説明

抗菌性を有するプラスチック粉末を利用して三次元物体を製造する方法、及びかかる方法のための抗菌性を有するプラスチック粉末

電磁放射線又は粒子放射線(7a)に曝す手段により粉末プラスチック材料(3a)を層状に凝固することによって、三次元物体(3)を製造する方法を提供し、該粉末プラスチック材料(3a)が抗菌性を有するため、製造された物体(3)の表面が抗菌活性を有する。抗菌性は、粉末の全ての顆粒上に存在する添加剤により生じる。上記添加剤は例えば銀のような貴金属であり得る。製造された物体は、食品産業及び医療技術において使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を有する合成粉末を使用する、三次元物体を製造する方法に関する。さらに、本発明は、かかる抗菌性を有する合成粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
或る特定の分野、とりわけ、食品産業及び医療分野では、病原菌、とりわけ、細菌及びウイルス等の病原体が存在しない状態に物品の表面を維持する必要がある。当該表面の滅菌は不可避である場合が多いが、多くの用途では実用的でなく、技術的に実施することができないか又はかろうじて実施することができるに過ぎない。さらに、このような表面には、病原菌の増殖(progeny)を抑制する抗菌性コーティングを設けることができることが知られている。よって、或る特定の物質の抗菌作用が用いられる。例えば、かかる抗菌性コーティングは、銀(argent)を含有することにより、病原菌の或る特定の代謝プロセスを抑制し、すると、病原菌がそれぞれ増殖することができず死滅することが知られている。選択的レーザー焼結又は選択的レーザー融解によって物体を製造する分野では、銀粉末をチタン粉末等の生体適合性粉末と巨視的に混合し、その後、その混合物を基材上に塗布するように、抗菌性インプラントを製造することが、特許文献1から知られている。その後、混合物の層をレーザーの衝突により選択的に融解する。インプラント全体を層状に製造してもよく、又は完成したインプラントに抗菌性コーティングをこのようにして設けてもよい。
【0003】
レーザー焼結に適するポリアミド12の粉末は特許文献2から、ポリアミド11の粉末は特許文献3からそれぞれ知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1911468号
【特許文献2】欧州特許第0911142号
【特許文献3】欧州特許第1431595号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、改善された特性及びより広範な応用分野を有する物体を生成することができる、三次元物体を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、請求項1に記載される方法により、また請求項11に記載される粉末状合成材料により達成される。本発明のさらなる発展形態は従属請求項に規定する。
【0007】
本方法は、製造後に、製造された物体の表面が自動的に抗菌作用を有するという利点を有する。故に、レーザー焼結合成材料の応用分野が拡大する。例えば、ここでは、通常、射出成形によって製造されてきた、食品分野及び医療分野で使用される物品を、レーザー焼結によって製造することが可能である。
【0008】
製造された物体の表面の頻繁かつ複雑な滅菌をなくすことができる。
【0009】
本発明のさらなる特徴及び目的は、図面に基づき実施形態の記載から推察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】レーザー焼結装置の概略図である。
【図2】本発明の実施形態による凝固した合成粉末の層の顕微鏡写真である。
