説明

抗腫瘍剤、腫瘍細胞増殖抑制剤、免疫賦活剤及び食品

【課題】人体に投与するにあたり安全性が高く、且つ優れた生理活性効果を発揮できる有効成分を提供し、また、そのような有効成分を含む食品を提供する。
【解決手段】植物又は真菌から抽出されるβ−グルコシルセラミド画分を有効成分として含有する抗腫瘍剤;腫瘍細胞増殖抑制剤である上記抗腫瘍剤;上記抗腫瘍剤を配合した食品; 植物又は真菌から抽出されるβ−グルコシルセラミド画分を有効成分として含有する免疫賦活剤;上記免疫賦活剤を配合した食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗腫瘍剤に関し、詳しくは腫瘍細胞増殖抑制剤に関する。本発明はさらに、そのような腫瘍細胞増殖抑制剤を配合した食品に関する。本発明はさらに免疫賦活剤、及びその免疫賦活剤を配合した食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然成分が有する生理活性機能が注目されている。中でもスフィンゴ脂質(スフィンゴイド塩基を有する脂質の総称)に興味深い生理活性が見出されており、皮膚における保湿性向上や美肌効果などが報告され、機能性脂質として注目されている。スフィンゴ脂質はほとんどの真核生物に普遍的に存在しており、化粧品や医薬品原料として用いられている。
スフィンゴ脂質は長鎖アミノアルコールであるスフィンゴイド塩基のアミノ基に脂肪酸が結合したセラミド骨格を基本骨格とし、動物、植物、真菌およびある種の細菌類に至るまでの広い範囲で膜脂質として存在している。セラミドは各種スフィンゴ脂質の疎水性部分を構成しており、それに様々な親水性基が結合して主要な複合スフィンゴ脂質(分子中にリン、硫黄、アミノ酸、糖などを含むスフィンゴ脂質)となる。
【0003】
スフィンゴ糖脂質は動物、植物、真菌などに広く存在し、代表的なものはセラミドに単糖が結合したグリコシルセラミド(セレブロシド)である。セレブロシドの構成糖としては、動物にはグルコースが結合したグルコシルセラミド、及びガラクトースが結合したガラクトシルセラミドが存在するのに対し、植物ではほとんどがグルコシルセラミド(β-グルコシルセラミド)である。また動物セレブロシドのスフィンゴイド塩基は、4-トランス-スフィンゲニン(スフィンゴシン)が主体でスフィンガニン(ジヒドロスフィンゴシン)や4-ヒドロキシスフィンガニン(フィトスフィンゴシン)が少量存在している。それに対し、植物セレブロシドのスフィンゴイド塩基では上記分子種は少なく、その他に8-トランス-スフィンゲニンや8-シス-スフィンゲニン、4-トランス, 8-トランス-スフィンガジエニン、4-トランス, 8-シス-スフィンガジエニン、4-ヒドロキシ-8-トランス-スフィンゲニン、4-ヒドロキシ-8-シス−スフィンゲニンなど6種が検出されており、それぞれ炭素原子数14から26の2-ヒドロキシ脂肪酸およびモノ不飽和ヒドロキシ脂肪酸などの組み合わせで、複雑なセラミド残基を構成している。真菌セレブロシドのスフィンゴイド塩基には9-メチル-4-トランス, 8-トランス-スフィンガジエニンも存在しており、真菌の特徴となっている。
近年まで、スフィンゴ脂質の供給源の主なものは、ウシやヒツジ等の動物の脳神経組織であった。しかし、食品や医薬品原料として利用する場合、その安全性に問題がある。
【0004】
一方、試験管内での大腸ガン細胞を用いた実験において、小麦に存在するスフィンゴイド塩基が大腸ガン細胞死を誘導することが報告されている(非特許文献1及び非特許文献2参照。)。また、乳から得られた4-スフィンゲニンを主体とするスフィンゴイド塩基を含む動物由来のスフィンゴ脂質が、マウスにおいて大腸腺腫(aberrant crypt foci (ACF))を抑制することが報告されている(非特許文献3参照。)。
さらにα型のモノグリコシルセラミド類がナチュラルキラーT細胞の活性を高めることが報告され(非特許文献4参照。)、海綿由来のα−ガラクトシルセラミドがin vitroで、又は動物への腹腔内投与によりナチュラルキラーT細胞の活性を高めることが報告されている(非特許文献5参照。)。
また、乳由来のラクトシルセラミドをマウスに腹腔内投与することにより、脾臓細胞のIFN-γの産生が増強されることが報告されている(例えば特許文献1参照。)。
【0005】
上記のIFN-γは免疫に関与するサイトカイン(タンパク質)の一種である。免疫は、外界から侵入してくる病原体や体の中で発生するガン細胞などの異常な細胞を認識して排除する仕組みで、体の防御機能の要である。免疫は主にリンパ球という細胞が中心となってコントロールされている。リンパ球にはB細胞、T細胞、ナチュラルキラー(Natural killer, NK)細胞などがある。サイトカインはT細胞、B細胞、マクロファージなどの多種類の細胞で刺激に対応して産生される。自然免疫系においては、リポポリサッカライド(LPS)や二重鎖RNAのようなウイルス産物などを介して、直接マクロファージを刺激しサイトカイン分泌が惹起される。
B細胞は、抗体を使って細菌やウイルスを攻撃するもので、これを液性免疫という。IgEという抗体の一種が関与するアレルギー性疾患は、この液性免疫が過剰に反応する結果、発生する。一方、ウイルス感染細胞やガン細胞など自分の細胞に隠れている異常を発見して、Tリンパ球やNK細胞などが直接攻撃する免疫の仕組みを細胞性免疫という。細胞性免疫はガンに対する生体防御に重要な役割を果たすが、調節が狂って正常な自分の細胞を攻撃すると慢性関節リュウマチなどの自己免疫疾患の発病に関連する。
【0006】
液性免疫と細胞性免疫とは、一方の働きが強くなるともう一方は抑制されるという相反関係にあることが知られている。このメカニズムは、2種類のヘルパーT細胞(Th)のバランスにより説明されている。ヘルパーT細胞は、B細胞やT細胞の増殖や働きを調節するサイトカインを分泌して、液性免疫と細胞性免疫のバランスを調節しており、そのサイトカインの産生パターンから、Th1(1型ヘルパーT)細胞とTh2(2型ヘルパーT)細胞に分類される。Th1は細胞性免疫を促進し、Th2は液性免疫を促進する。ヘルパーT前駆細胞(Th0)がTh1細胞に成熟(分化)するためには、マクロファージから分泌されるIL-12が必要であり、一方、Th2細胞となるためにはT細胞から分泌されるIL-4が必要とされている。
【0007】
Th1細胞はIFN-γやIL-2を分泌して細胞性免疫を増強し、Th2細胞はIL-4、IL-5、IL-6、IL-10を分泌してB細胞を活性化して液性免疫に関与する。Th1細胞が出すIFN-γはTh2細胞の働きを抑え、逆にTh2細胞が出すIL-10はTh1細胞を抑制する。この仕組みによりTh1細胞とTh2細胞が相互に制御される。Th0細胞はTh1細胞とTh2細胞にわかれ、Th1細胞は細胞性免疫に関与し、Th2細胞は液性免疫に関与する。
Th1細胞とTh2細胞とのバランスの異常が、アレルギー性疾患や自己免疫疾患やガンなどの病気の発生に密接に関連していることが最近の研究で明らかになってきた。
現在、機能性食品が注目されている中、安全に摂取でき且つ優れた効果を発揮できる有効成分が求められ、種々の疾病の予防や治療に有用であることが期待されている。
【0008】
【非特許文献1】Sugawara, T., Kinoshita, M., Ohnishi, M., Miyazawa, T., Apoptosis induction by wheat-flour sphingoid bases in DLD-1 human colon cancer cells, Biosci. Biotechnol. Biochem., 66 (10), 2228-2231, 2002
