拍動検出装置
【課題】 脈波信号の信号状態を、非定常ノイズも含めて評価することを可能とする。
【解決手段】 被検体の拍動に由来する拍動信号を検出する拍動検出装置は、拍動信号、周期性を有する定常ノイズおよび周期性を有さない非定常ノイズの少なくとも一つを含む可能性がある脈波信号を出力する脈波センサー10と、脈波信号に基づいて、所定時間毎に前記周波数解析処理を実行する周波数解析部50と、を含み、周波数解析部50は、脈波信号の信号状態を評価する脈波信号評価部80と、を有し、脈波信号評価部80は、脈波信号の信号状態の評価指標を取得する評価指標取得部82と、評価指標を用いて、脈波信号の信号状態を評価する信号状態評価部83と、を有する。
【解決手段】 被検体の拍動に由来する拍動信号を検出する拍動検出装置は、拍動信号、周期性を有する定常ノイズおよび周期性を有さない非定常ノイズの少なくとも一つを含む可能性がある脈波信号を出力する脈波センサー10と、脈波信号に基づいて、所定時間毎に前記周波数解析処理を実行する周波数解析部50と、を含み、周波数解析部50は、脈波信号の信号状態を評価する脈波信号評価部80と、を有し、脈波信号評価部80は、脈波信号の信号状態の評価指標を取得する評価指標取得部82と、評価指標を用いて、脈波信号の信号状態を評価する信号状態評価部83と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拍動検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
拍動検出装置は、人体の心拍に由来する拍動を検出するための装置であって、例えば、腕、手のひら、手指などに装着される脈波センサーからの信号(脈波信号)から、人体の体動の影響により発生する信号成分(体動影響信号)を雑音として除去し、心拍に由来する信号(拍動信号)を検出する装置である。
【0003】
人の指や手首に装着するタイプの脈拍計は、例えば、特許文献1〜特許文献3に記載されている。
【0004】
また、脈拍計に加速度センサーを搭載し、脈拍計を、運動量計あるいは歩数計等の運動計測機能も備えた生体情報計測装置として使用する例は、例えば特許文献4に記載されている。このような生体情報計測装置を用いることで、被計測者は運動中に自身のペース配分を管理したり、運動後に消費カロリーを確認するなどして運動量を把握したりすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−198829号公報
【特許文献2】特開2007−54471号公報
【特許文献3】特開2005−131426号公報
【特許文献4】特開2005−211301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献4の請求項3に係る技術では、『ユーザーが歩行又は走行している運動状態に有るか否かを判別する連続振動判別手段』を有する旨が記載されている。また、この特許文献4の、例えば(0061)段落には、『ユーザーが5歩以上歩行した場合にのみ、運動状態(歩行)にあると判断し、ステップS11以降の処理(歩数の計数)へ移行する』旨が記載されている。
【0007】
特許文献4に記載される技術では、連続振動判別手段によって、例えば、「使用者(ユーザー)が10歩、歩いた」というような、ユーザーの定常的な運動(例えば周期的な腕振りを繰り返す、一定速度でのウォーキング)に関する情報を取得することができる。
【0008】
しかし、その10歩を歩き終えるまでの間に、脈拍の計測処理に対して影響のある瞬間的な人体の運動/動作があったかどうかといった、より詳細な人体の運動状態を把握することが難しい。
【0009】
本発明の少なくとも一つの態様によれば、例えば、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価することができる。また、例えば、被検体(ユーザー)の、非定常的な運動を含む運動状態を検出することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の拍動検出装置の一態様は、被検体の拍動に由来する拍動信号を検出する拍動検出装置であって、前記拍動信号、周期性を有する定常ノイズおよび周期性を有さない非定常ノイズの少なくとも一つを含む可能性がある脈波信号を出力する脈波センサーと、前記脈波信号に基づいて、所定時間毎に周波数解析処理を実行する周波数解析部と、を含み、前記周波数解析部は、前記脈波信号の信号状態を評価する脈波信号評価部と、を有し、前記脈波信号評価部は、前記脈波信号の信号状態の評価指標を取得する評価指標取得部と、前記評価指標を用いて、前記脈波信号の信号状態を評価する信号状態評価部と、を有する。
【0011】
本態様では、脈波観測や脈拍計測を阻害する非定常ノイズ(周期性を持たないノイズであり、外乱ノイズと呼ばれる場合もある)を、例えば、被検体についての貴重な情報(例えば、被検体が非定常的な運動を行った事実を示す情報)をもたらす有用な信号成分と考える。そして、この知見に基づいて、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価する。
【0012】
例えば脈波センサーでは、計測部位近辺において、人体の動作(周期性の無い非定常的な動作)があると、その非定常的な動作に応じて血流の容積変化が発生し、そのような容積変化はノイズ(すなわち非定常ノイズ)の生成につながる。この非定常ノイズは、脈波観測や脈拍計測を阻害する不要な成分と考えることができ、従来は、拍動検出に際して、この非定常ノイズの影響をいかに排除するかに重点がおかれていた。
【0013】
これに対して、本態様では、脈波信号評価部を設けて、脈波信号評価部が、評価指標を取得し、その評価指標を用いて、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価することとした。
【0014】
これによって、本態様の拍動検出装置は、拍動信号を検出するという機能に加えて、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価するという新規な機能を備えることになる。これによって、例えば、拍動検出装置を装着した被検体(拍動の検出対象である人や動物)が、非定常的な運動(非定常運動要素を含む運動:例えば、手足を不規則に動かす、動作が不規則な体操をする等)を行ったことを検出することができる。
【0015】
(2)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記信号状態評価部は、前記定常ノイズまたは前記非定常ノイズの有無、前記定常ノイズまたは前記非定常ノイズの大きさの程度、および前記定常ノイズまたは前記非定常ノイズの混入の程度の少なくとも一つに基づいて、前記脈波信号の信号状態を評価する。
【0016】
本態様では、信号状態評価部による脈波信号の評価の一例を明確化している。信号状態評価部は、例えば、定常ノイズまたは非定常ノイズの有無、定常ノイズまたは非定常ノイズの大きさの程度、および定常ノイズまたは非定常ノイズの混入の程度の少なくとも一つに基づいて、脈波信号の信号状態を評価することができる。これによって、脈波信号の信号状態を客観的に評価することができる。
【0017】
(3)本発明の拍動検出装置の他の態様は、前記信号状態評価部による評価に基づいて、被検体の運動状態を判断する運動状態判断部を有し、前記信号状態評価部は、前記評価指標と閾値との比較によって、前記脈波信号に含まれる前記非定常ノイズが少ない状態であるか、中程度の状態であるか、多い状態であるかを判断し、前記非定常ノイズが少ない状態のときに第1評価を出力し、前記非定常ノイズが中程度の状態のときに第2評価を出力し、前記非定常ノイズが多い状態のときに第3評価を出力し、前記運動状態判断部は、前記信号状態評価部による評価が前記第1評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が無い安静状態にあると判断し、前記信号状態評価部による評価が前記第2評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が有る安静状態にあると判断し、前記信号状態評価部による評価が前記第3評価であるとき、前記被検体は、非定常的運動状態にあると判断する。
【0018】
本態様では、脈波信号の評価によって、3区分の運動状態の評価が可能である。すなわち、信号状態評価部の評価が第1評価であるとき、運動状態判断部は、「被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が無い安静状態にある」と判断する。また、信号状態評価部による評価が第2評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が有る安静状態にある」と判断する。また、信号状態評価部による評価が第3評価であるとき、「被検体は、非定常的運動状態にある」と判断する。
【0019】
(4)本発明の拍動検出装置の他の態様は、前記脈波信号評価部による評価に基づいて、前記被検体の運動状態を判断する運動状態判断部を有する。
【0020】
本態様では、運動状態判断部が、脈波信号評価部による評価に基づいて、被検体の運動状態を判断する。被検体の運動状態の変化は、脈波信号の周波数スペクトルの変化となって現れる。よって、脈波信号の評価に基づいて、被検体の運動状態を判断することが可能である。
【0021】
(5)本発明の拍動検出装置の他の態様は、前記所定時間毎の、前記被検体の運動状態を記憶する運動状態履歴格納部と、前記運動状態履歴格納部から読み出される、前記所定時間毎の運動状態の時間的な変化に基づいて、前記被検体の運動状態の安定度を判断する安定度判断部と、を有する。
【0022】
本態様では、運動状態履歴格納部に、所定時間毎の被検体の運動状態を記憶する。例えば、拍動検出が4秒毎に行われるとすると、脈波信号の周波数スペクトルの分析に基づいて、被検体の運動状態も4秒毎に判断される。その判断の結果、決定された運動状態を、運動状態履歴格納部(例えば、レジスタ等のメモリー等)に格納する。
【0023】
運動状態の安定度判断部は、運動状態履歴格納部から、所定の期間における運動状態の情報を読み出し、その読み出した情報に基づいて、例えば、時間経過に伴う運動状態の変化の有無等を検出する。例えば、時間経過に応じて運動状態が変化したか否か、変化しているとすれば、ある期間あたりの変化の回数はどれだけか、といった解析を実行する。
【0024】
これによって被検体の運動状態の安定度を判断することができる。すなわち、被検体の運動状態が、どの程度安定しているかを検出することができる。これによって、被検体の運動の履歴を示す貴重な情報が得られる。
【0025】
(6)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記評価指標取得部は、前記脈波信号の周波数分解によって得られる周波数スペクトルのうちの、最大のスペクトル値を示す第1スペクトルと、前記第1スペクトル以外の、少なくとも1つの第2スペクトルとのスペクトル値の比を算出する。
【0026】
脈波信号を評価する指標として、例えば、主要な周波数スペクトルのスペクトル値の比(つまり、基線の高さの比)を用いることができる。スペクトル値の比を算出する処理は、比較的簡単に行えることから、評価指標の取得が容易であるという利点がある。また、例えば、スペクトル値の比(評価指標)と閾値との比較によって脈波信号の評価が可能であり、実現が容易であるという利点もある。
【0027】
具体的には、例えば、r5およびr10という指標を用いることができる(ただし、一例であり、統計指標を用いてもよい)。ここで、r5とは、16秒分の脈波信号の周波数スペクトルの中から、ピーク値の大きさの順に5本のスペクトルを並べたとき(つまり、ソーティングしたとき)、第1番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分母とし、第5番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分子とすることによって得られる指標である。
【0028】
また、r10とは、16秒分の脈波信号の周波数スペクトルの中から、ピーク値の大きさの順に10本のスペクトルを並べたとき(つまりソーティングしたとき)、第1番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分母とし、第10番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分子とすることによって得られる指標である。指標r5,r10は、評価指標取得部によって取得される。
【0029】
(7)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記評価指標取得部は、前記脈波信号の周波数分解によって得られる周波数スペクトルに基づいて、統計情報を取得する。
【0030】
本態様では、脈波信号を評価する指標として、統計情報を使用する。統計情報としては、例えば、標準偏差と、その標準偏差に対する偏差値とを用いることができる。統計情報を評価指標とすることによって、例えば、実績のある統計的な手法を用いて、脈波信号の周波数スペクトルの分布等を詳細に評価(分析)することが可能である。
【0031】
(8)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記被検体の周期的な体動に伴う体動信号を含む体動センサー信号を出力する体動センサーを有し、前記信号状態評価部は、前記評価指標と、前記体動センサー信号の周波数スペクトルと、を用いて、前記脈波信号の信号状態を評価する。
【0032】
本態様では、脈波信号の周波数解析の結果として得られる評価指標のみならず、体動センサーから出力される体動センサー信号の周波数スペクトルを用いて、脈波信号の信号状態を評価する。評価指標に基づく評価によって、脈波信号の周波数スペクトルにおける非定常ノイズの有無、非定常ノイズの大きさの程度、非定常ノイズの混入の程度等の観点からの脈波信号の評価が可能である。
【0033】
また、体動センサー信号の周波数スペクトルに基づく評価によって、例えば、定常ノイズの有無、定常ノイズの大きさの程度、定常ノイズの混入の程度等の観点からの脈波信号の評価が可能である。ここで、「体動」とは、広義には、体を動かすことすべてを意味する。体動センサー信号は、この広義の体動に由来する信号である。体動センサー信号には、被検体の周期的な体動に伴う信号成分である体動信号(上述の定常ノイズに相当する)が含まれる。体動信号(あるいは体動成分)というときの「体動」は、「周期性のある体動」という意味の、狭義の体動である。被検体の周期的な体動は、例えば、歩行・ジョギングなどに伴う周期的、つまり定常的な腕の動き等である。
【0034】
例えば、被検体が規則的に腕を振って歩行しているとき、所定時間分の体動センサー信号の周波数スペクトルを観察すると、規則的な腕振りに対応した目立つスペクトルが、周波数軸上の所定の周波数位置に現れる。また、被検体が、腕振りをしながら、手の五指を握ったり開いたりする動作を繰り返している場合には、例えば、腕振りとは区別される(つまり、別の周期性ならびにスペクトル値等をもつ)、複数本のスペクトルが現れる。したがって、体動センサー信号の周波数スペクトルを分析することによって、例えば、被検体の運動状態に関する有用な情報を得ることができる。
【0035】
本態様では、2種類の評価を考慮して総合的に脈波信号を分析することができ、よって、より詳細な、脈波信号の評価が可能である。
【0036】
(9)本発明の拍動検出装置であって、前記信号状態評価部による評価に基づいて、被検体の運動状態を判断する運動状態判断部を有し、前記信号状態評価部は、前記評価指標と閾値との比較によって前記脈波信号に含まれる前記非定常ノイズが所定未満である第1状態であるか、前記非定常ノイズが前記第1状態よりも多い第2状態であるか、前記非定常ノイズが前記第2状態よりも多い第3状態であるかを判断し、さらに、前記体動センサー信号の周波数スペクトルの内の、スペクトル値の大きさの順位が所定番目までのスペクトルに、前記体動信号を示す体動呈示スペクトルが存在するか否かを判断し、前記非定常ノイズが前記第1状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在しない状態のときに第1評価を出力し、前記非定常ノイズが前記第1状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在する状態のときに第2評価を出力し、前記非定常ノイズが前記第2状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在しない状態のときに第3評価を出力し、前記非定常ノイズが前記第2状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在する状態のときに第4評価を出力し、前記非定常ノイズが前記第3状態のときに第5評価を出力し、前記運動状態判断部は、前記信号状態評価部による評価が前記第1評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が無い安静状態にあると判断し、前記信号状態評価部による評価が前記第2評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態にあると判断し、
前記信号状態評価部による評価が前記第3評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が有る安静状態にあると判断し、前記信号状態評価部による評価が前記第4評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態にあると判断し、前記信号状態評価部による評価が前記第5評価であるとき、前記被検体は、非定常的運動状態にあると判断する。
【0037】
本態様では、脈波信号の評価と、体動センサー信号の周波数スペクトルの分析とを併用することによって、5区分の運動状態の評価が可能である。上述の(8)の態様よりも、さらに詳しい運動状態の判断が可能である。
【0038】
すなわち、運動状態判断部は、信号状態評価部による評価が第1評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が無い安静状態にある」と判断することができる。また、信号状態評価部による評価が第2評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態にある」と判断することができる。また、信号状態評価部による評価が第3評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が有る安静状態にある」と判断することができる。また、信号状態評価部による評価が第4評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態にある」と判断することができる。また、信号状態評価部による評価が第5評価であるとき、被検体は、「非定常的運動状態にある」と判断することができる。
【0039】
このように、本発明の少なくとも一つの態様によれば、例えば、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価することができる。また、例えば、被検体(ユーザー)の、非定常的な運動を含む運動状態を検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の拍動検出装置の一例の構成を示す図
【図2】図2(A)〜図2(C)は、脈波信号に含まれる外乱ノイズに着目した脈波信号の評価例と、各評価例に対応する運動状態の評価例を示す図
【図3】5区分の運動状態の判断を行う場合の処理フローの例を示すフローチャート
【図4】図4(A)および図4(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図
【図5】図5(A)および図5(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素無し)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図
【図6】図6(A)および図6(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図
【図7】図7(A)および図7(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素有り)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図
【図8】図8(A)および図8(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図
【図9】図9(A)および図9(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図
【図10】図10(A)および図10(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図
【図11】図11(A)および図11(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素有り)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図
【図12】図12(A)および図12(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「非定常的運動中」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図
【図13】図13(A)および図13(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「非定常的運動中」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図
【図14】被検体の運動状態の安定度の判断処理の手順の一例を示すフローチャート
