説明

折板屋根構造及びこれに用いられる補強具

【課題】下折板屋根上に上折板屋根が隔設された屋根構造において、上折板屋根を構成する折板材の重合部分の止水性能の低下を防ぐことが可能な折板屋根構造及びこれに用いられる補強具を提供する。
【解決手段】本発明の折板屋根構造は、下折板屋根1の山部17に設けられた支持金具7を介して上折板屋根2が設置された折板屋根構造であって、上折板屋根2は、第1の折板材3と、前記第1の折板材3の棟側端部に上方から重ねるようにして接続された第2の折板材4と、前記第1の折板材3と第2の折板材4との重合部分21に介装されると共に前記支持金具7よりも棟側に配設された止水材37とを備え、前記第1の折板材3と前記下折板屋根1との間に、前記止水材37を支持する補強具6が配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下折板屋根上に上折板屋根が葺設された折板屋根構造及びこれに用いられる補強具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下折板屋根の山部に設けられた支持金具を介して、当該下折板屋根の上に上折板屋根が設置された折板屋根構造が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の折板屋根構造は、下折板屋根と上折板屋根とが、隙間を介して上下二段に形成されている。上下の折板屋根は、山部と谷部が桁方向に並ぶように、且つ山部及び谷部の各長手方向が軒棟方向に沿うようにして配設されている。
【0003】
上折板屋根は、軒棟方向に複数の折板材(例えば第1の折板材,第2の折板材・・・)を備える。この軒棟方向における複数の折板材は、例えば、第1の折板材の棟側の端部が、当該棟側に位置する第2の折板材によって覆われるよう配置される。そして、この第1の折板材と第2の折板材との重なり合った部分には、雨水の浸入を阻止するため止水材が介装される。この止水材は、下折板屋根上に上折板屋根を支持する支持金具よりも棟側に配設されており、つまり第1の折板材における自由端となった部分に配設されている。
【0004】
この上折板屋根は下折板屋根とは上下方向に離間して葺設されており、とりわけ、第1の折板材の止水材が配設された部分においては支持されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−199303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところでこのような折板屋根構造において、作業者は、折板材を軒側から棟側に向けて順に配設する。作業者は軒側の折板材の上に乗って作業を行なう。このとき仮に、作業者が、止水材の配設される自由端部分に乗ってしまった場合には、当該部分が下方に曲がることがあった。この場合、第1の折板材と第2の折板材とを重ね合わせて接続しても、下方に位置する第1の折板材が、第2の折板材から離れる方向に屈曲するため、止水材が十分圧縮されず、止水性能が低下してしまうという問題があった。
【0007】
また施工する際に、第1の折板材の端部が第2の折板材から離れる方向に屈曲していない場合であっても、第1の折板材の止水材が配設された部分においては支持されていないため、第1の折板材と第2の折板材とを重ね合わせて接続すると、弾性を有するパッキンの反発力により、第1の折板材の端部が下方に押圧され、第1の折板材の端部が下方に撓むことがあった。この場合も同様に、止水材が十分圧縮されず、止水性能が低下してしまう。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、下折板屋根上に上折板屋根が隔設された屋根構造において、上折板屋根を構成する折板材の重合部分の止水性能の低下を防ぐことが可能な折板屋根構造及びこれに用いられる補強具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の折板屋根構造は、下折板屋根1の山部17に設けられた支持金具7を介して上折板屋根2が設置された折板屋根構造であって、上折板屋根2は、第1の折板材3と、前記第1の折板材3の棟側端部に上方から重ねるようにして接続された第2の折板材4と、前記第1の折板材3と第2の折板材4との重合部分21に介装されると共に前記支持金具7よりも棟側に配設された止水材37とを備え、前記第1の折板材3と前記下折板屋根1との間に、前記止水材37を支持する補強具6が配設されていることを特徴とする。
