビボで活性化されなければならない。次に、T細胞は、顕著な腫瘍負荷の消滅を引き起こすことができるレベルまで拡大されなければならない。抗腫瘍細胞は、全腫瘍細胞の根絶を達成できるほど長く生存しなければならない。
【0007】
これまで、固形腫瘍を有する患者への養子移植用の細胞を選択するために用いられた基準は、共培養したときにIFN−γを放出し、腫瘍細胞を死滅させる抗腫瘍T細胞の能力であった。しかしながら、現在、これらの基準だけでは、インビボ効力が予測されないことが明らかである。Gattinoniら(J.Clin.Invest.115:1616−1626(2005))は、完全なエフェクター特性を獲得し、インビトロでの増大した抗腫瘍反応性を示すCD8+T細胞が、インビボでの腫瘍の退縮を誘発し、治癒するのに効果が低いことを見出した。先行技術による方法は、臨床的に意味のある腫瘍特異的細胞傷害性T細胞レベルに達するのに、1回以上の再刺激を必要とする。例えば、Hoら(Journal of Immunological Methods,310(2006),40−50)およびGritzapisら(J.Immunol.,2008;181;146−154)を参照されたい。これらの文献中では、約19%の腫瘍特異的CD8+T細胞レベルに達するのに、1〜2回の再刺激が必要であった。再刺激は、細胞の活性を弱め、アポトーシスを受けやすくする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
結果として、その活性化の間に、抗原特異的T細胞の増殖および生存を増大させる、養子免疫療法で用いられるT細胞集団の調製方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、腫瘍を有する患者への投与に好適な抗原特異的Tヘルパー1(Th1)細胞または細胞傷害性T細胞(CTL)のプライミングのためのインビトロ法に関する。本方法は、治療すべき患者由来の標的T細胞と、自己単球由来樹状細胞と、自己または同種の腫瘍物質または腫瘍関連タンパク質もしくはペプチドと、同種リンパ球を共培養することを含む。同種リンパ球は、患者由来の抗原提示細胞(APC)表面のMHCクラスIおよび/もしくはMHCクラスII抗原に対して、または治療すべき患者由来のAPC表面に発現したMHCクラスII抗原と同一の少なくとも1つのMHCクラスII抗原を発現する無関係な血液ドナー由来のAPCに対して感作される。
【0010】
本発明はまた、本方法により入手可能な抗原特異的TH1細胞および/またはCTLならびにその使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来のMLRで放射線照射同種末梢血単核細胞(PBMC)表面に発現したMHC抗原に対して感作されたリンパ球(=同種感作同種リンパ球;ASAL)が、ASALのプライミングに用いた放射線照射PBMCに対して自己の共培養された単球由来成熟DC表面でのCD70発現を顕著に増強することを示す。
【図2】γ線照射ASALが、ASALのプライミングに用いた放射線照射PBMCに対して自己の共培養された単球由来成熟DC表面でのCD70発現を増強することを示す。
【図3】ASALと、ASALのプライミングに用いた放射線照射PBMCに対して自己の単球由来DCとの共培養によって、大幅なIL−12産生が誘導されることを示す。
【図4】ASALと、ASALのプライミングに用いた放射線照射PBMCに対して自己の単球由来DCとの共培養によって、大幅なIFN−γ産生が誘導されることを示す。
【図5】ASALと、ASALのプライミングに用いた放射線照射PBMCに対して自己の単球由来DCとの共培養によって、大幅なIL−2産生が誘導されることを示す。
【図6】単球由来成熟DCと、CD4+、CD8+またはCD56+リンパ球が除去されたASALとの共培養の結果としてのIL−2、IL−12およびIFN−γの産生を示す。
【図7】ASALと、ASALのプライミングに用いた放射線照射PBMCに対して自己の単球由来DCとの共培養によって、未感作同種CD8+T細胞における増殖応答が増大することを示す。
【図8】フローサイトメトリーで決定したときの腫瘍特異的CD8+Tリンパ球のパーセンテージを示す。A:右上隅は、HER−2陽性乳癌を有する患者由来のHER−2特異的細胞傷害性リンパ球の誘導を示す。(CD8+標的細胞に対して)自己の抗原負荷DCと放射線照射ASALとを共培養した9日後、全CD8+標的細胞の25.2%が腫瘍特異的CTLになった。B:右上隅は、DCにHer2−ペプチドを負荷しない対照実験におけるHer2特異的細胞傷害性リンパ球の頻度を示す。培養9日後、全CD8+T細胞の0.4%しか腫瘍特異的CTLにならなかった(右上隅と右下隅をあわせて、全CD8T細胞集団を表す)。
【図9】同種CD8+標的細胞の一次刺激時に、ASALのプライミングに用いた放射線照射PBMCに対して自己の単球由来DCに放射線照射ASALを添加すると、一次標的細胞刺激に用いたDCに対して自己のB細胞でCD27発現同種反応性CD8+標的細胞を再刺激したとき、これらの標的細胞の数が増加することを示す。
【図10】同種CD8+標的細胞の一次刺激時に、ASALのプライミングに用いた放射線照射PBMCに対して自己の放射線照射PBMCに放射線照射ASALを添加すると、一次標的細胞刺激に用いたDCに対して自己のB細胞でアポトーシス性(アネキシン−V陽性)標的細胞を再刺激したとき、これらの標的細胞の数が減少することを示す。
【図11】同種CD8+標的細胞の一次刺激時に、ASALのプライミングに用いた放射線照射PBMCに対して自己の放射線照射単球由来DCに放射線照射ASALを添加すると、これらの同種反応性CD8+標的細胞を一次標的細胞刺激に用いたDCに対して自己のB細胞で再刺激したときに、より強い(6倍の)二次増殖応答をもたらすことを示す。
【図12】同種CD8+標的細胞の一次刺激時に、ASALのプライミングに用いた放射線照射PBMCに対して自己の放射線照射単球由来DCに放射線照射ASALを添加すると、これらの同種反応性CD8+標的細胞を一次標的細胞刺激に用いたDCに対して自己のB細胞で再刺激したときに、IFN−γ産生が大幅に増加することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
