説明

抗原蛋白質を発現した細胞を利用する抗体測定方法

【課題】迅速かつ安全なhMPV蛋白質抗体の測定法を提供する。
【解決手段】hMPVのF蛋白質を発現した宿主細胞を担体に固定化し、該宿主細胞を固定化した担体と検体と接触させ、該宿主細胞が発現する蛋白質と検体の抗hMPV蛋白質抗体の抗原−抗体反応を利用した、抗hMPV蛋白質抗体の測定方法、測定試薬等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト・メタニューモウイルス(human Metapneumovirus、以下hMPVと略称する)のF蛋白質を発現した宿主細胞を利用する、抗hMPV蛋白質抗体の測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
hMPVは2001年にオランダで小児呼吸器感染症患者の鼻咽腔吸引液から単離され、その存在が明らかにされた新しいウイルスである。hMPVはその後もオーストラリア、カナダ、イギリス、フランス、香港などでも急性呼吸器感染症患者から分離されている。
【0003】
hMPVは小児、高齢者及び免疫障害を持つ患者において、上気道ウイルス感染症やインフルエンザに似た病気を引き起こすとともに、気管支炎、気管支梢炎、及び肺炎といった下気道ウイルス感染症にも関連している(非特許文献1、2)。hMPVは2001年に初めて発見された新しいウイルスであるが、血清疫学調査結果から少なくとも50年以上前から人間で流行していたウイルスであると考えられている。hMPVの小児における感染頻度については、急性呼吸器症状を示す小児の5〜40%程度にhMPVが検出されたことが報告されている。また、血清疫学調査からは5〜10歳以上の急性呼吸器症状を示す小児は、ほぼ100%がhMPVに感染している可能性があることが示されている。
【0004】
これらのことから、hMPVは従来その存在が明らかにされていなかっただけであって、小児においては一般的な呼吸器感染症の1つであると考えられる。さらにhMPV感染症は、小児だけでなく高齢者においても高率に検出されたとする報告もある。現在、hMPVの検出には逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)法、生ウイルスに感染した動物細胞を用いた蛍光抗体法が開発されている(特許文献1、2)。しかしながら、簡便かつ安全な検出方法は確立されていない。
【0005】
hMPVはエンベロープ型のウイルスであり、約13Kbpのマイナスセンス1本鎖RNAから成り立つ。hMPVの遺伝子構造は3´−N−P−M−F−M2−SH−G−L−5´となっており、鳥類メタニューモウイルス(avian Metapneumovirus 、以下aMPVと略称する)と遺伝子配列が類似している。各遺伝子の機能についてはまだ明らかにされていないが、hMPVとaMPVはパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)ファミリーのニューモウイルス(pneumovirus)サブファミリーに属している(非特許文献3)。このサブファミリーには呼吸器合胞体ウイルス(respiratory syncytial virus、以下RSVと略称する)のようなニューモウイルスも含まれる。
【0006】
hMPVは、構造蛋白質として、主要な膜糖蛋白質であるF蛋白質(Fusion protein)およびG蛋白質(Attachment protein)、小膜蛋白質であるSH蛋白質(Smallhydrophobic protein)およびM2蛋白質、核蛋白質であるN蛋白質(Nucleoprotein)、またマトリックス蛋白質であるM蛋白質(Matrix protein)をエンコードしている。さらにこれらの構造蛋白質以外に、ウイルスの複製に関与する蛋白質として、P蛋白質(phosphoprotein)、また転写酵素であるL蛋白質(largepolymeraseprotein)をエンコードしている。構造蛋白質のうち、F蛋白質はウイルス膜と細胞膜の融合を促進し、ウイルス性リボヌクレオ蛋白質を細胞の細胞質に侵入させる。また、G蛋白質はウイルスと細胞の受容体の結合を仲介する吸着蛋白質である。RSV感染において、免疫原性及び防護抗原の多くはF蛋白質であり、F蛋白質は強い免疫応答を引き起こし、細胞障害性T細胞の標的となる。また、N蛋白質はゲノムRNAの保護、さらに、M蛋白質はビリオンのコアの安定性を保つ(非特許文献4)。
【0007】
バキュロウイルス発現系は、生物学的活性が非常に高い、抗原性の真核生物の蛋白質を生産するのに適した方法であり、酵素抗体法、免疫ブロット法及び免疫蛍光検査法などに用いられている(非特許文献5)。特許文献2には、バキュロウイルス発現系を用いて作製したhMPVのN蛋白質発現細胞の破砕液を抗原として用いる、抗hMPV蛋白質抗体の検出について記載されている。また、特許文献2には組換えN蛋白質を用いた酵素免疫測定法(EIA)についての記載があり、G蛋白質及びF蛋白質についても抗原として酵素免疫測定法に使用できる可能性についても述べられているが、具体的なデータは示されていない。本願発明の特徴はhMPVの構造蛋白質であるF蛋白質を発現させた宿主細胞そのものを担体に固定して抗hMPV蛋白質抗体の検出に用いることであり、本願発明は公知の発明に比べ感度、迅速性、安全性等の点で大変優れている。また、hMPV以外のウイルスに関しては、その構造蛋白質を発現させた宿主細胞そのものを担体に固定して抗ウイルス蛋白質抗体を検出する方法は公知であった(非特許文献6)が、この方法がhMPV抗体の検出に適用できるのかどうか、またhMPVの蛋白質のうちF蛋白質のみがこの検出方法に用いて高感度の結果が得られることは知られておらず、かかる検出方法とhMPVのF蛋白質の組合わせを提供することには大きな意義がある。
【特許文献1】国際公開公報WO02/057302。
【特許文献2】国際公開公報WO03/072719。
【非特許文献1】Ebihara, T., R. Endo, H. Kikuta, N. Ishiguro, H. Ishiko, M.Hara, Y. Takahashi ,and K. Kobayashi. (2004) J.Clin.Microbiol.42:126-132.
