抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子及びその製造方法
【課題】抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子及びその製造方法の提供。
【解決手段】抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子及びその製造方法に関し、抗癌物質伝達体の基本構成に水溶性キトサンを使用し、水溶性キトサンのアミン基の強い陽電荷により陰電荷を帯びたDNAと複合体を形成して、遺伝子伝達体としても優秀で反応性が高い遊離アミン基の位置に他の機能性基を導入して目的部位を標的できる機能を付与することで、抗癌剤の効率的な薬物伝達体用水溶性キトサンナノ粒子及びその製造方法を提供する。本発明の抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子は、水溶性キトサンの反応性が高い遊離アミン基の位置に親水性基及び疎水性基をそれぞれ導入することで、抗癌剤パクリタキセルを容易に封入でき、この水溶性キトサンナノ−パクリタキセルは再分散能力がすぐれ、腫瘍細胞に多く蓄積して抗癌効果を示す。
【解決手段】抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子及びその製造方法に関し、抗癌物質伝達体の基本構成に水溶性キトサンを使用し、水溶性キトサンのアミン基の強い陽電荷により陰電荷を帯びたDNAと複合体を形成して、遺伝子伝達体としても優秀で反応性が高い遊離アミン基の位置に他の機能性基を導入して目的部位を標的できる機能を付与することで、抗癌剤の効率的な薬物伝達体用水溶性キトサンナノ粒子及びその製造方法を提供する。本発明の抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子は、水溶性キトサンの反応性が高い遊離アミン基の位置に親水性基及び疎水性基をそれぞれ導入することで、抗癌剤パクリタキセルを容易に封入でき、この水溶性キトサンナノ−パクリタキセルは再分散能力がすぐれ、腫瘍細胞に多く蓄積して抗癌効果を示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子(water soluble chitosan nanoparticle;WSC−NP)及びその製造方法に関するもので、より詳細には、抗癌物質伝達体の基本構成物に水溶性キトサンを使用して、水溶性キトサンそれ自体のアミン基が有する強い陽電荷(+)によって陰電荷(−)を帯びたDNAと複合体を形成することにより、遺伝子伝達体(gene carrier)としても非常に優秀で、また反応性が高い遊離アミン基の位置に他の機能性基を導入することにより、目的とする部位を標的することができる機能を付与することによる、抗癌剤の効率的な薬物伝達体用水溶性キトサンナノ粒子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キトサンは、グルコースアミンのピラノース単位体がβ−1,4結合されたもので、グルコースアミン残基が5,000個以上結合された分子量が100万以上で多価の陽イオンを有する多糖類系列の生体高分子物質で、蟹皮や海老のような甲殻類及びイカを含む水産系から抽出することができ、その分子構造でみると多糖類の一種であるセルロースと類似の構造であり、生体親和性が優秀で免疫反応時に拒否反応が起きないので医薬産業に応用されていて、最近アメリカのFDAで食品として認証を受けた後、キトサンは21世紀の重要な生物産業及び生体医療用物質に応用されている。
【0003】
特に、20,000〜100,000以内の特定分子量の範囲を有するキトサンは、強い生理活性機能を帯びていることが知られているため、健康食品分野、飲食物分野、化粧品分野、保健衛生分野及び医薬品分野に対する応用性が期待されている。
【0004】
しかし、上述した特長を有するキトサンは、お互いに隣り合う分子間の強い水素結合で堅固に結合されて水に溶けない不溶性物質で、従来このようなキトサンを溶かすために乳酸、酢酸、プロピオン酸、ギ酸、アスコルビン酸、及び酒石酸を含む有機酸及び塩酸、硝酸及び硫酸からなる無機酸を使用することによって、生体に応用するのに制限を与えているという問題点を有していたが、本発明者等は、前記の問題点を画期的に解決した水溶性キトサンを開発して特許文献1及び特許文献2で出願した。
【0005】
すなわち、本発明者などが出願した前記特許出願は、「1)キトサンオリゴ糖の有機酸または無機酸塩の溶液を塩基であるトリアルキルアミンで処理して、2)前記溶液に有機溶媒を添加してキトサンオリゴ糖に結合されている有機酸または無機酸がトリアルキルアミン塩の形態で除去されたキトサンオリゴ糖を回収して、3)前記で酸が除去されたキトサンオリゴ糖溶液を無機酸処理後、活性炭/イオン交換樹脂(activated carbon/ion exchange resin)カラムで精製して1,000〜100,000ダルトンの分子量を有した純粋な水溶性遊離アミンキトサンを製造する方法」を開示している。
【0006】
一方、1992年にアメリカのFDAの承認を受けたパクリタキセル(paclitaxel)は、既存の抗癌剤に比べて抗癌活性が非常に優秀であるという長所を有しているが、疎水性が高いため水に全く分散しないので注射剤用に使用するためにクレモホール(商品名)EL(ポリエトキシ化オイル)とエチルアルコールの50:50混合物に分散するため、人体内に深刻な副作用をもたらした。
【0007】
このように、重要な抗癌活性を有する天然物質として公知されたパクリタキセルが水に対する溶解度が低いという問題点によって、これを注射剤にして投与するのに困難があった。したがって、これを解決して注射可能にするための多様なシステムが提案された。例えば、生分解性でパクリタキセルに対して相当な結合力を有するヒト血清アルブミン(HSA)とパクリタキセルを配合して公知された方法で超音波処理、高圧均質化及び微細流動化(microfluidization)処理して注射可能なエマルジョンを形成する方法が提案された。
【0008】
特許文献3、特許文献4、特許文献5及び特許文献6でビボックスファーマシュティカル社(VivoRx Pharmaceuticals,Inc.)は、10μm未満の平均粒子サイズ(MPS)を提供する超音波処理技術を使用して製造したパクリタキセル及びヒト血清アルブミンの微粒子からなる注射可能な製剤を開示している。しかし、前記特許に記述された製造方法は、産業的規模では使用することができず、それに取得された微粒子がとても大きな平均粒子サイズを有していて、患者に投与するのには不適合で有用ではないという短所がある。
【0009】
したがって、特許文献7、特許文献8、特許文献9及び特許文献10では、滅菌0.9%NaCl水溶液で平均粒子サイズが0.2μm未満の凍結乾燥された粉末を再構成することで収得されたパクリタキセル及びヒト血清アルブミンの滅菌ナノエマルジョンを開示している。前記特許に記述されているように、高圧均質化を使用して取得されたナノエマルジョンは、平均粒子サイズが時間によって一定でナノ粒子沈殿物が生成されず、安定性を有すると記述している。しかし、前記の方法は、相変らずヒト血清アルブミンにパクリタキセルを懸濁して注射可能な製剤を製造するため、相変らず産業的規模では使用することができないという短所がある。
【0010】
したがって、本発明者等は、上述したように生体親和性が優秀で免疫反応時の拒否反応を起こさず、医薬産業に有用に応用することができるキトサンを、抗癌剤であるパクリタキセルの伝達体に使用することができる方法に対して研究した結果、本発明を完成した。
【特許文献1】韓国特許出願第2001−0059282号
【特許文献2】韓国特許出願第2001−0070052号
【特許文献3】米国特許第5,439,686号
【特許文献4】米国特許第5,498,421号
【特許文献5】米国特許第5,560,933号
【特許文献6】WO94/18954号
【特許文献7】アメリカ特許第5,916,596号
【特許文献8】アメリカ特許第6,096,331号
【特許文献9】WO98/14174号
【特許文献10】WO99/00113号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来の問題点を解決するために遊離アミン基を有していながらも水に対する溶解度が高い水溶性キトサンを、抗癌剤であるパクリタキセルの伝達体に使用することができる水溶性キトサンナノ粒子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために本発明は、抗癌物質伝達体の基本構成物に水溶性キトサンを使用して、水溶性キトサンそれ自体のアミン基が有する強い陽電荷(+)によって陰電荷(−)を帯びたDNAと複合体を形成することで、遺伝子伝達体としても非常に優秀で、また反応性が高い遊離アミン基の位置に他の機能性基を導入することで、目的とする部位を標的とすることができる機能を付与することにより、抗癌剤の効率的な薬物伝達体用水溶性キトサンナノ粒子及びその製造方法を提供する。
【0013】