本発明を説明する前に、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその等価物によってのみ限定されるため、本明細書で用いられる用語は、特定の実施形態を単に説明する目的で用いられるのであって、限定することを意図したものではないことが理解されるべきである。
【0013】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いる場合、単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、複数形の指示対象を含むことに留意しなければならない。
【0014】
また、「約」という用語は、適用可能な場合、所与の値の±2%、好ましくは±5 %、および最も好ましくは数値の±10%の偏差を示すために用いられる。
【0015】
本発明の文脈において、「抗原特異的」という用語は、固有のT細胞受容体(TCR)による自己MHC分子に提示された短い固有のペプチド配列の特異的な認識/結合に関するものである。
【0016】
本発明の文脈において、「プライミング」および「活性化」という用語は、「ヘルパー」細胞が同時に存在するかしないかに関わらず、抗原提示細胞によって刺激されるようになるナイーブな抗原特異的T細胞内で起こるプログラムされた活性化過程に関するものである。
【0017】
本発明の文脈において、「レスポンダー細胞」という用語は、活性化および/または増殖によって、共培養した同種PMBCに応答する、T細胞、NK細胞およびNKT細胞を含むが、これらに限定されない、様々なリンパ球亜集団に関するものである。
【0018】
本発明の文脈において、「感作された細胞」という用語は、共培養した同種細胞(PBMCを含む)によって予め活性化されたT細胞、NK細胞およびNKT細胞を含む、様々なリンパ球亜集団に関するものである。
【0019】
本発明の文脈において、「標的細胞」という用語は、同種APCかまたは抗原提示自己APCかのどちらかによってプライミング/活性化されるようになるCD4+またはCD8+T細胞に関するものである。患者リンパ球(標的細胞)採取の部位は、例えば、末梢血、腫瘍、腫瘍流入領域リンパ節または骨髄とすることができる。
【0020】
本発明の文脈において、単球由来DCに関連する「成熟」という用語は、微生物産物(例えば、LPS)または炎症メディエーター(例えば、TNF−αおよび/もしくはIL−1β)による未成熟DCの刺激によって誘導される、CD40、CD86、CD83およびCCR7を含むが、これらに限定されない、その「成熟マーカー」発現に関するものである。
【0021】
未成熟DCは、高いエンドサイトーシス活性と低いT細胞活性化能を特徴とする細胞である。未成熟DCは、ウイルスや細菌などの病原体の周辺環境を絶えずサンプリングしている。未成熟DCは、病原体を貪食し、そのタンパク質を分解して小片にし、成熟したときに、MHC分子を用いて、これらの断片をその細胞表面に提示する。同時に、未成熟DCは、T細胞を活性化するその能力を大いに増強する、T細胞活性化において共受容体として働く細胞表面受容体(例えば、CD80、CD86、およびCD40)を上方調節する。未成熟DCは、CCR7も上方調節する。CCR7は、血流から脾臓にまたはリンパ系からリンパ節に移行するように樹状細胞を誘導する走化性受容体である。ここで、未成熟DCは、抗原提示細胞として働き、非抗原特異的共刺激シグナルとともに、病原体由来の抗原をヘルパーT細胞およびキラーT細胞ならびにB細胞に提示することにより、これらの細胞を活性化する。成熟DCはおそらく、単球や白血球から生じる。これらは、体中を循環し、正しいシグナルに応じて、DCかまたはマクロファージかのどちらかになることができる。単球は、骨髄内の幹細胞から形成される。単球由来DCは、インビトロで末梢血単球から生成することができる。
【0022】
本発明の文脈において、細胞の「不活化」という用語は、細胞が細胞分裂して子孫を形成することができなくなったことを示すために用いられる。それでも、細胞は、刺激に応答するか、またはサイトカインなどの細胞産物を生合成および/もしくは分泌することができる場合がある。不活化の方法は当技術分野で公知である。不活化の好ましい方法は、毒素(例えば、マイトマイシンC)、または放射線照射(例えば、γ線照射)による処理である。固定または透過処理されて分裂できない細胞もまた、不活化細胞の例である。
【0023】
本発明の文脈において、「混合リンパ球反応」、「混合リンパ球培養」、「MLR」、および「MLC」という用語は、アロタイプが異なる最低2つの異なる細胞集団を含む混合物を指すために互換的に用いられる。アロタイプが異なる細胞の少なくとも1つはリンパ球である。これらの細胞を、しばらくの間、好適な条件の下で一緒に培養すると、リンパ球の刺激がもたらされる。MLRを頻回にする目的は、リンパ球の増殖を開始することができるような同種刺激を提供することであるが、示されていない限り、培養中の増殖は必要ではない。適切な文脈において、これらの用語は、また別に、そのような培養物に由来する細胞の混合物を指すことができる。
【0024】
本明細書で使用する場合、「治療」という用語は、治療を受けている個体または細胞の自然の経過を変化させる試みにおける臨床的介入を指し、予防のためにまたは臨床病理経過中に実施することができる。望ましい効果としては、疾患の発症または再発の防止、症状の緩和、疾患の任意の直接的または間接的な病理学的結果の低減、転移の予防、疾患の進行速度の低下、疾患状態の改善または緩和、および寛解または予後の改善が挙げられる。
【0025】
「抗原提示細胞」、「APC」または「APCs」という用語は、好ましくはクラスI MHC分子と関連した1以上の抗原の提示を誘導することができる無傷の全細胞および他の分子(全て同種起源)と、同種免疫応答を誘導することができる全てのタイプの単核細胞の両方を含む。生きた全細胞をAPCとして用いることが好ましい。好適なAPCの例は、単球、マクロファージ、DC、単球由来DC、マクロファージ由来DC、B細胞および骨髄性白血病細胞(例えば、細胞株THP−1、U937、HL−60またはCEM−CM3)などの全細胞であるが、これらに限定されない。骨髄性白血病細胞は、いわゆる前単球を提供すると言われている。
【0026】