【非特許文献2】Ebihara, T., R. Endo, H. Kikuta, N. Ishiguro, M. Yoshioka, X. Ma, and K.Kobayashi.(2003)J. Med. Virol.70: 281-3.
【非特許文献3】van den Hoogen, B. G., J. C. de Jong, J. Groen, T. Kuiken, R. deGroot, R. A. Fouchier, and A. D. Osterhaus.(2001)Nat.Med. 7: 719-24
【非特許文献4】Easton, A. J., J. B. Domachowske and H. F.Rosenberg.(2004) Clin.Microbiol.Rev.,17: 390-412.
【非特許文献5】Smith, G. E., M. D. Summers and M. J. Fraser. (1983) Mol. Cell.Biol., 3: 2156-2165.
【非特許文献6】Pereira, R. F., W. N. Paula, C.Cubel Rde, and J. P. Nascimento. (2001)Mem. Inst. OswaldoCruz.96:507-13.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、迅速、高感度かつ安全な抗hMPV蛋白質抗体の測定法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、生ウイルス感染細胞を使用すると感染の危険性が非常に高いが、抗原性を有していると思われる構造蛋白質のうち、F蛋白質を発現させた宿主細胞を使用することにより、ヒトには無害で生ウイルス感染細胞を用いた方法と同等以上の高感度な蛍光抗体法が実施可能であることが判明し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、
1.以下の工程を含む、抗ヒト・メタニューモウイルス(hMPV)蛋白質抗体の測定方法;
1)hMPVのF蛋白質をコードする遺伝子領域を蛋白質発現ベクターに組み込み、組換え蛋白質発現ベクターを作製する工程、
2)工程1)において得られた組換え蛋白質発現ベクターを宿主細胞に導入しhMPVのF蛋白質の発現を行う工程、
3)工程2)においてhMPVのF蛋白質を発現させた宿主細胞を担体に固定化する工程、
4)工程3)において担体上に固定化した宿主細胞が発現するhMPVのF蛋白質と、検体を接触させる工程、
5)工程4)において得られた担体上のhMPVのF蛋白質と検体における抗hMPV蛋白質抗体の抗原−抗体反応の結果を、測定系に導き、検体における抗hMPV蛋白質抗体を検出および/または定量する工程、
2.hMPVのF蛋白質が以下に示すいずれか1のポリペプチドである、前項1に記載の測定方法;
1)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
2)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのうち1ないし数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入または付加されたポリペプチド、
3)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと80%以上の相同性を有するポリペプチド、
3.hMPVのF蛋白質をコードする遺伝子が以下に示すいずれか1のポリヌクレオチドである前項1に記載の測定方法;
1)配列表の配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド及び/又はその相補鎖、
2)配列表の配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドのうち1ないし数個のヌクレオチドが、置換、欠失、挿入または付加された配列からなるポリヌクレオチド及び/又はその相補鎖、
3)配列表の配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションするポリヌクレオチド、
4.組換え蛋白質発現ベクターが組換えバキュロウイルスである前項1〜3のいずれか1に記載の方法、
5.宿主細胞が昆虫細胞である前項1〜4のいずれか1に記載の方法、
6.担体が、合成高分子、天然高分子、又は金属高分子である前項1〜5のいずれか1に記載の方法、
7.測定系が免疫学的測定法を用いた系である、前項1〜6のいずれか1に記載の方法、
8.免疫学的測定法が蛍光抗体法である前項7に記載の方法、
9.前項1〜8のいずれか1に記載の方法を用いる、hMPV感染の検出方法、
10.前項1〜9のいずれか1に記載の方法に用いる試薬であり、hMPVのF蛋白質を発現させた宿主細胞または該宿主細胞を固定化した担体を含むことを特徴とする測定用試薬、
11.前項1〜9のいずれか1に記載の方法に用いる試薬であり、hMPVのF蛋白質を発現させた宿主細胞または該宿主細胞を固定化した担体を含むことを特徴とする測定用試薬キット、
からなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗hMPV蛋白質抗体の測定方法は、生hMPV感染細胞ではなく、hMPVのF蛋白質を発現した宿主細胞を用いることにより、操作の危険性を除去し、手技的容易性を確保できるだけでなく、高感度を備えたhMPVの検出が可能となる。また、本発明のF蛋白質を発現した宿主細胞を使用することで、他の抗体測定法も実施することが可能と考えられる。本発明により、これまでに実施が困難であった抗hMPV蛋白質抗体の検査が可能となり、迅速な診断、疫学調査において非常に意義があると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、hMPVのF蛋白質を発現した宿主細胞を担体に固定化し、該宿主細胞を固定化した担体と検体を接触させ、該宿主細胞が発現する蛋白質と検体の抗hMPV蛋白質抗体の抗原−抗体反応を利用した、抗hMPV蛋白質抗体の測定方法、測定試薬等を提供する。
以下、本発明について詳細に説明するが、これらの記載は本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明の範囲を限定するものではない。また、本発明において、hMPVのF蛋白質の発現に必要な組換えウイルスの製造方法は公知の方法に準じて行われるものであり、以下に代表的な製造方法を例示するが、例示した方法に限定されるものではない。