以下、本発明をより詳しく説明する。
本発明は、水溶性キトサン(WSC)の鎖に疎水性基としてコレステロールとメトキシポリ(エチレングリコール)(MPEG)を導入して構成された抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子(WSC−NP)を提供する。
【0014】
前記本発明の構成によって導入したコレステロールは、運搬しようとする疎水性薬物であるパクリタキセル(paclitaxel)を封入して、MPEGは、前記コレステロールの溶解性を増加させて血液内長期間循環と細網内皮系(Reticuloendothelial system、RES)と大食細胞などの攻撃からナノ粒子を保護する作用をする。
【0015】
また本発明は、
1)水溶性キトサンにMPEGを付加してアミド結合を形成して、副生成物であるp−ニトロフェニル基を除去する工程;及び
2)前記工程の反応液にコレステロールを付加して水溶性キトサンの遊離アミン基とコレステリルクロロホルメートとのまた異なるアミド結合を形成させる工程からなる、疎水性核を有した抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子の製造方法を提供する。
【0016】
前記1)工程で生成された副生成物であるp−ニトロフェニル基を氷水に透析しながら除去した後、残っている副生成物は無水エチルアルコールに精製することで完全に除去することができる。
【0017】
本発明により遊離アミンを有した水溶性キトサンを使用して効率的な抗癌治療効果を有する水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの製造は、まず水溶性キトサンの遊離アミン基に親水性基としてMPEGと疎水性基としてコレステロールを結合することで、製造した水溶性キトサンナノ粒子にパクリタキセルを効率的に封入して、水に対する再分散性が高い水溶性キトサンナノ−パクリタキセルを製造することができる。
【0018】
より詳しく説明すると、前記水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの製造は、次のようである。1工程では、水溶性キトサンにMPEGを付加してアミド結合を形成して、副生成物であるp−ニトロフェニル基を氷水で約48時間透析しながら除去して、残っている副生成物は無水エチルアルコールで精製することで完全に除去する。次に、2工程では前記反応液にコレステロールを付加して水溶性キトサンの遊離アミン基とコレステロールとアミド結合を形成しながら、疎水性核を有した水溶性キトサンナノ粒子を製造する[化学式1参照]。次に、前記反応液に抗癌剤を付加して抗癌剤が前記水溶性キトサンナノ粒子の疎水性基であるコレステロールに封入されるようにして、水溶性キトサンナノ−パクリタキセルを製造することができる。
【0019】
化学式1
【0020】
【化1】
【0021】
本発明の抗癌剤の伝達体に使われたWSCは、反応性が高い遊離アミン基を有しているので抗癌剤を封入して伝達体に使用するのに適当である。
【0022】
また、本発明による水溶性キトサンナノ粒子の製造過程は、PBS(pH7.0〜8.0)溶液内で穏和な条件で成りたつので、人体に有害な有機溶媒を使用した製造方法に比べてずっと安全かつ簡単な製造工程で製造することができるという長所を有している。
【0023】
公知のように、低分子量の薬物に比べて高分子薬物(polymeric drug)は、EPR(enhanced permeability and retention effect)によって正常細胞より腫瘍細胞にさらに多く蓄積されるので、本発明によって水溶性キトサンを使用して製造した水溶性キトサンナノ粒子も、既存の他の抗癌剤伝達体に比べて腫瘍細胞により多く蓄積されることにより、卓越した抗癌効果を示し、また癌細胞は、周囲の正常細胞に比べて若干酸性を帯びているので、pKaが6.5程度になる水溶性キトサンは、若干酸性でより安定化するという特性を有しているため、正常細胞に比べて標的性を付与することができ、癌細胞にナノ粒子がより多く蓄積され得るという利点を有する。
【0024】
また、本発明によってパクリタキセルが封入された水溶性キトサンナノ−パクリタキセル(WSC−NPT)は、天然高分子物質である水溶性キトサンを中心にした高分子の様々な長所によって、凍結乾燥後、蒸留水での再分散能力が非常にすぐれているという特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施例及び実験例によってさらに詳しく説明するが、本発明がこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
<実施例1>
水溶性キトサンナノ粒子の製造
分子量と脱アセチル化度が各々18Kダルトン(dalton)と87%である水溶性キトサンをキトライフ社(KITTOLIFE Co.Ltd.)から供給を受けて使用した。親水性基としてメトキシポリ(エチレングリコール)(MPEG)は、シグマ社(Sigma Co.)から購入して使用した。疎水性基としてコレステリルクロロホルメートと透析チューブ(dialysis tube)(MWCO 12,000)は、アルドリッチ社(Aldrich Co.)とスペクトル社(Spectrum Co.)からそれぞれ購入して使用した。その外の試薬は、特級試薬を精製なしに使用した。
【0027】
水溶性キトサンナノ粒子の製造は、下記のように2工程で進行した。1工程では、前記水溶性キトサン0.1gを15mlのPBS(pH7.0〜8.0)に溶かした後、約1時間撹拌した後、前記MPEG0.5gを10mlのPBS(pH8.0)に溶かした溶液を前記水溶性キトサン反応溶液にゆっくり落としながら撹拌する。2時間後反応物は、MWCO12000で48時間氷水で透析して澄んだ上澄み液の生成物と沈殿層の副生成物を形成させてこれを分離し、澄んだ上澄み液は凍結乾燥した。
【0028】
前記1工程で凍結乾燥した白色の生成物をPBS(pH7.0〜8.0)15mlに溶かした後、1時間程度撹拌する。そして、前記コレステリルクロロホルメートをキトサンのグルコースアミン単位体10個当り1.0個の比でDMF(無水物、anhydrous)1〜2mlに溶かした後、この溶液を前記溶液にゆっくり落としながら約2時間撹拌する。反応終了後、蒸留水に対して約24時間透析した後、10000rpmで10分遠心分離した後、0.45μmシリンジフィルター(syringe filter)でろ過して凍結乾燥することで、白色の最終生成物である水溶性キトサンナノ粒子を得た。
【0029】
<実施例2>
コレステリルクロロホルメートをキトサンのグルコースアミン単位体10個当り1.5個の比にする以外は、前記実施例1と同一にして水溶性キトサンナノ粒子を得た。
【0030】
<実施例3>
コレステリルクロロホルメートをキトサンのグルコースアミン単位体10個当り1.8個の比にする以外は、前記実施例1と同一にして水溶性キトサンナノ粒子を得た。
【0031】
<実施例4>
水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの製造
前記実施例1によって製造された水溶性キトサンナノ粒子25mgをPBS(pH7.4)10mlに分散した後、40℃で30分間撹拌する。パクリタキセル4mgをエチルアルコール2mlに溶かした後、上の溶液にウォータータイプの超音波処理器で超音波処理しながら徐々に落とす。この溶液をバータイプの超音波処理器を使用して2秒間10回程度超音波処理する。そして、PBS(pH7.4)で一晩程度透析した後、翌日蒸留水に対して12時間透析した後、遠心分離した後0.45μmのシリンジフィルターでろ過した後、凍結乾燥してパクリタキセルを含んだ水溶性キトサンナノ−パクリタキセルを製造した。
【0032】
<実施例5>
水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの製造
前記実施例2によって製造された水溶性キトサンナノ粒子を使用する以外は、実施例4と同一に水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの製造した。
【0033】
<実施例6>
水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの製造
前記実施例3によって製造された水溶性キトサンナノ粒子を使用する以外は、実施例4と同一に水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの製造した。
【0034】
<実験例1>
MTT分析
本発明で使用した水溶性キトサンの毒性を評価するために、MTT分析を遂行した。293Tセルを96ウェルに一ウェル当たり5×104個で入れた後、24時間培養した。
【0035】
重量平均分子量(Mw)10,000、20,000及び50,000を有する水溶性キトサンを0.1〜100μg/mlの濃度で各ウェルに添加して、37℃で4時間培養した。3mg/mlの濃度に製造されたMTT50μlを添加した後、さらに37℃で4時間培養した。上澄み液はすべて除去して、DMSO100μlずつを96ウェルに入れて10分間放置した後、マイクロプレートリーダー(VERSA MAX)で測定した。細胞の生存可能性(cell viability)は次の式(1)によって計算した。