【0010】
このように本発明の折板屋根構造は、止水材37が補強具6により支持されているため、仮に、第1の折板材3における止水材37が配設された部分に作業者が乗ったとしても、第1の折板材3が下方に変形しにくい。すなわち、第1の折板材3における止水材37が配設された部分が、第2の折板材4から離れる方向に屈曲しにくいため、止水性能が低下しにくい。
【0011】
そのうえ、第1の折板材3は止水材37が補強具6により支持されているため、第2の折板材4が接続され、この第2の折板材4により止水材37が上方から押圧されても、第1の折板材3の端部は撓みにくい。したがって止水材37を十分に圧縮することができる。
【0012】
またこの折板屋根構造において、前記第1の折板材3は、前記重合部分21に、第2の折板材4側に突設された堰部36と、当該堰部36の突出端部に載設された前記止水材37とを備えていることが好ましい。
【0013】
このような構成によれば、第1の折板材3と第2の折板材4との重合部分21に雨水が浸入したとしても、この雨水は堰部36によって堰き止められ、その後止水材37により止水される。すなわち本発明の折板屋根構造は、少なくとも堰部36と止水材37との2重の止水を施すことで止水性能を向上させることができる。しかも第1の折板材3に設けられた堰部36により、第1の折板材3における止水材37が配設された部分の強度を向上させることができ、当該部分の変形を一層防ぐことができ、止水性能を一層向上させる。
【0014】
またこの折板屋根構造において、前記第1の折板材3が、前記重合部分21に、前記第2の折板材4側に突設され且つ前記止水材37よりも軒側に設けられた桁方向に長い突条部35を備えていることが好ましい。
【0015】
このような構成によれば、第1の折板材3と第2の折板材4との重合部分21に雨水が浸入したとしても、その雨水の浸入を突条部35により阻止することができる。しかも、この突条部35は、桁方向に長く形成されているため、第1の折板材3の剛性を高めることができる。
【0016】
またこの折板屋根構造において、前記第2の折板材4側に突出した前記突条部35と前記止水材37との間に、雨水の浸入を防ぐための減圧空間51が設けられていることが好ましい。
【0017】
このように本発明の折板屋根構造は、軒棟方向において突条部35と止水材37との間に減圧空間51が設けられているため、第1の折板材3と第2の折板材4との間で毛細管現象が生じ、雨水を引き込んでしまったとしても、減圧空間51よりも止水材37側への浸水を防ぐことができる。
【0018】
またこの折板屋根構造において、前記第2の折板材4が、軒側の端部に、前記第1の折板材3と前記第2の折板材4との間の隙間を軒側から覆う被覆片44を備えていることが好ましい。
【0019】
このように本発明の折板屋根構造は被覆片44を有しているため、第1の折板材3と第2の折板材4との間に隙間が生じたとしても、その被覆片44によって風雨を遮ることができ、止水材37による止水性の確保に加えて、より一層浸水を防止することができる。
【0020】
本発明の補強具6は、上述の折板屋根構造に用いられる補強具6であって、前記第1の折板材3における前記第2の折板材4側の端部に取り付けられる取付部61と、前記下折板屋根1に当接する載置部62と、前記取付部61と前記載置部62とを繋ぎ且つ前記止水材37を支持する本体部63とを備えていることを特徴とする。
【0021】
このように本発明の補強具6は、第1の折板材3に取り付けることができるため、施工時にずれることがなく、作業性を向上させる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の折板屋根構造及びこれに用いられる補強具によれば、下折板屋根上に上折板屋根が隔設された屋根構造において、上折板屋根における複数の折板材の重合部分の止水性能の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態の折板屋根構造の側断面図である。
【図2】同上の実施形態の第2の折板材を葺設する直前の側面図である。
【図3】同上の実施形態の上折板屋根の分解斜視図である。
【図4】同上の実施形態の補強具の斜視図である。
【図5】同上の実施形態の支持金具の斜視図である。
【図6】同上の実施形態の支持金具の使用状態を示す断面図であり、(a)ははぜ継ぎ部分の形状が角はぜ形状のものであり(b)は丸はぜ形状のものである。
