説明

抗血管新生薬としての可溶性IGF受容体

血管新生関連の障害を有する患者において血管新生を阻害する方法であって、療法有効量の可溶性IGF−IRタンパク質を患者に投与することを含む前記方法を開示する。患者において血管新生を阻害するための、そのような可溶性IGF−IRタンパク質の使用も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、抗血管新生薬としての可溶性IGF受容体に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
[0002] 癌細胞が原発腫瘍から離脱して二次臓器部位に転移を樹立する能力は、依然として悪性疾患の管理にとって最大の難題である。最も一般的なヒト悪性疾患のうちのあるもの、特に上部および下部消化(GI)管の癌について、肝臓は主要な転移部位である。現在、肝転移については外科的切除が唯一の治癒選択肢であるが、その成功率は部分的であり、結腸直腸癌などの悪性疾患について得られる5年間無疾患生存率は25〜30%である(Wei, et al., 2006, Ann Surg Oncol, 13: 668-676)。したがって、肝転移を阻止しかつ治癒率を改善する新規な療法方策が要望されている。
【0003】
[0003] I型インスリン様増殖因子に対する受容体(IGF−IR)は悪性疾患の進行に重要な役割を果たす。IGF−IRおよび/またはそれのリガンドの発現の増大が多数のヒト悪性疾患において報告され、高い血漿IGF−Iレベルが乳癌、前立腺癌および大腸癌などの悪性疾患の潜在リスク因子として同定された(Samani et al, 2007, Endocr Rev, 28: 20-47)。最近のデータはIGF軸(IGF axis)が幾つかの機序により腫瘍の浸潤および転移を促進することを示し、それは幾つかの臓器部位、特にリンパ節および肝臓への転移の決定因子として同定された(Long et al, 1998, Exp Cell Res, 238: 116-121 ; Wei, et al, 2006, Ann Surg Oncol, 13: 668-676; Samani et al, 2007, Endocr Rev, 28: 20-47; Reinmuth et al, 2002, Clin Cancer Res, 8: 3259-3269)。IGF受容体は、二次部位における腫瘍細胞の生存および増殖を調節することによって、また内皮細胞への直接作用または血管内皮増殖因子(VEGF)AおよびCの転写調節により血管新生およびリンパ管新生を促進することによっても、転移に影響を及ぼす可能性がある(LeRoith et al, 1992, NIH conference. Insulin-like growth factors in health and disease. Ann Intern Med 116: 854-862)。前臨床動物試験によりIGF−IRは多様な腫瘍タイプにおいて抗癌療法の標的として同定され、最近、幾つかのIGF−IR阻害薬が播種性癌の治療のためのIおよびIl相臨床試験に入った。
【0004】
[0004] IGF−IRのリガンドには3種類の構造同族ペプチドIGF−I、IGF−IIおよびインスリンが含まれるが、この受容体はIGF−Iを最も高い親和性で結合する。IGF−IおよびIGF−IIの内分泌による主要な産生部位は肝臓である(Werner & Le Roith, 2000, Cell Mol Life Sci 57: 932-942)が、オートクリン/パラクリンによるIGF−I産生が肝臓以外の部位、たとえば心臓、筋肉、脂肪、脾臓および腎臓において報告されている。IGF−IおよびIGF−IIの生理活性および生物学的利用能は、それらと6種類の分泌型の高親和性結合タンパク質(IGFBP1〜6)との会合により調節される。
【0005】
[0005] 悪性疾患を処置するためのデコイ受容体が有望な療法処置であると教示されている。療法有効濃度のデコイ受容体を持続的に腫瘍部位内へ送達するために、理想的にはそのようなデコイのためのビヒクルを開発すべきである。
【0006】
[0006] 肝転移などの転移を阻止しかつ治癒率を改善する新規な療法方策を提供することがきわめて望ましいであろう。さらに、悪性疾患の処置のためのデコイ受容体を提供することがきわめて望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[0007] 本発明によれば、血管新生関連の障害を有する対象において血管新生を阻害する方法であって、療法有効量の、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質を、対象に投与することを含む方法が今回提供される。
【0008】
[0008] 別態様においては、血管新生関連の障害を有する対象において血管新生を阻害する方法であって、療法有効量の、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質を発現するように遺伝子修飾したストローマ細胞を、対象に投与することを含む方法も提供される。
【0009】
[0009] さらに他の態様においては、血管新生関連の障害を有する対象において血管新生を阻害するための、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質の使用が提供される。
【0010】
[0010] 血管新生関連の障害を有する対象において血管新生を阻害するための、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質を発現するように遺伝子修飾したストローマ細胞の使用も提供される。
【0011】
[0011] あるいは、対象において血管新生関連の障害を予防または治療する方法であって、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質を投与することを含み、その際、対象において血管新生が阻害され、これにより血管関連の障害が予防または治療される方法が開示される。
【0012】
[0012] さらに他の態様においては、対象において腫瘍の転移、結腸直腸癌、肺癌または肝癌を予防または治療する方法であって、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質を投与することを含み、その際、対象において血管新生が阻害され、これにより腫瘍の転移、結腸直腸癌、肺癌または肝癌が予防または治療される方法が提供される。
【0013】
[0013] 対象において血管新生を阻害するための医薬組成物であって、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質;および医薬的に許容できるキャリヤーを含む組成物も提供される。
【0014】
[0014] さらに他の態様においては、血管新生関連の障害を有する対象において血管新生を阻害するための医薬の製造における、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質の使用が提供される。
【0015】
[0015] 好ましくは、可溶性IGF−IRタンパク質はSEQ ID NO:3のテトラマー構造体を形成している。
【0016】
[0016] さらに、可溶性IGF−IRタンパク質はSEQ ID NO:1またはその生物活性フラグメントもしくは類似体を含むか、またはそれからなる。
【0017】
[0017] 好ましい態様において、血管新生関連の障害は癌、たとえば腫瘍の転移、結腸直腸癌、肺癌、肝癌である。好ましくは、肝癌は肝転移である。
【0018】
[0018] 他の態様において、本明細書に記載する方法または使用は、可溶性IGF−IRタンパク質を他の血管新生阻害薬と組み合わせて投与することを含む。
【0019】
[0019] 他の態様において、本明細書に記載する方法または使用は、可溶性IGF−IRタンパク質を注射により、たとえば静脈内または腹腔内注射により投与することを含む。
【0020】
[0020] さらに他の態様において、ストローマ細胞は骨髄由来の間葉ストローマ細胞である。
【0021】
[0021] 他の態様において、可溶性IGF−IRタンパク質はSEQ ID NO:3のジスルフィド結合および/または高親和性リガンド結合性を保持する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
[0022] 本発明の性質を以上に全般的に記載したが、ここで、説明のために本発明の好ましい態様を示す添付の図面を参照する。
【図1】[0023] 図1は、還元性(A)または非還元性(B)の条件下で各列20mgのタンパク質を用いた6% SDS−ポリアクリルアミドゲルを示す;その際、タンパク質をヒトIGF−IRに対するウサギ抗体、続いてペルオキシダーゼコンジュゲートしたロバ抗ウサギIgGで検出した。列1はBMSCGFPに対応し、列2はBMSCEPOに対応し、列3はBMSCsIGFIRに対応する。左側の数字は分子量マーカーの位置を表わす。
