説明

押えプレート、ボールねじ、ボールねじ用潤滑剤供給体収容ケース

【課題】ボールねじのナットの軸方向端部にボール循環部品を固定する循環部品固定部材として使用でき、取り付け作業が容易に行える押えプレートを提供する。
【解決手段】押えプレート14は、樽形の面形状を有する板状部材であり、ナット8の凹部81の各円弧状内周面81bに接触する一対の円弧状外周面14aと、ねじ軸4を貫通する中心穴14bを有する。円弧状外周面14aの円弧の中心に凹部30を有する。凹部32の両側に、円弧状外周面14aから突出する突起31を有する。これらの突起31はナット8の突起挿入穴81cに挿入される。円弧状外周面14aの近傍に、板厚方向に貫通する開口部32を形成する。開口部32は、円弧状外周面14aと同心の円弧状開口部32aの両端に円形開口部32bが接続された面形状を有し、円弧状開口部32aの径方向寸法より円形開口部32bの直径が大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、筒状部材(ボールねじ用ナット等)の軸方向端面に取り付けて使用される押えプレートと、これを循環部品固定部材として備えたボールねじと、ボールねじ用潤滑剤供給体収容ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道(転動路)の間に配置されたボールと、ボールを軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動する装置である。
内部循環型のボールねじでは、ナットに軸方向に延びる貫通穴(ボール戻り路)を設け、この貫通穴と前記軌道を接続するボール誘導路が形成されたボール循環部品を、ナットの軸方向両端部に設けた凹部(嵌入部)に配置することで、ボール戻し経路を形成している。
【0003】
特許文献1では、このボール循環部品をナットに簡単に固定するための提案がなされている。具体的には、ボール循環部品に弾性変位する材料からなる環状体を一体化し、前記環状体を、ナットの内周面に設けた係合溝に係合させることが記載されている。
工作機械等のように、複数のボールねじを並列に機台に固定してボールねじ装置を形成する場合には、ナットを径方向に小型化できることが望ましい。しかし、特許文献1のように、ボール循環部品をナットに固定する部材(循環部品固定部材)として環状体を用いると、ナットの最小幅を循環部品固定部材の外径未満とすることができない。
これに対して、ナットの軸に垂直な断面形状を、ボール循環部品の嵌入部が完全に含まれる範囲の樽形(一対の対向する円弧が二つの平行な直線で接続された形状)にするとともに、循環部品固定部材もナットと同様の樽形に形成すれば、ナットを径方向に小型化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−240093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、ボールねじのナットの軸方向端部にボール循環部品を固定する循環部品固定部材として使用できる押えプレート、およびねじ軸の外周側に配置する潤滑剤供給体を収容するボールねじ用潤滑剤供給体収容ケースとして、取り付け作業が容易に行えるものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明の押えプレートは、弾性材料からなり、一対の円弧状外周面と中心穴を有する板状部材であって、前記一対の円弧状外周面の近傍に、板厚方向に貫通する開口部が、前記円弧状外周面と同心の円弧状に形成され、前記各円弧状外周面の円弧の中心に凹部が形成され、前記凹部の両側に前記円弧状外周面から突出する一対の突起が形成されていることを特徴とする。
【0007】
この発明の押えプレートは、軸方向端面に凹部が形成され、前記凹部の壁面が前記円弧状外周面と接触する一対の円弧状内周面を有し、前記各円弧状内周面に前記一対の突起が入る突起挿入穴が形成されている筒状部材(例えば、軸に垂直な断面が樽形または円形のボールねじ用ナット)の前記凹部に取り付けて使用される。
この発明の押えプレートは、前記開口部が存在する周縁部を弾性変形させて、前記一対の突起を前記筒状部材の突起挿入穴に嵌合することで取り付けられる。その際に、円弧状外周面に凹部が形成され、その両側に一対の突起が形成されているため、大きく弾性変形することにより、取り付け作業を容易にすることができる。
【0008】
