抗血管新生活性を有する組換えアデノウイルス
本発明は、(a)アデノウイルスの逆方向末端反復(inverted terminal repeat)ヌクレオチド配列と、(b)(i) VEGFR−1(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor 1)の細胞外ドメインと(ii)VEGFR−2(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor 2)の細胞外ドメインとを含むキメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列と、を含む血管新生抑制能の改善された組換えアデノウイルス、及びこれを含む血管新生抑制用医薬組成物に関する。キメラデコイ受容体を発現する本発明の組換えアデノウイルスは、血管新生を非常に効果的に抑制し、多様な血管新生関連疾患の遺伝子治療剤として利用することができる。特に、本発明の組換えアデノウイルスは、腫瘍崩壊能に優れている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キメラデコイ受容体を発現する血管新生抑制能の改善された組換えアデノウイルス及びこれを含む薬剤学的血管新生抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の血管から新しい血管が形成される血管新生は、厳密に調節される一連の過程であって、細胞外基質と基底膜の分解を介して始まり、毛細血管内皮細胞の分裂、分化、周辺基質への浸潤、そして新しい機能的ネットワークへの再組織化を通じて完成される1。血管新生のためには、様々な種類の増殖因子が必要であり、これらのうち、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor,VEGF)、特にVEGF−Aが主に関与することが明らかにされている。特異的スプライシングにより形成される7種類のヒトVEGF−Aアイソフォーム(VEGF121,VEGF145,VEGF148,VEGF165,VEGF183,VEGF189,VEGF206)は、それぞれ121,145,148,165,183,189そして206個のアミノ酸残基から構成されており、このうち、VEGF121の基本配列は、全てのアイソフォームに共有されている2−4。
【0003】
VEGFとVEGF受容体の結合により、血管内皮細胞の細胞アポトーシスの抑制、リンパ管形成、免疫抑制、血管透過性、そして造血幹細胞の生存などが調節される4−7。
【0004】
固形癌は、血管がない状態で2mm〜3mmの大きさまで育つことができるが、それ以上の成長のためには、酸素と栄養素の供給のために、VEGFにより誘導される血管新生が必須である。正常な組織において、血管ネットワークは、誘導因子と抑制因子の適切な比率を通じて、効果的な血流速度と均一な血管の幅を有した階層的構造を備える5。しかし、腫瘍で見られる血管系は、血管壁による透過性が増加されていて、高い内圧を有しており、血管が大きくなっているなど、異常に発達している。腫瘍における制御されていない血管新生及び異常な血管の形態は、腫瘍内部の低酸素症と低いpHにより高発現されるVEGFと、これの受容体であるVEGFR2との結合により生じる細胞内情報により起こる9。
【0005】
VEGFによる血管新生は、腫瘍の成長だけではなく、浸潤と転移にも重要な役割を果たす10。肺癌、胃癌、腎臓癌、膀胱癌、卵巣癌、そして子宮癌のような多様な腫瘍において、VEGFが過剰発現されていることが示され、VEGFの発現が高い癌であるほど、予後もよくないことが報告された11。腫瘍の増殖に血管新生による血流供給の増加は必須であるため、腫瘍内血管新生の抑制は、癌治療の主要な標的になっており、アンギオスタチン、エンドスタチン、スロンボスポンディン−1、そしてuPA断片などが、現在血管新生抑制剤として利用されている。また、VEGFの活性を抑制するか、VEGFの細胞受容体であるVEGFR−1(Flt−1)又はVEGFR−2(KDR)の機能を抑制することにより、腫瘍の成長を抑制するか転移を抑制する研究が活発に進行されている12−16。細胞内だけではなく、細胞外でもVEGFと細胞受容体との結合を阻害できる中和抗体や、VEGFR−1又はVEGFR−2特異的中和抗体は、ヌードマウスに形成されたヒト腫瘍異種移植片を処理した場合、血管内皮細胞の細胞アポトーシスを誘導して、腫瘍の成長を著しく抑制した17。
【0006】
VEGFトラップは、細胞表面にあるVEGFR1とVEGFR2のドメインを結合して作製した水溶性デコイ(おとり)VEGF受容体であって、VEGFと高い親和性を有している。現在までVEGFトラップに関する研究がたくさんなされており、それにより、VEGF−A、VEGF−B、そして胎盤増殖因子(placental growth factor,PGF)に対する親和性がさらに増加されたVEGFトラップが作製されている18。様々な腫瘍異種移植モデルで行われた前臨床試験において、VEGFトラップの抗腫瘍効果が検証されて19−21、VEGFトラップ又は抗癌剤のそれぞれ単独で処理した場合に比べ、商用的に利用される抗癌剤とVEGFトラップとの併用治療時に向上された腫瘍成長抑制効果が見られた22。VEGFトラップがVEGFモノクローナル抗体であるベバシズマブやVEGFR2抗体であるDC101に比べて優れた抗腫瘍効果を示す理由は、全てのVEGFアイソフォームとの高い親和性だけではなく、VEGFサブファミリーのうち、PGFとの結合能も有しているからである23。したがって、VEGFとの親和性が強いVEGFトラップを腫瘍内で持続的に発現させることができれば、腫瘍から分泌されるVEGFの発現量を著しく減少させて、優れた抗腫瘍効果を奏することができ、これを通じて、相当な治療効果が得られると期待される。
【0007】
アデノウイルスは、優れた遺伝子伝達体であって、高い力価で産生が可能であり、容易に濃縮できるため、癌遺伝子治療のための遺伝子伝達体として脚光を浴びている24−25。しかしながら、アデノウイルスを利用した癌遺伝子治療剤が臨床的に利用されるためには、周辺の正常組織の細胞には副作用無しに、癌細胞のみを特異的に殺傷できるような特異性と共に、癌細胞を効果的に死滅できる殺傷能の高いアデノウイルスの開発が必要である。腫瘍細胞では、p53タンパク質の変異だけではなく、繊維芽細胞腫タンパク質(retinoblastoma protein,pRb)の変異が頻繁に生じるか、あるいはpRb関連情報系が相当部分損傷されているため、pRbとの結合能を失ったアデノウイルスは、正常細胞では、pRbの活性によりアデノウイルスの複製が抑制されるが、pRbの機能が抑制された腫瘍細胞では、活発に複製されて、癌細胞を特異的に殺傷することができる。このような背景下で、本発明者らは、腫瘍特異的殺傷アデノウイルスの癌細胞特異的複製能を増進させるために、アデノウイルスのE1A遺伝子部位のうち、pRbとの結合に関与するCR1部位のGlu残基をGly残基に置換し、CR2部位の7個のアミノ酸残基(DLTCHEA)を全てGly残基(GGGGGGG)に置換することにより、pRbとの結合能を欠失させ、同時にp53タンパク質の機能を抑制するE1B55kDaとアポトーシスを抑制するE1B19kDa遺伝子を除去することにより、p53が不活化された腫瘍細胞においてのみ特異的に複製が可能であり、これによる癌細胞特異的細胞殺傷及び細胞アポトーシスを同時に誘発できるような、改善された腫瘍特異的殺傷アデノウイルスであるAd−ΔB7を作製して、優れた生体内・外抗腫瘍効果を報告した26−28。
【0008】
本明細書全体にかけて多数の引用文献及び特許文献が参照されて、その引用が表示されている。引用された文献及び特許の開示内容は、その全体が本明細書に参照として取り込まれ、本発明の属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、外来配列をアデノウイルスゲノムに挿入させる戦略でアデノウイルスの血管新生抑制能、特に腫瘍崩壊(oncolytic)能を向上させるために鋭意研究した結果、VEGFRのキメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列をアデノウイルスのゲノムに挿入して発現させると、前記アデノウイルスの血管新生抑制能、特に腫瘍崩壊能が顕著に向上することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
したがって、本発明の目的は、キメラデコイ受容体を発現する、血管新生抑制能の改善された組換えアデノウイルスを提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、キメラデコイ受容体を発現する組換えアデノウイルスを含む血管新生抑制用医薬組成物を提供することにある。
【0012】
本発明のまた他の目的は、過多血管新生による疾患の予防又は治療方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的及び利点は、発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図面により、さらに明確にされる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一様態によると、本発明は、(a)アデノウイルスの逆方向末端反復(inverted terminal repeat;ITR)ヌクレオチド配列と、(b)(i)VEGFR−1(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor 1)の細胞外ドメインと(ii)VEGFR−2(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor 2)の細胞外ドメインとを含むキメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列と、を含む血管新生抑制能の改善された組換えアデノウイルスを提供する。
【0015】
本発明者らは、外来配列をアデノウイルスゲノムに挿入させる戦略でアデノウイルスの血管新生抑制能、特に腫瘍崩壊能を向上させるために鋭意研究した結果、VEGFRのキメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列をアデノウイルスのゲノムに挿入して発現させると、アデノウイルスの血管新生抑制能、特に腫瘍崩壊能が大きく向上することを見出した。
【0016】
既存の血管から新しい血管が形成される血管新生は、腫瘍が成長して転移されるのに非常に重要な役割を果たす。血管新生が起こるためには、種々の増殖因子が必要であるが、これらのうち、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が血管新生に主に関与することが明らかにされた。
【0017】
本発明のアデノウイルスベクターに挿入されるVEGFR−1の細胞外ドメインと、VEGFR−2の細胞外ドメインとを含むキメラデコイ受容体は、いわゆるVEGFトラップの一種であって、VEGF−A、VEGF−B、そしてPGFに対する親和性に優れており、これらの増殖因子に対するデコイ受容体として作用して、血管新生を抑制する。
【0018】
本明細書で使用される用語‘デコイ受容体’は、VEGF−A、VEGF−B、PGF、又はこれらの全てに結合して、これらの増殖因子が正常な受容体と結合することを抑制する受容体を意味する。
【0019】
本明細書で使用される用語‘キメラデコイ受容体’は、VEGFR−1由来の細胞外ドメインとVEGFR−2由来の細胞外ドメインを結合して製造された受容体を意味する。
【0020】
本発明で利用されるキメラデコイ受容体は、VEGFR−1の7個の細胞外ドメインのうち、少なくとも1つの細胞外ドメインと、VEGFR−2の7個の細胞外ドメインのうち、少なくとも1つの細胞外ドメインとを結合して得られるキメラ受容体である。
【0021】
本発明の好ましい具体例によると、前記キメラデコイ受容体は、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメインと、を含む。
【0022】
より好ましくは、前記キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−1の第1細胞外ドメインと、VEGFR−2の第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、(ii)VEGFR−1の第2細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、(iii)VEGFR−1の第3細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、(iv)VEGFR−1の第4細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、並びに(v)VEGFR−1の第5細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメインを含む。
【0023】
あるいは、前記キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−2の第1細胞外ドメインと、VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、(ii)VEGFR−2の第2細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、(iii)VEGFR−2の第3細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、(iv)VEGFR−2の第4細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、並びに(v)VEGFR−2の第5細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメインを含む。
【0024】
本発明で利用されるキメラデコイ受容体は、好ましくは、2個〜4個の細胞外ドメイン、最も好ましくは、3個の細胞外ドメインを含む。
【0025】
さらに好ましいものとしては、キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、VEGFR−1の第2細胞外ドメイン及びVEGFR−2の第3細胞外ドメイン、(ii)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン及びVEGFR−2の第4細胞外ドメイン、又は(iii)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン、VEGFR−2の第4細胞外ドメイン及びVEGFR−2の第5細胞外ドメインを含むものである。
【0026】
別のさらに好ましいものとしては、キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン及びVEGFR−1の第4細胞外ドメイン、又は(ii)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン、VEGFR−1の第4細胞外ドメイン及びVEGFR−1の第5細胞外ドメインを含むものである。
【0027】
最も好ましくは、本発明で利用されるキメラデコイ受容体は、VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン及びVEGFR−2の第4細胞外ドメインを含む。
【0028】
VEGFR−1及びVEGFR−2のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、GenBankで確認することができる。例えば、VEGFR−1の第2細胞外ドメインのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、配列番号1及び2の配列であり、VEGFR−2の第3細胞外ドメインのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、配列番号3及び4の配列であって、VEGFR−2の第4細胞外ドメインのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、配列番号5及び6の配列である。
【0029】
本発明の好ましい具体例によると、前記キメラデコイ受容体は、免疫グロブリン(Ig)のFc領域と融合される。より好ましくは、本発明で利用されるキメラデコイ受容体は、IgGのFc領域、最も好ましくは、ヒトIgGのFc領域と融合されている。IgのFc領域は、前記キメラデコイ受容体のN末端又はC末端と、好ましくは、C末端と融合される。
【0030】
好ましいIgのFc領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、配列番号7及び8に記載されている。
【0031】
キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列は、アデノウイルスゲノムに挿入される。
【0032】
キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列は、適切な発現コンストラクト内に存在することが好ましい。前記発現コンストラクトにおいて、キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列は、プロモーターに機能的に連結されることが好ましい。本明細書において、用語‘機能的に結合された’は、核酸発現調節配列(例えば、プロモーター、シグナル配列、又は転写因子結合部位の配列)と他の核酸配列との機能的な結合を意味し、これにより、前記調節配列は、前記他の核酸配列の転写及び/又は翻訳を調節するようになる。本発明において、キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列に結合されたプロモーターは、好ましくは、動物細胞、より好ましくは、哺乳動物細胞で機能し、キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列の転写を調節することができるものであって、哺乳動物ウイルス由来のプロモーター及び哺乳動物細胞のゲノム由来のプロモーターを含み、例えば、U6プロモーター、H1プロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、HSVのtkプロモーター、RSVプロモーター、EF1αプロモーター、メタロチオネインプロモーター、βアクチンプロモーター、ヒトIL−2遺伝子のプロモーター、ヒトIFN遺伝子のプロモーター、ヒトIL−4遺伝子のプロモーター、ヒトリンホトキシン遺伝子のプロモーター、ヒトGM−CSF遺伝子のプロモーター、誘導性プロモーター、癌細胞特異的プロモーター(例えば、TERTプロモーター、PSAプロモーター、PSMAプロモーター、CEAプロモーター、E2Fプロモーター及びAFPプロモーター)及び組織特異的プロモーター(例えば、アルブミンプロモーター)を含むが、これに限定されるものではない。最も好ましくは、CMVプロモーターである。
【0033】
癌を対象に遺伝子治療を行う場合は、一生治療遺伝子の発現を持続させる必要がなく、局所投与する場合は、アデノウイルスによる免疫反応が大きく問題化されないばかりか、却って長所になり得るため、アデノウイルスを利用した癌遺伝子治療剤の開発研究が活発になされている。したがって、本発明でも、基本的にアデノウイルスのゲノム骨格を利用して癌の遺伝子治療を達成している。
【0034】
アデノウイルスは、中間程度のゲノム大きさ、操作の利便性、高いタイター、広範囲なターゲット細胞性及び優れた感染性のため、遺伝子伝達ベクターとしてよく利用されている。ゲノムの両末端は、100bp〜200bpの逆方向末端反復を含み、これは、DNA複製及びパッケージングに必須なシスエレメントである。ゲノムのE1領域(E1A及びE1B)は、転写及び宿主細胞遺伝子の転写を調節するタンパク質をコードする。E2領域(E2A及びE2B)は、ウイルスDNA複製に関与するタンパク質をコードする。