【図2】[0024] 図2は、遺伝子工学的に処理した骨髄ストローマ細胞を移植したマウスにおける循環中の可溶性IGF−IRの検出を示す;その際、1000万個のBMSC細胞をMatrigelに包埋し、同遺伝子型C57BI/6(A)または無胸腺(B)マウスに皮下移植した。各数値はMSC移植後の指示した日に実施した3〜33の個々の測定値の平均(およびSD)を表わす。(A)および(B)において、(◆)で表わされる点を含む曲線はBMSCsIGFIRを付与したマウスについて得られた;(▲)で表わされる点を含む曲線はBMSCEPOを付与したマウスについて得られた;(■)で表わされる点を含む曲線はBMSCGFPを付与したマウスについて得られた。
【図3】[0025] 図3は、循環sIGFIR933/IGF−Iの血漿濃度を示す;(A)では、複合体を捕獲するためのマウス抗ヒトIGF−IR抗体、検出のためのビオチニル化ヤギ抗マウスIGF−I抗体、および定量のための組換えヒトIGFIR標準曲線を用いる組合わせELISAにより、複合体を半定量した。図示したのは、それぞれ少なくとも6匹のマウスに由来する3つの異なる血漿プールから得た数値の平均(およびSD)である。(B)には、RIAを用いて測定したIGF−Iの血漿レベル(◆)を示す。既知の標準品を各分析に配置し、正常な16週令のC57BI/6マウスからプールしたマウス血清を追加の対照(■)として用いた。図示するのは、各時点で分析した7〜15の個々の試料の平均およびSDである。
【図4】[0026] 図4は、10個の遺伝子工学的に処理したBMSCまたは対照BMSCをMatrigelに包埋して移植した同遺伝子型の雌C57BI/6マウス(A〜D)またはヌードマウス(E)を示す。9日後(A,B)または14日後(C〜E)に、マウスに脾臓内/門脈経路で10個のH−59細胞(A〜C)、5×10個のMC−38細胞(D)または2×10個のKM12SM細胞(E)を接種した。(A)および(B)に示すのは、生理食塩水(列1)、BMSCGFP(列2)およびBMSCsIGFIR(列3)を用いてそれぞれ実施した2つの実験のデータを集めたものである。Cに示すのは、生理食塩水(列1)、BMSCGFP(列2)およびBMSCsIGFIR(列3)を用いて実施した3つの実験の結果を集めたものである。(D)および(E)には、グループ当たり指示した数のマウスを用い、生理食塩水(列1)、BMSCGFP(列2)およびBMSCsIGFIR(列3)を用いた個々の実験を示す。(F)に示すのは、H−59細胞を用いて実施したパネル(B)に示す1実験からの代表的な肝臓であり、その際、列1は処理しなかった肝臓を表わし、列2はBMSCIGFIR933処理した肝臓を表わし、列3は対照BMSC処理した肝臓を表わす。(G)および(H)に示すのは、KM12SM注射したヌードマウスのホルマリン固定およびパラフィン包埋した肝臓から得た代表的なH&E染色切片であり、その際、パネル1はBMSCGFPを用いた包埋肝に関するものであり、パネル2はBMSCIGFIR933を用いた包埋肝に関するものである。Iには、すべてのマウスを安楽死させた18日目までに検出可能なGFP信号を検出した写真を示す(パネル1はBMSCGFPを用いた包埋肝に関するもの、パネル2はBMSCIGFIR933を用いた包埋肝に関するもの)。
【図5A】[0027] 図5は、(A)に、BMSCGFP(列1)またはBMSCIGFIR933(列2)を付与したマウスにおけるμm当たりのCD31+微小血管の量を示す。図示するのは、分析した30の個々のイメージに基づく平均およびSEである;p<0.0001。(B)に示すのは、40×対物レンズを用いて取得した代表的なイメージである。同じ肝臓に由来する切片について実施したTUNELアッセイの結果を(C)に示す。図示するのは、12の個々のイメージにみられるTUNEL核/全核の割合の平均およびSEである(p=0.0040)。各グループについて、GFP+腫瘍細胞(グリーン)、全核(ブルー)、およびアポトーシス細胞(レッド)、ならびに融合したイメージを(D)に示す。
【図5B】[0027] 図5は、(A)に、BMSCGFP(列1)またはBMSCIGFIR933(列2)を付与したマウスにおけるμm当たりのCD31+微小血管の量を示す。図示するのは、分析した30の個々のイメージに基づく平均およびSEである;p<0.0001。(B)に示すのは、40×対物レンズを用いて取得した代表的なイメージである。同じ肝臓に由来する切片について実施したTUNELアッセイの結果を(C)に示す。図示するのは、12の個々のイメージにみられるTUNEL核/全核の割合の平均およびSEである(p=0.0040)。各グループについて、GFP+腫瘍細胞(グリーン)、全核(ブルー)、およびアポトーシス細胞(レッド)、ならびに融合したイメージを(D)に示す。
【図5C】[0027] 図5は、(A)に、BMSCGFP(列1)またはBMSCIGFIR933(列2)を付与したマウスにおけるμm当たりのCD31+微小血管の量を示す。図示するのは、分析した30の個々のイメージに基づく平均およびSEである;p<0.0001。(B)に示すのは、40×対物レンズを用いて取得した代表的なイメージである。同じ肝臓に由来する切片について実施したTUNELアッセイの結果を(C)に示す。図示するのは、12の個々のイメージにみられるTUNEL核/全核の割合の平均およびSEである(p=0.0040)。各グループについて、GFP+腫瘍細胞(グリーン)、全核(ブルー)、およびアポトーシス細胞(レッド)、ならびに融合したイメージを(D)に示す。
【図5D】[0027] 図5は、(A)に、BMSCGFP(列1)またはBMSCIGFIR933(列2)を付与したマウスにおけるμm当たりのCD31+微小血管の量を示す。図示するのは、分析した30の個々のイメージに基づく平均およびSEである;p<0.0001。(B)に示すのは、40×対物レンズを用いて取得した代表的なイメージである。同じ肝臓に由来する切片について実施したTUNELアッセイの結果を(C)に示す。図示するのは、12の個々のイメージにみられるTUNEL核/全核の割合の平均およびSEである(p=0.0040)。各グループについて、GFP+腫瘍細胞(グリーン)、全核(ブルー)、およびアポトーシス細胞(レッド)、ならびに融合したイメージを(D)に示す。
【図6】[0028] 図6は、(A)にポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、(B)にFPLCおよびNi−NTAカラムを用いて精製したsIGFIRの純度確認のためのウェスタンブロットを示す。
【図7】[0029] 図7は、注射したマウスにおける血漿sIGFIRレベルを示し、その際、血漿sIGFIR濃度をELISAにより測定した。
【図8】[0030] 図8は、sIGFIRを注射したマウスにおける肝転移を示し、その際、腫瘍H−59細胞を脾臓内/門脈接種した後14日目に肝転移を計数し、肝臓当たりの転移数を(A)に示し、代表的な肝臓を(B)に示し、nは処理グループ当たり注射した動物数である。
【図9】[0031] 図9は、腫瘍細胞をsIGFIRと共にインビトロでインキュベートすると腫瘍細胞のアノイキス(anoikis)が増加することを示す。
【0023】
[0032] 添付の図面全体において類似の事項を類似の参照数字により定めたことが分かるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[0033] 本発明は、抗血管新生薬としての可溶性IGF受容体の使用を提供する。
【0025】
[0034] 本明細書中で用いる用語“血管新生”は、組織もしくは臓器内または癌増殖物内へ貫通する新たな血管の増殖を意味する。正常な生理的状態では、ヒトまたは動物はきわめて限られた状況でのみ血管新生を行なう。たとえば、血管新生は普通は創傷の治癒、胎児または胚の発達、ならびに黄体、子宮内膜および胎盤の形成に際してみられる。
【0026】
[0035] 病的な血管新生は、多数の疾病状態、たとえば腫瘍の転移、および内皮細胞による異常な増殖において起き、これらの状態にみられる病的損傷を支持する。異常な血管新生が存在する多様な病的疾患状態は、合わせて“血管新生依存性”または“血管新生関連”の障害として分類されている。
【0027】
[0036] 血管新生は、正と負の両方のシグナルによって厳密に調節されている。血管新生刺激因子、たとえば線維芽細胞増殖因子(FGF)および血管内皮増殖因子(VEGF)は、内皮細胞増殖に関して有効なマイトジェンであり、かつ内皮細胞移動のための強力な化学誘引因子である。これらの正の調節因子は血管新生を促進して、原発腫瘍および転移腫瘍両方の拡張を持続させることができる。現在までに報告されている負の調節因子には、最も有効な内因性の血管新生阻害因子のひとつとしてのアンギオスタチン類が含まれる。
【0028】
[0037] 1型インスリン様増殖因子に対する受容体(IGF−IR)が抗癌療法の標的として同定された。
【0029】
[0038] IGF−IRは、2つの130〜135kDaのα鎖と2つの90〜95kDaのβ鎖からなり、幾つかのα−αおよびα−βジスルフィド橋をもつ、ヘテロテトラマー状の受容体型チロシンキナーゼ(RTK)である。それはアミノ酸1367個のポリペプチド鎖として合成され、それがグリコシル化およびタンパク質分解開裂してαおよびβサブユニットになり、それらがダイマー化してテトラマーを形成する。リガンド結合ドメインは細胞外αサブユニット上にあり、一方βサブユニットは、αサブユニットにジスルフィド結合により連結した細胞外部分、膜貫通ドメイン、ならびにリガンド誘発シグナルの伝達に関与するキナーゼドメインと幾つかの重要なチロシンおよびセリンを含む細胞質部分からなる(Samani et al., 2004, Cancer Research, 64: 3380-3385)。
