説明

拡声システム

【課題】 複数のラインアレイスピーカの指向性を簡単に設定することができる拡声システムを提供する。
【解決手段】 拡声システム100は、複数のラインアレイスピーカ20と、ラインアレイスピーカ20の指向性を制御する指向性コントローラ10により構成される。指向性コントローラ10は、同一の音声入力信号に対し、遅延時間制御を行うことによってスピーカ駆動信号をそれぞれ生成する複数の遅延時間制御手段と、スピーカ駆動信号をそれぞれ増幅し、互いに異なる伝送線へ出力する複数のアンプとを備え、ラインアレイスピーカ20は、略直線状に配置された複数の内蔵スピーカ21を備え、各遅延時間制御手段において生成されたスピーカ駆動信号が、それぞれ異なる伝送線へ出力され、同一のスピーカ駆動信号が、同一の伝送線を介して、互いに異なるラインアレイスピーカ20に属する複数の内蔵スピーカ21へ入力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡声システムに係り、さらに詳しくは、複数のラインアレイスピーカの指向性を制御する拡声システムの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ラインアレイスピーカは、線状音源として音波を放出するためのスピーカ装置であり、略直線状に配置された複数のスピーカユニットにより構成される。近年、様々な音響空間に対応させたいというニーズがあり、指向特性を変化させることがラインアレイスピーカに望まれている。ラインアレイスピーカの指向特性は、例えば、ラインアレイスピーカを設置する際の取付角度を調整したり、ラインアレイスピーカ内における各スピーカユニットの向きを調整することにより行うことができる。例えば、向きを揃えて各スピーカユニットを配置することにより、配列方向への音の拡散を抑えた指向特性を得ることができる。
【0003】
しかしながら、ラインアレイスピーカの取付角度を調整するという方法では、複数のラインアレイスピーカが伝送線を介してオーディオ信号源に接続されたシステムの場合に、各ラインアレイスピーカについて、個別に取付角度を調整しなければならず、調整作業が極めて面倒であるという問題があった。また、各スピーカユニットの向きを調整するという方法では、ラインアレイスピーカごとに指向特性を変化させることができないという問題があった。
【0004】
そこで、スピーカユニットごとに遅延回路を設け、各スピーカユニットについて、音声信号の遅延時間を調整することにより、任意の指向特性を得ることができるラインアレイスピーカが提案されている(例えば、特許文献1及び2)。
【0005】
図9は、複数のラインアレイスピーカ203を含む従来の拡声システム200を示した図である。この拡声システム200は、複数のラインアレイスピーカ203が伝送線202を介してオーディオ信号源201に接続されたシステムである。オーディオ信号源201から出力された音声信号は、伝送線202を介して各ラインアレイスピーカ203へ入力される。
【0006】
ラインアレイスピーカ203は、複数の内蔵スピーカ213と、内蔵スピーカ213ごとに設けられたアンプ212と、各内蔵スピーカ213について、音声信号の遅延時間を制御するDSP(Digital Signal Processor)211により構成されるステアラブルアレイスピーカである。内蔵スピーカ213は、アンプ212により増幅された音声信号を音波に変換して放出するスピーカユニットである。DSP211は、内蔵スピーカ213ごとに設けられる複数の遅延回路214を含んでおり、伝送線202から入力される同一の音声信号が、各遅延回路214において処理される。アンプ212は、遅延回路214による遅延時間の調整後の音声信号を増幅して内蔵スピーカ213へ出力する。
【0007】
この様な拡声システム200では、ラインアレイスピーカ203ごとに、各内蔵スピーカ213について音声信号の遅延時間を設定しなければならず、その設定作業が極めて面倒であるという課題があった。また、内蔵スピーカ213ごとに設けられる遅延回路214には高価なDSPが用いられることから、ラインアレイスピーカ203の製造コストが増大してしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−87590号公報
【特許文献2】特開2007−74255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、複数のラインアレイスピーカの指向性を簡単に設定することができる拡声システムを提供することを目的とする。特に、ラインアレイスピーカ内の各内蔵スピーカについて、音声信号の遅延時間を設定する設定作業を容易化することができる拡声システムを提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、ラインアレイスピーカの構成を簡素化し、ラインアレイスピーカの数が増えた場合に、システムの製造コストが増大するのを抑制することができる拡声システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の本発明による拡声システムは、2以上のラインアレイスピーカと、これらのラインアレイスピーカが2以上の伝送線を介して接続され、上記ラインアレイスピーカの指向性を制御する指向性コントローラとを含む拡声システムであって、上記指向性コントローラが、同一の音声入力信号に対し、遅延時間制御を行うことによってスピーカ駆動信号をそれぞれ生成する2以上の遅延時間制御手段と、上記スピーカ駆動信号をそれぞれ増幅し、互いに異なる上記伝送線へ出力する2以上のアンプとを備え、上記ラインアレイスピーカが、略直線状に配置された2以上の内蔵スピーカを備え、各遅延時間制御手段において生成された上記スピーカ駆動信号が、それぞれ異なる上記伝送線へ出力され、同一の上記スピーカ駆動信号が、同一の上記伝送線を介して、互いに異なる上記ラインアレイスピーカに属する2以上の上記内蔵スピーカへ入力されるように構成される。
