説明

抗生物質不在下で増殖した細胞における組換え蛋白質の原形質での産生および発現

本発明は、チミジル酸シンターゼをコードするthyA遺伝子がナンセンスコドン、好ましくはアンバーコドンを含む、細菌や酵母などの突然変異細胞に関し、このナンセンスコドンはあるアミノ酸をコードするコドンを置換し、thyA遺伝子の翻訳を中断して、この細胞をチミジン要求性とする。有利には、この突然変異細胞においては、エンドヌクレアーゼ1をコードするendA遺伝子および/またはリコンビナーゼをコードするrecA遺伝子が不活性化されている。本発明はまた、導入遺伝子およびサプレッサーtRNA構造遺伝子配列を含む発現プラスミドにも関し、このサプレッサーtRNAは、thyA遺伝子のナンセンスコドンと対になりうるアンチコドンを含み、そして突然変異thyA遺伝子の翻訳を回復し、それによってチミジル酸シンターゼ活性を有する野生型または変異型の蛋白質を得ることができるアミノ酸に特異的である。本発明はまた、この発現プラスミドを増幅する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チミジル酸シンターゼ(thymidylate synthase) をコードするthyA遺伝子が、ナンセンスコドン、好ましくはアンバーコドンを含む、細菌や酵母などの突然変異細胞に関し、このナンセンスコドンはあるアミノ酸をコードするコドンを置換し、thyA遺伝子の翻訳を妨げ、この細胞をチミジン要求性とする。有利には、この突然変異細胞においてはエンドヌクレアーゼ1をコードするendA遺伝子、および/またはリコンビナーゼをコードするrecA遺伝子が不活性化されている。本発明はまた、導入遺伝子および、サプレッサーtRNA構造遺伝子の配列を含む発現プラスミドにも関し、このサプレッサーtRNAは、thyA遺伝子のナンセンスコドンと対になることができるアンチコドンを含み、そして突然変異thyA遺伝子の翻訳を回復し、それによってチミジル酸シンターゼ活性を有する野生型または突然変異型の蛋白質を得ることができるアミノ酸に特異的である。発現プラスミドの増殖方法も請求されている。
【背景技術】
【0002】
疾患の治療や予防接種は、治療用または抗原性蛋白質の注入による。かかる蛋白質は、一般に、発現ベクターを含む細菌細胞や酵母などのその他の細胞から精製される。あるいは、目的の蛋白質が、ヒトまたは動物細胞中に発現プラスミドを注入した後の、in vivo での発現であってもよい。この技術は、発現蛋白質が治療的側面を有する場合、遺伝子治療と称され、目的蛋白質が病原性もしくは毒性因子の遺伝的材料の一部によりコードされ、それにより防御的免疫反応を引き起こす場合、DNAワクチン接種と称される。
【0003】
一般的に発現プラスミドは、複製起点、宿主細胞中でプラスミドの維持を促進する抗生物質 (カナマンシン、アンピシリン等) に対する耐性遺伝子などの選択遺伝子、および動物細胞 (エンハンサー、プロモーター、ホリアデニル化配列等) または酵母や細菌などのその他の細胞中でのそれらの発現に必要な配列をもつ1または2以上の導入遺伝子を有する。
【0004】
発現プラスミドは一般的に、分裂中の大腸菌 (E.coli) 細胞での増幅により得られる。分離すべき、または組換え蛋白質を発現するプラスミドが細菌培養物中に保持されることを確実にするために、抗生物質への耐性などの選択圧をかける。しかし、臨床用途の範囲においては、抗生物質を含有する培地から調製したプラスミドや組換え蛋白質を使用することは推奨されない。抗生物質の注入は、感作やアナフィラキシーショックをもたらすことがある。さらに、in vivo では、注入されたプラスミドが内生、次いで環境フローラの微生物に移行し、次いでこのようにして抗生物質耐性を獲得するかもしれない。
【0005】
抗生物質耐性のための遺伝子をもたないプラスミドは既に作製されており、特にリプレッサーを同定する機構に基づく選択系を用いて作製されている:大腸菌の必須染色体遺伝子dapD (ペプチドグリカンの合成に関与) がlac プロモーター/オペレーターの転写制御下に置かれている。培地中に誘導物質が不在の場合は、lac オペロンのリプレッサーはオペレーターに結合し、必須遺伝子の発現を阻止する。オペレーション配列を有するプラスミドを含む株のみが増殖する。このプラスミドが存在すると、dapD遺伝子の上流に位置するオペレーターに結合するリプレッサーの同定および細菌増殖の回復を可能にする (Cranenburg et al., 2001 および2004) 。しかし、この方法を用いて調製したプラスミドの収量は満足しうるものではないようだ。
【0006】
別の方策は、真核性遺伝子の発現カセットのみを含むミニサークルを作製することからなる。ミニサークルは、増殖に必要な原核性配列、およびリコンビナーゼにより認識される部位に挟まれた真核性遺伝子の発現カセットを有するプラスミドから、細菌内において産生される。組換えにより2種の分子が生じる:ミニサークルおよび、細菌性配列を有する「ミニプラスミド」 (Kreiss et al., 19989) 。後者はエンドヌクレアーゼを用いて消化しうるかもしれない (Chen et al., 2003 および2005) 。ミニサークルを得るにはいくつかの工程が必要である:ミニサークルを生じるためのプラスミドDNAの組換え、可能であれば、細菌性DNAを有するミニプラスミドの消化およびミニサークルの精製。ミニサークルの精製および回収の技術はかなり改良されてきたが、天然のプラスミドによる (部分的組換えに起因) または原核性配列を有するミニプラスミドによる (酵素的消化または不完全な精製に起因) 調製物の汚染が排除できない。
【発明の概要】
【0007】
従って、抗生物質耐性のための遺伝子をもたない発現プラスミドを増幅するための新規な選択系を見出す必要がある。
この要求は、リッチな(栄養ある)培地を用いることにより発現プラスミドで形質転換された細菌を選択し、標準的精製法により良好な収量を可能にする本発明により満たされる。in vivo において、これらのプラスミドは、現在使用されている発現ベクターに比べて何ら不利益な点をもたない。
【0008】
本発明は、エシェリキア・コリ (Escherichia coli) (以下、大腸菌 (E.coli))の突然変異株および、抗生物質耐性のための遺伝子をもたないプラスミドの新規な組み合わせにある。これらのプラスミドの産生は、対象(of interest)プラスミドによりコードされるtRNAサプレッサーによる、大腸菌 (E.coli) の必須遺伝子中に導入された停止コドン (ナンセンス変異) を生じる点−様 (point-like) の変異の抑圧に基づく (図1参照) 。
【0009】
本発明の用途分野は、動物細胞のトランスフェクションに使用されるベクター、ヒトまたは動物におけるDNAワクチン接種または遺伝子治療のためのベクターの製造、および組換え蛋白質の製造のためのベクターの使用である。
【0010】
従って、第1の面によれば、本発明の目的は、チミジル酸シンターゼ (ThyA) をコードするthyA遺伝子がナンセンスコドンを含む突然変異細胞であって、このナンセンスコドンがアミノ酸をコードするコドンから置き換わり、そしてthyA遺伝子の翻訳を中断して、この細胞をチミジン要求性とする、前記突然変異細胞である。
【0011】
「突然変異細胞」なる用語は、thyA遺伝子に突然変異が導入された (変異thyA遺伝子) Thy 蛋白質を発現する任意の細胞を意味する。有利には、突然変異細胞は細菌および酵母から選択される。
【0012】
本発明の範囲内で使用できる細菌または酵母は、いかなる種類であってもよく、後者はチミジル酸シンターゼ (thyA) をコードするthyA遺伝子を含むべきである。これらには、例えば、ピチア属 (Pichia) もしくはサッカロミセス属 (Saccharomyces)の酵母、または大腸菌 (Escherichia coli) 、サルモネラ (Salmonella) 、シゲラ (Shigella) もしくはリステリア (Listeria) 属の細菌がある。好ましくは、本発明の突然変異細胞は大腸菌 (E.coli) である。有利には、大腸菌株は、全ゲノムが配列決定された (Blattner et al., 1997) MG1655 株 (米国の"The Coli Genetic Stock Center" より入手) である。
【0013】
DNA分子の4種のヌクレオチド塩基は遺伝情報を有する。連続した3塩基のコドンの形態のこの情報は、mRNAに転写され、次いで、tRNAおよび蛋白質合成のためのリボソームにより翻訳される。遺伝暗号は、あるコドンと特定のアミノ酸との間の関係である。遺伝暗号を形成する64種類の可能なコドンの中に、3種類の「停止」コドン、即ちナンセンスコドンまたは終止コドンがあり、これらはリボソームでの蛋白質の産生を停止するとして知られている。3種類の停止コドンはアンバーコドン UAG、オーカーコドン UAAおよびオパールコドン UGAである。あるコドンを停止コドンに変える突然変異は、ナンセンス突然変異と呼ばれ、蛋白質合成を中断させる。
【0014】
停止コドン UAA (63%) および UGA (29.4%) に比べ、停止コドンUAG は少数 (7.6 %) であるため、アンバーナンセンス変異が好ましい。これは、アミノ酸の挿入を引き起こす、サプレッサーtRNAによる停止コドンの認識による、他の細菌性蛋白質の合成に影響する危険性を最小にする。
【0015】
転移RNA (tRNA)はmRNAをリボソーム上で蛋白質に翻訳する。各tRNAは、mRNAにハイブリダイズするアンチコドン領域、および合成中に蛋白質に結合されるアミノ酸を含む。tRNAは約72〜90ヌクレオチドの大きさを有し、「クローバー葉」の構造に折り返される。tRNAは RNAポリメラーゼIII により転写され、成熟tRNAをコードする配列の一部となる独自のプロモーターを含む。ナンセンスサプレッサーは、停止コドンへのハイブリダイゼーションによりあるアミノ酸を挿入しうるように、アンチコドンにおいて変化したtRNA遺伝子の対立遺伝子である。例えば、ある遺伝子におけるアンバー変異は、mRNA中にUAG コドンを作り出す。アンバー変異のサプレッサー遺伝子は、UAG 部位においてアミノ酸を導入するCUA アンチコドンを有するtRNAを生じ、従ってアンバー終止コドンの存在にもかかわらず翻訳が継続しうる。
【0016】
