説明

担持触媒型磁性吸着剤および過酸化物含有廃水の処理方法

【課題】水などに溶解している被分離物質の効果的な吸着と磁気分離性を有すると共に、磁性吸着剤に捕捉された被分離物質を、過酸化水素やオゾンからの触媒的分解によって発生する活性酸素による速やかな分解と除去を行うことであり、磁性吸着剤の再生が容易な磁性吸着剤とすることである。
【解決手段】Ag、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ti、StおよびBaから選ばれる1種以上の金属の酸化物と、酸化鉄との複酸化物である過酸化物の分解を促進させる金属酸化物触媒を担持した磁性多孔質体からなる担持触媒型磁性吸着剤とする。廃水中の被分離物質を速やかに吸着し、吸着した被分離物質を磁気分離により廃水経路外に取り出す。有機物質などの被吸着物質は、金属酸化物触媒による過酸化水素やオゾンなどの過酸化物の分解促進によって生成した活性酸素によって効率よく分解除去され、しかも吸着剤は再生され、再使用できるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、担持触媒型磁性吸着剤およびその製造方法、並びに過酸化物含有廃水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業的に用いられる過酸化物、特に過酸化水素(H22)は、紙パルプや繊維の漂白剤、または化学工業における酸化剤として利用される他にも、半導体製造工場での洗浄剤、食品工場での漂白・殺菌剤などに広く利用されているが、このものは毒性を有するため、河川への放流や下水処理(活性汚泥処理)をする前には分解処理する必要がある。
【0003】
また、過酸化物のオゾン(O3)も強力な酸化剤であり、化学工場における酸化薬剤、廃水処理などに用いられている。オゾンもまた毒性を有するので、河川放流、下水処理をする前に分解処理をする必要がある。
【0004】
過酸化水素含有廃水の処理技術として亜硫酸ナトリウムなどの還元剤や、触媒(Pt、Ag、Cu、MnO2、Al23、Fe3+、Zn2+、Cu2+、活性炭、カタラーゼ)が共存すると速やかに分解する。また、Pdを付加した触媒樹脂による分解処理の方法もある。
【0005】
オゾンも活性炭や二酸化マンガンなどの触媒によって分解が加速されるので、処理速度は遅いものの、オゾン含有廃水を分解する活性炭や二酸化マンガンはオゾン含有廃水の処理薬剤として用いることができる。
しかし、オゾンの分解の際に生じる活性酸素は、活性炭の炭素原子の一部を酸化して一酸化炭素や二酸化炭素へと反応して活性炭が磨耗するという問題がある。
過酸化水素やオゾンの分解によって活性酸素が生じ、近傍にある有機物は酸化的分解を受ける。
【0006】
これまでの過酸化水素やオゾンを用いた廃水処理は廃水中の被分離物質をバルクの状態で分解処理をすることから、多くの時間、多くの薬剤を要し、大量の廃水の処理には不利益となる。さらには残存した過酸化水素やオゾンの処理を別途行なう必要がある。
活性炭やゼオライトのような無機多孔質体は水中の有機物や無機イオンをよく吸着する。
【0007】
従来、分離の一技術として磁気分離の方法があり、通常は水系内の分離すべき環境汚染物質などの被分離物質が磁性を持たないので、磁石によって磁気分離するには被分離物質に磁性をもたせる必要がある。
近年、磁力の強い超伝導磁石の開発、高勾配磁気分離技術の進歩により比較的小さな磁性しか持たないものでも、大きな磁気力を利用した分離が可能になっている。
磁性を持たない被分離物質に磁性を持たせ、磁気分離を行うことが知られている。その一つに、分離すべき被分離物質と磁性体粒子を混合し、高分子凝集剤あるいは無機凝集剤を添加、撹拌することにより、磁性を付与したフロックが形成され、磁気分離を行う方法が周知である。
【0008】
また、官能基を有する被分離物質と水酸化鉄(II)イオンのコロイド溶液とが結合し、pH調節によって一部の水酸化鉄イオンが酸化して磁性を有する被磁性分離体を形成するコロイド化学的な担磁の方法が開示されている(特許文献1)。また、この系に磁性体粒子(マグネタイト)を添加して行うマグネタイト核コロイド共沈法による磁気分離の方法もある。
上記の担持方法は、主として水に懸濁、あるいは浮遊している物質(SS成分)には対応できるが、水に溶解している物質への適応は充分ではない。
【0009】
