説明

振動アクチュエータ

【課題】安定して高い位置精度で、容易に相対移動を発生させることが可能な振動アクチュエータを提供する。
【解決手段】移動体の振動体との接触面は、移動方向に沿って表面状態の異なる通常区間とスタック区間の連続する2つの区間から構成され、スタック区間における振動体から移動体に伝達される駆動力は、通常区間における駆動力よりも小さく、振動体の振動振幅を制御する制御部は、通常区間においてのみ移動体を移動可能な振動振幅で振動体を振動させる通常励振モードと、振動振幅が通常励振モードより大きく、通常区間およびスタック区間のいずれにおいても移動体を移動可能な振動振幅で振動体を振動させる拡大励振モードを備え、通常励振モードと拡大励振モードとをそれぞれ所定の時間毎に切替えて実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動アクチュエータに関し、特に振動体を移動体に加圧接触させて相対移動を発生させる振動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な移動装置に振動アクチュエータを用いることが試みられている。振動アクチュエータは、通常、電気−機械エネルギー変換素子である圧電素子を備えた振動体に駆動信号を入力して振動体を伸縮運動させ、振動体の表面に楕円運動をさせることにより、振動体に加圧された状態で接触する移動体との間で摩擦力により相対運動を発生させるものである。
【0003】
しかしながら、振動アクチュエータは、駆動力がギヤ等によって伝達されるものではなく、振動体と移動体との接触部において摩擦により伝達される構成であることから、振動体と移動体との相対滑りが発生し、振動体の駆動量と移動体の移動量との関係が1対1の比例関係を満足しない場合がある。この為、エンコーダ等の位置検出センサを用いて振動体と移動体との相対位置を検出し、位置制御をおこなう必要があった。しかしながら、位置検出センサを用いることにより、装置の複雑化と高価格化を招く恐れがあるので、エンコーダ等の位置検出センサに代わる位置検出方法が種々検討されてきた。
【0004】
例えば、ロータ(移動体)またはステータ(振動体)の一方に定在波を発生させ、他方でその振動を検出することにより相対位置を検出する方法(特許文献1参照)、また、ロータに設けられた突起と該突起に当接する負荷バネにより、ロータの回転に伴った負荷変動を発生させ、該負荷変動を超音波モータの駆動電流の変化として検出することにより、ロータ位置を検出する方法(特許文献2参照)が知られている。
【特許文献1】特開2000−78864号公報
【特許文献2】特開2001−211675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この様に、エンコーダ等の位置検出センサに代わる位置検出方法が種々検討されてきた。しかしながら、特許文献1に開示されている方法においては、振動検出センサや検出回路等を備えた位置検出手段が必要であり、また、特許文献2に開示されている方法においては、負荷変動発生機構や電流検出回路等が必要であることから、依然として装置の複雑化と高価格化を抑えることは困難なものと考えられる。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたもので、圧電素子を備えた振動体を移動体に加圧接触させて相対移動を発生させる振動アクチュエータにおいて、装置の複雑化と高価格化を招くことなく、安定して高い位置精度で、容易に相対移動を発生させることが可能な振動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の1乃至6のいずれか1項に記載の発明によって達成される。
【0008】
1.圧電素子を備え、該圧電素子の励振により振動を発生する振動体と、該振動体に加圧接触され、該振動体に対して相対移動を生じる移動体と、該振動体の振動振幅を制御する制御部と、を備えた振動アクチュエータであって、
前記移動体の前記振動体との接触面は、移動方向に沿って表面状態の異なる通常区間とスタック区間の連続する2つの区間から構成され、
前記スタック区間における前記振動体から前記移動体に伝達される駆動力は、前記通常区間における前記駆動力よりも小さく、
前記制御部は、前記通常区間においてのみ前記移動体を移動可能な振動振幅で前記振動体を振動させる通常励振モードと、振動振幅が前記通常励振モードより大きく、前記通常区間および前記スタック区間のいずれにおいても前記移動体を移動可能な振動振幅で前記振動体を振動させる拡大励振モードを備え、前記通常励振モードと前記拡大励振モードとをそれぞれ所定の時間毎に切替えて実行することを特徴とする振動アクチュエータ。
