説明

抗変性アルブミン抗体、当該抗体の製造方法、およびその利用

【課題】試料中に含まれる変性アルブミンを特異的に、簡便に、且つ高感度に検出するための変性アルブミンに特異的に結合する抗体、当該抗体の製造方法、およびその利用を提供する。
【解決手段】本発明に係る抗体は、変性アルブミンに特異的に結合し、且つ正常アルブミンおよび断片化された正常アルブミンには結合しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗変性アルブミン抗体、当該抗体の製造方法、およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、健康な個体では、アルブミンは断片化された状態で尿中に排出される。
【0003】
一方、腎疾患に起因して腎臓におけるアルブミンの分解能が低下すると、断片化されていない全長のアルブミン(以下、「インタクトアルブミン」と称する。)が尿中に排出されるようになる。このため、尿中への微量のインタクトアルブミンの排出は、腎疾患の早期マーカーとして利用されてきた。
【0004】
従来、尿中の微量のインタクトアルブミンを特異的に、簡便に、且つ高感度に検出する方法として、インタクトアルブミンに特異的に結合する抗体を用いて、ラジオイムノアッセイ(以下、「RIA」と略す)法、免疫比濁法、免疫ラテックス凝集法等の免疫法が用いられてきた。
【0005】
しかし、近年、尿中には、従来の免疫法で用いられる抗体が結合できるインタクトアルブミン(以下「正常アルブミン」と称する。)以外にも、従来の免疫法で用いられる抗体が結合できないインタクトアルブミン(以下「変性アルブミン」と称する。)が混在して排出されており、従来の免疫法では、変性アルブミンを含むインタクトアルブミンの全量を検出できないことが明らかになってきた。
【0006】
そこで、従来の免疫法に代わるインタクトアルブミンの検出方法として、特許文献1には、HPLC分析によって、変性アルブミンを含むインタクトインタクトアルブミンの全量を検出する方法が開示されている。そして、従来のRIA法では、尿へのインタクトアルブミンの排出が検出できないか、または20μg/mLより少ない量のインタクトアルブミンが排出されているとして、ノルモアルブミン尿性糖尿病であると診断された患者の尿についてHPLC分析を行った結果、インタクトアルブミンの明らかなピークが検出されたことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−533680号公報(2002年10月8日公表)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、HPLC分析を行なうための高価な装置が必要であること、および複雑な操作が必要であるために簡便ではないという課題を有している。
【0009】
そこで、上記課題を解決するために、変性アルブミンに特異的に結合する抗体を作製し、従来の免疫法と組み合わせることが類推される。しかし、アルブミンは、血清アルブミン等として生体内に広く分布するタンパク質であり、マウスに免疫をして抗体を作製すること自体困難である。また変性アルブミンは腎疾患患者の尿中に微量に存在する成分であるため、抗原の調製自体が困難である。それゆえ、これまで変性アルブミンに特異的に結合する抗体を得ることができなかった。たとえ、変性アルブミンを免疫して抗体を取得できたとしても、当該抗体が正常アルブミンにも結合する可能性がある。また仮に変性アルブミンに特異的に結合する抗体を取得できたとしても、変性アルブミンはアミノ酸が切断されている箇所や糖による修飾箇所が多種多様であるため、当該抗体がある一種の変性アルブミンと特異的に結合し得る抗体であったとしても、別の変性アルブミンと結合することができるとは限らない。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、試料中に含まれる変性アルブミンを特異的に、簡便に、且つ高感度に検出するための、変性アルブミンに特異的に結合する抗体、当該抗体の製造方法、およびその利用を提供することにある。特に、あらゆるタイプの変性アルブミンに特異的に結合する抗体を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明者等は、本発明者等によって開発されたニワトリ型モノクローナル抗体の産生方法(特開2005−278633号公報、国際公開第2006/093080号パンフレット等を参照のこと)に着目した。ニワトリは哺乳類と系統発生学的に離れているので、多くの哺乳類で保存されているタンパク質に対する特異的抗体を作製するために有用である。
【0012】
しかしながら、これまでに、ニワトリ型モノクローナル抗体として変性アルブミンに結合する抗体を得ようとする試みはない。また、他の方法によって変性アルブミンに特異的に結合する抗体が得られたという報告もない。従って、変性アルブミンに特異的に結合する抗体を作製することに本発明者等が初めて成功し、ここに開示するものである。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0013】
本発明に係る抗体は、変性アルブミンに特異的に結合し、且つ正常アルブミンおよび断片化された正常アルブミンには結合しないことを特徴としている。
【0014】
本発明に係る抗体は、下記の(a)および(b)の工程を含む方法によって得られた変性アルブミンをニワトリに免疫して得られた抗体であることが好ましい:
(a)変性アルブミンを含有する尿から、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去する工程;
(b)上記工程(a)で得られた試料からクロマトグラフィーにより変性アルブミンを得る工程。
【0015】
本発明に係る抗体は、下記の(a)〜(e)の工程を含む製造方法によって得られた抗体であることが好ましい:
(a)変性アルブミンを含有する尿から、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去する工程;
(b)上記工程(a)で得られた試料からクロマトグラフィーにより変性アルブミンを得る工程;
(c)上記工程(b)で得られた変性アルブミンをニワトリに免疫する工程;
(d)上記工程(c)で免疫したニワトリから変性アルブミンに特異的に結合するファージ抗体を得る工程;
(e)上記工程(d)で得られたファージ抗体のうち、正常アルブミンおよび断片化された正常アルブミンには結合しない抗体を選抜する工程。
【0016】
本発明に係る抗体では、上記クロマトグラフィーは、サイズ排除クロマトグラフィーであることが好ましい。
【0017】
本発明に係る抗体は、一本鎖可変領域断片または二価抗体であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る変性アルブミンに特異的に結合する抗体を製造する方法は、下記の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴としている:
(a)変性アルブミンを含有する尿から、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去する工程;
(b)上記工程(a)で得られた試料からクロマトグラフィーにより変性アルブミンを得る工程;
(c)上記工程(b)で得られた変性アルブミンをニワトリに免疫する工程;
(d)上記工程(c)で免疫したニワトリから変性アルブミンに特異的に結合する抗体を得る工程;
(e)上記工程(d)で得られた抗体のうち、正常アルブミンおよび断片化された正常アルブミンには結合しない抗体を選抜する工程。
【0019】
本発明に係る変性アルブミンに特異的に結合する抗体を製造する方法では、上記クロマトグラフィーは、サイズ排除クロマトグラフィーであることが好ましい。
【0020】
本発明に係る変性アルブミンに特異的に結合する抗体を製造する方法では、上記抗体は、一本鎖可変領域断片または二価抗体であることが好ましい。
【0021】