この発明の押えプレートの前記開口部が、前記円弧状外周面と同心の円弧状開口部の両端に円形開口部が接続された面形状で、前記円弧状開口部の径方向寸法より前記円形開口部の直径が大きく形成されていると、同じ面積で円弧状開口部のみからなる開口部が形成されている押えプレートと比較して、弾性変形量が大きくなる。よって、押えプレートによる保持力(面圧)の低下につながる開口部の面積を最小限に抑えながら、取り付け作業を容易にすることができる。
【0009】
この発明の押えプレートは、ボールねじのナットの軸方向端部にボール循環部品を固定する循環部品固定部材として使用することができる。その場合、前記ナットとして、軸方向端面に凹部が形成され、この凹部の底面に、軸方向にさらに凹んだボール循環部品嵌入部が形成され、前記凹部の壁面が押えプレートの円弧状外周面と接触する一対の円弧状内周面を有し、前記円弧状内周面に押えプレートの前記一対の突起が入る突起挿入穴が形成されているものを使用する。
この発明の押えプレートが、前記一対の円弧状外周面をなす円弧が二つの平行な直線で接続された樽形の面形状を有するものであると、軸に垂直な断面が樽形に形成された前記筒状部材(例えば、ボールねじ用ナット)の軸方向端部に取り付けて使用することができる。
【0010】
この発明は、また、この発明の押えプレートを、ナットの軸方向端部にボール循環部品を固定する循環部品固定部材として備えたボールねじであって、前記ナットの軸方向端面に凹部が形成され、この凹部の底面に、軸方向にさらに凹んだボール循環部品嵌入部が形成され、前記凹部の壁面が前記押えプレートの円弧状外周面と接触する一対の円弧状内周面を有し、前記円弧状内周面に前記押えプレートの前記一対の突起が入る突起挿入穴が形成され、前記ボール循環部品嵌入部にボール循環部品が嵌入され、前記押えプレートの中心穴をねじ軸が貫通し、前記ナットの凹部の各円弧状内周面と前記押えプレートの各円弧状外周面が接触し、前記押えプレートの前記一対の突起が前記ナットの突起挿入穴に挿入されて、前記押えプレートの面圧により前記ボール循環部品が前記ナットに固定されていることを特徴とするボールねじを提供する。
【0011】
この発明は、また、軸方向端面に凹部が形成され、前記凹部の壁面が一対の対向する円弧状内周面を有し、前記円弧状内周面に突起挿入穴が形成されているナットの、前記凹部に取り付けて使用され、ねじ軸の外周側に配置する潤滑剤供給体を収容する筒体部と、この筒体部を前記ナットの前記凹部へ着脱可能に取り付ける取付部と、を有するボールねじ用潤滑剤供給体収容ケースであって、前記取付部は、弾性材料からなり、前記円弧状内周面と接触する一対の円弧状外周面と前記ねじ軸を貫通させる中心穴を有する板状部材であって、前記一対の円弧状外周面の近傍に、板厚方向に貫通する開口部が、前記円弧状外周面と同心の円弧状に形成され、前記各円弧状外周面の円弧の中心に凹部が形成され、前記凹部の両側に前記円弧状外周面から突出する一対の突起が形成されていることを特徴とするボールねじ用潤滑剤供給体収容ケースを提供する。
【0012】
この発明のボールねじ用潤滑剤供給体収容ケースは、前記取付部の前記開口部が存在する周縁部を弾性変形させて、前記一対の突起を前記筒状部材の突起挿入穴に嵌合することで取り付けられる。その際に、前記円弧状外周面に凹部が形成され、その両側に一対の突起が形成されているため、大きく弾性変形する。よって、取り付け作業を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の押えプレートによれば、ボールねじのナットの軸方向端部に容易に取り付けることができる。
この発明の押えプレートを潤滑部品固定部材として使用することで、ボールねじのナットの軸方向端部にボール循環部品を固定する作業を容易に行うことができる。すなわち、この発明のボールねじによれば、ナットの軸方向端部にボール循環部品を固定する作業を容易に行うことができる。
この発明のボールねじ用潤滑剤供給体収容ケースによれば、ボールねじのナットの軸方向端部に容易に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の第1実施形態のボールねじを示す正面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1のボールねじを構成するナットの軸方向端部を示す斜視図である。
【図4】図1のボールねじを構成する押えプレートを示す斜視図である。
【図5】図1のボールねじを構成する押えプレートにおける開口部の形成位置を説明する図(図1の部分拡大図)である。
【図6】押えプレートによりボール循環部品をナットの軸方向端部に固定する際の作業手順を説明する図である。
【図7】ナット端面の凹部に形成されたボール循環部品嵌入部にボール循環部品が挿入された状態を示す正面図である。
【図8】図1のボールねじを備えたボールねじ装置を示す図であって、(a)は側面図、(b)は(a)のB矢視図である。