【図15】統計情報に基づいて運動状態の判断を行う場合の処理フローの例を示すフローチャート
【図16】図16(A)〜図16(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図
【図17】図17(A)〜図17(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図
【図18】図18(A)〜図18(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図
【図19】図19(A)〜図19(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図
【図20】図20(A)〜図20(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「非定常的運動中」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図
【図21】図21(A)および図21(B)は、拍動検出装置の、被検体への装着例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照して、具体的に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0042】
(第1実施形態)
図1は、本発明の拍動検出装置の一例の構成を示す図である。図1に示される拍動検出装置100は、被検体(人や動物を含む)の拍動に由来する拍動信号、拍動信号に対応する心拍等の生体情報等を検出するセンサー装置の一種である。
【0043】
ここで、拍動とは、医学的には心臓のみならず内臓一般の周期的な収縮、弛緩が繰り返された場合に起こる運動のことをいう。ここでは、心臓が周期的に血液を送るポンプとしての動きを拍動と呼ぶ。なお、心拍数とは、1分間の心臓の拍動の数をいう。また、脈拍数は、末梢血管における脈動の数をいう。心臓が血液を送り出す際に、動脈に脈動が生じるので、この回数を数えたものを脈拍数あるいは単に脈拍と呼ぶ。腕で脈を計測する限りは、医学的には心拍数とは呼ばずに脈拍数と呼ぶのが通常である。また、以下の説明では、体動という用語が使用される。体動とは、広い意味では、体を動かすことすべてを意味する(広義の体動)。また、狭義の体動は、例えば、歩行・ジョギングなどに伴う周期的、つまり定常的な腕(例えば拍動検出装置の本体の近辺)の動き等をいう。
【0044】
(全体構成)
図1に示される拍動検出装置100は、拍動信号、周期性を有する定常ノイズおよび周期性を有さない非定常ノイズの少なくとも一つを含む可能性がある脈波信号dを出力する脈波センサー10と、脈波信号蓄積部(4秒分の脈波信号dのデータを蓄積する第1バッファメモリー13および16秒分の脈波信号dのデータを蓄積する第2バッファメモリー15を有する)12と、適応フィルター32および体動成分除去フィルター34を含むフィルター部30と、体動センサー(加速度センサーやジャイロセンサー等)20と、体動信号蓄積部22と、周波数解析部50と、脈拍数算出部90と、表示処理部92と、表示部94と、を有する。
【0045】
脈波センサー10は、例えば、光電脈波センサー及びその原理に基づく脈波センサーである。脈波センサー10は、拍動信号、周期性を有する定常ノイズおよび周期性を有さない非定常ノイズの少なくとも一つを含む可能性がある脈波信号dを出力する。周期性を有する定常ノイズには、被検体(人や動物)の周期的な体動に由来する体動信号に対応する信号成分が含まれる。
【0046】
また、周期性を有さない非定常ノイズは、例えば、拍動検出装置100を装着した被検体(人や動物)が、非定常的な運動(非定常運動要素を含む運動:例えば、手足を不規則に動かす、動作が不規則な体操をする等)を行ったことによって発生し、また、拍動検出装置を他の物体に衝突させた場合等に発生する衝撃ノイズを含む。非定常ノイズは、外乱ノイズと呼ばれることもある。
【0047】
また、体動センサー20は、体動センサー信号fを出力する。体動センサー信号には、被検体の周期的な体動に伴う信号成分である体動信号(上述の定常ノイズに相当する)が含まれる。ここで、「体動」とは、広義には、体を動かすことすべてを意味する。体動センサー信号fは、この広義の体動に由来する信号である。上述のとおり、体動センサー信号fには、被検体の周期的な体動に対応する体動信号(上述の定常ノイズに相当する)が含まれる。体動信号(あるいは体動成分)というときの「体動」は、「周期性のある体動」という意味の、狭義の体動である。被検体の周期的な体動は、例えば、歩行・ジョギングなどに伴う周期的、つまり定常的な腕の動き等である。
【0048】
脈波センサー10から出力される脈波信号dの、4秒分の信号が、第1バッファメモリー13に蓄積される。4秒分の脈波信号dは、4秒周期で、第2バッファメモリー15に転送される。第2バッファメモリー15はFIFO(ファーストイン・ファーストアウト)メモリーであり、16秒分の脈波信号は、4秒分ずつ更新される。16秒分の脈波信号を蓄積するのは、周波数解析によって拍動成分を特定するとき、ある程度の時間幅で信号の推移を観測し、相関の有無等を慎重に検討する必要があるからである。
【0049】
フィルター部30は、入力信号に、定常的(周期的)な周波数成分とその他の非定常的(非周期的)な成分が含まれるときに、それらを分離して出力することのできる適応フィルターの一種である。フィルター部30に含まれる適応フィルター32によって、脈波信号dに含まれる定常的(周期的)な周波数成分とその他の非定常的(非周期的)な成分とを分離することができる。また、体動成分除去フィルター34によって、例えば、脈波信号dに含まれる目立つ体動成分を除去・抑制することができる。
【0050】
(周波数解析部の構成)
周波数解析部50は、信号分配部39と、第1周波数分解部40a〜第3周波数分解部40cと、後処理部60と、脈波信号評価部80と、運動状態判断部86と、状態履歴格納部87と、安定度判断部88と、を有する。
【0051】
信号分配部39は、フィルター後信号e(脈波信号に対応)を第1周波数分解部40aに供給し、フィルター前の脈波信号dを第3周波数分解部40cに供給する。また、体動センサー信号fは第2周波数分解部40bに供給される。
【0052】
後処理部60は、周波数スペクトルをスペクトル値の大きい順にソーティングするピーク順ソート部62と、ピーク順が上位の主要なスペクトルと直近の過去(例えば4秒前)の拍動信号のスペクトルとの相関判定を実行する相関判定部64と、相関判定の結果を利用して拍動信号とノイズ成分とを分離する拍動/ノイズ分離部66と、拍動/ノイズ分離処理によってノイズから分離された拍動成分のスペクトルを、拍動呈示スペクトルとして特定する拍動呈示スペクトル特定部68と、を有する。
【0053】
拍動呈示スペクトルの特定に成功すると、脈拍数算出部90は、被検体の脈拍数を算出する。脈拍数は、例えば、拍動呈示スペクトルの周波数に基づいて算出することができる。求められた脈拍数の情報は、脈拍数算出部90から表示処理部92を経由して表示部94に供給され、例えば、脈波数を示す数値が、表示部94によって表示される。なお、脈拍数ではなく、検出した脈の、時間軸上における変化を信号波形やグラフの形式で表示することもできる。
【0054】
脈波信号評価部80は、ソート処理部81と、評価指標取得部82と、信号状態評価部83(第1信号状態評価部84と、第2信号状態評価部85とを備える)と、を有する。
【0055】
ソート処理部81は、脈波信号dの周波数スペクトルを、スペクトル値の大きい順にソーティングする。評価指標取得部82は、脈波信号dの信号状態の評価指標を取得する。評価指標としては、主要な周波数スペクトルのスペクトル値の比(例えば、後述するr5,r10という指標)や、標準偏差ならびに偏差値のような統計情報(統計指標)を用いることができる。
【0056】
信号状態評価部83は、評価指標を用いて、脈波信号dの信号状態を評価する。具体的には、信号状態評価部83に含まれる第1信号状態評価部84が、評価指標を用いて、脈波信号dの信号状態を評価する。
【0057】
また、信号状態評価部83に含まれる第2信号状態評価部85は、評価指標と、体動センサー信号f(被検体の周期的な体動に伴う体動信号を含む信号)の周波数スペクトルと、を用いて、脈波信号dの信号状態を評価する。
【0058】
本実施形態では、従来、脈波観測や脈拍計測を阻害する非定常ノイズ(周期性を持たないノイズであり、外乱ノイズと呼ばれる場合もある)を、例えば、被検体についての貴重な情報(例えば、被検体が非定常的な運動を行った事実を示す情報)をもたらす有用な信号成分と考える。そして、この知見に基づいて、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価する。
【0059】
例えば光電脈波センサーでは、計測部位近辺において、人体の動作(周期性の無い非定常的な動作)があると、その非定常的な動作に応じて血流の容積変化が発生し、そのような容積変化はノイズ(すなわち非定常ノイズ)の生成につながる。この非定常ノイズは、脈波観測や脈拍計測を阻害する不要な成分と考えることができ、従来は、拍動検出に際して、この非定常ノイズの影響をいかに排除するかに重点がおかれていた。
【0060】
これに対して、本実施形態では、脈波信号評価部80が、評価指標を取得し、その評価指標を用いて、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価することとした。
【0061】
これによって、本実施形態の拍動検出装置は、拍動信号を検出するという機能に加えて、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価(分析)するという新規な機能を備えることになる。これによって、例えば、拍動検出装置を装着した被検体(拍動の検出対象である人や動物)が、非定常的な運動(非定常運動要素を含む運動:例えば、手足を不規則に動かす、動作が不規則な体操をする等)を行ったことを検出することができる。
【0062】
例えば、第1信号状態評価部84が、評価指標を用いて脈波信号dの信号状態を評価することによって、脈波信号dの周波数スペクトルにおける非定常ノイズの有無、非定常ノイズの大きさの程度、非定常ノイズの混入の程度等の観点からの脈波信号dの評価が可能である。
【0063】
また、第2信号状態評価部85が、脈波信号dの周波数解析の結果として得られる評価指標のみならず、体動センサー20から出力される体動センサー信号fを周波数分解して得られる周波数スペクトルを用いて、脈波信号dの信号状態を評価することによって、例えば、周期性のある体動信号に対応する定常ノイズの有無、定常ノイズの大きさの程度、定常ノイズの混入の程度等の観点からの脈波信号の評価が可能である。例えば、被検体が規則的に腕を振って歩行しているとき、所定時間分(例えば4秒分)の体動センサー信号fの周波数スペクトルを観察すると、規則的な腕振りに対応した、信号レベルが他のスペクトルに比べて大きな(換言すれば特徴的な)スペクトルが、周波数軸上の所定の周波数位置に現れる。体動センサー信号fのFFT結果として得られる周波数スペクトル中の、信号レベルが他のスペクトルに比べて大きな(特徴的な)スペクトルを、ここでは、体動呈示スペクトルという。
【0064】
また、被検体が、腕振りをしながら、手の五指を握ったり開いたりする動作を繰り返している場合には、例えば、腕振りとは区別される(つまり、別の周期性ならびにスペクトル値等をもつ)、複数本のスペクトルが現れる。したがって、体動センサー信号fの周波数スペクトルを分析することによって、例えば、被検体の運動状態に関する有用な情報を得ることができる。
【0065】
本実施形態では、信号状態評価部83が、第1信号状態評価部84と、第2信号状態評価部85とを備えることから、2種類の評価が可能であり、これらを勘案して、脈波信号を総合的に分析するができる。よって、より詳細な、脈波信号の評価が可能である。
【0066】
具体的には、信号状態評価部83は、定常ノイズまたは非定常ノイズの有無、定常ノイズまたは非定常ノイズの大きさの程度、および定常ノイズまたは非定常ノイズの混入の程度の少なくとも一つに基づいて、脈波信号dの信号状態を評価することができる。これによって、脈波信号dの信号状態を客観的に評価(分析)することができる。
【0067】
また、拍動検出装置100に含まれる運動状態判断部86は、脈波信号評価部80による評価に基づいて、被検体の運動状態を判断することができる。被検体の運動状態が変化は、脈波信号の周波数スペクトルの変化となって現れる。よって、脈波信号dの評価に基づいて、被検体の運動状態を推定する、つまり判断することが可能である。
【0068】
また、拍動検出装置100に含まれる状態履歴格納部87は、所定時間毎(例えば4秒毎)の被検体の運動状態を記憶してもよい。また、安定度判断部88は、状態履歴格納部87から読み出される、所定時間毎の運動状態の時間的な変化に基づいて、被検体の運動状態の安定度を判断してもよい。
【0069】
例えば、拍動検出が4秒毎に行われるとすると、脈波信号dの周波数スペクトルの分析に基づいて、被検体の運動状態も4秒毎に判断される。その判断の結果、決定された運動状態を、状態履歴格納部(レジスタ等のメモリー等)87に格納する。安定度判断部88は、状態履歴格納部87から、所定の期間における運動状態の情報を読み出し、その読み出した情報に基づいて、例えば、時間経過に伴う運動状態の変化の有無等を検出する。例えば、時間経過に応じて運動状態が変化したか否か、変化しているとすれば、ある期間あたりの変化の回数はどれだけか、といった解析を実行する。これによって被検体の運動状態の安定度を判断することができる。すなわち、被検体の運動状態が、どの程度安定しているかを検出することができる。これによって、被検体の運動の履歴を示す貴重な情報が得られる。
【0070】
被検体の運動状態を示す情報は、運動状態判断部86から表示処理部92に送られる。また、運動状態の安定度に関する情報は、安定度判断部88から表示処理部92に送られる。表示処理部92による表示制御によって、表示部94において、被検体の運動状態を示す情報や、運動状態の安定度に関する情報を表示すること(つまり、ユーザー等に報知する)ことができる。
【0071】
(脈波信号の評価例ならびに運動状態の評価例)
次に、脈波信号の評価例ならびに運動状態の評価例について説明する。図2(A)〜図2(C)は、脈波信号に含まれる外乱ノイズに着目した脈波信号の評価例と、各評価例に対応する運動状態の評価例を示す図である。
【0072】
図2(A)〜図2(C)において、上側には、16秒間のFFT前の脈波信号dの信号波形が示されている。横軸は時間を示し、縦軸は信号の振幅を示す。また、下側には、0から4Hzの周波数帯域における周波数スペクトルが示されている。横軸は周波数を示し、縦軸はスペクトル値を示す。
【0073】
ここで、図2(A)は、外乱ノイズが少(つまり、脈波信号がきれい)と評価される場合の、脈波信号dの波形と周波数スペクトルを示している。また、図2(B)は、外乱ノイズが中程度(つまり、脈波信号dがまあまあ)と評価される場合における脈波信号dの波形と周波数スペクトルを示している。また、図2(C)は、脈波信号dに多くの外乱ノイズが含まれる(つまり、脈波信号dがノイジー)と評価される場合における脈波信号dの波形と周波数スペクトルを示している。
【0074】
図2(A)〜図2(C)の各々の比較から明らかなように、脈波信号dの波形と周波数スペクトルとは密接に関連しており、脈波信号dの波形に対応して、周波数スペクトルの分布状態やスペクトル値が変化する。よって、FFTによって得られる周波数スペクトルに基づいて、脈波信号dに重畳する外乱ノイズの状態(外乱ノイズ量の程度)を推定することが可能である。
【0075】
評価指標取得部82は、脈波信号dの周波数分解によって得られる周波数スペクトルのうちの、最大のスペクトル値を示す第1スペクトルと、第1スペクトル以外の、少なくとも1つの第2スペクトルとのスペクトル値の比(スペクトル比)を算出し、これを評価指標とすることができる。
【0076】
図2(A)〜図2(C)の例では、外乱ノイズ量の程度を推定する指標として、主要な周波数スペクトルのスペクトル値の比(つまり、基線の高さの比)を用いる。具体的には、r5およびr10という指標を用いる(ただし、一例であり、他の統計的指標、例えば、標準偏差等を用いてもよい)。ここで、r5とは、16秒分の脈波信号の周波数スペクトルの中から、ピーク値の大きさの順に5本のスペクトルを並べたとき(つまり、ソーティングしたとき)、第1番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分母とし、第5番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分子とすることによって得られる指標である。
【0077】
また、r10とは、16秒分の脈波信号の周波数スペクトルの中から、ピーク値の大きさの順に10本のスペクトルを並べたとき(つまりソーティングしたとき)、第1番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分母とし、第10番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分子とすることによって得られる指標である。指標r5,r10は、脈波信号評価部80に含まれる評価指標取得部82によって取得される。
【0078】
ここでは、一例として、r5<0.5かつr10<0.2のときをノイズ少(きれい)とし、r5>0.7かつr10>0.5のときをノイズ多(ノイジー)とし、上記いずれでもない場合をノイズが中程度(まあまあ)とする。
【0079】
図2(A)の例では、r5=0.14かつr10=0.08であることから、外乱ノイズ少(きれい)と判断される。また、図2(B)の例では、r5=0.56かつr10=0.35であることから、外乱ノイズが中程度(まあまあ)と判断される。図2(C)の例では、r5=0.82かつr10=0.62であることから、ノイズ多(ノイジー)と判断される。
【0080】
このような判断処理が、信号状態評価部83(第1信号状態評価部84および第2信号状態評価部85)によって実行される。なお、統計情報を評価指標として用いる例は、図16〜図20を用いて後述する。
【0081】
また、被検体の運動状態も、上述の指標r5、r10を用いて推定することができる。被検体の運動状態によって脈波信号dの波形が変化すると、その変化は、周波数スペクトルの変化となって現れ、周波数スペクトルの変化は、指標r5,r10に反映されるからである。被検体の運動状態は、上述のとおり、運動状態判断部86によって実行される。
【0082】
例えば、図2(A)の例では、被検体は、定常的運動状態(非定常運動要素無し)、あるいは、安静状態(非定常運動要素無し)と判断することができる。例えば、被検体が一定のピッチで歩行しており、かつ、手首をランダムに動かすといった非周期的な動作をしていない場合が該当する。また、安静状態(非定常運動要素無し)の場合としては、被検体が起立状態、着席状態、横臥状態などにあり、一切身体を動かしていない場合が考えられる。
【0083】
図2(B)の例では、被検体は、定常的運動状態(非定常運動要素有り)、あるいは、安静状態(非定常運動要素有り)と判断することができる。定常的運動状態(非定常運動要素有り)の場合としては、例えば、被検体が一定のピッチで歩行しており、かつ、手首をランダムに動かすといった非周期的な動作をしている場合が考えられる。また、安静状態(非定常運動要素有り)の場合としては、被検体が起立状態、着席状態、横臥状態などにあるものの、全身的な運動は行っておらず、腕や手をランダムに動かしている場合が考えられる。
【0084】
図2(C)の例では、被検体は、非定常的運動状態と判断することができる。被検体が周期性をもたない動作を行っている場合であり、例えば、被検体が体操をする、被検体がバスケットボールをする、といった場合が該当する。
【0085】
このように、運動状態判断部86は、脈波信号評価部80による脈波信号dの評価に基づいて、被検体の運動状態を判断することができる。上述のとおり、脈波信号評価部80に含まれる信号状態評価部83(具体的には第1信号状態評価部84)は、評価指標r5,r10と,所定の閾値との比較によって、脈波信号dに含まれる非定常ノイズ(外乱ノイズ)が少ない状態であるか(図2(A)の例)、中程度の状態(図2(B)の例)であるか、多い状態(図2(C)の例)であるかを判断する。そして、非定常ノイズが少ない状態(図2(A)の例)のときに、第1評価(非定常ノイズが少ないという評価)を出力し、非定常ノイズが中程度の状態(図2(B)の例)のときに第2評価(非定常ノイズが中程度という評価)を出力し、非定常ノイズが多い状態(図2(C))のときに第3評価(非定常ノイズが多いという評価)を出力する。
【0086】
運動状態判断部86は、脈波信号評価部80(第1信号状態評価部84)による評価が第1評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が無い安静状態にある」と判断し、評価が第2評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が有る安静状態にある」と判断し、評価が第3評価であるとき、「被検体は、非定常的運動状態にある」と判断する。この場合、脈波信号dの評価によって、3区分の運動状態の評価が可能である。但し、より詳細な運動状態の評価を行うことも可能である。
【0087】
例えば、脈波信号dの評価と、体動センサー信号fの周波数スペクトルの分析とを併用することによって、5区分の運動状態の評価が可能となる。
【0088】
例えば、信号状態評価部83に含まれる第2信号状態評価部85は、評価指標r5,r10と、所定の閾値との比較によって、脈波信号dに含まれる非定常ノイズ(外乱ノイズ)が少ない状態であるか(図2(A)の例)、中程度の状態(図2(B)の例)であるか、多い状態(図2(C)の例)であるかを判断する。
【0089】