【図7】同上の実施形態の上折板屋根を説明するための図であり、(a)は分解斜視図(b)は平面図(c)ははぜ継ぎ部分の要部断面図である。
【図8】比較例の上折板屋根を説明するための図であり(a)は分解斜視図(b)は平面図(c)ははぜ継ぎ部分の要部断面図である。
【図9】参考例の折板屋根構造を示す断面図である。
【図10】図1〜7の実施形態の上折板材の排水状態を示す斜視図である。
【図11】第1の折板材の変形例を示す斜視図である。
【図12】第1の折板材の変形例を示す斜視図である。
【図13】第1の折板材の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について添付図面に基づいて説明する。
【0025】
本実施形態の折板屋根構造は、既設の下折板屋根1を改修するため当該下折板屋根1上に新設の上折板屋根2を葺き替えたものであり、下折板屋根1の上に、全面に亘って略一定の間隔を介して上折板屋根2が葺設され、上下2段となるよう構成されている。
【0026】
下折板屋根1は、図2に示されるように、既設の折板屋根であって、母屋16上に固設されたタイトフレーム14を介して設置されている。下折板屋根1は、山部17と谷部18が桁方向に並ぶように且つ山部17と谷部18の各長手方向が軒棟方向に沿うようにして設置される。下折板屋根1は、正面視略V字状をした複数の下折板屋根材10を備えている。各下折板屋根材10は、図6等に示されるように、平坦部11と、この平坦部11の長手方向に直角な方向の両端から上方に連設された一対の立設部13と、この立設部13の桁方向端部に設けられた連結部12とを備えており、この平坦部11と立設部13と連結部12とは、一枚の金属板を曲げ加工することで形成されている。下折板屋根1は、この連結部12同士並びにタイトフレーム14の吊子を相互に連結することで固設される。
【0027】
タイトフレーム14は、複数の突出部15を有しており、この突出部15の頂部に吊子141が取り付けられている。この吊子141には下折板屋根1の連結部12がはぜ継ぎにより締結される。このタイトフレーム14は、母屋16に沿って複数並設される。なお母屋16は、既存の外装下地材であって、例えばH型綱やC型綱やリップ溝型綱などにより構成されている。
【0028】
下折板屋根材10を設置するには、次のようにして施工する。まず、母屋16に沿ってタイトフレーム14を複数並設する。次いで、略V字状の下折板屋根材10を、タイトフレーム14の一対の突出部15間に形成される凹所19内に嵌入し、当該下折板屋根材10の長手方向を軒棟方向に沿わせるよう配置する。これにより複数の下折板屋根材10が、母屋16の長手方向(桁方向)に並ぶようにして配置される。そして、隣接する下折板屋根材10の連結部12同士をはぜ継ぎにより接合する。このとき、吊子141も共に折り曲げるようにすることで、下折板屋根材10とタイトフレーム14とを吊子141を介して連結することができる。この隣接する立設部13により構成された山状の部分が、下折板屋根1における山部17となる。
【0029】
なお、この下折板屋根1の取り付けにおいては、はぜ締めによる接合でなくてもよく、例えば、ボルト留めや嵌合方式であってもよい。また、本実施形態の折板屋根構造においては、はぜ継ぎ部分の形状を、図6(a)等に示すような角ハゼ形状としたが、図6(b)に示すような丸ハゼ形状としたものであってもよい。
【0030】
このように設置された下折板屋根1を改修するために、当該下折板屋根1上に上折板屋根2が葺設される。この上折板屋根2は、図6に示されるように、既設の下折板屋根1の山部17に装着された支持金具7上に取り付けられる。上折板屋根2は複数の折板材を備えており、これら複数の折板材が、軒棟方向に端部同士を重合した状態で接続され、桁方向にはぜ締めにより相互に連結される。以下、軒側の折板材を第1の折板材3とし、そのすぐ棟側の折板材を第2の折板材4として説明する。
【0031】
上折板屋根2は、図3に示されるように、第1の折板材3と、この第1の折板材3の棟側端部に上方から重ねるようにして接続された第2の折板材4と、この第1の折板材3と第2の折板材4との重合部分21に介装された止水材37とを備えている。
【0032】
第1の折板材3は、断面略V字状をしており、下折板屋根1の下折板屋根材10と略同じ断面形状をしている。第1の折板材3は、平坦部31と、この平坦部31の長手方向に直角な方向の両端から上方に向けて連設された一対の立設部32と、立設部32の桁方向の端部に設けられた連結部33とを備えており、この平坦部31と立設部32と連結部33とは、一枚の金属板を曲げ加工することで形成されている。