【図9】軸に垂直な断面形状が円であるナットに、押えプレートを取り付けたボールねじを示す正面図である。
【図10】この発明の第2実施形態のボールねじを示す正面図である。
【図11】図10のA−A断面図である。
【図12】図10のボールねじを構成する潤滑剤供給体収容ケースの側面図(a)とそのC矢視図(b)、そのD矢視図(c)、斜視図(d)である。
【図13】図12の潤滑剤供給体収容ケースを構成する筒体部の軸方向一端部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
この実施形態では、この発明の一実施形態に相当する押えプレートを、ナットの軸方向端部にボール循環部品を固定する循環部品固定部材として備えたボールねじについて説明する。
図1および2に示すように、この実施形態のボールねじ1は、ねじ軸4と、ナット8と、ボール10と、ボール循環部品12と、押えプレート14とで構成されている。
ねじ軸4は、合金鋼等の鋼材により形成された棒状部材であり、螺旋状のねじ軸側軌道溝16を外周面に有している。ねじ軸4の端部は、モータ等の回転動力源(図示せず)に連結されている。
【0016】
ナット8は、合金鋼等の鋼材により、軸に垂直な断面が樽形に形成された筒状部材であって、ねじ軸4の外周側に配置されている。ナット8の外周面に、ねじ軸側軌道溝16と対向するナット側軌道溝18が形成されている。すなわち、ねじ軸側軌道溝16とナット側軌道溝18は、同じリードで形成されている。また、ナット8には、ねじ軸4の軸方向に延在してナット8を貫通する、ボール戻り路20が形成されている。
【0017】
ナット8の軸方向両端面に、押えプレート14を取り付ける凹部81が形成されている。図3に示すように、この凹部81の底面81aに、軸方向にさらに凹んだボール循環部品嵌入部82が形成されている。ボール循環部品嵌入部82の底面に、ボール戻り路20と連通する穴82aが形成されている。ナット8の凹部81の壁面81bは、一対の円弧状内周面からなる。各円弧状内周面81bには、円弧の中心位置(互いに径方向で向かい合う位置)に断面が長円の突起挿入穴81cが形成されている。
【0018】
ボール10は、例えば、合金鋼等の鋼材で形成された球体であり、ねじ軸側軌道溝16とナット側軌道溝18との間に形成される負荷転動路26内に、転動自在に装填されている。すなわち、ボールねじ1は、ねじ軸4(またはナット8)の回転運動に伴って、負荷転動路26内をボール10が転動する。このボール10の転動により、ナット8(またはねじ軸4)がボール10の転動を介して、ねじ軸4の軸方向に沿って直線移動する構成となっている。
【0019】
ボール循環部品12は、図2に示すように、その内部にボール誘導路28が形成されていて、ナット8の凹部81に形成されたボール循環部品嵌入部82に配置されている。ボール誘導路28は、負荷転動路26とボール戻り路20とを連通する通路であり、一方の端部に移動したボール10を負荷転動路26内からすくい上げ、そのすくい上げたボール10を、他方の端部から、ボール戻り路20を介して負荷転動路26内へ戻す。
これにより、ボール10は、ねじ軸4またはナット8の回転運動に伴って、ボール誘導路28及び負荷転動路26内を無限循環する。すなわち、負荷転動路26及びボール誘導路28によって、ボール10の無限循環通路が形成されている。
【0020】
押えプレート14は、図4に示すように、樽形の面形状を有する板状部材であり、ナット8の凹部81の各円弧状内周面81bに接触する一対の円弧状外周面14aと、ねじ軸4を貫通する中心穴14bを有する。
押えプレート14の各円弧状外周面14aには、円弧の中心位置に凹部30が形成されている。この凹部32の両側に、円弧状外周面14aから突出する円柱状の突起31が形成されている。凹部32を挟んで隣り合う二つの突起31が、ナット8の各円弧状内周面81bの突起挿入穴81cに挿入される。
【0021】
押えプレート14の円弧状外周面14aの近傍に、板厚方向に貫通する開口部32が形成されている。開口部32は、円弧状外周面14aと同心の円弧状開口部32aの両端に円形開口部32bが接続された面形状で、円弧状開口部32aの径方向寸法より円形開口部32bの直径が大きく形成されている。
押えプレート14における開口部32の形成位置は、図5に示すように、円弧状開口部32aより外周側で、ボール循環部品12が押えプレート14と重なる部分の長さLが0.5mm以上となるように設定されている。この外周側での重なり部分の長さLは、円弧状開口部32aの外側の円弧の、凹部30の中心線(ナット8の径方向に沿った線)Aとの交点における接線LA と、接線LA を、ボール循環部品12の最も外周側の点と接触するまで平行移動させた接線LB との距離である。
