説明

抗炎症作用剤

【課題】ガラクトサミノグリカンを有効成分とする新規な抗炎症作用剤を提供する。
【解決手段】ヘキスロン酸残基とガラクトサミン残基からなる二糖単位の繰り返し構造を基本骨格とするガラクトサミノグリカンであって、平均で、分子中の前記二糖単位の約50%〜約70%、好ましくは約55%〜約65%が硫酸基を有しないヘキスロン酸残基と4位および6位のヒドロキシル基が同時に硫酸エステル化されているガラクトサミン残基とからなるガラクトサミノグリカンまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする、抗炎症作用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラクトサミノグリカンを有効成分とする新規な抗炎症作用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラクトサミノグリカンは、ヘキスロン酸残基とガラクトサミン残基からなる二糖単位の繰り返し構造を基本骨格とするグリコサミノグリカンであり、その代表的なものとしてはコンドロイチン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸が知られている。動物等の生体内においてコンドロイチン硫酸は通常プロテオグリカンとして存在しており、二糖単位における硫酸基の結合位置および結合数が異なる分子種としてコンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸B(デルマタン硫酸)、コンドロイチン硫酸C、コンドロイチン硫酸D、コンドロイチン硫酸E、コンドロイチン硫酸K等が知られている。
【0003】
コンドロイチン硫酸またはその誘導体は医薬品および食品として種々の用途に使用されており、骨代謝改善剤(特許文献1)、抗ヘルペスウイルス剤(特許文献2)、カリクレイン−キニン系阻害剤(特許文献3)、医薬品、化粧品、食品添加物等(特許文献4)、マトリックスメタロプロテアーゼ関連疾患の予防および/または治療薬(特許文献5)、破骨細胞形成抑制剤(特許文献6)、免疫制御剤(特許文献7)、アレルギー性疾患処置剤(特許文献8)などが開示されており、特許文献2、特許文献6、特許文献7にはコンドロイチン硫酸Eの利用も開示されているが、一般に医薬品、食品の用途に利用されているコンドロイチン硫酸はいずれも天然由来のコンドロイチン硫酸Aおよびコンドロイチン硫酸Cであり、コンドロイチン硫酸Eの利用は極めて限られ、抗炎症作用剤としての用途は知られていない。
【特許文献1】特開平7−53388号公報
【特許文献2】特開平9−202731号公報
【特許文献3】特開平11−147901号公報
【特許文献4】特開2001−247602号公報
【特許文献5】特開2002−226380号公報
【特許文献6】特開2004−210715号公報
【特許文献7】特開2005−82491号公報
【特許文献8】特開2005−255678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ガラクトサミノグリカンを有効成分とする新規な抗炎症作用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定のガラクトサミノグリカンが炎症反応を特異的に抑制する作用を有し、このような物質を有効成分とすることによって、新規かつ有効な抗炎症作用剤を提供できることを見い出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明は、ヘキスロン酸残基とガラクトサミン残基からなる二糖単位の繰り返し構造を基本骨格とするガラクトサミノグリカンであって、平均で、分子中の前記二糖単位の約50%〜約70%、好ましくは約55%〜約65%(%は分子中の二糖単位のモル%である)が硫酸基を有しないヘキスロン酸残基と4位および6位のヒドロキシル基が同時に硫酸エステル化されているガラクトサミン残基とからなるガラクトサミノグリカンまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする、抗炎症作用剤を提供する。
【0007】
前記本発明の抗炎症作用剤に使用されるガラクトサミノグリカンは、平均で、分子中の前記二糖単位の好ましくは約5%〜約25%、より好ましくは約5%〜約20%、さらに好ましくは約10%〜約15%(%は分子中の二糖単位のモル%である)が、硫酸基を有しないヘキスロン酸残基と6位のヒドロキシル基のみが硫酸エステル化されているガラクトサミン残基とからなることが好ましい。