【0033】
第1の折板材3は、棟側の端部に、第2の折板材4によって上方から被覆される部分となる重合部34を有している。第1の折板材3は、図1,3に示されるように、この重合部34に、突条部35と堰部36と止水材37とを備えている。
【0034】
突条部35は、図3等に示されるように、軒棟方向に対し交差する方向に長手方向を有するリブ351を備えており、このリブ351が軒棟方向に並ぶように複数並設されることで構成されている。本実施形態のリブ351は、その長手方向が軒棟方向に直角な方向となるようにして形成されている。このリブ351は、上方に向けて突出し且つ背面が凹となるようエンボス加工により形成されている。このリブ351は、軒棟方向に連通する水抜き路352を複数箇所に有している。この水抜き路352は、軒棟方向に隣接する他のリブ351の水抜き路352に対して、軒棟方向に重ならないよう形成されている。なお本実施形態の突条部35は、その突出高さが、堰部36の上端と略同じか又はそれよりも低く形成されているが、この突条部35は、例えば第2の折板材4の裏面に接するよう突設されたものであってもよく、突出高さは特に限定されるものではない。
【0035】
この突条部35と堰部36との間には、毛細管現象による雨水の引き込みを防止する減圧空間51が形成されている。減圧空間51は、第1の折板材3と第2の折板材4との上下方向の対向間の寸法が、突条部35の突出端部と第2の折板材4との間の対向間の寸法よりも大きくなっている。減圧空間51は、突条部35により形成されている。減圧空間51は、軒棟方向に並設された一対のリブ351により形成された第1の減圧空間51aと、棟側のリブ351と堰部36とにより形成された第2の減圧空間51bとを有している。この減圧空間51は、第1の折板材3と第2の折板材4とで発生する毛細管現象による雨水の引き込みを断ち切り、それよりも棟側への浸水を防ぐ。この減圧空間51の棟側には堰部36が設けられている。
【0036】
堰部36は、図1等に示されるように、突条部35よりも棟側に位置するよう設けられており、第1の折板材3の棟側の端縁に形成されている。この堰部36は、第2の折板材4側に向けて平坦部31又は立設部32から略直角に突出する立面部361と、この立面部361の上端から棟側に向けて連設された止水材配設部362とから構成されており、これらが断面L字状に屈曲されて形成されている。堰部36は、平坦部31と立設部32とに跨るようにして設けられている。
【0037】
堰部36には、図1に示されるように、当該堰部36の棟側の端部から補強具取付片38が延設されている。本実施形態の補強具取付片38は、堰部36の止水材配設部362の端部により構成されている。この補強具取付片38には、上下に貫通する取付孔(図示せず)が穿設されている。
【0038】
第1の折板材3のこの補強具取付片38には、止水材37を支持するための補強具6が取り付けられる。この補強具6は、図4に示されるように、補強具取付片38に取り付けられる取付部61と、下折板屋根1の上面に当接する載置部62と、取付部61と前記載置部62とを繋ぎ且つ止水材37の下方を支持する本体部63とを備え、これらは一つの金属板を曲げ加工することで形成されている。取付部61は、補強具取付片38を上下方向から挟持するよう構成されており、固着具挿通孔64が上下に貫通するようにして穿設されている。本体部63と載置部62とは断面略L字形状に形成されており、載置部62の端部が棟側に臨むよう配置される。この補強具6は、第1の折板材3の平坦部31と、下折板屋根1の平坦部11との間に配設され、下折板屋根1の平坦部11により支持される。
【0039】
補強具6は、その取付部61を第1の折板材3の補強具取付片38に挟み込み、その後、固着具挿通孔64及び補強具取付片38の取付孔に、ビス等の固着具8を上方から挿入することで取り付けられる。補強具6は、第1の折板材3に固定的に取り付けられ、作業時にずれたり外れたりしないようになっている。
【0040】
止水材37は、帯状のゴムパッキンにより構成されている。止水材37は、第1の折板材3の止水材配設部362に接着により固定されている。止水材37は、上折板屋根2を支持する支持金具7よりも棟端縁側に配設されると共に、第1の折板材3の棟側の端部周縁全長に亘って配設される。
【0041】