致死的ナンセンス突然変異はチミジル酸シンターゼ (thyA) (EC 2.1.1.45) をコードするthyA遺伝子に導入される。この酵素は、DNA 合成中に用いられる前躯体であるデオキシチミジン5'- 一リン酸 (dTMP) の合成に関与する。ナンセンス突然変異は、チミジル酸シンターゼ (EC 2.1.1.45)の酵素的特性を有する蛋白質をコードするthyA遺伝子に導入してもよい。
【0017】
得られる突然変異体はチミジン要求性であり、培地中にこの補助剤を添加することにより単離される。チミジンはヌクレオシドトランスポーターを介して細胞内に入り、次いで、チミジンキナーゼを含む別の経路によりdTMPに変換される (図2参照) 。外からのチミジンの供給がない場合、thyA遺伝子における突然変異は致死的である;複製起点、哺乳動物細胞、細菌、酵母またはその他の細胞の特異的発現カセット、およびサプレッサーtRNAを有するプラスミドを含む株のみが増殖する。後者は、停止コドンと対を形成し、それによって野生型または、変異型であるがチミジル酸シンターゼ酵素活性を有する変異型のThyA蛋白質の完全な翻訳を回復することを可能にするように変化したアンチコドンを含む。従って、このプラスミドを含む株は増殖の回復により選択される。この選択は抗生物質の使用を必要とせず、チミジンを少量含むかまたは含まないMueller Hinton培地 (Fluka)などのリッチな培地を用いることにより行うことができる。
【0018】
ナンセンス突然変異は、サプレッサーtRNAによる抑圧 (サプレッション) が有効であろう位置で、thyA遺伝子の任意の部位に導入すればよい。実際に多くの研究により、アンバー突然変異の下流に位置する核酸配列が抑圧効率に影響をもつことが示された (Kleina et al., 1990; Normanly et al., 1986) 。好ましくは、突然変異大腸菌 (E.coli) は、ナンセンスコドンが、 147位のヒスチジン、14または223 位のグルタミン酸、35または127 位のアルギニン、30位のフェニルアラニン、81または105 位のアスパラギン酸、33位のグルタミンおよび121 位のアスパラギンからなる群より選択されたチミジル酸シンターゼのアミノ酸をコードするコドンを置換することを特徴とする。より好ましい方法においては、ナンセンスコドンがチミジル酸シンターゼの147 位のヒスチジンをコードするコドンを置換する。
【0019】
UAG ナンセンス変異は、アンバー変異の有効なサプレッサーであるPhe 、Cyst、His 、Gly 、Ala 、Lys 、Pro またはGln 型のサプレッサーtRNAを用いる、および/または所望のアミノ酸を挿入することにより優先的に抑圧される (Bradley et al., 1981; Normanly et al., 1986 および1990; Kleina et al., 1990)。アンチコドンの変化はtRNA上に結合されるアミノ酸の特異性を実際に変えることができる;これは、アミノ酸が酵素の活性部位に存在する場合には望ましくない。
【0020】
ヒスチジン147 に導入されたナンセンス変異は、CUA 型の変更アンチコドンおよび下流AAヌクレオチドを含むヒスチジンサプレッサーtRNAを用いることにより効果的に抑圧される;これは抑圧効率の向上を可能にする (Kleina et al., 1990)。
【0021】
ある特定の態様によれば、本発明の突然変異細胞は、ナンセンスコドンがアンバーコドンUAG であることを特徴とする。
好ましい態様によれば、本発明の突然変異細胞は、2007年4月5日に、Collection Nationale de Cultures de Microorgamismes (CNCM) (Institut Pasteur, 25 rue de Docteur Roux, 75724 パリ Cedex 15 、フランス) に寄託された番号I-3739の大腸菌細胞 MG1655 thyA#d2 である。
【0022】
好ましくは、本発明の突然変異細胞は、エンドヌクレアーゼ1をコードするendA遺伝子が、該変異細胞においてより高いプラスミド安定性を誘導する突然変異を含むことを特徴とする。従って、かかる細胞はナンセンス変異を含むthyA遺伝子、およびより高いプラスミド安定性を誘導する突然変異を含むendA遺伝子を含有する。
【0023】
endA+ 株またはendA突然変異株から分離されたプラスミドDNA の性質はこれまで研究されている (Schoenfeld et al., 1995)。endA突然変異株から調製されたDNA の性質は、試験されたendA+ 株で製造されたDNA のものより全体的に良好であることが実証された。
【0024】
突然変異を、エンドヌクレアーゼ1 (EC 3.1.21.1)の酵素的性質を有する蛋白質をコードするendA遺伝子に導入することもできる。
endA遺伝子は、標的蛋白質の機能の欠損をもたらす、欠失、点−様突然変異または挿入などの突然変異により不活性化しうる。好ましくは、突然変異は非極性である;これはendA遺伝子の下流に位置する遺伝子の転写および翻訳に影響しない。可能な逆転事象を避けるために、コード配列の欠失が好ましい。より好ましい方法では、突然変異が、 235個のアミノ酸からなるEndA蛋白質のアミノ酸7-234をコードする配列の欠失を生じる。
【0025】
より好ましい態様では、本発明の突然変異細胞は、2007年4月5日に、Collection Nationale de Cultures de Microorgamismes (CNCM) (Institut Pasteur, 25 rue de Docteur Roux, 75724 パリ Cedex 15 、フランス) に寄託された番号I-3738の大腸菌細胞 MG1655 thyA endA#1.2.C.3 である。
【0026】
好ましくは、本発明の突然変異細胞は、細菌ゲノムとプラスミドとの間の、およびプラスミド間の組換えのメカニズムを避けるために、DNA 配列の組換えに関与するリコンビナーゼをコードするrecA遺伝子が変異していることを特徴とする。従って、かかる細胞はナンセンス変異を含むthyA遺伝子、より良好なプラスミド安定性を誘導する突然変異を含むendA遺伝子、および/または、細菌ゲノムとプラスミドとの間の、およびプラスミド間の組換えのメカニズムを避けるための突然変異を含むrecA遺伝子を含有する。
【0027】
突然変異は、リコンビナーゼの酵素的性質を有する蛋白質をコードするrecA遺伝子に導入してもよい。
recA遺伝子は、標的蛋白質の機能の欠損をもたらす、欠失、点−様突然変異または挿入などの突然変異により不活性化しうる。好ましくは、突然変異は非極性である;これはrecA遺伝子の下流に位置する遺伝子の転写および翻訳に影響しない。可能な逆転事象を避けるために、コード配列の欠失が好ましい。より好ましい方法では、突然変異が、353 個のアミノ酸からなるRecA蛋白質のアミノ酸5-343をコードする配列の欠失を生じる。
【0028】
特に好ましい態様では、本発明の突然変異細胞は、2007年4月5日に、Collection Nationale de Cultures de Microorgamismes (CNCM) (Institut Pasteur, 25 rue de Docteur Roux, 75724 パリ Cedex 15 、フランス) に寄託された番号I-3737の大腸菌細胞 MG1655 thyA endA recA#TM1a である。
【0029】
好ましい態様によれば、本発明の突然変異細胞は、発現プラスミドにより形質転換され、このプラスミドは下記を含む:
−複製起点、
−対象の (目的の) 組換え蛋白質をコードするヌクレオチド配列、
−この対象組換え蛋白質の宿主中での発現のための発現カセット、および
−サプレッサーtRNAの構造遺伝子配列、ここで、このサプレッサーtRNAはナンセンスコドンと対を形成できるアンチコドンを含み、細胞中で前記突然変異したthyA遺伝子の翻訳を回復しうるアミノ酸に特異的であり、
この細胞はチミジンを含まない培地において増殖しうる。
【0030】
対象の組換え蛋白質が発現される宿主細胞は、実際の突然変異細胞でも、本発明の発現プラスミドにより形質転換されるであろう哺乳類 (ヒト、動物、…) 細胞などの別の細胞であってもよい。
【0031】
有利には、発現カセットは、哺乳動物宿主細胞または酵母中で上記の対象組換え蛋白質を発現するための真核性発現カセット、および細菌細胞などの原核性宿主細胞において前記蛋白質を発現するための原核性発現カセットから選択される。
【0032】
好ましい複製起点は、細胞当たり数百のプラスミドのコピーを得られるような当業者に周知のものである。より好ましい複製起点は、ColE1 またはpMB1型、またはその誘導体である。複製の開始を可能にする複製起点に加え、発現プラスミドは、動物細胞、酵母、細菌またはその他の細胞中で対象蛋白質の発現を可能にする真核性または原核性発現カセットを有する。原核性発現カセットは、T7、Tac(プロモーターtrp の-35 領域および、lacUV5プロモーター/オペレーターの-10 領域からなるハイブリッドプロモーター) またはlac 型の強力なプロモーターを含む。これらは、蛋白質を融合蛋白質として精製するための"His", "glutathione S-transferase"または"MBP=マルトース結合蛋白質" 型の標識も含んでよい。トロンビン、TEV またはエンテロキナーゼ型のプロテアーゼにより認識される特異的部位を、融合蛋白質の消化の後に天然の蛋白質を得るために、標識蛋白質および対象蛋白質の間に導入してもよい。
【0033】
真核性発現カセットは一般に、動物細胞で機能的転写を促進する領域 (即ち、プロモーター) 、エンハンサー (転写のアクチベーターが結合されうる短いDNA 領域) 、および転写の最後のシグナルおよびポリアデニル化部位を特定する3'に位置する領域を有する (Garmory et al., 2003) 。使用できる種々のプロモーターの中で、特に、サイトメガウイルス CMVの「前初期 (immediate-early)」の遍在プロモーター/エンハンサーが挙げられる。イントロンAなどの、プロモーターの下流へのイントロンの導入は、多分、ポリアデニル化率および/または RNAのスプライシングに関連する核への輸送を増加させることにより発現のレベルを向上させる可能性を与える。
【0034】
遺伝子治療分野での応用の場合は、導入遺伝子の産物の異常部位での発現に関連する免疫応答は、筋肉または皮膚などのある種の組織の特異的プロモーターを用いることにより低減しうる。筋肉の特異的プロモーターの中で、特に、筋肉繊維に特異的に存在するdesmin蛋白質の発現を制御するdesminプロモーター、ATP へ変換させるためのホスホクレアチンのホスホリル基のADP への移動に関与する筋肉クレアチンキナーゼのプロモーターが挙げられる。皮膚の表層の細胞であるケラチノサイトの特異的蛋白質をコードする遺伝子のプロモーターを使用してもよい。