【図3a)】本発明によるさらなる合成粉末で焼結されたレーザー焼結部材の20μm厚の断面の顕微鏡写真である。
【図3b)】本発明による別の合成粉末により焼結されたレーザー焼結部材の20μm厚の断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示したレーザー焼結装置は、上向きに開きかつその内部に、鉛直方向に移動可能であって、形成される物体3を支持すると共に構築領域を規定する支持体2を有する、コンテナ1を備える。支持体2は、凝固すべき物体の各層が作業面4にあるように鉛直方向に位置を調節される。加えて、電磁放射線により凝固することができる粉末状構築材料3aを塗布するための塗布機5が設けられている。構築材料3aは、貯蔵コンテナ6から塗布機5へ供給される。装置はさらにレーザービーム7aを発生するレーザー源7を備え、レーザービーム7aは偏向手段8によって導入窓9へと偏向され、そこを通って、プロセスチャンバ10へと入り、作業面4内の所定のポイントに集束される。
【0012】
さらに、構築プロセスを実施するよう協調的に装置の構成要素を制御するコントロールユニット11を備える。
【0013】
装置はまた、構築材料の融点より低い作業温度まで塗布された粉末の層を加熱する加熱手段12を備え得る。かかる加熱手段は、合成粉末を構築材料として使用する場合にとりわけ有用である。
【0014】
基本的に知られているレーザー焼結法は、貯蔵コンテナ6から支持体上及び先に凝固した層上にそれぞれ粉末3aを層状に塗布し、かつ物体の横断面に対応する各層の位置でレーザーにより凝固するように行われる。
【0015】
構築材料としては抗菌性を有する粉末を使用する。好ましくは、粉末顆粒1粒1粒が抗菌性を有する。抗菌性とは、粉末及びそれから成る物体それぞれと接触する病原菌の増殖を防止又は少なくとも抑制すること、及び/又は病原菌を死滅させることと理解されたい。抗菌性は、全ての微生物、特に細菌及びウイルスに対してこれまでに記載した作用を包含する。
【0016】
粉末状構築材料は、ベース材料として、合成粉末、特にポリマー、好ましくはポリアミド、特にポリアミド12又はポリアミド11から構成される。しかしながら、ポリスチレン、又はポリアリーレン−ケトン(PAEK)若しくはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の他の合成粉末も考えられる。
【0017】
ベース材料には、抗菌性をもたらす添加剤が与えられる。抗菌性添加剤は、抗菌作用を有する物質を含有する。例えば、かかる物質は貴金属、特に銀であってもよい。この時点で、添加剤は、各粉末顆粒に均質に存在するように粉末中に分布される。故に、各粉末顆粒は、抗菌性を有する。好ましくは、添加剤は、純銀、硝酸銀又は銀の他の塩、銀イオンのような含銀成分、及び他の添加剤の形状で存在する。
【0018】
上述の方法により、各粉末顆粒に抗菌性を有する添加剤が存在するため、このようにして製造された物体の全面が抗菌作用を有する。さらに、多孔質構造を有する部材を焼結する場合には、穴の壁の表面も抗菌作用を有するため、病原菌が穴に溜まることはあり得ない。
【0019】
抗菌性添加剤は、約0.05重量%〜約5重量%の範囲、好ましくは約0.1重量%〜約2.0重量%の範囲で存在する。添加剤は、1つの成分に制限されず、幾つかの成分を含んでいてもよい。
【0020】
以下で、本発明による粉末及び本発明による方法の具体的な実施形態をそれぞれ述べる。第1の実施形態では、購入可能なポリアミド11粉末である、Rilsan(登録商標) Active ES 7580 SA及びRilsan(登録商標) Active T 7547 SA(Arkema社により入手可能)を使用する。両粉末とも、各粉末顆粒に均質に分布する約0.6重量%の銀添加剤を有する。表1にこれらの材料の一般的特徴を示す。
【0021】
【表1】

