説明

抗口蹄疫ワクチン組成物並びにその調製及び使用

本発明は、免疫学及び遺伝子工学の分野に関連する。特に、本発明は、口蹄疫ウイルスに対する組換えワクチンの構築、調製及び使用に関する。該ワクチンは、口蹄疫ウイルスカプシドタンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピートと、免疫グロブリン重鎖の定常領域若しくはその機能性断片と、口蹄疫ウイルス3Dタンパク質若しくはその免疫原性断片とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学及び遺伝子工学の分野に関連する。特に、本発明は、口蹄疫ウイルスに対する組換えワクチン組成物並びにその調製及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
口蹄疫(FMD)は、動物におけるA類感染症の中で最も深刻な疾患であり、ブタ、ウシ、ヒツジ等の偶蹄類動物に深刻に影響を与える劇症の感染症である。近年、多くの国々の畜産業が、FMDの発生及び流行によって引き起こされる、大きな経済的損失を被っている。今までのところ、7つの血清型の口蹄疫ウイルス(FMDV)(ヨーロッパA、O及びC、アフリカSAT1、SAT2及びSAT3、並びにアジア1血清型)及び多くのサブタイプ(例えば、Kleidら、1981、Science214:1125〜1129ページ参照)が公知であり、O血清型FMDVが、最も広範囲に広がった血清型である。
【0003】
FMDVは、ピコナウイルス科のアフトウイルス属に属する。FMDVは、60コピーの3つのカプシドウイルスタンパク質(VP1、VP2、及びVP3)に囲まれたプラスセンスの一本鎖RNAゲノム(約8.5kb)からなる。研究から、FMDV血清型Oにおいて、これらの3つのウイルスタンパク質のVP1が、ウイルスの感染性に最も関連があることが示されている。VP1タンパク質中の2つの免疫原性領域、すなわちアミノ酸残基141〜160及び残基200〜213の部分がある。それらの領域はそれぞれ、2つの突出し、スクランブルした、可動性の高いループ構造中にある。残基145〜157の領域のループ構造は、細胞表面受容体への付着に関与する保存構造Arg−Gly−Asp(RGD領域)を含む(Belsham GJ及びMartinez−Salas E、Genome organization,translation and replication of foot−and−mouth disease virus RNA、19〜52ページ、2004、Foot and Mouth Disease Current Perspectives、Sobrino F及びDomingo E編)。タンパク質3Dは、FMDV中のRNA依存性RNAポリメラーゼであり、ブタT細胞によって認識される抗原性エピトープを有する(Belsham GJ及びMartinez−Salas E、Genome organization,translation and replication of foot−and−mouth disease virus RNA、19〜52ページ、2004、Foot and Mouth Disease Current Perspectives、Sobrino F及びDomingo E編)。
【0004】
予防的免疫化によって、FMDVの感染を制御することができる。既存の抗FMDVワクチンにおいては、死滅ウイルスが使用される。実際には、かかるワクチンは、ウイルスRNAのインビボ組換えのために、疾患の伝染を引き起こすことがある(Brown,F.An overview of the inactivation of FMDV and the implications when residual virus is present in vaccines.Dev Biol Stand 1991;75:37〜41ページ)。その一方で、化学的不活化剤を使用して、かかるワクチン中のウイルスが不活化され、送達の間に低温コールドチェーン輸送及び冷凍庫保存が必要とされる。いくつかの発展途上国の農村部においては、冷凍庫が入手可能できず、結果的に、ワクチンが注射の時点で実質的に効能を失っていることがある。さらに、製造プロセスの間の生きたFMDVウイルスの漏出の可能性によって、かかるワクチンの製造が環境にとって危険因子になることがある。
【0005】
本発明のエピトープ特異的ワクチンは、ワクチン接種された動物において、FMDVに対する抗体応答を誘発することができる。本発明のワクチンは、使用及び製造において非常に安全なだけでなく、操作、保存及び輸送において非常に便利である。その一方で、本発明のワクチンを設計して、特定の用件を満たすことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、FMDVに対する安全で有効な組換えワクチン並びにその調製及び使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様において、本発明は、N末端からC末端に、
FMDVカプシドタンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピート、
免疫グロブリン重鎖の定常領域若しくはその機能性断片、及び、
FMDV 3Dタンパク質若しくはその免疫原性断片
を含む組換えタンパク質を含む、動物においてFMDVに対する特異的免疫応答を誘導するためのワクチン組成物を提供する。
【0008】
さらなる態様において、本発明は、
(i)N末端からC末端に、
FMDVカプシドタンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピート、及び
免疫グロブリン重鎖の定常領域若しくはその機能性断片
を含む組換えタンパク質と、
(ii)FMDV 3Dタンパク質若しくはその免疫原性断片と
を含む、動物においてFMDVに対する特異的免疫応答を誘導するためのワクチン組成物を提供する。
【0009】
本発明のワクチン組成物の好ましい実施形態において、組換えタンパク質が抗原性エピトープの2〜5回のタンデムリピートを含み、より好ましくは、組換えタンパク質が抗原性エピトープの3回タンデムリピートを含む。
【0010】
本発明のワクチン組成物の一実施形態において、繰り返された抗原性エピトープは、ペプチドリンカーを介して互いに連結されている、及び/又は抗原性エピトープのタンデムリピートが、ペプチドリンカーを介して免疫グロブリン重鎖の定常領域に連結されている。
【0011】
本発明のワクチン組成物の好ましい実施形態において、抗原性エピトープは、FMDVカプシドタンパク質に由来する。抗原性エピトープは、例えば、ヨーロッパA、O及びC血清型;アフリカSAT1、SAT2及びSAT3血清型;並びにアジア1血清型に由来し得る。より好ましくは、抗原性エピトープは、FMDV VP1タンパク質に由来する。本発明の上述のワクチン組成物の一実施形態において、タンデムリピートはO血清型FMDV VP1タンパク質由来の2つの抗原性エピトープのタンデムリピートであり、該2つの2つの抗原性エピトープのタンデムリピートは、それぞれ配列番号9若しくは配列番号10のアミノ酸配列を含むか、又はそれぞれ配列番号9若しくは配列番号10のアミノ酸配列からなる。本発明の上述のワクチン組成物のさらなる実施形態において、タンデムリピートはアジア1血清型FMDV VP1タンパク質由来の2つの抗原性エピトープのタンデムリピートであり、該2つの抗原性エピトープのタンデムリピートは、それぞれ配列番号25若しくは配列番号26のアミノ酸配列を含むか、又はそれぞれ配列番号25若しくは配列番号26のアミノ酸配列からなる。本発明の上述のワクチン組成物のさらなる実施形態において、タンデムリピートはA血清型FMDV VP1タンパク質由来の2つの抗原性エピトープのタンデムリピートであり、該2つの抗原性エピトープのタンデムリピートは、それぞれ配列番号43若しくは配列番号44のアミノ酸配列を含むか、又はそれぞれ配列番号43若しくは配列番号44のアミノ酸配列からなる。本発明の上述のワクチン組成物のさらなる実施形態において、タンデムリピートはウシO血清型FMDV VP1タンパク質由来の3つの抗原性エピトープのタンデムリピートであり、該3つの抗原性エピトープのタンデムリピートは、それぞれ配列番号32、配列番号33若しくは配列番号34のアミノ酸配列を含むか、又はそれぞれ配列番号32、配列番号33若しくは配列番号34のアミノ酸配列からなる。
【0012】
本発明のワクチン組成物を、ブタ、ウシ、又はヒツジ等の偶蹄類動物に投与して、FMDV感染に対する免疫応答を誘導することができる。好ましくは、本発明のワクチン組成物において、組換えタンパク質中に含まれる免疫グロブリン重鎖の定常領域は、ワクチン接種される動物と同じ種に由来する。本発明のワクチン組成物は、薬学的に許容され得る担体及び/又はアジュバントをさらに含み得る。
【0013】
本発明は、上述のような組換えタンパク質もまた、包含する。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、本発明のワクチン組成物中に含まれる組換えタンパク質をコードする、単離されたポリヌクレオチドを提供する。
【0015】
本発明は、
組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドを得るステップと、
該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを構築するステップと、
該発現ベクターを宿主細胞中に導入するステップと、
組換えタンパク質の発現に適切な条件下で宿主細胞を培養し、発現された組換えタンパク質を回収及び精製するステップとを含む、本発明の抗FMDVワクチンにおける使用のための組換えタンパク質を調製する方法を、さらに提供する。