【0036】
細胞の生存可能性(%)=(OD570(サンプル)/OD570(対照群))×100−−−式(1)
【0037】
ここで、OD570(サンプル)は、水溶性キトサンを処理したウェルから測定したOD値を意味し、OD570(対照群)は、単にPBS緩衝液のみで処理したウェルから測定したOD値を意味する。実験結果を図1に示した。図1から分かるように重量平均分子量10,000ないし50,000範囲の水溶性キトサンが全く毒性を示さないことを確認することができる。
【0038】
<実験例2>
水溶性キトサンナノ粒子のFT−IR及び1H−NMRスペクトル測定
前記実施例1によって製造された水溶性キトサンナノ粒子が親水性基と疎水性基に改質されることを確認するために、FT−IR(Shimadzu,FT−IR8700)と1H−NMRスペクロメーター(Bruker,DRX−500MHz)を使用して測定した。1H−NMRスペクトルを得るために、前記実施例1によって製造された水溶性キトサンナノ粒子を10mg/mlの濃度でCDCl3に溶解して298Kで実験を遂行した。また、疎水性中心核を有したナノ粒子であることを確認するために、前記実施例1によって製造された水溶性キトサンナノ粒子をD2Oに溶解して、1H−NMRスペクトルを得た後、前記CDCl3に溶解して測定したスペクトルと比べてその結果を図2及び図6に示した。
【0039】
図2は、水溶性キトサンのFT−IRスペクトルを示したもので、グルコースアミン単位体のアミン基とアミド基の特性ピークが1539cm−1と1635cm−1でそれぞれ著しく分離して現れることが分かった。水溶性キトサンの鎖にMPEGを導入した結果、図3に示されたようにMPEGの脂肪族−CHによる特性ピークを2880cm−1近くで確認した。また、水溶性キトサンの遊離アミン基とMPEGのカルボニル基がアミド結合を形成することによって、水溶性キトサンの特性ピークである1539cm−1近くでのアミンピークが減り、また水溶性キトサンとMPEGとの新しいアミド結合が形成されることでアミン基に比べて相対的にアミドの特性ピークの強度(intensity)が増加されたことを確認することで、水溶性キトサンにMPEGがコンジュケートされたことを確認することができる。
【0040】
図4〜6は、親水性基としてMPEGと疎水性基としてコレステロールが改質された水溶性キトサンの1H−NMRスペクトルを示したもので、図4では反応後に残っているコレステロールを除去する前の水溶性キトサンナノ粒子をCDCl3に溶解した後、測定したスペクトルで、1.5〜0.5ppm近くで反応しないコレステロールのピークを確認することができた。また水溶性キトサンの鎖に結合されている疎水性基であるコレステロールによって疎水性中心が形成されることで、1.8ppm近くで強いピークを確認することができた。これは、非常に疎水性であるコレステロールのピークが水溶性キトサンとMPEGの長い高分子鎖間に結合されているので、立体的障害によってコレステロールの特性ピークは、1.8ppmで疎水性核が形成されて一つの強いピークとして現れたものと考えられる。図5は、反応しないで残っているコレステロールを除去するためにエチルエーテルで精製した後、測定した水溶性キトサンナノ粒子の1H−NMRスペクトルである。このグラフから分かるように、1.5〜0.5ppm近くで現れるコレステロールのピークが消えて、疎水性中心が形成されたことを意味する1.8ppmの特性ピークだけが明確に現れることが分かった。図6は、水溶性キトサンナノ粒子に疎水性中心が形成されたことを確認することができるまた他の一結果で、水溶性キトサンナノ粒子をD2Oに溶解した後、1H−NMRスペクトルを得たものである。このグラフから分かるように、コレステロールによる特性ピークがまったく消えて、水溶性キトサンとMPEGの特性ピークのみを確認することで、疎水性中心が形成されたことを確認することができた。したがって、以上の結果によって水溶性キトサンの鎖にMPEGとコレステロールがうまく結合されたことを確認することができた。
【0041】
<実験例3>
水溶性キトサンナノ粒子の表面形態をTEM(Transmission electron microscope;JEOL JEM−2000 FX−II)とAFM(Atomic force microscope;PARK’s Science Autoprobe CP)を使用して観察した。0.01%のPTA(phosphotungstic acid)に分散させた後、この溶液一滴を炭素フィルムがコーティングされた銅グリッド(copper grid)上に落として室温で乾燥した。AFMを測定のために、実施例1によって製造された水溶性キトサンナノ−粒子を0.1mg/mlの濃度に希釈して分散させた後、シリコーンウエファーの表面上に落として室温で乾燥した。図7は、TEMによる水溶性キトサンナノ粒子の表面形態を示したので、この写真から分かる稠のように表面が滑らかな丸い形態を有したナノ粒子であることを確認することができ、ナノ粒子の大きさは、30〜150nm程度の大きさであることが分かった。また疎水性基であるコレステロールの置換比が増加するほど粒子の大きさは減った。これは水溶性キトサン鎖に結合されているコレステロールによって粒子がさらに稠密に減ったためと考えられる。また図8は、AFMによって観察された水溶性キトサンナノ粒子の表面形態を示したもので、上のTEMの結果と同様に表面が丸くて滑らかなナノ粒子であることを確認することができた。また粒子の大きさは、疎水性基であるコレステロールの置換比が増加するほど粒子はさらに稠密に減って粒子の大きさも小くなるということが分かる。
【0042】
<実験例4>
前記各実施例によって製造された水溶性キトサンナノ粒子の表面電荷を測定するために、633nmの波長でHe−Neレーザービームを有したPCS(Photon Correlation Spectroscopy;Zetasizer 3000、Malvern instruments,英国)を使用して測定し、その結果を次の表1に示した。
【0043】
【表1】
【0044】
疎水性抗癌剤であるパクリタキセルの封入のために水溶性キトサン鎖に親水性基としてMPEGと疎水性基としてコレステロールを改質した結果、前記表1に示したようにコレステロールの置換比が増加するほど粒子の大きさは減り、臨海凝集濃度(critical aggergation concentration,CAC)も減少することが分かったが、これは疎水性基であるコレステロールが増加するほど低い濃度でもナノ粒子を形成することができるということを意味すると考えられる。また、陽電荷を有した水溶性キトサンのアミン基にMPEGとコレステロールが置換されることで、陽電荷は段々減っていることをゼタポテンシャル(Zeta potential)測定を通じて分かる。
【0045】
<実験例5>
時差走査熱量計(DSC)の測定
パクリタキセルと水溶性キトサンナノ−パクリタキセルのTmは、TAインストルメンツ(instrument;Dupont,TA2000)を使用して窒素気流下で測定した。測定条件では、10℃/分の走査速度で20〜350℃の範囲で遂行し、その結果を図9、図10に示した。図9は、パクリタキセルを封入する前(図9)と封入した後(図10)の熱分析結果を示したものである。一般的に、水溶性キトサンナノ粒子とパクリタキセルのTmは、それぞれ50℃と215℃で現れる。前記結果から分かるように、パクリタキセルが封入される前の水溶性キトサンナノ粒子のTmは、50℃で現れることが分かり(図9参照)、パクリタキセルを封入した水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの場合には、50℃近くで水溶性キトサンナノ粒子のTmと240℃近くでのパクリタキセルのTmピークを確認することができた(10参照)。水溶性キトサンナノ−パクリタキセルでパクリタキセルのTm(215℃)より少し高く示されたことは、水溶性キトサンナノ粒子の疎水性中心に封入されたためであると考えられる。
【0046】
<実験例6>
封入量を定量するためのHPLC測定
前記実施例4によって製造された水溶性キトサンナノ−パクリタキセルのパクリタキセル封入量をヘノメネックス(Phenomenex Sphereclone 5micro ODS(2)250×4.6mm)カラムを使用して、移動相には75%メタノールを使用してHPLCで定量した。ここで、流速は1.5ml/分にして温度は50℃、そして検出機はUV検出機(detector)(226nm)を使用した。パクリタキセルは、エチルアルコールに溶かして20μlを注入した。その結果を次の表2に示した。
【0047】
【表2】
【0048】
前記表2は、実施例4ないし6にしたがってパクリタキセルを封入した水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの封入量と封入効率を示したもので、MPEGが導入された水溶性キトサンの鎖に疎水性基であるコレステロールの置換比が増加するほど、封入量と封入効率はさらに増加することが分かり、この結果は図11、図12に示したHPLCによる定量分析によってまた確認することができた。