【0035】
好ましいポリアデニル化配列は、ウシ成長ホルモン、ウサギβ−グロビンのポリアデニル化配列、またはポリアデニル化シグナルの下流に位置する第2エンハンサーSV40と組み合わせてもよいポリアデニル化配列SV40である。
【0036】
プラスミドはさらに、細胞発現の特異性が改良されうるmiRNA(マイクロ RNA) により認識されるものなどの補助配列を含んでもよい。
対象組換え蛋白質なる用語は、ヒトまたは動物の健康、美容、動物栄養、農業関連産業または化学工業などの分野で使用できるすべての蛋白質、ポリペプチドまたはペプチドを意味する。有利には対象組換え蛋白質は、治療の利点を有するものや免疫応答を調節 (刺激/抑制) するものなどの真核型の蛋白質からなる群より選択される。DNA ワクチン接種の範囲では、対象蛋白質はヒトまたは動物の毒素産生性でありうる病原体において同定される抗原決定基からなる群に属するであろう。対象組換え蛋白質の例としては、エリスロポイエチン、ジストロフィン、インスリン、抗 TNFα、サイトカイン類、ヒトIX因子などの凝固因子、バシルス・アントラシス (Bacillus anthracis) 、マイコバクテリウム・ツベルクローシス (Mycobacterium tuberculosis) 由来のものなどの防御抗原、および前立腺特異的膜抗原 (PSMA) などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0037】
有利には、本発明の突然変異細胞は、サプレッサーtRNAがヒスチジンに特異的であり、そして、チミジル酸シンターゼの147 位のヒスチジンをコードするコドンを置換するナンセンスコドンを含む変異thyA遺伝子の翻訳の回復を可能にすることを特徴とする。
【0038】
さらにより有利には、本発明の突然変異細胞は、サプレッサーtRNAが、ナンセンスアンバーコドンUAG に結合しうるCUA アンチコドンを含むことを特徴とする。
好ましくは、本発明の突然変異細胞は、真核性発現カセットがプロモーターとポリアデニル化配列を含み、このプロモーターおよび配列が宿主哺乳動物細胞に特異的であることを特徴とする。より好ましくは、プロモーターがサイトメガウイルス (CMV)のプロモーターであり、ポリアデニル化配列が「ウシ成長ホルモン」 (BGH)由来である。
【0039】
また、発現プラスミドはサプレッサーtRNAの発現を可能にする任意の要素を含む。有利には、本発明の突然変異細胞は、サプレッサーtRNA構造遺伝子が、原核型の強力なプロモーターlpp (Nakamura et al., 1979) から発現し、その3'末端にrrnCオペロンの転写終止配列 (Young, 1979)を含み、この配列は好ましくは対象組換え蛋白質をコードするヌクレオチド配列に対して反対の方向である。この異なる方向により、宿主の哺乳動物または酵母の細胞において真核性プロモーターからサプレッサーtRNAが発現する危険性を除去することが可能となる。
【0040】
より好ましくは、本発明の突然変異細胞は、かかるプラスミドがプラスミドpFAR1 であることを特徴とする (図7参照) 。
とりわけ好ましくは、本発明の突然変異細胞は、上記プラスミドが配列番号 (SEQ ID NO)21のpFAR4 であることを特徴とする。
【0041】
pFAR4 由来のプラスミドはまた、本発明の有利な態様を形成する。
本発明の発現プラスミドは有利には、少なくとも隣接するシトシンとグアニンからなる非メチル化配列であるCpG 単位を少数有する。かかる単位は、遺伝子治療の用途では避けるべき炎症性および免疫応答を担うとして知られている。逆に、抗原をコードするDNA の投与によるワクチン接種の場合には増加した免疫応答が望ましい。
【0042】
DNA ワクチンは一般的には、哺乳動物細胞において活性なプロモーター領域の制御下に置かれた抗原をコードする遺伝子を含む。次いで、CD8+リンパ球の刺激に導くために、発現した蛋白質は、クラスIの組織適合複合体の分子と相互作用するペプチドに分解される。
【0043】
免疫系はまた、細菌およびプラスミドのDNA の非メチル化CpG 単位を認識する。細菌のDNA は、CpG ジヌクレオチドの頻度により哺乳動物のものとは異なる;後者は脊椎動物においては約4倍低い。さらに、哺乳動物のDNA のCpG の80%はメチル化されているのに対し、細菌のDNA はメチル化されていない。これらの違いにより、免疫系は、病原体による感染を示す危険信号として非メチル化CpG 単位を認識する。細菌のDNA 、およびCpG を含むオリゴヌクレオチドはヒトおよびマウスの白血球を刺激し、B細胞の増殖および免疫グロブリンの分泌、マクロファージおよび樹状細胞の活性化、さらにNK「ナチュラルキラー」細胞の溶菌活性を誘導する (Chaung, 2006) 。
【0044】
従って、CpG 単位は、DNA ワクチンの抗原応答が改善されうるDNA 型の補助剤と考えることができる。よって本発明において、CpG 単位はDNA ワクチン接種のための発現ベクターpFAR4 のプラスミド骨格に導入され、次いでpFAR4 は抗原をコードする。
【0045】
最も免疫を促進するCpG 単位は、ヘキサヌクレオチドからなり、その配列はプリン−プリン-CpG- ピリミジン−ピリミジン型 (G/A G/A CG T/C T/C、SEQ ID NO:22) である。従って、これらの配列をpFAR4.0 に導入することにより、増強された免疫応答を得ることができる。
【0046】
このように、好ましい態様によれば、上記プラスミドによりコードされる対象組換え蛋白質は防御抗原であり、発現プラスミドは少なくとも1個の追加の免疫促進CpG 単位を、有利には少なくとも2個の追加の免疫促進単位を、より有利には3〜10個の追加の免疫促進CpG 単位、とりわけ3〜6個の追加の免疫促進CpG 単位を含有する。
【0047】
「追加の免疫促進CpG 単位」とは、本発明において、CpG 単位、即ち、少なくとも1個のシトシンと1個の隣接グアニンからなる非メチル化配列を意味し、これは上記プラスミドに既に存在するCpG 単位とは異なり、発現プラスミド中に導入されるものである。
【0048】
有利には、これらの追加の免疫促進CpG 単位は複製起点の上流に、好ましくは複製起点とサプレッサーtRNA構造遺伝子の配列の間に導入される。好ましくは、追加の免疫促進CpG 単位は、2〜20ヌクレオチド、好ましくは3〜10ヌクレオチド、より好ましくは4〜8ヌクレオチドを含有し、最も好ましくは、追加の免疫促進CpG 単位は6ヌクレオチドを含む。
【0049】
好ましくは、追加の免疫促進CpG 単位の配列は、プリン−プリン-C-G- ピリミジン−ピリミジン (SEQ ID NO:22) 型のヘキサヌクレオチド配列である。さらに好ましくは、この配列はSEQ ID NO:23〜38の配列から選択される。
【0050】
特に好ましい態様によれば、本発明の発現プラスミドは、複製起点ものと同じ5'−3'方向に向けられた6個の追加の免疫促進CpG 単位を含み、この単位は複製起点の上流に、好ましくは複製起点とサプレッサーtRNA配列の間に位置し、これらの6単位の配列はSEQ ID NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:31およびSEQ ID NO:35の配列から選択される。
【0051】
有利には、これらの単位に相当する6つの配列は、次の順で存在する:上記した5'−3'の方向で、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:35、SEQ ID NO:31、およびSEQ ID NO:26。かかるプラスミドの例には、pFAR5 プラスミドがある (実施例の項の8.および図10B参照) 。
【0052】
別の特に好ましい態様によれば、本発明の発現プラスミドは、複製起点と同じ5'−3'方向に向けられた3個の追加の免疫促進CpG 単位を含み、この3個の単位は複製起点の上流に、好ましくは複製起点とサプレッサーtRNA配列の間に位置し、これらの3単位の配列はSEQ ID NO:35である。かかるプラスミドの例には、pFAR6 プラスミドがある (実施例の項の8.および図10C参照) 。
【0053】
また、本発明のプラスミドは有利には、縮小されたサイズを有し、原核配列が最大限除去され、および/または分子操作を容易にする単一のクローニング部位が導入される。
第2の態様によれば、本発明の目的は、複製起点、対象組換え蛋白質をコードするヌクレオチド配列、および宿主細胞においてこの対象組換え蛋白質を発現させるための発現カセットおよびサプレッサーtRNA構造遺伝子配列を含む発現プラスミドであり、このサプレッサーtRNAはナンセンスコドンと対になりうるアンチコドンを含み、本発明の突然変異細胞においてthyA遺伝子の翻訳を回復しうるアミノ酸に特異的であることを特徴とする。
【0054】
有利には、発現カセットは、哺乳動物宿主細胞または酵母中で上記の対象組換え蛋白質を発現するための真核性発現カセット、および細菌細胞などの原核性宿主細胞でこの蛋白質を発現するための原核性発現カセットから選択される。
【0055】
好ましくは、突然変異細胞が大腸菌 (E.coli) である場合、ナンセンスコドンは、147 位のヒスチジン、14または223 位のグルタミン酸、35または127 位のアルギニン、30位のフェニルアラニン、81または105 位のアスパラギン酸、33位のグルタミン、および121 位のアスパラギンからなる群より選択されたチミジル酸シンターゼのアミノ酸をコードするコドンを置換する。より好ましくは、本発明の発現プラスミドは、サプレッサーtRNAがヒスチジンに特異的であり、チミジル酸シンターゼの147 位のヒスチジンをコードするコドンを置換するナンセンスコドンを含むthyA遺伝子の翻訳を回復させうることを特徴とする。
【0056】
好ましくは、サプレッサーtRNAはナンセンス・アンバーコドンUAG と結合しうるアンチコドンCUA を含む。
好ましくは、本発明の突然変異細胞は、2007年4月5日にCNCMに寄託された番号I−3739の大腸菌 (E.coli) 細胞MG1655 thyA#d2である。
【0057】