【0016】
また、本発明は、有効量の本発明のワクチン組成物を、該ワクチン組成物を必要とする動物に投与するステップを含む、動物においてFMDV感染を予防する方法にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の抗O血清型FMDVワクチンの構成を示す図である。A:実施例中で調製されたワクチン組成物Aであり、O血清型FMDV VP1タンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピート、動物免疫グロブリン重鎖の定常領域、及びFMDV 3Dタンパク質が、組換えタンパク質(「3R−IGCD」によってコードされる)を形成するように連結されている。B:実施例中で調製されたワクチン組成物Bであり、O血清型FMDV VP1タンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピート及び動物免疫グロブリン重鎖の定常領域が、組換えタンパク質(「3R−IGC」によってコードされる)を形成するように連結されており、FMDV 3Dタンパク質は別の成分である。
【図2】本発明のワクチン組成物A中の組換えタンパク質(「3R−IGCD」によってコードされる)のクマシーブルー染色を示す図である。M:タンパク質分子量マーカー;レーン1:総タンパク質;レーン2:可溶性タンパク質;レーン3:封入体(6M尿素中に溶解);レーン4:封入体(8M尿素中に溶解)。
【図3】抗O血清型FMDV血清を使用した、本発明のワクチン組成物A中の組換えタンパク質(「3R−IGCD」によってコードされる)のイムノブロッティング検出を示す図である。M:タンパク質分子量マーカー;レーン1:総タンパク質;レーン2:可溶性タンパク質;;レーン3:封入体(6M尿素中に溶解);レーン4:封入体(8M尿素中に溶解)。
【図4】本発明のワクチン組成物B中の組換えタンパク質(「3R−IGC」によってコードされる)のクマシーブルー染色及びイムノブロッティング検出を示す図である。A:3R−IGC断片によってコードされる組換えタンパク質を発現している細菌由来の総タンパク質溶解物のクマシーブルー染色(IPTG誘導の前及び後);B:ブタ由来の抗O血清型FMDV血清を使用したIPTG誘導の後に得られた総タンパク質溶解物中の組換えタンパク質(3R−IGC断片によってコードされる)のイムノブロッティング検出。
【図5】本発明のワクチン組成物B中の3Dタンパク質成分のクマシーブルー染色及びイムノブロッティング検出を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一態様において、本発明は、N末端からC末端に、FMDVカプシドタンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピートと、免疫グロブリン重鎖の定常領域若しくはその機能性断片と、FMDV 3Dタンパク質若しくはその免疫原性断片とを含む組換えタンパク質を含む、動物においてFMDVに対する特異的免疫応答を誘導するためのワクチン組成物を提供する。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、(i)N末端からC末端に、(a)FMDVカプシドタンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピート及び(b)免疫グロブリン重鎖の定常領域若しくはその機能性断片、を含む組換えタンパク質と、(ii)FMDV 3Dタンパク質若しくはその免疫原性断片とを含む、動物においてFMDVに対する特異的免疫応答を誘導するためのワクチン組成物を提供する。
【0020】
本発明のワクチン組成物の好ましい実施形態において、抗原性エピトープは、FMDV VP1タンパク質由来の抗原性エピトープ等、FMDVカプシドタンパク質に由来する。
【0021】
本発明の抗FMDVワクチン組成物において、組換えタンパク質の構築において有用なFMDV VP1タンパク質の抗原性エピトープは、VP1タンパク質の公知の主な抗原性エピトープ、例えば、ブタO血清型FMDV VP1タンパク質のアミノ酸残基141〜160(配列番号9)又はアミノ酸残基200〜213(配列番号10)によって表されるエピトープであり得る。FMDVに感染した動物において、これらのエピトープがBリンパ球応答を誘発することができることが、実証されている。
【0022】
本発明のワクチン中の組換えタンパク質の免疫原性を促進するために、FMDVの抗原性エピトープ(例えば、VP1タンパク質の抗原性エピトープ)を、本発明のワクチンにおける使用のために構築される組換えタンパク質中で縦列反復させる。また、タンデムリピートは、縦列反復された、FMDVの1つ又は複数の抗原性エピトープ(例えば、VP1タンパク質の抗原性エピトープ)によって形成させることができる。この点で、語句「抗原性エピトープのタンデムリピート」は、本明細書中で使用される場合、組換えタンパク質のアミノ酸配列において、抗原性エピトープのそれぞれ(同一であるか、又は異なるかのいずれかであり得る)が別のものに直接、又はリンカーを介して間接的に、規則正しく連結され、これらの縦列に連結された抗原性エピトープのそれぞれ(同一であるか、又は異なるかのいずれかであり得る)が2回以上、例えば3回、繰り返されることを意味するよう意図される。語句「抗原性エピトープのタンデムリピート」は、本明細書中で使用される場合、組換えタンパク質のアミノ酸配列中で互いに縦列に配置されて直接連結されるか、又はリンカーを介して間接的に連結された、FMDVの複数の異なる抗原性エピトープ(例えば、3つのエピトープ)もまた包含し、ここで、エピトープのそれぞれは、1回又は複数回(例えば、2回又は3回)出現し得る。
【0023】
本発明のワクチン組成物の好ましい実施形態において、組換えタンパク質中の抗原性エピトープは、タンデムリピート中で2〜5回繰り返される。5回を超える繰り返しもまた可能であるが、5回未満の繰り返しによって、組換え発現によって本発明の組換えタンパク質を発現するのがより簡便になる。より好ましくは、組換えタンパク質中の抗原性エピトープは、タンデムリピート中で3回繰り返される。
【0024】
本発明のワクチン組成物の特定の実施形態において、組換えタンパク質中のタンデムリピートは、FMDV VP1タンパク質由来の2つの抗原性エピトープのタンデムリピートである。ある特定の実施形態において、タンデムリピートは、縦列に配置されて3回繰り返された2つの抗原性エピトープによって形成され、ここで該2つの抗原性エピトープは、それぞれ、ブタO血清型FMDV VP1タンパク質の、残基141〜160のアミノ酸配列(配列番号9)及び残基200〜213のアミノ酸配列(配列番号10)によって表される。実験パートに示すように、この組換えタンパク質は、動物においてO血清型FMDVに対する特異的免疫応答を効果的に誘導することによって、動物を防御することができる。
【0025】
図1は、抗O血清型FMDVワクチン組成物に関する本発明のワクチンの構成を示す。該ワクチンにおいて、組換えタンパク質のN末端はO血清型FMDV VP1タンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピートの領域であり、家畜由来の免疫グロブリン重鎖の定常領域が後に続き、FMDV 3Dタンパク質が免疫グロブリン重鎖の定常領域のC末端に直接連結している(図1A)か、又は別のタンパク質成分となっている(図1B)。
【0026】
本発明のワクチンの好ましい実施形態において、組換えタンパク質中の抗原性エピトープ及び/又はタンデムリピートは、ペプチドリンカーを介して互いに連結される。抗原性エピトープ及び/又はタンデムリピートの間のペプチドリンカーは、抗原性エピトープの線状構造に影響を与えるべきではない。本発明において使用することができるペプチドリンカーの例は、例えば、GGSSGG(配列番号11)、GGGSGGGGS(配列番号12)、及びGGGGS(配列番号27)である。本明細書中に提供される実験データから、上記「GSリンカー」を、組換えタンパク質中でタンデムリピートの形態に配置された抗原性エピトープの線状構造に影響を与えない、本発明におけるペプチドリンカーとして使用することができ、該組換えタンパク質が、動物における防御抗体の産生を誘発することができることが、示される。また、本発明のワクチン中の組換えタンパク質において、抗原性エピトープ(複数可)のタンデムリピートは、上述のようなペプチドリンカーを介して、免疫グロブリン重鎖の定常領域のアミノ酸配列に連結させることもできる。
【0027】
タンデムリピートの形態に配置された抗原性エピトープが組換えタンパク質分子の表面に提示されるために、タンデムリピートの形態に配置された、抗原性エピトープ、例えばVP1タンパク質の抗原性エピトープは、免疫グロブリン重鎖の定常領域若しくはその機能性断片に連結される。免疫グロブリン重鎖の定常領域は、免疫グロブリン分子の表面の抗体の可変領域の配列を提示することができる。免疫グロブリン重鎖の定常領域の、この特性を利用することによって、本発明者は、免疫グロブリン重鎖の可変領域を、タンデムリピートの形態に配置された抗原性エピトープと置換して、免疫グロブリン重鎖の定常領域が抗原性エピトープ、例えばVP1タンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピートを、組換えタンパク質分子の表面に提示することを可能にする。動物へ本発明のワクチンを投与する際に、B細胞表面IgMモノマーを組換えタンパク質分子中の抗原性エピトープに接触させ、次いで活性化して、免疫応答の産生を生じることができる。動物に関して行われた実験によって、この方法で設計されたワクチンが、強い防御免疫応答を誘発することができ、それによって動物を感染から防御する目的を達成することができることが確認される。