【0049】
図11、図12に示されたように、パクリタキセルの特性ピーク(図12)は、3.4分で表され、図11は、水溶性キトサンナノ−パクリタキセルに封入されたパクリタキセルを定量したもので、疎水性基であるコレステロールの含量が増加するほど封入されたパクリタキセルの含量が増加することが分かった。これは、水溶性キトサンナノ粒子とコレステロールの疎水性相互作用によるものと考えられる。
【0050】
<実験例7>
CT−26マウス腫瘍モデルでの腫瘍抑制実験
CT−26mourine tumor cell(5×104cells/mice)をBALB/c mice(メス、平均体重20g)の背の皮下に移植した。腫瘍が約3mm×3mm程度の大きさに到達した時、治療群と対照群に分けた。8匹の腫瘍を有したマウスからなる各群は耳に表示しておき、実験を進行するあいだ観察した。薬物とビヒクル(vehicle)の静脈注射投与は、腫瘍移植後15日目に始めた。各薬物は、低い服用量(low dose)としてkg当たり2mgを投与し、高い服用量(high dose)としてkg当り10mgを3日間隔で12日間に4回投与した。対照群は、ビヒクル(cremophor:dehydrated ethyl alcohol,1:1v/v)を投与した。マウスの死亡率は、毎日チェックし、腫瘍の成長程度は球形(caliper)測定装置によって、2日あるいは3日間隔で測定した。腫瘍の大きさは、次の式(2)を使用して計算した。
【0051】
腫瘍体積(Tumor volume:mm3)=(長さ×幅2)/2 −−−− 式(2)
【0052】
腫瘍を移植させて2週後にマウスの尾静脈(tail vein)に薬物、またはビヒクルを投与した。図13は、パクリタキセルと水溶性キトサンナノ−パクリタキセルがそれぞれ投与されたマウスの生存率を示したグラフである。対照群は、すべての群の中で一番早い速度に死んで行くことを確認することができる。10mg/kgの高服用量の場合には、40日まで他の三つの群よりずっと早く死んだが、事実上パクリタキセル2mg/kg、10mg/kgそして水溶性キトサンナノ−パクリタキセル(WSC−NPT)2mg/kg群の間の生存率は、大きな差がなかった。高服用量(10mg/kg)で水溶性キトサンナノ−パクリタキセルを投与した試験群が、他の試験群より全実験期間を通じて一番高い生存率を維持した。
【0053】
図14は、生体内でのCT−26腫瘍モデルに対するパクリタキセルと水溶性キトサンナノ−パクリタキセル(WSC−NPT)の抗癌活性を示したグラフである。腫瘍大きさの測定は、腫瘍細胞を移植して15日目から始めた。低服用量(2mg/kg)でパクリタキセルと水溶性キトサンナノ−パクリタキセルは、腫瘍の大きさにおいて大きな差を示さなかった。しかし、高服用量(10mg/kg)の場合に、パクリタキセルは対照群(control)、パクリタキセル(2mg/kg)そして水溶性キトサンナノ−パクリタキセル(2mg/kg)と比較した時、腫瘍の大きさが著しく減少することが分かった。パクリタキセル10mg/kgの場合に腫瘍の成長は著しく減ったが、30日後にまた成長する特性を示した。図14に示されたように10mg/kgの服用量での水溶性キトサンナノ−パクリタキセルはすべての群の中で抗癌活性が最も優れていることが分かる。水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの場合に腫瘍の成長は、38日まで抑制され、40日以後にはまた成長することが分かる。
【0054】
図15は、腫瘍を移植した後、薬物の投与による体重変化を示したグラフで、このグラフから分かるように、対照群、パクリタキセル(2mg/kg)そして水溶性キトサンナノ−パクリタキセル(2mg/kg)の間での体重変化は、特に差がなかった。高服用量の場合に水溶性キトサンナノ−パクリタキセルは、体重が著しく減ったことが分かる。この結果は、その服用量における水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの腫瘍の大きさは、他の群よりも小さく、これが体重の増加を抑制したと考えられる。
【0055】
水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの場合において、たとえ腫瘍の成長と生存率が低服用量では大きく変化しなかったとしても、その服用量においては水溶性キトサンナノ−パクリタキセルがパクリタキセルと比べた時、生存率がより優勢だっただけではなく、腫瘍の大きさも著しく減少したことが分かる。したがって、10mg/kgの高服用量以上の水溶性キトサンナノ−パクリタキセルは、抗癌活性がずっと優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
前記のように構成された本発明の抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子は、基本構成物に水溶性キトサンを使用して、反応性が高い遊離アミン基の位置に親水性及び疎水性基を各々導入することで、抗癌剤であるパクリタキセルを容易に封入した水溶性キトサンナノ−パクリタキセルを提供することができる。この水溶性キトサンナノ−パクリタキセルは、天然高分子物質である水溶性キトサンを中心にした高分子の様々な長所によって、凍結乾燥後蒸留水での再分散能力が非常にすぐれ、既存の他の抗癌剤伝達体に比べて腫瘍細胞により多く蓄積され、また水溶性キトサンは若干酸性でより安定化するという特性を有しているので、正常細胞に比べて標的性を付与することができるので、癌細胞にナノ粒子がさらに蓄積され得るので、卓越した抗癌効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】水溶性キトサンのMTT試験結果を示したグラフである。
【図2】水溶性キトサンとMEPGがコンジュケートされた水溶性キトサンのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図3】水溶性キトサンとMEPGがコンジュケートされた水溶性キトサンのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図4】親水性基としてMPEGと疎水性基としてコレステロールが改質された水溶性キトサンの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図5】親水性基としてMPEGと疎水性基としてコレステロールが改質された水溶性キトサンの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図6】親水性基としてMPEGと疎水性基としてコレステロールが改質された水溶性キトサンの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図7】TEMによって本発明による水溶性キトサンナノ粒子の表面形態をそれぞれ示した図である。
【図8】AFMによって本発明による水溶性キトサンナノ粒子の表面形態をそれぞれ示した図である。
【図9】パクリタキセルを封入する前の熱分析結果を示した図である。
【図10】パクリタキセルを封入した後の熱分析結果を示した図である。
【図11】HPLCによる水溶性キトサンナノ−パクリタキセルに封入されたパクリタキセルの定量分析グラフである。
【図12】HPLCによる標準パクリタキセルの定量分析グラフである。
【図13】各薬物処理によるマウスの生存率を示すグラフである。
【図14】マウスに薬物投与後の腫瘍成長を示すグラフである。
【図15】腫瘍を移植した後薬物の投与によるマウスの体重変化を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子(water soluble chitosan nanoparticle;WSC−NP)及びその製造方法に関するもので、より詳細には、抗癌物質伝達体の基本構成物に水溶性キトサンを使用して、水溶性キトサンそれ自体のアミン基が有する強い陽電荷(+)によって陰電荷(−)を帯びたDNAと複合体を形成することにより、遺伝子伝達体(gene carrier)としても非常に優秀で、また反応性が高い遊離アミン基の位置に他の機能性基を導入することにより、目的とする部位を標的することができる機能を付与することによる、抗癌剤の効率的な薬物伝達体用水溶性キトサンナノ粒子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
キトサンは、グルコースアミンのピラノース単位体がβ−1,4結合されたもので、グルコースアミン残基が5,000個以上結合された分子量が100万以上で多価の陽イオンを有する多糖類系列の生体高分子物質で、蟹皮や海老のような甲殻類及びイカを含む水産系から抽出することができ、その分子構造でみると多糖類の一種であるセルロースと類似の構造であり、生体親和性が優秀で免疫反応時に拒否反応が起きないので医薬産業に応用されていて、最近アメリカのFDAで食品として認証を受けた後、キトサンは21世紀の重要な生物産業及び生体医療用物質に応用されている。
