説明

押出成形機加工用の樹脂組成物とその成形加工方法

【課題】 押出機を用いたときの成形加工性のよい樹脂組成物の提供。
【解決手段】 (A)23℃水中下、24hr後の吸水率(ISO62)が0.6%以上で、平均粒子径が1mm以下の含有量が10質量%以上であり、溶液粘度が2.4以下である熱可塑性樹脂70〜99質量%と、(B)前記(A)成分の樹脂を除く、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、ブタジエンから選ばれる少なくとも1種からなるゴム含有重合体1〜30質量%を含むベース樹脂成分100質量部に対して、(C)平均粒子径が0.05〜100μmのものである無機充填材100〜400質量部と(D)滑材0.01〜5質量部を含有する、ホッパーを有する押出成形機加工用の樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホッパーを有する押出成形機で加工するときの加工性が良い樹脂組成物とその成形加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属やセラミックスと同様の質感や重量感を持つ成形品原料として、熱可塑性樹脂に対して同量以上の無機充填材を配合した組成物が知られている。しかし、熱可塑性樹脂に多量の無機充填材を配合した場合には、押出機のホッパーからの所定量を安定して投入することが難しいという問題がある。その他、成形時にドローダウンしてしまい、成形性が悪いという問題もある。
【特許文献1】特開2005−146124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ホッパーを有する押出成形機で成形加工するときの成形加工性が良い樹脂組成物とその成形加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1の発明は、(A)23℃水中下、24hr後の吸水率(ISO62)が0.6%以上で、平均粒子径が1mm以下の含有量が10質量%以上であり、溶液粘度が2.4以下である熱可塑性樹脂70〜99質量%と、(B)前記(A)成分の樹脂を除く、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、ブタジエンから選ばれる少なくとも1種からなるゴム含有重合体1〜30質量%を含むベース樹脂成分100質量部に対して、(C)平均粒子径が0.05〜100μmのものである無機充填材100〜400質量部と(D)滑材0.01〜5質量部を含有する、ホッパーを有する押出成形機加工用の樹脂組成物を提供する。
【0005】
請求項2の発明は、(B)成分のゴム含有重合体のゴム含有量が30質量%以上である、請求項1記載のホッパーを有する押出成形機加工用の樹脂組成物を提供する。
【0006】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の樹脂組成物の加工方法であり、所定量をホッパーから投入する工程、押出機中で溶融混練する工程、所望形状に押出成形する工程、を有する加工方法を提供する。
【0007】
請求項4の発明は、所望形状に押出成形する工程がストランド状に押出成形する工程である、請求項3記載の加工方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、ホッパーを有する押出成形機を用いたときの供給安定性、押出成形性等の成形加工性が良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<樹脂組成物>
〔(A)成分〕
(A)23℃水中下、24hr後の吸水率(ISO62)が0.6%以上である熱可塑性樹脂は、ポリアミド系樹脂、アクリル酸塩系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニールアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂から選ばれるものを用いることができ、これらの中でもポリアミド系樹脂が好ましい。(A)成分として、前記吸水率を満たすものを用いることにより、押出機のホッパーからの投入性が良くなるため、所定量を安定して供給できるようになる。
【0010】
(A)成分の熱可塑性樹脂は、実施例に記載の方法で測定した平均粒子径が1mm以下、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.3mm以下の粉体が、10質量%以上含有されているものであり、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上含有されているものである。
【0011】
(A)成分の熱可塑性樹脂は、実施例に記載の方法で測定した溶液粘度が2.4以下のものが好ましく、より好ましくは2.3以下、更に好ましくは2.2以下のものである。
【0012】
ポリアミド系樹脂は、ジアミンとジカルボン酸とから形成されるポリアミド樹脂及びそれらの共重合体である。例えば、ナイロン66、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6・10)、ポリヘキサメチレンドデカナミド(ナイロン6・12)、ポリドデカメチレンドデカナミド(ナイロン1212)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)及びこれらの混合物や共重合体;ナイロン6/66、6T成分が50モル%以下であるナイロン66/6T(6T:ポリヘキサメチレンテレフタラミド)、6I成分が50モル%以下であるナイロン66/6I(6I:ポリヘキサメチレンイソフタラミド)、ナイロン6T/6I/66、ナイロン6T/6I/610等の共重合体;ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリ(2−メチルペンタメチレン)テレフタルアミド(ナイロンM5T)、ポリ(2−メチルペンタメチレン)イソフタルアミド(ナイロンM5I)、ナイロン6T/6I、ナイロン6T/M5T等の共重合体が挙げられ、そのほかアモルファスナイロンのような共重合ナイロンでもよく、アモルファスナイロンとしてはテレフタル酸とトリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合物等を挙げることができる。