この実施形態の押えプレート14は、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリイミド等を用いた射出成形法により製造することができる。
【0022】
ボール循環部品12は、図6に示す手順で、押えプレート14によりナット8の軸方向端部に固定されている。すなわち、先ず、ナット8の凹部81に形成されたボール循環部品嵌入部82に、ボール循環部品12を挿入する。図7はこの状態を示す正面図である。次に、押えプレート14の開口部32が存在する周縁部を弾性変形させて、押えプレート14の二つの突起31をナット8の突起挿入穴81cに嵌合する。
【0023】
その際に、この実施形態の押えプレート14は、円弧状外周面14aに凹部30が形成され、その両側に突起31が形成され、開口部32が円弧状開口部32aの両端に円形開口部32bが接続された面形状に形成されているため、大きく弾性変形する。よって、取り付け作業を容易にすることができる。また、開口部32が同じ面積で円弧状開口部32aのみからなる押えプレートと比較して、弾性変形量が大きくなるため、押えプレート14によるボール循環部品12の保持力(面圧)の低下につながる開口部32の面積を最小限に抑えることができる。
【0024】
また、ボール循環部品12が押えプレート14により、円弧状開口部32aの外周側で重なり部分L≧0.5mmを満たす状態で押さえられているため、ボールねじ1の安定的な作動状態が確保できる。具体的には、ボールねじ1の作動時に、ボール10がボール循環部品12のボール誘導路28を通過する衝撃により、ボール循環部品12が押えプレート14をナット8から外れる方向へ押圧した場合でも、押えプレート14の変形が抑制される。
【0025】
この実施形態のボールねじ1を、複数、並列に配置することで、図8に示すボールねじ装置2を形成することができる。このボールねじ装置2は、例えば、チップマウンターが備える、鉛直方向軸(Z軸)へ移動する搬送装置に相当する。
このボールねじ装置2では、複数のボールねじ1が、互いに、ねじ軸4の軸方向を平行に、且つ、ナット8の樽形断面の平行な面を対向させて配列した状態で、機台6に取り付けられている。すなわち、図8(b)に示すように、各ナット8の最小幅Wmin同士が並んだ配置となっている。
【0026】
したがって、この実施形態のボールねじ1は、ナット8の軸に垂直な断面形状が樽形であるため、ナットの断面形状が円形のボールねじと比較して、機台6の寸法を小さくできる分だけボールねじ装置2を小型化できる。また、ナット8の重量を低減できる分だけ、ボールねじ装置の駆動に用いるモータ等の動力源を小型化することも可能となる。
なお、この実施形態では、面形状が樽形である押えプレート14を用いて、軸に垂直な断面形状が樽形であるナット8にボール循環部品12を固定しているが、図9に示すように、この実施形態の面形状が樽形である押えプレート14を、軸に垂直な断面形状が円形であるナット8Aにボール循環部品12を固定する用途で使用してもよい。その場合、ナット8Aの軸方向両端面に、円環状の底面83aと円周面状の壁面(一対の円弧状内周面を含む)83bとからなる凹部を設け、壁面83bに突起挿入穴83cを形成する。
【0027】
[第2実施形態]
この実施形態では、この発明の一実施形態に相当するボールねじ用潤滑剤供給体収容ケースを備えるとともに、この発明の一実施形態に相当する押えプレートを、ナットの軸方向端部にボール循環部品を固定する循環部品固定部材としてだけでなく、ボールねじ用潤滑剤供給体収容ケースの筒体部に潤滑剤供給体を固定する潤滑剤供給体固定部材としても備えたボールねじについて説明する。
図10は、第2実施形態のボールねじを示す正面図である。図11は、図10のA−A断面図である。図11のB矢視は図1と同じである。
これらの図に示すように、この実施形態のボールねじ1は、ねじ軸4と、ナット8と、ボール10と、ボール循環部品12と、押えプレート14と、潤滑剤供給体収容ケース40と、潤滑剤供給体42とで構成されている。
【0028】
ねじ軸4、ナット8、ボール10、ボール循環部品12、および押えプレート14は、第1実施形態と同じものである。すなわち、このボールねじ1のナット8および押えプレート14は、軸に垂直な断面が樽形に形成されている。また、ナット8の軸方向両端面に凹部81が形成され、凹部81の壁面は一対の円弧状内周面81bからなる。
図12は潤滑剤供給体収容ケース40を説明する図であって、(a)は側面図、(b)は(a)のC矢視図、(c)は(a)のD矢視図であり、(d)は斜視図である。