第2信号状態評価部85は、さらに、体動センサー信号fの周波数スペクトルの内の、スペクトル値の大きさの順位が所定番目(例えば10番目)までのスペクトルに、体動信号を示す体動呈示スペクトルが存在するか否かを判断する。そして、非定常ノイズが少ない状態であって、体動呈示スペクトルが存在しない状態のときに第1評価を出力し、非定常ノイズが少ない状態であって、体動呈示スペクトルが存在する状態のときに第2評価を出力し、非定常ノイズが中程度の状態であって、体動呈示スペクトルが存在しない状態のときに第3評価を出力し、非定常ノイズが中程度の状態であって、体動呈示スペクトルが存在する状態のときに第4評価を出力し、非定常ノイズが多い状態のときに第5評価を出力する。
【0090】
そして、運動状態判断部86は、脈波信号評価部80(第2信号状態評価部85)による評価が第1評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が無い安静状態にある」と判断することができ、評価が第2評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態にある」と判断することができ、評価が第3評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が有る安静状態にある」と判断することができ、評価が第4評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態にある」と判断することができ、「評価が第5評価であるとき、被検体は、非定常的運動状態にある」と判断することができる。以下、図3〜図13を用いて、5区分の運動状態の判断を行う場合の具体例について説明する。
【0091】
(5区分の運動状態の判断を行う場合の処理フローの例)
図3は、5区分の運動状態の判断を行う場合の処理フローの例を示すフローチャートである。まず、16秒間256サンプル分の脈波信号dのデータならびに体動センサー信号fのデータを取得する(ステップST1)。次に、取得した脈波信号データ、体動信号データにFFT処理を実行する(ステップST2)。続いて、脈波信号スペクトルに対して降順ソート処理(スペクトル値の大きい順に並べる処理)を施し(ステップST3)、次に、体動信号スペクトルに降順ソート処理を施す(ステップST4)。次に、体動信号のスペクトルソート結果を基に、体動呈示スペクトルを特定する(ステップST5)。
【0092】
次に、脈波信号の評価指標r5,r10を算出し(ステップST6)、次に、r5,r10を所定の閾値と比較する。すなわち、r5>0.7かつr10>0.5を満足するか否かを判断する(ステップST7)。Yであるとき、被検体の運動状態を、「非定常的運動中(上述の第5評価の場合に相当)」とする(ステップST8)。ステップST7においてNのときは、r5<0.5かつr10<0.2を満足するかを判断する(ステップST9)。
【0093】
ステップST9でYのときは、脈波信号のスペクトルソート結果における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルが存在するかを判断する(ステップST10)。ステップST10において、Yのときは、被検体の運動状態を、「定常的運動中(非定常運動要素無し):上述の第2評価の場合に相当」と判断し(ステップST11)、Nのときは、被検体の運動状態を、「安静状態(非定常運動要素無し):上述の第1評価の場合に相当」と判断する(ステップST12)。
【0094】
また、ステップST9において、Nの場合は、脈波信号のスペクトルソート結果における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがあるかを判断する(ステップST13)。ステップST13において、Yのときは、被検体の運動状態を、「定常的運動中(非定常運動要素有り):上述の第4評価の場合に相当」と判断し(ステップST14)、Nのときは、被検体の運動状態を、「安静状態(非定常運動要素有り):上述の第3評価の場合に相当」と判断する(ステップST15)。
【0095】
(5区分の運動状態の判断が行われる場合における、脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータの具体例)
(安静状態(非定常運動要素無し)と判断される例)
図4(A)および図4(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図である。なお、加速度信号は、上述の体動センサー信号fに相当する。以下に示す例では、体動センサー20として加速度センサーを使用していることから、以下の説明では、加速度信号という用語を使用する。
【0096】
図4(A)の上側には、16秒分の脈波信号の波形が示されており、下側には脈波信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。また、図4(B)の上側には、16秒分の加速度信号の波形が示されており、下側には加速度信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。FFT結果の分解能は0.0625Hzである。また、1Hzは60拍/分に相当する。なお、上述の点は、図6、図8、図10、図12でも同様である。後述する図6、図8、図10、図12の説明においては、上述の説明を省略する。
【0097】
また、図5(A)および図5(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素無し)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図である。すなわち、図4(A)および図4(B)に示す脈波信号および加速度信号に、FFTならびに降順ソート処理を施した結果が、図5(A)および図5(B)に示されている。
【0098】
図5(A)は、16秒間の検出期間において得られた脈波信号dに対してFFTをかけることで得られた64本の周波数スペクトルの一例を示している。図5(A)において、adrは、周波数軸上における周波数スペクトルの位置(相対位置)を示しており、valは、周波数スペクトルのスペクトル値(信号値)を示している。図5(B)は、図5(A)に示されるデータに対して降順ソート処理を施し、上位32本(32番目まで)のスペクトルの位置(周波数軸上での相対位置)を示している。図5(B)において、sortは降順ソートにおける順位を示しており、adrは、そのスペクトルの位置を示している。なお、上述の点は、図7、図9、図11および図13でも同様である。後述する図7、図9、図11、図13の説明においては、上述の説明を省略する。
【0099】
図4(A)に示されるように、脈波信号の波形は安定しており、脈波信号の周波数スペクトルには、拍動呈示スペクトルS1が、ノイズと区別される態様で存在している。また、図4(B)に示されるように、加速度信号には微小な振幅の波形が現れているのみである。
【0100】
図5(A)および図5(B)のようなデータが得られた場合の分析結果は、以下のとおりである。すなわち、図5(B)に示すように、ソート順1番目のスペクトル位置は32であり、5番目のスペクトルの位置は35であり、10番目のスペクトルの位置は36である。このデータに基づいて、評価指標r5,r10を算出すると以下のようになる。
r5 =451.234/2948.770= 0.1530245
r10 =335.382/2948.770= 0.1137362
また、脈波信号のFFT結果(図5(A))に基づいて、脈波信号のスペクトルソート結果(図5(B))における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがあるかを調べると、無しと判断される。
【0101】
すなわち、r5<0.5,r10<0.2であり、かつ体動呈示スペクトル無し、と判断される。よって、図4および図5の例では、図3の処理フローによって、被検体は安静状態(非定常運動要素無し)と判断される。
【0102】
(安静状態(非定常運動要素有り)と判断される例)
図6(A)および図6(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図である。
【0103】
また、図7(A)および図7(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素有り)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図である。すなわち、図6(A)および図6(B)に示す脈波信号および加速度信号に、FFTならびに降順ソート処理を施した結果が、図7(A)および図7(B)に示されている。
【0104】
図6(A)の上側に示されるように、脈波信号の波形は、前半は安定しているが、検出期間の後半において、波形の乱れN1が生じている。図6(A)の下側に示されるように、拍動呈示スペクトルS2は、ノイズと区別される態様で存在しているが、脈波信号の波形の乱れN1に対応した非定常ノイズのスペクトルN2も生じている。また、図6(B)に示されるように、加速度信号のには中盤までは微小な振幅の波形が現れているのみであるが、終盤部分にわずかに乱れが生じている。但し、その波形の乱れの影響は小さく、加速度信号の周波数スペクトルには、無視できる程度の、小さなスペクトルしか見られない。
【0105】
図7(A)および図7(B)のようなデータが得られた場合の分析結果は、以下のようになる。すなわち、図7(B)に示すように、ソート順1番目のスペクトル位置は21であり、5番目のスペクトルの位置は11であり、10番目のスペクトルの位置は15である。このデータに基づいて、評価指標r5,r10を算出すると以下のようになる。
r5 = 1747.158/3132.640= 0.5577270
r10 = 1515.060/3132.640= 0.4836368
また、脈波信号のFFT結果(図7(A))に基づいて、脈波信号のスペクトルソート結果(図7(B))における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがあるかを調べると、無しと判断される。
【0106】
すなわち、r5<0.5,r10<0.2という条件を満足せず、かつ体動呈示スペクトル無し、と判断される。よって、図6および図7の例では、図3の処理フローによって、被検体は安静状態(非定常運動要素有り)と判断される。
【0107】
(定常的運動中(非定常運動要素無し)と判断される例)
図8(A)および図8(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図である。
【0108】
また、図9(A)および図9(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図である。すなわち、図8(A)および図8(B)に示す脈波信号および加速度信号に、FFTならびに降順ソート処理を施した結果が、図9(A)および図9(B)に示されている。
【0109】
図8(A)の上側に示されるように、脈波信号の波形には、中程度の乱れが生じている。図8(A)の下側に示されるように、拍動呈示スペクトルS3は、ノイズと一応、区別される態様で存在している。図8(B)に示されるように、加速度信号の波形は、周期的な変化を示し、この結果、加速度信号の周波数スペクトルには、体動成分と推定される目立つスペクトルN4が生じている。よって、図8(A)の下側に示されるスペクトルN3は、スペクトルN4に対応した定常ノイズのスペクトルであると判定する。
【0110】
図9(A)および図9(B)のようなデータが得られた場合の分析結果は、以下のようになる。すなわち、図9(B)に示すように、ソート順1番目のスペクトル位置は35であり、5番目のスペクトルの位置は42であり、10番目のスペクトルの位置は43である。このデータに基づいて、評価指標r5,r10を算出すると以下のようになる。
r5 =1033.663/2973.406= 0.3476360
r10 =503.500/2973.406= 0.1693344
また、脈波信号のFFT結果(図9(A))に基づいて、脈波信号のスペクトルソート結果(図9(B))における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがあるかを調べると、アドレス41(adr=41)のスペクトルがそれに該当するので、ありと判断される。
【0111】
すなわち、r5<0.5,r10<0.2という条件を満足し、かつ体動呈示スペクトル有り、と判断される。よって、図8および図9の例では、図3の処理フローによって、被検体は定常的運動中(非定常運動要素無し)と判断される。
【0112】
(定常的運動中(非定常運動要素有り)と判断される例)
図10(A)および図10(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図である。
【0113】
また、図11(A)および図11(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素有り)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図である。すなわち、図10(A)および図10(B)に示す脈波信号および加速度信号に、FFTならびに降順ソート処理を施した結果が、図11(A)および図11(B)に示されている。
【0114】
図10(A)の上側に示されるように、脈波信号の波形には、検出期間の中盤までにおいて、中程度の乱れが生じている。図10(B)に示されるように、加速度信号の波形は、周期的な変化を示し、この結果、加速度信号の周波数スペクトルには、体動成分と推定される目立つスペクトルN8が生じている。よって、図10(A)の下側に示されているスペクトルN7は、スペクトルN8に対応した定常ノイズのスペクトルであると判定する。
【0115】
図10(A)の上側に示されるように、脈波信号の波形には、検出期間の後半において、大きな乱れN5が生じており。これに対応してスペクトルN6が生じている。以上により図10(A)の下側に示されるように、スペクトルS4は、N6、N7とは区別される態様で存在している
図11(A)および図11(B)のようなデータが得られた場合の分析結果は、以下のようになる。すなわち、図11(B)に示すように、ソート順1番目のスペクトル位置は42であり、5番目のスペクトルの位置は25であり、10番目のスペクトルの位置は19である。また、このデータに基づいて、評価指標r5,r10を算出すると以下のようになる。
r5 = 1387.373/2674.049= 0.5188286
r10 = 1102.984/2674.049= 0.4124771
また、脈波信号のFFT結果(図11(A))に基づいて、脈波信号のスペクトルソート結果(図11(B))における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがあるかを調べると、アドレス38(adr=38)のスペクトルがそれに該当するので、ありと判断される。
【0116】
すなわち、r5<0.5,r10<0.2という条件を満足せず、かつ体動呈示スペクトル有り、と判断される。よって、図10および図11の例では、図3の処理フローによって、被検体は定常的運動中(非定常運動要素有り)と判断される。
【0117】
(非定常的運動中と判断される例)
図12(A)および図12(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「非定常的運動中」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図である。
【0118】
また、図13(A)および図13(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「非定常的運動中」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図である。すなわち、図12(A)および図12(B)に示す脈波信号および加速度信号に、FFTならびに降順ソート処理を施した結果が、図13(A)および図13(B)に示されている。
【0119】
図12(A)の上側に示されるように、脈波信号の波形には、大きな乱れが生じている。また、図12(A)の下側に示されるように、拍動呈示スペクトルS5は、ノイズに埋もれており、判別が困難な状態である。
【0120】
また、図12(B)に示されるように、加速度信号の波形においては、比較的大きな振幅の信号は見られない。また、加速度信号の周波数スペクトルには、特徴的なスペクトルが見あたらず、無視できる程度の小さなスペクトルが存在するだけである。
【0121】
図13(A)および図13(B)のようなデータが得られた場合の分析結果は、以下のようになる。すなわち、図13(B)に示すように、ソート順1番目のスペクトル位置は9であり、5番目のスペクトルの位置は12であり、10番目のスペクトルの位置は23である。また、このデータに基づいて、評価指標r5,r10を算出すると以下のようになる。
r5 = 1855.991/2178.379= 0.8520056
r10 = 1587.461/2178.379= 0.7287350
また、脈波信号のFFT結果(図13(A))に基づいて、脈波信号のスペクトルソート結果(図13(B))における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがあるかを調べると、なしと判断される。
【0122】
この場合は、r5>0.7,r10>0.5という条件を満足することから、図3の処理フローによって、被検体は非定常的運動中と判断される。
【0123】
(運動状態の安定度の判断処理と判断例)
次に、安定度判断部88による、被検体の運動状態の安定度の判断処理と判断例について説明する。図14は、被検体の運動状態の安定度の判断処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0124】
拍動検出装置100に含まれる安定度判断部88は、被検体の運動状態の安定度の判断のために、図3の処理フローを1回実行する(ステップST100)。これにより、図3の処理フローを実行した時点における被検体の運動状態を判断し、その判断結果を状態履歴格納部87に記録している。
【0125】
次に、安定度判断部88は、連続する4回分の運動状態の判断結果を、状態履歴格納部87から読み出す(ステップST101)。次に、4回分の運動状態の判断結果(すなわち、今回の判断結果、前回の判断結果、2回前の判断結果、3回前の判断結果)が、すべて同じであるかを判断する(ステップST102)。
【0126】
ステップST102でYのときは、今回の判断結果が前回の判断結果と同じであるかを判断する(ステップST103)。ステップST103でYのときは、状態安定度Aと判断する(ステップST104)。ステップST103でNのときは、状態安定度Bと判断する(ステップST105)。
【0127】
ステップST102でNのときは、今回の判断結果、2回前の判断結果、3回前の判断結果が、同じであるかを判断する(ステップST106)。ステップST106でYのときは、状態安定度Bと判断する(ステップST105)。ステップST106でNのときは、前回と今回の判断結果が同じであり、かつ2回前と3回前の判断結果が同じであるかを判断する(ステップST107)。ステップST107においてYのときは、状態遷移発生と認定する(ステップST108)。ステップST107においてNのときは、状態安定度Cと判断する(ステップST109)。
【0128】
次に、上述の処理(運動状態の安定度の判断処理)を継続するかを判断する(ステップST110)。ステップST110でYのときは、ステップST100に戻る。ステップST110でNのときは、運動状態の安定度の判断処理を終了する。
【0129】
ここで、「状態安定度A」は、一定時間、同じ運動状態が続いている場合に相当し、状態安定度が高いことを意味する。具体的には、被検体が安静状態であり、かつ安静状態が継続している場合に、安定度判断部88は、「状態安定度A」と判断する。
【0130】
また、「状態安定度B」は、状態安定度Aほどの安定性ではないが、比較的、同じ運動状態が続いている場合に相当し、状態安定度が中程度であることを意味する。但し、この場合は、別の運動状態へ遷移する(あるいは遷移した)可能性もある。
【0131】
また、「状態遷移発生の認定」とは、安定度判断部88が、被検体の運動状態が、ある運動状態から別の運動状態へと遷移したことを検出したことを意味する。
【0132】
また、「状態安定度C」とは、被検体の運動状態が一定にならずに変化を続けている状態に相当する。非定常的運動中の場合は、状態安定度Cと判断される可能性が高い。
【0133】
(運動状態の判断の具体例)
例えば、3回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、2回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、1回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、今回の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断された場合は、安定度判断部88は、被検体の運動状態の安定度を、「状態安定度A」と判断する。この例の場合は、被検体は、定常的運動中(非定常運動要素無し)の状態であると推定される。
【0134】
また、例えば、3回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、2回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、1回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、今回の運動状態の判断結果が「非定常的運動中」と判断された場合は、安定度判断部88は、被検体の運動状態の安定度を、「状態安定度B」と判断する。この例の場合は、被検体は、定常的運動中(非定常的運動要素有り)と推定される。
【0135】
