説明

担持オレフィン重合触媒

二座配位子の特定の第8〜10族遷移金属錯体が、特定の有機金属化合物で処理されたヒドロキシル含有担体上に担持されうる。これらのオレフィン重合触媒前駆物質は、それらを特定のタイプの化合物と接触させることによってオレフィン重合のために活性化され、オレフィン重合触媒を形成することができる。重合されてもよいオレフィンには、エチレンおよび特定の極性コモノマーがある。製造されたポリオレフィンは、例えば、パッケージング用のフィルムとしておよび成形用樹脂として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
重合触媒前駆物質が、特定の有機金属化合物をヒドロキシル基を有する無機酸化物またはポリマーと反応させる工程と、その材料を第8〜10族遷移金属の中性二座配位子の特定の錯体と接触させる工程とによって製造される。担持非活性化重合触媒は、選択された有機アルミニウム化合物などの特定の活性剤との接触によって重合のために活性化されてもよい。
【背景技術】
【0002】
オレフィン重合、特にエチレンの(共)重合を触媒するための最新の遷移金属錯体の使用は、オレフィンを(共)重合するためにα−ジイミンおよび他の二座配位子のNiおよびPd錯体を使用するブルックハート(Brookhart)およびジョンソン(Johnson)による発見によって非常に重要になった。その後、オレフィン重合触媒としてのこれらのおよび他の最新の遷移金属錯体に関する多くの研究が行われている。
【0003】
オレフィンの、特にエチレンホモポリマーおよびコポリマーの商業重合において、様々な重合方法が開発されている。これらには、気相、スラリー、懸濁および溶液方法がある。これらのいくつかは通常、実際の重合触媒がシリカ、アルミナ、ポリマー、塩化マグネシウムなどの固形担体上に或る方法で担持される重合触媒系を使用する。多くの方法がこのような触媒を担持するために開発されている。気相重合において、重合触媒は担体に化学的に結合していてもよいが、触媒自体が溶解されず担体から除去されないので、このような結合は、必要でない場合がある。他方、重合がスラリーまたは懸濁重合におけるような液体媒体中で実施されるとき、例えば、共有結合またはイオン結合によって重合触媒を担体により強固に結合することは、そうでなければ液体媒体が触媒を担体から除去する場合があるので、望ましいことがある。
【0004】
遷移金属触媒を担持するための方法が開発されている。いくつかの場合、触媒は、錯体(より正確には、遷移金属に配位した、ハリドなどのアニオン基)をアルモキサンなどの有機金属化合物と反応させて(重合のために)完全に活性化された触媒を形成することによってシリカなどの担体に結合していてもよく、そこで錯体は、おそらく担体と遷移金属錯体との間のイオン結合によって担体に結合している。このタイプの担持触媒は、貯蔵されている間に活性を失う不便な点を有することがある。
【0005】
配位子が共有結合による錯体の担持のための特定の官能基を含有する第8〜10族遷移金属錯体の中性二座配位子の錯体、およびその担持は、米国特許公報(特許文献1)、米国特許公報(特許文献2)、および米国特許公報(特許文献3)に開示されている。ここに開示された錯体に使用された配位子は、このような官能基を含有しない。
【0006】
第8〜10族遷移金属と中性二座配位子との錯体から誘導された活性化担持重合触媒は、トリアルキルアルミニウム化合物を錯体と、他の成分と共に活性化担持触媒を直接に形成する物質をそれ自体含有する担体とに接触させることによって製造されており、米国特許公報(特許文献4)、米国特許公報(特許文献5)および米国特許公報(特許文献6)を参照のこと。担体中のこのような他の成分は、「担体−活性剤」と呼ばれる。
【0007】
中性二座配位子の錯体の担持は、米国特許公報(特許文献7)および米国特許公報(特許文献8)に開示されており、それらは、活性化担持重合触媒を直接に形成するためにメチルアルモキサンなどの活性化アルミニウム化合物を使用する担持を開示する。
【0008】
オレフィン、特にエチレンの重合のための新規な重合触媒が望ましい。本発明は、担体活性剤を用いずに製造することができる新規な担持重合触媒を提供し、形成時に初期には活性化されない。