図11および12に示すように、潤滑剤供給体収容ケース40は、潤滑剤供給体42を収容する筒体部43と、筒体部43をナット8に取り付ける取付部46とを有する。
【0029】
潤滑剤供給体42は、軸に垂直な断面が樽形で、ねじ軸4の外周面に接触する中心穴42aを有する環状に形成されている。潤滑剤供給体42は、例えば、潤滑剤含有ポリマ(ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系の合成樹脂に、ポリα−オレフィン油等のパラフィン系炭化水素油や、エーテル油、エステル油等の潤滑剤を単独または複数混合して混ぜ合わせた原料)を、射出成形等で成形することで得られる。
【0030】
筒体部43は、ナット8と同様の断面樽形の筒体であって、一対の円弧面部44と一対の平面部45とからなる。図13は、筒体部43の軸方向一端部を示す斜視図である。この図に示すように、筒体部43の軸方向一端部においては、一対の平面部45の端面に底面45aと壁面45bとからなる凹部が形成されている。凹部の底面45aの深さは、押えプレート14の厚さより少し大きな寸法である。また、筒体部43の軸方向一端部において、一対の円弧面部44の円弧状内周面44aには、円弧の中心位置(互いに径方向で向かい合う位置)に、押えプレート14の二つの突起31を挿入する断面が長円の突起挿入穴44cが形成されている。
【0031】
筒体部43の軸方向他端には、図11および12に示すように、円弧溝49を介して取付部46が一体に形成されている。取付部46は、樽形の面形状を有する板状部材であり、ナット8の凹部81の各円弧状内周面81bに接触する一対の円弧状外周面46aと、ねじ軸4を貫通する中心穴46bを有する。この中心穴46bは押えプレート14の中心穴14bより大きい。
【0032】
取付部46の各円弧状外周面46aには、円弧の中心位置に凹部47が形成されている。この凹部47の両側に、円弧状外周面46aから突出する円柱状の突起48が形成されている。凹部47を挟んで隣り合う二つの突起48が、ナット8の各円弧状内周面81bの突起挿入穴81cに挿入される。
取付部46の円弧状外周面46aの近傍に、板厚方向に貫通する開口部52が形成されている。取付部46の開口部52は、円弧状外周面46aと同心の円弧状開口部52aの両端に円形開口部52bが接続された面形状で、円弧状開口部52aの径方向寸法より円形開口部52bの直径が大きく形成されている。
【0033】
この実施形態の潤滑剤供給体収容ケース40は、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリイミド等を用いた射出成形法により製造することができる。
第2実施形態のボールねじ1Aにおいて、ナット8の軸方向一端(図11の左側)に対するボール循環部品12の固定は、第1実施形態と同じ手順で、押えプレート14を用いて行う。ナット8の軸方向他端(図11の右側)に対するボール循環部品12の固定、および潤滑剤供給体収容ケース40の筒体部43に対する潤滑剤供給体42の固定は、以下の方法で行う。
【0034】
先ず、ナット8の凹部81に形成されたボール循環部品嵌入部82に、ボール循環部品12を挿入する。次に、潤滑剤供給体収容ケース40の取付部46側をナット8側に向けて、取付部46の中心穴46b内にねじ軸4を通し、取付部46の開口部52が存在する周縁部を弾性変形させて、取付部46の二つの突起48をナット8の突起挿入穴81cに嵌合する。
その際に、潤滑剤供給体収容ケース40の取付部46は、円弧状外周面46aに凹部47が形成され、その両側に突起48が形成され、開口部52が円弧状開口部52aの両端に円形開口部52bが接続された面形状に形成されているため、大きく弾性変形する。よって、取り付け作業を容易にすることができる。また、開口部52が同じ面積で円弧状開口部52aのみからなる押えプレートと比較して、弾性変形量が大きくなるため、取付部46によるボール循環部品12の保持力(面圧)の低下につながる開口部52の面積を最小限に抑えることができる。
【0035】
次に、潤滑剤供給体42の中心穴42aにねじ軸4を通し、潤滑剤供給体収容ケース40の筒体部43に、潤滑剤供給体42を収容する。次に、押えプレート14の開口部32が存在する周縁部を弾性変形させて、押えプレート14の二つの突起31を潤滑剤供給体収容ケース40の突起挿入穴44cに嵌合する。
