説明

押出加工工具

【課題】押出材の酸化を防止することができ且つ押出材の急冷に伴う押出材の形状や表面状態の変化を防止することができる押出加工工具を提供する。
【解決手段】押出加工工具15は、成形孔3を有する押出ダイス1を具備する。押出ダイス1に、成形孔3よりも下流側の押出材通過空間81に不活性ガスGを供給する不活性ガス供給流路7が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出材を押出加工により製造する際に用いられる押出加工工具、及び押出材の製造方法に関する。
【0002】
なお本明細書及び特許請求の範囲において、上流及び下流とは、それぞれ押出方向に対し上流及び下流を意味している。
【背景技術】
【0003】
押出ダイスを具備した押出加工工具を用いてアルミニウム製押出材を押出加工により製造する際には、押出ダイスの成形孔から押し出された押出材の酸化等を防止するため不活性ガスが成形孔よりも下流側の押出材通過空間に供給される(例えば特許文献1参照)。
【0004】
この押出加工において、押出ダイスの下流側には、ボルスタ、バッカ等の下流側部材が配置されるとともに、押出ダイスは下流側部材の温度よりも高い温度に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2916647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の方法では、押出材通過空間に供給される不活性ガスの温度は、押出材の温度(例えば約400℃)よりも格段に低かった。そのため、押出材が不活性ガスにより急冷されて押出材の形状や表面状態が変化するという難点があった。
【0007】
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、押出材の酸化を防止することができる上、更に、押出材の急冷に伴う押出材の形状や表面状態の変化を防止することができる押出加工工具及びこれを用いた押出材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の手段を提供する。
【0009】
[1] 成形孔を有する押出ダイスに、前記成形孔よりも下流側の押出材通過空間に不活性ガスを供給する不活性ガス供給流路が形成されていることを特徴とする押出加工工具。
【0010】
[2] 前記押出ダイスの下流側に押出ダイスの下流側端面に当接して配置される下流側部材を具備し、
前記押出ダイスの下流側端面に、不活性ガス供給流路形成用の溝が形成されるとともに、
前記溝の開口が前記下流側部材で閉塞されることにより、前記押出ダイスに前記不活性ガス供給流路が形成されている前項1記載の押出加工工具。
【0011】
[3] 前記溝は、前記押出ダイスの下流側端面に、前記押出ダイスの外周側から前記押出材通過空間に向かう方向に対して屈曲して形成されている前項2記載の押出加工工具。
【0012】
[4] 前記溝は、前記押出ダイスの下流側端面に、前記押出材通過空間の周りを取り巻く状態に屈曲して形成されている前項2又は3記載の押出加工工具。
【0013】
[5] 前記溝は、前記押出材通過空間の周りを1周以上取り巻く状態に屈曲して形成されている前項4記載の押出加工工具。
【0014】
[6] 押出加工工具は、アルミニウム又はその合金製の押出材を製造する際に用いられるものであり、
150℃以上の押出ダイスを用いて、前記押出材通過空間に150℃以上、660℃以下の不活性ガスが供給されるように構成されている前項1〜5のいずれかに記載の押出加工工具。
【0015】
[7] 押出加工工具を用いて押出材を押出加工により製造する押出材の製造方法であって、
押出加工工具として、前項1〜6のいずれかに記載の押出加工工具を用い、
前記押出加工工具の押出材通過空間に不活性ガス供給流路を介して不活性ガスを供給した状態で、押出材を押出加工により製造することを特徴とする押出材の製造方法。
【0016】
[8] 前記押出材通過空間内の不活性ガス圧力よりも前記不活性ガス供給流路内の不活性ガス圧力を大きくして前記押出材通過空間に不活性ガスを供給する前項7記載の押出材の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明は以下の効果を奏する。
【0018】