【0030】
[0039] IGF−IRの発現および機能は、種々の腫瘍タイプにおける肝転移形成にとって重要である。可溶形のIGF−IR(sIGFIR)を発現するように工学的に処理した腫瘍細胞は、肝臓へ転移する能力を喪失した(Samani et al., 2004, Cancer Res, 64: 3380-3385)。
【0031】
[0040] 細胞の受容体型チロシンキナーゼ(RTK)の作用を遮断するのに有効な方策は、これらの受容体の可溶性バリアントであって、リガンドを結合してコグネイト受容体に対する生物学的利用能を高特異的に低下させることができるものを使用することである(Kong & Crystal, 1998, J Natl Cancer Inst, 90: 273-286; Tseng et al., 2002, Surgery, 132: 857-865; Trieu et al., 2004, Cancer Res, 64: 3271- 3275)。この方策の適用が成功した一例は、VEGFR1/VEGFR2−FCデコイ受容体(VEGFトラップ)の作製であり、これは現在、新規タイプの抗血管新生、抗癌薬として臨床試験中である(Rudge et al., 2005, Cold Spring Harb Symp Quant Biol, 70: 411-418)。
【0032】
[0041] U.S.patent No.6,084,085には、アポトーシス誘導および腫瘍形成阻害のための可溶性IGF−IRタンパク質の使用が開示されている。U.S.patent No.6,084,085に開示される可溶性IGF−IRタンパク質は、IGF−IRのN末端アミノ酸を最高で約800個含み、したがってC末端の膜貫通ドメインは完全に欠失しているか、または膜貫通ドメインの一部を含むタンパク質が細胞膜中に固着できない程度に存在する。U.S.patent No.6,084,085は、シグナルペプチドを含まないIGF−IRのN末端アミノ酸486個を含むタンパク質(アミノ酸1から486まで)、またはシグナルペプチドを含む516個のアミノ酸(アミノ酸−30から486まで)の好ましい用途を開示している。U.S.patent No.6,084,085に開示されたタンパク質は、IGF−IRのダイマー形成およびマルチマー形成に必要な領域を含まない。
【0033】
[0042] 本発明者らは、可溶性IGF−IR受容体が抗血管新生特性をもつことを初めて本明細書に報告する。本発明においては、抗血管新生薬として作用する可溶性受容体の持続的なインビボ送達に基づいて、血管新生依存性または血管新生関連の障害、たとえば肝転移を、予防および/または治療するための療法が提供される。この目的のために、自己骨髄由来の間葉ストローマ細胞を高レベルの可溶性受容体を産生するように遺伝子工学的に処理し、これらをMatrigel(商標)に包埋し、高転移性腫瘍細胞を脾臓内/門脈接種する前にマウスに皮下移植した。またこの可溶性受容体を精製し、高転移性腫瘍細胞を脾臓内/門脈接種する前にマウスに、たとえば静脈内または腹腔内注射した。
【0034】
[0043] 可溶性IGF−IR受容体を本発明においてはsIGFIR、sIGF−IR、可溶性IGFIRおよび可溶性IGF−IRと呼び、これらの用語を互換性をもって用いる。
【0035】
[0044] 本明細書中で用いる用語“遺伝子工学的に処理したストローマ細胞”または“トランスジェニックストローマ細胞”は、外因性遺伝子をレトロウイルス感染または当業者に周知の他の手段で導入したストローマ細胞を意味するものとする。用語“遺伝子工学的に処理した”は、トランスフェクション、形質転換、遺伝子導入(トランスジェニック)、感染またはトランスダクションしたことを意味するものとする。
【0036】
[0045] 用語“エクスビボ遺伝子療法”は、哺乳動物に移植する前に、インビトロでストローマ細胞をトランスフェクションまたはレトロウイルス感染させて、トランスフェクションしたストローマ細胞を形成することを意味するものとする。
【0037】
[0046] “骨髄ストローマ細胞のトランスダクション”という表現は、DNAウイルスまたはRNAウイルスを用いて核酸を細胞内へ導入するプロセスを表わす。核酸を細胞内へ導入するためのRNAウイルス(すなわちレトロウイルス)を、本明細書中ではトランスダクション用キメラレトロウイルスと呼ぶ。レトロウイルス内に収容された外因性遺伝子材料は、トランスダクションされた骨髄ストローマ細胞のゲノム内へ組み込まれる。キメラDNAウイルス(たとえば、療法薬をコードするcDNAを保有するアデノウイルス)でトランスダクションされた骨髄ストローマ細胞は、外因性遺伝子材料がそのゲノムに組み込まれないが、細胞内で染色体外に保持された外因性遺伝子材料を発現することができるであろう。
【0038】
[0047] 本明細書中で用いる用語“ストローマ細胞”は、骨髄由来の線維芽細胞様細胞を意味するものとし、疎性結合組織中にみられる他の細胞および/または要素を含む状態または含まない状態で組織培養処理ペトリ皿に付着して増殖するそれらの能力により規定され、これには内皮細胞、周皮細胞、マクロファージ、単球、形質細胞、マスト細胞、脂肪細胞などが含まれるが、これらに限定されない。
【0039】
[0048] 全長IGF−IR(SEQ ID NO:3)の細胞外ドメイン全体を含む933アミノ酸残基(sIGFIR933と同定;SEQ ID NO:1)の可溶性ペプチドを産生するように遺伝子工学的に処理した肝転移性肺癌細胞は、IGF−IRが調節するすべての機能を喪失し、脾臓内/門脈経路で接種したマウスのうち高い割合において肝転移を生じることができず、その結果、長期の無疾患生存率が顕著に増大した。注射した動物から得た肝臓についての免疫組織学的分析により、sIGFIR933を発現している腫瘍細胞において広範なアポトーシスが明らかになった。
【0040】
[0049] sIGFIR933を発現するように工学的に処理した自己骨髄ストローマ細胞を移植したマウスが測定可能な循環レベルのこのタンパク質をもち、その結果、3種類の異なる高転移性腫瘍の肝転移数が劇的に低下したことも、本発明において示される。したがって転移の低下は、肝定着の初期における腫瘍誘導性の血管新生の顕著な低下および腫瘍アポトーシスの増大の結果であった。
【0041】
[0050] 本明細書に開示する臨床的に実現可能になりつつある1つの有望な療法方策は、再生能力をもちかつ有効濃度の目的タンパク質を産生するように遺伝子工学的に処理できる自己細胞の使用である(Buckley, 2000, Nat Med, 6: 623-624; Cavazzana-Calvo et al., 2000, Science, 288: 669-672; Dobson, 2000, Bmj, 320: 1225; Stephenson, 2000, Jama, 283: 589-590)。骨髄由来の間葉ストローマ細胞(BMSC)がこの目的のために用いられ、送達ビヒクルとしての幾つかの利点をもつ:それらはあらゆる年齢グループのヒトに多量に存在しかつ入手可能であり、最小の病理および不快感で採取でき、増殖能をもち、妥当な効率で遺伝子工学的に処理でき、かつドナーへの再移植が容易であり、放射線療法、化学療法または免疫抑制など“有毒な”コンディショニング計画を含まない。BMSCは、免疫不全ホストおよび免疫応答性ホストの両方において種々の有益なタンパク質をインビボで分泌させるための有効な自己細胞性ビヒクルとして評価され、臨床医療においてタンパク質送達のための有効なツールとなる可能性がある(Stagg & Galipeau, 2007, Handb Exp Pharmacol, 45-66)。したがって本明細書には、sIGFIR933の分泌のためのビヒクルとしての自己BMSC細胞の使用を開示する。タンパク質を発現させるための当技術分野で既知の他のいずれのビヒクルも本発明に含まれ、したがってBMSCは本発明の一例であり、本発明はBMSCに限定されない。
【0042】
[0051] 本明細書には、遺伝子改変したストローマ細胞が、移植後数週間は血清中に検出できる高レベルの可溶性受容体を産生および分泌することを開示する。これらの細胞を移植したマウスでは、肝転移数の顕著な低下が、無胸腺ヌードマウスに接種したネズミ結腸直腸癌MC−38(最高82%の低下)および肺癌H−59細胞(最高95%)ならびにヒト結腸直腸癌細胞KM12SM細胞(最高64%)の注射後にみられるが、対照細胞を移植したものではみられない。
【0043】
[0052] クリオスタット肝切片の免疫組織化学的検査および共焦点顕微鏡検査による分析により、sIGFIR産生ストローマ細胞を移植したマウスにおいて、微小血管密度の低下に反映されるように病変部内血管新生の有意の低下が明らかになり、これはアポトーシスを生じている腫瘍細胞数の16倍増加と一致した;これは、転移増殖の初期に可溶性受容体がデコイとして作用してIGF−IR機能を中断させたことを証明する。これらの結果は、sIGFIRが有効な抗血管新生薬でありかつ抗転移療法薬でもあることを確認する。
【0044】
[0053] 本明細書には、マウスに注射した精製sIGFIRタンパク質が、その後に注射した腫瘍H−59細胞からの肝転移を低下させたことをも開示する;これにより、抗転移療法薬としてのsIGFIRの用途がさらに確認される。さらに、腫瘍細胞をインビトロでsIGFIRタンパク質と共にインキュベートすると、その腫瘍細胞のアポトーシスが増大した。