「癌」、「新生物」および「腫瘍」という用語は、互換的に、かつ本明細書および特許請求の範囲で見られるように、単数形または複数形のいずれかで用いられ、悪性形質転換を経た細胞を指す。この悪性形質転換のために、細胞は、宿主生物にとって病的なものとなる。原発性癌細胞(すなわち、悪性形質転換部位の近くから得られる細胞)は、十分に確立した技術、特に、組織学的検査によって、非癌性細胞と容易に区別することができる。本明細書で使用するような癌細胞の定義には、原発性癌細胞だけでなく、癌細胞祖先に由来する任意の細胞も含まれる。これには、転移性癌細胞、ならびに癌細胞に由来するインビトロ培養物および細胞株が含まれる。通常、固形腫瘍として現われるタイプの癌に言及するとき、「臨床的に検出可能な」腫瘍とは、例えば、CATスキャン、磁気共鳴イメージング(MRI)、X線、超音波または触診のような処置により、腫瘍塊に基づいて検出可能な腫瘍のことである。本発明に関連する腫瘍/癌の非限定的な例は、乳癌、神経膠腫、膠芽細胞腫、線維芽細胞腫、神経肉腫、肺癌、子宮癌、リンパ腫、前立腺癌、メラノーマ、精巣腫瘍、星状細胞腫、異所性ホルモン産生腫瘍、卵巣癌、膀胱癌、ウィルムス腫瘍、膵癌、骨癌、肺癌、結腸直腸癌、子宮頸癌、膣癌、滑膜肉腫、血管作動性腸管ペプチド分泌腫瘍、膠芽細胞腫、髄芽細胞腫、頭頸部扁平上皮癌、口腔癌、口腔白板症、食道癌、胃癌、または転移性癌、白血病である。前立腺癌および乳癌が特に好ましい。
【0027】
本発明の文脈において、「培養する」という用語は、様々な種類の培地中での細胞または生物のインビトロ増殖を指す。培養で増殖した細胞の子孫は、(形態、遺伝型、または表現型の点で)親細胞と完全には同一でない場合があることが理解される。好適な培養培地は、当業者が選択することができ、そのような培地の例は、RPMI培地またはイーグル最小必須培地(EMEM)である。
【0028】
「主要組織適合性複合体」および「MHC」という用語は、T細胞への抗原提示と迅速な移植片拒絶とに必要な細胞表面分子をコードする遺伝子群を指す。ヒトでは、MHC複合体は、HLA複合体としても知られている。MHC複合体によってコードされるタンパク質は、「MHC分子」として知られ、クラスI MHC分子およびクラスII MHC分子に分類される。クラスI MHC分子は、β2−ミクログロブリンと非共有結合的に関連する、MHCにコードされた鎖から構成されるヘテロ二量体膜タンパク質を含む。クラスI MHC分子は、ほぼ全ての有核細胞により発現されており、CD8+T細胞への抗原提示において機能することが示されている。クラスI分子は、ヒトでは、HLA−A、HLA−B、およびHLA−Cを含む。クラスI分子は、通常、8〜10アミノ酸長のペプチドに結合する。クラスIIMHC分子もヘテロ二量体膜タンパク質を含む。
【0029】
クラスII MHCは、CD4+T細胞への抗原提示に関与することが知られており、ヒトでは、HLA−DP、HLA−DQ、およびHLA−DRを含む。クラスII分子は、通常、12〜20アミノ酸残基長のペプチドに結合する。「MHC拘束性」という用語は、抗原がプロセッシングされ、結果として生じた抗原性ペプチドが、自己クラスI MHC分子または自己クラスII MHC分子のいずれかと関連して提示されて初めて抗原を認識することが可能となるT細胞の特徴を指す。
【0030】
「ワクチン」、「免疫原」、または「免疫原性組成物」という用語は、本明細書では、ヒトまたは動物対象に投与したときに、ある程度の特異的免疫を付与することができる化合物または組成物を指すために用いられる。本開示で使用する場合、「細胞性ワクチン」または「細胞性免疫原」という用語は、場合により不活化されている少なくとも1つの細胞集団を活性成分として含む組成物を指す。本発明の免疫原、および免疫原性組成物は活性があるが、これは、そのような免疫原、および免疫原性組成物が、少なくとも一部は、宿主の免疫系によって仲介される特異的免疫学的応答(例えば、抗腫瘍抗原応答または抗癌細胞応答)を刺激することができることを意味する。免疫学的応答は、抗体、免疫反応性細胞(例えば、ヘルパー/インデューサーもしくは細胞傷害性細胞)、またはそれらの任意の組合せを含むことができ、かつ治療が向けられている腫瘍の表面に存在する抗原に対して向けられることが好ましい。この応答は、単回用量または複数回用量のいずれかの投与により、対象において誘発または再刺激することができる。
【0031】
化合物または組成物は、a)未感作の個体において、抗原(例えば、腫瘍抗原)に対する免疫応答を発生させることができるか;またはb)個体において、化合物もしくは組成物を投与しない場合に生じる程度を超えて、免疫応答を再構築するか、強化(boost)するか、もしくは維持することができるかのいずれかである場合、「免疫原性」である。組成物は、単回用量または複数回用量で投与したときに、これらの基準のいずれかを達成することができる場合、免疫原性である。
【0032】
説明
本発明は、樹状細胞(DC)を含む自己抗原提示細胞によるその活性化の間に、抗原特異的T細胞の増殖および生存の増大を促進する同種感作同種リンパ球(ASAL)の産生に関する。
【0033】
本発明は、ヒト健常血液ドナー、および抗原特異的ヒトCD8+T細胞応答の誘導におけるASALの正の調節的役割が示された乳癌患者に由来するPBMCおよびその亜集団を用いたインビトロ研究に基づいている。同種インビトロモデルを用いて、ASALの存在下での同種反応性CD8+T細胞の増殖および生存を追跡すると、増殖能は5倍を超えて増大し、アポトーシス細胞死は10%から5%に低下した。
【0034】
ASALの添加は、抗原提示DC表面での共刺激分子CD70の発現を強く上方調節し、かつT細胞の1型CD4+およびCD8+T細胞へのコミットメントに正の影響を及ぼすことがよく知られているIL−12およびIFN−γという2つの因子の産生をもたらす。さらに、ASALの添加は、周知のT細胞増殖因子であるIL−2の産生ももたらす。特に、CD70を介する相互作用は、連続して行なわれる分裂を通して活性化T細胞の生存を促進し、それにより、エフェクターT細胞の蓄積に寄与することも最近示された。
【0035】
本発明は、腫瘍を有する患者への投与に好適な抗原特異的Tヘルパー1(Th1)細胞または細胞傷害性T細胞(CTL)のプライミングのためのインビトロ法に関する。本方法は、治療すべき患者由来の標的T細胞を、自己単球由来DC、自己または同種の腫瘍物質または腫瘍関連タンパク質もしくはペプチド、ならびに患者由来の抗原提示細胞(APC)表面のMHCクラスIおよび/もしくはMHCクラスII抗原に対して、または治療すべき患者由来のAPC表面に発現したMHCクラスII抗原と同一の少なくとも1つのMHCクラスII抗原を発現する無関係な血液ドナー由来のAPCに対して感作された同種リンパ球と共培養することを含む。
