説明

抗癌治療

癌に対してヒトの身体を治療する方法が、治療に効果的な量のET−743と組み合わせて、治療に効果的な量のペグ化リポソーム形態のアントラサイクリンドキソルビシン(「PLD」)を投与することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の治療、特に別の薬剤と組み合わせて、エクチナサイジン(Ecteinascidin)743(ET−743)を使用したヒトの癌の効果的な治療に関する。
【0002】
エクチナサイジン743(ET−743)は、海産(marine source:海洋源)由来の抗癌剤である。
【背景技術】
【0003】
[発明の背景]
エクチナサイジン743(ET−743)は、以下の構造式:
【0004】
【化1】

【0005】
を有する海洋被嚢類であるEcteinascidia turbinataから単離したテトラヒドロイソキノリンアルカロイドである。
【0006】
ET−743、その化学的性質、作用メカニズム、前臨床開発、及び臨床開発は、Kesteren, Ch. Van他著(2003)(Anti-Cancer Drugs, 14(7),487〜502頁)「ヨンデリス(トラベクテジン、ET−743):海産の抗癌剤の開発(Yondelis (trabectedin, ET-743): the development of an anticancer agent of marine origin)」及びその中の参考文献に見出すことができる。
【0007】
ET−743は、無胸腺症マウスで増殖した多様なヒトの腫瘍の異種移植片(例えば黒色腫、卵巣癌及び乳癌が挙げられる)に対する抗腫瘍活性を有する。
【0008】
ET−743の第I相臨床試験において、肉腫、乳癌、及び卵巣癌を有する患者で有望な反応が観察された。したがって、この新規の薬剤は、多様な腫瘍性疾患の癌患者における幾つかの第II相臨床試験において、現在鋭意研究中である。
【0009】
ET−743には、骨髄毒性及び肝毒性の副作用がある。24〜72時間にわたる長期的な注入によってET−743が与えられた患者は、骨髄抑制、可逆的であるが、頻繁に急性のアミノ基転位酵素の増加、並びにアルカリンホスファターゼ(ALP)及び/又はビリルビンの増加が特徴である無症状性の胆管炎になった。例えば、Ryan D. P.他著(2001)(Clin Cancer Res 7, 231)「固形の悪性腫瘍を有する患者における72時間連続の静脈注入により投与されたエクチナサイジン743のI相研究及び薬物動態学研究(Phase I and pharmacokinetic study of ecteinascidin 743 administered as a 72-hour continuous intravenous infusion in patients with solid malignancies)」、Puchalski T. A.他著(2002)(Cancer Chemother Pharmacol 50: 309)「軟組織の肉腫を有する成人患者に24時間連続の静脈注入により投与されたエクチナサイジン743の薬物動態学:臨床学的特徴、病態生理学的変異及び毒性との関連(Pharmacokinetics of ecteinascidin 743 administered as a 24-h continuous intravenous infusion to adult patients with soft tissue sarcomas: associations with clinical characteristics, pathophysiological variables and toxicity)」を参照のこと。
【0010】
マウス、ラット、イヌ、及びサルで行われた前臨床の急性毒性の研究では、肝特異酵素の血漿レベルの増加及び胆管炎の病理症状により明らかなように、ET−743の重要な副作用として、一貫して肝毒性を示した。近年、ET−743の潜在的な肝毒性に対して最も感受性のある種である雌ラットのET−743により影響を受けた、肝胆道疾患の変化の特性及び程度が、組織病理学、電子顕微鏡法、免疫組織化学、血漿生化学、及びDNAマイクロアレー分析によって特徴付けられている。Donald S.他著(2002)(Cancer Research, 62: 4256)「雌ラットにおける抗腫瘍剤エクチナサイジン743(ET−743)により引き起こされた肝胆道疾患による損傷及び肝臓の遺伝子発現の変化(Hepatobiliary damage and changes in hepatic gene expression caused by the antitumor drug ecteinascidin 743 (ET-743) in the female rat)」を参照のこと。
【0011】