【0045】
[0054] 本発明の範囲にはsIGFIR933の変異体およびフラグメントも包含され、これには生物活性フラグメント、ならびにアミノ酸の欠失、付加および/または置換を伴う生物活性類似体が含まれる。“生物活性フラグメント”には、sIGFIR933のフラグメントであって、そのフラグメントが由来するIGFIR933と同じ生物活性を本質的に維持するものが含まれる。“生物活性類似体”には、sIGFIR933の領域(単数または複数)の変異体であって、その類似体が由来するsIGFIR933の生物活性(すなわち抗血管新生活性)を実質的に変化させないものが含まれる。本発明の範囲には、sIGFIR933およびsIGFIR933のフラグメント(単数または複数)に対してなされた、抗血管新生活性を増強する変更が含まれる。
【0046】
[0055] 1態様において、本発明はSEQ ID NO:3の生物活性フラグメントであって、α−αおよびα−βジスルフィド橋を形成する能力を保持するものをも包含する。特に、SEQ ID NO:3の生物活性フラグメントは、ダイマー化してテトラマーを形成するαサブユニットおよびβサブユニットを含むことができる。他の態様において本発明は、SEQ ID NO:3の生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質であって、天然(野生型)受容体の細胞外ドメイン中のジスルフィド結合を保持するもの、および/または天然(野生型)受容体の3Dコンホメーションを模倣するものを包含する。他の態様において、生物活性フラグメントは高親和性のリガンド結合性を保持する。
【0047】
[0056] 好ましい類似体には、sIGFIR933の領域(単数または複数)および/またはフラグメント(単数または複数)に対する修飾を含むものが含まれる。得られる配列は、1以上の保存的アミノ酸置換によって、または1以上の非保存的なアミノ酸の置換、欠失もしくは挿入によって野生型配列と異なり、その際、これらの置換、欠失または挿入は野生型配列の生物活性を無効にしない。保存的置換は一般に、あるアミノ酸が類似の特性をもつ他のアミノ酸に置換されること、たとえば下記のグループ内での置換を含む:バリン、グリシン;グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。他の保存的アミノ酸置換が当技術分野で既知であり、本発明に含まれる。非保存的な置換、たとえば塩基性アミノ酸を疎水性のもので置き換えることも当技術分野で周知である。
【0048】
[0057] 本発明に含まれる他の類似体は、タンパク質またはペプチドの安定性を高める修飾を含むものである;そのような類似体には、たとえばタンパク質またはペプチド配列中の1以上の非ペプチド結合(これがペプチド結合に置き換わる)を含めることができる。天然L−アミノ酸以外の残基、たとえばD−アミノ酸または非天然もしくは合成のアミノ酸、たとえばβまたはγアミノ酸を含む類似体も含まれる。さらに、限定ではないが免疫グロブリンGタンパク質のFc部分などのペプチド配列の付加が本発明に含まれる。
【0049】
[0058] 本明細書に記載するsIGFIR933(またはその生物活性フラグメントもしくは類似体)を含む組成物も開示され、これは血管新生依存性または血管新生関連の障害の処置に有用である。本発明には、sIGFIR933を含む有効量の組成物で血管新生依存性または血管新生関連の障害を処置する方法が含まれる。そのような組成物は、医薬的に許容できるキャリヤー、アジュバントまたはビヒクルをも含有することができる。他の観点において、本発明の組成物および方法は、その必要がある対象、たとえば血管新生依存性または血管新生関連の障害を伴う対象において、血管新生を阻害するために用いられる。1観点において、血管新生関連の障害は腫瘍の転移、結腸直腸癌、肺癌、または肝癌もしくは肝転移である。
【0050】
[0059] 血管新生依存性および/または血管新生関連の障害には下記のものが含まれるが、これらに限定されない:充実性腫瘍、血液由来の腫瘍、たとえば白血病;腫瘍の転移;良性腫瘍、たとえば血管腫、音響性アキュローマ(acoustic acuroma)、神経線維腫、トラコーマ(肉芽腫性結膜炎)、および化膿性肉芽腫;リウマチ性関節炎;乾癬;眼血管新生疾患、たとえば糖尿病性網膜障害、未熟児網膜障害、黄斑変性症、角膜移植拒絶、血管新生緑内障、後水晶体線維形成症、皮膚潮紅(rubeosis);オスラー-ウェッバー症候群(Osler−Webber Syndrome);心筋血管新生;プラーク血管新生;末梢血管拡張症;血友病関節症;血管線維腫;および創傷肉芽化。本発明組成物は、内皮細胞の刺激が過剰または異常な疾患の処置に有用である。これらの状態には腸管癒着症、アテローム硬化症、強皮症、および肥厚性瘢痕、すなわちケロイドが含まれるが、これらに限定されない。本発明組成物は、胚の着床に必要な血管新生を阻止することにより受胎調節薬としても使用できる。
【0051】
[0060] 本発明の組成物および方法は、血管新生依存性または血管新生関連の障害を処置するための他の組成物、方法および/または手法と組み合わせて使用できる。たとえば、腫瘍は一般に外科処置、放射線または化学療法で処置される可能性があるので、本明細書に開示するsIGFIR933を含む組成物をその後に患者に投与して、微小転移巣の休止を延長し、残存するいずれかの原発腫瘍を安定化することができる。
【0052】
[0061] 本発明は、sIGFIR933(またはその生物活性フラグメントもしくは類似体)を、場合により少なくとも1種類の追加の有効化合物、および/またはいずれかの医薬的に許容できるキャリヤー、アジュバントもしくはビヒクルと組み合わせて含む、医薬(すなわち療法用)組成物をも提供する。“追加の有効化合物”にはたとえば免疫抑制薬または抗癌薬などの薬剤(単数または複数)が含まれるが、これらに限定されない。
【0053】
[0062]用語“医薬的に許容できるキャリヤー、アジュバントまたはビヒクル”は、本発明組成物に含有させて対象に投与することができ、その薬理活性を損なわないキャリヤー、アジュバントまたはビヒクルを表わす。本発明組成物に使用できる医薬的に許容できるキャリヤー、アジュバントまたはビヒクルには下記のものが含まれるが、これらに限定されない:イオン交換剤、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、自己乳化性薬物送達システム(“SEDDS”)、医薬剤形中に用いられる界面活性剤、たとえばTween類または他の類似の送達ポリマーマトリックス、血清タンパク質、たとえばヒト血清アルブミン、緩衝剤、たとえばリン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、植物性飽和脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩類または電解質、たとえば硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイドシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ろう、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー、ポリエチレングリコール、および羊毛脂。シクロデキストリン、たとえばα−、β−およびγ−シクロデキストリン、または化学修飾した誘導体、たとえばヒドロキシアルキルシクロデキストリン(2−および3−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを含む)、または他の可溶化誘導体も、本発明組成物の送達を増強するために使用できる。
【0054】
[0063] 本発明組成物は、後記の他の療法薬を含有することができ、たとえば一般的な固体または液体ビヒクルまたは希釈剤、ならびに希望する投与様式に適切なタイプの医薬添加物(たとえば賦形剤、結合剤、保存剤、安定剤、着香剤など)を用いて、医薬配合の技術分野で周知の技術に従って配合することができる。
【0055】
[0064] 本発明組成物はいずれか適切な手段で投与できる:たとえば、経口的に錠剤、カプセル剤、顆粒剤もしくは散剤などの形で;舌下に;頬内に;非経口的に、たとえば皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内もしくは胸骨内への注射もしくは注入法により(たとえば、無菌の注射用水性または非水性液剤または懸濁液剤として);経鼻的に、たとえば吸入スプレー剤により;局所的に、たとえばクリーム剤もしくは軟膏剤の形で;または直腸に、たとえば坐剤の形で;医薬的に許容できる無毒性のビヒクルもしくは希釈剤を含有する投与単位製剤で。本発明組成物は、たとえば即時放出または持続放出に適切な剤形で投与できる。即時放出または持続放出は、適切な医薬組成物の使用により、あるいは特に持続放出の場合には皮下埋込み剤または浸透圧ポンプなどのデバイスを用いて達成できる。
【0056】