【0035】
アデノウイルスゲノムの少しの部分だけがシスエレメントとして必要であるので(Tooza,J. Molecular biology of DNA Tumor viruses,2nd ed. Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1981))、特に、293細胞のような特定細胞株を利用する場合に、アデノウイルスDNAの多くを外来DNA分子に置換することができる。このような側面として、本発明の組換えアデノウイルスにおいて、キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列以外に、他のアデノウイルスの配列として少なくとも逆方向末端反復配列を含む。
【0036】
キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列は、E1領域(E1A領域及び/又はE1B領域、好ましくは、E1B領域)、又はE3領域に挿入されることが好ましく、より好ましくは、E3領域に挿入される。一方、他の外来ヌクレオチド配列(例えば、サイトカイン、免疫共刺激因子、アポトーシス遺伝子、及び癌抑制遺伝子)も追加的にアデノウイルスに挿入することができて、これは、E1領域(E1A領域及び/又はE1B領域、好ましくは、E1B領域)又はE3領域に挿入されることが好ましく、より好ましくは、E1領域(E1A領域及び/又はE1B領域、好ましくは、E1B領域)に挿入される。また、前記挿入配列は、E4領域にも挿入できる。
【0037】
また、アデノウイルスは、野生型ゲノムの約105%までパッケージングすることができるため、約2kbを追加的にパッケージングすることができる。したがって、アデノウイルスに挿入される上述の外来配列は、アデノウイルスの野生型ゲノムに追加的に挿入することもできる。
【0038】
本発明の好ましい具体例において、本発明の組換えアデノウイルスは、不活化されたE1B19kDa(「E1B19」とも記載)遺伝子、E1B55kDa(「E1B55」とも記載)遺伝子、又はE1B19kDa/E1B55kDa(「E1B19/55」とも記載)遺伝子を有する。本明細書において、遺伝子と関連して使用される用語‘不活化’は、その遺伝子の転写及び/又は翻訳が正常になされず、その遺伝子によりコードされる正常なタンパク質の機能が誘発されないことを意味する。例えば、不活化E1B19kDa遺伝子は、その遺伝子に変異(置換、付加、部分的欠失、又は全体的欠失)を生じ、活性型のE1B19kDaタンパク質を産生できない遺伝子である。E1B19kDa遺伝子が欠失された場合は、細胞アポトーシス能が増加して、E1B55kDa遺伝子が欠失された場合は、腫瘍細胞特異性を有するようになる(参照:大韓民国特許出願第2002−23760号)。本明細書において、ウイルスゲノム配列と関連して使用される用語‘欠失’は、該当配列が完全に欠失されたものだけではなく、部分的に欠失されたものも含む意味を有する。
【0039】
本発明の好ましい具体例によると、本発明の組換えアデノウイルスは、活性型のE1A遺伝子を含む。E1A遺伝子を含む組換えアデノウイルスは、複製可能な特性を有するようになる。本発明のより好ましい具体例によると、本発明の組換えアデノウイルスは、不活化されたE1B19kDa遺伝子及び活性型のE1A遺伝子を含む。本発明のさらに好ましい具体例によると、本発明の組換えアデノウイルスは、不活化されたE1B19kDa遺伝子及び活性のE1A遺伝子を含み、キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列は、欠失されたE3領域に挿入される。
【0040】
本発明の最も好ましい具体例によると、本発明の組換えアデノウイルスは、不活化されたE1B19kDa遺伝子、及び変異をもつ活性型のE1A遺伝子を含み、キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列は、欠失されたE3領域に挿入されているものである。ここで、変異をもつ活性型のE1A遺伝子は、Rb結合部位をコードするヌクレオチド配列のうち、第45番目Glu残基がGly残基に置換された変異及び第121番目〜127番目アミノ酸残基が全てGly残基に置換された変異を有する。
【0041】
腫瘍細胞では、p53タンパク質の変異だけではなく、Rbの突然変異あるいはRb関連情報系が相当部分損傷されているため、Rbとの結合能が欠失されたアデノウイルスは、正常細胞では、Rbの活性によりアデノウイルスの複製が抑制されるが、Rbの機能が抑制された腫瘍細胞では、活発に複製されて、癌細胞を特異的に殺傷することができる。したがって、上述のRb結合部位における変異を含む本発明の組み換えアデノウイルスは、特異的な腫瘍崩壊性を示す。
【0042】
下記の実施例で例証されたように、キメラデコイ受容体を発現する本発明の組換えアデノウイルスは、VEGFによる血管新生、特に、VEGFによる腫瘍細胞における血管新生を特異的に抑制することにより、抗腫瘍効果をもたらす。そして、キメラデコイ受容体を発現する本発明の組換えアデノウイルスは、低い力価のウイルスでも高い殺傷効果を誘導することができるため、投与された体内における安全性に非常に優れている。
【0043】
本発明の他の様態によると、本発明は、(a)上述の組換えアデノウイルスの治療学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体と、を含む抗血管新生組成物を提供する。
【0044】
本発明のまた他の様態によると、本発明は、(a)上述の組換えアデノウイルスの治療学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体とを含む抗血管新生組成物を、これを必要とする対象に投与する段階を含む過多血管新生による疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0045】
本発明の薬剤学的組成物に有効成分として含まれる組換えアデノウイルスは、上述の本発明の組換えアデノウイルスと同一なものであるため、組換えアデノウイルスに対する詳細な説明は、本発明の薬剤学的組成物にも同様に適用される。したがって、本明細書の不要な重複記載による過度なる複雑性を避けるために、共通事項は、その記載を省略する。
【0046】
本発明の抗血管新生組成物により予防又は治療できる疾患又は疾病は、過多な血管新生により招来されるあらゆる疾患又は疾病を含み、好ましくは、癌、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植拒否、新生血管緑内障、紅色症、増殖性網膜症、乾癬、血友病性関節、アテロ−ム性動脈硬化プラーク内における毛細血管増殖、ケロイド、傷の顆粒化、血管接着、リウマチ性関節炎、骨関節炎、自己免疫疾患、クローン病、再発狭窄症、アテローム性動脈硬化、腸管接着、猫引っかき病、潰瘍、肝硬変、糸球体腎炎、糖尿病性腎臓病症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症、器官移植拒否、腎糸球体病症、糖尿病、炎症又は神経退行性疾患である。
【0047】
本発明で開発されたキメラデコイ受容体を発現する組換えアデノウイルスは、血管新生を効果的に抑制し、多様な血管新生関連疾患、特に、抗腫瘍効果が格段に増大されて、特に、E1B55kDa遺伝子が不活化されるか、E1AにおいてRb結合部位が変異された場合は、癌細胞特異性に非常に優れる。これは、結果的に癌治療に必要なウイルス投与量を減少させることができて、ウイルスによる生体内毒性と免疫反応を大きく減らすことができる。
【0048】
本発明の組成物に含まれる組換えアデノウイルスは、多様な腫瘍細胞に対して殺傷効能を示すため、本発明の薬剤学的組成物は、腫瘍に係る様々な疾病又は疾患、例えば、脳癌、胃癌、皮膚癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、肝癌、気管支癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、食道癌、膵臓癌、膀胱癌、前立腺癌、大腸癌、頭頸癌、皮膚癌、黒色腫、結腸癌及び子宮頸癌などの治療に利用することができる。本明細書において、用語‘治療’は、(i)血管新生の予防;(ii)血管新生の抑制による血管新生に係わる疾病又は疾患の抑制;及び(iii)血管新生の抑制による血管新生に係わる疾病又は疾患の軽減を意味する。したがって、本明細書における用語‘治療学的有効量’は、上記した薬理学的効果を達成するに十分な量を意味する。
【0049】
本発明の組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通常的に利用されるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、及びミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。本発明の薬剤学的組成物は、前記成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。
【0050】
本発明の薬剤学的組成物は、非経口投与が好ましく、例えば、静脈内投与、腹腔内投与、腫瘍内投与、筋肉内投与、皮下投与、又は、局部投与を利用して投与することができる。卵巣癌で腹腔内に投与する場合及び肝癌で門脈に投与する場合は、注入方法により投与することができて、乳癌の場合は、腫瘍塊に直接注射して投与することができ、結腸癌の場合は、浣腸で直接注射して投与することができて、膀胱癌の場合は、カテーテル内に直接注入することができる。
【0051】
本発明の薬剤学的組成物の適合した投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、疾病症状の程度、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度、及び反応感応性のような要因により様々であり、普通に熟練した医者は、目的する治療に効果的な投与量を容易に決定及び処方することができる。一般に、本発明の薬剤学的組成物は、1×105PFU/ml〜1×1015PFU/mlの組換えアデノウイルスを含み、通常、1×1010PFUを2日に1回、2週間注射する。
【0052】
本発明の薬剤学的組成物は、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できる方法により、薬剤学的に許容される担体及び/又は賦形剤を利用して製剤化することにより、単位容量形態に製造されるか、又は多用量容器内に入れて製造する。この際、剤形は、オイル又は水性媒質中の溶液、懸濁液又は乳化液の形態であるか、エリキシル剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤の形態でもよく、分散剤又は安定化剤をさらに含むことができる。
【0053】
本発明の薬剤学的組成物は、単独療法として利用してもよいが、他の通常的な化学療法又は放射療法と共に利用してもよく、このような並行療法を実施する場合は、より効果的に癌治療をすることができる。本発明の組成物と共に利用できる化学療法剤は、シスプラチン、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ビスルファン、ニトロソウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン、マイトマイシン、エトポシド、タモキシフェン、タキソール、トランス−プラチナ、5−フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、及びメトトレキサートなどを含む、本発明の組成物と共に利用できる放射療法は、X線照射及びγ線照射などである。
【発明の効果】
【0054】
本発明の特徴及び長所を要約すると、下記のようである:
(a)本発明の組換えアデノウイルスは、血管新生を抑制するキメラデコイ受容体を発現する。
(b)キメラデコイ受容体を発現する本発明の組換えアデノウイルスは、血管新生を顕著に抑制して、多様な血管新生関連疾患の遺伝子治療剤として利用できる。
(c)特に、本発明の組換えアデノウイルスは、腫瘍崩壊能に優れている。
(d)既存の血管新生関連抗癌剤(例えば、アバスチン)は、細胞増殖抑制効果のみを有しており、癌治療剤としての限界を有しているが、本発明の組換えアデノウイルスは、殺細胞効果を有しており、癌細胞を死滅させることができて、これにより、既存の癌治療剤の限界を克服することができる。
(e)また、既存の血管新生関連抗癌剤は、正常細胞にも作用し、副作用を誘発するが、本発明の組換えアデノウイルスは、癌細胞に特異的に作用し、このような副作用を大きく減らすことができる。
(f)既存のVEGFトラップは、タンパク質製剤であって、生体内において半減期が短い。しかし、本発明の組換えアデノウイルスは、持続的にVEGFトラップを過剰発現するため、このような問題点を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1a】図1aは、組換えアデノウイルス(Ad)ベクターのコンストラクトで、E1が欠失した複製不能組換えアデノウイルスに関する。dE1−k35は、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーターの調節下でβ−ガラクトシダーゼを発現する。dE1−k35/KH903は、E3部位にキメラデコイ受容体KH903を含む。
【図1b】図1bは、組換えアデノウイルス(Ad)ベクターのコンストラクトで、複製可能組換えアデノウイルスに関する。RdBは、変異されたE1Aを含み、E1B19kDaとE1B55kDaが欠失している。RdB/KH903は、E3部位にキメラデコイ受容体KH903を含む。
【図1c】図1cは、培地に分泌されたKH903を検出した結果である。Ad:アデノウイルス;ITR:逆方向末端反復配列;uninfected:非感染
【図2a】図2aは、dE1−k35/KH903によるVEGF発現の抑制を示すVEGFレベルの定量化の結果である。図2aにおいて、多様なヒト肺癌細胞株に対して20MOI〜100MOI(感染多重度)でdE1−k35又はdE1−k35/KH903を感染させた。感染48時間後、上清のVEGF濃度をELISAで測定した。Cell:非感染細胞
【図2b】図2bは、dE1−k35/KH903によるVEGF発現の抑制を示すVEGFレベルの定量化の結果で、A549細胞溶解液中のVEGFレベルを測定した結果である。uninfected:非感染
【図3】図3は、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のVEGF誘導性増殖に対するdE1−k35/KH903の抑制実験の結果である。HUVECを30MOIのdE1−k35又はdE1−k35/KH903で処理した。感染72時間後、MTT分析を行って、総生存細胞を測定した。結果は、3回行った実験の平均で示した。uninfected:非感染
【図4a】図4aは、HUVEC運動性に対するdE1−k35/KH903の影響を示す。EBMを含む24ウェル組織培養プレートの上部チャンバに細胞を静置して、3.5時間後、通過細胞を固定化して、H&E(ヘマトキシリンとエオシン)で染色したものである。図4aは、HUVECの運動性を示す(倍率:×40)。uninfected:非感染
【図4b】図4bは、図4aのものにおいて、高倍率(×200)で、フィールドにおける運動性の細胞数を数えた。8個のフィールドを2回ずつカウントした。エラーバーは、±s.eを示す。*:P<0.05,**:P<0.001,uninfected:非感染
【図5a】図5aは、HUVECのチューブ形成に関するdE1−k35/KH903の効果を示す。HUVECをマトリゲルコートされたプレートに1.5×105細胞/ウェルの密度でプレーティングして、次いで、dE1−k35又はdE1−k35/KH903を感染させ(20MOI)、A549又はH460のコンディショニング培地で48時間培養した。図5aは、チューブ形成に対する代表的な写真である(倍率:×40)。uninfected:非感染
【図5b】図5bは、図5aのもののチューブ形成に対する定量的分析結果である。チューブネットワークによりカバーされる広さを測定し、チューブ形成の定量化を行った。実験は3回行って、値は、これらの平均で示した。エラーバーは、±s.eを示す。*:P<0.05,**:P<0.001,uninfected:非感染
【図6】図6は、dE1−k35/KH903による血管の出芽(vessel sprouting)抑制を示す。KH903を含む複製不能アデノウイルスは、エクスビボでVEGF誘導性の血管の出芽を抑制する。分析結果は、0(最小ポジティブ)から5(最大ポジティブ)までスコアリングした。uninfected:非感染
【図7】図7は、RdB/KH903のインビトロ細胞変性効果を示す。細胞を、指定されたMOIのdE1−k35、dE1−k35/KH903、RdB又はRdB/KH903に感染させた。複製不能アデノウイルスdE1−k35を陰性対照群として利用した。感染4日目〜10日目にプレートにある細胞を固定化して、クリスタルバイオレットで染色した。
【図8】図8は、KH903発現アデノウイルスの抗腫瘍効果を示す。1×107個のH460腫瘍細胞を皮下注入した異種移殖モデルを作製した。腫瘍を80mm3〜120mm3まで成長させた。腫瘍を有するヌードマウスを3つの実験群(それぞれ5匹ずつ)にランダムに分けた。それぞれの実験群に対して、1日、3日及び5日目にアデノウイルス(30μlのPBS中に1×1010個のアデノウイルス粒子)を腫瘍内に注入した。腫瘍の短軸(w)及び長軸(L)を測定し、腫瘍成長を毎日モニタリングした。
【図9a】図9aは、RdB/KH903で処理されたH460腫瘍組織の血管新生に対する組織学的評価結果である。図9aにおいて、微細血管を抗PECAM抗体(CD31)で染色した。CD31に対する染色結果を示す。
【図9b】図9bは、RdB/KH903で処理されたH460腫瘍組織の血管新生に対する組織学的評価結果である。図9bは、腫瘍組織に対する血管数を定量化した結果である。データを平均(n=3)±標準誤差で示した。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これら実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれら実施例に限定されないことは、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者にとって自明なことであろう。
【実施例】
【0057】
−実験材料及び実験方法−
1.対象細胞株及び細胞の培養
実験に使用されたヒト肺癌細胞株であるA549とH460は、ATCC(American Type culture Collection,Manassas,VA,USA)から購入して、HUVEC(Human umbilical vascular endothelial cell)は、Lonza(Basel,スイス)から購入した。アデノウイルスの初期発現遺伝子であるE1部位が宿主遺伝体内に内在されているHEK293細胞株(ATCC)をアデノウイルス産生細胞株として使用した。HUVECを除いた全ての細胞株は、100U/mlペニシリンと100μg/mlストレプトマイシン(Gibco−BRL)を添加した10%牛胎児血清(FBS;Gibco−BRL,Grand Island,NY,USA)を含むDMEM培養液で、5%CO2、37℃で培養した。HUVECは、5%FBSの含まれたEGM−2MV(Lonza,Walkersville,MC,USA)に抗生剤100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(Gibco−BRL)を入れて、継代培養5日目〜8日目の細胞で実験を行った。
