説明

押出木質複合体のための加工助剤

フルオロポリマーと、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、塩化カリウム、ならびに硫酸、ピロ硫酸、過硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、およびピロリン酸のナトリウム塩、カルシウム塩、またはカリウム塩からなる群から選択される塩を含む加工助剤とを組み込むことによって、押出木質複合体の表面粗さおよび押出プロセスにおけるダイ圧力が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質複合体、すなわち熱可塑性炭化水素ホスト樹脂および木粉を含み、さらにフルオロポリマーと、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、塩化カリウム、ならびに硫酸、ピロ硫酸、過硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、およびピロリン酸のナトリウム塩、カルシウム塩、またはカリウム塩からなる群から選択される塩とを含む加工助剤を含有する組成物の押出に関する。
【背景技術】
【0002】
押出木質複合体は、固体木質敷板の代替物として人気が高まり続けている。このような複合体は、ホスト樹脂と木質繊維(通常は、重量比60:40〜35:65)、および少量の添加剤、具体的にはカップリング剤、光安定剤、着色剤、およびワックスを含む。大半の木質複合体は、LLDPE、HDPE、PP、またはPSなどの炭化水素ホスト樹脂を使用する。カップリング剤は、一般に無水マレイン酸グラフト化ポリエチレンである。
【0003】
押出木質複合体を製造する上で直面する1つの問題は、押出ボードの過度の表面粗さであり、したがって加工助剤が必要である。表面粗さは、美観の点から見ると望ましくないが、木質複合体の耐久性にも影響する。露出された木質および表面空隙によって、複合体に吸湿が起こり、木質部が腐る。
【0004】
押出木質複合体における粗さの原因は2つ存在するようである:ホスト樹脂メルトフラクチャー、および押出機ダイ表面上の木質繊維の引きずり(押出物がダイを出るとき、繊維が上方に剥がれる)。所与の組成物および押出プロセスの場合、押出機ダイの圧力は、この両方が表面粗さに寄与する程度の尺度になる。低ダイ圧力は、押出表面がより滑らかであることと相関する。
【0005】
木質繊維の熱安定性が低いため、滑らかな表面を有する物品を生成しながら、溶融温度を上げることなく押出機ダイ圧力を低減する効率の高い手段を見い出すことが望ましい。
【0006】
米国特許公報(特許文献1)は、0.01〜2.0重量%の、加工温度で流動状態であるフルオロポリマー(例えば、フルオロエラストマー)を使用すると、高密度と低密度のポリエチレン、および他のポリオレフィンの押出においてダイ圧力が低減されることを開示する。さらに、この添加剤を使用すると、メルトフラクチャーなしに押出速度を大幅に増大することができる。フルオロポリマーは押出機ダイ表面でコーティングになり、加工性が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3,125,547号明細書
【特許文献2】米国特許第4,035,565号明細書
【特許文献3】米国特許第4,243,770号明細書
【特許文献4】米国特許第6,642,310号明細書
【特許文献5】米国特許第5,082,605号明細書
【特許文献6】米国特許第5,088,910号明細書
【特許文献7】米国特許第5,746,958号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
意外にも、ある種の無機塩およびフルオロポリマーを含む加工助剤によって、押出ダイ圧力が低減され、押出成形木質複合体の表面粗さが改善されることが発見された。
【0009】
したがって、本発明の一態様は、
A)重量比70:30〜30:70の炭化水素ホスト樹脂と木粉;
B)前記押出可能な組成物の全重量を基準にして0.02〜2重量パーセントの四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、塩化カリウム、ならびに硫酸、ピロ硫酸、過硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、およびピロリン酸のナトリウム塩、カルシウム塩、またはカリウム塩からなる群から選択される塩;および
C)前記押出可能な組成物の全重量を基準にして100〜2500ppmのフルオロポリマー
を含む押出可能な木質複合体組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、押出組成物ボードなどの押出成形木質複合体の表面テキスチャを改善し(すなわち、表面粗さを低減する)、このような組成物の押出プロセスにおけるダイ圧力を低減するための手段に関する。