その際に、この実施形態の押えプレート14は、円弧状外周面14aに凹部30が形成され、その両側に突起31が形成され、開口部32が円弧状開口部32aの両端に円形開口部32bが接続された面形状に形成されているため、大きく弾性変形する。よって、取り付け作業を容易にすることができる。また、開口部32が同じ面積で円弧状開口部32aのみからなる押えプレートと比較して、弾性変形量が大きくなるため、押えプレート14による潤滑剤供給体42の保持力(面圧)の低下につながる開口部32の面積を最小限に抑えることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 ボールねじ
1A ボールねじ
2 ボールねじ装置
4 ねじ軸
6 機台
8 ナット
81 ナットの凹部
81a ナットの凹部の底面
81b ナットの円弧状内周面
81c ナットの突起挿入穴
82 ナットの凹部に設けたボール循環部品嵌入部
10 ボール
12 ボール循環部品
14 押えプレート
14a 押えプレートの円弧状外周面
14b 押えプレートの中心穴
16 ねじ軸側軌道溝
18 ナット側軌道溝
20 ボール戻り路
26 負荷転動路
28 ボール誘導路
30 押えプレートの凹部
31 押えプレートの突起
32 押えプレートの開口部
32a 円弧状開口部
32b 円形開口部
40 潤滑剤供給体収容ケース
42 潤滑剤供給体
42a 潤滑剤供給体の中心穴
43 筒体部
44 筒体部の円弧面部
44a 筒体部の円弧状内周面
44c 筒体部の突起挿入穴
45 筒体部の平面部
45a 筒体部の凹部の底面
45b 筒体部の凹部の壁面
46 取付部
46a 取付部の円弧状外周面
46b 取付部の中心穴
47 取付部の凹部
48 取付部の突起
49 円弧溝
52 取付部の開口部
52a 円弧状開口部
52b 円形開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材料からなり、一対の円弧状外周面と中心穴を有する板状部材であって、
前記一対の円弧状外周面の近傍に、板厚方向に貫通する開口部が、前記円弧状外周面と同心の円弧状に形成され、
前記各円弧状外周面の円弧の中心に凹部が形成され、前記凹部の両側に前記円弧状外周面から突出する一対の突起が形成されていることを特徴とする押えプレート。
【請求項2】
前記開口部は、前記円弧状外周面と同心の円弧状開口部の両端に円形開口部が接続された面形状で、前記円弧状開口部の径方向寸法より前記円形開口部の直径が大きく形成されている請求項1記載の押えプレート。
【請求項3】
前記一対の円弧状外周面をなす円弧が二つの平行な直線で接続された樽形の面形状を有する請求項1または2記載の押えプレート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の押えプレートを、ナットの軸方向端部にボール循環部品を固定する循環部品固定部材として備えたボールねじであって、
前記ナットの軸方向端面に凹部が形成され、この凹部の底面に、軸方向にさらに凹んだボール循環部品嵌入部が形成され、前記凹部の壁面が前記押えプレートの円弧状外周面と接触する一対の円弧状内周面を有し、前記円弧状内周面に前記押えプレートの前記一対の突起が入る突起挿入穴が形成され、
前記ボール循環部品嵌入部にボール循環部品が嵌入され、
前記押えプレートの中心穴をねじ軸が貫通し、前記ナットの凹部の各円弧状内周面と前記押えプレートの各円弧状外周面が接触し、前記押えプレートの前記一対の突起が前記ナットの突起挿入穴に挿入されて、
前記押えプレートの面圧により前記ボール循環部品が前記ナットに固定されていることを特徴とするボールねじ。
【請求項5】
軸方向端面に凹部が形成され、前記凹部の壁面が一対の対向する円弧状内周面を有し、前記円弧状内周面に突起挿入穴が形成されているナットの、前記凹部に取り付けて使用され、
ねじ軸の外周側に配置する潤滑剤供給体を収容する筒体部と、この筒体部を前記ナットの前記凹部へ着脱可能に取り付ける取付部と、を有するボールねじ用潤滑剤供給体収容ケースであって、
前記取付部は、
弾性材料からなり、前記円弧状内周面と接触する一対の円弧状外周面と前記ねじ軸を貫通させる中心穴を有する板状部材であって、
前記一対の円弧状外周面の近傍に、板厚方向に貫通する開口部が、前記円弧状外周面と同心の円弧状に形成され、
前記各円弧状外周面の円弧の中心に凹部が形成され、前記凹部の両側に前記円弧状外周面から突出する一対の突起が形成されていることを特徴とするボールねじ用潤滑剤供給体収容ケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−21587(P2012−21587A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159705(P2010−159705)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】