説明

抹消血管疾患およびそれに関連する障害の治療において新生細胞を利用する方法

PVDおよびそれに関連する疾患または障害に罹患している患者を治療するために使用される、脂肪組織中に存在している細胞の提供を目的とする。本発明による患者の治療法は、脂肪組織を処理して、或る量の濃縮された脂肪組織由来の幹細胞を患者に投与する処置を含む。この方法は、閉鎖システム内で実施されるため、幹細胞は、患者に投与される前は、外部環境に晒されることがない。従って、好ましい方法では、脂肪組織中に存在している細胞は、治療効果を促し、治療効果を生み、または、治療効果を支援するのに必要な添加物と一緒に被移植体に直接投与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2002年12月9日出願の、「処理済吸引脂肪細胞を利用して患者を治療するシステムおよびその方法(Systems and Methods for Treating Patients with Processed Lipoaspirate Cells)」という名称の米国出願第10/316,127号の一部継続出願であり、2001年12月7日出願の米国仮出願第60/338,856号の優先権を主張するものである。本願はまた、2003年9月17日出願の、「抹消血管疾患およびそれに関連する症状の治療において脂肪組織由来の細胞を利用する方法(Methods of Using Adipose Tissue-Derived Cells in the Treatment of Peripheral Vascular Disease and Related Conditions)」という名称の米国仮出願第60/503,589号の優先権を主張するものである。上述の出願の全部の内容は、ここに援用することにより、特に本件の一部をなすものとする。
【0002】
本発明は、広義には、脂肪組織由来の細胞に関するものであり、特に、脂肪組織由来の細胞(幹細胞および/または始原細胞など)、脂肪組織由来の新生細胞を利用する方法、脂肪組織由来の新生細胞を含有する組成、および、抹消血管疾患およびそれに関連する症状、疾患、障害などを治療するために利用される脂肪組織由来の新生細胞を準備して使うシステムに関連している。
【背景技術】
【0003】
抹消血管疾患(PVD)およびそれに関連する障害は、四肢の血管の狭窄として経験されることが多い、心臓や中枢神経系の外側の血管の疾患と定義される。このような疾患には2つの主要な種類があり、すなわち、血管の異常には関わりないが、風邪、ストレス、喫煙などの刺激が原因で生じる機能性疾患と、アテローム性動脈硬化病巣、局所炎症、または、外傷性創傷などの血管の構造異常が原因で生じる器質性疾患の2種類である。これは血管の閉塞や異常性血流をもたらし、最終的には組織虚血症に至ることがある。
【0004】
PVDのより臨床的に重要な形態の1つが抹消動脈疾患(PAD)であり、この疾患は冠動脈疾患(CAD)と共通の要素を有している。CADと同様に、PADは血管再生やステントの移植により治療されたり、動脈バイパス外科手術により治療されることが多い。臨床事項の説明は閉塞した血管の位置次第で変わる。例えば、腸に血液を供給する動脈(すなわち、上位腸間膜動脈)の狭窄の結果、閉塞状態の血管が消化吸収プロセスから生じる酸素需要の上昇に適う能力がないことが原因で、下腹部に酷い食後の腹痛を生じることがある。同様に、脚部のPADは、通常はふくらはぎに間欠的な痛みをもたらすことがあり、運動に伴って痛みが走ったり失せたりする。この障害は間欠性跛行(IC)として周知であり、進行すると持続的な痛みを生じるようになると同時に、細胞の増殖休止や虚血性潰瘍を生じ、切断手術の必要に至りさえする。PVDについて現在利用できる治療的介入処置としては、血栓崩壊剤、抗血栓剤(ヘパリン、アスピリン、コーマジン)、運動(間欠性跛行対策)、抗アテローム剤(スタチンなど)、外科手術による血管再形成などがある。しかし、多数の患者が外科手術介入をするには解剖学的に好適とはいえない形態の疾患に罹っている。
【0005】
抹消血管疾患は腎動脈のアテローム性動脈硬化狭窄症で顕在化するが、この疾患は腎虚血症や腎臓機能不全などをもたらすことがある。生物血管再形成は外科手術によるアプローチに対する潜在的な代替案を提供する。血管再形成は血管新生と動脈新生のプロセスに関与しており、これら2つを結合させれば、閉塞部周辺の血流をバイパスするための新しい側枝血流技術の開発を推進できる。生物血管再形成は、血管新生因子を供与する薬物および遺伝子治療により達成され、或いは、血管新生因子を傍分泌放出することで血管新生に寄与する、かつ/または、血管内皮を形成することのできる細胞の供給源を与えることで血管新生に寄与する細胞療法引受け細胞によって達成される。
【0006】
細胞療法研究は骨髄に非造血幹細胞や血管内皮前駆細胞が存在していることを検出することを基本としていた(プロコップ(Prockop)、アジジ(Azizi)ほか、2000年;ピッテンガー(Pittenger)、マッケイ(Mackay)ほか、1999;シー(Shi)、ラフィイ(Rafii)ほか、1998年;カーメリエット(Carmeliet)およびラッタン(Luttun)、2001年)。このような研究は骨髄移植被移植動物を使っており、非移植体の体内における新血管の発達の一部が供与体の骨髄細胞に由来するものであったことを示す遺伝子マーカーによって、供与体細胞と宿主細胞は区別することができた(カーメリエットおよびラッタン、2001年;タカハシ(Takahashi)、カルカ(Kalka)ほか、1999;ムラヤマ(Murayama)、テッパー(Tepper)ほか、2002年)。このような作業は、骨髄がそのような細胞を含有していることを完璧に実証しているが、骨髄中の間充織幹細胞の発現頻度は有核細胞10万分の1から100万分の1までの間であると推定される(ディッポリート(D'Ippolito)ほか、1999年;バンフィ(Banfi)ほか、2001年;ファッラ(Falla)ほか、1993年)。同様に、皮膚およびその他の組織から上記のような細胞を抽出することは、数週間にわたる複雑な一連の細胞培養段階を含み(トーマ(Toma)ほか、2001年)、骨格筋由来の幹細胞の臨床応用は2週間から3週間の培養段階を必要とする(ハゲーゲ(Hagege)ほか、2003年)。従って、そのような組織に由来する幹細胞の、提案されている臨床応用は、より多くの個数の細胞、より高い純度、細胞純化と細胞培養のプロセスによるより高い熟成度を要件としている。
【0007】
細胞培養段階はより多くの個数の細胞、より高い純度、より高い熟成度を提供することができるが、そうするには失費が否めない。このような失費の中には1つ以上の次の追うな技術的難題が含まれる。すなわち、細胞が老いることを原因とする細胞機能の損失、潜在的に有用な非幹細胞集団の喪失、細胞を患者に供与する際の遅れ、金銭的費用が嵩むこと、培養中に環境微生物で細胞が汚染される危険が増大すること、などである。骨髄由来のASCの治療効果を吟味する近年の研究は、細胞培養に付随する諸問題を回避するのに骨髄全部を使うことが必要だった(ホロヴィッツ(Horwitz)ほか、2001年;オーリック(Orlic)ほか、2001年;シュタム(Stamm)ほか、2003年;シュトラウアー(Strauer)ほか、2002年)。しかし、臨床効果は最適とはいえず、成果が、骨髄中で本来利用できる限られたASC投与量および純度と相関関係にあるのは、ほぼ間違いなかった。
【0008】
(特許文献のリスト)
【特許文献1】国際公開WO 97/23510パンフレット
【特許文献2】米国特許第6,001,642号
【特許文献3】米国特許第6,238,908号
【特許文献4】米国特許公報第2002-0182211号
【特許文献5】米国特許第6,269,716号
【特許文献6】米国特許第5,919,234号
【特許文献7】米国特許第6,673,362号
【特許文献8】米国特許第6,635,064号
【特許文献9】米国特許第6,653,146号
【特許文献10】米国特許第6,391,059号
【特許文献11】米国特許第6,343,531号
【特許文献12】米国特許第6,280,473号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、脂肪組織は幹細胞の供給源であることが分かってきた(ツーク(Zuk)ほか、2001年;ツークほか、2002年)。脂肪組織は(骨髄、皮膚、筋肉、肝臓、脳などとは異なる)相対的に大量でも収穫が比較的簡単で、しかも、罹患率が低い(コモンズ(Commons)ほか、2001年;カッツ(Katz)ほか、2001年)。しかし、脂肪組織由来の幹細胞を収穫する好適な方法が当該技術には存在しない。既存の方法は多数の欠点がある。例えば、既存の方法は、一部自動化も全自動化、部分閉鎖システムまたは完全閉鎖システム、構成要素の使い捨て自在などといった概念が欠落している。
PVDを治療するための脂肪組織由来の幹細胞が潜在的に治療で使えるのであれば、脂肪組織由来の細胞を収穫して、成熟した幹細胞の集団を、よい高い歩留まり、より高い持続性、および/または、より高い純度で生成し、迅速かつ高い信頼性で生成しながらも、抽出後の操作が少なくて済む、或いは、その必要が全くない方法が当該技術で必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、成熟した幹細胞および始原細胞のような新生細胞であって、PVDおよびそれに関連する疾患または障害を治療するために利用することができる新生細胞に関するものである。本発明はまた、脂肪組織のような組織に由来する新生細胞を分離・濃縮するシステムおよび方法にも関連している。本発明はまた、PVDおよびそれに関連する疾患または障害を治療するための新生細胞の組成に関するものである。従って、一般的な実施形態では、本発明は組織由来の新生細胞であって、治療効果を促し、治療効果を生み、または、治療効果を支援するのに必要な添加物と一緒に被移植体に直接移植される新生細胞を利用する組成、方法、システムを目的としている。
【0011】
特殊な実施形態では、本発明は、PVDおよびそれに関連する疾患および障害、血管異常または血管障害、心外組織障害、抹消動脈疾患、アテローム性動脈硬化症、炎症性動脈炎などを治療するにあたり、或る濃度の新生細胞を投与する(注射により投与するのが好ましいが)手段で実施する方法を目的としている。新生細胞としては、幹細胞、始原細胞、これらの組合わせなどがある。或る実施形態では、治療効果を得るために、多数回の投与分の新生細胞を投与する必要がある。更に、1種類以上の成長因子などの添加物を新生細胞と一緒に投与してもよい。好ましい実施形態では、新生細胞は血管新生成長因子単独で投与されてもよいし、他の添加物と組合わせて投与されてもよい。新生細胞は1種類以上の免疫抑制剤と一緒に投与されることもある。
【0012】
新生細胞の投与経路は当該技術で周知であり、血管内投与、筋内投与、皮下投与などの経路がある。細胞は、例えば、患者の血管に投与される。細胞はまた、当該技術で周知の再吸収可能な骨格(scaffold)などの骨格を介して投与される。
【0013】
新生細胞は、患者に投与する前に、例えば、血管新生表現型への分化を促進する培養条件および/または血管内皮表現型への分化を促進する培養条件で成長させられる。細胞培養は、患者の体の内外に移植できる2次元構造または3次元構造を生成するように、再吸収可能な台などの骨格材料の上で実施される。また、新生細胞は、患者に投与する前に、遺伝子伝達により改修することができ、そのため、改修後の新生細胞中の1種類以上の遺伝子の発現が変化させられ、例えば、血管新生遺伝子や細胞自滅遺伝子などの発現が変化させられる。
【0014】
本発明はまた、所与の組織に由来する幹細胞や始原細胞などの新生細胞であって、被検体に再注入するのに好適な新生細胞を分離・濃縮することのできる極めて多目的なシステムおよびその方法に関するものである。好ましい実施形態では、システムは自動化にされる。本発明のシステムは、一般に、1個以上の収集チャンバー、処理チャンバー、廃棄チャンバー、排出チャンバー、試料チャンバーなどを備えている。多様なチャンバーが1本以上の導管を介して一緒に連結されて、生物材料を含有する流体が閉じた無菌の流体/組織経路を通って1つのチャンバーから別なチャンバーへと通過することができるようになっている。或る実施形態では、廃棄チャンバー、排出チャンバー、試料チャンバーは任意である。或る実施形態では、組織抽出に始まって、処理および装置の設置までの処理手順全体がどれも同じ施設で実施され、実際に、処置を受けている患者の病室の一室内でも実施される。
【0015】
従って、或る実施形態では、PVDまたはそれに関連する疾患または障害に罹っている患者を治療する方法は次の段階を含んでいる。すなわち、a)組織取出しシステムを設ける段階、b)組織取出しシステムを利用して患者から脂肪組織を取出す段階で、脂肪組織が或る濃度の幹細胞を含んでいるもの、c)脂肪組織の少なくとも一部を処理して、処理前の脂肪組織の新生細胞の濃度とは異なる濃度の新生細胞を得る段階、d)新生細胞が患者に投与されるまでは組織取出しシステムから新生細胞を取出さずに、新生細胞を患者に投与する(注射するのが好ましい)段階を含んでいる。
【0016】
本件に記載されている特徴、または、複数の特徴の組み合わせは、かかる組み合わせに含まれる特長が相互に矛盾しないのであれば、本発明の範囲に含まれるが、それは文脈、本件明細書、当業者の周知事項から自明となるだろう。本発明の別な利点および局面は、後段の詳細な説明から明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、脂肪由来の新生細胞(ADC)を利用した抹消血管疾病(PVD)治療法を提供する。PVDは、一般に、アテローム血栓症の進行が原因で発症するが、アテローム硬化症による血管狭窄それ自体が、或る程度の組織虚血を引き起こし、これと同時に、狭窄部位における凝血塊の堆積やそれ以外の代謝を原因として、臨床的に深刻な潅流障害の可能性が増大する。虚血の結果、閉塞状態になってしまった血管が正常だったならばそこから潅流があるはずの組織内に代謝の機能不全(必要を満たすのには不十分な酸素供給)を生じ、その状態が深刻であったり進行性であると、壊死過程に導く恐れがある。本発明は、一部は次のような発見に基づいている。すなわち、本発明の新生細胞とは、(1)血管形成の成長因子や活性液性因子のことを意味しており、例えば、PIGF、VEGF、bFGF、IGF-II、エオタキシン、G-CSF、GM-CSF、IL-12p40/p70、IL-12p70、IL-13、IL-6、IL-9、レプチン、MCP-1、M-CSF、MIG、PF-4、TIMP-1、TIMP-2、TNF-α、および、スロンボポエチンなどのことであり、また、本発明の新生細胞は、(2)血管形成をする際にうまく編制された機能を示す血管内皮始原細胞(EPC)を含んでおり、(3)体外でも発達しながら血管に成長し、また、(4)生体内では虚血組織の生着を支援する、という発見に本発明は基づいている。したがって、本発明の新生細胞は、例えば、血管形成を促進することによるPVDの治療について有益である。
【0018】
本発明はまた、幹細胞および/または始原細胞などの新生細胞を分離・濃縮する迅速かつ信頼できるシステムと方法に関するものであるが、新生細胞源としては広範な組織があり、例えば、脂肪、骨髄、血液、皮膚、筋肉、肝臓、結合組織、筋膜、脳およびそれ以外の神経系組織、血管、上記以外の柔組織または液状組織、もしくは、組織成分または組織混合体(例えば、皮膚、血管、脂肪、結合織などの複数組織の混合体)などがある。好ましい実施形態では、システムは脂肪組織由来の新生細胞を分離・濃縮する。また別な好ましい実施形態では、システムは自動化により、方法全体を実施するにあたり、ユーザー介入とユーザーの専門的判断とが最小限で済むようにしている。特に好ましい実施形態では、本発明のシステムと方法を利用して得られた新生細胞は、抽出組織提供者でもある、PVDまたはそれに関連する疾病または障害に罹患している被移植者への直接移植に好適である。
【0019】
組織抽出から始まって、新生細胞を分離し、濃縮し、被移植者に移植(例えば、注入などにより)する全処置手順は同じ施設で何もかもが実施されるのが好ましく、実際、処置を受けている患者の一室内でも、そのほうが好ましい。組織抽出と新生細胞の濃縮後の比較的短時間のうちに、新生細胞は使用される。例えば、新生細胞は患者から組織を収穫してから約1時間のうちに使用準備ができるが、或る状況では、組織収穫後、約10分から40分で使用準備ができることもある。好ましい実施形態では、新生細胞は組織収穫後約20分で使用準備完了となる。組織抽出に始まって新生細胞の分離・濃縮を実施する処置手順に要する全時間は因子の数によって変動することがあるが、そのような因子としては、患者の側貌、収穫されている組織の種類、所与の治療適用例に必要とされる新生細胞の量などがある。被移植者にとっての治療的、構造的、または、美容上の利益を得ようとの企図から1回きりの手術処置の状況で、新生細胞は他の細胞、組織、組織細片、細胞成長および/または細胞分化の骨格または刺激要因と結合させて被移植者に移植されることもある。システムの分離段階・濃縮段階より後の段階で新生細胞を更に操作するには、そのような操作の態様に見合う追加時間がかかることが分かる。
【0020】
本発明をもっと容易に理解できるようにするために、まず、用語の定義を行う。詳細な説明全体で、これ以外の定義も明示される。
【0021】
本件で使用されているように、「新生細胞」とは、本発明のシステムおよび方法を利用して得られる異質細胞または同種細胞であって、器官、組織、生理的単位または生理的システムの構造または機能の完全な再生、回復、または、代用、或いは、部分的な再生、回復、または、代用の原因となることで、或いは、それらに寄与することで、治療効果、構造効果、または、美容効果を供与するものを言う。新生細胞の具体例としては次のものがある。すなわち、脂肪細胞由来の幹細胞(ASC)、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、血管内皮始原細胞、マクロファージ、線維芽細胞、血管周皮細胞、平滑筋細胞、脂肪前駆細胞、分化脂肪細胞または未分化脂肪細胞、ケラチン生成細胞、単分化能および多分化能の始原細胞と前駆細胞(および、それぞれの後代細胞)、リンパ球などがある。
【0022】
新生細胞が治療効果、構造効果、または、美容効果を供与することができるメカニズムの1つとして、新生細胞または新生細胞の後代細胞を新たに生成された組織または組織成分、既存の組織または組織成分、或いは、修復された組織または組織成分に組み込む手段がある。例えば、ASCおよび/またはその後代細胞は新たに生成された骨、筋肉、それ以外の構造体、または、機能的組織に組み込まれることで、治療的、構造的、または、美容的な向上の原因となり、或いは、それらに貢献する。同様に、血管内皮細胞または血管内皮前駆細胞もしくは血管内皮始原細胞と、それぞれの後代細胞が既存の血管、新生血管、修復後の血管、または、拡張された血管に組み込まれることで、治療効果、構造効果、または、美容効果を生じ、または、それらに貢献する。
【0023】
新生細胞が治療効果、構造効果、または、美容効果を供与することができる別なメカニズムとして、例えば成長因子などの分子を発現させる手段、および/または、分子を分泌する手段があるが、かかる分子は、所与の組織または組織成分の構造または機能を作り出し、維持し、回復し、かつ/または、再生するのを促進する。具体例として、新生細胞は、分子を発現し、かつ/または、分子を分泌するが、その結果として、組織または細胞の成長を高め、そのような組織または細胞が今度は、直接的または間接的に改良された構造または機能に関与する。新生細胞は成長因子を発現し、かつ/または、成長因子を分泌するが、かかる成長因子としては、例えば、血管内皮成長因子(VEGF)、胎盤成長因子(PIGF)、bFGF、IGF-II、エオタキシン、G-CSF、GM-CSF、IL-12p40/p60、IL-12p70、IL-13、IL-6、IL-9、レプチン、MCP-1、M-CSF、MIG、PF-4、TIMP-1、TIMP-2、TNF-α、および、スロンボポエチン、およびそのアイソフォームなどがあり、これらは次のような1種類以上の機能を実施することができる。そのような機能とは、新血管の発達を刺激する、すなわち、血管新生を促進すること、既存の小血管(側枝血管)の血液搬送容量を拡大することにより、小血管の酸素供給を増進すること、創傷部位の遠隔にある部位から新生細胞が起動するように誘導することで、創傷部位に新生細胞を向かわせて移行させること、刺激により成長を促し、かつ/または、創傷部位内で細胞が生着してゆくのを促進することで、機能または構造の維持を促進すること、細胞自滅防止特性を備えた分子を与えることにより、細胞死の割合またはその可能性と機能の恒久的喪失を低減すること、血管内皮新生細胞および/またはそれ以外の生理学的メカニズムと相互作用すること等である。
【0024】
本発明のシステムおよび方法を利用することで、新生細胞を使用する場合、組織内に存在しているとおりの、それぞれの「本来の」形態で、或いは、組織から分離・濃縮されたような形態で使用することができ、または、新生細胞を修正するのに、成長因子もしくはそれ以外の生物学的反応変更因子で刺激し、或いは、かかる変更因子を十分に与えることによって、遺伝子伝達(転移または安定転移)によって、本件で後で詳述する物理的特性(寸法や密度など)、固相材への差次接着性、細胞表面または細胞内分子の発現、細胞培養またはそれ以外の体外操作もしくは体内操作、変更、または、細分化などに基づいて、結果として生じた個体数を更に何分割かすることによって実施されてもよい。新生細胞はまた、合成の骨格、材料、または、装置、或いは、生体的な骨格、材料、または、装置など、上記以外の細胞または装置と組み合わせて使用することもできるが、そのように組合わせた骨格、材料、または、装置は、因子、薬剤、化学物質、または、それ以外の作用因子を搬送したり、後述するような細胞の関連特性を変更または向上させる。
【0025】
本件で使用されているように、「新生細胞組成」とは、例えば脂肪組織などの組織を洗浄してから、少なくともその一部の成分を分散させた後で、液体の体積中に通例存在している細胞の組成のことをいう。例えば、本発明の新生細胞組成は多数の異なる種類の新生細胞を含んでおり、その具体例として、ASC、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、血管内皮始原細胞、マクロファージ、線維芽細胞、血管周皮細胞、平滑筋細胞、脂肪前駆細胞、分化脂肪細胞または脱分化脂肪細胞、ケラチン生成細胞、単分化能および多分化能の始原細胞と前駆細胞(および、それぞれの後代細胞)、リンパ球などがある。新生細胞組成はコラーゲンなどの1種類以上の汚染物を含有していることもあり、かかる汚染物は組織部分に存在することもあれば、残留コラゲナーゼか、それ以外の酵素、または、本件で説明されている組織成分分散プロセスで採用されている作用因子中または上記プロセスから生じる作用因子中に存在することもある。
【0026】
本件で使用される限り、「新生医学」とは、新生細胞を被験者に直接的または間接的に移植することで得られる治療効果、構造効果、または、美容効果について述べたものである。本件で使用されるように、「抹消血管疾病(PVD)」とは、心臓の外側および脳の外側の血管の疾病および循環障害のことを意味しており、例えば、機能上のPVD、器質上のPVD、抹消動脈疾病(PAD)、アテローム硬化性閉塞障害、アテローム硬化症、血管の外傷性創傷、炎症性動脈炎などがあるが、これらに限定されない。詳細に述べると、PVDは、脚および腕の筋肉に血液を運ぶ血管を狭窄することを特徴とすることが多い。例えば、冠動脈疾患や頸動脈疾患に類似している症例であるPADでは、脂肪堆積物が動脈壁に沿って累積され、主として脚や足先に通じている動脈の血液循環に影響する。PADに罹患している人は、凝血の危険があるせいで、卒中や心臓発作が原因で死亡する恐れが高い。
【0027】