【0028】
好ましくは、本発明の組換えタンパク質において使用することができる免疫グロブリン重鎖の定常領域は、家畜由来である。組換えタンパク質分子における、免疫グロブリン重鎖の定常領域の免疫原性を減少させるために、ワクチン接種される動物と同じ種由来である免疫グロブリン重鎖の定常領域を使用することが好ましい。免疫グロブリン重鎖の定常領域は、IgA、IgM、IgE、IgD、若しくはIgG又はそれらのサブタイプに由来し得る。免疫グロブリン重鎖の定常領域の「機能性断片」は、抗原性エピトープのタンデムリピートを組換えタンパク質分子の表面に提示する能力を保持している、免疫グロブリン重鎖の定常領域の一部をいう。
【0029】
本発明のワクチン中の別の部分又は成分は、FMDV 3Dタンパク質若しくはその免疫原性断片、好ましくはインタクトな3Dタンパク質である。FMDV 3Dタンパク質、及びVP1タンパク質等のカプシドタンパク質由来の抗原性エピトープは、同じ型のFMDVに由来し得る。あるいは、異なる型のFMDVに由来し得る。例えば、本発明のワクチンにおいて、VP1タンパク質の抗原性エピトープはO血清型FMDVに由来し得るが、3Dタンパク質はO血清型FMDV由来又はA血清型若しくはアジア1 FMDV由来のいずれかであり得る。
【0030】
本発明のワクチンにおいて、FMDV 3Dタンパク質は、FMDV VP1タンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピート、免疫グロブリン重鎖の定常領域、及びFMDV 3Dタンパク質を含む組換えタンパク質全体を形成するように、免疫グロブリン重鎖の定常領域のC末端に直接連結させることができる。あるいは、3Dタンパク質は、VP1タンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピート及び免疫グロブリン重鎖の定常領域を含む組換えタンパク質とともに本発明のワクチンの有効な成分を形成する、別のタンパク質成分として存在し得る。
【0031】
FMDV 3Dタンパク質を、組換えタンパク質の一部として、又は別の成分として、本発明のワクチン中に導入する目的は、ワクチン接種される動物においてT細胞応答を誘発することである。T細胞は、動物の体内で、ウイルスに感染している細胞を攻撃し、感染細胞を排除することによってウイルスを一掃することができる。したがって、T細胞応答は、動物をウイルス感染から防御することにおいて、重要な役割を果たす。動物が本発明のワクチンをワクチン接種された後に、抗原提示細胞(APC)は、ワクチン中のタンパク質成分を取り込み及び処理することができ、処理された成分は、MHC分子によってAPCの表面に提示され得る。これによって、抗原特異的細胞障害性Tリンパ球の活性化及び増殖、並びに免疫記憶細胞の発生が誘導される。FMDV 3Dタンパク質の「免疫原性断片」は、インタクトな3Dタンパク質同様に、ワクチン接種された動物においてT細胞応答を効率的に誘発することができる、3Dタンパク質の一部をいう。
【0032】
本発明のワクチンの特定の実施形態において、組換えタンパク質のN末端は、縦列に配置されて3回繰り返された、O血清型FMDV VP1タンパク質の2つの抗原性エピトープによって形成され、ここで該2つの抗原性エピトープは、ペプチドリンカー配列番号11によって連結された、配列番号9(VP1のアミノ酸残基141〜160)及び配列番号10(VP1のアミノ酸残基200〜213)であり、このタンデムリピートは、免疫グロブリン重鎖(配列番号4)に、そのC末端でペプチドリンカー配列番号11によって連結され、組換えタンパク質のC末端はO血清型FMDVのインタクトな3Dタンパク質配列によって形成され、それによって、組換えタンパク質全体(配列番号8)が形成される。別の特定の実施形態において、組換えタンパク質のN末端は、縦列に配置されて3回繰り返された、O血清型FMDV VP1タンパク質の2つの抗原性エピトープによって形成され、ここで2つの抗原性エピトープは、ペプチドリンカー配列番号11によって連結された、配列番号9(VP1のアミノ酸残基141〜160)及び配列番号10(VP1のアミノ酸残基200〜213)であり、組換えタンパク質のC末端は免疫グロブリン重鎖(配列番号4)によって形成され、上述の2つの部分はペプチドリンカー配列番号11によって連結されているが、インタクトな3Dタンパク質は別の独立した成分である。このように、組換えタンパク質(配列番号13)成分及び3Dタンパク質(配列番号6)成分は、ワクチン組成物の有効な成分をともに形成する。
【0033】
本発明は、上述の態様において記載されているような組換えタンパク質もまた、包含する。
【0034】
さらなる態様において、本発明は、本発明のワクチン組成物中の組換えタンパク質をコードする、単離されたポリヌクレオチドを提供する。
【0035】
本発明の組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドを得る方法は、当該分野で公知である。例えば、ポリヌクレオチド分子は、化学合成によって、直接調製することができる。あるいは、抗原性エピトープのタンデムリピート、免疫グロブリン重鎖の定常領域若しくはその機能性断片、及びFMDV 3Dタンパク質若しくはその免疫原性断片をそれぞれコードする核酸分子を最初に得て、ペプチドリンカーをコードする配列を付加し、次いでそれらをともに連結して、組換えタンパク質全体をコードするポリヌクレオチドを形成させることが可能である。例えば、RT−PCR増幅によって、動物の脾臓細胞由来の免疫グロブリン重鎖の定常領域をコードするポリヌクレオチド、及びFMDV試料由来の3Dタンパク質をコードするポリヌクレオチドを得ることが可能である。
【0036】
本発明のポリヌクレオチドを使用して、例えば該ポリヌクレオチドを適切なベクターに挿入し、次いで宿主細胞に導入して組換えタンパク質を発現させることによって、本発明のワクチン中の成分を調製することができる。
【0037】
したがって、さらなる態様において、本発明は、動物におけるFMDVに対する特異的免疫応答を誘導するためのワクチン組成物における使用のための、組換えタンパク質を調製する方法を提供し、該方法は、
上述のような組換えタンパク質をコードするポリヌクレオチドを得るステップと、
該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを構築するステップと、
該発現ベクターを宿主細胞中に導入するステップと、
組換えタンパク質の発現に適切な条件下で宿主細胞を培養し、発現された組換えタンパク質を回収及び精製するステップとを含む。
【0038】
本発明のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するために使用することができる、発現ベクター、例えば原核生物又は真核生物発現ベクターもまた、当該分野で公知である。
【0039】
本発明の組換えタンパク質を発現させるために使用することができる宿主細胞は、例えば、大腸菌(Escherichia coli)及び酵母細胞である。
【0040】
本発明の抗FMDVワクチン組成物は、有効量の有効な成分(複数可)、すなわち組換えタンパク質全体又は組換えタンパク質成分と別の3D成分とを、薬学的に許容され得る担体及びアジュバントとともに含む。動物は、ブタ、ウシ、又はヒツジ等の、偶蹄類動物である。本明細書中で使用される場合、「有効量」は、ワクチンの1つの成分又は複数の成分が、ワクチン接種される動物においてFMDVに対する特異的免疫応答を誘導するのに十分な量であることを意味する。
【0041】
適切な担体及びアジュバントは、例えば、水酸化アルミニウム又はリン酸アルミニウム等の無機アジュバント、CpG DNA又はポリA等の有機アジュバント、微生物及びその抽出物、並びにオイルアジュバント等である。
【0042】
本発明は、有効量の本発明のワクチン組成物を、該ワクチン組成物を必要とする動物に投与するステップを含む、動物においてFMDV感染を予防する方法もまた、提供する。本発明のワクチンは、例えば皮下、筋肉内、腹腔内又は静脈内注射によって、タンパク質ワクチンの投与に適切な任意の経路で投与することができる。本明細書中で使用される場合、「有効量」は、ワクチンの1つの成分又は複数の成分が、ワクチン接種される動物においてFMDVに対する特異的免疫応答を誘導するのに十分な量であることを意味する。有効量は、例えば、動物に関する従来の実験によって、当業者によって、容易に決定することができる。本発明のワクチン中のタンパク質成分は、100〜2000μg、好ましくは200〜1000μgの総量で投与することができる。実施例中で調製されたワクチン組成物A中の組換えタンパク質を例にとれば、200〜1000μgの量の組換えタンパク質の単回投薬投与によって、ワクチン接種される動物においてO血清型FMDVに対する有効な防御免疫応答を誘発することができる。
【0043】
抗FMDVワクチン組成物の効能を測定及び評価するための方法及び技術は、当該分野で公知である。かかる方法及び技術としては、ハムスター細胞の培養、ウイルスのインビトロ増殖、及びタンパク質の調製等の、FMDVのインビトロ培養及び滴定;ワクチン接種された動物から血清を採取すること、血清中和試験、哺乳マウス防御試験、ID50及びLD50測定、並びにブタにおけるウイルス負荷試験等の動物実験;並びに血清中和抗体応答アッセイ及びT細胞応答アッセイ等の、動物における免疫応答アッセイが挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下の実施例は、例示によってのみ提示される。実施例は決して、本発明の範囲を限定するように意図されない。
【0045】