【0022】
m1/Xm1は、DSC(示差走査熱量)測定における1回目の加熱時の融点及び結晶率である。Tm2/Xm2は試料を2回目に融解した際の相当値である。T/Xは、試料の結晶化温度及び試料の結晶率であり、これらはDSC測定で求められる。
【0023】
表2及び表3は、上述の粉末の粒度分布を示す。
【表2】

【表3】

【0024】
表2においてD50値は約30μm〜40μmであり、表3においてD50値は約110μm〜130μmである。D50値とは、粉末顆粒の少なくとも50%が指示値以下のサイズを有することを意味する。
【0025】
レーザー焼結実験は、本出願人のEOSINT P390により行った。層厚が0.1mmとなるようにRilsan Active ES 7580 SAを塗布した。各未焼結層に対する事前加熱温度は180℃とした。層における加工片の輪郭を二度照射した。図2a)は、Rilsan Active ES 7580SAのレーザー焼結部材の顕微鏡写真を示す(Rilsan Active ES7580SA 0.1mm Layer Mechanic)。層が十分に融解したことが推察され得る。
【0026】
さらなる実施形態では、Rilsan Active ES 7580 SAとRilsan Active T 7547 SAとの混合物を使用した。両粉末を一般的なセメントミキサにより均質に混合した。混合時間は約20分とした。
【0027】
第1の混合物は、その中に、粉末Rilsan Active ES 7580 SA/Rilsan Active T 7547 SAを80/20重量%の混合比で含むものとした。さらなる実施例では、混合比を90/10重量%とした。
【0028】
図3a)及び図3b)は、80/20重量%(図3aの上下)及び90/10重量%(図3bの上下)の混合物Rilsan Active ES 7580 SA/Rilsan Active G 7547 SAのレーザー焼結された加工片を通る20μm厚の断面を示す。それらは、Rilsan Active ES 7580 SAのマトリクス中におけるRilsan Active T 7547 SAの割合の均質な分布を有し、これは、暗い周囲と比較してより明るい領域に見ることができる。
【0029】
表4には、このようにして得られた加工片の機械特性を示す。
【表4】

【0030】
このようにして製造されたレーザー焼結部材は、実際に必要とされる機械特性を有する。このようにして製造された部分の表面及び多孔質の場合には内部表面が抗菌性を有する。
【0031】
抗菌性添加剤の存在は、他の添加剤によって粉末を任意に補うことを排除するものではない。粉末状合成材料はまた、好ましくは同様の化学的基礎原料を有する、種々の合成樹脂、特に種々のポリマーを含有していてもよく、これより、混合物の全成分又はその一部のもののみが抗菌性添加剤を含有していてもよい。
【0032】
本方法は上述のレーザー焼結に制限されない。エネルギー源として、また電子線若しくは拡散光(spreaded-light)、又は加熱源をレーザーの代わりに使用してもよく、これによって、粉末が融解及び凝固する。拡散光又は加熱源の場合、層の局所的な凝固は、例えばマスクによって実現される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁放射線又は粒子放射線の衝突により物体に対応する各層における位置で粉末状構築材料を層状に凝固することによって、三次元物体を製造する方法であって、抗菌性を有する合成粉末を前記構築材料として使用する、三次元物体を製造する方法。
【請求項2】
前記抗菌性が、前記粉末の顆粒に存在する抗菌性添加剤により生じることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記添加剤が前記構築材料の各粉末顆粒に存在することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記合成粉末が、ポリマー、好ましくはポリアミドを含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記合成粉末が、ポリアミド11、ポリアミド12の少なくとも一方を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記添加剤が貴金属、例えば銀を含有することを特徴とする、請求項2〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記貴金属が、金属種又は塩又はイオンとして存在することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記添加剤が、約0.05重量%〜約5重量%、好ましくは約0.1重量%〜約2重量%の比率で存在することを特徴とする、請求項2〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記粉末のD50値が、20μm〜150μm、好ましくは約30μm〜約130μm、特に40μm〜80μmであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
レーザー放射線を放射線として使用することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
電磁放射線又は粒子放射線の衝突により物体に対応する各層における位置で粉末状構築材料を層状に凝固することによって三次元物体を製造するのに適する合成粉末であって、該合成粉末が抗菌性を有し、該合成粉末が、20μm〜150μm、好ましくは約30μm〜約130μm、特に40μm〜80μmのD50値を有することを特徴とする、合成粉末。

【図1】
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【図2】
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【図3a)】
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【図3b)】
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【公表番号】特表2012−523325(P2012−523325A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503912(P2012−503912)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002120
【国際公開番号】WO2010/115587
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(503267906)イーオーエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング イレクトロ オプティカル システムズ (50)
【出願人】(511017254)アルケマ フランス,ソシエテ アノニム (1)
【Fターム(参考)】