本件で使用される限り、「血管新生」という語は、既存の血管および組織から新たな血管が生成されるプロセス(フォークマン(Folkman)1995年を参照)を意味する。「修復または改修する」という句は、既存の血管の再形成を意味する。組織虚血を軽減するのに血管新生に依存するのは不可欠である。新しい血管の自発的成長は虚血領域内およびその付近の血管側枝循環をもたらし、血流を向上させ、虚血によって生じた症候を緩和する。血管新生を介在させるべき疾病および障害としては、急性心筋梗塞、虚血性心筋症、抹消血管疾患、虚血性卒中、急性管状動脈壊死、虚血性創傷包含AFT、敗血症、虚血性腸疾患、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経症、糖尿病性腎症、脈管炎、虚血性脳症、勃起生理機能不全、虚血性脊椎損傷または外傷性脊椎損傷、多発性器官系不全、虚血性歯肉炎、移植関連の虚血症などがある。
【0028】
本件で使用されるような「幹細胞」とは、多分化能新生細胞であって、多様な他の細胞種類に分化する潜在性を有しているものを意味し、分化後の細胞は1種類以上の特殊機能を果たすとともに、自己蘇生能力を有している。本件に開示されている幹細胞の幾つかは多分化能であってもよい。
【0029】
本件で使用されるような「始原細胞」とは、多分化能新生細胞であって、1種類以上の細胞種類に分化する潜在性を有しており、尚かつ、自己蘇生能力に限定されるか、自己蘇生能力を全く有していないかのいずれかのものを意味する。本件で使用されるような「始原細胞」はまた、単分化能細胞であって、1つの細胞種類にしか分化しない潜在性を有しているものを意味し、分化後の細胞は1種類以上の特殊機能を果たすとともに、自己蘇生能力に限定されるか、自己蘇生能力を全く有していないか、いずれかである。特に、本件で使用されるような「血管内皮始原細胞」とは、多分化能細胞または単分化能細胞であって、複数の血管内皮細胞に分化する潜在性を有しているものをいう。
【0030】
本件で使用されるような「前駆細胞」とは、単分化能新生細胞であって、1つの細胞種類に分化する潜在性を有しているものを意味する。前駆細胞とそれぞれの後代は、例えば、リンパ球や血管内皮細胞のように、適切な条件下で急激に数を増やせる大規模な増殖能を維持していることがある。
【0031】
本件で使用されるような「血管新生因子」または「血管新生タンパク質」という語は、既存の血管から新しい血管が成長するのを促す(すなわち「血管新生」を促す)ことができる周知のタンパク質、ペプチド、または、それ以外の作用因子のことを意味する。本発明で使用するのに好適な血管新生因子としては、胎盤成長因子(ラタン(Luttun)ほか、2002年)、マクロファージ群体刺激因子(アーリネヤート(Aharinejad)ほか、1995年)、顆粒球マクロファージ群体刺激因子(ブッシュマン(Buschmann)ほか、2003年)、血管内皮成長因子の(VEGF)-A、 VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-E(ミンツ(Mints)ほか、2002年)、ニューロピリン(ワン(Wang)ほか、2003年)、線維芽成長因子のEGF-1、EGF2 (bFGF)、FGF-3、FGF-4、FGF-5、FGF-6(ボッタ(Botta)ほか、2000年)、アンジオポイエチン1、アンジオポイエチン2(サンドバーグ(Sundberg)ほか、2002年)、エリスロポイエチン(リバッティ(Ribatti)ほか、2003年)、BMP-2、BMP-4、BMP-7(カラノ(Carano)およびフィルバロフ(Filvaroff)、2003年)、TGF-beta(ション(Xiong)ほか、2002年)、IGF-1(シゲマツ(Shigematsu)ほか、1999年)、オステオポンチン(アソウ(Asou)ほか、2001年)、プレイオトロフィン(ビエッケン(Beecken)ほか、2000年)、アクチヴィン(ラモワーレ(Lamouille)ほか、2002年)、エンドセリン-1(バグネイト(Bagnato)およびスピネラ(Spinella)、2003年)、これらの組合せ等があり、但し、これらに限定されるものではない。血管新生因子は単独または互いに連合して作用する。連合した場合、血管新生因子は相乗効果的に作用することもあり、これにより、複数因子の結合効果は、個々の因子が別々に採用された場合の複数効果の総体よりも効果が高い。「血管新生因子」または「血管新生タンパク質」という語は、このような因子の機能的類似物をも包含する。機能的類似物としては、具体例を挙げると、個々の因子の機能的部分がある。機能的類似物としては抗イディオタイプ抗体があり、これは複数因子のレセプタと結びつき、従って、血管新生および/または組織再建を進める際に各因子の活動を模倣する。そのような抗イディオタイプ抗体を生成する方法は当該技術分野では従来公知であり、例えば、国際公開WO 97/23510パンフレット(特許文献1)に記載されているが、この特許文献の内容はここに援用することで本件の一部をなすものとする。
【0032】
本発明で使用されている血管新生因子は、どのようなものであれ好適な細胞源から生成または入手することができる。例えば、各因子はそれぞれの天然の細胞源から純化され、または、合成され、もしくは、組換え形質発現によって生成される。各因子は、タンパク質組成物として患者に投与される。これに変わる例として、各因子は因子をコード化する発現プラスミドの形態で投与することもできる。好適な発現プラスミドの構築は当該技術で公知である。発現プラスミドを構築するための好適なベクターには、例えば、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノ関連のウイルスベクター、RNAベクター、リポゾーム、カチオン性リピド、レンチウイルスベクター、トランスポゾンなどがある。
【0033】
本件で使用されているような「動脈新生」という語は、先在の細動脈接続部から側枝動脈および/またはそれ以外の動脈の成長を促すプロセスを意味する(カルメリエト(Carmeliet)、2000年;ショルツ(Scholz)ほか、2001年;ショルツほか、2002年)。より狭義には、動脈新生は、虚血組織、腫瘍、または、炎症部位に血液を供給している先在の細動脈接続部から血管内皮細胞および平滑筋細胞を増殖させることにより、動脈を本来の場所で漸増させ、拡大させることである。このような血管は罹患組織の外部で著しく成長し、虚血領域、腫瘍、または、炎症部位に養分を搬送するのに重要となる。動脈新生は、心筋虚血に対する正常な反応の一部である(ミルズ(Mills)ほか、2000年;モンテーロ(Monteiro)ほか、2003年)。これに加えて、冠動脈バイパス補綴(CABG)の共通する外科手術技術は、実際には、せいぜい、人工側枝血管(サージャント(Sergeant)ほか、1997年)の作成程度である。従って、梗塞部を辿るように動脈新生を増大させるプロセスは、虚血組織への血流を増大させることで、細胞死を減じて梗塞部寸法を小さくする結果となる。このような改良の結果、心臓機能と治療効果を向上させることになる。
【0034】
本件で使用されているような「幹細胞数」または「幹細胞発現率」とは、脂肪組織由来細胞(ADC)を低い細胞密度(単位ウエルあたり細胞1万個未満)で平板培養するとともにMSC成長を支援する成長媒体中(例えば、10%の牛胎児の血清、5%の馬血清、抗生物質/抗真菌物質が補給されたDMEM/F12媒体など)で成長させるクローン化アッセイで観られる群体の個数のことを意味する。2週間、細胞を成長させた後、培養物はヘマトキシリンで染色され、50個を超える数の細胞群体をCFU-Fと勘定する。幹細部発現率は、100個の核形成培養細胞あたりに観られるCFU-Fの個数と算定される(例えば、1000個の核形成された新生細胞で開始された培養基中に存在する15個の群体から得られる幹細胞発現率は15%である)。幹細胞の個数は、幹細胞発現率に得られた核形成ADC細胞の素数を乗算したものと算定される。新生細胞から成長した高い割合(〜100%)のCFU-Fは細胞表面分子CD105を発現させるが、これは骨髄由来の幹細胞によっても発現させられる(バリー(Barry)ほか、1999)。CD105は、脂肪組織由来の幹細胞によっても発現させられる(ツーク(Zuk)ほか、2002年)。
【0035】
本件で使用される限り、「脂肪組織」は、脂肪を蓄積する結合組織を含む、脂肪を意味する。脂肪組織は多数の新生細胞種類を包含し、具体的には、ASCや血管内皮始原細胞や前駆細胞がある。
【0036】
本件で使用されるような「脂肪組織の単位」という語は、脂肪組織の独立した量または測定可能な量を意味する。脂肪組織の単位は、単位重量および/または単位体積を判定することにより測定することができる。先に識別されたデータに基づくと、患者から取り出されたようなPLA(処理済吸引脂肪)の単位は、細胞成分のうち少なくとも0.1%が幹細胞であるものを含み、すなわち、単位中の細胞成分の幹細胞発現率は、上述のように判定されると、少なくとも0.1%である。本件開示内容を参照する場合、脂肪組織の単位とは、患者から取出された脂肪組織の総量のことをいう場合もあれば、患者から取出された脂肪組織の総量よりも少ない量のことを意味する場合もある。従って、脂肪組織の単位は脂肪組織のまた別な単位と組み合わせることで、個別の単位の和となる重量または体積に相当する脂肪組織の単位を形成することもある。
【0037】
本件で使用される限り、「タンパク質」という語は、素材全体量よりも少ない素材量を意味する。過半量に満たない部分とは、50%未満の量を意味し、過半量の部分とは、50%を超過する量のことをいう。従って、患者から取出された脂肪組織の全量よりも少ない脂肪組織の単位は、取出された脂肪組織の一部である、ということになる。
【0038】
本件で使用されるような「被処理リポアスピレート」という語は、熟成した脂肪細胞および結合組織から活性細胞成分(例えば、再生成分を含む成分)を分離するように処理された脂肪組織のことを意味する。このような試料分画は、本件では、「脂肪組織由来の細胞」または「ADC」と呼称される。通例、ADCは、脂肪組織から細胞を洗出し・分離・濃縮することにより得られる新生細胞のペレットを意味する。このようなペレットは、通例は、細胞の懸濁液を遠心分離することにより遠心チャンバーまたは遠心細胞容器の底部に細胞が集成することで得られる。
【0039】
本件で使用されるような「投与する」、「導入する」、「搬送する」、「設置する」、および、「移植する」というような語は本件では互換自在に使用されており、各事例ごとに、本発明の新生細胞を被験体に注入するにあたり、少なくとも部分的に新生細胞を所望部位で局在化させる結果を生じるような方法または経過手順によって実施することで移植することを意味する。新生細胞は、細胞または細胞成分の少なくとも一部が生着可能のまま残存する被験体の体内の所望位置に搬入する結果となる適切な経過手順を辿って投与することができる。被験体への投与後に細胞が生着できる期間は、数時間程度の短い期間から、24時間、数日、更には、数年程度の長期に及ぶことがある。
【0040】
本件で使用される限り、「治療する」という語は、疾患または障害の少なくとも1種類の望ましくない効果または症候を軽減または緩和することを含む。
【0041】
本件で使用されるような「治療上有効な投与量の新生細胞」とは、有効または所望の臨床効果をもたらすのに十分な量の新生細胞のことを意味する。上述のような投与量は、1回または複数回の投与に分けて投与することができる。しかし、有効投与量とはどのぐらいだと考えるかという点の厳密な判断は、患者ごとの個別の因子に拠る場合があり、かかる因子の具体例として、患者の年齢、体格寸法、疾病の種類または程度、疾病の進行段階、新生細胞の投与の経緯手順、採用されている補足治療の種類と程度、進行中の疾病過程、望ましい治療の種類(例えば、過度に積極的な治療か従来型の治療か等)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
本件で使用されるような「被験体」とは、恒温動物を含み、人類を含む哺乳類であるのが好ましい。好ましい実施形態では、被験体は霊長類である。より好ましい実施形態では、被験体は人類である。
【0043】
本件で先に明示したように、幹細胞や始原細胞などの新生細胞は、広範な組織から収穫することができる。本発明のシステムは、このような組織の全てについて使用することができる、しかし、脂肪組織は新生細胞のとりわけ豊富な採取源である。従って、本発明のシステムは、本件では、新生細胞源として脂肪組織を利用するものと例示されているが、具体例にすぎず、限定するものではない。
【0044】
脂肪組織は、当業者に周知の方法ならどんな手段でも得ることができる。例えば、脂肪組織は、脂肪組織吸引(注射器または動力支援法)によって、または、脂肪組織切除によって患者から除去されるが、具体的方法としては、吸引支援型の脂肪組織移植、超音波支援型の脂肪組織移植、および、切除術による脂肪組織切除、または、上述の方法の組合せがある。脂肪組織は除去・収集されてから、更に、本件開示の本発明のシステムの実施形態のいずれかに従って処理される。収集される組織の量は多数の因子で決まるが、因子の具体例としては、供与体の体質量指数や年齢、収集に費やせる時間、接近可能な脂肪組織収穫部位の利用可能性、平行薬物投与と事前薬物投与、症状(血液凝固防止治療など)、組織を収集している臨床目的などがある。例えば、痩せた個体から抽出した脂肪組織100 mlの新生細胞百分率は、肥満した供与体から抽出したものよりも高い(表1)。これは、肥満した個体のより高い脂肪内容の減殺効果を反映している可能性がある。よって、本発明の一局面によれば、より痩せた患者から得られる量に比べると、体重超過の供与体からより多量の組織を得ることが望ましいことがある。このような観察は、本発明の利用は、脂肪組織が、より大量に付着している個体に限定されるものではないことも示している。
【0045】
【表1】

【0046】
脂肪組織が処理された後、結果として得られた新生細胞には、成熟した脂肪細胞と結合組織が実質的に無い。従って、本発明のシステムは、研究目的および/または治療目的で使用される、互いに異質な多数種類の脂肪組織由来の新生細胞を生成する。好ましい実施形態では、このような細胞は被移植者の体内へ移植または再注入するのに好適である。これ以外の実施形態では、細胞は研究目的で使用されるが、具体的には、このような細胞は、より長い期間、存命することができて、他の研究にも利用できる幹細胞または始原細胞を確立するために使われる。
【0047】
本発明の目下好ましい実施形態について詳細に言及してゆくが、かかる実施形態の具体例は添付の図面に例示されている。可能な場合はどこでも、同一または類似する構成要素を参照するにあたり、同一または類似する参照番号が図面と詳細な説明中で使われている。図面は簡略化された形式になっており、厳密な等尺図ではない。本件開示を参照する場合、便宜上と明瞭化のためにのみ、頂面、底面、左右、上下、上方、上位、下位、下方、後部、全部、遠位、近位などの方向を表す語が添付の図面に関して使用されている。このような方向を表す語は、どのような態様であれ、本発明の範囲を制限するものと見なされるべきではない。
【0048】
本件の開示は、或る例示の実施形態に言及しているが、このような実施形態は具体例によって提示されており、制限するために提示されているのではないものと理解するべきである。後段の詳細な説明の意図は、具体的な実施形態を説明することであるが、添付の特許請求の範囲の各請求項によって限定されるような発明の精神および範囲に入るような、実施形態の全ての修正例、代替例、均等物を含むものと思量されるべきである。本発明は、当該技術で従来から使用されている多様な医療処置と関連して活用することができる。
【0049】
ここで図面を参照すると、本発明のシステム10は、一般に、1個以上の組織収集チャンバー20と、処理チャンバー30と、廃棄チャンバー40と、出力チャンバー50と、試料チャンバー60とで構成される。多様なチャンバーが1個以上の導管12を介して一緒に連結されて、生物学的素材を含有する流体が或るチャンバーから別なチャンバーへと渡されると同時に、閉鎖された無菌の流体/組織経路を維持することができるようにしている。導管は、本件ではそれぞれ管腔および管材と互換自在に呼称されている剛性本体部または可撓性本体部からなる。或る実施形態では、導管は、臨床場面で従来から使用されているポリエチレン管材、シリコン、または、当該技術で従来公知の上記以外の素材などの可撓性管材の形態である。導管12は、流体または組織の通過が望ましいか否か次第で、寸法を変えることができる。導管12はまた、システムを循環させられる組織または流体の量次第でも、寸法を変えることができる。例えば、流体を通過させるために、導管は、約1.524mmから約19.05mm(約0.060インチから約0.750インチ)の範囲の直径を有していればよく、組織を通過させるために、導管は、約7.925mmから約19.05mm(0.312インチから0.750インチ)の範囲の直径を有していればよい。一般に、導管の寸法は、導管が収容することのできる体積と導管を通して組織または流体を輸送するのに要する時間との均衡を保つように選択される。システムの自動化型の実施形態では、前述のパラメータ、すなわち、体積と輸送に要する時間を認識して、システムの処理装置に適切な信号が送信されるようにしなければならない。これにより、装置は或るチャンバーから別なチャンバーへ正確な体積の液体と組織を移動させることができるようになる。使用されている可撓性管材は、負圧に耐えて破損の恐れを低減することができる必要がある。使用される可撓性管材はまた、システムで使用することのできる容積移送式ポンプなどによって生成される正圧にも耐えることができる必要がある。
【0050】
システムのチャンバーは全て、標準IVを容認する出口22のポートまたは入口21のポートのような1個以上のポートと、注射器と、吸引管接続部とで構成される。ポートは、ラバー隔壁によって閉鎖された注射器針アクセスポート51のような封鎖型ポートであってもよい。入口ポートは、導管によって1個以上のカニューレ(図示せず)に接続される。例えば、組織入口ポート21は一体型の一回のみ使い捨ての脂肪組織吸引カニューレに接続され、導管は可撓性管材である。導管は、一般に、システムの或るチャンバーから別なチャンバーに流体を通過させるように設置される。このために、導管とポートは、例えば、手動動作または自動動作のできる吸引装置(図示せず)に接続される。吸引装置は、例えば、注射器または電気ポンプであればよい。吸引装置は、患者から組織を吸引するのに十分な負圧を供与することができる必要がある。一般に、医者などの当業者に周知の好適な吸引装置ならどのようなものでも、使用することができる。
【0051】
導管12は、システムの多様な構成要素の間で素材の流れを制御するのに、1個以上のクランプ(図示せず)を更に備えているようにしてもよい。クランプは、システムの異なる複数領域を効果的に封鎖することにより、システムの無菌性を維持するのに有用である。これに代わる例として、導管12は、システムを通る素材の流れを制御する1個以上の弁14を備えていてもよい。弁14は、図面では開いた円として認識される。好ましい実施形態では、弁は電気機械的ピンチ弁であってもよい。また別な実施形態では、弁は空気圧弁であってもよい。また別な実施形態では、弁は油圧弁または機械弁であってもよい。このような弁は、レバーに接続される制御系によって活動状態にされるのが好ましい。レバーは、活動状態にされるように手動操作される。自動化型の実施形態では、制御系はレバーのみならず処理装置にも接続されて、この処理装置が所定の活動条件で弁を始動させる。或る自動化型の実施形態では、弁の始動は一部が自動で行われ、一部が使用者の好みに任され、処理を最適化することができるようになっている。また別な実施形態では、或る弁は手動で活動状態になれ、残りの弁は処理装置によって自動的に始動されるようにしてもよい。弁14はまた、蠕動ポンプ34または容積移送ポンプ(図示せず)などの1個以上のポンプと関連づけて使用することもできる。導管12および/または弁14はまた、センサー29を構成要素として備えていてもよいが、センサーの具体例として、光学センサー、超音波センサー、圧力センサー、または、それ以外の形態の当該技術で公知のモニターであって、システムを通って流動する多様な流体成分や流体レベルを相互に区別することができるものが挙げられる。好ましい実施形態では、センサー29は光学センサーであってもよい。
【0052】
システムはまた、複数のフィルター36を備えていてもよい。或る実施形態では、フィルターはシステム28のチャンバー内にある。システムないの他のチャンバーは異なるフィルターを構成要素として含んでいてもよい。フィルターは、幹細胞および/または始原細胞といったような新生細胞を、不所望な細胞や、システムに従って利用できる成分分散剤から分離させるのに有効である。或る実施形態では、フィルター組立体36が中空のファイバー濾過装置を備えている。また別な実施形態では、フィルター組立体36は浸透濾過装置を備えており、これは沈降過程と併用されてもよいし、併用されなくてもよい。また別な実施形態では、フィルター組立体36は遠心装置を備えており、これは溶離装置および溶離過程と併用されてもよいし、併用されなくてもよい。また別な実施形態では、システムは、これら濾過装置の組合せを備えている。本発明の濾過機能は二重式で、幾つかのフィルターがコラーゲン、遊離脂質、遊離脂肪細胞、残留コラゲナーゼなどの物質を最終濃分から取除き、残りのフィルターは最終生成物を濃縮するために使われる。このシステムのフィルターは、直径および/または長さが20μmから800μmの範囲である複数のポートを構成要素として含んでいる。好ましい実施形態では、収集チャンバー20の前置フィルター28は、80μmから400μmの範囲の大きさの複数の穿孔が設けられている。また別な好ましい実施形態では、収集チャンバー20の前置フィルター28は、265μmの複数の穿孔が設けられている。また別な実施形態では、フィルターは着脱自在であり、かつ・または、使い捨て可能である。
【0053】
このシステムはまた1個以上の温度制御装置(図示せず)を構成要素として備えており、これら制御装置は、システムの1個以上のチャンバー内に包含されている素材の温度を調節するように設置されている。温度制御装置は加熱装置、冷却装置、または、その両方であってもよく、すなわち、加熱装置と冷却装置を切り替えることができるようにしてもよい。温度制御装置はシステム内を通過するどんな素材の温度でも調節することができ、そのような素材としては、組織、分離薬剤各種、最懸濁薬剤各種、濯ぎ剤各種、洗浄剤各種、または、添加物各種がある。例えば、脂肪組織の加熱により分離は容易になるが、排出された新生細胞の冷却は細胞を生きたままに維持するのが望ましい。また、最適組織処理に予備的に暖められた試薬が必要とされる場合は、温度制御装置の役割は、温度を上昇または低下させるよりはむしろ、所定の温度を維持することである。
【0054】
閉鎖状態で無菌の流体/組織通路を維持するために、ポートと弁の全てに、システムの封鎖構造を維持する閉鎖具が設けられていてもよい。閉鎖具は、流体、空気、または、それ以外の汚染物に対して不透過性である膜であってもよいし、あるいは、当該技術で従来公知の他の好適な閉鎖具であってもよい。更に、システムのポートは全部が、注射器、針、または、それ以外の、システムの無菌性を妥協することなくチャンバー内の素材を引き出す装置に適合し得るように設計されている。
【0055】