また、例えば、3回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、2回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、1回前の運動状態の判断結果が「非定常的運動中)であり、今回の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断された場合は、安定度判断部88は、被検体の運動状態の安定度を、「状態安定度B」と判断する。この例の場合は、被検体は、定常的運動中(非定常的運動要素有り)と推定される。
【0136】
また、例えば、3回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、2回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、1回前の運動状態の判断結果が「安静状態」であり、今回の運動状態の判断結果が「安静状態」と判断された場合は、安定度判断部88は、被検体の運動状態の安定度を、「状態遷移発生と認定」と判断する。
【0137】
また、例えば、3回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、2回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素有り)」であり、1回前の運動状態の判断結果が「非定常的運動中」であり、今回の運動状態の判断結果が「安静状態」と判断された場合は、安定度判断部88は、被検体の運動状態の安定度を、「状態安定度C」と判断する。この例の場合は、非検体は、非定常的運動中)と推定される。
【0138】
(第2実施形態)
本実施形態では、脈波信号を評価する評価指標として、統計情報(ここでは、標準偏差と偏差値)を利用する例について説明する。本実施形態では、評価指標取得部82は、脈波信号の周波数分解によって得られる周波数スペクトルに基づいて、評価指標としての統計情報(ここでは、標準偏差と偏差値)を取得する。統計情報を評価指標とすることによって、例えば、実績のある統計的な手法を用いて、脈波信号の周波数スペクトルの分布等を詳細に評価(分析)することが可能である。なお、第2実施形態の説明にあたっては、第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0139】
(統計情報に基づいて運動状態の判断を行う場合の処理フローの例)
図15は、統計情報に基づいて運動状態の判断を行う場合の処理フローの例を示すフローチャートである。
【0140】
まず、16秒間256サンプル分の脈波信号dのデータならびに体動センサー信号fのデータを取得する(ステップST21)。次に、取得した脈波信号データ、体動信号データにFFT処理を実行する(ステップST22)。続いて、脈波信号スペクトルに対して降順ソート処理(スペクトル値の大きい順に並べる処理)を施し(ステップST23)、次に、体動信号スペクトルに降順ソート処理を施す(ステップST24)。次に、体動信号のスペクトルソート結果を基に、体動呈示スペクトルを特定する(ステップST25)。
【0141】
次に、脈波信号スペクトルのスペクトル値(信号値)の平均値、標準偏差、各スペクトルの偏差値を算出する(ステップST26)。次に、脈波信号のスペクトルソート結果における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルが存在するかを判断する(ステップST27)。ステップST27において、Yのときは、脈波信号のスペクトルソート結果の中で、平均値以下(偏差値で50以下)となるスペクトルの内の最大のスペクトのソート順位が16以下であるかを判断する(ステップST28)。
【0142】
ステップST28において、Yの場合は、被検体の運動状態を、「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断し(ステップST29)、Nのときは、被検体の運動状態を、「定常的運動中(非定常運動要素有り)」と判断する(ステップST30)。
【0143】
また、ステップST27において、Nの場合は、脈波信号のスペクトルソート結果における第1位のスペクトルの範囲が3σ(偏差値80)以上であるかを判定する(ステップST31)。次に、ステップST32において、Yのときは、脈波信号のスペクトルソート結果の中で、平均値以下(偏差値で50以下)となるスペクトルの内の最大のスペクトルのソート順位が16以下であるかを判断する(ステップST32)。
【0144】
ステップST32において、Yの場合は、被検体の運動状態を、「安静状態(非定常運動要素無し)」と判断し(ステップST33)、Nのときは、被検体の運動状態を、「安静状態(非定常運動要素有り)」と判断する(ステップST34)。
【0145】
また、ステップST31において、Nの場合は、被検体の運動状態を、「非定常的運動中」と判断する(ステップST35)。
【0146】
(統計情報に基づいて運動状態が判断される場合における、脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータ、ならびにソート結果を示すデータの具体例)
図16〜図20を用いて、統計情報に基づいて運動状態が判断される場合の具体例について説明する。
【0147】
(安静状態(非定常運動要素無し)と判断される例)
図16(A)〜図16(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図である。
【0148】
図16(A)は、図4(A)と同じであり、図16(B)は、図4(B)と同じである。図16(A)および図16(B)については、説明を省略する。図16(C)は、16秒間の検出期間において得られた脈波信号dに対してFFTをかけることで得られた64本の周波数スペクトルの一例を示している。図16(C)において、adrは、周波数軸上における周波数スペクトルの位置(相対位置)を示しており、devは、周波数スペクトルのスペクトル値(信号値)の偏差値を示している。また、図16(D)は、図16(C)に示されるデータに対して降順ソート処理を施し、上位32本(32番目まで)のスペクトルの位置(周波数軸上での相対位置)を示している。図16(D)において、sortは降順ソートにおける順位を示し、adrは、そのスペクトルの位置を示し、devは偏差値を示す。なお、上述の点は、図17〜図20でも同様である。後述する図17〜図20の説明においては、上述の説明を省略する。
【0149】
図16(C)に示される64本のスペクトルの大きさ(スペクトル値)の平均値は247.2であり、この場合の標準偏差は464.3である。また、図16(D)に示されるように、ソート結果第1位のスペクトルの位置は32であり、そのスペクトルの偏差値は108.2である。また、偏差値50以下となるスペクトルの内の最大のスペクトルのソート順位は13番(スペクトル位置は38)である。また、体動呈示スペクトルは無い。つまり、脈波信号スペクトルのソート結果上位10本以内で、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルは無いと判断される。
【0150】
この場合、図15の判断処理フローに従って、被検体の運動状態は、安静状態(非定常運動要素無し)と判断される。
【0151】
(安静状態(非定常運動要素有り)と判断される例)
図17(A)〜図17(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図である。
【0152】
図17(A)は、図6(A)と同じであり、図17(B)は、図6(B)と同じである。図17(A)および図17(B)については、説明を省略する。図17(C)は、16秒間の検出期間において得られた脈波信号dに対してFFTをかけることで得られた64本の周波数スペクトルの一例を示している。また、図17(D)は、図17(C)に示されるデータに対して降順ソート処理を施し、上位32本(32番目まで)のスペクトルの位置(周波数軸上での相対位置)を示している。
【0153】
図17(C)に示される64本のスペクトルの大きさ(スペクトル値)の平均値は749.0であり、この場合の標準偏差は617.5である。また、図17(D)に示されるように、ソート結果第1位のスペクトルの位置は21であり、そのスペクトルの偏差値は88.6である。また、偏差値50以下となるスペクトルの内の最大のスペクトルのソート順位は23番(スペクトル位置は33)である。また、体動呈示スペクトルは無い。つまり、脈波信号スペクトルのソート結果上位10本以内で、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルは無い、と判断される。
【0154】
この場合、図15の判断処理フローに従って、被検体の運動状態は、安静状態(非定常運動要素有り)と判断される。
【0155】
(定常的運動中(非定常運動要素無し)と判断される例)
図18(A)〜図18(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図である。
【0156】
図18(A)は、図8(A)と同じであり、図18(B)は、図8(B)と同じである。図18(A)および図18(B)については、説明を省略する。図18(C)は、16秒間の検出期間において得られた脈波信号dに対してFFTをかけることで得られた64本の周波数スペクトルの一例を示している。また、図18(D)は、図18(C)に示されるデータに対して降順ソート処理を施し、上位32本(32番目まで)のスペクトルの位置(周波数軸上での相対位置)を示している。
【0157】
図18(C)に示される64本のスペクトルの大きさ(スペクトル値)の平均値は307.1であり、この場合の標準偏差は463.9である。また、図18(D)に示されるように、ソート結果第1位のスペクトルの位置は35であり、そのスペクトルの偏差値は107.5である。また、偏差値50以下となるスペクトルの内の最大のスペクトルのソート順位は13番(スペクトル位置は44)である。また、スペクトル位置41のスペクトルが、体動呈示スペクトルとして特定される。つまり、脈波信号スペクトルのソート結果上位10本以内で、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがある(位置41のスペクトル)と判断される。
【0158】
この場合、図15の判断処理フローに従って、被検体の運動状態は、定常的運動中(非定常運動要素無し)と判断される。
【0159】
(定常的運動中(非定常運動要素有り)と判断される例)
図19(A)〜図19(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図である。
【0160】
図19(A)は、図10(A)と同じであり、図19(B)は、図10(B)と同じである。図19(A)および図19(B)については、説明を省略する。図19(C)は、16秒間の検出期間において得られた脈波信号dに対してFFTをかけることで得られた64本の周波数スペクトルの一例を示している。また、図19(D)は、図19(C)に示されるデータに対して降順ソート処理を施し、上位32本(32番目まで)のスペクトルの位置(周波数軸上での相対位置)を示している。
【0161】
図19(C)に示される64本のスペクトルの大きさ(スペクトル値)の平均値は626.7であり、この場合の標準偏差は492.3である。また、図19(D)に示されるように、ソート結果第1位のスペクトルの位置は42であり、そのスペクトルの偏差値は91.6である。また、偏差値50以下となるスペクトルの内の最大のスペクトルのソート順位は29番(スペクトル位置は50)である。また、スペクトル位置38のスペクトルが、体動呈示スペクトルとして特定される。つまり、脈波信号スペクトルのソート結果上位10本以内で、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがある(位置38のスペクトル)と判断される。
【0162】
この場合、図15の判断処理フローに従って、被検体の運動状態は、定常的運動中(非定常運動要素有り)と判断される。
【0163】
(非定常的運動中と判断される例)
図20(A)〜図20(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「非定常的運動中」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図である。
【0164】
図20(A)は、図12(A)と同じであり、図20(B)は、図12(B)と同じである。図20(A)および図20(B)については、説明を省略する。図20(C)は、16秒間の検出期間において得られた脈波信号dに対してFFTをかけることで得られた64本の周波数スペクトルの一例を示している。また、図20(D)は、図20(C)に示されるデータに対して降順ソート処理を施し、上位32本(32番目まで)のスペクトルの位置(周波数軸上での相対位置)を示している。
【0165】
図20(C)に示される64本のスペクトルの大きさ(スペクトル値)の平均値は823.1であり、この場合の標準偏差は588.4である。また、図20(D)に示されるように、ソート結果第1位のスペクトルの位置は9であり、そのスペクトルの偏差値は73.0である。また、偏差値50以下となるスペクトルの内の最大のスペクトルのソート順位は27番(スペクトル位置は39)である。また、体動呈示スペクトルは無い。つまり、脈波信号スペクトルのソート結果上位10本以内で、体動呈示スペクトルの周波数にに相当するスペクトルは無いと判断される。
【0166】
この場合、図15の判断処理フローに従って、被検体の運動状態は、非定常的運動中と判断される。
【0167】
このように、統計情報を評価指標とすることによって、脈波信号の周波数スペクトルの分布等を詳細に評価(分析)することができる。
【0168】
(第3実施形態)
図21(A)および図21(B)は、拍動検出装置の、被検体への装着例を示す図である。
【0169】
図21(A)の例は、腕時計型の拍動検出装置の例である。脈波センサー10および表示部94を含むベース部400は、リストバンド300によって、被検体(ユーザー)の左手首200に装着されている。
【0170】
図21(B)の例は、指装着型の拍動検出装置の例である。被検体の指先に挿入するためのリング状のガイド302の底部に、脈波センサー10が設けられている。
【0171】
このように、本発明の少なくとも一つの態様によれば、例えば、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価することができる。また、例えば、被検体(ユーザー)の、非定常的な運動を含む運動状態を検出することが可能となる。例えば、被検体が10歩、歩行したとき、その10歩を終えるまでの間に、脈拍の計測処理に対して影響のある瞬間的な人体の運動/動作があったかどうかといった、より詳細な人体の運動状態を検出することができる。また、例えば、運動状態の安定度を検出することができる。
【0172】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。また、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【符号の説明】
【0173】
10 脈波センサー、12 脈波信号蓄積部、
20 体動センサー(加速度センサーやジャイロセンサー等)、
30 フィルター部、34 体動成分除去フィルター、
40(40a〜40c) 周波数分解部、50 周波数解析部、
60 後処理部、62 ピーク順ソート部、64 相関判定部、
66 拍動/体動分離部(拍動/ノイズ分離部)、68 拍動呈示スペクトル特定部、
80 脈波信号評価部、81 ソート処理部、82 評価指標取得部、
83 信号状態評価部、84 第1信号状態評価部、85 第2信号状態評価部、
86 運動状態判断部、88 安定度判断部、
90 脈拍数算出部、92 表示処理部、94 表示部、100 拍動検出装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、拍動検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
拍動検出装置は、人体の心拍に由来する拍動を検出するための装置であって、例えば、腕、手のひら、手指などに装着される脈波センサーからの信号(脈波信号)から、人体の体動の影響により発生する信号成分(体動影響信号)を雑音として除去し、心拍に由来する信号(拍動信号)を検出する装置である。
【0003】
人の指や手首に装着するタイプの脈拍計は、例えば、特許文献1〜特許文献3に記載されている。
【0004】
また、脈拍計に加速度センサーを搭載し、脈拍計を、運動量計あるいは歩数計等の運動計測機能も備えた生体情報計測装置として使用する例は、例えば特許文献4に記載されている。このような生体情報計測装置を用いることで、被計測者は運動中に自身のペース配分を管理したり、運動後に消費カロリーを確認するなどして運動量を把握したりすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−198829号公報
【特許文献2】特開2007−54471号公報
【特許文献3】特開2005−131426号公報
【特許文献4】特開2005−211301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献4の請求項3に係る技術では、『ユーザーが歩行又は走行している運動状態に有るか否かを判別する連続振動判別手段』を有する旨が記載されている。また、この特許文献4の、例えば(0061)段落には、『ユーザーが5歩以上歩行した場合にのみ、運動状態(歩行)にあると判断し、ステップS11以降の処理(歩数の計数)へ移行する』旨が記載されている。
【0007】
特許文献4に記載される技術では、連続振動判別手段によって、例えば、「使用者(ユーザー)が10歩、歩いた」というような、ユーザーの定常的な運動(例えば周期的な腕振りを繰り返す、一定速度でのウォーキング)に関する情報を取得することができる。
【0008】
しかし、その10歩を歩き終えるまでの間に、脈拍の計測処理に対して影響のある瞬間的な人体の運動/動作があったかどうかといった、より詳細な人体の運動状態を把握することが難しい。
【0009】
本発明の少なくとも一つの態様によれば、例えば、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価することができる。また、例えば、被検体(ユーザー)の、非定常的な運動を含む運動状態を検出することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の拍動検出装置の一態様は、被検体の拍動に由来する拍動信号を検出する拍動検出装置であって、前記拍動信号、周期性を有する定常ノイズおよび周期性を有さない非定常ノイズの少なくとも一つを含む可能性がある脈波信号を出力する脈波センサーと、前記脈波信号に基づいて、所定時間毎に周波数解析処理を実行する周波数解析部と、を含み、前記周波数解析部は、前記脈波信号の信号状態を評価する脈波信号評価部と、を有し、前記脈波信号評価部は、前記脈波信号の信号状態の評価指標を取得する評価指標取得部と、前記評価指標を用いて、前記脈波信号の信号状態を評価する信号状態評価部と、を有する。
【0011】
本態様では、脈波観測や脈拍計測を阻害する非定常ノイズ(周期性を持たないノイズであり、外乱ノイズと呼ばれる場合もある)を、例えば、被検体についての貴重な情報(例えば、被検体が非定常的な運動を行った事実を示す情報)をもたらす有用な信号成分と考える。そして、この知見に基づいて、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価する。
【0012】
例えば脈波センサーでは、計測部位近辺において、人体の動作(周期性の無い非定常的な動作)があると、その非定常的な動作に応じて血流の容積変化が発生し、そのような容積変化はノイズ(すなわち非定常ノイズ)の生成につながる。この非定常ノイズは、脈波観測や脈拍計測を阻害する不要な成分と考えることができ、従来は、拍動検出に際して、この非定常ノイズの影響をいかに排除するかに重点がおかれていた。
【0013】
これに対して、本態様では、脈波信号評価部を設けて、脈波信号評価部が、評価指標を取得し、その評価指標を用いて、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価することとした。
【0014】
これによって、本態様の拍動検出装置は、拍動信号を検出するという機能に加えて、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価するという新規な機能を備えることになる。これによって、例えば、拍動検出装置を装着した被検体(拍動の検出対象である人や動物)が、非定常的な運動(非定常運動要素を含む運動:例えば、手足を不規則に動かす、動作が不規則な体操をする等)を行ったことを検出することができる。
【0015】
(2)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記信号状態評価部は、前記定常ノイズまたは前記非定常ノイズの有無、前記定常ノイズまたは前記非定常ノイズの大きさの程度、および前記定常ノイズまたは前記非定常ノイズの混入の程度の少なくとも一つに基づいて、前記脈波信号の信号状態を評価する。
【0016】
本態様では、信号状態評価部による脈波信号の評価の一例を明確化している。信号状態評価部は、例えば、定常ノイズまたは非定常ノイズの有無、定常ノイズまたは非定常ノイズの大きさの程度、および定常ノイズまたは非定常ノイズの混入の程度の少なくとも一つに基づいて、脈波信号の信号状態を評価することができる。これによって、脈波信号の信号状態を客観的に評価することができる。
【0017】