前項[1]の押出加工工具によれば、成形孔を有する押出ダイスに、成形孔よりも下流側の押出材通過空間に不活性ガスを供給する不活性ガス供給流路が形成されているので、不活性ガスが不活性ガス供給流路を流れて押出材通過空間に供給されることで押出材の酸化を防止することができる。さらに、不活性ガスが不活性ガス供給流路を流れる途中で押出ダイスにより加熱されてその温度が上昇する。そのため、押出材の急冷に伴う押出材の形状や表面状態の変化を防止することができる。
【0019】
ここで、不活性ガス供給流路は、押出ダイスの下流側に配置されるボルスタ、バッカ等の下流側部材に形成されるのではなく、押出加工時に下流側部材の温度よりも高い温度に設定される押出ダイスに形成されるので、不活性ガスの温度を迅速に上昇させることができる。そのため、より高温の不活性ガスを押出材通過空間に確実に供給することができ、これにより、不活性ガス供給流路が下流側部材に形成された場合に比べて、押出材の形状や表面状態の変化をより確実に防止することができる。
【0020】
前項[2]の押出加工工具によれば、押出ダイスの下流側端面に不活性ガス供給流路形成用の溝が形成されるとともに、この溝の開口が下流側部材で閉塞されることにより、押出ダイスに不活性ガス供給流路が形成されているので、押出ダイスに不活性ガス供給流路を容易に形成することができる。
【0021】
前項[3]の押出加工工具によれば、溝が、押出ダイスの下流側端面に、押出ダイスの外周側から押出材通過空間に向かう方向に対して屈曲して形成されているので、不活性ガス供給流路を長くすることができる。これにより、不活性ガスへの加熱時間が長くなり、そのため不活性ガスの温度を大幅に上昇させることができ、もって押出材の形状や表面状態の変化を更に確実に防止することができる。
【0022】
前項[4]の押出加工工具によれば、溝が、押出ダイスの下流側端面に、押出材通過空間の周りを取り巻く状態に屈曲して形成されているので、次の効果を奏する。
【0023】
溝が押出材通過空間の周りを取り巻く状態に屈曲している、すなわち押出ダイスの外周側から押出材通過空間に向かう方向に対して屈曲しているので、前項[3]の押出加工工具による効果と同様の効果を奏する。さらに、一般に、室温の不活性ガスが不活性ガス供給流路を流れることで押出ダイスの熱が不活性ガス供給流路の位置で局部的に不活性ガスに奪われて押出ダイスに温度分布が生じるけれども、当該[4]の押出加工工具によれば溝の屈曲状態が押出材通過空間の周りを取り巻く状態であるから、押出ダイスの温度分布を、押出材通過空間を中心に周方向に極力均一にすることができる。これにより、押出材通過空間を通過する押出材の周方向の温度分布について均一化を図ることができ、もって押出材の形状や表面状態を良好に保持することができる。
【0024】
前項[5]の押出加工工具によれば、溝が、押出材通過空間の周りを1周以上取り巻く状態に屈曲して形成されているので、不活性ガスへの加熱時間を更に長くすることができるし、押出ダイスの温度分布を、押出材通過空間を中心に周方向に更に均一にすることができる。そのため、前項[3]の効果を確実に得ることができる。
【0025】
前項[6]の押出加工工具は、150℃以上の押出ダイスを用いて、押出材通過空間に150℃以上、660℃以下の不活性ガスが供給されるように構成されているので、アルミニウム又はその合金製の押出材についてその形状や表面状態の変化を確実に防止することができる。
【0026】
前項[7]の押出材の製造方法によれば、押出材の急冷に伴う押出材の形状や表面状態の変化を防止することができる。
【0027】
前項[8]の押出材の製造方法では、押出材通過空間内の不活性ガス圧力よりも不活性ガス供給流路内の不活性ガス圧力を大きくして押出材通過空間に不活性ガスを供給することにより、不活性ガスの供給量を圧力によって制御することができる。そのため、前項[7]の効果を確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る押出加工工具を具備した押出加工装置を、押出材としての半中空形材を製造している途中の状態で示す断面図である。
【図2】図2は、同押出加工工具の断面図である。
【図3】図3は、同押出加工工具の分解斜視図である。
【図4】図4は、同押出加工工具を上流側から見た正面図である。
【図5】図5は、同押出加工工具の押出ダイスのダイス本体を下流側から見た図2中のX−X線背面図である。
【図6】図6は、同押出加工装置を用いて製造される押出材としての半中空形材の断面図である。