【0013】
更に、環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物及びこれらの成分からなる共重合体、具体的には、ナイロン6、ポリ−ω−ウンデカナミド(ナイロン11)、ポリ−ω−ドデカナミド(ナイロン12)等の脂肪族ポリアミド樹脂及びこれらの共重合体、ジアミン、ジカルボン酸とからなるポリアミドとの共重合体、具体的にはナイロン6T/6、ナイロン6T/11、ナイロン6T/12、ナイロン6T/6I/12、ナイロン6T/6I/610/12等及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0014】
ポリアミド系樹脂としては、上記の中でもPA(ナイロン)6、PA(ナイロン)66、PA(ナイロン)6/66が好ましい。
【0015】
〔(B)成分〕
(B)成分を(A)成分と組み合わせることにより、押出成形性が高められ、特にストランド状に押し出した場合でもドローダウンが発生することが防止される。
【0016】
(B)成分は、前記(A)の樹脂を除く、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、ブタジエンから選ばれる少なくとも1種からなるゴム含有重合体である。(B)成分のゴム含有重合体としては、ASA(アクリル酸エステル−スチレン−アクリロニトリル)樹脂、MAS(メタクリル酸エステル−アクリロニトリル−スチレン)樹脂、MBS(メタクリル酸エステル−ブタジエン−スチレン)樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂等が好ましい。
【0017】
(B)成分のゴム含有重合体は、ゴム含有量が30質量%以上のものが好ましく、より好ましくは40〜90質量%、更に好ましくは60〜90質量%のものである。
【0018】
〔(C)成分〕
(C)成分の無機充填材としては、粉末状、板状、鱗片状、粒状、不定形状、破砕品等の非繊維状のもののほか、繊維状のものも用いることができる。(C)成分の無機充填材は、分散性の改善のため、公知の表面処理をすることができる。
【0019】
非繊維状の充填材としては、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、ポリリン酸カルシウム、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物(アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン等)、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボン、カーボンナノチューブ等を用いることができる。
【0020】
繊維状の充填材としては、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維等の金属繊維、石膏繊維、セラミック繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、チタン酸バリウムストロンチウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー等を用いることができる。
【0021】
(C)成分の無機充填材としては粉末状のものが好ましく、実施例に記載の方法で測定される平均粒子径が0.05〜100μmのものが好ましく、より好ましくは0.1〜50μm、更に好ましくは0.1〜20μmのものである。
【0022】
〔(D)成分〕
(D)成分の滑材は公知のものであり、例えば、特許文献1の段落72〜段落80に記載された脂肪酸金属塩、エステル系化合物、アミド基含有化合物、エポキシ系化合物、リン酸エステル等を用いることができる。
【0023】
〔その他の成分〕
本発明の組成物は、本発明の課題を解決できる範囲で、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候剤、離型剤、顔料、染料、結晶核剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤等の公知成分を含有することができる。
【0024】
〔含有割合〕
ベース樹脂中の(A)成分と(B)成分の割合は、
(A)成分は70〜99質量%が好ましく、より好ましくは80〜98質量%、更に好ましくは85〜97質量%であり、
(B)成分は1〜30質量%が好ましく、より好ましくは2〜20質量%、更に好ましくは3〜15質量%である。
【0025】
(A)成分と(B)成分が上記割合であると、ホッパーを用いた場合の組成物の供給安定性を高めることができ、押出成形性、特にストランド状に押し出すときの成形加工性を高めることができる。
【0026】
(C)成分の割合は、ベース樹脂成分100質量部に対して100〜400質量部であり、好ましくは100〜350質量部、より好ましくは100〜300質量部である。(C)成分の割合が前記範囲であると、組成物から得られた成形品に対して、金属やセラミックスのような質感や重量感を付与することができる。
【0027】
(D)成分の割合は、ベース樹脂成分100質量部に対して0.01〜5質量部であり、好ましくは0.05〜3質量部、より好ましくは0.1〜1質量部である。(D)成分の割合が前記範囲であると、(A)成分との相乗作用により、ホッパーを用いた場合の組成物の供給安定性を高めることができる。
【0028】
本発明の組成物の比重は、成形品の質感や重量感を高める観点から、1.6以上が好ましく、1.7〜4.5が好ましい。
【0029】
<成形加工方法>
次に、ホッパーを有する押出成形機を用いて、上記した樹脂組成物を所望形状に押出加工する方法について説明する。なお、各工程は連続して行われるものであり、別々の分離した工程ではない。
【0030】
第1工程にて、所定量をホッパーから投入する。(C)成分の無機充填材の含有量が高い場合には、ホッパーから所定量を投入することが難しかった。しかし、本発明の加工方法では、組成物に含まれている(A)成分と(D)成分の作用により、所定量の組成物をホッパーから容易に投入することができる。
【0031】