さらに、高用量のデキサメタゾンによる前処理が抗腫瘍活性を妨げることなく、この動物モデルにおけるET−743介在性の肝毒性を打ち消すことが示されている。Donald S.他著(2003)(Cancer Research, 63: 5903-5908)「ラットにおける新規の抗腫瘍剤エクチナサイジン−743(ET−743)の肝毒性に対する高用量のデキサメタゾンによる完全な防御(Complete protection by high-dose dexamethasone against the hepatotoxicity of the novel antitumor drug ecteinascidin-743 (ET-743) in the rat)」及び国際公開第02/36135号パンフレットを参照のこと。ET−743の肝臓レベルの急激な低減により、デキサメタゾン前処理による防御が達成され、これは、デキサメタゾンが有益な効果をもたらすメカニズムとして、おそらく誘導性の代謝酵素による、すなわちET−743の代謝解毒速度の増加によるET−743の肝クリアランス(hepatic clearance)の上昇に暫定的に関係があるとされる。
【0012】
ドキソルビシンは、Streptomyces peucetius var. caesiusから単離した細胞毒性アントラサイクリン抗生剤である。単独で投与する場合、ドキソルビシンは主に骨髄毒性を引き起こすものとして既知である。
【0013】
本発明(reader)は、癌を治療するために他の薬剤と共にET−743を使用および組成物に関する、2002年5月10日に公開された国際公開第02/36135号パンフレットを参照した(これは具体的に参照されて本明細書中の一部とする)。インビトロでの試験は、幾つかの他の薬剤とET−743との組み合わせが相加的効果以上の効果を示した。特に、インビトロでヒトの肉腫腫瘍に対する相乗的効果を示した。アントラサイクリンドキソルビシンとET−743との組成物及びその使用が研究された。この研究では、組み合わせの毒性の詳細な考察は行わなかった。
【0014】
ET−743単独又は組み合わせの用量、スケジュール、及び投与におけるさらなる指針は、国際公開第00/69441号パンフレット、国際公開第02/36135号パンフレット、国際公開第03/039571号パンフレット、PCT国際出願番号PCT/GB2004/002319号で与えられ、これらは参照されて本明細書中の一部とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ET−743の毒性の副作用を低減又は取り除き、且つさらなる反作用を最小限にしながら、哺乳類、特にヒトの効果的な治療を可能にするET−743によるさらなる治療法を提供する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
[発明の概要]
本発明は、組み合わせ製品、組み合わせ薬剤治療、及び深刻な望ましくない毒性効果がより小さい、癌に苦しむ患者を治療する方法に関する。
【0017】
一態様によれば、本発明は、治療に効果的な量のET−743と組み合わせて、治療に効果的な量のペグ化リポソーム(Pegylated Liposomal)形態のアントラサイクリンドキソルビシン(「PLD」)を投与することを含む、癌に対してヒトの身体を治療する方法を提供する。この哺乳類はヒトであることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[発明の実施形態]
驚くべきことに、ET−743とPLDとの組み合わせが抗腫瘍有効性の増加をもたらすことができ、同時に骨髄毒性及び心毒性を低減させることが見出された。さらに、PLDとET−743との組み合わせは相乗的である。
【0019】
PLDは、ペグ化リポソーム形態の塩酸(HCl)ドキソルビシンであり得る。リポソーム封入が静脈内投与には好適である。リポソームは活性剤を封入することができるリン脂質二重層から構成される微視的な小胞である。「ペグ化」とは、リポソームが、表面結合したメトキシポリエチレングリコール(MPEG)と配合される時のことである。リポソーム封入は、未封入の薬剤に比べて、薬剤機能特性に大きな影響を与えることができる。さらに、様々なリポソーム薬品は化学組成及びリポソームの物理的形態が互いに異なる場合がある。このような違いがリポソーム薬品の機能特性に大きな影響を与える場合がある。Doxil(商標)は、市販されているペグ化リポソームドキソルビシンの形態の一例である。
【0020】
PLDとET−743との組み合わせが、ドキソルビシンとET−743との組み合わせを使用して観察された毒性に比べて、骨髄毒性の低減及び心毒性の低減に効果的である。
【0021】
ET−743を単独で使用した治療に比べて、抗腫瘍有効性は増大する。PLDとET−743との組み合わせは、長期間、治療用量の総量又はほぼ総量で両方の薬剤を投与することができる程度まで耐容性があることが見出された。
【0022】
一態様において、本発明は、ET−743とPLDとを含む、癌に対してヒトの身体を治療するための組成物に関し、これはドキソルビシンとET−743との組み合わせを使用して観察された毒性に比べて、毒性の低減に効果的である。特に、ET−743とPLDとの組み合わせは、骨髄毒性及び心毒性の低減を示す。
【0023】
別の態様では、本発明は、PLDと組み合わせてET−743を投与するための医療キットに関し、これは少なくとも1つのサイクルにおける単位用量のET−743の供給物(supply)であって、この単位用量は定義された治療のための適切な量のET−743及び薬学的に許容可能な担体を含み、これと投薬スケジュールに従ってET−743を投与するための印刷された取扱説明書とを含む。