【0011】
本発明の押出可能な組成物は、炭化水素ホスト樹脂と木粉を重量比70:30〜30:70で含有する。好ましくは、組成物は、組成物の全重量を基準にして40〜60重量パーセントの木粉を含有する。
【0012】
本発明の組成物で使用することができる炭化水素ホスト樹脂としては例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、およびポリスチレン(PS)が挙げられる。このようなポリマーは、非フッ素化物である。用語「非フッ素化」は、ポリマー中に存在するフッ素原子と炭素原子の比が1:1未満、好ましくは0:1であることを意味する。一般に、炭化水素ポリマーとしては、式CH2=CHRのモノオレフィン(式中、RはH、または通常は炭素原子8個以下のアルキル基である)の単独重合または共重合によって得られる任意の熱可塑性炭化水素ポリマーも挙げられる。特に、本発明は、高密度と低密度の両方のポリエチレン、例えば0.85〜0.97g/cm3の範囲内の密度を有するポリエチレン;ポリプロピレン;ポリブテン−1;ポリ(3−メチルブテン);ポリ(メチルペンテン);およびエチレンとプロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1、およびオクタデセンなどのα−オレフィンとのコポリマーに適用可能である。炭化水素ポリマーとしては、ポリスチレンなどのビニル芳香族ポリマーも挙げることができる。炭化水素ポリマーのブレンドも使用することができる。使用後の再生ポリマーブレンドも、適切なホスト樹脂である。
【0013】
本発明の押出可能な組成物は、木粉も含有する。木粉とは、20メッシュ(850ミクロン)のふるいを実質的に通過することができるように、切り裂き、すりつぶし、粉砕し、またはその他の方法で粉末にした木質を意味する。多種の木質を使用して、木粉を生成することができ、特定の用途には、ある特定の種が他の種より適している。押出敷板などの耐荷重複合体は、他の種を混ぜてもよいが、カエデやオークなどの堅木を含有することが多い。木粉の具体例としては、アメリカン・ウッド・ファイバーズ(American Wood Fibers)のカエデ−オーク木粉40A3および4037、ならびにPJマーフィー・フォレスト・プロダクツ社(PJ Murphy Forest Products Corp.)の堅木木粉FO6が挙げられる。
【0014】
本発明の押出可能な組成物は、押出可能な組成物の全重量を基準にして0.02〜2重量パーセント(好ましくは0.1〜1重量パーセント)の無機塩も含有する。塩は、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、塩化カリウム、ならびに硫酸、ピロ硫酸、過硫酸、亜硫酸塩、リン酸、亜リン酸、およびピロリン酸のナトリウム塩、カルシウム塩、またはカリウム塩からなる群から選択される。好ましくは、塩は、硫酸カリウム、ピロ硫酸カリウム、亜硫酸カリウム、リン酸カリウム、亜リン酸カリウム、またはピロリン酸カリウムである。
【0015】
本発明の組成物は、押出可能な組成物の全重量を基準にして100〜2500ppm(好ましくは、200〜1000ppm)のフルオロポリマーも含む。本発明の組成物で有用なフルオロポリマーとしては、弾性フルオロポリマー(すなわち、フルオロエラストマーまたは非結晶フルオロポリマー)、および熱可塑性フルオロポリマー(すなわち、半結晶質フルオロポリマー)が挙げられる。フルオロポリマーは、少なくとも15(好ましくは、少なくとも30、最も好ましくは、少なくとも50)重量パーセントのフッ化ビニリデン、および少なくとも1つの他のフッ素含有共重合性モノマーの共重合化単位からなる。共重合モノマー単位の百分率は、フルオロポリマーの全重量を基準にしたものである。適切な共重合性フッ素含有モノマーとしては例えば、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、2−ヒドロ−ペンタフルオロプロピレン、1−ヒドロ−ペンタフルオロプロピレン、およびフルオロビニルエーテル、具体的にはパーフルオロ(メチルビニルエーテル)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明で使用するフルオロポリマーは、エチレンやプロピレンなどの炭化水素共重合性オレフィンの共重合化単位も含有することができる。場合によっては、これらのコポリマーは、アポテケール(Apotheker)およびクルシック(Krusic)の米国特許公報(特許文献2)に教示される臭素含有コモノマー、または米国特許公報(特許文献3)に教示されるヨード末端基を含んでもよい。後者の特許には、ヨード基を含むフルオロオレフィンコモノマーの使用も開示されている。本発明で有用なフルオロエラストマーは、室温以上で通常は流動状態であるフルオロポリマー、すなわちTg値が室温未満であり、室温では結晶性をほとんどまたは全く示さないフルオロポリマーである。
【0016】