【0012】
この拡声システムでは、複数のラインアレイスピーカの指向性が指向性コントローラにおいて制御されるので、ラインアレイスピーカごとに各内蔵スピーカの遅延時間を設定する従来のシステムに比べて、複数のラインアレイスピーカの指向性を簡単に設定することができる。また、内蔵スピーカごとに遅延回路やアンプを備える従来のラインアレイスピーカに比べ、ラインアレイスピーカの構成を簡素化することができる。このため、ラインアレイスピーカの数が増えた場合に、システムの製造コストが増大するのを抑制することができる。
【0013】
第2の本発明による拡声システムは、上記構成に加え、2以上の上記ラインアレイスピーカが、互いに同数の上記内蔵スピーカを有し、内蔵スピーカの配置順における同一順位の内蔵スピーカが、同一の上記伝送線に接続されるように構成される。この様な構成によれば、同数の内蔵スピーカを有し、同一の指向性を有する複数のラインアレイスピーカを備えた拡声システムを安価に実現することができる。
【0014】
第3の本発明による拡声システムは、上記構成に加え、2以上の上記ラインアレイスピーカが、第1ラインアレイスピーカと、上記内蔵スピーカの数が第1ラインアレイスピーカよりも少ない第2ラインアレイスピーカとを含み、第2ラインアレイスピーカ内の上記内蔵スピーカが、上記第1ラインアレイスピーカ内において連続して配置されている同数の上記内蔵スピーカに対応づけられ、互いに対応する上記内蔵スピーカが、同一の上記伝送線に接続されるように構成される。
【0015】
この様な構成によれば、内蔵スピーカの数が異なるラインアレイスピーカが接続された拡声システムであっても、指向性を簡単に設定することができる。また、内蔵スピーカの数が異なるラインアレイスピーカ間で指向性を異ならせることもできる。例えば、第1ラインアレイスピーカの一部分を切り出した指向特性の音場を第2ラインアレイスピーカによって形成することができる。
【0016】
第4の本発明による拡声システムは、上記構成に加え、2以上の上記ラインアレイスピーカが、第1ラインアレイスピーカと、上記内蔵スピーカの数が第1ラインアレイスピーカよりも少ない第2ラインアレイスピーカとを含み、第2ラインアレイスピーカ内の上記内蔵スピーカが、上記第1ラインアレイスピーカ内において間欠的に配置されている同数の上記内蔵スピーカに対応づけられ、互いに対応する上記内蔵スピーカが、同一の上記伝送線に接続されるように構成される。
【0017】
この様な構成によれば、内蔵スピーカの数が異なるラインアレイスピーカが接続された拡声システムであっても、指向性を簡単に設定することができる。また、内蔵スピーカの数が異なるラインアレイスピーカ間で指向性を異ならせることもできる。例えば、第1ラインアレイスピーカの一部分を縮小した指向特性の音場を第2ラインアレイスピーカによって形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明による拡声システムでは、複数のラインアレイスピーカの指向性を簡単に設定することができる。
【0019】
また、本発明による拡声システムでは、内蔵スピーカごとに遅延回路やアンプを備える従来のラインアレイスピーカに比べ、ラインアレイスピーカの構成を簡素化することができる。従って、ラインアレイスピーカの数が増えた場合に、システムの製造コストが増大するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1による拡声システム100の概略構成の一例を示したシステム図である。
【図2】図1のラインアレイスピーカ20の動作の一例を示した断面図であり、再生音の指向方向3及び広がり具合をコントロールする様子が示されている。
【図3】図1の指向性コントローラ10の一構成例を示した図である。
【図4】図1のラインアレイスピーカ20の一構成例を示した図である。
【図5】互いに同数の内蔵スピーカ21を有する複数のラインアレイスピーカ20が指向性コントローラ10に接続される場合の一例を示した図である。
【図6】本発明の実施の形態2による拡声システム100の構成例を示した図であり、スピーカ数が異なるラインアレイスピーカ20が接続される場合が示されている。
【図7】内蔵スピーカ21の数が異なる複数のラインアレイスピーカ20が指向性コントローラ10に接続される場合の他の一例を示した図である。
【図8】本発明の実施の形態3による拡声システム100の構成例を示した図である。
【図9】複数のラインアレイスピーカ203を含む従来の拡声システム200を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施の形態1.