【0058】
2.KH903を発現するアデノウイルスの作製及び力価算出
KH903を発現する組換えアデノウイルスを作製するために、KH903プラスミドであるpKH903(KangHong,Cheng du,中国)をアデノウイルスE1シャトルベクターであるpCA14(Microbix)にEcoRI切断して挿入した後、これを再びBglIIで切断して得られたKH903のDNA断片をBamHIで切断したE3シャトルベクターpSP72ΔE3(本発明者が作製、Cancer Gene Therapy,12:61−71(2005))に挿入した。KH903は、VEGFR−1の第2細胞外ドメイン(配列番号1及び2の配列)、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン(配列番号3及び4の配列)及びVEGFR−2の第4細胞外ドメイン(配列番号5及び6の配列)が順次結合して製造されたキメラデコイ受容体に、ヒトIgGのFc領域(配列番号7及び8の配列)が融合されて作られたものである。作製されたpSP72ΔE3/KH903ベクターをXbaIで切断し、pSP72ΔE3/CMVベクター(本発明者が作製、Cancer Gene Therapy,12:61−71(2005))のCMVプロモーターを挿入してpSP72ΔE3−CMV−KH903 E3シャトルベクターを製造した。KH903を発現する複製不能アデノウイルスを作製するために、上記作製されたpSP72ΔE3−CMV−KH903 E3シャトルベクターをPvuIで処理して直鎖化し、E3遺伝子が欠失されて、E1部位にlacZが挿入されており、アデノウイルスタイプ35のファイバーノブ(ノブ)で置換されたpdE1−k35トータルベクター[Ad35ファイバーノブ部分を有したアデノウイルス(Cell Genesys)からPCRで700bpの35ノブ部分を得て、NcoI/MfeIで切断し、予めNcoI/MfeIで切断していたpSK5543(Coxsackie and adenovirus receptor binding ablation reduces adenovirus liver tropism and toxicity,Human Gene Ther 16:248−261(2005))とライゲーションしてpSK5543/35kを作製した。作製されたpSK5543/35kは、SacII/XmnIで切断し、SpeIで切断したdE1/lacZと相同組換えすることでpdE1−k35を作製した]をSpeIで処理して直鎖化した。これらで大腸菌BJ5183(スイスのFribourgh大学のVerca;Heider,H.et al.,Biotechniques,28(2):260−265,268−270(2000))を同時形質転換し、相同組換えにより、lacZ遺伝子とKH903を同時に発現する複製不能アデノウイルスベクターであるpdE1−k35/KH903を作製した。VEGFを効果的に抑制させることのできるVEGFトラップを発現する腫瘍特異的殺傷アデノウイルスを作製するためには、上記作製されたpSP72ΔE3−CMV−KH903 E3シャトルベクターをPvuIで処理して直鎖化したものと、SpeI処理して直鎖化したpRdBアデノウイルストータルベクター(E1AのRb結合部位が変異して、E1B19kDa遺伝子とE1B55kDa遺伝子が共に欠失された腫瘍崩壊アデノウイルス,参照:大韓民国特許第0746122号)とで、一緒に大腸菌BJ5183を形質転換して、pRdB/KH903腫瘍崩壊性アデノウイルスベクターを作製した。E1AのRb結合部位の変異は、ElA遺伝子配列に位置したRb結合部位をコードするヌクレオチド配列のうち、第45番目のGlu残基がGly残基に置換された変異、及び第121番目〜127番目アミノ酸残基が全てGly残基に置換された変異である。相同組換えされたアデノウイルスベクターをHindIIIで処理して相同組換えの有無を確認した後、確認されたプラスミドを、PacI制限酵素で切断した後、HEK293細胞株を形質転換してアデノウイルスを産生した。対照群として使用されたウイルスは、E1部位の遺伝子が欠失して、その部位にlacZ遺伝子を有するdE1−k35と、同時にE1B19kDaとE1B55kDa遺伝子が全て欠失したRdBである。それぞれのアデノウイルスは、HEK293細胞株で増殖させて、CsCl濃度勾配で濃縮して精製して、限界適正分析(limiting titration assay)及びフォトスペクトロメーターで力価(plaque forming unit; PFU)を算出した。
【0059】
3.ウェスタンブロット
KH903を発現するアデノウイルスをヒト肺癌細胞株に感染させることで、細胞内でKH903タンパク質が産生されて、細胞培養液に分泌されるかどうかを検証するために、A549細胞に、作製したアデノウイルスであるdE1−k35/KH903を、20MOI、50MOI及び100MOIでそれぞれ処理して、48時間後に細胞培養液と細胞を全て回収し、SDS−PAGE(sodium dodecyl sulfate−poly acrylamide gel electrophoresis)を行った。電気泳動後、ゲルにあるタンパク質をPVDF(polyvinylidene fluoride)膜にエレクトロトランスファーした後、KH903のヒトIgGのFc部位を特異的に認識する抗体を一次抗体(Cell signaling,Danvers,MA,USA)として用いた。HRP(horseradish peroxidase)が結合されたヤギ抗マウスIgGを二次抗体(Cell signaling,Danvers,MA,USA)として反応させた後、LAS4000を用いて、ECL(enhanced chemiluminescence)(Pierce,Rockford,IL,USA)による発色で、膜上のタンパク質と抗体との結合の有無を調べて、各タンパク質の発現を確認した。
【0060】
4.VEGF発現変化
腫瘍から分泌されるVEGFを効果的に抑制可能なKH903を発現するアデノウイルスにより、VEGFの発現が減少されるかどうかを検証するために、ELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)を行った。まず、VEGFの発現が効果的に抑制されるかを検証するために、肺癌細胞株であるA549、H460、H322(ATCC)、H358(ATCC)及びH1299(ATCC)を6ウェルプレートにそれぞれ3×105細胞/ウェルで播いた後、翌日アデノウイルスを2MOI〜100MOIで感染させて6時間後、5%FBSが含まれたDMEM培地に入れ替えた。ウイルス感染から48時間後に培地を回収するために、培地回収の24時間前にFBSの含まれていないDMEMに入れ替えた。回収された培地は、800×gで遠心して上清を分離した後、このうち、150μgを利用してVEGFのELISA分析を行った。
【0061】
5.MTT分析
アデノウイルス感染後のKH903の発現による血管内皮細胞増殖能の抑制を定量化するために、MTT(3−(4,5−dimethylathiazol−2yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide,2mg/ml)分析を行った。HUVECを2%ゼラチンでコートされた48ウェルプレートに播いて、24時間後、30MOIの組換えアデノウイルスで処理した。ウイルス処理前、HUVECは、EBM−2(Lonza,Walkersville,MC,USA)培地で血清飢餓(serum starvation)処理した。ウイルス処理72時間後の細胞の生存率を測定するために、培地を除去した後、MTT溶液を各ウェル当たり150μl入れて、5%CO2の存在下、37℃恒温培養器中で4時間反応した後、上清を除去した。上清の除去されたプレートウェルに1mlのDMSO(dimethyl sulphoxide)を添加して、37℃で10分間反応した後、上清(DMSOで溶出されたもの)の540nmでの吸光度を測定し、細胞の相対的生存率を測定した。
【0062】
6.内皮細胞の移動性分析
HUVECの走化性を調べるために、6.5mm直径のポリカーボネートろ紙(8μmポアサイズ)のTranswell(Corning Costar,Cambridge,MA,USA)を用いて、内皮細胞の運動性分析を行った。まず、上部チャンバのフィルターを0.1%ゼラチンでコートした。ゼラチンの乾燥後、6時間血清飢餓培地で培養し、血清飢餓処理したHUVECを1×105細胞になるようにカウントし、上部チャンバに入れて、dE1−k35とdE1−k35/KH903アデノウイルスを感染させて、回収した細胞培養液を下部チャンバに入れて、プレートを37℃で3時間30分間インキュベートした。プレートを取り出して、上部チャンバの培地を捨てた後、細胞をメタノ−ルで1分間固定し、H&E染色してスライドを作製した。その後、グループ別に200倍の倍率で8ヶ所の写真を撮って、平均を求め、細胞の運動性を定量化した。
【0063】
7.チューブ形成分析
腫瘍が分泌するVEGFを効果的に抑制できるKH903によるVEGFの発現減少により、血管内皮細胞のチューブ形成機能が変化するかどうかを調べるために、HUVECを利用したチューブ形成分析を行った。まず、250μlの増殖因子を減らしたマトリゲル(Collabo−rative Biomedical Products,Bedford,MA,USA)を−20℃に保存しておいた24ウェルプレートに均一にプレート後、37℃で30分間置いて固めた。HUVEC(5回〜7回継代培養)細胞は、6時間、血清飢餓EBM−2(Lonza,Walkersville,MC,USA)培地で培養し、血清飢餓処理した後、トリプシン処理して細胞数を測定した。dE1−k35又はdE1−k35/KH903アデノウイルスでそれぞれ20MOI処理した後、48時間後に回収したA549及びH460細胞培養液を、血清飢餓の前処理をしたHUVEC(1.5×105細胞/ウェル)と混ぜた後、マトリゲルがプレートされた24ウェルプレートに播いて培養した。陽性対照群としては、20ng/mlのVEGFタンパク質を利用した。培養後12時間〜16時間の間に培養液を除去して、PBSで2回洗浄した後、顕微鏡でチューブ形成を観察した。
【0064】
8.エクスビボ大動脈輪出芽分析
腫瘍から分泌されるVEGFを効果的に抑制できるKH903による血管形成抑制を観察するために、大動脈輪出芽(aortal ring sprouting)分析を行った。オリエント社(Orient Bio,Korea,Inc.)から購入した6週齢のSprague Dawleyラットから大動脈を分離して、大動脈周辺の繊維脂肪組織を除去した後、1mm厚の輪に薄く切断した。予め冷やしておいた48ウェルプレートにマトリゲルを200μlずつプレートして、大動脈輪をそれぞれのウェルの中のマトリゲルに植えた後、37℃で20分間置いた。マトリゲルが固まった後、チューブ形成分析で使用された細胞培養液250μlをそれぞれのウェルに添加して培養し、毎日顕微鏡で大動脈輪から形成された血管を観察した。陽性対照群として、VEGFタンパク質(20ng/ml)を用いた。培養後、新しく形成された血管は、二重盲分析により、陽性対照群を5点、血管が形成されなかった実験群を0点の点数を付与して分析して、それぞれの実験群に対して12個の大動脈輪を対象に大動脈輪出芽分析を行った。
【0065】
9.KH903が発現するアデノウイルスの腫瘍殺傷能
腫瘍から分泌されるVEGFを減少させるKH903の発現の有無がアデノウイルスの複製にどのような影響を及ぼすか検証するために、細胞変性分析を行った。肺癌細胞株を含むヒト腫瘍細胞株を48ウェルプレートにそれぞれ播いて、24時間後、dE1−k35,dE1−k35/KH903,RdB又はRdB/KH903アデノウイルスを0.1MOI〜10MOIで感染させた。対照群ウイルスとの差が最も顕著な時点で培地を除去し、プレートの底に残っている細胞を0.5%クリスタルバイオレットで固定して染色した後、分析した。
【0066】
10.生体内抗腫瘍効果の検証
オリエント社から購入した生後6週〜8週程度のヌードマウスの腹部皮下に1×107個のヒト肺癌細胞株、H460を注射した。腫瘍の容積が約70mm3〜100mm3程度になった時、RdB、RdB/KH903アデノウイルスを陰性対照群のPBSと共にそれぞれ2日間隔で3回腫瘍内に直接注射した後、腫瘍の大きさを2日間隔で測定した。腫瘍の容積は、カリパースで腫瘍の短軸と長軸を測定し、下記のような公式で算出した:
腫瘍の容積(mm3)=(短軸(mm))2×長軸(mm)×0.523
【0067】
11.VEGFと結合するKH903を発現する腫瘍特異的崩壊性アデノウイルスの投与による腫瘍組織内の血管新生の抑制
6〜8週齢のヌードマウスの腹部皮下に肺癌細胞株であるH460を注射した後、腫瘍の大きさが約100〜120mm3程度になった時、RdB,RdB/KH903アデノウイルス又は陰性対照群のPBSを2日間隔で3回腫瘍内投与した。最後のウイルスを投与した後、10日後頃に腫瘍を摘出して、IHC zinc fixative(Formalin−free)(BD Biosciences Pharmingen,San Diego,CA,USA)溶液で固定した後、パラフィンブロックを作製した。作製したパラフィンブロックを4μm厚に切断してスライドを作った後、これをキシレン、100%、95%、80%及び70%エタノ−ル溶液に順に浸してパラフィンを除去してから、ヘマトキシリンとエオシン(H&E)で染色した。腫瘍が分泌するVEGFと結合してその発現を減少させるKH903により腫瘍組織内血管形成が抑制されるかどうか確認するために、血管内皮細胞特異的抗原であるCD31を特異的に認識できる抗体であるラット抗マウスCD31モノクローナル抗体(MEC13.3;BD Biosciences Pharmingen)を用いて、組織免疫染色を行った。パラフィンが除去された4μm厚の腫瘍組織スライドを3%H2O2溶液で10分間反応して、内因性過酸化酵素の作用を除いた。Protein Block Serum free(DakoCytomation,Carpinteria,CA,USA)で30分間処理して非特異的な抗体反応が起こらないようにした後、CD31抗体を一次抗体としてハイブリダイゼーションを行った。ビオチンの結合されたポリクロ−ナル抗ラットIgG抗体(BD Biosciences Pharmingen)を二次抗体として反応した後、DAB(DakoCytomation,Carpinteria,CA,USA)を利用して、CD31の発現を調べた。
【0068】
12.腫瘍内血管数の計測
血管内皮細胞特異的抗原であるCD31(platelet endothelial cell adhesion molecule 1)に対する染色を行った腫瘍内血管をまず低倍率で観察し、無作為に写真を取った後、倍率を高めて100倍視野で観察される血管の数を定量した。3枚のスライドからそれぞれ5個の視野を選択し血管数を計測して、平均値を算出し、その値を代表値として使用した。
【0069】
−実験結果−
1.VEGFと特異的に結合するKH903を発現するアデノウイルスの作製及びVEGF発現変化の検証
VEGFに特異的に結合し、腫瘍から分泌するVEGFの発現を抑制するVEGFトラップであるKH903を発現するアデノウイルスdE1−k35/KH903を作製した(図1a)。dE1−k35/KH903アデノウイルスのE3部位に挿入されたKH903が、細胞感染時に実際に細胞から培地に分泌されるか確認するために、感染させた腫瘍細胞と培地を全て回収し、KH903の構造のうち、ヒトIgGのFc部位を検出する抗体を利用してウェスタンブロッティングを行った。結果的に、細胞溶出液ではKH903の産生を確認できる程度の量が観察されたが、培地では、多量のKH903を観察することができた。したがって、KH903は感染された細胞内で産生されて、培地に分泌されることを確認することができた(図1c)。
【0070】
アデノウイルスの初期遺伝子であるE1Aを発現する複製可能アデノウイルスによりVEGFの発現が減少するという報告があったので28、KH903によるVEGF発現変化を検証するために、E1Aを欠失し、lacZとKH903を同時に発現する複製不能アデノウイルスであるdE1−k35/KH903を作製した。dE1−k35/KH903をヒト肺癌細胞株(A549,H460,HCC827,H1299,H2172,H322)に感染させて、細胞から培地を回収して、ELISAでVEGF発現量を定量した。その結果、実験に利用された全ての種類の肺癌細胞株において、dE1−k35/KH903アデノウイルスの感染によりVEGFの発現が顕著に減少することを確認することができた(図2a)。
【0071】
実際に腫瘍細胞でVEGFがどれだけ産生されており、分泌されるVEGFがKH903の発現により減少するかを検証するために、培地を回収した後の細胞を破砕し、細胞のVEGF発現量を確認した。図2bから分かるように、アデノウイルスの感染後、培地を用いたVEGFのELISAの結果と同様に、dE1−k35を感染させた細胞に比べ、dE1−k35/KH903を感染させた細胞でVEGF発現量が顕著に減少したことを観察することができた(図2b)。
【0072】
2.VEGFと特異的に結合するKH903を発現するアデノウイルスによる血管新生抑制能の観察
まず、VEGFを抑制するKH903の発現によるVEGFレベルの変化によるHUVECのVEGF誘導性増殖能に対する影響を確認した。HUVECをマトリゲルコートした48ウェルプレートに2×104細胞/ウェルで播いた後、30MOIのdE1−k35又はdE1−k35/KH903アデノウイルスを感染させて、72時間後、MTT分析を行って、細胞の生存率を測定した。その結果、dE1−k35/KH903を感染させたグル−プが、ウイルスを処理しなかったグループに比べ、生存率が53%減少し、陽性対照群であるdE1−k35を感染させたグループに比べては、30%減少したことを観察した(図3)。
【0073】
VEGF発現を抑制させるKH903によるVEGF量の変化が血管内皮細胞の運動能に及ぼす影響を検証するために、HUVECを利用して運動性分析を行った。A549、H460細胞株を20MOIのdE1−k35又はdE1−k35/KH903アデノウイルスにそれぞれ感染させて、48時間後に回収した培地でHUVECを培養した。その結果、何も処理しなかった細胞培養液又はdE1−k35アデノウイルスを感染させた細胞培養液を処理した場合は、上部チャンバから下部チャンバにたくさんの細胞が移動した反面、dE1−k35/KH903アデノウイルスを感染させた細胞培養液を処理した場合は、HUVECの移動は、上記の2つのグループに比べ低いことを観察した(図4)。
【0074】
KH903の発現によるVEGF量の変化が、血管内皮細胞の血管形成能力に及ぼす影響を検証するために、HUVECを利用してチューブ形成分析を行った。A549、H460細胞株を20MOIのdE1−k35又はdE1−k35/KH903アデノウイルスにそれぞれ感染させて、48時間後に回収した培地でHUVECを培養した。その結果、何も処理しなかった細胞培養液又はdE1−k35アデノウイルスを感染させた細胞培養液を処理した場合は、大きくて太いチューブが形成された反面、dE1−k35/KH903アデノウイルスを感染させた細胞培養液を処理した場合は、HUVECの血管形成がうまくいかず、細くて部分的に切られたチューブが形成されたことを観察した(図5)。
【0075】