【0008】
また、前記本発明の抗炎症作用剤に使用されるガラクトサミノグリカンは、このガラクトサミノグリカンの1%溶液100μLにコンドロイチナーゼABC2.5Uを加え、pH8.0、37℃で一晩反応させたときの消化率が、平均で、好ましくは80%〜100%、より好ましくは90%〜100%、さらに好ましくは95%〜100%(%は分子中のヘキスロン酸残基およびガラクトサミン残基間の全結合数に対する切断された結合の数の百分率である)であるガラクトサミノグリカンである。
【0009】
さらに、前記本発明の抗炎症作用剤に使用されるガラクトサミノグリカンは、好ましくは約1,000〜約100,000ダルトン(Da)、より好ましくは約10,000〜約90,000Da、さらに好ましくは約30,000〜80,000Da、最も好ましくは約75,000Daの重量平均分子量を有する。
【0010】
また、本発明の抗炎症作用剤は、炎症性骨・軟骨疾患の処置剤であることが好ましく、関節症または関節炎の処置剤であることがより好ましく、慢性関節リウマチ症または変形性関節症の処置剤であることが最も好ましい。
また、本発明の抗炎症作用剤は、注射剤または経口投与剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定の構造、性質を有するガラクトサミノグリカンを選択し、これを有効成分として用いたことにより、生体の炎症反応を特異的に抑制することができ、しかも他のガラクトサミノグリカンと比較しても統計学的に有意に高い抗炎症効果を得ることができる。したがって、生体物質であり動物などの投与対象に安全であるガラクトサミノグリカンを有効成分とする抗炎症作用剤のなかでも、特に高い特異的な抗炎症効果を有する極めて有用な抗炎症作用剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本明細書において用いた主な略号の意味を下記に示す。
【0013】
ΔDi-0S:2−アセトアミド−2−デオキシ−3−O−(4−デオキシ−α−L−スレ
オ−ヘキシ−4−エノピラノシルウロン酸)−D−ガラクト−ス
ΔDi-4S:2−アセトアミド−2−デオキシ−3−O−(4−デオキシ−α−L−スレ
オ−ヘキシ−4−エノピラノシルウロン酸)−4−O−スルホ−D−ガラクト−ス
ΔDi-6S:2−アセトアミド−2−デオキシ−3−O−(4−デオキシ−α−L−スレ
オ−ヘキシ−4−エノピラノシルウロン酸)−6−O−スルホ−D−ガラクトース
ΔDi-diSD:2−アセトアミド−2−デオキシ−3−O−(4−デオキシ−2−O−ス
ルホ−α−L−スレオ−ヘキシ−4−エノピラノシルウロン酸)−6−O−スルホ−D−
ガラクトース
ΔDi-diSE:2−アセトアミド−2−デオキシ−3−O−(4−デオキシ−α−L−ス
レオ−ヘキシ−4−エノピラノシルウロン酸)−4,6−ビス−O−スルホ−D−ガラク
トース
ΔDi-diSB:2−アセトアミド−2−デオキシ−3−O−(4−デオキシ−2−O−ス
ルホ−α−L−スレオ−ヘキシ−4−エノピラノシルウロン酸)−4−O−スルホ−D−
グリコース
ΔDi-triS:2−アセトアミド−2−デオキシ−3−O−(4−デオキシ−2−O−ス
ルホ−α−L−スレオ−ヘキシ−4−エノピラノシルウロン酸)−4,6−ビス−O−ス
ルホ−D−グリコース
OA:変形性膝関節症(osteoarthritis)
RA:関節リウマチ(rheumatoid arthritis)
【0014】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
(1)本発明の抗炎症作用剤に使用されるガラクトサミノグリカン
一般的に「ガラクトサミノグリカン」とは、ガラクトサミン残基(具体例:N−アセチル−D−ガラクトサミン残基)とヘキスロン酸残基(具体例:D−グルクロン酸残基あるいはL−イズロン酸残基)からなる二糖の繰り返し構造を基本骨格とし、構成糖であるガラクトサミン残基の4位、6位または4位および6位、あるいは/及びヘキスロン酸残基の2位に硫酸基を有するグリコサミノグリカンの総称で、通常デルマタン硫酸及びコンドロイチン硫酸を意味する(Annu. Rev. Biochem., 60, 443-457, 1991)。