<拡声システム100>
図1は、本発明の実施の形態1による拡声システム100の概略構成の一例を示したシステム図である。この拡声システム100は、複数のラインアレイスピーカ20と、ラインアレイスピーカ20の指向性を制御する指向性コントローラ10と、ハイインピーダンス伝送路2からなる。ハイインピーダンス伝送路2は、複数のハイインピーダンス伝送線2aと、共通電位線2bとからなり、各ラインアレイスピーカ20が並列接続されている。
【0022】
この拡声システム100は、ハイインピーダンス伝送線2aごとに音声信号の遅延時間を調整することにより、ラインアレイスピーカ20の指向性を変化させるシステムである。
【0023】
指向性コントローラ10は、マイクロホンなどのオーディオ信号源1から入力される音声入力信号の遅延時間制御を行う遅延時間制御装置であり、各ラインアレイスピーカ20がハイインピーダンス伝送路2を介して接続されている。音声入力信号の遅延時間制御は、ハイインピーダンス伝送線2aごとの遅延時間を調整することにより行われ、遅延時間の異なる複数のスピーカ駆動信号が生成される。各スピーカ駆動信号は、互いに異なるハイインピーダンス伝送線2aを介して伝送される。
【0024】
ハイインピーダンス伝送路2は、指向性コントローラ10と各ラインアレイスピーカ20とをハイインピーダンス接続する伝送路であり、信号を高電圧化して伝送するので、ローインピーダンス接続する伝送路に比べて、スピーカ駆動信号を伝送する際の電力損失が少なく、配線長を長くすることができる。
【0025】
ラインアレイスピーカ20は、複数の内蔵スピーカ21を備え、これらの内蔵スピーカ21が略直線状に配置されたスピーカアレイユニットであり、各内蔵スピーカ21から出力させる音声信号(スピーカ駆動信号)の遅延時間制御により、所望の指向性を得ることができる。この例では、各内蔵スピーカ21が、筐体22の細長い矩形からなる前面に配設されている。
【0026】
この様なラインアレイスピーカ20は、例えば、内蔵スピーカ21の配列方向が鉛直となるように立てた状態で、床や壁面などに設置される。この場合、各内蔵スピーカ21は、水平方向においても同じ方向を向くことになり、スピーカ駆動信号の遅延時間制御により、再生音の指向方向や広がり具合を鉛直方向に関してコントロールすることができる。なお、ラインアレイスピーカ20を天井などに設置する場合には、内蔵スピーカ21の配列方向が水平となるように倒した状態で設置される。この場合、各内蔵スピーカ21は、鉛直方向において同じ方向を向くことになる。
【0027】
ここでは、個別に遅延時間制御を行うことができる音声系統をチャンネルと呼ぶことにする。指向性コントローラ10では、複数チャンネルのスピーカ駆動信号が生成され、互いに異なるハイインピーダンス伝送線2aを介してラインアレイスピーカ20に入力される。各ラインアレイスピーカ20には、複数チャンネルのスピーカ駆動信号が入力される。この様な構成により、ラインアレイスピーカ20の指向性を指向性コントローラ10において制御することができる。
【0028】
また、互いに異なるラインアレイスピーカ20に属する複数の内蔵スピーカ21には、同一のスピーカ駆動信号が同一のハイインピーダンス伝送線2aを介して入力される。この様な内蔵スピーカ21が存在することにより、これらの内蔵スピーカ21について、音声信号の遅延時間を個別に設定しなくても良いので、複数のラインアレイスピーカ20の指向性を簡単に設定することができる。
【0029】
図2は、図1のラインアレイスピーカ20の動作の一例を示した断面図であり、ラインアレイスピーカ20を内蔵スピーカ21の向きに平行な鉛直面で切断した場合の切断面が示されている。この図では、筐体22の前面に8個の内蔵スピーカ21が一定の間隔で配設されたラインアレイスピーカ20が示されている。一般に、隣接する内蔵スピーカ21間の遅延時間差によって再生音の指向性が制御され、内蔵スピーカ21の配列方向を含む平面内の音圧分布をコントロールすることができる。
【0030】
