説明

持続性エネルギー飲料

飲料に湿熱処理デンプンを補充することによって、飲料の消化速度を低減させて、飲料が摂取個体にエネルギーを供給する時間を増加させる方法、が開示される。Ready−to−Drinkの持続性エネルギー飲料、及び還元可能な持続性エネルギー飲料も包含される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、持続性エネルギー飲料、好ましくは麦芽飲料を調製するための、湿熱処理デンプンの使用に関する。
【0002】
デンプンはグルコースのポリマーである。デンプンの最も単純なタイプはアミロースであり、これは、1つのグルコース単位の1番目の炭素原子と、次のグルコース単位の4番目の炭素原子と、の間にグリコシド結合を有する直鎖のグルコース分子からなる。アミロペクチンと呼ばれる他のタイプのデンプンは分枝構造を有する。デンプンは植物の貯蔵炭水化物であるが、デンプン中のアミロース及びアミロペクチンの相対量は、デンプン分子自体のサイズと同様、その起源によって異なる。デンプンを摂取すると、デンプンを加水分解するアミラーゼと呼ばれる一群の酵素の作用によって消化される。非加熱デンプンはアミラーゼ酵素の作用に抵抗性を示すが、加熱過程でデンプン粒が膨張し、その結果、アミラーゼが作用可能なゲルになる。しかし、加熱デンプンが冷めると、一部は結晶化されて、アミラーゼの作用に再び抵抗性を示す形態になる。
【0003】
最近の研究において、血漿グルコース及びインスリンの反応が、摂取されるデンプン含有食物のタイプ及び物理的形状によって異なることが示されている。この結果は、これらの異なるタイプ及び形状のデンプン含有食物の消化速度の差異に関連していると考えられる。従って、様々なタイプのデンプンを含有する食物の使用は、食後の血糖値上昇の調節による糖尿病及び肥満の管理における関心事といえるであろう。更に、かかる食物は満腹感の管理に関心のある健康な人への適用が可能であり、持続性のエネルギー源を必要とするスポーツマン等の個人にとっても興味深いであろう。このことは、特に、外出先に「携帯して」簡単に摂取可能な食物に関して当てはまる。
【0004】
従来の方法で加熱されたデンプンに比べてゆっくりと消化される変性デンプンを製造する目的で、デンプンの構造と消化性との間の関係を活用することが既に提案されている。かかる変性デンプンは、遅消化性デンプン(slowly digestible starch)又はSDSとして知られている。例えば、米国特許出願2003/0161861には、SDS含有量が、全デンプン含有量に対して約12重量%より高い、好ましくは約20重量%より高い、ビスケット、クラッカー等の固形の穀物製品が記載されている。しかし、これらの穀物製品は特別に調製したSDSが補充されているわけではなく、上記特許出願は、所望量のSDSを最初から含有する食品の使用に関する。EP1362517には、低アミロースデンプンを酵素的に脱分枝することによって製造されるSDSが記載されている。このSDSは飲料での使用に適していると記述されているが、残念なことに、Ready−to−Drink(そのまま飲めるタイプ)の飲料の製造及び飲料粉末の製造において従来使用されていた熱処理に対して耐久性がないことが判明している。
【0005】
EP388319及び465363には、デンプン様物質と脂肪酸化合物とを反応させて、酵素作用を阻害することによって製造されるSDSが記載されている。このように製造されたSDSは、麺類、パン、ケーキ等の食品を製造するために使用される。
【0006】
国際公開第03/105605号パンフレットは、SDSであるプルランの使用に関する。この文献によると、プルランは、水溶性かつ粘性の多糖であり、末端グルコース分子のα−1,6結合によって繰り返し重合している、α−1,4結合した3つのグルコース分子の単位からなる。プルランは、黒酵母の一種であるアウレオバシジウム・プルランスによって細胞外で産生される。コーンスターチ等の代表的な食品用デンプンは、アミロペクチン(これもα−1,4結合及びα−1,6結合の両方を有する。)をある割合で含有する。しかし、プルランにおいて、α−1,6結合は個々の短鎖を高度に架橋する役割を果たしている。これは、容易に消化されず、難消化性多糖としてのプルランの評判に寄与している特定の構造をもたらしている。