【非特許文献2】Aida, K., Takakuwa, N., Kinoshita, M., Sugawara, T., Imai, H., Ono, J., Ohnishi, M., Properties and physiological effects of plant cerebroside species as functional lipids, N. Murata et al. (eds.), Advanced Research on Plant lipids, 233-236, 2003
【非特許文献3】Schmelz et al., J. Nutr., 130, 522-527, 2000
【非特許文献4】Eiichi Kobayashi, et al., Enhancing Effects of α-, β-Monoglycosylceramides on Natural Killer Cell Activity, Bioorganic & Medicinal Chemistry, Vol. 4, No. 4, pp. 615-619, 1996
【非特許文献5】Tetsu Kawano, et al., CD1d-Restricted and TCR-Mediated Activation of Vα14 NKT Cells by Glycosylceramides, Science, Vol. 278, 1626-1629, 1997
【特許文献1】特開2002−255824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、人体に投与するにあたり安全性が高く、且つ優れた生理活性効果を発揮できる有効成分を提供し、また、そのような有効成分を含む食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、安全に摂取でき且つ優れた生理活性効果を発揮できる天然成分を見出すべく、研究を重ねた結果、植物又は真菌から得られるスフィンゴ脂質であるβ−グルコシルセラミドが生体内で腫瘍細胞の増殖を抑制する効果を示すことを見出した。具体的にはマウスを用い、植物又は真菌より抽出、分離精製したβ−グルコシルセラミド画分の経口投与により、マウス皮下に接種した腫瘍細胞の容積増加を抑制する効果を示した。この結果から、植物又は真菌由来のβ−グルコシルセラミド画分に抗腫瘍剤としての効果が期待できる。
従って本発明は、植物又は真菌から抽出されるβ−グルコシルセラミド画分を有効成分として含有する抗腫瘍剤である。本発明の抗腫瘍剤はより詳しくは、腫瘍細胞増殖抑制剤である。
【0011】
本発明者らはさらに、マウスを用い、植物又は真菌より抽出、分離精製したβ−グルコシルセラミド画分の経口投与により、脾臓細胞のサイトカイン産生、特にIFN-γ(インターフェロン・ガンマ)及びIL-2(インターロイキン-2)の産生を促進する効果を見出した。
従って本発明は、植物又は真菌から抽出されるβ−グルコシルセラミド画分を有効成分として含有する免疫賦活剤である。本発明の免疫賦活剤の免疫賦活は、IFN産生増強及び/又はIL-2産生増強によるものである。本発明の免疫賦活剤の免疫賦活はまた、細胞性免疫の制御によるものである。本発明の免疫賦活剤はさらに、ウイルス感染や細菌感染に対する自然免疫増強を促すものである。
【0012】
該β−グルコシルセラミド画分の抽出原料である植物の例として穀類が挙げられ、真菌の例として、酵母、カビ、及びキノコ類が挙げられる。
植物から抽出されるβ−グルコシルセラミド画分は具体的に、スフィンゴイド塩基部位として4-トランス,8-シス-スフィンガジエニンを含むβ−グルコシルセラミド、スフィンゴイド塩基部位として4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニンを含むβ−グルコシルセラミド、スフィンゴイド塩基部位として8-シス-スフィンゲニンを含むβ−グルコシルセラミド、スフィンゴイド塩基部位として8-トランス-スフィンゲニンを含むβ−グルコシルセラミド、スフィンゴイド塩基部位として4-ヒドロキシ-8-シス-スフィンゲニンを含むβ−グルコシルセラミド、及びスフィンゴイド塩基部位として4-ヒドロキシ-8-トランス-スフィンゲニンを含むβ−グルコシルセラミドから選ばれる少なくとも1種を含有するものである。真菌から抽出されるβ−グルコシルセラミド画分は具体的に、スフィンゴイド塩基部位として9-メチル-4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニンを含むβ−グルコシルセラミド、及びスフィンゴイド塩基部位として4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニンを含むβ−グルコシルセラミドから選ばれる少なくとも1種を含有するものである。
本発明はまた、上記抗腫瘍剤又は腫瘍細胞増殖抑制剤を配合した食品に向けられている。本発明はさらに、上記免疫賦活剤を配合した食品に向けられている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抗腫瘍剤は、人体が摂取するのに安全性が高く、腫瘍細胞の増殖を抑制するのに有用である。本発明の抗腫瘍剤は、腫瘍の治療中、又は治療後に転移を予防するために使用することができる。本発明の抗腫瘍剤の有効成分は日常摂取できる食品に配合することができ、そのような食品により該有効成分を簡便に摂取することができる。
本発明の免疫賦活剤は、人体が摂取するのに安全性が高く、IFN-γ産生能及び/又はIL-2産生能を増強させることができる。本発明の免疫賦活剤は、免疫システムのバランスが崩れることによる病気の発生を予防するのに有用である。また、そのような病気の治療に使用することもできる。本発明の免疫賦活剤は、細菌やウイルス感染により誘発されるサイトカイン産生を増強するので、自然免疫力を高めることができる。本発明の免疫賦活剤の有効成分は日常摂取できる食品に配合することができ、このような食品により免疫賦活が期待され、また、ウイルス感染や細菌感染に対する抵抗力を付与することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で使用するβ−グルコシルセラミド画分を抽出する原料となる植物は、特に限定されることなく、また抽出原料となる植物部位も特に限定されることがない。植物の中でも、穀類が好ましく使用され、例えばトウモロコシ、米、小麦、大麦、ライ麦、大豆、粟、キビ、ヒエ、ハト麦、エン麦などの穀粒が抽出原料として挙げられる。さらに詳しくは、そのような穀粒の全粒、胚芽、ふすま、ぬか、胚乳などいずれの部位も使用することができる。抽出原料としては、これらの材料の粉砕物が好ましく使用できる。
使用する抽出溶媒としては、有機溶剤、及び有機溶剤と水との混合物が挙げられ、具体的にはエタノール、含水エタノール、メタノール、含水メタノール、ヘキサン、アセトン、クロロホルム、クロロホルム−メタノール混液、ベンゼン、イソプロパノールなどがある。中でも好ましくはエタノール及び含水エタノール(エタノール含量が70〜99容量%程度)が挙げられる。抽出溶媒として2種以上を使用することができる。
【0015】