実施例1:組換え遺伝子及び発現ベクターの構築
実施例1a:O血清型FMDVベースの組換え遺伝子及び発現ベクターの構築
1.1.縦列反復されたVP1タンパク質の抗原性エピトープをコードするDNAの合成
3回縦列反復された、VP1タンパク質の2つの抗原性エピトープをコードするDNAを、DNA合成によって得た。2つの抗原性エピトープは、最近のFMDの発生の原因であるO血清型FMDV由来、すなわち、O血清型FMDV VP1タンパク質のアミノ酸残基141〜160(配列番号9)及びアミノ酸残基200〜213(配列番号10)である。ペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列(配列番号11)を、縦列反復されたVP1タンパク質の抗原性エピトープのそれぞれをコードするヌクレオチド配列の間に導入した。また、メチオニンコドンを5’末端に付加し、ペプチドリンカーをコードするさらなるヌクレオチド配列(配列番号11)を3’末端に付加した。得られた産物を「3R」断片と名付け、そのヌクレオチド配列を配列番号1に示す。
【0046】
1.2.ブタ免疫グロブリン重鎖の定常領域をコードするヌクレオチド配列を得る
動物免疫グロブリン重鎖の定常領域をコードする核酸を、以下に概説するように、動物脾臓細胞からのRT−PCR増幅によって得た。ブタ単鎖IgG(scIgG)由来の重鎖の定常領域のmRNAを含む全mRNAを、ファストプレップ(FastPrep)キット(Gibco)を使用することによって、ブタ脾臓試料から抽出及び精製した。scIgGをコードするcDNA断片を、以下のプライマーを用いることによって、RT−PCR増幅によって得た(Kackovics,I.、Sun,J.、Bulter,J.E.Five putative subclasses of porcine IgG identified from the cDNA sequences of a single animal.J Immunol 1994;153:3565〜73ページ):
scIgG 5’プライマー:5’−GCCCCCAAGACGGCCCCA−3’ 配列番号15
scIgG 3’プライマー:5’−TCATCATTTACCCTGAGT−3’ 配列番号16
【0047】
以下の条件下での逆転写のために、M−MLV逆転写酵素(Promega)を使用した:5μlのM−MLV 5X反応バッファー(250mM Tris−HCl(pH8.3)、375mM KCl、15mM MgCl、50mM DTT);1.25μlの各dNTP、10mM;25単位の組換えRNasin(登録商標)リボヌクレアーゼ阻害剤;200単位のM−MLV逆転写酵素;2μg mRNA;0.5μgのプライマー;25μlの最終体積までリボヌクレアーゼ不含水を添加する。37℃で60分間反応を行い、次いで70℃で15分間不活化した。
【0048】
次いで、得られた産物を、その後のPCR増幅のための鋳型として使用した。PCR増幅系の総体積は25μlであり、2.5μlの10xPCRバッファー(100mM Tris−HCl、pH8.4、500mM KCl、1mg/ml グルチン)、0.5μlの10mM dNTP、0.5μlの50mM MgCl、1μlのscIgG 5’プライマー(配列番号15)(10mM)、1μlのscIgG 3’プライマー(配列番号16)(10mM)、0.2μlのTaqポリメラーゼ(Promega)、1μlの鋳型、18.3μlのddHOを含んでいた。PCRは、以下の条件下で行った:95℃で5分間;95℃で30秒間、52℃で30秒間、及び72℃で2分間の34サイクル;並びに最後に72℃で5分間。得られた増幅産物を「IGC」断片と名付けた。配列決定解析から、この断片が配列番号3で示されるヌクレオチド配列を有することが明らかになった。
【0049】
1.3.タンデムリピート領域及びブタ免疫グロブリン重鎖の定常領域をコードする核酸のライゲーション
VP1タンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピートをコードする核酸(3R断片)とブタ免疫グロブリン重鎖の定常領域のcDNA(IGC断片)とのライゲーションを、300mM Tris−HCl(pH7.7)、100mM MgCl、50mM DTT及び1mM ATPを含むライゲーション反応系において行った。VP1タンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピートをコードする核酸の、重鎖の定常領域のcDNA断片に対するモル比は、1:1であった。2u T4 DNAリガーゼ及び0.2u T4 RNAリガーゼ(Promega)を使用して、ライゲーションの効率を促進した。ライゲーション産物を「3R−IGC」断片と名付け、そのヌクレオチド配列を配列番号14に示す。
【0050】
1.4.FMDV 3Dタンパク質をコードする核酸を得る
O血清型FMDVに感染したブタから得られた水疱液試料から、FMDV 3Dタンパク質をコードする核酸をクローニングするために、以下のプライマーを使用した:
3D 5’プライマー:5’−CCATCTCCAAGACTCAGGGTAAAGGGTTGATCGTCGACACC−3’ 配列番号17
3D 3’プライマー:5’−GTATGCGTCACCGCAC−3’ 配列番号18
【0051】
RT−PCR条件は、IGCの増幅に使用したものと同じであった。FMDVから増幅された産物を「D」断片と名付けた。この産物は、FMDV 3Dタンパク質をコードし、配列番号5に示されるヌクレオチド配列を有する。
【0052】
1.5.組換えタンパク質全体をコードする核酸を得る
上記で調製された「3R−IGC」断片を、次いで、オーバーラッピングPCRによってFMDVから増幅された、3Dタンパク質をコードする「D」断片とライゲートさせ、それによって、組換えタンパク質全体をコードする核酸分子「3R−IGCD」を得た。詳細なステップは以下の通りである。
【0053】
(1)「3R−IGC」断片増幅のためのプライマーを設計する:
3R−IGCD 5’プライマー:5’−AGCTGAATTCATGGTACCAAACCTG−3’ 配列番号19
3R−IGC 3’プライマー1:5’−GGTAGAGGTTCTGAGTCCCATTTCCCAACTAGCAGCTGTGG−3’ 配列番号20
【0054】
3R−IGCD 5’プライマーは「3R−IGC」断片の5’末端に相補的であり、3R−IGC 3’プライマー1は「3R−IGC」断片の3’末端に部分的に相補的であり、「D」断片の5’末端に部分的に相補的である。PCR増幅によって、3R−IGCDの3R−IGC部分が生成され、その3’末端配列は、「D」断片の5’末端に部分的に相同である。
【0055】
(2)「D」断片増幅のためのプライマーを設計する:
D 5’プライマー:5’−CCATCTCCAAGACTCAGGGTAAAGGGTTGATCGTCGACACC−3’ 配列番号21
3R−IGCD 3’プライマー:5’−AGCTTCTAGAAATTTATGCGTCACCGCAC−3’ 配列番号22
【0056】
D 5’プライマーは「D」断片の5’末端に部分的に相補的であり、「3R−IGC」断片の3’末端に部分的に相補的であり、3R−IGCD 3’プライマーは「D」断片の3’末端に相補的である。PCR増幅によって、3R−IGCDのD部分が生成され、その5’末端配列は、「3R−IGC」断片の3’末端に部分的に相同である。
【0057】
(3)各5μgの、3R−IGC部分及びD部分を、互いにPCRプライマー及び鋳型として使用し、1分間の95℃変性、2分間の65℃伸長の6サイクルに供した。次いで、3R−IGCD 5’プライマー及び3R−IGCD 3’プライマーをこの反応系に添加し、1分間の95℃変性、55℃30秒間、2分間の72℃伸長の20サイクルに供した。得られた増幅産物は3R−IGCD(配列番号7)であり、実施例2で調製されるようなワクチン組成物Aにおける組換えタンパク質をコードする。
【0058】
1.6.発現ベクターの構築
上述のようにして得られた増幅産物「3R−IGCD」を、EcoR I及びXba Iで消化し、次いで細菌発現ベクターpET22b(Novagen Inc.)に挿入し、それによって、プラスミドp3R−IGCDを得た。
【0059】
上述の1.3節で調製された「3R−IGC」のPCR増幅において、以下のプライマーを使用した:
3R−IGC 5’プライマー:5’−AGCTGAATTCATGGTACCAAAC−3’ 配列番号23
3R−IGC 3’プライマー2:5’−AGCTTCTAGATCATCATTTACCCTGAGT−3’ 配列番号24
【0060】
増幅産物をEcoR I及びXba Iで消化し、次いで細菌発現ベクターpET22b(Novagen Inc.)に挿入し、それによって、プラスミドp3R−IGCを得た。
【0061】
実施例1b:アジア1 FMDVベースの組換え遺伝子及び発現ベクターの構築
縦列反復された、アジア1 FMDV VP1タンパク質の抗原性エピトープをコードするDNAを、実施例1aの1.1節に記載されているのと同様の方法で合成した。簡潔にいうと、縦列反復された、アジア1 FMDV VP1タンパク質の2つの抗原性エピトープをコードするDNAを、DNA合成によって得た。2つの抗原性エピトープは、それぞれ、アジア1 FMDV VP1タンパク質の、残基133〜158のアミノ酸配列(配列番号25)及び残基200〜213のアミノ酸配列(配列番号26)を有する。ペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列(配列番号11)を、縦列反復された、VP1タンパク質の抗原性エピトープのそれぞれをコードするヌクレオチド配列の間に導入した。また、メチオニンコドンをDNA配列の5’末端に付加し、ペプチドリンカーをコードするさらなるヌクレオチド配列(配列番号27)を3’末端に付加した。得られた産物を「3As」断片と名付けた。