(3)本発明の拍動検出装置の他の態様は、前記信号状態評価部による評価に基づいて、被検体の運動状態を判断する運動状態判断部を有し、前記信号状態評価部は、前記評価指標と閾値との比較によって、前記脈波信号に含まれる前記非定常ノイズが少ない状態であるか、中程度の状態であるか、多い状態であるかを判断し、前記非定常ノイズが少ない状態のときに第1評価を出力し、前記非定常ノイズが中程度の状態のときに第2評価を出力し、前記非定常ノイズが多い状態のときに第3評価を出力し、前記運動状態判断部は、前記信号状態評価部による評価が前記第1評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が無い安静状態にあると判断し、前記信号状態評価部による評価が前記第2評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が有る安静状態にあると判断し、前記信号状態評価部による評価が前記第3評価であるとき、前記被検体は、非定常的運動状態にあると判断する。
【0018】
本態様では、脈波信号の評価によって、3区分の運動状態の評価が可能である。すなわち、信号状態評価部の評価が第1評価であるとき、運動状態判断部は、「被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が無い安静状態にある」と判断する。また、信号状態評価部による評価が第2評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が有る安静状態にある」と判断する。また、信号状態評価部による評価が第3評価であるとき、「被検体は、非定常的運動状態にある」と判断する。
【0019】
(4)本発明の拍動検出装置の他の態様は、前記脈波信号評価部による評価に基づいて、前記被検体の運動状態を判断する運動状態判断部を有する。
【0020】
本態様では、運動状態判断部が、脈波信号評価部による評価に基づいて、被検体の運動状態を判断する。被検体の運動状態の変化は、脈波信号の周波数スペクトルの変化となって現れる。よって、脈波信号の評価に基づいて、被検体の運動状態を判断することが可能である。
【0021】
(5)本発明の拍動検出装置の他の態様は、前記所定時間毎の、前記被検体の運動状態を記憶する運動状態履歴格納部と、前記運動状態履歴格納部から読み出される、前記所定時間毎の運動状態の時間的な変化に基づいて、前記被検体の運動状態の安定度を判断する安定度判断部と、を有する。
【0022】
本態様では、運動状態履歴格納部に、所定時間毎の被検体の運動状態を記憶する。例えば、拍動検出が4秒毎に行われるとすると、脈波信号の周波数スペクトルの分析に基づいて、被検体の運動状態も4秒毎に判断される。その判断の結果、決定された運動状態を、運動状態履歴格納部(例えば、レジスタ等のメモリー等)に格納する。
【0023】
運動状態の安定度判断部は、運動状態履歴格納部から、所定の期間における運動状態の情報を読み出し、その読み出した情報に基づいて、例えば、時間経過に伴う運動状態の変化の有無等を検出する。例えば、時間経過に応じて運動状態が変化したか否か、変化しているとすれば、ある期間あたりの変化の回数はどれだけか、といった解析を実行する。
【0024】
これによって被検体の運動状態の安定度を判断することができる。すなわち、被検体の運動状態が、どの程度安定しているかを検出することができる。これによって、被検体の運動の履歴を示す貴重な情報が得られる。
【0025】
(6)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記評価指標取得部は、前記脈波信号の周波数分解によって得られる周波数スペクトルのうちの、最大のスペクトル値を示す第1スペクトルと、前記第1スペクトル以外の、少なくとも1つの第2スペクトルとのスペクトル値の比を算出する。
【0026】
脈波信号を評価する指標として、例えば、主要な周波数スペクトルのスペクトル値の比(つまり、基線の高さの比)を用いることができる。スペクトル値の比を算出する処理は、比較的簡単に行えることから、評価指標の取得が容易であるという利点がある。また、例えば、スペクトル値の比(評価指標)と閾値との比較によって脈波信号の評価が可能であり、実現が容易であるという利点もある。
【0027】
具体的には、例えば、r5およびr10という指標を用いることができる(ただし、一例であり、統計指標を用いてもよい)。ここで、r5とは、16秒分の脈波信号の周波数スペクトルの中から、ピーク値の大きさの順に5本のスペクトルを並べたとき(つまり、ソーティングしたとき)、第1番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分母とし、第5番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分子とすることによって得られる指標である。
【0028】
また、r10とは、16秒分の脈波信号の周波数スペクトルの中から、ピーク値の大きさの順に10本のスペクトルを並べたとき(つまりソーティングしたとき)、第1番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分母とし、第10番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分子とすることによって得られる指標である。指標r5,r10は、評価指標取得部によって取得される。
【0029】
(7)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記評価指標取得部は、前記脈波信号の周波数分解によって得られる周波数スペクトルに基づいて、統計情報を取得する。
【0030】
本態様では、脈波信号を評価する指標として、統計情報を使用する。統計情報としては、例えば、標準偏差と、その標準偏差に対する偏差値とを用いることができる。統計情報を評価指標とすることによって、例えば、実績のある統計的な手法を用いて、脈波信号の周波数スペクトルの分布等を詳細に評価(分析)することが可能である。
【0031】
(8)本発明の拍動検出装置の他の態様では、前記被検体の周期的な体動に伴う体動信号を含む体動センサー信号を出力する体動センサーを有し、前記信号状態評価部は、前記評価指標と、前記体動センサー信号の周波数スペクトルと、を用いて、前記脈波信号の信号状態を評価する。
【0032】
本態様では、脈波信号の周波数解析の結果として得られる評価指標のみならず、体動センサーから出力される体動センサー信号の周波数スペクトルを用いて、脈波信号の信号状態を評価する。評価指標に基づく評価によって、脈波信号の周波数スペクトルにおける非定常ノイズの有無、非定常ノイズの大きさの程度、非定常ノイズの混入の程度等の観点からの脈波信号の評価が可能である。
【0033】
また、体動センサー信号の周波数スペクトルに基づく評価によって、例えば、定常ノイズの有無、定常ノイズの大きさの程度、定常ノイズの混入の程度等の観点からの脈波信号の評価が可能である。ここで、「体動」とは、広義には、体を動かすことすべてを意味する。体動センサー信号は、この広義の体動に由来する信号である。体動センサー信号には、被検体の周期的な体動に伴う信号成分である体動信号(上述の定常ノイズに相当する)が含まれる。体動信号(あるいは体動成分)というときの「体動」は、「周期性のある体動」という意味の、狭義の体動である。被検体の周期的な体動は、例えば、歩行・ジョギングなどに伴う周期的、つまり定常的な腕の動き等である。
【0034】
例えば、被検体が規則的に腕を振って歩行しているとき、所定時間分の体動センサー信号の周波数スペクトルを観察すると、規則的な腕振りに対応した目立つスペクトルが、周波数軸上の所定の周波数位置に現れる。また、被検体が、腕振りをしながら、手の五指を握ったり開いたりする動作を繰り返している場合には、例えば、腕振りとは区別される(つまり、別の周期性ならびにスペクトル値等をもつ)、複数本のスペクトルが現れる。したがって、体動センサー信号の周波数スペクトルを分析することによって、例えば、被検体の運動状態に関する有用な情報を得ることができる。
【0035】
本態様では、2種類の評価を考慮して総合的に脈波信号を分析することができ、よって、より詳細な、脈波信号の評価が可能である。
【0036】
(9)本発明の拍動検出装置であって、前記信号状態評価部による評価に基づいて、被検体の運動状態を判断する運動状態判断部を有し、前記信号状態評価部は、前記評価指標と閾値との比較によって前記脈波信号に含まれる前記非定常ノイズが所定未満である第1状態であるか、前記非定常ノイズが前記第1状態よりも多い第2状態であるか、前記非定常ノイズが前記第2状態よりも多い第3状態であるかを判断し、さらに、前記体動センサー信号の周波数スペクトルの内の、スペクトル値の大きさの順位が所定番目までのスペクトルに、前記体動信号を示す体動呈示スペクトルが存在するか否かを判断し、前記非定常ノイズが前記第1状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在しない状態のときに第1評価を出力し、前記非定常ノイズが前記第1状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在する状態のときに第2評価を出力し、前記非定常ノイズが前記第2状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在しない状態のときに第3評価を出力し、前記非定常ノイズが前記第2状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在する状態のときに第4評価を出力し、前記非定常ノイズが前記第3状態のときに第5評価を出力し、前記運動状態判断部は、前記信号状態評価部による評価が前記第1評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が無い安静状態にあると判断し、前記信号状態評価部による評価が前記第2評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態にあると判断し、
前記信号状態評価部による評価が前記第3評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が有る安静状態にあると判断し、前記信号状態評価部による評価が前記第4評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態にあると判断し、前記信号状態評価部による評価が前記第5評価であるとき、前記被検体は、非定常的運動状態にあると判断する。
【0037】
本態様では、脈波信号の評価と、体動センサー信号の周波数スペクトルの分析とを併用することによって、5区分の運動状態の評価が可能である。上述の(8)の態様よりも、さらに詳しい運動状態の判断が可能である。
【0038】
すなわち、運動状態判断部は、信号状態評価部による評価が第1評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が無い安静状態にある」と判断することができる。また、信号状態評価部による評価が第2評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態にある」と判断することができる。また、信号状態評価部による評価が第3評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が有る安静状態にある」と判断することができる。また、信号状態評価部による評価が第4評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態にある」と判断することができる。また、信号状態評価部による評価が第5評価であるとき、被検体は、「非定常的運動状態にある」と判断することができる。
【0039】
このように、本発明の少なくとも一つの態様によれば、例えば、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価することができる。また、例えば、被検体(ユーザー)の、非定常的な運動を含む運動状態を検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の拍動検出装置の一例の構成を示す図
【図2】図2(A)〜図2(C)は、脈波信号に含まれる外乱ノイズに着目した脈波信号の評価例と、各評価例に対応する運動状態の評価例を示す図
【図3】5区分の運動状態の判断を行う場合の処理フローの例を示すフローチャート
【図4】図4(A)および図4(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図
【図5】図5(A)および図5(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素無し)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図
【図6】図6(A)および図6(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図
【図7】図7(A)および図7(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素有り)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図
【図8】図8(A)および図8(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図
【図9】図9(A)および図9(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図
【図10】図10(A)および図10(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図
【図11】図11(A)および図11(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素有り)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図
【図12】図12(A)および図12(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「非定常的運動中」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図
【図13】図13(A)および図13(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「非定常的運動中」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図
【図14】被検体の運動状態の安定度の判断処理の手順の一例を示すフローチャート
【図15】統計情報に基づいて運動状態の判断を行う場合の処理フローの例を示すフローチャート
【図16】図16(A)〜図16(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図
【図17】図17(A)〜図17(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図
【図18】図18(A)〜図18(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図
【図19】図19(A)〜図19(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図
【図20】図20(A)〜図20(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「非定常的運動中」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図
【図21】図21(A)および図21(B)は、拍動検出装置の、被検体への装着例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照して、具体的に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0042】
(第1実施形態)
図1は、本発明の拍動検出装置の一例の構成を示す図である。図1に示される拍動検出装置100は、被検体(人や動物を含む)の拍動に由来する拍動信号、拍動信号に対応する心拍等の生体情報等を検出するセンサー装置の一種である。
【0043】
ここで、拍動とは、医学的には心臓のみならず内臓一般の周期的な収縮、弛緩が繰り返された場合に起こる運動のことをいう。ここでは、心臓が周期的に血液を送るポンプとしての動きを拍動と呼ぶ。なお、心拍数とは、1分間の心臓の拍動の数をいう。また、脈拍数は、末梢血管における脈動の数をいう。心臓が血液を送り出す際に、動脈に脈動が生じるので、この回数を数えたものを脈拍数あるいは単に脈拍と呼ぶ。腕で脈を計測する限りは、医学的には心拍数とは呼ばずに脈拍数と呼ぶのが通常である。また、以下の説明では、体動という用語が使用される。体動とは、広い意味では、体を動かすことすべてを意味する(広義の体動)。また、狭義の体動は、例えば、歩行・ジョギングなどに伴う周期的、つまり定常的な腕(例えば拍動検出装置の本体の近辺)の動き等をいう。
【0044】
(全体構成)
図1に示される拍動検出装置100は、拍動信号、周期性を有する定常ノイズおよび周期性を有さない非定常ノイズの少なくとも一つを含む可能性がある脈波信号dを出力する脈波センサー10と、脈波信号蓄積部(4秒分の脈波信号dのデータを蓄積する第1バッファメモリー13および16秒分の脈波信号dのデータを蓄積する第2バッファメモリー15を有する)12と、適応フィルター32および体動成分除去フィルター34を含むフィルター部30と、体動センサー(加速度センサーやジャイロセンサー等)20と、体動信号蓄積部22と、周波数解析部50と、脈拍数算出部90と、表示処理部92と、表示部94と、を有する。
【0045】
脈波センサー10は、例えば、光電脈波センサー及びその原理に基づく脈波センサーである。脈波センサー10は、拍動信号、周期性を有する定常ノイズおよび周期性を有さない非定常ノイズの少なくとも一つを含む可能性がある脈波信号dを出力する。周期性を有する定常ノイズには、被検体(人や動物)の周期的な体動に由来する体動信号に対応する信号成分が含まれる。
【0046】
また、周期性を有さない非定常ノイズは、例えば、拍動検出装置100を装着した被検体(人や動物)が、非定常的な運動(非定常運動要素を含む運動:例えば、手足を不規則に動かす、動作が不規則な体操をする等)を行ったことによって発生し、また、拍動検出装置を他の物体に衝突させた場合等に発生する衝撃ノイズを含む。非定常ノイズは、外乱ノイズと呼ばれることもある。
【0047】
また、体動センサー20は、体動センサー信号fを出力する。体動センサー信号には、被検体の周期的な体動に伴う信号成分である体動信号(上述の定常ノイズに相当する)が含まれる。ここで、「体動」とは、広義には、体を動かすことすべてを意味する。体動センサー信号fは、この広義の体動に由来する信号である。上述のとおり、体動センサー信号fには、被検体の周期的な体動に対応する体動信号(上述の定常ノイズに相当する)が含まれる。体動信号(あるいは体動成分)というときの「体動」は、「周期性のある体動」という意味の、狭義の体動である。被検体の周期的な体動は、例えば、歩行・ジョギングなどに伴う周期的、つまり定常的な腕の動き等である。
【0048】
脈波センサー10から出力される脈波信号dの、4秒分の信号が、第1バッファメモリー13に蓄積される。4秒分の脈波信号dは、4秒周期で、第2バッファメモリー15に転送される。第2バッファメモリー15はFIFO(ファーストイン・ファーストアウト)メモリーであり、16秒分の脈波信号は、4秒分ずつ更新される。16秒分の脈波信号を蓄積するのは、周波数解析によって拍動成分を特定するとき、ある程度の時間幅で信号の推移を観測し、相関の有無等を慎重に検討する必要があるからである。
【0049】
フィルター部30は、入力信号に、定常的(周期的)な周波数成分とその他の非定常的(非周期的)な成分が含まれるときに、それらを分離して出力することのできる適応フィルターの一種である。フィルター部30に含まれる適応フィルター32によって、脈波信号dに含まれる定常的(周期的)な周波数成分とその他の非定常的(非周期的)な成分とを分離することができる。また、体動成分除去フィルター34によって、例えば、脈波信号dに含まれる目立つ体動成分を除去・抑制することができる。
【0050】
(周波数解析部の構成)
周波数解析部50は、信号分配部39と、第1周波数分解部40a〜第3周波数分解部40cと、後処理部60と、脈波信号評価部80と、運動状態判断部86と、状態履歴格納部87と、安定度判断部88と、を有する。
【0051】
信号分配部39は、フィルター後信号e(脈波信号に対応)を第1周波数分解部40aに供給し、フィルター前の脈波信号dを第3周波数分解部40cに供給する。また、体動センサー信号fは第2周波数分解部40bに供給される。
【0052】
後処理部60は、周波数スペクトルをスペクトル値の大きい順にソーティングするピーク順ソート部62と、ピーク順が上位の主要なスペクトルと直近の過去(例えば4秒前)の拍動信号のスペクトルとの相関判定を実行する相関判定部64と、相関判定の結果を利用して拍動信号とノイズ成分とを分離する拍動/ノイズ分離部66と、拍動/ノイズ分離処理によってノイズから分離された拍動成分のスペクトルを、拍動呈示スペクトルとして特定する拍動呈示スペクトル特定部68と、を有する。
【0053】
拍動呈示スペクトルの特定に成功すると、脈拍数算出部90は、被検体の脈拍数を算出する。脈拍数は、例えば、拍動呈示スペクトルの周波数に基づいて算出することができる。求められた脈拍数の情報は、脈拍数算出部90から表示処理部92を経由して表示部94に供給され、例えば、脈波数を示す数値が、表示部94によって表示される。なお、脈拍数ではなく、検出した脈の、時間軸上における変化を信号波形やグラフの形式で表示することもできる。
【0054】
脈波信号評価部80は、ソート処理部81と、評価指標取得部82と、信号状態評価部83(第1信号状態評価部84と、第2信号状態評価部85とを備える)と、を有する。
【0055】
ソート処理部81は、脈波信号dの周波数スペクトルを、スペクトル値の大きい順にソーティングする。評価指標取得部82は、脈波信号dの信号状態の評価指標を取得する。評価指標としては、主要な周波数スペクトルのスペクトル値の比(例えば、後述するr5,r10という指標)や、標準偏差ならびに偏差値のような統計情報(統計指標)を用いることができる。