第2工程にて、押出機中で溶融混練した後、第3工程にて、ストランド状等の所望形状に押出成形する。(C)成分の無機充填材の含有量が高い場合には、押出時に成形品がドローダウンし易いという問題があり、特許文献1の実施例に記載のとおり、押出成形ではなく、打錠による成形法が適用されている。しかし、本発明の加工方法では、組成物に含まれている(B)成分の作用により、前記したような問題が解消されている。
【0032】
ストランド状に押出成形することで、成形加工時に取り扱い易いペレットを得ることができるため、特許文献1のような錠剤にした場合よりも、射出成形等により成形する場合に適している。
【0033】
本発明の樹脂組成物から得られた成形品は、質感や重量感があるため、金属やセラミックス代替品として用いることができ、例えば、ペンの筐体、ハンドシェーバー、モデルガンの筐体、コップ、皿等の食器、食品容器(耐熱性容器)、包丁ストッカー、石鹸置き等に適用することができる。
【実施例】
【0034】
1.測定方法
(1)(A)成分の平均粒径
写真より判断した。測定器:キーエンス社製マイクロスコープVHX-500F
(2)(A)成分の溶液粘度〔98%硫酸(25℃)溶液中での粘度〕
温度25℃の環境下において、98%濃度の硫酸100mlに対して1gのポリマーを溶かした場合の相対粘度(ポリマーを溶かしていない98%濃度の硫酸100mlに対する相対粘度)を、固有粘度と(98%硫酸)相対粘度の関係を示すグラフにて、固有粘度へ換算したもの
(3)(C)成分の平均粒径
写真より判断した。測定器:キーエンス社製マイクロスコープVHX-500F。
【0035】
2.組成物の成分
(A)成分
ポリアミド1:三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバミッド,ポリアミド6 1007PJ ,平均粒子径300μm以下,溶液粘度2.2
ポリアミド2:三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバミッド,ポリアミド6 1007J,平均粒子径約2.0mm,溶液粘度2.2
ポリアミド3:三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバミッド,ポリアミド6 1013PJ,平均粒子径300μm以下,溶液粘度2.8
(B)成分
ASA:UMG社製AXS樹脂 A400N:アクリルゴム45%
MAS:ロームアンドハース社製アクリル系重合体,パラロイドEXL2315,アクリルゴム80%
MBS:ロームアンドハース社製MBS,パラロイドEXL2602,ブタジエンゴム80%
ABS:テクノポリマー社製ABS,DP611,ブタジエンゴム40%
AS :ダイセルポリマー(株)製,「セビアン020」
(C)成分
充填材1:堺化学社製の硫酸バリウムB55,平均粒子径0.6μm
充填材2:堺化学社製の硫酸バリウムB54,平均粒子径1.2μm
充填材3:堺化学社製の硫酸バリウムB34,平均粒子径0.03μm
(D)成分
滑材:ハリマ化成社製のエチレンビスステアリルアミド,バンルーブN-18
3.試験方法
試験機として、日本製鋼所,二軸混練押出機TEX30
(ホッパー:下底200mm×200mm、上底300mm×300mm、高さ800mm、ダイス:ストランド直径3.0mm,3穴)を用いた。
【0036】
(1)材料供給安定性
試験機のホッパーに対して、5kgの組成物を供給したとき、押出機内に投入できた量との差により、材料供給安定性を測定した。5回試験して、平均値により評価した。
○:供給量と実際の投入量との差が±20%未満
×:供給量と実際の投入量との差が±20%以上
(2)量産安定性
試験機により、溶融混練して(温度240℃)、ダイスから、連続的にストランド状に押出成形したときのドローダウンの有無について、押し出したストランドをローラーで引き取ることができたかどうかで評価した。
○:ドローダウンが全くなく、ローラーで引き取ることができた
×:ドローダウンが生じて、ローラーで引き取ることができなかった
(3)成形品の外観
各組成物を用いて、下記条件にて射出成形して得られた成形品(カラープレート:
寸法50×90mm)を肉眼で観察した。
○:成形品全体に無機充填材のの浮きがほとんどない
×:成形品の一部にフィラーの浮きがある
(4)成形品の質感
「(3)成形品の外観」の試験で得た成形品について、同形状のセラミックス(陶器プレート)成形品と対比して、質感(感触)を評価した。
○:成形品に陶器プレートに近い質感がある。
×:成形品は陶器プレートと異なる質感である。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)23℃水中下、24hr後の吸水率(ISO62)が0.6%以上で、平均粒子径が1mm以下の含有量が10質量%以上であり、溶液粘度が2.4以下である熱可塑性樹脂70〜99質量%と、(B)前記(A)成分の樹脂を除く、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、ブタジエンから選ばれる少なくとも1種からなるゴム含有重合体1〜30質量%を含むベース樹脂成分100質量部に対して、(C)平均粒子径が0.05〜100μmのものである無機充填材100〜400質量部と(D)滑材0.01〜5質量部を含有する、ホッパーを有する押出成形機加工用の樹脂組成物。
【請求項2】
(B)成分のゴム含有重合体のゴム含有量が30質量%以上である、請求項1記載のホッパーを有する押出成形機加工用の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の樹脂組成物の加工方法であり、
所定量をホッパーから投入する工程、押出機中で溶融混練する工程、所望形状に押出成形する工程、を有する成形加工方法。
【請求項4】
所望形状に押出成形する工程がストランド状に押出成形する工程である、請求項3記載の成形加工方法。

【公開番号】特開2009−108130(P2009−108130A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279225(P2007−279225)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】