【0024】
別の態様では、本発明は、PLDと共にET−743を用いる併用治療による、癌に対して効果的にヒトの身体を治療するための薬剤を調製するためのET−743の使用に関する。
【0025】
本明細書を通じて使用される「組み合わせ」という用語は、同じ薬剤処方又は別個の薬剤処方で、同時に又は異なる時点に治療剤を投与することを包含することを意味している。
【0026】
さらなる態様では、本発明は、ET−743と共にPLDを用いる併用治療による、癌に対して効果的にヒトの身体を治療するための薬剤を調製するためのPLDの使用に関する。この治療は骨髄毒性及び心毒性の低減に効果的であり、また粘膜炎及び脱毛症の両方がないことも注目に値する。
【0027】
さらなる態様では、本発明は、治療に効果的な量のPLDと組み合わせて、治療に効果的な量のET−743を投与することを含む、癌に対するヒトの身体の治療において、ET−743の抗腫瘍有効性を増大させる方法に関する。
【0028】
本発明はまた、治療に効果的な量のET−743と組み合わせて、治療に効果的な量のPLDを投与することを含む、癌に対してヒトの身体を治療する方法を提供する。この哺乳類はヒトであることが好ましい。
【0029】
「ET−743」という用語は、受容個体に投与する際に本明細書中に記載される化合物を(直接的に又は間接的に)提供することができるあらゆる医薬的に許容可能な塩、エステル、溶媒和物、水和物、又はあらゆる他の化合物を含むことが本明細書中で意図される。しかし、医薬的に許容可能ではない塩が医薬的に許容可能な塩を調製するのに有用であり得るので、これらもまた本発明の範囲に含まれることが理解される。当該技術分野で既知の方法によって、塩、プロドラッグ、及びこれらの誘導体の調製を行うことができる。
【0030】
ET−743は、ET−743並びに治療における使用に適切な処方、特にマンニトール及び適切なpHで緩衝化したリン酸塩を含む処方における賦形剤から成る滅菌凍結乾燥製品として、供給及び保管される。
【0031】
本方法の組成物の投与を静脈注射によって行うことが好適である。最大耐量(MTD)内で連続的に又は定期的に投与を行うことができる。本明細書を通じて、MTDは、用量レベルの同齢集団の被検者の3分の1未満が用量制限毒性(DLT)になった最大用量に関連するように意図される。
【0032】
ET−743及びPLDは、同時に又は異なる時点に投与するために、別個の薬剤として提供することができる。好ましくは、ET−743及びPLDは異なる時点に投与するために、別個の薬剤として提供される。異なる時点に、別個に投与する場合、ET−743又はPLDのいずれを初めに投与してもよいが、PLDの後にET−743を投与することが好ましい。
【0033】
通常、注入時間は最大72時間であり、より好ましくは1〜24時間、最も好ましくは1〜6時間である。異なる時点に投与するために、別個の薬剤としてPLD及びET−743が提供される場合、それぞれの注入時間は異なっていてもよい。
【0034】
一般的に、PLDの注入時間は最大6時間であり、より好ましくは1〜3時間、最も好ましくは1〜2時間である。一般的に、ET−743の注入時間は最大24時間であり、より好ましくは約1時間、約3時間、又は約24時間である。病院に一晩入院することなく治療を行うことを可能にする短期間の注入時間が特に望ましい。
【0035】
本発明のこの態様の組成物の正確な用量は、特定の処方、投与形態、特定の投与位置(situs)、並びに治療される宿主(host)及び腫瘍によって変わることが理解される。年齢、体重、性別、食事、投与時間、排泄回数、宿主の状態、薬剤の組み合わせ、反応感受性、及び疾患の重症度等の他の要因を考慮すべきである。全ての用量は、身体の表面積1平方メートル(m)当たりのミリグラム(mg)で表される。本発明の方法において、PLD及びET−743は組み合わせて使用するので、最適な臨床反応を提供するように、それぞれの用量を調節する。
【0036】
本発明の方法では、最大50mg/m、より好ましくは25〜45mg/m、最も好ましくは30〜40mg/m、さらに最も好ましくは約30mg/mの用量のPLDを使用する。最大1.3mg/m、より好ましくは0.4〜1.2mg/m、最も好ましくは約1.1mg/mの用量のET−743を使用する。
【0037】
本発明のこの態様の好ましい実施形態によれば、25〜45mg/mのPLDを静脈投与した後に、最大1.3mg/mのET−743もまた静脈投与する。より好ましくは、約30mg/mのPLDを投与した後に、約1.1mg/mのET−743を投与する。好ましくは最大6時間、より好ましくは1〜2時間、最も好ましくは1時間の注入時間にわたってPLDを投与する。約1時間、約3時間、又は約24時間の注入時間にわたってET−743を投与することが好ましい。
【0038】
本発明の投与方法におけるサイクルで、この組み合わせの投与が行われる。PLD及びET−743は、患者が回復する各サイクルの静止期を考慮して、通常3週間ごとの静脈注入により患者に与えられる。各サイクルの期間は、通常3〜4週間であることが好ましく、必要に応じて複数のサイクルを与えることができる。患者個人の治療の耐容性に応じて、用量遅延及び/又は用量低減並びにスケジュール調節が行われる。