図中の(a)には、再生音の指向方向3をコントロールする様子が示されている。ここでは、ラインアレイスピーカ20内における内蔵スピーカ21の配置順の序列を上から順に、第1位、第2位、…、第8位と呼び、第k位(k=1〜8)の内蔵スピーカ21を第kスピーカと呼ぶことにする。
【0031】
第1スピーカから第8スピーカまでの内蔵スピーカ21について、この順序でスピーカ駆動信号の遅延量を一定時間ずつ長くすれば、再生音が拡散せずに伝搬する鋭い指向性が得られ、再生音の指向方向3を下方に向けることができる。一方、第1スピーカから第8スピーカまでの内蔵スピーカ21について、この順序でスピーカ駆動信号の遅延量を一定時間ずつ短くすれば、再生音の指向方向3を上方に向けることができる。
【0032】
図中の(b)には、再生音が伝搬する領域を狭めたり、或いは、広げる様子が示されている。第1スピーカから第8スピーカまでの内蔵スピーカ21に対し、遅延量を一致させたスピーカ駆動信号を入力することにより、再生音が上下方向に拡散せずに伝搬し、伝搬領域を狭めることができる。このため、鋭い指向性が得られ、再生音の指向方向3を前方に集中させることができる。
【0033】
これに対し、第1スピーカを含む上位スピーカに対し、中位スピーカよりも遅延量を徐々に長くしたスピーカ駆動信号を入力し、また、第8スピーカを含む下位スピーカに対し、中位スピーカよりも遅延量を徐々に短くしたスピーカ駆動信号を入力することにより、再生音が上下方向に拡散して伝搬し、伝搬領域を広げることができる。この様に、隣接する内蔵スピーカ21間における再生音の遅延時間差を調整することにより、再生音の指向性をコントロールすることができる。
【0034】
<指向性コントローラ10>
図3は、図1の指向性コントローラ10の一構成例を示した図である。この指向性コントローラ10は、1つのDSP11と、N個(Nは2以上の整数)のパワーアンプ12と、N個のマッチングトランス13と、出力端子14により構成され、Nチャンネルのスピーカ駆動信号を生成する。
【0035】
指向性コントローラ10には、チャンネルごとに設けられた複数のハイインピーダンス伝送線2aと、共通電位線2bとからなるハイインピーダンス伝送路2が接続されている。DSP11は、チャンネルごとに音声入力信号の遅延時間を調整するためのN個の遅延時間調整回路111を含む遅延時間制御回路であり、設定パラメータを書き換えることにより、チャンネルごとの遅延時間を調整することができる。遅延時間調整回路111は、音声入力信号の遅延時間を調整し、スピーカ駆動信号を生成するディレイ回路であり、チャンネルごとに設けられている。
【0036】
パワーアンプ12は、DSP11から入力されるスピーカ駆動信号を増幅し、マッチングトランス13へ出力するための増幅器であり、チャンネルごとに設けられている。マッチングトランス13は、パワーアンプ12による増幅後のスピーカ駆動信号をインピーダンス変換し、出力端子14へ出力する変圧器であり、1次側と2次側とは絶縁されている。
【0037】
マッチングトランス13の1次側は、パワーアンプ12に接続され、1次側巻線の一端は接地されている。一方、マッチングトランス13の2次側巻線の一端は、共通電位線2bに接続され、他端は、出力端子14に接続されている。出力端子14は、ハイインピーダンス伝送線用の複数の出力端子と、共通電位線用の出力端子とからなる。ハイインピーダンス伝送線用の出力端子は、チャンネルごとに設けられている。
【0038】
この指向性コントローラ10では、同一の音声入力信号から第1〜第Nチャンネルのスピーカ駆動信号が生成され、チャンネルごとに増幅してインピーダンス変換した後、出力端子14を介してそれぞれハイインピーダンス伝送線2aへ出力される。共通電位線2bは、各スピーカ駆動信号の基準電位を伝送するための伝送線である。
【0039】
また、各遅延時間調整回路111において生成されたスピーカ駆動信号は、それぞれ異なるハイインピーダンス伝送線2aへ出力される。さらに、同一のスピーカ駆動信号は、同一のハイインピーダンス伝送線2aを介して、互いに異なるラインアレイスピーカ20に属する複数の内蔵スピーカ21へ入力される。
