抗炎症作用を有する融合タンパク質
本発明は、アテローム性動脈硬化のような慢性血管障害に対して、治療および診断への適応の可能性を有する融合タンパク質、前記融合タンパク質をコードする核酸分子、前記融合タンパク質または核酸分子を含む医薬用および診断用の組成物、医薬用および診断用の組成物の製造のための前記融合タンパク質または核酸分子の使用、急性または慢性血管障害の診断方法、ならびに前記融合タンパク質の製造方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アテローム性動脈硬化のような慢性血管障害に対して、治療および診断への適応の可能性を有する融合タンパク質、前記融合タンパク質をコードする核酸分子、前記融合タンパク質または核酸分子を含む医薬用および診断用の組成物、医薬用または診断用の組成物の製造のための前記融合タンパク質または核酸分子の使用、急性または慢性血管障害の診断方法、ならびに前記融合タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アテローム性動脈硬化は、患者の血液運搬を担う血管の壁で起こる炎症反応を中心とした、非常に複雑な進行性の病的過程である。アテローム性動脈硬化(いわゆるアテローム発生)の進行は、いくつかの段階に分けることができる。
【0003】
アテローム発生の初期段階は、いわゆる内皮細胞の機能不全を特徴とする。喫煙、過体重、運動不足、高脂血症やII型糖尿病などの多くの様々な危険因子だけでなく、現在のところ未確認の様々な危険因子が、内皮損傷の原因になっている。これによって、血漿中のリポタンパク質および他の循環物質に対する内皮の透過性が増加する。その結果、内皮細胞が活性化し、細胞表面上で、いわゆる接着分子の発現が増大する。中でも特に、いわゆるセレクチンを介して、単球やTリンパ球のような特定の血球と内皮との一時的な接触がまず始めに起こる。そして、別の種類の接着分子(いわゆる細胞接着分子(CAM))によって、これらの細胞が血管壁に強固に付着する。
特に血管の分岐部(アテローム性動脈硬化の病変が高頻度に発症する部位)においては、機械力も補足的な役割を果たす。剪断力の増加により、内皮由来の窒素(NO)の産生が減少する可能性がある。NOは、血管拡張剤として働き、抗炎症作用を有する。また、剪断力が増加すると、上記のような結果をもたらす接着分子の産生も増加する。
【0004】
更に続いて、内膜下の空間に、特に単球が浸潤し、単球ほど多くはないが、Tリンパ球も浸潤する。例えば、ケモカイン単球遊走因子(MCP−1)などの別の種類の分子を介して、このような浸潤が起こる。そして、内膜下の空間において、単球がマクロファージへと分化する。
【0005】
さらに、傷害を受けた内皮で、低密度リポタンパク質(LDL)が酸化し、酸化LDL(oxLDL)が形成される。酸化LDLは、内膜下の空間へ分泌され、単球から分化したマクロファージに取り込まれる。酸化LDLの取り込みによって、このマクロファージは、アテローム斑に特徴的に見られる細胞、いわゆる泡沫細胞に変化する。さらに、アテローム斑には、Tリンパ球と中膜から遊走した平滑筋細胞が含まれる。
【0006】
このようなアテローム斑は、動脈壁に堆積し、平滑筋細胞と細胞間マトリックスから成る繊維性被膜が覆って安定化している。アテローム斑は、サイトカイン、ケモカイン、プロテアーゼなどの様々な炎症メディエータ産生をもたらす炎症反応の中心地である。このことから、近傍の炭酸カルシウムが沈着(石灰化)した組織は壊死する可能性がある。それによって、血管内腔は狭窄し、完全閉塞に至って血流が妨げられる可能性がある。
【0007】
平滑筋細胞による細胞間マトリックスの形成が減少し、分解酵素によってますます細胞間マトリックスが分解されると、繊維性被膜が薄くなり、アテローム斑が不安定になる。このアテローム斑は、破裂する可能性があり、破裂すると、血管壁内に存在する凝固作用を有する脂質コアおよびコラーゲンが放出される。この結果、閉塞性および非閉塞性血栓形成につながる止血システムの活性化、つまり、いわゆる組織因子(TF)が中心的な役割を果たす凝固カスケードの活性化が起こる。血栓形成を伴うアテローム斑の破裂は、臨床症状として、不安定狭心症または急性心筋梗塞という形で現れる。
【0008】
現在、アテローム性動脈硬化の治療には、通常、脂質低下薬またはスタチン類をそれぞれ適用している。これらは、最終的に内因性のコレステロール生合成を抑制する活性物質群に属する。スタチン類に属する物質としては、とりわけアトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン(メビノリン)、メバスタチン(コンパクチン)、プラバスタチンおよびシンバスタチンが挙げられる。これらの物質は、例えば、コレステロール生合成の主要酵素(3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−CoA−還元酵素)の拮抗的阻害、肝臓中のコレステロール生合成の低下、肝細胞上のLDLレセプターの増強、およびリポタンパク質組成の変換など様々な方法によって、脂質代謝に影響を与える。スタチン類は、血清脂質の組成に大きな影響を与え、とりわけ、いわゆる「高密度リポ蛋白質」(HDL)の濃度をわずかに増加させるとともに、LDL濃度を強力に減少させる。最終的に、スタチン類の作用によって、血液中に循環する脂肪の量が減少する。その結果、アテローム斑に蓄積される脂肪が減少し、それによって血栓症の危険性、および血栓症に伴う危険性が低減する。
【0009】
スタチン類は、他にも多くの優れた特性を有するが、服用に関して、筋肉や腎臓に対してまれではあるが重大な副作用があるという情報がずいぶん集積されてきたため、批判を受けた。このような理由から、特に活性物質セリバスタチン(例えばLipobay(登録商標)、Zenas(登録商標))が、2001年8月にドイツの市場から全回収された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような背景から、本発明の基礎となる目的は、アテローム性動脈硬化またはアテローム斑のような急性または慢性血管障害の治療および診断に関して、治療および診断への適応の可能性を有する新規物質であって、公知の脂質低下薬に関する前述の短所を大幅に軽減、あるいは回避することができる新規物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(a)変性LDLに特異的に結合する第1のポリペプチド、および(b)二量化を媒介する第2のポリペプチドを含む融合タンパク質を提供することによって、この目的を達成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明において、融合タンパク質とは、当技術分野で公知の分子生物学的方法によって、in vitroおよびin vivoで生成可能なハイブリッドタンパク質または人工タンパク質を意味する。この目的のために、本発明においては、融合タンパク質をコードする一般的な発現ベクターを用いるのが好ましい。この発現ベクターを、最終的に融合タンパク質を生成する適当な細胞に導入する。
【0013】
変性低密度リポタンパク質(変性LDL)に対して、親和性が高く、選択的に結合できる二次あるいは三次構造が形成されるように、適当なアミノ酸配列を選ぶことによって、第1のポリペプチドを設計する。これは、タンパク質合成の分野に精通している化学者にとっては容易である。というのも、変性LDLの三次元構造は、当技術分野においては公知だからである。
2つの別個のタンパク質またはサブユニットタンパク質の二量化の媒介に関与するタンパク質のセグメントが含まれるように、アミノ酸配列を考慮して、第2のポリペプチドを設計する。多くのタンパク質のペプチド二量体構造に関するアミノ酸配列などの微構造は、当技術分野において詳細な記載があるため、この設計も、当業者にとっては容易である。
配列や構造が知られている公知の二量体形成タンパク質としては、Gタンパク質、ヒストン、インターフェロン、インターロイキン2受容体、hsp90、チロシンキナーゼ、IgG分子などが挙げられる。上記のタンパク質内の二量化を媒介するドメインは、それぞれ本発明の融合タンパク質の製造に直接用いることができる。しかしながら、融合タンパク質の生成量を上げるために、標的遺伝子突然変異や、C末端および/またはN末端に特定のアミノ酸を付加することによって、これらのドメインを修飾するのが好ましい。その結果、例えば融合タンパク質の免疫作用は低減するが、大方、二量化の機能を維持することができる。
【0014】
本発明において、変性LDLとは、アテローム発生下の損傷内皮で生じる変異体に対応する、化学的に修飾された低密度リポタンパク質を意味する。これには、酸化LDL(oxLDL)、アセチル化LDL(acLDL)、酵素による酸化LDL(eLDL)、および最小限に変性したLDL(mmLDL)が当てはまる。
【0015】
ここに、本発明の基礎となる目的が、完全に達成される。本発明者らは、本発明の融合タンパク質が、生体内へ適用された後、傷害を受けた血管野またはアテローム性動脈硬化を呈した血管野に、限定的に蓄積することが好ましいと認識している。その結果、起こり得る非特異的な全身性副作用を大幅に回避することができる。本発明の融合タンパク質は、変性LDLに対する高親和性により、変性LDLを吸着する。この作用は、第1のポリペプチドセグメントを介して起こる。さらに、融合タンパク質のモノマーでも、変性LDLを吸着できるが、第2のポリペプチドセグメントを介して、本発明の2つの融合タンパク質が二量化することによって、変性LDLへの親和性は何倍も高くなる。
【0016】
この二量化した複合体は、変性LDLおよびマクロファージの取り込みを不活化するため、後に続くマクロファージの泡沫細胞化を回避または大幅に軽減することができる。従って、初期段階でアテローム発生に治療介入することができる。アテローム斑の形成、および前述した生体に対する重大な副作用を顕著に抑制するだけでなく、恐らく予防することも可能である。
他の重要な利点は、融合タンパク質と変性LDLとの複合体が、完全にヒト由来であるため、免疫原性は低いということである。従って、「排除」に関わるいずれの炎症反応も、極めて軽度であるか、あるいはまったく起こらない。
【0017】
それゆえに、酸化LDL(oxLDL)に結合するように、第1のポリペプチドを設計することが好ましい。
【0018】
この場合、マクロファージの泡沫細胞化に決定的な役割を果たすLDL変異体と厳密に結合し、これを吸着するような融合タンパク質が提供されるという利点がある。
本発明のさらなる発展形態において、アテローム発生の主要因としての酸化LDLは、機能が低下するか、あるいは選択的に除去される。
【0019】
本発明のさらなる発展形態において、第1のポリペプチドは、スカベンジャー受容体CD68、好ましくはCD68の細胞外ドメイン、またはCD68のLDL結合機能を有するCD68の細胞外ドメインのフラグメントもしくは変異体を含む。
【0020】
この場合、第1のポリペプチドとして、変性LDL、とりわけ酸化LDLに対して、特に選択的な高親和性を有するポリペプチドが提供されるという利点がある。
macrosialinまたはgp110とも呼ばれるCD68は、単球または組織マクロファージで高レベルに発現している膜貫通型糖タンパク質である。そのアミノ酸配列とこれをコードするヌクレオチド配列は、当技術分野において開示されている。NCBI database accession No.AAB25811またはNP_001242(ヒト変異体のアミノ酸配列)、database accession No.NM_001251またはAAH15557(ヒト変異体mRNAのヌクレオチド配列)を参照のこと。すでに同定されているこのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列も、参照により本出願に援用する。
【0021】
CD68のヒト変異体は、分子量110kDで、354個のアミノ酸から成るタンパク質である。自身の細胞外ドメインを介して変性LDLに結合することができるため、CD68はいわゆるスカベンジャー受容体に属する。CD68は、もともと大リンパ球だけでなく、単球、マクロファージ、好中球および好塩基球の細胞表面上にも発現している。
【0022】
第1のポリペプチドは、CD68の完全なアミノ酸配列ではなく、CD68の細胞外ドメインを含んでいることがより好ましい。
【0023】
特にこの場合、本発明の融合タンパク質の機能に必要でないペプチドセグメントが割愛されるという利点がある。
本発明の融合タンパク質は、変性LDLへの親和性を失うことなく、サイズが縮小されている。これにより、本発明の融合タンパク質の可溶性は、顕著に上昇する。本発明者らは、CD68の細胞外ドメインが変性LDLへの結合に関与し、該ドメインがその結合に十分であるという科学上の発見を利用した。
ヒト変異体のCD68(NCBI accession No. AAH15557;Strausbergら)の細胞外ドメインは、全長タンパク質のほぼ22〜319位に相当するアミノ酸残基を含む。mRNAレベルでは、66〜960位のヌクレオチドに相当する。当然のことながら、1つ1つのアミノ酸残基またはヌクレオチドに至るまで限定することは、本質的に不可能である。
【0024】
本発明の機能を実現するために、融合タンパク質が、必ずしもCD68もしくはCD68の細胞外ドメインの全長のアミノ酸配列またはそれらと同一のアミノ酸配列を含む必要がないことは、当業者であれば、当然理解できるだろう。逆に、第1のポリペプチドが、サイズは縮小されていてもCD68のLDL結合機能を発揮するCD68もしくはCD68の細胞外ドメインのセグメントまたは配列変異体を含むならば、この場合も、本発明の融合タンパク質の機能は果たされる。
タンパク質原性アミノ酸は、極性、無極性、酸性および塩基性アミノ酸の4つのグループに分類できることが知られている。極性アミノ酸を他の極性アミノ酸に置換(例えばセリンをグリシンに置換)しても、概して生物活性に変化がなく、あるいはあっても些細なものである。すなわち、このようなアミノ酸の置換は、本発明の融合タンパク質の機能にほとんど影響を及ぼさない。
このような背景から、本発明は、上記のカテゴリーの1つに属するアミノ酸のうちの1つまたは複数個のアミノ酸が同じカテゴリーの別のアミノ酸で置換されているCD68またはその細胞外ドメインの変異体を第1のポリペプチドとして含む融合タンパク質も包含する。このような配列変異体は、CD68またはCD68の細胞外ドメインのアミノ酸配列と、それぞれ好ましくは約70%、より好ましくは約80%、非常に好ましくは約90〜95%の相同性を有している。
【0025】
第2のポリペプチドは、免疫グロブリンのFcドメイン、またはFcドメインの二量化機能を有する該Fcドメインのフラグメントもしくは変異体を含むことが好ましい。
【0026】