【0039】
特に好ましい実施形態によれば、3週間ごとに約1時間の注入時間にわたって約30mg/mのPLDを患者に投与し、その後約3時間の注入時間にわたって約1.1mg/mのET−743を投与する。
【0040】
これらの好ましい実施形態で使用した投薬レジメンに従って投薬レジメンを使用することによって、長期間、治療用量の総量又はほぼ総量で両方の薬剤を投与する場合、この組み合わせは十分に耐容性があることが見出された。
【0041】
1つの薬剤単独で、3時間にわたって投与する場合、ET−743の総量(full dose)が1.3mg/mであることは既知である。1つの薬剤単独で投与される場合、臨床的な実施で現在使用されているPLDの総量は、1週間当たり10mg/mである。
【0042】
以下の数値(figure)は、ドキソルビシンを使用する場合と比べて、ET−743と組み合わせたPLDの使用がET−743の用量の増大を許容することができることを示す。3時間にわたって投与されるET−743と組み合わせたドキソルビシン(60mg/m)の第I相の用量を増大させた研究は、0.7mg/mのET−743用量を支持し得るに過ぎない。3時間にわたって投与されるET−743と組み合わせた30mg/mのPLDの第I相の用量を増大させた研究では、ET−743は1.1mg/mまで増大し得る。
【0043】
したがって別の態様では、本発明は、ペグ化リポソーム形態のドキソルビシンと組み合わせて、治療に効果的な量のET−743を投与することを含む、癌に対するヒトの身体の治療におけるET−743の耐量を最大限にする方法に関する。
【0044】
要約すると、ET−743とPLDとの組み合わせは、骨髄毒性及び心毒性を低減させる、ヒトにおいて効果的な癌の治療を可能にする。PLDと共にET−743を使用した第I相試験において、測定可能な反応により、軟組織肉腫、卵巣癌、及び頭頸部癌を有する患者に対する臨床的利点の証拠が実証された。
【0045】
著しい低減を示した心毒性は、本発明のこの態様における使用のための組み合わせを長期的に投与することができることを意味する。さらに、この組み合わせは粘膜炎及び脱毛症の両方がないことが注目に値する。
【0046】
実施例1は、第I相試験の結果と共に、30mg/mのPLDと組み合わせたET−743のMTDを評価する研究の結果を示す。30mg/mのPLDと組み合わせたET−743のMTDは、治療過程において1.1mg/mに確定した。
【0047】
したがって、要約すると、本発明は、治療方法、癌の治療のための組成物を調製するための化合物の使用、及び関連の実施形態を提供する。本発明はまた、治療方法における使用のための本発明の組成物にまで及ぶ。
【0048】
本発明はまた、医薬的に許容可能な担体を含む製剤に関し、これには活性成分として、本発明の化合物(複数可)及びこれらの製剤のためのプロセスが含まれる。
【0049】
以下の実施例が本発明をさらに例示している。これは本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。
【0050】
より簡潔な記載を提供するために、本明細書で与えられる幾つかの定量的な表現は、「約」という用語によって制限されない。「約」という用語が明示的に使用されるか否かに関わらず、本明細書中で与えられるそれぞれの量は、実際の所与の値に言及していることを意味し、また当該技術分野における通常の技能に基づき合理的に推測されるであろうこのような所与の値の近似値に言及していることを意味し、これはこのような所与の値のための実験条件及び/又は測定条件による等価値並びに近似値を含むことが理解される。
【実施例】
【0051】
[発明の実施例]
実施例を通じて、エクチナサイジン743(ET−743)はまた、トラベクテジンとも称される。
【0052】
(実施例1)
PLDとトラベクテジンとを組み合わせ、第I相試験を行った。この研究の目的は、21日ごとに投与した30mg/mのPLDと組み合わせたトラベクチジンの最大耐量(MTD)を確定することであった。さらなる目的は、薬剤のこの組み合わせの安全なプロファイルを評価すること、及び組み合わせて与えられるときのトラベクチジンとPDLとの薬物動態を評価することであった。最大耐量(MTD)は、用量レベルの同齢集団における被検者の3分の1未満が、用量制限毒性(DLT)であった最大用量に関する。
【0053】
1時間にわたって静脈投与した30mg/mの固定PLD用量、その直後に3時間にわたって静脈投与した6つのトラベクテジン用量(0.4、0.6、0.75、0.9、1.1、及び1.3mg/m)の1つによる用量設定試験を設計した。この治療を21日ごとに繰り返した。
【0054】
組み入れ基準(entry criteria)として、通常の肝機能試験、事前に制限されたドキソルビシン曝露(用量250mg/m未満)、通常の心機能、及び1点又は0点という米国東部腫瘍学共同研究グループ(ECOG)の病期(PS)値が挙げられた。
【0055】
30人の患者、その内肉腫14人、卵巣癌2人、膵臓癌2人、頭頸部癌2人、膀胱癌1人、乳癌1人、胃癌1人、NSCLC1人、SCLC1人、さらに他の型の癌5人を治療している(表1)。
【0056】
【表1】