本件で明示されるが、当該技術で認知されている方法ならば、どのような方法によって組織を患者から抽出してもよい。吸引組織は、処理のためにシステム内に設置される前に抽出される。吸引組織は、通例は、ラバー隔壁によって閉鎖された注射器針接近ポート(収集チャンバーに装着されているのが図示されていない)などの、封鎖された入口ポートを介して、導管12を通って収集チャンバー20に転送される。これに代わる例として、組織抽出段階は、システムの一部であってもよい。例えば、収集チャンバー20は真空ライン11を構成要素として含み、この真空ラインにより、患者体内に挿入された標準カニューレを利用して、組織除去を容易にすることができる。従って、この実施形態では、システム全部が患者に取付けられる。組織は導管12aのような導管を介して入口ポート21を通って収集チャンバー20に導入されるが、上記のような導管は閉鎖された無菌通路の一部である。収集チャンバー20は複数の可撓性または剛性のキャニスター、円筒部材、または、これらの組合せを備えている。例えば、収集チャンバー20は1個以上の多様な寸法の剛性キャニスターを備えている。収集チャンバー20は、1個以上の可撓性のバッグも備えている。このようなシステムでは、バッグには内側枠または外側枠のような支持部材が設けられており、バッグに吸引力を付与した際にバッグが収縮してしまう恐れを低減するのにかかる支持部材が役立つのが好ましい。収集チャンバー20は、処理チャンバー30で実施される処理の洗浄・濃縮段階より前に組織を適切に洗浄して組織成分を分散させるのに必要な量の生理食塩水を保有するような寸法に設定されている。収集チャンバー20に存在している組織または流体の体積は、裸眼で容易に確認できるのが好ましい。例えば、脂肪組織から新生細胞を得ることを目的として、好適な収集チャンバーは800 mlのリポアスピレートと1200 mlの生理食塩水を保有する容量を有している。従って、或る実施形態では、収集チャンバー20は少なくとも2リットルの容量を有している。また別な実施形態では、血液から赤血球を分離・濃縮するのに、収集チャンバー20は少なくとも1.5リットルの容量を有している。一般に、収集チャンバー20の寸法は、患者から収集された組織の種類と量次第で変動する。収集チャンバー20は、約5 ml程度から約2リットルまでの組織を保有する寸法に設定される。5 mlから100 mlまでの範囲のような、より少量の組織体積については、収集チャンバー20に転送する前に、組織は注射器に収集することができる。
【0056】
収集チャンバー20は、滅菌することができるのであればどのようなものであれ、好適な生体適合性素材を利用して構成されればよい。好ましい実施形態では、収集チャンバー20は、ISO 10993基準に記載されているような血管内接点の生体適合可能性用件に適う使い捨て可能な素材から構成される。例えば、ポリカーボネートやアクリル樹脂、ABSなどが使用される。収集チャンバー20の流体経路は発熱性物質を含まないのが好ましく、すなわち、疾患伝染の危険の無い血液使用に好適である。或る実施形態では、収集チャンバー20の組織および/または流体の体積は、自動化センサー29で判定される。収集チャンバー20は、自動化様式の実施形態では、システムは理に適った程度の精度でチャンバー内の組織および/または流体の体積を判定することができるように設計されているのが好ましい。好ましい実施形態では、システムは、±15パーセントの精度で収集チャンバー内の体積を検知する。
【0057】
具体例としてのみ提示されている特定の実施形態では、収集チャンバー20は剛性チャンバーの形態を取り、例えば、医療等級のポリエステル製で、網目寸法が265μm(図5を参照のこと)である略円錐状の前置フィルター28を備えている、医療等級のポリカーボネートから構成されているチャンバーの形態である。この剛性の組織収集容器の寸法は、高さが約203.2mm(約8インチ)であり、直径が約127mm(約5インチ)であり、肉厚は約3.175mm(約0.125インチ)である。円筒部材の内部に接近できるようにするために、例えば、吸引管材のための1個以上のポートを通して、無菌結合技術による接続用管材をもうけた1個以上のポートを通して、かつ/または、ラバー隔壁を針で刺し通して接近するための1個以上のポートを通して接近できるようにしている。収集チャンバー20の内部の前置フィルター28は、例えば、患者から組織が取出されると、脂肪組織を残存させながら、脂肪組織以外は通過させるような構造になっているのが好ましい。より詳細に述べると、フィルター28は、脂肪組織を初めて収穫している間、また別な実施形態では、脂肪組織の最初の収穫後に、脂肪組織部分を保持したまま、遊離脂質、血液、および、生理食塩水だけを通過させることができるようにする。この点で、フィルター28は複数の穿孔が設けられており、その寸法は全部同じでもよいし、それぞれ異なっていてもよいが、寸法は約20μmから5mmの範囲である。好ましい実施形態では、フィルター28は複数の400μmの穿孔が設けられている。好ましい実施形態では、フィルター28は、約200μmの厚さの医療等級ポリエステルメッシュで、穿孔の寸法は約265μmで、その約47%が開口面積である。この素材は、洗浄中は組織を保持しているが、組織成分分散後はメッシュを通して細胞を外へ通過させることができる。従って、組織が患者から吸引されると、非脂肪組織が脂肪組織から分離される。これと同じ機能を、異なる素材、異なるメッシュ寸法、異なるポート数とポート種類で達成することができる。例えば、100μmよりも小さいか、または、数千ミクロン程度の大きさのメッシュ穿孔寸法で、脂肪組織の集成物や砕片を保持したまま、生理食塩水と血球を通過させることができるという上記と同じ目的を達成する。同様に、代替の剛性可塑材を使用することにより、または、当業者には周知と思われる上記以外の変更例によって、同じ目的を達成することができる。
【0058】
システム10はまた、1個以上の溶液源22を備えている。溶液源は、洗浄用溶液源23と、コラゲナーゼなどの組織成分分散剤源24を含んでいる。収集チャンバー20は洗浄用または成分分散用の溶液またや薬剤を無菌様式で組織に添加することができるようにする、閉鎖された流体通路を備えている。
【0059】
洗浄用溶液23の容器と成分分散剤24の容器は、臨床場面で使用されるIVバッグなどの収縮可能なバッグのような、無菌様式で内容物を保持することができる好適な容器ならば、どのようなものでもよい。このような容器は、導管12eのような導管12が設けられ、このような導管が収集チャンバー20に接続されて、洗浄用溶液と成分分散剤を収集チャンバー20の内部に搬入することができる。洗浄用溶液と成分分散剤は、当該技術で認知されている態様ならどんな方法によってであれ、収集チャンバー20の内部に搬入されるが、具体例として、生理食塩水23の容器および/または成分分散剤24の容器の外側に重力による圧力を加えるだけでもよいし、或いは、図4の導管12dなどの導管に容積移送式ポンプを設置する方法もある。自動化式の実施形態では、システムの処理装置が多様なパラメータを算定するが、具体的パラメータとしては、生理食塩水の体積、洗浄に要する時間または周期数のほかに、成分分散剤の濃度や量、使用者が初期的に入力した情報(処理中の組織の体積など)に基づく成分分散に要する時間などがある。これに代わるものとして、各種の量や時間などが使用者によって手動で操作される。
【0060】
収集チャンバー内の組織および/または流体は、摂氏30度から摂氏40度の範囲の温度に維持されるべきである。好ましい実施形態では、収集チャンバー内の懸濁液の温度は摂氏37度に維持される。或る実施形態では、外科手術処置または治療適用の延期を必要とする場合には、選択された組織は後ほど使用するため収集チャンバー内に保存することができる。組織は、室温またはそれに近い温度、もしくは、摂氏約4度で96時間までは保存することができる。
【0061】
洗浄用溶液は当業者に周知のどのような溶液であってもよく、例えば、生理食塩水や、それ以外の緩衝電解液または非緩衝電解液であってもよい。処理される組織の種類が、使用される洗浄用溶液の種類または組合せを決めることになる。通例、生理食塩水などの洗浄用溶液は、脂肪組織が患者の体内から取出されて収集チャンバー内に設置された後から、収集チャンバー20に入る。しかし、洗浄用溶液は、脂肪組織が抽出される前に収集チャンバー20に搬入されてもよいし、或いは、脂肪組織と同時に、収集チャンバー20に搬入されてもよい。収集チャンバー20には、洗浄用溶液と抽出された脂肪組織とが混合されて入れられるが、混合手段としては、後述する方法を含め、どのような手段であってもよい。
【0062】
例えば、組織は攪拌により洗浄することができる(攪拌により細胞視認性が最大限にされ、解放された遊離脂質の量が最小限になる。或る実施形態では、可変度数の円弧を描いて(例えば、約45度から約90度の円弧を描いて)、1分あたり約30回転程度の可変速度で収集チャンバー20全体を回転させることにより、組織が攪拌される。別な実施形態では、組織は可変度数円弧を描いて(例えば、約45度から約90度の円弧を描いて)、1分あたり約30回転程度の可変速度で収集チャンバー20全体を回転させることにより攪拌されるが、この場合、収集チャンバー20はその内面に1個以上の櫂状部材または突起が堅固に取付けられている。上述の収集チャンバー20の回転は、収集チャンバー20に直接、または、その近位に装着された駆動機構によって達成される。駆動機構は、簡単なベルト、歯車、または、それ以外の当該技術で周知の駆動メカニズムであればよい。回転速度は、例えば、1分あたり30回転であればよい。一般に、高速にすれば、より大量の遊離脂質を生成することが分かっているが、最適量ではないことがある。
【0063】
また別な実施形態では、収集チャンバー20の内部に回転自在シャフト25を設置することにより、組織が攪拌されるが、この場合、回転自在シャフト25はそこに1個以上の櫂状部材25aまたは突起が堅固に取付けられており、シャフトが回転している最中には、この櫂状部材または突起が混合液を通り抜ける。或る実施形態では、パドル25aが堅固に取付けられた回転自在シャフト25は収集チャンバー20の底面上に載置することができる。これは、具体的には、櫂状の装置を回転磁界(例えば、磁気攪拌装置)内に設置することにより達成される。これに代わる例として、当該技術で周知の簡単な攪拌装置を用いて、すなわち、回転させずに上下に揺動させる装置を用いて、組織の攪拌を実施することができる。揺動、攪拌、反転運動など、どのようなものであれ、上記以外の当該技術で認知されている手段を利用して、組織を洗浄することもできる。
【0064】
所望量の洗浄周期の後で、組織成分分散剤が収集チャンバー20に搬送されて、新生細胞を残留脂肪組織成分から分離することができる。成分分散剤は、当業者に周知の成分分散剤ならどのようなものであってもよい。使用することのできる成分分散剤には、神経プロテアーゼ、コラゲナーゼ、トリプシン、リパーゼ、ヒアルロニダーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、リベラーゼH1のようなブレンザイム酵素混合族の各種構成要素、ペプシン、超音波、それ以外の物理的エネルギー、各種レーザー、マイクロ波、それ以外の機械装置、および/または、上記の組合せなどがある。本発明の好ましい成分分散剤はコラゲナーゼである。成分分散剤は他の溶液と一緒に添加するようにしてもよい。例えば、上述のような生理食塩水源23から搬送される生理食塩水などの塩水は、コラゲナーゼと一緒に、または、コラゲナーゼを添加する直前に脂肪組織に添加される。或る実施形態では、洗浄後の脂肪組織が、摂氏37度、または、それに近い温度で、約20分から60分の間、コラゲナーゼ含有酵素溶液と混合される。別な実施形態では、温浸時間を低減するために、より高濃度のコラゲナーゼまたはそれに類似する薬剤が添加される。次に、洗浄後の脂肪組織と組織成分分散剤は、洗浄後の脂肪組織の成分が分散されるまで、上述の攪拌法に類似する態様で攪拌される。例えば、洗浄後の脂肪組織と組織成分分散剤を攪拌するにあたり、約90度の弧を描いて収集チャンバー全体を回転させる、1個以上の櫂状部材を備えているシャフトを設ける(櫂状部材は、シャフトが回転している最中は、溶液の中を通り抜ける)、かつ/または、内面に櫂状部材または突起部を備えている収集チャンバー全体を回転させる、といった手段で実施することができる。
【0065】
脂肪組織由来の細胞を使用する目的如何で、脂肪組織は一部のみが成分分散されるか、完全に組成分分散されるか、いずれでもよい。例えば、脂肪組織由来の細胞が1単位分の脂肪組織と結合されることになる実施形態では、収穫された脂肪組織の一部のみを成分分散させて、一部の成分のみ分散された脂肪組織の一部を取出してから、収集チャンバーに残留している脂肪組織の残存部分を引き続き成分分散するのが望ましいことがある。これに代わる例として、洗浄後の脂肪組織の一部が取出されて、温浸の前に試料容器内に取り置きされる。また別な実施形態では、収穫後の脂肪組織は、患者に再注入する前に、一部のみが成分分散されて、細胞を濃縮する。或る実施形態では、脂肪組織は、概ね約20分に満たない期間、組織成分分散剤と混合される。次に、一部のみが成分分散された組織の一部分が収集チャンバーから取出され、残留している一部のみが成分分散された組織が、脂肪組織を組織成分分散剤と、約40分間、混合することにより、更に成分分散される。脂肪組織由来の細胞が本質的に純粋な新生細胞の集団として使用されることになる場合は、死亡組織は十分に成分分散される。
【0066】
温浸後、組織と成分分散剤との溶液は、溶液の浮揚成分と非浮揚成分が収集チャンバー内で分化させられるのに十分な期間、沈静させられる。通例、この期間は約15秒から数分の範囲にわたるが、変更例では前述以外の期間が実施されることもある。浮揚層は、更に洗浄と濃縮を必要とする新生細胞を含んでいる。非浮揚層は、血液、コラーゲン、脂質、それ以外の、組織の非新生細胞成分を含んでいる。非浮揚層は、廃棄チャンバーに取出されなければならない。
【0067】
従って、収集チャンバー20は、その最下位点に出口ポート22が設けられて、血液とそれ以外の組織の非浮揚成分とが1個以上の導管12を介して1個以上の廃棄容器40に排出されるようにするのが好ましい。収集チャンバー20は、一般に、直立位置に置かれて(または、直立姿勢に設置され)、出口ポート22が収集チャンバーの底面に位置するようになっている。廃液は受動的でも能動的でもよい。例えば、上述の非浮揚成分は重力を利用して排出されるが、その手段として、正圧または負圧を付与すること、ポンプ34を使うこと、または、通気孔32を使うことなどがある。自動化式の実施形態では、処理装置は弁および/またはポンプに信号を発信して、収集チャンバー20から非浮揚層を排出することができる。このような自動化式の実施形態は、浮揚液と非浮揚液の間の界面に達した時点を検出することのできるセンサー29を備えていてもよい。自動化式の実施形態は、また、光センサーなどのセンサー29を備えていてもよく、このセンサーは、収集チャンバーから外に導通している導管内を流動している排出物の光屈折の変化を検出することができる。光屈折の適切な変化は、非浮揚層が排出されてしまったことを示す出口導管内に浮揚層が在ることを信号で知らせることができる。次に、センサー29は処理装置に信号を発信して、次の段階を進めさせることができる。
【0068】
しかしながら、或る実施形態では、組織は、その非新生細胞成分を回収するために処理されることもある。例えば、或る治療例または研究例では、組織のコラーゲン、タンパク質、配列成分または間質成分、脂質、脂肪細胞、または、それ以外の組織成分が所望されることがある。そのような実施形態では、上述のように廃棄チャンバーに取出される必要がある新生細胞を含んでいるのは浮揚層である。次に、非浮揚層は、必要に応じて更に処理を進めるためのシステムに保存される。
【0069】
非浮揚層が取出されてしまうと、新生細胞を含む浮揚層が、1回以上、洗浄されて、残存する汚染物を除去することができる。従って、収集チャンバー20は、通例は、洗浄用溶液がチャンバーの内部に搬入されるようにするための1個以上のポート21と、廃棄物とそれ以外の物質が収集チャンバー20から外へ送られるようにするための1個以上のポート22とを備えている。例えば、収集チャンバーは、本件記載のように、1個以上の封鎖された入口ポートを備えている。収集チャンバー20にはまた、頂面キャップおよび底面キャップのような1個以上の被せ部材(図示せず)が設けられて、洗浄用溶液が収集チャンバー内に搬入され、かつ/または、廃棄物が外へ輸送されると同時に、システムが無菌状態のままであることを更に確実にすることができる。ポート21は、収集チャンバーの被せ部材上、または、収集チャンバーの側壁上に設けることができる。
【0070】
新鮮な洗浄用溶液で洗浄するプロセスは、溶液中の非浮揚汚染物の残留内容物が所定のレベルに達するまで、反復される。換言すると、収集チャンバー20内の残留物質は、脂肪組織破片など、上述の混合物の浮揚物質を構成要素として含んでいるが、不所望な物質の量が所望の所定レベルまで低下するまで、更に1回以上、洗浄を繰り返される。洗浄の終端時点を判定する1つの方法は、組織溶液中の赤血球の量を測定することである。これは、540 nm波長で吸収される光を測定することにより達成される。好ましい実施形態では、約0.546から約0.842の範囲が容認可能範囲であると思われる。
【0071】
洗浄および/または成分分散の最中に、成果の向上を図る必要に応じて、1種類以上の添加物が多様な容器に添加される。添加物の具体例として幾つか挙げると、洗浄および成分分散を最適化する薬剤、処理中に活性細胞集団の生着率を高める添加物、抗菌薬(例えば、抗生物質など)、脂肪細胞および/または血球を分解する添加物、興味の対象である細胞集団を拡充する添加物(固相成分への差次接着によって、または、それ以外の方法で、細胞集団の実質的低減または拡充を促進する)がある。上記以外のあり得る添加物としては、新生細胞の回復と生着性を促進するもの(例えば、キャスペース阻害薬など)、または、注入時または移植時に有害な反応を生じる恐れを低減するもの(例えば、細胞または結合組織の再集成の阻害薬など)がある。
【0072】
十分な沈静時間が経過した後、洗浄後の脂肪組織砕片と組織成分分散剤との、結果として生じた混合物の非浮揚部分は、幹細胞やそれ以外の脂肪組織由来の始原細胞などの、新生細胞を含有することになる。本件に記載されているように、新生細胞を含有する非浮揚部分は処理チャンバー30に転送され、このチャンバー内で、脂肪組織由来の幹細胞のような、興味の対象となる新生細胞が混合物の非浮揚部分に祖内する他の細胞や物質から分離される。この非浮揚部分は本件では新生細胞組成と呼称され、多数の互いに異なる種類の細胞を含むが、その具体例として、幹細胞、始原細胞、血管内皮前駆細胞、脂肪細胞、その以外の、本件に記載されている新生細胞がある。新生細胞組成はまた、脂肪組織部分に存在していたコラーゲンやその他の結合組織タンパク質、および、それらの一部のような、または、組織成分分散プロセス後の残留コラゲナーゼのような、1種類以上の汚染物を含有している。
【0073】
本発明の処理チャンバー30はシステム内部に設置され、無菌状態の管材12、弁14、および、ポンプ34により、収集チャンバー20から処理チャンバー30へ新生細胞組成が移動するのが好ましい。処理チャンバーは、10 mlから1.2 リットルの範囲の組織/流体混合物を収容するような寸法に設定される。好ましい実施形態では、処理チャンバーは800 mlを収容するような寸法に設定される。或る実施形態では、収集チャンバー20を出た新生細胞組成全部が処理チャンバー30に向かわせられる。しかし、別な実施形態では、新生細胞組成の一部は処理チャンバー30に向かうが、新生細胞組成の別な一部は、試料チャンバー60など、システムの別な領域に向かわせられて、後ほど、処理チャンバー30内で処理された細胞と再結合させられる。
【0074】
処理チャンバー30は、滅菌処理することのできる好適な生体適合性材料を利用して構成される。好ましい実施形態では、処理チャンバー30は、ISO 10993基準に記載されているような、血管内接触を行うための生体適合性要件に適う、使い捨て可能な素材から構成される。例えば、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ABS、エチレン酢酸ビニル、スチレン−ブタジエン共重合体(SBC)などを使用することができる。また別な実施形態では、使い捨て可能な処理チャンバーの流体路は発熱物質を含まない。処理チャンバーは、血液銀行で血液を処理する際に従来から使用されているもののような、プラスチックバッグの形態であってもよいし、或いは、別な実施形態では、構造的に剛性であってもよい(図6)。或る実施形態では、処理チャンバー30は、同一出願人による2001年12月7日出願の米国特許出願第10/316,127号と2002年12月20日出願の米国特許出願第10/325,728号に開示されている処理チャンバーに類似しており、これら特許出願の全体はここに援用することにより本件の一部をなすものとする。
【0075】
処理チャンバー30は、濾過および遠心分離、かつ/または、それらの各種組合せなどのような、細胞の分離・濃縮に好適な態様で構成することができる。或る実施形態では、収集チャンバー20から得られる新生細胞組成は処理チャンバー30に導入され、その場合、成分は濾過されて、特定の新生細胞集団に分離され、かつ/または、濃縮される。細胞濾過は特定成分と細胞を他の異なる成分または異なる細胞種類から分離する方法である。例えば、本発明の新生細胞組成は多数の異なる種類の細胞を含んでおり、具体的には、幹細胞、始原細胞、脂肪細胞のほかに、脂肪組織部分に存在していたコラーゲンのような、或いは、組織成分分散プロセス後の残留コラゲナーゼのような、1種類以上の汚染物を含む。処理チャンバー30に存在するフィルター36は、幹細胞または血管内皮始原細胞などのような、新生細胞の特定の部分集団を分離・濃縮することができるようにしてもよい。
【0076】
液体から細胞を濾過することに関与する変数として、フィルター媒体の穿孔寸法、穿孔の幾何学的形状(形体)、フィルターの表面積、濾過される溶液の流動方向、膜間圧、特定細胞集団の希釈度、粒子寸法と粒子形状、これらに加えて、細胞寸法と細胞生着性などがあるが、これらに限定されない。本件開示によれば、分離または濾過するのが望ましい特定細胞は、通例は、脂肪組織由来の幹細胞である。しかし、或る実施形態では、特定の細胞には、血管内皮前駆細胞などの、脂肪組織由来の始原細胞単独、または、幹細胞と組合せた始原細胞が含まれる。
【0077】
新生細胞組成は、フィルター組立体36などのフィルター組立体を通るように方向づけられる。或る実施形態では、フィルター組立体36は、複数の異なる機能を実施するとともに新生細胞組成を別個の部分または別個の成分に分離するような構造になっている複数のフィルターを備えている。例えば、フィルターのうちの1個は新生細胞組成からコラーゲンを分離するような構成になっており、フィルターのうちの別な1個は新生細胞組成から脂肪細胞および/または脂質成分を分離するような構成になっており、フィルターのうちのまた別な1個は新生細胞組成から組織成分分散剤のような残留酵素を分離するよな構成になっている。或る実施形態では、フィルターのうちの1個は、成分からコラーゲンと組織成分分散剤を分離するといったような、2つの機能を実施することができる。これら複数のフィルターは、通例は、直列の配置になっているが、フィルターの少なくとも一部は並列に配置されていてもよい。フィルター組立体36のフィルターの直列配置が図2に例示されている。フィルター組立体36のフィルターの並列配置が図3に例示されている。
【0078】
或る実施形態では、フィルター組立体36は、第1フィルター、第2フィルター、および、第3フィルターを備えている。第1フィルターは新生細胞組成中に存在しているコラーゲン粒子を除去するような構成になっている。このようなコラーゲン粒子は、通例は、直径が約0.1ミクロンであり、20ミクロンもの長さになることもある。コラーゲン粒子は、温浸次第では、寸法が変動することもあり得る。これら粒子はフィブリルでもあり、つまり、捩れや回転があるということである。本件記載のフィルターのいずれも、ポリエーテルスルフォン、ポリエステル、PTFE、ポリプロピレン、PVDFから製作することができ、または、セルロースから製作されることもある。コラーゲンを濾過するやり方として2つの可能性がある。1つは、細胞を通過させることで、まず、より大型の粒子を先に取除くやり方であるが、これには、恐らく、10ミクロンの範囲のフィルターを必要とするだろう。第2の方法は、例えば4.5ミクロンの、もっと小型のフィルターを使うことであるが、その意図は、コラーゲンを十分に温浸させて、細胞を捕獲し、コラーゲンを通過させることである。これには、細胞を逆方向に浮遊させて、フィルターから引き離す手段が必要となる。コラーゲン線維を吸着して保持するフィルターを実装するという方法もあるだろう。