これにより、本発明の融合タンパク質が、2つの該融合タンパク質モノマーの二量化に十分なペプチドセグメントを含むことだけは有利な方法で確実となる。
「Fc」は「結晶化可能なフラグメント」を意味する。このフラグメントや2つのFabフラグメントは、IgG分子のパパイン消化によって生じる。Fcドメインは、ヒンジ領域を含む一対のCH2およびCH3ドメインから成り、免疫グロブリンの二量化機能に関与する部分を含む。
さらに、当然のことながら、Fcドメインのフラグメントまたは変異体が、それぞれサイズは縮小されていても抗体の二量化機能を有する限り、この場合も、本発明の融合タンパク質の機能を失わずに、該フラグメントまたは変異体を用いることができる。上述の、CD68のフラグメントまたは変異体の説明(Fcのフラグメントまたは変異体の説明として準用可能)を参照のこと。
【0027】
本発明の好ましいさらなる発展形態において、Fcドメインの変異体は、補体およびFc受容体の結合領域に、本発明の融合タンパク質の免疫原性を減弱するような突然変異を含む。
【0028】
この場合、本発明の融合タンパク質の免疫寛容性がさらに高くなるという利点がある。
本発明者らの知見によれば、第2のポリペプチドは、免疫系を活性化するエフェクター機能がなくても、抗体のFcドメインが有する二量化機能さえ含んでいれば、本発明の融合タンパク質の機能としては十分である。したがって、例えば、免疫系の活性化を大幅に抑制するように、あるいは活性化が全く起こらないように、補体およびFc受容体の結合領域を変異させた合成Fcフラグメントも用いることができる。
【0029】
融合タンパク質は、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとを接続するエレメントを含むことが、更に好ましい。
【0030】
この場合、様々な発現ベクターによる本発明の融合タンパク質の生成を可能にするための構造上の前提条件が提供されるという利点がある。
いかなる組成のアミノ酸配列でも、接続エレメントを構成しうるが、1〜100個のアミノ酸を含んでいることが好ましい。2つのポリペプチドの連結による本発明の融合タンパク質の生成で生じたアミノ酸によっても、このような接続エレメントを実現できる。
【0031】
好ましい変異体において、本発明の融合タンパク質の第1のポリペプチドは、添付の配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む。
【0032】
これにより、変性LDLまたは酸化LDLに結合するポリペプチドが、それぞれ有利に提供される。配列番号1で示されるアミノ酸配列は、ヒトCD68タンパク質の細胞外ドメインのアミノ酸配列由来である。
【0033】
本発明の好ましいさらなる発展形態において、融合タンパク質は、添付の配列表の配列番号2または3で示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子によってコードされる第1のポリペプチドを含む。
【0034】
この場合、ヒトCD68タンパク質の細胞外ドメインのコード配列が、既に提供されているという利点がある。該コード配列は、発現ベクターへの導入後に、当技術分野で公知の方法により微生物を介して容易に生成できる。
配列番号2で示されるヌクレオチド配列は、ヒトCD68タンパク質変異体の細胞外ドメインをコードするヌクレオチド配列由来である。配列番号3で示されるヌクレオチド配列は、ヒトCD68タンパク質の細胞外ドメインにおいて、cag塩基トリプレットがaag塩基トリプレットで置換されている個体群に存在する多型を提供する。この多型の機能的な効果は、これまで知られていない。
【0035】
当然のことながら、配列番号2または3で示されるヌクレオチド配列だけでなく、その変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じポリペプチドをコードする変異体も、CD68タンパク質の細胞外ドメインの生成に適している。
アミノ酸の数よりも、それに対応するコドンの数が多いことから、遺伝コードが縮重していることが知られている。ほとんどのアミノ酸には、1つより多くのコドンが存在し、例えばアルギニン、ロイシンおよびセリンは最大6つのコドンによってコードされている。概して、コドンの3番目のヌクレオチドは部分的に、または完全に置換することができる。
このような背景から、遺伝コードの縮重により、配列番号2または3で示されるヌクレオチド配列とは個々のヌクレオチドは異なるが、同等にCD68タンパク質の細胞外ドメインをコードする核酸分子によって、第1のポリペプチドがコードされている融合タンパク質も提供する。このような変異体は、配列番号2または3で示されるヌクレオチド配列と、好ましくは約70%の相同性、より好ましくは約80%の相同性、非常に好ましくは約90〜95%の相同性を有する。
【0036】
第2のポリペプチドは、添付の配列表の配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0037】
これにより、ヒトIgG1変異体のFcフラグメント由来で、補体およびFc受容体の結合領域に免疫原性を減弱するような突然変異を含み、二量化を媒介する第2のポリペプチドが有利に提供される。
標的遺伝子突然変異によって、331位のプロリンをセリンに置換した。また、アミノ酸234〜237位のテトラペプチドLeu−Leu−Gly−GlyをAla−Ala−Ala−Alaに置換した。上記のペプチドを、ヒトIgG1のFcフラグメントの天然配列と比較して、より容易に発現させるために、CHO細胞用に、コドンに関してポリペプチドを最適化した。
【0038】
本発明のさらなる発展形態において、第2のポリペプチドは、添付の配列表の配列番号5で示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子によってコードされる。
【0039】
この場合、ヒトIgG1分子のFcドメイン由来である前述の第2のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、既に提供されているという利点がある。
発現ベクターへコード配列を導入し、当技術分野で公知の方法によって適当な細胞(例えばCHO細胞)を形質転換する。次いで、この細胞から目的の第2のポリペプチドを生成する。
当然のことながら、配列番号5で示されるヌクレオチド配列だけでなくその変異体も、第2のポリペプチドの生成に適している。遺伝コードの縮重により、配列番号5で示されるヌクレオチド配列とは個々のヌクレオチドは異なるが、同等に目的の第2のポリペプチドをコードする核酸分子も用いることができる。このような変異体は、配列番号5で示されるヌクレオチド配列と、好ましくは約70%の相同性、より好ましくは約80%の相同性、非常に好ましくは約90〜95%の相同性を有する。
【0040】
本発明の融合タンパク質は、添付の配列表の配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むことが、特に好ましい。
【0041】
これにより、好ましい本発明の融合タンパク質の全一次構造が既に提供されている。この一次構造は、直接ペプチド合成によって、あるいはコード配列への転写後に分子生物学的方法によって、狙い通りに容易に生成することができる。
配列番号6で示されるアミノ酸配列は、N末端にCD68の細胞外ドメインのセグメント、およびC末端にFcフラグメントのセグメントを含むだけではなく、FcフラグメントとCD68の細胞外ドメインとを接続する3つのアミノ酸から成る中間エレメントも含む。
当然のことながら、配列番号6で示されるアミノ酸配列においては、上述の通り本発明の融合タンパク質の機能にほとんど影響を与えずに、1つのカテゴリーに属する個々のアミノ酸を、同じカテゴリーの別のアミノ酸で置換することができる。
当然のことながら、配列番号6で示されるアミノ酸配列は、N末端および/またはC末端にアミノ酸をさらに含んでもよい。このアミノ酸は、単に、発現細胞において、融合タンパク質の発現量を上げ、分泌させるという理由から、あるいは単に構造上の理由から存在する。このようなアミノ酸としては、例えばヒトIgGκ鎖、またはマルチクローニングサイト(MCS)由来のものが挙げられる。
【0042】
本発明の融合タンパク質として、添付の配列表の配列番号7または8で示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子によってコードされるタンパク質を提供することがさらに好ましい。
【0043】
この場合、本発明の融合タンパク質の特に好ましい形態をコードするコード配列が、当業者に既に提供されているという利点がある。
配列番号7で示されるヌクレオチド配列は、CD68の細胞外ドメインと、Fcフラグメント由来の第2のポリペプチドとをコードするコード配列だけではなく、前述の接続エレメントをコードし、3つの塩基トリプレットから成る中間セグメントも含む。
配列番号7で示されるヌクレオチド配列のcag塩基トリプレットがaag塩基トリプレットで置換された配列番号8で示されるヌクレオチド配列は、CD68の細胞外ドメインにおける前述の多型を提供する。
当技術分野で周知の方法によって、本発明の核酸分子を、発現ベクターに導入することができる。次いで、それを用いて適当な生物細胞(例えばCHO細胞)を形質転換し、該細胞で目的の融合タンパク質を生成する。
当然のことながら、配列番号7または8で示されるヌクレオチド配列の代わりに、遺伝コードの縮重により、同じ融合タンパク質をコードするその変異体も用いることができる。
【0044】
本発明の好ましいさらなる発展形態において、本発明の融合タンパク質は、検出可能なマーカーを含む。
【0045】
この場合、融合タンパク質をin vitroおよびin vivoでの生成場所で、撮像法を利用して写すことができるという利点がある。したがって、例えばアテローム斑などの識別に特に適している。
本発明の検出可能なマーカーとは、撮像法を利用して識別することができる任意の構成要素を意味する。これには、AMPPD、CSPDのような蛍光、燐光または化学発光の特性を持つ着色剤を含む変色指示薬、32P、35S、125I、131I、14C、3Hのような放射性指示薬、およびビオチンまたはジゴキシゲニン、アルカリフォスファターゼ、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼなどのような非放射性指示薬が挙げられる。撮像法としては、マーカーの性質に応じて、オートラジオグラフィー、ブロッティング、ハイブリダイゼーションまたは顕微鏡を用いた手法が使用される。
【0046】
本発明の別の主題は、すでに同定されている本発明の融合タンパク質を含むホモダイマーに関する。
【0047】
本発明者らは、本発明の融合タンパク質の二量化によって、何倍も高い活性が得られることを認識している。このことは、次のような利点がある。例えば本発明の融合タンパク質をコードする発現ベクターによって形質転換されたCHO細胞株は、第2のポリペプチド領域(例えば、Fcドメイン領域)同士がジスルフィド結合で架橋されている2つの融合タンパク質を含有する可溶性の二量体を分泌する。その結果として、そのようなホモダイマーでは、モノマーに比べて、変性LDL、特に酸化LDLに対する親和性が、顕著に上昇することが判明した。
ホモダイマーを生体へ全身適用した後、ホモダイマーが急速にかつ特異的に、傷害を受けた血管野またはアテローム性動脈硬化を呈した血管野に限定的に蓄積すること、ならびにあらゆる非特異的な全身性副作用や血液中におけるホモダイマーの急速な分解を、大幅に回避できることを裏付ける証拠を、本発明者らは有している。さらに、本発明のホモダイマーは、生体中の天然のCD68受容体を不活性化また阻害することによって、マクロファージのLDL取込および泡沫細胞化をさらに防ぐことができるという証拠も、本発明者らは有している。
当技術分野においては、既にSR−A1のような他の可溶性スカベンジャー受容体で、そのような機構に関する記載がある。Gough et al. (2001), The use of human CD68 transcriptional regulatory sequences to direct high−level expression of class A scavenger receptor in macrophages in vitro and in vivo, Immunology 103, pages 351 to 361. を参照のこと。本発明者らは、in vitro共存培養アッセイにおいて、本発明のホモダイマーの濃度を上げて添加すると、泡沫細胞の形成を有意に抑制し、例えばMMP−9の分泌といった泡沫細胞のいくつかの機能も抑制可能であることを実証することができた。
【0048】
このような背景から、本発明による別の主題は、既に同定されている本発明の融合タンパク質をコードする核酸分子に関する。本発明の核酸分子は、(a)変性LDL、好ましくは酸化LDLに特異的に結合するポリペプチドをコードする第1の核酸配列、および(b)二量化を媒介するポリペプチドをコードする第2の核酸配列を含むことが好ましい。本発明の核酸分子は、添付の配列表の配列番号2もしくは3、配列番号5、または配列番号7もしくは8で示されるヌクレオチド配列を含むことが好ましい。あるいはそれらの変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じポリペプチドをコードする変異体を含むことも好ましい。
当然のことながら、本発明の核酸分子は、対応する形質転換細胞での発現または生成を可能にする、あるいは促進するヌクレオチドセグメントを、さらに含んでもよい。例えば、構造上の理由で、IgG分子のκ鎖のリーダーセグメント、およびそれに接続しているマルチクローニングサイト(MCS)由来アミノ酸を5’末端に配置してもよい。しかし、これらの配列は、翻訳産物では、全長のコンストラクトから切り離される可能性があるので、本発明の融合タンパク質に必ずしも存在するわけではない。
【0049】
本発明の別の主題は、本発明の融合タンパク質、本発明のホモダイマーおよび/または本発明の核酸分子に加えて、適用可能な場合、薬学的および/または診断的に許容される担体、ならびに適用可能な場合、薬学的および/または診断的に有効であるさらなる添加物を含む、医薬用および/または診断用の組成物に関する。
【0050】
診断的におよび薬学的に許容される担体、および任意のさらなる添加物は、一般に当技術分野で公知であり、例えばKibbe A., Handbook of Pharmaceutical Excipients, Third Edition, American Pharmaceutical Association and Pharmaceutical Press 2000の論文に記載されている。本発明において、添加物としては、本発明の組成物を診断用または治療用に使用する上で有利になるような任意の化合物または組成物が挙げられる。例えば、塩類、結合試薬、および製剤上のその他の物質などである。