【0036】
ASALは、混合白血球反応から得られるレスポンダー細胞であり、単球由来DCおよび標的細胞と一緒に培養される。ASALは、患者に対して同種であり、CD4+T細胞、CD8+T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞を含む、末梢血リンパ球からなる群から選択される。標的細胞は、単球由来DCに対して自己のCD4+および/またはCD8+T細胞である。単球由来DCに、腫瘍物質または腫瘍関連タンパク質もしくはペプチドまたはウイルス由来抗原を負荷する。
【0037】
ASALの添加はさらに、高レベルのCD27を発現する標的CD8+T細胞の集団の濃縮をもたらす。CD27+CD8+T細胞は、抗原で誘起される自己分泌性の増殖シグナルを提供することができるので、養子免疫療法にとって潜在的により効果的なCTL(細胞傷害性T細胞)である。そのようなヘルパー非依存的CD8 T細胞であれば、生存および拡大のために、IL−2またはCD4+T細胞の形態の外因性の援助を必要としないであろう。したがって、本発明は、さらなるサイトカイン(例えば、IL−2)、またはCD4+T細胞が存在しないときまたはそれらの存在量が少ないときに強力な細胞傷害活性を示すようにプログラムされているCD8+T細胞集団を対象に提供することによって、免疫介在性疾患を治療する方法を提供する。本方法は、細胞溶解性の抗原特異的CD8+T細胞のエクスビボ拡大に特に有用であるが、腫瘍特異的CD4+T細胞の拡大に用いることもできる。
【0038】
CD8+Tリンパ球の総数のパーセンテージとして表される細胞溶解性抗原特異的CD8+T細胞のパーセンテージは、好ましくは少なくとも約5%、より好ましくは少なくとも約10%、より好ましくは少なくとも約15%、より好ましくは少なくとも約20%、および最も好ましくは少なくとも約25%である。
【0039】
より具体的には、本発明の方法は、腫瘍を有する患者への投与に好適な抗原特異的Th1細胞またはCTLのプライミングのためのインビトロ法に関するものであり、該方法は、以下の工程を含む:
a)患者由来の不活化した抗原提示細胞を健常ドナー由来の末梢血単核細胞と一緒に培養すること、
b)単球が成熟DCに成熟するのを可能にする組成物中で、患者由来の単球を培養すること(組成物については、以下でさらに記載する)および
c)限定するものではないが、工程a)由来のCD4+T細胞、CD8+T細胞および/またはナチュラルキラー(NK)細胞を含む同種感作リンパ球を、工程b)由来の成熟DCとともに培養すること。
【0040】
単球由来DCは、単球をまずGM−CSFおよびIL−4を含む組成物中で約2〜7日間、好ましくは約5日間培養して未成熟DCを得、その後、少なくとも約12〜72時間、好ましくは約24〜48時間培養することによって未成熟DCを成熟DCにするのを可能にする第2の組成物を添加することにより得られる。第2の組成物は、未成熟DCを単球由来成熟DCにするのを可能にする成分を含み、この単球由来成熟DCを用いて、CD4+T細胞およびCD8+T細胞を活性化することができる。一実施形態では、第2の組成物は、TNFα、IL−1β、インターフェロンγ、インターフェロンβおよびTLR3リガンド(例えば、ポリI:C)を含む(Mailliard et al.,Alpha−type−1 polarized DCs:a novel immunization tool with optimized CTL−inducing activity.Cancer Res.2004;64:5934−5937.)。別の実施形態では、第2の組成物は、インターフェロンγ、TLR3リガンドおよび/またはTLR4リガンドならびにTLR7リガンドおよび/またはTLR8リガンドおよび/またはTLR9リガンドを含む。TLR3リガンドの非限定的な例はポリI:Cであり、TLR7/8リガンドの非限定的な例はR848であり、TLR9リガンドの非限定的な例はCpGである。
【0041】
同種リンパ球の感作は、不活化した同種抗原提示細胞を健常ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)とともに培養することを含む従来の混合白血球反応(MLRまたはMLC−混合白血球培養)により誘導される。MLRの実施は当業者に周知である(Jordan WJ,Ritter MA.Optimal analysis of composite cytokine responses during alloreactivity. J Immunol Methods 2002;260:1−14)。MLRでは、2個体由来のPBMC(主にリンパ球)を組織培養液中で数日間一緒に培養する。不適合個体由来のリンパ球は互いに刺激し合って、大いに増殖するが(例えば、トリチウム化チミジンの取込みにより測定される)、適合性個体由来のリンパ球はそうならない。一方向MLCでは、これらの個体の一方に由来するリンパ球を(通常、マイトマイシンなどの毒素またはγ線照射などの照射による処理によって)不活化し、それにより、残りの未処理の細胞集団だけが異種の組織適合性抗原に応答して増殖することを可能にする。
【0042】
MLRで用いられる抗原提示細胞は、PBMCおよび単球由来DCからなる群から選択される。単球由来DCは、患者由来のものまたは患者のHLA−DR抗原と一致するMHCクラスII(HLA−DR)抗原を有する健常ドナー由来のものである。
【0043】
腫瘍物質または腫瘍関連タンパク質もしくはペプチドは、患者由来の死滅した腫瘍細胞、患者の腫瘍と同じタイプの同種腫瘍細胞、ならびに単離および精製された腫瘍タンパク質またはペプチドからなる群から選択される。単離および精製された腫瘍タンパク質またはペプチドは当業者に周知である。一実施形態では、腫瘍物質は、腫瘍タンパク質をコードするmRNAのトランスフェクションによって単球由来DC中に負荷された腫瘍タンパク質である。
【0044】
腫瘍関連ペプチドの例は、HER−2タンパク質(乳癌と関連する)に由来するペプチド、PSA(前立腺癌と関連する前立腺特異的抗原)に由来するペプチド、MART−1タンパク質(悪性メラノーマと関連する)に由来するペプチド、ならびに「普遍的」腫瘍関連タンパク質であるサバイビンおよびp53に由来するペプチドである。腫瘍関連ペプチド/タンパク質のさらなる例は、当業者に周知である。
