説明

抗菌剤の製造方法

【課題】耐熱性に優れ、樹脂、セラミックス、金属、溶媒などへの分散性に優れた抗菌剤の製造方法を提供する。
【解決手段】無機粒子とハロスルホニル基を有する化合物とを反応させてハロスルホニル基を無機粒子に結合させ、ハロスルホニル基が結合された無機粒子の存在下で抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する単量体をグラフト重合して抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する重合体を無機粒子に結合させ、次いで、前記の抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する重合体が結合された無機粒子と抗菌性化合物とを反応させて無機粒子に結合された重合体を抗菌性重合体に変成することによって、抗菌剤を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌剤の製造方法に関する。さらに詳細には、耐熱性に優れ、樹脂、セラミックス、金属、溶媒などへの分散性に優れた抗菌剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鮮魚や食肉などが直接に触れる部材に抗菌剤を混入或いは表面に塗工するなどして、上記部材の表面における細菌の増殖を抑制することが広く行われている。
このような抗菌剤として、例えば、多孔性のシリカゲルに銀錯塩等の抗菌成分を担持させたもの(特許文献1)が知られている。シリカゲルへの抗菌成分の担持法として、触媒調製法としてよく知られている含浸法、沈殿法、イオン交換法、メカノケミカル法、蒸着法などが特許文献1に開示されている。
また、特許文献2には、カテキンやサポニンなどのポリフェノール化合物系抗菌成分を添加したケイ酸塩水溶液をゲル化反応させて該抗菌成分をシリカゲル中に含有させたものが記載されている。
しかし、無機粒子に抗菌成分を担持または含有させただけの抗菌剤では、抗菌成分が溶出して、抗菌性能が経時的に低下してくる。溶出した抗菌成分が食品を汚染して、食用に適さなくなるということがある。また、抗菌剤のマトリックス中での分散性が悪く、抗菌剤入りの樹脂成形品は強度等が不足するなどの問題があった。
【0003】
特許文献3には、抗菌性金属成分と該抗菌性金属成分以外の無機酸化物とからなるコロイド微粒子の表面が高分子化合物で修飾された抗菌性無機酸化物コロイド粒子からなる抗菌剤が記載されている。この抗菌剤は分散性の改善を試みたものであるが、高分子化合物で表面を被覆してしまうので抗菌性能が十分でなくなる。
【0004】
無機微粒子の表面に抗菌成分としての重合体を共有結合させる方法が、非特許文献1〜4において提案されている。しかしながら、非特許文献1〜4に開示される方法で得られたものは、無機微粒子へのグラフト率が40%弱であるので無機粒子に対する抗菌成分の量が少なく、抗菌剤の製造コストなどの点で未だ解決しなければならない課題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−155725号公報
【特許文献2】特開平11−313876号公報
【特許文献3】特開2002−80303号公報
【非特許文献1】坪川紀夫ら「グラフト化によるシリカナノ粒子表面への抗菌性の付与」高分子学会予稿集Vol54,No.2(2005)
【非特許文献2】坪川紀夫ら「抗菌性ポリマーのシリカナノ粒子表面へのグラフト化とその抗菌特性」高分子学会予稿集Vol.55,No.2(2006)
【非特許文献3】坪川紀夫ら「シリカナノ粒子表面への抗菌性ポリマーのグラフト反応」高分子学会予稿集Vol.54,No.1(2005)
【非特許文献4】TSUBOKAWA et al. "Preparation of Antibacterial Polymer-grafted Nano-sized Silica and Surface Properties of Silicone Rubber Filled with the Silica" Polymer Journal, Vol.38, No.8 p844-851 