改善する別の方法として、溶解している被分離物質を吸着する吸着担体に予め、磁性吸着材を調整、あるいは化成して、必要に応じて被分離物質を含む廃水に添加して、目的の被分離物質を吸着し、被分離物質を吸着した磁性吸着剤からなる複合体により磁気的に分離する方法がある。(特許文献2、3)
【0010】
活性炭のような高い吸着能力のある多孔質担体に対して、磁性粉末を混ぜて焼き固めたり、磁性を持つ物質と機械的に擦りつけることによって磁性をもたせる試みもあるが、活性炭の吸着能力が極端に低下したり、また、活性炭への担磁能力が弱く、均一した磁性活性炭を得るのが困難な状況にある。
【0011】
磁性微粒子、たとえばマグネタイトに長鎖のアルキル基を化学的に結合させて、疎水的磁性粒子を化成し、水中の環境汚染物質を吸着し磁気分離を行う報告がある。
上記の磁性吸着材の再生にはアルコールのような高価な溶媒を用いて被分離物質(環境汚染物質)を抽出することによって行なう方法をとるので、実用的ではなかった。
【0012】
ここで、磁性粒子であるフェライトとは酸化鉄を基本とする酸化物結晶の総称である。よく知られたスピネル型フェライトは、2価の第一系列遷移金属イオンM2+とFe3+を1:2の割合で含み、MFeで表される。ここでMは、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znなどの2価の陽イオンである。
2価の金属イオン(M2+)と3価の鉄イオン(Fe2+)1:2の混合水溶液にpH調整をすることによって磁性を有するフェライト微粒子が生成する。
多孔質担体(あるいは多孔質吸着剤)上に2価の金属イオン(M2+)と3価の鉄イオン(Fe3+)を結合させ、更には他の金属イオンを共存させた系にpH調整することにより、フェライト微粒子を多孔質担体上に生成し、磁性を有する磁性多孔質担体が生成する。
【0013】
因みに、周知の多孔質吸着剤として、上に述べた吸着能力の優れた活性炭やゼオライトなどが挙げられるが、これら担体そのものを磁化しようしても、化学的に安定なものであるので、磁化効率が悪く充分に実用性のある磁性多孔質吸着剤とはならないというのが一般的であった。
【0014】
【特許文献1】特開2002-210311号公報
【特許文献2】特開2004−121890号公報
【特許文献3】特開2005-137973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、上記した従来技術のうち、被分離物質を磁性粉末が含まれるフロック状にして磁気分離する方法は、被分離物質が水に不溶の懸濁状態に適合するが、水に溶解している物質には大きな効果が得られない。
【0016】
また、非分離物質の官能基に、磁化性の水酸化鉄コロイド粒子を結合させて磁化し、被磁気分離体とする方法では、被分離物質が所定の官能基を有していなければコロイド粒子と結合しないので磁気分離できず、被分離物質が磁化性のコロイド粒子と結合しないものには適用できないという問題がある。
【0017】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、水などに溶解している被分離物質の効果的な吸着と磁気分離性を有すると共に、磁性吸着剤に捕捉された被分離物質を、過酸化水素やオゾンからの触媒的分解によって発生する活性酸素による速やかな分解と除去を行うことである。また、磁性吸着剤の再生が容易な磁性吸着剤とすることである。また、このような磁性吸着剤を比較的簡単な手法によって確実に得る製造方法とすることである。
【0018】
より詳しく言えば、無機多孔質担体、例えば活性炭、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、金属多孔質体、セラミックス多孔質体、粘土鉱物などの多孔質担体の吸着性能を変えることなく、磁性を有し、しかも、過酸化水素やオゾンの効率的な分解を促進させる多機能型磁性多孔質担体とすることである。
【0019】
特に吸着剤の一つである活性炭は、過酸化水素やオゾンの分解触媒になりうるが、その能力は低い。高い吸着能力を有する活性炭に過酸化水素やオゾンの分解を促進する触媒の担持および磁性能力の付与を行なうことも課題である。
【0020】