【0007】
しかし、本願出願人の知る限り、幅広く入手可能な食品用グレードの原料に基づくいかなるSDSも、飲料品に使用するために、そのタイプの製品の特定の要求を考慮して特別に設計されているわけではない。従って、新たなタイプのSDS、特に熱処理に対して安定なものが必要とされている。
【0008】
米国特許第5989350号には、増粘剤又はゲル化剤としての使用に適した、高度な粘性安定性を有する湿熱処理デンプンが記載されている。この目的の湿熱処理デンプンとして知られているものは他にもある。
【0009】
驚くべきことに、湿熱処理デンプンを加工食品中の増粘剤としての使用に適したものとしている特性に加えて、湿熱処理デンプンが、未処理の加熱デンプンに比べて低減された消化速度を有し、それ故、SDSが必要とされる用途での使用に適していることが見出された。しかし、湿熱処理デンプンは、酵素加水分解により製造されるものを始めとする他のタイプのSDSと比較すると、食品工業で通常使用される類の更なる熱処理(低温殺菌処理、滅菌処理、UHT処理等)に対して安定であるという、更なる予想外の利点を有する。
【0010】
すなわち、本発明は、飲料に湿熱処理デンプンを補充することによって、飲料の消化速度を低減させて、飲料が摂取個体にエネルギーを供給する時間を増加させる方法を提供する。
【0011】
本発明はまた、飲料の消化速度を低減させて、飲料が摂取個体にエネルギーを供給する時間を増加させるための、湿熱処理デンプンの使用にも及ぶ。
【0012】
本発明は更に、湿熱処理デンプンが補充された持続性エネルギー飲料であって、当該飲料が、遅消化性デンプンを、未補充の同種の飲料中に従来含有されていた量の1.5〜15倍多く含有するように、湿熱処理デンプンが補充されている飲料にも及ぶ。
【0013】
本明細書において、「遅消化性デンプン」すなわち「SDS」という用語は、Englyst他の手法(European Journal of Clinical Nutrition,46:S33〜S50(1992))に従った場合に、摂取から20分〜4時間後に消化されるデンプン、を意味する。
【0014】
「持続性エネルギー飲料」という用語は、等カロリーの従来の同タイプの飲料に比べて、消化に長時間を要する飲料を意味する。例えば、本発明の湿熱処理デンプンを含有する持続性エネルギー飲料は、同量の従来の同タイプの飲料に比べて、少なくとも約10パーセント、好ましくは少なくとも約25パーセント、より好ましくは少なくとも約50パーセント長い時間、エネルギーを供給するであろう。
【0015】
本発明の飲料としては、果肉を随意的に含有する果汁飲料;例えばヨーグルトをベースとする乳飲料;豆乳飲料;麦芽飲料;チョコレート飲料;又はこれらの組合せが挙げられる。
【0016】
本発明の飲料は、等カロリーの従来の飲料に比べると、持続性エネルギーを供給することができるが、同時にまた、本発明の飲料が、カロリー量がより高い従来の飲料と同様の期間、満腹感をもたらすであろうことは理解されるであろう。従って、本発明の飲料を使用すれば、毎日のカロリー摂取量を減少させる方法を提供することができる。
【0017】
本発明が、Ready−to−Drink(そのまま飲めるタイプ)の飲料に関するだけでなく、水、牛乳又は他の液体の添加によって還元(reconstitute)されて、遅消化性デンプンを、未補充の同種の飲料中に従来含有されていた量の1.5〜15倍多く含有する持続性エネルギー飲料を作り出すことができる飲料粉末、にも関するものであることは理解されるであろう。固形分(すなわち、飲料粉末中の不溶性成分)が飲料中に分散された状態を維持するのに必要な液体の量は、湿熱処理デンプン成分及び飲料成分の性質によって異なるが、当業者であれば、それを理解し、容易に決定するであろう。液体の量は、典型的には、少なくとも約40〜約95重量パーセント、好ましくは約50〜約90重量パーセントである。典型的には、20〜24グラムの飲料粉末を、200mlの水、クリーマ、牛乳、ヨーグルト、果汁等と混合する。