抽出にあたり、植物抽出原料に対して一般的に2〜50倍量(容量)の抽出溶媒を使用し、好ましくは3〜10倍量の抽出溶媒を使用する。抽出方法としては攪拌抽出、還流抽出、浸漬抽出、振とう抽出、超音波抽出などを採用することができ、抽出温度は室温でもよく、一般に20〜100℃、好ましくは50〜70℃である。抽出時間は30分から24時間が適当で、好ましくは30分〜4時間程度である。
なお、抽出操作は一回に限定されず、抽出残さに新鮮な溶媒を再度添加し、抽出操作を繰り返して施すことができ、10回程度まで、好ましくは3回まで連続抽出をしてもよい。
【0016】
一方、本発明で使用するβ−グルコシルセラミド画分を抽出する原料となる真菌は、β−グルコシルセラミドを含有するものであり、抽出原料となる部位は特に限定されることがない。抽出原料となる真菌の例として、酵母、カビ、及びキノコが挙げられる。
酵母の例として、サッカロマイセス属、具体的にサッカロマイセス・クルイヴェリ(Saccharomyces kluyveri)など、クルイヴェロマイセス属、具体的にクルイヴェロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クルイヴェロマイセス・サーモトレランス(Kluyveromayces thermotolerans)、クルイヴェロマイセス・ワルティ(Kluyveromayces waltii)、クルイヴェロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイヴェロマイセス・ウィッケルハミ(Kluyveromyces wickerhamii)など、チゴサッカロマイセス属、具体的にチゴサッカロマイセス・シドリ(Zycosaccharonyces cidri)、チゴサッカロマイセス・フェルメンタティ(Zygosaccharomyces fermentati)などがある。
また、カビの例として、アスペルギルス属、具体的にアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)など、リゾープス属、具体的にリゾープス・オリゼ(Rhizopus oryzae)などがある。
また、キノコとしては食用できるキノコであれば特に制限はなく、子実体、菌糸体のいずれも使用することができる。キノコの例としてマイタケ(Grifola frondosa)、シイタケ(Lentinus edodes)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、エリンギ(Pleurotus eryngii)、タモギタケ(Pluerotus cornucopiae)、エノキダケ(Flammulina velutipes)、ナメコ(pholiota nameko)、ツクリタケ(Agaricus bisporus)などがある。
抽出原料としては、これらの材料の粉砕物が好ましく使用できる。中でも好ましくは、送風乾燥粉砕物、熱風乾燥粉砕物、スプレードライ物、フレンチプレス乾燥物、凍結乾燥粉砕物などが使用される。
【0017】
使用する抽出溶媒としては、有機溶剤、及び有機溶剤と水との混合物が挙げられ、具体的にはエタノール、含水エタノール、メタノール、含水メタノール、ヘキサン、アセトン、クロロホルム、クロロホルム−メタノール混液、ベンゼン、イソプロパノールなどがある。中でも好ましくはエタノール及び含水エタノール(エタノール含量が70〜99容量%程度)が挙げられる。抽出溶媒として2種以上を使用することができる。
【0018】
抽出にあたり、真菌抽出原料に対して一般的に2〜100倍量(容量)の抽出溶媒を使用し、好ましくは3〜10倍量の抽出溶媒を使用する。抽出方法としては攪拌抽出、還流抽出、浸漬抽出、振とう抽出、超音波抽出などを採用することができ、抽出温度は室温でもよく、一般に20〜100℃、好ましくは50〜70℃である。抽出時間は30分から24時間が適当で、好ましくは30分〜4時間程度である。
なお、抽出操作は一回に限定されず、抽出残さに新鮮な溶媒を再度添加し、抽出操作を繰り返して施すことができ、10回程度まで、好ましくは3回まで連続抽出をしてもよい。
【0019】
このようにして得られた植物又は真菌からの抽出液は、適当な濃縮操作により、例えばエバポレーターのような減圧濃縮装置や加熱による溶媒除去などにより、濃縮し、濃縮液を得ることができる。さらに濃縮乾燥させて、濃縮乾固物を得ることもできる。このようにして得た濃縮乾固物は、通常、黄色の固形油脂の形状である
こうして得られた抽出物から適当な精製手段によりβ−グルコシルセラミド画分を得ることができる。例えば、該抽出物をシリカゲルカラムにてクロロホルム−メタノールを用いて数回精製し、固形油脂状のβ−グルコシルセラミド画分を得ることができる。
こうして得られたβ−グルコシルセラミド画分におけるβ−グルコシルセラミドを定量するには、例えばHPLC−光散乱検出器を使用することができる。実際、上記の抽出操作により、β−グルコシルセラミドを80〜99質量%程度含有するβ−グルコシルセラミド画分を得ることができる。
【0020】
植物由来の又は真菌由来のβ−グルコシルセラミドは、グルコース部位と2−ヒドロキシ脂肪酸残基とスフィンゴイド塩基部位からなる。
植物から抽出されるβ−グルコシルセラミドの中で、米、トウモロコシに主に存在するのは、スフィンゴ塩基部位が4-トランス,8-シス-スフィンガジエニン、大豆には4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニン、小麦及びライ麦には8-シス-スフィンゲニンのものである。4-トランス,8-シス-スフィンガジエニン及び8-シス-スフィンゲニンは、植物に特徴的に存在するスフィンゴイド塩基であることが知られている。また、4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニンは植物や真菌に特徴的に存在するスフィンゴイド塩基であることが知られている。
【0021】
真菌から抽出されるβ−グルコシルセラミドの中で、主に存在するのは、スフィンゴイド塩基部位が9-メチル-4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニンであるグルコシルセラミドと、4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニンであるグルコシルセラミドである。
9-メチル-4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニンは、真菌に特徴的に存在するスフィンゴイド塩基であることが知られている。また、4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニンは真菌や植物に特徴的に存在するスフィンゴイド塩基であることが知られている。
【0022】
以下に植物由来のβ−グルコシルセラミドの分子種の例として、2−ヒドロキシ脂肪酸残基が炭素原子数20からなる飽和脂肪酸であり、スフィンゴイド塩基部位が4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニン又は4-トランス,8-シス-スフィンガジエニンからなるグルコシルセラミドの構造を示す。これらの構造は各々、“20h:0-d18:24t,8t-Glc”及び“20h:0-d18:24t,8c-Glc”と記載される。
植物由来β−グルコシルセラミドの分子種の例:
【0023】
【化1】