【0009】
2.前記スタック区間における前記移動体の前記振動体との接触面の摩擦係数は、前記通常区間における前記摩擦係数よりも小さいことを特徴とする前記1に記載の振動アクチュエータ。
【0010】
3.前記スタック区間における前記移動体の前記振動体との接触面には、凹部または凸部が形成されていることを特徴とする前記1に記載の振動アクチュエータ。
【0011】
4.前記制御部は、前記圧電素子に該圧電素子を駆動する電圧を供給し、前記拡大励振モード時には前記通常励振モード時よりも大きな前記電圧を前記圧電素子に供給することを特徴とする前記1乃至3のいずれか1項に記載の振動アクチュエータ。
【0012】
5.前記制御部は、前記圧電素子に該圧電素子を駆動する電流を供給し、前記拡大励振モード時には前記通常励振モード時よりも大きな前記電流を前記圧電素子に供給することを特徴とする前記1乃至3のいずれか1項に記載の振動アクチュエータ。
【0013】
6.前記制御部は、前記圧電素子に該圧電素子を駆動する駆動信号を供給し、前記拡大励振モード時と前記通常励振モード時とでは異なる周波数の前記駆動信号を前記圧電素子に供給することを特徴とする前記1乃至3のいずれか1項に記載の振動アクチュエータ。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、制御部は、通常区間においてのみ移動体を移動可能な振動振幅で振動体を振動させる通常励振モードと、振動振幅が通常励振モードより大きく、通常区間およびスタック区間のいずれにおいても移動体を移動可能な振動振幅で振動体を振動させる拡大励振モードを備え、通常励振モードと拡大励振モードとをそれぞれ所定の時間毎に切替えて実行する様にした。したがって、通常励振モードと拡大励振モードのそれぞれの駆動時間を調整することにより、移動体を所定位置で停止および移動開始させることができる。これにより、位置検出手段を必要としないオープンループ制御によるステップ駆動が可能となり、制御の簡素化および装置の小型化、低価格化を図ることができる。
【0015】
また、スタック区間における移動体の振動体との接触面の摩擦係数は、通常区間における摩擦係数よりも小さくする様にした。したがって、スタック区間における振動体から移動体に伝達される駆動力は、通常区間における駆動力よりも小さくすることができる。また、スタック区間における移動体の振動体との接触面には、凹部または凸部設ける様にした。したがって、移動方向に向けて凹部または凸部の上り傾斜面における振動体から移動体に伝達される駆動力は、通常区間における駆動力よりも小さくすることができる。
【0016】
また、拡大励振モード時には通常励振モード時よりも大きな駆動電圧または駆動電流を圧電素子に供給する様にした。したがって、拡大励振モード時には通常励振モード時よりも大きな振動振幅で振動体を振動させることができる。また、拡大励振モード時と通常励振モード時とでは異なる周波数の駆動信号を圧電素子に供給する様にした。したがって、例えば、拡大励振モード時には、駆動信号の周波数を圧電素子の共振周波数に近づけることにより、通常励振モード時よりも大きな振動振幅で振動体を振動させることができ、また、低い駆動電圧で駆動することができる様になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面に基づいて、本発明に係る振動アクチュエータの実施の形態を説明する。
【0018】
〔実施形態1〕
最初に、実施形態1による振動アクチュエータ1の構成を図1を用いて説明する。図1は、振動アクチュエータ1の全体構成の概要を示す図である。
【0019】
振動アクチュエータ1は、図1に示す様に、振動体10、保持部20、ロータ30(移動体)、及び制御部50等を有し、電気−機械エネルギー変換素子である積層型圧電素子11,11’を備えた振動体10に制御部50より駆動信号を入力して振動体10を伸縮運動させ、振動体10の表面に楕円運動をさせることにより、振動体10に加圧された状態で接触するロータ30との間で摩擦力により相対運動を発生させるものである。
【0020】
最初に、積層型圧電素子11の構成を図2を用いて説明する。図2は、積層型圧電素子11の構成を示す図である。
【0021】