本発明に係る変性アルブミンに特異的に結合する抗体を製造する方法では、下記の(d)および(e)の工程をさらに含むことが好ましい:
(d)上記免疫したニワトリから変性アルブミンに特異的に結合するファージ抗体を得る工程;
(e)上記工程(d)で得られたファージ抗体のうち、正常アルブミンおよび断片化された正常アルブミンには結合しない抗体を選抜する工程。
【0022】
本発明に係るキットは、試料中に含まれる変性アルブミンを検出するためのキットであって、本発明に係る抗体を備えていることを特徴としている。
【0023】
本発明に係る変性アルブミンを検出する方法は、本発明に係る抗体と、試料とを反応させる工程を含むことを特徴としている。
【0024】
本発明に係る変性アルブミンを検出する方法では、上記試料は、尿であることが好ましい。
【0025】
本発明に係る腎疾患の発症または発症の可能性を検出する方法は、本発明に係る抗体と、尿とを反応させる工程を含むことを特徴としている。
【0026】
また本発明は、下記の(a)および(b)の工程を含むことを特徴とする変性アルブミンの調製方法をも包含する:
(a)変性アルブミンを含有する尿から、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去する工程;
(b)上記工程(a)で得られた試料からクロマトグラフィーにより変性アルブミンを得る工程。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る抗体は、変性アルブミンに特異的に結合し、且つ正常アルブミンおよび断片化された正常アルブミンには結合しないという優れた効果を奏する。変性アルブミンは正常アルブミンが化学修飾されたり、正常アルブミンの分子内における任意の箇所が数箇所切断されたりして立体構造が変化したものであるので、変性アルブミンに結合する抗体は、正常アルブミンや断片化された正常アルブミンにも結合する可能性がある。尿中には変性アルブミン以外にも正常アルブミンや断片化された正常アルブミンも含まれるが、本発明に係る抗体を用いれば、尿中の変性アルブミンのみを極めて特異的に検出することができる。
【0028】
また、本発明に係る抗体は、あらゆるタイプの変性アルブミンに結合するという優れた効果を奏する。尿中に含まれる変性アルブミンには、様々なタイプの変性アルブミンが存在すると考えられている。また、患者によっても尿中に含まれる変性アルブミンのタイプは様々であると考えられている。本発明に係る抗体は、単一の抗体で、あらゆるタイプの変性アルブミンに特異的に結合可能であるという点で、非常に優れている。
【0029】
変性アルブミンは、腎疾患の比較的初期段階の患者の尿中に検出される。それゆえ変性アルブミンを特異的に検出することができれば、腎疾患の発症または発症の可能性をより早期に検出することが可能となる。
【0030】
本発明者等は、様々なタイプの変性アルブミンを含む抗原を尿から効率的に調製する方法を独自に考案し、この方法によって得られた抗原をニワトリに免疫することによって、あらゆるタイプの変性アルブミンに結合可能な抗体を得ることに成功した。通常、抗体を作製する際に用いられる抗原は、可能な限り、目的の物質のみを含むように精製される。これに対して本発明者らは様々なタイプの変性アルブミンを含む抗原を免疫することによって、本発明に係る抗体を取得するに至った。また、様々なタイプの変性アルブミンを含む抗原を尿から効率的に調製する方法を見出したことによって、本発明は完成するに至ったといっても過言でない。よって、本発明は当業者が容易に想到し得る程度のものでは決してない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ドットプロットの結果を表す図である。
【図2】Native−PAGEの結果を表す図である。
【図3】可溶型scFv抗体の反応性を確認したELISAの結果を表す図である。
【図4】ニワトリ型二価抗体の反応性を確認したELISAの結果を表す図である。(a)はM1−1クローン、(b)はM4−4クローン、(c)はM5−2クローン、(d)は2M7−2クローンの結果を表す。
【図5】ウエスタンブロットの結果を表す図である。
【図6】(a)正常アルブミンおよび(b)変性アルブミンの構造を模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、範囲を示す「A〜B」は、「A以上、B以下」であることを示す。
【0033】
〔1.本発明に係る抗体〕
本発明に係る抗体は、変性アルブミンに特異的に結合し、且つ正常アルブミンおよび断片化された正常アルブミンには結合しない抗体である。本明細書において、上記「抗体」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgY、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗イディオタイプ抗体、キメラ化抗体、ヒト化抗体等の二価抗体;一本鎖可変領域断片(single chain FV(scFv))等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0034】
ここで、上記「二価抗体」とは、1分子あたり抗原結合部位を2つ有する抗体、つまり、抗原との結合価が2価の抗体を意味する。上記「二価抗体」は、それぞれ相同な2本の軽鎖(軽鎖可変領域および軽鎖定常領域)および2本の重鎖(重鎖可変領域および重鎖定常領域)とがジスルフィド結合(S−S結合)により結合した構造を有する抗体である。但し、完全長の抗体分子である必要はなく、2本の重鎖がS−S結合により結合することができる構造、すなわち少なくともF(ab’)フラグメントを有する構造であれば「二価抗体」の範疇に含まれる。
【0035】
また、上記「一本鎖可変領域断片」とは、軽鎖可変領域と重鎖可変領域がリンカーによってつながれ、2種類の可変領域が接近することよって、1つの抗原結合部位を形成した抗体を意味する。上記「一本鎖可変領域断片」は、1分子あたり1つの抗原結合部位を有する抗体である。例えば、ファージディスプレイ法によって得られる抗体を指す。
【0036】
また、本明細書中において、上記「正常アルブミン」とは、インタクトアルブミンに対する抗体(デンカ生研社製、製品名:ALB−TIA「生研」R2)が結合可能であるアルブミンを意味している。一方、上記「変性アルブミン」とは、インタクトアルブミンに対する抗体(デンカ生研社製、製品名:ALB−TIA「生研」R2)が結合しないアルブミンを意味している。また、上記「断片化された正常アルブミン」とは、健康な個体の尿中に排出される、プロテアーゼによって断片化された正常アルブミンを意味している。
【0037】
ここで、上記「変性アルブミン」について図6を参照しながら説明する。図6は、正常アルブミンおよび変性アルブミンの構造を模式的に表す図である。図6の(a)は正常アルブミンを表し、(b)は変性アルブミンを表している。図中の矢印は、変性アルブミンの分子内における切断部分を表している。変性アルブミンは、正常アルブミンと略同じ分子量を有している。しかし、図6に示すように、変性アルブミンは、正常アルブミンの分子内における任意の場所が数箇所切断されたものであり、正常アルブミンとは立体構造が異なる。またその切断箇所によって変性アルブミンは多種多様なものとなる。図6に示す他にも、変性アルブミンとしては、正常アルブミンに薬物やビリルビンが結合したもの、正常アルブミンが糖化やスルフォニル化されたもの、正常アルブミンの側鎖が切断されたものが存在することが知られている。
【0038】
上記「変性アルブミン」は、例えば(a)変性アルブミンを含有する尿から、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去する工程と、(b)上記工程(a)で得られた試料からクロマトグラフィーにより変性アルブミンを得る工程と、を含む方法によって取得し得る。
【0039】