【0024】
以下に真菌由来のβ−グルコシルセラミドの分子種の例として、2−ヒドロキシ脂肪酸残基が炭素原子数18からなる飽和脂肪酸であり、スフィンゴイド塩基部位が9-メチル-4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニンからなるグルコシルセラミドの構造を示す。この構造は、“18h:0-9-Me d18:24t,8t-Glc”と記載される。
真菌由来β−グルコシルセラミドの分子種の例:
【0025】
【化2】

【0026】
植物又は真菌から上記のようにして抽出、精製して得られたβ−グルコシルセラミド画分におけるβ−グルコシルセラミドのセラミド部位の組成は、得られたβ−グルコシルセラミドを、含水メタノール性1N塩酸、メタノール性5%塩酸あるいはジオキサン性5%水酸化バリウムを用いて分解し、得られた構成成分(スフィンゴイド塩基、脂肪酸及び糖)の組成をガスクロマトグラフィーを用いて分析することにより求めることができる。以下の表1〜2に、種々の原料からから抽出されたグルコシルセラミドにおけるセラミド部位の構成成分の分析結果の一例を示す。
なお、以下の表1に示されるトウモロコシグルコシルセラミド画分におけるデータは、後述の実施例の[トウモロコシからのβ−グルコシルセラミド画分の抽出と精製]で得られたβ−グルコシルセラミド画分の分析結果である。
















【0027】
【表1】

トウモロコシ種子*:Aida, K., et al., Properties and physiological effects of plant cerebroside species as functional lipids, N. Murata et al. (eds.), Advanced Research on Plant lipids, 233-236, 2003に掲載されているデータ