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐熱性に優れ、樹脂、セラミックス、金属、溶媒などへの分散性に優れ、抗菌成分が溶出しない抗菌剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、重合開始能を有するハロスルホニル基を無機粒子に導入し、このハロスルホニル基が導入された無機粒子の存在下で、抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する単量体をグラフト重合することによって抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する重合体を無機粒子に結合させ、次いで、前記重合体が結合された無機粒子と抗菌性化合物とを反応させることによって無機粒子に結合された重合体を抗菌性重合体に変成すると、耐熱性に優れ、樹脂、セラミックス、金属、溶媒などへの分散性に優れ、抗菌成分が溶出しない抗菌剤が得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて、さらに検討し完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、(1)無機粒子とハロスルホニル基を有する化合物とを反応させることによりハロスルホニル基を無機粒子に結合させ、ハロスルホニル基が結合された無機粒子の存在下で、抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する単量体をグラフト重合することにより抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する重合体を無機粒子に結合させ、次いで、前記の抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する重合体が結合された無機粒子と抗菌性化合物とを反応させることにより無機粒子に結合された前記重合体を抗菌性重合体に変成することを含む、抗菌剤の製造方法、および(2)無機粒子とハロスルホニル基を有する化合物とを反応させることによりハロスルホニル基を無機粒子に結合させ、ハロスルホニル基が結合された無機粒子の存在下で、抗菌性官能基を有する単量体をグラフト重合することにより抗菌性重合体を無機粒子に結合させることを含む、抗菌剤の製造方法、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の抗菌剤の製造方法によって、抗菌性重合体が無機粒子表面に強固に結合された抗菌剤を得ることができる。この無機粒子表面に結合した抗菌性重合体は溶出し難いので、例えば、食品等に係る部材へ適用することができる。本発明の製造方法で得られる抗菌剤は、耐熱性に優れているので、高温の溶融樹脂に添加しても抗菌性の劣化がなく、樹脂マトリックス中に均一に分散できるので、高い抗菌性能を有する樹脂成形品を得ることができる。また、本発明の製造方法で得られる抗菌剤は、溶媒等への分散性に優れているので、抗菌性塗料などの用途に展開することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の製造方法では、先ず無機粒子とハロスルホニル基を有する化合物とを反応させることによりハロスルホニル基を無機粒子に結合させる。
本発明に用いられる無機粒子は、無機材料からなる粒子である。例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、フェライト、マグネシア、シリカチタニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、硫酸バリウム、珪藻土、ベントナイト、パーライトなどが挙げられる。これらのうち、シリカが好ましい。
【0011】
無機粒子の大きさは、特に制限されないが、樹脂等への配合、塗料への分散を考慮すると、好ましくは1nm〜2000μm、より好ましくは3nm〜1000μmである。無機粒子の形状は、不定形であってもよいし、球状、板状、棒状などであってもよいが、分散性等を考慮すると球状が好ましい。また粒子の芯に空洞を有するもの(中空粒子)であってもよいし、多孔質のものであってもよい。
【0012】
無機粒子は、後述するハロスルホニル基を有する化合物との反応率を高めるために、無機粒子表面を処理して水酸基等の量を増やすことができる。また、水酸基以外の官能基、例えばカルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、ウレイド基、スルフィド基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、ビニル基、メルカプト基、ケチミノ基、イソシアネート基などを無機粒子に結合させることもできる。無機粒子表面の水酸基の量を増やしたり、水酸基以外の官能基を結合させたりするために、例えば、プラズマ放電処理、シランカップリング剤処理などの方法が採られる。
【0013】
本発明に用いられるハロスルホニル基を有する化合物は、ハロスルホニル基を無機粒子に結合させることができる化合物であれば、特に制限されない。例えば、ハロスルホニル基を有するアルコキシメタル化合物等が挙げられる。該アルコキシメタル化合物としては、アルコキシシラン化合物(シランカップリング剤)、アルコキシチタン化合物(チタンカップリング剤)、アルミニウムカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤等が挙げられる。これらのうちシランカップリング剤が好ましい。ハロスルホニル基を有する化合物の中でもハロスルホニル基が芳香環に結合したものが好ましい。好ましい具体例としては、2−(4−クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシランが挙げられる。