【0040】
<ラインアレイスピーカ20>
図4は、図1のラインアレイスピーカ20の一構成例を示した図である。このラインアレイスピーカ20は、N個の内蔵スピーカ21と、N個のマッチングトランス23と、入力端子24により構成され、Nチャンネルのスピーカ駆動信号を再生する。
【0041】
入力端子24は、ハイインピーダンス伝送線用の複数の入力端子と、共通電位線用の入力端子とからなる。ハイインピーダンス伝送線用の入力端子は、チャンネルごとに設けられている。ラインアレイスピーカ20では、複数のハイインピーダンス伝送線2aと、共通電位線2bとがそれぞれ入力端子24に接続されている。
【0042】
マッチングトランス23は、入力端子24を介してハイインピーダンス伝送線2aから入力されるスピーカ駆動信号をインピーダンス変換し、内蔵スピーカ21へ出力するトランスであり、チャンネルごとに設けられている。また、ラインアレイスピーカ20内の各マッチングトランス23は、インピーダンス変換したスピーカ駆動信号を互いに異なる内蔵スピーカ21へ出力する。
【0043】
マッチングトランス23の1次側は、ハイインピーダンス伝送路2に接続され、1次側巻線の一端は共通電位線2bに接続され、他端はハイインピーダンス伝送線2aに接続されている。一方、マッチングトランス23の2次側は、内蔵スピーカ21に接続されている。各マッチングトランス23は、巻線の巻き数比が固定である。
【0044】
内蔵スピーカ21は、マッチングトランス23から入力されるスピーカ駆動信号を音波として出力するスピーカユニットであり、チャンネルごとに設けられている。この内蔵スピーカ21は、例えば、振動板と、スピーカ駆動信号に基づいて振動板を振動させるボイスコイルにより構成される。
【0045】
このラインアレイスピーカ20では、入力端子24、マッチングトランス23及び内蔵スピーカ21がチャンネルごとに設けられ、入力端子24を介して入力されたスピーカ駆動信号は、マッチングトランス23を介して内蔵スピーカ21へ供給される。
【0046】
<ラインアレイスピーカ20の接続態様>
図5は、互いに同数の内蔵スピーカ21を有する複数のラインアレイスピーカ20が指向性コントローラ10に接続される場合の一例を示した図である。この図には、それぞれ8個の内蔵スピーカ21を備えた3台のラインアレイスピーカ20aと、ハイインピーダンス伝送線2aとの接続態様の一例が示されている。なお、図5〜図8では、指向性コントローラ10及び共通電位線2bが省略されている。
【0047】
8本のハイインピーダンス伝送線2aを用いて第1〜第8チャンネルのスピーカ駆動信号を伝送する場合、ラインアレイスピーカ20a内の8個の内蔵スピーカ21について、スピーカ駆動信号の遅延時間を個別に制御することができる。
【0048】
各ラインアレイスピーカ20aは、第1スピーカから第8スピーカまでの内蔵スピーカ21がそれぞれ第1チャンネルから第8チャンネルのハイインピーダンス伝送線2aに接続されている。つまり、ラインアレイスピーカ20a内の全ての内蔵スピーカ21について、同一のスピーカ駆動信号は、同一のハイインピーダンス伝送線2aを介して、互いに異なるラインアレイスピーカ20aに属する3つの内蔵スピーカ21へ入力される。
【0049】
また、各ラインアレイスピーカ20a内の内蔵スピーカ21について、内蔵スピーカ21の配置順の序列における同一順位の内蔵スピーカ21は、同一のハイインピーダンス伝送線2aに接続されている。すなわち、各ラインアレイスピーカ20aの第kスピーカは、第kチャンネルのハイインピーダンス伝送線2aを介して互いに接続されている。この様な接続態様では、同数の内蔵スピーカ21を有し、かつ、同一の指向性を有する複数のラインアレイスピーカ20aを備えた拡声システム100を安価に実現することができる。
【0050】