積層型圧電素子11(以下、圧電素子11と略称する)は、図2に示す様に、PZT等の圧電特性を示す複数のセラミック薄板111と電極112,113を交互に積層したものであり、各セラミック薄板111と電極112,113とは接着剤等により固定されている。1つおきに配置された各電極112及び113は、それぞれ信号線114,115を介して駆動電源116に接続されている。信号線114と115の間に所定の電圧を印加すると、電極112と113に挟まれた各セラミック薄板111には、その積層方向に電界が発生し、その電界は1つおきに同じ方向である。従って、各セラミック薄板111は、1つおきに分極の方向が同じになる(隣接する2つのセラミック薄板111の分極方向は逆となる)ように積層されている。
【0022】
駆動電源116により直流の駆動電圧を各電極112と113の間に印加すると、全てのセラミック薄板111が同方向に伸縮し、圧電素子11が全体として伸縮する。電界が小さく、かつ変位の履歴が無視できる領域では、各電極112と113の間に発生する電界と圧電素子11の変位との関係はほぼ直線的である。次に、駆動電源116により交流の駆動電圧を各電極112と113の間に印加すると、その電界に応じて各セラミック薄板111は同方向に伸縮を繰り返し、圧電素子11が全体として伸縮を繰り返す。また、圧電素子11には、その構造や電気的特性により決定される固有の共振周波数があり、交流の駆動電圧の周波数が圧電素子11の共振周波数と一致すると、インピーダンスが最も低下し、圧電素子11の変位が増大する。圧電素子11は、その外形寸法に対して変位が小さいことから、低い電圧で駆動するためには、この共振現象を利用することが好適である。なお、圧電素子11の構成は、前述の構成に限らず、圧電素子11の変位により振動体10のロータ30との接触部に楕円振動(円振動を含む)を発生させる構成であればよい。
【0023】
次に、振動体10の構成を図3を用いて説明する。図3は、振動体10の構成を示す図である。
【0024】
振動体10は、図3に示す様に、2つの圧電素子11,11’を備え、圧電素子11,11’のそれぞれの一端は略直角に交差して配置され、それらの交差側端部にチップ部材12が接着剤により接合されている。一方、圧電素子11,11’のそれぞれの他端はベース部材13に接着剤により接合されている。このような構成の振動体10において、圧電素子11,11’を所定の位相差(例えば180度)を持つ異なる交流信号でそれぞれ駆動することにより、チップ部材12を、図3に示す様に、楕円軌道C(円軌道を含む)を描くように移動、すなわち楕円振動をさせることができる。
【0025】
チップ部材12の楕円振動の振幅は圧電素子11,11’の変位で調整可能であり、圧電素子11,11’の変位は圧電素子11,11’を駆動する駆動電圧によって調整可能である。したがって、圧電素子11,11’の駆動電圧を調整することにより楕円振動の振幅を調整することができる。圧電素子11,11’の駆動電圧は後述の制御部50で制御され、制御部50は、通常励振モードと通常励振モードよりも大きな振幅でチップ部材20を楕円振動させることができる拡大励振モードの2つの駆動モードを有している。尚、通常励振モード、拡大励振モードによる駆動の詳細は後述する。
【0026】
また、圧電素子11,11’の変位は、圧電素子11,11’を駆動する駆動電流によっても調整可能であるので、駆動電流を調整することにより楕円振動の振幅を調整する様にしてもよい。また、圧電素子11,11’を駆動する信号の周波数が、圧電素子11,11’の共振周波数から離れるにつれて圧電素子11,11’の変位が小さくなることから、駆動信号の周波数を調整することにより楕円振動の振幅を調整する様にしてもよい。
【0027】
このような構成の振動体10において、楕円振動状態のチップ部材12を所定の圧力でロータ30に加圧すると、チップ部材12の振動周期と同じ周期の繰り返し摩擦力がロータ30とチップ部材12との間に発生する状態となる。この繰り返し摩擦力が駆動力となり、ロータ30を移動させることができる。駆動源は摩擦力であるから、摩擦係数が小さければ摩擦力も小さくなり、駆動力も小さくなる。駆動力がロータ30の負荷を下回ればロータ30を移動させることができない。逆に振動振幅が大きければ摩擦力は大きくなり、駆動力も大きくなる。
【0028】
次に、保持部20の構成を図4を用いて説明する。図4は、保持部20の構成を示す図である。
【0029】
保持部20は、図4に示す様に、図示しないプレートに設けられた回転軸20Xに回動可能に支持されている。引張コイルバネ21はその一端がプレートに設けれたフック23に取り付けられ、他端が保持部20のバネ取り付け部22に係合しており、保持部20が時計方向に回転するよう保持部20を付勢している。保持部20は振動体10と係合部20a,20bの2箇所で接触している。引張コイルバネ21による保持部20の時計方向回転力は係合部20a,20bを介して振動体10に伝達され、振動体10はロータ30に押圧され、振動体10のチップ部材12がロータ30の円筒面と接触する。この状態で振動体10を振動させると、ロータ30に駆動力を伝達することができる。