【図7A】図7Aは、本発明の上記実施形態の第1変形形態に係る押出加工工具の押出ダイスのダイス本体を下流側から見た、図5に対応する背面図である。
【図7B】図7Bは、本発明の上記実施形態の第2変形形態に係る押出加工工具の押出ダイスのダイス本体を下流側から見た、図5に対応する背面図である。
【図7C】図7Cは、本発明の上記実施形態の第3変形形態に係る押出加工工具の押出ダイスのダイス本体を下流側から見た、図5に対応する背面図である。
【図7D】図7Dは、本発明の上記実施形態の第4変形形態に係る押出加工工具の押出ダイスのダイス本体を下流側から見た、図5に対応する背面図である。
【図7E】図7Eは、本発明の上記実施形態の第5変形形態に係る押出加工工具の押出ダイスのダイス本体を下流側から見た、図5に対応する背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の幾つかの実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0030】
図1において、15は本発明の一実施形態に係る押出加工工具、10は押出加工工具15を具備した押出加工装置である。同図に示すように、この押出加工装置10は、直接押出加工方式のものであり、本実施形態の押出加工工具15を始め、その他に、コンテナ11、ステム12等を具備するものである。
【0031】
この押出加工装置10を用いて製造される押出材9は、図6に示すように半中空形材である。以下では、押出材9を半中空形材9という。
【0032】
半中空形材9は、リップ溝型(リップチャンネル状)の形状を有しており、トング比が高い略C字状の断面形状に形成されている。
【0033】
この半中空形材9の材質は、金属であり、本実施形態ではアルミニウム(その合金を含む。以下同じ)である。
【0034】
この半中空形材9は、その内側に設けられ、かつ長さ方向(押出方向E)に延びるトング部(ボイド部)92と、周壁に設けられ、かつ長さ方向に延びるスリット状のトング開口部(周壁開口部)93備え、トング開口部93を介してトング部92が外部に開放されている。
【0035】
図1〜3に示すように、本実施形態の押出加工工具15は、押出ダイス1と、押出ダイス1の下流側に配置された下流側部材8とを備えている。下流側部材8は、例えばボルスタである。
【0036】
押出ダイス1は、押出方向Eに対し下流側に配置されるダイス本体2と、上流側に配置されるホールプレート5とに分割されている。なお後に詳述するように、ホールプレート5は、ベアリング部を備えず、ダイス(雄型)として機能するものではないが、便宜上、ダイス本体2を雌型、ホールプレート5を雄型と称する場合もある。ダイス本体2及びホールプレート5は、例えば、SKD61、SKD11等のダイス鋼、又はセラミック製である。
【0037】
図2に示すように、押出ダイス1のダイス本体2は、その上流側端面2aが押出方向Eに対して垂直に配置されるとともに、その下流側端面2bが押出方向Eに対して垂直な平坦面に形成されている。さらに、ダイス本体2は、図2及び3に示すように、その中央部に半中空形材9を成形する成形孔3がダイス本体2の上流側端面2aから押出方向Eに延びて設けられるとともに、成形孔3の下流側に該成形孔3と連通し且つ成形孔3よりも幅広の裏逃げ孔25がダイス本体2の下流側端面2bまで押出方向Eに延びて設けられている。成形孔3の断面形状は、製造される半中空形材9の断面形状に対応した形状の略C字状に形成されている。裏逃げ孔25の両内側面は押出方向Eに対して外側に傾斜している。裏逃げ孔25の下流側開口は、ダイス本体2の下流側端面2bの略中央部に形成されている(図5参照)。
【0038】
下流側部材8は、押出ダイス1のダイス本体2の下流側端面2bに当接して配置されるものであり、例えば、SKD61、SKD11等のダイス鋼、又はセラミック製である。下流側部材8の上流側端面8aは、押出方向Eに対し垂直な平坦面に形成されている。したがって、下流側部材8の上流側端面8aは、ダイス本体2の下流側端面2bに面接触状態に当接する。さらに、下流側部材8の上流側端面8aの直径は、ダイス本体2の下流側端面2bの直径に対して略等しく設定されている。
【0039】
下流側部材8の略中央部には、ダイス本体2の裏逃げ孔25と連通し且つ裏逃げ孔25の下流側開口を内周面で包囲する断面円形状の貫通孔80が押出方向Eに沿って貫通して設けられている。
【0040】
