説明

抗菌機能材

【課題】導電性酸化亜鉛による抗菌が十分に発揮される抗菌機能材を提供する。
【解決手段】Al及び/又はGaドープ酸化亜鉛粒子を含有する無機バインダーが基材表面に焼き付けられてなる抗菌機能材。無機バインダーとしては水ガラスが好適である。好ましくはGaドープ酸化亜鉛を水に分散させ、これを水ガラス水溶液に添加し、混合してスプレー液を調製し、これを基材にスプレーし、乾燥後、150〜700℃に加熱して焼き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス、釉薬、タイル素地などの基材の表面を抗菌化してなる抗菌機能材に係り、特に抗菌剤として導電性酸化亜鉛を用いた抗菌機能材に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性酸化亜鉛が抗菌性を有することは、特開2002−104823号公報などに見られる通り広く知られている。同号公報の0023段落には、導電性酸化亜鉛としてアルミニウム、インジウム又はスズをドープした酸化亜鉛が記載されている。同号公報の0041〜0043段落には、導電性酸化亜鉛を繊維質材料に定着させたり、合成樹脂や塗料中に含有させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−104823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
導電性酸化亜鉛を基材表面に定着させただけでは、基材表面の表面に導電性酸化亜鉛粒子が分散状に存在するだけであり、抗菌性能が低い。また、導電性酸化亜鉛粒子が基材表面から脱落し易い。導電性酸化亜鉛等の抗菌剤をタイル表面にショットピーニングすることも知られているが、集塵ロスが多いため、抗菌剤の消費量が多く、経済的でない。
【0005】
導電性酸化亜鉛を合成樹脂や塗料中に混入させた場合、基材内部に存在する導電性酸化亜鉛は抗菌作用に全く又は殆ど寄与しない。抗菌作用を強くするためには導電性酸化亜鉛を多量に添加する必要があるが、このように導電性酸化亜鉛を多量に添加したのでは、基材の特性が損なわれるおそれがある。
【0006】
本発明は導電性酸化亜鉛による抗菌が十分に発揮される抗菌機能材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(請求項1)の抗菌機能材は、Al及び/又はGaドープ酸化亜鉛粒子を含有する無機バインダーが基材表面に焼き付けられてなるものである。
【0008】
請求項2の抗菌機能材は、請求項1において、酸化亜鉛がイオン化し、無機バインダー中に拡散していることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の抗菌機能材は、請求項1又は2において、酸化亜鉛がイオン化し、該基材表面中に拡散していることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の抗菌機能材は、請求項1ないし3のいずれか1項において、無機バインダーが水ガラスであることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の抗菌機能材は、請求項1ないし4のいずれか1項において、酸化亜鉛粒子にGaがドープされていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抗菌機能材は、基材表面に導電性酸化亜鉛を無機バインダーによって焼き付けたものである。この抗菌機能材では、導電性酸化亜鉛は無機バインダー中に拡散しており、基材表面に導電性酸化亜鉛が満遍なく存在するので、抗菌作用が良好である。
【0013】
本発明では、導電性酸化亜鉛含有無機バインダー層が基材表面に焼き付けられており、導電性酸化亜鉛の剥落等がなく、耐久性も良好である。また、製造時の抗菌剤のロスも少ない。
【0014】
本発明では、導電性酸化亜鉛としてAl及び/又はGaドープ酸化亜鉛を用いる。本発明者の研究結果によると、このAl及び/又はGaドープ酸化亜鉛、特にGaドープ酸化亜鉛は、InやSnをドープした酸化亜鉛に比べて抗菌作用に優れることが認められた。
【0015】
なお、導電性酸化亜鉛がイオン化して無機バインダー中や、基材表面に拡散している場合には、抗菌作用が良好なものとなる。無機バインダーとして水ガラスを用いた場合には、150〜800℃程度の低温で焼き付けることにより、導電性酸化亜鉛が無機バインダー中にイオン化して拡散する。酸化亜鉛がガラスのネットワーク中に拡散することにより、ガラスネットワークが強化されるという効果も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0017】
<導電性酸化亜鉛>
本発明で用いる導電性酸化亜鉛は、Al及び/又はGaドープ酸化亜鉛であり、通常はコストの面からAlのみ又はGaのみをドープした酸化亜鉛を用いる。Alのドープ量は酸化亜鉛1gに対し1〜200mg特に10〜70mg程度が好適であり、Gaのドープ量は酸化亜鉛1gに対し1〜200mg特に10〜70mg程度である。
【0018】
焼き付け前の導電性酸化亜鉛の平均粒径は5〜100nm特に10〜50nm程度が好適である。この平均粒径は、電子顕微鏡の撮像から計測した値である。
【0019】
<無機バインダー>
無機バインダーとしては水ガラスが好適であり、特に3号〜4号珪酸ナトリウム水ガラスが好適である。
【0020】
<基材>
基材としては、ガラス製品(ガラス板、ガラス工芸品など)、タイル焼成素地(施釉、無釉)及び無釉タイル未焼成素地などのセラミック質のものが好適である。
【0021】
<導電性酸化亜鉛と無機バインダーとの混合及び焼き付け>
導電性酸化亜鉛と無機バインダー中の水ガラス固形分量との比は、重量比で10/100〜150/100程度、特に25/100〜75/100程度が好適である。
【0022】