【0079】
第2のフィルターは、新生細胞組成中で非浮揚性である、遊離状態の未熟な脂肪細胞を取除くように構成されている。或る実施形態では、第2のフィルターはポリエステルから構成されており、約30ミクロンから約50ミクロンの間の穿孔寸法を有しているが、好ましい穿孔寸法は約40ミクロンである。第2フィルターと呼んではいるが、このような装置の設置は第2位置にまわさず、第1位置に置いて、より大型の細胞および粒子の先取出しを容易にしている。第3フィルターは未使用のコラゲナーゼまたは残留コラゲナーゼ、或いは、それ以外の、成分中に存在している組織成分分散剤を取除くように構成されている。好ましい実施形態では、コラゲナーゼは時間経過後に変性する。或る実施形態では、第3フィルターは、1μmよりも短い直径または長さの、複数の穿孔を備えている。或る実施形態では、穿孔は1μmよりも小さい直径を有していてもよい。また別な実施形態では、穿孔は10 kDから5ミクロンの間の直径である。或る実施形態では、第3フィルターは、本件で説明しているように、新生細胞集団を濃縮して少量の生理食塩水またはそれ以外の洗浄用溶液にする構成になっている。目下のところ好ましい例として、最終段フィルターのみが中空線維ユニットである。フィルターのいずれも、中空線維型である必要はない。中空線維ユニットが好ましい実施例で最終段フィルターに採用されている理由は、新生細胞にとって有害な効果が最も少ない状態でコラゲナーゼを取除くのに最も効率がよいからである。装置が在庫品の寄せ集めである実施形態では、3つのフィルターは別々のハウジングに置かれる。中空の線維ユニットを第3フィルターに採用した場合、第1フィルターと第2フィルターを組合わせて1個のハウジングに入れることが可能となる。最終段フィルターが中空線維の構成ではない場合は、3つのフィルターの全部が1個のハウジングに収納される。
【0080】
フィルター組立体36のフィルターは処理チャンバー30内に配置されるか、または、処理チャンバー30とは別の構成要素として設けられる。更に、フィルター組立体36のフィルターは、多数の処理チャンバー内に設けられるか、直列配置の様式で設けられる。或る実施形態では、導管または管材は1個または複数個の処理チャンバーとして作用する。処理チャンバーの寸法を減じて、寸法がフィルターを接続する導管の内部容積に等しくなるようにしてもよい。この種のシステムは、組織溶液の体積が適切な範囲である場合は、正しく機能する。従って、導管は、流体がフィルターを通って流れている間、細胞を含む流体を中に保有することにより、処理チャンバーとして作用する。導管の容積を最小限にするように配慮することで、システムに呼び水をして稼動させる処理において、細胞/組織が不必要に喪失されることがないようにしている。
【0081】
上述の実施形態を参照すると、洗浄後の細胞と残留コラーゲンを包含する新生細胞組成、残留脂肪細胞、および/または、温浸されていない組織成分分散剤は、第1フィルターを通るように方向づけられ、組成からコラーゲン粒子の少なくとも一部(実質的に全部が好ましいが)を取除き、濾過後の溶液中に存在するコラーゲン粒子の数がより少なくなるようにする(皆無になるのが好ましいが)。次に、脂肪細胞および/または組織成分分散剤を含む濾過後の新生細胞組成は、第2フィルターを通るように方向づけられ、濾過後の新生細胞組成から遊離脂肪細胞の少なくとも一部(実質的に全部が好ましいが)を取除く。実質的に、2回濾過処理された新生細胞組成は、温浸されていない組織成分分散剤を含んだまま、本件で説明したような中空線維濾過装置などの第3フィルターを通るように方向づけられて、新生細胞組成から温浸されていない組織成分分散剤を除去、或いは、低減する。
【0082】
続いて、3回濾過処理された新生細胞組成(すなわち、第1フィルター、第2フィルター、第3フィルターを通過させられた後で残存している組成)は、多数の出口に向かわせられるが、この場合、多数の出口が設けられた処理チャンバー30の一部を意味することもある。このような出口は必要な圧力を維持するように働くのに加えて、収集チャンバー20、排出チャンバー50、および/または、廃棄容器40を備えている上記以外の容器へ導管を介して接続する機能も有している。
【0083】
或る実施形態では、フィルター組立体36のフィルターは、中空線維濾過部材を備えている。或いは、換言すると、フィルターは、フィルター媒体が形成された中空の管材の寄せ集めである。本件開示のシステム10と併用することができるフィルター媒体の具体例には、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、混合エステル剤などがある。フィルター媒体のこのような中空線維または中空管材は、フィルター組立体36の円筒状カートリッジないに含まれている。フィルター媒体の個々の管材または線維は、通例、その内径の範囲が約0.1 mmから約1mm にわたり、好ましい値は約0.5 mmである。好適な円筒状カートリッジの直径および長さで、カートリッジの内部に設置されるフィルター媒体の個々の管材の数が決まる。好適な中空線維フィルターカートリッジの一例は、カタログ番号M-C-050-Kのファイバーフロ(FiberFlo:登録商標)接線流フィルター(ミンテク(Minntech)、ミネソタ州ミネアポリス)である。フィルター媒体の穿孔寸法の範囲は約10キロダルトン(kD)から約5ミクロンの間であり、好ましい穿孔寸法は約0.5ミクロンである。
【0084】
中空線維フィルターでは、中空管材の各々の本体部に第1端、第2端、および、管腔が設けられており、管腔は本体部内に配置されて、第1端と第2端の間に延びている。各中空管材の本体部には複数の穿孔が設けられている。穿孔の本体部内における配向は、一般に、新生細胞組成が本体部の管腔を通って流動することにより濾過され、かつ、図12(A)に例示されているように、濾過された生成物が接線方向に穿孔を通過するようになっている。換言すると、液体中の小さい方の粒子は、本体部の管腔を通る流体の流れに対して、穿孔を接線方向に通過する。新生細胞を含む組成は中空管材の各々の管腔を通過し、その時に組成が濾過されている。組成の流れは各中空管材の本体部の穿孔に対して正接関係にあるのが好ましい。
【0085】
流体の接線流を利用することにより、他の濾過技術と比較して、幹細胞の濾過の効率を向上させることができる。例えば、或る濾過技術によると、フィルター媒体の穿孔の設置態様は、フィルターを流体の流れと直交するように配向することで、図12(B)に例示されているように、濾過されている流体の経路をフィルター媒体が遮断するようになっている。この種の濾過では、幹細胞などの新生細胞組成から濾過して取出される粒子は、フィルターの一方側に堆積して、穿孔を通る流体の流れを遮断する傾向にある。このような遮断はフィルターの効率を低下させることがある。更に、細胞は、流体流の圧力は元より、フィルターの上流側で累加する細胞の重量によって絶えず圧迫されている。この結果、幹細胞の溶解が増大することがある。従って、このような、フィルターの穿孔の配向に対して流体の流れが平行である濾過技術では、流体が穿孔を通過されられる際に、大型細胞と小型粒子の両方がフィルター媒体にぶつかる方向に向かわせられるという望ましくない事態が起こることがある。この結果、細胞のような、液体中のより大型の生成物が穿孔を遮断してしまうことで、濾過効果を減殺し、細胞破壊または細胞破損の発生率を増大させてしまう。
【0086】
これに比べて、本件システム10の中空線維構成では、濾過されている流体は中空管材の管腔内を流動する。フィルターの本体部の穿孔を通過することができる流体の一部が通過するのは、本体部の内部に流体の正圧が加わるおかげであるばかりか、本体部の外側に付与される負圧の助けがあるせいである。この実施形態では、細胞は、通例、流体流の圧力や他の細胞の重量を被ることがないため、幹細胞に加わる剪断力が低減される。従って、目詰まり率の低下や新生細胞溶解の低下により、濾過の効率と効果を向上させることができる。生理食塩水や不所望なタンパク質分子の寸法のせいで、濾過の最中は、このような分子や他の小型成分が中空管材の本体部の穿孔を通過して中空管材の外側に出て、廃棄容器40へと向かわされる。或る実施形態では、中空の管材のフィルター媒体の外側に真空を発生させることにより、濾過が改善される。幹細胞または始原細胞などの新生細胞は、それぞれの寸法のせいで、普通は本体部の穿孔を通過できず、よって、中空管材フィルターの内側(例えば、管材の管腔内)に残留し、フィルターと処理チャンバーの間の導管を介して処理チャンバー30または排出チャンバー50に逆戻りさせられる。
【0087】
或る特殊な実施形態では、中空線維フィルターは穿孔寸法が約0.05ミクロンであり、約550平方センチメートルのフィルター媒体表面積を有している。個々の媒体管材は、通例は、直径が約0.5 mmである。130 mlの新生細胞成分を処理するにあたり、約120 mlの追加生理食塩水が組成に添加される。処理時間またはフィルター時間は約8分である。中空線維管材の本体部の両側の圧力(例えば、本体部の管腔内外の圧力)の差は、膜間圧であると見なされる。膜間圧は約1 mmHg から約500 mmHg の範囲であり、好ましい圧力は約200 mmHgである。中空線維濾過を利用した場合の平均有核細胞回復と生着率は、生着している細胞の約80%になることがある。
【0088】
通常なら、そのようなシステムで除去されるコラゲナーゼの量は、3の対数の低下率( three log reduction :3の指数(ログ)の低下率)に等しい。例えば、収集チャンバーから処理チャンバーへ転送される新生細胞組成中のコラゲナーゼの初期濃度が0.078 U/ml (ユニット/ミリリットル)である場合、最終新生細部組成のコラゲナーゼ濃度は0.000078 U/ml(ユニット/ミリリットル)になる。コラゲナーゼは中空線維フィルターで除去され、中空線維フィルターは上述の第3フィルターに一致する。
【0089】
上述の1種類以上の濾過方法を具体化した処理チャンバーが図面、特に図1から図3に例示されている。図1から図3を参照すると、処理チャンバー30とフィルター組立体36の濾過チャンバーとの間に、ポンプ34のようなポンプが設けられている。更に、通気孔32のような通気孔と圧力センサー39のような圧力センサーが処理チャンバー30およびフィルター組立体36と直列に設けられている。排出チャンバー50の取付具も設けられている。このような任意の構成要素(例えば、ポンプ34、通気孔32、圧力センサー39、排出チャンバー50の取付具など)は、処理チャンバー30とフィルター組立体36の間に設けられて、処理チャンバー30に包含されている液体は、フィルター組立体36を通って流動する前に、1個以上の上記任意の構成要素に向かって流れるようになっている。例えば、液体は、フィルター組立体36に通される前に、ポンプ34を通って流れる。或いは、液体が、フィルター組立体を通過する前に、圧力センサー39を通って流れることで、システム内に前置フィルター液圧を得ることができる。或る状況では、図6に例示されているように、通気孔32のように、1個以上の上記構成要素が処理チャンバー30の要素として設けられる。例示の実施形態では、圧力センサー39が直列に設置されて新生細胞組成の圧力を判定するが、このような圧力は、新生細胞組成がフィルター組立体36の濾過チャンバーに入ると、ポンプ34によって生成される。こうような構成により、フィルター膜にかかる膜間圧の監視が容易になる。追加の生理食塩水と他の緩衝洗浄溶液が新生細胞組成に添加されて、組成がフィルター組立体36により濾過されている最中に、不所望なタンパク質の除去を助ける。このような反復洗浄が何度も実施されて、新生細胞の純度を向上させることができる。或る実施形態では、生理食塩水は、濾過機能を向上させる必要があると思われるような段階のどの段階で添加されてもよい。
【0090】
具体例としてのみ提示されている(本発明を限定するためのものでない)或る特殊な実施形態では、不所望なタンパク質と、生理食塩水、または、それ以外の洗浄液が、次に態様で除去される。新生細胞の他にもコラーゲンや結合組織粒子や砕片、脂肪組織、コラゲナーゼなどを含む組成が、最小限の体積に達するまで、一連のフィルターを循環して通過させられる。最小限の体積は、システムの残留液体積と幾つかの所定の定数の関数である。このような残留液の体積は、処理チャンバー全部が空になった場合に、管材と導管内に存在している液体の体積である。或る実施形態では、最小限の体積は15 mlである。最小限の体積に達すると、所定体積の洗浄液がシステムに導入されて、新生細胞組成と混合される。次に、洗浄液と新生細胞組成のこのような混合物が循環により、最小限の体積に再度達するまで、フィルターを通過させられる。このような循環を何度も反復して、新生細胞の純度を高めることができ、換言すると、組成中の新生細胞の、他の各種物質に対する割合を増大させることができる。図10および図11を参照のこと。
【0091】
新生細胞組成が不所望なタンパク質を取除いて浄化され、十分に濃縮されてから(具体的な実施形態では、約1×105から約1×107細胞個数/mlの範囲の最小限の濃度が採用され、また、好ましい実施形態では、最小限の濃度は約1×107細胞個数/mlである)、排出嚢(アウトプット・バッグ)などの排出チャンバー50は、特殊な実施形態次第で、処理チャンバー30および/またはフィルター組立体36の出口ポートに接続される。次に、通気孔32などの通気孔が開放されて、濃縮された新生細胞の排出を容易にすることができる。或る実施例では、最小限の濃度に達した時点が何時かの判定は、実験が実施されて装置のプログラミングにより電子制御でコントロールされるようになった後で、試験的に実施される。このような判定は、算出したいと思っているプロセスへの入力値であり、すなわち、幹細胞/始原細胞が何個ぐらい必要か、細胞濃度の範囲はどのくらいなどかという入力値である。科学データに基づいて、所定量の脂肪組織を入手してシステムに入れることで、所望の排出量を達成することが必要となる。通気孔32を開いたままにした場合、ポンプ34などのポンプが機能して濃縮された新生細胞を排出嚢に転送することができる。或る実施形態では、排出嚢50は、取付具が一方端に設けられた管材を備えている空の血液バッグに類似している。無菌状態で、排出嚢の取付具が出口ポートに取付けられて、濃縮された新生細胞が排出嚢に転送される。
【0092】
図1から図3に例示されているように、真空ポンプ26がシステム10に設けられて、とりわけ、システム内で圧力を変動させる。例えば、真空ポンプ26は導管12bなどの導管を介して収集チャンバー20に接続されて、収集チャンバー20内の圧力を低下させることができる。真空ポンプ26も導管12gなどの導管によって処理チャンバー30に接続される。ポンプ34と接続状態にある真空ポンプ26の動作に関して、2個の別個の真空ポンプまたは真空源が実装され、或いは、1個のポンプまたは真空源が弁を利用して実装され、この弁が、プロセスの特殊地点に真空を必要とする複数の異なる導管の真空吸引を制御する。更に、真空ポンプ26が、導管12fなどの導管を介して廃棄容器40に接続されている。
【0093】
図10および図11を参照すると、真空ポンプ26によって生成される圧力を利用して、新生細胞を含む流体の流れが導管12を通るようにさせる。この圧力は、例えば、システム10の1個以上の弁14の位置を自動制御または手動制御することにより、多数の方向に供与される。システム10は、正圧を利用して、或いは、負圧の使用により、または、両方を組合わせて、適切に機能するようにされる。例えば、新生細胞は上述の第1フィルターおよび第2フィルターを通して、第3フィルターに接続されている両面が軟質材の容器に吸引される。両面が軟質材の容器は第3フィルターの先で直線状(直列)接続されている。最終排出チャンバーは両面が軟質材の容器であり、第3フィルターのもう一方の側(例えば、下流側)に位置する。この実施形態では、両面が軟質材の一方の容器からフィルターを介在させて第2の両面が軟質材の容器へと新生細胞を移動させるのに、圧力が利用される。
【0094】
システム10のまた別な実施形態では、幹細胞および/または脂肪組織由来の始原細胞の濾過は、濾過装置を利用した濾過と沈殿を組合わせて利用することで達成される。例えば、このようなシステムは生理食塩水を使うが、生理食塩水は組織新生細胞組成(例えば、幹細胞および/または脂肪組織由来の始原細胞を含有している組成)を通されてから、フィルターを通される。濾過装置を使った濾過で新生細胞組成から細胞を濾過する処理に関与する変数の幾つかとして、フィルター媒体の穿孔寸法、穿孔の幾何学的形状または形、フィルターの表面積、濾過されている新生細胞組成の流れの方向、注入された生理食塩水の流速、膜間圧、細胞集団の希釈度、細胞寸法、細胞生着率があるが、これらに限定されない。
【0095】
システム10の或る実施形態では、処理チャンバー30はフィルター組立体36を使用するが、この組立体は濾過装置による濾過と沈殿を実施して、新生細胞を分離・濃縮する。具体例として(制限するのではなく)、処理チャンバー30は、図6に例示されているように、側壁30a、頂面30b、底面30cを設けた略円筒状の本体部として外郭が画定されている。無菌の通気孔32が頂面30bに設けられている。
【0096】
図6の実施形態では、処理チャンバー30は、大型穿孔のフィルター36aと小型穿孔のフィルター36bなどの2個のフィルターを有しているフィルター組立体36を備えているものと例示されている。フィルター36a、36bの穿孔寸法は、通例は、約0.05ミクロンから約10ミクロンの間の範囲である。大型穿孔のフィルター36aの穿孔の直径は約5μmであり、小型穿孔のフィルター36bの穿孔の直径は約1から3μmである。或る実施形態では、フィルターの表面積は約785平方ミリメートルである。フィルター36aとフィルター36bは処理チャンバー30の内部を分割して、第1チャンバー37a、第2チャンバー37b、および、第3チャンバー37cを設けている。図6に例示されているように、第1チャンバー37aは第2チャンバー37bと第3チャンバー37cの間に配置されている。更に、第1チャンバー37aは、処理チャンバー30の領域として図示されており、入口ポート31aと出口ポート31bが設けられている。例示の処理チャンバー30はポート31a、31b、31cなどの複数のポートを設けて、処理チャンバー30の外部から処理チャンバーの内部へ至る連絡通路を提供している。ポート31a、31b、31cは処理チャンバー30の本体部の側壁30aに配置されているように例示されている。しかし、ポート31a、31b、31cは他の領域に設置されてもよい。ポート31aは試料入口ポートとして例示されており、これは導管に連絡されているような構成になって、新生細胞を含有している組成を処理チャンバー30の内部に通すことができるようになっている。ポート31bは導管に接続された構成の出口ポートとして例示されているが、このような構成の結果、分離・濃縮された細胞は処理チャンバー30の内部から取出すことができる。ポート31cは、処理チャンバー30の内部に生理食塩水などの新鮮な洗浄液を搬入するための導管に接続された構成の入口ポートとして例示されている。
【0097】
使用にあたり、新生細胞は、入口ポート31aを介して中央チャンバー37aに導入される。生理食塩水またはそれ以外の緩衝液は入口ポート31cを通って底面チャンバー37bに導入される。生理食塩水は、約10 ml/分の速度でチャンバー37a内の新生細胞組成を通りぬけるように制御される。生理食塩水の流速は、重力と相互作用するような速度である。生理食塩水の流れにより、チャンバー内の細胞は細胞密度によって分離する能力を得る。通例、生理食塩水が組成を強制的に通過させられた際には、組成中の大型細胞が中央チャンバー37aの底面に沈殿し、小型細胞とタンパク質は第2フィルター36bを通って最上位チャンバー37cに搬入されることになる。このような濾過作用は、生理食塩水の流速を調節することで大型細胞を適所に転がし、生理食塩水を利用して小型の粒子が解放されて運び去られるようにすることで達成される。無菌通気孔32がチャンバー30に設けられて、正確な圧力勾配が処理装置内の3個のチャンバー内で維持されることを確保する。上位チャンバー37cは吸収媒体33を備えていてもよい。吸収媒体の目的は、溶液中の不所望なタンパク質を捕獲して、例えば、生理食塩水の流速が低下したような場合に、タンパク質がフィルター媒体を横断して処理チャンバーに逆流入しないことを確実にすることができる。吸収媒体は、吸収性のフィルター媒体の一種であってもよいし、或いは、濾過して取除くべき物質または成分を吸着するフィルター媒体であってもよい。排出流ポートを最上位フィルターの上方に追加して、廃棄物の取出しを助けるようにしてもよい。これに代わる別な実施形態は、最上面から緩慢な真空を付与して、廃棄物の吸出しを助けることである。例示の実施形態におけるように、流速が比較的ゆるやかな場合は、吸収媒体が実装される。これで、過剰な生理食塩水とタンパク質が廃棄容器に搬出される。
【0098】
大型細胞(例えば、脂肪組織由来の幹細胞および/または始原細胞)が小型細胞やタンパク質から十分に分離されてしまうと、分離された細胞を含有している組成は、本件に記載されているように、濃縮される。この組成は、出口ポート31bを通ってチャンバー37aから取出された後で、更に濃縮され、或いは、チャンバー37a内に在るうちに、更に濃縮される。或る実施形態では、組成中の細胞の濃度は次の態様で増大させられる。細胞が十分に分離されてしまってから、フィルター36a、36bなどのフィルターが互いに向けて移動させられる。この移動は、2個のフィルターの間の容積(例えば、チャンバー37aの容積)を低減する効果がある。振動部材を処理チャンバー30と接続して設けることで、組成中の細胞の濃縮を促進することができる。或る実施形態では、振動部材がフィルター36b(例えば、小型穿孔のフィルターなど)に接続される。振動は、フィルターに細胞が捕獲されてしまう発生率を低下させることができる。組成の体積低下により、過剰な生理食塩水が廃棄物として取除かれ、細胞が濃縮されて体積を少なくすることができるようになる。
【0099】
また別な実施形態では、新生細胞の濃縮は次の態様で達成される。細胞が十分に分離された後で、新生細胞組成は、重力を使って過剰な生理食塩水を濾過して除去する、また別なチャンバー(図示せず)に転送される。好ましい実施形態では、濾過装置による濾過と同時に、沈殿が発生する。このような沈殿は、穿孔寸法が約10 kDから約2ミクロンの範囲である。フィルターの最上位に組成を導入することにより達成される。或る実施形態では、好適なフィルターの穿孔寸法は約1ミクロンである。重力により、生理食塩水と小型粒子がフィルターを通過させられると同時に、組成中の細胞がフィルターを通過するのを阻止することができる。所望の細胞濃縮が得られた後で、尚且つ、フィルターの下から濾過された小型粒子が除去されてしまった後で、新生細胞組成は攪拌され、フィルターから細胞を取除くことができ、それに続いて、濃縮された新生細胞は排出嚢に転送される。小型粒子は廃棄物として出口から外に取出される。
【0100】