本実施形態では、成形孔3から押し出された半中空形材9が通過する押出材通過空間81は、ダイス本体2の裏逃げ孔25と下流側部材8の貫通孔80とから構成されている。
【0041】
さらに、図2及び5に示すように、押出ダイス1のダイス本体2の下流側端面2bには、押出材通過空間81(詳述すると裏逃げ孔25における下流側開口の位置)に不活性ガスGを供給する不活性ガス供給流路形成用の溝7aが形成されている。溝7aの断面形状は略コ字状である。そして、ダイス本体2の下流側端面2bに下流側部材8の上流側端面8aが面接触状態に当接して配置されることにより、この溝7aの開口が下流側部材8の上流側端面で気密に閉塞され、これにより、押出ダイス1のダイス本体2に断面矩形状の不活性ガス供給流路7が形成されている。
【0042】
図5に示すように、溝7aは、ダイス本体2の下流側端面2bに、裏逃げ孔25の下流側開口(即ち押出材通過空間81)の周りを1周以上取り巻く状態に屈曲して形成されている。したがって、溝7aは、ダイス本体2の外周側から押出材通過空間81に向かう方向(即ちダイス本体2の半径方向)に対して屈曲している。本実施形態では、溝7aは、詳述すると裏逃げ孔25の下流側開口の周りを四角に取り巻く四角渦巻き状に屈曲している。
【0043】
さらに、溝7aの入口7x(不活性ガス供給流路7の入口)は、ダイス本体2の外周面にダイス本体2の半径方向外側に向けて開口して形成されている。溝7aの出口7y(不活性ガス供給流路7の出口)は、裏逃げ孔25の内側面に裏逃げ孔25の下流側開口の内側に向けて開口して形成されている。
【0044】
溝7aの入口7xには、不活性ガスGを溝7a(不活性ガス供給流路7)に導入する不活性ガス導入手段70が接続されている。この不活性ガス導入手段70は、不活性ガスGを高圧状態に充填したタンク、タンク内の不活性ガスGを溝7aの入口7xに導入する導入パイプ、不活性ガス導入量を調節するバルブなどを有しており、タンク内に充填された不活性ガスGの圧力で不活性ガスGを導入パイプ及びバルブを介して溝7aの入口7xに噴出させることにより、不活性ガスGを溝7aに導入するように構成されている。
【0045】
不活性ガスGは、半中空形材9の酸化等を防止するためのものである。ここで本発明では、不活性ガスGとは、アルゴン、ヘリウム、ネオン等の周期律表の不活性ガスを始め、その他に、窒素ガス等、半中空形材9に対して不活性なガス、及びこれらの混合ガスを含むものとする。
【0046】
さらに、押出加工工具15は、150℃以上の押出ダイス1を用いて、押出材通過空間81に150℃以上の不活性ガスGが供給されるように構成されている。詳述すると本実施形態では、押出材通過空間81に150℃以上、660℃以下の不活性ガスGが供給されるように、押出ダイス1に形成される不活性ガス供給流路7の長さとその断面積と不活性ガスGの流速とのうち少なくとも一つが設定されている。すなわち、押出材通過空間81に供給される不活性ガスGの温度を高くする場合には、不活性ガス供給流路7の長さを長くしたり、不活性ガス供給流路7の断面積を小さくしたり、不活性ガス供給流路7を流れる不活性ガスGの流速を遅くしたりする。こうすることにより、不活性ガスGの温度を150℃以上に設定することができる。押出材通過空間81に供給される不活性ガスGの温度の上限は660℃以下に設定されており、これにより、不活性ガスGの温度がアルミニウムの融点660℃を超えないようにしている。押出ダイス1の温度の上限は様々に設定可能であるが、通常500℃である。
【0047】
さらに、ダイス本体2は、図2に示すように、成形孔3を構成する内周側ベアリング面31及び外周側ベアリング面32等の全てのベアリング部がダイス本体2に形成されるものであり、ソリッドダイスとして捉えることもできる。内周側ベアリング面31は半中空形材9の内周面を成形するものであり、外周側ベアリング面32は半中空形材9の外周面を成形するものである。
【0048】
ダイス本体2の成形孔3の径方向内側には、半中空形材9のトング部92を成形するトング部成形部22が配置されるとともに、このトング部成形部22が、半中空形材9のトング開口部93を成形するトング開口部成形部23にてダイス本体2の外周部21と一体に繋がっている(図3参照)。従って、トング部成形部22は、ダイス本体外周部21に片持ち支持部としてのトング開口部成形部23を介して片持ち状に支持されている。
【0049】
また、図2に示すように、ダイス本体2の上流側端面(正面)2aにおける外周縁部には、上流側に突出する嵌合凸縁部29が周方向(軸心回りの方向)に連続して形成されている。