【0028】
【表2】

【0029】
上記表中、単位は質量%であり、“N.D.”は検出せず、を意味する。2−ヒドロキシ脂肪酸における例えば“24h:1”は、炭素原子数24で炭素−炭素二重結合を1つ有することを意味する。
【0030】
上述のようにして得られた植物又は真菌からのβ−グルコシルセラミド画分は、極めて毒性の低いものである。このβ−グルコシルセラミド画分を有効成分とする本発明の抗腫瘍剤又は腫瘍細胞増殖抑制剤は、経口投与にて摂取することが適当である。また、このβ−グルコシルセラミド画分を有効成分とする本発明の免疫賦活剤もまた、経口投与にて摂取することが適当である。
上記のβ−グルコシルセラミド画分は、そのまま上記抗腫瘍剤、腫瘍細胞増殖抑制剤又は免疫賦活剤として摂取することができる。本発明の抗腫瘍剤、腫瘍細胞増殖抑制剤又は免疫賦活剤はまた、有効成分の他に添加剤を含んでもよい。本発明の抗腫瘍剤、腫瘍細胞増殖抑制剤又は免疫賦活剤は経口投与することが望ましい。
また、有効成分であるβ−グルコシルセラミド画分を適当な助剤とともに任意の形態に製剤化して、経口投与が可能な抗腫瘍剤、腫瘍細胞増殖抑制剤、又は免疫賦活剤とすることができる。そのような剤形として例えば錠剤、軟・硬カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤(粉剤)、液剤(水溶液、油性製剤、シロップ、ドライシロップなど)、ガムなどが挙げられる。経口投与の剤形のほか、坐薬、軟膏、クリームなどに製剤化することも可能である。
【0031】
本発明の抗腫瘍剤又は腫瘍細胞増殖抑制剤の摂取量は、年齢、病状や一般状態などによって変化し得るが、有効成分として、成人の場合約0.1〜10,000mg/日が適当であり、好ましくは1〜5,000mg/日である。本発明の抗腫瘍剤又は腫瘍細胞増殖抑制剤における有効成分であるβ−グルコシルセラミド画分の含有量は、剤形などに応じて適宜変更され得、特に制限されないが、通常経口投与されるとき、0.1〜50.0質量%が適当である。
本発明の免疫賦活剤の摂取量は、年齢、病状や一般状態などによって変化し得るが、有効成分として、成人の場合約0.1〜10,000mg/日が適当であり、好ましくは1〜5,000mg/日である。本発明の免疫賦活剤における有効成分であるβ−グルコシルセラミド画分の含有量は、剤形などに応じて適宜変更され得、特に制限されないが、通常経口投与されるとき、0.1〜50.0質量%が適当である。
【0032】
製剤化に当たって、有効成分に長時間の保存に耐える安定性及び耐酸性を付与して薬効を完全に持続させるために、更に医薬的に許容し得る被膜を施して製剤化すれば、優れた安定性を有する抗腫瘍剤、腫瘍細胞増殖抑制剤あるいは免疫賦活剤とすることができる。
本発明の抗腫瘍剤、腫瘍細胞増殖抑制剤あるいは免疫賦活剤の製剤化に用いられる界面活性剤、賦形剤、滑沢剤、佐剤及び医薬的に許容し得る被膜形成物質などの例として以下のものがある。
製剤の溶解、溶出を良好にするために、界面活性剤、例えばアルコール、エステル類、ポリエチレングリコール誘導体、ソルビタンの脂肪酸エステル類、硫酸化脂肪アルコール類などの1種又は2種以上を添加することができる。
また、賦形剤として、例えば蔗糖、乳糖、デンプン、結晶セルロース、マンニット、軽質無水珪酸、アルミン酸マグネシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム、合成珪酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどの1種又は2種以上を組み合わせて添加することができる。
【0033】
滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化油などを1種又は2種以上添加することができ、また、矯味剤及び矯臭剤として、食塩、サッカリン、糖、マンニット、オレンジ油、カンゾウエキス、クエン酸、ブドウ糖、メントール、ユーカリ油、リンゴ酸などの甘味料、香料、着色剤、保存量などを含有させてもよい。
懸濁剤、湿潤剤のような佐剤としては、例えばココナッツ油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、乳酸カルシウム、ベニバナ油、大豆リン脂質などを含有させることができる。また、被膜形成物質としてはセルロース、糖類などの炭水化物誘導体として酢酸フタル酸セルロース(CAP)、アクリル酸系共重合体、二塩基酸モノエステル類などのポリビニル誘導体として、アクリル酸メチル・メタアクリル酸共重合体、メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸共重合体が挙げられる。
また、上記被膜形成物質をコーティングするに際し、通常使用されるコーティング剤、例えば可塑剤のほか、コーティング操作時の薬剤相互の付着防止のための各種添加剤を添加することによって被膜形成剤の性質を改良したり、コーティング操作をより容易にすることができる。
【0034】
一般的にガン(悪性腫瘍)と呼ばれるものは、造血器由来のもの、上皮細胞からなる癌(癌腫とも呼び、英語ではcancer, carcinomaという)、及び非上皮性細胞(間質細胞:支持組織を構成する細胞)からなる肉腫(英語ではsarcomaという)に大きく分類される。
本発明の抗腫瘍剤又は腫瘍細胞増殖抑制剤が有効なガンは特に限定されるものではないが、中でも癌腫が特に挙げられ、具体的に頭頸部の癌(喉頭癌、咽頭癌、舌癌など)、肺癌、乳癌、肝臓癌、食道癌、胃癌、大腸癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌などが挙げられる。その他、白血病などの血液のガンにも有効であると考えられる。
【0035】
植物由来又は真菌由来のβ−グルコシルセラミド画分を有効成分とする抗腫瘍剤、腫瘍細胞増殖抑制剤、又は免疫賦活剤は、食品、健康食品に配合することができ、また食品添加物の成分とすることもできる。食品中における該有効成分の配合量は、一般的に0.001〜25質量%の範囲で、好ましくは0.01〜10質量%である。
本発明の抗腫瘍剤、腫瘍細胞増殖抑制剤あるいは免疫賦活剤の有効成分を配合させる食品の種類はいかなるものであってもよく、例えばパン、麺、シリアル、菓子、ビスケット、ホットケーキ、錠果等の穀粉や澱粉を主体とする食品、チョコレート、ゼリー、グミ、バター、マーガリン、ジャム、チーズ、ヨーグルト、アイスクリーム、乳飲料、ジュース、ドレッシング、ドリンク、健康食品などが挙げられる。β−グルコシルセラミド画分を食品に配合させる方法としては、各種食品に応じてその製造過程で適宜の段階で配合すればよい。
【実施例】
【0036】
[酵母からのβ−グルコシルセラミド画分の抽出と精製]
酵母菌体は Saccharomyces kluyveri NBRC10847株を用いた。酵母乾燥菌体20kgより、エタノール120リットルで70℃にて4時間、撹拌抽出し、濾過して得られた抽出液を減圧乾固した。得られた抽出物をシリカゲルカラム(富士シリシア化学(株)製、商品名:BW−820MH)にてクロロホルム−メタノールを用いて4回精製し、β−グルコシルセラミド画分19.9g得た。これは白色の固形油脂状であった。
【0037】
得られたβ−グルコシルセラミド画分においてβ−グルコシルセラミドの定量を、HPLC−蒸発光散乱検出器((株)島津製作所製、LC−VP蒸発光散乱検出システム、蒸発光散乱検出器(ELSD−LT))を用いて行った。
移動相は、A液:クロロホルム,B液:メタノール−水(95:5;v/v)の2液を用いて、下記グラジエント溶媒系を設定した。
【表3】