変性アルブミンを含有する尿であるか否かについては、例えば、特許文献1に記載のHPLC法と従来法での測定値との差を用いて確認することができる。具体的には、特許文献1に記載のHPLC法によって変性アルブミンおよび/または正常アルブミンの濃度を測定した結果と、同じ試料について従来法によって正常アルブミンの濃度を測定した結果との差から試料中に含まれる変性アルブミンの濃度を確認することができる。変性アルブミンを含有する尿であれば、採取元の個体の性別、年齢、人種等は特に限定されない。
【0040】
また、変性アルブミンを含有する尿から正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去する方法としては、特に限定されるものではない。例えば、正常アルブミンに対する抗体を結合させたプロテインG−セファロースビーズおよびトランスフェリンに対する抗体を結合させたプロテインG−セファロースビーズを用いて抗体カラムを作製し、変性アルブミンを含有する尿を当該抗体カラムに通過させることによって、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去することができる。
【0041】
また、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去した試料からクロマトグラフィーにより変性アルブミンを得る方法としては、変性アルブミンを精製することができれば特に限定されない。例えば、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー等によって変性アルブミンを得ることができる。中でも、サイズ排除クロマトグラフィーを行なうことが好ましい。クロマトグラフィーの条件は、用いるカラムの種類、移動相の種類、流速、サンプルのアプライ量等に応じて適宜設定することができる。
【0042】
また、本発明に係る抗体は、例えば、(a)変性アルブミンを含有する尿から、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去する工程と、(b)上記工程(a)で得られた試料からクロマトグラフィーにより変性アルブミンを得る工程と、を含む方法によって得られた変性アルブミンをニワトリに免疫することによって製造することができる。尚、尿中には正常アルブミンおよびトランスフェリン以外の物質(但し、変性アルブミンは除く)も存在するため、これらの物質を除去する工程を含んでいてもよい。但し、尿から、少なくとも正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去すれば、後述する抗体の製造において、本発明に係る抗体を作製可能であると考えられる。かかる抗体の製造方法については、後述する「2.本発明に係る抗体の製造方法」において詳細に説明する。
【0043】
〔2.本発明に係る抗体の製造方法〕
本発明に係る抗体の製造方法は、変性アルブミンに特異的に結合する抗体を製造する方法であって、(a)変性アルブミンを含有する尿から、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去する工程と、(b)上記工程(a)で得られた試料からクロマトグラフィーにより変性アルブミンを得る工程と、(c)上記工程(b)で得られた変性アルブミンをニワトリに免疫する工程と、(d)上記工程(c)で免疫したニワトリから変性アルブミンに特異的に結合する抗体を得る工程と、(e)上記工程(d)で得られた抗体のうち、正常アルブミンおよび断片化された正常アルブミンには結合しない抗体を選抜する工程と、を含むことを特徴としている。上記「抗体」は、一本鎖可変領域断片または二価抗体であることが好ましい。以下に、それぞれの工程について説明する。
【0044】
(2−1.工程(a))
工程(a)は、変性アルブミンを含有する尿から、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去する工程である。変性アルブミンを含有する尿であるか否かを確認する方法については、上記の「1.本発明に係る抗体」で説明したとおりである。変性アルブミンを含有する尿であれば、採取元の個体の性別、年齢、人種等は特に限定されない。
【0045】
また、変性アルブミンを含有する尿から正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去する方法としては、特に限定されるものではない。例えば、正常アルブミンに対する抗体を結合させたプロテインG−セファロースビーズおよびトランスフェリンに対する抗体を結合させたプロテインG−セファロースビーズを用いて抗体カラムを作製し、変性アルブミンを含有する尿を当該抗体カラムに通過させることによって、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去することができる。
【0046】
(2−2.工程(b))
工程(b)は、上記工程(a)で得られた試料からクロマトグラフィーにより変性アルブミンを得る工程である。正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去した試料からクロマトグラフィーにより変性アルブミンを得る方法としては、変性アルブミンを精製することができれば特に限定されない。例えば、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー等によって変性アルブミンを得ることができる。中でも、サイズ排除クロマトグラフィーを行なうことが好ましい。クロマトグラフィーの条件は、用いるカラムの種類、移動相の種類、流速、サンプルのアプライ量等に応じて適宜設定することができる。
【0047】
(2−3.工程(c))
工程(c)は、上記工程(b)で得られた変性アルブミンをニワトリに免疫する工程である。変性アルブミンをニワトリに投与する方法は特に限定されない。例えば、変性アルブミンを腹腔内に投与してもよいし、変性アルブミンを静脈内に投与してもよい。また、変性アルブミンの免疫原性を高める観点から、初回免疫は、変性アルブミンと免疫賦活剤とを等量混合して投与することが好ましい。上記「免疫賦活剤」としては、例えば、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムゲルアジュバント等のこの分野で通常用いられるものを利用することができる。
【0048】
変性アルブミンを投与する間隔としては、例えば、初回免疫後4週間後に追加免疫(2次免疫)を行ない、さらに3週間後に追加免疫(3次免疫)を行なうことができる。血清の上昇が認められない場合は、さらに3〜4週間後に追加免疫を行なうことができる。
【0049】
(2−4.工程(d))
工程(d)は、上記工程(c)で免疫したニワトリから変性アルブミンに特異的に結合する抗体を得る工程である。変性アルブミンに特異的に結合する抗体を得る方法は特に限定されない。例えば、モノクローナル抗体を作製する方法(特開2005−278633号公報の記載を参照)、ファージディスプレイ法によりニワトリ型ファージ抗体を作製する方法(特許3908257号公報の記載を参照)等によって製造することができる。後述する実施例では、簡便且つ効率よく抗体を製造できることから、ファージディスプレイ法を用いている。
【0050】
ここで、一例として、ファージディスプレイ法を用いて変性アルブミンに特異的に結合するファージ抗体を得る方法について説明する。
【0051】
ファージディスプレイ法では、まず、上記工程(f)で免疫したニワトリから脾臓を摘出し、当該脾臓からRNAを抽出する。得られたRNAを鋳型としてRT−PCRを行ない、ニワトリ抗体の、様々なVH領域とVL領域の遺伝子を含むcDNAを回収する。
【0052】
次いで、得られたVH領域とVL領域の遺伝子の複数の組合せを、リンカー((GGGGS))をコードする遺伝子およびスペーサー(Asp−Val)をコードする遺伝子を介して結合させ、scFv遺伝子を構築する。
【0053】
次いで、ニワトリのCλと、g3p遺伝子とを組み込んだプラスミドに、得られたscFv遺伝子を導入し、ファージミドベクターを作製する。