【0013】
1)本発明で用いられる蛋白質をコードする遺伝子領域の取得
この工程では、hMPVのmRNAを生物材料から抽出し、該RNAに相補的なcDNAを合成し、クローニングベクターに組み込む。生物材料はhMPVの遺伝子を担持するものが好適に用いられ、具体例としては、hMPV感染患者の血液、血漿、血清、便、唾液等の体液や患者の生体組織等が挙げられる。
【0014】
遺伝子の抽出法は、自体公知の可溶化、分離、核酸抽出等の工程を経て達成される。RNAの抽出方法としては、フェノール抽出法、NP−40法、セシウム−超遠心法等が挙げられる。RNAの抽出には市販のキットを用いることもでき、具体例として、スマイテストRキット(ゲノムサイエンス研究所)やRNeasy_Kit(QIAGEN社)等が挙げられる。
【0015】
RNAに相補的なcDNAの合成は、例えば逆転写酵素を用いる公知の常法により行うことができる。具体的には、ランダムプライマーやOligo(dT)12−18等をプライマーに、MMLV逆転写酵素(インビトロジェン社製)等を用いてcDNAを合成することができる。
【0016】
合成されたcDNAのクローニングベクターへの挿入方法は公知の常法に従えばよい。クローニングベクターの構築にあたっては、遺伝子操作を容易に行うことができる大腸菌系を使用する事が望ましい。また、クローニングベクターは特に限定されるものではなく、大腸菌に代表される原核細胞を宿主細胞とするプラスミド、及び、λファージ等に代表されるバクテリオファージ由来のベクター等公知のものを用いることができる。クローニングベクターはその宿主細胞と適宜組み合わせて使用する事が望ましい。クローニングベクターの具体例として、pBR322、pBR325、pBR327、pBR328、pUC7、pUC8、pUC9、pUC19等が挙げられる。
【0017】
合成したcDNAを鋳型として、必要に応じて制限酵素サイトを付加したプライマーセットを用い、hMPVの抗原性を有する蛋白質をコードする遺伝子領域を増幅し、TAクローニング(野島博、1991年、高効率コンピタントセル調製法[村松正実、岡山博人(編)]、遺伝子工学ハンドブック(実験医学別冊)(羊土社)、p45−51)を行い、プラスミドクローンを得ることができる。必要に応じてプライマーセットに付加される主な制限酵素サイトとして、公知の制限酵素サイトを適宜用いることができ、制限酵素が認識するように制限酵素サイトとしての塩基をプライマーに付加することができる。特定の制限酵素を認識する配列を含むプライマーは、必ずしも必要というわけではない。
【0018】
遺伝子の増幅手段は、今日多様な方法が確立され、今後も開発されていくであろうが、本発明は特に限定されるものではない。具体的には、ポリメラーゼ・チェイン・リアクション法(PCR法)(Science230:1350-1354,1985)やNASBA法(Nucleic Acid Science Based Amplification法)(Nature350:91−92, 1991; 特許第2648802号公報;特許第2650195号公報)、およびLAMP法(Loop mediated isothermalamplificationof DNA増幅法)(特開2001−242169号公報)などの核酸増幅方法を適用することができる。
【0019】
前記のように、hMPVの蛋白質には、F蛋白質、G蛋白質、SH蛋白質、M2蛋白質、N蛋白質、M蛋白質、P蛋白質、L蛋白質があるが、本発明で好適に用いら入れるのはF蛋白質である。F蛋白質は配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドからなり、ウイルス膜と細胞膜の融合を促進し、ウイルス性リボヌクレオ蛋白質を細胞の細胞質に侵入させる役割を果たす(非特許文献4)。また、本発明で用いられる蛋白質は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドからなるものだけでなく、抗hMPV抗体と抗原−抗体反応を示すポリペプチドを含んでいれば良く、例えば、配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1個ないし数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入または付加といった変異を有するアミノ酸配列ポリペプチドや、配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列と相同性を有するポリペプチド等も含まれる。配列相同性は、通常、アミノ酸配列の全体で50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上であることが望ましい。
【0020】
本発明で用いられる蛋白質を調製するためには、以下の(1)〜(3)の何れかに示すポリペプチドからなる蛋白質を宿主細胞に発現させることができれば良い。
(1)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(2)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1個ないし数個のアミノ酸の欠失、置換、挿入または付加といった変異を有するアミノ酸配列ポリペプチド。変異を有するペプチドは天然において例えば突然変異や翻訳後の修飾などにより生じたものであってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得たものであってもよい。
(3)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列と相同性を有するポリペプチド。配列相同性は、通常、アミノ酸配列の全体で50%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上であることが望ましい。
【0021】
アミノ酸配列に変異を導入する手段は自体公知であり、例えば部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法またはPCRなどを単独でまたは適宜組み合わせて用いることができる。例えば成書に記載の方法(Campbell,H. D. et. al. (2000) Genomics 68, p5463-5467.; Ebihara,T., R. et. al. (2004) J. Clin.Microbiol.42:126-132.)に準じて、あるいはそれらの方法を改変して実施することができ、ウルマーの技術(Ulmer, K. M..(1983) Science 219,p666-671.)を利用することもできる。