【0062】
3Asを、実施例1aの1.3節に記載されているのと同様の方法で、実施例1aの1.2節で得られたIGC(配列番号3)とライゲートした。ライゲーション産物は、「3As−IGC」断片と名付け、配列番号29に示されるヌクレオチド配列を有し、「3As−IGC」によってコードされるアミノ酸配列を配列番号28に示す。
【0063】
次いで、「3As−IGC」断片を、実施例1aの1.5節に記載されているのと同様なオーバーラッピングPCRによって、上述の1.4節で得られた「D」断片(配列番号5)とライゲートし、それによって、アジア1 FMDVベースの組換えタンパク質全体をコードする核酸分子「3As−IGCD」を得た。配列決定解析から、該核酸分子が配列番号31に示されるDNA配列を有することが明らかになり、コードされるアミノ酸配列を配列番号30に示す。
【0064】
最後に、「3As−IGCD」をEcoR I及びXba Iで消化し、次いで、細菌発現ベクターpET22b(Novagen Inc.)に挿入して、プラスミドp3As−IGCDを得た。
【0065】
実施例1c:ウシO血清型FMDVベースの組換え遺伝子及び発現ベクターの構築
縦列反復された、ウシO血清型FMDV VP1タンパク質の抗原性エピトープをコードするDNAを、実施例1aの1.1節に記載されているのと同様の方法で合成した。簡潔にいうと、縦列反復された、ウシO血清型FMDV VP1タンパク質の3つの抗原性エピトープをコードするDNAを、DNA合成によって得た。VP1タンパク質の抗原性エピトープは、それぞれ、配列番号32、配列番号33、及び配列番号34のアミノ酸配列を有する。ペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列(配列番号11)を、縦列反復された、VP1タンパク質の抗原性エピトープのそれぞれをコードするヌクレオチド配列の間に導入した。また、メチオニンコドンをDNA配列の5’末端に付加し、ペプチドリンカーをコードするさらなるヌクレオチド配列(配列番号27)を3’末端に付加した。得られた産物を「3KO」断片と名付けた。
【0066】
ウシ免疫グロブリン重鎖の定常領域をコードするヌクレオチド配列を、実施例1aの1.2節に記載されているのと同様の方法で得た。以下のプライマーを使用した:
cIGC 5’プライマー:5’−CATGAAGCTTGCCTCCACCACAGCCCCGAAAG−3’ 配列番号35
cIGC 3’プライマー:5’−CCGGCTCGAGTTTACCCGCAGACTTAGAGGTGGACTTC−3’ 配列番号36
【0067】
配列決定解析から、「cIGC」断片と名付けられた、得られたcDNAが、配列番号38に示される配列を有することが明らかになり、コードされるアミノ酸配列を配列番号37に示す。
【0068】
3KOを、実施例1aの1.3節に記載されているのと同様な方法で、cIGCとライゲートした。ライゲーション産物は、「3KO−cIGC」断片と名付け、配列番号40に示されるヌクレオチド配列を有し、「3KO−cIGC」によってコードされるアミノ酸配列を配列番号39に示す。
【0069】
次いで、「3KO−cIGC」断片を、実施例1aの1.5節に記載されているのと同様なオーバーラッピングPCRによって、上述の1.4節で得られた「D」断片(配列番号5)とライゲートし、それによって、ウシO血清型FMDVベースの組換えタンパク質全体をコードする核酸分子「3KO−cIGCD」を得た。配列決定解析から、該核酸分子が配列番号42に示されるDNA配列を有することが明らかになり、コードされるアミノ酸配列を配列番号41に示す。
【0070】
最後に、「3KO−cIGCD」をEcoR I及びXba Iで消化し、次いで細菌発現ベクターpET22b(Novagen Inc.)に挿入し、プラスミドp3KO−cIGCDを得た。
【0071】
実施例1d:A血清型FMDVベースの組換え遺伝子及び発現ベクターの構築
縦列反復された、A血清型FMDV VP1タンパク質の抗原性エピトープをコードするDNAを、実施例1aの1.1節に記載されているのと同様の方法で合成した。簡潔にいうと、縦列反復された、A血清型FMDV VP1タンパク質の2つの抗原性エピトープをコードするDNAを、DNA合成によって得た。2つの抗原性エピトープはそれぞれ、A血清型FMDV VP1タンパク質の、残基141〜160のアミノ酸配列(配列番号43)及び残基200〜213のアミノ酸配列(配列番号44)を有する。ペプチドリンカーをコードするヌクレオチド配列(配列番号11)を、縦列反復された、VP1タンパク質の抗原性エピトープのそれぞれをコードするヌクレオチド配列の間に導入した。また、メチオニンコドンをDNA配列の5’末端に付加し、ペプチドリンカーをコードするさらなるヌクレオチド配列(配列番号27)を3’末端に付加した。縦列反復された抗原性エピトープをブタ免疫グロブリン重鎖の定常領域の断片と連結させるために、このリンカーを使用した。得られた産物を「3A」断片と名付けた。
【0072】
3Aを、実施例1aの1.3節に記載されているのと同様の方法で、実施例1aの1.2節で得られたIGC(配列番号3)とライゲートした。ライゲーション産物は、「3A−IGC」断片と名付け、配列番号46に示されるヌクレオチド配列を有し、「3A−IGC」によってコードされるアミノ酸配列を配列番号45に示す。
【0073】
次いで、「3A−IGC」断片を、実施例1aの1.5節に記載されているのと同様のオーバーラッピングPCRによって、上述の1.4節で得られた「D」断片(配列番号5)とライゲートし、それによって、A血清型FMDVベースの組換えタンパク質全体をコードする核酸分子「3A−IGCD」を得た。配列決定解析から、該核酸分子が配列番号48に示されるDNA配列を有することが明らかになり、コードされるアミノ酸配列を配列番号47に示す。
【0074】
最後に、「3A−IGCD」をEcoR I及びXba Iで消化し、次いで、細菌発現ベクターpET22b(Novagen Inc.)に挿入し、プラスミドp3A−IGCDを得た。
【0075】
実施例2:ワクチンの調製
2.1.本発明のワクチン組成物Aの調製
2.1.1. 3R−IGCDによってコードされる組換えタンパク質の発現:コンピテント細胞(大腸菌、BL21)を氷上で解凍し、300μlのコンピテント細胞を各氷冷チューブに加えた。実施例1で調製したプラスミドp3R−IGCDを各チューブに加え、混合し、氷上で40分間静置し、次いで42℃の水浴中で45秒間の熱ショックに供した。1mlのL培地(抗生物質なし)を各チューブに加えた。チューブをシェイカー上、37℃で45分間インキュベートして、プラスミドからのタンパク質の発現を可能にした。形質転換された細菌をアンピシリンとともに培養プレート上で平板培養し、37℃で一晩放置した。アンピシリン耐性を有する細菌クローンを選択し、プラスミド抽出後にDNA配列決定に供した。次いで、正しい配列を有するプラスミドを含む株を選択した。該株をLB培地中に接種し、37℃でOD=0.5まで増殖させ、次いで0.4mM IPTGを培地に添加して、組換えタンパク質の発現を誘導した。4時間後に、細菌細胞を収集した。細菌細胞の懸濁液を超音波破砕し、次いで残りの細菌残屑を除去するように、4℃で10分間、10,000xgで遠心分離した。イムノブロッティング解析のために、上清を直接使用した。不溶性タンパク質(封入体)を、30,000xgでの遠心分離によって収集し、LB培地で1回洗浄し、次いで、振とうしながら、沈殿1gあたり25mlの量でバッファー1(SB1:100mM NaHPO、10mM Tris−HCl、20mMイミダゾール、pH8.0、1mM DTT、8M尿素、1.5M NaCl)と混合し、室温で20〜30分間インキュベートした。ガラス質の不溶性細胞壁を、65,000xgで30分間の遠心分離によって除去した。上清を、0.2μmろ過膜を通してろ過し、それによって、組換えタンパク質を含むタンパク質試料を得た。発現された組換えタンパク質を、Hisトラップ(His−Trap)カラムで精製した(Porath,J.、Carlsson,J.、Olsson,I.、Belfrage,G.、Metal chelate affinity chromatography,a new approach to protein fraction.Nature 1975;258:598〜99ページ)。5〜10mg/mlの上述のタンパク質試料を、1×5cm予備平衡化Hisトラップカラム上に置いた。p3R−IGCDプラスミドから発現された組換えタンパク質は、His尾部を有する。結合タンパク質を50mlのSB1で洗浄し、次いで、溶出バッファー2(EB2:SB1+0.5M NaCl+480mMイミダゾール、pH8.0)を使用して、カラムから溶出させた。溶出したタンパク質を、SB1で10倍希釈し、次いで、同じ条件下で、2回目のクロマトグラフィーに供した。溶出したタンパク質を組み合わせ、製造業者の使用説明書に従ってBio−Radタンパク質分析キットを使用して、その濃度を測定した。タンパク質の濃度を0.3〜0.4mg/mlに調節した。透析物を頻繁に交換しながら、5Lの50mM Tris、pH7.5、1.0M NaClで72時間透析を行った。タンパク質はまた、8M尿素の代わりに6M尿素を使用してタンパク質を溶解させたことを除いて同様の方法を用いて、精製した。精製されたタンパク質を4℃で保存した。
【0076】
