説明

抗生物質の使用に関連する疾患の治療

【課題】抗生物質又は癌化学療法又は抗ウイルス療法の利用に関連する疾患の治療又は予防に関する技術を提供する。
【解決手段】C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含むブドウ球菌属、又はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)を含む腸球菌による大腸炎、偽膜性大腸炎、抗菌剤関連下痢、及び感染症のような抗生物質又は癌化学療法又は抗ウイルス療法の利用に関連する疾患のTiacumicin Bによる治療又は予防。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、本明細書においてその開示全体が引用により組み込まれている2004年5月14日出願の米国特許仮出願第60/570,697号に関すると共に、それからの優先権を主張するものである。
本発明は、C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含むブドウ球菌属、又はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)を含む腸球菌による大腸炎、偽膜性大腸炎、抗菌剤関連下痢及び感染症のような抗生物質又は癌化学療法又は抗ウイルス療法の利用に関連する疾患の化合物Iによる治療又は予防に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌薬関連下痢(AAD)疾患は、クロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)、MRSAを含む黄色ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌)、及びクロストリジウム・パーフリンジェンス(C.パーフリンジェンス)の株が生成する毒素により引き起こされる。AADは、控えめの推定でも、米国単独での病院費が30〜60億ドル/年を超え、保健医療システムに対する主要な経済的負担になっている。
【0003】
また、最も一般的に腸内コロニーをもたらすバンコマイシン耐性腸球菌も、保健医療費用及び死亡率の増大に関連する主な院内病原体として現れている。VREは、C.ディフィシルに感染している患者の同時感染症として出現する可能性があり、又はより一般的には、血液及び腫瘍の患者、集中治療室の患者、及び固体臓器移植を受ける患者のようなある一定のハイリスク患者に感染症を引き起こす可能性がある。
【0004】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のようなメチシリン耐性ブドウ球菌は、病院及び地域社会環境の両方で罹患率が増大している。ブドウ球菌は、皮膚上及び消化管及び気道内に見出されるが、開放創及び火傷に感染する可能性があり、重篤な全身感染症に進行する可能性がある。抗生物質が頻繁に使用され、薬剤耐性生物へのこの選択圧力が高い病院で特に多剤耐性ブドウ球菌が出現することは、このような患者の治療に対する課題であることが確認されている。患者及び医療従事者の皮膚にMRSAが存在すると、多剤耐性生物の伝染が促進される。
また、以下に限定されるものではないが、クロストリジウム全腸炎、早発性下痢、抗生物質関連全腸炎、散発性全腸炎、及び院内全腸炎を含む同様の疾患も、一部の動物種では大きな問題である。
【0005】
AADは、病院及び長期の養護施設でも地域社会でも大きな問題である。C.ディフィシルは、病院環境でのAADの主要な原因であり、AAD症例のほぼ20%、及び抗生物質関連大腸炎(AAC)の症例の大部分を占める。クロストリジウム・デフィシル関連下痢(CDAD)の発生率の上昇は、入院患者に広域抗生物質が頻繁に処方されることが原因である。
最も重篤な形の疾患は、偽膜性大腸炎(PMC)であり、これは、組織学的には粘膜プラークを伴う大腸炎により、臨床的には重篤な下痢、腹部痙攣、及び全身毒性により明らかになる。CDADによる全死亡率は低いが、重篤な大腸炎を発症したり、全身毒性を発現する患者は遥かに多い。近年の研究では、直接の死因がC.ディフィシルでない場合でも、CDAD患者の死亡率は、症例に応じた対照例と比較して遥かに大きいことが示されている。
【0006】
下痢及び大腸炎は、1つ又はそれよりも多くのC.ディフィシル毒性の生成により引き起こされる。この生物体は、広域抗生物質が投与されるか、又はこれよりも一般的ではないが癌化学療法が施された患者の大腸で増殖する。CDADは、このような薬剤で治療した後に下痢を発症した入院患者のほぼ20%に診断される。
現在、CDADに対しては、バンコマイシン及びメトロニダゾールという2つの主な治療法が存在する。バンコマイシンは、主に一部の重篤な生命を脅かす多剤耐性菌に対して活性な唯一の抗生物質であるために、CDADの第1選択治療には推奨されない。従って、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)又はバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)の出現を最低に抑えようとして、医学界では、絶対に必要である場合を除いてこの薬剤を用いないように勧められている。
【0007】
バンコマイシン耐性腸管内菌叢、特に腸球菌が促進されて選択されることが懸念されることから、初期療法としてメトロニダゾールが推奨されている。C.ディフィシル耐性である頻度は、国によっては>6%である可能性があるにも関わらず、メトロニダゾールは、バンコマイシンとほぼ同程度に有効であり、かなり廉価であり、経口又は静脈注射のいずれかで用いることができる。メトロニダゾールは、悪心、神経障害、白血球減少、てんかん発作、及びアルコールに対する毒性反応を含む重大な有害作用を伴う。更に、小児又は妊婦に用いることは安全ではない。バンコマイシン又はメトロニダゾールで治療した後に、症例の20%までに臨床再燃が起こる。メトロニダゾールを用いる療法は、VREコロニー形成及び感染症の重要な危険因子であると報告されている。更に、現在の治療療法は、むしろ厄介であり、500mgまでを1日4回10〜14日間投与することが必要である。従って、CDADの症例、並びに他のAAD及びAACの症例に対する更に良好な治療法が必要とされている。
【0008】
化合物1は、18員大環状分子Tiacumicin群の要素に属する「Tiacumicin B」を含有する。Tiacumicinは、北部地域研究センター、米国農務省、イリノイ州61604、ペオリナ、ノースユニバーシティストリート1815のARS特許所蔵資料、受入番号NRRL18085から得ることができるダクチロスポランギウムオーランチアカム亜種ハムデネンシスを含む細菌により生成される。株「AB 718C−41」の特徴は、J.Antibiotics、1987年、567〜574頁、及び米国特許第4,918,174号に説明されている。
【0009】
Tiacumicin、詳細には「Tiacumicin B」は、様々な細菌病原体に対して、及び特にクロストリジウム・デフィシルであるグラム陽性菌に対して活性を示す(Antimicrob. Agents Chemother.、1991年、1108〜1111頁)。クロストリジウム・デフィシルは、腸の感染症を引き起こす嫌気性芽胞菌である。下痢は、最も良く見られる症状であるが、腹痛及び発熱も起こる可能性がある。クロストリジウム・デフィシルは、抗生物質摂取後に起こる可能性がある大腸炎(大腸の炎症)及び下痢の主な原因物質である。この細菌は、病院及び慢性疾患治療施設で主に獲得される。「Tiacumicin B」は、クロストリジウム・ディフィシルに対する活性が有望であるために、細菌感染症、特に哺乳類の胃腸管の細菌感染症の治療に有用であると期待されている。このような治療の例には、以下に限定されるものではないが、大腸炎の治療及び過敏性腸症候群の治療が含まれる。Tiacumicinはまた、消化器癌の治療のための使用も見出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許仮出願第60/570,697号
【特許文献2】米国特許第4,918,174号
【特許文献3】国際特許出願PCT/US03/21977
【特許文献4】米国特許第4,946,685号
【特許文献5】米国特許第6,261,601号
【特許文献6】米国特許第4,111,202号
【特許文献7】米国特許第3,279,995号
【特許文献8】米国特許第5,601,846号
【特許文献9】米国特許第5,792,451号
【特許文献10】米国特許第6,235,224号
【特許文献11】米国特許第5,672,659号
【特許文献12】米国特許第6,365,187号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ARS特許所蔵資料、受入番号NRRL18085、北部地域研究センター、米国農務省、イリノイ州61604、ペオリナ、ノースユニバーシティストリート1815
【非特許文献2】J.Antibiotics、1987年、567〜574頁
【非特許文献3】Antimicrob. Agents Chemother.、1991年、1108〜1111頁
【非特許文献4】Fry、Pharmanual著「病原体の出現と将来の展望」、1999年、50〜75頁
【非特許文献5】Carmeli Y、「Emerging Infect Dis」、2002年、第8巻802〜7頁