【0018】
本発明の還元可能な飲料は、スポーツ選手、及び登山、スキー、釣り、ゴルフ等のスポーツを余暇に楽しむ人々が、より手軽に持ち運ぶことができ、また、通常の食事場所から遠く離れた場所で液体を加えて(例えば、湖、川、又は水飲み場等の他の飲用水源からの水を加えて)、山、スキー場、釣り船又はゴルフ場で飲料を還元することができる、という更なる利点を有する。
【0019】
還元可能な飲料として液体濃縮物を使用することも可能であり、このことによって、還元の際に加えられる水又は他の液体飲料成分をより少なくすることが可能となり、また、飲料を形成する液体中における固形分の適切な分散が容易になる。還元可能な飲料として液体濃縮物が使用される場合、含水量は通常、本発明のReady−to−Drinkの飲料中の含水量の約50%未満である。
【0020】
本発明の持続性エネルギー飲料は、5〜20%(乾燥重量ベース)の湿熱処理デンプンを含有することができる。湿熱処理デンプンが、当該タイプの飲料に従来含有されていた炭水化物の一部に取って代わることができることは理解されるであろう。例えば、商標MILO(登録商標)の下に販売されている麦芽飲料のような飲料粉末において、通常使用されている炭水化物の一部を湿熱処理デンプンに置き換えることができる。或いは、湿熱処理デンプンは、単に飲料に添加するだけでもよい。例えば、オレンジ果汁は元々SDSの含有量が低く、持続性エネルギーオレンジ果汁飲料は、単にオレンジ果汁に適当な量の湿熱処理デンプンを添加することによって提供される。
【0021】
従って、本発明の持続性エネルギー飲料は、適当な量の湿熱処理デンプンを飲料粉末に添加し、次いで通常の方法で飲料を還元することによって、或いは、湿熱処理デンプンを飲料そのものに添加することによって調製することができる。いずれの場合も、湿熱処理デンプンは、単なる追加物であっても、また、当該タイプの従来の飲料を製造するのに使用されるデンプンの一部の代わりに使用してもよい。
【0022】
本発明において使用するのに好ましいデンプンとしては、ジャガイモ、タピオカ、トウモロコシ(コーン)、米、モロコシ、モチトウモロコシ、もち米、又はこれらの任意の組合せが挙げられる。デンプン中のアミロース含有量は約70重量%以下、好ましくは0.1〜30重量%である。
【0023】
デンプンの湿熱処理は、選択されたデンプンを、15〜35重量%、好ましくは20〜35重量%の含水量の混合物を得るのに十分な水と混合することによって行うのが好ましい。理論によって限定されるものではないが、含水量を制限することにより、デンプンの構造を崩壊させる態様でデンプン粒を破壊し、又は回復不能な程度に変化させることなく、デンプン粒を処理することが容易になると考えられる。また、それにより、デンプンはその基本的な構造を保持しつつ、より結晶性の高いものになり、それ故、消化がより難しいものになると考えられる。デンプン及び水は、典型的には、95〜130℃、好ましくは100〜110℃の温度で、約10〜90分間、好ましくは約20〜60分間処理する。湿熱処理は、混合物を攪拌可能な装置、例えば、VOMM Turbo−reactor(イタリア、ミラノのVOMM Impianti e Processiから市販されている。)で行われるのが好ましい。湿熱処理の適切な方法に関するより詳細なガイダンスは、産物の湿熱処理デンプンと共に、米国特許第5989350号(明示的に参照されることにより本明細書に組み込まれる。)に記載されている。
【実施例】
【0024】
以下の実施例は、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明に関する代表的な可能性を単に例証することを意図するものである。図面を参照する。
図1は、種々の異なるデンプンの消化性プロフィールを示すグラフである。
図2は、図1に示される各被験デンプン中のSDSの割合を示す図である。
【0025】
〔実施例1〕