【0030】
次に、ロータ30の構成を図5を用いて説明する。図5は、ロータ30の構成を示す図である。
【0031】
ロータ30は、本発明における移動体に該当し、図5に示す様に、図示しないプレートに設けられた回転軸30Xに回動可能に支持された円筒形状の回転体である。ロータ30の素材は耐摩耗性の高いアルミナ等が好適である。
【0032】
図5に示す様に、ロータ30がチップ部材12と接触する接触面には表面粗さが均一な通常区間Nが設けられている。また、通常区間Nに挟まれて通常区間Nより表面粗さが小さいスタック区間Sが設けられている。スタック区間Sのロータ30とチップ部材12との接触面は研磨加工により表面粗さを通常区間Nより小さくしてあり、その結果摩擦係数が通常区間Nよりも小さい。前述のように、駆動力は繰り返し摩擦力であるから、ロータ30とチップ部材12との接触部の摩擦係数が小さければ駆動力も小さい。したがって、スタック区間Sにおける駆動力は通常区間Nにおける駆動力よりも小さい。
【0033】
ここでロータ30の負荷F0と駆動力Pの関係を図6を用いて説明する。図6は、励振モードによるロータ負荷F0と駆動力Pの関係を示す模式図である。
【0034】
図6に示す様に、スタック区間Sにおける通常励振モード時の駆動力PL0のみがロータ負荷F0を下回るように設定されている。つまり、スタック区間Sにおける通常励振モード時のみロータ30を駆動不能であり、それ以外の場合は駆動可能である。
【0035】
図1に戻って、制御部50は、制御CPU51、駆動回路52等を有し、振動体10の動作を統括制御する。
【0036】
制御CPU51は、マイクロコンピュータからなり、振動体10を励振する圧電素子11,11’の駆動電圧を駆動回路52を介して制御する。制御CPU51は、通常励振モードと通常励振モードよりも大きな振幅で圧電素子11,11’を振動させることができる拡大励振モードの2つの駆動モードを有し、制御CPU51内に設けられた図示しない計時部によって計時された所定の時間毎に通常励振モードと拡大励振モードとを切替えて圧電素子11,11’を駆動する。
【0037】
駆動回路52は、制御CPU51で設定された励振モードに基づいて、圧電素子11,11’を駆動する電圧を生成し、供給する。
【0038】
次に、このような構成の振動アクチュエータ1において、ロータ30を1回転ずつステップ的に回転させる動作について図7、図8を用いて説明する。図7は、ロータ30の回転動作を示す模式図、図8は、1サイクルにおけるロータ30の動作状態、区間、励振モード、及び駆動力等を示すタイムチャートである。
【0039】
最初に、図7(a)に示す様に、チップ部材12の位置が通常区間Nとスタック区間Sの境界位置Hにあるとき、拡大励振モードで圧電素子11,11’の駆動を開始する。駆動時間は、図8に示す様に、所定時間tw0である。所定時間tw0は拡大励振モードで境界位置Hからスタック区間Sの全域を移動するのに必要な時間の最大値より長く、1回転して再び境界位置Hに到達するまでの時間より短い既知の時間である。tw0期間では、駆動力がPH0となり常にロータ負荷F0を上回っているので振動体10はロータ30を停止させることなく回転させる。そしてスタック区間Sを通過し、図7(c)に示す位置に到達する。次に励振モードを通常励振モードに切替え、圧電素子11,11’を所定時間tw1の間駆動する。ここでも駆動力PL1がロータ負荷F0を上回っているのでロータ30は継続して回転し、1回転して再び境界位置Hに到達する。ところが境界位置Hから先のスタック区間Sでは駆動力がPL1からPL0に低下しロータ負荷F0を下回るのでロータ30は回転を行うことができずに境界位置Hで停滞する。この状態はtw1が経過するまで継続し、tw1が経過するとロータ30は再び境界位置Hで停止する。所定時間tw1は通常区間Nを全域移動するのに必要な時間の最大値より長い既知の時間である。
【0040】
このように、所定時間tw0の拡大励振モード駆動と所定時間tw1の通常励振モードを1ステップ(1サイクル)として、図9に示す様に、この1ステップ動作を繰り返すことにより、ロータ30の停止位置Hを起点として1回転ずつステップ的に駆動することができる。
【0041】