ある好ましい態様によれば、本発明の発現プラスミドは、エンドヌクレアーゼ1をコードするendA遺伝子が、上記突然変異細胞においてより良好なプラスミド安定性を誘導する突然変異を含むことを特徴とする。より好ましくは、本発明の突然変異細胞は、2007年4月5日にCNCMに寄託された番号I−3738の大腸菌 (E.coli) 細胞MG1655 thyA endA#1.2.C.3である。
【0058】
別の好ましい態様によれば、本発明の発現プラスミドは、DNA 配列の組換えに関与するリコンビナーゼをコードするrecA遺伝子が、細菌ゲノムとプラスミドの間、およびプラスミド間の組換え機構を避けるために変異していることを特徴とする。さらにより好ましくは、本発明の突然変異細胞は、2007年4月5日にCNCMに寄託された番号I−3737の大腸菌 (E.coli) 細胞MG1655 thyA endA recA#TM1aである。
【0059】
ある有利な態様によれば、本発明の発現プラスミドは、真核性発現カセットがプロモーターとホリアデニル化配列を含み、このプロモーターとこの配列が哺乳動物宿主細胞に特異的であることを特徴とする。好ましくは、プロモーターがサイトメガロウイルス (CMV)のプロモーターであり、ポリアデニル化配列が「ウシ成長ホルモン」 (BGH)型である。
【0060】
特に有利な態様によれば、突然変異細胞が大腸菌 (E.coli) である場合、本発明の発現プラスミドは、サプレッサーtRNA構造遺伝子配列が原核型の強力なlpp プロモーターから発現し、その3'末端にオペロンrrnCの転写の終止配列を含むことを特徴とし、この配列は好ましくは、対象組換え蛋白質をコードするヌクレオチド配列に対して異なる方向に向けられている。
【0061】
さらに好ましくは、上記発現プラスミドはpFAR1 である。とりわけ好ましくは、この発現プラスミドはSEQ ID NO:21のpFAR4 プラスミドまたはpFAR4 の誘導体である。
有利には、対象の組換え蛋白質は、治療の利点を有するものや免疫応答を変更する (促進/抑制) ものなどの真核型の蛋白質からなる群より選択される。DNA ワクチン接種の範囲内では、対象の蛋白質はヒトまたは動物の、毒素産生性でありうる病原体において同定された抗原決定基からなる群に属する。好ましくは、対象組換え蛋白質は、エリスロポイエチン、ジストロフィン、インスリン、抗TNF α、サイトカイン類、ヒトIX因子などの凝固因子、バシルス・アントラシス (Bacillus anthracis) 、マイコバクテリウム・ツベルクローシス (Mycobacterium tuberculosis) 由来のものなどの防御抗原、および前立腺特異的膜抗原 (PSMA) からなる群より選択される。
【0062】
このように、好ましい態様によれば、上記プラスミドによりコードされる対象組換え蛋白質は、防御抗原であり、発現プラスミドは少なくとも1個の追加の免疫促進CpG 単位、有利には少なくとも2個の追加の免疫促進CpG 単位、より有利には3〜10個の追加の免疫促進CpG 単位、特に好ましくは3〜6個の追加の免疫促進CpG 単位を含む。
【0063】
有利には、これらの追加の免疫促進CpG 単位は複製起点の上流に、好ましくは複製起点とサプレッサーtRNA構造遺伝子の配列の間に導入される。好ましくは、追加の免疫促進CpG 単位は、2〜20ヌクレオチド、好ましくは3〜10ヌクレオチド、より好ましくは4〜8ヌクレオチドを含有し、とりわけ好ましくは、追加の免疫促進CpG 単位は6ヌクレオチドを含む。
【0064】
好ましくは、追加の免疫促進CpG 単位の配列は、プリン−プリン-CpG- ピリミジン−ピリミジン型 (SEQ ID NO:22) 型のヘキサヌクレオチド配列である。さらに好ましくは、この配列はSEQ ID NO:23〜38の配列から選択される。
【0065】
特に好ましい態様によれば、本発明の発現プラスミドは、複製起点ものと同じ5'−3'方向に向けられた6個の追加の免疫促進CpG 単位を含み、この単位は複製起点の上流に、好ましくは複製起点とサプレッサーtRNA配列の間に位置し、これらの6単位の配列はSEQ ID NO:26、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:31およびSEQ ID NO:35の配列から選択される。
【0066】
有利には、これらの単位に相当する6つの配列は、次の順で存在する:上記した5'−3'の方向で、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:35、SEQ ID NO:31、およびSEQ ID NO:26。かかるプラスミドの例には、pFAR5 プラスミドがある (実施例の項の8.および図10B参照) 。
【0067】
別の特に好ましい態様によれば、本発明の発現プラスミドは、複製起点ものと同じ5'−3'方向に向けられた3個の追加の免疫促進CpG 単位を含み、この3個の単位は複製起点の上流に、好ましくは複製起点とサプレッサーtRNA配列の間に位置し、これらの3単位の配列はSEQ ID NO:35である。かかるプラスミドの例には、pFAR6 プラスミドがある (実施例の項の8.および図10C参照) 。
【0068】
第3の面によれば、本発明の目的は、複製起点、対象の組換え蛋白質をコードするヌクレオチド配列、および宿主細胞で上記対象組換え蛋白質を発現させるための発現カセットおよびサプレッサーtRNA構造遺伝子の配列を含む発現プラスミドを増幅させる方法であり、この方法は下記を含む:
−thyA遺伝子がナンセンスコドンを含む突然変異細胞を培養すること、ここで、このナンセンスコドンはあるアミノ酸をコードするコドンを置換し、thyA遺伝子の翻訳の中断およびこの突然変異細胞のチミジン要求性を誘導し、
−発現プラスミドを上記増殖した細胞に導入すること、ここで、発現プラスミドのサプレッサーtRNAは、thyA遺伝子のナンセンスコドンに対となりうるアンチコドンを含み、突然変異細胞内でthyA遺伝子の翻訳を回復しうるアミノ酸に特異的であり、および
−細胞培養物より発現プラスミドを回収すること、
ここで、この培養は、上記発現プラスミドにより形質転換された細胞の選択を可能にするように、チミジンを含まない培地で行われる。
【0069】
有利には、発現カセットは、哺乳動物宿主細胞または酵母中で上記の対象組換え蛋白質を発現するための真核性発現カセット、および細菌細胞などの原核性宿主細胞でこの蛋白質を発現するための原核性発現カセットから選択される。
【0070】
突然変異細胞への発現プラスミドの導入は、当業者に既知の任意の技術に従って行えばよい。これは特に、形質転換、エレクトロポレーション、接合またはその他の任意の適切な技術でありうる。
【0071】
増幅後に得られる発現プラスミドは、当業者に既知の任意の技術により回収する。
好ましくは、突然変異細胞が大腸菌 (E.coli) である場合、ナンセンスコドンは、147 位のヒスチジン、14または223 位のグルタミン酸、35または127 位のアルギニン、30位のフェニルアラニン、81または105 位のアスパラギン酸、33位のグルタミン、および121 位のアスパラギンからなる群より選択されたチミジル酸シンターゼのアミノ酸をコードするコドンを置換する。より好ましくは、本発明の増幅方法は、サプレッサーtRNAが、ヒスチジンに特異的であり、チミジル酸シンターゼの147 位のヒスチジンをコードするコドンを置換するナンセンスコドンを含むthyA遺伝子の翻訳を回復させうることを特徴とする。
【0072】
より好ましくは、本発明の方法は、サプレッサーtRNAがナンセンス・アンバーコドンUAG と結合しうるアンチコドンCUA を含むことを特徴とする。
好ましくは、本発明の突然変異細胞は、2007年4月5日にCNCMに寄託された番号I−3739の大腸菌 (E.coli) 細胞MG1655 thyA#d2である。
【0073】
ある好ましい態様によれば、本発明の方法は、エンドヌクレアーゼ1をコードするendA遺伝子が、上記突然変異細胞においてより良好なプラスミド安定性を誘導する突然変異を含むことを特徴とする。より好ましくは、本発明の突然変異細胞は、2007年4月5日にCNCMに寄託された番号I−3738の大腸菌 (E.coli) 細胞MG1655 thyA endA#1.2.C.3である。
【0074】
別の好ましい態様によれば、本発明の方法は、DNA 配列の組換えに関与するリコンビナーゼをコードするrecA遺伝子が、細菌ゲノムとプラスミドの間、およびプラスミド間の組換え機構を避けるために変異していることを特徴とする。さらにより好ましくは、本発明の突然変異細胞は、2007年4月5日にCNCMに寄託された番号I−3737の大腸菌 (E.coli) 細胞MG1655 thyA endA recA#TM1aである。
【0075】
ある有利な態様によれば、本発明の方法は、真核性発現カセットがプロモーターとポリアデニル化配列を含み、このプロモーターとこの配列が哺乳動物細胞に特異的であることを特徴とする。好ましくは、プロモーターがサイトメガロウイルス (CMV)のプロモーターであり、ポリアデニル化配列が「ウシ成長ホルモン」 (BGH)型である。
【0076】
特に有利な態様によれば、本発明の方法は、突然変異細胞が大腸菌 (E.coli) である場合、サプレッサーtRNA構造遺伝子配列が原核型の強力なlpp プロモーターから発現し、その3'末端にオペロンrrnCの転写の終止配列を含むことを特徴とし、この配列は好ましくは、対象の組換え蛋白質をコードするヌクレオチド配列に対して異なる方向に向けられていることを特徴とする。
【0077】
さらに好ましくは、本発明方法は、上記プラスミドがpFAR1 プラスミドであることを特徴とする。とりわけ好ましくは、本発明方法は、上記プラスミドがSEQ ID NO:21のpFAR4 プラスミド、またはpFAR4 から誘導されたプラスミドであることを特徴とする。
【0078】
有利には、対象の組換え蛋白質は、治療の利点を有するものや免疫応答を変更する (促進/抑制) ものなどの真核型の蛋白質からなる群より選択される。DNA ワクチン接種の範囲内では、対象の蛋白質はヒトまたは動物の病原体において同定された抗原決定基からなる群に属する。好ましくは、対象の組換え蛋白質は、エリスロポイエチン、ジストロフィン、インスリン、抗TNF α、サイトカイン類、ヒトIX因子などの凝固因子、バシルス・アントラシス (Bacillus anthracis) 、マイコバクテリウム・ツベルクローシス (Mycobacterium tuberculosis) 由来のものなどの防御抗原、および前立腺特異的膜抗原 (PSMA) からなる群より選択される。
【0079】