また、本願の担持触媒型磁性吸着剤を用いた上水や下水の水処理方法として、例えば工業廃水の処理方法、土壌浄化方法により、添加効率よく被分離物質を吸着して磁気分離を行なうと共に、無駄なく、エネルギー効率よく触媒担持性吸着剤を再生できる処理方法とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決するために、この発明では、過酸化物の分解を促進させる金属酸化物触媒を担持した磁性多孔質体からなる担持触媒型磁性吸着剤としたのである。
上記した担持触媒型磁性吸着剤は、これを用いて廃水中の被分離物質を速やかに吸着し、吸着した被分離物質を磁気分離により廃水経路外に取り出すことによって、廃水は浄化された水に処理される。
【0022】
また、担持触媒型磁性吸着剤により同じ多孔質空間内に吸着されたことによって、濃縮された状態にある有機物質などの被吸着物質は、金属酸化物触媒による過酸化水素やオゾンなどの過酸化物の分解促進によって生成した活性酸素によって処理効率よく分解除去され、しかも吸着剤は再生され、再使用することができるようになる。
【0023】
すなわち、過酸化水素、オゾン、過酢酸および過安息香酸からなる群から選ばれる一種以上の過酸化物を含有しかつ有機物を含有する廃水に、前記の担持触媒型磁性吸着剤を接触させて有機物および過酸化物を吸着させ、その後、前記担持触媒型磁性吸着剤を磁気分離して廃水を浄化すると共に、担持触媒型磁性吸着剤に吸着している過酸化物によって同じく吸着している有機物を酸化分解して担持触媒型磁性吸着剤を再生することからなる過酸化物含有廃水の処理方法を採用することができる。
【0024】
金属酸化物触媒は、Ag、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ti、StおよびBaから選ばれる1種以上の金属の酸化物と、酸化鉄との複酸化物である上記の担持触媒型磁性吸着剤とすることが好ましい。
担持触媒型磁性吸着剤による吸着、磁気分離、被分離物質の分解、吸着剤の再生という一連の過程により、過酸化水素およびオゾンの分解を加速させて過酸化物含有廃水が処理できる。
【0025】
また、多孔質吸着剤を用いて廃水中の被分離物質を前もって吸着、濃縮して、濃縮された被分離物質を分解処理する方法は、廃水中で直接に分解するよりもエネルギー効率的に有利である。
特に金属酸化物のうち、例えばマンガンの酸化物は、過酸化水素やオゾンを激しく分解させる触媒である。この種の触媒を組み込んだ多孔質体は過酸化水素やオゾンの分解触媒として濃縮された被分離物質を効果的に作用する。即ち、過酸化水素やオゾンを分解する触媒を組み込んだ多孔質吸着剤は、汚染物質を含む廃水から汚染物質を吸着して、多孔質吸着剤内の汚染物質濃度が高くなる。一方、その近傍に組み込まれた触媒は過酸化水素やオゾンの分解を促進させ、汚染物質との酸化分解反応を効果的に進めることができる。
【0026】
この発明では、多孔質吸着剤、例えば活性炭、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナ、粘土鉱物、金属多孔質体、セラミックス多孔質体などの担体に第一鉄イオンおよび第二鉄イオン水溶液を加え、さらには第一鉄イオンの代わりに2価の第一系列遷移金属イオンMn、Co、Ni、Cu、Znなどのイオンとの共存下、塩基性反応条件で生成する磁性酸化鉄さらには磁性を有する金属フェライトと多孔質担体を化合させた磁性多孔質吸着材とすることができる。
金属フェライトと化合した磁性吸着剤は、過酸化水素やオゾンの分解を加速させる金属の酸化物を含み、これによって発生する活性酸素によって被分離物質を酸化分解して磁性吸着剤の湿式再生をする。
【0027】
代表的な多孔質吸着剤である活性炭は、その原料、熱分解(炭化)、賦活の仕方などによりその物性が大きく異なり、種々の被分離物質に対応する様々な種類の活性炭がある。活性炭は多くの細孔、大きな比表面積を有し、多くのそして特異な吸着活性点を形成する。被分離物質への吸着能力は多孔質担体の孔経、表面積などに支配される。
【0028】
水中に溶解している被分離物質の吸着除去に多くの多孔質体が用いられている。従って、被分離物質の大きな吸着能力を低下させることなく多孔質に磁性を持たすことができれば、都市廃水、工場廃水、地下水、土壌水などに含まれる環境汚染物質の除去および磁性多孔質体の再利用に本発明の担持触媒型磁性吸着剤を用いた磁気分離が効果的な手法を提供する。
【0029】
排ガス流中のSoxやNox化合物を水中に溶解させる湿式洗浄においては、前記した方法と同様な手法を採用できる。
【0030】