湿熱処理(「HMT」)デンプンを、米国特許第5989350号に開示されている一般的な方式に従って調製した。天然のジャガイモデンプンを十分な水と混合して、含水量32%の混合物を得た。0.35重量%の乳化剤を添加し、当該混合物を400rpmの回転下、105℃に加熱した。このHMTデンプン、市販のマルトデキストリン(消化の速い糖の一つ)及び天然のジャガイモデンプンの消化性プロフィールを、Englyst他に従って、ヒト胃腸の消化条件を模倣するようにデザインされたin−vitro消化法を用いて試験した。簡単に述べると、各物質のサンプル500mgを50mlの遠心分離管に量り取った。pH1の塩酸中で、ペプシンで最初の処理を行った後、当該サンプルを、酵素(アミラーゼ、インベルターゼ及びアミログルコシダーゼ)の混合物と共に、pH、温度、粘度及び機械的混合の制御された条件下でインキュベートした。加水分解開始後20分、60分、120分及び240分にアリコートを採取した。遊離したグルコースの量を、MegazymeのGOPODキット(酵素反応の熱量測定に基づく検出)を用いて測定した。グルコースの測定量を0.9のファクターによって補正した値から、消化されたデンプン質及びスクロースの量を算出した。SDSの量は次のように算出した。20分後に消化されたグルコースの量を、60分後に消化された量から差し引いて、SDS1値を得た。60分後に遊離したグルコースの量を、240分後に遊離した量から差し引いて、SDS2値を得た。総SDSは、SDS1とSDS2との合計である。図1から分かるように、HMTデンプンのSDS含有量は、他の2種の被験物質に比べて顕著に高かった。図2から明らかなように、SDS含有量は、マルトデキストリン及びジャガイモデンプンではそれぞれ12%及び15%であったのに対して、HMTデンプンでは32%であった。
【0026】
〔実施例2〜5及び比較例2〜5〕
4種の従来の飲料製品を入手又は調製し、これらの中に含まれる遅消化性デンプンの濃度を測定する試験を行った(比較例2〜5)。次いで、実施例1のHMTデンプンを各飲料に添加したところ、製品内のSDS量は顕著に増加した(実施例2〜5)。結果を下記表1に示す。
【0027】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料の消化速度を低減させて、飲料が摂取個体にエネルギーを供給する時間を増加させるための、湿熱処理デンプンの使用。
【請求項2】
前記飲料が、湿熱処理デンプンの乾燥成分を5〜20重量%含有する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記湿熱処理デンプンが、
デンプンと、15〜35%、好ましくは20〜35%の含水量の混合物が提供される量の水と、を混合し、当該混合物を、95〜130℃、好ましくは100〜110℃の温度で熱処理すること、
によって製造されたものである、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記混合物が、熱処理中に400〜535回転/分で回転されたものである、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記混合物が、デンプンの乾燥重量に対して0.2〜1%の量の乳化剤を更に含有する、請求項3又は4に記載の使用。
【請求項6】
湿熱処理デンプンが補充された持続性エネルギー飲料であって、
当該飲料が、遅消化性デンプンを、未補充の同種の飲料中に従来含有されていた量の1.5〜15倍多く含有するように、湿熱処理デンプンが補充されている飲料。
【請求項7】
豆乳飲料、麦芽飲料、チョコレート飲料、果汁飲料、乳飲料又はこれらの混合物である、請求項6に記載の飲料。


【公表番号】特表2008−538695(P2008−538695A)
【公表日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−506963(P2008−506963)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【国際出願番号】PCT/EP2006/003178
【国際公開番号】WO2006/114191
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】