[0065] 経口投与用の組成物の例には下記のものが含まれる:懸濁液剤、これはたとえば嵩を付与するための微結晶性セルロース、懸濁化剤としてのアルギン酸またはアルギン酸ナトリウム、増粘剤としてのメチルセルロース、および当技術分野で既知の甘味剤または着香剤を含有することができる;ならびに即時放出錠剤、これはたとえば微結晶性セルロース、リン酸二カルシウム、デンプン、ステアリン酸マグネシウムおよび/または乳糖、ならびに/あるいは他の賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、希釈剤および滑沢剤、たとえば当技術分野で既知のものを含有することができる。本発明化合物は、舌下および/または頬内投与により口腔を通して送達することもできる。成形錠剤、圧縮錠剤または凍結乾燥錠剤は使用できる剤形の例である。組成物の例には、本発明組成物に即溶性希釈剤、たとえばマンニトール、乳糖、ショ糖および/またはシクロデキストリンを配合したものが含まれる。そのような配合物には高分子量賦形剤、たとえばセルロース(avicel)またはポリエチレングリコール(PEG)が含有されてもよい。そのような配合物は、粘膜付着を補助するための賦形剤、たとえばヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(SCMC)、無水マレイン酸コポリマー(たとえばGantrez)、および放出を制御するための作用剤、たとえばポリアクリル系コポリマー(たとえばCarbopol 934)をも含有することができる。加工および使用を容易にするために、滑沢剤、流動剤、着香剤、着色剤および安定剤も添加することができる。
【0057】
[0066] 本発明化合物の有効量は当業者が決定でき、成人について1日当たり約0.1から500mg/体重kgまでの有効化合物の例示投与量が含まれ、これを1回量または個別の分割量で、たとえば1日1回から5回までで投与することができる。いずれか特定の対象についての具体的な投与レベルおよび投与頻度は変更でき、下記を含む多様な要因に依存することは理解されるであろう:用いる個々の化合物の活性、その化合物の代謝安定性および作用の長さ、対象の種、年齢、体重、全般的な健康状態、性別および食事、投与の様式および時間、排出速度およびクリアランス、薬物組合わせ、ならびに個々の状態の重症度。処置のために好ましい対象には、血管新生依存性または血管新生関連の障害を伴う動物、最も好ましくは哺乳動物種、たとえばヒト、および家畜、たとえばイヌ、ネコなどが含まれる。
【0058】
[0067] 本発明組成物は単独で、または血管新生依存性もしくは血管新生関連の障害の処置に有用な他の適切な療法薬、たとえば本発明のもの以外の血管新生阻害薬と組み合わせて使用できる。
【0059】
[0068] 本発明は以下の実施例を参照することによって、より容易に理解されるであろう;これらは本発明の範囲を限定するためではなく本発明を説明するために示される。
【実施例】
【0060】
実施例1
遺伝子工学的に処理した自己骨髄細胞が可溶性IGF−IRタンパク質をインビトロで産生する
[0069] まず可溶性IGFIRデコイを療法の場に適用する可能性を評価するために、自己間葉骨髄細胞(本明細書中でBMSCまたはMSCと呼ぶ(これら2つの用語は互換性をもって用いられる))を、sIGFIR933ペプチドをコードするヒトIGF−IR cDNAの最初の2799ヌクレオチドに相当するcDNAフラグメント(SEQ ID NO:2)を発現するレトロウイルス粒子でトランスダクションすることにより遺伝子工学的に処理した。この方策は、動物実験期間中この可溶性ペプチドの持続的なインビボ産生を達成する目的で選択された。
【0061】
[0070] cmvプロモーターの下流でIGF−IRの933アミノ酸(SEQ ID NO:1)の細胞外ドメインをコードするヒトIGF−IR RNAの最初の2799ヌクレオチドに相当するcDNAフラグメント(SEQ ID NO:2)を発現するpLTR−GFP−IGFIR933ベクターの構築は、Samani et al. (2004, Cancer Res, 64: 3380-3385)の記載に従って行われた。IGFIR933を発現するレトロウイルス粒子を作製するために、GP2−293細胞(ClonTech,米国カリフォルニア州)を業者の指示に従って用いた。要約すると、75%コンフルエントの細胞単層に、グリーン蛍光タンパク質(GFP)をもコードするpLTR−IGFIR933ベクター5μgおよびpVSV−G(ClonTech,米国カリフォルニア州)5μgをlipofectamine(商標)(Invitrogen(商標))により共トランスフェクションした。細胞を48〜72時間インキュベートした時点で培地を収穫し、濾過し、60mmの培養皿内のセミコンフルエントのBMSC培養物に、4〜8μg/mlのpolybrene(登録商標)(Sigma,米国ミズーリ州)と共に添加した。BMSCsIGFIR細胞の培養培地中にsIGFIRをウェスタンブロット法により検出できるまで、このトランスダクションプロトコルを数回繰り返した。
【0062】
[0071] 血清を除去するためにBMSCのサブコンフルエントの単層を徹底的に洗浄し、細胞を無血清培地中において37℃で24時間培養した。このコンディショニングされた培地を30倍濃縮し、この濃縮タンパク質を6%ポリアクリルアミドゲルに乗せ、非還元性または還元性条件下でポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離した。ヒトIGF−IRに対するウサギポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology(登録商標),カリフォルニア州サンタクルーズ)を1:200希釈したもの、および二次抗体としてのペルオキシダーゼコンジュゲートしたロバ抗ウサギIgG(Cedarlane,カナダ、オンタリオ州ホーンビー)を1:10,000希釈したものを用いて、イムノブロッティングを実施した。増強化学発光システム(Roche,スイス,バーゼル)を用いて、タンパク質バンドを視覚化した。
【0063】
[0072] GFP cDNAのみを発現するレトロウイルス粒子を用いて同じ方法でトランスダクションしたBMSC(BMSCGFP)、およびある実験ではEliopoulos et al. (2000, Blood, 96: 802a)の記載に従ってエリスロポエチンを産生するように工学的に処理したBMSC(BMSCEPO)を、対照として用いた。BMSCsIGFIR細胞およびBMSCGFP細胞の両方をFACSCalibur(商標)(Beckton−Dickinson)によりソーティングし、フローサイトメトリーにより評価して>95%の細胞が高蛍光性であるGFPに富むサブ集団を調製し、これらの細胞を以後のすべてのインビボ実験に用いた。
【0064】
[0073] ヒトIGF−IRのαサブユニットに対する抗体を用いて実施したウェスタンブロット法(図1)により、これらの細胞から収穫した無血清コンディショニング培地中に、αサブユニット(還元性条件下;パネルA)または可溶性受容体テトラマー(非還元性条件下;パネルB)に対応する単一バンドがみられた(BMSCsIGFIR;列3および6);しかし、GFP遺伝子のみ(BMSCGFP;列1および4)または全長エリスロポエチンcDNA(BMSCEPO;列2および5)のいずれかを発現する対照レトロウイルス粒子でトランスダクションしたBMSCから収穫したものではみられなかった(図1);これにより、これらの細胞がインビトロでデコイ受容体を発現および分泌することが確認された。
【0065】
実施例2
遺伝子工学的に処理した骨髄細胞が可溶性IGF−IRタンパク質をインビボで産生する
[0074] 開示した細胞が可溶性デコイをインビボで産生および分泌する能力を評価した。BMSCsIGFIR933および対照をMatrigel(商標)に包埋し、先のEliopoulos et al. (2003, Gene Ther, 10: 478-489)による記載に従って皮下移植した。このタンパク質のインビボ産生をモニターしかつ血漿レベルを測定するために、血液試料を週3回、ヘパリン処理した毛細管内へ採集し、血漿を可溶性hIGF−IRの存在についてELISAにより分析した。
【0066】
[0075] sIGFIR933の血漿濃度およびマウスIGF−I循環レベルを、それぞれヒトIGF−IRおよびマウスIGF−IのDuoSet ELISA Development Systems(R&D system,ミネソタ州ミネアポリス)により定量した。循環sIGFIR933/IGF−I複合体の存在を評価し、それらの血漿濃度を組合わせELISAにより、複合体を捕獲するためのマウス抗IGF−IR抗体(R&D system)、検出のためのビオチニル化ヤギ抗マウスIGF−I抗体(R&D system)、および定量のためのIGF−I標準曲線を用いて、半定量した。すべての実験において、対照の未処理マウスから得た血漿をベースライン確立のために用いた。さらに、BMSC−sIGFIR933およびBMSC−GFPコンディショニングした培地を、それぞれ陽性対照および陰性対照として用いた。
【0067】