【0022】
また、本発明で用いられる蛋白質をコードする遺伝子としては、以下の(1)から(4)の何れかに示すポリヌクレオチドを用いることができる。
(1)配列表の配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド及び/又はその相補鎖。
(2)配列表の配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドのうち1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1ないし数個のヌクレオチドが、置換、欠失、挿入または付加といった変異を有する塩基配列からなるポリヌクレオチド及び/又はその相補鎖。変異の程度およびそれらの位置などは、該変異を有するポリヌクレオチドが配列番号3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドがコードするポリペプチドと同質のものである限り、特に制限されない。かかる変異を有するポリヌクレオチドは、天然に存在するものであってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入したものであってもよい。
(3)配列表の配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションするポリヌクレオチド。ハイブリダイゼーションの条件は、例えば成書に記載の方法(Sambrook, et. al., Molecular Cloning, Laboratory Manual 2th, Cold Spring Harbor Laboratory, 1989.)などに従うことができる。
【0023】
ポリヌクレオチドとは、DNAやRNAのようにヌクレオチドの重合した高分子物質をいう。本発明で用いられるポリヌクレオチドは、天然のものであることもできるし、化学的に合成されたものであることもできる。あるいはまた、鋳型となるDNAをもとにPCRのような酵素的な反応によって合成されたものであっても良い。天然物としてはポリデオキシリボヌクレオチド(DNA)およびポリリボヌクレオチド(RNA)があり、広く生体細胞中に分布している。また、公知の手法により、これらの核酸に類似したポリヌクレオチドを酵素的に合成することができる(Ochoa,S. et. al. (1955) Science 122: 907-910.; Kornberg, A.et. al. (1956) Biochim BiophysActa. 1000: 57-8.)。本発明において、単にポリヌクレオチドと記載するときには、1本鎖ポリヌクレオチドのみならず2本鎖ポリヌクレオチドをも指すものとする。2本鎖ポリヌクレオチドを意味するときには、一方の鎖のみについての塩基配列が記載されることになるが、センス鎖の塩基配列に基づいてその相補鎖の塩基配列は必然的に規定される。
【0024】
塩基配列に変異を導入する手段は自体公知であり、例えば部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法またはPCRなどを単独でまたは適宜組み合わせて用いることができる。例えば成書に記載の方法(Campbell,H. D. et. al. (2000) Genomics 68, p5463-5467.; Ebihara, T., R. et. al. (2004) J. Clin.Microbiol.42:126-132.)に準じて、あるいはそれらの方法を改変して実施することができ、ウルマーの技術(Ulmer,K.M.(1983) Science , 219, p666-671.)を利用することもできる。
【0025】
2)組換え蛋白質発現ベクターの作製
この工程では、前記1)で調製されたプラスミドベクターに組込まれた本発明で用いられる蛋白質をコードする遺伝子領域を、蛋白質発現ベクターに組み込む。ベクターは蛋白質発現系に応じて自体公知の方法が確立しており、格別の限定はない。組込み手段は、各ベクター・蛋白質発現系の推奨手段に準ずれば十分である。
【0026】
蛋白質を発現するためのベクターとしては、これを導入する宿主細胞内で、本発明で用いられる蛋白質をコードする遺伝子のポリヌクレオチド若しくはそれを含むポリヌクレオチドが発現されるものであれば特に制限はないが、通常宿主細胞に適したプロモーターが挿入されている市販の蛋白質発現ベクターを用いることができる。
【0027】
目的とする遺伝子を発現させるためのプロモーターとしては、宿主細胞が保有するプロモーターを一般に用いることができるが、限定されない。ベクターへの目的遺伝子の挿入は、該ポリヌクレオチドまたはこれを含むDNA断片をベクター中のプロモーターの下流にプロモーターの制御下に置かれるように連結して行う。また、プロモーターとポリヌクレオチドとの間に、コザック配列(Kozak, M., Gene, 234, 187 (1999))を挿入したり、ポリヌクレオチドの下流にタグとなるポリペプチドをコードするDNAを挿入した構造を有するベクターも好ましく用いられる。タグとなるポリペプチドとして特に制限はないが、例えば、FLAGタグ(Biotechniques, 7, 580, (1989))等が挙げられる。このようにして得られた本発明の組換え蛋白質発現ベクターは、公知の遺伝子導入法により適当な宿主細胞に導入される。遺伝子導入法の好適な例としては、ウイルスベクター法(Cell,37,1053(1984))が挙げられる。
【0028】
3)宿主細胞における本発明で用いられる蛋白質の発現および同定
前記2)で調製された組換え蛋白質発現ベクターを導入する宿主細胞としては、該ベクターが体内で複製可能であり、かつ目的遺伝子のポリヌクレオチドがコードする蛋白質が生成されるものであれば特に限定されないが、例えば、昆虫細胞、動物細胞、大腸菌、酵母等が挙げられ、昆虫細胞が好適に挙げられる。具体的には、昆虫細胞としてSf9細胞(インビトロジェン社)、Tn5(インビトロジェン社)細胞等が挙げられ、またその蛋白質発現ベクターとしてバキュロウイルス等が、より具体的にはBaculo−Gold(PHAMINGE社)等が挙げられる。
【0029】