【0054】
次いで、作製したファージミドベクターを宿主(例えば、大腸菌等)に形質転換する。
【0055】
次いで、ファージミドベクターを形質転換した大腸菌にさらにヘルパーファージを感染させる。このようにして得られた大腸菌を培養すればscFvを発現するファージを得ることができる。
【0056】
これらの複数のファージ抗体(ファージ抗体ライブラリー)の中から変性アルブミンに特異的に結合する抗体を選抜する方法として、例えば、パニング選択を行なうことができる。
【0057】
上記「パニング選択」の方法としては特に限定されないが、例えば、変性アルブミンをイムノモジュールプレートに固定化し、固定化した変性アルブミンにファージ抗体群を反応させ、結合しなかったファージを洗浄により除去し、変性アルブミンに結合したファージだけを溶出して大腸菌に感染させて増殖させるという操作を数回繰り返す方法がある。パニング選択を行なうことによって、変性アルブミンのみに特異的に結合するファージを濃縮することができる。
【0058】
(2−5.工程(e))
工程(e)は、上記工程(d)で得られた変性アルブミンに特異的に結合する抗体のうち、正常アルブミンおよび断片化された正常アルブミンには結合しない抗体をさらに選抜する工程である。
【0059】
選抜する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ELISA法、ウエスタンブロット法、フローサイトメトリー法等を行なうことができる。
【0060】
例えば、ELISA法を行なう場合は、固相抗原として正常アルブミンまたは断片化された正常アルブミンを用いて、上記パニング選択によって選抜されたファージ抗体について固相ELISAを行なうことによって、変性アルブミンに特異的に結合するが、正常アルブミンおよび断片化された正常アルブミンには結合しない抗体を、さらに選抜することができる。
【0061】
本発明に係る抗体の製造方法では、上記工程(a)〜(e)に加えて、得られたファージ抗体をもとにニワトリ型二価抗体を作製する工程(ニワトリ型二価抗体を作製する方法については、国際公開第2006/093080号パンフレットを参照のこと)や、ニワトリの天然抗体の可変領域を有するキメラ化抗体を作製する工程(キメラ化抗体を作製する方法については、特開2006−282521号公報および特開2005−245337号公報を参照のこと)や、ニワトリの天然抗体の抗原結合領域を有するヒト化抗体を作製する工程(ヒト化抗体を作製する方法については、特開2006-241026号公報を参照のこと)を含んでいてもよい。
【0062】
なお、本発明は下記の(a)および(b)の工程を含むことを特徴とする変性アルブミン抗原の調製方法をも包含する:
(a)変性アルブミンを含有する尿から、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去する工程;
(b)上記工程(a)で得られた試料からクロマトグラフィーにより変性アルブミンを得る工程。
【0063】
なお、(a)および(b)の工程の説明は上述の通りである。変性アルブミン抗原は、抗変性アルブミン抗体の製造に用いられる。
【0064】
〔3.本発明に係るキット〕
本発明に係るキットは、試料中に含まれる変性アルブミンを検出するためのキットであって、少なくとも本発明に係る抗体を備えている。本発明に係る抗体については、「1.本発明に係る抗体」で説明したとおりであるので、ここでは省略する。
【0065】
本発明に係るキットは、本発明に係る抗体以外にも、例えば、本発明に係る抗体を検出するための二次抗体、二次抗体に結合させた標識酵素の基質等を備えていてもよい。
【0066】
上記「二次抗体」としては、例えば、アルカリホスファターゼ標識抗IgY抗体、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗IgY抗体等を挙げることができる。なお、IgYとは、哺乳類のIgGに相当するニワトリの免疫グロブリンのことを指す。
【0067】
また、アルカリホスファターゼの基質としては、例えば、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)および5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスファターゼp−トルイジニル塩(BCIP)の混合基質等を挙げることができる。また、HRP検出用の基質としては、例えば、OPD(オルトフェニレンジアミン)、TMB(テトラメチルベンジジン)等を挙げることができる。
【0068】
また上記キットを構成する成分を格納するための1つ以上の容器(例えば、バイアル、管、アンプル、ビンなど)が含まれていてもよい。
【0069】
本発明に係るキットは、本発明に係る抗体を備えている。そのため、本発明のキットを用いれば、試料中、特に尿に含まれる変性アルブミンを特異的に、簡便に、且つ高感度に検出することができる。
【0070】
〔4.本発明に係る変性アルブミンを検出する方法〕
本発明に係る変性アルブミンを検出する方法は、試料中に含まれる変性アルブミンを検出する方法であって、本発明に係る抗体と、試料とを反応させる工程を含む。本発明に係る抗体については、「1.本発明に係る抗体」で説明したとおりであるので、ここでは省略する。上記「試料」としては、特に限定されるものではないが、尿であることが好ましい。
【0071】
本発明に係る変性アルブミンを検出する方法は、本発明に係る抗体と試料との反応性をELISA法等で検討することによって、試料中、特に被験体の尿中に変性アルブミンが含まれているか否かを判断することができる。
【0072】
本発明に係る抗体と、試料とを反応させる方法は特に限定されるものではなく、例えばELISA法、イムノクロマト法、免疫比濁法、ラテックス凝集法、RIA法、ウエスタンブロット法、ドットブロット法等の従来公知の方法を適宜選択の上、適用可能である。
【0073】
〔5.本発明に係る腎疾患の発症または発症の可能性を検出する方法〕
本発明に係る腎疾患の発症または発症の可能性を検出する方法は、本発明に係る抗体と、尿とを反応させる工程を含む。本発明に係る抗体については、「1.本発明に係る抗体」で説明したとおりであるので、ここでは省略する。
【0074】
本発明に係る腎疾患の発症または発症の可能性を検出する方法は、本発明に係る抗体と尿との反応性をELISA法等で検討することによって、被験体の尿中に変性アルブミンが含まれているか否かを判断し、腎疾患の発症の可能性を検出することができる。特に変性アルブミンは、腎疾患の比較的初期段階の患者の尿中に検出される(特許文献1参照)。それゆえ変性アルブミンを特異的に検出することができれば、正常アルブミンの濃度測定結果をさらに考慮して、腎疾患の発症または発症の可能性をより早期に検出することが可能となる。
【0075】
具体的には、変性アルブミンの濃度がわかっている標準溶液を用いて検量線を作成し、本発明に係る抗体と尿との反応の強さから尿中に含まれる変性アルブミンの濃度を算出する。さらに別途で正常アルブミンの濃度を測定・算出する。そして、正常アルブミン及び変性アルブミンの総量を算出する。例えば、早朝随時尿中にアルブミンの総量が30mg/L〜300mg/Lの範囲で含まれている場合は微量アルブミン尿と診断され、300mg/L以上含まれる場合は蛋白尿と診断される。変性アルブミンは微量アルブミン尿と診断される患者に多く見られるが、従来法では変性アルブミンを検出できないために、多くの早期腎症患者の見逃しがあった。本発明に係る抗体を使用し、変性アルブミンを検出できるようになれば、より早期に腎症患者の診断が可能となる。
【0076】
また、尿中に含まれる変性アルブミンの濃度を測定することによって、腎疾患の患者に施した治療効果を判定することもできる。
【0077】
本発明に係る抗体と、尿とを反応させる方法は特に限定されるものではなく、例えばELISA法、イムノクロマト法、免疫比濁法、ラテックス凝集法、RIA法、ウエスタンブロット法、ドットブロット法等の従来公知の方法を適宜選択の上、適用可能である。