【非特許文献6】Gerding、「Clin Infect.Dis」、1997年、第25巻補遺2、S206〜10頁
【非特許文献7】Lautenbach、「Infect Conrol Hosp Epidemiol」、1999年、第20巻318〜23頁
【非特許文献8】J.Antibiotics、1987年、575〜588頁
【非特許文献9】「調節放出薬物送出技術」、M.J.Rathbone、J.Hodgraft、及びM.S.Roberts編、「Marcel Dekker,Inc.」、ニューヨーク
【非特許文献10】Remington著「薬学の科学及び実施(第20版)」、A.R.Gennaro編、2000年、「Lippincott Williams & Wilkins」、フィラデルフィア
【非特許文献11】「薬学技術事典」、J.Swarbrick及びJ.C.Boylan編、1988〜1999年、「Marcel Dekker」、ニューヨーク
【非特許文献12】「薬学的賦形剤ハンドブック」、第3版、Authur H.Kibbe編、米国薬学会、ワシントンDC
【非特許文献13】Pitt他、J.Pharm.Sci.、第68巻、1534頁、1979年
【非特許文献14】Davis他著「微小球と薬物療法」、1984年、Elsevier
【非特許文献15】Benoit他著「生物分解性微小球:生成技術の進歩」、第3章、Benita、S編、1996年、Dekker、ニューヨーク
【非特許文献16】「微小封入と関連薬物加工」、Deasy編、1984年、Dekker、ニューヨーク
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、化合物Iを投与することにより、大腸炎、偽膜性大腸炎、抗菌剤関連下痢のような抗菌薬関連の病状を治療及び予防すること、血流感染症、皮膚及び軟組織疾患、及び自閉症を予防することに関する。
1つの態様では、本発明は、抗生物質又は癌化学療法又は抗ウイルス療法をそれを必要とする患者に用いることに関連する疾患をその疾患を治療するのに有効な量でかつ有効な継続期間にわたって化合物Iを患者に投与することにより治療又は予防する方法を特徴とする。この疾患は、例えば、C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、ブドウ球菌属、又はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)を含む腸球菌のエンテロトキシン産生株のような細菌が存在することによって引き起こされる場合がある。例示的な疾患は、抗菌剤関連下痢、大腸炎、偽膜性大腸炎、血流感染症、及び自閉症である。
【0013】
関連する態様では、本発明は、抗生物質関連病状の発症を阻害するのに十分な量でかつ十分な継続期間にわたって患者に化合物Iを投与することにより、抗生物質が必要な患者の抗生物質関連病状の発症を阻害する方法を特徴とする。抗生物質関連病状は、抗菌剤関連下痢、大腸炎、又は偽膜性大腸炎とすることができ、又は毒素産生のC.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、ブドウ球菌属、又はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)を含む腸球菌が存在することによって引き起こされる別の疾患とすることができる。
【0014】
別の関連態様では、本発明は、患者に抗菌剤関連下痢が再燃するのを阻害するのに有効な量でかつ有効な継続期間にわたって化合物Iを投与することにより、患者に抗菌剤関連下痢が再燃するのを阻害する方法を特徴とする。
本発明はまた、大腸の細菌感染症により引き起こされる疾患(例えば、抗菌剤関連下痢又は偽膜性大腸炎)を、患者の胃腸管内への化合物Iの放出を可能にする薬剤の剤形で有効量の化合物Iを抗生物質を必要とする患者に投与することによって治療する方法を特徴とする。この薬剤の剤形により、C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、又はブドウ球菌属の毒素産生菌、又はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)を含む腸球菌によって引き起こされる胃腸管感染症を治療することができる。
【0015】
本発明はまた、癌化学療法及び抗ウイルス療法をそれが必要な患者に用いることに関連する細菌性疾患を、この疾患を治療するのに有効な量でかつ有効な継続期間にわたって患者に化合物Iを投与することによって治療又は予防する方法を特徴とする。この疾患は、例えば、C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、又はブドウ球菌属のエンテロトキシン産生株、又はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)を含む腸球菌のような細菌が存在することによって引き起こされる場合がある。
本発明はまた、自閉症児の部分集合における胃腸管の細菌感染症により引き起こされるか又は増悪させる疾患を、この疾患を治療するのに有効な量でかつ有効な継続期間にわたって化合物Iを放出することができる薬剤の剤形でそれを必要とする自閉症患者に有効量の化合物Iを投与することによって治療する方法を特徴とする。
【0016】
上述の方法のいずれでも、化合物Iは、一般的に10mgと1gの間の量で投与されるが、それよりも多いか又は少ない用量が必要な場合もある。投与は、毎日(例えば、1日1〜4回)とすることができ、又はそれよりも少ない頻度(例えば、隔日又は1週間に1回又は2回)とすることもできる。望ましい実施形態では、化合物Iは、50と400mgの間の量で毎日1回又は2回投与される。化合物I療法の継続期間は、個別的に判断されるが、投与は、典型的に3〜15日間である。化合物Iを用いると、標準治療よりも短い治療継続期間を保証することができる。経口投与が好ましい。
【0017】
本発明はまた、疾患を予防又は治療するのに十分な量でかつ十分な継続期間にわたって患者に化合物Iを投与することにより、皮膚、軟組織、又は血流感染症の予防又は治療を必要とする患者の皮膚感染症の治療のための方法を特徴とする。この疾患は、MRSAを含む黄色ブドウ球菌のような細菌が存在することによって引き起こされる場合がある。先の方法では、化合物Iは、典型的に1日に1回と4回の間で用いられるが、それよりも多いか又は少ない頻度とすることもできるリンス又はクリームのような局所製剤として一般的に投与される。
【0018】
化合物Iの投与は、他の療法と組み合わせて行うことができる。例えば、患者はまた、生物療法(例えば、サッカロミセスボウラディ)、又は経口ヨーグルト(例えば、乳酸桿菌製剤)、又は乳酸桿菌GG、又は免疫療法(例えば、ヒト免疫グロブリン、C.ディフィシルトキソイドワクチン)、又は第2の抗生物質(例えば、バンコマイシン、バシトラシン、又はメトロニダゾール)を受け取ることができる。化合物Iは、上述のいずれとも同時に処方することができ、又は別々に投与することもできる。
【0019】
本発明はまた、以下に限定されるものではないが、C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、C.ボツリヌス、C.セプチカム、C.ソルデリー、C.カダベリス、C.パラプトリフィカム、C.スピロフォルム、及びC.ブチリカムを含むクロストリジウム属、又は腸球菌属による非ヒトの感染症を治療又は予防する方法を特徴とする。
本発明はまた、化合物Iを患者の胃腸管内に放出させることができる薬剤の剤形で化合物Iの有効な量をそれを必要とする患者に投与することにより、非ヒトの胃腸管の細菌感染症によって引き起こされる疾患を治療する方法を特徴とする。感染症は、以下に限定されるものではないが、C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、C.ボツリヌス、C.セプチカム、C.ソルデリー、C.カダベリス、C.パラプトリフィカム、C.スピロフォルム、及びC.ブチリカムを含むクロストリジウム属、又は腸球菌属を伴う場合がある。
【0020】
関連する態様では、本発明は、抗生物質関連病状の発症を阻害するのに十分な量でかつ十分な継続期間にわたって非ヒトの患者に化合物Iを投与することにより、非ヒトにおける抗生物質関連病状の発症を阻害する方法を特徴とする。抗生物質関連病状は、抗菌剤関連下痢、大腸炎、又は偽膜性大腸炎とすることができ、又は毒素産生のC.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、ブドウ球菌属、又はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)を含む腸球菌の存在により引き起こされる別の疾患とすることもできる。
【0021】
関連する態様では、本発明はまた、治療される非ヒトが家畜である場合に、以下に限定されるものではないが、C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、C.ボツリヌス、C.セプチカム、C.ソルデリー、C.カダベリス、C.パラプトリフィカム、C.スピロフォルム、及びC.ブチリカムを含むクロストリジウム属によるか又は腸球菌属による非ヒトの感染症を治療又は予防することに関する、疾患を治療する方法を特徴とする。
【0022】