本実施の形態によれば、複数のラインアレイスピーカ20の指向性が1つの指向性コントローラ10において制御されるので、ラインアレイスピーカごとに各内蔵スピーカの遅延時間を設定する従来のシステムに比べて、指向特性の設定作業を簡易化することができる。特に、互いに異なるラインアレイスピーカ20に属する複数の内蔵スピーカ21には、同一のスピーカ駆動信号が同一のハイインピーダンス伝送線2aを介して入力されるので、これらの内蔵スピーカ21について、音声信号の遅延時間を個別に設定しなくても良い。
【0051】
また、内蔵スピーカ21ごとに遅延回路やアンプを備える従来のステアラブルアレイスピーカに比べ、ラインアレイスピーカ20の構成を簡素にすることができる。このため、ラインアレイスピーカ20の数が増えた場合に、拡声システム100の製造コストが増大するのを抑制することができる。さらに、各遅延時間調整回路111において生成されたスピーカ駆動信号をそれぞれ異なるハイインピーダンス伝送線2aへ出力させることにより、それぞれ遅延時間が異なるスピーカ駆動信号を各内蔵スピーカ21に入力させることができる。
【0052】
実施の形態2.
実施の形態1では、互いに同数の内蔵スピーカ21を有する複数のラインアレイスピーカ20が指向性コントローラ10に接続される場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、内蔵スピーカ21の数が異なる複数のラインアレイスピーカ20が指向性コントローラ10に接続される場合について説明する。
【0053】
図6は、本発明の実施の形態2による拡声システム100の構成例を示した図であり、内蔵スピーカ21の数が異なる複数のラインアレイスピーカ20が指向性コントローラ10に接続される場合の一例が示されている。この図には、8個の内蔵スピーカ21を備えたラインアレイスピーカ20aと、6個の内蔵スピーカ21を備えたラインアレイスピーカ20bと、4個の内蔵スピーカ21を備えたラインアレイスピーカ20cと、ハイインピーダンス伝送線2aとの接続態様の一例が示されている。
【0054】
ラインアレイスピーカ20b,20c内の内蔵スピーカ21は、ラインアレイスピーカ20a内において連続して配置されている同数の内蔵スピーカ21に対応づけられ、互いに対応する内蔵スピーカ21が、同一のハイインピーダンス伝送線2aに接続されている。すなわち、ラインアレイスピーカ20b内の内蔵スピーカ21は、ラインアレイスピーカ20a内の第1スピーカを含む上位スピーカに対応づけられている。具体的には、ラインアレイスピーカ20b内の第1〜第6スピーカが、ラインアレイスピーカ20a内の第1〜第6スピーカにそれぞれ対応づけられ、第1〜第6チャンネルのハイインピーダンス伝送線2aを介してそれぞれ接続されている。
【0055】
また、ラインアレイスピーカ20c内の内蔵スピーカ21は、ラインアレイスピーカ20a内の第8スピーカを含む下位スピーカに対応づけられている。具体的には、ラインアレイスピーカ20c内の第1〜第4スピーカが、ラインアレイスピーカ20a内の第5〜第8スピーカにそれぞれ対応づけられ、第5〜第8チャンネルのハイインピーダンス伝送線2aを介してそれぞれ接続されている。この様な接続態様では、ラインアレイスピーカ20aの一部分を切り出した指向特性の音場をラインアレイスピーカ20b,20cによって形成することができる。
【0056】
図7は、内蔵スピーカ21の数が異なる複数のラインアレイスピーカ20が指向性コントローラ10に接続される場合の他の一例を示した図である。この図には、12個の内蔵スピーカ21を備えた1台のラインアレイスピーカ20dと、6個の内蔵スピーカ21を備えた2台のラインアレイスピーカ20bと、ハイインピーダンス伝送線2aとの接続態様の一例が示されている。
【0057】
12本のハイインピーダンス伝送線2aを用いて第1〜第12チャンネルのスピーカ駆動信号を伝送する場合、ラインアレイスピーカ20d内の12個の内蔵スピーカ21について、スピーカ駆動信号の遅延時間を個別に制御することができる。ラインアレイスピーカ20dは、第1スピーカから第12スピーカまでの内蔵スピーカ21がそれぞれ第1チャンネルから第12チャンネルのハイインピーダンス伝送線2aに接続されている。
