説明

抗菌性樹脂成形物およびその製造方法

【課題】 ハロゲン系化合物による抗菌性を発揮し微生物汚染性に優れた表面をもつ樹脂成形物を提供する。
【解決手段】 少なくとも外表面に微多孔性構造が形成された樹脂成形物を、ハロゲン化合物及び/又はハロゲン原子を含有する水溶液中に浸漬させることにより、微多孔性構造の樹脂材中にハロゲン系抗菌剤を吸着させ、抗菌性樹脂成形物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン系抗菌剤を吸着、担持させた抗菌性樹脂成形物およびその製造方法に関する。即ち、ハロゲン系抗菌剤による微生物汚染防御機能を有する抗菌性樹脂成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性をもつハロゲン化合物を貯蔵する物体としては有機クロラミンや次亜塩素酸カルシウムなどが知られ、プールの消毒、飲料水の殺菌などに用いられてきた。しかしながら、これらの有機クロラミンや次亜塩素酸カルシウムは、容易に水に溶解し、一定の表面を長期間微生物汚染から防ぐことができなかった。
【0003】
また、病院やトイレ等で使用される物品の表面を抗菌化するためには、光触媒による活性酸素を放出する表面が用いられ、船底や海洋構造物の防貝、防汚表面には、有機スズ化合物や銅化合物を放出する表面が用いられ、表面における微生物汚染を防ぐことに用いられてきた。しかし、光触媒は光のあるところで使用する場合のみに有効であり、光の届かない場所では使用できないと言う欠点がある。また、有機スズ化合物や銅化合物は、自然環境に悪影響を及ぼすことから、その使用が制限を受けてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、光を必要とせず、環境に有害な物質を放出しない抗菌、防貝、防汚機能を付与するための微生物汚染防御機能を有する新たな抗菌性樹脂成形物を提供することを目的とする。
【0005】
抗菌、防貝、防汚性は物体表面への微生物汚染が引き金となって起こるので、微生物汚染を防御する表面をもつことが有効である。また、これらの分野では表面が、容易な維持管理で長時間機能を発揮することが求められており、塩素を代表とするハロゲン系殺菌剤は、高い酸化性を利用して飲料水の殺菌に用いられるなど、安価で効果の高い殺菌能力をもつ安全な化合物であるが、その酸化剤としての性質により、一般の高分子などはハロゲン化合物と反応し、酸化され物性が劣化するなど、表面を形成する上でハロゲン化合物の使用には大きな制限を受け実用化に至っていない。
【0006】
即ち、本発明は、十分な機械的強度、耐ハロゲン化合物性を併せもち、かつ優れた抗菌、防貝、防汚性能などの微生物汚染防御機能をもつ微多孔性構造を、少なくとも外表面に有する樹脂成形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の抗菌性樹脂成形物は、少なくとも外表面に微多孔性構造が形成された樹脂成形物であって、微多孔性構造の樹脂材中にハロゲン化合物及び/又はハロゲン原子が吸着されていることを特徴とする。
【0008】
ハロゲン化合物を吸着させた微多孔性構造を有する樹脂成形物は、有効な抗菌機能、防貝機能、防汚機能を発現する微生物汚染防御機能を発揮する。このような微多孔性構造を有する樹脂成形物は、特定の樹脂によって微多孔性構造を形成させることにより、大量のハロゲン化合物を吸着し貯蔵し、これによって形成された表面が長時間貯蔵されたハロゲン化合物を放出し、その表面が微生物汚染防御機能を発現することができ、また、その維持管理にはハロゲン化合物水溶液中に浸漬することで、ハロゲン化合物の再吸着を生じさせ、ハロゲン化合物の再貯蔵が行える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、ハロゲン系抗菌剤による抗菌作用を持続的に発揮可能な表面をもつ樹脂成形物を製造することができ、微生物汚染防御機能にすぐれた表面をもつ繊維、膜、成形品等の樹脂製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、少なくとも外表面に微多孔性構造が形成された樹脂成形物は、少なくとも外表面に、比表面積が大きな部分が形成されている樹脂成形物であり、その微多孔性構造部分における比表面積は大きいほど好ましい。この微多孔性構造部分は、相分離法により形成することができ、微多孔性の粉体、繊維状物、膜状物を例示することができる。
【0011】
微多孔性構造を有する樹脂成形物は、ハロゲン化合物による酸化を受けず、物性変化も少なく、微多孔性表面にハロゲン化合物との親和性が高い樹脂により構成される。特に、ポリマの分子構造内に電気的分極をもつ樹脂で構成されることにより、抗菌性を発揮するに十分な量のハロゲン系抗菌剤を吸着させることができる。