カラムはシリカカラム(Inertsil SIL 100−5;4.6φ×150mm;GLサイエンス製)を用い、カラムオーブン:35℃、流速;1ml/minにて、蒸発光散乱検出器:ELSD(エバポレーター温度:70℃、ガス流量:350MPa)で行った。グルコシルセラミド標準品は、トウモロコシ胚芽より抽出し、分取用薄層クロマトグラフにてβ−グルコシルセラミドを単一に精製して調製したものを用いた。
その結果、上記β−グルコシルセラミド画分においてβ−グルコシルセラミドの含量が95%以上であることが判った。
【0038】
[トウモロコシからのβ−グルコシルセラミド画分の抽出と精製]
粉砕したトウモロコシ胚芽200kgより、エタノール1200リットルで70℃にて3時間撹拌抽出し、得られた抽出液を減圧乾固した。得られた抽出物を、シリカゲルカラム(富士シリシア化学(株)製、商品名:BW−820MH)にてクロロホルム−メタノールを用いて5回精製し、β−グルコシルセラミド画分を19.2g得た。これは白色の固形油脂状であった。
【0039】
得られたβ−グルコシルセラミド画分においてβ−グルコシルセラミドの定量を、HPLC−蒸発光散乱検出器((株)島津製作所製、LC−VP蒸発光散乱検出システム、蒸発光散乱検出器(ELSD−LT))を用いて行った。
移動相は、A液:クロロホルム,B液:メタノール−水(95:5;v/v)の2液を用いて、下記グラジエント溶媒系を設定した。
【0040】
【表4】

カラムはシリカカラム(Inertsil SIL 100−5;4.6φ×150mm;GLサイエンス製)を用い、カラムオーブン:35℃、流速;1ml/minにて、蒸発光散乱検出器:ELSD(ドリフトチューブ温度:85℃、ガス流量:1.0SLM)で行った。β−グルコシルセラミド標準品は、トウモロコシ胚芽より抽出し、分取用薄層クロマトグラフにてβ−グルコシルセラミドを単一に精製して調製したものを用いた。
その結果、上記β−グルコシルセラミド画分においてβ−グルコシルセラミドの含量が91.3%であることが判った。
【0041】
[β−グルコシルセラミドの経口摂取による抗腫瘍効果を調べる試験(in vivo)]
上記のトウモロコシから得られたβ−グルコシルセラミド画分をマウスに経口にて投与して試験を行った。
1.実験動物、被検物質の調製及び群構成
4週齢のICR系マウス(SPF)(日本SLC(株))30匹を用いた。マウスは購入後、1週間の予備飼育の後、コントロール群(第1群、0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)投与)、トウモロコシβ−グルコシルセラミド20mg/日 投与群(第2群)、トウモロコシβ−グルコシルセラミド50mg/日 投与群(第3群)の3群に分け、各群10匹とした(下記表5参照)。











