説明

押出材のダイレス加工装置

【課題】構造の簡素化、コストの削減および生産効率の向上を図ることができる押出材のダイレス加工方法を提供する。
【解決手段】本発明は、押出材Wを搬送する搬送経路上に変形加工域Rが設けられた押出材のダイレス加工装置である。本装置は、変形加工域Rの下流側端部に設けられ、かつ押出W材を冷却する下流側冷却手段と、下流側冷却手段の搬送方向下流側に設けられ、かつ押出材Wを搬送方向に引っ張るように移動させる押出材引張手段と、を備え、押出機1から連続的に供給される押出材Wを変形加工域Rに進入させる一方、押出材引張手段による押出材Wの引張速度V2を、押出材Wが変形加工域Rに進入する際の変形開始前速度V1に対し相対的に異なる速度に設定することにより、押出材Wを変形加工域Rにおいて断面方向に変形させる変形処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、押出材を断面方向に変形させるようにした押出材のダイレス加工装置およびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
軸心方向の位置によって、異なる断面形状を有する押出材を得る技術としては例えば、下記特許文献1〜3に示す方法が周知である。
【0003】
特許文献1は、押出加工方法を利用するものであって、ダイスの一部を可動ダイスにより構成し、押出加工時に適宜、可動ダイスを移動させることによって、ダイス孔の形状を変化させて、可変断面の押出材を製造するようにしている。
【0004】
特許文献2,3は、ダイレスドローイング加工方法を利用するものであって、押出材を局部的に加熱しつつ軸心方向に引っ張ることにより、押出材の局部加熱部を縮径変形させるようにしている。
【特許文献1】特開2007−152405号(特許請求の範囲、図1−5)
【特許文献2】特開昭48−81761号(特許請求の範囲、図面)
【特許文献3】特開昭60−56417号(特許請求の範囲、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に示す従来の可変断面押出材の製造方法では、ダイスの構成が複雑になるため、構造の複雑化およびコストの増大を招くという問題がある。
【0006】
また特許文献2,3に示す従来の押出材のダイレスドローイング加工方法は、予め準備しておいた押出材等を加工して縮径変形させるものであるため、押出材を得るための押出工程と、押出材を縮径変形する縮径変形工程とが別工程となり、両工程間の移行をスムーズに行うことができず、生産効率の低下を来すという問題があった。
【0007】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、構造の簡素化、コストの削減および生産効率の向上を図りつつ、可変断面の押出材を確実に得ることができる押出材のダイレス加工装置およびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を要旨とするものである。
【0009】
[1] 押出材を搬送する搬送経路上の変形加工域において押出材を変形させるようにした押出材のダイレス加工装置であって、
変形加工域における搬送方向下流側の端部に設けられ、かつ押出材を冷却する下流側冷却手段と、
下流側冷却手段の搬送方向下流側に設けられ、かつ押出材を搬送方向に引っ張るように移動させる押出材引張手段と、を備え、
押出機から連続的に供給される押出材を変形加工域に進入させる一方、押出材引張手段による押出材の引張速度を、押出材が変形加工域に進入する際の変形開始前速度に対し相対的に異なる速度に設定することにより、押出材を変形加工域において断面方向に変形させる変形処理を行うようにしたことを特徴とする押出材のダイレス加工装置。
【0010】
[2] 押出材引張手段による引張速度を変更できるように構成される前項1に記載の押出材のダイレス加工装置。
【0011】
[3] 変形処理において、押出材引張手段による引張速度を、変形開始前速度に対し速く設定することにより、押出材に引張力を与えて縮径変形させる縮径変形処理と、押出材引張手段による引張速度を、変形開始前速度に対し遅く設定することにより、押出材に圧縮力を与えて拡径変形させる拡径変形処理と、のいずれの処理も行えるように構成される前項1または2に記載の押出材のダイレス加工装置。
【0012】
[4] 押出材を、押出時の余熱を残存させた状態で変形加工域に進入させるようにした前項1〜3のいずれかに記載の押出材のダイレス加工装置。
【0013】
[5] 変形加工域よりも搬送方向上流側に設けられ、かつ押出材を支持する支持手段を備える前項1〜4のいずれかに記載の押出材のダイレス加工装置。
【0014】
[6] 変形加工域の搬送方向上流側端部に設けられ、かつ押出材を加熱する加熱手段を備える前項1〜5のいずれかに記載の押出材のダイレス加工装置。
【0015】
[7] 加熱手段の搬送方向上流側に設けられ、かつ押出材を冷却する上流側冷却手段を備える前項6に記載の押出材のダイレス加工装置。
【0016】
[8] 加熱手段は、押出材を固溶体化温度まで上昇させるように構成される前項6または7に記載の押出材のダイレス加工装置。
【0017】
[9] 支持手段は、押出材を搬送方向に送り出す送給手段を兼用する前項5に記載の押出材のダイレス加工装置。
【0018】
[10] 支持手段は、押出材を外周側から挟持しつつ、その挟持状態で押出材を搬送方向に送り出す複数の送給ローラによって構成される前項9に記載の押出材のダイレス加工装置。
【0019】
[11] 押出材がアルミニウムまたはアルミニウム合金により構成される前項1〜10のいずれかに記載の押出材のダイレス加工装置。
【0020】
[12] 押出材を搬送する搬送経路上の変形加工域において押出材を変形させるようにした押出材のダイレス加工方法であって、
押出機から連続的に供給される押出材を進入させる一方、押出材における変形加工域よりも搬送方向下流側を、押出材引張手段によって、押出材が変形加工域に進入する際の変形開始前速度に対し相対的に異なる速度で搬送方向に引張移動させることにより、押出材を変形加工域において断面方向に変形させる変形処理と、
変形加工域の下流側端部において、押出材を冷却する冷却処理と、を行うようにしたことを特徴とする押出材のダイレス加工方法。
【0021】