[0076] すべての動物実験をinstitutional Animal Care committeeの指針に従って実施した。持続的なインビボsIGFIR933産生を開始するために、遺伝子工学的に処理したBMSCsIGFIR(および対照としてのBMSCGFP)を0.2%トリプシン−EDTA溶液で分散させ、遠心し、RPMI培地に再懸濁した。それぞれの注射のために、50μlのRPMI中における10個の細胞を450μlの未希釈Matrigel(商標)(Becton−Dickinson,カナダ,オンタリオ州ミシソーガ)と混合し、混合物を使用するまで4℃に保持した。次いで全容量をEliopoulos et al. (2003, Gene Ther, 10: 478-489)の記載に従って右側腹部内への皮下注射により移植した。体温でMatrigel(商標)移植体は速やかに半固体状になり、実験期間中、動物内に留まった。sIGFIR933の循環レベルをモニターするために、ヘパリン処理したミクロヘマトクリット管により血液試料を伏在静脈から採集し、血漿を分離し、前記に従ってELISAにより検査した。
【0068】
[0077] BMSCsIGFIR933を移植したマウスから得た血漿中に、移植後24時間以内にsIGFIRタンパク質を検出できたことが示される。これに対し、BMSCGFPまたはBMSCEPOを移植した対照マウスから得た血漿は、注射していない動物に検出できるものと同じ低いバックグラウンドレベルのペプチドの存在を示した(図2A)。sIGFIR933レベルは3日目にマウス当たり約300ng/mlのピークに達し、移植後少なくとも18日間は検出可能であり、この時点でそれらはタンパク質1〜5ng/mlと測定された。移植後22日目にマウスから摘出したMatrigel(商標)プラグのパラフィン包埋のヘマトキシリン−エオシン(H&E)染色切片は、多数のGFP+ BMSCを示した。これらの細胞を移植した無胸腺ヌードマウスにおいては、120から150ng/mlまでの範囲のより低い血漿レベルの可溶性受容体が移植後3日目に最初に検出された。しかし、これらのマウスにおけるタンパク質産生レベルはより安定であり、移植後少なくとも20日間は同様な高レベルに留まった(図2C)。これらの結果により、i)移植したBMSCがインビボでデコイ受容体を分泌できたこと、ii)このタンパク質が循環に到達したこと、およびiii)それは移植後少なくとも3〜4週間は検出可能であったことが確認された。これらの結果は、移植した骨髄由来ストローマ細胞によるsIGFIR産生のレベルおよび期間の調節に、ホストの免疫性が関与していた可能性があることをも証明する。
【0069】
実施例3
可溶性IGF−I受容体は循環中のマウスIGF−Iと複合体を形成する
[0078] デコイ受容体は、リガンドに結合して膜結合したコグネイト受容体に対するリガンドのバイオアベイラビリティーを低下させることにより、膜結合したコグネイト受容体の生物活性を阻害することができる(Rudge, et al., 2007, Proc Natl Acad Sci USA, 104: 18363- 18370)。BMSCsIGFIR933移植マウスの循環中におけるshIGF−IR:mIGF−I複合体の存在を組合わせELISA試験により測定した。可溶性受容体と複合体形成したIGF−Iは、BMSCsIGFIR933移植後24時間目に既に血漿中に存在していた。sIGFIR結合したIGF−Iのレベルは移植後の最初の3日間で上昇し、次いで徐々に低下したが、移植後少なくとも2週間は検出可能なままであった(図3A)。血漿中の検出可能な全循環IGF−Iレベルは、対照と対比してまず最高17%低下した(3日目)が、徐々に回復して移植後10日目までに対照レベルに戻った(図3B)。予想どおり、対照BMSCを移植したマウスにおいては複合体形成の証拠はなかった。
【0070】
実施例4
可溶性IGF−I受容体を産生する骨髄ストローマ細胞は実験的肝転移の発生を阻害する
[0079] 腫瘍細胞が肝臓に定着して肝転移を樹立する能力に対して循環中のsIGFIRおよびsIGFIR:IGF−I複合体がをもつ作用を分析するために、肝臓への転移性が高い3種類の異なる腫瘍細胞系、すなわちネズミの肺癌H−59細胞および結腸直腸癌MC−38細胞ならびにヒト結腸直腸癌KM12SM細胞を用いた。
【0071】
[0080] 腫瘍H−59は、肝臓への転移性が高いルイス(Lewis)肺癌の亜系である(Brodt, 1986, Cancer Res, 46: 2442-2448)。この細胞は、10% FCSおよび抗生物質を補充したRPMI 1640培地中に維持された。ネズミMC−38大腸腺癌細胞(Yakar et al., 2006, Endocrinology, 147: 5826-5834)は、10%ウシ胎仔血清(Invitrogen(商標),GIBCO(登録商標),カナダ、オンタリオ州)およびグルタミン(BioSource(商標),カリフォルニア州カマリロ)を補充したダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)中に維持された。ヒト結腸直腸癌KM12SM細胞は、10%ウシ胎仔血清、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸、L−グルタミン、ビタミン(Life Technologies(商標),ニューヨーク州グランドアイランド)、およびペニシリン/ストレプトマイシン混合物(Flow Laboratories,メリーランド州ロックビル)を補充した最少必須培地(MEM)中に維持された。GP2−293細胞(ClonTech,米国カリフォルニア州)およびマウス骨髄ストローマ細胞(BMSC)は、10% FCS(Invitrogen(商標))を含むDMEM(Invitrogen(商標))中に維持された。すべての細胞を37℃、加湿インキュベーター内で、5% COと95%空気の混合物中において培養し、凍結原液から細胞を回収して2〜4週間以内に使用した。
【0072】
[0081] マウスにまずBMSCを移植し、続いて5×10(MC−38)、10(H−59)または2×10(KM12SM)の腫瘍細胞を脾臓内/門脈経路で同遺伝子型C57BI/6マウス(H−59およびMC−38)またはヌードマウス(KM12SM)に9〜14日後に注射した。BMSC移植の少なくとも1週間後に腫瘍の注射を実施した場合にストローマ細胞の作用が最適であることが明らかになったタイムコース予備実験に基づいて、この期間を選択した。肝臓を摘出し、固定する前に解剖顕微鏡の補助によって大きな転移巣を計数した。若干の肝臓を10%ホルマリン中で固定し、パラフィン包埋し、4μmのパラフィン切片を切り取り、H&Eで染色して微小転移巣を視覚化した。若干の実験については、GFP遺伝子を安定発現する腫瘍細胞をマウスに接種し、生存状態でのイメージングにより肝転移の発生をモニターした。
【0073】
[0082] 遮光した検体ボックス内に取り付けた冷却したCCD IVIS 13198カメラ(IVIS(商標);Xenogen)を用いて、生存動物の蛍光光学イメージングを実施した。Living Image(登録商標)分析ソフトウェア(Xenogen)を信号の取得および定量のために用いた。マウスを麻酔し、遮光ボックス内の加温台に乗せ、腫瘍接種後の期間に応じて5〜10秒間イメージングした。使用した蛍光体励起および発光のフィルターセットはλ励起=445〜490nmおよびλ発光=515〜575nmであった。示した蛍光イメージはリアルタイムの未処理イメージであり、蛍光強度のスケールを示す。
【0074】
[0083] BMSCsIGFIR933細胞を移植したすべてのマウスにおいて、肝転移数の顕著な低下がみられた(図4A〜E,列3)。図4A〜Eに示す結果は以下のことを証明する:H−59細胞を注射したマウスにおいては、BMSCsIGFIR933細胞移植後9日目に、肝転移の中央数がBMSCGFP移植およびBMSCEPO移植または未処理対照マウスに対比してそれぞれ70、78および80%低下し(それぞれ図4Aおよび4B;列2)、この阻害作用はBMSC移植後14日目に腫瘍細胞を接種した場合でもなお明瞭であり、肝転移の中央数が対照グループに対比して93〜95%低下した(図4C,かつ図4Fの代表的な肝臓を参照)。BMSCsIGFIR933細胞の同様な阻害作用が大腸癌MC−38細胞(図4D;列3)またはKM12SM(図4E,列3)の注射後にみられ、これらの場合、転移数は指示した対照グループに対比してそれぞれ78〜82および64%低下した。いずれの実験においても、対照BMSCGFP(偽処理)または未処理マウスにおいて発生した転移数の間に有意差はなかった(図4A、C〜E;列2);これは、BMSCそのものの移植は肝転移の発生に対して有害(または刺激)作用をもたないことを示唆する。BMSCsIGFIR933細胞または対照細胞を移植したマウスにおける腫瘍形成経過を比較するために、これらの細胞を無胸腺ヌードマウスにGFPタグ付きH−59細胞注射の9日前に移植し、肝臓におけるGFP信号の出現を非侵襲光学イメージングのためのXenogen MS(登録商標)200システムにより追跡した。対照BMSCを移植したすべてのマウスにおいて、肝領域に局在化したグリーン蛍光信号を腫瘍注射後11日目に検出できた。BMSCsIGFIR933細胞を移植したマウスにおいては、腫瘍接種後15日目に初めて肝腫瘍がみられ(1/7のマウス)、すべてのマウスを安楽死させた18日目までに検出可能なGFP信号を示したのはわずか2/7のマウスであった(図4GおよびI)。死後分析により、両グループにおける転移は肝臓に限局され、肝臓以外の転移はみられないことが確認された(図4H)。
【0075】
実施例5
可溶性IGF−IRデコイを産生するマウスにおける肝定着初期の血管新生の低下および腫瘍関連アポトーシスの増大