以上から確認された血管新生能の差を、エクスビボ上で確認するために、ラットの大動脈を利用して血管出芽分析を行った。まず、dE1−k35又はdE1−k35/KH903アデノウイルス、20MOIで処理して48時間後に回収したA549、H460細胞培養液で大動脈輪を処理して5日間培養した結果、何も処理しなかった細胞培養液やdE1−k35を感染させたA549細胞培養液を処理した大動脈輪とは対照的に、dE1−k35/KH903アデノウイルスを処理した細胞培養液で大動脈輪を培養した場合、血管の出芽がほとんど起こらないことを確認することができた(図6)。これを、より定量的に比較検証するために、形成された血管を、二重盲方式で陽性対照群(most positive)を5点、血管が出芽されなかった実験群(least positive)を0点で点数を付与して分析した。何も処理しなかった細胞培養液やdE1−k35を感染させたA549、H460細胞培養液を処理した全ての大動脈輪において血管形成が活発に起こることを確認することができたが、dE1−k35/KH903アデノウイルスを感染させた細胞の培養液を処理した場合は、対照群ウイルスであるdE1−k35に比べ、血管形成が顕著に抑制されることを確認した。
【0076】
3.VEGFと特異的に結合するKH903を発現する腫瘍崩壊性アデノウイルスの細胞殺傷能の検証
VEGF発現抑制による血管新生能の低下は、腫瘍の成長を抑制すると考えられるので、KH903の抗癌効果を確認するために、KH903を発現する腫瘍崩壊性アデノウイルスであるRdB/KH903と、対照群としての腫瘍崩壊性アデノウイルスであるRdBをそれぞれ作製した。KH903の発現によりアデノウイルスの複製が阻害できるかどうか確認するために、数種類の癌細胞株及び正常細胞株をdE1−k35、dE1−k35/KH903、RdB又はRdB/KH903アデノウイルスに感染させて、ウイルスの複製による細胞の死滅の程度をCPE分析で観察した。陰性対照群であるdE1−k35複製不能アデノウイルスに感染させた細胞においてはアデノウイルスが複製されないため、細胞殺傷効果が現れなかったが、複製可能アデノウイルスであるRdB又はRdB/KH903に感染させ場合は、ウイルスの量が増加するにつれて、細胞殺傷効果も増加した。実験に利用された全ての細胞株において、KH903を発現するアデノウイルスであるRdB/KH903の細胞殺傷能が、対照群ウイルスであるRdBに比べ、優れていることを観察することができた(図7)。
【0077】
4.VEGFと特異的に結合するKH903を発現する腫瘍崩壊性アデノウイルスの生体内抗腫瘍効果の検証
VEGF発現を抑制するKH903を発現するアデノウイルスの生体内抗腫瘍効果を検証するために、ヒト肺癌細胞株であるH460細胞をヌードマウスの腹部皮下に注射して、形成された腫瘍の容積が約80mm3〜100mm3程度になった時、1×1010vpのRdBとRdB/KH903アデノウイルスを陰性対照群であるPBSと共に2日間隔で3回腫瘍内に投与した後、腫瘍の成長を観察した(図8)。陰性対照群であるPBSを投与したヌードマウスの場合、ウイルスの投与後、23日後頃に既に腫瘍の容積が2170.238±455.1216mm3に急激に成長したが、KH903を発現する腫瘍特異的殺傷アデノウイルスであるRdB/KH903を投与した場合は、腫瘍の成長が大きく遅延されることを確認した。即ち、RdBとRdB/KH903アデノウイルスを投与したマウスの場合、それぞれ1181.391±985.9131mm3、及び252.67±103.8464mm3であって、KH903の血管新生の抑制による、抗腫瘍効果を観察することができた。
【0078】
5.VEGF発現を抑制するKH903を発現する腫瘍特異的殺傷アデノウイルスの投与による腫瘍内血管分布観察
ヒト肺癌細胞株であるH460をヌードマウスの腹部皮下に注射した後、腫瘍が形成された後、RdBとRdB/KH903アデノウイルスを、PBSを陰性対照群として、1×1010vpで2日間隔で3回腫瘍内注射した。最後の投与の1日後に腫瘍を摘出して、血管内皮細胞特異的抗原であるCD31を、組織免疫染色法で観察した。その結果、陰性対照群であるPBS群に比べ、腫瘍崩壊性アデノウイルスであるRdBを処理した実験群では、腫瘍内血管数が21%減少したことを確認し、RdB/KH903を投与した場合は、血管数が71%抑制されたことを観察することができた(図9)。
【0079】
−追加的議論−
血管新生は、既に存在する血管から新しい血管が形成される過程であって、胚発生と、器官の形成及び組織の再生に重要な役割をする。また、血管新生は、初期の腫瘍が成長するための必須条件であって、腫瘍の体積が大きくなるにつれて、腫瘍細胞や浸潤されたマクロファージが様々な血管形成因子を産生して、腫瘍内微細血管を形成させる。このように形成された血管は、腫瘍細胞に養分を供給と同時に、様々な増殖因子を供給し、腫瘍を成長させる。血管新生に関与する種々の増殖因子のうち、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が腫瘍の成長と転移に大きく関与することが知られている。VEGFは、受容体型チロシンキナーゼ、VEGFR2(KDR)の二量体と結合し、直接血管内皮細胞の分裂を促進する、強力な血管新生因子として作用し、微細血管の透過性を増加させて血漿タンパクが周辺組織に排出され、細胞外基質を修飾して血管形成を容易にする。そのため、癌の成長を防ぐためには、血管新生因子であるVEGFの抑制が極めて重要である。ここ30年間、抗癌治療の標的として、腫瘍内血管形成を抑制することにより腫瘍の成長を抑制する研究が活発になされてきた。しかし、現在利用可能な血管新生抑制剤は、主に単一治療剤として利用されるよりは、併用治療によく利用されており、高額な費用と反復投与による毒性を起こせるという短所がある。本研究では、このような限界を克服するために、水溶性のVEGF特異的デコイ受容体として作用するKH903を腫瘍崩壊性アデノウイルスに発現させることにより、効果的にVEGFを抑制すると同時に、腫瘍崩壊性アデノウイルスを使用することにより、相乗的に抗腫瘍効果を向上させようとした。
【0080】
KH903は、VEGFR1とVEGFR2のVEGF結合ドメインを結合させて作製したVEGF特異的水溶性デコイ受容体であって、腫瘍細胞で分泌されるVEGFを効果的に抑制することができる。即ち、VEGFとVEGFRの結合相互作用に直接的に関与するVEGFR1、VEGFR2の主要ドメインを利用して作製したKH903は、VEGFRの代わりに腫瘍細胞で分泌されるVEGFと結合し、受容体とリガンドの反応を遮断することにより、血管新生過程を抑制することができる29,30。
【0081】
初期に作製されたVEGFトラップは、VEGFと結合する主要部位であるVEGFR1の2番目のドメインとVEGFR2の3番目のドメインがヒトIgGのFc部位に融合された形態である11。本研究では、VEGF−Aだけではなく、VEGF−B、VEGF−CそしてPGF(placenta growth factor)とも結合できるため、VEGFとの結合能が、既存のVEGFトラップに比べ、約2倍向上されたKH903を利用した。KH903がVEGF−Aを始めとして、あらゆる種類のVEGFファミリーと優れた結合性を示す理由は、既存のVEGFトラップ構造に、VEGFと受容体との強い結合性が維持されるように関与するVEGFR2の4番目ドメインが追加されたからである。また、このドメインは、H903が3次構造を安定的に形成するようにするだけではなく、ダイマーを形成する効率を高めて、結果的に、KH903は既存VEGFトラップより延長された半減期を有するという利点を持った29。このような長所を有しするKH903の血管新生抑制効果を観察するために、E1部位にレポーター遺伝子としてβ−ガラクトシダーゼが挿入されており、E3部位遺伝子が欠失されたアデノウイルスのE3部位にKH903を挿入して、複製不能アデノウイルスであるdE1−k35/KH903を作製した。血管形成が旺盛なA549とH460を始めとして、種々の肺癌細胞株に多様なMOIで感染させて、VEGF発現量を比較検証した結果、実験に利用した全ての細胞株において、KH903がVEGFの発現を抑制する効果を強くもつことを確認することができた(図2)。このようにKH903により、腫瘍細胞においてVEGFの発現が効果的に抑制されることを観察した後、減少したVEGF量が実際の血管内皮細胞の運動性、増殖そして血管形成及び拡張のような血管新生の一連の過程にどのような影響を及ぼすか、インビボとエクスビボで観察した。
【0082】
まず、血管内皮細胞であるHUVECに、KH903を発現する複製不能ウイルスdE1−k35/KH903を感染させた時、VEGF発現量の減少により血管内皮細胞の生存率が減少することを確認した。次いで、KH903を発現する複製不能ウイルスと対照群ウイルスをそれぞれ感染させた細胞、そして非感染細胞の培養液を利用して、血管内皮細胞の運動性を観察する運動性分析を行った。増殖因子が十分にある対照群としてウイルスに非感染細胞の培養液を利用した時は、HUVECの移動が活発に起こることを観察することができたが、KH903を発現するウイルスで処理した細胞から得た培養液を利用した場合は、VEGFの減少により、HUVECの運動性が非常に低下したことを観察することができた。血管形成能と血管の出芽も抑制されることを、チューブ形成分析と大動脈輪出芽分析を通じて検証した。このようなKH903による血管新生抑制は、抗癌効果を期待することができる。そこで、増大された抗腫瘍効果を検証するために、本研究室で開発したE1AのRb結合部位が修飾されてE1B部位が除去された腫瘍崩壊性アデノウイルスであるRdBにKH903を挿入したRdB−KH903アデノウイルスを作製して、H460異種移植モデルにおいて優れた抗腫瘍効果を確認した。腫瘍崩壊性アデノウイルスであるRdB−KH903は、E1A遺伝子発現によるVEGF発現抑制だけではなく、効率的で且つ持続的な遺伝子伝達により、KH903によるVEGF発現抑制も同時に誘導して、対照群のRdBアデノウイルスに比べ、生体内抗腫瘍効果が顕著に昂進した。腫瘍組織内血管分布を観察した結果においても、RdB/KH903の効果を再び検証することができた。腫瘍組織において、PBS群に比べ、腫瘍崩壊性アデノウイルスで処理した場合、血管の数が減少し、腫瘍崩壊性アデノウイルスだけでも血管新生を抑制することができることを確認することができた。また、KH903によるさらに顕著な血管新生抑制効果を立証することにより、KH903が効果的にVEGFを抑制したことが分かった。
【0083】
即ち、本研究で作製したKH903を発現する腫瘍崩壊性アデノウイルスであるRdB−KH903は、VEGF特異的水溶性デコイ受容体であるKH903を通じて得られる腫瘍内血管新生の遮断と共に、アデノウイルスの腫瘍崩壊性能を同時に誘導して、より一層増大された抗腫瘍効果が誘導されると判断される。
【0084】
VEGFR1とVEGFR2のVEGF結合ドメインをヒトIgGのFc部位に結合させて作製したKH903は、効果的に腫瘍細胞が分泌するVEGFを抑制することができた。本研究に利用されたKH903を発現する腫瘍崩壊性アデノウイルスであるRdB−KH903は、腫瘍特異的アデノウイルスの複製による腫瘍特異的殺傷能と共に、E1A発現とH903により誘導されたVEGFの抑制により、顕著な抗腫瘍効果を示し、癌治療に有用に利用されると期待される。
【0085】
以上、本発明の望ましい具体例を詳細に記述したが、当業界の通常の知識を有する者にとっては、このような具体的な記述はただ望ましい具体例に過ぎなく、これに本発明の範囲が限定されないことは明らかである。従って、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とその均等物により定義されると言える。
参照文献
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【技術分野】
【0001】
本発明は、キメラデコイ受容体を発現する血管新生抑制能の改善された組換えアデノウイルス及びこれを含む薬剤学的血管新生抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の血管から新しい血管が形成される血管新生は、厳密に調節される一連の過程であって、細胞外基質と基底膜の分解を介して始まり、毛細血管内皮細胞の分裂、分化、周辺基質への浸潤、そして新しい機能的ネットワークへの再組織化を通じて完成される1。血管新生のためには、様々な種類の増殖因子が必要であり、これらのうち、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor,VEGF)、特にVEGF−Aが主に関与することが明らかにされている。特異的スプライシングにより形成される7種類のヒトVEGF−Aアイソフォーム(VEGF121,VEGF145,VEGF148,VEGF165,VEGF183,VEGF189,VEGF206)は、それぞれ121,145,148,165,183,189そして206個のアミノ酸残基から構成されており、このうち、VEGF121の基本配列は、全てのアイソフォームに共有されている2−4。
【0003】
VEGFとVEGF受容体の結合により、血管内皮細胞の細胞アポトーシスの抑制、リンパ管形成、免疫抑制、血管透過性、そして造血幹細胞の生存などが調節される4−7。
【0004】
固形癌は、血管がない状態で2mm〜3mmの大きさまで育つことができるが、それ以上の成長のためには、酸素と栄養素の供給のために、VEGFにより誘導される血管新生が必須である。正常な組織において、血管ネットワークは、誘導因子と抑制因子の適切な比率を通じて、効果的な血流速度と均一な血管の幅を有した階層的構造を備える5。しかし、腫瘍で見られる血管系は、血管壁による透過性が増加されていて、高い内圧を有しており、血管が大きくなっているなど、異常に発達している。腫瘍における制御されていない血管新生及び異常な血管の形態は、腫瘍内部の低酸素症と低いpHにより高発現されるVEGFと、これの受容体であるVEGFR2との結合により生じる細胞内情報により起こる9。
【0005】
VEGFによる血管新生は、腫瘍の成長だけではなく、浸潤と転移にも重要な役割を果たす10。肺癌、胃癌、腎臓癌、膀胱癌、卵巣癌、そして子宮癌のような多様な腫瘍において、VEGFが過剰発現されていることが示され、VEGFの発現が高い癌であるほど、予後もよくないことが報告された11。腫瘍の増殖に血管新生による血流供給の増加は必須であるため、腫瘍内血管新生の抑制は、癌治療の主要な標的になっており、アンギオスタチン、エンドスタチン、スロンボスポンディン−1、そしてuPA断片などが、現在血管新生抑制剤として利用されている。また、VEGFの活性を抑制するか、VEGFの細胞受容体であるVEGFR−1(Flt−1)又はVEGFR−2(KDR)の機能を抑制することにより、腫瘍の成長を抑制するか転移を抑制する研究が活発に進行されている12−16。細胞内だけではなく、細胞外でもVEGFと細胞受容体との結合を阻害できる中和抗体や、VEGFR−1又はVEGFR−2特異的中和抗体は、ヌードマウスに形成されたヒト腫瘍異種移植片を処理した場合、血管内皮細胞の細胞アポトーシスを誘導して、腫瘍の成長を著しく抑制した17。
【0006】
VEGFトラップは、細胞表面にあるVEGFR1とVEGFR2のドメインを結合して作製した水溶性デコイ(おとり)VEGF受容体であって、VEGFと高い親和性を有している。現在までVEGFトラップに関する研究がたくさんなされており、それにより、VEGF−A、VEGF−B、そして胎盤増殖因子(placental growth factor,PGF)に対する親和性がさらに増加されたVEGFトラップが作製されている18。様々な腫瘍異種移植モデルで行われた前臨床試験において、VEGFトラップの抗腫瘍効果が検証されて19−21、VEGFトラップ又は抗癌剤のそれぞれ単独で処理した場合に比べ、商用的に利用される抗癌剤とVEGFトラップとの併用治療時に向上された腫瘍成長抑制効果が見られた22。VEGFトラップがVEGFモノクローナル抗体であるベバシズマブやVEGFR2抗体であるDC101に比べて優れた抗腫瘍効果を示す理由は、全てのVEGFアイソフォームとの高い親和性だけではなく、VEGFサブファミリーのうち、PGFとの結合能も有しているからである23。したがって、VEGFとの親和性が強いVEGFトラップを腫瘍内で持続的に発現させることができれば、腫瘍から分泌されるVEGFの発現量を著しく減少させて、優れた抗腫瘍効果を奏することができ、これを通じて、相当な治療効果が得られると期待される。
【0007】
アデノウイルスは、優れた遺伝子伝達体であって、高い力価で産生が可能であり、容易に濃縮できるため、癌遺伝子治療のための遺伝子伝達体として脚光を浴びている24−25。しかしながら、アデノウイルスを利用した癌遺伝子治療剤が臨床的に利用されるためには、周辺の正常組織の細胞には副作用無しに、癌細胞のみを特異的に殺傷できるような特異性と共に、癌細胞を効果的に死滅できる殺傷能の高いアデノウイルスの開発が必要である。腫瘍細胞では、p53タンパク質の変異だけではなく、繊維芽細胞腫タンパク質(retinoblastoma protein,pRb)の変異が頻繁に生じるか、あるいはpRb関連情報系が相当部分損傷されているため、pRbとの結合能を失ったアデノウイルスは、正常細胞では、pRbの活性によりアデノウイルスの複製が抑制されるが、pRbの機能が抑制された腫瘍細胞では、活発に複製されて、癌細胞を特異的に殺傷することができる。このような背景下で、本発明者らは、腫瘍特異的殺傷アデノウイルスの癌細胞特異的複製能を増進させるために、アデノウイルスのE1A遺伝子部位のうち、pRbとの結合に関与するCR1部位のGlu残基をGly残基に置換し、CR2部位の7個のアミノ酸残基(DLTCHEA)を全てGly残基(GGGGGGG)に置換することにより、pRbとの結合能を欠失させ、同時にp53タンパク質の機能を抑制するE1B55kDaとアポトーシスを抑制するE1B19kDa遺伝子を除去することにより、p53が不活化された腫瘍細胞においてのみ特異的に複製が可能であり、これによる癌細胞特異的細胞殺傷及び細胞アポトーシスを同時に誘発できるような、改善された腫瘍特異的殺傷アデノウイルスであるAd−ΔB7を作製して、優れた生体内・外抗腫瘍効果を報告した26−28。
【0008】
本明細書全体にかけて多数の引用文献及び特許文献が参照されて、その引用が表示されている。引用された文献及び特許の開示内容は、その全体が本明細書に参照として取り込まれ、本発明の属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、外来配列をアデノウイルスゲノムに挿入させる戦略でアデノウイルスの血管新生抑制能、特に腫瘍崩壊(oncolytic)能を向上させるために鋭意研究した結果、VEGFRのキメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列をアデノウイルスのゲノムに挿入して発現させると、前記アデノウイルスの血管新生抑制能、特に腫瘍崩壊能が顕著に向上することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
したがって、本発明の目的は、キメラデコイ受容体を発現する、血管新生抑制能の改善された組換えアデノウイルスを提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、キメラデコイ受容体を発現する組換えアデノウイルスを含む血管新生抑制用医薬組成物を提供することにある。
【0012】
本発明のまた他の目的は、過多血管新生による疾患の予防又は治療方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的及び利点は、発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図面により、さらに明確にされる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一様態によると、本発明は、(a)アデノウイルスの逆方向末端反復(inverted terminal repeat;ITR)ヌクレオチド配列と、(b)(i)VEGFR−1(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor 1)の細胞外ドメインと(ii)VEGFR−2(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor 2)の細胞外ドメインとを含むキメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列と、を含む血管新生抑制能の改善された組換えアデノウイルスを提供する。