【0016】
本発明の抗炎症作用剤の有効成分であるガラクトサミノグリカンは、ヘキスロン酸残基とガラクトサミン残基からなる二糖単位の繰り返し構造を基本骨格とし、かつ分子中の50%〜70%の該二糖単位が硫酸基を有しないヘキスロン残基と4位および6位のヒドロキシル基が同時に硫酸エステル化されているガラクトサミン残基からなるガラクトサミノグリカンである。このようなガラクトサミノグリカンとしては、具体的には二硫酸化二糖繰り返し単位{GlcAβ1-3GalNAc(4,6-bisSO4)またはIdoAα1-3GalNAc(4,6-bisSO4)[GlcAはD−グルクロン酸残基、IdoAはL−イズロン酸残基、GalNAc(4,6-bisSO4)は4位と6位のヒドロキシル基が共に硫酸化されているD−N−アセチルガラクトサミン残基、β1-3はβ1-3結合を、α1-3はα1-3結合を示す]}を有し、かつ該二硫酸化二糖繰り返し単位が分子中の50%〜70%を占めるガラクトサミノグリカンが挙げられる。
【0017】
このようなガラクトサミノグリカンとしては、例えばマイカ、アカイカ、スルメイカ、ヤリイカ等のイカの軟骨から抽出精製されるコンドロイチン硫酸E、コンドロイチン硫酸A(N−アセチルガラクトサミン−4−硫酸残基がガラクトサミン残基の主要部を占めるコンドロイチン硫酸)のガラクトサミン残基6位を特異的に硫酸エステル化したガラクトサミノグリカン、デルマタン硫酸(N−アセチルガラクトサミン−4−硫酸残基がガラクトサミン残基が多くの部分を占め、ヘキスロン酸が主にL−イズロン酸であるコンドロイチン硫酸)のガラクトサミン残基6位を特異的に硫酸エステル化したガラクトサミノグリカンが例示される(http://www.glycoforum.gr.jp/science/word/proteoglycan/PGA06J.htmlおよびhttp://hobab.fc2web.com/sub4-glycosaminoglucan.htm 参照)。
【0018】
イカの軟骨からコンドロイチン硫酸Eを抽出精製する方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により抽出精製することができるが、一例としては以下の方法が挙げられる。すなわち、イカ軟骨をプロテアーゼで加水分解してタンパク質を分解し、加水分解液を濾過後、濾液を塩化ナトリウム存在下でエタノール等のアルコールを用いてガラクトサミノグリカン画分を沈殿させることによりコンドロイチン硫酸Eを得ることができる。必要に応じて、複数回のプロテアーゼ処理や水酸化ナトリウム水溶液処理、アルコール沈殿、濾過、脱塩することにより抽出液中のタンパク質及びペプチド含量を低下させることができる。
【0019】
なお、本発明の抗炎症作用剤に使用されるガラクトサミノグリカンの抽出精製方法は、上記方法に限定されることはなく、特公昭60−9042号、特公昭61−21241号、特開平9−202731号等に記載された公知の方法に準じて抽出、精製して得ることもできる。
【0020】
また、コンドロイチン硫酸Aおよびデルマタン硫酸のガラクトサミン残基の特定の位置を特異的に硫酸エステル化する方法も特に限定されず、公知の化学的方法により行うことができる。コンドロイチン硫酸Aおよびデルマタン硫酸自体も動物軟骨などのコンドロイチン硫酸Aまたはデルマタン硫酸を含むことが知られている天然材料から公知の方法により抽出精製することができる。
【0021】
本発明の抗炎症作用剤に使用されるガラクトサミノグリカンは薬理学的に許容される塩の形態にあってもよく、薬理学的に許容される塩であればその種類は特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩等が好ましく、ナトリウム塩が特に好ましい(以下、特に断らない限り、用語「ガラクトサミノグリカン」は、その薬理学的に許容される塩も含めた意味で使用する)。
【0022】
本発明のガラクトサミノグリカンの重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは約1,000〜約100,000Da、より好ましくは約10,000〜約90,000Da、さらに好ましくは約30,000〜80,000Da、最も好ましくは約75,000Daである。
【0023】