【0078】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0080】
〔1.変性アルブミンの調製〕
(1)尿検体の再調製
特許文献1に記載のHPLC法を用いて、変性アルブミンが含まれていることを予め確認した尿検体200mLを準備した。まず、検体中に浮遊している未溶解物を溶解させた。具体的には、遠心装置KN−70(久保田製作所社製)を用い、約25℃、3,000rpm(1210×g)で10分間遠心分離を行ない、検体中に浮遊している未溶解物を沈殿させ、上清を回収した。沈殿物に1.5M Tris−HCl緩衝液(pH8.8)を20mL加え、沈殿を溶解させた後、回収した上清を再度混合させることにより220mLの尿検体を調製した。
【0081】
(2)検体の濃縮
次いで、後述する抗体カラムの通過を効率よく行なうために、濃縮器具を用いて上記「(1)尿検体の再調製」で調製した尿検体を濃縮した。濃縮器具は、アミコンウルトラ−15(MILLIPORE社製、24本入り、型番:UFC9 030 24)を用いた。濃縮中には、検体の量と同じ量の1.5M Tris−HCl緩衝液(pH8.8)を添加した。濃縮作業は2回行なった。最終的な検体量は5mLとした。
【0082】
(3)正常アルブミンおよびトランスフェリン除去用抗体カラムの作製
次いで、上記「(2)検体の濃縮」で得られた尿検体から正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去するための抗体カラムを作製した。
【0083】
まず、プロテインG−セファロースビーズの20%エタノール分散液(GEヘルスケア社製、製品名:Protein G Sepharose 4 Fast Flow)8mLを、遠心分離によって洗浄した。遠心分離の条件は、約25℃、3,000rpm、10分間とし、洗浄液は、5mLの20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を用いた。この洗浄作業は、20回繰り返した。洗浄後のG−セファロースビーズは、後述するカラムの作製に用いた。
【0084】
まず、洗浄液除去後のプロテインG−セファロースビーズに、正常アルブミン抗体液(デンカ生研社製、製品名:ALB−TIA「生研」R2)32mLを添加し、正常アルブミン抗体をプロテインG−セファロースビーズに結合させた(反応時間:3時間)。次いで、約25℃、2,000rpm、1分間の遠心分離を行ない、上清を除去した。さらに、10mLの20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を洗浄液とする遠心分離(遠心分離条件:約25℃、3,000rpm、10分間)を2回行なうことにより、正常アルブミン抗体結合ビーズを作製した。
【0085】
また、プロテインG−セファロースビーズに結合させる抗体として、トランスフェリン(DAKO社製、製品名:Polyclonal Rabbit Anti-Human Transferrin)1.6mLを用いた以外は、上述したアルブミン抗体結合ビーズの作製方法と同様にしてトランスフェリン抗体結合ビーズを作製した。
【0086】
次いで、カラム容器(BIORAD社製、製品名:エコノカラム)に、当該カラム容器の出口から順に抗体未結合G−セファロースビーズの層、トランスフェリン抗体結合ビーズの層、および正常アルブミン抗体結合ビーズの層を体積比が1:1:1となるように積層した。作製したカラムは、リン酸緩衝液(pH7.4)で洗浄した。
【0087】
(4)正常アルブミンおよびトランスフェリンの除去
次いで、上記「(3)正常アルブミンおよびトランスフェリン除去用抗体カラムの作製」で作製したカラムに、上記「(2)検体の濃縮」で調製した尿検体を通過させて、尿検体中に含まれる正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去した。
【0088】
次いで、カラム通過前後の尿検体中に含まれる正常アルブミンの濃度およびトランスフェリンの濃度を確認した。正常アルブミンの濃度は、デンカ生研社製のALB−TIA「生研」(製品名)を用いて、従来公知の免疫凝集法(TIA法)により評価した。また、トランスフェリンの濃度は、日東紡社製のN−アッセイLA Micro Tf ニットーボー(製品名)を用いて、従来公知のラテックス免疫凝集法により評価した。その結果を表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
表1に示されるように、抗体カラムを通過させることにより、尿検体中に含まれている正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去できたことを確認できた。
【0091】
(5)HPLC法による精製およびタンパク質の定量
次いで、上記「(4)正常アルブミンおよびトランスフェリンの除去」で得られた尿検体をHPLC法によってさらに精製した。具体的には、HPLCのカラムは、球状シリカ剤を充填したカラムを用い、移動相は、リン酸緩衝液(pH7.0)を用いた。尿検体のアプライ量100μL、流速0.5mL/minの条件で、アプライ開始から5分20秒から6分までの区画を約0.3mL回収した。この区画には、変性アルブミンが多く含まれていると推測された。この作業を180回行なうことにより、約50mLの精製尿検体を得た。得られた精製尿検体約50mL中に含まれるタンパク質量をHPLC法によって定量した。その結果、精製尿検体50mL中に含まれるタンパク質の総量は、3.16mgであった。
【0092】
(6)α2−グリコプロテイン量の測定
次いで、上記「(5)HPLC法による精製およびタンパク質の定量」で得られた精製尿検体における、変性アルブミン以外のタンパク質の含有量を測定した。具体的には、α2−グリコプロテインの量をELISA法により定量した。ELISA法は、ASSAYPRO社製のAssaymax Human alpha 2-HS-glycoprotein ELISA Kit(製品名)を用いて行った。
【0093】
その結果、精製尿検体におけるα2−グリコプロテインの含有比率は、タンパク全量に対して、約2.3%であった。この含有比率であれば、変性アルブミンに対する抗体を作製するための抗原として、この精製検体を十分用いることができると考えられた。
【0094】
(7)検体の純度確認
次いで、上記「(5)HPLC法による精製およびタンパク質の定量」で得られた精製尿検体に含まれる変性アルブミンの純度を確認した。具体的には、Native−PAGE法によって電気泳動を行った後に、メンブレンに転写を行ない、得られたメンブレンをCBB染色を行なうことにより確認した。転写は、BIORAD社製のTrans-BlotR SD Semi-Dry Electrophoretic Transfer Cell(製品名)を用いた。
【0095】
その結果を図2に示す。図2はNative−PAGE法の結果を表す図である。各レーンの詳細は以下に示すとおりである。
【0096】
レーン1:分子量マーカー(インビトロジェン社製、製品名:SeeBlue(R) Pre-Stained Standard) 5μL
レーン2:精製尿検体(0.5μg)
レーン3:正常アルブミン(和光純薬工業株式会社製、製品名:アルブミン、ヒト血清由来)(1.5μg)
レーン4:トランスフェリン(メルク社製、製品名:Apotransferrin)(1.5μg)
レーン5:α2−グリコプロテイン(SIGMA-ALDRICH社製、製品名:α2-hs-Glycoprotein from human plasma)(1.5μg)
レーン6:分子量マーカー(インビトロジェン社製、製品名:NativeMark Unstained Protein Standard) 5μL
図2に示されるように、アルブミンと同じの分子量付近に単一のバンドが確認された。このバンドは、分子量から変性アルブミンであると推測された。図2の結果から、精製尿検体に含まれる変性アルブミンの純度は比較的高いことが確認できた。