【0050】
一方、ホールプレート5は、下流側(背面側)の内部にウエルドチャンバ51を有し、このウエルドチャンバ51が下流側に開放されている。したがって、ウエルドチャンバ51は成形孔3の上流側に成形孔3と連通して配置されている。さらにホールプレート5には、上流側端部がホールプレート5の上流側端面(正面)に開口し、下流側端部が上記ウエルドチャンバ51に開口する複数のメタルホール55が形成されている。メタルホール55の断面形状(正面視形状)は、略1/4円形に形成されており、このメタルホール55が周方向に等間隔おきに4つ形成されている。
【0051】
図3及び4に示すように、4つのメタルホール55の各間の領域は、ブリッジ53…として構成されており、互いに隣り合う2つのメタルホール55がブリッジ53によって仕切られている。すなわち、周方向に互いに隣り合う2つのメタルホール55、55間にブリッジ53が配置されている。
【0052】
ホールプレート5における4つのメタルホール55によって囲まれた部分は、押出ダイス1の軸心に沿って配置される軸心部50として構成されている。図2に示すように、この軸心部50における下流側端部には、下流側方向に向けて突出する突出部61が設けられるとともに、この突出部61の先端(下流側端部)が、背面視状態において矩形状のダミー成形部6として形成されている。このダミー成形部6は、ダイス本体2のトング部成形部22に位置的に対応しており、ウエルドチャンバ51内にトング部成形部22の上流側にて該トング部成形部22に対向した状態に配置されるとともに、後に詳述するように、トング部成形部22に対し略相似形に形成されている。
【0053】
ここで、このダミー成形部6を備えた本実施形態のホールプレート5と、周知のポートホールダイス(ホローダイス)のホールプレートとを比較した場合、本実施形態のダミー成形部6は、周知のホールプレートにおける雄型ダイス(マンドレル)と同じ位置に配置されるものではあるが、半中空形材9の製品形状を決定するベアリング部(内周側ベアリング面)を有するものではない。つまり、このダミー成形部6は、雄型ダイスの位置に配置されるものの、雄型ダイスとして機能することはないため、雄型ダイスのダミーとして捉えることができる。
【0054】
さらにこのダミー成形部6は、図4に示すように正面視状態において、トング部成形部22に対し一回り小さく形成されている。
【0055】
またホールプレート5の下流側端面(背面)における外周縁部には、上記ダイス本体2の嵌合凸縁部29に対応して、嵌合凹段部59が周方向に連続して形成されている。
【0056】
そしてこの構成のホールプレート5の嵌合凹段部59内に、上記ダイス本体2の嵌合凸縁部29が嵌合されるようにして、ダイス本体2とホールプレート5とが組み合わされて、本実施形態の押出ダイス1が製作される。
【0057】
ダミー成形部6の背面とトング部成形部22の正面との間には隙間20が形成されている。さらに、ダミー成形部6とトング部成形部22とは、ボルトやねじ等で機械的に連結固定されることはなく、ダミー成形部6とトング部成形部22とは、非固定状態、つまり互いに連係されることのないフリーな状態となっている。
【0058】
図1に示すように、本実施形態の押出加工装置10では、押出ダイス1のダイス本体2とホールプレート5とが互いに組み合わされた状態で、押出加工装置10におけるコンテナ11の下流側にダイスホルダー(図示省略)を介して保持されている。さらに、下流側部材8がダイス本体2の下流側に、ダイス本体2の下流側端面2bに下流側部材8の上流側端面8aが面接触状態に当接して配置されるとともに、この状態で下流側部材8が固定部材(図示せず)で固定されている。この状態では、図2に示すように、ダイス本体2の下流側端面2bの不活性ガス供給流路形成用の溝7aの開口が下流側部材8の上流側端面8aで気密に閉塞されている。これにより、ダイス本体2に不活性ガス供給流路7が形成されている。
【0059】