なお、ガラクトサミノグリカン分子中の硫酸基の位置および量は公知の方法によって分析することができ、例えば、新生化学実験講座3、糖質II、p49-62(1991年、東京化学同人発行、「2・8グリコサミノグリカン分解酵素とHPLCを組合わせた構造解析」に記載された方法により分析することができる。
【0024】
より詳細には、ガラクトサミノグリカンに作用して不飽和二糖を生成させるリアーゼでガラクトサミノグリカンを酵素処理し、該ガラクトサミノグリカンの構成二糖の種類及び量を反映して生成する不飽和二糖(前記略号で示した不飽和二糖)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、同定及び定量することができる。
【0025】
不飽和二糖分析で用いるリアーゼは、最終的に不飽和二糖にまで分解することができるリアーゼであれば特に限定されず、分析するガラクトサミノグリカンに応じて当業者が適宜選択することができ、例えばコンドロイチナーゼ、ヒアルロニダーゼ等を使用することができる。
【0026】
上記のHPLCによる分析方法は、当業者には公知の方法であり、ガラクトサミノグリカンを酵素処理して得た不飽和二糖の溶出位置を、標準不飽和二糖の溶出位置と比較することにより不飽和二糖を同定、定量することができる。HPLCでの溶出位置は、通常紫外部(例えば波長232nm)の吸収によりモニターし、各二糖単位のガラクトサミノグリカン中での含量は、その溶出パターンの積分値(面積)を濃度既知の標準不飽和二糖の溶出パターンの積分値(面積)と比較することにより求めることができる。
【0027】
近接する溶出位置をもつ下記ΔDi-4S及びΔDi-6Sの区別、並びに、ΔDi-diSB及びΔDi-diSEの厳密な区別は、特異的なスルファターゼ(例えばコンドロ−6−スルファターゼ等)による消化を使用することにより行うことができる。すなわち、例えば不飽和二糖をコンドロ−6−スルファターゼにより処理した結果、HPLCでの溶出位置がΔDi-4Sの位置にシフトした分がΔDi-diSEであると同定される。また、溶出位置が近接する不飽和二糖同士の分離が可能なカラム(例えば、ゾルバックスSAX(Zorbax SAX)カラム;Rockland Technologies 社製等)を用いて、これら不飽和二糖を厳密に区別することが可能である。なお、D−グルクロン酸残基の1位とN−アセチル−D−ガラクトサミン残基の4,6−二硫酸化物の3位とがグリコシド結合した構造、及びL−イズロン酸残基の1位とN−アセチル−D−ガラクトサミン残基の4,6−二硫酸化物の3位とがグリコシド結合した構造は、二糖分析においてはいずれもΔDi-diSEとして検出される。
【0028】
本発明において、ガラクトサミノグリカンの「構成不飽和二糖組成」とは、上記のようにしてガラクトサミノグリカンをリアーゼにより分解して生成した各不飽和二糖について求められた生成不飽和二糖全体に対する比率を意味し、モル%で表す。この値は、リアーゼで分解する前のガラクトサミノグリカン分子中における種々の位置に硫酸基を有する構成二糖の割合に対応する。したがって、このような方法で本発明の抗炎症作用剤に使用されるガラクトサミノグリカンを分析すると、ΔDi-diSEが約50モル%〜約70モル%、より好ましくは約55モル%〜約65モル%となる。また、ΔDi-6Sが約5モル%〜約25モル%であるものが好ましく、約5モル%〜約20モル%であるものがより好ましく、約10モル%〜約15モル%であるものがさらに好ましい。さらに、ΔDi-4Sは約5モル%〜約30モル%が好ましく、約10モル%〜約25モル%であるものがより好ましい。
【0029】
なお、本発明において、上記ガラクトサミノグリカンは、後述の通り、抗炎症作用剤として哺乳動物に投与するので、高純度に精製され、医薬品または食品として混入が許されない物質を実質的に含有しないものが好ましい。すなわち、例えば重金属含量が好ましくは20ppm以下、より好ましくは10ppm以下、ヒ素含量が好ましくは2ppm以下、より好ましくは1.5ppm以下、一般生菌数が好ましくは1000個/g以下、より好ましくは300個/g以下等の条件を満足するものである。また、本発明の抗炎症作用剤を注射薬として使用する場合には、さらにエンドトキシン、抗凝固性物質を実質的に含まないものが好ましい。具体的には、例えばエンドトキシン含量は0.03EU(エンドトキシン単位)以下であり(日本工業規格、生化学試薬通則K8008「エンドトキシン試験」等の公定書参照)、ヘパリン含量(HPLCによる分析法はWO95/09188参照)は0.15%以下であることが好ましい。