本発明の組成物で使用することができるフルオロポリマーの具体例としては、i)フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレン;ii)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、およびテトラフルオロエチレン;iii)フッ化ビニリデン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、およびテトラフルオロエチレン;ならびにiv)フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、およびプロピレンのコポリマーが挙げられる。ただし、これらのコポリマーはすべて、少なくとも15重量パーセントのフッ化ビニリデン共重合化単位、および少なくとも50重量パーセントのフッ素を含有する。フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンのダイポリマーであるフルオロエラストマー;ならびにフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、および場合によってはテトラフルオロエチレンのコポリマーであるフルオロプラスチックが好ましい。
【0017】
本発明の組成物で単一フルオロポリマーが使用される場合、フルオロポリマーは、非フッ素化ホストポリマーのプロセス温度で実質的に溶融していなければならない。フルオロポリマーブレンドを使用する場合、ブレンド成分の少なくとも1つは、この基準を満たさなければならない。
【0018】
フルオロポリマーがフルオロエラストマーである場合、121℃におけるムーニー粘度ML1+10(ASTM D−1646に準拠して測定)は約50より高いことが好ましい。フルオロポリマーがフルオロプラスチックである場合、メルトインデックスは7.0dg/分未満であることが好ましい(ASTM D−1238に準拠して、265℃において、重量5kgで測定)。
【0019】
本発明の押出可能な組成物は、場合によっては、木質複合体に一般的に含まれている他の材料、具体的にはカップリング剤(例えば、無水マレイン酸含有ポリマー)、ワックス、潤滑剤、ステアレート、着色剤、起泡剤、光安定剤、充填剤なども含有してよい。
【0020】
無機塩およびフルオロポリマーに加えて、本加工助剤組成物は、米国特許公報(特許文献4)に記載される界面剤を場合によっては含有してもよい。好ましい界面剤としては、ポリエチレングリコールおよびポリカプロラクトンが挙げられる。
【0021】
本発明の押出可能な木質複合体組成物は、様々な方法、具体的には米国特許公報(特許文献5);米国特許公報(特許文献6);および米国特許公報(特許文献7)に記載される方法によって調製することができる。すべての場合において、最終成形操作の前に木粉を被包成型するためにホスト樹脂を溶融する。最終成形操作前ならいつでも、本発明で使用する無機塩およびフルオロポリマーをホストポリマー/木粉の混合物に添加してよい。
【0022】
本発明の組成物は、敷板などの最終用途向けの木質複合体の押出で特に有用である。
【実施例】
【0023】
下記の実施例は、上述する加工助剤組成物を押出可能な組成物で使用したときの押出木質複合体について表面粗さの大幅な改善を示す。
【0024】
これらの実施例で使用する材料は下記の通りであった。
【0025】
炭化水素ホスト樹脂は、重量比70/30の線状低密度ポリエチレン(LLDPE)/低密度ポリエチレン(LDPE)ブレンドであった。LDPEはダウケミカル社(Dow Chemical Co.)の640iグレードで、メルトインデックス(190℃、2160g)は1.0dg/分であった。LLDPEは、エクソンモービル・ケミカル(ExxonMobil Chemical)のLL1001.59グレードで、メルトインデックスはやはり1.0dg/粉(190℃、2160g)であった。木粉は、カエデ−オークブレンド40A3(アメリカン・ウッド・プロダクツ(American Wood Products))であった。
【0026】
カップリング剤は、無水マレイン酸グラフト化ポリエチレンのポリボンド(Polybond)(登録商標)3009(ケムチュラ社(Chemtura Corp.))であった。
【0027】
フルオロポリマーは、バイトン(Viton)(登録商標)AHVフルオロエラストマー(本願特許出願人製)であった。
【0028】
(実施例1〜8および比較例1〜7)
押出可能な木質複合体組成物はすべて、重量比50/50のホスト樹脂と木粉、および押出可能な組成物の全重量を基準にして0.5重量%の無水マレイン酸グラフト化ポリエチレンカップリング剤を含有した。他の材料を表Iに示す。
【0029】