第4の面によれば、本発明の目的は、下記を含む、対象組換え蛋白質を製造する方法である:
−本発明の上記した増幅方法に従って、発現プラスミドを増幅すること、
−前の工程で得られた発現プラスミドにより宿主細胞を形質転換すること、
−対象の組換え蛋白質の発現を可能にする培地中で、上記形質転換した宿主細胞を培養すること、および
−培地または形質転換宿主細胞から対象組換え蛋白質を精製すること。
【0080】
第5の面によれば、本発明の目的は、本発明の発現プラスミドを含む薬剤組成物であり、対象蛋白質が治療効果を有するか免疫応答を変更する (促進/抑制) ものなどの真核型の蛋白質からなる群より選択される。DNA ワクチン接種の範囲内では、対象蛋白質はヒトまたは動物の、毒素産生性でありうる病原体において同定された抗原決定基からなる群に属する。好ましくは、対象組換え蛋白質は、エリスロポイエチン、ジストロフィン、インスリン、抗TNF α、サイトカイン類、ヒトIX因子などの凝固因子、バシルス・アントラシス (Bacillus anthracis) 、マイコバクテリウム・ツベルクローシス (Mycobacterium tuberculosis) 由来のものなどの防御抗原、および前立腺特異的膜抗原 (PSMA) からなる群より選択される。
【0081】
発現プラスミドは、化学的および/または生化学的トランスフェクションベクターと結合していてもよい。これらは特に、カチオン類 (リン酸カルシウム、DEAE- デキストラン等) 、リポソームであってもよい。結合した合成ベクターはカチオン性ポリマーまたは脂質であってもよい。
【0082】
本発明の薬剤組成物は、局所、経口、非経口、鼻腔内、静脈内、筋肉内、皮下、眼内、経皮経路などによる投与の観点から処方することができる。好ましくは発現プラスミドは、注射可能な形態で、または局所適用として使用される。これは、注射用製剤、特に処置される組織への直接注入のための薬剤的に許容しうる任意の担体と混合することができる。これらは、特に滅菌・等張溶液でありうる。プラスミドの投与は、電場、電流、超音波、流体力学的方法による静水圧の使用などの物理的方法によって促進することもできる。患者の患部への直接注入は、治療効果を患部組織に集中させうるため有益である。プラスミドを注入しうる組織の例には、筋肉、肝臓、眼または皮膚があり、また腫瘍も挙げられる。用量は、各種パラメーター、特に遺伝子、投与方法、関連する病状、または処置の期間に適合させればよい。
【0083】
別の面によれば、本発明の目的は、対象組換え蛋白質をコードするヌクレオチド配列を宿主細胞へin vitroまたはex vivo トランスフェクションするための、本発明の発現プラスミドの使用である。
【0084】
別の面によれば、本発明の目的は、対象組換え蛋白質が、薬剤またはワクチンとしての使用のための、治療効果を有するものや免疫応答を変更する (促進/抑制) ものなどの真核型の蛋白質からなる群より選択される、本発明の発現プラスミドである。DNA ワクチン接種の範囲内では、対象蛋白質はヒトまたは動物の、毒素産生性でありうる病原体において同定された抗原決定基からなる群に属する。
【0085】
好ましくは、対象組換え蛋白質は、エリスロポイエチン、ジストロフィン、インスリン、抗TNF α、サイトカイン類、ヒトIX因子などの凝固因子、バシルス・アントラシス (Bacillus anthracis) 、マイコバクテリウム・ツベルクローシス (Mycobacterium tuberculosis) 由来のものなどの防御抗原、および前立腺特異的膜抗原 (PSMA) からなる群より選択される。
【0086】
本発明はまた、遺伝子病、神経変性疾患 (アルツハイマー、パーキンソン、筋萎縮性側索硬化症など) 、癌、ウイルス感染に関連する病状 (AIDS、肝炎など) を含む多数の病状の治療および/または予防のための、本発明の発現プラスミドの使用に関する。最後に、本発明は、治療の必要がある患者への本発明の発現プラスミドの投与を含む、上述したような病状を治療する方法に関する。
【0087】
最後の面によれば、本発明の目的は、対象組換え蛋白質を製造するための、本発明の発現プラスミドまたは発現プラスミドを含む突然変異細胞の使用である。
本発明の実施のためには、分子生物学、微生物学および遺伝子工学における多数の標準的技術が使用される。これらの技術は周知であり、例えば、Current Protocols in Molecular Biology, Vol. I, II, III, 1997 (F. M. Ausubel編) ;Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning;A Laboratory Manual,第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor,ニューヨーク;DNA Cloning; A Practical Approach, Vol.I, II, 1985 (D.N. Glover 編); Oligonucleotide Synthesis, 1984 (M.L. Gait 編) ;Nucleic Acid Hybridization, 1985 (Hames & Higgins 編) ;Transctiption and Translation, 1984 (Hames & Higgins編) ;Animal Cell Culture, 1986 (R.I. Freshney編); Immobilized Cell and Enzymes, 1986 (IRL Press); Perbal, 1984, A Practical Guide to Molecular Cloning; the series, Mothods in Enzymology (Academic Press, Inc.); Grene Transfer Vectors for Mammalian Cells, 1987 (J.H. Miller & M.P. Calos 編, Cold Spribng Harbor Laboratory);およびMethods in Enzymology Vol.154,およびCol.155 ( それぞれ、Wu & GrossmannおよびWu編) において説明されている。
【0088】
本発明は後述の実施例によって、より完全に記載されるであろうが、これらは例示であり非限定的と考えられるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】抗生物質耐性遺伝子をもたないプラスミドを選択するために使用される方法の説明図である。必須遺伝子へのアンバー型の停止コドンの導入は、タンパク質合成の早期妨害および突然変異株の栄養要求性を生じさせる。好ましいアミノ酸に対して行ったtRNAのアンチコドンの変更は、コドンとアンチコドンの対形成、タンパク質の完全な合成および突然変異体の正常な増殖の回復を可能にする。
【図2】突然変異した必須遺伝子が、DNA 合成に用いられる前躯体であるチミジン一リン酸の合成に関与する酵素であるチミジル酸シンターゼをコードするthyA遺伝子である。thyA遺伝子における突然変異は変異体にチミジンに対する栄養要求性を生じさせる。従って、突然変異体の単離は、培地にチミジンを添加することにより行われる。外来性チミジンはヌクレオシドトランスポーターを介して細胞内に入り、次いでチミジンキナーゼによりdTMPに変換される。
【図3】細菌突然変異株の作製:大腸菌ゲノム中への突然変異遺伝子の挿入を2工程で行う。第1段階で、プラスミドpST76-C の誘導体を、形質転換、クロランフェニコール (Cm) の存在下30℃における形質転換体の増殖により導入する。プラスミドの組み込みをもたらす第1の組換え事象を、クロランフェニコールの存在下43℃における細菌の増殖により選択する。第2の組換え事象により、突然変異型または野生型の単一対立遺伝子が得られるであろう。突然変異株はコロニー上で PCRを行うことによりスクリーニングされるであろう。
【図4】thyA突然変異株の作製。
【図5】endA突然変異株の作製。
【図6】recA突然変異株の作製。
【図7】プラスミドpFAR1 およびpFAR1-LUC の作製。
【図8】プラスミドpFAR4 のマップ:プラスミドpFAR4 は合成プラスミドである。MCS (Multiple Cloning Site:複クローニング部位) 配列は20より多い単一制限部位を含む。従って、このプラスミドは各種の分泌および真核性発現配列 (種々のポリアデニル化配列と組み合わせた遍在または特異的組織プロモーター) を含むいくつかの誘導体の作製のための骨格ベクターとして使用されるであろう。
【図9】マウスの上部脛骨筋におけるルシフェラーゼ活性の定量。マウスの上部脛骨筋へのプラスミドpVAX2-LUC およびpFAR1-LUC の注射後の種々の時間に、この酵素の基質であるルシフェリンを筋肉内経路で投与した。酵素活性をBioespaces Measures 製のPhotoImager cameraを用いて記録した。図9Aは経時的に得られた活性を対数目盛りで示す。図9Bはプラスミド注射の18日後に得られたルシフェラーゼ活性を線型表示で示す。
【図10A】CpG 単位を示したプラスミドpFAR4 のマップ。
【図10B】追加のCpG 単位 (CpG 領域) および既に存在するCpG 単位を示したプラスミドpFAR5 のマップ (図10A 参照) 。
【図10C】追加のCpG 単位 (CpG 領域) および既に存在するCpG 単位を示したプラスミドpFAR6 のマップ (図10A 参照) 。
【0090】
図10A 、10B および10C において、番号1〜16は、配列が以下の通りである、2つのDNA 鎖上に存在する異なるCpG 単位に対応する。
#1:AACGTT (SEQ ID NO:23)
#2:AACGCC (SEQ ID NO:24)
#3:AACGTC (SEQ ID NO:25)
#4:AACGCT (SEQ ID NO:26)
#5:GGCGTT (SEQ ID NO:27)
#6:GGCGCC (SEQ ID NO:28)
#7:GGCGTC (SEQ ID NO:29)
#8:GGCGCT (SEQ ID NO:30)
#9:AGCGTT (SEQ ID NO:31)
#10:AGCGCC (SEQ ID NO:32)
#11:AGCGTC (SEQ ID NO:33)
#12:AGCGCT (SEQ ID NO:34)
#13:GACGTT (SEQ ID NO:35)
#14:GACGCC (SEQ ID NO:36)