2.1.2.3R−IGCDによってコードされる組換えタンパク質のSDS−PAGE及びイムノブロッティング解析:組換えタンパク質の発現を、SDS−PAGEゲル電気泳動法によって明らかにした。SDS−PAGEの結果から、得られた組換えタンパク質の分子量が、期待されるものと一致することが示された(図2)。標的タンパク質の発現を、イムノブロッティング(Amersham ECLイムノブロッティングキット)によって測定した(Gel electrophoresis of proteins(Hammes,B.D.、Rickwood,D.編)、IRL Press、Oxford、1981)。イムノブロッティング解析において、O血清型FMDVに感染したブタから得られた抗FMDV抗血清を使用し(図3)、結果から、組換えタンパク質は免疫原性があり、上述の血清に反応性があることが確認される。
【0077】
2.1.3.ワクチン組成物Aを得る:乳化剤206(SEPPIC Inc、仏国)を組換えタンパク質に添加及び混合し、本発明のワクチン組成物A(3R−IGCDによってコードされる組換えタンパク質(配列番号8)を有効成分として含む)を得た。
【0078】
2.2.本発明のワクチン組成物Bの調製
2.1節と同様の手順に従って、プラスミドp3R−IGCを使用して、3R−IGCによってコードされる組換えタンパク質(配列番号13に示されるアミノ酸配列を有する)を発現及び精製した。この組換えタンパク質のSDS−PAGEの、クマシーブルー染色及びイムノブロッティングアッセイ(ブタ由来の抗FMDV血清でプロービングした)の結果を、図4に示した。
【0079】
実施例1の1.4節で得られたFMDVの3Dタンパク質をコードする核酸を、発現ベクターpET100−D−TOPO(Invitrogen)にクローニングし、それによって、プラスミドpET100−P3Dを得た。ベクターpET100−D−TOPOは、製造業者によって直線化されており、細菌中の組換えタンパク質の発現のための標的断片に連結させることができる。2.1節と同様の手順に従って、プラスミドpET100−P3Dを使用して、大腸菌株BL21コドンプラスを形質転換した。3Dタンパク質を発現させるように、培養された細菌を0.4mM IPTGで4時間誘導した。発現及び精製された3Dタンパク質を、SDS−PAGE及びクマシーブルー染色、並びに抗His抗体を用いたイムノブロッティングに供した。結果を図5に示す。
【0080】
3R−IGCによってコードされる組換えタンパク質及び3Dタンパク質を等しいモル比で混合し、これに乳化剤206(SEPPIC Inc、仏国)を添加し、それによって、本発明のワクチン組成物B(3R−IGCによってコードされる組換えタンパク質(配列番号13)及び3Dタンパク質(配列番号6)を有効成分として含む)を得た。
【0081】
2.3.本発明の他のワクチン組成物の調製
2.1節及び2.2節と同様の手順をそれぞれ用いて、実施例1b、1c及び1dで生じた組換えタンパク質を含んで、ワクチンを調製した。上記のワクチンはそれぞれ、組換えタンパク質全体「3As−IGCD」、「3KO−cIGCD」、若しくは「3A−IGCD」を有効成分として含むか、又は組換えタンパク質「3As−IGC」、「3KO−cIGC」、若しくは「3A−IGC」とともに別の3D成分を有効成分として含む。
【0082】
実施例3:抗FMDVワクチンの効能
3.1.細胞培養
ハムスター腎臓細胞株(BHK21)(ATCCから購入、ATCC CCL−10)を、10%熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)(Gibco)、ペニシリン(100U ml−1)、ストレプトマイシン(100μg ml−1)及びアール塩を補充した必須培地中、37℃及び5%COで培養した(Barnett,P.V.、L.Pullen、R.F.Staple、L.J.Lee、R.Butcher、D.Parkinson、及びT.R.Doel.1996。A protective anti−peptide antibody against the immunodominant site of the A24 Cruzeiro strain of foot−and−mouth disease virus and its reactivity with other subtype viruses containing the same minimum binding sequence.J.Gen.Virol.77:1011〜1018ページ)。
【0083】
3.2.FMDV増殖及びウイルスタンパク質の調製
FMDVは、流行の際にFMDVに感染したブタの水疱の上皮組織由来であった。BHK21単層細胞が80%コンフルエンスに増殖したときに、1mlのFMDV液を細胞層の表面に添加して、FMDVを増殖させた。BHK21細胞を、37℃で45分間培養し、細胞が75%の細胞変性効果を示すまで収集し、次いで、アール塩を補充し、FBSを含まない、20mlの必須培地(EMEM)を添加した。培養の後に、0.01Mバイナリーエチレンイミン(Sigma)を添加し、培養物を37℃で1時間平板培養して、FMDVを不活化させ、次いで、7%ポリエチレングリコール(PEG6000)(Sigma)を添加し、4℃で一晩平板培養して、不活化したFMDVを沈殿させた。ウイルスの総タンパク質を、40,000rpmで2時間の超遠心分離によって得た。精製されたウイルスタンパク質の濃度を、259nmでの光学密度を測定することによって、測定した(1OD=132μg)(Barnett,P.V.、L.Pullen、R.F.Staple、L.J.Lee、R.Butcher、D.Parkinson、及びT.R.Doel.1996。A protective anti−peptide antibody against the immunodominant site of the A24 Cruzeiro strain of foot−and−mouth disease virus and its reactivity with other subtype viruses containing the same minimum binding sequence.J.Gen.Virol.77:1011〜1018ページ)。該ウイルスタンパク質を、T細胞増殖アッセイのために使用した。
【0084】
3.3.FMDVの50%感染量(ID50)の測定
FMDVの50%感染量(ID50)の濃度を測定するために、FMDV血清反応について陰性な25匹のブタを、50%感染量(ID50)の分析のために使用した。該動物を、1群あたり5匹の動物の、5つの群に分けた。口蹄疫ウイルス液を1:10に段階希釈し(例えば、10−4、10−5、10−6、10−7及び10−8)、それぞれブタの頸部の筋肉に注射した。ウイルス負荷の2〜10日後に、毎日体温を記録しながら、鼻、頬、舌及び足の水疱形成の観察を行った。FMD症状があり、40℃を超える体温を有するブタを、FMD陽性であるとして同定した。50%のブタがFMDV感染による陽性の症状を示す希釈濃度を、FMDV液のID50、すなわち1 ID50として定義した(Collen,T.、R.Dimarchi、及びT.R.Doel。1991。A T Cell Epitope in VP1 of Foot−and−Mouth Disease Virus is Immunodominant for Vaccinated Cattle.J.Immunol.14G:749〜755ページ。Taboga,O.、C.Tami、E.Carrillo、J.I.Nunez、A.Rodriguez、J.C.Saiz、E.Blanco、M.L.Valero、X.Roig、J.A.Camarero、D.Andreu、M.G.Mateu、E.Giralt、E.Domingo、F.Sobrino、及びE.L.Palma.1997。A Large−Scale Evaluation of Peptide Vaccines against Foot−and−Mouth Disease:Lack of Solid Protection in Cattle and Isolation of Escape Mutants.J.Virol.71:2604〜2614ページ)。
【0085】
3.4.ワクチン接種されたブタの血清採取及びウイルス負荷試験
FMDVウイルス負荷試験は、組換えワクチンの効能を測定する方法である。FMDV血清反応について陰性な、全体で25匹のブタ(生後2.5カ月、約25kg)を、ウイルス負荷分析のために使用した。
【0086】
ブタを、5つの群に分けた:(a)5匹を、陰性対照群として使用した(1mlのPBSを注射した);(b)5匹を、陽性対照群として使用した(2mlの市販のFMDワクチン(不活化全ウイルス)、China Agriucultural VET.BIO.Science and Technology Co.LTD.、Lanzhou、中国を、製造業者によって推奨される投薬量に従って、注射した);残りの群、c、d、eに、ワクチン組成物A、すなわち、実施例2の2.1節で調製した組換えタンパク質(「3R−IGCD」によってコードされる)を、以下のように注射した:(c)5匹に、0.2mgの組換えタンパク質を注射した;(d)5匹に、0.5mgの組換えタンパク質を注射した;(e)5匹に、1mgの組換えタンパク質を注射した。実施例2の2.2節で調製したワクチン組成物Bを試験するとき、グループ分けはワクチン組成物Aを試験するために上述したのと同じであり、注射されたタンパク質の総量はワクチン組成物Aと同じであり、ここで、3Dタンパク質に対する組換えタンパク質(「3R−IGC」によってコードされる)のモル比は1:1であった。
【0087】