水ガラスは、0.5〜10wt%特に1〜7wt%程度の水溶液とされることが好ましい。導電性酸化亜鉛は、水に分散させた後、この水溶液に添加されることが好ましい。この導電性酸化亜鉛が分散した水ガラス水溶液は、スプレー法、浸漬法、塗布法、蒸着法、スパッタ法など、特にスプレー法により基材表面に付着されるのが好ましい。この際、導電性酸化亜鉛が基材表面100cm(10cm×10cm)当り0.0001〜1.0mg特に0.05〜0.2mg存在するように付着させるのが好ましい。
【0023】
その後、必要に応じ乾燥させた後、好ましくは150〜800℃特に好ましくは300〜500℃で1〜200分特に5〜60分程度加熱処理して導電性酸化亜鉛含有無機バインダーを基材表面に焼き付ける。
【0024】
無機バインダーが水ガラスの場合、導電性酸化亜鉛がイオン化してガラスのネットワーク中に拡散し、ガラスネットワークが強化されると共に、高い抗菌性能が得られる。
【0025】
水ガラスに顔料を添加しない場合、生成した焼き付け層は無色透明であり、基材表面に外観上の変化は全く又は殆どない。ただし、水ガラスに対し顔料を加えておくことにより焼き付け層に着色を施してもよい。
【0026】
基材表面がガラスや釉薬、タイル素地などのセラミック質である場合、酸化亜鉛の一部はこれらの基材表面中にも拡散することがある。
【0027】
このように無機バインダーを用いて導電性酸化亜鉛を基材表面に焼き付けてなる抗菌機能材は、この抗菌機能材の実質的に最表面部分にのみ導電性酸化亜鉛が存在しており、用いた導電性酸化亜鉛のすべて又は大部分が抗菌作用に寄与する。また、導電性酸化亜鉛は無機バインダー中に拡散して基材表面に満遍なく存在するので、抗菌作用が良好である。特に、無機バインダーとして水ガラスを用いると、導電性酸化亜鉛がイオン化して水ガラス由来ガラス層中に拡散するので、少量の導電性酸化亜鉛使用量で十分な抗菌作用が得られる。また、このガラス層の基材表面への付着力が高いと共に、酸化亜鉛がガラスネットワークを強化する作用も有するので、抗菌作用が長期にわたって発揮される。
【0028】
なお、本発明で用いるAl及び/又はGaドープ酸化亜鉛は、150℃以上の温度で焼き付けられることにより導電性は消失するので、抗菌機能材表面に存在する状態では通常は非導電性酸化亜鉛となっている。
【0029】
本発明では、抗菌作用をさらに高めるために、銀などの他の抗菌材を加えて焼き付けを行ってもよい。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
導電性酸化亜鉛としてGaドープ酸化亜鉛(Ga含有量50mg/g、平均粒径30nm)を用い、無機バインダーとして3号水ガラスを用いた。Gaドープ酸化亜鉛を水に分散させ、これを水ガラス水溶液に添加し、混合してスプレー液を調製した。これを施釉陶器質タイル(100×100×5mm)の表面に常温にてスプレーした。乾燥後、150℃、200℃、300℃、400℃又は700℃で空気雰囲気中で30分加熱して焼き付けを行った。
【0031】
その他の主な条件は次の通りである。
【0032】
スプレー液の組成
珪酸ナトリウム:固形分として2.0wt%
導電性酸化亜鉛:1wt%
残部:水
スプレーによる付着量:酸化亜鉛として10mg/100cm
得られた抗菌性タイルの表面の抗菌活性をJIS Z 2801によって評価した。結果を表1,2に示す。
【0033】
なお、得られた抗菌性タイル表面についてX線回折測定を行い、ZnOメインピーク(CuKα,2θ=36.159°)の高さを測定した。後述の比較例1の焼付前(塗布後)のピーク高さを100%としたときのデータを表3に示す。
【0034】
[実施例2]
導電性酸化亜鉛としてAlドープ酸化亜鉛(Al含有量50mg/g、平均粒径30nm)を用いたこと以外は実施例1と同様とした。結果を表1〜3に示す。
【0035】
[比較例1]
導電性酸化亜鉛としてInドープ酸化亜鉛(In含有量50mg/g、平均粒径30nm)を用いたこと以外は実施例1と同様とした。結果を表1〜3に示す。
【0036】
[比較例2]
導電性酸化亜鉛としてSnドープ酸化亜鉛(Sn含有量50mg/g、平均粒径30nm)を用いたこと以外は実施例1と同様とした。結果を表1〜3に示す。
【0037】
[比較例3]
酸化亜鉛として何もドープしていない酸化亜鉛(平均粒径30nm)を用いたこと以外は実施例1と同様とした。結果を表1〜3に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
[考察]
表1,2の通り、本発明によると、比較例1〜3に比べて高い抗菌活性が得られる。特に、Gaをドープすることにより高い抗菌活性が得られる。
【0042】
なお、焼き付けた酸化亜鉛含有ガラス層の耐水性を調べるために、実施例1及び比較例1のタイルを90℃の温水に16時間浸漬した後、抗菌活性を同様にして測定して結果を表4に示した。
【0043】
【表4】

【0044】
表4の通り、実施例1のタイルは温水浸漬後でも高い抗菌性能を有していることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al及び/又はGaドープ酸化亜鉛粒子を含有する無機バインダーが基材表面に焼き付けられてなる抗菌機能材。
【請求項2】
請求項1において、酸化亜鉛がイオン化し、無機バインダー中に拡散していることを特徴とする抗菌機能材。
【請求項3】
請求項1又は2において、酸化亜鉛がイオン化し、該基材表面中に拡散していることを特徴とする抗菌機能材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、無機バインダーが水ガラスであることを特徴とする抗菌機能材。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、酸化亜鉛粒子にGaがドープされていることを特徴とする抗菌機能材。

【公開番号】特開2011−190155(P2011−190155A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59421(P2010−59421)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】