特定の実施形態では、収集チャンバー20から得られた新生細胞組成は処理チャンバー30に輸送されるが、ここで、組成は遠心分離処理されて、新生細胞を分離・濃縮する。遠心分離の原理は当該技術では周知であり、本件では簡略化のために反復を避ける。標準的な当該技術で認知されている遠心分離装置、構成要素、パラメータが本件では利用される。遠心分離装置の一部として使用するための具体的な処理チャンバーが図7および図8に例示されている。通例、遠心分離装置は、軸線を中心として遠心分離チャンバー(図7に例示されているもの等)を回転させることで、溶液中の細胞に加わる力が重力よりも大きくなるように増大させる。溶液中の物質のうち密度と重量が大きいものほど、通例は、遠心チャンバーの一方端に沈下し、すなわち、図7の排出チャンバー50に沈下して、新生細胞ペレットを形成する。次に、ペレットは再懸濁されて、細胞濃度が所望値で、かつ/または、細胞と媒体の体積が所望値の溶液を得ることができる。図7に例示されている処理チャンバーは、遠心力と重力の両方を使って、細胞を分離・濃縮するような構成になっている。詳細に説明すると、遠心分離中、遠心力は新生細胞成分の密度のより高い成分、例えば、新生細胞を遠心分離チャンバーの最も外側の端部へ向かわせる。遠心分離チャンバーが速度を低下して最終的に停止するにつれて、重力の助けで新生細胞は遠心分離チャンバーの最も外側の端部に残留し、細胞ペレットを形成する。従って、新生細胞組成の要らない成分、すなわち、廃棄物は細胞ペレットを邪魔せずに取除かれる。
【0101】
本発明のまた別な実施形態では、処理チャンバーは回転膜フィルターの形態の細胞濃縮装置を備えている。遠心分離プロセスのまた別な実施形態では、遠心溶離も適用することができる。この実施形態では、細胞は個々の細胞沈殿速度に基づいて分離されて、遠心分離によって付与された方向性のある(例えば、外向きの)力により、細胞と溶液は異なる速度で沈殿する。溶離の際には、標的細胞集団の沈殿速度は遠心力とは反対の方向に溶液を汲み出すことにより付与される反対方向の(すなわち、内向きの)流れの速度によって妨害を受ける。溶液中の細胞と粒子が分離されるように、向流が調節される。溶離は細胞分離の多数の事例で適用されてきたし(イノウエ(Inoue)、カースタン(Carsten)ほか、1981年;ヘイナー(Hayner)、ブラウン(Braun)ほか、1984年;ノガ(Noga)、1999年)、流れパラメータと遠心分離パラメータを最適化するため採用された原理や実施法は、当業者なら本件開示に鑑みてここで適用することもできるだろう。
【0102】
図9は、本発明による溶離実施に関与する原理を例示している。溶離の実施形態は、スピニング回転子を利用して溶液に力を付与する限り、遠心分離の実施例に類似している。ここで具体化されている溶離に関与する変数のうちの幾つかとして、回転チャンバーの寸法と形状、回転子の直径、回転子の速度、向流管材の直径、向流の流速のほかに、溶液から取除かれるべき粒子や細胞の寸法と密度が挙げられるが、これらに限定されるものではない。遠心分離におけるのと同様、新生細胞は個々の細胞密度に基づいて分離される。
【0103】
或る実施形態では、新生細胞およびコラゲナーゼを含有する溶液などの新生細胞組成は、図9(A)に例示されているように、スピニング回転子のチャンバー内に導入される。溶液がチャンバーに加えられた後で、追加の生理食塩水が所定の流速でチャンバーに添加される。生理食塩水の流速は、回転子の速度、細胞の直径、および、実験的に定められたチャンバー定数の関数として予め定められている。流速は、例えば、IVポンプに類似している装置を用いて制御されることになる。生理食塩水を追加する目的は、回転子チャンバー内に或る状況をもたらすことであり、ここでは、図9(B)に例示されているように、大型の粒子ほどチャンバーの一方側に移動し、小型の粒子ほど反対側に移動するようにすることである。この応用例では、図9(C)に例示されているように、小型の粒子はチャンバーを出て、廃棄容器に移動するように、流れが調節される。このように移動した結果、回転子チャンバー内の溶液中では、幹細胞などの細胞が実質的に均質な集団を作る。幹細胞が溶液中の物質の残余のものから分離されてしまった(要らないタンパク質と遊離脂質がチャンバーから除去されてしまった)と判定されてから、向流が停止される。次に、チャンバー内の細胞がチャンバーの外壁上に濃縮されたペレットを形成することになる。向流は逆向きにされて、細胞ペレットが排出嚢に転送される。
【0104】
本件で先に明示されているように、処理チャンバー30または排出チャンバー50は、例えば、ポート51またはポート52などのような1個以上のポートを備えている。これら1個以上のポートは、上述の方法を如何様にか組合わせたものを利用して、または、上述の方法の一部を利用して得られた新生細胞を導管を介して別な外科手術用装置、細胞培養装置、細胞浸漬装置、遺伝子治療装置、または、浄化装置などに転送するように設計されている。これらのポートはまた、上記と同じ目的で、新生細胞を導管を介して、同じシステム内の、または、別なシステムの一部としての、追加チャンバーまたは追加の容器に転送するように設計されることもある。このようなポートおよび導管は、1種類以上の添加物、例えば、成長因子、再懸濁液、細胞培養試薬、細胞拡充試薬、細胞保存試薬、または、細胞に遺伝子を伝達する薬剤のような細胞変異試薬などを添加するためにも使用される。これらポートおよび導管はまた、移植物質(例えば、移植骨格や骨砕片など)は元より、他の外科手術用移植片や装置などの別な標的に新生細胞を輸送するためにも使用される。
【0105】
これ以上の細胞処理を開始することも可能で、その手段として、使い捨て可能な各種セットになった既成のシステムの相互接続体を再構築すること、既成のシステムの処理装置をプログラミングし直すこと、既成のシステムのために異なる容器および/またはチャンバー、または、追加の容器および/またはチャンバーを設けること、1個以上の追加のシステムまたは装置、および/または、それらの組み合わせに細胞を輸送することなどがある。例えば、システムは、上述のどの手段を使って再構築してもよいが、その結果、システムを使って得られた新生細胞が1種類以上の次のような処理に付すことができるようにする。その処理とは、(1種類以上の新生細胞の)細胞拡充と細胞管理(細胞シート濯ぎ処理と媒体変更など)、継代培養、細胞播種、一過性形質移入(例えば、形質移入された細胞を集団供給源から播種)、収穫(酵素収穫、非酵素収穫、機械的掻爬による収穫)、細胞生着率の測定、細胞の平板培養(例えば、マイクロタイター培養基上で、拡充に備えて個々のウエルから細胞を拾い上げる処理、新鮮なウエルに細胞を拡充させる処理など)、高いスループットを生じるスクリーニング、細胞治療応用、遺伝子治療応用、組織工学応用、治療タンパク質応用、ウイルスワクチン応用、バンキングまたはスクリーニングのための新生細胞または上澄みの収穫、細胞成長の測定、溶離、接種、内寄生または誘導、細胞系統(ハイブリドーマ細胞など)の生成、透過性研究のための細胞培養、RNAi耐性およびウイルス耐性研究のための細胞培養、ノックアウト動物および遺伝形質転換動物研究のための細胞培養、吸着浄化研究、構造生物学応用、アッセイ開発とタンパク質工学応用などを含む。
【0106】
例えば、新生細胞集団の拡充が特定の応用例のために必要とされる場合、その細胞集団を優先的に拡充させると同時に、他の細胞集団を維持管理する(そうすることで、成長する選択細胞を使って希釈することで減少させる)、または、他の細胞集団を所要の成長条件の欠落から喪失させるアプローチが採用される。セキヤ(Sekiya)らは、この点で骨髄組織由来の幹細胞を得るために採用される条件を説明している(セキヤほか、2002年)。このアプローチ(組織培養プラスチックへの差次固着を伴う、または、それを伴わない)は、本発明のまた別な実施形態にも適用することができる。この実施形態では、最終的に得られる新生細胞ペレットが排出チャンバーから取出されて、細胞培養成分を供与する第2のシステム内に設置される。これは、従来型の実験室用組織培養保温器またはバイオリアクター式装置であって、ツァオ(Tsao)ほかの米国特許第6,001,642号(特許文献2)、または、アームストロング(Armstrong)ほかの米国特許第6,238,908号(特許文献3)に記載されているような装置の形態である。代替の実施形態では、細胞拡充構成要素または細胞培養構成要素は既存のシステムに追加されるが、例えば、排出チャンバーに追加されて、短期固着および/またはsh棒組織由来の細胞集団の細胞培養を行えるようにする。この代替の実施形態により、細胞培養構成要素および/または細胞拡充構成要素を一体化してシステムに統合し、このシステムから細胞を取出して、別なシステムに移植する必要を排除する。
【0107】
処理中は、結果を改善する必要に応じて、1種以上の添加物を多様なチャンバーまたは容器に添加し、或いは、多様なチャンバーまたは容器を用いて添加物が供与される。このようなチャンバーまたは容器は、既成のシステムに付随する別なシステムの一部として設けられてもよいし、或いは、既成のシステムとは別個のシステムの一部として設けられてもよい。例えば、或る実施形態では、この添加物は、システムから新生細胞を取出す必要なしに、添加され、供与される。別な実施形態では、これら添加物は、本発明システムに接続されていない第2のシステムまたは装置に添加され、或いは、供与される。添加物の具体例としては、上述のように、洗浄および成分分散を最適化する薬剤、処理中に活性の細胞集団の生着率を高める添加物、抗菌剤(例えば、抗生物質など)、脂肪細胞および/または赤血球を溶解する添加物、興味の対象の細胞集団を拡充する添加物(固相成分への差次接着を手段として利用、または、それ以外の方法で、細胞集団の実質的な低減や拡充を促進するように図る)などがある。
【0108】
例えば、均質な新生細胞集団を得るために、特定の新生細胞種類を分離・濃縮するための好適な方法は、どのようなものであれ採用することができるが、具体的には、幹細胞または血管内皮前駆細胞などの始原細胞に存在する抗原を認識して結合させる細胞固有の抗体を使用する方法が挙げられる。このような方法として、積極選択(標的細胞を選択する)と消極選択(要らない細胞を選択的に除去する)の正負両方の選択、これらの組合わせがある。特殊酵素による作用がある場合には、蛍光を発する分子を利用して、酵素のような細胞内マーカーを選択処理に利用することもできる。更に、最終的な細胞ペレット内の新生細胞の特定集団の差次接着および/または溶離を行えるように選択された接着特性を有する固相物質をシステムの排出チャンバーに挿入することもできる。
【0109】
このような差次接着アプローチの代わりとなる実施形態としては、標的新生細胞と要らない細胞ごとに異なる発現の仕方をする表面分子を認識する抗体、および/または、そのような抗体の組合わせを利用する方法がある。特殊な細胞表面マーカーの発現に基づく背無く処理は、また別な広く適用されている技術であり、この技術では、抗体が固相支持構造体に(直接的または間接的に)付着させられる(ガイゼルハート(Geiselhart)ほか、1996年;フォーマネック(Formanek)ほか、1998年;グライプラー(Graepler)ほか、1998年;コバリ(Kobari)ほか、2001年;モーア(Mohr)ほか、2001年)。
【0110】
また別な実施形態では、細胞ペレットは、再懸濁され、連続する、または、非連続的な密度勾配に形成された流体材料の上(または下)に積層されて、更に、細胞密度に基づいて細胞集団を分離するための遠心装置内に設置される。これに類似している実施形態では、アフェレシス分離(スミス(Smith)、1997年)、および、向流を伴う溶離、または、向流を伴わない溶離(ラッシュ(Lasch)ほか、2000年;イトー(Ito)およびシノミヤ(Shinomiya)、2001年)などの連続流アプローチも採用することができる。
【0111】
上記以外の添加物の具体例としては、本件で説明されているような分化因子、成長促進剤、免疫抑制剤、医療装置、これらの組合わせなどの、また別な生物学的成分または構造的構成要素がある。例えば、上記以外の細胞、組織、組織の一部、VEGFなどの成長因子、これら以外の周知の血管新生成長因子、動脈新生成長因子、生物学的活性成分、生物学的不活性成分、再吸収可能な骨格、或いは、新生細胞の集団の供与、効能、耐性、または、機能を向上させることを意図した上記以外の添加物が添加される。構造上の目的または治療上の目的の派生的目的で新生細胞の機能を変更し、向上させ、補足するようなやり方でDNAの挿入することにより、或いは、そのようなやり方で細胞培養システム(本件に記載されているような、または、当該技術で公知の)を設置することにより、新生細胞集団は変更することもできる。例えば、幹細胞についての遺伝子伝達技術は、モリゾノ(Morizono)ほかの2003年の文献およびモスカ(Mosca)ほかの2000年の文献に開示されているように、当業者に周知であり、その具体例として、ウイルス移入技術があり、もっと具体的には、アデノ関連ウイルス以遠氏伝タス技術があるが、このような技術はワルサー(Walther)およびスタイン(Stein)らの2000年の文献とアサナソポラス(Athanasopoulos)らの2000年の文献に開示されている。非ウイルス技術も、ムラマツ(Muramatsu)らの1998年の文献に開示されているように実施することができる。成長因子またはサイトカインなどの1種類以上の細胞分化因子をコード化する遺伝子も添加することができる。多様な細胞分化剤の具体例が以下の文献に開示されている。すなわち、ギンブル(Gimble)ほかの1995年の文献、レノン(Lennon)ほかの1995年の文献、マジャムダール(Majumdar)ほかの1998年の文献、キャプラン(Caplan)およびゴールドバーグ(Goldberg)の1999年の文献、オーグシ(Ohgushi)およびキャプランの1999年の文献、ピッテンガー(Pittenger)らの1999年の文献、キャプランおよびブルーダー(Bruder)の2001年の文献、フクダ(Fukuda)の2001年の文献、ワースター(Worster)らの2001年の文献、ツーク(Zuk)らの2001年の文献である。抗アポプトーシス因子または抗アポプトーシス剤をコード化する遺伝子も添加することができる。遺伝子(または、複数遺伝子の組合わせ)を添加する方法としては、当該技術で周知の技術ならどのようなものでもよく、アデノウイルス形質導入、「遺伝子銃」、リポゾーム介在形質導入、レトロウイルス介在形質導入、レンチウイルス介在形質導入、プラスミド、アデノ関連ウイルスなどがあるが、これらに限定されない。次に、これらの新生細胞は、或る期間にわたって細胞に遺伝子を放出および/または供与することができる遺伝子担体を有するキャリア物質と一緒に移植されることで、形質導入を本来の部位で継続し、または、開始させることができる。
【0112】
細胞および/または細胞を含有する組織が、その細胞および/または組織の供給元であった患者以外の患者に投与されると、移植の拒絶反応を低減するように(防止してしまうのが好ましいが)、細胞および/または組織の供給を受けた患者に1種類以上の免疫抑制剤が投与される。本件で使用されている限り、「免疫抑制剤または免疫抑制薬」という語は、正常な免疫機能を阻害または妨害する薬剤を含むことを意味している。本件に開示されている方法と併用するのに好適な免疫抑制薬の具体例としては、T細胞/B細胞の共刺激経路を阻害する薬で、例えば、米国特許公報第2002-0182211号(特許文献4)に開示されているような、CTLA4経路とB7経路を介するT細胞とB細胞の結合を妨害する薬物が挙げられる。好ましい免疫抑制薬はサイクロスポリンAである。これ以外の具体例としては、ミコフェノール酸モフェチル、ラパミシン、抗胸腺細胞グロブリンなどがある。或る実施形態では、免疫抑制剤は、少なくとも1種類の上記以外の治療薬と一緒に投与される。免疫抑制剤は、投与の経路が相互に適合している調剤で投与され、所望の治療効果を達成するのに十分な投与量で被験体に投与される。また別な実施形態では、免疫抑制剤は、本発明の新生細胞に耐性を誘導するのに十分な期間にわたり、一過的に投与される。
【0113】
このような実施形態では、新生細胞は、本件に記載されている攪拌装置のような装置やそれに付随する方法を含めて、当該技術で認知されている態様で添加物に接触させられ、結合させられ、混合され、或いは、添加される。例えば、揺動ローラー、反転動ローラー、パルス式ローラーまたは移動ローラーを利用することができる。
【0114】
別な局面では、細胞集団は被供給者に委嘱され、マクロポア・バイオサージェリー(MacroPore Biosurgery, Inc.)が製造しているもののような生体再吸収可能な可塑性容器やそれ以外の部材とその関連構成要素で包囲される(米国特許第6,269,716号(特許文献5)、米国特許第5,919,234号(特許文献6)、米国特許第6,673,362号(特許文献7)、米国特許第6,635,064号(特許文献8)、米国特許第6,653,146号(特許文献9)、米国特許第6,391,059号(特許文献10)、米国特許第6,343,531号(特許文献11)、米国特許第6,280,473号(特許文献12)などを参照のこと)。
【0115】
先の実施形態の全部について、分離・濃縮新生細胞の少なくとも一部は低温保存されるが、これは、2002年9月12日出願の、「非血液生成組織由来の非胚性細胞保存(Preservation of Non Embryonic Cells from Non Hematopoietic Tissues)」という名称の米国特許出願第10/242,094号に記載されている通りであるが、この出願は譲受人が同じである2001年9月14日出願の米国特許仮出願第60/322,070号の優先権を主張するものであり、これら出願の内容はそれぞれの全体が、ここに援用することで特に本件の一部を成すものとする。
【0116】
処理の最後で、新生細胞は手作業で排出チャンバーから回収される。細胞は注射器のような搬送装置に装填されて、皮下注射、筋内注射、または、患者の体内の標的部位に細胞を搬入することのできる上記以外の技術のいずれの手段によるものであれ、被供給者への移植に備える。換言すると、細胞は、当業者に周知の何らかの手段で患者に移植される。好ましい実施形態は針またはカテーテルによる移植を行い、その変更例は直接的な外科手術による移植を行う。また別な実施形態では、細胞は、患者に細胞を移植するために利用される容器、注射器、カテーテルなどの形態である排出チャンバーに自動輸送される。このような容器は、後で使用するため、または、低温保存するために細胞を保存するのに利用することもできる。回収方法は全て、無菌の態様で実施される。外科手術移植の実施形態では、細胞は、本件に記載されているような、予備形成された配列または移植片の骨格などの付加物と関連づけて適用される。
【0117】
本発明の好ましい実施形態では(例えば、図4に例示された実施形態など)、システムは自動化される。また別な実施形態では、システムは自動構成要素と手動構成要素の両方を備えている。システムは、1個以上の使い捨て可能な構成要素が再利用可能なハードウエア構成要素またはモジュールに接続され、或いは、そこに搭載される。本発明の自動システムは、システムの適切な動作を促すスクリーン表示(図16を参照のこと)を設けている。自動化システムには、シスエムの使い捨て可能な構成要素を適切に設定することに関する処置手順の状況および/または段階ごとの指示を供与するスクリーンを設けることもできる。スクリーンは、問題や不具合が発生した場合にはシステムの問題や不具合を表示し、適切かどうかの「問題解決」手引きを提供する。或る実施形態では、スクリーンはユーザーインターフェイス画面であり、使用者がタッチスクリーンなどからシステムにパラメータを入力することができるようになっている。
【0118】
一部が自動化のシステムおよび全自動システムには、処理装置(マイクロプロセッサまたはパーソナルコンピュータなど)と、それに付随するソフトウエアプログラムで、システムを作動させるとともに使用者の入力に基づいて1段階以上の処理を自動化するための制御論理を備えているものが装備されている。或る実施形態では、システムの1つ以上の局面は、処理装置に常駐しているソフトウエアを介して使用者によるプログラミングが可能である。処理装置は、1個以上の事前にプログラムが組まれたソフトウエアプログラムがリードオンリメモリ(ROM)に保存されている。例えば、処理装置は、血液を処理するように特に誂えた事前プログラムを組んだソフトウエアや、少量の新生細胞を得るために脂肪組織を処理する別なプログラム、また、それより大量の新生細胞を得るために脂肪組織を処理する更に別なプログラムを含んでいる。処理装置は、使用者に適切なパラメータを提供して、所要の新生細胞の量、処理される組織の種類、処理後に必要となる操作の種類、治療応用の種類などの関連情報を使用者が入力したのに基づいて処理を最適化する、事前にプログラムが組まれたソフトウエアを含んでいることもある。
【0119】
このようなソフトウエアは次のような段階の自動化を可能にする。すなわち、システムのポンプと弁を制御することにより流体と組織が特定の管材の経路に沿って入退するのを制御する段階、適切な作動順序および/または適切な作動方向を制御する段階、圧力センサーを使って遮断状況を検出する段階、各機構を連合させる段階、体積測定機構を利用して特定経路に沿って移動させられる組織および/または流体の量を測定する段階、熱制御装置を利用して多様な構成要素の温度を維持する段階、および、分離・濃縮プロセスをタイミングやソフトウエア機構と統合する段階の自動化を行えるようにする。処理装置はまた、処理される組織種類および/または収穫される細胞の集団または集団の一部に基づいて、更に、実施されるべき処理の種類(例えば、新生細胞を伴って増大した脂肪組織を使った組織拡充、または、新生細胞で皮膜された骨補綴を使った骨修復応用を目的とした細胞の処理など)に基づいて、遠心分離速度を制御することができる。処理装置はまた、標準的な並列ポートや直列ポート、或いは、それ以外の、他のコンピュータまたはネットワークと通信する手段を備えていてもよい。従って、処理装置は独立型の装置であってもよいし、本件に記載される別な処理方法のための1種類以上の別な装置を随伴してもよい。
【0120】
ソフトウエアは「実行データ」の自動収集を行えるが、かかるデータの具体例として、使い捨て構成要素の分画番号、温度測定値や体積測定値、組織体積のパラメータや細胞個数のパラメータ、付与される酵素の投与量、保温時間、操作者の識別、データと時間、患者の識別などがある。本件装置の好ましい実施形態では、バーコード読取システムなどの文字認識システムを統合することにより、処理文書の一部として、処理装置に上記各種変数(使い捨て可能なセットの分画番号や満了日、コラゲナーゼの分画番号や保管期限、患者/試料の識別など)をデータ入力することができる。これにより、データ入力ミスの可能性を減じている。このようなバーコード読取システムは、USBまたはそれ以外の当該技術で周知のインターフェースポートやシステムを利用して、処理装置に容易に組み込むことができる。このように、本件装置はデータ入力と処理の文書化を統合制御できるようにする。このようなパラメータの印字レポートは、システムのプログラムされた動作の、使用者自らが定義するパラメータの一部である。当然のことながら、これにより、プリンタ構成要素(ハードウエアとドライバ)またはソフトウエアに含まれたプリンタドライバにプリンタ用のインターフェイス出力コネクタ(USBポートなど)を加えたものを、本件装置のハードウエアに統合する必要が生じる。
【0121】
或る実施形態では、システムは完全自動システムである。例えば、使用者は処理するべき組織の量を初期選択し、システムを患者に装着することができ、また、システムは必要な組織を自動的に吸引して、使用者がそれ以上入力しなくても、中断せずに連続して新生細胞を分離・濃縮することができる。完全自動システムはまた、洗浄周期数、遠心分離速度などの、使用者が入力する多数の(例えば、2個以上の)パラメータに基づいて再構築されるシステムを備えている。システムは半自動モードで稼動させることができ、その期間中、システムは使用者が介入しなくても或る複数段階をやり通すが、或るプロセスが発生する可能性が生じる前には、使用者の介入を必要とする。他の実施形態では、システムは単体の統合システムであって、使用者を手引きして所定時間に所定動作を実施させる指示を表示する。例えば、処理装置は、管材、チャンバー、および、それ以外のシステム構成要素を適切に挿入するのに必要な段階の間、使用者に入力を促す。従って、使用者は、適切な順序の動作が実施されていることを確実にすることができる。かかるシステムは、処理段階が思いもよらず始動または終端してしまうのを防止するために、使用者自らが各動作段階を更に確認することを必要とする。また別な実施形態では、システムは自動検証動作を開始して、管材やチャンバーが正しく挿入されているかどうか、遮断が無いか等を確認することができる。また別な実施形態では、本発明のシステムは、システムを通る組織流を自動制御することにより、多数の分離・濃縮プロセスを実施するようにプログラミングされる。このような機能が重要となるのは、例えば、患者を手術する最中に、喪失されかねない組織をシステム内に収集して、その組織から新生細胞を分離・濃縮して患者の身体に戻すような場合である。