[13] 押出材引張手段による引張速度を、変形開始前速度に対し同じ速度に設定することにより、押出材を変形加工域において変形させない非変形処理を行って、
変形された部分と、変形されない部分とを有する可変断面押出材を得るようにした前項12に記載の押出材のダイレス加工方法。
【0022】
[14] 変形処理において、押出材引張手段による引張速度を、変形開始前速度に対し速く設定することにより、押出材に引張力を与えて縮径変形させる縮径変形処理と、押出材引張手段による引張速度を、変形開始前速度に対し遅く設定することにより、押出材に圧縮力を与えて拡径変形させる拡径変形処理と、を行って、
縮径変形された部分と、拡径変形された部分とを有する可変断面押出材を得るようにした前項12または13に記載の押出材のダイレス加工方法。
【0023】
[15] 押出材を連続的に供給する押出機と、
押出機から供給される押出材を搬送する搬送経路と、
搬送経路上に設けられた変形加工域と、
変形加工域における搬送方向下流側の端部に設けられ、かつ押出材を冷却する下流側冷却手段と、
下流側冷却手段の搬送方向下流側に設けられ、かつ押出材を搬送方向に引っ張るように移動させる押出材引張手段と、を備え、
押出機から連続的に供給される押出材を変形加工域に進入させる一方、押出材引張手段による押出材の引張速度を、押出材が変形加工域に進入する際の変形開始前速度に対し相対的に異なる速度に設定することにより、押出材を変形加工域において断面方向に変形させる変形処理を行うようにしたことを特徴とする可変断面押出材の製造設備。
【0024】
[16] 押出材引張手段による引張速度を変更できるとともに、
押出機による押出材の押出速度を変更できるように構成される前項15に記載の可変断面押出材の製造設備。
【発明の効果】
【0025】
発明[1]の押出材のダイレス加工装置によれば、押出機から供給される押出材を変形加工域に導いて断面方向に変形加工するものであるため、可変断面の押出材を確実に得ることができる。さらに押出加工と断面変形加工とを連続してスムーズに行うことができるため、生産効率の向上を図ることができる。さらに可動ダイス等の複雑な部品も必要ないため、その分、構造の簡素化およびコストの削減を図ることができる。
【0026】
発明[2]の押出材のダイレス加工装置によれば、変形開始前速度に対し押出材引張手段による引張速度を適切に変更させることができるため、所望の変形加工をより確実に行うことができる。
【0027】
発明[3]の押出材のダイレス加工装置によれば、押出材の断面形状を多岐にわたって自在に変化させることができるため、あらゆる形状の可変断面押出材を作製することができる。
【0028】
発明[4]の押出材のダイレス加工装置によれば、押出時の余熱を利用して、押出材変形用の熱量を取得できるため、その分、熱消費量を削減できて、省エネルギー化を図ることができる。
【0029】
発明[5]の押出材のダイレス加工装置によれば、押出材引張手段による応力が押出機の動作に悪影響を及ぼすのを防止することができる。
【0030】
発明[6]の押出材のダイレス加工装置によれば、押出材を適切な加工温度に調整することができる。
【0031】
発明[7]の押出材のダイレス加工装置によれば、押出材引張手段による応力が押出機の動作に悪影響を及ぼすのを確実に防止することができる。
【0032】
発明[8]の押出材のダイレス加工装置によれば、焼入れ効果を得ることができ、押出製品の品質を向上させることができる。
【0033】
発明[9]の押出材のダイレス加工装置によれば、押出材をより安定した状態で搬送することができる。
【0034】
発明[10]の押出材のダイレス加工装置によれば、押出材をより一層安定した状態で支持搬送することができる。
【0035】
発明[11]の押出材のダイレス加工装置によれば、高品質のアルミニウム押出製品を得ることができる。
【0036】
発明[12]の押出材のダイレス加工方法によれば、上記と同様に、構造の簡素化、コストの削減および生産効率の向上を図りつつ、可変断面の押出材に確実に得ることができる。
【0037】
発明[13][14]の押出材のダイレス加工方法によれば、多くの種類の可変断面押出材を作製することができる。
【0038】
発明[15]の可変断面押出材の製造設備によれば、上記と同様に、構造の簡素化、コストの削減および生産効率の向上を図りつつ、可変断面の押出材を確実に得ることができる。
【0039】
発明[16]の可変断面押出材の製造によれば、変形開始前速度に対し押出材引張手段による引張速度を適切に変更させることができるため、所望の変形加工をより確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
<第1実施形態>
図1,2はこの発明の第1実施形態である可変断面押出材の製造設備を示す図である。両図に示すようにこの製造設備は、押出機(1)を備え、その押出機(1)の押出軸の延長線上に搬送経路(P)が設けられており、押出機(1)から押し出される押出材(W)が搬送経路(P)上を押出方向(搬送方向X)に向けて搬送されるようになっている。
【0041】
さらに搬送経路(P)上には、搬送方向(X)の上流側から順次に下流側冷却手段としての冷却装置(2)、および押出材引張手段としての引張装置(引張/圧縮装置3)が設けられている。
【0042】
押出機(1)は、押出ダイ(11)を備え、押出加工された押出材(W)が押出ダイ(11)から吐出されるようになっている。
【0043】
プラー装置等とも称される引張装置(3)は、押出機(1)によって押出加工される押出材(W)の先端を把持可能なチャック(31)と、そのチャック(31)を搬送方向(X)に沿って移動させるチャック引張移動手段(図示省略)とを備えている。そしてそのチャック(31)によって押出材(W)の先端側を把持(保持)した状態で、そのチャック(31)を搬送方向(X)に移動させることによって、押出材(W)が搬送経路(P)上を搬送方向(X)に引っ張られるようにして搬送されるようになっている。
【0044】
また引張装置(3)は、チャック(31)の移動速度(引張速度)を変更できて任意の速度で移動できるようになっており、後に詳述するように例えば、引張装置(3)による押出材先端側の引張速度を、押出機(1)の押出速度よりも速い速度に設定することによって、押出材(W)に引張力を作用させながら押出材(W)を搬送したり、押出速度よりも遅い速度に設定することによって、押出材(W)に圧縮力を作用させながら押出材(W)を搬送できるようになっている。