【0051】
本発明の別の主題は、アテローム性動脈硬化、アテローム斑、心筋梗塞、卒中および末梢動脈閉塞性疾患(PAOD)を含む急性または慢性血管障害の治療および/または診断に用いる医薬用および/または診断用組成物を製造するための本発明の融合タンパク質、本発明のホモダイマーおよび/または本発明の核酸分子の使用に関する。
【0052】
前述の疾病の治療および/または診断に用いる医薬用および/または診断用組成物の製造方法において、本発明は、さらに実現される。該方法は、下記工程を含む。
(a)本発明の融合タンパク質、本発明のホモダイマーおよび/または本発明の核酸分子の調製、および(b)薬学的および/または診断的に許容される担体による製剤化、および適用可能な場合(c)薬学的および/または診断的に有効であるさらなる添加物の添加。
【0053】
本発明の別の主題は、生体における、アテローム性動脈硬化、アテローム斑、心筋梗塞、卒中およびPAODを含む急性または慢性血管障害の診断方法に関する。該方法は、下記工程を含む。
(1)検出可能なマーカーを含む本発明の融合タンパク質および/または本発明のホモダイマーの調製、(2)融合タンパク質および/またはホモダイマーの生体内への導入、および(3)ポジトロン放出断層撮影(PET)のような撮像法を利用した、生体内に特異的に蓄積した融合タンパク質の視覚化。
【0054】
本発明の融合タンパク質または本発明のホモダイマーは、選択的に蓄積するため、前記方法により、アテローム斑または高濃度の変性LDL(酸化LDLを含む)を検出することができる。これによって、関連の血管障害またはその兆候を、確実に診断することができる。これまでのところ、通常当技術分野で使用する血管造影法、造影剤の適用、および血管内腔サイズ測定では、アテローム斑の活性および安定性については、十分に知ることができていない。本発明は、有効な治療法を提供する。
【0055】
本発明の別の主題は、本発明の融合タンパク質の製造方法に関する。該方法は、下記工程を含む。
(1)変性LDL、好ましくは酸化LDLに特異的に結合するポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列の調製、(2)二量化を媒介するポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列の調製、(3)融合タンパク質をコードする融合配列を得るための、第1および第2のヌクレオチド配列の連結、(4)発現ベクターへの融合配列のクローニング、(5)発現に適した細胞への発現ベクターの導入、(6)細胞における融合タンパク質の発現、および(7)融合タンパク質の細胞からの単離。
【0056】
この方法によって、本発明のホモダイマーも製造することができる。なぜなら、工程(5)で形質転換された適切な細胞(例えばHEK、CHO細胞)は、工程(6)の発現後に、第2のポリペプチド間にジスルフィド架橋を含むホモダイマーを既に生成しているからである。このジスルフィド架橋によって、2つの本発明の融合タンパク質が互いに結合している。このホモダイマーは、細胞から細胞外の培地へ分泌される。
【0057】
当然のことながら、前述の特徴および下記の特徴は、それぞれ示した組み合わせだけでなく、本発明の範囲から逸脱することなく他の組み合わせでも、またはそれぞれ単独でも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
本発明を、実施例により詳細に説明するが、実施例は、単に例示的なもので、本発明の範囲を制限するものではない。以下の添付の図面を参照することとする。
【0059】
【図1】ウエスタンブロット解析による、二量化したCD68−Fc融合タンパク質の検出。
【図2】10日間の血小板との共存培養後における、CD34+幹細胞の泡沫細胞への分化。
【図3A】泡沫細胞によるアセチル化LDLの取り込み。
【図3B】CD68−Fcホモダイマーによる泡沫細胞の形成阻害。
【図4】漸増濃度のCD68−Fc存在下で培養した際の泡沫細胞の上清中におけるMMP−9の発現阻害。
【図5】アテローム斑に対するin vitroでのFc特異的ELISA。
【図6】アテローム性動脈硬化症ApoE−マウス、および野生型マウスに対するヨウ素−124標識CD68−Fcの生体内への適用。
【発明を実施するための形態】
【0060】
1. ヌクレオチドおよびアミノ酸配列
いずれの場合も、一般的な1文字コードを用いる。以下の表示において、アミノ酸配列は、左端にアミノ末端すなわち、N末端を有し、右端にカルボキシ末端すなわち、C末端を有する。ヌクレオチド配列は、左端に5’末端を有し、右端に3’末端を有する。
【0061】
1.1 多型1(グルタミン)を含むCD68の細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号1(表1))
【表1】
【0062】
1.2 CD68の細胞外ドメイン(多型1)をコードするヌクレオチド配列(配列番号2(表2))
【表2】
【0063】
多型1を太字で示す。
【0064】
1.3 CD68の細胞外ドメイン(多型2)をコードするヌクレオチド配列(配列番号3(表3))
【表3】
【0065】
多型2を太字で示す。
【0066】
1.4 Fcドメイン由来で、二量化を媒介する第2のポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号4(表4))
【表4】
【0067】
1.5 Fcドメイン由来で、二量化を媒介する第2のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列(配列番号5(表5))
【表5】
【0068】
1.6 接続エレメントを含むCD68−Fcコンストラクト全体のアミノ酸配列(配列番号6(表6))
【表6】
【0069】
接続エレメントを下線で示す。CD68の細胞外ドメインのセグメントは、接続エレメントの上流(N末端方向)に位置し、Fcドメイン由来で、二量化を媒介するポリペプチドのセグメントは、接続エレメントの下流(C末端方向)に位置する。
【0070】
1.7 接続エレメントを含むコンストラクト(多型1)全体をコードするヌクレオチド配列 (配列番号7(表7))
【表7】
【0071】
接続エレメントのコード配列を下線で示す。CD68の細胞外ドメインをコードするセグメントは、接続エレメントのコード配列の上流(N末端方向)に位置し、多型を太字で示す。Fcフラグメント由来で、二量化を媒介する第2のポリペプチドをコードするセグメントは、接続エレメントのコード配列の下流(C末端方向)に位置する。
【0072】
1.8 接続エレメントを含むコンストラクト(多型2)全体をコードするヌクレオチド配列(配列番号8(表8))
【表8】
【0073】
接続エレメントのコード配列を下線で示す。CD68の細胞外ドメインをコードするセグメントは、接続エレメントのコード配列の上流(N末端方向)に位置し、多型2を太字で示す。Fcフラグメント由来で、二量化を媒介する第2のポリペプチドをコードするセグメントは、接続エレメントのコード配列の下流(C末端方向)に位置する。
【0074】
2. CD68−Fc融合タンパク質のクローニング
特異的プライマーを用い、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、新たに調製したマクロファージcDNAライブラリーからヒトCD68の細胞外ドメインを増幅した。上記フラグメントの両末端に、制限部位を新たに導入した。分泌量を上げるために、ヒトIgのκ鎖のリーダー配列を含むプラスミドに、このフラグメントをクローニングし、CD68のリーダー配列を置換した。
ヒトIgG1のFcドメイン由来の人工遺伝子を合成し、標的遺伝子突然変異によって、331位のプロリンをセリンに置換した。また、アミノ酸234〜237位のテトラペプチドLeu−Leu−Gly−GlyをAla−Ala−Ala−Alaに置換した。ペプチドの発現を促進するために、コドンに関してCHO細胞用に、このポリペプチドを最適化した。
この2つのフラグメントを、それぞれ制限酵素で切断して、連結することによって、Fc部分とCD68部分を融合した。その結果、融合タンパク質の、この2つの部分の間に、特異的な接続配列が生じた。この配列は、3つのアミノ酸から成る。以下に、得られた融合cDNAを示す(表9)。
【0075】
【表9】
【0076】
分子の先端部に、構造上の理由から、IgGリーダー配列(ヒトIgκ鎖)が存在する。該配列はマルチクローニングサイト(MCS)上流に複数のアミノ酸を有する。リーダー配列を太字の大文字で示し、MCSを下線で示す。続いて、ヒトCD68の細胞外ドメインを小文字で示し、cag−aag多型を太字で示す。続いて、接続セグメントを下線と太字で示す。接続セグメントは、9つのヌクレオチドを含む。さらに、コード配列としてFcフラグメント由来のポリペプチドを示す。これは、コドンに関してCHO用に最適化されており、補体およびFc受容体結合領域が変異している。
【0077】
下記に、コードされた融合タンパク質の概略を示す(表10)。
【表10】
【0078】
リーダーペプチドを、太字で示す(このセグメントは、本発明の融合タンパク質に存在しないことが好ましく、あったとしても一部分であることが好ましい)。続いて、MCSスペーサー(このセグメントもまた、本発明の融合タンパク質に存在しなくてもよいが、存在してもよい)を下線で示す。次に、ヒトCD68の細胞外ドメインが続き、さらに続いて、3つのアミノ酸を含む接続エレメントもまた下線で示す。
次に、コドンに関してCHO用に最適化され、補体およびFc受容体の結合領域が変異しているヒトIgG1分子(hIgG1mut)のFcフラグメント由来のポリペプチドが続く。カルボキシ末端の「*」は、終止コドンを表す。
【0079】
再び制限酵素によって、融合cDNAを切断し、慣用のクローニング方法によってpcDNA5プラスミドベクター(Invitrogen)へ導入した。得られたプラスミドベクターを、pcDNA5−FRT−CD68−Fc−optとする。
【0080】
3. CD68−Fc融合タンパク質を安定発現するCHO細胞の調製
70%コンフルエントのFlp−In(登録商標)−CHO細胞(invitrogen)に、プラスミドpOG44:pcDNA5−FRT−CD68−Fc−opt(共にInvitrogen)を9:1の比率でトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、細胞を洗浄し、新鮮な培地を加えた。トランスフェクションの48時間後に、細胞を500mg/mlハイグロマイシン含有の新鮮培地に移して、20倍希釈した。ハイグロマイシン耐性の細胞を単離し、増殖させた。
【0081】
増殖した形質転換体における、CD68−Fc融合タンパク質(図1: CD68−Fc)の発現について、ヒトFc抗体を用い、ウエスタンブロット(SDS−PAGE)で解析した。抗ヒトFc二次抗体を用いた。コントロール(図1: Fc)として、CD68の細胞外ドメインを含まないFcタンパク質を用いた。CD68−Fcは、非還元条件下では、160kDa(図1(左))に、還元条件下では、115kDa(図1(右))に特異的なバンドが見られた。
【0082】
更に、ヒトIgG−ELISAによって、定量的検出を行なった。その結果、CD68−Fc産生CHO細胞株の細胞培養上清で、約2mg/mlのCD68−Fcが検出された。しかし、野生株細胞では、CD68−Fc融合タンパク質は、検出されなかった。
【0083】
4. CD68融合タンパク質の精製
CD68−Fc融合タンパク質を安定発現するCHO細胞を培養した。感染の3日後に、培養上清を、3800×gで4℃、30分間遠心分離し、孔径0.2μmのフィルターで濾過した。1.2倍量の硫酸アンモニウム(761g/l)を加えて、4℃で一晩撹拌することにより、CD68融合タンパク質を沈殿させた。
【0084】
タンパク質は、3000×gで、4℃、30分間遠心分離してペレットにした後、0.1倍量のPBSに溶解し、4℃で一晩PBSで透析した。14000×gで、4℃、30分間遠心分離した後、孔径0.2μmのフィルターでろ過することにより、タンパク質溶液を清澄化した。次いで、結合バッファー(20mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)、0.02% NaN3)で平衡化したプロテインAカラム(HiTrap(登録商標))プロテインA HP(Amersham Pharmacia Biotech AB, Uppsala, Sweden)に、清澄化したタンパク質溶液をロードした。OD280<0.01になるまで、カラムを結合バッファーで洗浄し、次いで溶出バッファー(100mM グリシン(pH2.7))で溶出した。
【0085】
各900μlの溶出画分を、100μlの中和バッファー(1M Tris−HCl pH9.0, 0.02% NaN3)で中和して、プールした後、4℃で一晩PBSで透析した。次いで、分注して、−20℃で凍結保存した。カラムを結合バッファーで中和した後、20%(v/v)エタノールで洗浄し、冷蔵庫に保存した。
【0086】
5. 血小板との共存培養によるCD34+幹細胞の泡沫細胞への分化
ヒト血小板を分離するために、健常被検者の静脈から採血し、酸性のクエン酸デキストロース(ACD)緩衝液に回収した。回収した血液を430×gで、20分間遠心分離した後、多血小板血漿(PRP)を採取し、HEPES緩衝タイロード液(2.5mM HEPES, 150mM NaCl, 1mM HCl, 2.5mM NaHCO3, 0.36mM NaH2PO4, 5.5mM glucose, 1mg/ml BSA, pH6.5)に加えた。次いで、900×gで、10分間遠心分離した。上清を除去し、HEPES緩衝タイロード液(pH7.4)で血小板を含むペレットを懸濁した。
【0087】
この方法によって、測定上は多形体核細胞や単球の混入なく、高純度の血小板が得られる。上記細胞の混入がないことは、CD14陰性によって確認できた(フローサイトメトリーおよびミエロペルオキシダーゼ−ELISAを用いた)。前述の方法については、Langer H.ら(2006; 電子上では 2005), Adherent platelets recruit and induce differentiation of murine embryonic endothelial progenitor cells to mature endothelial cells in vitro, Circ.Res. 98(2): e2−10.に記載されている。
【0088】