この発明の担持触媒型磁性吸着剤は、各種フェライトが多孔質体と化学的、物理的に一体化したものであり、単に両者の混合物ではない。例えば、多孔質のもつ細孔に二価の金属イオンと三価の鉄イオンが吸着し、次に化学的な加水分解法により生成したマグネタイト微粒子あるいはフェライト微粒子の細孔からの脱着が防がれ、多孔質とフェライトが一体となった磁性吸着剤が形成される。
【0031】
被分離物質で汚染している水中に触媒担持磁性多孔質体吸着剤の添加は、磁性多孔質体によって吸着した被分離物質を磁石による磁気捕捉を可能にするものである。従って、この磁性多孔質体への被分離物質の吸着後は、磁力により磁性を持っている物のみを磁性の持たない物を分離し、選別することができる。
【0032】
多孔質体はその製造過程において孔経、表面積、比容積など制御でき、被分離物質の選択的な分離が可能になる。その中でも(人工、合成)ゼオライトは別名分子ふるいとも呼ばれ、細孔経の決まったゼオライトが合成できる。その結果、吸着に選択性が生じる。またゼオライトにはその空孔内にナトリウムイオンなどの陽イオンが保持されているので重金属イオンや有機陽イオンとの交換能を利用することができる。
【発明の効果】
【0033】
この発明は、過酸化物の分解を促進させる金属酸化物触媒を担持した磁性多孔質体からなる担持触媒型磁性吸着剤としたので、水などに溶解している被分離物質の効果的な吸着と磁気分離性を有すると共に、磁性吸着剤に捕捉された被分離物質を、過酸化水素やオゾンからの触媒的分解によって発生する活性酸素による速やかな分解と除去を行い得る担持触媒型磁性吸着剤となる利点がある。また、磁性吸着剤の再生が容易な磁性吸着剤とするなる利点もある。
【0034】
また、所定の多孔質体に、所定の金属のイオンおよび鉄イオンを吸着させた状態で塩基性pH条件に調整して反応させ、化成された酸化鉄と金属酸化物との複酸化物からなる金属酸化物触媒を担持させる担持触媒型磁性吸着剤の製造方法としたので、上記利点を有する所定の磁性吸着剤を比較的簡単な手法によって確実に得られるという利点がある。
【0035】
また、所定の過酸化物を含有しかつ有機物を含有する廃水に、担持触媒型磁性吸着剤を接触させて有機物および過酸化物を吸着させ、その後、磁気分離して廃水を浄化と共に、有機物を酸化分解して吸着剤を再生できるので、添加効率よく被分離物質を吸着して磁気分離を行なうと共に、無駄なく、エネルギー効率よく触媒担持性吸着剤を再生できる過酸化物含有廃水の処理方法となる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
この発明の過酸化水素およびオゾン分解触媒を結合した磁性多孔質吸着剤は、多孔質担体表面およびその内部において、化学的にフェライト微粒子を析出させ、物理的に固定化していると考えられる。
多孔質体は多孔質構造を持ち、通常良く吸着媒体として用いられる活性炭、シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト、金属多孔質、セラミック多孔質、粘土鉱物などである。
【0037】
このような多孔質体の中でも活性炭は多くの被分離物質の吸着が可能であり、速い吸着速度、大きな吸着容量、など優れた性能をもっている。ダイオキシン、PCBに代表される多ハロゲン化化合物、環境ホルモン物質、VOC 物質、農薬、界面活性剤、染料などに対して優れた吸着性能を示す。
活性炭の形態は粉末、粒状、繊維状(不織布)でも担磁が可能であるが、金属イオンの吸着のし易さからは表面積の大きい担体で担磁させるのが望ましい。
多孔質体内でのフェライト微粒子の生成はたとえば活性炭のミクロポア(細孔半径2nm以下)、メソポア(2〜100nm)であり、これらの領域への金属イオンの吸着はそれらの細孔の大きさ、及び侵入するイオンのサイズから可能であり、その吸着点においてフェライト微粒子への反応が起きると考えられる。
【0038】
活性炭に添加する金属イオンの過度の吸着は、活性炭の吸着点を奪い、その後に実施される被分離物質の吸着を低下させることになる。また、形成されるフェライト微粒子がメソポア、マクロポアの入り口部を覆うように生成した場合は活性炭の吸着量を極度に低下させるので、多孔質体に対して生成するフェライト微粒子のサイズや量が重要となる。
【0039】