【0045】
なお本実施形態において、押出機(1)による押出速度(V1)は、5〜10m/mim程度であり、引張装置(3)による引張速度(V2)は、押出速度(V1)に対し、10〜200%の範囲内で調整可能に構成されている。
【0046】
冷却装置(2)は、押出材(W)を、軸心方向に対して局部的に、かつ周方向に対して全域において押出材引張急速に冷却できるように構成されている。
【0047】
本実施形態において冷却装置(2)としては、押出材(W)に、冷却油等の冷却液を吹き付ける水冷式冷却装置や、冷却エアー等を吹き付ける空冷式冷却装置等を好適に用いることができる。
【0048】
本実施形態の可変断面押出材の製造設備においては、押出機(1)における押出ダイ(11)の吐出口位置と冷却装置(2)との間の領域が変形加工域(R)として構成されており、押出ダイ(11)の吐出口が変形開始地点(R1)、冷却装置(2)の位置が変形終了地点(R2)として構成されている。
【0049】
また本実施形態の可変断面押出材の製造設備においては、パーソナルコンピュータ等によって構成される制御装置(図示省略)が設けられており、この制御装置によって、押出機(1)、冷却装置(2)および引張装置(3)等の各駆動部の駆動が制御されて、後述する動作が自動的に行われるようになっている。
【0050】
なお本実施形態の製造設備において加工される押出材(W)の素材は、アルミニウム(その合金を含む)等の金属によって構成されている。さらに製造される可変断面押出材(W)は例えば、自動車をはじめとする輸送機器溶部材や建築溶部材等として用いられるものである。
【0051】
次に本実施形態の製造設備の動作について説明する。
【0052】
まず引張装置(3)を初期位置、つまりチャック(31)を冷却装置(2)の近傍位置に配置するとともに、押出機(1)から押し出された押出材(W)を搬送経路(P)に沿って配置して先端をチャック(31)によって把持させる。なお本実施形態において、押出機(W)から押し出される押出材(W)は図17(a)に示すように、断面円環形状に形成されている。
【0053】
また冷却装置(2)は作動されて、押出材(W)が変形終了地点(R2)で冷却されるようになっている。
【0054】
本実施形態の製造設備において、生産が開始されると、押出機(1)から押出材(W)が搬送経路(P)上に連続的に供給される一方、引張装置(3)によって押出材先端側が搬送方向(X)に引っ張られる。これにより押出材(W)は、搬送経路(P)上を連続的に搬送方向(X)に搬送される。
【0055】
ここで本実施形態においては、押出機(1)から吐出されて変形加工域(R)上を通過する押出材(W)は、押出直後の状態であるため、押出時の余熱が残存し、その余熱によって、変形抵抗が小さくて塑性変形し易い状態となっている。
【0056】
そして本実施形態において押出材(W)を変形加工部(R)で変形したり、変形させなかったりすることができる。
【0057】
例えば、押出材(W)を変形加工域(R)で変形させない場合には、引張装置(3)による引張速度(V2)を、押出機(1)の押出速度(V1)と等しく設定しておく。
【0058】
これにより押出材(W)は、押出ダイ(11)および冷却装置(2)間の変形加工域(R)を変形せずに通過していく。すなわち押出材(W)は、変形加工域(R)において変形し易い状態となっているものの、押出速度(V1)と引張速度(V2)とが等しく設定されているため、押出材(W)に対し、引張力や圧縮力等の応力が作用せず、変形加工域(R)において押出材(W)が引き延ばされたり、押し縮められたりすることがなく、変形することはない。
【0059】
こうして押出材(W)は、変形せずに変形加工域(R)を通過した後、押出材(W)が冷却装置(2)の位置(変形終了地点R2)を通過する際に、その通過部分が冷却装置(2)によって冷却されて固結(凍結)されて、変形抵抗が高く変形し難い状態(安定化状態)となる。なお押出材(W)の冷却前と冷却後の温度差は、およそ300℃程度である。
【0060】
このように押出材(W)は図3(a)に示すように、断面形状を押出直後の形状に保ったまま、変形加工域(R)を通過して下流側へと搬送されていく。
【0061】
なお本第1実施形態においては、押出速度(V1)が、押出材(W)が変形加工域(R)に進入する際の変形開始前速度となる。
【0062】
次に、連続供給される押出材(W)を、変形加工域(R)において例えば縮径変形させる場合、つまり押出材(W)の径寸法や肉厚を小さく変形させる場合には、引張装置(3)による引張速度(V2)を、押出速度(V1)よりも速くする。なお本実施形態においては、押出速度(V1)を一定に設定しておき、引張装置(3)による引張速度(V2)を変更することにより、押出速度(V1)に対し、引張速度(V2)を変更するようにしている。
【0063】
引張速度(V2)を速くすることにより、図3(b)に示すように、押出材(W)が引張装置(3)によって引っ張られて、変形加工域(R)において押出材(W)が引き延ばされて、縮径変形および薄肉変形される。こうして押出材(W)がその総断面積(孔の部分も含む)が小さくなるように変形される。なお本実施形態においては、変形前の断面形状と、変形後の断面形状とは相似形となっている。
【0064】
こうして縮径変形されて図3(c)に示すように、変形部分が冷却装置(2)の位置(変形終了地点R2)に到達すると図3(d)に示すように変形部分が冷却装置(2)によって冷却されて固結(凍結)される。これにより変形の進行が停止されて図3(e)および図4に示すように、形状が安定した状態で、下流側へと搬送されていく。
【0065】
また、押出材(W)を拡径変形させる場合、つまり押出材(W)の径寸法や肉厚を大きく変形させる場合には、引張装置(3)による引張速度(V2)を、押出速度(V1)よりも遅くする。
【0066】
これにより図5に示すように押出材(W)に対し、引張装置(3)による抵抗力(圧縮力)が作用して、押出材(W)が変形加工域(R)において押し縮められて、拡径変形および増肉変形される。こうして押出材(W)がその総断面積(孔の部分も含む)が大きくなるように変形される。なおこの拡径変形においても、変形前の断面形状と、変形後の断面形状とは相似形となっている。