第2の折板材4は、図3に示されるように、第1の折板材3と同じような構造になっており、断面略V字状をしている。第2の折板材4は、その断面形状が第1の折板材3と略同じ形状に形成されており、第1の折板材3と略平行な状態で重ね合わせることができる。第2の折板材4は、第1の折板材3と同様に、平坦部41と、この平坦部41の長手方向に直角な方向の両端から上方に向けて連設された一対の立設部42と、この立設部42の桁方向端部に設けられた連結部43とを備えており、この平坦部41と立設部42と連結部43とは、一枚の金属板を曲げ加工することで形成されている。
【0042】
第2の折板材4は、軒側の端部に被覆片44が連設されている。この被覆片44は、その突出先端が第1の折板材3に近接対向するよう構成されており、第2の折板材4の軒側の端部を第1の折板材3側に曲げ加工することで形成されている。これにより被覆片44は、第1の折板材3と第2の折板材4との間の隙間を覆う。
【0043】
なお、第2の折板材4の棟側の端部には、第1の折板材3と同様に、突条部35・堰部36・止水材37等が形成されており、第3の折板材(図示せず)の端部が被覆され接続される。また、第1の折板材3の軒側の端部には、第2の折板材4と同様に、被覆片44が形成されている。
【0044】
支持金具7は、既設の下折板屋根1の山部17に取り付けられ、この下折板屋根1の上方に一定の隙間を形成した状態で上折板屋根2を配設する。本実施形態の支持金具7は、図5,6に示されるように、支持具本体の下部に設けられると共に下折板屋根1の山部17の傾斜面に装着される逆V形状をした取着部71と、支持具本体にボルトにより固定された吊子72とを備えている。
【0045】
このような構成の上折板屋根2は、次のようにして下折板屋根1上に葺設される。
【0046】
まず作業者は下折板屋根1の山部17の所定の箇所に、複数の支持金具7を固設する(図6参照)。支持金具7の取着部71を下折板屋根1の山部17に載置した状態で、取着部71・下折板屋根材10の立設部13・タイトフレーム14の順にボルトを貫通させ、支持金具7を下折板屋根1の山部17に載設する。次に、支持金具7の上方から上折板屋根2の第1の折板材3を所定の位置に配置し、その後、第1の折板材3の重合部34を被覆するようにして第2の折板材4の軒側の端部を重ね合わせる。
【0047】
次いで、桁方向に隣接する谷部18に別の折板材を配設する。本実施形態の折板屋根構造では、図7(b)に示すように、上記第1の折板材3と第2の折板材4との重合部分21に、隣接する折板材の重合部分21が重ならないように配置する。すなわち桁方向に並ぶ各重合部分21を、軒棟方向にずれるよう配設する。そして、この状態で順次連結部33(43)同士をはぜ継ぎ締結してゆく。なお、このはぜ継ぎ締結の作業には、手動または自動による専用のカシメ工具を使用する。このようにして上折板屋根2を下折板屋根1の上に葺設することができる。
【0048】
ここで、本実施形態の折板屋根構造は、図2に示されるように、上折板屋根2を支持する支持金具7が、第1の折板材3の棟側の端縁よりも軒側に位置しており、したがって補強具6が取り付けられていない状態では棟側の端縁が自由端となる。そのため補強具6が取り付けられていない従来の折板屋根構造においては、屋根葺き作業に際し、この部分に作業者が乗ってしまうと、下方に屈曲してしまうおそれがある。とりわけこの自由端の部分には止水材37が配設されるため、この端部が第2の折板材4から離れる方向に屈曲すると、十分な止水性能が得られないという問題が生じてしまう。
【0049】
しかし本実施形態の折板屋根構造は、第1の折板材3の棟側の端部に補強具6が取り付けられており、止水材37が配設される部分が補強具6により支持されている。このため、仮に、第1の折板材3における止水材37が配設された部分に作業者が乗ったとしても、第1の折板材3が下方に変形しにくい。すなわち、第1の折板材3における止水材37が配設された部分が、第2の折板材4から離れる方向に屈曲しにくいため、止水性能が低下しにくい。
【0050】
そのうえ、第1の折板材3は止水材37が補強具6により支持されているため、第2の折板材4が接続され、この第2の折板材4により止水材37が上方から押圧されても、第1の折板材3の端部は撓みにくい。したがって止水材37を十分に圧縮することができ、止水性能を向上させることができる。
【0051】