すなわち、水で充分に浸透した活性炭の懸濁液に、予め水で溶解した硫酸第一鉄などの第一鉄塩と、硫酸第二鉄などの第二鉄塩を添加し、あるいは過酸化水素の分解触媒に成りうる2価の金属イオン(Mn2+、Co2+、Cu2+など)の適切な吸着を行わせる。次いで、上部から撹拌しながらゆっくりとアルカリ水溶液を加えると、黒褐色に着色した懸濁液に変わる。加熱、熟成することによって磁性を有するようになる。金属酸化物を担持した磁性活性炭水中に溶解している被分離物質を吸着し、磁気分離に用いることができる。
【0040】
上記の方法によって得られた磁性多孔質吸着剤は水懸濁液や粉末状態で磁石により、容易に引き付けられる。
多孔質体に対して多量の金属イオンの使用は金属の酸化物の増加をもたらし、その結果、多孔質体の吸着点の低減をもたらすので必要以上の金属イオンの添加は避けなければならない。第一鉄イオンの代わりに他の2価の金属イオンを単独あるいは併用することによって過酸化水素やオゾンの分解を加速する機能と磁石に応答する機能を合わせもつ金属フェライトが多孔質体上に生成する。
多孔質体に対する金属イオンの親和性が低い場合には、予め多孔質体の懸濁液を超音波照射することにより、多孔質体粒子の表面が活性化し、安定な磁性多孔質体が得られる。
【0041】
磁性粒子マグネタイトの生成には第一鉄(II)塩、および第二鉄(III)塩を用いて行なうことができる。代表的には硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、塩化第一鉄、炭酸第一鉄、シュウ酸鉄(II)などから選ばれる。第二鉄(III)塩もまた硫酸第二鉄、硫酸第二鉄アンモニウム、塩化第二鉄、クエン酸鉄(III)、リン酸鉄(III)、硝酸第二鉄などから選ばれる。
第一鉄イオンの代わりの他の2価の金属イオン、Mn2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+の各塩(硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、蓚酸塩など)が用いられ、磁性を有するフェライトが得られる。
【0042】
酸性条件で2価の鉄イオンを過マンガン酸カリウムによって酸化して、3価の鉄イオンの形成と同時に2価のマンガンイオンとして、活性炭に吸着させ、アルカリ溶液でpH調整することによるMn担持磁性活性炭を生成するという方法もある。
この中でも、Mn担持磁性活性炭、Co担持磁性活性炭は過酸化水素やオゾンの分解を著しく加速させる。
【0043】
塩基は種々のものを用いることができる。代表的にはNaOH、KOH、NH4OH、LiOH、Na2CO3、NaHCO3などの水溶液のいずれかを添加する。
【0044】
磁気分離によって選別され、回収された汚染物質を含む磁性多孔質体、特に磁性活性炭は過酸化水素あるいはオゾンを、それぞれ単独あるいは併用することによって、発生する活性酸素によって磁性活性炭中に濃縮された汚染物質は速やかに分解除去される。
磁性多孔質吸着剤によって触媒的分解を受ける酸化剤は活性酸素の観点から過酸化水素及びオゾンの使用が望ましい。
【0045】
過酸化水素やオゾンによって酸化分解された有機物は極性の高い小分子あるいは気体状の分子に変換され、磁性活性炭から脱着すると考えられる。
オゾン単独、あるいはオゾン、過酸化水素の混合状態での強い酸化条件では吸着された物質のみならず、活性炭の担体にも作用して、CO、CO2となり、活性炭の磨耗につながるので処理条件を選択する必要がある。必要に応じて、他の無機多孔質体、シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト、金属多孔質、セラミック多孔質、粘土鉱物などを選択することができる。
【0046】
このようにして得られる担持触媒型磁性吸着剤を用いて、水中に含まれる環境汚染物質の吸着と周知の磁気分離によって水中から分離することができる。
即ち、図1に示すように、磁性吸着剤による水処理方法において、廃水調整槽から導入される被処理水は吸着槽において磁性吸着剤により汚染物質を吸着し、磁性吸着剤は磁気分離槽内に設置された磁気フィルターに捕捉され、フィルターを通過した浄化された水は浄化水槽に送り出される。
また磁気フィルターに捕捉された磁性吸着剤は、磁気フィルター洗浄槽から過酸化水素(オゾン)再生槽を経て、再生磁性吸着剤として、当初の磁性吸着剤と同様に吸着槽で再使用される。
【0047】
トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの揮発性有機塩素化合物(VOCs)、ビスフェノール−Aやノニルフェノールなどの環境ホルモン物質、難分解性のダイオキシン類、PCB類などの高沸点塩素化合物や石油系炭化水素からなる廃油など、河川、湖、海における汚染や、またこれら有害有機化合物の土壌への浸透は地下水の汚染にもつながるので、これらの有害物質は磁性を有する触媒担持磁性吸着体に吸着させ、磁石を利用して速やかに捕捉、磁気分離により選別できる。
【0048】
磁気分離は超電導磁気分離技術(きわめて強い磁力により被分離物質に磁性が少しでもある、または磁性を付与できれば、被分離物質を高い効率で捕捉できる技術)の発展に伴い、超強磁界が簡単な装置で得られる超電導磁気マグネットの開発、高勾配磁気フィルター技術の進歩により、早い分離速度、大量処理が可能になる。
【0049】
磁気分離された触媒担持磁性吸着材は過酸化水素やオゾン処理により有害物質が分解除去され、磁性吸着材は再生される。
その際、吸着能力の高いこの担持触媒型磁性吸着剤による環境有害物質の除去技術の確立は、生活廃水処理、工場廃液処理、河川、湖沼水質の再生、土壌汚染水の浄化、地下水の浄化などへの対応が可能となる。
【0050】
このように多孔質担体からなる担持触媒型磁性吸着剤を用いることにより、水中の環境汚染物質などの有機物質を効率よく吸着し、磁気分離によって容易に分離することを可能にすると共に、担持触媒型磁性吸着剤の触媒作用によって過酸化水素やオゾンの酸化分解を加速し、磁性吸着剤内の有機物質を速やかに分解して担持触媒型磁性吸着剤の再生を可能にする。即ち、担持触媒型磁性吸着剤を繰り返し使うことができる。これにより過酸化水素含有廃水やオゾン含有廃水の処理を含め、上・下水、工場廃水、汚染土壌水、あるいは地下水中に溶解している有害物質(環境ホルモン物質=内分泌かく乱化学物質、VOCs物質、高沸点ハロゲン化化合物、石油系炭化水素など)の経済的な分解処理を可能にする。
【実施例1】
【0051】
Fe担持磁性活性炭の製造方法:市販の粉末活性炭(三菱化学、ダイヤホープ6D、200メッシュ)50gを脱気したイオン交換水500mlに懸濁させた。硫酸第二鉄((Fe2(SO4)2・nH2O)18.5gを水1300mlに入れ、超音波照射により溶解、懸濁したものを活性炭懸濁液に加え、続いて、硫酸第一鉄(Fe(SO4)・7H2O) 20gを水150mlに溶解し、上記懸濁液に加え、30分間ゆっくりと撹拌した。 次に、10N−NaOH水溶液を滴下してpH10〜11とし、1時間室温にて撹拌し、そのまま、一晩放置した。反応容器の下に、永久磁石を置いて、磁性化した活性炭の沈降を速め、磁性を帯びていないものを含む上澄み液を捨てる操作を繰り返し行った。磁石に引き付けられた磁性活性炭を瀘別し、乾燥した。その乾燥重量は66.5gであった。
【実施例2】
【0052】
Mn担持磁性活性炭の製造方法:硫酸第一鉄(Fe(SO4)・7H2O)41.7gをイオン交換水500mlに溶解して、この水溶液に粉末活性炭50gを懸濁させた。撹拌しながら硫酸0.2mlを加え、次に過マンガン酸カリウム(KMnO43.2gを水100mlに溶解)水溶液を滴下した。次に20%苛性ソーダ水溶液を滴下してpH9〜10にした。懸濁溶液を50〜60℃の状態で1時間放置したところ磁石に引き付けられる活性炭が得られた。反応容器の下に、永久磁石を置いて、磁性化した活性炭の沈降を速め、磁性を帯びていないものを含む上澄み液を捨てる操作を繰り返し行った。磁石に引き付けられた磁性活性炭を瀘別、乾燥した。その乾燥重量は61.9gであった。
【実施例3】
【0053】
Mn担持磁性ゼオライトの製造方法:粉末状ゼオライト5gを用いてイオン交換水100mlに超音波発信器中で懸濁させ、硫酸マンガン5水和物(MnSO4・5H2O)0.24g、硫酸第一鉄0.28g、塩化第二鉄6水和物1.08g(FeCl3.6H2O)の各水溶液を混じ、30分攪拌した。苛性ソーダ水溶液を加えてpH10〜11にした。懸濁溶液を50〜60℃の状態で1時間放置したところ磁石に引き付けられるMn担持磁性ゼオライトが得られた。磁石に引き付けられた磁性ゼオライトを瀘別し、乾燥した。その乾燥重量は5.4gであった。
このMn担持磁性ゼオライトの懸濁水溶液に過酸化水素溶液を入れると反応して酸素ガスを激しく放出した。
【実施例4】
【0054】