【0030】
(2)抗炎症作用剤
本発明の抗炎症作用剤は、上述のガラクトサミノグリカンを有効成分とするものであり、ヒトを含む哺乳動物に投与/摂取させるための医薬品および機能性食品(特定保険用食品も包含する)などの飲食物として使用される。ヒト以外の哺乳動物としては、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、マウス、ラット、モルモット等が例示される。
【0031】
本発明の抗炎症作用剤は、炎症性疾患の予防、維持(悪化防止)、軽減(症状改善)、治療等の目的で用いられる。ここで、炎症性疾患とは、哺乳動物の組織および/または臓器における局所性または全身性の炎症反応によって惹起される疾患をいうものであり、本発明の抗炎症作用剤は、好ましくは炎症性の骨・軟骨疾患の処置剤として使用される。骨・軟骨疾患としては、関節症または関節炎が例示され、より典型的には全身性炎症疾患である慢性関節リウマチ症や関節における局所的な炎症反応による変形性関節症が例示される。
【0032】
ところで、ミッドカインは、ヘパリン結合性の増殖/分化因子の1種であり、近年リウマチ性関節炎(RA)と変形性関節症(OA)でいずれも関節液中のミッドカイン値が上昇すること、好中球が深く関与する炎症状態においてミッドカインが高いレベルを示すことが報告されており(Takeda, T. et al, J. Biochem., 122, 453-458, 1997)、またミッドカインのアンタゴニストの好中球の遊走抑制効果による炎症性疾患治療剤も提案されている(WO99/03493)。本発明の抗炎症作用剤は、作用メカニズムによって限定されるものではないが、本発明のガラクトサミノグリカンのミッドカインに対する作用も期待されることから(http://www.glycoforum.gr.jp/science/glycogenes/09/09J.html およびhttp://www.midkine.org/p01-j.html 参照)、このような作用メカニズムを介して抗炎症作用を発揮する可能性もある。
【0033】
本発明の抗炎症作用剤は、上記のようなガラクトサミノグリカンを有効成分とし、炎症性疾患の処置剤である限りにおいて、その投与目的、投与対象、投与経路、投与方法、剤形、有効成分の配合量、投与量、投与間隔等も特に限定されない。
【0034】
本発明の抗炎症作用剤の投与経路は、上記目的が達成される限り特に限定されず、投与方法としては、例えば、注射(関節腔内、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、胸腔内、脊髄腔内等)、点滴、経口、経皮、吸入、注腸、経直腸、経鼻、点眼、点鼻、粘膜への塗布投与等が例示される。投与方法は治療等が所望される部位等によって適宜選択することができ、注射による特定部位への直接投与、経口投与、その他の上記投与方法を適宜選択することができる。
【0035】
本発明の抗炎症作用剤の剤形としては、溶液製剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、分散製剤、半固形製剤、粉粒製剤、成型製剤、浸出製剤が挙げられ、具体的には錠剤、被覆錠剤、糖衣剤、丸剤、トローチ剤、硬カプセル剤、マイクロカプセル剤、リポ化剤、埋込剤、粉末剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、注射剤、液剤、エリキシル剤、エマルジョン剤、シロップ剤、水剤、乳剤、懸濁剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤、スプレー剤、吸入剤、噴霧剤、軟膏製剤、硬膏製剤、貼付剤、パスタ剤、パップ剤、テープ剤、ゲル剤、クリーム剤、油剤、坐剤、チンキ剤、皮膚用水剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、塗布剤、輸液剤、凍結乾燥製剤、注射剤などのための粉粒剤、機能性食品等が挙げられる。
【0036】
液剤は、例えば適当な水性溶媒あるいは医薬分野において慣用されている溶媒に、有効成分とするガラクトサミノグリカンを溶解させることにより製造することができる。このような溶媒としては、蒸留水、注射用水、緩衝液、生理食塩水、水混和性有機溶媒を含有する水等が例示される。
【0037】