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,410,768号明細書
【特許文献2】米国特許第6,586,358号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0187892号明細書
【特許文献4】米国特許第6,184,171号明細書
【特許文献5】米国特許第6,399,535号明細書
【特許文献6】米国特許第6,686,306号明細書
【特許文献7】米国特許第5,880,241号明細書
【特許文献8】米国特許第6,194,341号明細書
【特許文献9】米国特許第5,932,670号明細書
【特許文献10】米国特許第5,714,556号明細書
【特許文献11】米国特許第6,103,658号明細書
【特許文献12】国際公開第98/47934号パンフレット
【特許文献13】国際公開第98/40420号パンフレット
【特許文献14】国際公開第00/06620号パンフレット
【特許文献15】国際公開第00/18776号パンフレット
【特許文献16】国際公開第00/50470号パンフレット
【特許文献17】国際公開第0142557号パンフレット
【特許文献18】国際公開第00/59914号パンフレット
【特許文献19】国際公開第10/42257号パンフレット
【特許文献20】国際公開第00/042257号パンフレット
【特許文献21】米国特許第5,852,145号明細書
【特許文献22】米国特許第6,114,483号明細書
【特許文献23】米国特許第6,526,724号明細書
【特許文献24】国際公開第97/48735号パンフレット
【特許文献25】国際公開第98/56832号パンフレット
【特許文献26】国際公開第00/22007号パンフレット
【特許文献27】国際公開第00/50475号パンフレット
【非特許文献1】W.ベック(W.Beck)ら著、Chem.Rev.、vol.88、1405〜1421ページ(1988年)
【非特許文献2】S.H.ステアズ(S.H.Stares)著、Chem.Rev.、vol.93、927〜942ページ(1993年)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの態様は、式RMの有機金属化合物と、ヒドロキシル基を有する無機酸化物またはヒドロキシル基を有する有機ポリマーである担体と、活性化されたときに活性オレフィン重合触媒を形成する、第8〜10族遷移金属と二座配位子との錯体とを接触させる工程を含む、担持オレフィン重合前駆物質の形成方法であり、上式中、
各Rは、独立に水素、ヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルであり、
nは2〜4の整数であり、およびMの酸化数であり、
Mは金属であり、ならびに
前記中性二座配位子は、前記有機金属化合物と容易に反応する官能基を含有しないこと、
前記担体は担体−活性剤を含有しないこと、および
前記前駆物質は活性化されないことを条件とする。
【0011】
いくつかの実施態様において、前記方法は、前記前駆物質を活性化する工程をさらに有する。
【0012】
いくつかの実施態様において、前記方法は、活性化された前駆物質を重合触媒として用いて1種または複数のオレフィンを重合する工程をさらに有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本明細書において用いられるとき、以下の用語は、別記しない限り以下に記載された意味を有する。
【0014】
「ヒドロカルビル基」は、炭素および水素のみを含有する一価の基である。ヒドロカルビルの例として、非置換アルキル、シクロアルキルおよびアリールが挙げられる。特に明記しない限り、本明細書ではヒドロカルビル基は1〜約30個の炭素原子を含有することが好ましい。
【0015】