【0042】
【表5】

*:0.5% CMC 0.5mlにβ-グルコシルセラミド画分を21.9mg又は54.8mgを懸濁させたものを被検物質とした。
**:純度換算
【0043】
2.投与方法及び試験方法
固形飼料(MF:オリエンタル酵母(株))と滅菌蒸留水をそれぞれ自由摂取とした。
腫瘍細胞株としてEhrlich腫瘍細胞株を用い、マウスの鼠径部皮下に2×106細胞/マウスとなるように移植した。腫瘍細胞移植日を0日とした。
β−グルコシルセラミド画分及び0.5% CMCは、腫瘍移植前1週間及び移植後2週間、1日1回、ゾンデを用いて経口投与した。腫瘍容積を腫瘍移植後6日間、11日目及び14日目に測定した。腫瘍移植後14日目にマウスを解剖して腫瘍を摘出した後、腫瘍重量を測定した。
【0044】
3.試験結果
コントロール群の体重変化に比べて、β-グルコシルセラミド摂取群の体重に有意な差は見られなかった。
腫瘍容積は、コントロール群の腫瘍容積増加に比べて、β-グルコシルセラミド(20 mg/マウス)群が11日目および14日目に腫瘍容積の抑制傾向を示したが、統計的に有意な差ではなかった。一方、β-グルコシルセラミド(50 mg/マウス)群は6日目、11日目および14日目の全ての測定時において、有意な腫瘍容積の抑制を示した。特に14日目において、対照群が2034±172 mm3を示したのに対し、β-グルコシルセラミド(50 mg/マウス)群は1060±130 mm3を示し、顕著な抑制作用であった(p<0.001)。
腫瘍重量(14日目)に関しては、対照群が1.86±0.22 gを示したのに対し、β-グルコシルセラミド(20 mg/マウス)群およびβ-グルコシルセラミド(50 mg/マウス)群はそれぞれ、1.39±0.24 gおよび0.91±0.14 gの重量を示した。β-グルコシルセラミド(20 mg/マウス)群の腫瘍重量は有意な抑制でなかったが、β-グルコシルセラミド(50 mg/マウス)群は有意な抑制を示した(p<0.01)。
試験14日目の結果を以下に示す。
【0045】
【表6】

**p<0.01, ***p<0.001
腫瘍容積および腫瘍重量は群毎の平均値±標準誤差を算出した。また、コントロール群に対する各群の統計的有意を検定するため、等分散であることを確認した後、Fisher’s PLSD法である多重比較検定を行い群間の比較を行った。統計的有意差はp<0.05の場合を有意であるとした。
【0046】
[β−グルコシルセラミドの経口摂取による免疫賦活効果を調べる試験]
1.被験物質およびその調製方法
被験物質として、上記のトウモロコシから得られたβ−グルコシルセラミド画分を使用した。
β−グルコシルセラミド画分に0.5% CMCを加えて懸濁し超音波処理した後、β−グルコシルセラミドの濃度100 mg/ml(純度換算)の懸濁液を作製した。
一方、コントロールは0.5% CMCとした。
2.実験動物
4週齢の雄性BALB/c系マウス(SPF)(日本チャールスリバー(株))を7日間予備飼育の後、実験に供した。マウスは3匹/ケージとしてそれぞれ固形飼料(MF、オリエンタル酵母工業(株))と滅菌蒸留水を自由に与えた。
3.投与方法及び群構成
下記表7の群構成により、1群(コントロール群)には0.5% CMC を0.5ml/日/マウス、2群(試験群)にはβ−グルコシルセラミドの濃度100 mg/ml(純度換算)の懸濁液を0.5ml/日/マウス(すなわち、50mg(純度換算)/日/マウス)で、毎日、1日1回、マウス用経口ゾンデを用いて14日間、強制経口投与した。
【0047】
【表7】

【0048】
4.脾細胞の採取及び培養
上記14日間の投与後、翌日に、各群のマウスから脾臓を摘出し約5mlの氷冷したHanks液(大日本製薬(株))の入ったシャーレに移し、脂肪組織を取り除いた。この脾臓をつぶし、ピペッティングして均一な細胞浮遊液とし、ナイロンメッシュでろ過した。遠心管に移した細胞浮遊液を遠心し、氷冷したHanks液で洗浄した。洗浄後、細胞ペレットを10%FCS添加RPMI 1640培地(大日本製薬(株))に浮遊させ、細胞数を3×106個/mlに調整後、96穴培養プレート(住友ベークライト(株))に180μl分注した。
このプレートの各well(各n=3を使用)にLPS(リポポリサッカライド、3、30、300および3000 ng/ml、Sigma社)またはPBS(−)をそれぞれ20μl加えて72時間培養し、遠心後の培養上清をサイトカイン測定に供した。なお、サイトカインはマウスIL-2(Endogen社)およびIFN-γ(Endogen社)測定キットを用いて ELISA法にて測定した。
【0049】
5.統計処理
得られた各種データは群毎の平均値±標準誤差で示した。IFN-γ産生については、コントロール群(0.5% CMC投与群)に対する試験群の統計的有意を検定するためにt検定を行った。IL-2産生については、コントロール群(0.5% CMC投与群)に対する試験群、又はLPS無刺激群とLPS刺激群の統計的有意を検定するため、分散分析(ANOVA)を行った後、Fisher's PLSD法である多重比較検定を行い群間の比較を行った。統計的有意差はp<0.05の場合を有意であるとした。
6.試験結果
その結果、培養後の検体において、β-グルコシルセラミドが有意にIFN-γの産生を促進していることが示された。その促進効果を表すグラフを図1に示す。また、IFN-γの測定値(pg/ml)を以下の表8に示す。
β-グルコシルセラミドはIL-2を促進させる傾向も示した。LPS(0.003-3.0mg/ml)の刺激により、IL-2の産生はβ-グルコシルセラミドで有意に促進された。その促進効果を表すグラフを図2に示す。また、IL-2の測定値(pg/ml)を以下の表9に示す。
【0050】
【表8】