ヒトCD34+細胞は、ヒト臍帯血から単離した。地元の倫理委員会の承認を得た後、出産直後の健常な女性から上記細胞を得た。それぞれ単離した後、フローサイトメトリー分析を行い、単離した細胞の少なくとも95%はCD34陽性であることが確認された。臍帯血をバイコール分離溶液(BIOCROM Berlin, Germany)に積層し、600×gで15分間密度勾配遠心分離を行うことによって、ヒト単核細胞も得られた。製造元のマニュアルに従い、免疫親和性選択法(CD34始原細胞単離キット; Milteenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)によって、CD34+細胞を濃縮した。
次いで、この細胞を、0.2%ゼラチンでコーティングした96穴プレートで培養した。細胞培養用に、glutamax、ならびに5%の熱失活させたウシ胎仔血清、100mg/mlペニシリン−ストレプトマイシン、1%MEMビタミンおよび1%非必須アミノ酸を添加したIMDMを使用した。すべて、Gibco(Invitrogen、Karlsruhe, Germany)から購入した。CD34+始原細胞(50,000個の細胞)と、血小板(2×108/ml)とを、0.2%ゼラチンでプレコーティングした96穴プレートで、37℃、5%CO2の条件下培養した。位相差顕微鏡によって、6つの枠の泡沫細胞の形成を計数した。
【0089】
図2Aに示すように、位相差顕微鏡によって、CD34+幹細胞から泡沫細胞への分化が示された。左図に、泡沫細胞の形成の見られないコントロールCD34+細胞を示す。また、右図に、血小板(矢印)存在下における泡沫細胞の形成を示す。
スカベンジャー受容体CD68陽性の免疫蛍光染色像(図2B)と泡沫細胞の透過型電子顕微鏡像(図2C)より、CD34+細胞と血小板との共存培養で生じた「巨大細胞」は、実際、泡沫細胞であることが、実証された。
【0090】
6. 得られた泡沫細胞の機能的な特性評価
in vitroで生成された泡沫細胞の機能的な特徴を調べるために、泡沫細胞がアセチル化LDL(acLDL)を取り込めるかどうか実験を行った。得られた泡沫細胞と、蛍光標識したacLDL(Dil−AcLDL)とを培養し、次いでメパクリンで密顆粒を染色することにより、これを実施した。次いで、共焦点レーザー顕微鏡を用いて画像判定したところ、得られた泡沫細胞のacLDLの取り込み、およびそれをもって泡沫細胞の機能性が、明らかに実証された。図3Aを参照のこと、スケールバー25μm。
【0091】
さらに、ROS(「活性酸素種」)測定法を用いた。一般的には、炎症の過程で、単球は血管壁を通して浸潤し、そこでマクロファージに分化し、サイトカイン、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)のようなプロテアーゼ、および補体因子だけでなく、酸化したフリーラジカル(ROS)も産生する。in vitroで血小板とCD34+幹細胞との共存培養から得られた泡沫細胞は、ROSを遊離し、さらに、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP−9)も産生することがわかった。このことから、機能的な泡沫細胞が得られたことがさらに実証された。
【0092】
7. CD68−Fc融合タンパク質による、泡沫細胞の形成および機能の抑制
in vitroで10日間、血小板とCD34+幹細胞とを共存培養することにより、泡沫細胞が得られた。培養した一部を、CD68−Fcホモダイマーで処理し、別の一部を、コントロールとしてFc単体で処理した。次いで、CD68−Fcホモダイマーとの培養により、泡沫細胞の形成が抑制されるかどうかを顕微鏡を用いて解析した。結果を図3Bに示す。
Fcで処理(左図)しても、泡沫細胞の形成に何ら効果はないが、CD68−Fcホモダイマーで処理(右図)した場合、泡沫細胞の形成が抑制されることが示された。
【0093】
図3Cに、泡沫細胞の形成抑制は、CD68−Fcホモダイマーの添加量に依存することが示されている。400μg/mlのCD68−Fcホモダイマーでは、ほぼ完全に泡沫細胞の形成が抑えられた。ここでも、コントロールとして、Fc単体を用いた。
【0094】
さらに、別の実験では、CD68−Fcホモダイマーの濃度を上げて培養すると、コントロールタンパク質と比較して、泡沫細胞の上清中のMMP−9の発現が抑制されることが分かった。実験結果を図4に示す。バンドは、MMP−9の発現レベルに相当する。以下のサンプルを、対応する番号のレーンにロードした。
1. コントロールCD34、
2. コントロールCD34、
3. コントロールタンパク質100g/ml、
4. コントロールタンパク質400μg/ml、
5. CD68−Fcホモダイマー100g/ml、
6. CD68−Fcホモダイマー200g/ml、
7. CD68−Fcホモダイマー400g/ml、
8. フルバスタチン1μM。
非常に特徴的なスタチンであるフルバスタチン(レーン8)と同様に、CD68−Fcホモダイマー(レーン5、6および7)の存在下では、泡沫細胞によるMMP−9の形成が、明らかに抑制されることが示された。
【0095】
8. 診断薬としてのCD68−Fc融合タンパク質
手術で患者の頸動脈から摘出したアテローム斑を、分解して、懸濁した後、培養プレートに移して、表面を乾燥した。次いで、CD68もしくはGPVIのFc部、またはFc単体のそれぞれに対する特異的なELISAを行なった。結果を図5Aに示す。並行して、頸動脈の血栓内膜切除術の組織標本を用いて、ヒト組織の免疫組織学的な解析を行った。結果を図5Bに示す。
【0096】
いずれの場合も、アテローム斑組織に対して全く特異的結合を示さないコントロールFcタンパク質(図中、Fc)と比較して、CD68−Fc融合タンパク質では、アテローム斑組織への結合が、有意に起こることが示された。ポジティブコントロールとして、ヒトアテローム斑組織のコラーゲン構造に結合するタンパク質を用いた(図中、コントロール)。
【0097】
更に、アテローム性動脈硬化症ApoEマウス、および野生型マウスに対して、ヨウ素−124標識CD68−Fcを生体内に適用した。24週齢のアテローム性動脈硬化症マウスと、有意なアテローム性動脈硬化のないコントロール野生型マウスに、ヨウ素−124標識CD68−Fcを投与した。次いで、臓器を摘出した。オートラジオグラフィーを用いて、左右の頸動脈および大動脈弓を、ex vivoで分析した。結果を図6に示す。
【0098】
部分図(A)で示されるように、アテローム性動脈硬化のない血管と比較して、アテローム性動脈硬化の血管部分で、放射能の顕著な上昇が観察された。部分図(B)に、オイルレッドによる染色像およびそれに対応するオートラジオグラフィーを示す。部分図(C)は、オートラジオグラフィーの定量的評価を示す。
【0099】
ApoEマウスから摘出したアテローム性動脈硬化の血管(大動脈弓)では、野生型マウスから摘出したアテローム性動脈硬化のない血管と比較して、ヨウ素−124標識CD68−Fc融合タンパク質の蓄積量が、大幅に増大することが示された。頸動脈の部分においては、野生型と比較して、ApoEマウスで、CD68−Fc融合タンパク質の蓄積量の有意な増大は観察されなかった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アテローム性動脈硬化のような慢性血管障害に対して、治療および診断への適応の可能性を有する融合タンパク質、前記融合タンパク質をコードする核酸分子、前記融合タンパク質または核酸分子を含む医薬用および診断用の組成物、医薬用または診断用の組成物の製造のための前記融合タンパク質または核酸分子の使用、急性または慢性血管障害の診断方法、ならびに前記融合タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アテローム性動脈硬化は、患者の血液運搬を担う血管の壁で起こる炎症反応を中心とした、非常に複雑な進行性の病的過程である。アテローム性動脈硬化(いわゆるアテローム発生)の進行は、いくつかの段階に分けることができる。
【0003】
アテローム発生の初期段階は、いわゆる内皮細胞の機能不全を特徴とする。喫煙、過体重、運動不足、高脂血症やII型糖尿病などの多くの様々な危険因子だけでなく、現在のところ未確認の様々な危険因子が、内皮損傷の原因になっている。これによって、血漿中のリポタンパク質および他の循環物質に対する内皮の透過性が増加する。その結果、内皮細胞が活性化し、細胞表面上で、いわゆる接着分子の発現が増大する。中でも特に、いわゆるセレクチンを介して、単球やTリンパ球のような特定の血球と内皮との一時的な接触がまず始めに起こる。そして、別の種類の接着分子(いわゆる細胞接着分子(CAM))によって、これらの細胞が血管壁に強固に付着する。
特に血管の分岐部(アテローム性動脈硬化の病変が高頻度に発症する部位)においては、機械力も補足的な役割を果たす。剪断力の増加により、内皮由来の窒素(NO)の産生が減少する可能性がある。NOは、血管拡張剤として働き、抗炎症作用を有する。また、剪断力が増加すると、上記のような結果をもたらす接着分子の産生も増加する。
【0004】
更に続いて、内膜下の空間に、特に単球が浸潤し、単球ほど多くはないが、Tリンパ球も浸潤する。例えば、ケモカイン単球遊走因子(MCP−1)などの別の種類の分子を介して、このような浸潤が起こる。そして、内膜下の空間において、単球がマクロファージへと分化する。
【0005】
さらに、傷害を受けた内皮で、低密度リポタンパク質(LDL)が酸化し、酸化LDL(oxLDL)が形成される。酸化LDLは、内膜下の空間へ分泌され、単球から分化したマクロファージに取り込まれる。酸化LDLの取り込みによって、このマクロファージは、アテローム斑に特徴的に見られる細胞、いわゆる泡沫細胞に変化する。さらに、アテローム斑には、Tリンパ球と中膜から遊走した平滑筋細胞が含まれる。
【0006】
このようなアテローム斑は、動脈壁に堆積し、平滑筋細胞と細胞間マトリックスから成る繊維性被膜が覆って安定化している。アテローム斑は、サイトカイン、ケモカイン、プロテアーゼなどの様々な炎症メディエータ産生をもたらす炎症反応の中心地である。このことから、近傍の炭酸カルシウムが沈着(石灰化)した組織は壊死する可能性がある。それによって、血管内腔は狭窄し、完全閉塞に至って血流が妨げられる可能性がある。
【0007】
平滑筋細胞による細胞間マトリックスの形成が減少し、分解酵素によってますます細胞間マトリックスが分解されると、繊維性被膜が薄くなり、アテローム斑が不安定になる。このアテローム斑は、破裂する可能性があり、破裂すると、血管壁内に存在する凝固作用を有する脂質コアおよびコラーゲンが放出される。この結果、閉塞性および非閉塞性血栓形成につながる止血システムの活性化、つまり、いわゆる組織因子(TF)が中心的な役割を果たす凝固カスケードの活性化が起こる。血栓形成を伴うアテローム斑の破裂は、臨床症状として、不安定狭心症または急性心筋梗塞という形で現れる。
【0008】
現在、アテローム性動脈硬化の治療には、通常、脂質低下薬またはスタチン類をそれぞれ適用している。これらは、最終的に内因性のコレステロール生合成を抑制する活性物質群に属する。スタチン類に属する物質としては、とりわけアトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン(メビノリン)、メバスタチン(コンパクチン)、プラバスタチンおよびシンバスタチンが挙げられる。これらの物質は、例えば、コレステロール生合成の主要酵素(3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−CoA−還元酵素)の拮抗的阻害、肝臓中のコレステロール生合成の低下、肝細胞上のLDLレセプターの増強、およびリポタンパク質組成の変換など様々な方法によって、脂質代謝に影響を与える。スタチン類は、血清脂質の組成に大きな影響を与え、とりわけ、いわゆる「高密度リポ蛋白質」(HDL)の濃度をわずかに増加させるとともに、LDL濃度を強力に減少させる。最終的に、スタチン類の作用によって、血液中に循環する脂肪の量が減少する。その結果、アテローム斑に蓄積される脂肪が減少し、それによって血栓症の危険性、および血栓症に伴う危険性が低減する。
【0009】
スタチン類は、他にも多くの優れた特性を有するが、服用に関して、筋肉や腎臓に対してまれではあるが重大な副作用があるという情報がずいぶん集積されてきたため、批判を受けた。このような理由から、特に活性物質セリバスタチン(例えばLipobay(登録商標)、Zenas(登録商標))が、2001年8月にドイツの市場から全回収された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような背景から、本発明の基礎となる目的は、アテローム性動脈硬化またはアテローム斑のような急性または慢性血管障害の治療および診断に関して、治療および診断への適応の可能性を有する新規物質であって、公知の脂質低下薬に関する前述の短所を大幅に軽減、あるいは回避することができる新規物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(a)変性LDLに特異的に結合する第1のポリペプチド、および(b)二量化を媒介する第2のポリペプチドを含む融合タンパク質を提供することによって、この目的を達成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明において、融合タンパク質とは、当技術分野で公知の分子生物学的方法によって、in vitroおよびin vivoで生成可能なハイブリッドタンパク質または人工タンパク質を意味する。この目的のために、本発明においては、融合タンパク質をコードする一般的な発現ベクターを用いるのが好ましい。この発現ベクターを、最終的に融合タンパク質を生成する適当な細胞に導入する。
【0013】
変性低密度リポタンパク質(変性LDL)に対して、親和性が高く、選択的に結合できる二次あるいは三次構造が形成されるように、適当なアミノ酸配列を選ぶことによって、第1のポリペプチドを設計する。これは、タンパク質合成の分野に精通している化学者にとっては容易である。というのも、変性LDLの三次元構造は、当技術分野においては公知だからである。
2つの別個のタンパク質またはサブユニットタンパク質の二量化の媒介に関与するタンパク質のセグメントが含まれるように、アミノ酸配列を考慮して、第2のポリペプチドを設計する。多くのタンパク質のペプチド二量体構造に関するアミノ酸配列などの微構造は、当技術分野において詳細な記載があるため、この設計も、当業者にとっては容易である。
配列や構造が知られている公知の二量体形成タンパク質としては、Gタンパク質、ヒストン、インターフェロン、インターロイキン2受容体、hsp90、チロシンキナーゼ、IgG分子などが挙げられる。上記のタンパク質内の二量化を媒介するドメインは、それぞれ本発明の融合タンパク質の製造に直接用いることができる。しかしながら、融合タンパク質の生成量を上げるために、標的遺伝子突然変異や、C末端および/またはN末端に特定のアミノ酸を付加することによって、これらのドメインを修飾するのが好ましい。その結果、例えば融合タンパク質の免疫作用は低減するが、大方、二量化の機能を維持することができる。