【0056】
信号状態評価部83は、評価指標を用いて、脈波信号dの信号状態を評価する。具体的には、信号状態評価部83に含まれる第1信号状態評価部84が、評価指標を用いて、脈波信号dの信号状態を評価する。
【0057】
また、信号状態評価部83に含まれる第2信号状態評価部85は、評価指標と、体動センサー信号f(被検体の周期的な体動に伴う体動信号を含む信号)の周波数スペクトルと、を用いて、脈波信号dの信号状態を評価する。
【0058】
本実施形態では、従来、脈波観測や脈拍計測を阻害する非定常ノイズ(周期性を持たないノイズであり、外乱ノイズと呼ばれる場合もある)を、例えば、被検体についての貴重な情報(例えば、被検体が非定常的な運動を行った事実を示す情報)をもたらす有用な信号成分と考える。そして、この知見に基づいて、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価する。
【0059】
例えば光電脈波センサーでは、計測部位近辺において、人体の動作(周期性の無い非定常的な動作)があると、その非定常的な動作に応じて血流の容積変化が発生し、そのような容積変化はノイズ(すなわち非定常ノイズ)の生成につながる。この非定常ノイズは、脈波観測や脈拍計測を阻害する不要な成分と考えることができ、従来は、拍動検出に際して、この非定常ノイズの影響をいかに排除するかに重点がおかれていた。
【0060】
これに対して、本実施形態では、脈波信号評価部80が、評価指標を取得し、その評価指標を用いて、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価することとした。
【0061】
これによって、本実施形態の拍動検出装置は、拍動信号を検出するという機能に加えて、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価(分析)するという新規な機能を備えることになる。これによって、例えば、拍動検出装置を装着した被検体(拍動の検出対象である人や動物)が、非定常的な運動(非定常運動要素を含む運動:例えば、手足を不規則に動かす、動作が不規則な体操をする等)を行ったことを検出することができる。
【0062】
例えば、第1信号状態評価部84が、評価指標を用いて脈波信号dの信号状態を評価することによって、脈波信号dの周波数スペクトルにおける非定常ノイズの有無、非定常ノイズの大きさの程度、非定常ノイズの混入の程度等の観点からの脈波信号dの評価が可能である。
【0063】
また、第2信号状態評価部85が、脈波信号dの周波数解析の結果として得られる評価指標のみならず、体動センサー20から出力される体動センサー信号fを周波数分解して得られる周波数スペクトルを用いて、脈波信号dの信号状態を評価することによって、例えば、周期性のある体動信号に対応する定常ノイズの有無、定常ノイズの大きさの程度、定常ノイズの混入の程度等の観点からの脈波信号の評価が可能である。例えば、被検体が規則的に腕を振って歩行しているとき、所定時間分(例えば4秒分)の体動センサー信号fの周波数スペクトルを観察すると、規則的な腕振りに対応した、信号レベルが他のスペクトルに比べて大きな(換言すれば特徴的な)スペクトルが、周波数軸上の所定の周波数位置に現れる。体動センサー信号fのFFT結果として得られる周波数スペクトル中の、信号レベルが他のスペクトルに比べて大きな(特徴的な)スペクトルを、ここでは、体動呈示スペクトルという。
【0064】
また、被検体が、腕振りをしながら、手の五指を握ったり開いたりする動作を繰り返している場合には、例えば、腕振りとは区別される(つまり、別の周期性ならびにスペクトル値等をもつ)、複数本のスペクトルが現れる。したがって、体動センサー信号fの周波数スペクトルを分析することによって、例えば、被検体の運動状態に関する有用な情報を得ることができる。
【0065】
本実施形態では、信号状態評価部83が、第1信号状態評価部84と、第2信号状態評価部85とを備えることから、2種類の評価が可能であり、これらを勘案して、脈波信号を総合的に分析するができる。よって、より詳細な、脈波信号の評価が可能である。
【0066】
具体的には、信号状態評価部83は、定常ノイズまたは非定常ノイズの有無、定常ノイズまたは非定常ノイズの大きさの程度、および定常ノイズまたは非定常ノイズの混入の程度の少なくとも一つに基づいて、脈波信号dの信号状態を評価することができる。これによって、脈波信号dの信号状態を客観的に評価(分析)することができる。
【0067】
また、拍動検出装置100に含まれる運動状態判断部86は、脈波信号評価部80による評価に基づいて、被検体の運動状態を判断することができる。被検体の運動状態が変化は、脈波信号の周波数スペクトルの変化となって現れる。よって、脈波信号dの評価に基づいて、被検体の運動状態を推定する、つまり判断することが可能である。
【0068】
また、拍動検出装置100に含まれる状態履歴格納部87は、所定時間毎(例えば4秒毎)の被検体の運動状態を記憶してもよい。また、安定度判断部88は、状態履歴格納部87から読み出される、所定時間毎の運動状態の時間的な変化に基づいて、被検体の運動状態の安定度を判断してもよい。
【0069】
例えば、拍動検出が4秒毎に行われるとすると、脈波信号dの周波数スペクトルの分析に基づいて、被検体の運動状態も4秒毎に判断される。その判断の結果、決定された運動状態を、状態履歴格納部(レジスタ等のメモリー等)87に格納する。安定度判断部88は、状態履歴格納部87から、所定の期間における運動状態の情報を読み出し、その読み出した情報に基づいて、例えば、時間経過に伴う運動状態の変化の有無等を検出する。例えば、時間経過に応じて運動状態が変化したか否か、変化しているとすれば、ある期間あたりの変化の回数はどれだけか、といった解析を実行する。これによって被検体の運動状態の安定度を判断することができる。すなわち、被検体の運動状態が、どの程度安定しているかを検出することができる。これによって、被検体の運動の履歴を示す貴重な情報が得られる。
【0070】
被検体の運動状態を示す情報は、運動状態判断部86から表示処理部92に送られる。また、運動状態の安定度に関する情報は、安定度判断部88から表示処理部92に送られる。表示処理部92による表示制御によって、表示部94において、被検体の運動状態を示す情報や、運動状態の安定度に関する情報を表示すること(つまり、ユーザー等に報知する)ことができる。
【0071】
(脈波信号の評価例ならびに運動状態の評価例)
次に、脈波信号の評価例ならびに運動状態の評価例について説明する。図2(A)〜図2(C)は、脈波信号に含まれる外乱ノイズに着目した脈波信号の評価例と、各評価例に対応する運動状態の評価例を示す図である。
【0072】
図2(A)〜図2(C)において、上側には、16秒間のFFT前の脈波信号dの信号波形が示されている。横軸は時間を示し、縦軸は信号の振幅を示す。また、下側には、0から4Hzの周波数帯域における周波数スペクトルが示されている。横軸は周波数を示し、縦軸はスペクトル値を示す。
【0073】
ここで、図2(A)は、外乱ノイズが少(つまり、脈波信号がきれい)と評価される場合の、脈波信号dの波形と周波数スペクトルを示している。また、図2(B)は、外乱ノイズが中程度(つまり、脈波信号dがまあまあ)と評価される場合における脈波信号dの波形と周波数スペクトルを示している。また、図2(C)は、脈波信号dに多くの外乱ノイズが含まれる(つまり、脈波信号dがノイジー)と評価される場合における脈波信号dの波形と周波数スペクトルを示している。
【0074】
図2(A)〜図2(C)の各々の比較から明らかなように、脈波信号dの波形と周波数スペクトルとは密接に関連しており、脈波信号dの波形に対応して、周波数スペクトルの分布状態やスペクトル値が変化する。よって、FFTによって得られる周波数スペクトルに基づいて、脈波信号dに重畳する外乱ノイズの状態(外乱ノイズ量の程度)を推定することが可能である。
【0075】
評価指標取得部82は、脈波信号dの周波数分解によって得られる周波数スペクトルのうちの、最大のスペクトル値を示す第1スペクトルと、第1スペクトル以外の、少なくとも1つの第2スペクトルとのスペクトル値の比(スペクトル比)を算出し、これを評価指標とすることができる。
【0076】
図2(A)〜図2(C)の例では、外乱ノイズ量の程度を推定する指標として、主要な周波数スペクトルのスペクトル値の比(つまり、基線の高さの比)を用いる。具体的には、r5およびr10という指標を用いる(ただし、一例であり、他の統計的指標、例えば、標準偏差等を用いてもよい)。ここで、r5とは、16秒分の脈波信号の周波数スペクトルの中から、ピーク値の大きさの順に5本のスペクトルを並べたとき(つまり、ソーティングしたとき)、第1番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分母とし、第5番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分子とすることによって得られる指標である。
【0077】
また、r10とは、16秒分の脈波信号の周波数スペクトルの中から、ピーク値の大きさの順に10本のスペクトルを並べたとき(つまりソーティングしたとき)、第1番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分母とし、第10番目のスペクトルのスペクトル値(パワー)を分子とすることによって得られる指標である。指標r5,r10は、脈波信号評価部80に含まれる評価指標取得部82によって取得される。
【0078】
ここでは、一例として、r5<0.5かつr10<0.2のときをノイズ少(きれい)とし、r5>0.7かつr10>0.5のときをノイズ多(ノイジー)とし、上記いずれでもない場合をノイズが中程度(まあまあ)とする。
【0079】
図2(A)の例では、r5=0.14かつr10=0.08であることから、外乱ノイズ少(きれい)と判断される。また、図2(B)の例では、r5=0.56かつr10=0.35であることから、外乱ノイズが中程度(まあまあ)と判断される。図2(C)の例では、r5=0.82かつr10=0.62であることから、ノイズ多(ノイジー)と判断される。
【0080】
このような判断処理が、信号状態評価部83(第1信号状態評価部84および第2信号状態評価部85)によって実行される。なお、統計情報を評価指標として用いる例は、図16〜図20を用いて後述する。
【0081】
また、被検体の運動状態も、上述の指標r5、r10を用いて推定することができる。被検体の運動状態によって脈波信号dの波形が変化すると、その変化は、周波数スペクトルの変化となって現れ、周波数スペクトルの変化は、指標r5,r10に反映されるからである。被検体の運動状態は、上述のとおり、運動状態判断部86によって実行される。
【0082】
例えば、図2(A)の例では、被検体は、定常的運動状態(非定常運動要素無し)、あるいは、安静状態(非定常運動要素無し)と判断することができる。例えば、被検体が一定のピッチで歩行しており、かつ、手首をランダムに動かすといった非周期的な動作をしていない場合が該当する。また、安静状態(非定常運動要素無し)の場合としては、被検体が起立状態、着席状態、横臥状態などにあり、一切身体を動かしていない場合が考えられる。
【0083】
図2(B)の例では、被検体は、定常的運動状態(非定常運動要素有り)、あるいは、安静状態(非定常運動要素有り)と判断することができる。定常的運動状態(非定常運動要素有り)の場合としては、例えば、被検体が一定のピッチで歩行しており、かつ、手首をランダムに動かすといった非周期的な動作をしている場合が考えられる。また、安静状態(非定常運動要素有り)の場合としては、被検体が起立状態、着席状態、横臥状態などにあるものの、全身的な運動は行っておらず、腕や手をランダムに動かしている場合が考えられる。
【0084】
図2(C)の例では、被検体は、非定常的運動状態と判断することができる。被検体が周期性をもたない動作を行っている場合であり、例えば、被検体が体操をする、被検体がバスケットボールをする、といった場合が該当する。
【0085】
このように、運動状態判断部86は、脈波信号評価部80による脈波信号dの評価に基づいて、被検体の運動状態を判断することができる。上述のとおり、脈波信号評価部80に含まれる信号状態評価部83(具体的には第1信号状態評価部84)は、評価指標r5,r10と,所定の閾値との比較によって、脈波信号dに含まれる非定常ノイズ(外乱ノイズ)が少ない状態であるか(図2(A)の例)、中程度の状態(図2(B)の例)であるか、多い状態(図2(C)の例)であるかを判断する。そして、非定常ノイズが少ない状態(図2(A)の例)のときに、第1評価(非定常ノイズが少ないという評価)を出力し、非定常ノイズが中程度の状態(図2(B)の例)のときに第2評価(非定常ノイズが中程度という評価)を出力し、非定常ノイズが多い状態(図2(C))のときに第3評価(非定常ノイズが多いという評価)を出力する。
【0086】
運動状態判断部86は、脈波信号評価部80(第1信号状態評価部84)による評価が第1評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が無い安静状態にある」と判断し、評価が第2評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が有る安静状態にある」と判断し、評価が第3評価であるとき、「被検体は、非定常的運動状態にある」と判断する。この場合、脈波信号dの評価によって、3区分の運動状態の評価が可能である。但し、より詳細な運動状態の評価を行うことも可能である。
【0087】
例えば、脈波信号dの評価と、体動センサー信号fの周波数スペクトルの分析とを併用することによって、5区分の運動状態の評価が可能となる。
【0088】
例えば、信号状態評価部83に含まれる第2信号状態評価部85は、評価指標r5,r10と、所定の閾値との比較によって、脈波信号dに含まれる非定常ノイズ(外乱ノイズ)が少ない状態であるか(図2(A)の例)、中程度の状態(図2(B)の例)であるか、多い状態(図2(C)の例)であるかを判断する。
【0089】
第2信号状態評価部85は、さらに、体動センサー信号fの周波数スペクトルの内の、スペクトル値の大きさの順位が所定番目(例えば10番目)までのスペクトルに、体動信号を示す体動呈示スペクトルが存在するか否かを判断する。そして、非定常ノイズが少ない状態であって、体動呈示スペクトルが存在しない状態のときに第1評価を出力し、非定常ノイズが少ない状態であって、体動呈示スペクトルが存在する状態のときに第2評価を出力し、非定常ノイズが中程度の状態であって、体動呈示スペクトルが存在しない状態のときに第3評価を出力し、非定常ノイズが中程度の状態であって、体動呈示スペクトルが存在する状態のときに第4評価を出力し、非定常ノイズが多い状態のときに第5評価を出力する。
【0090】
そして、運動状態判断部86は、脈波信号評価部80(第2信号状態評価部85)による評価が第1評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が無い安静状態にある」と判断することができ、評価が第2評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態にある」と判断することができ、評価が第3評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が有る安静状態にある」と判断することができ、評価が第4評価であるとき、「被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態にある」と判断することができ、「評価が第5評価であるとき、被検体は、非定常的運動状態にある」と判断することができる。以下、図3〜図13を用いて、5区分の運動状態の判断を行う場合の具体例について説明する。
【0091】
(5区分の運動状態の判断を行う場合の処理フローの例)
図3は、5区分の運動状態の判断を行う場合の処理フローの例を示すフローチャートである。まず、16秒間256サンプル分の脈波信号dのデータならびに体動センサー信号fのデータを取得する(ステップST1)。次に、取得した脈波信号データ、体動信号データにFFT処理を実行する(ステップST2)。続いて、脈波信号スペクトルに対して降順ソート処理(スペクトル値の大きい順に並べる処理)を施し(ステップST3)、次に、体動信号スペクトルに降順ソート処理を施す(ステップST4)。次に、体動信号のスペクトルソート結果を基に、体動呈示スペクトルを特定する(ステップST5)。
【0092】
次に、脈波信号の評価指標r5,r10を算出し(ステップST6)、次に、r5,r10を所定の閾値と比較する。すなわち、r5>0.7かつr10>0.5を満足するか否かを判断する(ステップST7)。Yであるとき、被検体の運動状態を、「非定常的運動中(上述の第5評価の場合に相当)」とする(ステップST8)。ステップST7においてNのときは、r5<0.5かつr10<0.2を満足するかを判断する(ステップST9)。
【0093】
ステップST9でYのときは、脈波信号のスペクトルソート結果における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルが存在するかを判断する(ステップST10)。ステップST10において、Yのときは、被検体の運動状態を、「定常的運動中(非定常運動要素無し):上述の第2評価の場合に相当」と判断し(ステップST11)、Nのときは、被検体の運動状態を、「安静状態(非定常運動要素無し):上述の第1評価の場合に相当」と判断する(ステップST12)。
【0094】
また、ステップST9において、Nの場合は、脈波信号のスペクトルソート結果における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがあるかを判断する(ステップST13)。ステップST13において、Yのときは、被検体の運動状態を、「定常的運動中(非定常運動要素有り):上述の第4評価の場合に相当」と判断し(ステップST14)、Nのときは、被検体の運動状態を、「安静状態(非定常運動要素有り):上述の第3評価の場合に相当」と判断する(ステップST15)。
【0095】
(5区分の運動状態の判断が行われる場合における、脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータの具体例)
(安静状態(非定常運動要素無し)と判断される例)
図4(A)および図4(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図である。なお、加速度信号は、上述の体動センサー信号fに相当する。以下に示す例では、体動センサー20として加速度センサーを使用していることから、以下の説明では、加速度信号という用語を使用する。
【0096】
図4(A)の上側には、16秒分の脈波信号の波形が示されており、下側には脈波信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。また、図4(B)の上側には、16秒分の加速度信号の波形が示されており、下側には加速度信号のFFT結果(0〜4Hzまでの周波数スペクトル)が示されている。FFT結果の分解能は0.0625Hzである。また、1Hzは60拍/分に相当する。なお、上述の点は、図6、図8、図10、図12でも同様である。後述する図6、図8、図10、図12の説明においては、上述の説明を省略する。
【0097】
また、図5(A)および図5(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素無し)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図である。すなわち、図4(A)および図4(B)に示す脈波信号および加速度信号に、FFTならびに降順ソート処理を施した結果が、図5(A)および図5(B)に示されている。
【0098】
図5(A)は、16秒間の検出期間において得られた脈波信号dに対してFFTをかけることで得られた64本の周波数スペクトルの一例を示している。図5(A)において、adrは、周波数軸上における周波数スペクトルの位置(相対位置)を示しており、valは、周波数スペクトルのスペクトル値(信号値)を示している。図5(B)は、図5(A)に示されるデータに対して降順ソート処理を施し、上位32本(32番目まで)のスペクトルの位置(周波数軸上での相対位置)を示している。図5(B)において、sortは降順ソートにおける順位を示しており、adrは、そのスペクトルの位置を示している。なお、上述の点は、図7、図9、図11および図13でも同様である。後述する図7、図9、図11、図13の説明においては、上述の説明を省略する。
【0099】
図4(A)に示されるように、脈波信号の波形は安定しており、脈波信号の周波数スペクトルには、拍動呈示スペクトルS1が、ノイズと区別される態様で存在している。また、図4(B)に示されるように、加速度信号には微小な振幅の波形が現れているのみである。
【0100】
図5(A)および図5(B)のようなデータが得られた場合の分析結果は、以下のとおりである。すなわち、図5(B)に示すように、ソート順1番目のスペクトル位置は32であり、5番目のスペクトルの位置は35であり、10番目のスペクトルの位置は36である。このデータに基づいて、評価指標r5,r10を算出すると以下のようになる。
r5 =451.234/2948.770= 0.1530245
r10 =335.382/2948.770= 0.1137362
また、脈波信号のFFT結果(図5(A))に基づいて、脈波信号のスペクトルソート結果(図5(B))における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがあるかを調べると、無しと判断される。
【0101】
すなわち、r5<0.5,r10<0.2であり、かつ体動呈示スペクトル無し、と判断される。よって、図4および図5の例では、図3の処理フローによって、被検体は安静状態(非定常運動要素無し)と判断される。