【0014】
ハロスルホニル基としては、クロロスルホニル基、ブロモスルホニル基などが挙げられる。これらのうち、クロロスルホニル基が好ましい。なお、ハロスルホニル基は原子移動ラジカル重合開始能を有する官能基の一種である。
無機粒子には、ハロスルホニル基以外に他の原子移動ラジカル重合開始能を有する官能基が結合されていてもよい。具体的には、ハロメチル基、ハロアルキルフェニル基、α−ハロエステル基、α−ハロカルボニル基、α−ハロニトリル基などが挙げられる。ハロスルホニル基以外の原子移動ラジカル重合開始能を有する官能基の導入には、例えば、(3−(2−ブロモイソブチリル)プロピル)ジメチルエトキシシラン;1−トリクロロシリル−2−(m,p−クロロメチルフェニル)エタン;アミノ基含有シランカップリング剤とイソシアン酸トリクロロアセチルとの組み合わせなどを用いることができる。
【0015】
ハロスルホニル基を有する化合物と無機粒子との反応は、通常、不活性雰囲気下で行う。例えば、反応器内を窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスで置きかえる。不活性ガスは、水分が除去されたものが好ましい。反応温度は、通常、100〜250℃、好ましくは150〜180℃である。
ハロスルホニル基を有する化合物と無機粒子との反応は、多量の溶媒に無機粒子を分散させた状態において行ってもよいが、溶媒を少量用いるかまたは全く用いないで無機粒子表面だけがハロスルホニル基を有する化合物等で濡らされた状態にて行う方法(乾式反応法)が、ハロスルホニル基が結合された無機粒子の回収、ハロスルホニル基を有する化合物の除去が容易であるので好ましい。
【0016】
ハロスルホニル基を有する化合物と無機粒子との反応後、未反応のハロスルホニル基を有する化合物を除去する。除去方法は特に限定されないが、乾式反応法で反応を行った場合は蒸発による方法が最も簡便で好ましい。蒸発は、減圧下で行うことが好ましく、減圧下で遮光して行うことが特に好ましい。無機粒子を溶媒に分散させて反応を行った場合は、粒子と溶媒とを遠心力または重力によって固液分離し、次いで分離した粒子を蒸発乾燥させる必要がある。未反応のハロスルホニル基を有する化合物が多量に残留していると遊離の抗菌性重合体が生成しやすい。遊離の抗菌性重合体が多量にあると、抗菌剤を樹脂等に添加した後で、樹脂成形体から抗菌成分が溶出しやすくなる。
以上の工程で、ハロスルホニル基が結合された無機粒子が得られる。
【0017】
次にハロスルホニル基が結合された無機粒子の存在下で、単量体をグラフト重合する。このグラフト重合では、ハロスルホニル基が結合された無機粒子が重合開始剤として機能する。
【0018】
本発明の第一態様の製法に用いられる単量体は、抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する単量体である。該単量体はラジカル重合可能なものであれば特に限定されない。
抗菌性化合物に結合可能な官能基としては、ハロゲン基、スルホン酸基、スルホン酸ナトリウム塩基、カルボキシル基、水酸基、イソシアネート基、アミノ基などが挙げられる。これらのうち、ハロゲン基が好ましく、クロロ基が特に好ましい。抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する単量体は、芳香環を含むものが好ましく、特にベンジル基を含むものが好ましい。抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する単量体の好ましい例としては、ビニルベンジルクロライド、トリエチル−3−ビニルベンジルクロライド、トリエチル−4−ビニルベンジルクロライド,トリブチル−3−ビニルベンジルクロライド、トリブチル−4−ビニルベンジルクロライド,トリフェニル−3−ビニルベンジルクロライド、トリフェニル−4−ビニルベンジルクロライド,トリオクチル−3−ビニルベンジルクロライド、トリオクチル−4−ビニルベンジルクロライド,トリエチル−3−ビニルベンジルブロマイド、トリエチル−4−ビニルベンジルブロマイド,トリエチル−3−ビニルベンジルテトラフロロボレート、トリエチル−4−ビニルベンジルテトラフロロボレート、p−スチレンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらのうち、ビニルベンジルクロライドまたはp−スチレンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0019】
抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する単量体以外に、他の単量体を共重合させてもよい。共重合させることができる単量体は特に制限されない。例えば、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、エチレン、プロピレンなどが挙げられる。
【0020】
グラフト重合は、臭化銅、塩化銅などのハロゲン化銅を触媒として用いて行われる。ハロゲン化銅に対するリガンド錯体も特に限定されない。例えばトリス(2−(ジメチルアミノ)エチル)アミン、N,N,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン、1,4,8,11−テトラメチル 1,4,8,11−アザシクロテトラデカン、ビピリジン等が挙げられる。
重合時に使用する溶媒は単量体を溶解可能なものであれば特に限定されない。例えば、ジメチルホルムアルデヒド、スパルテイン(CAS名:[7S−(7α,7aα,14α,14aβ)]−ドデカヒドロ−7,14−メタノ−2H,6H−ジピリド[1,2−a:1’,2’−e][1,5]ジアゾシン)、テトラヒドロフラン等が挙げられる。触媒としてのハロゲン化銅の量は、単量体100質量部に対して通常0.1〜1.0質量部である。反応温度は、通常30〜200℃、好ましくは50〜150℃である。
本発明の第一態様の製法では、このグラフト重合によって、抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する重合体が無機粒子表面に結合される。
【0021】
グラフト重合後、未反応の単量体、無機粒子に結合されなかった遊離の重合体は、除去することが好ましい。除去方法は特に制限されないが、次のようにして除去することが好ましい。先ず遊離重合体を溶解可能な溶媒を添加して遊離重合体を溶解する。該液を遠心力または重力によって固液分離して上澄み液を捨てる。これによって、遊離重合体を取り除くことができる。溶解−固液分離−上澄み除去は必要に応じて繰り返すことができる。次に、減圧乾燥などによって、未反応単量体や溶媒を除去することができる。
【0022】
本発明の第一態様の製法では、さらに、前記重合体が結合された無機粒子と抗菌性化合物とを反応させる。
抗菌性化合物は、抗菌活性な官能基を有する化合物である。抗菌活性な官能基としては、一級アミノ基、二級アミノ基、三級アミノ基、カチオン性一級アンモニウム基、カチオン性二級アンモニウム基、カチオン性三級アンモニウム基、カチオン性四級アンモニウム基、カチオン性一級ホスホニウム基、カチオン性二級ホスホニウム基、カチオン性三級ホスホニウム基、カチオン性四級ホスホニウム基、カチオン性一級スルホニウム基、カチオン性二級スルホニウム基、カチオン性三級スルホニウム基、カチオン性四級スルホニウム基、ビグアニジン基、抗菌性ペプチド、フェノールラジカル、ポリフェノールラジカル、および/または抗生物質が挙げられる。これらのうち、耐熱性等の観点から、上記各種のホスホニウム基が好ましい。
ホスホニウム基を有する化合物の好ましい例としては、トリブチルホスフィンまたはその塩、トリヘプチルホスフィンまたはその塩などのトリアルキルホスフィンまたはその塩が挙げられる。トリアルキルホスフィンを構成する3つのアルキル基のうち、少なくとも一つは炭素数8以上のものであることが抗菌性能の観点から好ましい。
【0023】
前記重合体が結合された無機粒子と抗菌性化合物との反応は、抗菌性化合物を溶解可能な溶媒中で行うことが好ましい。反応温度は、特に制限されず、好ましくは80〜150℃である。温度の上限は溶媒還流温度であることが特に好ましい。
重合体が結合された無機粒子に反応させる抗菌性化合物の量は、重合体中の抗菌性化合物に結合可能な官能基100モル部に対して、好ましくは100〜300モル部、より好ましくは150〜200モル部である。
以上の反応によって、無機粒子に結合された重合体が抗菌性重合体に変成される。
【0024】
該反応完了後、未反応の抗菌性化合物を除去することが好ましい。除去方法は特に制限されない。例えば、抗菌性化合物を溶解可能な溶媒を添加して未反応の抗菌性化合物を溶解する。該液を遠心力または重力によって固液分離して上澄み液を捨てる。これによって、未反応の抗菌性化合物を取り除くことができる。溶解−固液分離−上澄み除去は必要に応じて繰り返すことができる。次に、減圧乾燥などによって、溶媒を除去することができる。
【0025】
一方、本発明の第二態様の製法に用いられる単量体は、抗菌性官能基を有する単量体である。抗菌性官能基は、抗菌性化合物の説明で挙げたものと同じものである。これらのうち、上記各種のホスホニウム基が好ましい。