【0045】
本発明の方法では、細胞を、約20日間、好ましくは約4〜20日間、好ましくは6〜20日間、より好ましくは7〜14日間、および最も好ましくは約9〜14日間共培養する。
【0046】
本発明の方法の一実施形態では、細胞の増殖および生存を最適化するために、外因性のIL−2、IL−7、IL−15、抗IL−4および/またはIL−21を細胞培養物に添加する。
【0047】
該細胞を新しい単球由来DC、感作した新しい同種リンパ球と一緒に培養し、場合により、外因性のIL−2、IL−7、IL−15、抗IL−4および/またはIL−21を細胞培養物に添加することにより、プライミングした抗原特異的Th1細胞またはCTLを再刺激することも可能である。
【0048】
本発明はまた、上記の方法により入手可能な免疫原性組成物ならびに上記の方法により入手可能な抗原特異的Th1細胞および/またはCTLに関するものである。
【0049】
抗原特異的TH1細胞および/またはCTLは、患者への投与に好適であり、好ましくは、以下の特徴のうちの少なくとも1つを含む:
−増殖する能力
−記憶マーカーのCD45 ROを発現する
−アポトーシスマーカーのアネキシン−Vを低レベルに発現する(すなわち、FACSによる測定で、細胞の40%、好ましくは20%しか、アネキシン−Vの陽性染色を示さないはずである)
−その細胞表面でCD27および/またはCD28を発現する。
【0050】
本発明の方法により入手可能な特異的TH1細胞および/またはCTLのさらなる能力は、インビトロで腫瘍細胞を死滅させる能力である。
【0051】
さらに、本発明は、腫瘍の治療においてもしくはヒトの抗腫瘍免疫応答を誘発するために使用される、および腫瘍の治療のためのもしくはヒトの抗腫瘍免疫応答を誘発するための医薬品の製造に使用される、本発明の方法により入手可能であるかまたは上で定義したような、抗原特異的TH1細胞および/またはCTLの使用に関するものである。TH1細胞および/またはCTLは、1回目の刺激の後に、またはあるいは再刺激の後に投与することができる。一実施形態では、TH1細胞および/またはCTLは、治療的癌ワクチンと組み合わせて投与する。
【0052】
ヒト対象の治療で養子細胞療法にT細胞集団を用いる方法は、当技術分野の臨床医には公知である。本明細書に記載のかつ当技術分野で公知の方法に従って調製されるT細胞集団をそのような方法で用いることができる。例えば、MART−I抗原特異的T細胞とともに腫瘍浸潤リンパ球を用いる養子細胞療法が臨床で試験されている(Powell et al.,Blood 105:241−250,2005)。腎細胞癌を有する患者に対し、放射線照射自己腫瘍細胞のワクチンが接種されている。採取された細胞は、抗CD3モノクローナル抗体とIL−2とで二次的に活性化され、患者に再投与された(Chang et al.,J.Clinical Oncology 21:884−890,2003)。
【0053】
抗原によってプライミングされたT細胞は、DCによるインビトロでの初期プライミングの間にASALに曝露されると、再刺激によって増殖の増大とアポトーシスの低下を経験する。したがって、ワクチンを接種する前および/またはワクチンを接種している間に、患者に養子的に戻される場合、ワクチン接種によって二次性のT細胞応答を増強する方法も、本発明によって想定されている。
【0054】
本発明はまた、標的抗原を認識するT細胞受容体またはキメラT細胞受容体を発現するように(ウイルスによる形質導入、トランスフェクション、エレクトロポレーションまたは遺伝物質を導入する他の方法によって)改変されたT細胞を含む、養子免疫療法で用いられるT細胞集団を調製し;これらの改変されたT細胞を、感作された同種リンパ球の存在下で、抗原負荷DCにより活性化し;これらの細胞を培養で拡大し;かつこれらの細胞を再導入して患者に戻す方法を提供する。
【0055】
本発明はまた、癌ワクチン療法を改善する方法を提供する。多くの腫瘍は、免疫系による破壊の標的として潜在的に働くことができる異種抗原を発現している。癌ワクチンは、液性成分と細胞性成分の両方を含む全身性の腫瘍特異的免疫応答を対象内で発生させる。この応答は、腫瘍から離れた部位でまたは局在化した腫瘍の部位でワクチン組成物を投与することによって、対象自身の免疫系から誘発される。抗体または免疫細胞は腫瘍抗原に結合し、腫瘍細胞を溶解させる。しかしながら、癌患者のワクチン接種によるT細胞応答性の増大は必要とされ続けている。したがって、ワクチン接種前またはワクチン接種時点で、高い増殖能を有する、予め活性化されたアポトーシス抵抗性の腫瘍特異的T細胞を養子移植することにより、ワクチン介在性の免疫応答をインビボで増強することができる。
【0056】
本発明による組成物は、治療的癌ワクチンと組み合わせて投与することもできる。そのような治療的癌ワクチンの非限定的な例は、エクスビボで増幅され、かつ腫瘍負荷されたDC、サイトカイン産生腫瘍細胞、DNAワクチン接種、および腫瘍抗原と組み合わせてTLRリガンドを用いるワクチンである。
【0057】
本発明の方法により入手可能な細胞をヒトなどの生物に直接投与して、その活性化の間に抗原特異的T細胞の増殖および生存を増大させることができる。多くの場合、医薬として許容される担体を伴うこれらの細胞の投与は、細胞を導入して、最終的に哺乳動物の血液または組織細胞と接触させるために通常使用される経路のうちのいずれかによる。
【0058】
例えば、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下および腫瘍内経路および担体によるものなどの非経口投与に好適な製剤としては、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質を含むことができる水性等張滅菌注射溶液、ならびに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および防腐剤を含むことができる水性および非水性滅菌懸濁液が挙げられる。静脈内投与は、本発明のTH1細胞およびCTLの好ましい投与方法である。
【0059】