「置換ヒドロカルビル」とは、本明細書では重合触媒系の運転を実質的に妨害しない1つまたは複数の(タイプの)置換基を含有するヒドロカルビル基を意味する。幾つかの重合において好適な置換基には、ハロ、エステル、ケト(オキソ)、アミノ、イミノ、カルボキシル、ホスフィット、ホスホナイト、ホスフィン、ホスフィナイト、チオエーテル、アミド、ニトリル、シラン、およびエーテルの幾つかまたはすべてを含めてもよい。存在する場合に好ましい置換基はハロ、エステル、アミノ、イミノ、カルボキシル、ホスフィット、ホスホナイト、ホスフィン、ホスフィナイト、チオエーテル、シラン、エーテルおよびアミドである。どの重合でどの置換基が有用であるかは、いくつかの場合、米国特許公報(特許文献7)(完全に記載されているかのようにあらゆる目的のために本明細書に参照により援用される)を参照することによって決定することができる。特に明記しない限り、置換ヒドロカルビル基は本明細書では1〜約30個の炭素原子を含有することが好ましい。「置換された」の意味には、窒素、酸素および/または硫黄などの1つまたは複数のヘテロ原子を含有する鎖または環が含まれ、置換ヒドロカルビルの自由原子価はヘテロ原子にあってもよい。置換ヒドロカルビルでは、トリフルオロメチルにおけるように水素のすべてが置換されてもよい。
【0016】
「不活性官能基」とは、本明細書では、その基を含有する化合物がさらされるプロセス条件下で不活性であるヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビル以外の基を意味する。
不活性官能基はまた、本明細書で記載されるいかなるプロセスも実質的に妨害せず、特に、有機金属化合物と容易に反応しない。官能基の例には、幾つかのハロ基(例えばフルオロ、幾つかの非活性化クロロ、およびフルオロアルキル)、および−OR22(式中、R22はヒドロカルビルまたは不活性官能基で置換されたヒドロカルビルである)などのエーテルが挙げられる。官能基が二座錯体の遷移金属原子の近くにある場合、官能基は、それらの化合物中で金属原子に配位するとして示される基よりも強くその金属原子に配位しないのが好ましい。不活性官能基が所望の配位基に置き換わらないことが非常に好ましい。
【0017】
「活性剤」、「助触媒」または「触媒活性剤」とは、遷移金属化合物と反応して活性化された触媒を形成する化合物を意味する。遷移金属化合物は、直接に添加されてもよいし、または遷移金属化合物と酸化剤との反応によるようにin situで形成されてもよい。好ましい触媒活性剤は、「アルキルアルミニウム化合物」、すなわち、アルミニウム原子に結合した少なくとも1個のアルキル基を有する化合物である。アルコキシド、水素化物、酸素、およびハロゲンなどの基もまた、その化合物においてアルミニウム原子に結合していてもよい。
【0018】
「担体−活性剤」とは、担体に結合されるかまたは組み込まれ、有機金属化合物および第8〜10族遷移金属錯体と接触される時にオレフィン重合のための錯体を活性化する基を意味する。担体に結合するかまたは組み込むためのかかる材料および方法は、例えば米国特許公報(特許文献4)、米国特許公報(特許文献5)および米国特許公報(特許文献6)(その開示内容はそれらの全体において本明細書に参照によりここに援用される)に開示されている。
【0019】
本明細書において「活性化する」または「活性化された」とは、二座配位子の第8〜10族遷移金属錯体を含有する材料が(その活性化された形であるとき)通常、かかる錯体によって重合されうるオレフィンの重合を起こすことを意味する。錯体が活性であるかまたは活性化されているかに関して全く疑いがない場合、それを(約0.7〜約3.5MPaの分圧において)エチレンと接触させて有意な量が重合されるかどうか定量することができる。(有機金属化合物などの)存在してもよい他の成分がそれらだけでエチレンの非常に緩慢な重合を起こすことがあるので、比較的少量のポリエチレンの形成は、活性化された重合触媒を示さない。
【0020】
「アルキル基」および「置換アルキル基」は、当業者に公知であるそれらの通常の意味を有する。「置換アルキル」における用語「置換(substituted)」は、「置換ヒドロカルビル」に関して上に記載された同じ意味を有する。特に明記しない限り、アルキル基および置換アルキル基は好ましくは1〜約30個の炭素原子を有する。
【0021】