組換えベクターの宿主細胞への導入は、自体公知の手段が応用され、例えば成書に記載されている標準的な方法(Sambrook,et.al.(1989)Molecular Cloning, Laboratory Manual 2nd, Cold Spring HarborLaboratory)により実施できる。より好ましい方法としては、遺伝子の安静を考慮するならば染色体へのインテグレート法が挙げられるが、簡便には核外遺伝子を利用した自律複製系を使用できる。
【0030】
昆虫細胞を宿主細胞として用いる場合、組換えベクターの導入方法としては、好ましくは例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などを用いることができる。トランスファーベクターに前記ポリヌクレオチドを組込んだ組換えトランスファーベクターとバキュロウイルスDNAを昆虫細胞内に導入し、昆虫細胞内で相同組換えを起こさせることにより、組換えバキュロウイルスを作製することができる。野生株バキュロウイルスは市販のものを広く利用することができ、例えばバキュロウイルスDNA(Baculo−Gold、PHAMINGEN社)等を用いることができる。
【0031】
また、宿主細胞が発現する蛋白質が、hMPVの蛋白質であるか否かの確認は、公知の常法により行うことができ、例えばウエスタンブロッティング法などにより確認することができる。ウエスタンブロッティング法とは、本発明で用いられる蛋白質を細胞内あるいは細胞外に発現した宿主細胞の細胞抽出液をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で分画した後、該ゲルをPVDF膜あるいはニトロセルロース膜にブロッティングし、該膜に抗hMPV蛋白質抗体を反応させ、さらにFITC等の蛍光物質、ペルオキシダーゼ、ビオチン等の酵素標識を施した抗IgG抗体あるいは結合断片と反応させて確認する方法である。本発明に用いる蛋白質が宿主細胞に発現していれば、該宿主細胞を本発明の測定方法に使用することができるが、本発明に用いる蛋白質は、例えば前記のウエスタンブロッティング法で確認できる程度に宿主細胞に発現しているのが好ましい。
【0032】
4)宿主細胞の担体への固定化
宿主細胞を固定化する担体としては、例えばスライドガラス、マイクロタイトレーションプレート、ラッテクス粒子等の合成高分子、ゼラチン等の天然高分子、金コロイド粒子等の金属高分子を例示することができるが、使用する担体の材質は特に限定されない。すなわち、宿主細胞が担体から脱離しなければどのような材質の担体を用いることも可能である。6)で後述するように、検体中の抗体の検出および/または定量を蛍光物質等の色原体を用いて行う場合には、色原体を含まないスライドガラス等が好適に用いられる。宿主細胞を担体に固定化する固定方法としては、宿主細胞を適当な固定化剤で処理するのが好適である。本発明で用いられる蛋白質のエピトープを破壊しない固定化剤が好適である。そのような固定化剤の具体例としては、アセトン、ホルムアルデヒド、エタノール、グリセリルアルデヒドまたはホルマリン等が、好ましくはアセトン等が挙げられる。また、宿主細胞を固定化した担体と検体を接触させる工程ならびにそれに続く抗原抗体反応による抗hMPV蛋白質検出および/または定量する工程において、宿主細胞が担体から脱離しなければ、担体に固定化する細胞数は特に限定されないが、宿主細胞が均一な層、好ましくは一層となるように担体に固定化するのが好適である。具体的には、スライドグラスを用いる場合、細胞数約7.5×10/ウェルの細胞をスライドグラスに分注し風乾、固定すれば良い。
【0033】
5)宿主細胞を固定化した担体と検体の接触
検体とは、抗hMPV蛋白質抗体を含有している可能性のある生物材料をいい、具体例としてヒト血清が好適に挙げられる。接触とは、前記4)で調製された宿主細胞の固定化されている担体に検体を適量添加することにより行われる。この操作により、前記宿主細胞により発現された担体上の本発明で用いられる蛋白質と検体とを接触させることができる。担体に添加する担体の量は宿主細胞および検体の条件に応じて適宜調整することができる。
【0034】
6)抗hMPV蛋白質抗体の検出および/または定量
上記5)によって、担体上の本発明で用いられる蛋白質と検体との接触が起こり、抗原−抗体反応が達成され、抗原−抗体反応の結果が得られる。抗原−抗体反応の結果が得られれば、当該結果を観察または測定する手段を選択すればよい。測定系により得られた観察結果または測定値に基づき、例えば対照との対比によって、検体に含まれる抗hMPV蛋白質抗体の存在の有無または当該抗体量が判定可能となる。
【0035】
測定系とは、色原体等による検出および/または定量を可能にすることを意味し、免疫学的測定法を用いた系が好適である。免疫学的測定法の具体例として、蛍光抗体法、免疫酵素抗体法(ELISA)等が挙げられる。
【0036】
蛍光抗体法とは、組織標本中の酵素、構造蛋白質等の抗原性物質を、蛍光標識抗体と結合させ、蛍光顕微鏡下に検出する方法をいう。抗体の蛍光標識には、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)等が用いられる。具体例の一つとして、担体上の本発明で用いられる蛋白質に、検体に含まれる抗hMPV蛋白質抗体を反応させ、さらに蛍光標識でラベルした抗IgG抗体あるいは結合断片を反応させた後、蛍光色素をフローサイトメーターで測定する。
【0037】
免疫酵素抗体法(ELISA)とは、抗体の特異性を利用して抗原物質を検出・定量する方法で、酵素標識した抗体を利用する方法をいう。抗原に結合した標識抗体の量を、酵素反応を行わせることにより測定する。酵素標識に使われる主な酵素に、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼが挙げられる。具体例の一つとして、担体上の本発明で用いられる蛋白質に、検体に含まれる抗hMPV蛋白質抗体を反応させ、酵素標識した抗IgG抗体あるいは結合断片を反応させた後、発色色素を吸光光度計で測定する方法である。
【0038】
なお、本発明は、前記抗hMPV蛋白質抗体の測定方法を用いる、hMPV感染の検出方法にも及ぶものである。
【0039】
また、本発明は、前記抗hMPV蛋白質抗体の測定方法もしくはhMPV感染の検出方法に用いる試薬であり、hMPVのF蛋白質を発現させた宿主細胞または該宿主細胞を固定化した担体を含むことを特徴とする測定用試薬にも及ぶものである。
【0040】
さらに、本発明は、前記抗hMPV蛋白質抗体の測定方法もしくはhMPV感染の検出方法に用いる試薬であり、hMPVのF蛋白質を発現させた宿主細胞または該宿主細胞を固定化した担体を含むことを特徴とする測定用試薬キットに及ぶものである。