【0122】
先の明示されているが、システムの構成要素は使い捨て可能であるため(本件では、「使い捨て可能なセット(または、複数のセット)」と呼称している)、システムの各部は1回使用した後は廃棄処分に付すことができる。このような実施例は、患者の組織と接触する面が使用後に適切に廃棄処理されるのを確実にするのに役立つ。具体的な使い捨て可能なセットが図13に例示されている。好ましい実施形態では、システムの使い捨て可能な構成よす緒は事前に滅菌処理されてから梱包されて、簡単に使用できて簡単に装填でき、かつ、何度も管材を接続する必要も無いうえに、管材を接続するのに複雑な手順に従う必要も無い、「出荷待ち状態」で使用できるようになっている。このような使い捨て可能な構成要素は製造費が比較的廉価であるため、それぞれを廃棄するのに実質的な経費を生じることもない。或る実施形態では、使い捨て可能なシステム(本件では、「使い捨て可能なセット(複数のセット)」と互換自在に呼称される)は、収集チャンバー20、処理チャンバー30、廃棄チャンバー40、排出チャンバー50、フィルター組立体36、試料嚢60、これらに付随する導管12または管材を必須構成要素として含む、或いは、構成要素の一部として備えている。本件システムの使い捨て可能なセットの好ましい実施形態では、収集チャンバー20と処理チャンバー30は、剛性枠ないに収納されている導管12によって接続されている。処理チャンバー30の回転封鎖網(図7および図8)も同じ剛性枠ないに収容される。また別な好ましい実施形態では、使い捨て可能なセットの多様なチャンバーと容器は必要な複数の界面が設けられており、これらインターフェイスがシステムの処理装置と連絡し合うことで、使用者が介入しなくても必要に応じて、システムを自動制御にしているポンプ、弁、センサー、その他の装置が適切に始動され、或いは、休止状態にされるようになっている。これらのインターフェイスは、システムのセットアップに要する時間や専門的判断を減らし、また、どのようにしてシステムを適切にセットアップするかを示し、更に、セットアップを誤った場合に、どのように使用者に警告することによってもミスを減らしている。
【0123】
本発明の大半の使い捨て可能なセットは多数の共通する構成要素を備えている。しかし、システムの互いに異なる応用例は、使い捨て可能なセットの一部となるような、追加の構成要素を必要とする場合があることを、当業者なら認識するだろう。従って、使い捨て可能なセットは、患者から脂肪組織または他の組織を入手したり、新生細胞を患者の体内に戻すのに好適な針または注射器を1個以上、更に備えていてもよい。これに含まれる針や注射器の種別番号や多様性は、処理されるべき組織の種類と量で決まる。使い捨て可能なセットは、システムで使用される洗浄液やその他の処理試薬を保有するのに、1個以上の剛性または可撓性の容器を更に備えていてもよい。例えば、使い捨て可能なセットは、生理食塩水、酵素、それ以外の、処置に必要な治療液または置換液を保有する容器を更に備えていることもある。更に、好適な洗浄液、再懸濁液、添加物、薬物、または、移植材などが使い捨て可能なセットと一緒に供与されて、本発明のシステムおよび方法と関連付けて使用されるように図ってもよい。
【0124】
本件に記載されているシステム構成要素、器具、供給源、または、本発明を実施するのに必要な構成要素、器具、供給源はいかなる組合せであれ、キットの様式で供与することができる。例えば、本発明のキットに含まれているものとして、例えば、注射器に依存した脂肪吸引用や、少量の組織を処理することができるようにする好ましいフィルタ媒体を備えた無菌注射器用の最適な長さとゲージの針がある。これ以外の、本発明と併用することができる具体的な器具および供給源、および、本発明のキットと一緒に備え付けてもよいような器具および供給源が表IIおよび表IIIにリスト化されている。
【0125】
次の表2は、本発明のシステムおよび方法に従って脂肪組織由来の新生細胞を入手するために使用することのできる供給源の具体例を同定している。
【0126】
【表2】

【0127】
下の表3は、本件開示のシステムおよび方法と併用することのできる器具を同定している。
【0128】
【表3】

【0129】
システムの再利用可能な構成要素は、収集チャンバーの攪拌機構、ポンプ、弁とポンプの制御を始動させる、取合せの各種センサー、遠心分離モータ、遠心分離モータの回転枠、ユーザーインターフェイススクリーンとUSBポート、連結装置または結合装置、或いは、遠心装置を備えており、それらを必須要素として含み、或いは、それらを構成要素として有しており、上記連結装置または結合装置、もしくは、遠心装置は、使い捨て可能セットに接続され、使い捨てセットは再利用可能ハードウエア構成要素および他の関連装置に堅固に装着され、これらハードウエア構成要素や関連装置に対するインターフェイスとして機能する。具体的な再利用可能構成要素が図14に例示されている。好ましい実施形態では、再利用可能な構成要素は、回転遠心力のような、新生細胞組成から新生細胞を分離・濃縮する手段を有している。この実施形態では、再利用可能な構成要素は、図15Aに例示されているような使い捨て可能なセットの処理チャンバー(遠心分離チャンバーを含む)の一部に接続されて、この処理チャンバーの一部に対するインターフェイスとして機能するように設計されている。再利用可能な構成要素で新生細胞を分離・濃縮する手段は回転遠心分離装置に限定されず、それ以外の、本件記載の構造部材を備えていてもよく、具体的には、回転膜フィルターを備えていてもよいことが分かる。再利用可能な構成要素は、本件記載の処理装置を収容することもでき、かかる処理装置は、幾つかの異なる組織処理手順を実行して、それに応じてシステムの多様なポンプと弁を選択的に作動させるように事前にプログラムが組まれたソフトウエアを装備している。プロセッサはまた、供与体/患者情報、処理情報または収集情報、および、それ以外の、後でダウンロードするデータまたはコンパイル用のデータを保存する容量のあるデータ記憶装置を備えていてもよい。再利用可能な構成要素は多様な使い捨て可能なセットと併用することができる。このような使い捨て可能なセットは、使い捨て可能なセットを接続する連結装置または連結構造により再利用可能な構成要素に接続されて、使い捨て可能なセットが再利用可能なハードウエア構成要素に堅固に取付けられ、そのようなハードウエア構成要素に対するインターフェイスとして機能するようになっているが、その際の態様として、再利用可能な構成要素に搭載されている処理装置が制御を実行することができるような態様、すなわち、使い捨て可能なセットの多様な構成要素との間で信号を送受するばかりか、再利用可能な構成要素の多様な構成部材やそれ以外の関連装置および関連システムとの間でも信号を送受することができるような態様になっている。
【0130】
或る実施形態では、システムで使用するための使い捨て可能なセットは、約800 ml の組織を収容できる収集チャンバー20、収集チャンバー20で洗浄および温浸された約800 mlの組織により生成された新生細胞組成を処理することのできる処理チャンバー30、少なくとも0.5 mlの新生細胞を収容できる排出チャンバー50、約10リットルの廃棄物を収容することができる廃棄容器40から構成されている。この実施形態では、ハードウエア装置は、長さ約609.6mm(24インチ)×幅約457.2mm(18インチ)×高さ約914.4mm(36インチ)ほどの大きさしかない。ハードウエア装置は元より、使い捨て可能なセットの多様な構成部材の代替の寸法は必要に応じて構成されればよく、本発明の範囲に含まれるべきであるが、その寸法に限定されるものではない。
【0131】
システムの使い捨て可能な構成部材は、装置に容易に搭載することができる。対応する再利用可能な構成要素と一緒に組み立てた状態で利用される使い捨て可能なセットの具体例が図15Aに描画されている。このシステムは、システムが不適切に装填された構成部材を検出することができるようなものとして設計されるのが好ましい。例えば、持ち運び可能な装置は、脂肪組織収穫が行われる或る位置から、脂肪組織収穫のための別な場所まで移動させることができる。或る実施形態では、持ち運び可能な装置は、患者の病床脇で脂肪組織を収穫して処理するのに好適である。斯様に、持ち運び可能な装置は、或る患者から別な患者へ移動させることのできるシステムの一部であってもよい。従って、持ち運び可能な装置は、適所で施錠することができる車輪付きでもよく、よって、簡単に便利な場所に置くことができ、処置が終わるまで安定した堅固な位置で使用することができる。別な実施形態では、持ち運び可能な装置は、台の上などの平坦面でセットアップして作動させるのに適したように設計されている。持ち運び可能な装置は収納装置に封入することもできる。持ち運び可能な装置は、ハンガー、鉤、標識、縮尺、および、上記以外の、処置を支援する装置を更に備えていてもよい。このシステムの、遠心分離処理装置や表示スクリーンなどの、本件に記載されている再利用可能な構成要素は全て、システムの持ち運び可能な装置に搭載することができる。
【0132】
新生細胞を入手するための、代替の手動による実施形態も本発明の範囲に入る。例えば、或る実施形態では、脂肪組織は、本件に記載されているシステムの構成要素、器具、および/または、供給源を如何様に組合せたものを利用しても、処理することができる。
【0133】
本発明のシステムの手動の実施形態は、以下の段階と情報に従って実施することができるが、これは具体例として提示されているにすぎず、限定するものではない。まず、脂肪組織が患者から収集される。組織回収ライン、すなわち、試料部位カプラーが開かれ、スパイクが600 ml(ミリリットル)の血液バッグのサイドポートに挿入される。約10 ml(ミリリットル)の脂肪組織が鈍先端カニューレを通して10 ml(ミリリットル)注射器内に収集される。鈍先端カニューレは、比較的先鋭な針(14G)と置換できる。試料採取部位はヨード含浸布で拭われる。脂肪組織が試料採取部位を通って600 ml(ミリリットル)バッグに注入される。次に、注射器と針がシャープスチャンバーに捨てられる。このような段階を反復しながら、十分な組織をバッグに移す。十分な組織かどうかは、患者と応用例の臨床的詳細事情に基づいて、ケースバイケースで判定される。
【0134】
次に、吸収された脂肪組織が洗浄される。予備加熱された(摂氏37度)の生理食塩水入りバッグが作業面の情報に懸架される。青い止血鉗子が600 mlバッグとスパイクの間の管材に設置される。クランプを閉じて、管材を封鎖する。600 mlバッグに設けたスパイクを使って、生理食塩水バッグに入るようにする(600 mlバッグに設けた針を使ってラバー隔壁を貫いて生理食塩水バッグに入れるような設置作業では、針の挿入前にヨードで隔壁を拭っておかなければならない)。青色鉗子が解放されると、約150 ml(ミリリットル)の生理食塩水を600 mlバッグに入れることができる。所望体積の生理食塩水が600 mlバッグに入ったら、青色鉗子が閉鎖される。600 mlバッグは約15秒にわたって10回から15回、反転運動させられる。第2の青色鉗子は、3リットルの廃棄嚢からスパイクまで導通している管材に付与される。3リットルバッグに設けられたスパイクを使って、600 mlバッグに入れる。600 mlバッグは作業面の上方に上下転倒させて懸架され、約1分間、沈静にされる。3リットルバッグに導通している青色鉗子が取り外される。廃棄液は3リットルバッグに流入させられる。青色鉗子は、組織が管材に入る前に、流れを停止させるために付与される。600 mlバッグは作業面に向けて降下させられる。このような段階が、あと2回、繰り返される。生理食塩水廃棄物がまだ著しく赤色に見える場合、3回目の新たな周期が指示される。熱封鎖材を巣かって、3リットルの廃棄嚢と600 mlバッグの間の管材を封鎖する。このような封鎖は、管材上の約半分地点で行われる。3リットルの廃棄嚢が取出されて、廃棄処分される。600 mlバッグが作業面に戻される。
【0135】
第3に、洗浄後に脂肪組織が温浸処理に付される。生理食塩水と600 mlバッグの間の管材の取付けられた青色鉗子が解放されると、約150 mlの生理食塩水を600 mlのバッグに入れることができる。600 mlバッグ上の試料採取部位は、ヨード含浸布で拭われる。コラゲナーゼが試料採取部位を通して600 mlバッグに注入される。マイクロウエーブを使わずに、コラゲナーゼのガラス瓶を摂氏37度の浴槽がその均等物の中で溶かすことにより、コラゲナーゼの準備が行われる。22G針を取付けた1 ml(ミリリットル)注射器がガラス瓶に挿入される。コラゲナーゼが針の中に引き込まれる。針を取出して、0.2μmフィルターおよび第2の22G針と取り替える。ここで、コラゲナーゼは注射器を出て、0.2μmフィルターおよび針を通って発射される。脂肪組織の温浸は、0.1から0.2ヴュンシュ・ユニット/ミリリットル(Wunsch U/ml)の最終コラゲナーゼ濃度で実施される。加熱パッドが揺動装置上に設置される。この期間、生理食塩水バッグは、また装着されたままであるが、揺動装置の傍に設置される。生理食塩水バッグに導通している管材が、運動中に揺動装置に捕まってしまわないような態様で設置されるのを確実にするよう、注意が必要である。加熱パッド制御装置は摂氏37度に設定される。600 mlのバッグが揺動装置に設置される。揺動装置は最大運動に設定される。バッグを観察して、バッグが安定していること、また、約1時間(55±10分)は揺動することができるようになっていることを確実にする。
【0136】
第4に、新生細胞組成が回収される。バッグが揺動装置から取出される。それ以前には廃棄嚢に導通していた、閉じた管材に、青色の鉗子が付与される。無菌の接続装置を使って、4個組のバッグセット(次の指示に従って予め準備されている)を、それ以前には廃棄嚢に取付けられていた管材に装着する。4個組みバッグは2個ずつが繋がった4個組みパックである。2個のパックに管材が分岐しているのを確かめて、管材を二重折りにして、折り畳まれた管材の上に金属ループを滑り被せる(管材の両方の分岐片上に被せる)。ループを約12.7mm(約0.5インチ)だけ滑り降ろす。屈曲点に形成された襞が管材を封鎖するように働く。止血鉗子を使って、ループの一部を閉じた状態にかしめる。ループは、処理中に取り外されなければならないので、折れ曲がりがきつくなりすぎることはない。600 mlのバッグが作業面の上方で上下転倒して懸架され、約3分間、沈静にされる。4個組みセットに導通している管材に取付けられた青色鉗子を取り外して、細胞の一部(黄色/橙色の脂肪層の下の層)が4個組みセットに排出されるようにする。注意を払って、脂肪層が管材に入るのを阻止する。この処理中は、管材は手動で折り曲げられて、脂肪層が管材の近くに来ると、流れの速度が遅くなる。次に、4個組みバッグのセットに導通している管材が青色鉗子で閉鎖されて、600 ml バッグが作業面に戻され、生理食塩水のバッグが懸架される。生理食塩水と600 mlバッグの間に延びている管材の取付けられた青色鉗子が放たれて、約150 mlの生理食塩水を600 mlバッグに入れることができるようになる。600 mlバッグは約15秒にわたって、約10回から15回、反転運動させられる。次に、600 mlバッグが作業面上方で逆さに懸架されて、約3分から5分の間、沈静化される。4個組みセットに導通している管材に取付けられた青色鉗子が解放され、細胞の一部(黄色/橙色の脂肪層の下の層)が4個組みセットに排出される。注意を払って、脂肪層が管材に入るのを阻止する。例えば、管材を手動で折り曲げることにより、脂肪層が管材に近づくと、流れの速度を遅くすることができる。4個組みバッグのセットに導通している管材は、青色鉗子で閉鎖される。ここで、4個組みセットから600 mlバッグに導通している管材が熱封鎖される。次いで、600 mlバッグが取り外され、廃棄処分される。
【0137】
第5番目に、新生細胞組成が洗浄される。2個の充満したバッグの間に延びている管材に金属クリップが設置され、管材を封鎖する。4個組みのセットが均衡を保って配置される。第2の「ダミー」4個組みセットに水が添加され、4個組みセットの平衡を保つようにする。4個組みセットと均衡を保っているセットは遠心装置の互いに反対側のバケツに設置される。中空のフィルターに関しては、細胞が洗浄されてバッグに入れられ、管材がバッグと上述の中空線維フィルター組立体との間で封鎖される。蠕動ポンプを使って、流体にフィルター組立体を通過させ、濃縮細胞がバッグの下流端側に収集される。注意を払って、4個組みバッグのセットが圧縮されないように、直立状態に置く。遠心装置が400 xgで10分間作動される。4個組みセットは遠心装置から取出され、プラズマ発現装置に設置される。注意を払って、バッグの最上部の硬い管材が支持板の丁度最上位置にくるような態様で、バッグを発現装置内に置く。バッグの位置が高すぎると、保有される生理食塩水の量が多くなりすぎるが、バッグの位置が低すぎると、前面の板が閉じる能力を管材が阻害し、この場合もまた、保有される生理食塩水の量が多くなりすぎる。充満した4個組みセットから空のセットへ導通しているラインの各々に、青色鉗子が装着される。金属ループと青色鉗子が取り外されて、上澄みを空の4個組みセットに流入させることができる。出来るだけ大量の生理食塩水が搾り出されるが、注意を払って、細胞ペレットを取除いてしまうことのないようにする。上澄みを保有しているバッグの各々に入り込んでいる管材が熱封鎖される。上澄みを保有している廃棄嚢が取出される。細胞を保有している4個組セットのバッグの各々に導通している管材に青色鉗子が取付けられる。バッグはプラズマ発現装置から外に取出される。無菌接続装置を使って、4個組みパックに導通している管材を生理食塩水バッグに接続する。4個組みバッグのセットのうちの1個のバッグに導通している青色鉗子が取り外されて、約150 mlの生理食塩水をバッグに流入させることができるようになり、次いで、生理食塩水の流れを止めるために、鉗子が再度装着される。ここで、充満した4個組みバッグのセットが約15秒間、約10回から15回、反転運動される。空の4個組みバッグのセットに導通している青色鉗子がここで取り外されて、充満したバッグの内容物が全部、空のバッグの中に排出される。金属ループ鉗子が再度装着されて、2組の4個組みバッグのセットの間の管材を封鎖する。次に、管材は熱封鎖され、生理食塩水のバッグが取出される。次いで、充満した4個組みバッグのセットは約15秒間にわたって、約10回から15回、反転運動させられる。また別なダミーの4個組みセットが平衡を保って設置され、細胞の入った4個組みセットに対して均衡を取り直しされる。4個組みバッグのセット(1個が充満されており、1個が空である)が遠心装置に設置され、4個組みバッグのセットが圧縮されないで、直立状態に置かれる。
【0138】
遠心分離装置は10分間、約400 xgで作動される。ここで、4個組みセットが遠心分離装置から取出されて、バッグの最上位にある硬い管材が支持板の丁度最上位に置かれるような様式で、4個組みセットは注意深くプラズマ発現装置に設置される。バッグの位置が高すぎる場合は、保有される生理食塩水の量は多くなりすぎるが、バッグの位置が低すぎる場合は、前方の板が閉じる能力を管材が阻害して、今度もまた、保有される生理食塩水の量が多くなりすぎる。金属ループが取り外されて、新生細胞のペレットを無理に移動させないように注意しあんがら、充満したバッグから空のバッグへ上澄みを全部射出する。バッグとバッグの間に延びる管材が封鎖され、充満した(廃棄)嚢が取出されて、廃棄処分にされる。新しい試料採取部位カプラーが残存しているバッグに挿入される。次に、細胞ペレットの細胞が残留生理食塩水(少しでも残っていれば)中で再懸濁されて、或る濃度の新生細胞を得る。再懸濁は、バッグをゆっくりと操作することにより(例えば、圧搾して、しごく)、実施することができる。
【0139】
本発明を実施するシステムの特定の具体例が図4に例示されている。図4は、患者の体内に再注入するのに好適な、脂肪組織などのような組織から新生細胞を分離・濃縮するための自動システムおよび方法を例示している。図4に例示されているシステムの或る実施形態では、システムは、患者から所与の量の組織を吸引する自動化段階を更に含んでいる。図4に例示されているシステムは、図14に例示されているシステムの再利用可能な構成要素に接続されている、図13に例示されている使い捨て可能なセットを備えており、使い捨て可能なセットは、図15Aに例示されているシステムの自動化された実施形態に到達する。使い捨て可能なセットは、連結装置または結合装置、或いは、連結構造部材などによって再利用可能な構成要素に接続されており、このような連結または結合装置が、使い捨て可能なセットを再利用可能な構成要素に接続した結果、使い捨て可能なセットが再利用可能なハードウエア構成部材に堅固に装着され、かつ、再利用可能なハードウエア構成要素に関与するようになるが、その際の態様は、再利用可能な構成要素に搭載されている処理装置が使い捨て可能なセットの多様な構成要素は元より、再利用可能な構成要素の多様な構成部材とそれ以外の付随する装置やシステムを制御して、それらに対してインターフェイス機能を果たすことができるような態様であるが、すなわち、処理装置が上記のような多様な構成部材や装置に信号を送受信するような態様である。
【0140】
使用者は、使い捨て可能なセットを再利用可能な構成要素に接続し、ユーザーインターフェイスを使って、収集されている組織の体積などの、或るパラメータを入力し、システムを患者に装着し、システムは、事前にプログラムが組まれたパラメータおよび/または使用者が入力するパラメータを使って、中断することなく連続して、図4に例示されている段階の全部を自動的に実施する。1つのそのような段階順序が図15Bに例示されている。これに代わる例として、使用者によって組織が手作業で患者から吸引され、新生細胞を処理するため、すなわち、新生細胞を分離・濃縮するために、組織がシステムに輸送される。
【0141】
詳細に述べると、図4に例示されているように、脂肪組織のような組織は、導管12を使って患者から吸引され、収集チャンバー20に導入される。図4の収集チャンバーの詳細な具体例が図5に示されている。図5に例示されているように、収集チャンバー20は、標準カニューレを用いて、組織取出しを容易にする真空ライン11を備えている。使用者は、推定体積の組織を入れて、この時点で、収集チャンバー20に向かわせる。組織は入口ポート21を通って収集チャンバー20に導入されるが、入口ポートは、組織、生理食塩水、および、それ以外の薬物を無菌態様で組織に添加することができるようにする、閉鎖された流体経路の一部である。センサー29のようなシステムの任意のセンサーは、使用者が入力した体積の組織が収集チャンバー20内に蓄積されたことを検出することができる。或る実施形態では、使用者が入力した体積よりも少量の組織しか収集チャンバーに存在しない場合は、使用者は、目下収集チャンバー20に存在している体積の組織の処理を開始するかどうかを選択することになる。或る実施形態では、患者から取出された組織の一部を、蠕動ポンプなどのポンプを使って、導管を介して試料チャンバー60に向かわせることができるが、ポンプはユーザーインターフェイスを使って使用者が入力を行うことで作動させることができる。
【0142】
センサー29は、組織を洗浄し、その成分を分散させるのに必要な段階を始動させるために、再利用可能な構成要素に存在する処理装置に信号を送る。例えば、処理装置は、自動弁および自動ポンプを利用して収集された組織体積に基づいて、所定体積の洗浄剤を導入する。この周期は、排出液が十分に澄んで、要らない物質が無いと光センサーが判定するまで、収集チャンバー内で反復される。例えば、収集チャンバー12bまたは12dから外へ通じている導管沿いにある光センサー29は、要らない物質が除去されてしまったことを検知して、処理装置に信号を送り、所要の弁を閉じて次の段階を開始させることができる。