この点、例えば図9のように、上折板屋根2の平坦部22が下折板屋根1の平坦部11に当接するように、上折板屋根2の形状を下折板屋根1の形状とは異ならせることも考えられる。しかしながら、このような場合には下折板屋根1とは別の上折板屋根2を製造するための設備が必要となり、設備投資費用が莫大にかかるという問題がある。一方、本実施形態の折板屋根構造では、上折板屋根2と下折板屋根1とが略同じ形状となっているから、同じ製造設備を使用することができる。しかも、少なくとも既存の折板屋根と同等の強度や排水性能を確保できるという利点もある。
【0052】
また、本実施形態の折板屋根構造は、上折板屋根2に積雪し、第2の折板材4に過度な荷重を受けたとしても、第1の折板材3と下折板屋根1との間に補強具6が配設されているから、止水材37を介して第1の折板材3の棟側の端部が下方に押圧されたとしても、その部分が下方に屈曲して変形するのを防止できる。
【0053】
また本実施形態の折板屋根構造は、突条部35が設けられているため、第1の折板材3と第2の折板材4との密着を防ぐことができる。しかもこの突条部35は、当該突条部35の棟側に且つ第1の折板材3と第2の折板材4との間に減圧空間51を形成する。第1の折板材3と第2の折板材4との密着を防ぐことで、毛細管現象の発生を防ぐことができるうえに、それに加え減圧空間51が形成されるから、より一層、毛細管現象の発生による浸水を防ぐことができる。
【0054】
しかも本実施形態の折板屋根構造は、突条部35によって形成された第1の折板材と第2の折板材との間の隙間を、被覆片44によって覆うよう構成されている。したがって、この被覆片44によって風雨を遮ることができ、一層、止水性を確保することができる。
【0055】
さらに、この第2の折板材4における自由端が強風に煽られる等で、軒側の第1の減圧空間51aの隙間が小さくなり、仮に、第1の折板材3と第2の折板材4との間で毛細管現象が生じても、本実施形態の折板屋根構造は第2減圧空間51bが第1の減圧空間51aの棟側に並設されているため、第2の減圧空間51bが作用して、浸水を一層防止することができる。
【0056】
また突条部35は、第1の折板材3や第2の折板材4に製造上のひずみや寸法のばらつきがあったとしても、そのひずみやばらつきに影響を受けることなく第1の折板材3と第2の折板材4との密着を防ぐことができ、毛細管現象の発生を低減させることができるので、確実に止水効果を発揮することができる。
【0057】
しかもこの突条部35は、軒棟方向に並設された複数のリブ351により構成されているため、強風が第1の折板材3と第2の折板材4の間に吹き込んでも、この風圧を徐々に減圧することができ、風に乗った雨水の浸入を防ぐことができる。しかもこの突条部35は、桁方向に長く形成されているため、第1の折板材3の剛性を高めることができる。
【0058】
また本実施形態の折板屋根構造は、仮に、減圧空間51に雨水が入り込んだ場合であっても、図10の矢印のように、雨水は、立設部32に設けられた突条部35を伝って平坦部31に導かれ、その後軒棟方向の傾斜により軒側に流れる。このとき突条部35は水抜き路352を有しているため、この水抜き路352を通して雨水を排水することができる。これにより、減圧空間51に水が滞留することによる錆や腐食の発生を防ぐことができる。
【0059】
さらに本実施形態の折板屋根構造は、図1に示されるように、被覆片44によって一次止水を行い、突条部35や減圧空間51によって二次止水を行い、さらに堰部36によって三次止水を行い、最終的に止水材37によって四次止水を行なうよう構成されているから、確実な止水を行なうことができる。
【0060】
しかも本実施形態の折板屋根構造は、第2の折板材4側に突出した堰部36上に止水材37が配設されているため、止水材37が配設された部分の強度をより向上させることができる。
【0061】
また、本実施形態の折板屋根構造は、第1の折板材3と第2の折板材4とを接続した重合部分21が、すぐ隣に位置する重合部分21と桁方向に重ならないよう、軒棟方向にずれて配置されている。このため、隣接する重合部分21同士が桁方向に重なった構造に比べて、折板材同士をかしめたときに隙間が発生しにくい。すなわち、図7(c)に示されるように、本実施形態の折板屋根構造は、折板材が3重となっているのに対し、隣接する重合部分21同士が桁方向に重なった構造では折板材が4重となっている(図8参照)。つまり、本実施形態の折板屋根構造は、かしめる折板材の重なり数が少なくなっているため、確実にかしめることができ、その結果、止水性能が向上する。
【0062】