【0097】
〔2.ニワトリ型抗体の取得〕
(2−1)変性アルブミンの免疫
1ヶ月齢のニワトリ3羽(A、B、およびC)に一次免疫を行った。一次免疫は、1個体あたり185μgの変性アルブミンを免疫賦活剤(製品名:Alum、ナカライテスク社製)と共に腹腔内に投与した。
【0098】
一次免疫後4週間目に、抗体価の上昇が認められた個体2羽(BおよびC)について、さらに2次免疫を行った。二次免疫では、ニワトリBについては、1個体あたり140μgの変性アルブミンを腹腔内に投与した。一方、ニワトリCについては、1個体あたり140μgの変性アルブミンを静脈に投与した。
【0099】
次いで、一次免疫後7週間目に、ニワトリBおよびCについて、最終免疫を行った。最終免疫は、1個体あたり140μgの変性アルブミンを静脈に投与した。
【0100】
次いで、最終免疫後3日目に、最終血清・脾臓を回収した。回収した最終血清を用いてELISAを行った。その結果、変性アルブミンに対して最も強く反応し、且つ市販のヒト血清アルブミンに対してもやや反応性を示したニワトリBの脾臓を次の工程に用いた。
【0101】
(2−2)ニワトリ型ファージ抗体の作製
ニワトリ型ファージ抗体の作製は、特許3908257号公報に記載の方法に準じて行った。
【0102】
まず、ニワトリBの脾臓からRNAを抽出し、得られたRNAを鋳型としてRT−PCRを行ない、ニワトリ抗体の、様々なVH領域とVL領域の遺伝子を含むcDNAを回収した。
【0103】
次いで、得られたVH領域とVL領域の遺伝子の複数の組合せを、リンカー((GGGGS))をコードする遺伝子およびスペーサー(Asp−Val)をコードする遺伝子を介して結合させ、scFv遺伝子を構築した。
【0104】
次いで、ニワトリのCλと、gp3遺伝子を組み込んだプラスミド(pLPDS)に、得られたscFv遺伝子を導入し、ファージミドベクターを作製した。
【0105】
次いで、作製したファージミドベクターを大腸菌(製品名:XL1−Blue、STRATAGENE社製)に形質転換した。ファージミドベクターには、ファージ粒子を精製する遺伝子が揃っていないため、ヘルパーファージ(製品名:VCSM13、STRATAGENE社製)を同じ大腸菌に感染させた。この大腸菌を約30℃で培養し、scFvを発現するファージ抗体ライブラリー(以下、「免疫Lib.」と略す)を得た。
【0106】
次いで、変性アルブミンをイムノモジュールプレートに固相し、免疫Lib.のファージ抗体を反応させパニング選択を行ない、変性アルブミンに対する特異抗体を濃縮した。
【0107】
各パニングサイクルにおけるファージ抗体の反応性を抗原固相ELISAによって確認した。抗原固相ELISAの条件を以下に示す。
【0108】
<抗原固相ELISAの条件>
固相抗原:変性アルブミン、ヒト血清アルブミン(HSA)、25% Block Ace(陰性対照)、0.5% BSA(陰性対照)
一次反応:各パニングサイクル培養上清サンプル(ファージ抗体)、2×YT培地(陰性対照)、PBS(陰性対照)
二次反応:HRP標識 抗ニワトリIgG Fab
発色基質:OPD
発色時間:3分間(変性アルブミン)、10分間(対照抗原)。
【0109】
ELISAの結果、パニング選択により、2ndパニングから変性アルブミンに対する反応性が上昇していることが確認できたが、ヒト血清アルブミン(正常アルブミン)に対する反応性の上昇は認められなかった。
【0110】
次いで、ファージ抗体のクローニングを行った。具体的には、4thサイクルのパニング液を大腸菌に感染させ、プレートにプレーティングする事でクローニングを行った。
【0111】
得られたコロニーを189クローン選択し、培養した。得られた大腸菌の培養上清(ファージ抗体)を抗原固相ELISAに供与し、ファージ抗体の反応性を確認した。抗原固相ELISAの条件を以下に示す。
【0112】
<抗原固相ELISAの条件>
固相抗原:変性アルブミン、ビオチン化変性アルブミン、HSA、ビオチン化HSA、トランスフェリン、α2−グリコプロテイン、0.5% BSA(陰性対照)
一次反応:大腸菌の培養上清、免疫ニワトリ血清(×200)(陽性対照)、4thパニング液(陽性対照)、2×YT培地(陰性対照)、PBS(陰性対照)
二次反応:HRP標識 抗ニワトリIgG Fab
発色基質:OPD
発色時間:3分(変性アルブミン)、10分(ヒト血清アルブミン、トランスフェリン、α2−グリコプロテイン、25% Block Ace、0.5% BSA)
ELISAの結果、11クローンの反応性のあるクローンが得られた。これらの各クローンについてシーケンス解析を行ったところ、4クローン(クローン名:M1、M4、M5、2M7)に収束していた。
【0113】
これらの得られた4クローンについて、可溶型scFv抗体(培養上清)を調製した。具体的には、得られた4種類の陽性クローンをノンサプレッサー大腸菌であるSOLR株(Stratagene社製)に感染させることにより、可溶型scFv抗体発現クローンを得た。4種類の陽性クローンを各2コロニーずつ液体培養し、可溶型scFv抗体を含む培養上清を調製した(それぞれのクローン名に−1、−2とした)。この培養上清について冷蔵保存による反応性の低下がないか確認するため、4℃で20日間保存した後に、抗原固相ELISAにて反応性を確認した。抗原固相ELISAの条件を以下に示す。
【0114】
<抗原固相ELISAの条件>
固相抗原:変性アルブミン、ヒト血清アルブミン、トランスフェリン、α2−グリコプロテイン、断片化アルブミン(色素入り)、断片化アルブミン(尿素入り)、0.5% BSA(陰性対照)
一次反応:可溶型scFv抗体(培養上清)、免疫ニワトリ血清(×200)(陽性対照)、2×YT培地(陰性対照)、PBS(陰性対照)
二次反応:HRP標識 抗ニワトリIgY Fab
発色基質:OPD
発色時間:5分間
なお、固相抗原として用いた「断片化アルブミン」は、トリプシン処理によって調製したものを用いた。
【0115】
ELISAの結果を図3に示す。図3は、可溶型scFv抗体の反応性を確認したELISAの結果を表す図である。図3に示すように、冷蔵保存したほとんどのクローンおいて、変性アルブミンへの反応性を確認できた。これらのクローンは、血清アルブミン(正常アルブミン)および断片化アルブミンには反応せず、変性アルブミンに特異的な反応性を示すクローンであることが確認できた。
【0116】
クローン2M7−2からの培養上清は、対照抗原である断片化アルブミンやBSA、トランスフェリンに反応性を示した。しかしながら、別コロニーであるクローン2M7−1からの培養上清はこれらの抗原に対して反応性を示さなかったことから、クローン2M7−2からの培養上清の結果は、非特異的な反応を示していると予測される。
【0117】
取得した4種類すべてのファージ抗体は、血清アルブミン(正常アルブミン)には反応せず、変性アルブミンにのみ反応した。また可溶型scFv抗体を含む培養上清の大部分は、対照抗原のトランスフェリン、α2−グリコプロテイン、断片化アルブミン、およびネガティブコントロールのBSAには反応しなかった。
【0118】
以上の結果から、これらの得られたファージ抗体は、変性アルブミンのみを認識する抗体であり、正常アルブミンと変性アルブミンとの両方を認識する抗体は存在していないと考えられた。
【0119】
(2−3)ニワトリ型二価抗体の作製
上記「(2−2)ファージ抗体の作製」で得られた4種類の変性アルブミンに結合する可溶型scFv抗体について、組換えニワトリ型二価抗体を作製した。組換えニワトリ型二価抗体の作製は、国際公開第2006/093080号パンフレットに記載の方法に準じて行った。以下にクローン名M1−1についての一例を説明する。
【0120】
(i)軽鎖発現用遺伝子断片の構築
軽鎖遺伝子は、抗変性アルブミンファージ抗体M1−1の発現用プラスミドを鋳型としてPCRにより調製した。
【0121】