始めに、ブタを、最初に頸部の筋肉でワクチン接種し、次いで摂取後21日目に同じ投薬量で再度ワクチン接種した。各群の動物から、0及び51日目に血清試料を採取し、試験した。1週間後に、動物にFMDVを1000×ID50で付加し、FMDを同定するための診断基準は、上述のID50測定におけるものと同じであった(Rodriguez,A.、J.C.Salz、I.S.Novella、D.Andreu、及びF.Sobrino.1994。Antigenic Specificity of Porcine T Cell Response against Foot−and−Mouth Disease Virus Structural Proteins:Identification of T Helper Epitopes in VP1.Virology205:24〜33ページ)。
【0088】
3.5.血清抗体中和試験(SNT)
組換えタンパク質、市販の抗FMDワクチン、及びバッファーをそれぞれ注射されたブタの5つの群について、FMDVに対するそれらの特異的抗体応答を測定するために、World Reference LaboratoryによってFMDについて規定されている手順に従って、血清中和試験(SNT)を行った(第2.1.1章Foot and muoth disease.「OIE manual」中。Office International des Epizooties、Paris、1996;47〜56ページ)。抗体の濃度を、log10SN50の形で表す(Salt,J.S.、P.V.Barnett、P.Dani、及びL.William。1998。Emergency vaccination of pigs against foot−and−mouth disease:protection against disease and reduction in contact transmission.Vaccine16:746〜754ページ)。結果を表1及び2に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
血清中和試験の結果から、ワクチン組成物A又はワクチン組成物B(200μg、500μg及び1mg)でのワクチン接種の後に、以前はFMDV血清反応において陰性であった全てのブタにおいて、FMDVに対する抗体中和反応が誘発され得ることが示される(表1及び2)。陰性対照群中のブタは、組換えタンパク質又は市販の抗FMDワクチンをワクチン接種されておらず、したがって、抗体反応は検出されなかった。本発明者らのワクチンをワクチン接種された3つの群と市販の抗FMDワクチンをワクチン接種された群の抗体レベルの間に、統計的に有意な差はなかった。
【0092】
3.6.哺乳マウス防御試験
哺乳マウス防御試験(MPT)は、本発明のワクチンをワクチン接種されたブタがFMDVに対する抗体を産生することができるかどうかを判定する、第2の方法である。改変を加えて、Mulcahyらに記載されているようにマウス防御試験を行った(Mulcahy,G.、L.A.Pullen、C.Gale、R.D.DiMarchi、及びT.R.Doel。1991。Mouse protection test as a predictor of the protective capacity of synthetic foot−and−mouth disease vaccines.Vaccine9:19〜24ページ)。50%致死量(LD50)のFMDV物質:段階希釈によって希釈された5つのウイルス試料(10−3、10−4、10−5、10−6及び10−7等)を、5つの群の哺乳マウス(各群中4匹のマウス)に注射し、次いで、マウスにおいて50%の死亡を引き起こす希釈濃度をLD50として測定した。実験用のブタ(本発明のワクチン(ワクチン組成物A又はワクチン組成物B)、市販の抗FMDワクチン、及びバッファーをそれぞれワクチン接種された)の抗血清を、ワクチン接種後の51日目に採取した。全ての抗血清を、56℃で30分間不活化した。各群中、4匹の、生後3〜4日の哺乳マウスに、100μlの無希釈ブタ抗血清を、それぞれ腹腔内注射(i.p.)した。20〜23時間以内に、全てのマウスに、50%致死量(LD50)の10、100、又は1000倍の用量でFMDVをそれぞれ負荷し、次いで4日間観察した。生存し続けているマウスの数を記録した。結果を表3に示す。
【0093】
【表3】

【0094】
表3において、200μg、500μg又は1mgのワクチン組成物A又はワクチン組成物Bのいずれかでワクチン接種されたブタ由来の抗血清は全て、50%致死量(LD50)の1000倍の用量でのFMDVの負荷に対して、哺乳マウスを完全に防御したことが、明らかに示される。組換えタンパク質をワクチン接種されなかったブタ(陰性対照群)の抗血清は、FMDVの感染に対して哺乳マウスを全く防御することができなかったが、市販の抗FMDワクチンをワクチン接種されたブタの抗血清は、50%致死量(LD50)の1000倍までの用量でのFMDVの負荷に対して、哺乳マウスを防御することができる。
【0095】
3.7.T細胞増殖分析
T細胞増殖分析を行って、組換えタンパク質の注射によって引き起こされるT細胞増殖を特徴付けた。ワクチン組成物A又はワクチン組成物B、市販の抗FMDワクチン、及びバッファーをワクチン接種されたブタの群から、T細胞を収集した。1.077g ml−1のパーコール溶液によって、血液細胞を精製した。各群について4×10個のT細胞/mlを96ウェルプレート(Corning)中で培養し、FMDVウイルスタンパク質を10μg ml−1又は50μg ml−1の濃度まで添加した。プレートを37℃で4日間培養し、次いで25μlあたり1マイクロキュリー(μCi)の[トリチウム]チミジン([3H]チミジン)を添加し、18時間培養した後に細胞を収集し、液体シンチレーションカウンター(Beckman LS6500)を用いて測定した(Measurement of proliferation Response of Cultured lymphocytes、第7.10章、Current Protocols in Immunology、J.E.Cologan編(NIH)、2005、John Wiley and Sons,Inc.Lierop,M.J.C.V.、K.V.Maanen、R.H.Meloen、V.P.M.G.Rutten、M.A.C.Dejong、及びE.J.Hensen。1992。Proliferative Lymphocyte responses to foot−and−mouth disease virus and three FMPV peptides after vaccination or immunization with these peptides in cattle.Immunol.75:406〜413ページ)。
【0096】
【表4】

【0097】
【表5】

【0098】
表4及び5は、ワクチン組成物A若しくはワクチン組成物B(200μg、500μg及び1mgのタンパク質)、市販の抗FMDワクチン又はバッファーをそれぞれワクチン接種されたブタから収集されたT細胞のインビトロ増殖応答を説明する。10μg ml−1又は50μg ml−1のFMDVタンパク質のインビトロ刺激の後に、増殖応答を測定した。50μg ml−1のウイルスタンパク質によって刺激した場合、組換えタンパク質及び市販の抗FMDワクチンをワクチン接種されたブタ由来のT細胞は、最もよい応答を示したが、バッファーによって刺激した群は、増殖応答を示さなかった。
【0099】
ブタへのFMDVの負荷の結果を、表6及び7に示す。
【0100】
【表6】

【0101】
【表7】

【0102】
FMDVによって負荷されたブタの5つの群の中でも、バッファー対照群(n=5)において、疾患の迅速な発症が見られた。規定された期限内(7〜10日間)での典型的なFMD症状の発生に基づいて、それらの全てはFMD陽性であると診断された。市販の抗FMDワクチンの陽性対照群中の動物(n=5)は、いかなるFMD症状も示さなかった。0.2mgのワクチン組成物Aをワクチン接種されたブタ(n=5)については、それらのうち4匹はFMDV負荷に対して防御された;0.5mg又は1mgのワクチン組成物Aをワクチン接種された全てのブタ(n=5)は、FMDV負荷に対して完全に防御された。0.2mg、0.5mg又は1mgのワクチン組成物Bをワクチン接種されたブタ(n=5)もまた、FMDV負荷に対して完全に防御され、いかなるFMD症状も示さなかった。
【配列表フリーテキスト】
【0103】
配列番号1:実施例中で使用されるO血清型FMDV VP1タンパク質の縦列反復された抗原性エピトープをコードするDNA配列;
配列番号2:実施例中で使用されるO血清型FMDV VP1タンパク質の縦列反復された抗原性エピトープのアミノ酸配列;
配列番号3:実施例中で使用されるブタ免疫グロブリン重鎖の定常領域をコードするDNA配列;
配列番号4:実施例中で使用されるブタ免疫グロブリン重鎖の定常領域のアミノ酸配列;
配列番号5:実施例中で使用されるFMDV 3Dタンパク質をコードするDNA配列;
配列番号6:実施例中で使用されるFMDV 3Dタンパク質のアミノ酸配列;
配列番号7:実施例中で使用される本発明の組換えタンパク質をコードするDNA配列(「3R−IGCD」);
配列番号8:「3R−IGCD」によってコードされる、実施例中で使用される組換えタンパク質のアミノ酸配列;
配列番号9:O血清型FMDV VP1タンパク質の残基141〜160のアミノ酸配列;
配列番号10:O血清型FMDV VP1タンパク質の残基200〜213のアミノ酸配列;
配列番号11:本発明において使用され得るペプチドリンカーGGSSGG;
配列番号12:本発明において使用され得るペプチドリンカーGGGSGGGGS;
配列番号13:「3R−IGC」によってコードされる、実施例中で使用される組換えタンパク質のアミノ酸配列;
配列番号14:実施例中で使用される本発明の組換えタンパク質をコードするDNA配列(「3R−IGC」);
配列番号15:ブタscIgGをコードするcDNA断片を増幅するためのscIgG 5’プライマー;