関連する態様では、本発明は、非ヒトが、以下に限定されるものではないが、ウマ及び他のウマ科の動物、イヌ、及びネコを含む家畜である場合に、以下に限定されるものではないが、C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、C.ボツリヌス、C.セプチカム、C.ソルデリー、C.カダベリス、C.パラプトリフィカム、C.スピロフォルム、及びC.ブチリカムを含むクロストリジウム属によるか又は腸球菌属による非ヒトの感染症を治療又は予防する方法を特徴とする。
【0023】
関連する態様では、本発明はまた、非ヒトがウマ又は他のウマ科の動物であり、かつ治療又は予防される病状が、新生子ウマ又は子ウマの下痢、クロストリジウム全腸炎、抗生物質関連全腸炎、散発性全腸炎、又は院内全腸炎である場合に、以下に限定されるものではないが、C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、C.ボツリヌス、C.セプチカム、C.ソルデリー、C.カダベリス、C.パラプトリフィカム、C.スピロフォルム、及びC.ブチリカムを含むクロストリジウム属によるか又は腸球菌属による非ヒトの感染症を治療又は予防する方法を特徴とする。
本発明の治療は、全身性抗生物質を損なうことなく、かつ腸管内バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)を増大させることなく、C.ディフィシル、黄色ブドウ球菌、及びC.パーフリンジェンスの腸毒素産生菌に関連する下痢疾患の有効な治療を考慮するものである。本発明はまた、腸内のVREの存在を低減する。本発明の説明により、他の特徴及び利点も明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】シリアンハムスターのクリンダマイシン誘発CDADに関する化合物I、バンコマイシン、又はメトロニダゾールの比較効率を示すグラフである。
【図2】化合物Iの主要成分の構造ORTEP図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
略語及び定義
AAC=抗生物質関連大腸炎
AAD=抗菌剤関連下痢
ATCC=アメリカ型培養物収集
13C=炭素13
CDAD=クロストリジウム・ディフィシル関連下痢
EC=気腫性胆嚢炎
ED5O=50%有効量
HPLC=高速液体クロマトグラフィー
IR=赤外線分光法
LLOQ=数量化の下限
MIC=最小阻害濃度
MIC50=試験した細菌株の50%を阻害する最小阻害濃度
MIC90=試験した細菌株の90%を阻害する最小阻害濃度
MRSA=メチシリン耐性黄色ブドウ球菌
NCCLS=米国臨床研究所規格委員会
NMR=核磁気共鳴分析法
ORTEP=オークリッジ熱楕円プロット
PMC=偽膜性大腸炎
UV−vis=紫外線/可視
VRE=バンコマイシン耐性腸球菌
VRSA=バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌
【0026】
「抗生物質関連病状」という用語は、抗生物質療法により腸の微生物叢の均衡が乱され、C.ディフィシル、黄色ブドウ球菌、及びC.パーフリンジェンスのエンテロトキシン産生株のような病原生物の繁殖が許される時に得られる病状を意味する。これらの生物は、下痢、偽膜性大腸炎、及び大腸炎を引き起こす可能性があり、症状の中でも特に、下痢、切迫症状、腹部痙攣、テネスムス、及び発熱により明らかになる。下痢は、重篤な場合には、脱水及び脱水に関連する医療合併症を引き起こす。
「自閉症」という用語は、社会的相互作用の広播性機能障害、言語及び非言語コミュニケーションの欠如、及び反復性行動パターンを特徴とし、生後3歳までに発症するある範囲の幼児期の複雑な発達障害を意味する。
【0027】
「化合物I」という用語は、ほぼ90%(HPLC分析法による全抗生物質に関して)の「Tiacumicin B」を80〜100%の間の範囲で含有する製剤を意味する。残りの部分は、本質的に、少量の「Tiacumicin B」関連化合物から成る。この種類の調製は、国際特許公開番号WO2004/014295A2である国際特許出願PCT/US03/21977に詳細に説明されている。しかし、専ら非ヒトに用いることが意図される化合物Iは、80%未満の「Tiacumicin B」(HPLC分析法による全抗生物質に関して)を含有することができる。
【0028】
「腸溶コーティング」という用語は、薬剤組成物をカプセルに入れて、胃では放出及び分解が起こらないが、小腸の弱酸性又は中性のpH環境では容易に溶解するようにしたコーティングを意味する。他の同様のコーティングには、時間依存性、pH依存性、及び酵素的侵食のポリマーマトリクスコーティングが含まれる。
「賦形剤」という用語は、化合物の投与を更に容易にするために薬理的組成物に加える不活性物質を意味する。賦形剤の例には、以下に限定されるものではないが、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖類及び種類のデンプン、セルロース誘導体、セラチン、植物油、及びポリエチレングリコールが含まれる。
【0029】
「ハロゲン」という用語には、F、Cl、Br、及びIが含まれる。
「大環状分子」という用語は、通常10を超える原子を含む大きな環構造を備えた有機分子を意味する。
「18員大環状分子」という用語は、18原子を含む環構造を備えた有機分子を意味する。
「員環」という用語は、上述のような炭素環及び複素環を含むあらゆる環状構造を含むことができる。「員」という用語は、環を構成する骨格原子の数を表すように意味する。従って、例えば、ピリジン、ピラン、及びチオピランは、6員環であり、ピロール、フラン、及びチオフェンは、5員環である。
【0030】
「MIC」又は「最小阻害濃度」という用語は、インビトロで細菌分離株の増殖を阻害するのに必要な抗生物質の最低濃度を意味する。抗生物質のMICを判断するための共通の方法では、抗生物質の段階希釈を含むいくつかの試験管を準備し、次に、これに関連の細菌の分離株を播種する。抗生物質のMICは、混濁度を示さない(増殖のない)最低濃度の試験管から判断することができる。
「MIC50」という用語は、所定の細菌種に含まれる試験した細菌株の50%の増殖を阻害するのに必要な抗生物質の最低濃度を意味する。
「MIC90」という用語は、所定の細菌種に含まれる試験した細菌株の90%の増殖を阻害するのに必要な抗生物質の最低濃度を意味する。
【0031】
「ORTEP」という用語は、結晶構造図を示すためのFortranで書かれた「オークリッジ熱楕円プロット」コンピュータプログラムを意味する。出版するのに適切な品質の玉棒型図は、原子側を異方性温度因子パラメータからの球面又は熱運動確率楕円のいずれかで生成される。このプログラムはまた、原子の複雑な配列及びその対応する熱運動パターンを視覚化するのに役立つ図の立体写真も生成する。
【0032】
「患者」という用語は、医学的治療が必要なヒト又は動物を意味する。本発明の目的では、ヒト患者は、一般的に病院又は養護施設のような一次医療施設に入れられる。しかし、抗生物質又は癌化学療法又は抗ウイルス療法を用いたことに関連する疾患の治療は、一次医療施設から退院すると外来患者扱いで行うことができ、又は一次医療施設と関係することなく在宅治療用に医師が処方することができる。医学的治療が必要な動物は、一般的に獣医の関連になる。
【0033】
「薬学的に許容可能な担体」という用語は、薬学的に許容可能な担体又は希釈剤を意味する。
「薬学的に許容可能な塩」という用語は、薬学的に許容可能な無機及び有機塩基から導かれるものを意味する。適切な塩基から導かれる塩には、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム)、アンモニウム及びN(C1−C4アルキル)4+塩などが含まれる。これらの一部の例示的な例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化コリン、及び炭酸ナトリウムなどが含まれる。
【0034】
「薬学的組成物」という用語は、本明細書に説明するTiacumicinの1つ又はそれよりも多く又はその生理的に許容可能な塩と、生理的に許容可能な担体及び/又は賦形剤のような他の化学的成分との混合物を意味する。薬学的組成物の目的は、化合物を生物に投与するのを容易にすることである。
「生理的に許容可能な担体」という用語は、生物に有意な刺激を引き起こさず、生物学的活性及び投与した化合物の特性を抑制しない担体又は希釈剤を意味する。
「偽膜性大腸炎」又は「腸炎」という用語は、小腸及び大腸の両方の粘液膜の炎症による偽膜性物質(すなわち、フィブリン、粘液、壊死上皮細胞、及び白血球から成る物質)が形成されることを意味する。
【0035】
「糖」という用語は、一般的に、単糖、二糖、又はオリゴ糖を意味する。単糖類は、置換することができ、例えば、グルコサミン、ガラクトサミン、アセチルグルコース、アセチルガラクトース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、ガラクトシル−N−アセチルグルコサミン、N−アセチルノイラミン酸(シアル酸)など、並びに硫酸化及びリン酸化糖とすることができる。この定義の目的に対しては、単糖類は、そのピラノース又はフラノースの形である。
【0036】
「Tiacumicin」という用語は、本明細書で用いる場合、下に化学式Iで示すその全てが18員大環状分子を含む化合物の群を意味する。
【化1】