なお、本実施形態の第1の折板材3の突条部35は、長手方向が軒棟方向に直角な方向となった複数のリブ351により構成されていたが、例えば次のような構造であってもよい。以下、突条部35の変形例を示す。
【0063】
変形例1は、図11に示されるように、立設部32に設けられたリブ351が下方ほど棟側に位置するよう傾斜しており、平坦部31に設けられたリブ351が、逆ハ字状となっており且つ中央側ほど軒側に位置するよう傾斜している。この平坦部のリブ351には中央側に水抜き路352が形成されている。
【0064】
変形例2は、図12に示されるように、突条部35に替えて、平面視楕円形状の突部39が一直線状に配列されている。一直線状に配列された突部39は、軒棟方向に並ぶよう並設されている。各突部間には水抜き路352が形成されている。
【0065】
変形例3は、図13に示されるように、突条部35のリブ351の軒棟方向に並設された列数が、4列ではなく2列となった例である。
【0066】
以上のように構成された突条部35であっても、本実施形態の折板屋根構造における突条部35と同じ効果を得ることができる。
【0067】
以上、本発明の折板屋根構造を、既設折板屋根上に新設の折板屋根を葺き替える折板屋根構造に基づいて説明したが、本発明の折板屋根構造は二重折板屋根構造であればよく、葺き替え構造にのみ限定されない。本発明の折板屋根構造は、例えば、下折板屋根と上折板屋根とをいずれも新設の折板屋根とした二重折板屋根構造に対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 下折板屋根
10 下折板屋根材
11 平坦部(下折板屋根材)
12 連結部(下折板屋根材)
13 立設部(下折板屋根材)
14 タイトフレーム
141 吊子
15 突出部
17 山部
18 谷部
19 凹所
2 上折板屋根
21 重合部分
3 第1の折板材
31 平坦部(第1の折板材)
32 立設部(第1の折板材)
33 連結部(第1の折板材)
34 重合部
35 突条部
36 堰部
37 止水材
4 第2の折板材
41 平坦部(第2の折板材)
42 立設部(第2の折板材)
43 連結部(第2の折板材)
44 被覆片
51 減圧空間
6 補強具
61 取付部
62 載置部
63 本体部
7 支持金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下折板屋根の山部に設けられた支持金具を介して上折板屋根が設置された折板屋根構造であって、
上折板屋根は、
第1の折板材と、
前記第1の折板材の棟側端部に上方から重ねるようにして接続された第2の折板材と、
前記第1の折板材と第2の折板材との重合部分に介装されると共に前記支持金具よりも棟側に配設された止水材と
を備え、
前記第1の折板材と前記下折板屋根との間に、前記止水材を支持する補強具が配設されている
ことを特徴とする折板屋根構造。
【請求項2】
前記第1の折板材は、前記重合部分に、第2の折板材側に突設された堰部と、当該堰部の突出端部に載設された前記止水材とを備えている
ことを特徴とする請求項1記載の折板屋根構造。
【請求項3】
前記第1の折板材が、前記重合部分に、前記第2の折板材側に突設され且つ前記止水材よりも軒側に設けられた桁方向に長い突条部を備えている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の折板屋根構造。
【請求項4】
前記第2の折板材側に突出した前記突条部と前記止水材との間に、雨水の浸入を防ぐための減圧空間が設けられている
ことを特徴とする請求項3記載の折板屋根構造。
【請求項5】
前記第2の折板材が、軒側の端部に、前記第1の折板材と前記第2の折板材との間の隙間を軒側から覆う被覆片を備えている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の折板屋根構造。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の折板屋根構造に用いられる補強具であって、
前記第1の折板材における前記第2の折板材側の端部に取り付けられる取付部と、
前記下折板屋根に当接する載置部と、
前記取付部と前記載置部とを繋ぎ且つ前記止水材を支持する本体部と
を備えている
ことを特徴とする補強具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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