本発明の文脈における、患者に投与されるTH1細胞およびCTLの用量は、患者の免疫応答を増強するのに十分なものであるべきである。したがって、腫瘍抗原に対する効果的な免疫応答を誘発し、かつ/または疾患の症状および/もしくは疾患による合併症を緩和するか、軽減するか、治癒させるかもしくは少なくとも部分的に停止させるのに十分な量で、細胞を患者に投与する。これを達成するのに十分な量を「治療的有効用量」と定義する。この用量は、産生される細胞の活性および患者の状態、ならびに治療すべき患者の体重または表面積により決定される。癌などの疾患の治療または予防で投与すべき細胞の有効量を決定する際に、医師は、疾患の進行および任意の関連腫瘍抗原に対する免疫応答の誘導を評価する必要がある。
【0060】
先行技術の方法と比較して、本発明の大きな利点がいくつかある。本発明は、再刺激を必要とせずに、高レベルの腫瘍特異的CD8+T細胞を提供する。再刺激は、細胞の活性を弱め、アポトーシスを受けやすくする。したがって、再刺激を必要とせずに腫瘍特異的T細胞を効率的に拡大する方法は好都合である。さらに、細胞を再刺激する必要がなければ、腫瘍特異的T細胞をより短期間のうちに患者に戻すことができ、費用効率がより高くなる。さらに、本発明による方法を使用すれば、サプレッサー細胞の除去または非常に費用がかかる過程である外因性増殖因子の添加の必要がない。
【実施例】
【0061】
本発明を以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
実施例1
材料および方法:健常血液ドナー由来のγ線照射PBMCを(健常血液ドナーに対して)同種のドナー由来の放射線非照射PBMCと、無血清X−VIVO 15培地を含む組織培養フラスコ中、1:1の比で、5〜7日間共培養することにより、標準的な一方向混合白血球反応(MLR)で同種感作同種リンパ球(ASAL)を生成させた。未成熟DCの増殖のために、健常血液ドナーから得た末梢血単核細胞(PBMC)を密度勾配で単離した(Lymphoprep,Nycomed,Oslo,Norway)。単離したPBMCをAIM−V培地(Invitrogen,Paisley,UK)に再懸濁し、24ウェルプラスチック培養プレート中に1ウェル当たり2.5×106細胞でプレーティングし、2時間付着させておいた。付着していない細胞を除去し、付着している残りの単球を、組換えヒトGM−CSFおよびIL−4(R&D Systems,Abingdon,UK;両方とも1,000U/mL)を補充したAIM−V培地中で4〜6日間培養した。インキュベーションの最後の24時間、培養培地にIFN−α(3,000U/mL)、IFN−γ(1,000U/mL)、TNF−α(50ng/mL)、IL−1β(25ng/mL)(全てR&D Systems製)およびp−I:C(Sigma−Aldrich;20μg/mL)を補充することにより、未成熟DCの成熟を誘導した。
【0062】
FACS解析で決定したとき、成熟DC集団は全て、70%を超えるCD83+DCを含んでいた。
【0063】
洗浄後、成熟DCを、X−VIVO 15培地中で24時間、放射線非照射またはγ線照射(25グレイ)ASALと共培養し、FACSで解析した。γ線照射PBMCをスティミュレーター細胞として、かつ放射線非照射PBMCをレスポンダー細胞として用いて、無血清培養培地(X−VIVO 15)中で、5〜6日間、一次の一方向MLRを実施することにより、同種反応性リンパ球の感作を行なった。PE−コンジュゲート抗ヒトCD70をFACS研究に用いた。
【0064】
結果:図1に示すように、ASALは、ASALのプライミングに用いた放射線照射PBMCに対して自己の単球由来成熟DC表面でのCD70の発現を顕著に増強する。
【0065】
図2に示すように、γ線照射ASALも同様に、ASALのプライミングに用いた放射線照射PBMCに対して自己の単球由来成熟DC表面でのCD70の発現を顕著に増強する。
【0066】
図3、4および5に示すように、ASALと、ASALのプライミングに用いた放射線照射PBMCに対して自己の成熟DCとの共培養は、IL−12、IFN−γおよびIL−2の大幅な産生を誘導する。
【0067】
実施例2
材料および方法:放射線照射同種PBMCをスティミュレーターとして用いて、従来のMLRにおいて7日間、ASALを生成させた(実施例1参照)。採取および照射の後、バルクのASAL集団(「MLR」)またはCD4+細胞、CD8+細胞もしくはCD56+(NK/NKT)細胞を除去したASALを(ASALのプライミングに用いたPBMCに対して自己の)同種単球由来成熟DCと共培養した。共培養上清を24時間後に回収し、その後、IL−2、IL−12およびIFN−γの産生についてアッセイした。
【0068】
結果:IL−2産生は完全にCD4依存的であることが分かったが(図6A)、その一方で、IL−12産生(図6B)はASAL依存性を全く示さず、IFN−γ産生(図6C)は、共培養され、同種プライミングされた、ASAL集団内のCD4+、CD8+およびCD56+(NK/NKT)に対する部分的な依存性を示した。
【0069】
実施例3
材料および方法:単球をプラスチックに付着させることにより、未成熟DCを生成させた。単球を、IL−4およびGM−CFS(両方とも1000U/mL)を補充したCellGro(登録商標)DC中で7日間培養した。50ng/mLのTNF−α、25ng/mLのIL−1β、50ng/mLのIFN−γ、3000U/mLのIFN−αおよび20μg/mLのポリI:Cをインキュベーションの最後の2日間添加することにより、DCの成熟を誘導した。
【0070】
DCドナーに対して同種のγ線照射PBMCおよびDCドナーに対して自己の放射線非照射PBMCを、X−VIVO 15中、1:1の比で、7日間共培養することにより、一方向混合リンパ球反応でASALを生成させた。
【0071】
50ng/mLのIL−15を補充したX−VIVO 15中、0.5×106リンパ球/mLの最終濃度で7日間培養しておいた自己PBMCからの陽性選択により、CD8+Tリンパ球を単離した。PBMCを遠心分離し、1×107/80μlの最終濃度でPBS−0.5% BSA−2M EDTAに再懸濁した。PBMCを、CD8+ MicroBeads(Miltenyi Biotec)とともに4℃で15分間インキュベートし、洗浄し、再懸濁し、LS MACSカラムに載せた。未標識細胞を洗浄して通過させ、CD8+リンパ球を含む全流出物を回収した。単離したCD8+Tリンパ球を、予め温めておいたPBS−1% BSAに1×106/mLの濃度になるよう再懸濁し、10μΜのCFSE(Molecular probes Invitrogen)で、37℃で10分間染色した。5mLの氷冷X−VIVO 15培地を添加して染色を停止させ、氷上で5分間インキュベートした。細胞を培地中で2回洗浄し、1×106/mLの最終濃度になるよう再懸濁した。染色されたCD8+Tリンパ球を、放射線照射した同種感作同種PBMCおよび感作した自己DCとともに、4:4:1の比で、4〜7日間共培養した。培養後、リンパ球を採取し、CD3−APC−H7、CD8−PerCP、CD27−APCおよびアネキシンVで染色した。増殖しているCD8+Tリンパ球のパーセンテージをフローサイトメトリーで決定し、全リンパ球のパーセンテージとして表した。