「ヘテロ原子に連結した一価基」とは、ヘテロ原子(CまたはH以外の原子)の原子価によって化合物の残余に連結している一価基または基である置換ヒドロカルビルを意味する。前記基は、環の一部である場合に1より大きい形式原子価を有する。
【0022】
「アリール」とは、自由原子価が炭素原子にまたは芳香環のヘテロ原子にある一価芳香族基を意味する。アリールは、縮合していてもよい、単結合または他の基によって連結されていてもよい1個以上の芳香環を有することができる。芳香環は、1−ピロリルアリール基におけるように、ヘテロ原子を含有することができる。
【0023】
「置換アリール」とは、「置換ヒドロカルビル」の上の定義で述べられたように置換された一価芳香族基を意味する。アリールと同様に、置換アリールは、縮合していてもよい、単結合または他の基によって連結されていてもよい1個以上の芳香環を有する。しかしながら、置換アリールが複素芳香環を有する場合、置換アリール基の自由原子価は、炭素の代わりに複素芳香環の(窒素などの)ヘテロ原子にあることができる。
【0024】
「中性」配位子とは、電気的に中性である、すなわち電荷を有さない配位子を意味する。言い換えると、配位子がイオンではない。
【0025】
「二座」配位子とは、遷移金属原子に同時に配位することができる2つの部位、多くの場合ヘテロ原子部位を有する配位子を意味する。両部位が遷移金属に配位することが好ましい。
【0026】
有用な二座配位子は、前に組み込まれた米国特許公報(特許文献7)、ならびに米国特許公報(特許文献9)、米国特許公報(特許文献10)、米国特許公報(特許文献11)、(特許文献12)、(特許文献13)、(特許文献14)、(特許文献15)、(特許文献16)、(特許文献17)および(特許文献18)(それらのすべてが完全に記載されているかのようにあらゆる目的のために本明細書に参照により援用される)において見出すことができる。引用された文献には、二座配位子と共に有用な遷移金属、および二座配位子と適切な遷移金属との錯体の製造方法が開示されており、さらなる詳細のためにそれらが参照される。
【0027】
錯体中の遷移金属は、周期表の第8〜10族(IUPAC表記法)から選択される。好ましい遷移金属は、Ni、Pd、FeおよびCo、より好ましくはNiおよびPd、特に好ましくはNiである。
【0028】
二座配位子の第8〜10族遷移金属錯体の1つの一般的な式は、
【0029】
【化1】

【0030】
上式中、
【0031】
【化2】

【0032】
は、中性二座配位子を表し、M’は第8〜10族遷移金属であり、各Aは独立にモノアニオン(単独に負の電荷をもつイオン)であり、mはM’の酸化数である。(II)において、Aの全てが同じであることが好ましい。有用なモノアニオンには、ハリド、特にクロリドおよびブロミド、カルボキシレート、アルコキシド、チオレート、アルキル、およびアリールなどがある。ハリドおよびカルボキシレートが好ましく、クロリドおよびブロミドが特に好ましい。好ましくはAのいずれも、比較的非配位アニオンではない。
【0033】
適した中性二座配位子は、式III
【0034】
【化3】

【0035】
によって表され、上式中、
ZはO(酸素)またはN−R13であり、
13、およびR16は、イミノ窒素原子に結合した原子が、該原子に結合した少なくとも2個の炭素原子を有することを条件とする、それぞれ独立にヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルであり、
14およびR15は、それぞれ独立に水素、ヒドロカルビル、置換ヒドロカルビル、ヘテロ原子に連結した一価基であるか、または、R14およびR15が合一してaを形成し、および
置換ヒドロカルビル基の置換基が不活性官能基の群から選択される。
【0036】
好ましい中性二座配位子は、
【0037】
【化4】

【0038】
であり、上式中、R13およびR16は、イミノ窒素原子に結合した原子が、該原子に結合した少なくとも2個の炭素原子を有することを条件とする、それぞれ独立にヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルであり、