押出可能な木質複合体組成物を下記の手順で作製した。木粉を、デシカント式乾燥機で90℃において少なくとも5時間乾燥した。乾燥木粉、ホスト樹脂、カップリング剤、および他の材料を計量し、タンブルブレンドして、1300gのバッチを生成した。次いで、このバッチをBRバンバリー(Banbury)(登録商標)ミキサーに加えた。混合物が流動化した後(音およびアンペア数の変化によって認められる)、混合をもう3分間継続させた。バッチの吐出温度は、通常は約290°Fであった。次いで、得られた押出可能な木質複合体組成物を冷却し、造粒し、押出試験の前に、再び少なくとも2時間乾燥した。
【0030】
押出試験は、スクリュー速度62rpmで作動する3/4インチの単軸押出機を使用するブラベンダー(Brabender)(登録商標)プラスチコーダー(Plasticoder)によって、1.52mmの間隙がある幅25.4mmのスロットダイに供給して実施した。供給部から前方に向ってバレルおよびダイ温度設定値(℃)は160/170/180/190であった。木質複合体化合物を押出機に供給し、50分の押出後のダイ圧力を記録した。押出物試料を10分間隔で回収し、50分に押出物の上面および底面が完全に粗面、完全に滑面、または粗面と滑らかな条痕との組合せであることを目視で判定した。
【0031】
様々な加工助剤組成物を使用した試験結果を表Iに示す。
【0032】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出可能な木質複合体組成物であって、
A)重量比70:30〜30:70の炭化水素ホスト樹脂と木粉;
B)前記押出可能な組成物の全重量を基準にして0.02〜2重量パーセントの四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、塩化カリウム、ならびに硫酸、ピロ硫酸、過硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、およびピロリン酸のナトリウム塩、カルシウム塩、またはカリウム塩からなる群から選択される塩;および
C)前記押出可能な組成物の全重量を基準にして100〜2500ppmのフルオロポリマー
を含むことを特徴とする押出可能な組成物。
【請求項2】
前記塩が、硫酸カリウム、ピロ硫酸カリウム、亜硫酸カリウム、リン酸カリウム、亜リン酸カリウム、およびピロリン酸カリウムからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の押出可能な組成物。
【請求項3】
前記塩が、前記押出可能な組成物の全重量を基準にして0.1〜1重量パーセントの量で存在することを特徴とする請求項1に記載の押出可能な組成物。
【請求項4】
前記フルオロポリマーが、前記押出可能な組成物の全重量を基準にして200〜1000ppmの量で存在することを特徴とする請求項1に記載の押出可能な組成物。
【請求項5】
前記フルオロポリマーが、ASTM D1646に準拠して測定した121℃におけるムーニー粘度ML1+10が50より高いフルオロエラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の押出可能な組成物。
【請求項6】
前記フルオロエラストマーが、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンのダイポリマーであることを特徴とする請求項5に記載の押出可能な組成物。
【請求項7】
前記フルオロポリマーが、ASTM D1238に準拠して265℃において重量5kgで測定したメルトインデックスが7.0dg/分未満であるフルオロプラスチックであることを特徴とする請求項1に記載の押出可能な組成物。
【請求項8】
前記フルオロプラスチックが、i)フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの共重合化単位、ならびにii)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、およびテトラフルオロエチレンの共重合化単位からなる群から選択されることを特徴とする請求項7に記載の押出可能な組成物。
【請求項9】
前記炭化水素ホスト樹脂が、使用後の再生ポリマーブレンドを含むことを特徴とする請求項1に記載の押出可能な組成物。
【請求項10】
前記組成物が、前記組成物の全重量を基準にして40〜60重量パーセントの木粉を含有することを特徴とする請求項1に記載の押出可能な組成物。

【公表番号】特表2009−543929(P2009−543929A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−520747(P2009−520747)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/014974
【国際公開番号】WO2008/008186
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(597035953)デュポン パフォーマンス エラストマーズ エルエルシー (44)
【Fターム(参考)】