ホスホニウム基を有する単量体としては、ビニルベンジルホスホニウムクロライド、トリエチル−3−ビニルベンジルホスホニウムクロライド、トリエチル−4−ビニルベンジルホスホニウムクロライド,トリブチル−3−ビニルベンジルホスホニウムクロライド、トリブチル−4−ビニルベンジルホスホニウムクロライド,トリフェニル−3−ビニルベンジルホスホニウムクロライド、トリフェニル−4−ビニルベンジルホスホニウムクロライド,トリオクチル−3−ビニルベンジルホスホニウムクロライドとトリオクチル−4−ビニルベンジルホスホニウムクロライド,トリエチル−3−ビニルベンジルホスホニウムブロマイドとトリエチル−4−ビニルベンジルホスホニウムブロマイド,トリエチル−3−ビニルベンジルホスホニウムテトラフロロボレート、トリエチル−4−ビニルベンジルホスホニウムテトラフロロボレート、p−スチレンスルホン酸ホスホニウムなどが挙げられる。これらのうち、ビニルベンジルホスホニウムクロライドが好ましい。
【0026】
抗菌性官能基を有する単量体以外に、他の単量体を共重合させてもよい。共重合させることができる単量体は特に制限されない。例えば、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、エチレン、プロピレンなどが挙げられる。
第二態様の製法におけるグラフト重合は、第一態様の製法におけるグラフト重合と同様の条件によって行うことができる。
本発明の第二態様の製法では、このグラフト重合によって、抗菌性官能基を有する重合体(抗菌性重合体)が無機粒子表面に結合される。なお、未反応単量体および無機粒子に結合されなかった抗菌性重合体等は、第一態様の製法と同様に除去することができる。
【0027】
本発明の抗菌剤に含有される抗菌性重合体の数平均分子量は、1000以上が好ましく、2000以上がより好ましく、5000以上がさらに好ましい。数平均分子量が小さいと、抗菌性能が低下傾向になり、また抗菌性重合体が溶出しやすくなる。なお、分子量は、無機粒子を溶解可能な物質(例えば、強酸や強アルカリ)で抗菌剤を処理し、抗菌性重合体を単離し、該重合体をGPCで分析することによって求めることができる。なお、第二態様の製法に比べ第一態様の製法は、分子量の大きい抗菌性重合体を無機粒子に結合させることができる。
【0028】
本発明の抗菌剤は、無機粒子に結合された抗菌性重合体の量が、無機粒子に対して30質量%以上であることが好ましく、60〜150質量%であることがより好ましく、100〜150質量%であることが特に好ましい。結合された重合体の量が少ないと抗菌性能が低下傾向になる。
本発明の抗菌剤は、遊離の抗菌性重合体の量が、無機粒子に対して0〜2質量%であることが好ましく、0〜1質量%であることがより好ましい。遊離の重合体が多くなると、抗菌成分の溶出が増える傾向になる。
【0029】
抗菌剤中の無機粒子および抗菌性重合体の質量比は、次のような方法で求めることができる。先ず、無機粒子を溶解可能な物質(例えば、強酸や強アルカリ)で抗菌剤を処理し、抗菌性重合体だけを取り出し、この処理前後の質量変化から、無機粒子と抗菌性重合体の質量比を求めることができる。また、抗菌性重合体を溶解可能な溶媒で抗菌剤を抽出し、抽出される抗菌性重合体が無くなるまで、抽出を繰り返す。この処理前後の重量変化から、遊離の抗菌性重合体と抗菌性重合体が結合された無機粒子との質量比を求めることができる。さらに、上記の測定結果から無機粒子に結合された抗菌性重合体と無機粒子との質量比を求めることができる。
【実施例】
【0030】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらに何等制限されるものではない。
【0031】
物性等は以下の方法により測定した。
(溶出性試験)
フィルム状成形体を純水に入れ、24時間煮沸した。煮沸後の水をIPC発光分光分析装置を用いて溶出物の有無を分析した。
【0032】
(抗菌性試験)
JIS Z2801に基づき、フィルム密着法で行った。フィルム成形体に黄色ブドウ球菌を接種し、温度35℃、相対湿度90%以上の環境で4時間培養した。培養後、フィルム成形体から菌を洗い出し、洗い出した液1mlを寒天平板培養法に従って40〜48時間培養して、生菌数を測定した。
【0033】
(分散性試験)
抗菌剤0.1gを50mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に加え、超音波を30分間照射して分散させた。室温下で静置し、沈降状態を観察した。未処理のシリカナノ粒子の沈降状態と比較した。
【0034】
実施例
シリカナノ粒子(Aerosil 200;デグサ社製)8.0質量部を三口フラスコに入れ、フラスコ内を窒素で置換した。シリカナノ粒子を撹拌しながら、2−(4−クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシラン3.6容量部(シリカナノ粒子1g当たり0.45ml)を滴下した。滴下終了後、撹拌させながら、110℃で24時間反応させた。フラスコ内を減圧して、未反応物を除去した。