【0014】
本発明において、変性LDLとは、アテローム発生下の損傷内皮で生じる変異体に対応する、化学的に修飾された低密度リポタンパク質を意味する。これには、酸化LDL(oxLDL)、アセチル化LDL(acLDL)、酵素による酸化LDL(eLDL)、および最小限に変性したLDL(mmLDL)が当てはまる。
【0015】
ここに、本発明の基礎となる目的が、完全に達成される。本発明者らは、本発明の融合タンパク質が、生体内へ適用された後、傷害を受けた血管野またはアテローム性動脈硬化を呈した血管野に、限定的に蓄積することが好ましいと認識している。その結果、起こり得る非特異的な全身性副作用を大幅に回避することができる。本発明の融合タンパク質は、変性LDLに対する高親和性により、変性LDLを吸着する。この作用は、第1のポリペプチドセグメントを介して起こる。さらに、融合タンパク質のモノマーでも、変性LDLを吸着できるが、第2のポリペプチドセグメントを介して、本発明の2つの融合タンパク質が二量化することによって、変性LDLへの親和性は何倍も高くなる。
【0016】
この二量化した複合体は、変性LDLおよびマクロファージの取り込みを不活化するため、後に続くマクロファージの泡沫細胞化を回避または大幅に軽減することができる。従って、初期段階でアテローム発生に治療介入することができる。アテローム斑の形成、および前述した生体に対する重大な副作用を顕著に抑制するだけでなく、恐らく予防することも可能である。
他の重要な利点は、融合タンパク質と変性LDLとの複合体が、完全にヒト由来であるため、免疫原性は低いということである。従って、「排除」に関わるいずれの炎症反応も、極めて軽度であるか、あるいはまったく起こらない。
【0017】
それゆえに、酸化LDL(oxLDL)に結合するように、第1のポリペプチドを設計することが好ましい。
【0018】
この場合、マクロファージの泡沫細胞化に決定的な役割を果たすLDL変異体と厳密に結合し、これを吸着するような融合タンパク質が提供されるという利点がある。
本発明のさらなる発展形態において、アテローム発生の主要因としての酸化LDLは、機能が低下するか、あるいは選択的に除去される。
【0019】
本発明のさらなる発展形態において、第1のポリペプチドは、スカベンジャー受容体CD68、好ましくはCD68の細胞外ドメイン、またはCD68のLDL結合機能を有するCD68の細胞外ドメインのフラグメントもしくは変異体を含む。
【0020】
この場合、第1のポリペプチドとして、変性LDL、とりわけ酸化LDLに対して、特に選択的な高親和性を有するポリペプチドが提供されるという利点がある。
macrosialinまたはgp110とも呼ばれるCD68は、単球または組織マクロファージで高レベルに発現している膜貫通型糖タンパク質である。そのアミノ酸配列とこれをコードするヌクレオチド配列は、当技術分野において開示されている。NCBI database accession No.AAB25811またはNP_001242(ヒト変異体のアミノ酸配列)、database accession No.NM_001251またはAAH15557(ヒト変異体mRNAのヌクレオチド配列)を参照のこと。すでに同定されているこのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列も、参照により本出願に援用する。
【0021】
CD68のヒト変異体は、分子量110kDで、354個のアミノ酸から成るタンパク質である。自身の細胞外ドメインを介して変性LDLに結合することができるため、CD68はいわゆるスカベンジャー受容体に属する。CD68は、もともと大リンパ球だけでなく、単球、マクロファージ、好中球および好塩基球の細胞表面上にも発現している。
【0022】
第1のポリペプチドは、CD68の完全なアミノ酸配列ではなく、CD68の細胞外ドメインを含んでいることがより好ましい。
【0023】
特にこの場合、本発明の融合タンパク質の機能に必要でないペプチドセグメントが割愛されるという利点がある。
本発明の融合タンパク質は、変性LDLへの親和性を失うことなく、サイズが縮小されている。これにより、本発明の融合タンパク質の可溶性は、顕著に上昇する。本発明者らは、CD68の細胞外ドメインが変性LDLへの結合に関与し、該ドメインがその結合に十分であるという科学上の発見を利用した。
ヒト変異体のCD68(NCBI accession No. AAH15557;Strausbergら)の細胞外ドメインは、全長タンパク質のほぼ22〜319位に相当するアミノ酸残基を含む。mRNAレベルでは、66〜960位のヌクレオチドに相当する。当然のことながら、1つ1つのアミノ酸残基またはヌクレオチドに至るまで限定することは、本質的に不可能である。
【0024】
本発明の機能を実現するために、融合タンパク質が、必ずしもCD68もしくはCD68の細胞外ドメインの全長のアミノ酸配列またはそれらと同一のアミノ酸配列を含む必要がないことは、当業者であれば、当然理解できるだろう。逆に、第1のポリペプチドが、サイズは縮小されていてもCD68のLDL結合機能を発揮するCD68もしくはCD68の細胞外ドメインのセグメントまたは配列変異体を含むならば、この場合も、本発明の融合タンパク質の機能は果たされる。
タンパク質原性アミノ酸は、極性、無極性、酸性および塩基性アミノ酸の4つのグループに分類できることが知られている。極性アミノ酸を他の極性アミノ酸に置換(例えばセリンをグリシンに置換)しても、概して生物活性に変化がなく、あるいはあっても些細なものである。すなわち、このようなアミノ酸の置換は、本発明の融合タンパク質の機能にほとんど影響を及ぼさない。
このような背景から、本発明は、上記のカテゴリーの1つに属するアミノ酸のうちの1つまたは複数個のアミノ酸が同じカテゴリーの別のアミノ酸で置換されているCD68またはその細胞外ドメインの変異体を第1のポリペプチドとして含む融合タンパク質も包含する。このような配列変異体は、CD68またはCD68の細胞外ドメインのアミノ酸配列と、それぞれ好ましくは約70%、より好ましくは約80%、非常に好ましくは約90〜95%の相同性を有している。
【0025】
第2のポリペプチドは、免疫グロブリンのFcドメイン、またはFcドメインの二量化機能を有する該Fcドメインのフラグメントもしくは変異体を含むことが好ましい。
【0026】
これにより、本発明の融合タンパク質が、2つの該融合タンパク質モノマーの二量化に十分なペプチドセグメントを含むことだけは有利な方法で確実となる。
「Fc」は「結晶化可能なフラグメント」を意味する。このフラグメントや2つのFabフラグメントは、IgG分子のパパイン消化によって生じる。Fcドメインは、ヒンジ領域を含む一対のCH2およびCH3ドメインから成り、免疫グロブリンの二量化機能に関与する部分を含む。
さらに、当然のことながら、Fcドメインのフラグメントまたは変異体が、それぞれサイズは縮小されていても抗体の二量化機能を有する限り、この場合も、本発明の融合タンパク質の機能を失わずに、該フラグメントまたは変異体を用いることができる。上述の、CD68のフラグメントまたは変異体の説明(Fcのフラグメントまたは変異体の説明として準用可能)を参照のこと。
【0027】
本発明の好ましいさらなる発展形態において、Fcドメインの変異体は、補体およびFc受容体の結合領域に、本発明の融合タンパク質の免疫原性を減弱するような突然変異を含む。
【0028】
この場合、本発明の融合タンパク質の免疫寛容性がさらに高くなるという利点がある。
本発明者らの知見によれば、第2のポリペプチドは、免疫系を活性化するエフェクター機能がなくても、抗体のFcドメインが有する二量化機能さえ含んでいれば、本発明の融合タンパク質の機能としては十分である。したがって、例えば、免疫系の活性化を大幅に抑制するように、あるいは活性化が全く起こらないように、補体およびFc受容体の結合領域を変異させた合成Fcフラグメントも用いることができる。
【0029】
融合タンパク質は、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとを接続するエレメントを含むことが、更に好ましい。
【0030】
この場合、様々な発現ベクターによる本発明の融合タンパク質の生成を可能にするための構造上の前提条件が提供されるという利点がある。
いかなる組成のアミノ酸配列でも、接続エレメントを構成しうるが、1〜100個のアミノ酸を含んでいることが好ましい。2つのポリペプチドの連結による本発明の融合タンパク質の生成で生じたアミノ酸によっても、このような接続エレメントを実現できる。
【0031】
好ましい変異体において、本発明の融合タンパク質の第1のポリペプチドは、添付の配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む。
【0032】
これにより、変性LDLまたは酸化LDLに結合するポリペプチドが、それぞれ有利に提供される。配列番号1で示されるアミノ酸配列は、ヒトCD68タンパク質の細胞外ドメインのアミノ酸配列由来である。
【0033】
本発明の好ましいさらなる発展形態において、融合タンパク質は、添付の配列表の配列番号2または3で示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子によってコードされる第1のポリペプチドを含む。
【0034】
この場合、ヒトCD68タンパク質の細胞外ドメインのコード配列が、既に提供されているという利点がある。該コード配列は、発現ベクターへの導入後に、当技術分野で公知の方法により微生物を介して容易に生成できる。
配列番号2で示されるヌクレオチド配列は、ヒトCD68タンパク質変異体の細胞外ドメインをコードするヌクレオチド配列由来である。配列番号3で示されるヌクレオチド配列は、ヒトCD68タンパク質の細胞外ドメインにおいて、cag塩基トリプレットがaag塩基トリプレットで置換されている個体群に存在する多型を提供する。この多型の機能的な効果は、これまで知られていない。
【0035】
当然のことながら、配列番号2または3で示されるヌクレオチド配列だけでなく、その変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じポリペプチドをコードする変異体も、CD68タンパク質の細胞外ドメインの生成に適している。
アミノ酸の数よりも、それに対応するコドンの数が多いことから、遺伝コードが縮重していることが知られている。ほとんどのアミノ酸には、1つより多くのコドンが存在し、例えばアルギニン、ロイシンおよびセリンは最大6つのコドンによってコードされている。概して、コドンの3番目のヌクレオチドは部分的に、または完全に置換することができる。
このような背景から、遺伝コードの縮重により、配列番号2または3で示されるヌクレオチド配列とは個々のヌクレオチドは異なるが、同等にCD68タンパク質の細胞外ドメインをコードする核酸分子によって、第1のポリペプチドがコードされている融合タンパク質も提供する。このような変異体は、配列番号2または3で示されるヌクレオチド配列と、好ましくは約70%の相同性、より好ましくは約80%の相同性、非常に好ましくは約90〜95%の相同性を有する。
【0036】
第2のポリペプチドは、添付の配列表の配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0037】
これにより、ヒトIgG1変異体のFcフラグメント由来で、補体およびFc受容体の結合領域に免疫原性を減弱するような突然変異を含み、二量化を媒介する第2のポリペプチドが有利に提供される。
標的遺伝子突然変異によって、331位のプロリンをセリンに置換した。また、アミノ酸234〜237位のテトラペプチドLeu−Leu−Gly−GlyをAla−Ala−Ala−Alaに置換した。上記のペプチドを、ヒトIgG1のFcフラグメントの天然配列と比較して、より容易に発現させるために、CHO細胞用に、コドンに関してポリペプチドを最適化した。
【0038】
本発明のさらなる発展形態において、第2のポリペプチドは、添付の配列表の配列番号5で示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子によってコードされる。
【0039】
この場合、ヒトIgG1分子のFcドメイン由来である前述の第2のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、既に提供されているという利点がある。
発現ベクターへコード配列を導入し、当技術分野で公知の方法によって適当な細胞(例えばCHO細胞)を形質転換する。次いで、この細胞から目的の第2のポリペプチドを生成する。
当然のことながら、配列番号5で示されるヌクレオチド配列だけでなくその変異体も、第2のポリペプチドの生成に適している。遺伝コードの縮重により、配列番号5で示されるヌクレオチド配列とは個々のヌクレオチドは異なるが、同等に目的の第2のポリペプチドをコードする核酸分子も用いることができる。このような変異体は、配列番号5で示されるヌクレオチド配列と、好ましくは約70%の相同性、より好ましくは約80%の相同性、非常に好ましくは約90〜95%の相同性を有する。
【0040】
本発明の融合タンパク質は、添付の配列表の配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むことが、特に好ましい。
【0041】
これにより、好ましい本発明の融合タンパク質の全一次構造が既に提供されている。この一次構造は、直接ペプチド合成によって、あるいはコード配列への転写後に分子生物学的方法によって、狙い通りに容易に生成することができる。
配列番号6で示されるアミノ酸配列は、N末端にCD68の細胞外ドメインのセグメント、およびC末端にFcフラグメントのセグメントを含むだけではなく、FcフラグメントとCD68の細胞外ドメインとを接続する3つのアミノ酸から成る中間エレメントも含む。
当然のことながら、配列番号6で示されるアミノ酸配列においては、上述の通り本発明の融合タンパク質の機能にほとんど影響を与えずに、1つのカテゴリーに属する個々のアミノ酸を、同じカテゴリーの別のアミノ酸で置換することができる。
当然のことながら、配列番号6で示されるアミノ酸配列は、N末端および/またはC末端にアミノ酸をさらに含んでもよい。このアミノ酸は、単に、発現細胞において、融合タンパク質の発現量を上げ、分泌させるという理由から、あるいは単に構造上の理由から存在する。このようなアミノ酸としては、例えばヒトIgGκ鎖、またはマルチクローニングサイト(MCS)由来のものが挙げられる。
【0042】
本発明の融合タンパク質として、添付の配列表の配列番号7または8で示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子によってコードされるタンパク質を提供することがさらに好ましい。