【0067】
このように拡径変形された後、その変形部分は変形終了地点(R2)において冷却装置(2)によって冷却されて固結される。これにより変形の進行が停止されて、形状が安定した状態で、下流側へと搬送されていく。
【0068】
次に本実施形態において、引張速度(V2)の速度変化によって押出材(W)の断面形状を制御する方法を、具体例を挙げて説明する。
【0069】
図6(a)は押出速度(V1)および引張速度(V2)の変化を時系列に示すグラフ、同図(b)は同図(a)の速度変化に対し押出材の外径変化を時系列的に示すグラフ、同図(c)は同図(a)の速度変化に対し押出材の外径変化を時系列的に示すグラフ、同図(d)は同図(a)〜(c)のグラフに基づいて押出材を図式化して示す側面断面図である。なお既述したように押出速度(V1)は一定に保持される。
【0070】
同図に示すように時刻(T1)から(T2)にかけては、引張装置(3)による引張速度(V2)が、押出速度(V1)と等しく設定されている。これにより変形加工域(R)において押出材(W)に引張力や圧縮力等の応力が作用せず、押出材(W)は変形せず初期の断面形状に維持される。
【0071】
次に時刻(T2)から(T3)にかけて、引張速度(V2)が加速されていく。これにより押出材(W)に作用する引張力が次第に増大して、押出材(W)が変形加工域(R)において徐々に引き延ばされていき、外径および肉厚が漸次減少していく。
【0072】
さらに時刻(T3)から(T4)にかけて、引張速度(V2)が一定の高速状態となる。これにより押出材(W)に一定の引張力が連続して作用し、所定量、縮径および薄肉変形された状態に維持される。
【0073】
次に時刻(T4)から(T5)にかけて、引張速度(V2)が減速されていく。これにより押出材(W)に作用する引張力が次第に減少していき、外径および肉厚が次第に増大していく。
【0074】
さらに時刻(T5)から(T6)にかけて、引張速度(V2)が、押出速度(V1)と等しい初期速度となり、その速度で一定に保持される。これにより押出材(W)に応力が作用せず、押出材(W)が初期の断面形状に維持される。
【0075】
続いて時刻(T6)から(T7)にかけて、引張速度(V2)が減速されていく。これにより、押出材(W)に作用する圧縮力が次第に増大して、押出材(W)が変形加工域(R)において徐々に押し縮められていき、外径および肉厚が漸次増大していく。
【0076】
さらに時刻(T7)から(T8)にかけて、引張速度(V2)が一定の低速状態となる。これにより押出材(W)に一定の圧縮力が連続して作用し、所定量、拡径および厚肉変形された状態に維持される。
【0077】
次に時刻(T8)から(T9)にかけて、引張速度(V2)が減速されていき、押出材(W)に作用する圧縮力が次第に減少していき、外径および内径が次第に減少していく。
【0078】
さらに時刻(T9)から(T10)にかけて、引張速度(V2)が、押出速度(V1)と等しい初期速度となり、押出材(W)が初期の断面形状に維持される。
【0079】
こうして得られた押出材(W)は図6(d)および図7に示すように、時刻(T1)〜(T2)、時刻(T5)〜(T6)、時刻(T9)〜(T10)に対応する部分(W1)が変形されず、時刻(T2)〜(T5)に対応する部分(W2)が縮径および薄肉変形され、時刻(T6)〜(T9)に対応する部分(W3)が拡径および増肉変形されている。つまり、縮径および薄肉変形された部分(W2)と、拡径および増肉変形された部分(W3)と、変形されない部分(W1)と、を有する押出材(可変断面押出材)を製造することができる。
【0080】
以上のように本実施形態の可変断面押出材の製造設備によれば、押出機(1)から供給される押出材(W)をそのまま、変形加工域(R)に導いて、引張力や圧縮力を付与して、断面形状を変形させるようにしているため、押出工程と、断面変形工程とを連続してスムーズに行うことができ、生産効率を向上させることができる。
【0081】
さらに本実施形態においては、押出直後の押出材(W)に対し、引張力や圧縮力を付与して、押出材(W)の断面形状を変形させるようにしているため、つまり、押出時の余熱を利用して、押出材変形用の熱量を取得するようにしているため、押出材(W)の変形予定部分を別途加熱する必要はなく、その分、消費熱量を削減できて、省エネルギー化を図ることができるとともに、加熱時間も省略できて、生産効率をより確実に向上させることができる。
【0082】
なお参考までに、本実施形態のダイレス加工において、押出材(W)を変形加工域(R)で変形加工するのに必要な温度は、およそ500℃程度であるが、上述の押出速度、温度等の条件以外でも加工可能である。
【0083】
また本実施形態では、径方向への変形用のダイスを使用する必要もなければ、加熱装置も必要なく、これらの機器を省略できるため、その分、設備の簡素化を図ることができる。
【0084】
また本実施形態では、連続する1本の押出材(W)を加工中において、引張装置(3)による引張速度(V2)を、遅い速度から速い速度にかけて自在に変更できるため、高速に設定することにより、1本の押出材(W)に対し縮径変形と、拡径変形とを行うことができる。従って1本の押出材(W)の断面形状を多岐にわたって自在に変化させることができるため、あらゆる形状の可変断面押出材を作製できて、汎用性を向上させることができる。
【0085】
さらに本実施形態において、押出材(W)を引き延ばす場合には、ストレッチ効果によって、曲がりのない直線度に優れた押出製品を得ることができる。
【0086】
なお、本実施形態において仮に、押出時の余熱だけでは熱量が不十分の場合には図14に示すように、補助加熱装置(5)を別途配置して、その加熱装置(5)によって押出材(W)を補助的に加熱するようにしても良い。この場合においても、押出材(W)は押出時の余熱が残存しているため、押出材(W)を効率良くスムーズに加熱することができ、省エネルギー化および生産効率の向上を図ることができる。さらに補助加熱装置(5)を配置した場合、加熱装置(5)の位置が変形開始地点(R1)となり、冷却装置(2)の位置が上記と同様に変形終了地点(R2)となり、両地点(R1)(R2)間が変形加工域(R)となる。
【0087】