【0041】
本発明の理解を助ける為に、以下、実施例および実験例を設けて詳述するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
hMPVウイルスのcDNAクローニング
ウイルスRNAを、インフォームドコンセントを得た後に採取したhMPV患者血清、組織等からスマイテストRキット(ゲノムサイエンス研究所)を用いて製造元キットのプロトコールに従い抽出・精製した。次に、得られた精製ウイルスRNAを鋳型として、Oligo(dT)12−18プライマー、MMLV(インビトロジェン社製)逆転写酵素を用いて製造元キットのプロトコールに従いhMPVウイルスcDNAを合成した。合成したhMPVウイルスcDNAを次の手順でクローニングベクターにクローニングした。
【0043】
hMPVの各蛋白質をコードする遺伝子領域は、First start taq(ロシュ・ダイアグノスティック社)を使用し、PCR法によりそれぞれ増幅した。hMPVのF蛋白質(GeneBank accession number AY622381)をコードする遺伝子領域を増幅するために配列番号5(forward primer)及び配列番号6(reverse primer)を、N蛋白質をコードする遺伝子領域を増幅するために配列番号7(forward primer)及び配列番号8(reverse primer)を、G蛋白質をコードする遺伝子領域を増幅するために配列番号9(forward primer)及び配列番号10(reverse primer)を、M蛋白質をコードする遺伝子領域を増幅するために配列番号11(forward primer)及び配列番号12(reverse primer)を、P蛋白質をコードする遺伝子領域を増幅するために配列番号13(forward primer)及び配列番号14(reverse primer)を、それぞれプライマーセットとして使用した。
hMPV−F−F 5´−GGATCCATGTCTTGGAAAGTGGTGATCATTTTTTC−3´(配列番号5)
hMPV−F−R 5´−GCGGCCGCCTAATTATGTGGTATGAAGCCATTGTTTG−3´(配列番号6)
hMPV−N−F 5´−GGATCCAATGTCTCTTCAAGGGATTCACCT−3´(配列番号7)
hMPV−N−R 5´−GCGGCCGCTTACTCATAATCATTTTGACTG−3´(配列番号8)
hMPV−G−F 5´−GGATCCGATGGAGGTGAAAGT−3´(配列番号9)
hMPV−G−R 5´−TTAACTAGTTTGGTTGTATGTTGTTGATGT−3´(配列番号10)
hMPV−M−F 5´−GCGCGGATCCAATGGAGTCCTACCTAGTAGA−3´(配列番号11)
hMPV−M−R 5´−CGGCCCTCGAGTTATCTGGATTTTAGTACGT−3´(配列番号12)
hMPV−P−F 5´−GCTCGGATCCGATGTCATTCCCTGAAGGAAA−3´(配列番号13)
hMPV−P−R 5´−GGCCGCTCGAGCTACATAATTAACTGGTAAA−3´(配列番号14)
ここにおいて、各配列中下線を施した配列の部分は、特定の制限酵素が認識する配列であり、その配列の3´末端側に蛋白質の翻訳開始領域又は、蛋白質発現終止領域を認識する配列を含む配列を示す。特定の制限酵素が認識する配列が必ずしも必要という訳ではない。
【0044】
PCR法の条件は、GeneAmp PCR System9600(PRKIN ELMER)を用い、95℃、10分保温後、95℃30秒で変性、55℃30秒でアニーリング、72℃120秒で伸長を50サイクル行った。次に、増幅産物について1%アガロースゲル電気泳動を行い、目的のバンドを切り出し、切り出したアガロースゲルをUltrafreeTM−DA(MILLIPORE)を用いて5,000×gで10分遠心し、ゲル中よりPCR増幅産物を抽出した。抽出したPCR増幅産物はMicrocon YM−100(MILLIPORE)を使用して1,000×gで15分遠心し精製濃縮した。その後、クローニングベクターpCR2.1(インビトロジェン社製)に精製濃縮して得た増幅産物を組み込み、TAクローニングによりプラスミドクローンを得た。得られたプラスミドクローンについて、定法に従ってDNA塩基配列を解析し、hMPVのF蛋白質(配列番号1)をコードする遺伝子領域(配列番号3)、N蛋白質(配列番号2)をコードする遺伝子領域(配列番号4)、G蛋白質(配列番号15)をコードする遺伝子領域(配列番号18)、M蛋白質(配列番号16)をコードする遺伝子領域(配列番号19)およびP蛋白質(配列番号17)をコードする遺伝子領域(配列番号20)がそれぞれクローニングできたことを確認した。
【実施例2】
【0045】
hMPVのF蛋白質およびN蛋白質の発現
実施例1において得られたhMPVのF蛋白質およびN蛋白質をコードする遺伝子領域をクローニングしたプラスミドクローンを用いて、hMPVのF蛋白質およびN蛋白質をコードする遺伝子領域をバキュロウイルストランスファーベクターpVL1393にそれぞれ組み込み、バキュロウイルスDNAと共に昆虫細胞内へコ・トランスフェクションし、相同的組換えにより遺伝子組換えバキュロウイルスをそれぞれ作製した。
【0046】
まず、クローンを組み込んだトランスファーベクターと野生株バキュロウイルスをSf9細胞(インビトロジェン社)内にリポフェクチン(GIBCO BRL社)を用いて導入し、Sf9細胞内でおこる相同組換えにより組換えバキュロウイルスを作製した。0.5μgの直鎖状バキュロウイルスDNA(Baculo−Gold PHAMINGEN社)と1μgのクローンを組み込んだトランスファーベクターを8μlの蒸留水に溶解し、2倍希釈した等量のリポフェクチンと混合して室温で15分間静置した。Ex cell 405(JRH社)培養液に懸濁した1×10個のSf9細胞を26.5℃で30分間プラスティックシャーレ(直径3.5cm)内に吸着後、DNA混合液をSf9細胞に滴下し26.5℃で培養した。24時間後、培養液に10%牛胎児血清含TC100(GIBCO BRL社)培地を添加し、更に3日間培養した。その後、プラスティックシャーレに培養したSf9細胞全てを25cmのフラスコに移し、10%牛胎児血清含TC100培地で3日間培養し、その上清を種ウイルスとした。
【0047】