注射剤として提供する場合、その形態は、溶液、凍結物、凍結乾燥物等のいずれであってもよい。これをアンプル、バイアル、注射用シリンジ等の適当な容器に充填・密封し、そのまま流通させあるいは保存して、注射剤として投与することができる。
【0038】
本発明の抗炎症作用剤の製剤化には公知の方法を用いることができる。また製剤化にあたり、ガラクトサミノグリカンの抗炎症作用に対して悪影響を与ない限りにおいて、他の医薬活性成分(例えば抗炎症剤、鎮痛剤、ビタミン剤、抗菌剤、成長因子、接着因子など)や、安定化剤、乳化剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、緩衝剤、等張化剤、保存剤、無痛化剤、着色剤、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤等、医薬分野において通常用いられている成分を使用できる。
【0039】
製剤におけるガラクトサミノグリカンの配合量、1回あたりの投与量、投与間隔等は、投与目的、投与対象、投与経路、投与方法、剤形、患者の具体的症状、年齢、性別、体重等に応じて個別に決定されるべき事項であり、特に限定されないが、経口投与の場合、成人1人1回当り1mg〜5g程度、非経口投与の場合、成人1人1回当り0.1mg〜1g程度が例示される。
【0040】
また本発明処置剤の投与は、1回限りでもよく、複数回投与してもよい。複数回投与する場合には、連日投与してもよく、また1日間〜7日間程度の間隔をあけて投与してもよい。また1日1回投与してもよく、1日2〜3回に分けて投与することもできる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、特に断らない限り、「分子量」、「平均分子量」とは「重量平均分子量」を意味する。また、「構成不飽和二糖組成」における「%」は「モル%」を意味する。
【0042】
[実施例1] 関節炎モデルマウスにおける炎症抑制効果
Balb/Cマウス(6週齢)に対し、関節炎発現性モノクローナル抗体混合物(岩井化学薬品(株)販売)0.5mgを含有する溶液0.125mlを第1日に腹腔内投与し、第2日に同一溶液を同量・同経路で投与した。次いでリポ多糖50μgを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液0.1mlを第4日に腹腔内に投与し、関節炎を惹起させ、関節炎モデルマウスを作成した。
【0043】
リポ多糖投与の2時間後、薬剤投与群として後述の参考例1で調製したガラクトサミノグリカン画分1(CS-E/構成不飽和二糖組成:ΔDi-0S = 6.3%、ΔDi-4S = 25.3%、ΔDi-6S = 11.2%、ΔDi-diSD = 0%、ΔDi-diSE = 57.2%/平均分子量:75,000Da)を5mg/ml含有するPBS溶液0.2mlを関節炎モデルマウス(8匹)の腹腔内に投与した。また、陽性対照群としてガラクトサミノグリカンと同量のコンドロイチン硫酸A(CS-A;生化学工業(株)製)を同マウス(8匹)の腹腔内に、陰性対照群としてPBS溶液0.2mlを同マウス(7匹)の腹腔内にそれぞれ投与した。第8日に各マウスの各足における関節炎の重篤度を下記の5段階(関節炎スコア:0〜4)の基準に基づいて評価し、四肢の値を合計した。結果を図1に示す。
【0044】
図1に示した結果から明らかなように、本発明のガラクトサミノグリカンを投与した薬剤投与群では、本発明のガラクトサミノグリカンと同様に硫酸エステル化されたガラクトサミノグリカンであるが硫酸エステル化された位置が異なるコンドロイチン硫酸Aを投与した陽性対照群および陰性対照群と比べて統計的に有意に関節の炎症が抑制されていた。
【0045】
〔関節炎スコア〕
0:正常
1:わずかではあるが、足首、手首は明らかに腫れて発赤している。
2:足首、手首が中等度に腫れて発赤。
3:足全体が腫れて発赤している。
4:足および複数の関節が最高度に腫脹。
[製剤例1] (錠剤)
【0046】
ガラクトサミノグリカン画分1 0.2gをとり、乳糖52g、コーンスターチ22.8g、少量の崩壊剤(5g)およびセルロース20gを加えて全量を100gの粉末とし、これをよく混合した後、1錠200mgの錠剤とする。
【0047】
[製剤例2] (カプセル剤)
ガラクトサミノグリカン画分2 150g
塩化カルシウム 50g
トウモロコシデンプン 150g
タルク 80g
ステアリン酸マグネシウム 30g