#15:GACGTC (SEQ ID NO:37)
#16:GACGCT (SEQ ID NO:38)
【発明を実施するための形態】
【0091】
(実施例)
1. 細菌突然変異株の作製
大腸菌 (E.coli) MG1655株 (米国のColi Genetic Stock Center より入手) からthyA変異株を作製した。この株のゲノムは完全に配列決定されている (Blattner et al, 1997) 。
【0092】
E.coli変異株を単離するために従ったプロトコルは、Posfai et al. (1997 および1999) により既報のプロトコルに基づく。突然変異遺伝子を、クロランフェニコール耐性を与え、その複製が温度感受性であるベクターpST76-C にクローニングした。これは30℃では許容されるが、37〜43℃では有効でない。従って、第1段階では、クロランフェニコールの存在下30℃において細菌を選択することにより、形質転換によりプラスミドが細菌中に導入される。第1の組換え事象の後プラスミドが組み込まれた該株を選択するために、細菌をクロランフェニコールの存在下、43℃で増殖させる (図3参照) 。共組込み (cointegrates) の解離は大腸菌においては稀な事象である (Posfai et al., 1999)。この問題を回避するために、プラスミドpST76-ASceP をインテグラント (integrant)に導入した。このプラスミドはメガヌクレアーゼ (meganuclease) をコードする遺伝子をもち、メガヌクレアーゼはI-SceI部位で二本鎖の切断を起こすエンドヌクレアーゼである。野生株MG1655のゲノムはこの部位がない。この部位は、I-SceI部位を有するプラスミドpST76-C の誘導体の組込み後に、細菌ゲノム中に挿入される。
【0093】
メガヌクレアーゼの存在下では、分子内組換えに続いてI-SceI部位を欠失した株のみが増殖する (図3参照) 。プラスミドpST76-ASceP の複製は温度感受性である。従って、これは43℃での増殖により突然変異株から容易に回復する。
a.thyA変異株の作製
突然変異株を単離するために、MG1655株から調製したゲノムDNA から、Ex-Taqポリメラーゼ (Takaraより市販) およびプライマーThyA-FおよびThyA-R (SEQ ID NO:1および2) を用いてthyA遺伝子を含む2kbの領域を PCRにより増幅した。これらのプライマーは突然変異が2kb断片の中央に見出せるように設計された。ベクターpCR2.1 (INVITROGENより市販) 中に PCR断片をクローニングし、配列決定した後、アンバー型UAG (TAG) のナンセンス突然変異をヒスチジン147 に導入した。プライマーThyA-His147-F およびThyA-His147-R (SEQ ID NO: 3および4) およびStratageneより市販されているキット、QuikChangeTMII Site-Directed Mutagenesis Kitを用いて位置指定突然変異誘発を行った。
【0094】
2kb断片が所望の突然変異を含むのみであることを確認するために挿入物を配列決定した後、プラスミドpCR2.1 region thyA *およびpSR76-C (Posfai et al., 1997) をそれぞれEcoRV およびSmaIで消化した後融合させた。複製起点のpUC ori を除去するために、プラスミドpCR2.1 region thyA * pSR76-CをBamHI で消化することにより、ベクターpCR2.1の対応する配列を除いた。従って、突然変異thyA断片が、複製が温度感受性であるプラスミドpSR76-C region thyA * により生じる。このプラスミドを形質転換によりMG1655株に導入し、次いで、クロランフェニコールの存在下43℃で細菌を増殖させることにより、第1の組換え事象を選択した。ここで細菌ゲノムはthyA遺伝子の2コピー:野生型対立遺伝子および突然変異した対立遺伝子、を含む。第2の組換え事象は、メガヌクレアーゼをコードするプラスミドpST76-ScePをインテグラント (integrant)に導入することにより選択した。チミジン栄養要求性でクロランフェニコール感受性の株を分析のために選択した。これは、プライマーThyA-lgt-FI およびThyA-seq1 (SEQ ID NO: 5および6) を用いてthyA遺伝子を含む領域を PCRにより増幅し、次いで、thyA遺伝子のみがアンバー突然変異を含むことを確認するために、得られたアンプリコンを配列決定することからなる。43℃で株を増殖させることによりプラスミドpST76-ASceP からthyA変異体を回復させた。これは、プラスミドpST76A-SceP により与えられるアンピシリン耐性の欠損を調べることにより確認された。
b.thyA-endA の二重突然変異体の作製
リッチ培地で増殖させたthyA変異株から製造したプラスミドが、化学合成培地で他の株を用いて得られたものに匹敵する純度を有するにもかかわらず、製造したプラスミドの質が劣る。研究により、エンドヌクレアーゼ1をコードするendA遺伝子における突然変異が、この問題の回避を可能にすることが示されている (Schoenfeld et al., 1995)。
【0095】
thyA-endA の二重突然変異株を得るために、endA遺伝子の上流および下流に位置する1kbの2つの PCR断片を、プライマーEndA-F1/R1 (SEQ ID NO:7および8) およびEndA-F2/R2 (SEQ ID NO:9および10) 、MG1655株から調製したゲノムDNA 、およびEx-Taqポリメラーゼ (Takaraより販売) を用いて増幅した。これらの断片をベクターpCR2.1にクローニングし、次いで配列決定した (図5参照) 。endA遺伝子から上流および下流に位置する領域を、それぞれ、SmaI/XbaI およびSmaI/SpeI によりプラスミドpCR2.1 yggI およびpCR2.1 rsmE を消化した後融合させた。次いで、プラスミドpCR2.1 delta endA をApaIにより消化し、Klenow断片により処理し、次いで、SmaIで消化したプラスミドpST76-C に連結した。生じたプラスミドpCR2.1 delta endA pST76-C を、複製起点pCU ori を除去する目的でBamHI で消化し、次いで連結させた。endA遺伝子の除去された領域を、上記したのと同様の方法を用いてthyA突然変異株のゲノム中に導入した。endA突然変異株を、プライマーEnd-seq1およびEnd-seq5 (SEQ ID NO:11および12) を用いてコロニーでの PCRを行うことによりスクリーニングした。組込みがその位置で生じ、endA遺伝子の下流および上流に位置する遺伝子に何ら突然変異を生じなかったかどうかを確認するために、得られた PCR断片を配列決定した。
c.thyA-endA-recAの三重突然変異株の作製
細菌ゲノムとプラスミド間、およびthyA突然変異株に導入したプラスミド間にありうる組換え機構を避けるため、リコンビナーゼをコードするrecA遺伝子も除去した。thyA-endA-recAの三重突然変異株を作製するために、上記と同様の方法を用いた。recA遺伝子の上流および下流に位置する PCR断片を、プライマーRecA-F1/R1 (SEQ ID NO:13および14) およびをRecA-F2/R2 (SEQ ID NO:15および16) 、Ex-Taqポリメラーゼ (Takara) 、およびMG1655株から調製したゲノムDNA を用いて作製した (図6参照) 。挿入物の配列決定の後、 PCR断片を、それぞれ、酵素SmaI/XbaI およびSmaI/SpeI によりプラスミドpCR2.1 ygaD およびpCR2.1 recX を消化した後連結させた。得られたプラスミドpCR2.1 delta recA を、XBaIで消化し、Klenow断片により処理し、次いで、SmaIで消化したプラスミドpST76-C に融合させ、プラスミドpCR2.1 delta recA pST76-C を生成させた。これを、温度感受性複製起点を保持させるためだけに、BamHI で消化し、次いで再連結させた。上記と同様の方法を用いて細菌ゲノム中に突然変異を導入した。三重突然変異株の選択を、プライマーRecA-seq1 およびRecA-R (SEQ ID NO:17および18) を用いてコロニーでの PCRを実施することにより行った。組込みがその位置で行われ、何らその他の突然変異を生じさせなかったことを確認するために、アンプリコンを配列決定した。
2.プラスミドpFAR1(抗生物質耐性なし) の作製
プラスミドpFAR1 を、pVAX2 においてヒスチジンサプレッサーtRNAを用いることにより作製した (図7参照) 。pVAX2 は、プラスミドpCMVβ (Clontech) のCMV プロモーターが導入された (Pascal BigeyおよびDaniel Scherman)、プラスミドpVAX1 (INVITROGEN より市販) の誘導体である。ヒスチジンサプレッサーtRNAは強力な原核性プロモーターlpp から発現される (Nakamura et al., 1979)。細菌ゲノムにおいて、このプロモーターは、リポタンパク質をコードするlpp 遺伝子の上流に位置する。サプレッサーtRNAの3'末端はrrnCオペロンの転写の終結配列を含む (Young, 1979)。このカセットを、プライマーNco-sup-F およびNco-Sup-Rev (SEQ ID NO:19 および20) を用いてプラスミドpHis(AS) (米国の「The Coli Genetic Stock Center 」より入手) から増幅させ、次いで、BspHI で消化したpVAX2 中にクローニングした。動物細胞において真核性プロモーターCMV からサプレッサーtRNAが発現する危険を除去するため、真核性遺伝子とは反対の向きにサプレッサーtRNAを有するプラスミドを選択した。次いで、カナマイシン耐性を付与する遺伝子を、酵素NHindIII (その後Klenow断片での処理) およびPvuII でプラスミドpVAX2-tsupRNA His を消化することにより除去した。このプラスミドをpFAR1 (Free of Antibiotic Resistance、抗生物質耐性をもたない) と称した。
3.方策の確認