「Tiacumicin B」は、本明細書で用いる場合、下の化学式IIに示す18員大環状分子を意味する。
【化2】

【0037】
本発明は、C.ディフィシル、黄色ブドウ球菌、又はC.パーフリンジェンスに関連する下痢のような抗生物質又は癌化学療法又は抗ウイルス療法を用いることに関連する病状が、患者に有効な量の化合物Iを投与することによって治療又は予防することができるという予期しなかった発見に関するものである。対象となる抗生物質関連病状には、以下に限定されるものではないが、抗菌剤関連下痢、偽膜性大腸炎、大腸炎、血流感染症予防が含まれる。この発見は、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)を含む腸球菌感染症に感染する危険性がある患者に特に関連があると考えられる。
本発明は、クロストリジウム属により引き起こされる感染症を含み、以下に限定されるものではないが、ウマ及び他のウマ科の動物、イヌ、及びネコを含む非ヒト種に抗生物質を用いることに関連するか又はしないこともある同様の疾患及び病状の治療及び予防の方法を含む。
【0038】
本発明はまた、対象となる抗生物質関連病状を治療及び予防するための併用療法も提供する。広域抗生物質の標準過程に有効量の化合物Iを加えることにより、本発明の治療は、抗菌剤関連下痢疾患を引き起こすことが公知であるC.ディフィシル及び他の細菌の増殖を防止する。本発明の併用療法で化合物Iと共に用いられる抗生物質には、以下に限定されるものではないが、バンコマイシン、バシトラシン、及びメトロニダゾールが含まれる。化合物Iは、上述のあらゆる物質と同時に処方することができ、又は別々に投与することもできる。
【0039】
本発明はまた、生物療法と共に有効量の化合物Iを加えることにより、対象となる抗生物質関連病状を治療及び予防するための併用療法も提供する。本発明の化合物Iと共に用いられる生物療法には、以下に限定されるものではないが、サッカロミセスボウラディ及び経口ヨーグルト、乳酸桿菌製剤、又は乳酸桿菌GGが含まれる。化合物Iは、上述のあらゆる物質と同時に処方することができ、又は別々に投与することもできる。
【0040】
本発明はまた、免疫療法と共に有効量の化合物Iを加えることにより、対象となる抗生物質関連病状を治療及び予防するための併用療法も提供する。本発明の化合物Iと共に用いられる免疫療法には、以下に限定されるものではないが、ヒト免疫グロブリン又はC.ディフィシルトキソイドワクチンが含まれる。化合物Iは、上述のあらゆる物質と同時に処方することができ、又は別々に投与することもできる。
【0041】
本発明はまた、抗生物質が、C.ディフィシル、黄色ブドウ球菌、及びC.パーフリンジェンスの毒素産生菌のようなある一定の細菌を腸内に繁殖させる時に生じる抗生物質関連病状に関連する症状を治療するための組成物及び方法を考えている。有効量の化合物Iは、慢性下痢により生じる脱水を治療するために、以下に限定されるものではないが、静脈内流体又は電解質を含む店頭飲料を含む製剤と組み合わせることができる。
本発明はまた、抗生物質が、C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、ブドウ球菌属、又はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)を含む腸球菌の毒素産生菌のようなある一定の細菌を腸内に繁殖させる時に生じる血流感染症を予防するための組成物及び方法を考えている。
【0042】
本発明はまた、抗生物質使用及び選択の条件下で増殖するMRSAを含むブドウ球菌属のような多剤耐性生物により引き起こされる皮膚、軟組織、及び血流感染症を防ぐのに有用な製剤及び有用な方法を考えている。
本発明はまた、自閉症に関連する症状を治療するための組成物及び方法を考えている。異常な胃腸管叢は、自閉症の一部の症例の原因になる場合がある。抗生物質治療、例えばバンコマイシンにより、広域抗生物質で治療したことによって慢性下痢が発症した後に症状が表れた被験者が好転することになる。対照の小児及び自閉症児のGI叢を比較すると、自閉症児では、対照の小児とは対照的にクロストリジウム属を含む相当な数の嫌気性菌を示している。
【0043】
クロストリジウム・デフィシル
C.ディフィシルは、グラム陽性嫌気性芽胞形成桿菌であり、抗菌剤関連下痢/大腸炎を引き起こし、偽膜性大腸炎の殆ど全ての症例を引き起こす病原体である。これらの病状は、大腸内に1つ又はそれよりも多くの毒素、すなわち、毒素A及び毒素Bを生成する毒素産生C.ディフィシルが過剰増殖することによって発症する。毒素Aは、強力なエンテロトキシンであり、胃腸管症状の殆どを引き起こすと考えられている。また、毒素A及びBが相乗的に組織に損傷を引き起こす働きをするという証拠も示されている。C.ディフィシルによる感染症が確立した状態で、毒素A及び毒素Bを組み合わせた作用により、大腸粘液に炎症反応が開始される。
【0044】
症状的には、患者は、症状の中でも特に、腹部痙攣/疼痛、テネスムス、切迫症状、下痢(血性下痢を含む)、及び発熱を経験する。疾患が進行すると、完全に粘膜細胞が死滅し、偽膜が出現することになる。その結果、大腸の拡張、穿孔、腹膜炎、敗血症になる可能性があり、場合によっては致死的であることもある。それは、大腸の正常細菌叢が抑制される時、例えば、広域抗生剤で治療した後に出現する可能性がある。抗生物質、特にペニシリン、アンピシリン、クリンダマイシン、及びセファロスポリンを過剰使用すると、正常腸管内菌叢を変化させ、病院及び養護施設環境に固有であることが多いC.ディフィシル感染症が発症する危険性が増大する。
【0045】
抗生物質の使用は、CDADに対する主要な危険因子である。また、症例の大部分が65歳以上の患者に出現するために、年齢も危険因子であるように見える。他の危険性のある患者には、術後の患者、化学療法を受けている患者、骨髄移植を受けた患者、及び免疫系不全患者が含まれる。これらの免疫病状には、以下に限定されるものではないが、癌、栄養失調、ヒト免疫不全ウイルス感染症、及び結合組織障害(例えば、紅斑性狼瘡、シェーグレン症候群)を含むことができる。更に、これらの患者は、VREコロニー形成及び感染症に対する危険性もある(Fry、Pharmanual著「病原体の出現と将来の展望」、1999年、50〜75頁)。従って、この集団も本明細書に説明した治療法及び組成物から利益を得られるであろう。
【0046】
クロストリジウム・パーフリンジェンス
C.パーフリンジェンスは、激しい腹部痙攣及び下痢を特徴とする食中毒を引き起こす場合がある嫌気性のグラム陽性芽胞形成細菌である。脱水及び他の合併症のために致死的になることもある。C.パーフリンジェンスは、致死性であることが多い壊死性腸炎として知られ、ピグベル症候群としても公知の別の重篤な病状を引き起こす場合がある。この疾患は、汚染食品中の大量のC.パーフリンジェンスを摂取することによって開始する。壊死性腸炎の死因は、腸の感染症及び壊死、及びその結果起こる敗血症である。
【0047】
C.パーフリンジェンスにより引き起こされる別の重篤な疾患は、気腫性胆嚢炎(EC)である。これは、急性胆嚢炎の稀で危険な形であり、X線写真で胆嚢、胆嚢壁内、又は胆嚢周囲空間内にガスが存在することを特徴とする。ECは、男性に多く見られ、糖尿病患者、衰弱した患者、及び高齢の患者に診断されることがかなり多い。ECは、大部分はクロストリジウム群である腸管内菌叢が虚血性胆嚢に二次的に播種される血管障害から生じる基礎疾患である虚血により引き起こされると考えられている。
【0048】
ブドウ球菌属
凝固酵素陽性黄色ブドウ球菌属は、株化院内病原体である。この生物は、治療せずに放置すれば、周りの組織に又は細菌を通じて他の臓器に拡がる可能性がある急性の化膿性感染症を引き起こす可能性がある。黄色ブドウ球菌により引き起こされる更に重篤な感染症の一部には、菌血症、肺炎、骨髄炎、急性心内膜炎、心筋炎、心膜炎、大脳炎、髄膜炎、熱傷様皮膚症候群のような皮膚感染症、及び膿瘍形成が含まれる。また、メチシリン耐性株(MRSA)を含む黄色ブドウ球菌も、C.ディフィシルにより引き起こされるものと同様の抗菌剤関連下痢を引き起こす場合がある。ブドウ球菌性全腸炎は、抗菌剤関連下痢の他の原因よりも末端回腸及び盲腸に関連することが多く、通常は、テトラサイクリン及びクロラムフェニコール投与の設定で起こる。凝固酵素陰性ブドウ球菌属は、ヒトの正常細菌叢の一部である。これらの生物、特に表皮ブドウ球菌は、院内感染症を引き起こすために株化されている。衰弱した患者では、入院及び抗生物質の使用により、凝固酵素陰性ブドウ球菌属で菌血症のような感染症に罹る可能性がある。
【0049】
VREを含む腸球菌
腸球菌は、セファロスポリン、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン、コトリモキサゾール、及びクリンダマイシンを含むいくつかのよく用いられる抗生物質に本質的に耐性があるグラム陽性生物である。更に、これは、全ての現在利用可能な抗生物質に対する耐性を獲得する機能を有する。僅か数年前までは、バンコマイシンは、多剤耐性腸球菌による感染症の治療に用いることができる唯一の薬物であった。VRE株が出現すると、組み合わせた抗生物質で治療することが困難になり、VREは、菌血症、尿路感染症、及び創傷感染症のような感染症を引き起こす重要な院内病原体として現れた。
【0050】