【0015】
本発明者らは、外来配列をアデノウイルスゲノムに挿入させる戦略でアデノウイルスの血管新生抑制能、特に腫瘍崩壊能を向上させるために鋭意研究した結果、VEGFRのキメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列をアデノウイルスのゲノムに挿入して発現させると、アデノウイルスの血管新生抑制能、特に腫瘍崩壊能が大きく向上することを見出した。
【0016】
既存の血管から新しい血管が形成される血管新生は、腫瘍が成長して転移されるのに非常に重要な役割を果たす。血管新生が起こるためには、種々の増殖因子が必要であるが、これらのうち、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が血管新生に主に関与することが明らかにされた。
【0017】
本発明のアデノウイルスベクターに挿入されるVEGFR−1の細胞外ドメインと、VEGFR−2の細胞外ドメインとを含むキメラデコイ受容体は、いわゆるVEGFトラップの一種であって、VEGF−A、VEGF−B、そしてPGFに対する親和性に優れており、これらの増殖因子に対するデコイ受容体として作用して、血管新生を抑制する。
【0018】
本明細書で使用される用語‘デコイ受容体’は、VEGF−A、VEGF−B、PGF、又はこれらの全てに結合して、これらの増殖因子が正常な受容体と結合することを抑制する受容体を意味する。
【0019】
本明細書で使用される用語‘キメラデコイ受容体’は、VEGFR−1由来の細胞外ドメインとVEGFR−2由来の細胞外ドメインを結合して製造された受容体を意味する。
【0020】
本発明で利用されるキメラデコイ受容体は、VEGFR−1の7個の細胞外ドメインのうち、少なくとも1つの細胞外ドメインと、VEGFR−2の7個の細胞外ドメインのうち、少なくとも1つの細胞外ドメインとを結合して得られるキメラ受容体である。
【0021】
本発明の好ましい具体例によると、前記キメラデコイ受容体は、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメインと、を含む。
【0022】
より好ましくは、前記キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−1の第1細胞外ドメインと、VEGFR−2の第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、(ii)VEGFR−1の第2細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、(iii)VEGFR−1の第3細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、(iv)VEGFR−1の第4細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、並びに(v)VEGFR−1の第5細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメインを含む。
【0023】
あるいは、前記キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−2の第1細胞外ドメインと、VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、(ii)VEGFR−2の第2細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、(iii)VEGFR−2の第3細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、(iv)VEGFR−2の第4細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、並びに(v)VEGFR−2の第5細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメインを含む。
【0024】
本発明で利用されるキメラデコイ受容体は、好ましくは、2個〜4個の細胞外ドメイン、最も好ましくは、3個の細胞外ドメインを含む。
【0025】
さらに好ましいものとしては、キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、VEGFR−1の第2細胞外ドメイン及びVEGFR−2の第3細胞外ドメイン、(ii)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン及びVEGFR−2の第4細胞外ドメイン、又は(iii)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン、VEGFR−2の第4細胞外ドメイン及びVEGFR−2の第5細胞外ドメインを含むものである。
【0026】
別のさらに好ましいものとしては、キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン及びVEGFR−1の第4細胞外ドメイン、又は(ii)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン、VEGFR−1の第4細胞外ドメイン及びVEGFR−1の第5細胞外ドメインを含むものである。
【0027】
最も好ましくは、本発明で利用されるキメラデコイ受容体は、VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン及びVEGFR−2の第4細胞外ドメインを含む。
【0028】
VEGFR−1及びVEGFR−2のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、GenBankで確認することができる。例えば、VEGFR−1の第2細胞外ドメインのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、配列番号1及び2の配列であり、VEGFR−2の第3細胞外ドメインのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、配列番号3及び4の配列であって、VEGFR−2の第4細胞外ドメインのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、配列番号5及び6の配列である。
【0029】
本発明の好ましい具体例によると、前記キメラデコイ受容体は、免疫グロブリン(Ig)のFc領域と融合される。より好ましくは、本発明で利用されるキメラデコイ受容体は、IgGのFc領域、最も好ましくは、ヒトIgGのFc領域と融合されている。IgのFc領域は、前記キメラデコイ受容体のN末端又はC末端と、好ましくは、C末端と融合される。
【0030】
好ましいIgのFc領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、配列番号7及び8に記載されている。
【0031】
キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列は、アデノウイルスゲノムに挿入される。
【0032】
キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列は、適切な発現コンストラクト内に存在することが好ましい。前記発現コンストラクトにおいて、キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列は、プロモーターに機能的に連結されることが好ましい。本明細書において、用語‘機能的に結合された’は、核酸発現調節配列(例えば、プロモーター、シグナル配列、又は転写因子結合部位の配列)と他の核酸配列との機能的な結合を意味し、これにより、前記調節配列は、前記他の核酸配列の転写及び/又は翻訳を調節するようになる。本発明において、キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列に結合されたプロモーターは、好ましくは、動物細胞、より好ましくは、哺乳動物細胞で機能し、キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列の転写を調節することができるものであって、哺乳動物ウイルス由来のプロモーター及び哺乳動物細胞のゲノム由来のプロモーターを含み、例えば、U6プロモーター、H1プロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、HSVのtkプロモーター、RSVプロモーター、EF1αプロモーター、メタロチオネインプロモーター、βアクチンプロモーター、ヒトIL−2遺伝子のプロモーター、ヒトIFN遺伝子のプロモーター、ヒトIL−4遺伝子のプロモーター、ヒトリンホトキシン遺伝子のプロモーター、ヒトGM−CSF遺伝子のプロモーター、誘導性プロモーター、癌細胞特異的プロモーター(例えば、TERTプロモーター、PSAプロモーター、PSMAプロモーター、CEAプロモーター、E2Fプロモーター及びAFPプロモーター)及び組織特異的プロモーター(例えば、アルブミンプロモーター)を含むが、これに限定されるものではない。最も好ましくは、CMVプロモーターである。
【0033】
癌を対象に遺伝子治療を行う場合は、一生治療遺伝子の発現を持続させる必要がなく、局所投与する場合は、アデノウイルスによる免疫反応が大きく問題化されないばかりか、却って長所になり得るため、アデノウイルスを利用した癌遺伝子治療剤の開発研究が活発になされている。したがって、本発明でも、基本的にアデノウイルスのゲノム骨格を利用して癌の遺伝子治療を達成している。
【0034】
アデノウイルスは、中間程度のゲノム大きさ、操作の利便性、高いタイター、広範囲なターゲット細胞性及び優れた感染性のため、遺伝子伝達ベクターとしてよく利用されている。ゲノムの両末端は、100bp〜200bpの逆方向末端反復を含み、これは、DNA複製及びパッケージングに必須なシスエレメントである。ゲノムのE1領域(E1A及びE1B)は、転写及び宿主細胞遺伝子の転写を調節するタンパク質をコードする。E2領域(E2A及びE2B)は、ウイルスDNA複製に関与するタンパク質をコードする。
【0035】
アデノウイルスゲノムの少しの部分だけがシスエレメントとして必要であるので(Tooza,J. Molecular biology of DNA Tumor viruses,2nd ed. Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1981))、特に、293細胞のような特定細胞株を利用する場合に、アデノウイルスDNAの多くを外来DNA分子に置換することができる。このような側面として、本発明の組換えアデノウイルスにおいて、キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列以外に、他のアデノウイルスの配列として少なくとも逆方向末端反復配列を含む。
【0036】
キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列は、E1領域(E1A領域及び/又はE1B領域、好ましくは、E1B領域)、又はE3領域に挿入されることが好ましく、より好ましくは、E3領域に挿入される。一方、他の外来ヌクレオチド配列(例えば、サイトカイン、免疫共刺激因子、アポトーシス遺伝子、及び癌抑制遺伝子)も追加的にアデノウイルスに挿入することができて、これは、E1領域(E1A領域及び/又はE1B領域、好ましくは、E1B領域)又はE3領域に挿入されることが好ましく、より好ましくは、E1領域(E1A領域及び/又はE1B領域、好ましくは、E1B領域)に挿入される。また、前記挿入配列は、E4領域にも挿入できる。
【0037】
また、アデノウイルスは、野生型ゲノムの約105%までパッケージングすることができるため、約2kbを追加的にパッケージングすることができる。したがって、アデノウイルスに挿入される上述の外来配列は、アデノウイルスの野生型ゲノムに追加的に挿入することもできる。
【0038】
本発明の好ましい具体例において、本発明の組換えアデノウイルスは、不活化されたE1B19kDa(「E1B19」とも記載)遺伝子、E1B55kDa(「E1B55」とも記載)遺伝子、又はE1B19kDa/E1B55kDa(「E1B19/55」とも記載)遺伝子を有する。本明細書において、遺伝子と関連して使用される用語‘不活化’は、その遺伝子の転写及び/又は翻訳が正常になされず、その遺伝子によりコードされる正常なタンパク質の機能が誘発されないことを意味する。例えば、不活化E1B19kDa遺伝子は、その遺伝子に変異(置換、付加、部分的欠失、又は全体的欠失)を生じ、活性型のE1B19kDaタンパク質を産生できない遺伝子である。E1B19kDa遺伝子が欠失された場合は、細胞アポトーシス能が増加して、E1B55kDa遺伝子が欠失された場合は、腫瘍細胞特異性を有するようになる(参照:大韓民国特許出願第2002−23760号)。本明細書において、ウイルスゲノム配列と関連して使用される用語‘欠失’は、該当配列が完全に欠失されたものだけではなく、部分的に欠失されたものも含む意味を有する。
【0039】
本発明の好ましい具体例によると、本発明の組換えアデノウイルスは、活性型のE1A遺伝子を含む。E1A遺伝子を含む組換えアデノウイルスは、複製可能な特性を有するようになる。本発明のより好ましい具体例によると、本発明の組換えアデノウイルスは、不活化されたE1B19kDa遺伝子及び活性型のE1A遺伝子を含む。本発明のさらに好ましい具体例によると、本発明の組換えアデノウイルスは、不活化されたE1B19kDa遺伝子及び活性のE1A遺伝子を含み、キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列は、欠失されたE3領域に挿入される。
【0040】
本発明の最も好ましい具体例によると、本発明の組換えアデノウイルスは、不活化されたE1B19kDa遺伝子、及び変異をもつ活性型のE1A遺伝子を含み、キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列は、欠失されたE3領域に挿入されているものである。ここで、変異をもつ活性型のE1A遺伝子は、Rb結合部位をコードするヌクレオチド配列のうち、第45番目Glu残基がGly残基に置換された変異及び第121番目〜127番目アミノ酸残基が全てGly残基に置換された変異を有する。
【0041】
腫瘍細胞では、p53タンパク質の変異だけではなく、Rbの突然変異あるいはRb関連情報系が相当部分損傷されているため、Rbとの結合能が欠失されたアデノウイルスは、正常細胞では、Rbの活性によりアデノウイルスの複製が抑制されるが、Rbの機能が抑制された腫瘍細胞では、活発に複製されて、癌細胞を特異的に殺傷することができる。したがって、上述のRb結合部位における変異を含む本発明の組み換えアデノウイルスは、特異的な腫瘍崩壊性を示す。
【0042】
下記の実施例で例証されたように、キメラデコイ受容体を発現する本発明の組換えアデノウイルスは、VEGFによる血管新生、特に、VEGFによる腫瘍細胞における血管新生を特異的に抑制することにより、抗腫瘍効果をもたらす。そして、キメラデコイ受容体を発現する本発明の組換えアデノウイルスは、低い力価のウイルスでも高い殺傷効果を誘導することができるため、投与された体内における安全性に非常に優れている。
【0043】
本発明の他の様態によると、本発明は、(a)上述の組換えアデノウイルスの治療学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体と、を含む抗血管新生組成物を提供する。
【0044】
本発明のまた他の様態によると、本発明は、(a)上述の組換えアデノウイルスの治療学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体とを含む抗血管新生組成物を、これを必要とする対象に投与する段階を含む過多血管新生による疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0045】
本発明の薬剤学的組成物に有効成分として含まれる組換えアデノウイルスは、上述の本発明の組換えアデノウイルスと同一なものであるため、組換えアデノウイルスに対する詳細な説明は、本発明の薬剤学的組成物にも同様に適用される。したがって、本明細書の不要な重複記載による過度なる複雑性を避けるために、共通事項は、その記載を省略する。
【0046】
本発明の抗血管新生組成物により予防又は治療できる疾患又は疾病は、過多な血管新生により招来されるあらゆる疾患又は疾病を含み、好ましくは、癌、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植拒否、新生血管緑内障、紅色症、増殖性網膜症、乾癬、血友病性関節、アテロ−ム性動脈硬化プラーク内における毛細血管増殖、ケロイド、傷の顆粒化、血管接着、リウマチ性関節炎、骨関節炎、自己免疫疾患、クローン病、再発狭窄症、アテローム性動脈硬化、腸管接着、猫引っかき病、潰瘍、肝硬変、糸球体腎炎、糖尿病性腎臓病症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症、器官移植拒否、腎糸球体病症、糖尿病、炎症又は神経退行性疾患である。
【0047】
本発明で開発されたキメラデコイ受容体を発現する組換えアデノウイルスは、血管新生を効果的に抑制し、多様な血管新生関連疾患、特に、抗腫瘍効果が格段に増大されて、特に、E1B55kDa遺伝子が不活化されるか、E1AにおいてRb結合部位が変異された場合は、癌細胞特異性に非常に優れる。これは、結果的に癌治療に必要なウイルス投与量を減少させることができて、ウイルスによる生体内毒性と免疫反応を大きく減らすことができる。
【0048】
本発明の組成物に含まれる組換えアデノウイルスは、多様な腫瘍細胞に対して殺傷効能を示すため、本発明の薬剤学的組成物は、腫瘍に係る様々な疾病又は疾患、例えば、脳癌、胃癌、皮膚癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、肝癌、気管支癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、食道癌、膵臓癌、膀胱癌、前立腺癌、大腸癌、頭頸癌、皮膚癌、黒色腫、結腸癌及び子宮頸癌などの治療に利用することができる。本明細書において、用語‘治療’は、(i)血管新生の予防;(ii)血管新生の抑制による血管新生に係わる疾病又は疾患の抑制;及び(iii)血管新生の抑制による血管新生に係わる疾病又は疾患の軽減を意味する。したがって、本明細書における用語‘治療学的有効量’は、上記した薬理学的効果を達成するに十分な量を意味する。
【0049】
本発明の組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通常的に利用されるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、及びミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。本発明の薬剤学的組成物は、前記成分の他に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。
【0050】
本発明の薬剤学的組成物は、非経口投与が好ましく、例えば、静脈内投与、腹腔内投与、腫瘍内投与、筋肉内投与、皮下投与、又は、局部投与を利用して投与することができる。卵巣癌で腹腔内に投与する場合及び肝癌で門脈に投与する場合は、注入方法により投与することができて、乳癌の場合は、腫瘍塊に直接注射して投与することができ、結腸癌の場合は、浣腸で直接注射して投与することができて、膀胱癌の場合は、カテーテル内に直接注入することができる。