【0058】
ラインアレイスピーカ20b内の内蔵スピーカ21は、ラインアレイスピーカ20d内において間欠的に配置されている同数又はそれ以下の内蔵スピーカ21に対応づけられ、互いに対応する内蔵スピーカ21が、同一のハイインピーダンス伝送線2aに接続されている。すなわち、一方のラインアレイスピーカ20bでは、第1〜第6スピーカが、ラインアレイスピーカ20d内の第1、第3、第5、第7、第9及び第12スピーカにそれぞれ対応づけられ、第1、第3、…、第9及び第12チャンネルのハイインピーダンス伝送線2aを介してそれぞれ接続されている。この様な接続態様では、ラインアレイスピーカ20dの一部分を縮小した指向特性の音場をラインアレイスピーカ20bによって形成することができる。すなわち、ラインアレイスピーカ20bには、ラインアレイスピーカ20dに比べてより大きな下振り角度の指向性を与えることができる。
【0059】
また、他方のラインアレイスピーカ20bでは、第1〜第3スピーカが、いずれもラインアレイスピーカ20d内の第1スピーカに対応づけられ、第1チャンネルのハイインピーダンス伝送線2aを介して接続されているとともに、第4〜第6スピーカが、ラインアレイスピーカ20d内の第4、第7及び第10スピーカにそれぞれ対応づけられ、第4、第7及び第10チャンネルのハイインピーダンス伝送線2aを介してそれぞれ接続されている。この様な接続態様では、第1〜第3スピーカに前方水平に指向性を持たせつつ、第4〜第6スピーカに下振り角度の大きな指向性を持たせることができる。
【0060】
実施の形態3.
実施の形態1及び2では、チャンネルごとのハイインピーダンス伝送線2aがいずれかのラインアレイスピーカ20に接続される場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、チャンネル数よりも少ない数の内蔵スピーカ21を有する複数のラインアレイスピーカ20が指向性コントローラ10に接続される場合について説明する。
【0061】
図8は、本発明の実施の形態3による拡声システム100の構成例を示した図であり、チャンネル数よりも少ない数の内蔵スピーカ21を有する複数のラインアレイスピーカ20が指向性コントローラ10に接続される場合の一例が示されている。この図には、2台のラインアレイスピーカ20cとハイインピーダンス伝送線2aとの接続態様の一例が示されている。
【0062】
一方のラインアレイスピーカ20c内の内蔵スピーカ21は、ラインアレイスピーカ20a内の中位スピーカに対応づけられている。具体的には、ラインアレイスピーカ20c内の第1〜第4スピーカは、ラインアレイスピーカ20a内の第3〜第6スピーカにそれぞれ対応づけられ、第3〜第6チャンネルのハイインピーダンス伝送線2aを介してそれぞれ接続されている。
【0063】
他方のラインアレイスピーカ20c内の内蔵スピーカ21は、ラインアレイスピーカ20a内において間欠的に配置されている同数の内蔵スピーカ21に対応づけられている。具体的には、ラインアレイスピーカ20c内の第1〜第4スピーカは、ラインアレイスピーカ20a内の第1、第3、第5及び第7スピーカにそれぞれ対応づけられ、第1、第3、第5及び第7チャンネルのハイインピーダンス伝送線2aを介してそれぞれ接続されている。
【0064】
この様な接続態様では、ラインアレイスピーカ20aの一部分を切り出した指向特性の音場と、ラインアレイスピーカ20aの一部分を縮小した指向特性の音場とを各ラインアレイスピーカ20cによって同時に形成することができる。
【0065】
なお、実施の形態1〜3では、ラインアレイスピーカ20内のマッチングトランス23として、巻線の巻き数比が固定のトランスが用いられる場合の例について説明したが、本発明はマッチングトランス23の構成をこれに限定するものではない。例えば、巻き数比が可変のタップ付変圧器をマッチングトランス23として用いるような構成であっても良い。この様なマッチングトランス23を用いれば、同一のハイインピーダンス伝送線2aに接続され、かつ、互いに異なるラインアレイスピーカ20に属する複数の内蔵スピーカ21について、タップの切り替えにより、内蔵スピーカ21ごとの音量を容易に調整することができる。