【0012】
このような樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂やポリ塩化ビニリデン系樹脂が例示され、なかでもポリフッ化ビニリデン系樹脂が有効である。ポリフッ化ビニリデン系樹脂を素材にして微多孔性樹脂成形物を製造する方法としては、相分離を利用して多孔質を発現する方法が広く用いられている。相分離方法にはポリマー溶液をポリマーに対する非溶媒に接触させ、非溶媒中への溶媒抽出を通じて相分離させる非溶媒誘起相分離法(特公平1−22003号公報など)、熱誘起相分離法(WO2003/031038)、溶融抽出法(特許第2899903号)が用いられる。
【0013】
本発明において、微多孔性構造の樹脂成形物にハロゲン系抗菌剤を吸着させ担持させるためには、微多孔性構造を有する粉体状、繊維状、膜状の樹脂成形物を、ハロゲン化合物及び/又はハロゲン原子を含有する水溶液に浸漬することで達成することができる。
【0014】
ハロゲン化合物及び/又はハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、次亜塩素酸、次亜臭素酸およびそれらの塩から選ばれる。特に、次亜塩素酸塩水溶液は水処理で大量に使用されており、安価にしかも容易に入手することが可能であり、微生物汚染防御機能が強く発現するので好ましい。
【0015】
本発明において、微多孔性の外表面をもつ樹脂成形物は、微多孔性構造を有する粉体状、繊維状、膜状の樹脂材料をバインダーなどで基材表面に付着させる方法によって製造してもよい。そのバインダーとしては、有機、無機のバインダーが用いられ、ウレタン、エポキシ、シリコーンなどの室温硬化型接着剤や、コンクリートセメントなどが用いられる。粉体の場合は基材表面にバインダーを施し、その上に粉体を吹き付けて表面を形成する。また、繊維状の場合、繊維から織布あるいは不織布を形成し、これを基材上に貼り付けることもできる。膜状の場合には、単にこれを貼り付けることが可能であり、表面の形成は容易である。また、ハロゲン化合物の貯蔵は表面を形成する前でも後でも可能である。
【0016】
以下、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0017】
本発明におけるハロゲン系抗菌剤を吸着させた微多孔性構造の外表面を有する樹脂成形物は、繊維、膜等の種々の形状をとることができるので、病院や医療機関、食品工場の壁、机、衣類、手術服、マスク、輸送管などに用いることができる。また、客船、貨物船、タンカー等の船底や、堤防、海水取水管、浮き、ブイ、海洋工事用フェンスなどの海洋構造物に用いることができる。
【0018】
本発明の樹脂成形物における微多孔性構造体は、一般にはハロゲン化合物耐性の高分子を用いて粉体、繊維、膜の形状に製造し、これらを構造物の表面付着、貼り付けなどして用いる。微多孔性構造体は、機械的強度とハロゲン化合物への耐性、ハロゲン化合物の吸着性を考慮するとポリフッ化ビニリデン系樹脂がもっとも良い結果を与える。
【0019】
本発明におけるポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンホモポリマーおよび/またはフッ化ビニリデン共重合体を含有する樹脂のことである。複数の種類のフッ化ビニリデン共重合体を含有しても構わない。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニリデン残基構造を有するポリマーならば特に限定されず、典型的にはフッ化ビニリデンモノマーとそれ以外のフッ素系モノマーとの共重合体であり、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれた1種類以上のフッ素系モノマーとフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。場合によっては、フッ素系モノマー以外の例えばエチレン等のモノマーが含まれていても良い。
【0020】
このように、ポリフッ化ビニリデン系樹脂等の、ポリマー中に双極子をもちハロゲン化合物やハロゲン原子に対して耐性のある樹脂から構成される比表面積の大きい微多孔性構造が外表面に形成させた樹脂成形物を利用すれば、表面にハロゲン系抗菌剤を高濃度で吸着させることができ、これを用いることによって、ハロゲン系抗菌剤による優れた抗菌性能を発揮できる樹脂成形物を製造でき、多くの微生物汚染に関する問題を解決することができる。
【実施例】
【0021】