なお上記の補助的な加熱装置は、必ずしも単独のものを設ける必要はなく、押出機(1)の押出ダイ(11)に付属的に組み込んだり、後述の第2実施形態等における送給ローラ(支持手段)に付属的に組み込んだりするようにしても良い。
【0088】
また上記第1実施形態において、引張装置(3)は、押出材(W)をチャック(31)により掴んで保持するようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、複数の挟持ローラによって押出材を挟持し、かつその挟持状態で挟持ローラを回転駆動することにより、押出材を搬送方向下流側に引張移動させるように構成したローラ送り式の引張装置(押出材引張手段)を採用することもできる。
【0089】
また上記第1実施形態においては、引張装置(3)による引張速度(V2)を変更するようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、押出速度(V1)を変更したり、あるいは押出速度(V1)および引張速度(V2)を共に変更して、両速度(V1)(V2)の相対速度を変化させるようにしても良い(以下の実施形態および変形例においても同じ)。
【0090】
<第2実施形態>
図8,9はこの発明の第2実施形態である可変断面押出材の製造設備を模式化して示す側面断面図である。両図に示すようにこの第2実施形態の製造設備においては、押出機(1)と冷却装置(2)との間に支持手段としての一対の送給ローラ(4)(4)が設けられている点が、上記第1実施形態の製造設備と相違する。
【0091】
本第2実施形態において、一対の送給ローラ(4)(4)は、搬送経路(P)の上下に配置されており、押出機(1)から押し出された押出材(W)をその外周面に転がり接触する態様に上下から挟持することにより、押出材(W)を支持できるようになっている。さらに送給ローラ(4)は、図示しない駆動手段の駆動によって回転駆動できるようになっており、その回転駆動によって、押出材(W)を搬送方向(X)に沿って下流側に送り出せるようになっている。
【0092】
本第2実施形態において、送給ローラ(4)の周速度、つまり送給ローラ(4)による押出材(W)の送給速度(V3)は基本的に、押出速度(V1)と等しく設定される。もっとも本実施形態においては、必要に応じて、送給ローラ(4)の送給速度(V3)を、押出速度(V1)に対し多少変更するようにしても良い。
【0093】
なお本第2実施形態においては、送給ローラ(4)の送給速度(V3)が、押出材(W)が変形加工域(R)に進入する際の変形開始前速度となる。また言うまでもなく、送給速度(V3)を押出速度(V1)と等しく設定している場合には、押出速度(V1)および送給速度(V3)が、押出材(W)が変形加工域(R)に進入する際の変形開始前速度となる。
【0094】
また本実施形態においては、送給ローラ(4)と冷却装置(2)との間の領域が変形加工域(R)として構成され、送給ローラ(4)の位置が変形開始地点(R1)、冷却装置(2)の位置が変形終了地点(R2)として構成される。
【0095】
本第2実施形態において、他の構成は、上記第1実施形態と同様であるため、同一または相当部分に同一符号を付して重複説明を省略する。
【0096】
以上の構成の製造設備において、生産が開始されると、押出機(1)から連続的に押し出された押出材(W)が送給ローラ(4)を通じて連続的に搬送方向(X)に沿って送り出される一方、押出材先端側が引張装置(3)によって搬送方向に引っ張られるように搬送される。
【0097】
そして変形加工域(R)において、押出材(W)を変形させない場合には、引張装置(3)による引張速度(V2)を送給ローラ(4)の送給速度(V3)と等しく設定する。これにより、変形加工域(R)を通過する押出材(W)は、押出時の余熱によって変形抵抗が低く変形し易い状態となっているものの、引張力や圧縮力等が作用しないため、押出材(W)が変形されることなく、変形終了地点(R2)まで導かれ、そこで冷却装置(2)によって冷却固結される。従って押出材(W)は、断面形状を押出直後の形状に保ったまま、変形加工域(R)を通過して下流側へと移送されていく。
【0098】
また押出材(W)を縮径変形する場合には、引張速度(V2)を送給速度(V3)よりも速くすることにより、押出材(W)に引張力が作用して、変形加工域(R)において縮径変形および薄肉変形される。
【0099】
さらに拡径変形する場合には、引張速度(V2)を送給速度(V3)よりも遅くすることにより、押出材(W)に圧縮力が作用して、変形加工域(R)において拡径変形および増肉変形される。
【0100】
この第2実施形態の製造設備においては、押出機(1)の吐出口直後に、押出材(W)を支持して送り出す送給ローラ(4)を設置しているため、引張装置(3)によって押出材(W)に作用させる引張力や圧縮力等の応力を、送給ローラ(4)によって確実に受け止めらることができる。このため当該応力が押出機(1)の押出動作に悪影響を及ぼすことがなく、押出不良の発生等の不具合を確実に防止することができる。従って安定した形状の押出材(W)を得ることができ、ひいては、その押出材(W)を精度良く変形加工できて、品質の高い可変断面の押出製品をより確実に得ることができる。
【0101】
また本第2実施形態においては、送給ローラ(4)によって押出材(W)を送り出すようにしているため、押出材(W)を安定した状態に搬送することができ、精度良く変形加工することができる。
【0102】
なおこの第2実施形態においては、支持ローラ(4)を2つ設ける場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては、支持ローラを周方向に均等な配置で3つ以上設けて、押出材を周囲から挟持するようにしても良い。
【0103】
さらに第2実施形態においては、支持手段を送給ローラ(4)によって構成するようにしているが、それだけに限られず、本発明において、例えば、押出材(W)を把持して移動するチャック付の移動手段等によって支持手段を構成するようにしても良い。さらに支持手段は、必ずしも、押出材(W)を送り出す機能(送給手段)を兼用させる必要がなく、押出材(W)を単に支持(挟持)するだけの支持ローラ(ガイドローラ)等によって構成しても良い。
【0104】