【0072】
結果:図7に示すように、放射線照射「同種ヘルパー」(=ASAL)を添加すると、CD8+T細胞分裂が著しく増強される(蛍光強度の低い細胞がより多い)。したがって、ASALは、同種反応性CD8+T細胞の増殖応答を誘導する単球由来DCの能力を強化する。
【0073】
実施例4
材料および方法:単球をプラスチックに付着させることにより、未成熟DCを生成させた。IL−4およびGM−CFS(両方とも1000U/mL)を補充したCellGro(登録商標)DC中で単球を7日間培養した。50ng/mLのTNF−α、25ng/mLのIL−1β、50ng/mLのIFN−γ、3000U/mLのIFN−αおよび20μg/mLのポリI:Cをインキュベーションの最後の2日間添加することにより、DCの成熟を誘導した。付着していない細胞、すなわち、CD8+リンパ球を洗浄し、0.5×106/mLの最終濃度で、50ng/mLのIL−15を補充したX−VIVO 15中で7日間培養した。
【0074】
DCドナーに対して自己のγ線照射PBMCとDCドナーに対して同種の放射線非照射PBMCとを、X−VIVO 15中、1:1の比で、7日間共培養することにより、一方向混合リンパ球反応(MLR)で同種感作同種リンパ球を生成させた。
【0075】
成熟DCを採取し、X−VIVO 15中、37℃で1時間、20μg/mLのHER−2ペプチド(KIFGSLAFL)を負荷した。ペプチド負荷した成熟DCを用いて、DCと放射線照射MLRと付着していないPBMCとを1:4:4の比で共培養することにより、自己HER2特異的細胞傷害性Tリンパ球を誘導した。細胞を、50U/mLのIL−2および10ng/mLのIL−7を含むCellGro(登録商標)DCならびにこれらを含まないCellGro(登録商標)DCの中で9日間培養した。培養後、細胞を採取し、洗浄し、HER−2特異的PE−コンジュゲートペンタマー(A*0201 KIFGSLAFL)とともに暗所室温で10分間インキュベートした。細胞を洗浄し、その後、CD3−FITCおよびCD8−APCを用いて染色を行なった。HER−2陽性の細胞傷害性Tリンパ球のパーセンテージをフローサイトメトリーで決定し、全CD8+Tリンパ球数のパーセンテージとして表した。
【0076】
結果:図8は、自己DC、本発明の同種感作同種リンパ球で刺激し、かつHer−2ペプチドで刺激した腫瘍特異的CTLの拡大(A)、および自己DC、本発明の同種感作同種リンパ球で刺激し、かつHer−2ペプチドで刺激していない腫瘍特異的CTLの拡大(B)を示している。Her2+/CD8+細胞は、各ドットプロットの右上の部分に示されている(PBMCを同種プライミングしたが、DCにHer2ペプチドを負荷していない場合は0.4%、PBMCを同種プライミングし、DCにHer2ペプチド(KIFG)を負荷した場合は25.2%)。
【0077】
先行技術における腫瘍特異的CTLの拡大と比較すると、1度しか刺激していないのにこのレベルの拡大が得られるのは、驚くべきことである。例えば、Hoら(Journal of Immunological Methods,310(2006),40−50)を参照されたい。この文献中では、腫瘍特異的CD8+細胞の18.8%の拡大を得るのに、2回の再刺激が必要であった。同様に、Gritzapisら(J.Immunol.,2008;181;146−154)では、機能的に拡大された腫瘍特異的CD8+細胞を得るために再刺激が必要とされた。
【0078】
実施例5
材料および方法:実施例1の材料および方法を参照されたい。
【0079】
DC、(DCに対して同種の)放射線照射ASALを6日間共培養した後、(抗体をコーティングした磁気ビーズによる陰性選択を用いて)CD8+リンパ球を単離し、その後、(一次刺激で用いたDCに対して自己の)B細胞で再刺激し、CD27およびアネキシン−Vの発現について染色した。その後の解析はFACSで行なった。
【0080】
結果:図9に示すように、一次刺激時にASALを添加すると、CD8+細胞をB細胞再刺激したときのCD27の発現が大幅に増大した。
【0081】
一次刺激時にASALを添加すると、CD8+細胞をB細胞再刺激したときのアネキシン−V(アポトーシスマーカー)の発現が大幅に低下した(図10参照)。
【0082】
実施例6
材料および方法:実施例5の材料および方法を参照されたい。
【0083】
B細胞で再刺激する前に、プライミングし、単離したCD8+細胞に3H−チミジンをパルスした。
【0084】
結果:図11に示すように、一次刺激時にASALを添加すると、(3日目の3H−チミジンの取込み(cpm/分)で測定したとき)再刺激後の同種反応性CD8+細胞の増殖応答が著しく増強された。
【0085】
実施例7
材料および方法:実施例5の材料および方法を参照されたい。
【0086】
B細胞と予め活性化しておいたCD8+細胞とを2日間共培養した後、培養上清を回収し、IFN−γ産生について従来のELISA(R&D Systems)で解析した
【0087】
結果:図12は、一次刺激時にASALを添加すると、再刺激後の同種反応性CD8+細胞によるIFN−γ産生が大幅に増大したことを示している。
【0088】
特定の実施形態を本明細書で詳細に開示したが、これは、説明する目的で例として行なわれているに過ぎず、以下に添付する特許請求の範囲に関して限定するものであることを意図するのではない。特に、特許請求の範囲によって定義される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明に対して様々な置換、変更、および修正を行なうことができることが本発明者らにより想定されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍を有する患者への投与に好適な抗原特異的Tヘルパー1(Th1)細胞または細胞傷害性T細胞(CTL)をプライミングするためのインビトロ法であって、前記方法は、治療すべき前記患者由来の標的T細胞と、自己単球由来樹状細胞と、自己もしくは同種の腫瘍物質または腫瘍関連タンパク質もしくはペプチドと、前記患者由来の抗原提示細胞(APC)表面のMHCクラスIおよび/またはMHCクラスII抗原に対して、または治療すべき前記患者由来のAPC表面に発現したMHCクラスII抗原と同一の少なくとも1つのMHCクラスII抗原を発現する無関係な血液ドナー由来のAPCに対して感作された同種リンパ球とを共培養することを含む、インビトロ法。