[0084] IGF−I受容体は生存因子であり、かつ腫瘍誘導性の血管新生に際してVEGF産生の調節因子としても関与することが示唆されている。血管新生は、既存の血管からの新たな血管の増殖を伴う生理的プロセスである。本明細書に開示する生存状態でのイメージング結果は、BMSCsIGFIR933を移植したマウスにおける腫瘍の発達が有意に遅延したことを証明する;したがって、処理マウスと対照マウスにおいてGFP+ H−59細胞の接種後6日目に腫瘍誘導性の血管新生を比較することにより、基礎となる機序を調べた。
【0076】
[0085] 肝臓のクリオスタット切片を、内皮マーカーCD31に対する抗体およびAlexa Fluor586二次抗体で免疫染色し、組織切片を共焦点顕微鏡検査により分析した。腫瘍病変関連の微小血管の定量をZeiss LSM5 image browserソフトウェアにより実施した。図5Aに示す結果は、デコイ受容体を産生するマウスにおける腫瘍関連血管の数(2番目のヒストグラム)が対照グループ(1番目のヒストグラム)と対比して>3倍減少したことを示す。これらのマウスに(パネルの2番目の部分)血管構造を欠如した多数の微小転移巣がみられたが、対照動物ではそうではなかった(パネルの1番目の部分)(図5B)。
【0077】
[0086] 微小転移病変部内のアポトーシスの程度を測定するために、GFPタグ付きH−59細胞を脾臓内/門脈注射した後6日目に肝臓を摘出し、直ちに凍結し、8μmのクリオスタット切片を調製した。4%パラホルムアルデヒドを含有する冷PBS中で20分間、切片を固定し、冷PBS中で洗浄し、0.1%クエン酸ナトリウム中の0.1% Triton X−100溶液で透析した。アポトーシス細胞をTdT仲介dUTPニック末端標識(TUNEL)ベースのアッセイ法により、インサイチュー細胞死検出キットTMR red(Roche Diagnostics,ケベック州ラバル)を用い、製造業者の指示に従って標識した。核を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で染色した。Pro−long(登録商標)GOLD退色防止試薬(Invitrogen Molecular Probes,カナダ、オンタリオ州バーリントン)を用いて切片を封入した。LSM 510 Meta共焦点顕微鏡(Carl Zeiss Canada,オンタリオ州トロント)を用いて細胞を視覚観察し、イメージを取得してZeiss LSM Image Browserプログラムで分析した。63×の倍率で20のランダムな視野のイメージを取得し、視野当たりのレッド蛍光細胞の数および全核数を記録し、アポトーシス細胞の割合を各視野における全核数に対するレッド蛍光細胞のパーセントとして計算した。
【0078】
[0087] 腫瘍誘導性の血管新生を測定するために、マウスに10個の腫瘍細胞を脾臓内/門脈経路で接種し、6日後に安楽死させ、肝臓に門脈経由でPBS中の4%パラホルムアルデヒド溶液を潅流し、切除し、4%パラホルムアルデヒド中でさらに48時間固定し、次いで30%ショ糖溶液に4日間入れた後、8μMのクリオスタット切片を調製した。病変部内の微小血管を染色するために、PBS中に0.1%のBSA、5%のヤギ血清および0.1%のTriton X100を含有する遮断液中で切片をまずインキュベートし、PBS中で30分間洗浄し、次いで最初にラット抗マウスCD31抗体(BD Pharmingen,BD Biosciences)と共に4℃で18時間、次いでAlexa Fluor568ヤギ抗ラットIgG(Invitrogen(商標),バーリントン)と共にインキュベートした;両方とも1:200の希釈度。Pro−long(登録商標)GOLD退色防止試薬(Invitrogen)を用いて切片を封入し、共焦点顕微鏡検査(前記)によりイメージを取得し、分析した。Zeiss LSM Image Browserプログラムの補助により、×100の倍率で取得した初期肝微小転移巣の20のランダムなイメージを用いて、CD31血管数/μmを測定した。
【0079】
[0088] TUNELアッセイにより、これらの肝病変部内のアポトーシス細胞の数がsIGFIR産生細胞において対照動物と比較して16倍増加することが明らかになった(図5C〜D)。これらの所見を合わせると、これらのマウスにおける腫瘍の増殖が、肝定着初期の血管新生の低下および腫瘍細胞死の増大によって阻止されたことが証明される。
【0080】
実施例6
sIGFIR注射したマウスにおける肝転移の低下
[0089] 可溶性受容体(sIGFIR)cDNAを、レンチウイルスベクター由来のタンパク質の大規模生産のためにクメートスイッチシステム(cumate switch system)の使用に基づいて遺伝子工学的に処理したパッケージングHEK293細胞系において発現させた;Broussau et al., Molecular Therapy 16(3): 500-507 (2008)の記載に従った。40の293SF−rcTA−Cymクローンをスポットブロット法によりスクリーニングし、高いsIGFIRレベルを生じた2クローンを拡張用に選択した。選択したクローンをクメート(Cumate)(誘導因子)の存在下で懸濁培養において4〜5日間拡張させた。これらの細胞の上清を次いでMinimate(商標)接線流濾過(Tangential Flow Filtration(TFF))システムにより20〜25倍濃縮し、sIGFIRタンパク質をFPLCおよびNi−NTAカラムにより精製した。純度をPAGEおよびウェスタンブロット法により確認した(図6A,6B)。
【0081】
[0090] 精製sIGFIRを、マウスに1、3および6日目に、1mg/kg、5mg/kg(静脈内または腹腔内)、または5mg/kg(腹腔内)で注射した。注射後の血漿sIGFIRレベルを図7に示す。腫瘍H−59細胞の脾臓内/門脈接種を10日目に実施した。肝転移に対するsIGFIRの作用を、腫瘍細胞の注射後14日目に評価した。図8Aおよび8Bに示すように、sIGFIR注射したマウスでは肝転移が低下した。
【0082】
[0091] 腫瘍細胞をインビトロで同様にsIGFIRと共にインキュベートした。図9に示すように、腫瘍細胞をインビトロで可溶性IGF−IRと共にインキュベートすると、腫瘍細胞のアノイキス、すなわち細胞離脱により誘発されるアポトーシスの1形態が増加した。
【0083】
[0092] これらの実験は、精製した可溶性sIGFIRが転移を低下させ、かつアポトーシスを誘発したことの最初の証明を示す。従来の研究は、本発明において証明した可溶性ペプチドの代わりに細胞ベースの療法を用いていた(たとえば、Samani et al. Cancer Research 64: 3380-3385, 2004を参照)。
【0084】
[0093] 本明細書中に述べたすべての参考文献および文書を全体として本明細書に援用する。
【0085】
[0094] 本発明の特定の態様に関して本発明を記載したが、本発明はさらに改変できることは理解されるであろう;本出願は一般に本発明の原理に従った本発明の変更、使用または応用をいずれも含み、本明細書の開示から離れたものであって本発明が関係する分野で既知または一般的な実施形態の範囲内のものならびに前記および特許請求の範囲に述べた本質的な特徴に適用できるものを含むものとする。
【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管新生関連の障害を有する対象において血管新生を阻害する方法であって、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質の治療上有効量を、対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:3のテトラマー構造体を形成している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:1、またはその生物活性フラグメントまたは類似体を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:1からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
血管新生関連の障害が癌である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
血管新生関連の障害が腫瘍の転移、結腸直腸癌、肺癌、肝癌である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
肝癌が肝転移である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
可溶性IGF−IRタンパク質を他の血管新生阻害薬と組み合わせて投与することをさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