14およびR15は、それぞれ独立に水素、ヒドロカルビル、置換ヒドロカルビル、ヘテロ原子に連結した一価基であるか、または不活性官能基である。置換ヒドロカルビル基上の置換基は不活性官能基である。R14およびR15は合一して環を形成してもよい。
【0039】
(I)の特定の好ましい化合物ならびに好ましい一般的な式は米国特許公報(特許文献7)に開示されている。例えば、R14およびR15が両方ともメチル、または両方とも水素であるか、もしくは合一して、
【0040】
【化5】

【0041】
であり、および/またはR13およびR16は、それぞれ独立に2,6−二置換フェニルであり、より好ましくはそれらの2および6置換基の各々は、それぞれ独立に、1〜6個の炭素原子およびハロゲンを含有するアルキルまたは置換アルキルであることが好ましい。
【0042】
(I)の他の好ましい形において、R14およびR16は、それぞれ独立に(ジオルトアリール置換)アリールであり、すなわちR14およびR16は、イミノ窒素原子に結合した炭素原子に対して両方のオルト位置にアリールまたは置換アリール基を有する。R14およびR16は2,6−ジアリール(または置換ジアリール)フェニル基であることがさらに好ましい。このような好ましい基は、(特許文献16)、および(特許文献19)(本願明細書に参照によって援用する)に開示されている。R14およびR16のための有用な基には、2,6−ジフェニルフェニル、2,6−ビス(2−メチルフェニル)フェニルおよび2,6−ビス(4−t−ブチルフェニル)フェニルなどの基がある。ジオルト置換に加えて、他の基もまた、アリール環のいずれかにおいて置換されうる。
【0043】
ここで用いられる有機金属化合物RMは、酸化数が2以上である金属Mを含有する。有用な金属には、Li、Mg、Zn、Al、B、およびSiなどがある。Alが好ましい。好ましくはRはヒドロカルビル、より好ましくはアルキルおよび置換アルキル、特に好ましくは1〜4個の炭素原子を含有するアルキルである。有用なアルキル基には、メチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルおよびn−ヘキシルなどがある。好ましいアルキル基は、メチル、エチル、n−ブチルおよびイソブチルであり、メチルおよびエチルが特に好ましく、メチルが最も好ましい。別の好ましい形においてRの全てが同じである。特定の有用な化合物には、ジエチル亜鉛、ジフェニルマグネシウム、ビス(2−エトキシエチル)マグネシウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ−n−ブチルアルミニウムおよびトリイソブチルアルミニウムなどがある。
【0044】
担体は、ヒドロキシル基を含有する金属酸化物または有機ポリマーである。このような有機ポリマーは、例えばスチレンとp−ヒドロキシスチレンとのコポリマー、メチルメタクリレートと2−ヒドロキシエチルメタクリレートとのコポリマー、およびセルロースまたは部分的にエーテル化されたセルロースを包含する。前記ポリマーを架橋してそれらを有機溶剤に不溶性にすることができる。
【0045】
無機酸化物は、特にそれらが形成された後にそれらを脱水するために十分な時間にわたり高い十分な温度に加熱されていない場合、ヒドロキシル基を含有することができる。いくつかの酸化物は、湿潤空気中に単に放置した後にそれらの表面にヒドロキシル基を形成することができる。これらは厳密に化学的な意味において「高純度」ではないが、それらは通常、ヒドロキシル基が存在しても酸化物と称される。他の物質が不活性である限り、ここにおいて有用な金属酸化物を他の物質と混合または反応させることができる。使用されるまで前駆物質が活性化されないことが望ましいので、このような他の物質は担体−活性剤でないことが好ましい。驚くべきことに、本願明細書に開示された方法によってこのような前駆物質を製造できることが見出された。
【0046】
また、適した金属酸化物には、合成または天然(鉱物)であってもよいシリケートなどの混合酸化物が挙げられるが、ただし、混合酸化物が本質的に担体−活性剤でないことを条件とする。有用な酸化物には、シリカ、アルミナ、および酸化マグネシウムが挙げられる。好ましい担体は金属酸化物であり、好ましい酸化物はシリカおよびアルミナである。シリカが特に好ましい.