【請求項2】
前記感作は、不活化した同種抗原提示細胞を健常ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)とともに培養することを含む混合白血球反応により誘導される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗原提示細胞は、PBMCおよび単球由来樹状細胞からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記単球由来樹状細胞は、前記患者由来のものであるかまたは前記患者の前記HLA−DR抗原とマッチするMHCクラスII(HLA−DR)抗原を有する健常ドナー由来のものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記単球由来樹状細胞は、単球をまずGM−CSFおよびIL−4を含む組成物中で約1〜7日間培養して、未成熟樹状細胞を得、その後、少なくとも約12時間培養することによって前記未成熟樹状細胞を成熟樹状細胞にするのを可能にする第2の組成物を添加することにより得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の組成物は、TNFα、IL−1β、インターフェロンγ、インターフェロンαもしくはβおよびTLR3リガンド、例えば、ポリ−I:Cならびに/またはTLR4リガンドを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の組成物は、TNFα、インターフェロンγ、TLR3および/またはTLR4リガンドならびにTLR7および/またはTLR8アゴニストを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記TLR3リガンドはポリ−I:Cであり、かつ前記TLR8アゴニストはR848である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記腫瘍物質または腫瘍関連タンパク質もしくはペプチドは、前記患者由来の死滅した腫瘍細胞、前記患者の腫瘍と同じタイプの同種腫瘍細胞、ならびに既知の単離および精製された腫瘍タンパク質またはペプチドからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記腫瘍関連ペプチドは、HER−2タンパク質、PSAタンパク質、MART−1タンパク質、p53タンパク質および/またはサバイビンに由来するペプチドである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記腫瘍物質は、前記腫瘍タンパク質をコードするmRNAのトランスフェクションにより前記成熟樹状細胞に負荷された腫瘍タンパク質である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞を約4〜20日間培養する、前述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
外因性IL−2、IL−7、IL−15、抗IL−4および/またはIL−21を前記細胞培養物に添加する、前述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記プライミングされた抗原特異的Th1細胞またはCTLは、前記細胞を新しい単球由来樹状細胞、感作した新しい同種リンパ球と一緒に培養し、場合によっては、外因性IL−2、IL−7、IL−15、抗IL−4および/またはIL−21を前記細胞培養物に添加することにより再刺激される、前述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法により得られる抗原特異的TH1細胞および/またはCTL。
【請求項16】
患者への投与に好適な抗原特異的TH1細胞および/またはCTL、ここで、前記TH1細胞および/またはCTLは、
−増殖する能力を有し、
−前記細胞の40%までしかアネキシン−Vの陽性染色を示さないはずであり、かつ/または
−その細胞表面でCD45ROおよびCD27および/またはCD28を発現する。
【請求項17】
腫瘍の治療においてまたはヒトの抗腫瘍免疫応答を誘発するために使用される請求項15または16に記載の抗原特異的TH1細胞および/またはCTL。
【請求項18】
腫瘍を治療するためのまたはヒトの抗腫瘍免疫応答を誘発するための医薬品を製造するための請求項15または16に記載の抗原特異的TH1細胞および/またはCTLの使用。
【請求項19】
前記TH1細胞および/またはCTLは治療的癌ワクチンと組み合わせて投与される、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記TH1細胞および/またはCTLは1回目の刺激の後に投与される、請求項18〜19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記TH1細胞および/またはCTLは再刺激の後に投与される、請求項18〜19のいずれか一項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2013−507986(P2013−507986A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−536753(P2012−536753)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【国際出願番号】PCT/SE2010/051099
【国際公開番号】WO2011/053223
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(512112873)
【Fターム(参考)】