PCRは以下の条件にて行なった。PCR反応液の組成は、10×PCR buffer(東洋紡社製)5μL;2mM dNTP 5μL;25mM MgSO 3μL(final conc.1.5mM);プライマー(25μM)各1.5μL(final conc.0.75μM);鋳型DNA1μL;KOD−plus(東洋紡株式会社製)1μLであり、最終的に蒸留水で50μLにメスアップした。また反応は、(1)94℃、2分間;(2)94℃、15秒間;(3)62℃、30秒間;(4)68℃、1分間の条件で、(1)の後、(2)〜(4)を35サイクル行なった。
【0122】
また、軽鎖リーダー配列は、ニワトリゲノムを鋳型としてPCRにより調製した。
【0123】
PCRは以下の条件にて行なった。PCR反応液の組成は、10×PCR buffer(東洋紡社製)5μL;2mM dNTP 5μL;25mM MgSO 3.2μ
l(final conc.1.6mM);プライマー(10μM)各2.5μL(final conc.0.5μM);鋳型DNA1μL;KOD−plus(東洋紡株式会社製)1μLであり、最終的に蒸留水で50μLにメスアップした。また反応は、(1)94℃、2分間;(2)94℃、15秒間;(3)55℃、30秒間;(4)68℃、2分間の条件で、(1)の後、(2)〜(4)を30サイクル行なった。
【0124】
上記で取得した軽鎖遺伝子および軽鎖リーダー配列を鋳型としてPCRを行った。PCRの条件は、鋳型DNAとして上記の軽鎖遺伝子および軽鎖リーダー配列を反応液50μLあたり1.25μLずつ添加した以外は、上記(1)〜(4)の方法と同様に行った。
【0125】
上記PCRによって得られた増幅断片(約850bp)を、HindIII、XbaIで切断し、pcDNA3.1/myc−His(A)(Invitrogen社)のHindIII、XbaIサイトに挿入してpcCKL−M1−1を構築した。なお、pcCKL−M1−1についてはシークエンスにより変異が入っていないことを確認した。また、pcCKL−M1−1は、ネオマイシン耐性遺伝子、CMV(human cytomegalovirus:ヒトメガロウイルス)プロモーター、およびBGH(bovine growth hormone:ウシ成長ホルモン)ポリAシグナルを有する。なお、上記制限酵素消化は、10×NEB buffer2 10μL、DNA50μL、XbaI(New England Biolabs社製)5μL、100×BSA 1μL、HO34μLの反応液組成で、37℃、5時間反応を行なった。その後、エタノール沈澱を行ない、DNAを85μLに溶解し、10×NEB buffer2 10μL、HindIII(New England Biolabs社製)5μLの反応液組成で、37℃、16時間反応を行なった。
【0126】
(ii)重鎖発現用遺伝子断片の構築
重鎖可変領域遺伝子は、抗変性アルブミンファージ抗体M1−1の発現用プラスミドを鋳型としてPCRにより調製した。
【0127】
また、重鎖定常領域遺伝子(一部)は、ニワトリcDNAを鋳型としてPCRにより調製した。
【0128】
また、重鎖リーダー配列は、ニワトリゲノムを鋳型としてPCRにより調製した。PCRは、上記「(i)軽鎖発現用遺伝子断片の構築」と同じ条件で行った。
【0129】
上記で取得した重鎖可変領域遺伝子、重鎖定常領域遺伝子、および重鎖リーダー配列を鋳型としてPCRを行った。PCRは、上記「(i)軽鎖発現用遺伝子断片の構築」と同じ条件で行った。
【0130】
上記PCRによって得られた増幅断片(約1000bp)を、KpnI、HindIIIで切断し、pcCKH−2(その構築方法については国際公開第2006/093080号パンフレットの記載を参照)のKpnI−HindIIIサイトに挿入してpcDHF−M1−1を構築した。なお、pcDHF−M1−1についてはシークエンスにより変異が入っていないことを確認した。pcDHF−M1−1は、ゼオシン耐性遺伝子、CMV(human cytomegalovirus:ヒトメガロウイルス)プロモーター、およびBGH(bovine growth hormone:ウシ成長ホルモン)ポリAシグナルを有する。
【0131】
(iii)CHO細胞の形質転換
pcCKL−M1−1およびpcDHF−M1−1(各0.25μg)を、約1.2×10個のチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞((財)ヒューマンサイエンス振興財団)に、形質転換用試薬(製品名:PolyFect Transfection Reagent、Qiagen社製)を用いて形質転換した。形質転換の方法については、操作マニュアルにしたがって行なった。
【0132】
形質転換開始から72時間後、400μg/ml Geneticin(Sigma社製)と200μg/ml Zeocine(Invitrogen社製)とを含む培養培地10%FBS/F12を用いて上記薬剤に耐性を有する細胞を選抜した。薬剤選抜後の各クローンを、1ウェルあたりの細胞数を約0.5個にそろえて播種し、10%FBSを含むF12培地(GIBCO BRL社製)を用いて、5%CO、37℃の条件で9日間培養を行なった。培養後9日目に培養液上清を回収し、抗原固相ELISAにて変性アルブミンに対して特異性の高いクローンを選択した。
【0133】
上述したM1−1ファージ抗体クローンと同様に、M4−4、M5−2、および2M7−2ファージ抗体クローンについてもニワトリ型二価抗体を作製し、抗原固相ELISAにて変性アルブミンに対して特異性の高いクローンを選択した。抗原固相ELISAの条件を以下に示す。
【0134】
<抗原固相ELISAの条件>
固相抗原:変性アルブミン、ヒト血清アルブミン、トランスフェリン、α2−グリコプロテイン、断片化アルブミン(色素入り)、断片化アルブミン(尿素入り)、0.5% BSA(陰性対照)
一次反応:各クローンの培養上清、クローニング前の培養上清(陽性対照)、免疫ニワトリ血清(×200)(陽性対照)、10%FBS/F12培地(陰性対照)
二次反応:HRP標識 抗ニワトリIgG H+L
発色基質:OPD
発色時間:5分間(変性アルブミン)、10分間(変性アルブミン以外の抗原)
結果を図4に示す。図4は、ニワトリ型二価抗体の反応性を確認したELISAの結果を表す図である。図4の(a)はM1−1クローン、(b)はM4−4クローン、(c)はM5−2クローン、(d)は2M7−2クローンの結果を表す。図4(a)〜(d)に示すように、総てのクローンの培養上清で、クローニング前と比較して、変性アルブミンに対する反応性が上昇することを確認した。
【0135】
さらに、それぞれのニワトリ型二価抗体を発現するCHO細胞の培養上清1μLあたりの抗体の含有量をウエスタンブロットで確認した。陰性対照(N.C.)として形質転換をしていないCHO細胞の培養上清を用い、陽性対照(P.C.)として既知のIgY抗体を用いた。結果を図5に示す。図5は、ウエスタンブロットの結果を表す図である。図5中の矢印は、二価抗体の位置を表している。図5に示すように、それぞれのCHO細胞の培養上清中にニワトリ型二価抗体(IgY抗体)が存在することを確認した。
【0136】
〔3.抗体の評価〕
上記「2.ニワトリ型抗体の取得」で得られた抗体の反応性を従来公知のドットブロット法により評価した。抗原は、上記「1.変性アルブミンの調製」で精製した変性アルブミンを含有する精製尿検体(濃度:300、100、50、30、10mg/L)、および正常アルブミン(和光純薬工業株式会社製、濃度:300、100、50mg/L)を用いた。また、一次抗体としては、上記「2.ニワトリ型抗体の取得」で得られた抗体、またはビオチン標識正常アルブミン抗体(American-Qualex社製)を用いた。また、上記「2.ニワトリ型抗体の取得」で得られた抗体に対する二次抗体としては、アルカリホスファターゼ標識抗IgY抗体(SIGMA-ALDRICH社製、製品名:Anti-Chicken IgY (IgG) (whole molecule)-Alkaline Phosphatase antibody produced in rabbit)を用いた。一方、ビオチン標識正常アルブミン抗体に結合するための発色用酵素としては、ストレプトアビジン標識アルカリホスファターゼ(CEDARLANE LABORATORIES LTD社製、製品名:Streptavidin)を用いた。