Co担持磁性活性炭の製造方法:硫酸コバルト(CoSO4・7H2O)5.6g、硫酸第一鉄8.3g、塩化第2鉄13.5gをイオン交換水500mlに溶解した。この溶液に活性炭50gを加えて、30分間ゆっくりと撹拌した。この懸濁溶液に苛性ソーダを滴下してpHを10〜11にした。懸濁溶液を50〜60℃の状態で1時間放置したところ磁石に引き付けられる活性炭が得られた。反応容器の下に、永久磁石を置いて、磁性化した活性炭の沈降を速め、磁性を帯びていないものを含む上澄み液を捨てる操作を繰り返し行った。磁石に引き付けられた磁性活性炭を瀘別、乾燥した。その乾燥重量は67.0gであった。
【実施例5】
【0055】
[触媒担持磁性活性炭触媒による過酸化水素の分解]
22の分析はJIS K8230に準拠した過マンガン酸カリウム滴定法によった。過酸化水素水(31%)6mlをイオン交換水300mlに溶解し、Mn担持磁性活性炭触媒(Mn−MAC)及びCo担持磁性活性炭触媒(CO−MAC)300mg、200mg、100mgをそれぞれ添加して、一定温度(30℃)で撹拌し、反応経過時間毎に試料を採取した。試料採取の際には反応容器の底に磁石を置き、触媒を沈め、その上澄みをピペットにより10ml採取し、硫酸水溶液(1:1)10mlと純水を加えて100mlとする試料溶液を調整した。この試料溶液を0.025MのKMnO4水溶液で滴定して残存H22量を求めた。
【0056】
なお、比較のために磁性をもたない粉末活性炭を同様に用いてH22の分解速度を求めた。なお、試料採取はNo5Aのろ紙でろ過したろ液についてH22量を測定した。
反応時間(t)とH22の残存率(C/C。)の関係はlnC/C。=−ktの式を満足し、H22の分解は1次反応とみなすことができた。見かけの速度定数kを求め、その結果を表1に示す。用いた活性炭当たりの速度定数k’は一定の値を示し、粉末活性炭(AC)に比べ触媒担持磁性活性炭(MAC)は約8倍の加速効果が認められる。
【0057】
【表1】

【実施例6】
【0058】
[吸着実験1]
触媒担持磁性活性炭(MAC)によるメチレンブルー(MB)の吸着:数個の50mlメスフラスコに精秤した磁性活性炭(10〜100mg)を入れ、一定量のMB溶液(4.10×10-4M)を加えてイオン交換水で満たし50mlとした。これらのメスフラスコを室温(27℃)で、一晩放置して吸着平衡とした。MBの染料溶液を加えた直後から、活性炭の量に応じて染料の青色は薄くなった。メスフラスコの下部に磁石を置き、吸着した磁性活性炭を固定して(磁気分離)、その上澄み液の吸光度(紫外可視吸収スペクトル、λ=663nm, ε(663nm)=61300)からMBの残浴濃度を決定した。磁性活性炭1gに対してca.280-350mg/gのMBが吸着すると見積ることができる。同様に未処理活性炭は390mg/gを吸着した。
【実施例7】
【0059】
過酸化水素による触媒担持磁性活性炭の再生実験(1)
50mlのメスフラスコに粉末磁性活性炭(Mn−MAC)10〜50mg採取し、一定量のメチレンブルー染料溶液(MB)を入れ、27.0℃にて一晩放置して吸着平衡とした。残浴のMB濃度を測定し、吸着平衡曲線から、磁性活性炭1gにca.300mgのMBが吸着していることを確認した。
【0060】
メスフラスコの底に磁石を当て、MBで飽和した磁性活性炭を固定して、残浴の上澄み液を捨て、新たに、30%の過酸化水素1mlを入れて、全量を50mlとした。過酸化水素を入れると磁性活性炭付近から盛んに発生する気泡が観察された。一定温度、一定時間反応させた後、残浴の上澄み液を捨て、再度、MBによる吸着の度合いを上述の吸着平衡の方法で求めた。
【0061】
【表2】

【実施例8】
【0062】
過酸化水素、オゾンによる触媒担持磁性活性炭の再生実験(2)
メチレンブルー染料溶液(MB)で飽和したMn担持磁性活性炭触媒(Mn−MAC)を用いて、過酸化水素とオゾンガスによるメチレンブルーの分解に伴うMn担持磁性活性炭の再生実験を行った。MB飽和Mn担持磁性活性炭触媒(MB/Mn−MAC)0.50gを300mlのイオン交換水に懸濁して、31%過酸化水素6mlを入れ、30℃で2時間攪拌した。その間連続的にオゾンガスを吹き込み、過酸化水素とオゾンによる酸化反応を行った。反応終了後、Mn担持磁性活性炭を回収、乾燥して、MBによる吸着の度合いを上述の吸着平衡の方法によって求めた。
【0063】
【表3】

【実施例9】
【0064】