【0057】
30人の患者の内の9人は、病期(PS)が0であった(完全に活性、制限もなくあらゆる疾患前の状態を維持することができる)。表2は、治療した患者の個体群統計学データを示す。
【0058】
【表2】

【0059】
患者を十分に前処理した:23/30は1〜5の事前の化学療法(中央値3)、15/30は事前の放射線療法、及び27/30は事前の外科的切除を受けた(表3)。
【0060】
【表3】

【0061】
表4a及び表4bは、それぞれET−743の用量で曝露した患者の数(N)、治療期間、及び用量強度を示す。
【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
治療中の薬剤関連の最悪の毒性度(worst on-treatment drug related grade)3及び4が最小であり、好中球減少及びアミノ基転位酵素の増加が制限される。表5a及び表5bは、少なくとも5%の被験者で頻繁に報告された薬剤関連の毒性度3/4の有害事象(advarse events)を示す。これには、最初の治療投与から最後の治療投与後30日までの間の任意の時点で報告された有害事象が挙げられる。毒性度(toxicity grade)を定義するために、NCI一般基準を使用する。
【0065】
【表6】

【0066】
【表7】

【0067】
さらに、表6a及び表6bは、報告された薬剤関連の深刻な有害事象を示す。
【0068】
【表8】

【0069】
【表9】

【0070】
治療を中断した18人の被験者のうち、薬剤関連の有害事象により、1人の被験者のみが治療を終了した(表7a及び表7b)。
【0071】
【表10】

【0072】
【表11】

【0073】
5人の患者、軟組織肉腫を有する3人の患者、並びに卵巣癌及び頭頸部癌のそれぞれ1人の患者では、部分反応があった。さらなる14人の患者(肉腫を有する5人の患者、並びにカルチノイド腫瘍、膵臓癌、膀胱癌、頭頸部癌、甲状腺癌、乳癌、胃癌、SCLC、及び卵巣癌のそれぞれ1人の患者)は3ヶ月間超、安定した疾患であった(表8a及び表8b)。
【0074】
【表12】

【0075】
【表13】

【0076】
PLDの同時投与は、トラベクテジンの薬物動態(PK)には影響を与えない。予備試験の薬物動態分析に基づき、トラベクテジンCL(静脈投与後の組織的クリアランス)、t1/2(半減期)、及びVss(定常状態の分布の見掛け体積)の値は、トラベクテジン単独(歴史的対照データ)で投与したときに観察された範囲内である(図1、表9)
【0077】
【表14】