【0003】
特に、20,000〜100,000以内の特定分子量の範囲を有するキトサンは、強い生理活性機能を帯びていることが知られているため、健康食品分野、飲食物分野、化粧品分野、保健衛生分野及び医薬品分野に対する応用性が期待されている。
【0004】
しかし、上述した特長を有するキトサンは、お互いに隣り合う分子間の強い水素結合で堅固に結合されて水に溶けない不溶性物質で、従来このようなキトサンを溶かすために乳酸、酢酸、プロピオン酸、ギ酸、アスコルビン酸、及び酒石酸を含む有機酸及び塩酸、硝酸及び硫酸からなる無機酸を使用することによって、生体に応用するのに制限を与えているという問題点を有していたが、本発明者等は、前記の問題点を画期的に解決した水溶性キトサンを開発して特許文献1及び特許文献2で出願した。
【0005】
すなわち、本発明者などが出願した前記特許出願は、「1)キトサンオリゴ糖の有機酸または無機酸塩の溶液を塩基であるトリアルキルアミンで処理して、2)前記溶液に有機溶媒を添加してキトサンオリゴ糖に結合されている有機酸または無機酸がトリアルキルアミン塩の形態で除去されたキトサンオリゴ糖を回収して、3)前記で酸が除去されたキトサンオリゴ糖溶液を無機酸処理後、活性炭/イオン交換樹脂(activated carbon/ion exchange resin)カラムで精製して1,000〜100,000ダルトンの分子量を有した純粋な水溶性遊離アミンキトサンを製造する方法」を開示している。
【0006】
一方、1992年にアメリカのFDAの承認を受けたパクリタキセル(paclitaxel)は、既存の抗癌剤に比べて抗癌活性が非常に優秀であるという長所を有しているが、疎水性が高いため水に全く分散しないので注射剤用に使用するためにクレモホール(商品名)EL(ポリエトキシ化オイル)とエチルアルコールの50:50混合物に分散するため、人体内に深刻な副作用をもたらした。
【0007】
このように、重要な抗癌活性を有する天然物質として公知されたパクリタキセルが水に対する溶解度が低いという問題点によって、これを注射剤にして投与するのに困難があった。したがって、これを解決して注射可能にするための多様なシステムが提案された。例えば、生分解性でパクリタキセルに対して相当な結合力を有するヒト血清アルブミン(HSA)とパクリタキセルを配合して公知された方法で超音波処理、高圧均質化及び微細流動化(microfluidization)処理して注射可能なエマルジョンを形成する方法が提案された。
【0008】
特許文献3、特許文献4、特許文献5及び特許文献6でビボックスファーマシュティカル社(VivoRx Pharmaceuticals,Inc.)は、10μm未満の平均粒子サイズ(MPS)を提供する超音波処理技術を使用して製造したパクリタキセル及びヒト血清アルブミンの微粒子からなる注射可能な製剤を開示している。しかし、前記特許に記述された製造方法は、産業的規模では使用することができず、それに取得された微粒子がとても大きな平均粒子サイズを有していて、患者に投与するのには不適合で有用ではないという短所がある。
【0009】
したがって、特許文献7、特許文献8、特許文献9及び特許文献10では、滅菌0.9%NaCl水溶液で平均粒子サイズが0.2μm未満の凍結乾燥された粉末を再構成することで収得されたパクリタキセル及びヒト血清アルブミンの滅菌ナノエマルジョンを開示している。前記特許に記述されているように、高圧均質化を使用して取得されたナノエマルジョンは、平均粒子サイズが時間によって一定でナノ粒子沈殿物が生成されず、安定性を有すると記述している。しかし、前記の方法は、相変らずヒト血清アルブミンにパクリタキセルを懸濁して注射可能な製剤を製造するため、相変らず産業的規模では使用することができないという短所がある。
【0010】
したがって、本発明者等は、上述したように生体親和性が優秀で免疫反応時の拒否反応を起こさず、医薬産業に有用に応用することができるキトサンを、抗癌剤であるパクリタキセルの伝達体に使用することができる方法に対して研究した結果、本発明を完成した。
【特許文献1】韓国特許出願第2001−0059282号
【特許文献2】韓国特許出願第2001−0070052号
【特許文献3】米国特許第5,439,686号
【特許文献4】米国特許第5,498,421号
【特許文献5】米国特許第5,560,933号
【特許文献6】WO94/18954号
【特許文献7】アメリカ特許第5,916,596号
【特許文献8】アメリカ特許第6,096,331号
【特許文献9】WO98/14174号
【特許文献10】WO99/00113号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来の問題点を解決するために遊離アミン基を有していながらも水に対する溶解度が高い水溶性キトサンを、抗癌剤であるパクリタキセルの伝達体に使用することができる水溶性キトサンナノ粒子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために本発明は、抗癌物質伝達体の基本構成物に水溶性キトサンを使用して、水溶性キトサンそれ自体のアミン基が有する強い陽電荷(+)によって陰電荷(−)を帯びたDNAと複合体を形成することで、遺伝子伝達体としても非常に優秀で、また反応性が高い遊離アミン基の位置に他の機能性基を導入することで、目的とする部位を標的とすることができる機能を付与することにより、抗癌剤の効率的な薬物伝達体用水溶性キトサンナノ粒子及びその製造方法を提供する。
【0013】
以下、本発明をより詳しく説明する。
本発明は、水溶性キトサン(WSC)の鎖に疎水性基としてコレステロールとメトキシポリ(エチレングリコール)(MPEG)を導入して構成された抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子(WSC−NP)を提供する。
【0014】
前記本発明の構成によって導入したコレステロールは、運搬しようとする疎水性薬物であるパクリタキセル(paclitaxel)を封入して、MPEGは、前記コレステロールの溶解性を増加させて血液内長期間循環と細網内皮系(Reticuloendothelial system、RES)と大食細胞などの攻撃からナノ粒子を保護する作用をする。
【0015】
また本発明は、
1)水溶性キトサンにMPEGを付加してアミド結合を形成して、副生成物であるp−ニトロフェニル基を除去する工程;及び
2)前記工程の反応液にコレステロールを付加して水溶性キトサンの遊離アミン基とコレステリルクロロホルメートとのまた異なるアミド結合を形成させる工程からなる、疎水性核を有した抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子の製造方法を提供する。
【0016】
前記1)工程で生成された副生成物であるp−ニトロフェニル基を氷水に透析しながら除去した後、残っている副生成物は無水エチルアルコールに精製することで完全に除去することができる。
【0017】
本発明により遊離アミンを有した水溶性キトサンを使用して効率的な抗癌治療効果を有する水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの製造は、まず水溶性キトサンの遊離アミン基に親水性基としてMPEGと疎水性基としてコレステロールを結合することで、製造した水溶性キトサンナノ粒子にパクリタキセルを効率的に封入して、水に対する再分散性が高い水溶性キトサンナノ−パクリタキセルを製造することができる。
【0018】
より詳しく説明すると、前記水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの製造は、次のようである。1工程では、水溶性キトサンにMPEGを付加してアミド結合を形成して、副生成物であるp−ニトロフェニル基を氷水で約48時間透析しながら除去して、残っている副生成物は無水エチルアルコールで精製することで完全に除去する。次に、2工程では前記反応液にコレステロールを付加して水溶性キトサンの遊離アミン基とコレステロールとアミド結合を形成しながら、疎水性核を有した水溶性キトサンナノ粒子を製造する[化学式1参照]。次に、前記反応液に抗癌剤を付加して抗癌剤が前記水溶性キトサンナノ粒子の疎水性基であるコレステロールに封入されるようにして、水溶性キトサンナノ−パクリタキセルを製造することができる。
【0019】
化学式1
【0020】
【化1】
【0021】
本発明の抗癌剤の伝達体に使われたWSCは、反応性が高い遊離アミン基を有しているので抗癌剤を封入して伝達体に使用するのに適当である。
【0022】
また、本発明による水溶性キトサンナノ粒子の製造過程は、PBS(pH7.0〜8.0)溶液内で穏和な条件で成りたつので、人体に有害な有機溶媒を使用した製造方法に比べてずっと安全かつ簡単な製造工程で製造することができるという長所を有している。
【0023】