この押出加工装置10を用いた押出加工(半中空形材の製造方法)は、周知の押出加工方法と同様である。すなわち、押出ダイス1のダイス本体2及びホールプレート5の温度を350〜500℃に設定するとともに、下流側部材8を300〜400℃に設定する。そして、室温に設定された不活性ガス(例:窒素ガス)Gを不活性ガス導入手段70によって不活性ガス供給流路7にその入口7xから導入し、これにより該不活性ガスGを不活性ガス供給流路7を介して押出材通過空間81(詳述すると裏逃げ孔25の下流側開口の位置)に供給する。不活性ガスGの供給量は、例えば毎分1リットル〜毎分90リットルである。この際、押出材通過空間81内の不活性ガス圧力よりも不活性ガス供給流路7内の不活性ガス圧力を大きくして押出材通過空間81に不活性ガスを供給する。具体的には、押出材通過空間81内の不活性ガス圧力を例えば0.1MPa、不活性ガス供給流路7内の不活性ガス圧力を例えば0.11MPaにする。こうすることにより、不活性ガスGの供給量を圧力によって制御することができる。この状態を維持しつつ、コンテナ11内に装填された押出材料91(成形材料)としてのアルミニウムビレットをステム12でダミーブロック13を介して押出方向Eに押す。これにより、押出材料91が各メタルホール55から導入されてウエルドチャンバ51内で合流及び溶着(圧着)されて成形孔3を通過する。これにより、押出材料91が成形加工されて成形孔3に対応した断面形状の図6に示すアルミニウム製半中空形材9が製造される。成形孔3から押し出された半中空形材9は、押出材通過空間81としての、ダイス本体2の裏逃げ孔25及び下流側部材8の貫通孔80を順次通過する。このとき、高温状態の半中空形材9は、不活性ガスGにより酸化が防止される。
【0060】
而して、上記実施形態の押出ダイス1には次の利点がある。
【0061】
押出ダイス1のダイス本体2に、ダイス本体2の成形孔3よりも下流側の押出材通過空間81に不活性ガスGを供給する不活性ガス供給流路7が形成されているので、押出加工時に、不活性ガスGが不活性ガス供給流路7を流れて押出材通過空間81に供給されることで半中空形材9の酸化を防止することができる。さらに、不活性ガスGが不活性ガス供給流路7を流れる途中で押出ダイス1のダイス本体2により加熱されてその温度が上昇する。そのため、半中空形材9の急冷に伴う半中空形材9の形状や表面状態の変化を防止することができる。
【0062】
さらに、不活性ガス供給流路7は、下流側部材8に形成されるのではなく、下流側部材8の温度よりも高い温度に設定された押出ダイス1のダイス本体2に形成されているので、不活性ガスGの温度を迅速に上昇させることができる。そのため、より高温の不活性ガスGを押出材通過空間81に確実に供給することができ、これにより、不活性ガス供給流路7が下流側部材8に形成された場合に比べて、半中空形材9の形状や表面状態の変化をより確実に防止することができる。
【0063】
さらに、押出ダイス1のダイス本体2の下流側端面2bに不活性ガス供給流路形成用の溝7aが形成されるとともに、この溝7aの開口が下流側部材8で閉塞されることにより、押出ダイス1のダイス本体2に不活性ガス供給流路7が形成されているので、押出ダイス1に不活性ガス供給流路7を容易に形成することができる。
【0064】
さらに、溝7aが、押出ダイス1のダイス本体2の下流側端面2bに、押出ダイス1の外周側から押出材通過空間81に向かう方向に対して屈曲して形成されているので(図5参照)、不活性ガス供給流路7を長くすることができる。これにより、不活性ガスGへの加熱時間が長くなり、そのため不活性ガスGの温度を大幅に上昇させることができ、もって半中空形材9の形状や表面状態の変化を更に確実に防止することができる。
【0065】
さらに、溝7aが、押出ダイス1のダイス本体2の下流側端面2bに、押出材通過空間81の周りを取り巻く状態に屈曲して形成されているので、次の効果を奏する。
【0066】
溝7aが押出材通過空間81の周りを取り巻く状態に屈曲している、すなわち押出ダイス1の外周側から押出材通過空間81に向かう方向に対して屈曲しているので、上述した効果と同様の効果を奏する。さらに、一般に、室温の不活性ガスGが不活性ガス供給流路7を流れることで押出ダイス1の熱が不活性ガス供給流路7の位置で局部的に不活性ガスGに奪われて押出ダイス1に温度分布が生じるけれども、本実施形態の押出加工工具15によれば溝7aの屈曲状態が押出材通過空間81の周りを取り巻く状態であるから、押出ダイス1の温度分布を、押出材通過空間81を中心に周方向に極力均一にすることができる。これにより、押出材通過空間81を通過する半中空形材9の周方向の温度分布について均一化を図ることができ、もって半中空形材9の形状や表面状態を良好に保持することができる。
【0067】