また上記第2実施形態においては、引張装置(3)による引張速度(V2)を変化させるようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、送給ローラ(4)の送給速度(V3)を変化させたり、あるいは送給速度(V3)および引張速度(V2)を共に変化させるようにしても良い(以下の実施形態および変形例においても同じ)。
【0105】
<第3実施形態>
図10,11はこの発明の第3実施形態である可変断面押出材の製造設備を模式化して示す側面断面図である。同図に示すようにこの第3実施形態の製造設備は、押出機(1)と冷却装置(2)との間の搬送経路(P)上において、搬送方向(X)の上流側に上流側冷却手段としての上流側冷却装置(6)が設けられるとともに、下流側に加熱手段としての加熱装置(5)が設けられている点が、上記第1実施形態の製造設備と相違する。
【0106】
なお本実施形態においては、下流側冷却手段としての「冷却装置(2)」を、「上流側冷却装置(6)」と明確に区別できるように、「下流側冷却装置(2)」と称することとする。
【0107】
本第3実施形態において、上流側冷却装置(6)は、下流側冷却装置(2)と同様、押出材(W)を、軸心方向に対して局部的に、かつ周方向に対して全域において急速に冷却できるよう構成さている。具体的に上流側冷却装置(6)は、押出材(W)に、冷却油等の冷却液を吹き付ける水冷式冷却装置や、冷却エアー等を吹き付ける空冷式冷却装置等によって構成されている。
【0108】
加熱装置(5)は、押出材(W)を、軸心方向(押出方向)に対して局部的に、かつ周方向に対して全域において急速に加熱できるように構成されている。
【0109】
この加熱装置(5)としては、高周波を利用する高周波加熱装置や、誘導加熱を利用する誘導加熱装置等の非接触型の加熱装置を好適に採用することができる。
【0110】
また本実施形態においては、加熱装置(5)と下流側冷却装置(2)との間の領域が変形加工域(R)として構成され、加熱装置(5)の位置が変形開始地点(R1)、下流側冷却装置(2)の位置が変形終了地点(R2)として構成される。
【0111】
本第3実施形態において、他の構成は、上記第1または第2実施形態と同様であるため、同一または相当部分に同一符号を付して重複説明を省略する。
【0112】
以上の構成の製造設備においては、押出機(1)から押出材(W)が連続的に押し出されて搬送方向(X)に沿って連続的に供給される一方、押出材(W)の先端側が、引張装置(3)によって搬送方向(X)に引っ張られることにより、押出材(W)が搬送経路(P)上を搬送される。
【0113】
そして押出機(1)から押し出された直後の押出材(W)は、上流側冷却装置(6)によって冷却されて固結(凍結)される。
【0114】
上流側冷却装置(6)によって冷却された押出材(W)は、加熱装置(5)によって加熱されて、変形し易い状態となる。
【0115】
さらに加熱装置(5)によって加熱された押出材(W)は、下流側冷却装置(6)によって冷却されて固結される。
【0116】
この製造設備においても上記実施形態と同様、引張装置(3)による引張速度(V2)を押出速度(V1)と同一に設定した場合には、押出材(W)に引張力や圧縮力等の応力が作用しないため、変形加工域(R)において押出材(W)は変形せずに、押出時の断面形状を保ったままの状態で下流側への搬送されていく。また引張速度(V2)を押出速度(V1)よりも速く設定した場合には、押出材(W)に引張力が作用するため、変形加工域(R)において押出材(W)は引き延ばされて、縮径および薄肉変形される。さらに引張速度(V2)を押出速度(V1)よりも遅く設定した場合には、押出材(W)に圧縮力が作用するため、変形加工域(R)において押出材(W)は押し縮められて、拡径および増肉変形される。
【0117】
本第3実施形態の製造設備においては、押出機(1)の吐出口近傍に、上流側冷却装置(6)を設けて、押出直後の押出材(W)を一旦冷却して固結するようにしているため、引張装置(3)による押出材(W)への引張力や圧縮力等の応力によって、押出直後の押出材(W)が変形するのを確実に防止することができる。つまり引張装置(3)による応力が押出機(1)の押出動作に悪影響を及ぼすことがなく、押出不良の発生等を確実に防止することができる。従って安定した形状の押出材(W)を得ることができ、ひいては、品質の高い可変断面の押出製品をより確実に得ることができる。
【0118】
また本実施形態において、上流側冷却装置(6)によって押出材(W)を冷却した後に、押出材(W)に多少なりとも押出時の余熱が残存している場合には、余熱が残存している分、加熱装置(5)による加熱量を削減できるため、押出材(W)を効率良くスムーズに加熱することができ、省エネルギー化および生産効率の向上をより確実に図ることができる。
【0119】
また本第3実施形態においては、加熱装置(5)によって押出材(W)を加熱するものであるため、押出材(W)を固溶体化温度にまで加熱することができる。このように固溶体化温度にまで加熱してから、下流側冷却装置(2)によって急冷して凍結(固結)することによって、安定した焼入効果を確実に得ることができ、優れた硬度で高品質の押出製品を得ることができる。特に合金記号6000系のアルミニウム製押出材においては、変形加工温度を固溶体化温度以上まで加熱し、急冷凍結することによって、より一層優れた焼入効果を確実に得ることができる。
【0120】
なお上記第3実施形態においては、押出機(1)の出口直後に上流側冷却装置(6)を設けるようにしているが、それだけに限られず、本発明においては例えば上流側冷却装置(6)に代えて、図15に示すように上記第2実施形態で用いた送給ローラ(4)を設置するようにしても良い。この場合には、送給ローラ(4)の送給速度(V3)が、変形開始前速度となる。
【0121】
<第4実施形態>
図12,13はこの発明の第4実施形態である可変断面押出材の製造設備を模式化して示す側面断面図である。同図に示すようにこの第4実施形態の製造設備においては、上流側冷却装置(6)と加熱装置(5)との間に、支持送給手段としての一対の送給ローラ(4)(4)が設けられている点が、上記第3実施形態と相違する。
【0122】
一対の送給ローラ(4)(4)は、上記第2実施形態の送給ローラ(4)と実質的に同様な構成であり、押出機(1)から押し出されて上流側冷却装置(6)を通過した押出材(W)の外周面に転がり接触する態様に周囲から挟持することにより、押出材(W)を支持できるようになっている。さらに送給ローラ(4)は、図示しない駆動手段の駆動によって回転駆動することによって、押出材(W)を搬送方向(X)に沿って下流側に送り出せるようになっている。