【0102】
(安静状態(非定常運動要素有り)と判断される例)
図6(A)および図6(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図である。
【0103】
また、図7(A)および図7(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素有り)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図である。すなわち、図6(A)および図6(B)に示す脈波信号および加速度信号に、FFTならびに降順ソート処理を施した結果が、図7(A)および図7(B)に示されている。
【0104】
図6(A)の上側に示されるように、脈波信号の波形は、前半は安定しているが、検出期間の後半において、波形の乱れN1が生じている。図6(A)の下側に示されるように、拍動呈示スペクトルS2は、ノイズと区別される態様で存在しているが、脈波信号の波形の乱れN1に対応した非定常ノイズのスペクトルN2も生じている。また、図6(B)に示されるように、加速度信号のには中盤までは微小な振幅の波形が現れているのみであるが、終盤部分にわずかに乱れが生じている。但し、その波形の乱れの影響は小さく、加速度信号の周波数スペクトルには、無視できる程度の、小さなスペクトルしか見られない。
【0105】
図7(A)および図7(B)のようなデータが得られた場合の分析結果は、以下のようになる。すなわち、図7(B)に示すように、ソート順1番目のスペクトル位置は21であり、5番目のスペクトルの位置は11であり、10番目のスペクトルの位置は15である。このデータに基づいて、評価指標r5,r10を算出すると以下のようになる。
r5 = 1747.158/3132.640= 0.5577270
r10 = 1515.060/3132.640= 0.4836368
また、脈波信号のFFT結果(図7(A))に基づいて、脈波信号のスペクトルソート結果(図7(B))における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがあるかを調べると、無しと判断される。
【0106】
すなわち、r5<0.5,r10<0.2という条件を満足せず、かつ体動呈示スペクトル無し、と判断される。よって、図6および図7の例では、図3の処理フローによって、被検体は安静状態(非定常運動要素有り)と判断される。
【0107】
(定常的運動中(非定常運動要素無し)と判断される例)
図8(A)および図8(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図である。
【0108】
また、図9(A)および図9(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図である。すなわち、図8(A)および図8(B)に示す脈波信号および加速度信号に、FFTならびに降順ソート処理を施した結果が、図9(A)および図9(B)に示されている。
【0109】
図8(A)の上側に示されるように、脈波信号の波形には、中程度の乱れが生じている。図8(A)の下側に示されるように、拍動呈示スペクトルS3は、ノイズと一応、区別される態様で存在している。図8(B)に示されるように、加速度信号の波形は、周期的な変化を示し、この結果、加速度信号の周波数スペクトルには、体動成分と推定される目立つスペクトルN4が生じている。よって、図8(A)の下側に示されるスペクトルN3は、スペクトルN4に対応した定常ノイズのスペクトルであると判定する。
【0110】
図9(A)および図9(B)のようなデータが得られた場合の分析結果は、以下のようになる。すなわち、図9(B)に示すように、ソート順1番目のスペクトル位置は35であり、5番目のスペクトルの位置は42であり、10番目のスペクトルの位置は43である。このデータに基づいて、評価指標r5,r10を算出すると以下のようになる。
r5 =1033.663/2973.406= 0.3476360
r10 =503.500/2973.406= 0.1693344
また、脈波信号のFFT結果(図9(A))に基づいて、脈波信号のスペクトルソート結果(図9(B))における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがあるかを調べると、アドレス41(adr=41)のスペクトルがそれに該当するので、ありと判断される。
【0111】
すなわち、r5<0.5,r10<0.2という条件を満足し、かつ体動呈示スペクトル有り、と判断される。よって、図8および図9の例では、図3の処理フローによって、被検体は定常的運動中(非定常運動要素無し)と判断される。
【0112】
(定常的運動中(非定常運動要素有り)と判断される例)
図10(A)および図10(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図である。
【0113】
また、図11(A)および図11(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素有り)」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図である。すなわち、図10(A)および図10(B)に示す脈波信号および加速度信号に、FFTならびに降順ソート処理を施した結果が、図11(A)および図11(B)に示されている。
【0114】
図10(A)の上側に示されるように、脈波信号の波形には、検出期間の中盤までにおいて、中程度の乱れが生じている。図10(B)に示されるように、加速度信号の波形は、周期的な変化を示し、この結果、加速度信号の周波数スペクトルには、体動成分と推定される目立つスペクトルN8が生じている。よって、図10(A)の下側に示されているスペクトルN7は、スペクトルN8に対応した定常ノイズのスペクトルであると判定する。
【0115】
図10(A)の上側に示されるように、脈波信号の波形には、検出期間の後半において、大きな乱れN5が生じており。これに対応してスペクトルN6が生じている。以上により図10(A)の下側に示されるように、スペクトルS4は、N6、N7とは区別される態様で存在している
図11(A)および図11(B)のようなデータが得られた場合の分析結果は、以下のようになる。すなわち、図11(B)に示すように、ソート順1番目のスペクトル位置は42であり、5番目のスペクトルの位置は25であり、10番目のスペクトルの位置は19である。また、このデータに基づいて、評価指標r5,r10を算出すると以下のようになる。
r5 = 1387.373/2674.049= 0.5188286
r10 = 1102.984/2674.049= 0.4124771
また、脈波信号のFFT結果(図11(A))に基づいて、脈波信号のスペクトルソート結果(図11(B))における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがあるかを調べると、アドレス38(adr=38)のスペクトルがそれに該当するので、ありと判断される。
【0116】
すなわち、r5<0.5,r10<0.2という条件を満足せず、かつ体動呈示スペクトル有り、と判断される。よって、図10および図11の例では、図3の処理フローによって、被検体は定常的運動中(非定常運動要素有り)と判断される。
【0117】
(非定常的運動中と判断される例)
図12(A)および図12(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「非定常的運動中」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、ならびに加速度信号とそのスペクトルの一例を示す図である。
【0118】
また、図13(A)および図13(B)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「非定常的運動中」と判断される例における、FFT結果を示すデータならびにソート結果を示すデータを示す図である。すなわち、図12(A)および図12(B)に示す脈波信号および加速度信号に、FFTならびに降順ソート処理を施した結果が、図13(A)および図13(B)に示されている。
【0119】
図12(A)の上側に示されるように、脈波信号の波形には、大きな乱れが生じている。また、図12(A)の下側に示されるように、拍動呈示スペクトルS5は、ノイズに埋もれており、判別が困難な状態である。
【0120】
また、図12(B)に示されるように、加速度信号の波形においては、比較的大きな振幅の信号は見られない。また、加速度信号の周波数スペクトルには、特徴的なスペクトルが見あたらず、無視できる程度の小さなスペクトルが存在するだけである。
【0121】
図13(A)および図13(B)のようなデータが得られた場合の分析結果は、以下のようになる。すなわち、図13(B)に示すように、ソート順1番目のスペクトル位置は9であり、5番目のスペクトルの位置は12であり、10番目のスペクトルの位置は23である。また、このデータに基づいて、評価指標r5,r10を算出すると以下のようになる。
r5 = 1855.991/2178.379= 0.8520056
r10 = 1587.461/2178.379= 0.7287350
また、脈波信号のFFT結果(図13(A))に基づいて、脈波信号のスペクトルソート結果(図13(B))における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがあるかを調べると、なしと判断される。
【0122】
この場合は、r5>0.7,r10>0.5という条件を満足することから、図3の処理フローによって、被検体は非定常的運動中と判断される。
【0123】
(運動状態の安定度の判断処理と判断例)
次に、安定度判断部88による、被検体の運動状態の安定度の判断処理と判断例について説明する。図14は、被検体の運動状態の安定度の判断処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【0124】
拍動検出装置100に含まれる安定度判断部88は、被検体の運動状態の安定度の判断のために、図3の処理フローを1回実行する(ステップST100)。これにより、図3の処理フローを実行した時点における被検体の運動状態を判断し、その判断結果を状態履歴格納部87に記録している。
【0125】
次に、安定度判断部88は、連続する4回分の運動状態の判断結果を、状態履歴格納部87から読み出す(ステップST101)。次に、4回分の運動状態の判断結果(すなわち、今回の判断結果、前回の判断結果、2回前の判断結果、3回前の判断結果)が、すべて同じであるかを判断する(ステップST102)。
【0126】
ステップST102でYのときは、今回の判断結果が前回の判断結果と同じであるかを判断する(ステップST103)。ステップST103でYのときは、状態安定度Aと判断する(ステップST104)。ステップST103でNのときは、状態安定度Bと判断する(ステップST105)。
【0127】
ステップST102でNのときは、今回の判断結果、2回前の判断結果、3回前の判断結果が、同じであるかを判断する(ステップST106)。ステップST106でYのときは、状態安定度Bと判断する(ステップST105)。ステップST106でNのときは、前回と今回の判断結果が同じであり、かつ2回前と3回前の判断結果が同じであるかを判断する(ステップST107)。ステップST107においてYのときは、状態遷移発生と認定する(ステップST108)。ステップST107においてNのときは、状態安定度Cと判断する(ステップST109)。
【0128】
次に、上述の処理(運動状態の安定度の判断処理)を継続するかを判断する(ステップST110)。ステップST110でYのときは、ステップST100に戻る。ステップST110でNのときは、運動状態の安定度の判断処理を終了する。
【0129】
ここで、「状態安定度A」は、一定時間、同じ運動状態が続いている場合に相当し、状態安定度が高いことを意味する。具体的には、被検体が安静状態であり、かつ安静状態が継続している場合に、安定度判断部88は、「状態安定度A」と判断する。
【0130】
また、「状態安定度B」は、状態安定度Aほどの安定性ではないが、比較的、同じ運動状態が続いている場合に相当し、状態安定度が中程度であることを意味する。但し、この場合は、別の運動状態へ遷移する(あるいは遷移した)可能性もある。
【0131】
また、「状態遷移発生の認定」とは、安定度判断部88が、被検体の運動状態が、ある運動状態から別の運動状態へと遷移したことを検出したことを意味する。
【0132】
また、「状態安定度C」とは、被検体の運動状態が一定にならずに変化を続けている状態に相当する。非定常的運動中の場合は、状態安定度Cと判断される可能性が高い。
【0133】
(運動状態の判断の具体例)
例えば、3回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、2回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、1回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、今回の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断された場合は、安定度判断部88は、被検体の運動状態の安定度を、「状態安定度A」と判断する。この例の場合は、被検体は、定常的運動中(非定常運動要素無し)の状態であると推定される。
【0134】
また、例えば、3回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、2回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、1回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、今回の運動状態の判断結果が「非定常的運動中」と判断された場合は、安定度判断部88は、被検体の運動状態の安定度を、「状態安定度B」と判断する。この例の場合は、被検体は、定常的運動中(非定常的運動要素有り)と推定される。
【0135】
また、例えば、3回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、2回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、1回前の運動状態の判断結果が「非定常的運動中)であり、今回の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断された場合は、安定度判断部88は、被検体の運動状態の安定度を、「状態安定度B」と判断する。この例の場合は、被検体は、定常的運動中(非定常的運動要素有り)と推定される。
【0136】
また、例えば、3回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、2回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、1回前の運動状態の判断結果が「安静状態」であり、今回の運動状態の判断結果が「安静状態」と判断された場合は、安定度判断部88は、被検体の運動状態の安定度を、「状態遷移発生と認定」と判断する。
【0137】
また、例えば、3回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素無し)」であり、2回前の運動状態の判断結果が「定常的運動中(非定常運動要素有り)」であり、1回前の運動状態の判断結果が「非定常的運動中」であり、今回の運動状態の判断結果が「安静状態」と判断された場合は、安定度判断部88は、被検体の運動状態の安定度を、「状態安定度C」と判断する。この例の場合は、非検体は、非定常的運動中)と推定される。
【0138】
(第2実施形態)
本実施形態では、脈波信号を評価する評価指標として、統計情報(ここでは、標準偏差と偏差値)を利用する例について説明する。本実施形態では、評価指標取得部82は、脈波信号の周波数分解によって得られる周波数スペクトルに基づいて、評価指標としての統計情報(ここでは、標準偏差と偏差値)を取得する。統計情報を評価指標とすることによって、例えば、実績のある統計的な手法を用いて、脈波信号の周波数スペクトルの分布等を詳細に評価(分析)することが可能である。なお、第2実施形態の説明にあたっては、第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0139】
(統計情報に基づいて運動状態の判断を行う場合の処理フローの例)
図15は、統計情報に基づいて運動状態の判断を行う場合の処理フローの例を示すフローチャートである。
【0140】
まず、16秒間256サンプル分の脈波信号dのデータならびに体動センサー信号fのデータを取得する(ステップST21)。次に、取得した脈波信号データ、体動信号データにFFT処理を実行する(ステップST22)。続いて、脈波信号スペクトルに対して降順ソート処理(スペクトル値の大きい順に並べる処理)を施し(ステップST23)、次に、体動信号スペクトルに降順ソート処理を施す(ステップST24)。次に、体動信号のスペクトルソート結果を基に、体動呈示スペクトルを特定する(ステップST25)。
【0141】
次に、脈波信号スペクトルのスペクトル値(信号値)の平均値、標準偏差、各スペクトルの偏差値を算出する(ステップST26)。次に、脈波信号のスペクトルソート結果における上位10本以内に、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルが存在するかを判断する(ステップST27)。ステップST27において、Yのときは、脈波信号のスペクトルソート結果の中で、平均値以下(偏差値で50以下)となるスペクトルの内の最大のスペクトのソート順位が16以下であるかを判断する(ステップST28)。
【0142】
ステップST28において、Yの場合は、被検体の運動状態を、「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断し(ステップST29)、Nのときは、被検体の運動状態を、「定常的運動中(非定常運動要素有り)」と判断する(ステップST30)。
【0143】
また、ステップST27において、Nの場合は、脈波信号のスペクトルソート結果における第1位のスペクトルの範囲が3σ(偏差値80)以上であるかを判定する(ステップST31)。次に、ステップST32において、Yのときは、脈波信号のスペクトルソート結果の中で、平均値以下(偏差値で50以下)となるスペクトルの内の最大のスペクトルのソート順位が16以下であるかを判断する(ステップST32)。
【0144】
ステップST32において、Yの場合は、被検体の運動状態を、「安静状態(非定常運動要素無し)」と判断し(ステップST33)、Nのときは、被検体の運動状態を、「安静状態(非定常運動要素有り)」と判断する(ステップST34)。
【0145】
また、ステップST31において、Nの場合は、被検体の運動状態を、「非定常的運動中」と判断する(ステップST35)。
【0146】
(統計情報に基づいて運動状態が判断される場合における、脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータ、ならびにソート結果を示すデータの具体例)
図16〜図20を用いて、統計情報に基づいて運動状態が判断される場合の具体例について説明する。
【0147】
(安静状態(非定常運動要素無し)と判断される例)
図16(A)〜図16(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図である。
【0148】
図16(A)は、図4(A)と同じであり、図16(B)は、図4(B)と同じである。図16(A)および図16(B)については、説明を省略する。図16(C)は、16秒間の検出期間において得られた脈波信号dに対してFFTをかけることで得られた64本の周波数スペクトルの一例を示している。図16(C)において、adrは、周波数軸上における周波数スペクトルの位置(相対位置)を示しており、devは、周波数スペクトルのスペクトル値(信号値)の偏差値を示している。また、図16(D)は、図16(C)に示されるデータに対して降順ソート処理を施し、上位32本(32番目まで)のスペクトルの位置(周波数軸上での相対位置)を示している。図16(D)において、sortは降順ソートにおける順位を示し、adrは、そのスペクトルの位置を示し、devは偏差値を示す。なお、上述の点は、図17〜図20でも同様である。後述する図17〜図20の説明においては、上述の説明を省略する。
【0149】
図16(C)に示される64本のスペクトルの大きさ(スペクトル値)の平均値は247.2であり、この場合の標準偏差は464.3である。また、図16(D)に示されるように、ソート結果第1位のスペクトルの位置は32であり、そのスペクトルの偏差値は108.2である。また、偏差値50以下となるスペクトルの内の最大のスペクトルのソート順位は13番(スペクトル位置は38)である。また、体動呈示スペクトルは無い。つまり、脈波信号スペクトルのソート結果上位10本以内で、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルは無いと判断される。
【0150】
この場合、図15の判断処理フローに従って、被検体の運動状態は、安静状態(非定常運動要素無し)と判断される。
【0151】
(安静状態(非定常運動要素有り)と判断される例)
図17(A)〜図17(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「安静状態(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図である。
【0152】