さらに、溝7aが、押出材通過空間81の周りを1周以上取り巻く状態に屈曲して形成されているので、不活性ガスGへの加熱時間を更に長くすることができるし、押出ダイス1の温度分布を、押出材通過空間81を中心に周方向に更に均一にすることができる。そのため、不活性ガスGの温度を更に大幅に上昇させることができるし、押出材通過空間81を通過する半中空形材9の周方向の温度分布について均一化を更に図ることができ、もって半中空形材9の形状や表面状態の変化を更に一層確実に防止することができる。
【0068】
さらに、この押出加工工具15は、150℃以上の押出ダイス1を用いて、押出材通過空間81に150℃以上、660℃以下の不活性ガスGが供給されるように構成されているので、アルミニウム製の半中空形材9についてその形状や表面状態の変化を確実に防止することができる。
【0069】
また本実施形態の押出加工工具15の押出ダイス1によれば、トング部成形部22の上流側にトング部成形部22に対応してダミー成形部6を配置しているため、押出加工時に、押出材料91がダミー成形部6の外周側を流動することにより、押出材料91がトング部成形部22の中心部(主要部)に圧接することがなく、トング部成形部22に作用する押出荷重が軽減される。このため、その押出荷重によりトング開口部成形部23が破損する可能性を低く抑えることができ、もって押出ダイス1の耐久性を向上させることができる。
【0070】
また本実施形態においては、ダミー成形部6をトング部成形部22に対し離間させているため、押出荷重によって押出ダイス1のホールプレート5に撓みが発生して、ダミー成形部6が下流側に押し出されたとしても、ダミー成形部6がトング部成形部22に圧接するのを有効に防止できる。このため、トング部成形部22に多大な荷重が加わることがなく、この点からも、トング開口部成形部23の破損を確実に防止でき、もって押出ダイス1の耐久性を一層向上させることができる。
【0071】
その上さらに、本実施形態においては、ダミー成形部6をトング部成形部22に対し非固定状態としているため、押出ダイス1のホールプレート5の撓みによりダミー成形部6が変位したとしても、その変位に追従してトング部成形部22が変位するようなことがなく、ダミー成形部6の変位による悪影響がトング部成形部22に及ぶようなことがない。従ってトング開口部成形部23の破損をより確実に防止でき、もって押出ダイス1の耐久性をより一層確実に向上させることができる。
【0072】
なお本実施形態においては、ダミー成形部6およびトング部成形部22間の隙間20の幅寸法を、成形孔3の幅寸法よりも狭く設定している。これにより、押出材料91は優先して成形孔3を通過するようになり、ダミー成形部6およびトング部成形部22間の隙間20に押出材料91が浸入するのを確実に防止することができる。このため、押出材料91の隙間20への浸入による不具合、例えば隙間20に押出材料91がかみ込むことによって、ホールプレート5の撓みによる悪影響がトング部成形部22に及ぶのを確実に防止でき、もって押出ダイス1の耐久性をより一層確実に向上させることができる。
【0073】
以上で本発明の一実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々に変更可能である。
【0074】
例えば、図7A〜7Eは、上記実施形態に係る押出ダイス1のダイス本体2の下流側端面2bに形成される不活性ガス供給流路形成用の溝7aの幾つかの変形形態を示している。なおこれらの図では、押出材通過空間81(即ち裏逃げ孔25)の断面形状が円形状である場合を示している。
【0075】
図7Aに示した第1変形形態では、溝7aは、押出ダイス1のダイス本体2の外周側から押出材通過空間81に向かう方向に真直に形成されている。
【0076】
図7Bに示した第2変形形態では、2本の溝7a、7aが互いに180°の位相差をもって押出材通過空間81の周りを取り巻く状態に屈曲して形成されている。
【0077】
図7Cに示した第3変形形態では、溝7aは、押出ダイス1の外周側から押出材通過空間81に向かう途中で複数(同図では2つ)に分岐して形成されている。
【0078】
図7Dに示した第4変形形態では、溝7aは、押出材通過空間81の周りを1周以上、丸く取り巻く丸渦巻き状に屈曲して形成されている。
【0079】
図7Eに示した第5変形形態では、溝7aは、その出口7yが先細り状になるように形成されている。
【0080】
なお本発明では、上記実施形態及び上記変形形態の押出ダイス1の溝7aの形状を組み合わせて構成しても良い。
【0081】