血管新生関連の障害を有する対象において血管新生を阻害する方法であって、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質を発現するように遺伝子修飾したストローマ細胞を、対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項10】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:3のテトラマー構造体を形成している、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ストローマ細胞が骨髄由来の間葉ストローマ細胞である、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:1、またはその生物活性フラグメントまたは類似体を含む、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:1からなる、請求項9〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
血管新生関連の障害が癌である、請求項9〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
血管新生関連の障害が腫瘍の転移、結腸直腸癌、肺癌または肝癌である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
肝癌が肝転移である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
可溶性IGF−IRタンパク質を他の血管新生阻害薬と組み合わせて投与することをさらに含む、請求項9〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
血管新生関連の障害を有する対象において血管新生を阻害するための、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質の使用。
【請求項19】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:3のテトラマー構造体を形成している、請求項17に記載の使用。
【請求項20】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:1、またはその生物活性フラグメントまたは類似体を含む、請求項18または19に記載の使用。
【請求項21】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:1からなる、請求項18〜20のいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
血管新生関連の障害が癌である、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
血管新生関連の障害が腫瘍の転移、結腸直腸癌、肺癌または肝癌である、請求項18〜22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項24】
肝癌が肝転移である、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
可溶性IGF−IRタンパク質を他の血管新生阻害薬と組み合わせて投与することをさらに含む、請求項18〜24のいずれか1項に記載の使用。
【請求項26】
血管新生関連の障害を有する対象において血管新生を阻害するための、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質を発現するように遺伝子修飾したストローマ細胞の使用。
【請求項27】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:3のテトラマー構造体を形成している、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
ストローマ細胞が骨髄由来の間葉ストローマ細胞である、請求項26または27に記載の使用。
【請求項29】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:1、またはその生物活性フラグメントまたは類似体を含む、請求項26〜28のいずれか1項に記載の使用。
【請求項30】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:1からなる、請求項26〜29のいずれか1項に記載の使用。
【請求項31】
血管新生関連の障害が癌である、請求項26〜30のいずれか1項に記載の使用。
【請求項32】
血管新生関連の障害が腫瘍の転移、結腸直腸癌、肺癌または肝癌である、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
肝癌が肝転移である、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
可溶性IGF−IRタンパク質を他の血管新生阻害薬と組み合わせて投与することをさらに含む、請求項26〜33のいずれか1項に記載の使用。
【請求項35】
可溶性IGF−IRタンパク質と他の血管新生阻害薬を同時または逐次投与する、請求項8または17に記載の方法、または請求項25または34に記載の使用。
【請求項36】
対象において血管新生関連の障害を予防または治療する方法であって、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質を投与することを含み、対象において血管新生が阻害され、これにより血管新生関連の障害が予防または治療される、前記方法。
【請求項37】
対象において腫瘍の転移、結腸直腸癌、肺癌または肝癌を予防または治療する方法であって、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質を投与することを含み、対象において血管新生が阻害され、これにより腫瘍の転移、結腸直腸癌、肺癌または肝癌が予防または治療される、前記方法。
【請求項38】
SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質;および医薬的に許容できるキャリヤーを含有する、対象において血管新生を阻害するための医薬組成物。
【請求項39】
血管新生関連の障害を有する対象において血管新生を阻害するための医薬の製造における、SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有するIGF−IRの細胞外ドメインまたはその生物活性フラグメントを含む可溶性IGF−IRタンパク質の使用。
【請求項40】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:3のテトラマー構造体を形成している、請求項36または37に記載の方法、請求項38に記載の医薬組成物、または請求項39に記載の使用。
【請求項41】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:1、またはその生物活性フラグメントまたは類似体を含む、請求項36または37に記載の方法、請求項38に記載の医薬組成物、または請求項39に記載の使用。
【請求項42】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:1からなる、請求項36または37に記載の方法、請求項38に記載の医薬組成物、または請求項39に記載の使用。
【請求項43】
血管新生関連の障害が癌である、請求項36に記載の方法、または請求項39に記載の使用。
【請求項44】
血管新生関連の障害が腫瘍の転移、結腸直腸癌、肺癌、肝癌である、請求項36に記載の方法、または請求項39に記載の使用。
【請求項45】
血管新生関連の障害が肝転移である、請求項36に記載の方法、または請求項39に記載の使用。
【請求項46】
可溶性IGF−IRタンパク質がSEQ ID NO:3のジスルフィド結合および/または高親和性リガンド結合性を保持する、前記のいずれか1項に記載の方法または使用。
【請求項47】
可溶性IGF−IRタンパク質を注射により投与する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
注射が静脈内または腹腔内である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
可溶性IGF−IRタンパク質を注射により投与する、請求項35に記載の方法。
【請求項50】
注射が静脈内または腹腔内である、請求項49に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図4H】
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【図4I】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−529452(P2011−529452A)
【公表日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520293(P2011−520293)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【国際出願番号】PCT/CA2009/001060
【国際公開番号】WO2010/012088
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(500094440)ザ・ロイヤル・インスティテューション・フォア・ザ・アドバンスメント・オブ・ラーニング/マクギル・ユニヴァーシティ (7)
【Fターム(参考)】