以下に具体的実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
重量平均分子量(Mw)が4.17×105のフッ化ビニリデンホモポリマー40重量%とγ−ブチロラクトン60重量%を150℃で溶解させて均一溶液を得た。このポリマー溶液を110℃で静置、脱泡した後、繊維成形用口金から吐出した。乾式長4cmの後、液温5℃のγ−ブチロラクトン80重量%および水20重量%からなる冷却浴に浸漬させ、押出速度6.0m/min、平均降温速度14250℃/minの条件で、冷却浴中でゲル化させ、次いで、80℃の熱水浴中で1.5倍延伸し、ポリフッ化ビニリデン繊維を得た。
【0023】
この繊維は外径1.3ミリメートル、破断強力1500グラム/本であり、繊維構造は粒径1.8μmの球晶が積層し、球晶の隙間に空孔が連結した微多孔構造をとっていた。
【0024】
得られた微多孔繊維18グラムを、遊離塩素濃度60ミリグラム/リットルの次亜塩素酸ナトリウム水溶液10ミリリットルの中に浸漬した。浸漬2時間を経過したところ、水溶液の遊離塩素濃度は2ミリグラム/リットルに低下し、遊離塩素の大部分は繊維中に吸着されていた。繊維1グラム中に吸着された遊離塩素は、32ナノグラムと計算された。
【0025】
遊離塩素を吸着させた繊維1グラムを、脱塩素した水道水中に1週間浸漬した。その直後に、その表面のバイオフィルム量をアデノシン3燐酸として定量したところ、5ミリグラム−ATP/平方センチメートルであり、ほとんどバイオフィルムは形成していなかった。
【0026】
[比較例1]
実施例1で製造した微多孔性繊維であって次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬させる前の状態の繊維の1グラムを、脱塩素した水道水中に1週間浸漬した。その直後に、その表面のバイオフィルム量をアデノシン3燐酸として定量したところ、100ミリグラム−ATP/平方センチメートルであり、明らかにバイオフィルムが形成されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも外表面に微多孔性構造が形成された樹脂成形物であって、微多孔性構造の樹脂材中にハロゲン化合物及び/又はハロゲン原子が吸着されていることを特徴とする樹脂成形物。
【請求項2】
微多孔性構造の樹脂材が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂及び/又はポリ塩化ビニリデン系樹脂から構成される微多孔性構造材であることを特徴とする請求項1記載の樹脂成形物。
【請求項3】
微多孔性構造の樹脂材中に吸着されたハロゲン化合物及び/又はハロゲン原子が、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、次亜塩素酸、次亜臭素酸およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種の抗菌剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂成形物。
【請求項4】
微多孔性構造の樹脂材中に吸着されたハロゲン化合物及び/又はハロゲン原子が、塩素、次亜塩素酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種の抗菌剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂成形物。
【請求項5】
樹脂成形物の形状が、粉体状、繊維状、膜状のいずれかの形態であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂成形物。
【請求項6】
微多孔性構造の樹脂材が、相分離法によって形成された微多孔性構造を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂成形物。
【請求項7】
少なくとも外表面が微多孔性構造を有する樹脂材からなる樹脂成形物を、ハロゲン化合物及び/又はハロゲン原子を含有する水溶液中に浸漬することにより、微多孔性構造の樹脂材中にハロゲン化合物及び/又はハロゲン原子が吸着させ、請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂成形物を製造することを特徴とする樹脂成形物の製造方法。

【公開番号】特開2008−214502(P2008−214502A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54128(P2007−54128)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】