【0066】
また、実施の形態1では、チャンネルごとにパワーアンプ12が設けられる場合の例について説明したが、本発明は伝送前のスピーカ駆動信号を増幅する増幅器の構成をこれに限定するものではない。例えば、チャンネル間でパワーアンプ12に接続される内蔵スピーカ21の数が異なるようなケースでは、パワーアンプ12の容量を越えるチャンネルが生じることが考えられる。この様な場合には、当該チャンネルに対し、パワーアンプ12を増設しても良い。
【0067】
また、実施の形態1〜3では、指向性コントローラ10と各ラインアレイスピーカ20とがハイインピーダンス伝送路2を介して接続される場合の例について説明したが、本発明は、伝送路の構成をこれに限定するものではない。複数のスピーカが同一の伝送路に並列に接続できる環境であればよく、いわゆるローインピーダンス伝送路を介して接続されるものも本発明には含まれうる。
【符号の説明】
【0068】
100 拡声システム
1 オーディオ信号源
2 ハイインピーダンス伝送路
2a ハイインピーダンス伝送線
2b 共通電位線
10 指向性コントローラ
11 DSP
111 遅延時間調整回路
12 パワーアンプ
13 マッチングトランス
14 出力端子
20 ラインアレイスピーカ
21 内蔵スピーカ
22 筐体
23 マッチングトランス
24 入力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上のラインアレイスピーカと、これらのラインアレイスピーカが2以上の伝送線を介して接続され、上記ラインアレイスピーカの指向性を制御する指向性コントローラとを含む拡声システムであって、
上記指向性コントローラは、同一の音声入力信号に対し、遅延時間制御を行うことによってスピーカ駆動信号をそれぞれ生成する2以上の遅延時間制御手段と、上記スピーカ駆動信号をそれぞれ増幅し、互いに異なる上記伝送線へ出力する2以上のアンプとを備え、
上記ラインアレイスピーカは、略直線状に配置された2以上の内蔵スピーカを備え、
各遅延時間制御手段において生成された上記スピーカ駆動信号が、それぞれ異なる上記伝送線へ出力され、
同一の上記スピーカ駆動信号が、同一の上記伝送線を介して、互いに異なる上記ラインアレイスピーカに属する2以上の上記内蔵スピーカへ入力されることを特徴とする拡声システム。
【請求項2】
2以上の上記ラインアレイスピーカは、互いに同数の上記内蔵スピーカを有し、内蔵スピーカの配置順における同一順位の内蔵スピーカが、同一の上記伝送線に接続されることを特徴とする請求項1に記載の拡声システム。
【請求項3】
2以上の上記ラインアレイスピーカは、第1ラインアレイスピーカと、上記内蔵スピーカの数が第1ラインアレイスピーカよりも少ない第2ラインアレイスピーカとを含み、
第2ラインアレイスピーカ内の上記内蔵スピーカは、上記第1ラインアレイスピーカ内において連続して配置されている同数の上記内蔵スピーカに対応づけられ、互いに対応する上記内蔵スピーカが、同一の上記伝送線に接続されることを特徴とする請求項1に記載の拡声システム。
【請求項4】
2以上の上記ラインアレイスピーカは、第1ラインアレイスピーカと、上記内蔵スピーカの数が第1ラインアレイスピーカよりも少ない第2ラインアレイスピーカとを含み、
第2ラインアレイスピーカ内の上記内蔵スピーカは、上記第1ラインアレイスピーカ内において間欠的に配置されている同数の上記内蔵スピーカに対応づけられ、互いに対応する上記内蔵スピーカが、同一の上記伝送線に接続されることを特徴とする請求項1に記載の拡声システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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