実施した方策を確認するために、プラスミドpFAR1 を形質転換によりthyA突然変異株に導入した。形質転換体はチミジンを含まない任意の培地上で選択できる。これはM9型の最小培地 (Sambrook et al., 1989)、またはMueller Hinton (PH) 培地などのリッチ培地であってもよい。後者はミートインフュージョン (2g/L)、カゼイン加水分解物 17.5 g/L 、デンプン 1.5 g/Lおよび場合により寒天を含む。この培地は、市販されている (例、Fluka 製) こと、リッチ培地であるが、極めて少量のチミジンを含むかまたは含まないという利点を有する。この培地上ではthyA突然変異株は増殖しない。一方、pFARプラスミドを含む株は正常に増殖する。
【0096】
プラスミドpVAX2 およびpFAR1 を、MH培地において増殖させたthyA突然変異株から同時に精製した。同様の収率が得られた。これらの結果から、新たに発明した組み合わせ:thyA中のアンバー突然変異/プラスミドにより生じるヒスチジンサプレッサーtRNA遺伝子、を確認することができた。
4.ルシフェラーゼ活性のin vivo 試験
プラスミドpFARをin vivo で使用できるかどうかを決定するため、ルシフェラーゼ・リポーター・タンパク質をコードするLUC 遺伝子をプラスミドpFAR1 にクローニングした。これを実施するためには、プラスミドpVAX-LUCを制限酵素BamHI およびXhoIで消化し、次いで真核性発現カセットを、同じ酵素で消化したpFAR1 にクローニングした。プラスミドpVAX2-LUC およびpFAR1-LUC 3μg (生理食塩水30μL 中) を注射し、次いで、2Hz周波数、200 V/cmで20msを8パルスかけてマウスの上方の脛骨筋肉 (cranial tibial muscle)に電気的に移動させた。次いで、ルシフェラーゼの基質であるルシフェリンを40μL 量中100 μgの濃度で筋肉内注射した。Bioespace Mesures 製のPhotoImager cameraを用いて、プラスミド注射後の種々の時点でルシフェラーゼ活性を記録した (図9参照) 。
【0097】
これらの結果から、プラスミドpFAR1-LUC の注射後に得られたルシフェラーゼ活性が、ある場合には類似または同等であり、そして意外にもプラスミドpVAX2-LUC によるトランスフェクション後に得られたものより大きいことが分かる。そのために新たに作製された発現ベクターはin vivo 試験については何ら欠点をもたず、従ってpFAR型のプラスミドに対してさらなる利点を与える。
5.pFARプラスミドの最適化
これらの将来有望な結果より、本発明者らは、その大きさを減少させる目的、原核性配列を最大限除去する目的、および分子操作を容易にする単一のクローニング部位を導入する目的のためにプラスミドpFAR1 を最適化するに至った。事実、原核性配列は、炎症および免疫応答を惹起するかもしれないCpG 単位に富み、これは遺伝子治療用途においては避けるべきである。
【0098】
最適化されたプラスミドはpFAR4 と称される (図8参照) 。Mueller Hinton培地で増殖させたthyA突然変異株からのこのプラスミドの製造は、pVAX2 と同様の特性 (収率、純度) を有する。
6.pFAR4 の誘導体の確認
in vivo 実験用プラスミドpFAR4 を確認するために2種類の実験を行う:
−発現カセットCMV-LUC-BGH をプラスミドpFAR4 に導入する。プラスミドpVAX2-LUC 、pFAR1-LUC およびpFAR4-CMV LUC BGH をマウスの上方脛骨筋肉に注射する。ルシフェラーゼ活性を注射後の種々の時点で測定し比較する。これら3種類のプラスミドの注射後に誘導される免疫応答の比較を行う。
−遍在プロモーターCMV(サイトメガロウイルス由来) から発現される、またはMCK(筋肉クレアチンキナーゼ) に特異的なマウスのエリトロポイエチンをコードする遺伝子を、pFAR4 プラスミドも遺伝子治療関連において使用できるかどうかを決定するために、このプラスミド中にクローニングする。
7.pFAR4 の誘導体の作製
プラスミドのプラットフォームを作製するために、次のようなpFAR4 誘導体を作製した (図8参照) :
−pFAR4.1 :遍在CMV プロモーター (サイトメガロウイルス由来) を含むpFAR4 の誘導体、
−pFAR4.2 :遍在CMV プロモーターおよびBGH ポリアデニル化配列を含むpFAR4 の誘導体、
−pFAR4.3 :遍在CMV プロモーターおよびSV40ポリアデニル化配列を含むpFAR4 の誘導体、
−pFAR4.4 :特異的MCK 筋肉プロモーターを含むpFAR4 の誘導体。
8.DNA ワクチン接種用pFAR4 プラスミドの最適化
前記5.(遺伝子治療−治療用遺伝子の投与) において提案された用途とは逆に、ある抗原をコードするDNA の投与によりワクチン接種する場合には、増強された免疫応答が望ましい。この目的のために、本発明者らはプラスミドpFAR4 に免疫刺激性CpG 単位を導入した。これらのCpG 単位は、プラスミドpFAR4 がある抗原をコードする場合、免疫を補強するものである。
【0099】
プラスミドpFAR4 の2種類の誘導体、プラスミドpFAR5(図10B 参照) およびpFAR6(図10C 参照) を作製した。それらは異なる組み合わせのCpG 単位を含む。
プラスミドpFAR5 は5'−3'方向のDNA 鎖上に以下の6つのCpG 単位を含む:
−2個のGGCGCC単位 (SEQ ID NO:28) 、
−1個のGGCGTT単位 (SEQ ID NO:27) 、
−1個のGACGTT単位 (SEQ ID NO:35) 、
−1個のAGCGTT単位 (SEQ ID NO:31) および
−1個のAACGCT単位 (SEQ ID NO:26) 。
【0100】
これらの6個の単位は最初、カナマイシン耐性を付与する遺伝子に含まれていたものである。
プラスミドpFAR6 は5'−3'方向のDNA 鎖上に、GACGTT (SEQ ID NO:35) の配列であるCpG 単位を3回含む。この配列はマウスにおいて免疫刺激のための最適単位となる (Bauer et al., 2006) 。
結論
抗生物質耐性の遺伝子を何ら含まない新規なプラスミド/大腸菌突然変異株の組み合わせが得られた。本発明によれば、リッチ培地を用いて対象プラスミドにより形質転換された細菌を選択し、標準的精製法によって良好な収率を得ることが可能である。M9型の最小培地が使用できる。本発明者らが確認したリッチ培地はMueller Hinton培地である。これは市販され、安価であり、面倒な調製を必要としない。in vivo ではpFAR1 プラスミドは、現在使用されている発現ベクターに比べて何ら欠点をもたない。本発明者らは、ある場合には意外にも、当業者に既知のプラスミドよりもpFARプラスミドを用いてより強い発現を観察した。pFAR1 を最適化し、pFAR4 プラスミドを得るに至った。治療用遺伝子または抗原をコードする遺伝子の確認およびクローニングの後、pFAR4 の誘導体は遺伝子治療、DNA ワクチン接種、および組換えタンパク質の製造の分野において多くの用途を見出すであろう。
使用プライマーの一覧
【0101】
【表1】

【0102】
細菌突然変異株またはpFARプラスミドの製造に使用するプライマーの配列。最後から2つめの欄に示される番号は、MG1655株 (受託番号U00096) のゲノム中でのプライマーの位置を示す。クローニング工程を容易するために、制限部位および追加のヌクレオチドをプライマーの端部に導入した (小文字で示す) 。
【0103】
(参考文献)
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【受託番号】
【0104】
I-3739, I-3738, I-3737

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チミジル酸シンターゼ (thyA) をコードするthyA遺伝子がナンセンスコドンを含む突然変異細胞であって、該ナンセンスコドンが、アミノ酸をコードするコドンを置換し、thyA遺伝子の翻訳を中断して、該細胞をチミジン要求性とする、前記突然変異細胞。
【請求項2】
細菌および酵母から選ばれることを特徴とする、請求項1記載の突然変異細胞。
【請求項3】
前記細胞が大腸菌 (Escherichia coli) であることを特徴とする、請求項2記載の突然変異細胞。
【請求項4】
ナンセンスコドンが、 147位のヒスチジン、14または223 位のグルタミン酸、35または127 位のアルギニン、30位のフェニルアラニン、81または105 位のアスパラギン酸、33位のグルタミンおよび121 位のアスパラギンからなる群より選択された、チミジル酸シンターゼのアミノ酸をコードするコドンを置換することを特徴とする、請求項3記載の突然変異細胞。
【請求項5】
ナンセンスコドンがチミジル酸シンターゼの147 位のヒスチジンをコードするコドンを置換することを特徴とする、請求項4記載の突然変異細胞。
【請求項6】
ナンセンスコドンがアンバーコドンUAG であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかの項記載の突然変異細胞。
【請求項7】
前記細胞が、2007年4月5日にCNCMに寄託された番号I-3739の大腸菌細胞 MG1655 thyA#d2 であることを特徴とする、請求項6記載の突然変異細胞。
【請求項8】
エンドヌクレアーゼ1をコードするendA遺伝子が、前記突然変異細胞においてより高いプラスミド安定性を誘導する突然変異を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかの項記載の突然変異細胞。
【請求項9】
前記細胞が、2007年4月5日にCNCMに寄託された番号I-3738の大腸菌細胞 MG1655 thyA endA#1.2.C.3 であることを特徴とする、請求項8記載の突然変異細胞。
【請求項10】
細菌ゲノムとプラスミドとの間の、およびプラスミド間の組換えのメカニズムを避けるために、DNA 配列の組換えに関与するリコンビナーゼをコードするrecA遺伝子を変異させたことを特徴とする、請求項1〜9のいずれかの項記載の突然変異細胞。
【請求項11】
前記細胞が、2007年4月5日にCNCMに寄託された番号I-3737の大腸菌細胞 MG1655 thyA endA recA#TM1a であることを特徴とする、請求項10記載の突然変異細胞。
【請求項12】
発現プラスミドにより形質転換され、該発現プラスミドが下記を含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれかの項記載の突然変異細胞:
−複製起点、
−対象の組換え蛋白質をコードするヌクレオチド配列、
−該対象組換え蛋白質の宿主細胞中での発現のための発現カセット、および
−サプレッサーtRNAの構造遺伝子配列、ここで、該サプレッサーtRNAはナンセンスコドンと対を形成できるアンチコドンを含み、細胞中で前記突然変異thyA遺伝子の翻訳を回復しうるアミノ酸に特異的であり、
該細胞はチミジンを含まない培地において増殖しうる。
【請求項13】
発現プラスミドにより形質転換され、発現カセットが、哺乳動物宿主細胞または酵母中で前記の対象組換え蛋白質を発現するための真核性発現カセット、および細菌細胞などの原核性宿主細胞において前記蛋白質を発現するための原核性発現カセットから選択されることを特徴とする、請求項12記載の突然変異細胞。
【請求項14】
サプレッサーtRNAがヒスチジンに特異的であり、かつ、チミジル酸シンターゼの147 位のヒスチジンをコードするコドンを置換するナンセンスコドンを含む突然変異thyA遺伝子の翻訳の回復を可能にすることを特徴とする、請求項12または13記載の突然変異細胞。
【請求項15】
サプレッサーtRNAが、ナンセンスアンバーコドンUAG と対形成しうるCUA アンチコドンを含むことを特徴とする、請求項12〜14のいずれかの項記載の突然変異細胞。
【請求項16】
真核性発現カセットがプロモーターとポリアデニル化配列を含み、該プロモーターおよび該配列が哺乳動物宿主細胞に特異的であることを特徴とする、請求項13〜15のいずれかの項記載の突然変異細胞。
【請求項17】
プロモーターがサイトメガウイルス (CMV)のプロモーターであり、ポリアデニル化配列がウシ成長ホルモン (BGH)型である、請求項16記載の突然変異細胞。
【請求項18】
前記細胞が大腸菌(E.coli)細胞であり、かつ、サプレッサーtRNA構造遺伝子配列が、原核型の強力なプロモーターlpp から発現し、その3'末端にrrnCオペロンの転写終止配列を含み、該配列は好ましくは対象組換え蛋白質をコードするヌクレオチド配列に対して反対の方向であることを特徴とする、請求項12〜17のいずれかの項記載の突然変異細胞。
【請求項19】
前記プラスミドがSEQ ID NO.21のpFAR4 プラスミドであることを特徴とする、請求項18記載の突然変異細胞。
【請求項20】
複製起点、対象組換え蛋白質をコードするヌクレオチド配列、宿主細胞において該対象組換え蛋白質を発現させるための発現カセット、およびサプレッサーtRNA構造遺伝子配列を含む発現プラスミドであり、該サプレッサーtRNAはナンセンスコドンと対になりうるアンチコドンを含み、請求項1〜11のいずれかの項記載の突然変異細胞においてthyA遺伝子の翻訳を回復しうるアミノ酸に特異的であることを特徴とする、前記発現プラスミド。
【請求項21】
発現カセットが、哺乳動物宿主細胞または酵母中で前記の対象組換え蛋白質を発現するための真核性発現カセット、および細菌細胞などの原核性宿主細胞中で該蛋白質を発現するための原核性発現カセットから選択されることを特徴とする、請求項20記載の発現プラスミド。
【請求項22】
突然変異細胞が大腸菌 (E.coli) 細胞であり、かつ、サプレッサーtRNAがヒスチジンに特異的であり、チミジル酸シンターゼの147 位のヒスチジンをコードするコドンを置換するナンセンスコドンを含む突然変異thyA遺伝子の翻訳を回復させうることを特徴とする、請求項20または21記載の発現プラスミド。
【請求項23】
サプレッサーtRNAがナンセンス・アンバーコドンUAG と結合しうるアンチコドンCUA を含むことを特徴とする、請求項20〜22のいずれかの項記載の発現プラスミド。
【請求項24】
真核性発現カセットがプロモーターとホリアデニル化配列を含み、該プロモーターおよび該配列が哺乳動物宿主細胞に特異的であることを特徴とする、請求項21〜23のいずれかの項記載の発現プラスミド。
【請求項25】
プロモーターがサイトメガロウイルス (CMV)のプロモーターであり、ポリアデニル化配列がウシ成長ホルモン(BGH) 型であることを特徴とする、請求項24記載の発現プラスミド。
【請求項26】
突然変異細胞が大腸菌 (E.coli) 細胞であり、かつ、サプレッサーtRNA構造遺伝子配列が原核型の強力なlpp プロモーターから発現し、その3'末端にオペロンrrnCの転写の終止配列を含み、該配列は好ましくは、対象組換え蛋白質をコードするヌクレオチド配列に対して異なる方向に向けられていることを特徴とする請求項20〜25のいずれかの項記載の発現プラスミド。
【請求項27】
前記発現プラスミドがSEQ ID NO:21のpFAR4 プラスミドであることを特徴とする請求項26記載の発現プラスミド。
【請求項28】
対象の組換え蛋白質が、エリスロポイエチン、ジストロフィン、インスリン、抗TNF α、サイトカイン類、ヒトIX因子などの凝固因子、バシルス・アントラシス (Bacillus anthracis) 、マイコバクテリウム・ツベルクローシス (Mycobacterium tuberculosis) 由来のものなどの防御抗原、および前立腺特異的膜抗原 (PSMA) からなる群より選択されることを特徴とする、請求項20〜27のいずれかの項記載の発現プラスミド。
【請求項29】
対象組換え蛋白質が防御抗原であり、前記プラスミドが下記のいずれかを含むことを特徴とする、請求項20〜28のいずれかの項記載の発現プラスミド:
−複製起点と同じ5'−3'方向に向けられ、複製起点の上流で、複製起点とサプレッサーtRNA配列の間に位置する6個の追加の免疫促進CpG 単位、ここで、これらの6単位の配列は5'−3'の方向で、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:27、SEQ ID NO:35、SEQ ID NO:31、およびSEQ ID NO:26であり、
−または、複製起点と同じ5'−3'方向に向けられ、複製起点の上流で、複製起点とサプレッサーtRNA配列の間に位置する3個の追加の免疫促進CpG 単位、ここで、該3単位はすべて同じSEQ ID NO:35の配列を有する。
【請求項30】
複製起点、対象の組換え蛋白質をコードするヌクレオチド配列、宿主細胞で前記対象組換え蛋白質を発現させるための発現カセット、およびサプレッサーtRNA構造遺伝子配列を含む発現プラスミドを増幅させる方法であり、下記を含む前記方法:
−thyA遺伝子がナンセンスコドンを含む突然変異細胞を増殖させること、ここで、該ナンセンスコドンはあるアミノ酸をコードするコドンを置換し、thyA遺伝子の翻訳の中断および該突然変異細胞のチミジン要求性をもたらし、
−発現プラスミドを上記増殖した細胞に導入すること、ここで発現プラスミドのサプレッサーtRNAは、thyA遺伝子のナンセンスコドンに対となりうるアンチコドンを含み、突然変異細胞内で該thyA遺伝子の翻訳を回復しうるアミノ酸に特異的であり、および
−細胞培養物より発現プラスミドを回収すること、
ここで、該突然変異細胞は、該発現プラスミドにより形質転換された細胞の選択を可能にするために、チミジンを含まない培地で増殖させる。
【請求項31】
発現カセットが、哺乳動物宿主細胞または酵母中で前記の対象組換え蛋白質を発現するための真核性発現カセット、および細菌細胞などの原核性宿主細胞で該蛋白質を発現するための原核性発現カセットから選択されることを特徴とする、請求項30記載の方法。
【請求項32】
突然変異細胞が大腸菌(E.coli) 細胞であり、サプレッサーtRNAが、ヒスチジンに特異的であり、チミジル酸シンターゼの147 位のヒスチジンをコードするコドンを置換するナンセンスコドンを含む突然変異thyA遺伝子の翻訳を回復させうることを特徴とする、請求項31記載の方法。
【請求項33】
サプレッサーtRNAがナンセンス・アンバーコドンUAG と結合しうるアンチコドンCUA を含むことを特徴とする、請求項30〜32のいずれかの項記載の方法。
【請求項34】
下記を含む、対象組換え蛋白質を製造する方法:
−請求項30〜33のいずれかの項記載の方法により、発現プラスミドを増幅すること、
−前の工程で得られた発現プラスミドにより宿主細胞を形質転換すること、
−対象の組換え蛋白質の発現を可能にする培地中で、該形質転換した宿主細胞を増殖させること、および
−培地または形質転換宿主細胞から対象組換え蛋白質を精製すること。
【請求項35】
請求項28記載の発現プラスミドを含む薬剤組成物。
【請求項36】
対象組換え蛋白質をコードするヌクレオチド配列を宿主細胞へin vitroまたはex vivo トランスフェクションするための、請求項20〜29のいずれかの項記載の発現プラスミドの使用。
【請求項37】
薬剤またはワクチンとしての使用のための、請求項28記載の発現プラスミド。
【請求項38】
ワクチンとしての使用のための、請求項29記載の発現プラスミド。
【請求項39】
対象組換え蛋白質の製造のための、請求項12〜19のいずれかの項記載の突然変異細胞の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【公表番号】特表2010−536361(P2010−536361A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−521443(P2010−521443)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/061045
【国際公開番号】WO2009/027351
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(505179971)サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィーク(セーエヌエールエス) (18)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
【出願人】(510050306)ユニベルシテ・パリ・デスカルト (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DESCARTES
【出願人】(508092967)アンスティテュ・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル(イ・エヌ・エス・エ・エール・エム) (5)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE(INSERM)
【Fターム(参考)】