means±SE, n=3, *p<0.05
【0051】
【表9】

means±SE, n=3,
#p<0.05 vs 0mg/マウス
*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001 vs PBS(-)
【0052】
以上の結果から、β-グルコシルセラミドはマウス脾臓細胞のサイトカイン(IL-2、IFN-γ)の産生を促進または促進させる傾向を示し、免疫賦活作用が示唆された。
β-グルコシルセラミドにはそれ自身でサイトカイン産生を増強する作用と、細菌などの侵入によりサイトカインの産生が誘発されると、その産生を増強する作用を有すると考えられる。従って、β-グルコシルセラミドの免疫賦活効果により、細菌などの病原体が生体に侵入した場合においては、リンパ球などによるサイトカイン産生を増強し、病原体の増殖抑制に寄与すると考えられる。
【0053】
以下に、上記のように得たトウモロコシ由来のβ−グルコシルセラミド画分を用いた製剤例及び食品の例を挙げる。
[実施例1]
錠果及び錠剤の製造
卵殻カルシウム108g、ピロリン酸第二鉄2g、アスコルビン酸40g、微結晶セルロース40g、還元麦芽糖285g、β−グルコシルセラミド画分25gをミキサーによって常法により混和した後、打錠し、錠果及び錠剤を製造した。
[実施例2]
ビスケットの製造
小麦粉120g、β−グルコシルセラミド画分2.4g、砂糖35g、ショートニング15g、全卵粉1.5g、食塩1g、炭酸水素ナトリウム0.6g、炭酸アンモニウム0.75g、水20gを用いて、常法によりドウを作成し、成形、焙焼してビスケットを製造した。
【0054】
[実施例3]
パンの製造
小麦粉3kg、β−グルコシルセラミド画分3g、イースト60g、イーストフード3g、砂糖150g、食塩60g、ショートニング150g、脱脂粉乳60g、水2070gを用いて、常法によりドウを作成し、成形、焙焼してパンを製造した。
[実施例4]
中華麺の製造
準強力小麦粉100質量部に対して、1質量部のβ−グルコシルセラミド画分、34質量部の水、1質量部の食塩及び1質量部のかんぷんを加えたものを、12分間混捏した後、麺機にて数回圧延、成形して、中華麺の生麺帯、生麺線を得た。
【0055】
以下の食品の例及び製剤例では、酵母から得たβ−グルコシルセラミド画分を用いた。
[実施例5]
パン(ロールパン)の製造
以下の組成(単位:質量部)により常法に従って、ロールパンを製造した。
強力粉 80
薄力粉 20
β−グルコシルセラミド画分 0.5
ドライイースト 1
食塩 2
砂糖 8
無塩バター 8
卵 17
水 46
【0056】
[実施例6]
サプリメントの製造
以下の組成(単位:質量%)を使用して打錠し、錠剤であるサプリメントを製造した。
マルチトール 35.0
デキストリン 20.0
β−グルコシルセラミド画分 15.0
卵殻カルシウム 10.0
食物繊維 10.0
ビタミンミックス 5.0
ショ糖脂肪酸エステル 5.0
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】β-グルコシルセラミドをマウスに経口投与し、脾臓細胞を分離し、in vitroで培養後、上清中のIFN-γ活性をELISAで測定した結果を表す図である。バーは3検体の平均±標準誤差を示す。
【図2】-グルコシルセラミドをマウスに経口投与し、脾臓細胞を分離し、in vitroでPBS(-)で培養又はLPSで刺激後、上清中のIL-2活性をELISAで測定した結果を表す図である。バーは3検体の平均±標準誤差を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物又は真菌から抽出されるβ−グルコシルセラミド画分を有効成分として含有する抗腫瘍剤。
【請求項2】
腫瘍細胞増殖抑制剤である請求項1記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】
β−グルコシルセラミド画分が、スフィンゴイド塩基部位として4-トランス,8-シス-スフィンガジエニンを含むβ−グルコシルセラミド、スフィンゴイド塩基部位として4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニンを含むβ−グルコシルセラミド、及びスフィンゴイド塩基部位として8-シス-スフィンゲニンを含むβ−グルコシルセラミド、スフィンゴイド塩基部位として8-トランス-スフィンゲニンを含むβ−グルコシルセラミド、スフィンゴイド塩基部位として4-ヒドロキシ-8-シス-スフィンゲニンを含むβ−グルコシルセラミド、及びスフィンゴイド塩基部位として4-ヒドロキシ-8-トランス-スフィンゲニンを含むβ−グルコシルセラミドから選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1又は2記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
β−グルコシルセラミド画分が、スフィンゴイド塩基部位として9-メチル-4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニンを含むβ−グルコシルセラミド、及びスフィンゴイド塩基部位として4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニンを含むβ−グルコシルセラミドから選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1又は2記載の抗腫瘍剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の抗腫瘍剤を配合した食品。
【請求項6】
植物又は真菌から抽出されるβ−グルコシルセラミド画分を有効成分として含有する免疫賦活剤。
【請求項7】
β−グルコシルセラミド画分が、スフィンゴイド塩基部位として4-トランス,8-シス-スフィンガジエニンを含むβ−グルコシルセラミド、スフィンゴイド塩基部位として4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニンを含むβ−グルコシルセラミド、スフィンゴイド塩基部位として8-シス-スフィンゲニンを含むβ−グルコシルセラミド、スフィンゴイド塩基部位として8-トランス-スフィンゲニンを含むβ−グルコシルセラミド、スフィンゴイド塩基部位として4-ヒドロキシ-8-シス-スフィンゲニンを含むβ−グルコシルセラミド、及びスフィンゴイド塩基部位として4-ヒドロキシ-8-トランス-スフィンゲニンを含むβ−グルコシルセラミドから選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項6記載の免疫賦活剤。
【請求項8】
β−グルコシルセラミド画分が、スフィンゴイド塩基部位として9-メチル-4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニンを含むβ−グルコシルセラミド、及びスフィンゴイド塩基部位として4-トランス,8-トランス-スフィンガジエニンを含むβ−グルコシルセラミドから選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項6記載の免疫賦活剤。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項記載の免疫賦活剤を配合した食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−328041(P2006−328041A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284739(P2005−284739)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月29日 「社団法人 日本農芸化学会」主催の「日本農芸化学会2005年度(平成17年度)大会」における発表
【出願人】(000231637)日本製粉株式会社 (144)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【Fターム(参考)】