【0048】
以上を混和し、60メッシュの金網を通過させて粒度を調整した後、1000個のゼラチンカプセルに充填する。このカプセル剤は、ヒトに対して1日当り1〜3カプセルを経口投与することを意図したものである。
【0049】
[製剤例3] (注射剤)
ガラクトサミノグリカン画分1 200mg
塩化カルシウム 200mg
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 500mg
注射用蒸留水 全量が10mlとなる量
【0050】
上記の処方に従い、常法により注射剤を調製し、1アンプル2mlずつ充填する。
【0051】
[参考例1] ガラクトサミノグリカン画分1の調製
スルメイカより得られた軟骨750gを細断し、10分間煮沸した後、50℃まで冷却した。水酸化ナトリウム(NaOH)を用いてpH11に調整後、エスペラーゼ(ノボノバルティス社製)150gを用いて、pH10、50℃の条件下で一晩抽出した。
【0052】
得られた抽出液に炭酸ナトリウム3.75gを添加してpH10、50℃の条件下で1時間撹拌した後、濾過し、濾液を750mlまで濃縮した。
【0053】
得られた濃縮液に16gのNaOHを添加し、35℃で2時間反応させた後、遠心分離を行った。得られた上清を、エタノール1105ml、エタノール+3%酢酸ナトリウム(pH4.8)600ml、エタノール+3%酢酸ナトリウム(pH4.8)612mlで3回分画し、次いでエタノール1500mlを添加して粗ガラクトサミノグリカン18.8gを得た。
【0054】
得られた粗ガラクトサミノグリカン10gを0.1M Tris-HCl(pH8.0)に溶解し、アクチナーゼE(科研製薬(株)製)を加えて、37℃で一晩、さらにタンパク質を分解した。
【0055】
分解後NaOHを加えて、全反応液を0.5Nとし、40℃で1時間反応させた。次いでエタノールを反応液と等量加え、生じた沈殿を水に溶解させた。溶解後、pHを3に調整し酢酸ナトリウムを5%水溶液になるように添加した。pHを4.8±0.2に調整後、エタノールを等量加えた。
【0056】
生じた沈殿を回収し、水で溶解後、pHを4.8±0.2に調整して、エタノールを4分の1量加えた。次いで活性炭2gを加えて50℃、1時間で処理を行い、濾過助剤を用いて濾過した。濾液に酢酸ナトリウムを2%となるように添加してpH5.0〜5.5とし、濾過を行った。
【0057】
得られた濾液に等量のエタノールを加えて白濁させ、白濁液を、先に加えたエタノールと等量のエタノールに添加して沈殿させた。得られた沈殿を回収し、アルコールで洗浄後、沈殿物を分離した。沈殿物を真空乾燥機を用いて乾燥し、精製されたガラクトサミノグリカン画分1(平均分子量:約75,000Da、構成不飽和二糖組成:ΔDi-0S = 6.3%、ΔDi-4S = 25.3%、ΔDi-6S = 11.2%、ΔDi-diSD = 0%、ΔDi-diSE = 57.2%;コンドロイチナーゼABC消化率:100%)6.8gを得た。
【0058】
[参考例2] ガラクトサミノグリカン画分2の調製
参考例1で調製したガラクトサミノグリカン画分1を1.5g分取し、PBS(pH5.3)に溶解した。この溶液に羊由来睾丸ヒアルロニダーゼ(SIGMA社製)6,000Uを加えて37℃で反応させた。経時的に反応液の一部を取り、GPC-HPLCにて低分子化の度合いを調べた。
【0059】
分子量が約30kDaに達したところで反応液を煮沸して反応を停止した。得られた反応液に活性炭を加えて50℃で1時間反応させた。反応液は濾過後、濾液に3%となるように酢酸ナトリウムを加えた。この溶液に4倍量のエタノールを加えて沈殿を得た。沈殿物をエタノールで洗浄後、乾燥して精製画分(ガラクトサミノグリカン画分2/平均分子量:約30,000Da、構成不飽和二糖組成:ΔDi-0S = 6.1%、ΔDi-4S = 18.8%、ΔDi-6S = 17.1%、ΔDi-diSD = 0%、ΔDi-diSE = 58.0%;コンドロイチナーゼABC消化率:100%)1.3gを得た。
【0060】
[参考例3] ガラクトサミノグリカンの分析
参考例1および2に記載したガラクトサミノグリカン画分1および2の重量平均分子量、コンドロイチナーゼABCによる消化率、および構成不飽和二糖組成は以下に示す方法で測定した。
(1)重量平均分子量の測定
各ガラクトサミノグリカンの重量平均分子量の測定は、荒井らの方法(Biochim.