この様に、本発明に係る振動アクチュエータ1においては、制御部50は、通常区間Nにおいてのみロータ30を移動可能な振動振幅で振動体10を振動させる通常励振モードと、振動振幅が通常励振モードより大きく、通常区間Nおよびスタック区間Sのいずれにおいてもロータ30を移動可能な振動振幅で振動体10を振動させる拡大励振モードを備え、通常励振モードと拡大励振モードとをそれぞれ所定の時間毎に切替えて実行する様にした。したがって、通常励振モードと拡大励振モードのそれぞれの駆動時間を調整することにより、ロータ30を所定位置で停止および移動開始させることができる。これにより、位置検出手段を必要としないオープンループ制御によるステップ駆動が可能となり、制御の簡素化および装置の小型化、低価格化を図ることができる様になる。
【0042】
〔実施形態2〕
次に、実施形態2による振動アクチュエータ1について説明する。その要部構成は、前述した実施形態1と略同様なので詳細な説明は省略し、第1の実施形態と構成の異なるロータ30について説明する。
【0043】
最初に、ロータ30の構成およびロータ負荷F0について図10乃至図13を用いて説明する。図10は、実施形態2によるロータ30の構成を示す図、図11は、チップ部材12が通常区間Nにてロータ30から受ける反力を示す模式図、図12は、チップ部材12が下り勾配のスタック区間Sにてロータ30から受ける反力を示す模式図、図13は、チップ部材12が上り勾配のスタック区間Sにてロータ30から受ける反力を示す模式図である。
【0044】
ロータ30がチップ部材12と接触する接触面の摩擦係数は均一であるが、図10に示す様に、接触面にはV字型の凹部30Vが一箇所形成されている。チップ部材12が凹部30V以外の区間にあるときは、チップ部材12がロータ30から受ける反力は図11に示す様に、押圧方向の反力Nのみであり、駆動方向の成分は発生しない。チップ部材12が凹部30Vの駆動方向に対して下り勾配区間上にあるときは、図12に示す様に、駆動方向の成分(N・tanθ)が発生する。この成分は駆動力を増加させる成分として作用する。一方、チップ部材12が凹部30Vの駆動方向に対して上り勾配区間上にあるときは、図13に示す様に、駆動方向とは逆の成分(N・tanθ)が発生する。この成分は駆動力を減少させる成分として作用する。したがって、ロータ負荷F0は凹部30以外の区間ではF0、下り勾配区間ではFL(F0−(N・tanθ))、上り勾配区間ではFH(F0+(N・tanθ))となり、上り勾配区間がスタック区間S、それ以外の区間が通常区間Nとなる。
【0045】
また、圧電素子11,11’の駆動モードは実施形態1と同様に駆動電圧によって通常励振モードと拡大励振モードの切り替えが可能である。摩擦係数は均一なので、駆動力は通常励振モード時のPL、拡大励振モード時のPHの2種である。
【0046】
ここでロータ30の負荷F0と駆動力Pの関係を図14を用いて説明する。図14は、励振モードによるロータ負荷F0と駆動力Pの関係を示す模式図である。
【0047】
図14に示す様に、駆動力がロータ負荷を下回るのは上り勾配区間における通常励振モード時のPLのみである。したがって上り勾配区間における通常励振モード時のみロータ30を駆動不能であり、それ以外の場合は駆動可能である。
【0048】
次に、このような構成の振動アクチュエータ1において、ロータ30を1回転ずつステップ的に回転させる動作について図15、図16を用いて説明する。図15は、ロータ30の回転動作を示す模式図、図16は、1サイクルにおけるロータ30の動作状態、区間、励振モード、及び駆動力等を示すタイムチャートである。
【0049】
最初に、図15(a)に示す様に、チップ部材12がV字型の凹部30Vへの落ち込み位置Hにあるとき、拡大励振モードで圧電素子11,11’の駆動を開始する。駆動時間は、図16に示す様に、所定時間tw0である。所定時間tw0は拡大励振モードで落ち込み位置Hから上り勾配区間UH(スタック区間S)を乗り越えるのに必要な時間の最大値より長く、1回転して再び落ち込み位置Hに到達するまでの時間より短い既知の時間である。tw0期間では、駆動力がPHとなり常にロータ負荷FHまたはF0を上回っているので振動体10はロータ30を停止させることなく回転させる。
【0050】
そして上り勾配区間UHを通過し、図15(c)に示す位置に到達する。次に励振モードを通常励振モードに切替え、圧電素子11,11’を所定時間tw1の間駆動する。ここでも駆動力PLがロータ負荷F0を上回っているのでロータ30は継続して回転し、1回転して再び落ち込み位置Hに到達する。ところが落ち込み位置Hから先の上り勾配区間UHではロータ負荷がFLからFHに増大し駆動力PLを上回るのでロータ30は回転を行うことができずに落ち込み位置Hで停滞する。この状態はtw1が経過するまで継続し、tw1が経過するとロータ30は再び落ち込み位置Hで停止する。所定時間tw1は上り勾配区間UHと通常区間Nとの境界位置から落ち込み位置Hまでの区間を駆動するのに必要な時間の最大値より長い既知の時間である。