また上記実施形態では、下流側部材8はボルスタであるが、本発明では、その他にバッカ等であっても良い。
【0082】
また上記実施形態では、溝7aの断面形状はコ字状であるが、本発明では、その他にV字状や円弧状などであっても良い。
【0083】
また上記実施形態では、押出材9は半中空形材であるが、本発明では、その他に中空材や中実材であっても良い。
【0084】
また上記実施形態では、ウエルドチャンバ51はホールプレート5に設けられているが、本発明では、その他に、ウエルドチャンバ51はダイス本体2に設けられていても良いし、ダイス本体2とホールプレート5とに跨がって設けられていても良い。すなわち、本発明では、ウエルドチャンバ51は、ダイス本体2とホールプレート5のうち少なくとも一方に設けられていれば良い。
【0085】
また上記実施形態では、押出材9の材質、即ち押出材料91は、アルミニウムであることが望ましいが、本発明では、その他に、アルミニウム以外の金属であっても良い。
【0086】
また上記実施形態では、押出ダイス1は、ダイス本体2とホールプレート5とが組み合わされたダイス、即ち組合せダイスであるが、本発明では、そのような組合せダイスであることに限定されるものではなく、その他に、例えば単独で用いられるダイスであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、半中空形材等の押出材を押出加工により製造する際に用いられる押出加工工具、及び押出材の製造方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1:押出ダイス
2:ダイス本体
2b:ダイス本体の下流側端面
3:成形孔
5:ホールプレート
7:シールドガス供給流路
7a:シールドガス供給流路形成用の溝
8:下流側部材
8a:下流側部材の上流側端面
81:押出材通過空間
9:半中空形材(押出材)
10:押出加工装置
15:押出加工工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形孔を有する押出ダイスに、前記成形孔よりも下流側の押出材通過空間に不活性ガスを供給する不活性ガス供給流路が形成されていることを特徴とする押出加工工具。
【請求項2】
前記押出ダイスの下流側に押出ダイスの下流側端面に当接して配置される下流側部材を具備し、
前記押出ダイスの下流側端面に、不活性ガス供給流路形成用の溝が形成されるとともに、
前記溝の開口が前記下流側部材で閉塞されることにより、前記押出ダイスに前記不活性ガス供給流路が形成されている請求項1記載の押出加工工具。
【請求項3】
前記溝は、前記押出ダイスの下流側端面に、前記押出ダイスの外周側から前記押出材通過空間に向かう方向に対して屈曲して形成されている請求項2記載の押出加工工具。
【請求項4】
前記溝は、前記押出ダイスの下流側端面に、前記押出材通過空間の周りを取り巻く状態に屈曲して形成されている請求項2又は3記載の押出加工工具。
【請求項5】
前記溝は、前記押出材通過空間の周りを1周以上取り巻く状態に屈曲して形成されている請求項4記載の押出加工工具。
【請求項6】
押出加工工具は、アルミニウム又はその合金製の押出材を製造する際に用いられるものであり、
150℃以上の前記押出ダイスを用いて、前記押出材通過空間に150℃以上、660℃以下の不活性ガスが供給されるように構成されている請求項1〜5のいずれかに記載の押出加工工具。
【請求項7】
押出加工工具を用いて押出材を押出加工により製造する押出材の製造方法であって、
押出加工工具として、請求項1〜6のいずれかに記載の押出加工工具を用い、
前記押出加工工具の押出材通過空間に不活性ガス供給流路を介して不活性ガスを供給した状態で、押出材を押出加工により製造することを特徴とする押出材の製造方法。
【請求項8】
前記押出材通過空間内の不活性ガス圧力よりも前記不活性ガス供給流路内の不活性ガス圧力を大きくして前記押出材通過空間に不活性ガスを供給する請求項7記載の押出材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【公開番号】特開2012−24819(P2012−24819A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166777(P2010−166777)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】