【0143】
次に、処理装置は、収集された組織の体積に基づいて、事前にプログラムに組まれた量の組織成分分散剤を導入する。処理装置はまた、収集された組織の初期体積に基づいて、或いは、使用者の入力値に基づいて、予め設定された期間にわたり、収集チャンバー内の組織の攪拌を始動する。図4に例示された実施形態では、コラゲナーゼのような成分分散剤がコラゲナーゼ源24により収集チャンバー20に添加されてしまうと、収集チャンバー20のモーターが処理装置を介して作動状態にされる。モーターは回転自在シャフト25を始動させるが、シャフトは磁性攪拌装置と櫂状の装置を備えており、後者の装置では、1本以上の櫂状部材25aが収集チャンバー20の前に置かれたフィルターのフィルターケージ27に堅固に取付けられている。組織成分分散剤が存在する場合は櫂状部材が攪拌を行うため、新生細胞は組織から分離する。
【0144】
収集チャンバー20内の溶液は、予め設定された期間、沈静化される。溶液に浮揚部分が溶液の最上位に上昇させられる。所定時間が経過すると、処理装置によって所要の弁とポンプが作動されて、非浮揚部を廃棄チャンバー40に取出す。収集チャンバー12bまたは12dから外へ導通する導管沿いに置かれたセンサー29が溶液の浮揚部分が処理チャンバー30に転送される寸前であることを検出することができるまで、廃棄チャンバー40への転送が継続する。例えば、収集チャンバー12bまたは12dから外へ導通している導管沿いに置かれたセンサー29は、要らない物質が除去されてしまったことを検出し、処理装置に信号を送って、所要の弁を閉じることができる。
【0145】
この時、溶液の非浮揚部分、すなわち、新生細胞組成が処理チャンバー20に移される。これは、必要な弁および蠕動ポンプを使うことで達成される。或る実施形態では、新生細胞組成を処理チャンバー30に転送する前に、追加体積分の生理食塩水が収集チャンバー20に残留している溶液の浮揚部分に添加される。もう1回、洗浄周期が繰り返される。この周期の後で、溶液は沈静化され、非浮揚部分(新生細胞を含有する)が処理チャンバーに転送され、浮揚部分は廃棄チャンバー40に排出される。この追加の洗浄周期を利用して、処理チャンバー30に分離された新生細胞を全部移動させる処理が最適化される。
【0146】
新生細胞組成が導管12により処理チャンバー30に輸送されてしまうと、濃縮段階を開始する前に、組成は1回以上の追加の洗浄段階を受ける。これにより、収集チャンバー20から廃棄物と残留汚染物の除去を確実にする。同様に、濃縮段階に続いて、新生細胞組成は1回以上の追加の洗浄段階を受けて、残留汚染物を除去することができる。要らない物質は処理チャンバー30から廃棄チャンバー40に同じ態様で取出され、すなわち、上述のように、処理装置からの信号により弁とポンプを制御する態様で取出される。
【0147】
図4に例示されている処理チャンバー30の多様な実施形態が以下に詳細に説明されている。図4に例示されている処理チャンバー30は、遠心分離チャンバーの形態である。図4の処理チャンバーの詳細な具体例が図7および図8に描画されている。このような処理チャンバー30は、一般に、回転封鎖網30.1を備えており、この回転封鎖網は外側ハウジング30.2、1個以上の封鎖材30.3、1個以上のベアリング30.4、および、システムの再利用可能な構成要素内に存在している遠心分離装置に処理チャンバーを接続する取付け点30.6から構成されており、処理チャンバーは更に1個以上の流体経路30.5を備えているが、この経路は、導管が回転封鎖材から外に張り出して、枠53に収容された排出チャンバー50の形態である、両端ごとに設けられた遠心分離チャンバーで終端したような形になっており、ここでは、枠53は1個以上のポート52と、手動で排出チャンバー50の位置を再設定するための1個以上のハンドルとから構成されている。
【0148】
回転封鎖網30.1は、処理チャンバーの流体経路が無菌状態で維持されるのを確実にするために設けられている。更に、処理チャンバーの流体経路は、何時でも、処理チャンバーの遠心分離チャンバーが回転している最中でさえ、無菌の態様で接近することができる(例えば、薬剤や洗浄液を添加するために)。
【0149】
図7および図8に例示されている回転封鎖網30.1は回転シャフトを備えており、シャフトは2個以上のベアリング30.4、3個以上のリップ封鎖材30.3、および、外側ハウジング30.2から構成されている。この実施形態では、ベアリング30.4は、ここではレースと呼称されている外側シャフトと内側シャフト(図示せず)を更に備えている。これらレースは、高精度に研磨された球によって分離されている。ベアリングの構成要素であるレースと球は、体液と接触するのに好適な素材で製作されているか、または、体液と接触するのに好適な素材で皮膜されているのが好ましい。好ましい実施形態では、レースと球は、窒化シリコンまたはジルコニアを使って政策されている。更に、この実施形態では、3個のリップ封鎖材は、丸みを帯びたU字型チャネル(図示せず)のほかに、円形バネ(図示せず)を備えている。丸みを帯びたU字型チャネルは可撓性の素材を使って製作されて、回転封鎖網30.1の回転シャフトとの間に漏れ防止接合が形成されるようにするのが好ましい。更に、リップ封鎖材の配向は、処理チャンバーを通って流れる新生細胞組成に由来する圧力により、張力を増大させることで封鎖組立体が回転シャフトとの接合を強化するような態様になっているのが好ましい。この封鎖材は、1個以上の円形クリップ(図示せず)により適所に固定されるが、これらのクリップは、回転封鎖網30.1の外側ハウジング30.2の溝に嵌合するために、必要に応じて拡張したり収縮することができる。回転封鎖網30.1によって生成される熱、または、同封鎖網の付近に生成される熱を制御することで、通路を通って移動させられている溶液中の細胞の溶解を防止しなければならない。これは、例えば、回転シャフトを構築する硬質素材を選択すること、封鎖材と接触する回転シャフトの領域を研磨すること、および、回転シャフトと封鎖材の間の接触を最小限にすることによって達成される。
【0150】
また別な実施形態では、回転封鎖網30.1は1個のラバー封鎖材30.3と空気ガスケット(図示せず)から構成されている。この封鎖材とガスケットは曲がりくねった経路を設けて生物学的問題に備えているが、システムの無菌性との折衷を図っている。また別な実施形態では、回転封鎖網30.1は、個々の流体経路を孤立させる多数のバネ装填封鎖材30.3を備えている。封鎖材30.3は、滅菌可能で、かつ、潤滑剤を使わずに回転シャフトを封鎖することができる素材から製作されている。また別な実施形態では、回転封鎖網30.1は1対のセラミック円盤(図示せず)を備えており、これらが別個の流体経路を設けて、シスエムの回転に耐えるとともに、細胞消失を生じないようにしている。また別な実施形態では、流体経路は可撓性で、処理チャンバーの周囲を巻回したり、巻き戻って伸びたりすることができる。これは、処理チャンバー30が2回転するたびに、可撓性の流体経路を1回転させることで達成される。これにより、回転封鎖材が全く必要でなくなる。
【0151】
新生細胞組成は、回転封鎖網30.1の回転の軸を通る流体経路に沿って収集チャンバー20から汲み出されてから、2分画に別れて、最小限でも2本の流体経路30.5に流入するが、これら経路は各々が処理チャンバー30の中心軸線から外向き放射方向に延びて、処理チャンバー30の外側端部付近で終端しており、すなわち、外側チャンバー50を収容する遠心チャンバー内で終端する(図7および図8)。従って、好ましい実施形態では、処理チャンバー30は、図7および図8に例示されているように、2個以上の排出チャンバー50を備えている。排出チャンバー50は、処理中は或る配向30.7を示し、濃縮された新生細胞を回収する間は別な配向30.8を取る。例えば、排出チャンバーは、処理中は或る角度で傾斜し、細胞回収中な別な角度で傾斜する。細胞回収角度は、処理角度よりも垂直に近い。排出チャンバー50の2つの位置はハンドル53によって手動で操作することができるが、このハンドルは処理チャンバー30から外へ突出している。注射器を使って回収配向30.8を示している時には、排出チャンバー50から手で新生細胞を回収することができる。別な実施形態では、流体経路30.5の構造は、処理チャンバーの外側で分岐してから、処理チャンバー30の外側端部に接続する、すなわち、排出チャンバー50を収容している遠心分離チャンバー(図示せず)内に入るようになっている。この実施形態では、大量の新生細胞組成および/または添加物、溶液などが遠心分離チャンバーおよび/または排出チャンバーに直接輸送される。
【0152】
図4および図7から図9を参照すると、収集チャンバー20と処理チャンバー30の間に、ポンプ34と1個以上の弁14が設けられている。好ましい実施形態では、弁14は電気機械弁である。更に、圧力センサー29のようなセンサーが、処理チャンバー30および収集チャンバー20と直列に設けられる。弁、ポンプ、および、センサーは、再利用可能な構成要素(図14)に搭載されている処理装置と協働して作動し、システムの濃縮段階を自動化している。
【0153】
センサーは、遠心分離チャンバー内に新生細胞組成が存在していることを検出して、システムの処理装置と通信し合うことにより、遠心分離装置を始動する。次に、新生細胞組成は、最初に収集された組織の量に基づいて、かつ/または、使用者の入力値に基づいて、予めプログラムに組まれた期間、予めプログラムに組まれた負荷を受ける。或る実施形態では、この段階は自動的に、または、使用者の入力に従って反復される。例えば、この組成は、約5分の期間にわたり、重力の約400倍の負荷を受ける。排出チャンバー50の構造は、チャンバーの外方向の両端部が高密度の粒子や細胞のための小型貯蔵庫を形成するようになっている。排出チャンバー50は、高密度の粒子を「細胞ペレット」と称される状態で維持しながら、流体経路を通してより軽量の上澄みが取除かれるようにするが、この流体経路の一例としては、回転封鎖網30.1の回転の軸に沿って位置し、処理チャンバー30の中心の低い位置から回転封鎖網30.1を通って廃棄容器40に至るようなものが挙げられる。弁14とポンプ34は処理装置に信号を送り、排出チャンバー50に存在している細胞ペレットを妨げずに廃棄容器40に上澄みを取出す段階を始動させる。
【0154】
図4に例示されているシステムを用いて得られる細胞ペレットは、本発明の濃縮された新生細胞を含有している。或る実施形態では、上澄みが取出されて廃棄チャンバー40に向かわせられた後で、流体経路30.5を使って、添加溶液および/または他の添加物と一緒に遠心分離された後に形成される細胞ペレットを再懸濁することができる。この態様で細胞ペレットを再懸濁することで、新生細胞を更に洗浄して、要らないタンパク質や化合物を除去することができるだけではなく、細胞に与える酸素の流れを増大させている。この結果として生じる懸濁液は、更にあと約5分の間、重力の約400倍の負荷を受ける。第2の細胞ペレットが形成された後で、尚且つ、結果として生じた上澄みが廃棄チャンバー40に取出された後で、生理食塩水を利用して、或いは、それ以外の適切な緩衝液を利用して、上述の態様の最終洗浄が実施される。このような反復洗浄を多数回実施して、新生細胞溶液の純度を向上させることができる。或る実施形態では、生理食塩水は、処理を改善するのに必要と思われるどの段階で添加されてもよい。図4に例示されているシステムを利用して得られる新生細胞の濃度は、収集された組織の量、患者の年齢、患者のプロフィールなどに従って変動することがある。具体的な歩留まりが表Iに提示されている。
【0155】
次に、排出チャンバー50が細胞取出しに適切な配向に設置された後で、適切な注射器を使って、無菌態様で排出チャンバー50に存在する最終ペレットが回収される。他の実施形態では、最終ペレットは排出チャンバー50内の容器に自動的に移されるが、この容器は必要に応じて取出されてから保存または使用される。容器はどのようなものであれ、適当な形状と寸法であればよい。例えば、容器は注射器であってもよい。或る実施形態では、排出容器50それ自体が熱封鎖され(自動的に、または、手作業で)、処理チャンバーの他の構成要素から隔離されて、本件で既に説明したように、その後の新生細胞の回収に備えるとともに、患者に注入し直すといったような治療応用に新生細胞を使用するのに備える。このような細胞は、排出チャンバーから回収される前、または、第2のシステムまたは第2の装置に移した後のいずれかの時点で、本件で先に述べたような次の処理を受ける。図14に例示されている再利用可能な成分の構成は、必要に応じて更に処理するために、1種類以上の別なシステムまたは別な装置に接続されるようになっている。
【0156】
本件に記載されているように、本発明のシステムおよび方法を利用して得られる新生細胞を使って、後段の具体例に記載されているような特性に基づいて、PVDやそれに関連する疾患や障害を治療することができる。例えば、新生細胞は、新しい血管形成を刺激する成長因子を合成して分泌する能力、細胞の生存と増殖を刺激する成長因子を合成して分泌する能力、新しい血管形成に直接関与する細胞を増殖して分化させる能力を有している。従って、本発明の一局面では、新生細胞は、本発明のシステムと方法を利用して供与体の脂肪組織から抽出され、本件に示されている1種類以上の機構による閉塞血管への治療効果を顕在化させるために使われる。好ましい実施形態では、細胞は人の脂肪組織から抽出されて、その人の体内に投与/移植されることになるが、それにより、移植に対する抗原性の反応および/または免疫性の反応に付随する潜在的合併症の恐れを低減する。通例、患者は、医者またはそれ以外の臨床従事者によって実施される次に挙げる1種類以上の処置によって、PVDを査定するための検査を受ける。上述の処置とは、患者の健康歴、身体検査、および、客観データを含む。
【0157】
或る実施形態では、PVDまたはその関連障害の治療に関係して血液凝固を低減するように設計された製品を患者が受容する前に、組織収穫処置が実施される。しかし、或る実施形態では、収穫処置の前に、患者はアスピリンを服用することがある。更に、1つの好ましい方法として、どのような処置であれ、それを試みる前に、脂肪組織を収集する。しかし、当業者には分かることだが、収集のタイミングは変動し、とりわけ、患者の安定、患者の凝血プロフィール、臨床従事者の従事可能性、高品質の治療基準など、複数の因子で決まる。究極的には、収集のタイミングは、罹患している患者に治療を施す責任者である医者が判断することになる。
【0158】
患者から収集される脂肪組織の体積は、約0 ccから約2000 ccの間で変動することがあり、実施形態によっては、約3000 ccにも達することがある。除去される脂肪の体積は患者ごとに異なっており、年齢、体質、凝血プロフィール、血行安定性、疾患の進行程度、同時複数罹病状態、医者の好みなどの多数の因子で決まるが、これらに限定されるわけではない。
【0159】
PVDが発症している場合は、注射などによって細胞が投与される。細胞は事前に抽出されて、低温保存して保管されるか、或いは、必要と決まっている時に、或いは、その時が近づくと抽出されることもある。本件で開示されているように、細胞は、例えば注射によって患者に投与され、或いは、注射などによって損傷組織に直接投与され、または、注射などによって損傷組織の近辺に投与され、その後はそれ以上の処置を行わない、或いは、細胞浄化し、細胞を修復し、細胞を刺激し、それ以外に細胞に変化を与えるといったような追加処置を行わない。例えば、患者から得られた細胞は、患者に投与する前に細胞を培養せずに、必要としている患者に投与される(注射される)。或る実施形態では、脂肪組織の収集は患者の病床脇で実施される。血行の監視を利用して、患者の臨床状態を監視することができる。
【0160】
本発明によれば、患者から脂肪組織を収穫した直後に、新生細胞が患者に投与される。例えば、脂肪組織を処理して新生細胞の組成を得た直後に、細胞が投与される。また別な実施形態では、患者に再度注入される細胞が、本件で説明したように、更に修復され、浄化され、刺激を受け、それ以外の操作を受けた場合は、投与のタイミングは比較的長くなることがある。更に、新生細胞は多数回、投与される。例えば、細胞はより長い期間(例えば、数時間)にわたって継続的に投与されることもあるし、或いは、或る期間にわたって、多数の塊を注入することで投与されることもある。或る実施形態では、最初の細胞投与は約12時間以内に行われるが、例えば、約6時間で投与され、1回分以上の細胞投与量が12時間間隔で投与される。
【0161】
患者に投与される細胞の数は、脂肪組織処理後の細胞歩留まりなどに関わってくることがある。細胞総数の一部は、後で使用するために保管され、或いは、低温保存される。更に、投与量は患者に細胞を投与する経緯で決まる。本発明の一実施形態では、患者に投与されるべき新生細胞の個数は、約5.5×105個であると思われる。しかし、この数は、所望の治療効果を達成するために、大きさの次数で調節することができる。
【0162】
細胞は、意図した治療効果を高め、抑制し、或いは、別な方法で管理するための添加物と一緒に適用することもある。例えば、或る実施形態では、本件で既に説明しているように、細胞は、抗体が介在する積極的細胞選択および/または消極的細胞選択を採用することで細胞集団を拡充し、効果を高め、罹病率を低減し、処置を容易にすることにより、更に純化することができる。同様に、移植された細胞の命運を支援し、かつ/または、管理することにより生体部位における組織工学を促進する生体適合性配列と一緒に、細胞を適用することもできる。同様に、遺伝子操作の後で細胞を投与することで、細胞によって供与される治療反応を促進すると思われる、または、促進するように図った遺伝子生成物を細胞が発現するようにしている。操作の具体例として、血管新生または血管再生を促進する因子(VEGFなど)の発現を抑制する(増大させ、或いは、減少させる)ような操作が挙げられる。細胞は、本件に記載されているように移植される前に、骨格材料上での細胞培養を受けることもできる。
【0163】
或る実施形態では、利益を意図した部位に細胞を間接的に投与するのが好ましい。これは、抹消血管内注射により達成される。当業者には周知の投与の手順として、血管内投与と動脈内投与があるがこれらに限定されるわけではなく、血管内カテーテルに基づく搬送機構を含むこともあれば、含まないこともある。
【0164】
細胞は1個の塊で注入されてもよいが、その場合、低速注入で実施されるか、または、数時間ごとに隔てられた時差を設けた連続投与で実施されるか、或いは、細胞が適切に保存されている場合には、数日または数週間を隔てた時差を設けて投与される。上述のように、虚血組織または罹患組織の領域に直接細胞を搬送するように、細胞はカテーテル法を採用して投与することもできる。抹消血管に接近することに関して、細胞はカテーテルによって、1個の塊で注入されてもよいし、或いは、少量に分画したものを多数回に分けて注入されてもよい。細胞はまた、切開による抹消バイパス外科手術の時に、罹患組織に直接投与されてもよい。
【0165】
或る実施形態では、投与手順は、標準的な抹消血管内カテーテルまたは中心血管カテーテルによる血管内搬入法を含む。細胞の流れは、患者の血管内に配置された遠位バルーンまたは近位バルーンを連続して膨張/収縮させることによって抑制され、一時的に流れの無い区域を設けることで細胞の移植または細胞の治療作用を促進する。更に、細胞は次のような手順単独で、または、皮下投与、筋内投与、舌下投与などの1種類以上の先に同定したアプローチと組合わせて投与することもできる。
【0166】
患者に投与される細胞の投与量は、収穫された脂肪組織の量と供与体の肉体質量指数(利用できる脂肪組織の量の測定値としての)で決まる。収穫された組織の量は、虚血組織または罹患組織の分布で決まることもある。組織収穫を多数回繰り返して、または、収穫は1回だけにして、1回の適用から次の適用までの間に細胞を適切に保管しながら、多数回に分けて治療することも、本発明の範囲にはいる。
【0167】
処理された吸引脂肪の分画は、患者に投与されるまで保管される。短期貯蔵(6時間未満)については、細胞は、室温または室温より低い温度で密封した容器に入れて、栄養液を供給しながら、または、栄養液を供給せずに、保存することができる。中期貯蔵(48時間未満)は、摂氏2度から摂氏8度で等浸透緩衝液(プラズマライト(Plasmalyte:登録商標)など)中で細胞接着を防止した素材からなる、または、そのような素材で皮膜された容器内で実施されるのが好ましい。長期貯蔵は、適切な低温貯蔵と、細胞機能維持を促進する条件で細胞を保存することにより実施されるのが好ましいが、具体例が、同一所有者で同一譲受人の2002年9月13日出願のPCT出願 PCT/US02/29207と2001年9月14日出願の米国仮出願第60/322,070号に開示されているが、これら両出願の内容は、ここに援用することによって本件の一部をなすものである。
【0168】
本発明の一局面によれば、患者に投与される脂肪組織由来の細胞は、成長因子搬送担体として作用する。例えば、抹消血管疾患に付随する症候を緩和するのに好適な1種類以上の成長因子を発現するように細胞を工学的に処理することにより、細胞を患者に投与し、1種類以上の成長因子を放つように細胞を工学的処理することができる。成長因子の放擲は、長い期間にわたり抑制された態様で行われる。例えば、成長因子の放擲を抑制するのに、成長因子はパルス式または周期的に解放されて、成長因子が局所で上昇するようにしたり、かつ/または、組織の罹患領域に近い位置では成長因子の量が局所的に落ち込むようにすることもできる。
【0169】
患者に投与される細胞は、損傷した細胞または不健康な細胞に回復機能の支援をするのみならず、損傷組織の再建を容易にもする。細胞搬入は次の場所で行われるが、これらの場所に限定されるわけではない。例えば、診療所、医院、透析センター、救急病棟、病室、集中治療室、手術室、カテーテル室、放射線室などがある。或る実施形態では、細胞注入治療の効果は次のような臨床測定法のうちの1つで実証することができるが、そのような臨床手段に限定されるものではない。すなわち、複式超音波検査法、血管再形成法、磁気共鳴血管再形成法で測定されるような血流の改善、症候(跛行)の緩和、虚血性潰瘍の治癒、肢体容積計で測定されるような組織酸素含有量の上昇、踵−上腕指数(ABI)の向上である。細胞治療の効果は、処置後、数日から数週間のうちに明瞭となることがある。しかし、処置後数時間程度の早い段階で、有利な効果が観察されることもあれば、それが数年間も続くこともある。患者は、通例、細胞注入前、および、細胞注入中は監視下にある。監視処置としては、凝血調査、酸素飽和、血行監視などがあるが、これらに限定されるわけではない。
【0170】
次の具体例(実施例)は、特定の状況と設定を実証するために提示されており、ここでは、本件の技術が適用され、本発明の範囲を限定したり、特許請求の範囲を限定したりする意図はない。
【0171】
(具体例)
以下に明示される具体例全体で使用されるADCまたは新生細胞を得る方法として、本件開示で説明されている方法、および/または、2002年12月9日出願の「処理済吸引脂肪細胞を利用して患者を治療するシステムおよびその方法(Systems and Methods for Treating Patients with Processed Lipoaspirate Cells)」という名称の米国出願連続番号第10/316,127号に記載されている方法のほかにも、2004年6月25日出願の「組織から新生細胞を分離して濃縮するシステムおよびその方法(Systems and Methods for Separating and Concentrating Regenerative Cells from Tissue)」という名称の米国出願第20050084961号に記載されている方法があるが、前者の米国出願は2001年12月7日出願の米国仮出願連続番号第60/338,856号の優先権を主張するものであり、後者の米国出願は2002年12月9日出願の「処理済吸引脂肪細胞を利用して患者を治療するシステムおよび方法(Systems and Methods for Treating Patients with Processed Lipoaspirate Cells)」という名称の米国出願連続番号第10/316,127号の優先権を主張するものであり、これら出願は全てそれぞれの譲受人が同一であり、これら出願は全てそれぞれの内容が、ここに援用することで特に本件の一部をなすものとする。