次に、宿主細胞であるTn5細胞に対して前記組換えバキュロウイルスをMOI(Multiplicity of infection)10で感染させた。その後、3日間、26.5℃で昆虫細胞を培養して蛋白質の発現を行い、組換えウイルス感染培養細胞を3日後に採取した。採取した組換えウイルス感染培養細胞をSDS−PAGEにより展開した後、蛋白質をクマシーブリリアントブルー染色で検出し、予想される分子量の妥当性を検討した。
【0048】
また、感染培養細胞をSDS−PAGEにより展開した後、ニトロセルロース膜に常法により転写し、抗hMPV抗体陽性血清(蛍光抗体法によりhMPVを検出した力価1:1280)又はhMPV抗体陰性血清(蛍光抗体法によりhMPVを検出した力価<1:10)によるウエスタンブロッティング法を実施した。各活性は200分の1に希釈し、ニトロセルロース膜に結合させた後、抗ヒトIgGヤギペルオキシダーゼ標識抗体(Biosource International社)を反応させた。その後、化学発光法によりhMPV蛋白質を検出した(ECL Blotthing Detection Reagents,Amersham Pharmacia Biotech社製)。
【0049】
図1に示したように、組換えウイルス感染細胞ではhMPVのF蛋白質の予想分子量である60kDa付近に発現蛋白質バンドが少量確認された。同様にN蛋白質の予想分子量である43kDa付近に発現蛋白質バンドも微少ながら確認された。図2に示したように、hMPVのF蛋白質と予測される60kDa付近に抗hMPV蛋白質抗体陽性ヒト血清と反応する蛋白質が検出された。
【実施例3】
【0050】
hMPVのF蛋白質およびN蛋白質をそれぞれ発現するバキュロウイルス発現系を用いた蛍光抗体法(以下、Bac−F−IFAおよびBac−N−IFAとそれぞれ略称する場合がある。)
組換えバキュロウイルスを感染させることにより、hMPVのF蛋白質およびN蛋白質をそれぞれ発現させたTn5細胞を用いて、蛍光抗体法により抗hMPV蛋白質抗体を検出した。
実施例2と同様の方法により、25cmフラスコで当該遺伝子組換えバキュロウイルスを感染させhMPVのF蛋白質およびN蛋白質をそれぞれ発現させた。Tn5細胞を5mlのPBSで2回洗浄後、細胞数約7.5×10/ウェルのTn5細胞を蛍光抗体用スライドガラスに分注し風乾した後、アセトンで10分間固定し風乾した。スライドガラスに希釈血清(10分の1希釈)を加え、37℃で30分間反応させた。PBSでスライドガラスを10分間3回洗浄後、FITC標識抗ヒトIgG抗体(Dako社製)(40分の1希釈)を加え、37℃で30分間反応させた。PBSで10分間3回洗浄、風乾し、PBS−グリセリン(1:1)を添加した。染色プレパラートは蛍光顕微鏡下で解析した。10分の1以上の希釈でhMPVのF蛋白質およびN蛋白質と反応する血清は、hMPV抗体陽性であると判定した。
【0051】
図3および図4に示したように、hMPV感染患者血清中のIgGはF蛋白質およびN蛋白質発現昆虫細胞と特異的に反応し、F蛋白質およびN蛋白質発現昆虫細胞が抗原性を有していること、抗hMPVIgG特異抗体の検出が可能であることを確認した。また、図3に示したように、Bac−F−IFAの結果は、生ウイルスを使用した蛍光抗体法と比較して感度が同等以上であることも確認した。図4に示したようにBac−N−IFAでも抗hMPVIgG特異抗体の検出が可能であるが、Bac−F−IFAよりも感度が低くBac−F−IFAがより優れた抗hMPVIgG特異抗体の検出法であることを確認した。
【実施例4】
【0052】
hMPVのG蛋白質、M蛋白質およびP蛋白質をそれぞれ発現するバキュロウイルス発現系を用いた蛍光抗体法
実施例1において得られたhMPVのG蛋白質、M蛋白質およびP蛋白質をコードする遺伝子領域をクローニングしたプラスミドクローンを用いて、実施例2および実施例3と同様の方法により、hMPVのG蛋白質、M蛋白質およびP蛋白質をそれぞれ発現させたTn5細胞を用いて、蛍光抗体法により抗hMPV蛋白質抗体を検出した。hMPV感染患者血清中のIgGは、G蛋白質、M蛋白質およびP蛋白質を発現させたそれぞれの昆虫細胞と特異的に反応したが、いずれもBac−F−IFAよりも感度が低く、Bac−F−IFAが最も優れた抗hMPV IgG特異抗体の検出法であることを確認した。
【0053】
(実験例1)
hMPV感染LLC−MK2細胞を用いた蛍光抗体法(以下、hMPV−IFAと略称する場合がある。)
hMPVをLLC−MK2細胞(DIAGNOSTIC HYBRIDS)に接種し、感染後2〜3週間のhMPV感染LLC−MK2細胞を蛍光抗体法のhMPV抗体陽性細胞として用いた。hMPV感染LLC−MK2細胞を蛍光抗体用スライドガラスのウェルに分注し風乾した後、細胞を風乾し、アセトンで10分間固定化し風乾した。スライドガラスに希釈血清(10分の1希釈)を加え、37℃で30分間反応させた。PBSでスライドガラスを10分間3回洗浄後、FITC標識抗ヒトIgG抗体(Dako社)(40分の1希釈)を加え、37℃で30分間反応させた。PBSで10分間3回洗浄、風乾し、PBS−グリセリン(1:1)を添加した。染色プレパラートは蛍光顕微鏡下で解析した。10分の1以上の希釈でhMPV感染LLC−MK2細胞と反応する血清は、hMPV抗体陽性であると判定した(Ebihara, T., R. et. al. (2004) J. Clin.Microbiol.42:126-132.; Ebihara,T., R. et. al. (2003) J Med Virol 70: 281-3.)。
【0054】
(実験例2)
hMPVのF蛋白質を発現するバキュロウイルス発現系を用いた蛍光抗体法(Bac−F−IFA)とhMPV感染LLC−MK2細胞を用いた蛍光抗体法(hMPV−IFA)の比較
実施例3におけるBac−F−IFA、および実験例1におけるhMPV−IFAによる抗体力価の比較を行った。ここで、抗体力価とは、抗体の比活性に相当し、血清反応で抗血清の単位用量中に含まれている抗体量の測定値をいう。抗体力価は一般に、抗血清の希釈系列に対し一定量の抗原を加えて、反応の生じる終末点における希釈倍数の逆数で表される。
Bac−F−IFAは実施例3と同様の方法で、hMPV−IFAは実験例1と同様の方法でインフォームドコンセントを得た後に採取したhMPV患者血清について行った。これらの2種類の蛍光抗体法により測定された血清試料中の抗体力価の対比をピアソンの相関係数により評価したところ、2種類の方法におけるコンコーダンス度(陽性とされた10以上の血清及び陰性とされた10以下の血清の力価)は偶然を超えた良いアグリーメントを示した。