【0051】
本発明の薬剤学的組成物の適合した投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、疾病症状の程度、飲食、投与時間、投与経路、排泄速度、及び反応感応性のような要因により様々であり、普通に熟練した医者は、目的する治療に効果的な投与量を容易に決定及び処方することができる。一般に、本発明の薬剤学的組成物は、1×105PFU/ml〜1×1015PFU/mlの組換えアデノウイルスを含み、通常、1×1010PFUを2日に1回、2週間注射する。
【0052】
本発明の薬剤学的組成物は、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できる方法により、薬剤学的に許容される担体及び/又は賦形剤を利用して製剤化することにより、単位容量形態に製造されるか、又は多用量容器内に入れて製造する。この際、剤形は、オイル又は水性媒質中の溶液、懸濁液又は乳化液の形態であるか、エリキシル剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤の形態でもよく、分散剤又は安定化剤をさらに含むことができる。
【0053】
本発明の薬剤学的組成物は、単独療法として利用してもよいが、他の通常的な化学療法又は放射療法と共に利用してもよく、このような並行療法を実施する場合は、より効果的に癌治療をすることができる。本発明の組成物と共に利用できる化学療法剤は、シスプラチン、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ビスルファン、ニトロソウレア、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン、マイトマイシン、エトポシド、タモキシフェン、タキソール、トランス−プラチナ、5−フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、及びメトトレキサートなどを含む、本発明の組成物と共に利用できる放射療法は、X線照射及びγ線照射などである。
【発明の効果】
【0054】
本発明の特徴及び長所を要約すると、下記のようである:
(a)本発明の組換えアデノウイルスは、血管新生を抑制するキメラデコイ受容体を発現する。
(b)キメラデコイ受容体を発現する本発明の組換えアデノウイルスは、血管新生を顕著に抑制して、多様な血管新生関連疾患の遺伝子治療剤として利用できる。
(c)特に、本発明の組換えアデノウイルスは、腫瘍崩壊能に優れている。
(d)既存の血管新生関連抗癌剤(例えば、アバスチン)は、細胞増殖抑制効果のみを有しており、癌治療剤としての限界を有しているが、本発明の組換えアデノウイルスは、殺細胞効果を有しており、癌細胞を死滅させることができて、これにより、既存の癌治療剤の限界を克服することができる。
(e)また、既存の血管新生関連抗癌剤は、正常細胞にも作用し、副作用を誘発するが、本発明の組換えアデノウイルスは、癌細胞に特異的に作用し、このような副作用を大きく減らすことができる。
(f)既存のVEGFトラップは、タンパク質製剤であって、生体内において半減期が短い。しかし、本発明の組換えアデノウイルスは、持続的にVEGFトラップを過剰発現するため、このような問題点を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1a】図1aは、組換えアデノウイルス(Ad)ベクターのコンストラクトで、E1が欠失した複製不能組換えアデノウイルスに関する。dE1−k35は、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーターの調節下でβ−ガラクトシダーゼを発現する。dE1−k35/KH903は、E3部位にキメラデコイ受容体KH903を含む。
【図1b】図1bは、組換えアデノウイルス(Ad)ベクターのコンストラクトで、複製可能組換えアデノウイルスに関する。RdBは、変異されたE1Aを含み、E1B19kDaとE1B55kDaが欠失している。RdB/KH903は、E3部位にキメラデコイ受容体KH903を含む。
【図1c】図1cは、培地に分泌されたKH903を検出した結果である。Ad:アデノウイルス;ITR:逆方向末端反復配列;uninfected:非感染
【図2a】図2aは、dE1−k35/KH903によるVEGF発現の抑制を示すVEGFレベルの定量化の結果である。図2aにおいて、多様なヒト肺癌細胞株に対して20MOI〜100MOI(感染多重度)でdE1−k35又はdE1−k35/KH903を感染させた。感染48時間後、上清のVEGF濃度をELISAで測定した。Cell:非感染細胞
【図2b】図2bは、dE1−k35/KH903によるVEGF発現の抑制を示すVEGFレベルの定量化の結果で、A549細胞溶解液中のVEGFレベルを測定した結果である。uninfected:非感染
【図3】図3は、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のVEGF誘導性増殖に対するdE1−k35/KH903の抑制実験の結果である。HUVECを30MOIのdE1−k35又はdE1−k35/KH903で処理した。感染72時間後、MTT分析を行って、総生存細胞を測定した。結果は、3回行った実験の平均で示した。uninfected:非感染
【図4a】図4aは、HUVEC運動性に対するdE1−k35/KH903の影響を示す。EBMを含む24ウェル組織培養プレートの上部チャンバに細胞を静置して、3.5時間後、通過細胞を固定化して、H&E(ヘマトキシリンとエオシン)で染色したものである。図4aは、HUVECの運動性を示す(倍率:×40)。uninfected:非感染
【図4b】図4bは、図4aのものにおいて、高倍率(×200)で、フィールドにおける運動性の細胞数を数えた。8個のフィールドを2回ずつカウントした。エラーバーは、±s.eを示す。*:P<0.05,**:P<0.001,uninfected:非感染
【図5a】図5aは、HUVECのチューブ形成に関するdE1−k35/KH903の効果を示す。HUVECをマトリゲルコートされたプレートに1.5×105細胞/ウェルの密度でプレーティングして、次いで、dE1−k35又はdE1−k35/KH903を感染させ(20MOI)、A549又はH460のコンディショニング培地で48時間培養した。図5aは、チューブ形成に対する代表的な写真である(倍率:×40)。uninfected:非感染
【図5b】図5bは、図5aのもののチューブ形成に対する定量的分析結果である。チューブネットワークによりカバーされる広さを測定し、チューブ形成の定量化を行った。実験は3回行って、値は、これらの平均で示した。エラーバーは、±s.eを示す。*:P<0.05,**:P<0.001,uninfected:非感染
【図6】図6は、dE1−k35/KH903による血管の出芽(vessel sprouting)抑制を示す。KH903を含む複製不能アデノウイルスは、エクスビボでVEGF誘導性の血管の出芽を抑制する。分析結果は、0(最小ポジティブ)から5(最大ポジティブ)までスコアリングした。uninfected:非感染
【図7】図7は、RdB/KH903のインビトロ細胞変性効果を示す。細胞を、指定されたMOIのdE1−k35、dE1−k35/KH903、RdB又はRdB/KH903に感染させた。複製不能アデノウイルスdE1−k35を陰性対照群として利用した。感染4日目〜10日目にプレートにある細胞を固定化して、クリスタルバイオレットで染色した。
【図8】図8は、KH903発現アデノウイルスの抗腫瘍効果を示す。1×107個のH460腫瘍細胞を皮下注入した異種移殖モデルを作製した。腫瘍を80mm3〜120mm3まで成長させた。腫瘍を有するヌードマウスを3つの実験群(それぞれ5匹ずつ)にランダムに分けた。それぞれの実験群に対して、1日、3日及び5日目にアデノウイルス(30μlのPBS中に1×1010個のアデノウイルス粒子)を腫瘍内に注入した。腫瘍の短軸(w)及び長軸(L)を測定し、腫瘍成長を毎日モニタリングした。
【図9a】図9aは、RdB/KH903で処理されたH460腫瘍組織の血管新生に対する組織学的評価結果である。図9aにおいて、微細血管を抗PECAM抗体(CD31)で染色した。CD31に対する染色結果を示す。
【図9b】図9bは、RdB/KH903で処理されたH460腫瘍組織の血管新生に対する組織学的評価結果である。図9bは、腫瘍組織に対する血管数を定量化した結果である。データを平均(n=3)±標準誤差で示した。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これら実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれら実施例に限定されないことは、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者にとって自明なことであろう。
【実施例】
【0057】
−実験材料及び実験方法−
1.対象細胞株及び細胞の培養
実験に使用されたヒト肺癌細胞株であるA549とH460は、ATCC(American Type culture Collection,Manassas,VA,USA)から購入して、HUVEC(Human umbilical vascular endothelial cell)は、Lonza(Basel,スイス)から購入した。アデノウイルスの初期発現遺伝子であるE1部位が宿主遺伝体内に内在されているHEK293細胞株(ATCC)をアデノウイルス産生細胞株として使用した。HUVECを除いた全ての細胞株は、100U/mlペニシリンと100μg/mlストレプトマイシン(Gibco−BRL)を添加した10%牛胎児血清(FBS;Gibco−BRL,Grand Island,NY,USA)を含むDMEM培養液で、5%CO2、37℃で培養した。HUVECは、5%FBSの含まれたEGM−2MV(Lonza,Walkersville,MC,USA)に抗生剤100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(Gibco−BRL)を入れて、継代培養5日目〜8日目の細胞で実験を行った。
【0058】
2.KH903を発現するアデノウイルスの作製及び力価算出
KH903を発現する組換えアデノウイルスを作製するために、KH903プラスミドであるpKH903(KangHong,Cheng du,中国)をアデノウイルスE1シャトルベクターであるpCA14(Microbix)にEcoRI切断して挿入した後、これを再びBglIIで切断して得られたKH903のDNA断片をBamHIで切断したE3シャトルベクターpSP72ΔE3(本発明者が作製、Cancer Gene Therapy,12:61−71(2005))に挿入した。KH903は、VEGFR−1の第2細胞外ドメイン(配列番号1及び2の配列)、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン(配列番号3及び4の配列)及びVEGFR−2の第4細胞外ドメイン(配列番号5及び6の配列)が順次結合して製造されたキメラデコイ受容体に、ヒトIgGのFc領域(配列番号7及び8の配列)が融合されて作られたものである。作製されたpSP72ΔE3/KH903ベクターをXbaIで切断し、pSP72ΔE3/CMVベクター(本発明者が作製、Cancer Gene Therapy,12:61−71(2005))のCMVプロモーターを挿入してpSP72ΔE3−CMV−KH903 E3シャトルベクターを製造した。KH903を発現する複製不能アデノウイルスを作製するために、上記作製されたpSP72ΔE3−CMV−KH903 E3シャトルベクターをPvuIで処理して直鎖化し、E3遺伝子が欠失されて、E1部位にlacZが挿入されており、アデノウイルスタイプ35のファイバーノブ(ノブ)で置換されたpdE1−k35トータルベクター[Ad35ファイバーノブ部分を有したアデノウイルス(Cell Genesys)からPCRで700bpの35ノブ部分を得て、NcoI/MfeIで切断し、予めNcoI/MfeIで切断していたpSK5543(Coxsackie and adenovirus receptor binding ablation reduces adenovirus liver tropism and toxicity,Human Gene Ther 16:248−261(2005))とライゲーションしてpSK5543/35kを作製した。作製されたpSK5543/35kは、SacII/XmnIで切断し、SpeIで切断したdE1/lacZと相同組換えすることでpdE1−k35を作製した]をSpeIで処理して直鎖化した。これらで大腸菌BJ5183(スイスのFribourgh大学のVerca;Heider,H.et al.,Biotechniques,28(2):260−265,268−270(2000))を同時形質転換し、相同組換えにより、lacZ遺伝子とKH903を同時に発現する複製不能アデノウイルスベクターであるpdE1−k35/KH903を作製した。VEGFを効果的に抑制させることのできるVEGFトラップを発現する腫瘍特異的殺傷アデノウイルスを作製するためには、上記作製されたpSP72ΔE3−CMV−KH903 E3シャトルベクターをPvuIで処理して直鎖化したものと、SpeI処理して直鎖化したpRdBアデノウイルストータルベクター(E1AのRb結合部位が変異して、E1B19kDa遺伝子とE1B55kDa遺伝子が共に欠失された腫瘍崩壊アデノウイルス,参照:大韓民国特許第0746122号)とで、一緒に大腸菌BJ5183を形質転換して、pRdB/KH903腫瘍崩壊性アデノウイルスベクターを作製した。E1AのRb結合部位の変異は、ElA遺伝子配列に位置したRb結合部位をコードするヌクレオチド配列のうち、第45番目のGlu残基がGly残基に置換された変異、及び第121番目〜127番目アミノ酸残基が全てGly残基に置換された変異である。相同組換えされたアデノウイルスベクターをHindIIIで処理して相同組換えの有無を確認した後、確認されたプラスミドを、PacI制限酵素で切断した後、HEK293細胞株を形質転換してアデノウイルスを産生した。対照群として使用されたウイルスは、E1部位の遺伝子が欠失して、その部位にlacZ遺伝子を有するdE1−k35と、同時にE1B19kDaとE1B55kDa遺伝子が全て欠失したRdBである。それぞれのアデノウイルスは、HEK293細胞株で増殖させて、CsCl濃度勾配で濃縮して精製して、限界適正分析(limiting titration assay)及びフォトスペクトロメーターで力価(plaque forming unit; PFU)を算出した。
【0059】
3.ウェスタンブロット
KH903を発現するアデノウイルスをヒト肺癌細胞株に感染させることで、細胞内でKH903タンパク質が産生されて、細胞培養液に分泌されるかどうかを検証するために、A549細胞に、作製したアデノウイルスであるdE1−k35/KH903を、20MOI、50MOI及び100MOIでそれぞれ処理して、48時間後に細胞培養液と細胞を全て回収し、SDS−PAGE(sodium dodecyl sulfate−poly acrylamide gel electrophoresis)を行った。電気泳動後、ゲルにあるタンパク質をPVDF(polyvinylidene fluoride)膜にエレクトロトランスファーした後、KH903のヒトIgGのFc部位を特異的に認識する抗体を一次抗体(Cell signaling,Danvers,MA,USA)として用いた。HRP(horseradish peroxidase)が結合されたヤギ抗マウスIgGを二次抗体(Cell signaling,Danvers,MA,USA)として反応させた後、LAS4000を用いて、ECL(enhanced chemiluminescence)(Pierce,Rockford,IL,USA)による発色で、膜上のタンパク質と抗体との結合の有無を調べて、各タンパク質の発現を確認した。
【0060】
4.VEGF発現変化
腫瘍から分泌されるVEGFを効果的に抑制可能なKH903を発現するアデノウイルスにより、VEGFの発現が減少されるかどうかを検証するために、ELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)を行った。まず、VEGFの発現が効果的に抑制されるかを検証するために、肺癌細胞株であるA549、H460、H322(ATCC)、H358(ATCC)及びH1299(ATCC)を6ウェルプレートにそれぞれ3×105細胞/ウェルで播いた後、翌日アデノウイルスを2MOI〜100MOIで感染させて6時間後、5%FBSが含まれたDMEM培地に入れ替えた。ウイルス感染から48時間後に培地を回収するために、培地回収の24時間前にFBSの含まれていないDMEMに入れ替えた。回収された培地は、800×gで遠心して上清を分離した後、このうち、150μgを利用してVEGFのELISA分析を行った。
【0061】
5.MTT分析
アデノウイルス感染後のKH903の発現による血管内皮細胞増殖能の抑制を定量化するために、MTT(3−(4,5−dimethylathiazol−2yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide,2mg/ml)分析を行った。HUVECを2%ゼラチンでコートされた48ウェルプレートに播いて、24時間後、30MOIの組換えアデノウイルスで処理した。ウイルス処理前、HUVECは、EBM−2(Lonza,Walkersville,MC,USA)培地で血清飢餓(serum starvation)処理した。ウイルス処理72時間後の細胞の生存率を測定するために、培地を除去した後、MTT溶液を各ウェル当たり150μl入れて、5%CO2の存在下、37℃恒温培養器中で4時間反応した後、上清を除去した。上清の除去されたプレートウェルに1mlのDMSO(dimethyl sulphoxide)を添加して、37℃で10分間反応した後、上清(DMSOで溶出されたもの)の540nmでの吸光度を測定し、細胞の相対的生存率を測定した。
【0062】
6.内皮細胞の移動性分析
HUVECの走化性を調べるために、6.5mm直径のポリカーボネートろ紙(8μmポアサイズ)のTranswell(Corning Costar,Cambridge,MA,USA)を用いて、内皮細胞の運動性分析を行った。まず、上部チャンバのフィルターを0.1%ゼラチンでコートした。ゼラチンの乾燥後、6時間血清飢餓培地で培養し、血清飢餓処理したHUVECを1×105細胞になるようにカウントし、上部チャンバに入れて、dE1−k35とdE1−k35/KH903アデノウイルスを感染させて、回収した細胞培養液を下部チャンバに入れて、プレートを37℃で3時間30分間インキュベートした。プレートを取り出して、上部チャンバの培地を捨てた後、細胞をメタノ−ルで1分間固定し、H&E染色してスライドを作製した。その後、グループ別に200倍の倍率で8ヶ所の写真を撮って、平均を求め、細胞の運動性を定量化した。
【0063】
7.チューブ形成分析
腫瘍が分泌するVEGFを効果的に抑制できるKH903によるVEGFの発現減少により、血管内皮細胞のチューブ形成機能が変化するかどうかを調べるために、HUVECを利用したチューブ形成分析を行った。まず、250μlの増殖因子を減らしたマトリゲル(Collabo−rative Biomedical Products,Bedford,MA,USA)を−20℃に保存しておいた24ウェルプレートに均一にプレート後、37℃で30分間置いて固めた。HUVEC(5回〜7回継代培養)細胞は、6時間、血清飢餓EBM−2(Lonza,Walkersville,MC,USA)培地で培養し、血清飢餓処理した後、トリプシン処理して細胞数を測定した。dE1−k35又はdE1−k35/KH903アデノウイルスでそれぞれ20MOI処理した後、48時間後に回収したA549及びH460細胞培養液を、血清飢餓の前処理をしたHUVEC(1.5×105細胞/ウェル)と混ぜた後、マトリゲルがプレートされた24ウェルプレートに播いて培養した。陽性対照群としては、20ng/mlのVEGFタンパク質を利用した。培養後12時間〜16時間の間に培養液を除去して、PBSで2回洗浄した後、顕微鏡でチューブ形成を観察した。