【0137】
まず、メンブレン(BIORAD社製、製品名:Immun-BlotTMPVDFメンブレン)に下記のように各抗原5μLをそれぞれ滴下し、約25℃で1時間乾燥させた。
【0138】
レーン1:300mg/L 精製尿検体
レーン2:100mg/L 精製尿検体
レーン3:50mg/L 精製尿検体
レーン4:30mg/L 精製尿検体
レーン5:10mg/L 精製尿検体
レーン6:300mg/L 正常アルブミン
レーン7:100mg/L 正常アルブミン
レーン8:50mg/L 正常アルブミン
次にDSファーマ社製のブロックエース(製品名)を4%に調製したものをメンブレンに塗布し、塗布後1時間放置することによりブロッキング処理を行った。
【0139】
次いで、上記「2.ニワトリ型抗体の取得」で得られた抗体0.4mL、またはビオチン標識正常アルブミン抗体0.4mL(濃度:1.2mg/L)をメンブレンに塗布し、塗布後、約25度、1時間放置することにより一次抗体を反応させた。反応後、0.1%tween20(登録商標)含有リン酸緩衝液(pH7.4)で振とう洗浄を行った。メンブレンの洗浄は、合計3回行ない、1回目は15分間、2回目および3回目は5分間振とう洗浄を行った。
【0140】
次に、一次抗体として上記「2.ニワトリ型抗体の取得」で得られた抗体を反応させた場合は、二次抗体として、1000倍に希釈したアルカリホスファターゼ標識抗IgY抗体0.4mLをメンブレンに塗布し、塗布後、約25度、1時間放置することにより二次抗体を反応させた。
【0141】
一方、一次抗体としてビオチン標識正常アルブミン抗体を反応させた場合は、二次抗体の代わりに、ストレプトアビジン標識アルカリホスファターゼ0.4mL(濃度:50μg/L)をメンブレンに塗布し、塗布後、約25度、1時間放置することにより反応させた。
【0142】
反応後、0.1%tween20(登録商標)含有リン酸緩衝液(pH7.4)で振とう洗浄を行った。メンブレンの洗浄は、合計3回行ない、1回目は15分間、2回目および3回目は5分間振とう洗浄を行った。
【0143】
次いで、アルカリホスファターゼの基質としてニトロブルーテトラゾリウム(NBT)と5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスファターゼp−トルイジニル塩(BCIP)との混合液6mLをメンブレンに塗布し、塗布後、約25度、1時間放置することによりメンブレンを発色させた。発色反応終了後、精製水にて振とう洗浄を行った。
【0144】
その結果を図1に示す。図1は、ドットプロットの結果を表す図である。図1に示すように、上記「2.ニワトリ型抗体の取得」で得られた抗体は、いずれのクローンから得られた抗体であっても、変性アルブミンに結合可能であることを確認できた。これらの抗体は、正常アルブミンには結合しないことから、変性アルブミンに特異的に結合する抗体であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明に係る抗体は、変性アルブミンに特異的に結合する抗体である。従って、試料中、特に尿に含まれる変性アルブミンを特異的に、簡便に、且つ高感度に検出することができる。変性アルブミンの尿への排出は、腎疾患の早期マーカーとなりうるため、本発明によれば、腎疾患の発症または発症の可能性をより早期に検出することが可能である。従って、本発明は試薬、検査薬の分野において利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性アルブミンに特異的に結合し、
且つ正常アルブミンおよび断片化された正常アルブミンには結合しないことを特徴とする抗体。
【請求項2】
下記の(a)および(b)の工程を含む方法によって得られた変性アルブミンをニワトリに免疫して得られたことを特徴とする請求項1に記載の抗体:
(a)変性アルブミンを含有する尿から、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去する工程;
(b)上記工程(a)で得られた試料からクロマトグラフィーにより変性アルブミンを得る工程。
【請求項3】
下記の(a)〜(e)の工程を含む製造方法によって得られたことを特徴とする請求項1に記載の抗体:
(a)変性アルブミンを含有する尿から、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去する工程;
(b)上記工程(a)で得られた試料からクロマトグラフィーにより変性アルブミンを得る工程;
(c)上記工程(b)で得られた変性アルブミンをニワトリに免疫する工程;
(d)上記工程(c)で免疫したニワトリから変性アルブミンに特異的に結合するファージ抗体を得る工程;
(e)上記工程(d)で得られたファージ抗体のうち、正常アルブミンおよび断片化された正常アルブミンには結合しない抗体を選抜する工程。
【請求項4】
上記クロマトグラフィーは、サイズ排除クロマトグラフィーであることを特徴とする請求項2または3に記載の抗体。
【請求項5】
上記抗体は、一本鎖可変領域断片または二価抗体であることを特徴とする請求項1〜4に記載の抗体。
【請求項6】
変性アルブミンに特異的に結合する抗体を製造する方法であって、
下記の(a)〜(e)の工程を含むことを特徴とする上記方法:
(a)変性アルブミンを含有する尿から、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去する工程;
(b)上記工程(a)で得られた試料からクロマトグラフィーにより変性アルブミンを得る工程;
(c)上記工程(b)で得られた変性アルブミンをニワトリに免疫する工程;
(d)上記工程(c)で免疫したニワトリから変性アルブミンに特異的に結合する抗体を得る工程;
(e)上記工程(d)で得られた抗体のうち、正常アルブミンおよび断片化された正常アルブミンには結合しない抗体を選抜する工程。
【請求項7】
上記クロマトグラフィーは、サイズ排除クロマトグラフィーであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記抗体は、一本鎖可変領域断片または二価抗体であることを特徴とする請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
試料中に含まれる変性アルブミンを検出するためのキットであって、
請求項1から5のいずれか1項に記載の抗体を備えていることを特徴とする上記キット。
【請求項10】
試料中に含まれる変性アルブミンを検出する方法であって、
請求項1から5のいずれか1項に記載の抗体と、試料とを反応させる工程を含むことを特徴とする上記方法。
【請求項11】
上記試料は、尿であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
腎疾患の発症または発症の可能性を検出する方法であって、
請求項1から5のいずれか1項に記載の抗体と、尿とを反応させる工程を含むことを特徴とする上記方法。
【請求項13】
下記の(a)および(b)の工程を含むことを特徴とする変性アルブミン抗原の調製方法:
(a)変性アルブミンを含有する尿から、正常アルブミンおよびトランスフェリンを除去する工程;
(b)上記工程(a)で得られた試料からクロマトグラフィーにより変性アルブミンを得る工程。

【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−26239(P2011−26239A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173259(P2009−173259)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(509021889)株式会社広島バイオメディカル (2)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】