【0043】
この場合、本発明の融合タンパク質の特に好ましい形態をコードするコード配列が、当業者に既に提供されているという利点がある。
配列番号7で示されるヌクレオチド配列は、CD68の細胞外ドメインと、Fcフラグメント由来の第2のポリペプチドとをコードするコード配列だけではなく、前述の接続エレメントをコードし、3つの塩基トリプレットから成る中間セグメントも含む。
配列番号7で示されるヌクレオチド配列のcag塩基トリプレットがaag塩基トリプレットで置換された配列番号8で示されるヌクレオチド配列は、CD68の細胞外ドメインにおける前述の多型を提供する。
当技術分野で周知の方法によって、本発明の核酸分子を、発現ベクターに導入することができる。次いで、それを用いて適当な生物細胞(例えばCHO細胞)を形質転換し、該細胞で目的の融合タンパク質を生成する。
当然のことながら、配列番号7または8で示されるヌクレオチド配列の代わりに、遺伝コードの縮重により、同じ融合タンパク質をコードするその変異体も用いることができる。
【0044】
本発明の好ましいさらなる発展形態において、本発明の融合タンパク質は、検出可能なマーカーを含む。
【0045】
この場合、融合タンパク質をin vitroおよびin vivoでの生成場所で、撮像法を利用して写すことができるという利点がある。したがって、例えばアテローム斑などの識別に特に適している。
本発明の検出可能なマーカーとは、撮像法を利用して識別することができる任意の構成要素を意味する。これには、AMPPD、CSPDのような蛍光、燐光または化学発光の特性を持つ着色剤を含む変色指示薬、32P、35S、125I、131I、14C、3Hのような放射性指示薬、およびビオチンまたはジゴキシゲニン、アルカリフォスファターゼ、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼなどのような非放射性指示薬が挙げられる。撮像法としては、マーカーの性質に応じて、オートラジオグラフィー、ブロッティング、ハイブリダイゼーションまたは顕微鏡を用いた手法が使用される。
【0046】
本発明の別の主題は、すでに同定されている本発明の融合タンパク質を含むホモダイマーに関する。
【0047】
本発明者らは、本発明の融合タンパク質の二量化によって、何倍も高い活性が得られることを認識している。このことは、次のような利点がある。例えば本発明の融合タンパク質をコードする発現ベクターによって形質転換されたCHO細胞株は、第2のポリペプチド領域(例えば、Fcドメイン領域)同士がジスルフィド結合で架橋されている2つの融合タンパク質を含有する可溶性の二量体を分泌する。その結果として、そのようなホモダイマーでは、モノマーに比べて、変性LDL、特に酸化LDLに対する親和性が、顕著に上昇することが判明した。
ホモダイマーを生体へ全身適用した後、ホモダイマーが急速にかつ特異的に、傷害を受けた血管野またはアテローム性動脈硬化を呈した血管野に限定的に蓄積すること、ならびにあらゆる非特異的な全身性副作用や血液中におけるホモダイマーの急速な分解を、大幅に回避できることを裏付ける証拠を、本発明者らは有している。さらに、本発明のホモダイマーは、生体中の天然のCD68受容体を不活性化また阻害することによって、マクロファージのLDL取込および泡沫細胞化をさらに防ぐことができるという証拠も、本発明者らは有している。
当技術分野においては、既にSR−A1のような他の可溶性スカベンジャー受容体で、そのような機構に関する記載がある。Gough et al. (2001), The use of human CD68 transcriptional regulatory sequences to direct high−level expression of class A scavenger receptor in macrophages in vitro and in vivo, Immunology 103, pages 351 to 361. を参照のこと。本発明者らは、in vitro共存培養アッセイにおいて、本発明のホモダイマーの濃度を上げて添加すると、泡沫細胞の形成を有意に抑制し、例えばMMP−9の分泌といった泡沫細胞のいくつかの機能も抑制可能であることを実証することができた。
【0048】
このような背景から、本発明による別の主題は、既に同定されている本発明の融合タンパク質をコードする核酸分子に関する。本発明の核酸分子は、(a)変性LDL、好ましくは酸化LDLに特異的に結合するポリペプチドをコードする第1の核酸配列、および(b)二量化を媒介するポリペプチドをコードする第2の核酸配列を含むことが好ましい。本発明の核酸分子は、添付の配列表の配列番号2もしくは3、配列番号5、または配列番号7もしくは8で示されるヌクレオチド配列を含むことが好ましい。あるいはそれらの変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じポリペプチドをコードする変異体を含むことも好ましい。
当然のことながら、本発明の核酸分子は、対応する形質転換細胞での発現または生成を可能にする、あるいは促進するヌクレオチドセグメントを、さらに含んでもよい。例えば、構造上の理由で、IgG分子のκ鎖のリーダーセグメント、およびそれに接続しているマルチクローニングサイト(MCS)由来アミノ酸を5’末端に配置してもよい。しかし、これらの配列は、翻訳産物では、全長のコンストラクトから切り離される可能性があるので、本発明の融合タンパク質に必ずしも存在するわけではない。
【0049】
本発明の別の主題は、本発明の融合タンパク質、本発明のホモダイマーおよび/または本発明の核酸分子に加えて、適用可能な場合、薬学的および/または診断的に許容される担体、ならびに適用可能な場合、薬学的および/または診断的に有効であるさらなる添加物を含む、医薬用および/または診断用の組成物に関する。
【0050】
診断的におよび薬学的に許容される担体、および任意のさらなる添加物は、一般に当技術分野で公知であり、例えばKibbe A., Handbook of Pharmaceutical Excipients, Third Edition, American Pharmaceutical Association and Pharmaceutical Press 2000の論文に記載されている。本発明において、添加物としては、本発明の組成物を診断用または治療用に使用する上で有利になるような任意の化合物または組成物が挙げられる。例えば、塩類、結合試薬、および製剤上のその他の物質などである。
【0051】
本発明の別の主題は、アテローム性動脈硬化、アテローム斑、心筋梗塞、卒中および末梢動脈閉塞性疾患(PAOD)を含む急性または慢性血管障害の治療および/または診断に用いる医薬用および/または診断用組成物を製造するための本発明の融合タンパク質、本発明のホモダイマーおよび/または本発明の核酸分子の使用に関する。
【0052】
前述の疾病の治療および/または診断に用いる医薬用および/または診断用組成物の製造方法において、本発明は、さらに実現される。該方法は、下記工程を含む。
(a)本発明の融合タンパク質、本発明のホモダイマーおよび/または本発明の核酸分子の調製、および(b)薬学的および/または診断的に許容される担体による製剤化、および適用可能な場合(c)薬学的および/または診断的に有効であるさらなる添加物の添加。
【0053】
本発明の別の主題は、生体における、アテローム性動脈硬化、アテローム斑、心筋梗塞、卒中およびPAODを含む急性または慢性血管障害の診断方法に関する。該方法は、下記工程を含む。
(1)検出可能なマーカーを含む本発明の融合タンパク質および/または本発明のホモダイマーの調製、(2)融合タンパク質および/またはホモダイマーの生体内への導入、および(3)ポジトロン放出断層撮影(PET)のような撮像法を利用した、生体内に特異的に蓄積した融合タンパク質の視覚化。
【0054】
本発明の融合タンパク質または本発明のホモダイマーは、選択的に蓄積するため、前記方法により、アテローム斑または高濃度の変性LDL(酸化LDLを含む)を検出することができる。これによって、関連の血管障害またはその兆候を、確実に診断することができる。これまでのところ、通常当技術分野で使用する血管造影法、造影剤の適用、および血管内腔サイズ測定では、アテローム斑の活性および安定性については、十分に知ることができていない。本発明は、有効な治療法を提供する。
【0055】
本発明の別の主題は、本発明の融合タンパク質の製造方法に関する。該方法は、下記工程を含む。
(1)変性LDL、好ましくは酸化LDLに特異的に結合するポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列の調製、(2)二量化を媒介するポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列の調製、(3)融合タンパク質をコードする融合配列を得るための、第1および第2のヌクレオチド配列の連結、(4)発現ベクターへの融合配列のクローニング、(5)発現に適した細胞への発現ベクターの導入、(6)細胞における融合タンパク質の発現、および(7)融合タンパク質の細胞からの単離。
【0056】
この方法によって、本発明のホモダイマーも製造することができる。なぜなら、工程(5)で形質転換された適切な細胞(例えばHEK、CHO細胞)は、工程(6)の発現後に、第2のポリペプチド間にジスルフィド架橋を含むホモダイマーを既に生成しているからである。このジスルフィド架橋によって、2つの本発明の融合タンパク質が互いに結合している。このホモダイマーは、細胞から細胞外の培地へ分泌される。
【0057】
当然のことながら、前述の特徴および下記の特徴は、それぞれ示した組み合わせだけでなく、本発明の範囲から逸脱することなく他の組み合わせでも、またはそれぞれ単独でも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
本発明を、実施例により詳細に説明するが、実施例は、単に例示的なもので、本発明の範囲を制限するものではない。以下の添付の図面を参照することとする。
【0059】
【図1】ウエスタンブロット解析による、二量化したCD68−Fc融合タンパク質の検出。
【図2】10日間の血小板との共存培養後における、CD34+幹細胞の泡沫細胞への分化。
【図3A】泡沫細胞によるアセチル化LDLの取り込み。
【図3B】CD68−Fcホモダイマーによる泡沫細胞の形成阻害。
【図4】漸増濃度のCD68−Fc存在下で培養した際の泡沫細胞の上清中におけるMMP−9の発現阻害。
【図5】アテローム斑に対するin vitroでのFc特異的ELISA。
【図6】アテローム性動脈硬化症ApoE−マウス、および野生型マウスに対するヨウ素−124標識CD68−Fcの生体内への適用。
【発明を実施するための形態】
【0060】
1. ヌクレオチドおよびアミノ酸配列
いずれの場合も、一般的な1文字コードを用いる。以下の表示において、アミノ酸配列は、左端にアミノ末端すなわち、N末端を有し、右端にカルボキシ末端すなわち、C末端を有する。ヌクレオチド配列は、左端に5’末端を有し、右端に3’末端を有する。
【0061】
1.1 多型1(グルタミン)を含むCD68の細胞外ドメインのアミノ酸配列(配列番号1(表1))
【表1】
【0062】
1.2 CD68の細胞外ドメイン(多型1)をコードするヌクレオチド配列(配列番号2(表2))
【表2】
【0063】
多型1を太字で示す。
【0064】
1.3 CD68の細胞外ドメイン(多型2)をコードするヌクレオチド配列(配列番号3(表3))
【表3】
【0065】
多型2を太字で示す。
【0066】
1.4 Fcドメイン由来で、二量化を媒介する第2のポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号4(表4))
【表4】
【0067】
1.5 Fcドメイン由来で、二量化を媒介する第2のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列(配列番号5(表5))
【表5】
【0068】
1.6 接続エレメントを含むCD68−Fcコンストラクト全体のアミノ酸配列(配列番号6(表6))
【表6】
【0069】
接続エレメントを下線で示す。CD68の細胞外ドメインのセグメントは、接続エレメントの上流(N末端方向)に位置し、Fcドメイン由来で、二量化を媒介するポリペプチドのセグメントは、接続エレメントの下流(C末端方向)に位置する。
【0070】
1.7 接続エレメントを含むコンストラクト(多型1)全体をコードするヌクレオチド配列 (配列番号7(表7))
【表7】
【0071】
接続エレメントのコード配列を下線で示す。CD68の細胞外ドメインをコードするセグメントは、接続エレメントのコード配列の上流(N末端方向)に位置し、多型を太字で示す。Fcフラグメント由来で、二量化を媒介する第2のポリペプチドをコードするセグメントは、接続エレメントのコード配列の下流(C末端方向)に位置する。
【0072】
1.8 接続エレメントを含むコンストラクト(多型2)全体をコードするヌクレオチド配列(配列番号8(表8))
【表8】
【0073】
接続エレメントのコード配列を下線で示す。CD68の細胞外ドメインをコードするセグメントは、接続エレメントのコード配列の上流(N末端方向)に位置し、多型2を太字で示す。Fcフラグメント由来で、二量化を媒介する第2のポリペプチドをコードするセグメントは、接続エレメントのコード配列の下流(C末端方向)に位置する。
【0074】
2. CD68−Fc融合タンパク質のクローニング
特異的プライマーを用い、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、新たに調製したマクロファージcDNAライブラリーからヒトCD68の細胞外ドメインを増幅した。上記フラグメントの両末端に、制限部位を新たに導入した。分泌量を上げるために、ヒトIgのκ鎖のリーダー配列を含むプラスミドに、このフラグメントをクローニングし、CD68のリーダー配列を置換した。
ヒトIgG1のFcドメイン由来の人工遺伝子を合成し、標的遺伝子突然変異によって、331位のプロリンをセリンに置換した。また、アミノ酸234〜237位のテトラペプチドLeu−Leu−Gly−GlyをAla−Ala−Ala−Alaに置換した。ペプチドの発現を促進するために、コドンに関してCHO細胞用に、このポリペプチドを最適化した。
この2つのフラグメントを、それぞれ制限酵素で切断して、連結することによって、Fc部分とCD68部分を融合した。その結果、融合タンパク質の、この2つの部分の間に、特異的な接続配列が生じた。この配列は、3つのアミノ酸から成る。以下に、得られた融合cDNAを示す(表9)。
【0075】