【0051】
このように、所定時間tw0の拡大励振モード駆動と所定時間tw1の通常励振モードを1ステップ(1サイクル)として、図17に示す様に、この1ステップ動作を繰り返すことにより、ロータ30の落ち込み位置Hを起点として1回転ずつステップ的に駆動することができる。
【0052】
以上、本発明を実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は前述の実施の形態に限定して解釈されるべきでなく、適宜変更、改良が可能であることは勿論である。
【0053】
例えば、前述の各実施形態ではロータ30がチップ部材12と接触する接触面には通常区間Nに挟まれて通常区間Nより表面粗さが小さいスタック区間SやV字型の凹部30Vが形成された上り勾配区間UH(スタック区間S)を一箇所設けたが、図18、図19に示す様に、通常区間Nとスタック区間Sを交互に複数個設ける様にしてもよい。これにより1ステップの移動量を小さくするここができ、ロータ30の回転位置を高い精度で制御することができる。
【0054】
また、実施形態1におけるスタック区間Sは研磨加工する等して表面粗さを小さくするようにしたが、スタック区間Sの素材を通常区間Nの素材より摩擦係数の小さい他の素材で構成してもよい。また、スタック区間Sの表面にDLC(Diamond Like Carbon)等の低摩擦コーティングを施してもよい。反対に通常区間Nに高摩擦コーティングを施してもよい。
【0055】
また、実施形態2におけるスタック区間SにはV字型の凹部30Vを設けたが、図20、21に示す様に、幅が一定のスリット溝30Mや凸部30Tを設ける様にしてもよい。いずれの場合もスタック区間Sは、振動体10がロータ30から受ける接触反力が駆動方向と逆の成分を発生する区間となるように構成されている。尚、スタック区間を凸部30Tで形成した場合の、ロータ30の回転動作、及び1サイクルにおけるロータ30の動作状態、区間、励振モード、及び駆動力等を示すタイムチャートをそれぞれ図22、23に示す。動作の詳細は、実施形態2で前述した図15、16を用いた説明と略同様なので省略する。
【0056】
また、前述の各実施形態では移動体として、回動可能に支持された円筒形状の回転体であるロータ30用いたが、直線移動可能に指示された直動スライダを用いる様にしてもよい。
【0057】
また、前述の各実施形態においては、振動体10は図示しないプレートに保持部20を介して固定した位置に保持され、ロータ(移動体)30が振動体10に対して移動するような構成にしたが、ロータ30をプレートに固定し振動体10をロータ30に対して移動させる様にしてもよい。また、上述の様にロータ30の替わりに直線スライダを用いた場合においても、同様に直線スライダをプレートに固定し振動体10を直線スライダに対して移動させる様にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る振動アクチュエータの実施形態1による全体構成図である。
【図2】本発明に係る振動アクチュエータにおける積層型圧電素子の構成図である。
【図3】本発明に係る振動アクチュエータにおける振動体の構成図である。
【図4】本発明に係る振動アクチュエータにおける保持部の構成図である。
【図5】本発明に係る振動アクチュエータにおけるロータの接触面の構成図である。
【図6】本発明に係る振動アクチュエータにおける励振モードによる駆動力とロータ負荷との関係を示す模式図である。
【図7】本発明に係る振動アクチュエータにおけるロータの回転動作を示す模式図である。
【図8】本発明に係る振動アクチュエータにおける1サイクルの動作モードを示すタイムチャートである。
【図9】本発明に係る振動アクチュエータにおける繰返し動作モードを示すタイムチャートである。
【図10】本発明に係る振動アクチュエータの実施形態2によるロータの接触面の構成図である。
【図11】本発明に係る振動アクチュエータにおけるチップ部材が通常区間にてロータから受ける反力を示す模式図である。
【図12】本発明に係る振動アクチュエータにおけるチップ部材が下り勾配のスタック区間にてロータから受ける反力を示す模式図である。
【図13】本発明に係る振動アクチュエータにおけるチップ部材が上り勾配のスタック区間にてロータから受ける反力を示す模式図である。
【図14】本発明に係る振動アクチュエータの実施形態2における励振モードによる駆動力とロータ負荷との関係を示す模式図である。