【0047】
担体の、有機金属化合物に対する比は重要ではないが、担体上のヒドロキシル基の数に関連して有機金属化合物のモル過剰量が使用されることが好ましい。このようなヒドロキシル基、特に(反応のために)化学的に有効なヒドロキシル基の数は定量するのが難しい場合があるので、有機金属化合物のかなりの過剰量の使用がしばしば望ましい。担体と有機金属化合物との混合は液体媒体中で行われるのが最も便利である。この液体媒体は、不活性有機溶剤、例えば、ペンタンまたはトルエンなどの炭化水素、または塩化メチレンまたはクロロベンゼンなどのハロカーボンであってもよい。非常に多くの微細粒子の形成を避けるためにゆるやかな混合が好ましい。また、接触させることは(もしそれが十分に揮発性である場合)気相中の有機金属化合物によって行われるか、またはニート液体有機金属化合物と担体とを接触させることによって行われてもよい。
【0048】
使用された第8〜10族遷移金属錯体の量は、(通常、存在する遷移金属の重量パーセントとして与えられた)担体上の望ましい濃度および担持されうる最大量に依存する。後者は、簡単な実験によって定量することができる。例えば、通常は高度に着色されている、金属錯体の溶液をRM処理された担体に添加して着色担体および着色溶液をもたらす。過剰な溶液を濾過し、溶剤を除去した後、担体に移された金属錯体の量を定量する。典型的に重合担体上の遷移金属の量は、遷移金属(だけ)として測定された、約0.05〜3重量パーセント、より典型的に約0.2〜約2.0パーセントである。錯体は典型的に、錯体が通常少なくともわずかに可溶性である液体媒体中で担体と接触される。
【0049】
金属の分析は典型的に、酸および/または塩基条件下で担持触媒(または担持触媒前駆物質)を溶解し、次に、誘導結合プラズマ分析によって、得られた溶液を分析することとによって行われる。
【0050】
担体と有機金属化合物および錯体と担体とを接触させることを本質的に同時に行うことができる。あるいは、担体を最初に有機金属化合物と接触させ、場合により濾過し、過剰な(担体に結合されていない)有機金属化合物を洗浄除去し、次に、処理された担体を錯体と接触させることができる。後者の手順が好ましい。処理された担体は、第1の工程において用いられた溶剤が錯体に有害ではない場合、錯体と接触される前に乾燥される必要はない。
【0051】
担体が錯体と接触された後、担持触媒前駆物質は、重合触媒として使用するために活性化される前に単離されて貯蔵されてもよく、またはそれを中に形成した液体媒体中においても活性化されて直ぐに使用されてもよい。前駆物質を濾過し、それを不活性溶剤で洗浄して、担体に結合していない錯体を除去することが好ましい。これは、結合していない錯体がスラリーの液体媒体中に溶解し、それによって、錯体を担持する目的を少なくとも部分的に達することができないので、スラリー重合において使用される場合に特に適切である。気相重合のために、前駆物質を単に濾過するか、または溶剤を真空下で除去することができる。気相重合方法において望ましい粒子モフォロジーを達成する目的のために、前駆物質を洗浄することが望ましい場合がある。
【0052】
本明細書に開示された任意の工程のどれが使用されるとしても、製造された前駆物質は、それ自体(すなわち、助触媒または活性剤によって活性化されなければ)オレフィン重合のために実質的に不活性である。前駆物質は、それを有機金属化合物RMよりも強いルイス酸であるルイス酸と接触させることによって重合のために活性化されてもよい。このようなより強いルイス酸には、AlClおよびBFなどの化合物が挙げられるが、より好ましくは、その電気的陰性元素がアルミニウムに結合している、炭素よりも電気的陰性の元素(例えば、ハロゲンまたは酸素)も含有するヒドロカルビルアルミニウム化合物である。このような化合物には、ジアルキルアルミニウムハリド、アルキルアルミニウムジハリド、アルキルアルミニウムセスキハリド、アルキルアルモキサン、および(アルキル)(アルコキシ)アルミニウム化合物などがある。特定の有用な化合物には、メチルアルモキサン(MAO)、n−ブチルアルモキサン、ジエチルアルミニウムクロリド、n−ブチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ジエチルメトキシアルミニウム、およびエチルアルミニウムジクロリドなどがある。これらは典型的に、新たに添加されたAlの、第8〜10族遷移金属に対する比が約2〜1000、より典型的に約5〜約200であるように添加される。
【0053】
重合が液体媒体中で行われる場合、例えばスラリー重合の場合、より強いルイス酸を、それが重合反応器に入る前にまたはスラリーを重合反応器中に入れる前にまたは後にスラリーに添加することができる。担持前駆物質をルイス酸と共にまたは別々に添加することができ、それが重合反応器に入る前または後にスラリーに添加することができる。
【0054】