また、実施例3に供した大部分の血清試料において、Bac−F−IFAにより得られた力価は、hMPV−IFAにより得られた力価と同等以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
上記のように、本発明の抗hMPV蛋白質抗体の測定方法により、操作の危険性の除去、手技的容易性の確保が可能となり、高感度を備えたhMPVの検出が可能である。本発明により、これまで実施することができなかった抗hMPV蛋白質抗体の検査が可能となり、本発明は迅速診断、疫学調査において非常に有意義であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】hMPVのF蛋白質をバキュロウイルス発現系で発現させた細胞をSDS-PAGEで展開し、クマシーブリリアントブルー染色した。左レーンはコントロールの昆虫細胞Tn5であり、右レーンが蛋白質発現昆虫細胞Tn5である。
【図2】hMPVのF蛋白質をバキュロウイルス発現系で発現させた細胞を用いてウエスタンブロッティング法によりhMPVのF蛋白質を検出した。レーン1及び3がコントロールの昆虫細胞Tn5を用いた結果を示し、レーン2及び4が組換えバキュロウイルス感染昆虫細胞Tn5を用いた結果を示す。hMPVのF蛋白質は陽性血清(レーン3、4)及び陰性血清(レーン1、2)を用いて解析した。矢印はhMPVのF蛋白質を示す。
【図3】hMPVのF蛋白質を発現するバキュロウイルス発現系を用いた蛍光抗体法(Bac−F−IFA)によりhMPV感染患者血清中の抗hMPV F蛋白質IgG抗体を検出した結果を示す。上のレーンはコントロールの昆虫細胞Tn5を用いた結果を示し、下のレーンがhMPVのF蛋白質発現昆虫細胞Tn5を用いた結果を示す。また、左から1番目〜3番目のレーンは陽性血清(40分の1希釈)を用いた結果を示し、左から4番目のレーンは陰性血清(10分の1希釈)を用いた結果を示す。( )内はhMPV−IFAの結果を示す。
【図4】hMPVのN蛋白質を発現するバキュロウイルス発現系を用いた蛍光抗体法(Bac−N−IFA)によりhMPV感染患者血清中の抗hMPV N蛋白質IgG抗体を検出した結果を示す。上のレーンはコントロールの昆虫細胞Tn5を用いた結果を示し、下のレーンがhMPVのN蛋白質発現昆虫細胞Tn5を用いた結果を示す。また、左から1番目〜3番目のレーンは陽性血清(40分の1希釈)を用いた結果を示し、左から4番目のレーンは陰性血清(40分の1希釈)を用いた結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、抗ヒト・メタニューモウイルス(hMPV)蛋白質抗体の測定方法;
1)hMPVのF蛋白質をコードする遺伝子領域を蛋白質発現ベクターに組み込み、組換え蛋白質発現ベクターを作製する工程、
2)工程1)において得られた組換え蛋白質発現ベクターを宿主細胞に導入しhMPVのF蛋白質の発現を行う工程、
3)工程2)においてhMPVのF蛋白質を発現させた宿主細胞を担体に固定化する工程、
4)工程3)において担体上に固定化した宿主細胞が発現するhMPVのF蛋白質と、検体を接触させる工程、
5)工程4)において得られた担体上のhMPVのF蛋白質と検体における抗hMPV蛋白質抗体の抗原−抗体反応の結果を、測定系に導き、検体における抗hMPV蛋白質抗体を検出および/または定量する工程。
【請求項2】
hMPVのF蛋白質が以下に示すいずれか1のポリペプチドである、請求項1に記載の測定方法;
1)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
2)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのうち1ないし数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入または付加されたポリペプチド、
3)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと80%以上の相同性を有するポリペプチド。
【請求項3】
hMPVのF蛋白質をコードする遺伝子が以下に示すいずれか1のポリヌクレオチドである請求項1に記載の測定方法;
1)配列表の配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド及び/又はその相補鎖、
2)配列表の配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドのうち1ないし数個のヌクレオチドが、置換、欠失、挿入または付加された配列からなるポリヌクレオチド及び/又はその相補鎖、
3)配列表の配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションするポリヌクレオチド。
【請求項4】
組換え蛋白質発現ベクターが組換えバキュロウイルスである請求項1〜3のいずれか1に記載の方法。
【請求項5】
宿主細胞が昆虫細胞である請求項1〜4のいずれか1に記載の方法。
【請求項6】
担体が、合成高分子、天然高分子、又は金属高分子である請求項1〜5のいずれか1に記載の方法。
【請求項7】
測定系が免疫学的測定法を用いた系である、請求項1〜6のいずれか1に記載の方法。
【請求項8】
免疫学的測定法が蛍光抗体法である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1に記載の方法を用いる、hMPV感染の検出方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1に記載の方法に用いる試薬であり、hMPVのF蛋白質を発現させた宿主細胞または該宿主細胞を固定化した担体を含むことを特徴とする測定用試薬。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1に記載の方法に用いる試薬であり、hMPVのF蛋白質を発現させた宿主細胞または該宿主細胞を固定化した担体を含むことを特徴とする測定用試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−118970(P2006−118970A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306720(P2004−306720)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(591122956)株式会社三菱化学ビーシーエル (45)
【Fターム(参考)】