院内の腸球菌菌血症は、高死亡率であり、入院期間が延びる。メトロニダゾール、第3世代セファロスポリン、及びフルオロキノロンのような抗生物質の使用は、VREの危険因子とされている(Carmeli Y、「Emerging Infect Dis」、2002年、第8巻802〜7頁、Gerding、「Clin Infect.Dis」、1997年、第25巻補遺2、S206〜10頁、Lautenbach、「Infect Conrol Hosp Epidemiol」、1999年、第20巻318〜23頁)。
【0051】
化合物I
化合物Iは、ほぼ90%(HPLC分析法による全抗生物質に関して)の「Tiacumicin B」を80〜100%の間の範囲で含有する製剤である。残りの部分は、本質的に少量の「Tiacumicin B」関連化合物から成る。Tiacumicinは、表1に示す18員大環状分子の環を含む関連化合物の群(Tiacumicin A〜F)である。
「Tiacumicin A〜F」は、分光的に及び他の物理的方法により特徴を定められている。Tiacumicinの化学構造は、分光法、すなわち、UV−vis、IR、及び1H及び13CNMRに基づいている。ある一定の立体化学的な特徴は、1D及び2D同核及び異核NMR実験を用いて判断されており、例えば、J.Antibiotics、1987年、575〜588頁を参照されたい。「Tiacumicin B」の場合には、分子構造は、X線回折により確認されている(図2)。「Tiacumicin B」のX線結晶構造は、メタノール中で成長させた無色の平行6面体形の結晶(0.08×0.14×0.22mm)から得たものである。
【0052】
表1.Tiacumicin A〜F
【表1】

【0053】
用量
化合物Iは、CDAD、偽膜性大腸炎、又は抗生物質又は癌化学療法の利用に関連する他の疾患を治療するのに十分な量でかつ十分な継続期間にわたって経口投与される。特定の患者を治療するのに十分な化合物Iの正確な用量は異なる場合があるが、当業者はこの用量を容易に判断することができる。一般的に、投与される化合物Iの量は、抗生物質の便中濃度を少なくとも目標生物のMICに等しく維持する量である。
投与される化合物Iの量により、目標生物に対するMICの2、3、4倍又はそれよりも多いものと同等に便中濃度が維持されることが好ましい。従って、特定の治療投与計画は、識別したグラム陽性細菌の属及び耐性パターン、及び同時罹患率、疾患病因、患者年齢(小児、成人、老人)、及び栄養及び免疫状態を含む各患者に独自の生物学的因子に応じて各患者に対して様々とすることができる。
【0054】
提唱される化合物Iの経口用量は、少なくとも約25、50、100、200、300、400、又は500mg/日から多くとも600、700、800、900、又は1000mg/日で3〜15日間である。化合物Iは、毎日(例えば、1日に1回、2回、3回、又は4回)又はそれよりも少ない頻度(例えば、隔日に1回、又は1週間に1回又は2回)で投与することができる。特に適切な用量は、50と400mgの間でBID(1日2回)である。抗生物質は、いずれかの適切な量でいずれかの適切な担体物質に含有することができ、一般的に重量で組成物総量の1〜99%の量で存在する。組成物は、下に説明するように、経口投与に適する剤形で提供され、薬学的に有効な量の抗生物質が小腸及び大腸に送出される。
【0055】
化合物Iは、薬学的に許容可能な賦形剤(例えば、マンニトール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム)と共に化合物I100mgを含有する例えば小包装に入れた経口液剤のための顆粒として入手可能である。小包装の内容物は、ほぼ15〜30mLの水で再構成し、得られた溶液は、そのままか、又は飲む前に水、クランベリージュース、リンゴジュース、又は7−Upで更に希釈するかのいずれかで飲むことができる。飲んだ後、薬物に続いて、その次の量のこれらの飲料又は食物(例えば、クラッカー、パン)を摂ることができる。
【0056】
化合物Iはまた、一般的に安全と見なされている薬学的に許容可能な賦形剤を含む錠剤としても入手可能である。錠剤は、25mg、50mg、100mg、200mg、又は400mg力価で入手可能にすることができる。
代替的に、化合物Iは、一般的に安全と見なされている薬学的に許容可能な賦形剤を含むカプセルとしても入手可能である。カプセル剤は、25mg、50mg、100mg、200mg、又は400mg力価で入手可能にすることができる。
【0057】
CDAD、偽膜性大腸炎、又は抗生物質又は癌化学療法又は抗ウイルス療法の利用に関連する他の疾患を治療するのに必要な投薬計画は、療法の進行中に変更することができる。例えば、患者は、患者の細菌負荷量を測定するために定期的に又は規則的間隔でモニタすることができ、それに従って抗生物質療法の用量又は頻度を調節することができる。化合物Iは、通常用いられる治療のものよりも短いか又は同様の継続期間にわたって投薬することができる。
【0058】
薬学的剤形
化合物Iの薬学的組成物は、本発明によれば、投与すると実質的に直ぐに又は投与後のいずれかの所定の時間又は期間にわたって抗生物質を放出するような剤形にすることができる。
後者の種類の組成物は、一般的に調節放出剤形として公知であり、これには、長期間にわたって腸管内の薬物の濃度を実質的に一定にする剤形、及び「調節放出薬物送出技術」、M.J.Rathbone、J.Hodgraft、及びM.S.Roberts編、「Marcel Dekker,Inc.」、ニューヨークに説明するような時間的又は環境的判断基準に基づく調節放出特性を有する剤形が含まれる。
【0059】
本発明の方法には、あらゆる経口の生物学的に許容可能な剤形又はその組合せを用いることができる。このような剤形の例には、以下に限定されるものではないが、咀嚼錠、速溶解性錠、発泡錠、再構成可能粉末、エリキシル剤、液剤、坐剤、クリーム剤、水剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、多層錠剤、2層錠剤、カプセル剤、軟ゼラチンカプセル剤、硬ゼラチンカプセル剤、浸透性錠剤、浸透性カプセル剤、キャプレッツ、トローチ剤、咀嚼トローチ剤、ビーズ剤、粉末剤、顆粒剤、粒剤、微粒剤、分散性顆粒剤、摂取可能物、注入剤、ヘルスバー、菓子、動物飼料、シリアル、シリアルコーティング、食品、栄養食品、機能性食品、及びその組合せが含まれる。上記剤形のいずれの製剤も当業者には公知である。更に、薬学的剤形は、目標部位に到達すると抗生物質が即時放出されるか又は制御放出されるかのいずれかになるように設計することができる。即時放出又は制御放出組成物の選択は、治療するグラム陽性細菌の属及び抗生物質感受性、及び療法の静菌性/殺菌性を含む様々な因子に依存する。剤形を形成するための当業技術で公知の方法は、例えば、Remington著「薬学の科学及び実施(第20版)」、A.R.Gennaro編、2000年、「Lippincott Williams & Wilkins」、フィラデルフィア、又は「薬学技術事典」、J.Swarbrick及びJ.C.Boylan編、1988〜1999年、「Marcel Dekker」、ニューヨークに見出される。
【0060】
経口用即時放出剤形には、非毒性の薬学的に許容可能な賦形剤との混合物中に活性材料を含有する錠剤又はカプセルが含まれる。これらの賦形剤は、例えば、不活性希釈剤又は充填剤(例えば、ショ糖、ソルビトール、糖、マンニトール、微晶質セルロース、バレイショデンプンを含むデンプン、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、又はリン酸ナトリウム)、造粒剤及び崩壊剤(例えば、微晶質セルロースを含むセルロース誘導体、バレイショデンプンを含むデンプン、クロスカルメロースナトリウム、アルギン酸塩、又はアルギン酸)、結合剤(例えば、ショ糖、グルコース、マンニトール、ソルビトール、アカシア、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、デンプン、アルファ化デンプン、微晶質セルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はポリエチレングリコール)、及び平滑剤、流動促進剤、及び癒着防止剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、シリカ、水素化植物油、又はタルク)とすることができる。他の薬学的に許容可能な賦形剤は、着色剤、香味剤、可塑剤、湿潤剤、及び緩衝剤などとすることができ、これは、例えば、「薬学的賦形剤ハンドブック」、第3版、Authur H.Kibbe編、米国薬学会、ワシントンDCに見出される。
【0061】
溶解又は拡散制御放出は、化合物の錠剤、カプセル、ペレット、又は顆粒剤形の適切なコーティングによるか、又は適切なマトリクス内に化合物を組み込むことによって達成することができる。制御放出コーティングには、上述のコーティング物質の1つ又はそれよりも多く、及び/又は、例えば、セラック、蜜蝋、グリコワックス、カスターワックス、カルナウバワックス、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリン、ジステアリン酸グリセリン、パルミトステアリン酸グリセロール、エチルセルロース、アクリル樹脂、dl−ポリ乳酸、セルロースアセテートブチレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリメタクリレート、メチルメタクリレート、2−ヒドロキシメタクリレート、メタクリレートヒドロゲル、1,3ブチレングリコール、エチレングリコールメタクリレート、及び/又はポリエチレングリコールを含むことができる。制御放出マトリクス剤形においては、マトリクス材料はまた、例えば、水和メチルセルロース、カルナウバワックス及びステアリルアルコール、カルボポル934、シリコーン、トリステアリン酸グリセリン、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、及び/又はハロゲン化フルオロカーボンを含むこともできる。