【0123】
また上記第2実施形態と同様に、送給ローラ(4)の送給速度(V3)は基本的に、押出速度(V1)と等しくされるが、必要に応じて、送給速度(V3)を押出速度(V1)に対し異なる速度に設定しても良い。
【0124】
なお本実施形態において、送給速度(V3)が押出材(W)の変形開始前速度となる。また言うまでもなく、送給速度(V3)と押出速度(V1)とが等しい場合には、押出速度(V1)および送給速度(V3)が、変形開始前速度となる。
【0125】
さらに本実施形態においては、加熱装置(5)と下流側冷却装置(2)との間の領域が変形加工域(R)として構成され、加熱装置(5)の位置が変形開始地点(R1)、下流側冷却装置(2)の位置が変形終了地点(R2)として構成される。
【0126】
また本第4実施形態において、他の構成は、上記実施形態と同様であるため、同一または相当部分に同一符号を付して重複説明を省略する。
【0127】
この第3実施形態の製造設備においては、押出機(1)から押出材(W)が連続的に押し出されて搬送方向(X)に沿って連続的に供給される一方、押出材(W)の先端側が、引張装置(3)によってが搬送方向(X)に引っ張られるように搬送される。
【0128】
そして押出機(1)から押し出された直後の押出材(W)は、上流側冷却装置(6)によって冷却される。その後、押出材(W)は、送給ローラ(4)を通過してから、加熱装置(5)によって加熱され、次いで、下流側冷却装置(6)によって冷却される。
【0129】
この製造設備においても上記実施形態と同様、引張装置(3)による引張速度(V2)を、送給ローラ(4)による送給速度(V3)と同一に設定した場合には、押出材(W)は変形せずに、初期の断面形状を保ったまま搬送されていく。また引張速度(V2)を速くした場合には、押出材(W)は引き延ばされて、縮径および薄肉変形されるとともに、引張速度(V2)を遅くした場合には、押出材(W)は押し縮められて、拡径および増肉変形される。
【0130】
本第4実施形態の製造設備においては、押出機(1)の出口直後に、上流側冷却装置(6)を設けて、押出直後の押出材(W)を一旦冷却して固結するようにしているため、上記第3実施形態と同様に、引張装置(3)による押出材(W)への引張力や圧縮力等の応力が、押出機(1)の押出操作に悪影響を及ぼすのを確実に防止することができる。しかも本実施形態では、押出機(1)の吐出口近傍に、押出材(W)を支持して送り出す送給ローラ(4)を設置しているため、上記第2実施形態と同様に、引張装置(3)による応力が、押出機(1)の押出動作に悪影響を及ぼすのを、より一層確実に防止することができる。従って安定した形状の押出材(W)をより確実に得ることができ、ひいては、より一層品質の高い変形断面の押出製品を確実に得ることができる。
【0131】
また本実施形態においては、上記第3実施形態と同様に、加熱装置(5)による加熱時に、押出材(W)に押出時の余熱が残存している場合には、加熱装置(5)による加熱量を削減できて、押出材(W)を効率良くスムーズに加熱することができ、省エネルギー化および生産効率の向上をより確実に図ることができる。
【0132】
さらに上記第3実施形態と同様に、加熱装置(5)によって、押出材(W)を固溶体化温度にまで加熱して、下流側冷却装置(2)によって急冷することによって、安定した焼入効果を確実に得ることができ、優れた硬度で高品質の押出製品を得ることができる。
【0133】
なお上記第4実施形態においては、上流側冷却装置(6)と加熱装置(5)との間に、送給ローラ(4)を設置するようにしているが、それだけに限られず、本発明いおいては図16に示すように押出機(1)と加熱装置(5)との間に、送給ローラ(4)を設置するようにしても良い。この場合においもて上記と同様に、送給ローラ(4)の送給速度(V3)が、押出材(W)の変形開始前速度となる。
【0134】
また上記実施形態においては、円環状断面の押出材(W)を変形させるようにしているが、言うまでもなく、変形加工可能な押出材(W)の断面形状は、円環状に限られることはない。
【0135】
例えば図17(b)(c)に示すように四角環状断面の押出材(W)、同図(d)に示す三角環状断面の押出材(W)、同図(e)に示すように六角環状断面の押出材(W)を変形させるようにしても良い。さらに同図(f)〜(j)に示すように中実構造の押出材(W)を用いても良いし、同図(k)〜(o)に示すように異形断面の押出材(W)を変形させるようにしても良い。同図(b)〜(o)の押出材(W)を本発明に基づいて縮径および拡径変形した場合基本的に、変形前と変形後の形状は相似形となる。
【0136】
また上記実施形態においては、搬送方向(X)と押出方向とが一致しているが、それだけに限られず、本発明においては、搬送方向と押出方向とが多少異なっていても良い。
【産業上の利用可能性】
【0137】
この発明の押出材のダイレス加工装置は、押出材を断面方向に変形させるようにした押出材加工技術に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】この発明の第1実施形態である可変断面押出材の製造設備を概略的に示す側面図である。
【図2】第1実施形態の製造設備を模式化して示す側面図である。
【図3】第1実施形態の製造設備における押出材の圧縮変形動作を説明するための側面断面図である。
【図4】第1実施形態の製造設備において圧縮変形動作を行ってる状態の側面断面図である。
【図5】第1実施形態の製造設備において拡径変形動作を行ってる状態の側面断面図である。
【図6】第1実施形態の製造設備において引張速度変化と押出材の変形具合との関係を示すグラフである。
【図7】図6の引張速度変化に基づいて製造された押出材を示す断面図である。
【図8】この発明の第2実施形態である可変断面押出材の製造設備を概略的に示す側面図である。
【図9】第2実施形態の製造設備を模式化して示す側面図である。
【図10】この発明の第3実施形態である可変断面押出材の製造設備を概略的に示す側面図である。
【図11】第3実施形態の製造設備を模式化して示す側面図である。