【0064】
8.エクスビボ大動脈輪出芽分析
腫瘍から分泌されるVEGFを効果的に抑制できるKH903による血管形成抑制を観察するために、大動脈輪出芽(aortal ring sprouting)分析を行った。オリエント社(Orient Bio,Korea,Inc.)から購入した6週齢のSprague Dawleyラットから大動脈を分離して、大動脈周辺の繊維脂肪組織を除去した後、1mm厚の輪に薄く切断した。予め冷やしておいた48ウェルプレートにマトリゲルを200μlずつプレートして、大動脈輪をそれぞれのウェルの中のマトリゲルに植えた後、37℃で20分間置いた。マトリゲルが固まった後、チューブ形成分析で使用された細胞培養液250μlをそれぞれのウェルに添加して培養し、毎日顕微鏡で大動脈輪から形成された血管を観察した。陽性対照群として、VEGFタンパク質(20ng/ml)を用いた。培養後、新しく形成された血管は、二重盲分析により、陽性対照群を5点、血管が形成されなかった実験群を0点の点数を付与して分析して、それぞれの実験群に対して12個の大動脈輪を対象に大動脈輪出芽分析を行った。
【0065】
9.KH903が発現するアデノウイルスの腫瘍殺傷能
腫瘍から分泌されるVEGFを減少させるKH903の発現の有無がアデノウイルスの複製にどのような影響を及ぼすか検証するために、細胞変性分析を行った。肺癌細胞株を含むヒト腫瘍細胞株を48ウェルプレートにそれぞれ播いて、24時間後、dE1−k35,dE1−k35/KH903,RdB又はRdB/KH903アデノウイルスを0.1MOI〜10MOIで感染させた。対照群ウイルスとの差が最も顕著な時点で培地を除去し、プレートの底に残っている細胞を0.5%クリスタルバイオレットで固定して染色した後、分析した。
【0066】
10.生体内抗腫瘍効果の検証
オリエント社から購入した生後6週〜8週程度のヌードマウスの腹部皮下に1×107個のヒト肺癌細胞株、H460を注射した。腫瘍の容積が約70mm3〜100mm3程度になった時、RdB、RdB/KH903アデノウイルスを陰性対照群のPBSと共にそれぞれ2日間隔で3回腫瘍内に直接注射した後、腫瘍の大きさを2日間隔で測定した。腫瘍の容積は、カリパースで腫瘍の短軸と長軸を測定し、下記のような公式で算出した:
腫瘍の容積(mm3)=(短軸(mm))2×長軸(mm)×0.523
【0067】
11.VEGFと結合するKH903を発現する腫瘍特異的崩壊性アデノウイルスの投与による腫瘍組織内の血管新生の抑制
6〜8週齢のヌードマウスの腹部皮下に肺癌細胞株であるH460を注射した後、腫瘍の大きさが約100〜120mm3程度になった時、RdB,RdB/KH903アデノウイルス又は陰性対照群のPBSを2日間隔で3回腫瘍内投与した。最後のウイルスを投与した後、10日後頃に腫瘍を摘出して、IHC zinc fixative(Formalin−free)(BD Biosciences Pharmingen,San Diego,CA,USA)溶液で固定した後、パラフィンブロックを作製した。作製したパラフィンブロックを4μm厚に切断してスライドを作った後、これをキシレン、100%、95%、80%及び70%エタノ−ル溶液に順に浸してパラフィンを除去してから、ヘマトキシリンとエオシン(H&E)で染色した。腫瘍が分泌するVEGFと結合してその発現を減少させるKH903により腫瘍組織内血管形成が抑制されるかどうか確認するために、血管内皮細胞特異的抗原であるCD31を特異的に認識できる抗体であるラット抗マウスCD31モノクローナル抗体(MEC13.3;BD Biosciences Pharmingen)を用いて、組織免疫染色を行った。パラフィンが除去された4μm厚の腫瘍組織スライドを3%H2O2溶液で10分間反応して、内因性過酸化酵素の作用を除いた。Protein Block Serum free(DakoCytomation,Carpinteria,CA,USA)で30分間処理して非特異的な抗体反応が起こらないようにした後、CD31抗体を一次抗体としてハイブリダイゼーションを行った。ビオチンの結合されたポリクロ−ナル抗ラットIgG抗体(BD Biosciences Pharmingen)を二次抗体として反応した後、DAB(DakoCytomation,Carpinteria,CA,USA)を利用して、CD31の発現を調べた。
【0068】
12.腫瘍内血管数の計測
血管内皮細胞特異的抗原であるCD31(platelet endothelial cell adhesion molecule 1)に対する染色を行った腫瘍内血管をまず低倍率で観察し、無作為に写真を取った後、倍率を高めて100倍視野で観察される血管の数を定量した。3枚のスライドからそれぞれ5個の視野を選択し血管数を計測して、平均値を算出し、その値を代表値として使用した。
【0069】
−実験結果−
1.VEGFと特異的に結合するKH903を発現するアデノウイルスの作製及びVEGF発現変化の検証
VEGFに特異的に結合し、腫瘍から分泌するVEGFの発現を抑制するVEGFトラップであるKH903を発現するアデノウイルスdE1−k35/KH903を作製した(図1a)。dE1−k35/KH903アデノウイルスのE3部位に挿入されたKH903が、細胞感染時に実際に細胞から培地に分泌されるか確認するために、感染させた腫瘍細胞と培地を全て回収し、KH903の構造のうち、ヒトIgGのFc部位を検出する抗体を利用してウェスタンブロッティングを行った。結果的に、細胞溶出液ではKH903の産生を確認できる程度の量が観察されたが、培地では、多量のKH903を観察することができた。したがって、KH903は感染された細胞内で産生されて、培地に分泌されることを確認することができた(図1c)。
【0070】
アデノウイルスの初期遺伝子であるE1Aを発現する複製可能アデノウイルスによりVEGFの発現が減少するという報告があったので28、KH903によるVEGF発現変化を検証するために、E1Aを欠失し、lacZとKH903を同時に発現する複製不能アデノウイルスであるdE1−k35/KH903を作製した。dE1−k35/KH903をヒト肺癌細胞株(A549,H460,HCC827,H1299,H2172,H322)に感染させて、細胞から培地を回収して、ELISAでVEGF発現量を定量した。その結果、実験に利用された全ての種類の肺癌細胞株において、dE1−k35/KH903アデノウイルスの感染によりVEGFの発現が顕著に減少することを確認することができた(図2a)。
【0071】
実際に腫瘍細胞でVEGFがどれだけ産生されており、分泌されるVEGFがKH903の発現により減少するかを検証するために、培地を回収した後の細胞を破砕し、細胞のVEGF発現量を確認した。図2bから分かるように、アデノウイルスの感染後、培地を用いたVEGFのELISAの結果と同様に、dE1−k35を感染させた細胞に比べ、dE1−k35/KH903を感染させた細胞でVEGF発現量が顕著に減少したことを観察することができた(図2b)。
【0072】
2.VEGFと特異的に結合するKH903を発現するアデノウイルスによる血管新生抑制能の観察
まず、VEGFを抑制するKH903の発現によるVEGFレベルの変化によるHUVECのVEGF誘導性増殖能に対する影響を確認した。HUVECをマトリゲルコートした48ウェルプレートに2×104細胞/ウェルで播いた後、30MOIのdE1−k35又はdE1−k35/KH903アデノウイルスを感染させて、72時間後、MTT分析を行って、細胞の生存率を測定した。その結果、dE1−k35/KH903を感染させたグル−プが、ウイルスを処理しなかったグループに比べ、生存率が53%減少し、陽性対照群であるdE1−k35を感染させたグループに比べては、30%減少したことを観察した(図3)。
【0073】
VEGF発現を抑制させるKH903によるVEGF量の変化が血管内皮細胞の運動能に及ぼす影響を検証するために、HUVECを利用して運動性分析を行った。A549、H460細胞株を20MOIのdE1−k35又はdE1−k35/KH903アデノウイルスにそれぞれ感染させて、48時間後に回収した培地でHUVECを培養した。その結果、何も処理しなかった細胞培養液又はdE1−k35アデノウイルスを感染させた細胞培養液を処理した場合は、上部チャンバから下部チャンバにたくさんの細胞が移動した反面、dE1−k35/KH903アデノウイルスを感染させた細胞培養液を処理した場合は、HUVECの移動は、上記の2つのグループに比べ低いことを観察した(図4)。
【0074】
KH903の発現によるVEGF量の変化が、血管内皮細胞の血管形成能力に及ぼす影響を検証するために、HUVECを利用してチューブ形成分析を行った。A549、H460細胞株を20MOIのdE1−k35又はdE1−k35/KH903アデノウイルスにそれぞれ感染させて、48時間後に回収した培地でHUVECを培養した。その結果、何も処理しなかった細胞培養液又はdE1−k35アデノウイルスを感染させた細胞培養液を処理した場合は、大きくて太いチューブが形成された反面、dE1−k35/KH903アデノウイルスを感染させた細胞培養液を処理した場合は、HUVECの血管形成がうまくいかず、細くて部分的に切られたチューブが形成されたことを観察した(図5)。
【0075】
以上から確認された血管新生能の差を、エクスビボ上で確認するために、ラットの大動脈を利用して血管出芽分析を行った。まず、dE1−k35又はdE1−k35/KH903アデノウイルス、20MOIで処理して48時間後に回収したA549、H460細胞培養液で大動脈輪を処理して5日間培養した結果、何も処理しなかった細胞培養液やdE1−k35を感染させたA549細胞培養液を処理した大動脈輪とは対照的に、dE1−k35/KH903アデノウイルスを処理した細胞培養液で大動脈輪を培養した場合、血管の出芽がほとんど起こらないことを確認することができた(図6)。これを、より定量的に比較検証するために、形成された血管を、二重盲方式で陽性対照群(most positive)を5点、血管が出芽されなかった実験群(least positive)を0点で点数を付与して分析した。何も処理しなかった細胞培養液やdE1−k35を感染させたA549、H460細胞培養液を処理した全ての大動脈輪において血管形成が活発に起こることを確認することができたが、dE1−k35/KH903アデノウイルスを感染させた細胞の培養液を処理した場合は、対照群ウイルスであるdE1−k35に比べ、血管形成が顕著に抑制されることを確認した。
【0076】
3.VEGFと特異的に結合するKH903を発現する腫瘍崩壊性アデノウイルスの細胞殺傷能の検証
VEGF発現抑制による血管新生能の低下は、腫瘍の成長を抑制すると考えられるので、KH903の抗癌効果を確認するために、KH903を発現する腫瘍崩壊性アデノウイルスであるRdB/KH903と、対照群としての腫瘍崩壊性アデノウイルスであるRdBをそれぞれ作製した。KH903の発現によりアデノウイルスの複製が阻害できるかどうか確認するために、数種類の癌細胞株及び正常細胞株をdE1−k35、dE1−k35/KH903、RdB又はRdB/KH903アデノウイルスに感染させて、ウイルスの複製による細胞の死滅の程度をCPE分析で観察した。陰性対照群であるdE1−k35複製不能アデノウイルスに感染させた細胞においてはアデノウイルスが複製されないため、細胞殺傷効果が現れなかったが、複製可能アデノウイルスであるRdB又はRdB/KH903に感染させ場合は、ウイルスの量が増加するにつれて、細胞殺傷効果も増加した。実験に利用された全ての細胞株において、KH903を発現するアデノウイルスであるRdB/KH903の細胞殺傷能が、対照群ウイルスであるRdBに比べ、優れていることを観察することができた(図7)。
【0077】
4.VEGFと特異的に結合するKH903を発現する腫瘍崩壊性アデノウイルスの生体内抗腫瘍効果の検証
VEGF発現を抑制するKH903を発現するアデノウイルスの生体内抗腫瘍効果を検証するために、ヒト肺癌細胞株であるH460細胞をヌードマウスの腹部皮下に注射して、形成された腫瘍の容積が約80mm3〜100mm3程度になった時、1×1010vpのRdBとRdB/KH903アデノウイルスを陰性対照群であるPBSと共に2日間隔で3回腫瘍内に投与した後、腫瘍の成長を観察した(図8)。陰性対照群であるPBSを投与したヌードマウスの場合、ウイルスの投与後、23日後頃に既に腫瘍の容積が2170.238±455.1216mm3に急激に成長したが、KH903を発現する腫瘍特異的殺傷アデノウイルスであるRdB/KH903を投与した場合は、腫瘍の成長が大きく遅延されることを確認した。即ち、RdBとRdB/KH903アデノウイルスを投与したマウスの場合、それぞれ1181.391±985.9131mm3、及び252.67±103.8464mm3であって、KH903の血管新生の抑制による、抗腫瘍効果を観察することができた。
【0078】
5.VEGF発現を抑制するKH903を発現する腫瘍特異的殺傷アデノウイルスの投与による腫瘍内血管分布観察
ヒト肺癌細胞株であるH460をヌードマウスの腹部皮下に注射した後、腫瘍が形成された後、RdBとRdB/KH903アデノウイルスを、PBSを陰性対照群として、1×1010vpで2日間隔で3回腫瘍内注射した。最後の投与の1日後に腫瘍を摘出して、血管内皮細胞特異的抗原であるCD31を、組織免疫染色法で観察した。その結果、陰性対照群であるPBS群に比べ、腫瘍崩壊性アデノウイルスであるRdBを処理した実験群では、腫瘍内血管数が21%減少したことを確認し、RdB/KH903を投与した場合は、血管数が71%抑制されたことを観察することができた(図9)。
【0079】
−追加的議論−
血管新生は、既に存在する血管から新しい血管が形成される過程であって、胚発生と、器官の形成及び組織の再生に重要な役割をする。また、血管新生は、初期の腫瘍が成長するための必須条件であって、腫瘍の体積が大きくなるにつれて、腫瘍細胞や浸潤されたマクロファージが様々な血管形成因子を産生して、腫瘍内微細血管を形成させる。このように形成された血管は、腫瘍細胞に養分を供給と同時に、様々な増殖因子を供給し、腫瘍を成長させる。血管新生に関与する種々の増殖因子のうち、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が腫瘍の成長と転移に大きく関与することが知られている。VEGFは、受容体型チロシンキナーゼ、VEGFR2(KDR)の二量体と結合し、直接血管内皮細胞の分裂を促進する、強力な血管新生因子として作用し、微細血管の透過性を増加させて血漿タンパクが周辺組織に排出され、細胞外基質を修飾して血管形成を容易にする。そのため、癌の成長を防ぐためには、血管新生因子であるVEGFの抑制が極めて重要である。ここ30年間、抗癌治療の標的として、腫瘍内血管形成を抑制することにより腫瘍の成長を抑制する研究が活発になされてきた。しかし、現在利用可能な血管新生抑制剤は、主に単一治療剤として利用されるよりは、併用治療によく利用されており、高額な費用と反復投与による毒性を起こせるという短所がある。本研究では、このような限界を克服するために、水溶性のVEGF特異的デコイ受容体として作用するKH903を腫瘍崩壊性アデノウイルスに発現させることにより、効果的にVEGFを抑制すると同時に、腫瘍崩壊性アデノウイルスを使用することにより、相乗的に抗腫瘍効果を向上させようとした。
【0080】
KH903は、VEGFR1とVEGFR2のVEGF結合ドメインを結合させて作製したVEGF特異的水溶性デコイ受容体であって、腫瘍細胞で分泌されるVEGFを効果的に抑制することができる。即ち、VEGFとVEGFRの結合相互作用に直接的に関与するVEGFR1、VEGFR2の主要ドメインを利用して作製したKH903は、VEGFRの代わりに腫瘍細胞で分泌されるVEGFと結合し、受容体とリガンドの反応を遮断することにより、血管新生過程を抑制することができる29,30。
【0081】
初期に作製されたVEGFトラップは、VEGFと結合する主要部位であるVEGFR1の2番目のドメインとVEGFR2の3番目のドメインがヒトIgGのFc部位に融合された形態である11。本研究では、VEGF−Aだけではなく、VEGF−B、VEGF−CそしてPGF(placenta growth factor)とも結合できるため、VEGFとの結合能が、既存のVEGFトラップに比べ、約2倍向上されたKH903を利用した。KH903がVEGF−Aを始めとして、あらゆる種類のVEGFファミリーと優れた結合性を示す理由は、既存のVEGFトラップ構造に、VEGFと受容体との強い結合性が維持されるように関与するVEGFR2の4番目ドメインが追加されたからである。また、このドメインは、H903が3次構造を安定的に形成するようにするだけではなく、ダイマーを形成する効率を高めて、結果的に、KH903は既存VEGFトラップより延長された半減期を有するという利点を持った29。このような長所を有しするKH903の血管新生抑制効果を観察するために、E1部位にレポーター遺伝子としてβ−ガラクトシダーゼが挿入されており、E3部位遺伝子が欠失されたアデノウイルスのE3部位にKH903を挿入して、複製不能アデノウイルスであるdE1−k35/KH903を作製した。血管形成が旺盛なA549とH460を始めとして、種々の肺癌細胞株に多様なMOIで感染させて、VEGF発現量を比較検証した結果、実験に利用した全ての細胞株において、KH903がVEGFの発現を抑制する効果を強くもつことを確認することができた(図2)。このようにKH903により、腫瘍細胞においてVEGFの発現が効果的に抑制されることを観察した後、減少したVEGF量が実際の血管内皮細胞の運動性、増殖そして血管形成及び拡張のような血管新生の一連の過程にどのような影響を及ぼすか、インビボとエクスビボで観察した。
【0082】
まず、血管内皮細胞であるHUVECに、KH903を発現する複製不能ウイルスdE1−k35/KH903を感染させた時、VEGF発現量の減少により血管内皮細胞の生存率が減少することを確認した。次いで、KH903を発現する複製不能ウイルスと対照群ウイルスをそれぞれ感染させた細胞、そして非感染細胞の培養液を利用して、血管内皮細胞の運動性を観察する運動性分析を行った。増殖因子が十分にある対照群としてウイルスに非感染細胞の培養液を利用した時は、HUVECの移動が活発に起こることを観察することができたが、KH903を発現するウイルスで処理した細胞から得た培養液を利用した場合は、VEGFの減少により、HUVECの運動性が非常に低下したことを観察することができた。血管形成能と血管の出芽も抑制されることを、チューブ形成分析と大動脈輪出芽分析を通じて検証した。このようなKH903による血管新生抑制は、抗癌効果を期待することができる。そこで、増大された抗腫瘍効果を検証するために、本研究室で開発したE1AのRb結合部位が修飾されてE1B部位が除去された腫瘍崩壊性アデノウイルスであるRdBにKH903を挿入したRdB−KH903アデノウイルスを作製して、H460異種移植モデルにおいて優れた抗腫瘍効果を確認した。腫瘍崩壊性アデノウイルスであるRdB−KH903は、E1A遺伝子発現によるVEGF発現抑制だけではなく、効率的で且つ持続的な遺伝子伝達により、KH903によるVEGF発現抑制も同時に誘導して、対照群のRdBアデノウイルスに比べ、生体内抗腫瘍効果が顕著に昂進した。腫瘍組織内血管分布を観察した結果においても、RdB/KH903の効果を再び検証することができた。腫瘍組織において、PBS群に比べ、腫瘍崩壊性アデノウイルスで処理した場合、血管の数が減少し、腫瘍崩壊性アデノウイルスだけでも血管新生を抑制することができることを確認することができた。また、KH903によるさらに顕著な血管新生抑制効果を立証することにより、KH903が効果的にVEGFを抑制したことが分かった。