過酸化水素による触媒担持磁性活性炭の再生実験(3)
ドラム缶洗浄廃水(COD(Cr)=1850、濁ど(NTU)=44.5)から200mlをガラス容器に採取して、その中にMn担持磁性活性炭1.0g(溶液に対して0.5%)を入れ、1時間(30℃)撹拌して、廃水中の不純物を吸着させた。容器の底に磁石を当て、磁性活性炭を強制的に沈めて、その上澄み液のCOD(Cr)、および濁ど(NTU)を測定して、磁性活性炭の吸着能力あるいは過酸化水素による再生能力を評価した。次にガラス容器中の上澄み液を捨て、新たに31%過酸化水素1mlをイオン交換水20ml中に溶解し、不純物を吸着した磁性活性炭に加えて1時間(30℃)酸化分解を行なった。反応終了後、上澄みを捨て、再度、ドラム缶洗浄廃水200mlを加えて吸着を行ない(1時間、30℃)、その上澄み液の残存CODおよび濁ど測定を行なった。この操作を3回繰り返して過酸化水素によるMn担持磁性活性炭の再生効果を評価した。
【0065】
【表4】

COD値の高い実用廃水を用いて、過酸化水素の分解を加速するMn担持磁性活性炭による吸着能力は3回の吸着、酸化分解によって吸着能力は序々に低下するものの相当程度、維持されていることが認められた。
【実施例10】
【0066】
過酸化水素によるMn担持磁性ゼオライトの再生実験(4)
50mlのメスフラスコにMn担持磁性ゼオライト100〜200mgを採取し、一定量のメチレンブルー染料溶液(MB)を入れ、27.0℃にて一晩放置して吸着平衡とした。残浴のMB濃度から磁性ゼオライト1gにca.37mgのMBが吸着していることを確認した。メスフラスコの底に磁石を当て、MBで飽和した磁性ゼオライトを固定して、残浴の上澄み液を捨てた後、30%の過酸化水素1mlを入れ、水を加えて全量を50mlとして30℃で一晩放置した。再度、残浴の上澄み液を捨て、MBによる吸着の度合いを上述の吸着平衡の方法で求めた。残浴のMB濃度から磁性ゼオライト1gに0.033mgのMBが吸着していることを確認した。過酸化水素酸化による担持磁性ゼオライトの再生率はca.90%であった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施形態の過酸化物含有廃水の処理工程図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化物の分解を促進させる金属酸化物触媒を担持した磁性多孔質体からなる担持触媒型磁性吸着剤。
【請求項2】
金属酸化物触媒が、Ag、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ti、StおよびBaから選ばれる1種以上の金属の酸化物と、酸化鉄との複酸化物である請求項1に記載の担持触媒型磁性吸着剤。
【請求項3】
活性炭、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、金属多孔質体、セラミックス多孔質体または粘土鉱物からなる多孔質体に、Ag、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ti、StおよびBaから選ばれる1種以上の金属のイオンおよび鉄イオンを吸着させた状態で塩基性pH条件に調整して反応させ、化成された酸化鉄と金属酸化物との複酸化物からなる金属酸化物触媒を担持させることからなる担持触媒型磁性吸着剤の製造方法。
【請求項4】
過酸化水素、オゾン、過酢酸および過安息香酸からなる群から選ばれる一種以上の過酸化物を含有しかつ有機物を含有する廃水に、請求項1または2に記載の担持触媒型磁性吸着剤を接触させて有機物および過酸化物を吸着させ、その後、前記担持触媒型磁性吸着剤を磁気分離して廃水を浄化すると共に、担持触媒型磁性吸着剤に吸着している過酸化物によって同じく吸着している有機物を酸化分解して担持触媒型磁性吸着剤を再生することからなる過酸化物含有廃水の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−284520(P2008−284520A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134350(P2007−134350)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(502355130)二葉商事株式会社 (5)
【Fターム(参考)】