公知のように、低分子量の薬物に比べて高分子薬物(polymeric drug)は、EPR(enhanced permeability and retention effect)によって正常細胞より腫瘍細胞にさらに多く蓄積されるので、本発明によって水溶性キトサンを使用して製造した水溶性キトサンナノ粒子も、既存の他の抗癌剤伝達体に比べて腫瘍細胞により多く蓄積されることにより、卓越した抗癌効果を示し、また癌細胞は、周囲の正常細胞に比べて若干酸性を帯びているので、pKaが6.5程度になる水溶性キトサンは、若干酸性でより安定化するという特性を有しているため、正常細胞に比べて標的性を付与することができ、癌細胞にナノ粒子がより多く蓄積され得るという利点を有する。
【0024】
また、本発明によってパクリタキセルが封入された水溶性キトサンナノ−パクリタキセル(WSC−NPT)は、天然高分子物質である水溶性キトサンを中心にした高分子の様々な長所によって、凍結乾燥後、蒸留水での再分散能力が非常にすぐれているという特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施例及び実験例によってさらに詳しく説明するが、本発明がこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
<実施例1>
水溶性キトサンナノ粒子の製造
分子量と脱アセチル化度が各々18Kダルトン(dalton)と87%である水溶性キトサンをキトライフ社(KITTOLIFE Co.Ltd.)から供給を受けて使用した。親水性基としてメトキシポリ(エチレングリコール)(MPEG)は、シグマ社(Sigma Co.)から購入して使用した。疎水性基としてコレステリルクロロホルメートと透析チューブ(dialysis tube)(MWCO 12,000)は、アルドリッチ社(Aldrich Co.)とスペクトル社(Spectrum Co.)からそれぞれ購入して使用した。その外の試薬は、特級試薬を精製なしに使用した。
【0027】
水溶性キトサンナノ粒子の製造は、下記のように2工程で進行した。1工程では、前記水溶性キトサン0.1gを15mlのPBS(pH7.0〜8.0)に溶かした後、約1時間撹拌した後、前記MPEG0.5gを10mlのPBS(pH8.0)に溶かした溶液を前記水溶性キトサン反応溶液にゆっくり落としながら撹拌する。2時間後反応物は、MWCO12000で48時間氷水で透析して澄んだ上澄み液の生成物と沈殿層の副生成物を形成させてこれを分離し、澄んだ上澄み液は凍結乾燥した。
【0028】
前記1工程で凍結乾燥した白色の生成物をPBS(pH7.0〜8.0)15mlに溶かした後、1時間程度撹拌する。そして、前記コレステリルクロロホルメートをキトサンのグルコースアミン単位体10個当り1.0個の比でDMF(無水物、anhydrous)1〜2mlに溶かした後、この溶液を前記溶液にゆっくり落としながら約2時間撹拌する。反応終了後、蒸留水に対して約24時間透析した後、10000rpmで10分遠心分離した後、0.45μmシリンジフィルター(syringe filter)でろ過して凍結乾燥することで、白色の最終生成物である水溶性キトサンナノ粒子を得た。
【0029】
<実施例2>
コレステリルクロロホルメートをキトサンのグルコースアミン単位体10個当り1.5個の比にする以外は、前記実施例1と同一にして水溶性キトサンナノ粒子を得た。
【0030】
<実施例3>
コレステリルクロロホルメートをキトサンのグルコースアミン単位体10個当り1.8個の比にする以外は、前記実施例1と同一にして水溶性キトサンナノ粒子を得た。
【0031】
<実施例4>
水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの製造
前記実施例1によって製造された水溶性キトサンナノ粒子25mgをPBS(pH7.4)10mlに分散した後、40℃で30分間撹拌する。パクリタキセル4mgをエチルアルコール2mlに溶かした後、上の溶液にウォータータイプの超音波処理器で超音波処理しながら徐々に落とす。この溶液をバータイプの超音波処理器を使用して2秒間10回程度超音波処理する。そして、PBS(pH7.4)で一晩程度透析した後、翌日蒸留水に対して12時間透析した後、遠心分離した後0.45μmのシリンジフィルターでろ過した後、凍結乾燥してパクリタキセルを含んだ水溶性キトサンナノ−パクリタキセルを製造した。
【0032】
<実施例5>
水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの製造
前記実施例2によって製造された水溶性キトサンナノ粒子を使用する以外は、実施例4と同一に水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの製造した。
【0033】
<実施例6>
水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの製造
前記実施例3によって製造された水溶性キトサンナノ粒子を使用する以外は、実施例4と同一に水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの製造した。
【0034】
<実験例1>
MTT分析
本発明で使用した水溶性キトサンの毒性を評価するために、MTT分析を遂行した。293Tセルを96ウェルに一ウェル当たり5×104個で入れた後、24時間培養した。
【0035】
重量平均分子量(Mw)10,000、20,000及び50,000を有する水溶性キトサンを0.1〜100μg/mlの濃度で各ウェルに添加して、37℃で4時間培養した。3mg/mlの濃度に製造されたMTT50μlを添加した後、さらに37℃で4時間培養した。上澄み液はすべて除去して、DMSO100μlずつを96ウェルに入れて10分間放置した後、マイクロプレートリーダー(VERSA MAX)で測定した。細胞の生存可能性(cell viability)は次の式(1)によって計算した。
【0036】
細胞の生存可能性(%)=(OD570(サンプル)/OD570(対照群))×100−−−式(1)
【0037】
ここで、OD570(サンプル)は、水溶性キトサンを処理したウェルから測定したOD値を意味し、OD570(対照群)は、単にPBS緩衝液のみで処理したウェルから測定したOD値を意味する。実験結果を図1に示した。図1から分かるように重量平均分子量10,000ないし50,000範囲の水溶性キトサンが全く毒性を示さないことを確認することができる。
【0038】
<実験例2>
水溶性キトサンナノ粒子のFT−IR及び1H−NMRスペクトル測定
前記実施例1によって製造された水溶性キトサンナノ粒子が親水性基と疎水性基に改質されることを確認するために、FT−IR(Shimadzu,FT−IR8700)と1H−NMRスペクロメーター(Bruker,DRX−500MHz)を使用して測定した。1H−NMRスペクトルを得るために、前記実施例1によって製造された水溶性キトサンナノ粒子を10mg/mlの濃度でCDCl3に溶解して298Kで実験を遂行した。また、疎水性中心核を有したナノ粒子であることを確認するために、前記実施例1によって製造された水溶性キトサンナノ粒子をD2Oに溶解して、1H−NMRスペクトルを得た後、前記CDCl3に溶解して測定したスペクトルと比べてその結果を図2及び図6に示した。
【0039】
図2は、水溶性キトサンのFT−IRスペクトルを示したもので、グルコースアミン単位体のアミン基とアミド基の特性ピークが1539cm−1と1635cm−1でそれぞれ著しく分離して現れることが分かった。水溶性キトサンの鎖にMPEGを導入した結果、図3に示されたようにMPEGの脂肪族−CHによる特性ピークを2880cm−1近くで確認した。また、水溶性キトサンの遊離アミン基とMPEGのカルボニル基がアミド結合を形成することによって、水溶性キトサンの特性ピークである1539cm−1近くでのアミンピークが減り、また水溶性キトサンとMPEGとの新しいアミド結合が形成されることでアミン基に比べて相対的にアミドの特性ピークの強度(intensity)が増加されたことを確認することで、水溶性キトサンにMPEGがコンジュケートされたことを確認することができる。
【0040】
図4〜6は、親水性基としてMPEGと疎水性基としてコレステロールが改質された水溶性キトサンの1H−NMRスペクトルを示したもので、図4では反応後に残っているコレステロールを除去する前の水溶性キトサンナノ粒子をCDCl3に溶解した後、測定したスペクトルで、1.5〜0.5ppm近くで反応しないコレステロールのピークを確認することができた。また水溶性キトサンの鎖に結合されている疎水性基であるコレステロールによって疎水性中心が形成されることで、1.8ppm近くで強いピークを確認することができた。これは、非常に疎水性であるコレステロールのピークが水溶性キトサンとMPEGの長い高分子鎖間に結合されているので、立体的障害によってコレステロールの特性ピークは、1.8ppmで疎水性核が形成されて一つの強いピークとして現れたものと考えられる。図5は、反応しないで残っているコレステロールを除去するためにエチルエーテルで精製した後、測定した水溶性キトサンナノ粒子の1H−NMRスペクトルである。このグラフから分かるように、1.5〜0.5ppm近くで現れるコレステロールのピークが消えて、疎水性中心が形成されたことを意味する1.8ppmの特性ピークだけが明確に現れることが分かった。図6は、水溶性キトサンナノ粒子に疎水性中心が形成されたことを確認することができるまた他の一結果で、水溶性キトサンナノ粒子をD2Oに溶解した後、1H−NMRスペクトルを得たものである。このグラフから分かるように、コレステロールによる特性ピークがまったく消えて、水溶性キトサンとMPEGの特性ピークのみを確認することで、疎水性中心が形成されたことを確認することができた。したがって、以上の結果によって水溶性キトサンの鎖にMPEGとコレステロールがうまく結合されたことを確認することができた。