【図12】この発明の第4実施形態である可変断面押出材の製造設備を概略的に示す側面図である。
【図13】第4実施形態の製造設備を模式化して示す側面図である。
【図14】この発明の第1変形例である可変断面押出材の製造設備を模式化して示す側面図である。
【図15】この発明の第2変形例である可変断面押出材の製造設備を模式化して示す側面図である。
【図16】この発明の第3変形例である可変断面押出材の製造設備を模式化して示す側面図である。
【図17】本発明において変形加工可能な押出材を示す断面図である。
【符号の説明】
【0139】
1…押出機
2…冷却装置(下流側冷却手段)
3…引張装置(押出材引張手段)
4…送給ローラ(支持手段、送給手段)
5…加熱装置(加熱手段)
6…上流側冷却装置(上流側冷却手段)
P…搬送経路
R…変形加工域
V1…押出速度(変形開始前速度)
V2…引張装置による押出材の引張速度
V3…送給ローラによる送給速度(変形開始前速度)
W…押出材
W1…変形されない部分
W2…縮径変形された部分
W3…拡径変形された部分
X…搬送方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出材を搬送する搬送経路上の変形加工域において押出材を変形させるようにした押出材のダイレス加工装置であって、
変形加工域における搬送方向下流側の端部に設けられ、かつ押出材を冷却する下流側冷却手段と、
下流側冷却手段の搬送方向下流側に設けられ、かつ押出材を搬送方向に引っ張るように移動させる押出材引張手段と、を備え、
押出機から連続的に供給される押出材を変形加工域に進入させる一方、押出材引張手段による押出材の引張速度を、押出材が変形加工域に進入する際の変形開始前速度に対し相対的に異なる速度に設定することにより、押出材を変形加工域において断面方向に変形させる変形処理を行うようにしたことを特徴とする押出材のダイレス加工装置。
【請求項2】
押出材引張手段による引張速度を変更できるように構成される請求項1に記載の押出材のダイレス加工装置。
【請求項3】
変形処理において、押出材引張手段による引張速度を、変形開始前速度に対し速く設定することにより、押出材に引張力を与えて縮径変形させる縮径変形処理と、押出材引張手段による引張速度を、変形開始前速度に対し遅く設定することにより、押出材に圧縮力を与えて拡径変形させる拡径変形処理と、のいずれの処理も行えるように構成される請求項1または2に記載の押出材のダイレス加工装置。
【請求項4】
押出材を、押出時の余熱を残存させた状態で変形加工域に進入させるようにした請求項1〜3のいずれかに記載の押出材のダイレス加工装置。
【請求項5】
変形加工域よりも搬送方向上流側に設けられ、かつ押出材を支持する支持手段を備える請求項1〜4のいずれかに記載の押出材のダイレス加工装置。
【請求項6】
変形加工域の搬送方向上流側端部に設けられ、かつ押出材を加熱する加熱手段を備える請求項1〜5のいずれかに記載の押出材のダイレス加工装置。
【請求項7】
加熱手段の搬送方向上流側に設けられ、かつ押出材を冷却する上流側冷却手段を備える請求項6に記載の押出材のダイレス加工装置。
【請求項8】
加熱手段は、押出材を固溶体化温度まで上昇させるように構成される請求項6または7に記載の押出材のダイレス加工装置。
【請求項9】
支持手段は、押出材を搬送方向に送り出す送給手段を兼用する請求項5に記載の押出材のダイレス加工装置。
【請求項10】
支持手段は、押出材を外周側から挟持しつつ、その挟持状態で押出材を搬送方向に送り出す複数の送給ローラによって構成される請求項9に記載の押出材のダイレス加工装置。
【請求項11】
押出材がアルミニウムまたはアルミニウム合金により構成される請求項1〜10のいずれかに記載の押出材のダイレス加工装置。
【請求項12】
押出材を搬送する搬送経路上の変形加工域において押出材を変形させるようにした押出材のダイレス加工方法であって、
押出機から連続的に供給される押出材を進入させる一方、押出材における変形加工域よりも搬送方向下流側を、押出材引張手段によって、押出材が変形加工域に進入する際の変形開始前速度に対し相対的に異なる速度で搬送方向に引張移動させることにより、押出材を変形加工域において断面方向に変形させる変形処理と、
変形加工域の下流側端部において、押出材を冷却する冷却処理と、を行うようにしたことを特徴とする押出材のダイレス加工方法。
【請求項13】
押出材引張手段による引張速度を、変形開始前速度に対し同じ速度に設定することにより、押出材を変形加工域において変形させない非変形処理を行って、
変形された部分と、変形されない部分とを有する可変断面押出材を得るようにした請求項12に記載の押出材のダイレス加工方法。
【請求項14】
変形処理において、押出材引張手段による引張速度を、変形開始前速度に対し速く設定することにより、押出材に引張力を与えて縮径変形させる縮径変形処理と、押出材引張手段による引張速度を、変形開始前速度に対し遅く設定することにより、押出材に圧縮力を与えて拡径変形させる拡径変形処理と、を行って、
縮径変形された部分と、拡径変形された部分とを有する可変断面押出材を得るようにした請求項12または13に記載の押出材のダイレス加工方法。
【請求項15】
押出材を連続的に供給する押出機と、
押出機から供給される押出材を搬送する搬送経路と、
搬送経路上に設けられた変形加工域と、
変形加工域における搬送方向下流側の端部に設けられ、かつ押出材を冷却する下流側冷却手段と、
下流側冷却手段の搬送方向下流側に設けられ、かつ押出材を搬送方向に引っ張るように移動させる押出材引張手段と、を備え、
押出機から連続的に供給される押出材を変形加工域に進入させる一方、押出材引張手段による押出材の引張速度を、押出材が変形加工域に進入する際の変形開始前速度に対し相対的に異なる速度に設定することにより、押出材を変形加工域において断面方向に変形させる変形処理を行うようにしたことを特徴とする可変断面押出材の製造設備。
【請求項16】
押出材引張手段による引張速度を変更できるとともに、
押出機による押出材の押出速度を変更できるように構成される請求項15に記載の可変断面押出材の製造設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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