【0062】
制御放出組成物はまた、浮揚性錠剤又はカプセル(すなわち、経口投与されると、ある一定の期間にわたって胃内容物の上に浮く錠剤又はカプセル)の形とすることができる。化合物の浮揚性錠の剤形は、抗生物質と、賦形剤及び20〜75%w/wのヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、又はヒドロキシプロピルメチルセルロースのような親水コロイドとの混合物を顆粒状にすることによって調製することができる。得られる顆粒を次に圧縮して錠剤にすることができる。胃液と接触すると、この錠剤は、その表面の周囲に実質的に水不透過性のゲル障壁を形成する。このゲル障壁は、密度を1未満に維持するように働き、それによって錠剤を胃液内で浮揚性のままにする。他の有用な制御放出組成物も当業技術で公知である(例えば、米国特許第4,946,685号及び第6,261,601号を参照)。
【0063】
調節放出組成物は、幾何学的構成が封入抗生物質の放出プロフィールを制御する圧縮被覆コアで構成することができる。コアの幾何学形状を変化させることにより、抗生物質放出のプロフィールは、ゼロ次、1次、又はこれらの次数の組合せに従うように調節することができる。システムはまた、各々異なる放出プロフィールを有する更に有利な薬剤を同時に送出するように設計することができる(例えば、米国特許第4,111,202号及び第3,279,995号を参照)。
【0064】
また、目標化合物Iが腸管の特定の領域に放出される剤形を調製することもできる。化合物Iは、放出分解及び放出を胃内で起こさないが、小腸の弱酸性又は中性pH環境では容易に溶解する腸溶コーティング内に封入することができる。時間依存性、pH依存性、又は酵素的侵食のポリマーマトリクス又はコーティングのような技術を用いて、抗生物質を大腸に放出することを目標にした剤形を用いることもできる。
代替的に、層間に異なる放出特性を有する多層剤形を調製することができる。このような剤形では、腸管の異なる領域で抗生物質が放出されるようにすることができる。
この種類の多層剤形は、腸管の長さ全体で抗生物質濃度を更に一定に維持するのに特に有用とすることができる。
【0065】
この実施形態の1つの態様では、保護層は、1つ又はそれよりも多くの構成要素で構成され、これには、即時放出層及び調節層が含まれる。調節層は、半透水性ポリマーから成ることが好ましい。驚くべきことに、本出願人は、半透過性ポリマーコーティングを即時放出ポリマーコーティングと組み合わせて用いると、腸溶コーティングの上に積層された時に遅延パルス放出抗生物質送出プロフィールを生じることを見出した。
すなわち、この実施形態では、保護層は、半透過性ポリマー及び即時放出コーティング層を含む。好ましい実施形態では、調節層は、腸溶コーティング層に隣接する半透過性ポリマーの第1の層と、即時放出ポリマーコーティング層を含む半透過性ポリマーコーティング層の上の第2のコーティング層とを含む。
【0066】
この実施形態の1つの態様では、低度透水性pH非感受性ポリマーを含むことができる半透過性ポリマーは、遅延放出時間を長くするために腸管層の外面上に積層される。この半透過性ポリマーコーティングにより、pH感受性ポリマーが急速に溶解することになるアルカリpH環境では、pH感受性腸管ポリマーの侵食が制御される。別のpH感受性層は、低度透水性層の表面に付加されて放出時間を更に遅延させることができる。
【0067】
本発明の更に別の態様では、保護層に加えて、組成物は、薬学的活性層に組み込むか、又は活性層の表面上に被覆した酸性物質を含み、腸管ポリマー層の周囲環境のpH値を低減する。酸性物質層はまた、pH感受性腸管ポリマー層の外側層に付加することができ、続いて、低度透水性ポリマーの層を付加することができる。従って、活性層の放出を遅延させることができ、溶解速度をアルカリ環境内で増大させることができる。
更に別の実施形態では、抗生物質及び腸溶コーティングの両方を覆う保護コーティングを用いることができる。
【0068】
化合物I含有剤形の目標送出特性は、他の手段によって調節することができる。例えば、抗生物質は、包含、イオン会合、水素結合、疎水結合、又は共有結合により錯体化することができる。更に、酵素又は微生物溶解を受け易いポリマー又は錯体を薬物送出手段として用いることができる。
化合物Iの微小球封入は、目標抗生物質放出のための別の有用な薬学的剤形である。抗生物質含有微小球は、抗生物質送出のために単独で用いることができ、又は2段階放出剤形の1つの構成要素として用いることができる。適切な段階的放出剤形は、後に下部腸管に放出される化合物Iを封入する酸安定性微小球に、抗生物質を胃及び上部十二指腸に送出するための即時放出剤形を混合したものから成ることができる。
【0069】
微小球は、あらゆる適切な方法であらゆる薬学的に許容可能な材料で作ることができる。特に有用なものは、プロテイノイド微小球(例えば、米国特許第5,601,846号又は第5,792,451号を参照)、及びPLGA含有微小球(例えば、米国特許第6,235,224号又は第5,672,659号を参照)である。微小球の剤形によく用いられる他のポリマーには、例えば、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ(e−カプロラクトン−コ−DL−乳酸)、ポリ(DL−乳酸)、ポリ(DL−乳酸−コ−グリコール酸)、及びポリ(s−カプロラクトン−コ−グリコール酸)が含まれる(例えば、Pitt他、J.Pharm.Sci.、第68巻、1534頁、1979年を参照)。微小球は、スプレー乾燥、コアセルベーション、及び乳化を含む当業技術で公知の手順によって作ることができる(例えば、Davis他著「微小球と薬物療法」、1984年、Elsevier、Benoit他著「生物分解性微小球:生成技術の進歩」、第3章、Benita,S編、1996年、Dekker、ニューヨーク、「微小封入と関連薬物加工」、Deasy編、1984年、Dekker、ニューヨーク、米国特許第6,365,187号を参照)。
【0070】
水を加えることによって化合物Iの水溶液又は懸濁液を調製するのに適する粉末、分散可能粉末、又は顆粒は、経口投与に便利な剤形である。懸濁液としての剤形は、分散又は湿潤剤、懸濁剤、及び1つ又はそれよりも多くの保存料との混合物に活性原料を提供するものである。適切な分散又は湿潤剤は、例えば、天然発生リン脂質(例えば、レシチン、又はエチレンオキシドと脂肪酸、長鎖脂肪アルコール、又は脂肪酸から派生した部分エステルとの縮合生成物)及びヘキシトール又は無水ヘキシトール(例えば、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、及びポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなど)である。適切な懸濁剤は、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、及びアルギン酸ナトリウムなどである。
【0071】
表の簡単な説明
表1.「Tiacumicin A〜F」
表2.「アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)」からの実験室株に対する化合物Iの活性のまとめである。
表3.細菌の臨床単離株に対する化合物Iの活性のまとめである。
表4.C.ディフィシルの207の臨床単離株に対する化合物I及びバンコマイシンの活性のまとめである。
表5.クロストリジウム属の102の臨床単離株に対する化合物I及びバンコマイシンの活性のまとめである。
表6.胃腸管からの322の臨床単離株に対する化合物I及びバンコマイシンの活性のまとめである。
表7.110のC.ディフィシル臨床単離株に対する、μg/mLで表した化合物Iにおける幾何平均、MIC範囲、MIC50、及びMIC90の値と、バンコマイシン及びメトロニダゾールにおける値である。
表8.C.ディフィシルの110の臨床単離株に対するμg/mLでの化合物I、バンコマイシン(VAN)、及びメトロニダゾール(MTZ)の生のMICデータである。
【0072】
実施例
本発明を以下の非制限的実施例を参照して更に説明する。
【実施例1】
【0073】
細菌の実験室株及び臨床株に対する化合物Iのインビトロ活性
NCCLS抗微生物剤感受性試験指針を用い、異なる属の細菌の実験室株に対する化合物Iの活性を試験した。化合物Iは、クロストリジウム属、ミクロコッカス属に対して優れた活性を示し、MRSAを含むブドウ球菌属及びVREを含む腸球菌属に対して中等度の活性を示す(表2)。
【0074】
(表2)アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)からの実験室株に対する化合物Iの活性

【0075】