【0041】
<実験例3>
水溶性キトサンナノ粒子の表面形態をTEM(Transmission electron microscope;JEOL JEM−2000 FX−II)とAFM(Atomic force microscope;PARK’s Science Autoprobe CP)を使用して観察した。0.01%のPTA(phosphotungstic acid)に分散させた後、この溶液一滴を炭素フィルムがコーティングされた銅グリッド(copper grid)上に落として室温で乾燥した。AFMを測定のために、実施例1によって製造された水溶性キトサンナノ−粒子を0.1mg/mlの濃度に希釈して分散させた後、シリコーンウエファーの表面上に落として室温で乾燥した。図7は、TEMによる水溶性キトサンナノ粒子の表面形態を示したので、この写真から分かる稠のように表面が滑らかな丸い形態を有したナノ粒子であることを確認することができ、ナノ粒子の大きさは、30〜150nm程度の大きさであることが分かった。また疎水性基であるコレステロールの置換比が増加するほど粒子の大きさは減った。これは水溶性キトサン鎖に結合されているコレステロールによって粒子がさらに稠密に減ったためと考えられる。また図8は、AFMによって観察された水溶性キトサンナノ粒子の表面形態を示したもので、上のTEMの結果と同様に表面が丸くて滑らかなナノ粒子であることを確認することができた。また粒子の大きさは、疎水性基であるコレステロールの置換比が増加するほど粒子はさらに稠密に減って粒子の大きさも小くなるということが分かる。
【0042】
<実験例4>
前記各実施例によって製造された水溶性キトサンナノ粒子の表面電荷を測定するために、633nmの波長でHe−Neレーザービームを有したPCS(Photon Correlation Spectroscopy;Zetasizer 3000、Malvern instruments,英国)を使用して測定し、その結果を次の表1に示した。
【0043】
【表1】
【0044】
疎水性抗癌剤であるパクリタキセルの封入のために水溶性キトサン鎖に親水性基としてMPEGと疎水性基としてコレステロールを改質した結果、前記表1に示したようにコレステロールの置換比が増加するほど粒子の大きさは減り、臨海凝集濃度(critical aggergation concentration,CAC)も減少することが分かったが、これは疎水性基であるコレステロールが増加するほど低い濃度でもナノ粒子を形成することができるということを意味すると考えられる。また、陽電荷を有した水溶性キトサンのアミン基にMPEGとコレステロールが置換されることで、陽電荷は段々減っていることをゼタポテンシャル(Zeta potential)測定を通じて分かる。
【0045】
<実験例5>
時差走査熱量計(DSC)の測定
パクリタキセルと水溶性キトサンナノ−パクリタキセルのTmは、TAインストルメンツ(instrument;Dupont,TA2000)を使用して窒素気流下で測定した。測定条件では、10℃/分の走査速度で20〜350℃の範囲で遂行し、その結果を図9、図10に示した。図9は、パクリタキセルを封入する前(図9)と封入した後(図10)の熱分析結果を示したものである。一般的に、水溶性キトサンナノ粒子とパクリタキセルのTmは、それぞれ50℃と215℃で現れる。前記結果から分かるように、パクリタキセルが封入される前の水溶性キトサンナノ粒子のTmは、50℃で現れることが分かり(図9参照)、パクリタキセルを封入した水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの場合には、50℃近くで水溶性キトサンナノ粒子のTmと240℃近くでのパクリタキセルのTmピークを確認することができた(10参照)。水溶性キトサンナノ−パクリタキセルでパクリタキセルのTm(215℃)より少し高く示されたことは、水溶性キトサンナノ粒子の疎水性中心に封入されたためであると考えられる。
【0046】
<実験例6>
封入量を定量するためのHPLC測定
前記実施例4によって製造された水溶性キトサンナノ−パクリタキセルのパクリタキセル封入量をヘノメネックス(Phenomenex Sphereclone 5micro ODS(2)250×4.6mm)カラムを使用して、移動相には75%メタノールを使用してHPLCで定量した。ここで、流速は1.5ml/分にして温度は50℃、そして検出機はUV検出機(detector)(226nm)を使用した。パクリタキセルは、エチルアルコールに溶かして20μlを注入した。その結果を次の表2に示した。
【0047】
【表2】
【0048】
前記表2は、実施例4ないし6にしたがってパクリタキセルを封入した水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの封入量と封入効率を示したもので、MPEGが導入された水溶性キトサンの鎖に疎水性基であるコレステロールの置換比が増加するほど、封入量と封入効率はさらに増加することが分かり、この結果は図11、図12に示したHPLCによる定量分析によってまた確認することができた。
【0049】
図11、図12に示されたように、パクリタキセルの特性ピーク(図12)は、3.4分で表され、図11は、水溶性キトサンナノ−パクリタキセルに封入されたパクリタキセルを定量したもので、疎水性基であるコレステロールの含量が増加するほど封入されたパクリタキセルの含量が増加することが分かった。これは、水溶性キトサンナノ粒子とコレステロールの疎水性相互作用によるものと考えられる。
【0050】
<実験例7>
CT−26マウス腫瘍モデルでの腫瘍抑制実験
CT−26mourine tumor cell(5×104cells/mice)をBALB/c mice(メス、平均体重20g)の背の皮下に移植した。腫瘍が約3mm×3mm程度の大きさに到達した時、治療群と対照群に分けた。8匹の腫瘍を有したマウスからなる各群は耳に表示しておき、実験を進行するあいだ観察した。薬物とビヒクル(vehicle)の静脈注射投与は、腫瘍移植後15日目に始めた。各薬物は、低い服用量(low dose)としてkg当たり2mgを投与し、高い服用量(high dose)としてkg当り10mgを3日間隔で12日間に4回投与した。対照群は、ビヒクル(cremophor:dehydrated ethyl alcohol,1:1v/v)を投与した。マウスの死亡率は、毎日チェックし、腫瘍の成長程度は球形(caliper)測定装置によって、2日あるいは3日間隔で測定した。腫瘍の大きさは、次の式(2)を使用して計算した。
【0051】
腫瘍体積(Tumor volume:mm3)=(長さ×幅2)/2 −−−− 式(2)
【0052】
腫瘍を移植させて2週後にマウスの尾静脈(tail vein)に薬物、またはビヒクルを投与した。図13は、パクリタキセルと水溶性キトサンナノ−パクリタキセルがそれぞれ投与されたマウスの生存率を示したグラフである。対照群は、すべての群の中で一番早い速度に死んで行くことを確認することができる。10mg/kgの高服用量の場合には、40日まで他の三つの群よりずっと早く死んだが、事実上パクリタキセル2mg/kg、10mg/kgそして水溶性キトサンナノ−パクリタキセル(WSC−NPT)2mg/kg群の間の生存率は、大きな差がなかった。高服用量(10mg/kg)で水溶性キトサンナノ−パクリタキセルを投与した試験群が、他の試験群より全実験期間を通じて一番高い生存率を維持した。
【0053】
図14は、生体内でのCT−26腫瘍モデルに対するパクリタキセルと水溶性キトサンナノ−パクリタキセル(WSC−NPT)の抗癌活性を示したグラフである。腫瘍大きさの測定は、腫瘍細胞を移植して15日目から始めた。低服用量(2mg/kg)でパクリタキセルと水溶性キトサンナノ−パクリタキセルは、腫瘍の大きさにおいて大きな差を示さなかった。しかし、高服用量(10mg/kg)の場合に、パクリタキセルは対照群(control)、パクリタキセル(2mg/kg)そして水溶性キトサンナノ−パクリタキセル(2mg/kg)と比較した時、腫瘍の大きさが著しく減少することが分かった。パクリタキセル10mg/kgの場合に腫瘍の成長は著しく減ったが、30日後にまた成長する特性を示した。図14に示されたように10mg/kgの服用量での水溶性キトサンナノ−パクリタキセルはすべての群の中で抗癌活性が最も優れていることが分かる。水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの場合に腫瘍の成長は、38日まで抑制され、40日以後にはまた成長することが分かる。