【0172】
具体例1:新生細胞による血管新生成長因子VEGFの発現
血管内皮成長因子(VEGF)は血管新生の主要な調整機能の1つである(ナギ(Nagy)ほか、2003年;フォークマン1995年)。胎盤成長因子は、VEGF族のまた別な構成要素であるが、血管新生と動脈新生の両方で同じような役割を果たす。詳細に述べると、野生種(PIGF +/+)細胞をPIGFノックアウトマウスへ移植することで、後肢虚血症から急速に回復するよう誘導する能力が復活する(ショルツほか、2003年)。
【0173】
血管再生プロセスに血管新生と動脈新生の重要性を託して、3人の供与体から得た脂肪組織由来の新生細胞を利用したELISAアッセイ(アール・アンド・ディー・システムズ(R&D Systems)、ミネソタ州ミネアポリス)を使って、本発明の新生細胞によるPIGFおよびVEGFの発現が試された。1人の供与体は過血糖症と2型糖尿病の病歴があった(微小血管障害と大血管障害を大いに連想させる症状であった)。各供与体から得た新生細胞は、10%のFCSと5%のHSが補給されたEMEM/F-12媒体で1000個/平方センチメートルの密度で平板培養され、集密するまで成長させられた。上澄み試料が採取されて、PIGFおよびVEGFタンパク質の発現率について定量分析が行われた。図16Aおよび図16Bに例示されているように、その結果は、本発明の脂肪組織由来の新生細胞によってVEGF(図16A)とPIGF(図16B)の両方の確固とした発現を実証している。
【0174】
別の研究では、正常な大人のマウスから得て培養した新生細胞によって分泌された血管新生に関与するサイトカインの相対量が測定された。新生細胞はFBSを10%含むアルファMEMで細胞が集密になってから5日経過するまで培養され、この時点で、細胞培養媒体が収穫され、抗体配列分析(レイバイオ・マウスサイトカイン抗体配列II(RayBio:登録商標、 Mouse Cytokine Antibody Array II)、レイバイオテク(RayBiotech, Inc.))によって評価された。次のような血管新生関連の成長因子が検出された。血管内皮成長因子(VEGF)、bFGF、IGF-II、エオタキシン、G-CSF、GM-CSF、IL-12p40/p70、IL-12p70、IL-13、IL-6、IL-9、レプチン、MCP-1、M-CSF、MIG、PF-4、TIMP-1、TIMP-2、TNF-α、および、スロンボポエチンなどである。FBSを10%含むブランクコントロール媒体と比較して、次のような血管新生関係の成長因子またはサイトカインが少なくとも2度、評価された。血管内皮成長因子(VEGF)、エオタキシン、G-CSF、IL-6、MCP-1、PF-4などである。
【0175】
このようなデータは、本発明の新生細胞がワイドアレイの血管新生成長因子と動脈新生成長因子を発現することを実証している。更に、糖尿病患者が正常な患者のレベルに等しいレベルでVEGFとPIGFを発現したという発見が暗示するのは、自家移植の脂肪組織由来の新生細胞によって、糖尿病患者が血管新生治療の候補者となり得るということである。
【0176】
具体例2:血管新生に関与する細胞集団を含む新生細胞
血管内皮細胞とそれらの前駆細胞、血管内皮始原細胞(EPC)は血管新生に関与することが分かっている。EPCが脂肪組織由来の新生細胞中に存在しているか否かを判断するために、ヒト脂肪組織由来の新生細胞がCD-34などのEPC細部表面マーカーについて評価された。
【0177】
ADCは、ヒト皮下脂肪組織の酵素温浸により隔離培養された。ADC(100 ml)が0.2 %の牛胎児血清を含有する燐酸緩衝生理食塩水(PBS)で保温培養されてから、20分から30分間、摂氏4度で保温培養され、この時、蛍光標識抗体はヒト血管内皮マーカーCD-31(分化した血管内皮細胞マーカー)およびCD-34(EPCマーカー)のほかに、ヒトABCG2(ATP結合カセットトランスポーター)を指し示すが、これは多型潜在性細胞で選択的に発現させられる。洗浄後、細胞はFACSAriaソーター(ベクトン・ディッキンソン製の免疫検査血球計算器)で分析された。次に、データ獲得とデータ分析がFACSDivaソフトウエア(ビー・ディー・イミュノサイトメトリ(BD-Immunocytometry)、カリフォルニア州)によって実施された。その結果(図示せず)が示したのは、健康な成人から得た脂肪組織由来の新生細胞はEPCマーカーCD-34とABCG2を発現するが、血管内皮細胞マーカーCD-31を発現しないということであった。EPCマーカーCD-34とABCG2を発現する細胞は、糖尿病の病歴を有する供与体に由来する新生細胞で、同程度の頻度で検出された。
【0178】
ヒト脂肪組織由来の新生細胞を血管内皮細胞分化媒体中で培養した後で、かかる新生細胞中のEPCの頻度を判定するために、フィブロネクチンが皮膜された培養基で新生細胞を平板培養してから、3日間、血管内皮細胞媒体で培養し、成熟した血管内皮細胞を取出した。非接着性細胞が取出され、再度、平板培養し直された。14日後、細胞群体はFITC共役ハリエニシダのアグルチニン-1(ヴェクター・ラブズ(Vector Labs)、カリフォルニア州バーリンゲーム)とDiI標識アセチル化LDL(モレキュラー・プローブズ(Molecular Probes)、オレゴン州ユージーン)で染色することにより同定された。ズ17に例示されているように、結果的として、EPC頻度が約500 EPC/106ADC細胞個数であることが示された。
【0179】
脂肪組織由来の新生細胞にEPCが存在していることで分かるのは、これらの細胞が新血管の発達に直接関与しており、血管新生と再灌流を向上させることができるということである。
【0180】
具体例3:新生細胞の血管構造の生体外発達
当該技術で認知されている血管新生のアッセイは、線維芽細胞の培養層上で成長させられた血管内皮細胞に、発生期の毛細管網を思わせるCD31ポジティブ管の複雑な網状組織を発達させる分析である(ドノヴァン(Donovan)ほか、2001年)。脂肪組織由来の新生細胞は血管内皮細胞、EPC、および、それ以外の間質細胞前駆物質を含有しているので、このような新生細胞が培養層が無い条件で毛細管状の構造を形成する能力を試験してみた。正常なマウスの鼠蹊部脂肪蹠球から得た新生細胞が、培養後2週間で、毛細管網状組織を発達させた(図18(A))。注目に値するのは、ストレプトゾトシン(STZ)誘発1型糖尿病に罹患し、STZを投与した後8週間の過血糖症のマウス由来の新生細胞が、正常なマウス由来の細胞によって形成されたものに等しい毛細管網状組織を形成したことである(図18(B))。
【0181】
その後の研究で、脂肪組織由来の新生細胞は完全な培養媒体(10%のFCSが補給されたα-MEM)で培養され、それ以外に成長因子を追加することはなかった。このような新生細胞も毛細管網状組織を形成した。更に、血管構造は血管内皮細胞マーカーCD31、CD34、VE-カドヘリン、フォン・ヴィレブラント因子/因子VIIIについては染色ポジティブ形質が現れたが、汎リンパ球マーカーCD45については現れなかった。
【0182】
若いマウスと年長のマウスから得た新生細胞が毛細管網状組織を形成する能力を比較するために、正常な若いマウスと年長のマウス(年齢1ヶ月、12ヶ月、18ヶ月)から得た新生細胞を2週間、完全な培養媒体(10%のFCSが補給されたα-MEM)で培養し、それ以上の成長因子を追加しなかった。全供与体から得た新生細胞の培養において、同等の毛細管状の網状組織が観察された(図示せず)。
【0183】
前述のデータが実証しているのは、正常な患者と糖尿病の患者から得た脂肪組織由来の新生細胞ばかりか、若い患者と年長の患者から得た脂肪由来の新生細胞も同様に、発生期の毛細管網状組織を形成する点で一致する血管構造を形成する、ということである。従って、本発明の新生細胞は、血管新生障害を治療するために利用することができる。
【0184】
具体例4:新生細胞の血管構造の生体内発達
生体外血管新生の潜在的可能性は、見込みはあるが、細胞が生体内血管新生活動を行えないのであれば、価値が無い。外科手術で誘発した後肢虚血症は、所与の治療の血管新生の潜在的可能性を認識することのできる生体内モデルである。このモデルは免疫欠陥のある(NOD-SCID)マウスで展開されたが、この場合、ヒトの細胞が血流再開を促す能力を観察することができた。
【0185】
術前の血流値は、後で説明されるように、両方の後肢について測定された。麻酔をかけられたマウスの血管を4−0の絹の結紮糸で縛ったが、結紮部位は次のとおりであった。1)腸骨動脈の分岐点付近、2)大腿深動脈の起点のすぐ遠位位置、3)大腿動脈表層の分岐点のすぐ近位位置、である。結紮後、血管はひとまとめにして取除かれた。傷口閉鎖の前に、結紮された大腿動脈から分岐している、よく見える側枝も結紮された。24時間後、129Sマウスには5×106個の共通遺伝子マウスの脂肪組織由来の新生細胞が注入され、NOD-SCIDマウスにはヒト脂肪組織由来の新生細胞が尾の静脈から注入された。外科手術直後と、レーザードップラー血流画像化装置(ムーア・インスツルメンツ(Moor Instruments, Inc.)、デラウエア州ウイルミントン)を使った治療後の合間とに、血流が画像化された。24日間で1週間に3回採取された測定値は、件の肢についての術前値に合わせて標準化され、対象実験肢(手術を受けていない肢)と比較的表示された。
【0186】
後肢の虚血症のモデルは使用されたマウスの遺伝系統に極度に敏感である。NOD-SCIDマウスは免疫欠陥動物であり、急性炎症反応を引き起こす能力を欠落している。このようなマウスについて、この外科手術アプローチは深刻な虚血を生じ、治療を受けなかった個体の3分の2が大腿切開部位より下の後肢を喪失するほどである。細胞治療を受けていない個体で、つま先より上の構造を喪失したものはいない。しかし、免疫適格129Sマウスについては、治療を受けていない個体で後肢し骨より上の構造を喪失したものはなく、部分的であれ再灌流を再生する内因性能力を示した。これは、急性炎症反応に付随する内在する血管新生形質が原因である。これにより、治療を受けた動物と異なる遺伝系統の対象実験動物を比較した場合に、なぜ血流再開がそれほど極端でなかったかの説明がつく。
【0187】
しかし、結果が示しているのは、脂肪組織由来の新生細胞で治療を受けたマウスは、いずれの遺伝系統の治療を受けていないマウスと比較しても、血流再開がかなり改善されたのが明らかだったということである。12日目までに、ヒトの新生細胞で治療を受けたNOD-SCIDマウスの50±11%までが血流が回復し、これに比べて、治療を受けていないマウスは10±10%しか血流が回復しなかった(pは0.05未満)。同様に、免疫適格の129Sマウスは14日目には80±12%の血流再開を示したが、これに比べると、治療を受けていないマウスの血流再開率は56±4%であった。更に、マウスの大きな切開部のおかげで、新生細胞で治療を受けたマウスの後肢の側枝血管の発現がはっきりと分かったが、治療を受けていないマウスの後肢や、どのマウスであれ健康な後肢には側枝血管の発現が見られなかった。
【0188】
具体例5:ADC投与量を増やすと、移植片生着と血管新生が向上する
自家移植の脂肪組織を移植することは、形成外科手術や再建外科手術では比較的ありふれた処置である(フルトン(Fulton)、1998年;シッフマン(Shiffman)、2001年)。しかし、この諸費は、脂肪組織の部分は血管補強をせずに移植され、その結果、移植片の生着は血管形成で決まるという事実により制約を受けている(コールマン(Coleman)、1995年;エップリー(Eppley)ほか、1990年)。従って、制約された方法では、移植された組織は虚血組織を再発する。
【0189】
フィッシャーのラットについての研究が実施され、脂肪組織の部分が外側太腿の筋肉上の皮下空間に移植された。右肢には0.2グラムの脂肪組織部分のみが移植され、左肢には0.2グラムの脂肪組織部分で、3人の異なる供与体の脂肪組織由来の幹細胞を添加することで補給されたものが移植された(1.7×105から1.3×106細胞個数/1移植片;単位投与量あたり3匹分の幹細胞)。このようにして、反対側の肢が対象実験の肢として利用される。或るアプローチでは、1回分以上の投与量が注射によって投与される。動物個体は1か月間管理された後、個体は安楽死させられ、移植片を取出し、計量し、フォルマリンで処理され、パラフィンに包埋し、組織学的分析に備える。
【0190】
図20Aに例示されているように、結果から、対象実験の肢の移植組織の定着率は極めて低く、治療を受けた肢では、移植重量の定着率が投与量に依存して増大しているのが分かる。更に、移植を免疫組織化学的に解析した結果、脂肪組織由来の幹細胞で処理された移植片では、かなりの新血管新生と血流再開が観察された(図20Bの矢印部分)。これはまた、脂肪組織形態の定着とも連携していた(図20B)。
【0191】
従って、具体例1から具体例5が実証しているのは、本発明の脂肪組織由来の新生細胞が血管新生成長因子と動脈新生成長因子を分泌し、生体外で発生期の毛細管網状組織を形成し、脂肪移植の生着を向上させ、虚血再灌流を改善する、ということである。従って、本発明の新生細胞は血管新生と動脈新生を促進することができ、また、潜在的循環機能不全を伴う多数の疾患の治療に機能し得る。
【0192】
多数の出版物や特許を上段で引例に挙げてきた。引例に挙げた出版物や特許は、各々をここに援用することで、それぞれの全体が本件の一部をなすものとしてここに援用する。
【0193】
(均等例)
当業者であれば、本件に記載されている本発明の特定の実施形態の均等例を数多く認識し、お決まりの実験程度のことを利用して確認することができるだろう。このような均等例は添付の特許請求の範囲に含まれるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1】新生細胞を組織から分離するシステムが1個のフィルター組立体を備えているのを例示した図である。
【図2】図1に類似しているシステムが直列配置の複数のフィルター組立体を備えているのを例示した図である。
【図3】図1に類似しているシステムが並列配置の複数のフィルター組立体を備えているのを例示した図である。
【図4】新生細胞を組織から分離するシステムが1個の遠心分離チャンバーを備えているのを例示した図である。
【図5】収集チャンバーがシステムで利用されて新生細胞を組織から分離する前置フィルターを備えているのを例示した断面図である。
【図6】新生細胞を組織から分離するシステムの処理チャンバーが濾過フィルターシステムを利用しているのを例示した断面図である。
【図7】新生細胞を組織から分離するシステムの処理チャンバーが新生細胞を濃縮する遠心分離装置を利用しているのを例示した断面図である。
【図8】図7の処理チャンバーのまた別な断面図である。
【図9】図9において、(A)、(B)、(C)は本発明のシステムと併用する際の溶離部材を例示した図である。
【図10】新生細胞を組織から分離するシステムが真空圧を利用して流体にシステム内を移動させているのを例示した図であって、真空システムはシステムの出口に真空ポンプと真空源を付与することで構築され、所定の速度で制御されて組織と流体を吸引し、コック栓、通気孔、クランプからなるシステムを利用して流れの方向とタイミングを制御しているのを説明した図である。
【図11】新生細胞を組織から分離するシステムが正圧を利用して流体にシステム内を移動させるのを例示した図であって、正圧システムは蠕動ポンプなどの機械手段を利用して流体や組織を押圧または推進して所定速度でシステム内を移動させ、弁、コック栓、通気孔、鉗子などを利用して流れの方向とタイミングを制御しているのを説明した図である。
【図12】図12において、(A)は流体の給水流がフィルターの穿孔に対して接線方向に流れる濾過プロセスを例示した図であり、(B)は給水流がフィルターの穿孔に対して直交方向に流れる濾過プロセスを例示した図である。
【図13】本発明のシステムの具体的な使い捨てセットを例示した図である。
【図14】本発明のシステムの具体的な再利用可能な構成要素を例示した図である。
【図15A】本発明の具体的な装置が図13の使い捨て可能なセットと図14の再利用可能な構成要素を利用して組み立てられているのを例示した図である。
【図15B】ソフトウエアプログラムにより実現され、本発明のシステムの自動化実施形態を制御する具体的な事前にプログラムされた段階を説明したフロー図であって、2個の代替の処理パラメータがシステムの多目的性を示しているのを例示した図である。
【図16】図16Aと図16Bは培養による脂肪組織由来の幹細胞によってVEGF(5A)およびPIGF(5B)タンパク質が発現するのを描いた図である。
【図17】脂肪組織由来の幹細胞集団内の血管内皮始原細胞の検出を描いた図である。
【図18】図18において、(A)および(B)は、正常なマウス(7A)とストレプトゾトシンによる治療を受けたマウス(7B)の両方の個体の血管構造の生体外発達を描いた図である。
【図19】脂肪組織由来の幹細胞を使った治療を受けた後肢虚血症のマウスの血流の平均的な回復率が増大するのを、治療を受けていない、または、虚血症に罹っていない対象実験個体と比較して描いた図である。
【図20A】脂肪組織由来の幹細胞の投与量を増大させることで移植細胞の生着と血管新生が向上するのを例示する図である。
【図20B】組織学的検体の脂肪組織構造の定着率を描いた図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の抹消血管疾患(PVD)を治療する方法において、或る濃度の新生細胞を注入することにより患者に新生細胞を投与する段階を含むことを特徴とする治療方法。
【請求項2】
被検体が人間であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記新生細胞は幹細胞を含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記新生細胞は始原細胞を含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記新生細胞は幹細胞と始原細胞を配合して含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記新生細胞は血管の異常や障害を治療するために投与されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記新生細胞は抹消動脈疾患(PAD)を治療するために投与されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記新生細胞は動脈硬化、血管の外傷性創傷、炎症性動脈炎のうちの少なくとも1つを治療するために投与されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記新生細胞は患者の心外組織の異常または障害を治療するために投与されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は前記新生細胞の塊を投与する段階を含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記方法は多数回の投与分の前記新生細胞を投与する段階を含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は1種類以上の血管新生因子を投与する段階を更に含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記方法は1種類以上の免疫抑制剤を投与する段階を更に含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記新生細胞は血管内投与経路、筋内投与経路、皮下投与経路のうち少なくとも1つを介して投与されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記方法は患者の血管に前記新生細胞を投与する段階を更に含んでいることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記新生細胞は、患者に投与される前に、細胞培養で成長させられることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記新生細胞は、血管新生表現型への分化を促進する培養条件で成長させられることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞培養条件は血管内皮表現型への分化を促進することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞培養は、患者の体内外に移植することができる2次元構造または3次元構造を生成する骨格材料の上で実施されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記骨格材料は生体内で再吸収されることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記新生細胞は遺伝子伝達により改修され、そのため、改修後の新生細胞中の1種類以上の遺伝子の発現が変化させられることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記改修の結果、被検体の血管新生のレベルが変わることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記改修の結果、被検体の先在している小型血管の酸素供給が改善されることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記改修の結果、前記新生細胞のホーミング特性が変わることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
患者の抹消血管疾患(PVD)を治療する方法は、或る濃度の新生細胞を注入することにより患者に新生細胞を投与する段階を含み、新生細胞組成は脂肪組織が最初に収穫された組織供与体と同一物である被検体に投与されることを特徴とする治療方法。
【請求項26】
患者の血管成長を促進する方法であって、注射により組織の局所化された領域を或る濃度の新生細胞と接触させて、組織の該領域内の血管成長を誘発するようにしたことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20A】
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【図20B】
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【公表番号】特表2007−505904(P2007−505904A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526870(P2006−526870)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【国際出願番号】PCT/US2004/021480
【国際公開番号】WO2005/034843
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(503077877)サイトリ セラピューティクス インコーポレイテッド (32)
【Fターム(参考)】