化合物Iは、嫌気性の臨床単離株及び好気性菌に対して付加的に試験された。207のC.ディフィシル臨床単離株のパネルは、化合物Iに非常に感受性が高いことが示された。この化合物はまた、ブドウ球菌属及び腸球菌属の臨床株に対して活性であった。これらの結果から、ある一定の病原性グラム陽性生物に対して、この化合物の抗微生物剤スペクトルが狭いことが示された(表3及び表4)。
【0076】
(表3)臨床単離株に対する化合物Iの活性

【0077】
(表4)C.ディフィシルの207の臨床単離株に対する化合物I及びバンコマイシンの活性

【0078】
別の研究では、クロストリジウム属の様々な臨床単離株及び300を超える臨床GI単離株を化合物Iに対して試験した。化合物Iは、C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、及びC.ソルデリーに対して最も活性があり、MIC90が0.062と0.25μg/mLの間であった(表5及び表6)。化合物Iはまた、ブドウ球菌及び腸球菌に対しても活性があり、MIC90がそれぞれ1と8μg/mLの間であった。
【0079】
(表5)クロストリジウム属の臨床単離株に対する化合物I及びバンコマイシンの活性

【0080】
(表6)臨床胃腸管単離株に対する化合物I及びバンコマイシンの活性

【実施例2】
【0081】
クロストリジウム・デフィシル関連下痢のハムスターモデルにおける化合物I、メトロニダゾール、及びバンコマイシンの比較効率
クロストリジウム・ディフィシル関連大腸炎の治療での化合物Iのインビボ効率を評価するために、化合物Iは、バンコマイシン及びメトロニダゾールの両方に比較してクリンダマイシン誘発大腸炎のハムスターモデルで試験した。動物は、100mg/kgのクリンダマイシンの2回の経口用量で治療した。クリンダマイシンの2回目の投薬の3日後に、毒素産生C.ディフィシル芽胞を接種した。感染の8時間後に、動物は、経口用化合物I、バンコマイシン、又はメトロニダゾールを7日間受けた。動物は、下痢しているか否かを毎日観察した。実験の間に死んだ何匹かの動物に剖検を行い、盲腸内容物のC.ディフィシル毒素Aを検定した。ハムスターは、20日間にわたってモニタし、この期間の累積死亡率を記録した(図1)。全ての3つの試験した抗生物質は、動物を感染症から保護し、これらは、そうでなければ、治療なしでは感染後2日と6日の間で一様に致死的であった。化合物Iに対するED5Oは、0.3mg/kg未満であった。濃度0.8と2.5mg/kgの間での化合物Iによる治療は、バンコマイシン(5mg/kg)又はメトロニダゾール(100mg/kg)による治療と同じくらい有効であった。
【実施例3】
【0082】
化合物Iのヒトへの経口投与
単回投与後の化合物Iの耐用性及び薬物動態を16人の健康なボランティアの被験者を観察した。臨床試験は、単回投与で二重盲検、ランダムにプラシーボを対照にした用量漸増試験であった。
ボランティア被験者に、化合物Iを朝食後に経口で投与した。薬物動態評価のために、化合物Iの血漿、尿、及び糞便中濃度を測定した。
経口投与後、血液中では化合物Iは殆ど検出されず、濃度は、定量の下限近くであった(LLOQ=5ng/mL)。450mg用量群の1被験者のみが、8時間ほど後になって検出可能になった血漿中濃度を有していた。観察された最高血漿中レベルは、37.8ng/mLであった(最高用量の450mg群において)。
未変化化合物Iを投与量のパーセント用量として糞便中回収すると、200及び300mg用量群ではほぼ20%であり、対応するピーク糞便中濃度の平均値は、それぞれ157及び248μg/gであった。
【実施例4】
【0083】
化合物Iのインビトロ活性
化合物I、メトロニダゾール、及びバンコマイシンのインビトロ効率は、寒天希釈を通じて、C.ディフィシルの110の遺伝子的に異なる臨床単離株に対して評価した。MICデータは、表7及び表8に示している。
【0084】
(表7)110のC.ディフィシル臨床単離株に対する、μg/mLで表した化合物Iにおける幾何平均、MIC範囲、MIC50、及びMIC90の値と、バンコマイシン及びメトロニダゾールにおける値

【0085】
(表8)C.ディフィシルの110の臨床単離株に対するμg/mLでの化合物I、バンコマイシン(VAN)、及びメトロニダゾール(MTZ)の生のMICデータ



【0086】
他の実施形態
上述の全ての参照文献は、本明細書において全ての目的に対してその全内容が引用により組み込まれている。本発明は、その好ましい実施形態を参照して詳細に示して説明したが、特許請求の範囲によって規定される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細の様々な変更をそこに行うことができることを当業者は理解するであろう。
【符号の説明】
【0087】
MTZ メトロニダゾール
VAN バンコマイシン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗生物質又は癌化学療法又は抗ウイルス療法のそれを必要とする患者への使用に関連する疾患を治療する方法であって、
疾患を治療するのに有効な量でかつ有効な継続期間にわたって化合物Iを患者に投与する段階、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記疾患は、C.ディフィシルと、C.パーフリンジェンスと、MRSAを含むブドウ球菌属と、VREを含む腸球菌とで構成される群から選択された細菌の存在によって引き起こされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記疾患は、抗生物質関連の下痢、大腸炎、偽膜性大腸炎、血流感染症、及び自閉症から成る群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物Iは、25mgと1gの間の量で投与されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物Iは、100mgと400mgの間の量で毎日1回又は2回投与されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物Iは、3日から15日にわたって毎日1回から4回投与されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物Iは、経口投与されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
抗生物質を必要とする患者の抗生物質関連病状を治療するか又はその発症を予防する方法であって、
抗生物質関連病状の発症を抑制するのに十分な量でかつ十分な継続期間にわたって患者に化合物Iを投与する段階、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記抗生物質関連病状は、C.ディフィシルと、C.パーフリンジェンスと、MRSAを含むブドウ球菌属と、VREを含む腸球菌とで構成される群から選択された細菌の存在によって引き起こされることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記抗生物質関連病状は、抗生物質関連の下痢、大腸炎、及び偽膜性大腸炎から成る群から選択されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記化合物Iは、25mgと1gの間の量で投与されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記化合物Iは、100mgと400mgの間の量で毎日1回又は2回投与されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記化合物Iは、3日から15日にわたって毎日1回から4回投与されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記化合物Iは、経口投与されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項15】
抗生物質関連の下痢、大腸炎、偽膜性大腸炎、血流感染症、及び自閉症から成る群から選択された抗生物質関連病状の再燃を治療又は予防する方法であって、
抗生物質関連病状の再燃を抑制するのに有効な量でかつ有効な継続期間にわたって患者に化合物Iを投与する段階、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