【0054】
図15は、腫瘍を移植した後、薬物の投与による体重変化を示したグラフで、このグラフから分かるように、対照群、パクリタキセル(2mg/kg)そして水溶性キトサンナノ−パクリタキセル(2mg/kg)の間での体重変化は、特に差がなかった。高服用量の場合に水溶性キトサンナノ−パクリタキセルは、体重が著しく減ったことが分かる。この結果は、その服用量における水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの腫瘍の大きさは、他の群よりも小さく、これが体重の増加を抑制したと考えられる。
【0055】
水溶性キトサンナノ−パクリタキセルの場合において、たとえ腫瘍の成長と生存率が低服用量では大きく変化しなかったとしても、その服用量においては水溶性キトサンナノ−パクリタキセルがパクリタキセルと比べた時、生存率がより優勢だっただけではなく、腫瘍の大きさも著しく減少したことが分かる。したがって、10mg/kgの高服用量以上の水溶性キトサンナノ−パクリタキセルは、抗癌活性がずっと優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
前記のように構成された本発明の抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子は、基本構成物に水溶性キトサンを使用して、反応性が高い遊離アミン基の位置に親水性及び疎水性基を各々導入することで、抗癌剤であるパクリタキセルを容易に封入した水溶性キトサンナノ−パクリタキセルを提供することができる。この水溶性キトサンナノ−パクリタキセルは、天然高分子物質である水溶性キトサンを中心にした高分子の様々な長所によって、凍結乾燥後蒸留水での再分散能力が非常にすぐれ、既存の他の抗癌剤伝達体に比べて腫瘍細胞により多く蓄積され、また水溶性キトサンは若干酸性でより安定化するという特性を有しているので、正常細胞に比べて標的性を付与することができるので、癌細胞にナノ粒子がさらに蓄積され得るので、卓越した抗癌効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】水溶性キトサンのMTT試験結果を示したグラフである。
【図2】水溶性キトサンとMEPGがコンジュケートされた水溶性キトサンのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図3】水溶性キトサンとMEPGがコンジュケートされた水溶性キトサンのFT−IRスペクトルを示した図である。
【図4】親水性基としてMPEGと疎水性基としてコレステロールが改質された水溶性キトサンの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図5】親水性基としてMPEGと疎水性基としてコレステロールが改質された水溶性キトサンの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図6】親水性基としてMPEGと疎水性基としてコレステロールが改質された水溶性キトサンの1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図7】TEMによって本発明による水溶性キトサンナノ粒子の表面形態をそれぞれ示した図である。
【図8】AFMによって本発明による水溶性キトサンナノ粒子の表面形態をそれぞれ示した図である。
【図9】パクリタキセルを封入する前の熱分析結果を示した図である。
【図10】パクリタキセルを封入した後の熱分析結果を示した図である。
【図11】HPLCによる水溶性キトサンナノ−パクリタキセルに封入されたパクリタキセルの定量分析グラフである。
【図12】HPLCによる標準パクリタキセルの定量分析グラフである。
【図13】各薬物処理によるマウスの生存率を示すグラフである。
【図14】マウスに薬物投与後の腫瘍成長を示すグラフである。
【図15】腫瘍を移植した後薬物の投与によるマウスの体重変化を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性キトサンの鎖に疎水性基としてコレステロールとメトキシポリ(エチレングリコール)を導入して構成されることを特徴とする抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子。
【請求項2】
前記水溶性キトサン:メトキシポリ(エチレングリコール):コレステロール=10:2:1ないし1.8の割合になるように構成されることを特徴とする、請求項1に記載の抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子。
【請求項3】
水溶性キトサンの鎖に疎水性基としてコレステロールとメトキシポリ(エチレングリコール)を導入して構成された水溶性キトサンナノ粒子にパクリタキセルが封入された水溶性キトサンナノ−パクリタキセル。
【請求項4】
1)水溶性キトサンにMPEGを付加してアミド結合を形成して副生成物であるp−ニトロフェニル基を除去する工程;及び
2)前記工程の反応液にコレステロールを付加して水溶性キトサンの遊離アミン基とコレステリルクロロホルメートとのまた他のアミド結合を形成させる工程からなることを特徴とする抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記1)工程で生成された副生成物であるp−ニトロフェニル基を氷水で透析しながら除去した後、残っている副生成物は無水エチルアルコールで精製することによって完全に除去することを特徴とする、請求項4に記載の抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記水溶性キトサンナノ粒子製造の各工程は、PBS溶液内で成り立つことを特徴とする、請求項4に記載の抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子の製造方法。
【請求項1】
水溶性キトサンの鎖に疎水性基としてコレステロールとメトキシポリ(エチレングリコール)を導入して構成されることを特徴とする抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子。
【請求項2】
前記水溶性キトサン:メトキシポリ(エチレングリコール):コレステロール=10:2:1ないし1.8の割合になるように構成されることを特徴とする、請求項1に記載の抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子。
【請求項3】
水溶性キトサンの鎖に疎水性基としてコレステロールとメトキシポリ(エチレングリコール)を導入して構成された水溶性キトサンナノ粒子にパクリタキセルが封入された水溶性キトサンナノ−パクリタキセル。
【請求項4】
1)水溶性キトサンにMPEGを付加してアミド結合を形成して副生成物であるp−ニトロフェニル基を除去する工程;及び
2)前記工程の反応液にコレステロールを付加して水溶性キトサンの遊離アミン基とコレステリルクロロホルメートとのまた他のアミド結合を形成させる工程からなることを特徴とする抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記1)工程で生成された副生成物であるp−ニトロフェニル基を氷水で透析しながら除去した後、残っている副生成物は無水エチルアルコールで精製することによって完全に除去することを特徴とする、請求項4に記載の抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記水溶性キトサンナノ粒子製造の各工程は、PBS溶液内で成り立つことを特徴とする、請求項4に記載の抗癌剤の伝達体用水溶性キトサンナノ粒子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2009−507825(P2009−507825A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529900(P2008−529900)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【国際出願番号】PCT/KR2005/002988
【国際公開番号】WO2007/029898
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(508071065)
【出願人】(508071076)
【出願人】(508071087)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【国際出願番号】PCT/KR2005/002988
【国際公開番号】WO2007/029898
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(508071065)
【出願人】(508071076)
【出願人】(508071087)
【Fターム(参考)】
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