次いで、遮光された室温環境下で減圧乾燥して、クロロスルホニル基が導入されたシリカ粒子を得た。
【0035】
クロロスルホニル基が導入されたシリカ粒子2質量部、4−ビニルベンジルクロライド2質量部、スパルテイン0.7質量部、および臭化銅0.1質量部を三口フラスコに入れ、フラスコ内を窒素で置換した。撹拌させながら、60℃で24時間反応させた。
反応生成物にテトラヒドロフランを添加し、遠心分離して、上澄み液を捨てた。固形分を減圧乾燥して、ポリビニルベンジルクロライドが結合されたシリカ粒子を得た。
【0036】
ポリビニルベンジルクロライドが結合されたシリカ粒子5質量部を三口フラスコに入れ、フラスコ内を窒素置換した。前記シリカ粒子を撹拌しながら、トルエン40容量部およびトリブチルホスフィン5容量部をフラスコ内に滴下した。滴下後、撹拌しながら、110℃で24時間還流しながら反応させた。
反応生成物にテトラヒドロフランを添加し、遠心分離して、上澄み液を捨てた。固形分を減圧乾燥することによって、抗菌性重合体が結合されたシリカ(抗菌剤)を得た。
なお、シリカナノ粒子にグラフト重合されたことの確認は、13C−NMR、熱分解GC−MS、赤外吸光分析によって行った。
【0037】
得られた抗菌剤は、シリカナノ粒子に結合された抗菌性重合体がシリカナノ粒子に対して90質量%であり、遊離抗菌性重合体がシリカナノ粒子に対して1質量%であった。結合された抗菌性重合体の量および遊離の抗菌性重合体の量は、以下の方法で求めた。抗菌剤をトルエンに分散させ、遠心分離を行い、上澄み液を除去した。上澄み液に遊離抗菌性重合体が抽出されなくなるまで、トルエンによる抽出を繰り返した。抽出完了後、減圧乾燥して質量を求めた。該質量と、上記反応に使用したシリカナノ粒子の質量、抽出された抗菌性重合体の質量とから計算された。
【0038】
抗菌剤1質量%をポリスチレンに添加し十分に混合しフィルム状に成形した。
比較のために、グラフト重合していない未処理のシリカナノ粒子1質量%をポリスチレンに添加し十分に混合しフィルム状に成形したものと、抗菌性重合体(ホスホニウムポリマー)1質量%をポリスチレンに添加し十分に混合しフィルム状に成形したものを用意した。
【0039】
本発明の抗菌剤を添加したフィルム成形体は、抗菌性試験において、生菌数が約4×102CFU/mlであった。これに対して、未処理のシリカナノ粒子を添加したフィルム成形体は、抗菌性試験において、生菌数が約7×104CFU/mlであった。
また、本発明の抗菌剤を添加したフィルム成形体は、上記溶出性試験において、溶出物を検出できなかった。一方、抗菌性重合体1質量%を添加したフィルム成形体からは、抗菌性重合体が溶出していることが確認された。
本発明の抗菌剤は、前記分散性試験において、未処理のシリカナノ粒子に比べ、溶媒中での分散性が優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子とハロスルホニル基を有する化合物とを反応させることによりハロスルホニル基を無機粒子に結合させ、
ハロスルホニル基が結合された無機粒子の存在下で、抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する単量体をグラフト重合することにより抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する重合体を無機粒子に結合させ、
次いで、前記の抗菌性化合物に結合可能な官能基を有する重合体が結合された無機粒子と抗菌性化合物とを反応させることにより無機粒子に結合された前記重合体を抗菌性重合体に変成することを含む、抗菌剤の製造方法。
【請求項2】
無機粒子とハロスルホニル基を有する化合物とを反応させることによりハロスルホニル基を無機粒子に結合させ、
ハロスルホニル基が結合された無機粒子の存在下で、抗菌性官能基を有する単量体をグラフト重合することにより抗菌性重合体を無機粒子に結合させることを含む、抗菌剤の製造方法。
【請求項3】
無機粒子がシリカ粒子である請求項1または2に記載の抗菌剤の製造方法。
【請求項4】
抗菌性重合体がホスホニウム基を有する重合体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗菌剤の製造方法。

【公開番号】特開2010−18535(P2010−18535A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179484(P2008−179484)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(504283585)株式会社 双葉テクニカ (6)
【出願人】(508207882)株式会社 ナフタック (5)
【Fターム(参考)】