前記病状は、抗生物質関連の下痢、大腸炎、又は偽膜性大腸炎であることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記患者は、前記再燃の60日以内にバンコマイシン又はメトロニダゾールで治療されていたことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記化合物Iは、25mgと1gの間の量で投与されることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記化合物Iは、100mgと400mgの間の量で毎日1回又は2回投与されることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記化合物Iは、3日から15日にわたって毎日1回から4回投与されることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記化合物Iは、経口投与されることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記抗生物質関連病状は、血流感染症であることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記化合物Iは、25mgと1gの間の量で投与されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記化合物Iは、200mgと800mgの間の量で毎日1回又は2回投与されることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記化合物Iは、3日から15日にわたって毎日1回から4回投与されることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記病状は、自閉症であることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項27】
前記化合物Iは、25mgと1gの間の量で投与されることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記化合物Iは、50mgと400mgの間の量で毎日1回又は2回投与されることを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記化合物Iは、3日から15日にわたって毎日1回から4回投与されることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記化合物Iは、経口投与されることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項31】
(i)化合物I、
(ii)抗生物質又は癌化学療法又は抗ウイルス療法の使用に関連する疾患を治療又は予防するのに有用な第2の化合物、及び
(iii)抗生物質、又は癌化学療法、抗ウイルス療法の使用に関連する疾患に罹患していると診断された患者に対して前記化合物I及び前記第2の化合物を投与するための指示書、
を含むことを特徴とする併用療法。
【請求項32】
前記疾患は、抗生物質関連の下痢、又は偽膜性大腸炎、又は血流感染症、又は自閉症であることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項33】
細菌感染症が、C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、MRSAを含むブドウ球菌属、又はVREを含む腸球菌の感染症であることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記患者はまた、生物療法(例えば、サッカロミセスボウラディ)、又は経口ヨーグルト(例えば、乳酸桿菌製剤)、又は乳酸桿菌GG、又は免疫療法(例えば、ヒト免疫グロブリン、C.ディフィシルトキソイドワクチン)、又は第2の抗生物質(例えば、バンコマイシン、バシトラシン、又はメトロニダゾール)を受けることができることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項35】
化合物Iは、上述のいずれとも同時処方することができ、又は別々に投与することもできることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記化合物Iは、25mgと1gの間の量で投与されることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記化合物Iは、200mgと800mgの間の量で毎日1回又は2回投与されることを特徴とする請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記化合物Iは、3日から15日にわたって毎日1回から4回投与されることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項39】
前記化合物Iは、経口投与されることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項40】
大腸の細菌感染症によって引き起こされる疾患を治療又は予防する方法であって、
化合物Iの有効な量を、胃腸管を通過中の剤形の一体性を維持し、かつ大腸又は該胃腸管の他の部分内への該化合物Iの放出を可能にする薬学的剤形でそれを必要とする患者に投与する段階、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項41】
前記細菌感染症は、C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、MRSAを含むブドウ球菌属、又はVREを含む腸球菌であることを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記疾患は、抗生物質関連の下痢、偽膜性大腸炎、血流感染症、及び自閉症から成る群から選択されることを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記化合物Iは、腸溶コーティングに封入されていることを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項44】
前記化合物Iは、25mgと1gの間の量で投与されることを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項45】
前記化合物Iは、50mgと800mgの間の量で毎日1回又は2回投与されることを特徴とする請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記化合物Iは、3日から15日にわたって毎日1回から4回投与されることを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項47】
前記化合物Iは、経口投与されることを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項48】
皮膚の細菌感染症によって引き起こされる疾患を治療又は予防する方法であって、
局所適用に対して剤形の一体性を維持する薬学的剤形で、化合物Iの有効な量をそれを必要とする患者に投与する段階、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項49】
前記細菌感染症は、MRSAを含むブドウ球菌属、又はVREを含む腸球菌であることを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記疾患は、皮膚及び軟組織感染症であることを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項51】
前記化合物Iは、局所適用のための溶液又はクリームとして処方されることを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項52】
前記化合物Iは、1日に1回と4回の間で投与されることを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項53】
前記化合物Iは、局所的に投与されることを特徴とする請求項48に記載の方法。
【請求項54】
非ヒトの感染症を、該非ヒトが、以下に限定されるものではないが、ウマ及び他のウマ科の動物、イヌ、及びネコを含む家畜である時に、以下に限定されるものではないが、C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、C.ボツリヌス、C.セプチカム、C.ソルデリー、C.カダベリス、C.パラプトリフィカム、C.スピロフォルム、及びC.ブチリカムを含むクロストリジウム属によって、又は腸球菌属によって治療又は予防する方法。
【請求項55】
前記疾患は、C.ディフィシル、C.パーフリンジェンス、ブドウ球菌属、又はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)を含む腸球菌から成る群から選択された細菌の存在によって引き起こされることを特徴とする請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記疾患は、抗生物質関連の下痢及び大腸炎から成る群から選択されることを特徴とする請求項54に記載の方法。
【請求項57】
化合物Iが、80%未満の「Tiacumicin B」を含有することができることを特徴とする請求項54に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−197309(P2012−197309A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−138170(P2012−138170)
【出願日】平成24年6月19日(2012.6.19)
【分割の表示】特願2007−513392(P2007−513392)の分割
【原出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(505035806)オプティマー ファーマシューティカルズ、インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】