方法が気相重合である場合、前駆物質およびルイス酸は、気相反応器に入れられる直前に液体スラリー中で一緒に添加されてもよい。反応器内で揮発する液体を使用することができ、または混合した後、固体を液体から濾過して反応器に添加することができる。
【0055】
担持触媒前駆物質を活性化する他の適した方法がある。比較的非配位アニオンのナトリウム塩またはオニウム塩などの塩、または比較的非配位アニオンのブレンステッド酸を前駆物質と混合して重合を活性化することができる。ルイス酸のために上に記載された方法などの混合方法を使用することができる。
【0056】
比較的非配位(または弱配位)アニオンとは、当業者によって一般にそのように称されるそれらのアニオンを意味する。このようなアニオンの配位能力は公知であり、例えば、(非特許文献1)、および(非特許文献2)(両方とも、本願明細書に参照によって援用する)に開示されている。このようなアニオンには、上に記載されたアルミニウム化合物から形成されたアニオンおよびRAlClX、RAlCl、および“RAlOX”(Rはアルキルである)などのXがある。他の有用な非配位アニオンには、BAF{BAF=テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート}、(C、SbF、PF、およびBF、トリフルオロメタンスルホネートなどがある。
【0057】
担持触媒は、オレフィンの重合のために有用である。本明細書中で用いられるとき、オレフィンの重合はオリゴマー化を含める。また、本明細書中で用いられるとき、重合はホモポリマーおよびコポリマーの形成を含める。当該担持触媒を用いる重合のための好ましいオレフィンはエチレンである。他の好ましいオレフィンには、エチレンコポリマーを生じる、エチレンと式RCH=CHのオレフィン(Rがn−アルキルである)との組合せがある。オレフィンの別の好ましい組合せは、エチレンと、メチルアクリレートなどの極性基を含有するオレフィンとである。エチレンが、ホモポリエチレンを形成するための唯一のオレフィンであることが好ましい。特定のオレフィンの重合のための適したおよび好ましい触媒は当業者に公知であり、米国特許公報(特許文献7)、米国特許公報(特許文献9)、米国特許公報(特許文献10)、米国特許公報(特許文献11)、(特許文献12)、(特許文献13)、(特許文献14)、(特許文献15)、(特許文献16)、(特許文献20)、および(特許文献18)など、様々な刊行物に開示されている。これらの引用された文献に開示された金属配位子錯体は、金属配位子錯体が式(I)の範囲内であることを条件に、本願明細書に開示された方法において使用可能である。
【0058】
触媒の調製および活性化手順は別として、当該担持触媒のための重合条件は、前述の組み込まれた文献ならびに米国特許公報(特許文献21)、米国特許公報(特許文献22)、米国特許公報(特許文献23)、(特許文献24)、(特許文献25)、(特許文献26)、および(特許文献27)(それらのすべてが完全に記載されているかのようにあらゆる目的のために本明細書に参照により援用される)に開示された触媒のために以前に報告された条件と同じである。使用可能な重合方法のタイプ(気相、スラリー等)、添加することができる改質剤(例えば、水素)、および様々な種類のポリマー製品を製造するための1種より多い重合触媒の使用など、これらのタイプの遷移金属触媒を含有するオレフィン重合触媒の使用もまた、そこに開示されている。開示された方法の全てが当該担持触媒に等しく適用可能である。例えば、1つより多い遷移金属錯体が触媒担体上にあってもよい。
【0059】
ここに開示された重合方法で製造されたポリオレフィンは、様々な適用、例えば、自動車、器具、玩具および電気装置のために有用なパッケージングフィルムおよび成形品のために有用である。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
使用されたニッケル錯体は、
【0061】
【化6】

【0062】
であり、それは、米国特許公報(特許文献7)に記載された手順によって製造された。
【0063】
500℃においてか焼されたグレイス・デビソン・シリカ・グレード(Grace Davison Silica grade)SP9−496(米国、21044メリーランド州、コロンビアのW.R.グレイス社(W. R. Grace & Co.))をトリメチルアルミニウム(TMA)で処理した。シリカ(8g)を40ml乾燥トルエン中で懸濁した。この懸濁液をゆるやかに振り、2M TMAヘキサン溶液12mlを添加した。シリカのフラグメンテーションを避けるために、2時間の間、反応混合物を何度かゆるやかに振った。処理されたシリカを最後に40mlのトルエンで3回、40mlのペンタンで1回洗浄した。SiO/TMA担体を25℃の真空中で乾燥させた。次いでこの処理されたシリカ200mgをジクロロメタン(4ml)中で懸濁した。これにジクロロメタン(6ml)中のNiBr−錯体(23.1mg、3.8□モル)の暗褐色溶液を添加した。溶液はただちに暗緑色になった。反応混合物を数回、室温においてゆるやかに振り、溶剤を3時間後にピペットによって除去した。シリカをジクロロメタン(4×8ml)で洗浄し、4回目の洗浄工程においてジクロロメタン濾液はほとんど無色になった。緑色の担持触媒前駆物質を16時間にわたり室温の真空中で乾燥させた。