【表9】
【0076】
分子の先端部に、構造上の理由から、IgGリーダー配列(ヒトIgκ鎖)が存在する。該配列はマルチクローニングサイト(MCS)上流に複数のアミノ酸を有する。リーダー配列を太字の大文字で示し、MCSを下線で示す。続いて、ヒトCD68の細胞外ドメインを小文字で示し、cag−aag多型を太字で示す。続いて、接続セグメントを下線と太字で示す。接続セグメントは、9つのヌクレオチドを含む。さらに、コード配列としてFcフラグメント由来のポリペプチドを示す。これは、コドンに関してCHO用に最適化されており、補体およびFc受容体結合領域が変異している。
【0077】
下記に、コードされた融合タンパク質の概略を示す(表10)。
【表10】
【0078】
リーダーペプチドを、太字で示す(このセグメントは、本発明の融合タンパク質に存在しないことが好ましく、あったとしても一部分であることが好ましい)。続いて、MCSスペーサー(このセグメントもまた、本発明の融合タンパク質に存在しなくてもよいが、存在してもよい)を下線で示す。次に、ヒトCD68の細胞外ドメインが続き、さらに続いて、3つのアミノ酸を含む接続エレメントもまた下線で示す。
次に、コドンに関してCHO用に最適化され、補体およびFc受容体の結合領域が変異しているヒトIgG1分子(hIgG1mut)のFcフラグメント由来のポリペプチドが続く。カルボキシ末端の「*」は、終止コドンを表す。
【0079】
再び制限酵素によって、融合cDNAを切断し、慣用のクローニング方法によってpcDNA5プラスミドベクター(Invitrogen)へ導入した。得られたプラスミドベクターを、pcDNA5−FRT−CD68−Fc−optとする。
【0080】
3. CD68−Fc融合タンパク質を安定発現するCHO細胞の調製
70%コンフルエントのFlp−In(登録商標)−CHO細胞(invitrogen)に、プラスミドpOG44:pcDNA5−FRT−CD68−Fc−opt(共にInvitrogen)を9:1の比率でトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、細胞を洗浄し、新鮮な培地を加えた。トランスフェクションの48時間後に、細胞を500mg/mlハイグロマイシン含有の新鮮培地に移して、20倍希釈した。ハイグロマイシン耐性の細胞を単離し、増殖させた。
【0081】
増殖した形質転換体における、CD68−Fc融合タンパク質(図1: CD68−Fc)の発現について、ヒトFc抗体を用い、ウエスタンブロット(SDS−PAGE)で解析した。抗ヒトFc二次抗体を用いた。コントロール(図1: Fc)として、CD68の細胞外ドメインを含まないFcタンパク質を用いた。CD68−Fcは、非還元条件下では、160kDa(図1(左))に、還元条件下では、115kDa(図1(右))に特異的なバンドが見られた。
【0082】
更に、ヒトIgG−ELISAによって、定量的検出を行なった。その結果、CD68−Fc産生CHO細胞株の細胞培養上清で、約2mg/mlのCD68−Fcが検出された。しかし、野生株細胞では、CD68−Fc融合タンパク質は、検出されなかった。
【0083】
4. CD68融合タンパク質の精製
CD68−Fc融合タンパク質を安定発現するCHO細胞を培養した。感染の3日後に、培養上清を、3800×gで4℃、30分間遠心分離し、孔径0.2μmのフィルターで濾過した。1.2倍量の硫酸アンモニウム(761g/l)を加えて、4℃で一晩撹拌することにより、CD68融合タンパク質を沈殿させた。
【0084】
タンパク質は、3000×gで、4℃、30分間遠心分離してペレットにした後、0.1倍量のPBSに溶解し、4℃で一晩PBSで透析した。14000×gで、4℃、30分間遠心分離した後、孔径0.2μmのフィルターでろ過することにより、タンパク質溶液を清澄化した。次いで、結合バッファー(20mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)、0.02% NaN3)で平衡化したプロテインAカラム(HiTrap(登録商標))プロテインA HP(Amersham Pharmacia Biotech AB, Uppsala, Sweden)に、清澄化したタンパク質溶液をロードした。OD280<0.01になるまで、カラムを結合バッファーで洗浄し、次いで溶出バッファー(100mM グリシン(pH2.7))で溶出した。
【0085】
各900μlの溶出画分を、100μlの中和バッファー(1M Tris−HCl pH9.0, 0.02% NaN3)で中和して、プールした後、4℃で一晩PBSで透析した。次いで、分注して、−20℃で凍結保存した。カラムを結合バッファーで中和した後、20%(v/v)エタノールで洗浄し、冷蔵庫に保存した。
【0086】
5. 血小板との共存培養によるCD34+幹細胞の泡沫細胞への分化
ヒト血小板を分離するために、健常被検者の静脈から採血し、酸性のクエン酸デキストロース(ACD)緩衝液に回収した。回収した血液を430×gで、20分間遠心分離した後、多血小板血漿(PRP)を採取し、HEPES緩衝タイロード液(2.5mM HEPES, 150mM NaCl, 1mM HCl, 2.5mM NaHCO3, 0.36mM NaH2PO4, 5.5mM glucose, 1mg/ml BSA, pH6.5)に加えた。次いで、900×gで、10分間遠心分離した。上清を除去し、HEPES緩衝タイロード液(pH7.4)で血小板を含むペレットを懸濁した。
【0087】
この方法によって、測定上は多形体核細胞や単球の混入なく、高純度の血小板が得られる。上記細胞の混入がないことは、CD14陰性によって確認できた(フローサイトメトリーおよびミエロペルオキシダーゼ−ELISAを用いた)。前述の方法については、Langer H.ら(2006; 電子上では 2005), Adherent platelets recruit and induce differentiation of murine embryonic endothelial progenitor cells to mature endothelial cells in vitro, Circ.Res. 98(2): e2−10.に記載されている。
【0088】
ヒトCD34+細胞は、ヒト臍帯血から単離した。地元の倫理委員会の承認を得た後、出産直後の健常な女性から上記細胞を得た。それぞれ単離した後、フローサイトメトリー分析を行い、単離した細胞の少なくとも95%はCD34陽性であることが確認された。臍帯血をバイコール分離溶液(BIOCROM Berlin, Germany)に積層し、600×gで15分間密度勾配遠心分離を行うことによって、ヒト単核細胞も得られた。製造元のマニュアルに従い、免疫親和性選択法(CD34始原細胞単離キット; Milteenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)によって、CD34+細胞を濃縮した。
次いで、この細胞を、0.2%ゼラチンでコーティングした96穴プレートで培養した。細胞培養用に、glutamax、ならびに5%の熱失活させたウシ胎仔血清、100mg/mlペニシリン−ストレプトマイシン、1%MEMビタミンおよび1%非必須アミノ酸を添加したIMDMを使用した。すべて、Gibco(Invitrogen、Karlsruhe, Germany)から購入した。CD34+始原細胞(50,000個の細胞)と、血小板(2×108/ml)とを、0.2%ゼラチンでプレコーティングした96穴プレートで、37℃、5%CO2の条件下培養した。位相差顕微鏡によって、6つの枠の泡沫細胞の形成を計数した。
【0089】
図2Aに示すように、位相差顕微鏡によって、CD34+幹細胞から泡沫細胞への分化が示された。左図に、泡沫細胞の形成の見られないコントロールCD34+細胞を示す。また、右図に、血小板(矢印)存在下における泡沫細胞の形成を示す。
スカベンジャー受容体CD68陽性の免疫蛍光染色像(図2B)と泡沫細胞の透過型電子顕微鏡像(図2C)より、CD34+細胞と血小板との共存培養で生じた「巨大細胞」は、実際、泡沫細胞であることが、実証された。
【0090】
6. 得られた泡沫細胞の機能的な特性評価
in vitroで生成された泡沫細胞の機能的な特徴を調べるために、泡沫細胞がアセチル化LDL(acLDL)を取り込めるかどうか実験を行った。得られた泡沫細胞と、蛍光標識したacLDL(Dil−AcLDL)とを培養し、次いでメパクリンで密顆粒を染色することにより、これを実施した。次いで、共焦点レーザー顕微鏡を用いて画像判定したところ、得られた泡沫細胞のacLDLの取り込み、およびそれをもって泡沫細胞の機能性が、明らかに実証された。図3Aを参照のこと、スケールバー25μm。
【0091】
さらに、ROS(「活性酸素種」)測定法を用いた。一般的には、炎症の過程で、単球は血管壁を通して浸潤し、そこでマクロファージに分化し、サイトカイン、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)のようなプロテアーゼ、および補体因子だけでなく、酸化したフリーラジカル(ROS)も産生する。in vitroで血小板とCD34+幹細胞との共存培養から得られた泡沫細胞は、ROSを遊離し、さらに、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP−9)も産生することがわかった。このことから、機能的な泡沫細胞が得られたことがさらに実証された。
【0092】
7. CD68−Fc融合タンパク質による、泡沫細胞の形成および機能の抑制
in vitroで10日間、血小板とCD34+幹細胞とを共存培養することにより、泡沫細胞が得られた。培養した一部を、CD68−Fcホモダイマーで処理し、別の一部を、コントロールとしてFc単体で処理した。次いで、CD68−Fcホモダイマーとの培養により、泡沫細胞の形成が抑制されるかどうかを顕微鏡を用いて解析した。結果を図3Bに示す。
Fcで処理(左図)しても、泡沫細胞の形成に何ら効果はないが、CD68−Fcホモダイマーで処理(右図)した場合、泡沫細胞の形成が抑制されることが示された。
【0093】
図3Cに、泡沫細胞の形成抑制は、CD68−Fcホモダイマーの添加量に依存することが示されている。400μg/mlのCD68−Fcホモダイマーでは、ほぼ完全に泡沫細胞の形成が抑えられた。ここでも、コントロールとして、Fc単体を用いた。
【0094】
さらに、別の実験では、CD68−Fcホモダイマーの濃度を上げて培養すると、コントロールタンパク質と比較して、泡沫細胞の上清中のMMP−9の発現が抑制されることが分かった。実験結果を図4に示す。バンドは、MMP−9の発現レベルに相当する。以下のサンプルを、対応する番号のレーンにロードした。
1. コントロールCD34、
2. コントロールCD34、
3. コントロールタンパク質100g/ml、
4. コントロールタンパク質400μg/ml、
5. CD68−Fcホモダイマー100g/ml、
6. CD68−Fcホモダイマー200g/ml、
7. CD68−Fcホモダイマー400g/ml、
8. フルバスタチン1μM。
非常に特徴的なスタチンであるフルバスタチン(レーン8)と同様に、CD68−Fcホモダイマー(レーン5、6および7)の存在下では、泡沫細胞によるMMP−9の形成が、明らかに抑制されることが示された。
【0095】
8. 診断薬としてのCD68−Fc融合タンパク質
手術で患者の頸動脈から摘出したアテローム斑を、分解して、懸濁した後、培養プレートに移して、表面を乾燥した。次いで、CD68もしくはGPVIのFc部、またはFc単体のそれぞれに対する特異的なELISAを行なった。結果を図5Aに示す。並行して、頸動脈の血栓内膜切除術の組織標本を用いて、ヒト組織の免疫組織学的な解析を行った。結果を図5Bに示す。
【0096】
いずれの場合も、アテローム斑組織に対して全く特異的結合を示さないコントロールFcタンパク質(図中、Fc)と比較して、CD68−Fc融合タンパク質では、アテローム斑組織への結合が、有意に起こることが示された。ポジティブコントロールとして、ヒトアテローム斑組織のコラーゲン構造に結合するタンパク質を用いた(図中、コントロール)。
【0097】
更に、アテローム性動脈硬化症ApoEマウス、および野生型マウスに対して、ヨウ素−124標識CD68−Fcを生体内に適用した。24週齢のアテローム性動脈硬化症マウスと、有意なアテローム性動脈硬化のないコントロール野生型マウスに、ヨウ素−124標識CD68−Fcを投与した。次いで、臓器を摘出した。オートラジオグラフィーを用いて、左右の頸動脈および大動脈弓を、ex vivoで分析した。結果を図6に示す。
【0098】
部分図(A)で示されるように、アテローム性動脈硬化のない血管と比較して、アテローム性動脈硬化の血管部分で、放射能の顕著な上昇が観察された。部分図(B)に、オイルレッドによる染色像およびそれに対応するオートラジオグラフィーを示す。部分図(C)は、オートラジオグラフィーの定量的評価を示す。
【0099】
ApoEマウスから摘出したアテローム性動脈硬化の血管(大動脈弓)では、野生型マウスから摘出したアテローム性動脈硬化のない血管と比較して、ヨウ素−124標識CD68−Fc融合タンパク質の蓄積量が、大幅に増大することが示された。頸動脈の部分においては、野生型と比較して、ApoEマウスで、CD68−Fc融合タンパク質の蓄積量の有意な増大は観察されなかった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 変性LDLに特異的に結合する第1のポリペプチド、および(b)二量化を媒介する第2のポリペプチドを含む融合タンパク質。
【請求項2】
変性LDLが、酸化LDL(oxLDL)であることを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
第1のポリペプチドが、CD68、好ましくはCD68の細胞外ドメイン、またはCD68のLDL結合機能を有するそれらのフラグメントもしくは変異体を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
第2のポリペプチドが、免疫グロブリンのFcドメイン、またはFcドメインの二量化機能を有する該Fcドメインのフラグメントもしくは変異体を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項5】
Fcドメインの変異体が、補体およびFc受容体の結合領域に、融合タンパク質の免疫原性を減弱するような突然変異を含むことを特徴とする請求項4に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
融合タンパク質が、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとを接続するエレメントをさらに含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項7】