図17(A)は、図6(A)と同じであり、図17(B)は、図6(B)と同じである。図17(A)および図17(B)については、説明を省略する。図17(C)は、16秒間の検出期間において得られた脈波信号dに対してFFTをかけることで得られた64本の周波数スペクトルの一例を示している。また、図17(D)は、図17(C)に示されるデータに対して降順ソート処理を施し、上位32本(32番目まで)のスペクトルの位置(周波数軸上での相対位置)を示している。
【0153】
図17(C)に示される64本のスペクトルの大きさ(スペクトル値)の平均値は749.0であり、この場合の標準偏差は617.5である。また、図17(D)に示されるように、ソート結果第1位のスペクトルの位置は21であり、そのスペクトルの偏差値は88.6である。また、偏差値50以下となるスペクトルの内の最大のスペクトルのソート順位は23番(スペクトル位置は33)である。また、体動呈示スペクトルは無い。つまり、脈波信号スペクトルのソート結果上位10本以内で、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルは無い、と判断される。
【0154】
この場合、図15の判断処理フローに従って、被検体の運動状態は、安静状態(非定常運動要素有り)と判断される。
【0155】
(定常的運動中(非定常運動要素無し)と判断される例)
図18(A)〜図18(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素無し)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図である。
【0156】
図18(A)は、図8(A)と同じであり、図18(B)は、図8(B)と同じである。図18(A)および図18(B)については、説明を省略する。図18(C)は、16秒間の検出期間において得られた脈波信号dに対してFFTをかけることで得られた64本の周波数スペクトルの一例を示している。また、図18(D)は、図18(C)に示されるデータに対して降順ソート処理を施し、上位32本(32番目まで)のスペクトルの位置(周波数軸上での相対位置)を示している。
【0157】
図18(C)に示される64本のスペクトルの大きさ(スペクトル値)の平均値は307.1であり、この場合の標準偏差は463.9である。また、図18(D)に示されるように、ソート結果第1位のスペクトルの位置は35であり、そのスペクトルの偏差値は107.5である。また、偏差値50以下となるスペクトルの内の最大のスペクトルのソート順位は13番(スペクトル位置は44)である。また、スペクトル位置41のスペクトルが、体動呈示スペクトルとして特定される。つまり、脈波信号スペクトルのソート結果上位10本以内で、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがある(位置41のスペクトル)と判断される。
【0158】
この場合、図15の判断処理フローに従って、被検体の運動状態は、定常的運動中(非定常運動要素無し)と判断される。
【0159】
(定常的運動中(非定常運動要素有り)と判断される例)
図19(A)〜図19(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「定常的運動中(非定常運動要素有り)」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図である。
【0160】
図19(A)は、図10(A)と同じであり、図19(B)は、図10(B)と同じである。図19(A)および図19(B)については、説明を省略する。図19(C)は、16秒間の検出期間において得られた脈波信号dに対してFFTをかけることで得られた64本の周波数スペクトルの一例を示している。また、図19(D)は、図19(C)に示されるデータに対して降順ソート処理を施し、上位32本(32番目まで)のスペクトルの位置(周波数軸上での相対位置)を示している。
【0161】
図19(C)に示される64本のスペクトルの大きさ(スペクトル値)の平均値は626.7であり、この場合の標準偏差は492.3である。また、図19(D)に示されるように、ソート結果第1位のスペクトルの位置は42であり、そのスペクトルの偏差値は91.6である。また、偏差値50以下となるスペクトルの内の最大のスペクトルのソート順位は29番(スペクトル位置は50)である。また、スペクトル位置38のスペクトルが、体動呈示スペクトルとして特定される。つまり、脈波信号スペクトルのソート結果上位10本以内で、体動呈示スペクトルの周波数に相当するスペクトルがある(位置38のスペクトル)と判断される。
【0162】
この場合、図15の判断処理フローに従って、被検体の運動状態は、定常的運動中(非定常運動要素有り)と判断される。
【0163】
(非定常的運動中と判断される例)
図20(A)〜図20(D)は、5区分の運動状態の判断が行われる場合の、「非定常的運動中」と判断される例における脈波信号とそのスペクトル、加速度信号とそのスペクトル、FFT結果を示すデータならびにソート結果のデータの一例を示す図である。
【0164】
図20(A)は、図12(A)と同じであり、図20(B)は、図12(B)と同じである。図20(A)および図20(B)については、説明を省略する。図20(C)は、16秒間の検出期間において得られた脈波信号dに対してFFTをかけることで得られた64本の周波数スペクトルの一例を示している。また、図20(D)は、図20(C)に示されるデータに対して降順ソート処理を施し、上位32本(32番目まで)のスペクトルの位置(周波数軸上での相対位置)を示している。
【0165】
図20(C)に示される64本のスペクトルの大きさ(スペクトル値)の平均値は823.1であり、この場合の標準偏差は588.4である。また、図20(D)に示されるように、ソート結果第1位のスペクトルの位置は9であり、そのスペクトルの偏差値は73.0である。また、偏差値50以下となるスペクトルの内の最大のスペクトルのソート順位は27番(スペクトル位置は39)である。また、体動呈示スペクトルは無い。つまり、脈波信号スペクトルのソート結果上位10本以内で、体動呈示スペクトルの周波数にに相当するスペクトルは無いと判断される。
【0166】
この場合、図15の判断処理フローに従って、被検体の運動状態は、非定常的運動中と判断される。
【0167】
このように、統計情報を評価指標とすることによって、脈波信号の周波数スペクトルの分布等を詳細に評価(分析)することができる。
【0168】
(第3実施形態)
図21(A)および図21(B)は、拍動検出装置の、被検体への装着例を示す図である。
【0169】
図21(A)の例は、腕時計型の拍動検出装置の例である。脈波センサー10および表示部94を含むベース部400は、リストバンド300によって、被検体(ユーザー)の左手首200に装着されている。
【0170】
図21(B)の例は、指装着型の拍動検出装置の例である。被検体の指先に挿入するためのリング状のガイド302の底部に、脈波センサー10が設けられている。
【0171】
このように、本発明の少なくとも一つの態様によれば、例えば、脈波信号の信号状態を、非定常ノイズを含めて評価することができる。また、例えば、被検体(ユーザー)の、非定常的な運動を含む運動状態を検出することが可能となる。例えば、被検体が10歩、歩行したとき、その10歩を終えるまでの間に、脈拍の計測処理に対して影響のある瞬間的な人体の運動/動作があったかどうかといった、より詳細な人体の運動状態を検出することができる。また、例えば、運動状態の安定度を検出することができる。
【0172】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。また、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【符号の説明】
【0173】
10 脈波センサー、12 脈波信号蓄積部、
20 体動センサー(加速度センサーやジャイロセンサー等)、
30 フィルター部、34 体動成分除去フィルター、
40(40a〜40c) 周波数分解部、50 周波数解析部、
60 後処理部、62 ピーク順ソート部、64 相関判定部、
66 拍動/体動分離部(拍動/ノイズ分離部)、68 拍動呈示スペクトル特定部、
80 脈波信号評価部、81 ソート処理部、82 評価指標取得部、
83 信号状態評価部、84 第1信号状態評価部、85 第2信号状態評価部、
86 運動状態判断部、88 安定度判断部、
90 脈拍数算出部、92 表示処理部、94 表示部、100 拍動検出装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の拍動に由来する拍動信号を検出する拍動検出装置であって、
前記拍動信号、周期性を有する定常ノイズおよび周期性を有さない非定常ノイズの少なくとも一つを含む可能性がある脈波信号を出力する脈波センサーと、
前記脈波信号に基づいて、所定時間毎に周波数解析処理を実行する周波数解析部と、を含み、
前記周波数解析部は、
前記脈波信号の信号状態を評価する脈波信号評価部と、を有し、
前記脈波信号評価部は、
前記脈波信号の信号状態の評価指標を取得する評価指標取得部と、
前記評価指標を用いて、前記脈波信号の信号状態を評価する信号状態評価部と、を有することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の拍動検出装置であって、
前記信号状態評価部は、前記定常ノイズまたは前記非定常ノイズの有無、前記定常ノイズまたは前記非定常ノイズの大きさの程度、および前記定常ノイズまたは前記非定常ノイズの混入の程度の少なくとも一つに基づいて、前記脈波信号の信号状態を評価することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項3】
請求項2記載の拍動検出装置であって、
前記信号状態評価部による評価に基づいて、前記被検体の運動状態を判断する運動状態判断部を有し、
前記信号状態評価部は、前記評価指標と閾値との比較によって、前記脈波信号に含まれる前記非定常ノイズが所定未満である第1状態であるか、前記非定常ノイズが前記第1状態よりも多い第2状態であるか、前記非定常ノイズが前記第2状態よりも多い第3状態であるかを判断し、前記非定常ノイズが前記第1状態のときに第1評価を出力し、前記非定常ノイズが前記第2状態のときに第2評価を出力し、前記非定常ノイズが前記第3状態のときに第3評価を出力し、
前記運動状態判断部は、
前記信号状態評価部による評価が前記第1評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が無い安静状態にあると判断し、
前記信号状態評価部による評価が前記第2評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が有る安静状態にあると判断し、
前記信号状態評価部による評価が前記第3評価であるとき、前記被検体は、非定常的運動状態にある、と判断することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の拍動検出装置であって、
前記脈波信号評価部による評価に基づいて、前記被検体の運動状態を判断する運動状態判断部を有することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項5】
請求項4記載の拍動検出装置であって、
前記所定時間毎の、前記被検体の運動状態を記憶する運動状態履歴格納部と、
前記運動状態履歴格納部から読み出される、前記所定時間毎の運動状態の時間的な変化に基づいて、前記被検体の運動状態の安定度を判断する安定度判断部と、
を有することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の拍動検出装置であって、
前記評価指標取得部は、前記脈波信号の周波数分解によって得られる周波数スペクトルのうちの、最大のスペクトル値を示す第1スペクトルと、前記第1スペクトル以外の、少なくとも1つの第2スペクトルとのスペクトル値の比を算出することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の拍動検出装置であって、
前記評価指標取得部は、前記脈波信号の周波数分解によって得られる周波数スペクトルに基づいて、統計情報を取得することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項8】
請求項1記載の拍動検出装置であって、
前記被検体の周期的な体動に伴う体動信号を含む体動センサー信号を出力する体動センサーを有し、
前記信号状態評価部は、
前記評価指標と、前記体動センサー信号の周波数スペクトルと、を用いて、前記脈波信号の信号状態を評価することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項9】
請求項8記載の拍動検出装置であって、
前記信号状態評価部による評価に基づいて、被検体の運動状態を判断する運動状態判断部を有し、
前記信号状態評価部は、
前記評価指標と閾値との比較によって前記脈波信号に含まれる前記非定常ノイズが所定未満である第1状態であるか、前記非定常ノイズが前記第1状態よりも多い第2状態であるか、前記非定常ノイズが前記第2状態よりも多い第3状態であるかを判断し、
さらに、前記体動センサー信号の周波数スペクトルの内の、スペクトル値の大きさの順位が所定番目までのスペクトルに、前記体動信号を示す体動呈示スペクトルが存在するか否かを判断し、
前記非定常ノイズが前記第1状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在しない状態のときに第1評価を出力し、
前記非定常ノイズが前記第1状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在する状態のときに第2評価を出力し、
前記非定常ノイズが前記第2状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在しない状態のときに第3評価を出力し、
前記非定常ノイズが前記第2状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在する状態のときに第4評価を出力し、
前記非定常ノイズが前記第3状態のときに第5評価を出力し、
前記運動状態判断部は、
前記信号状態評価部による評価が前記第1評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が無い安静状態にあると判断し、
前記信号状態評価部による評価が前記第2評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態にあると判断し、
前記信号状態評価部による評価が前記第3評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が有る安静状態にあると判断し、
前記信号状態評価部による評価が前記第4評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態にあると判断し、
前記信号状態評価部による評価が前記第5評価であるとき、前記被検体は、非定常的運動状態にあると判断する、ことを特徴とする拍動検出装置。
【請求項1】
被検体の拍動に由来する拍動信号を検出する拍動検出装置であって、
前記拍動信号、周期性を有する定常ノイズおよび周期性を有さない非定常ノイズの少なくとも一つを含む可能性がある脈波信号を出力する脈波センサーと、
前記脈波信号に基づいて、所定時間毎に周波数解析処理を実行する周波数解析部と、を含み、
前記周波数解析部は、
前記脈波信号の信号状態を評価する脈波信号評価部と、を有し、
前記脈波信号評価部は、
前記脈波信号の信号状態の評価指標を取得する評価指標取得部と、
前記評価指標を用いて、前記脈波信号の信号状態を評価する信号状態評価部と、を有することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の拍動検出装置であって、
前記信号状態評価部は、前記定常ノイズまたは前記非定常ノイズの有無、前記定常ノイズまたは前記非定常ノイズの大きさの程度、および前記定常ノイズまたは前記非定常ノイズの混入の程度の少なくとも一つに基づいて、前記脈波信号の信号状態を評価することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項3】
請求項2記載の拍動検出装置であって、
前記信号状態評価部による評価に基づいて、前記被検体の運動状態を判断する運動状態判断部を有し、
前記信号状態評価部は、前記評価指標と閾値との比較によって、前記脈波信号に含まれる前記非定常ノイズが所定未満である第1状態であるか、前記非定常ノイズが前記第1状態よりも多い第2状態であるか、前記非定常ノイズが前記第2状態よりも多い第3状態であるかを判断し、前記非定常ノイズが前記第1状態のときに第1評価を出力し、前記非定常ノイズが前記第2状態のときに第2評価を出力し、前記非定常ノイズが前記第3状態のときに第3評価を出力し、
前記運動状態判断部は、
前記信号状態評価部による評価が前記第1評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が無い安静状態にあると判断し、
前記信号状態評価部による評価が前記第2評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態、あるいは、非定常運動要素が有る安静状態にあると判断し、
前記信号状態評価部による評価が前記第3評価であるとき、前記被検体は、非定常的運動状態にある、と判断することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の拍動検出装置であって、
前記脈波信号評価部による評価に基づいて、前記被検体の運動状態を判断する運動状態判断部を有することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項5】
請求項4記載の拍動検出装置であって、
前記所定時間毎の、前記被検体の運動状態を記憶する運動状態履歴格納部と、
前記運動状態履歴格納部から読み出される、前記所定時間毎の運動状態の時間的な変化に基づいて、前記被検体の運動状態の安定度を判断する安定度判断部と、
を有することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の拍動検出装置であって、
前記評価指標取得部は、前記脈波信号の周波数分解によって得られる周波数スペクトルのうちの、最大のスペクトル値を示す第1スペクトルと、前記第1スペクトル以外の、少なくとも1つの第2スペクトルとのスペクトル値の比を算出することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の拍動検出装置であって、
前記評価指標取得部は、前記脈波信号の周波数分解によって得られる周波数スペクトルに基づいて、統計情報を取得することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項8】
請求項1記載の拍動検出装置であって、
前記被検体の周期的な体動に伴う体動信号を含む体動センサー信号を出力する体動センサーを有し、
前記信号状態評価部は、
前記評価指標と、前記体動センサー信号の周波数スペクトルと、を用いて、前記脈波信号の信号状態を評価することを特徴とする拍動検出装置。
【請求項9】
請求項8記載の拍動検出装置であって、
前記信号状態評価部による評価に基づいて、被検体の運動状態を判断する運動状態判断部を有し、
前記信号状態評価部は、
前記評価指標と閾値との比較によって前記脈波信号に含まれる前記非定常ノイズが所定未満である第1状態であるか、前記非定常ノイズが前記第1状態よりも多い第2状態であるか、前記非定常ノイズが前記第2状態よりも多い第3状態であるかを判断し、
さらに、前記体動センサー信号の周波数スペクトルの内の、スペクトル値の大きさの順位が所定番目までのスペクトルに、前記体動信号を示す体動呈示スペクトルが存在するか否かを判断し、
前記非定常ノイズが前記第1状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在しない状態のときに第1評価を出力し、
前記非定常ノイズが前記第1状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在する状態のときに第2評価を出力し、
前記非定常ノイズが前記第2状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在しない状態のときに第3評価を出力し、
前記非定常ノイズが前記第2状態であって、前記体動呈示スペクトルが存在する状態のときに第4評価を出力し、
前記非定常ノイズが前記第3状態のときに第5評価を出力し、
前記運動状態判断部は、
前記信号状態評価部による評価が前記第1評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が無い安静状態にあると判断し、
前記信号状態評価部による評価が前記第2評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が無い定常的運動状態にあると判断し、
前記信号状態評価部による評価が前記第3評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が有る安静状態にあると判断し、
前記信号状態評価部による評価が前記第4評価であるとき、前記被検体は、非定常運動要素が有る定常的運動状態にあると判断し、
前記信号状態評価部による評価が前記第5評価であるとき、前記被検体は、非定常的運動状態にあると判断する、ことを特徴とする拍動検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−170703(P2012−170703A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36802(P2011−36802)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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