【0064】
熱電対によって制御された電気加熱用マントルを備えた機械攪拌機付き300mlパル(Parr)(登録商標)反応器内で反応混合物の活性化および重合を実施した。反応器にトルエンを入れ、100℃において10分間加熱した。高温のトルエンを除去し、反応器を100℃において10分間、真空下で乾燥させた。室温まで冷却した後、反応器にアルゴンを充填した。反応器に50mlのペンタンを入れ、その後、0.2mlのEtAlCl(トルエン中に0.91M)活性剤を入れた。50mlのペンタン中の担持触媒前駆物質(10mg)の懸濁液を反応器にカニューレで移した。反応器への全てのラインを閉じ、攪拌しながら温度を5分以内に60℃に上げた。反応器を、所望の温度が達せられた後ただちに、エチレンで1.03MPaに加圧し、反応混合物を1.03MPaのエチレン圧下で60℃において2時間、攪拌した。反応混合物を15℃に冷却し、20mlのメタノールを添加した。
【0065】
ポリマー粒子を濾過によって単離し、75℃の炉内で乾燥させた。得られたポリマー14gは、示差走査熱量測定によって測定された時に122℃および86℃の融点(2つの融解吸熱)を有し、ゲル透過クロマトグラフィーによって測定された時に131,000の重量平均分子量および33,600の数平均分子量を有した。
【0066】
(比較例A)
EtAlClを添加しなかったことを除いて、対照実験を実施例1と同じように実施した。ポリマーは得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担持オレフィン重合前駆物質の形成方法であって、式RMの有機金属化合物と、ヒドロキシル基を有する無機酸化物またはヒドロキシル基を有する有機ポリマーである担体と、活性化されたときに活性オレフィン重合触媒を形成する、第8〜10族遷移金属と中性二座配位子との錯体とを接触させる工程を含み、
上式中、
各Rは、独立に水素、ヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルであり、
nは2〜4の整数であり、およびMの酸化数であり、
Mは金属であり、ならびに
前記中性二座配位子は、前記有機金属化合物と容易に反応する官能基を含有しないこと、
前記担体は担体−活性剤を含有しないこと、および
前記前駆物質は不活性であること
を条件とすることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記中性二座配位子が、
【化1】

であり、
上式中、
ZはOまたはN−R13であり、
13およびR16は、イミノ窒素原子に結合した原子が、該原子に結合した少なくとも2個の炭素原子を有することを条件とする、それぞれ独立にヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルであり、
14およびR15は、それぞれ独立に水素、ヒドロカルビル、置換ヒドロカルビル、不活性官能基、ヘテロ原子に連結した一価基であるか、または、R14およびR15が合一して環を形成し、および
前記置換ヒドロカルビル基の置換基は不活性官能基の群から選択される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二座配位子が、
【化2】

であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記担持オレフィン重合前駆物質を活性化して、活性化された担持重合触媒を生成する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1、2または3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記活性化担持重合触媒を少なくとも1種の重合性オレフィンと接触させてポリオレフィンを生成する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法の生成物。

【公表番号】特表2008−531835(P2008−531835A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−558340(P2007−558340)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【国際出願番号】PCT/US2006/008163
【国際公開番号】WO2006/094302
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】