【図15】本発明に係る振動アクチュエータの実施形態2によるロータの回転動作を示す模式図である。
【図16】本発明に係る振動アクチュエータの実施形態2による1サイクルの動作モードを示すタイムチャートである。
【図17】本発明に係る振動アクチュエータの実施形態2による繰返し動作モードを示すタイムチャートである。
【図18】本発明に係る振動アクチュエータの実施形態1の別例によるロータの接触面の構成図である。
【図19】本発明に係る振動アクチュエータの実施形態2の別例1によるロータの接触面の構成を示す図である。
【図20】本発明に係る振動アクチュエータの実施形態2の別例2によるロータの接触面の構成を示す図である。
【図21】本発明に係る振動アクチュエータの実施形態2の別例3によるロータの接触面の構成を示す図である。
【図22】本発明に係る振動アクチュエータの実施形態2の別例3によるロータの回転動作を示す模式図である。
【図23】本発明に係る振動アクチュエータの実施形態2の別例3による1サイクルの動作モードを示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0059】
1 振動アクチュエータ
10 振動体
11,11’ 積層型圧電素子
111 セラミック薄板
112,113 電極
114,115 信号線
116 駆動電源
12 チップ部材
13 ベース部材
20 保持部
21 引張りコイルバネ
22 バネ取付け部
23 フック
30 ロータ(移動体)
50 制御部
51 制御CPU
52 駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子を備え、該圧電素子の励振により振動を発生する振動体と、該振動体に加圧接触され、該振動体に対して相対移動を生じる移動体と、該振動体の振動振幅を制御する制御部と、を備えた振動アクチュエータであって、
前記移動体の前記振動体との接触面は、移動方向に沿って表面状態の異なる通常区間とスタック区間の連続する2つの区間から構成され、
前記スタック区間における前記振動体から前記移動体に伝達される駆動力は、前記通常区間における前記駆動力よりも小さく、
前記制御部は、前記通常区間においてのみ前記移動体を移動可能な振動振幅で前記振動体を振動させる通常励振モードと、振動振幅が前記通常励振モードより大きく、前記通常区間および前記スタック区間のいずれにおいても前記移動体を移動可能な振動振幅で前記振動体を振動させる拡大励振モードを備え、前記通常励振モードと前記拡大励振モードとをそれぞれ所定の時間毎に切替えて実行することを特徴とする振動アクチュエータ。
【請求項2】
前記スタック区間における前記移動体の前記振動体との接触面の摩擦係数は、前記通常区間における前記摩擦係数よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の振動アクチュエータ。
【請求項3】
前記スタック区間における前記移動体の前記振動体との接触面には、凹部または凸部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の振動アクチュエータ。
【請求項4】
前記制御部は、前記圧電素子に該圧電素子を駆動する電圧を供給し、前記拡大励振モード時には前記通常励振モード時よりも大きな前記電圧を前記圧電素子に供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の振動アクチュエータ。
【請求項5】
前記制御部は、前記圧電素子に該圧電素子を駆動する電流を供給し、前記拡大励振モード時には前記通常励振モード時よりも大きな前記電流を前記圧電素子に供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の振動アクチュエータ。
【請求項6】
前記制御部は、前記圧電素子に該圧電素子を駆動する駆動信号を供給し、前記拡大励振モード時と前記通常励振モード時とでは異なる周波数の前記駆動信号を前記圧電素子に供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の振動アクチュエータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2007−336614(P2007−336614A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162046(P2006−162046)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】