【0083】
即ち、本研究で作製したKH903を発現する腫瘍崩壊性アデノウイルスであるRdB−KH903は、VEGF特異的水溶性デコイ受容体であるKH903を通じて得られる腫瘍内血管新生の遮断と共に、アデノウイルスの腫瘍崩壊性能を同時に誘導して、より一層増大された抗腫瘍効果が誘導されると判断される。
【0084】
VEGFR1とVEGFR2のVEGF結合ドメインをヒトIgGのFc部位に結合させて作製したKH903は、効果的に腫瘍細胞が分泌するVEGFを抑制することができた。本研究に利用されたKH903を発現する腫瘍崩壊性アデノウイルスであるRdB−KH903は、腫瘍特異的アデノウイルスの複製による腫瘍特異的殺傷能と共に、E1A発現とH903により誘導されたVEGFの抑制により、顕著な抗腫瘍効果を示し、癌治療に有用に利用されると期待される。
【0085】
以上、本発明の望ましい具体例を詳細に記述したが、当業界の通常の知識を有する者にとっては、このような具体的な記述はただ望ましい具体例に過ぎなく、これに本発明の範囲が限定されないことは明らかである。従って、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とその均等物により定義されると言える。
参照文献
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アデノウイルスの逆方向反復(inverted terminal repeat;ITR)ヌクレオチド配列と、(b)(i)VEGFR−1(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor 1)の細胞外ドメインと(ii)VEGFR−2(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor 2)の細胞外ドメインとを含むキメラデコイ受容体(chimeric decoy receptor)をコードするヌクレオチド配列と、を含むことを特徴とする血管新生抑制能の改善された組換えアデノウイルス。
【請求項2】
キメラデコイ受容体は、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメインと、を含む請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項3】
キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−1の第1細胞外ドメインと、VEGFR−2の第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、(ii)VEGFR−1の第2細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、(iii)VEGFR−1の第3細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、(iv)VEGFR−1の第4細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、並びに(v)VEGFR−1の第5細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメインを含む請求項2に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項4】
キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−2の第1細胞外ドメインと、VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、(ii)VEGFR−2の第2細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、(iii)VEGFR−2の第3細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、(iv)VEGFR−2の第4細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、並びに(v)VEGFR−2の第5細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメインを含む請求項2に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項5】
キメラデコイ受容体は、2個〜4個の細胞外ドメインを含む請求項3に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項6】
キメラデコイ受容体は、2個〜4個の細胞外ドメインを含む請求項4に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項7】
キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、VEGFR−1の第2細胞外ドメイン及びVEGFR−2の第3細胞外ドメイン、(ii)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン及びVEGFR−2の第4細胞外ドメイン、又は(iii)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン、VEGFR−2の第4細胞外ドメイン及びVEGFR−2の第5細胞外ドメインを含む請求項5に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項8】
キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン及びVEGFR−1の第4細胞外ドメイン、又は(ii)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン、VEGFR−1の第4細胞外ドメイン及びVEGFR−1の第5細胞外ドメインを含む請求項6に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項9】
キメラデコイ受容体は、免疫グロブリンのFc領域と融合されている請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項10】
組換えアデノウイルスは、E3遺伝子が欠失したものであり、前記キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列は、前記E3遺伝子領域に挿入されている請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項11】
組換えアデノウイルスは、非活性型E1B19遺伝子、非活性型E1B55遺伝子又は非活性型E1B19/55遺伝子を含む請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項12】
組換えアデノウイルスは、活性型のE1A遺伝子を含む請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項13】
組換えアデノウイルスは、E1A遺伝子のRb結合部位をコードするヌクレオチド配列のうち、第45番目のGlu残基がGly残基に置換された変異、及び第121番目から第127番目のアミノ酸残基が全てGly残基に置換された変異を有する請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項14】
(a)請求項1から13のいずれかに記載の組換えアデノウイルスの治療学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体と、を含むことを特徴とする抗血管新生組成物。
【請求項15】
抗血管新生組成物は、癌、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植拒否、新生血管緑内障、紅色症、増殖性網膜症、乾癬、血友病性関節、アテロ−ム性動脈硬化プラ−ク内における毛細血管増殖、ケロイド、傷の顆粒化、血管接着、リウマチ性関節炎、骨関節炎、自己免疫疾患、クロ−ン病、再発狭窄症、アテロ−ム性動脈硬化、腸管接着、猫引っかき病、潰瘍、肝硬変、糸球体腎炎、糖尿病性腎臓病症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症、器官移植拒否、腎糸球体病症、糖尿病、炎症及び神経退行性疾患のいずれかの予防又は治療のための組成物であることを特徴とする請求項14に記載の抗血管新生組成物。
【請求項16】
(a)請求項1から13のいずれかに記載の組換えアデノウイルスの治療学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体とを含む抗血管新生組成物を、これを必要とする対象に投与する工程を有することを特徴とする過多血管新生による疾患の予防又は治療方法。
【請求項17】
過多血管新生による疾患は、癌、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植拒否、新生血管緑内障、紅色症、増殖性網膜症、乾癬、血友病性関節、アテロ−ム性動脈硬化プラ−ク内における毛細血管増殖、ケロイド、傷の顆粒化、血管接着、リウマチ性関節炎、骨関節炎、自己免疫疾患、クロ−ン病、再発狭窄症、アテロ−ム性動脈硬化、腸管接着、猫引っかき病、潰瘍、肝硬変、糸球体腎炎、糖尿病性腎臓病症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症、器官移植拒否、腎糸球体病症、糖尿病、炎症及び神経退行性疾患のいずれかである請求項16に記載の方法。
【請求項1】
(a)アデノウイルスの逆方向反復(inverted terminal repeat;ITR)ヌクレオチド配列と、(b)(i)VEGFR−1(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor 1)の細胞外ドメインと(ii)VEGFR−2(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor 2)の細胞外ドメインとを含むキメラデコイ受容体(chimeric decoy receptor)をコードするヌクレオチド配列と、を含むことを特徴とする血管新生抑制能の改善された組換えアデノウイルス。
【請求項2】
キメラデコイ受容体は、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメインと、を含む請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項3】
キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−1の第1細胞外ドメインと、VEGFR−2の第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、(ii)VEGFR−1の第2細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、(iii)VEGFR−1の第3細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、(iv)VEGFR−1の第4細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメイン、並びに(v)VEGFR−1の第5細胞外ドメインと、VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−2の細胞外ドメインを含む請求項2に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項4】
キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−2の第1細胞外ドメインと、VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、(ii)VEGFR−2の第2細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、(iii)VEGFR−2の第3細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、(iv)VEGFR−2の第4細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第5細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメイン、並びに(v)VEGFR−2の第5細胞外ドメインと、VEGFR−1の第1細胞外ドメイン、第2細胞外ドメイン、第3細胞外ドメイン、第4細胞外ドメイン、第6細胞外ドメイン及び第7細胞外ドメインからなる群から選択される少なくとも1つのVEGFR−1の細胞外ドメインを含む請求項2に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項5】
キメラデコイ受容体は、2個〜4個の細胞外ドメインを含む請求項3に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項6】
キメラデコイ受容体は、2個〜4個の細胞外ドメインを含む請求項4に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項7】
キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−2の第1細胞外ドメイン、VEGFR−1の第2細胞外ドメイン及びVEGFR−2の第3細胞外ドメイン、(ii)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン及びVEGFR−2の第4細胞外ドメイン、又は(iii)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン、VEGFR−2の第4細胞外ドメイン及びVEGFR−2の第5細胞外ドメインを含む請求項5に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項8】
キメラデコイ受容体は、(i)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン及びVEGFR−1の第4細胞外ドメイン、又は(ii)VEGFR−1の第2細胞外ドメイン、VEGFR−2の第3細胞外ドメイン、VEGFR−1の第4細胞外ドメイン及びVEGFR−1の第5細胞外ドメインを含む請求項6に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項9】
キメラデコイ受容体は、免疫グロブリンのFc領域と融合されている請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項10】
組換えアデノウイルスは、E3遺伝子が欠失したものであり、前記キメラデコイ受容体をコードするヌクレオチド配列は、前記E3遺伝子領域に挿入されている請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項11】
組換えアデノウイルスは、非活性型E1B19遺伝子、非活性型E1B55遺伝子又は非活性型E1B19/55遺伝子を含む請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項12】
組換えアデノウイルスは、活性型のE1A遺伝子を含む請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項13】
組換えアデノウイルスは、E1A遺伝子のRb結合部位をコードするヌクレオチド配列のうち、第45番目のGlu残基がGly残基に置換された変異、及び第121番目から第127番目のアミノ酸残基が全てGly残基に置換された変異を有する請求項1に記載の組換えアデノウイルス。
【請求項14】
(a)請求項1から13のいずれかに記載の組換えアデノウイルスの治療学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体と、を含むことを特徴とする抗血管新生組成物。
【請求項15】
抗血管新生組成物は、癌、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植拒否、新生血管緑内障、紅色症、増殖性網膜症、乾癬、血友病性関節、アテロ−ム性動脈硬化プラ−ク内における毛細血管増殖、ケロイド、傷の顆粒化、血管接着、リウマチ性関節炎、骨関節炎、自己免疫疾患、クロ−ン病、再発狭窄症、アテロ−ム性動脈硬化、腸管接着、猫引っかき病、潰瘍、肝硬変、糸球体腎炎、糖尿病性腎臓病症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症、器官移植拒否、腎糸球体病症、糖尿病、炎症及び神経退行性疾患のいずれかの予防又は治療のための組成物であることを特徴とする請求項14に記載の抗血管新生組成物。
【請求項16】
(a)請求項1から13のいずれかに記載の組換えアデノウイルスの治療学的有効量と、(b)薬剤学的に許容される担体とを含む抗血管新生組成物を、これを必要とする対象に投与する工程を有することを特徴とする過多血管新生による疾患の予防又は治療方法。
【請求項17】
過多血管新生による疾患は、癌、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植拒否、新生血管緑内障、紅色症、増殖性網膜症、乾癬、血友病性関節、アテロ−ム性動脈硬化プラ−ク内における毛細血管増殖、ケロイド、傷の顆粒化、血管接着、リウマチ性関節炎、骨関節炎、自己免疫疾患、クロ−ン病、再発狭窄症、アテロ−ム性動脈硬化、腸管接着、猫引っかき病、潰瘍、肝硬変、糸球体腎炎、糖尿病性腎臓病症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症、器官移植拒否、腎糸球体病症、糖尿病、炎症及び神経退行性疾患のいずれかである請求項16に記載の方法。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図1b】
【図1c】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【公表番号】特表2013−516169(P2013−516169A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546984(P2012−546984)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【国際出願番号】PCT/KR2010/007864
【国際公開番号】WO2011/081294
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(512172187)インダストリー−ユニバーシティー コーポレーション ファウンデーション ハンヤン ユニバーシティー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【国際出願番号】PCT/KR2010/007864
【国際公開番号】WO2011/081294
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(512172187)インダストリー−ユニバーシティー コーポレーション ファウンデーション ハンヤン ユニバーシティー (1)
【Fターム(参考)】
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