配列番号16:ブタscIgGをコードするcDNA断片を増幅するためのscIgG 3’プライマー;
配列番号17:FMDV 3Dタンパク質をコードする核酸をクローニングするための3D 5’プライマー;
配列番号18:FMDV 3Dタンパク質をコードする核酸をクローニングするための3D 3’プライマー;
配列番号19:3R−IGCD断片を合成するために使用される3R−IGCD 5’プライマー;
配列番号20:3R−IGCD断片を合成するために使用される3R−IGC 3’プライマー1;
配列番号21:3R−IGCD断片を合成するために使用されるD 5’プライマー;
配列番号22:3R−IGCD断片を合成するために使用される3R−IGCD 3’プライマー;
配列番号23:配列番号14を増幅するために使用される3R−IGC 5’プライマー;
配列番号24:配列番号14を増幅するために使用される3R−IGC 3’プライマー2;
配列番号25:アジア1 FMDV VP1タンパク質の残基133〜158のアミノ酸配列;
配列番号26:アジア1 FMDV VP1タンパク質の残基200〜213のアミノ酸配列;
配列番号27:本発明において使用され得るペプチドリンカーGGGGS;
配列番号28:「3As−IGC」によってコードされる、実施例中で使用される組換えタンパク質のアミノ酸配列;
配列番号29:実施例中で使用される本発明の組換えタンパク質をコードするDNA配列(「3As−IGC」);
配列番号30:「3As−IGCD」によってコードされる、実施例中で使用される組換えタンパク質のアミノ酸配列;
配列番号31:実施例中で使用される本発明の組換えタンパク質をコードするDNA配列(「3As−IGCD」);
配列番号32:ウシO血清型FMDVのVP1エピトープのアミノ酸配列;
配列番号33:ウシO血清型FMDVのVP1エピトープのアミノ酸配列;
配列番号34:ウシO血清型FMDVのVP1エピトープのアミノ酸配列;
配列番号35:ウシ免疫グロブリン重鎖の定常領域をコードするヌクレオチド配列を増幅するためのcIGC 5’プライマー;
配列番号36:ウシ免疫グロブリン重鎖の定常領域をコードするヌクレオチド配列を増幅するためのcIGC 3’プライマー;
配列番号37:ウシ免疫グロブリン重鎖の定常領域のアミノ酸配列;
配列番号38:ウシ免疫グロブリン重鎖の定常領域をコードするヌクレオチド配列(「cIGC」断片);
配列番号39:「3KO−cIGC」によってコードされる、実施例中で使用される組換えタンパク質のアミノ酸配列;
配列番号40:実施例中で使用される本発明の組換えタンパク質をコードするDNA配列(「3KO−cIGC」);
配列番号41:「3KO−cIGCD」によってコードされる、実施例中で使用される組換えタンパク質のアミノ酸配列;
配列番号42:実施例中で使用される本発明の組換えタンパク質をコードするDNA配列(「3KO−cIGCD」);
配列番号43:A血清型FMDV VP1タンパク質の残基141〜160のアミノ酸配列;
配列番号44:A血清型FMDV VP1タンパク質の残基200〜213のアミノ酸配列;
配列番号45:「3A−IGC」によってコードされる、実施例中で使用される組換えタンパク質のアミノ酸配列;
配列番号46:実施例中で使用される本発明の組換えタンパク質をコードするDNA配列(「3A−IGC」);
配列番号47:「3A−IGCD」によってコードされる、実施例中で使用される組換えタンパク質のアミノ酸配列;及び
配列番号48:実施例中で使用される本発明の組換えタンパク質をコードするDNA配列(「3A−IGCD」)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N末端からC末端に、
口蹄疫ウイルスカプシドタンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピート、
免疫グロブリン重鎖の定常領域若しくはその機能性断片、及び
口蹄疫ウイルス3Dタンパク質若しくはその免疫原性断片
を含む組換えタンパク質を含む、動物において口蹄疫ウイルスに対する特異的免疫応答を誘導するためのワクチン組成物。
【請求項2】
(i)N末端からC末端に、
口蹄疫ウイルスカプシドタンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピート、及び
免疫グロブリン重鎖の定常領域若しくはその機能性断片
を含む組換えタンパク質と、
(ii)口蹄疫ウイルス3Dタンパク質若しくはその免疫原性断片と
を含む、動物において口蹄疫ウイルスに対する特異的免疫応答を誘導するためのワクチン組成物。
【請求項3】
組換えタンパク質が、前記抗原性エピトープの2、3、4、又は5回のタンデムリピートを含む、請求項1又は2に記載のワクチン組成物。
【請求項4】
前記抗原性エピトープが、ペプチドリンカーを介して互いに連結されている、及び/又は、前記抗原性エピトープのタンデムリピートが、ペプチドリンカーを介して免疫グロブリン重鎖の定常領域に連結されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
前記抗原性エピトープが口蹄疫ウイルスカプシドタンパク質に由来する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項6】
前記口蹄疫ウイルスカプシドタンパク質がVP1タンパク質である、請求項5に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
前記VP1タンパク質の抗原性エピトープが、配列番号9、配列番号10、配列番号25、配列番号26、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号43、及び配列番号44からなる群から選択される1つ又は複数のアミノ酸配列を含む、請求項6に記載のワクチン組成物。
【請求項8】
前記タンデムリピートが、2つのVP1タンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピートであり、ここで、第1の及び第2の抗原性エピトープのアミノ酸配列がそれぞれ配列番号9及び配列番号10、配列番号25及び配列番号26、又は、配列番号43及び配列番号44であり、或いは、前記タンデムリピートが、3つのVP1タンパク質の抗原性エピトープのタンデムリピートであり、ここで、第1、第2及び第3のタンデムリピートのアミノ酸配列がそれぞれ配列番号32、配列番号33及び配列番号34である、請求項6に記載のワクチン組成物。
【請求項9】
前記ペプチドリンカーが、配列番号11、配列番号12、及び配列番号27からなる群から選択される、請求項4〜8のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項10】
免疫グロブリン重鎖の前記定常領域が前記動物と同じ種に由来する、請求項1〜9のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項11】
免疫グロブリン重鎖の前記定常領域が、配列番号4又は配列番号37のアミノ酸配列を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項12】
前記口蹄疫ウイルス3Dタンパク質が配列番号6のアミノ酸配列を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載のワクチン組成物。
【請求項13】
前記組換えタンパク質が、配列番号8、配列番号30、配列番号41、及び配列番号47からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項14】
前記組換えタンパク質が、配列番号13、配列番号28、配列番号39及び配列番号45からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項2に記載のワクチン組成物。
【請求項15】
前記動物がブタ、ウシ、又はヒツジである、請求項1又は2に記載のワクチン組成物。
【請求項16】
薬学的に許容され得る担体及び/又はアジュバントをさらに含む、請求項1又は2に記載のワクチン組成物。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載のワクチン組成物中に含まれる組換えタンパク質をコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項18】
配列番号7、配列番号14、配列番号29、配列番号31、配列番号40、配列番号42、配列番号46、及び配列番号48からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項16に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項19】
請求項17又は18に記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む、単離された組換えタンパク質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−506242(P2012−506242A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532486(P2011−532486)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【国際出願番号】PCT/CN2009/074585
【国際公開番号】WO2010/045881
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(511094624)レイ ヴァクシン リミテッド (1)
【Fターム(参考)】