Biophy. Acta, 1117, 60-70, 1992)に準拠して求めた。
【0061】
すなわち、分子量が既知のコンドロイチン硫酸(重量平均分子量52,200、31,400、20,000、10,200、6,570、459)及びヒアルロン酸ナトリウム(重量平均分子量104,000、62,000)を標準品として高速液体クロマトグラフィーを用いたゲル濾過(GPC-HPLC)での溶出時間により決定した。カラムは、TSK gel
G4000PWXL、G3000PWXL、G2500PWXL(各φ7.8×300mm、東ソー(株)製)を連結したものを用いた。溶媒は0.2mol/L塩化ナトリウム溶液を用い、流速は0.6mL/分とし、検出器は示差屈折率検出計(RI-8100、東ソー(株)製)及び紫外可視検出器(UV-8010、東ソー(株)製)を用いた。
【0062】
(2)コンドロイチナーゼABCによる消化率の測定
各ガラクトサミノグリカン1%溶液100μLにトリス塩酸緩衝液(pH8.0)と2.5UのコンドロイチナーゼABC(生化学工業(株)製)を加えて37℃で一晩消化させた。沸騰水浴中で3分加熱して反応を停止させ、消化物50μg相当分をGPC-HPLCで分析し、酵素未消化ガラクトサミノグリカンと比較することにより消化率を算出した。
【0063】
(3)構成不飽和二糖組成分析
各ガラクトサミノグリカンの硫酸基位置の分析は、公知の方法、[新生化学実験講座3、糖質II、p49-62(1991年、東京化学同人発行)に記載の「2・8グリコサミノグリカン分解酵素とHPLCを組合わせた構造解析」参照]により以下のようにして行った。
【0064】
すなわち、ガラクトサミノグリカンをコンドロイチナーゼABC(生化学工業(株)製)により完全に二糖に消化し、生成した不飽和結合を含む二糖(不飽和二糖)群を陰イオン交換-HPLCで分析した。
【0065】
さらにこの条件下では分離不能なΔDi-diSBとΔDi-diSEとを分離するために、消化物をさらにコンドロ−6−スルファターゼ(生化学工業(株)製)で消化し、ΔDi-diSEをΔDi-4Sにシフトさせ、同様に陰イオン交換-HPLCで分析した。2つの結果を比較分析して構成不飽和二糖組成を算出した。詳細を以下に記載する。
【0066】
(i)コンドロ−6−スルファターゼによる消化
コンドロイチナーゼABCによる消化物100μg相当に対し、緩衝液C(0.02
mol/L Tris-AcOH、pH7.0)50μLに0.25 Uのコンドロ−6−スルファターゼ(生化学工業(株)製)を溶解したものを加え、37℃で24時間消化し、遠心分離により不溶物を除去した。
【0067】
(ii)HPLCによる分析
上記消化物、即ちコンドロイチナーゼABC消化液、あるいはそれをさらにコンドロ−6−スルファターゼで消化した消化液をそれぞれHPLCを用いて分析した。カラムはYMC-Pack PA-120-S5イオン交換カラム(φ2.6×250 mm、YMC(株)製)を用いた。
【0068】
流速1.5mL/分で60分間に0.8 mol/Lリン酸水素ナトリウムを2%から100%までの直線濃度勾配で流した。不飽和コンドロ−二糖キット(生化学工業(株)製)の溶出位置を基準として、この間に溶出する各種不飽和二糖を232 nmで同定し、不飽和二糖と同定されたピーク面積の総和を100%として計算して不飽和二糖組成を求めた。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明のガラクトサミノグリカン(CS-E)、陽性対照(CS-A)、陰性対照(PBS)を関節炎モデルマウスに投与し、関節炎の重篤度を関節炎スコアによって評価した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキスロン酸残基とガラクトサミン残基からなる二糖単位の繰り返し構造を基本骨格とするガラクトサミノグリカンであって、分子中の前記二糖単位の50%〜70%が硫酸基を有しないヘキスロン酸残基と4位および6位のヒドロキシル基が同時に硫酸エステル化されているガラクトサミン残基とからなるガラクトサミノグリカンまたはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする、抗炎症作用剤。
【請求項2】
前記ガラクトサミノグリカンが、分子中の前記二糖単位の5%〜25%が硫酸基を有しないヘキスロン酸残基と6位のヒドロキシル基のみが硫酸エステル化されているガラクトサミン残基とからなるガラクトサミノグリカンである、請求項1に記載の抗炎症作用剤。
【請求項3】
前記ガラクトサミノグリカンが、その1%溶液100μLにコンドロイチナーゼABC2.5Uを加え、pH8.0、37℃で一晩反応させたときの消化率が80%〜100%であるガラクトサミノグリカンである、請求項1または2に記載の抗炎症作用剤。
【請求項4】
前記ガラクトサミノグリカンが、1000〜100000ダルトンの重量平均分子量を有するガラクトサミノグリカンである、請求項1〜3のいずれかに記載の抗炎症作用剤。
【請求項5】
炎症性骨・軟骨疾患の処置剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の抗炎症作用剤。
【請求項6】
関節症または関節炎の処置剤である、請求項5に記載の抗炎症作用剤。
【請求項7】
関節症または関節炎が、慢性関節リウマチ症または変形性関節症である、請求項6に記載の抗炎症作用剤。
【請求項8】
注射剤または経口投与剤である、請求項1〜7のいずれかに記載の抗炎症作用剤。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−137815(P2007−137815A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333206(P2005−333206)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【出願人】(591038945)
【Fターム(参考)】