【0078】
この研究から、30mg/mのPLDと組み合わせて投与する場合、トラベクチジンのMTDは1.1mg/mであることが結論付けられる。両方の薬剤を長期間、治療用量の総量(又はほぼ総量)で投与する場合、この組み合わせは十分に耐容性である。この組み合わせの治療の推奨用量は、30mg/mのPDLに加えて、1.1mg/mのトラベクチジンであることが実証されている。さらに、トラベクチジンの薬物動態は、PDLの同時投与によるはっきりとした影響を受けなかったということが示される。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】注入開始後の時間の関数としての、ET−743(実施例を通じてトラベクテジンとも称される)の平均血漿濃度を示す図であり、図1Aは本発明の研究から得られた結果に関し、図1BはVan Kestern他著(「第I相試験における1時間及び3時間の注入で投与された新規の海産由来の抗癌剤エクチナサイジン743の臨床薬理学(Clinical Pharmacology of the novel marine-derived anticancer agent Ecteinascidin 743 administered as a 1- and 3-hour infusion in a phase I study)」(Anticancer Drugs; 13(4); 381-393; 2002))で示された結果に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療に効果的な量のET−743と組み合わせて、治療に効果的な量のペグ化リポソーム形態のアントラサイクリンドキソルビシン(「PLD」)を投与することを含む、癌に対してヒトの身体を治療する方法。
【請求項2】
前記治療に効果的な量のET−743及び前記治療に効果的な量のPLDが、同じ薬剤の一部として投与されるか、又は同時にもしくは異なる時点に、投与のための別個の薬剤として提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記治療に効果的な量のET−743及び前記治療に効果的な量のPLDが、異なる時点に投与のための別個の薬剤として提供される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記治療に効果的な量のPLDが、前記治療に効果的な量のET−743の投与の前に投与される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記治療に効果的な量のPLD及び前記治療に効果的な量のET−743が静脈注射によって投与される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記静脈注射の注入時間が、前記治療に効果的な量のPLDにおいては最大6時間であり、前記治療に効果的な量のET−743においては最大24時間である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記静脈注射の注入時間が、前記治療に効果的な量のPLDにおいては1〜2時間であり、前記治療に効果的な量のET−743においては約3時間である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記注入が3〜4週間間隔で行われる、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記治療に効果的な量のPLDが最大50mg/mの用量で投与され、その後前記治療に効果的な量のET−743が最大1.3mg/mの用量で投与される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記治療に効果的な量のPLDが、1〜2時間の注入時間にわたって30〜40mg/mの用量で投与され、その後前記治療に効果的な量のET−743が、約3時間の注入時間にわたって約1.1mg/mの用量で投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記治療に効果的な量のPLDが、約1時間の注入時間にわたって約30mg/mの用量で投与され、その後前記治療に効果的な量のET−743が、約3時間の注入時間にわたって約1.1mg/mの用量で投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ペグ化リポソーム形態のアントラサイクリンドキソルビシン(「PLD」)と共にET−743を用いる併用治療による、癌に対して効果的にヒトの身体を治療するための薬剤を調製するためのET−743の使用。
【請求項13】
ET−743と共にPLDを用いる併用治療による、癌に対して効果的にヒトの身体を治療するための薬剤を調製するためのPLDの使用。
【請求項14】
PLDとET−743との前記組み合わせが相乗的である、請求項12又は13に記載の使用。
【請求項15】