第1のポリペプチドが、添付の配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項8】
第1のポリペプチドが、添付の配列表の配列番号2もしくは3で示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子、またはその変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じポリペプチドをコードする変異体を含む核酸分子によって、コードされることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項9】
第2のポリペプチドが、添付の配列表の配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項10】
第2のポリペプチドが、添付の配列表の配列番号5で示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子、またはその変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じポリペプチドをコードする変異体を含む核酸分子によって、コードされることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項11】
添付の配列表の配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項12】
添付の配列表の配列番号7もしくは8で示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子、またはその変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じ融合タンパク質をコードする変異体を含む核酸分子によって、コードされることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項13】
融合タンパク質が、検出可能なマーカーをさらに含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の融合タンパク質を含むホモダイマー。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれかに記載の融合タンパク質をコードする核酸分子。
【請求項16】
(a)変性LDL、好ましくは酸化LDLに特異的に結合するポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列、および(b)二量化を媒介するポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列を含む請求項15に記載の核酸分子。
【請求項17】
添付の配列表の配列番号2もしくは3で示されるヌクレオチド配列、またはその変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じポリペプチドをコードする変異体を含むことを特徴とする請求項15または16に記載の核酸分子。
【請求項18】
添付の配列表の配列番号5で示されるヌクレオチド配列、またはその変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じポリペプチドをコードする変異体を含むことを特徴とする請求項15〜17のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項19】
添付の配列表の配列番号7もしくは8で示されるヌクレオチド配列、またはその変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じポリペプチドをコードする変異体を含むことを特徴とする請求項15〜18のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項20】
請求項1〜13のいずれかに記載の融合タンパク質、および/または請求項14に記載のホモダイマーおよび/または請求項15〜19のいずれかに記載の核酸分子、ならびに、適用可能な場合、薬学的および/または診断的に許容される担体、および、適用可能な場合、薬学的および/または診断的に有効であるさらなる添加物を含む医薬用および/または診断用の組成物。
【請求項21】
アテローム性動脈硬化とアテローム斑を含む急性または慢性血管障害の治療および/または診断に用いる医薬用および/または診断用の組成物を製造するための、請求項1〜13のいずれかに記載の融合タンパク質、および/または請求項14に記載のホモダイマーおよび/または請求項15〜19のいずれかに記載の核酸分子の使用。
【請求項22】
(1)請求項13に記載の融合タンパク質、および/または請求項14に記載のホモダイマーの調製、
(2)融合タンパク質および/またはホモダイマーの生体内への導入、および
(3)撮像法を利用した、生体内に特異的に蓄積した融合タンパク質の視覚化
の工程を含む、生体における、アテローム性動脈硬化およびアテローム斑を含む急性または慢性血管障害の診断方法。
【請求項23】
(1)変性LDL、好ましくは酸化LDLに特異的に結合するポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列の調製、
(2)二量化を媒介するポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列の調製、
(3)融合タンパク質をコードする融合配列を得るための、第1および第2のヌクレオチド配列の連結、
(4)発現ベクターへの融合配列のクローニング、
(5)発現に適した細胞への発現ベクターの導入、
(6)細胞における融合タンパク質の発現、および
(7)融合タンパク質の細胞からの単離
の工程を含む、請求項1〜13のいずれかに記載の融合タンパク質の製造方法。
【請求項1】
(a) 変性LDLに特異的に結合する第1のポリペプチド、および(b)二量化を媒介する第2のポリペプチドを含む融合タンパク質。
【請求項2】
変性LDLが、酸化LDL(oxLDL)であることを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
第1のポリペプチドが、CD68、好ましくはCD68の細胞外ドメイン、またはCD68のLDL結合機能を有するそれらのフラグメントもしくは変異体を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
第2のポリペプチドが、免疫グロブリンのFcドメイン、またはFcドメインの二量化機能を有する該Fcドメインのフラグメントもしくは変異体を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項5】
Fcドメインの変異体が、補体およびFc受容体の結合領域に、融合タンパク質の免疫原性を減弱するような突然変異を含むことを特徴とする請求項4に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
融合タンパク質が、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとを接続するエレメントをさらに含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項7】
第1のポリペプチドが、添付の配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項8】
第1のポリペプチドが、添付の配列表の配列番号2もしくは3で示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子、またはその変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じポリペプチドをコードする変異体を含む核酸分子によって、コードされることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項9】
第2のポリペプチドが、添付の配列表の配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項10】
第2のポリペプチドが、添付の配列表の配列番号5で示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子、またはその変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じポリペプチドをコードする変異体を含む核酸分子によって、コードされることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項11】
添付の配列表の配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項12】
添付の配列表の配列番号7もしくは8で示されるヌクレオチド配列を含む核酸分子、またはその変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じ融合タンパク質をコードする変異体を含む核酸分子によって、コードされることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項13】
融合タンパク質が、検出可能なマーカーをさらに含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の融合タンパク質を含むホモダイマー。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれかに記載の融合タンパク質をコードする核酸分子。
【請求項16】
(a)変性LDL、好ましくは酸化LDLに特異的に結合するポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列、および(b)二量化を媒介するポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列を含む請求項15に記載の核酸分子。
【請求項17】
添付の配列表の配列番号2もしくは3で示されるヌクレオチド配列、またはその変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じポリペプチドをコードする変異体を含むことを特徴とする請求項15または16に記載の核酸分子。
【請求項18】
添付の配列表の配列番号5で示されるヌクレオチド配列、またはその変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じポリペプチドをコードする変異体を含むことを特徴とする請求項15〜17のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項19】
添付の配列表の配列番号7もしくは8で示されるヌクレオチド配列、またはその変異体であって、遺伝コードの縮重により、同じポリペプチドをコードする変異体を含むことを特徴とする請求項15〜18のいずれかに記載の核酸分子。
【請求項20】
請求項1〜13のいずれかに記載の融合タンパク質、および/または請求項14に記載のホモダイマーおよび/または請求項15〜19のいずれかに記載の核酸分子、ならびに、適用可能な場合、薬学的および/または診断的に許容される担体、および、適用可能な場合、薬学的および/または診断的に有効であるさらなる添加物を含む医薬用および/または診断用の組成物。
【請求項21】
アテローム性動脈硬化とアテローム斑を含む急性または慢性血管障害の治療および/または診断に用いる医薬用および/または診断用の組成物を製造するための、請求項1〜13のいずれかに記載の融合タンパク質、および/または請求項14に記載のホモダイマーおよび/または請求項15〜19のいずれかに記載の核酸分子の使用。
【請求項22】
(1)請求項13に記載の融合タンパク質、および/または請求項14に記載のホモダイマーの調製、
(2)融合タンパク質および/またはホモダイマーの生体内への導入、および
(3)撮像法を利用した、生体内に特異的に蓄積した融合タンパク質の視覚化
の工程を含む、生体における、アテローム性動脈硬化およびアテローム斑を含む急性または慢性血管障害の診断方法。
【請求項23】
(1)変性LDL、好ましくは酸化LDLに特異的に結合するポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列の調製、
(2)二量化を媒介するポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列の調製、
(3)融合タンパク質をコードする融合配列を得るための、第1および第2のヌクレオチド配列の連結、
(4)発現ベクターへの融合配列のクローニング、
(5)発現に適した細胞への発現ベクターの導入、
(6)細胞における融合タンパク質の発現、および
(7)融合タンパク質の細胞からの単離
の工程を含む、請求項1〜13のいずれかに記載の融合タンパク質の製造方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【公表番号】特表2009−537121(P2009−537121A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510318(P2009−510318)
【出願日】平成19年5月5日(2007.5.5)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003984
【国際公開番号】WO2007/131654
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(505468059)エバーハルト・カールス・ユニバーシタット テュービンゲン ユニバーシタットスクリニクム (6)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月5日(2007.5.5)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003984
【国際公開番号】WO2007/131654
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(505468059)エバーハルト・カールス・ユニバーシタット テュービンゲン ユニバーシタットスクリニクム (6)
【Fターム(参考)】
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