前記ET−743が、同じ薬剤の一部を形成するか、又はPLDと同時にもしくは異なる時点に、投与のために別個の薬剤として提供される、請求項12〜14のいずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
前記患者が軟組織肉腫、卵巣癌、及び頭頸部癌から選択される癌を有する、請求項12〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
ET−743とPLDとを含み、ET−743とドキソルビシンとの組み合わせを使用して観察された毒性に比べて、毒性を低減するのに効果的である、癌に対してヒトの身体を治療するための組成物。
【請求項18】
単位用量が定義された治療のための適切な量のET−743、及び医薬的に許容可能な担体を含む、少なくとも1つのサイクル間の単位用量におけるET−743の供給物及び投薬スケジュールに従ってET−743を投与するための印刷された取扱説明書とを含む、PLDと組み合わせてET−743を投与するための医療キット。
【請求項19】
治療に効果的な量のPLDと組み合わせて、治療に効果的な量のET−743を投与することを含む、癌に対するヒトの身体の治療においてET−743の抗腫瘍有効性を増大させる方法。
【請求項20】
ペグ化リポソーム形態のアントラサイクリンドキソルビシン(「PLD」)と組み合わせて、治療に効果的な量のET−743を投与することを含む、癌に対するヒトの身体の治療においてET−743の耐量を最大限にする方法。
【請求項21】
単位用量におけるET−743の供給物を含み、該単位用量のそれぞれがPLDと組み合わせた治療に効果的な投与量のET−743を含む、PLDと組み合わせてET−743を投与するための医療キット。
【請求項22】
単位用量におけるPLDの供給物を含み、該単位用量のそれぞれがET−743と組み合わせた治療に効果的な投与量のPLDを含む、ET−743と組み合わせてPLDを投与するための医療キット。
【請求項23】
請求項21に記載のET−743の供給物と、請求項22に記載のPLDを供給物との両方を含む、PLDと組み合わせてET−743を投与するための医療キット。
【請求項24】
投薬スケジュールに従ってET−743を投与するための取扱説明書をさらに含む、請求項21又は23に記載のPLDと組み合わせてET−743を投与するための医療キット。
【請求項25】
投薬スケジュールに従ってPLDを投与するための取扱説明書をさらに含む、請求項22又は23に記載の医療キット。
【請求項26】
同じ薬剤一部であるか、又は同時もしくは異なる時点に投与のために別個の薬剤として提供される治療に効果的な量のET−743及び治療に効果的な量のPLDを含む、癌に対してヒトの身体を治療するための組み合わせ。
【請求項27】
前記治療に効果的な量のET−743及び前記治療に効果的な量のPLDが同時もしくは異なる時点に、投与のために別個の薬剤として提供される、請求項26に記載の組み合わせ。
【請求項28】
前記治療に効果的な量のET−743及び前記治療に効果的な量のPLDが異なる時点に、投与のために別個の薬剤として提供される、請求項27に記載の組み合わせ。
【請求項29】
前記効果的な量のPLDが、前記治療に効果的な量のET−743の投与の前に投与される、請求項28に記載の組み合わせ。
【請求項30】
前記治療に効果的な量のPLD及び前記治療に効果的な量のET−743が静脈注射によって投与される、請求項26〜29のいずれか1項に記載の組み合わせ。

【図1】
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【公表番号】特表2008−517991(P2008−517991A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538524(P2007−538524)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【国際出願番号】PCT/GB2005/050189
【国際公開番号】WO2006/046080
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(507100476)
【氏名又は名称原語表記】PHARMA MAR S.A., SOCIEDAD UNIPERSONAL
【住所又は居所原語表記】Poligono Industrial La Mina, Avda. de los Reyes, 1, Colmenar Viejo, 28770 Madrid, Spain
【出願人】(507139306)オート・バイオテック・プロダクツ・エル・ピー (2)
【氏名又は名称原語表記】ORTHO BIOTECH PRODUCTS L.P.
【住所又は居所原語表記】700 US Highway 202, Raritan, New Jersey 08869, United States of America
【Fターム(参考)】